説明

難燃性熱可塑性エラストマー

ポリフェニレンエーテル、水素化スチレンブロックコポリマー、少なくとも1種類の固体非ハロゲン化リン含有難燃剤、及び核化オレフィンポリマーを含む、難燃熱可塑性エラストマー配合物を開示する。この配合物は、UL62試験に準拠して、>200%のエージング前引張伸び及び少なくとも75%のエージング後残留引張伸びを有する。そのため、交流ワイヤー及びケーブル製品、付属ケーブル、種々の射出成形電気又は電子部品などの保護された電線の絶縁層、被覆層又はその両方として有用である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
優先権の主張
本願は、代理人ファイル番号12009007を有し、かつ2009年4月29日に出願された米国仮特許出願第61/173,668号からの優先権を主張する。この米国仮特許出願は参考として援用される。
【0002】
発明の分野
本発明は、難燃剤であり、ポリフェニレンエーテルを含む、熱可塑性を残したまま弾性を示すポリマー配合物である、熱可塑性エラストマーに関する。
【背景技術】
【0003】
発明の背景
ポリマーの世界は急速に進歩し、材料科学は、19世紀の木及び金属から、20世紀半ばの熱硬化性ポリマーの使用、20世紀後半の熱可塑性ポリマーの使用へと変わった。
【0004】
熱可塑性エラストマー(TPE)は、加硫ゴムなどの熱硬化性ポリマーのエラストマー的性質の利点と熱可塑性ポリマーの加工性とを合せ持つ。
【0005】
熱可塑性エラストマーは、現在、スチレンブロックコポリマー(SBC)、熱可塑性加硫物(TPV)、熱可塑性オレフィン(TPO)、コポリエステル(COPE)、熱可塑性ウレタン(TPU)、コポリアミド(COPA)、最も最近のオレフィンブロックコポリマー(OBC)など、化石燃料から誘導されるポリマー樹脂から調製される。
【0006】
最近では、熱可塑性エラストマーにポリフェニレンエーテル(PPE)が加わった。二つの例が特許文献1(Yin他)及び特許文献2(Sato)に見られる。しかし、これら二つの特許に開示された処方は、明らかに、Underwriters’ Laboratory Test 62(UL62)を満足させる十分な伸びを持たない。UL62は、とりわけ、エージング前の200%を超える引張伸び、及び121℃で168時間、好ましくは136℃で168時間のエージング後の引張伸びの75%を超える保持を必要とする。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】米国特許第6,838,503号明細書
【特許文献2】米国特許第7,005,465号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】

当分野では、UL62試験の全要件、特に、上述したように熱エージング(a)前及び(b)後の引張伸び、(c)150℃で1時間の加重熱エージング後の50%未満のワイヤー及びケーブル変形、並びに(d)VW−1垂直ケーブル燃焼に関して、合格したPPEでできたTPEが求められている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、UL62試験のすべての部分に合格したPPEを含む非ハロゲン非赤リン難燃TPEを製造するための成分の独特の組合せを見いだした。
【0010】
重要なことは、難燃剤が非ハロゲンであって、それでもUL62試験のすべての部分を満たし得ることである。本発明の熱可塑性エラストマーは、柔軟で、伸縮性があり、ハロゲンも赤リンもなしで難燃性であり、柔らかくできることが見いだされた。
【0011】
より具体的には、非ハロゲン化難燃剤は、水に敏感でない固体粒子とすることができる。これは、TPE製プラスチック品の水中耐性に重要であり、水の存在下、又は高湿度下で、長期の難燃性及び連続した良好な機械的性質を与える。さらに、本発明に使用される固体粒子難燃剤は、TPEの弾性に負の効果を示さない。
【0012】
本発明のTPEは、良好な外観を有し、(ポリ塩化ビニル(PVC)製品で使用したのと同じスクリュー設計を使用しても)PVCワイヤー及びケーブルの絶縁及び被覆に使用される速度に匹敵する高押し出し速度で製造することができ、さらに厳密な欧州連合70℃/48時間水中絶縁抵抗要件に合格することができる。このTPEは、70℃で168時間の水中曝露後の耐久性を必要とする優れた水中熱エージングも有する。
【0013】
本発明は、柔軟で、耐久性があり、>200%のエージング前引張伸び及び75%を超えるエージング後残留引張伸びを有し、UL62試験に準拠した別の試験要件のうち150℃変形試験とVW−1燃焼試験に合格する、PPEでできた商業的に実用的な非ハロゲン化難燃TPEを見いだすという問題を解決するものである。この新しいTPEは、特に交流(AC)ワイヤー及びケーブルの絶縁及び被覆を含めて、ワイヤー及びケーブルの絶縁、被覆又はその両方として有用であるのに十分な試験に合格する。
【0014】
「ワイヤー及びケーブル」は、電気や別の電磁信号を伝え、電気絶縁層、被覆層又はその両方で保護された、軸方向に長い線の業界用語である。したがって、ワイヤーの形であろうとケーブルの形であろうと、「保護された電線」という用語は、その一方又は両方を表わすのに使用される。
【0015】
本発明の一態様は、ポリフェニレンエーテル約10から約60重量%と、水素化スチレンブロックコポリマー約10から約60重量%と、有機ホスフィン酸エステル、ポリリン酸メラミン及びその組合せからなる群から選択される少なくとも1種類の固体非ハロゲン難燃剤約5から約30重量%と、核化オレフィンポリマー約5から約40重量%とを含む、熱可塑性エラストマー配合物であって、前記配合物が、Underwriters’ Laboratory test UL62試験に準拠して、>200%のエージング前引張伸び及び少なくとも75%のエージング後残留引張伸びを有する、熱可塑性エラストマー配合物である。
【0016】
本発明の別の一態様は、本発明のTPEから成型又は押し出されるプラスチック品である。
【0017】
本発明の別の一態様は、(a)軸方向の長さを有するワイヤー又はケーブルと、(b)ワイヤー又はケーブルの軸方向長さの少なくとも一部を覆う本発明のTPEの少なくとも1層とを含む、保護された電線である。
【0018】
本発明の特徴は、以下の実施形態を参照して明らかになるであろう。
【発明を実施するための形態】
【0019】
(ポリフェニレンエーテル)
PPEは、ポリ(2,6−ジメチルフェノール)としても知られ、種々の会社によって市販されている周知の熱可塑性樹脂である。
【0020】
Yin他によって説明されたように、PPEの幾つかのタイプの非限定的例としては、ポリ(2,6−ジメチル−1,4−フェニレンエーテル)、ポリ(2,6−ジエチル−1,4−フェニレンエーテル)、ポリ(2−メチル−6−エチル−1,4−フェニレンエーテル)、ポリ(2−メチル−6−プロピル−1,4−フェニレンエーテル)、ポリ(2,6−ジプロピル−1,4−フェニレンエーテル)、ポリ(2−エチル−6−プロピル−1,4−フェニレンエーテル)、ポリ(2,6−ジメトキシ−1,4−フェニレンエーテル)、ポリ(2,6−ジ(クロロメチル)−1,4−フェニレンエーテル)、ポリ(2,6−ジ(ブロモメチル)−1,4−フェニレンエーテル)、ポリ(2,6−ジフェニル−1,4−フェニレンエーテル)、ポリ(2,6−ジトルイル−1,4−フェニレンエーテル)、ポリ(2,6−ジクロロ−1,4−フェニレンエーテル)、ポリ(2,6−ジベンジル−1,4−フェニレンエーテル)、ポリ(2,5−ジメチル−1,4−フェニレンエーテル)及びその組合せを挙げることができる。
【0021】
市販PPE樹脂は、ポリフェニレンエーテルと芳香族ビニル基熱可塑性樹脂の混合物であることが多い。
【0022】
やはりYin他によって説明されたように、芳香族ビニル基熱可塑性樹脂の非限定的例としては、スチレン又はその誘導体のホモポリマー、並びにスチレンとp−メチルスチレン、アルファ−メチルスチレン、アルファ−メチル−p−メチルスチレン、クロロスチレン、ブロモスチレンなどとのコポリマーを挙げることができる。上記芳香族ビニル化合物70から99重量%とジエンゴム1から30重量%で形成されたゴム変性ポリスチレン(HIPS)を使用することもできる。HIPSに使用されるジエンゴムの例としては、ブタジエン、イソプレン、クロロプレンなどの共役ジエン基化合物のホモポリマー、共役ジエン基化合物と不飽和ニトロ化合物又は芳香族ビニル化合物とのコポリマー、天然ゴムなどが挙げられる。これらは、1種類の形で、又は2種類以上の混合物の形で、使用することができる。ポリブタジエン−ブタジエン−スチレンコポリマーが好ましいことが多い。HIPSは、乳化重合、懸濁重合、塊状重合、溶液重合、これらの方法の組合せなどの方法によって得ることができる。芳香族ビニル基樹脂の追加の例としては、スチレン−アクリロニトリル−アクリラートコポリマー、FPDMグループゴム変性ポリスチレン、アクリラートゴム変性スチレン−アクリロニトリルコポリマーなどが挙げられる。
【0023】
実質的に、あらゆる市販PPEが、広範囲の分子量にわたって、本発明に使用される候補である。種々の市販PPEのうち2つは既に有用であることが知られている。ひとつは、Chemturaによって販売されているBlendex 820ブランドであり、これはPPEと他のポリマーのブレンドではない。もうひとつは、Yuncheng、ChinaのBluestarによって販売されているBluestarブランドのPPEである。これもブレンドではない。
【0024】
(熱可塑性エラストマー)
PPEは、一般に脆く、又は少なくともワイヤー及びケーブル用途に許容されるよりも脆いので、PPEに柔軟性を付与するのに熱可塑性エラストマーが必要である。
【0025】
あらゆる市販熱可塑性エラストマーが、基本的に、PPEをより柔軟にするのに使用される候補である。一クラスとしてのスチレンブロックコポリマー(SBC)は、TPEをより柔軟にするのに許容される。好ましくは、高度に水素化されたSBCが使用される。高度に水素化されたSBCの非限定的例としては、スチレン−エチレンブチレン−スチレンポリマー、スチレン−エチレンプロピレン−スチレンポリマー、水素化スチレン−イソプレンブロックコポリマー、及び水素化スチレン−ブタジエンブロックコポリマー、並びにその組合せが挙げられる。
【0026】
好ましい熱可塑性エラストマーは、スチレンブロックコポリマー、より好ましくは種々のグレードのスチレン−エチレン−ブチレン−スチレン(SEBS)、スチレン−エチレン−エチレン−プロピレン−スチレン(SEEPS)など、水素化されたものである。
【0027】
本発明に有用である2タイプの熱可塑性エラストマー、すなわち可塑化オイルの存在を必要とするものと必要としないものがある。
【0028】
可塑化オイルを必要とする第1のタイプの水素化TPEの重量平均分子量は、約70,000から約160,000、好ましい分子量は約100,000とすべきである。スチレン末端ブロックとオレフィン中間ブロックの比は、約20/80から約40/60の範囲、好ましくは約30/70とすべきである。
【0029】
可塑化オイルを必要としない第2のタイプの水素化TPEの重量平均分子量は約230,000未満、スチレン末端ブロック含有量は約22%未満とすべきである。さらに、中間ブロックは、典型的なSEBS TPEよりも比較的高いビニル含有量を有し得る。
【0030】
水素化スチレンブロックコポリマーは、幾つかの供給元から市販されており、好ましくはKraton Polymers製Kraton Gブランドシリーズである。種々のGグレードのうち、Kraton G1642、Kraton G1643(ノンオイル処方用)、Kraton G1650、Kraton G1652、及びKraton G1654Hが望ましい。Kraton MD6945 SEBS(ノンオイル処方用)も有用である。Kraton G1650と類似したスチレン末端ブロックの分子量及びサイズを有するSepton 4033 SEEPS、及びスチレンとは異なる末端ブロックを有する専売ブロックコポリマーであるKuraray Q1250も使用することができる。
【0031】
(固体非ハロゲン化難燃剤)
ワイヤー及びケーブルの絶縁若しくは被覆又はその両方として使用されるTPEは、建築要件及びほ乳動物占有空間の規則を満たす難燃性でなければならない。
【0032】
近年の市場は、非ハロゲン化難燃剤の使用を好む。というのは、火災時、かかる難燃剤は塩素含有化合物も臭素含有化合物も放出しないからである。
【0033】
非ハロゲン化難燃剤の一タイプは、赤リン又は赤リン含有化学物質である。このタイプも、現在、市場並びに建築要件及び規則において落ち込んでいる。
【0034】
したがって、ハロゲン化難燃剤と赤リンの両方を回避するために、本発明のTPEは、有機ホスフィン酸エステル若しくはポリリン酸メラミン又はその両方を使用する。これら2タイプの難燃剤は、固体粒子であり、本発明のTPE配合物における使用に特に適している。というのは、固体粒子は、ワイヤー又はケーブルの絶縁又は被覆のスリーブなどのプラスチック品に最終的に成形された後に、配合物内で移動する可能性が極めて低いからである。上でも説明したように、これらの2タイプの固体非ハロゲン化難燃剤は、水中耐性、高湿度条件における耐久性などに寄与する。
【0035】
有機ホスフィン酸エステルは、Clariant CorporationからExolit OP930、Exolit OP935、Exolit OP1311、Exolit OP1312及びExolit OP1230のブランドで専売化合物として市販されている。
【0036】
これらの有機ホスフィン酸エステルは、ポリリン酸メラミン、ポリリン酸ポリアンモニウムなどの別の難燃材料、又はAmfine Chemical Corporation製Amfine FP−2100Jなどの等価な専売製品との相乗剤としても有用である。これら後者の難燃材料の各々単独では、TPE処方において低濃度でさほど有効ではないが、そのいずれかと少量の有機ホスフィン酸エステルとのブレンドは、難燃剤の総濃度がわずかであっても、難燃に極めて有効である。
【0037】
有機ホスフィン酸エステルとポリリン酸メラミンの組合せは、水中熱エージング試験及び水中絶縁抵抗試験に合格しようと懸命に努力するときに、これらの化学物質のどちらも水に明らかに敏感というわけではないので、ワイヤー及びケーブルの絶縁又は被覆において妥当なコストで最高の性能を与えると考えられる。
【0038】
ポリリン酸メラミンは、Hangzhou JLS Flame Retardants Chemicals Co.、Hangzhou Zhejiang、ChinaからJLS−PNA及びJLS−PNBブランドの難燃添加剤として、さらにCiba Specialty ChemicalsからMelaspur 200ブランドの難燃添加剤として、どちらも市販されている。
【0039】
ポリリン酸ポリアンモニウム(APP)又はポリリン酸ポリアンモニウム含有ブレンドの難燃剤は、Hangzhou JLS Flame Retardants Chemicals Co.からAPP、PNP1C及びPNP1Dブランドの難燃添加剤として、さらにClariantからExolit AP422、Exolit AP 462、Exolit AP760及びExolit AP766ブランドの難燃添加剤として、どちらも市販されている。別の主要なAPP供給業者はドイツのBudenheimである。Amfine FP−2100J及びFP−2200は、Amfine Chemical Corporation製の専売窒素−リン系難燃剤製品である。
【0040】
Yin他及びSatoによって開示されているTPE配合物の欠点のひとつは、それらの配合物が、明らかに、200%を超えるエージング前引張伸びを持たず、150℃熱変形、又は熱エージング後の引張伸び保持の性能を報告していないことである。これらの諸性質は、UL62安全基準によって要求されている。特定の理論に拘泥するものではないが、Yin他及びSatoによる液体非ハロゲン化難燃剤(単数又は複数)の使用は、200%を超えるエージング前引張伸びを有することができなかったことの少なくとも一因であると考えられる。
【0041】
(核化オレフィンポリマー)
本発明のTPEは、ある量の核化オレフィンポリマー、好ましくは核化ポリプロピレンホモポリマーから、TPEをその最終形状に加工するのを助け、TPE製プラスチック品の150℃熱変形耐熱性に寄与する利点が得られる。あらゆる市販核化オレフィンポリマーが、TPEに使用される候補である。核化ポリプロピレンホモポリマーの市販例は、Formosa Plastics製Formolene 5144Lブランドのポリプロピレンである。第2の例は、ExxonMobil製核化ホモポリプロピレンPP1043N(5メルトフローインデックス)である。
【0042】
(粘着付与剤)
中間ブロックSBC改質剤としても知られる粘着付与剤も、TPEに使用される。あらゆる市販粘着付与剤が、TPEに使用される候補である。粘着付与剤の非限定的例としては、ExxonMobil Chemicals製Grades 5340及び5320などのEscorez 5000シリーズ粘着付与剤、Eastman Chemicals製Regalite R1125、Regalite R1100、Regalrez 1139、Regalrez 1126、Regalrez 1094、Plastolyn R1140、Eastotac H 140−W及びEastotac H125−W粘着付与剤、並びにArakawa Chemicals製Arkon P100、Arkon P115、Arkon P125及びArkon P140A粘着付与剤が挙げられる。粘着付与剤として現在好ましいのは、Eastman Chemicals製Plastolyn R1140粘着付与剤である。
【0043】
(任意に選択されるオイル)
上述したように、使用する水素化スチレンブロックコポリマーのタイプに応じて、得られるTPEの流動及び柔軟性を改善するのに可塑化オイルが必要となり得る。鉱油、植物油、合成オイルなど、SBCの可塑化に従来使用されているあらゆるオイルが、使用される候補である。現在好ましいオイルは、Syracuse、New York、USAのDrake Oil Co.製Drakeoil 600ブランドのオイルである。
【0044】
(任意に選択される添加剤)
本発明の熱可塑性エラストマー配合物は、該配合物に対して所望の加工又は性能特性を得るのに十分な量の従来のプラスチック添加剤を含むことができる。その量は、添加剤を無駄にせず、該配合物の加工や性能に有害でないものとすべきである。熱可塑性配合の当業者は、過度の実験なしに、Plastics Design Library(www.williamandrew.com)のPlastics Additives Database(2004)などの専門書を参照して、多種多様な添加剤から本発明の配合物に添加するものを選択することができる。
【0045】
任意に選択される添加剤の非限定的例としては、接着促進剤;酸化防止剤;殺生物剤(抗菌剤、殺真菌剤及びカビ駆除剤)、防曇剤;帯電防止剤;結合剤、発泡剤及び起泡剤;分散剤;充填剤及び増量剤;発煙抑制剤;膨張性チャー形成剤;衝撃改質剤;開始剤;潤滑剤;雲母;顔料、着色剤及び染料;オイル及び可塑剤;加工助剤;別のポリマー;剥離剤;シラン、チタナート及びジルコナート;スリップ剤及びブロッキング防止剤;安定剤;ステアラート;粘着付与剤;紫外線吸収剤;粘度調整剤;ワックス;並びにその組合せが挙げられる。
【0046】
表1aは、可塑化オイルを必要とするSBCの場合に、(特定の組合せによって200%を超える伸びを有するTPEが得られる限り)本発明の熱可塑性エラストマー配合物に対する各成分の許容範囲、望ましい範囲、及び好ましい範囲を示す。表1bは、可塑化オイルを必要としないSBCの場合に、熱可塑性エラストマー配合物に対する同じ3つの範囲を示す。
【0047】
【表1a】

【0048】
【表1b】

(加工)
本発明の配合物の調製は、適切な成分が選択されたならば、複雑ではない。本発明の配合物は、バッチ又は連続操作で製造することができる。
【0049】
連続プロセスにおける混合は、典型的には、ポリマーマトリックスを溶融するのに十分な温度に昇温された押出機中で生じ、すべての添加剤は、供給口において、又は下流の射出若しくは側方供給機によって、添加される。押出機速度は、約300から約700回/分(rpm)の範囲、好ましくは約500rpmからとすることができる。典型的には、押出機からの押出物は、その後に押し出し又は成形して高分子物品にするために、ペレット化される。
【0050】
後続の押し出し又は成形技術は、熱可塑性ポリマー技術分野の当業者にはよく知られている。過度の実験なしに、すべてPlastics Design Library(www.williamandrew.com)によって刊行された”Extrusion,The Definitive Processing Guide and Handbook”、”Handbook of Molded Part Shrinkage and Warpage”、”Specialized Molding Techniques”、”Rotational Molding Technology”、”Handbook of Mold,Tool and Die Repair Welding”などの参考文献を用いて、任意の考えられる形状及び外観の物品を本発明の配合物を使用して製造することができる。
【0051】
本発明の有用性
PPEの柔軟性、伸び、難燃性及び物性を必要とするあらゆるプラスチック品が、本発明のTPEの利点を得ることができる。好ましくは、柔軟なポリ塩化ビニル化合物を使用する任意のプラスチック品の代わりに本発明のTPEが今後役立ち得る。
【0052】
下記例でわかるように、TPEは、UL62安全基準に合格する難燃性と十分な物性を必要とする保護された電線(ワイヤー若しくはケーブル又はその両方)と一緒に使用される絶縁若しくは被覆層又はその両方として特に有用であり得る。電力ワイヤー及びケーブルはこの範ちゅうに属する。
【0053】
あるいは、本発明のTPE配合物は、VW−1及びV−0燃焼試験にも合格することが見いだされたので、UL62安全基準のすべての部分を満たす必要はない付属ワイヤー又は付属ケーブル用の絶縁又は被覆層としても適している。
【0054】
さらに、PPEに起因する強力な物性と非ハロゲン化難燃性を必要とする別のプラスチック品も、本発明のTPE配合物の利点を得ることができる。かかるプラスチック品は、典型的には、コネクタ、接続箱などの精密な電気又は電子部品に射出成形される。
【実施例】
【0055】
表2に実施例の各成分の供給元を示す。
【0056】
【表2−1】

【0057】
【表2−2】

固体難燃剤は、PPEのガラス転移温度(T)以上で過度に敏感であるので、すべての実施例及び比較例を2段階押し出しプロセスで実施した。(高い長さ/直径比の押出機を使用する商業生産では、一段階プロセスが可能であり、固体難燃剤(単数又は複数)は下流のより低温の領域で添加される。)
第1段階では、難燃剤(単数又は複数)以外のすべての成分を、わずかな負圧下で運転される下流の揮発性物質排気口を有する、Leistritz二軸押出機の供給口に供給して、ペレット化した。押出機を混合速度500rpm及びバレル温度約248℃で運転し、1mmダイ及びペレット製造機を用いて、ペレットを作製した。押し出し中、微量の水を揮発性物質押し出し口の上流の側方口に導入して、加工しやすくした。ペレットを押出機供給口に戻し、固体難燃剤(単数又は複数)を供給口に添加して、第2段階の配合を開始する。押出機を混合速度500rpm及びバレル温度約199℃で運転し、1mmダイ及びペレット製造機を用いて、ペレットを作製した。
【0058】
必要な試験に応じて、ペレットを成型して板に、押し出してフィルムに、又は押し出してワイヤー及びケーブルの絶縁若しくは被覆層にした。
【0059】
次いで、試験フィルムを作製するために、15.24cm押し出しダイを有し、混合速度100rpm及びバレル温度215℃で運転されるBrabender押出機を使用して、ショアーA硬度を除く物性試験用に公称厚0.38〜0.51mmのフィルムを作製した。硬度試験のために、ペレットを射出成形して3.0mm試験板にした。
【0060】
表3に実施例1〜5、すなわちUL−62試験と別の物理試験の初期スクリーニング用フィルムに作製された内部試験の処方を示す。
【0061】
【表3】

表4に、公称厚0.38〜0.51mmの押し出しフィルムの形で実施例1〜5で作製した配合物の機械的試験結果を示す。射出成形した3.0mm厚板を使用して試験したショアーA硬度は除いた。フィルムは、絶縁又は被覆層としての該配合物の物性の良好な予備試験を与えた。
【0062】
【表4】

表5〜12に、UL1581に見られる試験方法を使用してUL62の安全基準に合格した、実施例6〜11(ケーブルの絶縁又は被覆に作製された実施例1〜3)のコンプライアンスを示す。
【0063】
実施例6及び7は、それぞれ実施例1及び2のペレットであり、速度200メートル/分及びバレル温度設定200℃で運転された標準ケーブル押出機で押し出して絶縁層とし、18AWGケーブルのUL62試験によって規定される絶縁ワイヤーを作製した。絶縁は、被覆に比べて、より合格の困難な試験とみなされる。したがって、絶縁のみを実施した。
【0064】
実施例8は、絶縁層として押し出された実施例2のペレットと被覆層として押し出された実施例3のペレットとの組合せであり、どちらも速度200メートル/分及びバレル温度設定200℃で運転された標準ケーブル押出機で、SVE90C 18AWG/3CケーブルのUL62試験によって規定される絶縁ワイヤーを作製した。
【0065】
表中「I」は絶縁を意味し、「J」は被覆を意味する。
【0066】
【表5】

【0067】
【表6】

【0068】
【表7】

【0069】
【表8】

【0070】
【表9】

【0071】
【表10】

【0072】
【表11】

【0073】
【表12】

実施例6、7及び8の各々3試料は、空気中1.5kVで1分試験後にUL62及びUL1581の絶縁耐力にも合格した。
【0074】
表5〜12及び前段落の概説から、実施例6〜8としてそれらの層に成形された、絶縁用に設計された実施例1及び2と被覆用に設計された実施例3は、UL1581に概説された試験方法を使用した困難なUL62試験に合格することがわかる。これは、PPEの多いTPEがUL62安全基準に合格した最初であり、ワイヤー及びケーブル業界における長年の要望を解決したと考えられる。
【0075】
(実施例9〜33)
表13〜19に実施例9〜33の処方及び物性試験結果を示す。実施例9〜33はすべて、ショアーA硬度用板及び他の物性用のフィルムとして試験された、実施例1〜3と同様に作製され、実施例1〜3と同様に成形された。
【0076】
実施例9〜30を試験して、非ハロゲン化難燃剤の存在なしでTPEに対して可能な変形物を求めた。実施例9〜30の目的は、TPEの物性、特にエージング後の伸び保持率を最大にすることであった。というのは、該配合物への難燃剤(単数又は複数)の添加は、保持率を低下させる可能性があるからである。したがって、表13〜18は、難燃剤が存在しない基材TPE配合物のパラメータの試験を示し、当業者が、不必要な実験をせずに、本発明のTPEの多種多様な処方を構築しやすいように設計されている。
【0077】
実施例31〜33は、実施例9〜30の試験から利点が得られる非ハロゲン化難燃剤を含む処方であり、結果を表13〜18に示す。表19に、熱可塑性エラストマーの多種多様な最終用途に有用である極めて重要なUL V−0燃焼試験に対する実施例30〜33の試験を示す。
【0078】
表13に、難燃剤の存在しないTPEの熱エージング伸び保持に対する様々なオイル使用量の効果を示す。固体難燃剤がこれらの処方に添加される場合には、実施例12のみが、保護された電線のUL−62のエージング後伸び保持試験に合格することができる。しかし、これらの処方は、PPEの強度と固体難燃剤の難燃性を必要とする他のTPEベースのプラスチック品に有用であり得る。
【0079】
【表13】

表14に、難燃剤の存在しないTPE硬度及び熱エージング伸び保持に対するポリプロピレンの変化の効果を示す。実施例13は、大部分の最終用途に実施例14よりも好ましい。というのは、前者がより柔軟で、エージング後伸び保持もより良好だからである。しかし、射出TPEベースのプラスチック品として使用する場合、実施例14を好む当業者がいるかも知れない。
【0080】
【表14】

表15に、難燃剤の存在しない種々の濃度の粘着付与剤の効果を示す。特に、7.5重量%を超える粘着付与剤は、可塑化オイルを必要とする水素化SBCを使用する処方の場合、水素化スチレンブロックコポリマーの中間ブロックオレフィン部分の改変を容易にする。実施例15ではフィルムを作製することができず、実施例16では不良フィルムしか作製できなかった。これらの結果は、射出成形が可能であっても、絶縁又は被覆として実際的な押し出しが不可能なことを予測している。したがって、実施例15及び16は、粘着付与剤なしでは、保護された電線に不十分である。実施例17は、実施例13と同じ処方であり、実施例13と17の両方は、上記実施例1及び2で使用したものと同じ基材配合物を使用する。
【0081】
【表15】

表16に、難燃剤なしで使用されたPPEの量の効果を示す。特に、これらの処方では約38重量%未満が好ましい。固体難燃剤の添加後も、実施例18のTPE配合物は、実施例19又は実施例20の速度(>200m/min)よりも遅い速度でしか押し出されないと予想される。実施例20は、上記実施例3と同じ、難燃剤なしの基材TPE配合物であった。実際には粗面の方がよい射出成形プラスチック品があるかも知れない。
【0082】
【表16】

表17に、難燃剤の存在しない種々の水素化熱可塑性エラストマーの使用を示す。フィルムを作製できないことは、本発明のTPE配合物におけるKraton G1654Hの使用可能性に決定的なものではなかった。実施例21は、実施例8において被覆層としてUL62に合格することが認められた、極めて高速かつ良好に加工する可能性がある、上記実施例3の、難燃剤なしの、基材配合物であった。SEEPSを使用した実施例26は、SEBSを使用した実施例21と同じくらい良好に作用すると予想される。しかし、実施例27はフィルム形成が困難であり、おそらくはKraton G1654 SEBSの分子量がKraton G1650 SEBSの分子量より高いためである。さらに、実施例22〜25は、エージング後伸び保持率にかろうじて合格したが、固体難燃剤導入後の同試験には合格しないと予想される。それでも、実施例22〜25は、>75%のエージング後伸び保持率が必要でない射出成形プラスチック品に有用かも知れない。
【0083】
【表17】

表18に、オイルの存在なしで使用されることが意図されたグレードを含めて、熱可塑性エラストマーのタイプを変更する効果を示す。実施例28は、オイル及び中間ブロック改質剤処方と、そうでない実施例29及び30とを比較するものである。オイル量は、熱可塑性エラストマーで置き換えられる。中間ブロック改質剤量は、ポリプロピレンで置き換えられる。
【0084】
【表18】

表19にUL V−0難燃試験にも合格した本発明の処方を示す。実施例31〜33はすべて、ポリリン酸メラミン、ポリリン酸ポリアンモニウム又は専売Amfine FP−2100J窒素−リン系難燃剤製品の相乗剤として有機ホスフィン酸エステルを含んだ。
【0085】
【表19】

不必要な実験をせずに、当業者は、実施例1〜33を利用して、UL62試験に合格することができる保護された電線(ワイヤー、ケーブル又はその両方)の絶縁又は被覆をすることができる。さらに、これらの実施例は、これらの配合物の技術が、難燃性を必要とする、射出成形TPEベースのプラスチック品に適していることを示している。
【0086】
本発明は、上記実施形態に限定されない。特許請求の範囲は次の通りである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)ポリフェニレンエーテル約10から約60重量%と、
(b)水素化スチレンブロックコポリマー約10から約60重量%と、
(c)有機ホスフィン酸エステル、ポリリン酸メラミン及びその組合せからなる群から選択される少なくとも1種類の固体非ハロゲン難燃剤約5から約30重量%と、
(d)核化オレフィンポリマー約5から約40重量%と
を含む、熱可塑性エラストマー配合物であって、
該配合物が、Underwriters’ Laboratory test UL62に準拠して、>200%のエージング前引張伸び及び少なくとも75%のエージング後残留引張伸びを有する、
熱可塑性エラストマー配合物。
【請求項2】
前記水素化スチレンブロックコポリマーの重量平均分子量が約70,000から約160,000であり、スチレン末端ブロックとオレフィン中間ブロックの比が約20/80から約40/60の範囲であるべきであり、
前記配合物が、前記水素化スチレンブロックコポリマーを可塑化するオイルを更に含み、
前記配合物が、該水素化スチレンブロックコポリマーの該オレフィン中間ブロックを改変する粘着付与剤を更に含む、
請求項1に記載の配合物。
【請求項3】
前記水素化スチレンブロックコポリマーが、スチレン−エチレンブチレン−スチレンポリマー、スチレン−エチレンプロピレン−スチレンポリマー、水素化スチレン−イソプレンブロックコポリマー、及び水素化スチレン−ブタジエンブロックコポリマー、スチレン−エチレン−エチレン−プロピレン−スチレンコポリマー、並びにその組合せからなる群から選択される、請求項1又は請求項2に記載の配合物。
【請求項4】
前記ポリフェニレンエーテルが、芳香族ビニル基熱可塑性樹脂と混合されない、又は混合される、請求項1から3のいずれかに記載の配合物。
【請求項5】
前記ポリフェニレンエーテルが、ポリ(2,6−ジメチル−1,4−フェニレンエーテル)、ポリ(2,6−ジエチル−1,4−フェニレンエーテル)、ポリ(2−メチル−6−エチル−1,4−フェニレンエーテル)、ポリ(2−メチル−6−プロピル−1,4−フェニレンエーテル)、ポリ(2,6−ジプロピル−1,4−フェニレンエーテル)、ポリ(2−エチル−6−プロピル−1,4−フェニレンエーテル)、ポリ(2,6−ジメトキシ−1,4−フェニレンエーテル)、ポリ(2,6−ジ(クロロメチル)−1,4−フェニレンエーテル)、ポリ(2,6−ジ(ブロモメチル)−1,4−フェニレンエーテル)、ポリ(2,6−ジフェニル−1,4−フェニレンエーテル)、ポリ(2,6−ジトルイル−1,4−フェニレンエーテル)、ポリ(2,6−ジクロロ−1,4−フェニレンエーテル)、ポリ(2,6−ジベンジル−1,4−フェニレンエーテル)、ポリ(2,5−ジメチル−1,4−フェニレンエーテル)及びその組合せからなる群から選択される、請求項4に記載の配合物。
【請求項6】
前記芳香族ビニル基熱可塑性樹脂が、スチレン又はその誘導体のホモポリマー、スチレンとp−メチルスチレンのコポリマー、スチレンとアルファ−メチルスチレンのコポリマー、スチレンとアルファ−メチル−p−メチルスチレンのコポリマー、スチレンとクロロスチレンのコポリマー、スチレンとブロモスチレンのコポリマー、及びその組合せからなる群から選択される、請求項5に記載の配合物。
【請求項7】
前記固体難燃剤が有機ホスフィン酸エステルであり、前記配合物がポリリン酸ポリアンモニウムを固体難燃剤として更に含む、請求項1から6のいずれかに記載の配合物。
【請求項8】
前記核化オレフィンポリマーが核化ポリプロピレンホモポリマーである、請求項1から7のいずれかに記載の配合物。
【請求項9】
前記配合物が、接着促進剤;酸化防止剤;殺生物剤、抗菌剤、殺真菌剤及びカビ駆除剤;防曇剤;帯電防止剤;結合剤、発泡剤又は起泡剤;分散剤;充填剤又は増量剤;発煙抑制剤;膨張性チャー形成剤;衝撃改質剤;開始剤;潤滑剤;雲母;顔料、着色剤又は染料;加工助剤;剥離剤;シラン、チタナート又はジルコナート;スリップ剤又はブロッキング防止剤;安定剤;ステアラート;粘着付与剤;紫外線吸収剤;粘度調整剤;ワックス;並びにその組合せを更に含む、請求項1から8のいずれかに記載の配合物。
【請求項10】
保護された電線を覆う絶縁層の形、又は保護された電線を覆う被覆層の形の、前記配合物。
【請求項11】
請求項1から9のいずれかに記載の配合物でできた、プラスチック品。
【請求項12】
電子部品の形又は電気部品である、請求項11に記載のプラスチック品。
【請求項13】
(a)軸方向の長さを有するワイヤー又はケーブルと、
(b)該ワイヤー又はケーブルの該軸方向長さを覆う、請求項1から9のいずれかに記載の配合物の少なくとも1層と
を含む、保護された電線。
【請求項14】
ワイヤーの形の、請求項13に記載の保護された電線。
【請求項15】
ケーブルの形の、請求項13に記載の保護された電線。

【公表番号】特表2012−525477(P2012−525477A)
【公表日】平成24年10月22日(2012.10.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−508576(P2012−508576)
【出願日】平成22年4月27日(2010.4.27)
【国際出願番号】PCT/US2010/032485
【国際公開番号】WO2010/126855
【国際公開日】平成22年11月4日(2010.11.4)
【出願人】(502387566)ポリワン コーポレイション (5)
【Fターム(参考)】