説明

難燃性熱可塑性樹脂組成物およびその成形品

【課題】
難燃性、機械特性、成形加工性に優れたスチレン系樹脂および脂肪族ポリエステル樹脂を含む難燃性熱可塑性樹脂組成物およびその成形品を提供する。
【解決手段】
スチレン系樹脂(I)および脂肪族ポリエステル樹脂(II)を含む樹脂組成物100重量部に対し、リン酸エステル系難燃剤(III)8〜18重量部および粘度平均分子量[Mv]が1,000〜10,000である芳香族カーボネートオリゴマー(IV)0.1〜3重量部を含む、難燃性熱可塑性樹脂組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、難燃性熱可塑性樹脂組成物およびその成形品に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ABS樹脂に代表されるスチレン系樹脂は、すぐれた機械的性質、成形加工性および電気絶縁性を有することから、家庭電気機器、OA機器および自動車などの各部品を始めとする広範な分野で使用されている。
【0003】
また、近年の地球規模での二酸化炭素排出抑制など環境問題への取組みの関心の高さから、樹脂材料においても化石資源使用量の削減および二酸化炭素排出量の抑制可能な植物由来の樹脂の活用が注目されている。このような植物由来の樹脂としては、ポリ乳酸をはじめとする脂肪族ポリエステルが存在するが、機械的強度や耐熱性の低下など植物由来樹脂特有の欠点が知られており、これら課題を改善するために前記のABS樹脂などのスチレン系樹脂とのポリマーアロイ化による改良検討が盛んに行われている。
【0004】
一般に樹脂材料を家庭電気機器やOA機器に使用するには、難燃性が要求される場合があるが、前記スチレン系樹脂および脂肪族ポリエステル樹脂を含む樹脂組成物の大半は易燃性であるため、難燃化に対し種々の技術が案出されてきた。
【0005】
樹脂組成物の難燃化手法としては、難燃化効率の高い塩素系難燃剤および臭素系難燃剤と酸化アンチモンを樹脂に配合して難燃化する方法が現在最も採用されている。しかしながら、この方法は、燃焼時の火種の落下(ドリップ)防止のために難燃剤を多く含有するので、樹脂組成物の機械的性質や耐熱性が悪化する欠点があり、さらに成形時や燃焼時にハロゲン化合物の分解により有毒ガスが発生する問題を有している。上記の通り、環境問題への取組みの関心の高まりを考慮した場合、脂肪族ポリエステルの含まれる樹脂材料においては、塩素系難燃剤および臭素系難燃剤を含有しない非ハロゲン系難燃剤を用いた樹脂材料の設計が望まれる。
【0006】
非ハロゲン系の難燃剤として、リン系難燃剤があり、代表的なものとしてリン酸エステルが従来からよく使用されている。特許文献1ではポリ乳酸とゴム強化スチレン系樹脂からなる組成物にリン酸エステル系難燃剤とカルボジイミド化合物を添加することで、難燃性と高湿度下における耐久性が向上することが開示されている。しかしながら、カルボジイミド化合物の添加は高湿度下における耐久性の向上の効果のみであって、本特許文献記載の方法で得られる組成物においては、十分な難燃性を付与することができない場合があった。
【0007】
一方、芳香族カーボネートオリゴマーはガラスファイバー等のフィラーが充填されたポリカーボネート樹脂組成物の外観向上(特許文献2)、およびポリカーボネート樹脂組成物の流動性向上(特許文献3)の為添加された例はあるものの、熱可塑性樹脂組成物の難燃性の向上に寄与することは見出されていなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2008−201830号公報
【特許文献2】特開昭60−4550号公報
【特許文献3】特開2008−143997号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明の目的は、上記した従来技術の欠点を解消し、難燃性、機械特性、成形加工性に優れたスチレン系樹脂および脂肪族ポリエステル樹脂を含む難燃性熱可塑性樹脂組成物およびその成形品を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者は、上記課題を解決すべく鋭意検討を重ねた結果、スチレン系樹脂および脂肪族ポリエステル樹脂を含む熱可塑性樹脂に、リン酸エステル系難燃剤および特定の芳香族カーボネートオリゴマーを配合することにより、上記課題が解決できることを見出した。
【0011】
即ち本発明は、以下の(1)〜(12)に記載するとおりの難燃性熱可塑性樹脂組成物およびその成形品に係るものである。
【0012】
(1)スチレン系樹脂(I)および脂肪族ポリエステル樹脂(II)を含む樹脂組成物100重量部に対し、リン酸エステル系難燃剤(III)8〜18重量部および粘度平均分子量[Mv]が1,000〜10,000である芳香族カーボネートオリゴマー(IV)0.1〜3重量部を含む、難燃性熱可塑性樹脂組成物。
【0013】
(2)スチレン系樹脂(I)および脂肪族ポリエステル樹脂(II)を含む樹脂組成物100重量部が、スチレン系樹脂(I)および脂肪族ポリエステル樹脂(II)を、重量比85:15〜99:1の割合で含む組成物である、(1)に記載の難燃性熱可塑性樹脂組成物。
【0014】
(3)脂肪族ポリエステル樹脂(II)がポリ乳酸である、(1)または(2)に記載の難燃性熱可塑性樹脂組成物。
【0015】
(4)リン酸エステル系難燃剤(III)が下記一般式1で表される、(1)〜(3)のいずれかに記載の難燃性熱可塑性樹脂組成物。
【0016】
【化1】

【0017】
(一般式1中、R〜Rはフェニル基あるいはハロゲンを含有しない有機残基で置換されたフェニル基のいずれかを表し、相互に同一または相異なっていてもよい。また、R〜R12は水素原子または炭素数1〜5のアルキル基を表し、相互に同一または相異なっていてもよい。Yは直接結合、O、S、SO2 、C(CH3 2 、CH2 またはCHPhのいずれかを表し、Phはフェニル基を表す。)。
【0018】
(5)芳香族カーボネートオリゴマー(IV)が下記一般式2で表される、(1)〜(4)のいずれかに記載の難燃性熱可塑性樹脂組成物。
【0019】
【化2】

【0020】
(一般式2中、Zは炭素数2〜5の置換あるいは非置換のアルキリデン基、シクロヘキシリデン基、酸素原子、硫黄原子またはスルホニル基を表す。R13、R14、R15、R16は、水素原子または炭素数1〜3のアルキル基であり、それぞれ同一であっても異なっていてもよい。)。
【0021】
(6)スチレン系樹脂(I)が、ゴム質重合体(a)に、芳香族ビニル系単量体(b)ならびにシアン化ビニル系単量体(c)および共重合可能なその他のビニル系単量体(d)から選ばれた1種以上の単量体を含有する単量体混合物をグラフト共重合せしめたグラフト共重合体(A)と、芳香族ビニル系単量体(b)ならびにシアン化ビニル系単量体(c)および共重合可能なその他のビニル系単量体(d)から選ばれた1種以上の単量体を含有するビニル系(共)重合体(B)が、重量比10:90〜40:60の割合で含まれる組成物である、(1)〜(5)のいずれかに記載の難燃性熱可塑性樹脂組成物。
【0022】
(7)グラフト共重合体(A)が、ゴム質重合体(a)10〜80重量部ならびに芳香族ビニル系単量体(b)20〜99重量%、シアン化ビニル系単量体(c)1〜40重量%およびこれらと共重合可能なその他のビニル系単量体(d)0〜79重量%からなる単量体混合物20〜90重量部をグラフト共重合せしめてなる、(6)に記載の難燃性熱可塑性樹脂組成物。
【0023】
(8)ビニル系(共)重合体(B)が、芳香族ビニル系単量体(b)20〜99重量%、シアン化ビニル系単量体(c)1〜40重量%およびこれらと共重合可能なその他のビニル系単量体(d)0〜79重量%を含有する、(6)または(7)に記載の難燃性熱可塑性樹脂組成物。
【0024】
(9)リン酸エステル系難燃剤(III)がレゾルシノールビス(ジキシリルホスフェート)(e)および/またはレゾルシノールビス(ジフェニルホスフェート)(f)である、(1)〜(8)のいずれかに記載の難燃性熱可塑性樹脂組成物。
【0025】
(10)さらに含リン有機化合物系酸化防止剤(V)0.1〜1重量部を含む、(1)〜(9)のいずれかに記載の難燃性熱可塑性樹脂組成物。
【0026】
(11)(1)〜(10)のいずれかに記載の難燃性熱可塑性樹脂組成物を成形してなる、成形体。
【0027】
(12)難燃性がUL94 V−2基準を満たす、(11)に記載の成形品。
【発明の効果】
【0028】
本発明により、難燃性、機械特性、成形加工性に優れる難燃性熱可塑性樹脂組成物および成形品が得られる。
【発明を実施するための形態】
【0029】
以下、本発明を実施するための形態について、具体的に記載する。
【0030】
本発明におけるスチレン系樹脂(I)とは、芳香族ビニル系単量体(b)、シアン化ビニル系単量体(c)および共重合可能なその他のビニル系単量体(d)から選ばれた1種以上の単量体からなるビニル系(共)重合体(B)や、ビニル系(共)重合体(B)にゴム質重合体(a)を加えたものを指す。
【0031】
スチレン系樹脂(I)がビニル系(共)重合体(B)にゴム質重合体(a)を加えたものである場合、ビニル系(共)重合体(B)とゴム質重合体(a)の相溶性の観点から、ゴム質重合体(a)に対し、芳香族ビニル系単量体(b)、シアン化ビニル系単量体(c)および共重合可能なその他のビニル系単量体(d)から選ばれた1種以上の単量体をグラフト共重合せしめたグラフト共重合体(A)と、芳香族ビニル系単量体(b)、シアン化ビニル系単量体(c)および共重合可能なその他のビニル系単量体(d)から選ばれた1種以上の単量体からなるビニル系(共)重合体(B)を含む組成物であることが好ましい。なお、グラフト共重合体(A)に配合された単量体混合物は、そのすべてが、ゴム質重合体(a)と結合してグラフト化している必要はなく、単量体混合物の単量体同士で結合し、グラフト化していない重合体として含まれていても良い。しかし、グラフト率は好ましくは、10〜100%、より好ましくは20〜50%である。
【0032】
グラフト共重合体(A)に用いられるゴム質重合体(a)の配合量は特に規定はないが、好ましくは10〜80重量部、より好ましくは20〜70重量部、更に好ましくは35〜65重量部である。また、グラフト共重合体(A)における単量体混合物の配合量は好ましくは20〜90重量部、より好ましくは30〜80重量部、更に好ましくは35〜65重量部である。ゴム質重合体(a)および単量体混合物をこれらの割合で使用することにより、良好な耐衝撃性及び成形加工性を得ることができる。また、グラフト共重合体(A)に配合される単量体混合物の割合については特に制限はないが、芳香族ビニル系単量体(b)は20〜99重量%、シアン化ビニル系単量体(c)は1〜40重量%、およびこれらと共重合可能なその他のビニル系単量体(d)は0〜79重量%の割合で使用することが好ましく、良好な耐衝撃性及び成形加工性を得ることができる。
【0033】
ビニル系(共)重合体(B)に配合される単量体混合物の割合については特に規定はないが、好ましくは芳香族ビニル系単量体(b)20〜99重量%、シアン化ビニル系単量体(c)1〜40重量%、およびこれらと共重合可能なその他のビニル系単量体(d)0〜79重量%の割合で使用することが好ましく、良好な耐衝撃性及び成形加工性を得ることができる。
【0034】
グラフト共重合体(A)とビニル系(共)重合体(B)との混合比は、(A):(B)の重量比が10:90〜50:50の割合であることが好ましく、より好ましくは20:80〜40:60である。グラフト共重合体(A)の割合が上記の範囲未満もしくはビニル系(共)重合体(B)の割合が上記の範囲を越えると、衝撃強度が低下する傾向となる。また、グラフト共重合体(A)の割合が上記の範囲を越えると、難燃性、流動性が低下する傾向となる。
【0035】
グラフト共重合体(A)のアセトン可溶分の還元粘度(ηsp/c)は特に制限はないが、0.1〜0.6dl/gが好ましい。これ以外の場合、耐衝撃性が低下し、或いは溶融粘度が上昇して成形性が悪くなりやすい。さらに好ましくは0.3〜0.5dl/gである。
【0036】
ビニル系(共)重合体(B)の還元粘度(ηsp/c)は特に制限はないが、0.1〜0.6dl/gが好ましい。これ以外の場合、耐衝撃性が低下し、或いは溶融粘度が上昇して成形性が悪くなりやすい。さらに好ましくは0.3〜0.5dl/gである。
【0037】
ゴム質重合体(a)は特に制限はないが、ジエン系ゴム、アクリル系ゴム、エチレン系ゴム等が使用できる。具体例として、ポリブタジエン、ポリ(ブタジエン−スチレン)、ポリ(ブタジエン−アクリロニトリル)、ポリイソプレン、ポリ(ブタジエン−アクリル酸ブチル)、ポリ(ブタジエン−メタクリル酸メチル)、ポリ(アクリル酸ブチル−メタクリル酸メチル)、ポリ(ブタジエン−アクリル酸エチル)、エチレン−プロピレンラバー、エチレン−プロピレン−ジエンラバー、ポリ(エチレン−イソプレン)、ポリ(エチレン−アクリル酸メチル)等が挙げられる。これらのゴム質重合体(a)は、1種または2種以上の混合物で使用される。これらのゴム質重合体(a)のうち、ポリブタジエン、ポリ(ブタジエン−スチレン)、ポリ(ブタジエン−アクリロニトリル)、エチレン−プロピレンラバーが耐衝撃性の点で好ましく用いられる。
【0038】
ゴム質重合体(a)の重量平均粒子径は特に制限はないが、耐衝撃性等の機械的強度、成形品外観のバランスから、0.1〜0.5μmが好ましい。0.1μm未満では得られる熱可塑性組成物の衝撃強度が低下することがあり、0.5μmを超えると成形品外観が低下するケースが多くなる。より好ましくは0.15〜0.4μmである。
【0039】
グラフト共重合体(A)およびビニル系(共)重合体(B)に用いる芳香族ビニル系単量体(b)は特に制限はないが、具体例として、スチレン、α−メチルスチレン、オルソメチルスチレン、パラメチルスチレン、パラ−t−ブチルスチレンおよびハロゲン化スチレン等が挙げられ、1種または2種以上用いることができる。なかでもスチレン、α−メチルスチレンが好ましく、特に好ましくはスチレンである。
【0040】
グラフト共重合体(A)およびビニル系(共)重合体(B)に用いるシアン化ビニル系単量体(c)は特に制限はないが、具体例として、アクリロニトリル、メタクリロニトリル等が挙げられ、1種または2種以上用いることができる。なかでもアクリロニトリルが耐衝撃性の点で好ましい。
【0041】
グラフト共重合体(A)およびビニル系(共)重合体(B)に用いる共重合可能なその他のビニル系単量体(d)は特に制限はないが、具体例として、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸n−プロピル、(メタ)アクリル酸n−ブチル、(メタ)アクリル酸t−ブチル、(メタ)アクリル酸n−ヘキシル、(メタ)アクリル酸シクロヘキシル、(メタ)アクリル酸クロロメチルおよび(メタ)アクリル酸2−クロロエチル等の不飽和カルボン酸エステル、N−メチルマレイミド、N−シクロヘキシルマレイミド、N−フェニルマレイミド等のマレイミド化合物、マレイン酸等の不飽和ジカルボン酸、無水マレイン酸等の不飽和ジカルボン酸無水物およびアクリルアミド等の不飽和アミド化合物に代表される共重合可能なビニル化合物等を挙げることができ、これらは単独ないし2種以上を用いることができる。なお、ビニル系(共)重合体(B)は複数種類用いることができる。
【0042】
グラフト共重合体(A)またはビニル系(共)重合体(B)の製造方法は特に制限はなく、塊状重合、溶液重合、懸濁重合、乳化重合等のいずれでもよい。単量体の仕込方法も特に制限はなく、初期一括仕込み、単量体の一部または全てを連続仕込み、あるいは単量体の一部または全てを分割仕込みのいずれの方法を用いてもよい。
【0043】
本発明で用いられるスチレン系樹脂(I)の具体例としては、例えば、ポリスチレン、ハイインパクトポリスチレン(HIPS)、AS樹脂、AAS樹脂、AES樹脂、ABS樹脂、MAS樹脂、MABS樹脂、MBS樹脂や、これらの樹脂と他樹脂とのアロイなどが挙げられる。
【0044】
本発明で使用される脂肪族ポリエステル樹脂(II)とは、脂肪族ヒドロキシカルボン酸を主たる構成成分とする重合体、脂肪族多価カルボン酸と脂肪族多価アルコールを主たる構成成分とする重合体などが挙げられる。具体的には、脂肪族ヒドロキシカルボン酸を主たる構成成分とする重合体として、ポリグリコール酸、ポリ乳酸、ポリ3−ヒドロキシ酪酸、ポリ4−ヒドロキシ酪酸、ポリ4−ヒドロキシ吉草酸、ポリ3−ヒドロキシヘキサン酸またはポリカプロラクトンなどが挙げられ、脂肪族多価カルボン酸と脂肪族多価アルコールを主たる構成成分とする重合体としては、ポリエチレンアジペート、ポリエチレンサクシネート、ポリブチレンアジペートまたはポリブチレンサクシネートなどが挙げられる。これらの脂肪族ポリエステルは、単独ないし2種以上を用いることができる。これらの脂肪族ポリエステルの中でも、ヒドロキシカルボン酸を主たる構成成分とする重合体が好ましく、特にポリ乳酸がより好ましく使用される。
【0045】
ポリ乳酸としては、L−乳酸および/またはD−乳酸を主たる構成成分とする重合体であるが、本発明の目的を損なわない範囲で、乳酸以外の他の共重合成分を含んでいてもよい。かかる他の共重合成分単位としては、例えば、多価カルボン酸、多価アルコール、ヒドロキシカルボン酸、ラクトンなどが挙げられ、具体的には、シュウ酸、マロン酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、アゼライン酸、セバシン酸、ドデカンジオン酸、フマル酸、シクロヘキサンジカルボン酸、テレフタル酸、イソフタル酸、フタル酸、2,6−ナフタレンジカルボン酸、5−ナトリウムスルホイソフタル酸、5−テトラブチルホスホニウムスルホイソフタル酸などの多価カルボン酸類、エチレングリコール、プロピレングリコール、ブタンジオール、ヘプタンジオール、ヘキサンジオール、オクタンジオール、ノナンジオ−ル、デカンジオール、1,4−シクロヘキサンジメタノ−ル、ネオペンチルグリコール、グリセリン、トリメチロールプロパン、ペンタエリスリトール、ビスフェノ−ルA、ビスフェノールにエチレンオキシドを付加反応させた芳香族多価アルコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリテトラメチレングリコールなどの多価アルコール類、グリコール酸、3−ヒドロキシ酪酸、4−ヒドロキシ酪酸、4−ヒドロキシ吉草酸、6−ヒドロキシカプロン酸、ヒドロキシ安息香酸などのヒドロキシカルボン酸類、グリコリド、ε−カプロラクトングリコリド、ε−カプロラクトン、β−プロピオラクトン、δ−ブチロラクトン、β−またはγ−ブチロラクトン、ピバロラクトン、δ−バレロラクトンなどのラクトン類などを使用することができる。これらの共重合成分は、単独ないし2種以上を用いることができる。
【0046】
ポリ乳酸は、耐熱性の観点から乳酸成分の光学純度が高い方が好ましく、総乳酸成分の内、L体あるいはD体が80モル%以上含まれることが好ましく、さらには90モル%以上含まれることが好ましく、95モル%以上含まれることが特に好ましい。
【0047】
また、耐熱性、成形加工性の点で、ポリ乳酸ステレオコンプレックスを用いることも好ましい態様の一つである。ポリ乳酸ステレオコンプレックスを形成させる方法としては、例えば、L体が90モル%以上、好ましくは95モル%以上、より好ましくは98モル%以上のポリ−L−乳酸とD体が90モル%以上、好ましくは95モル%以上、より好ましくは98モル%以上のポリ−D−乳酸を溶融混練や溶液混練などにより混合する方法が挙げられる。また、別の方法として、ポリ−L−乳酸とポリ−D−乳酸をブロック共重合体とする方法も挙げることができ、ポリ乳酸ステレオコンプレックスを容易に形成させることができるという点で、ポリ−L−乳酸とポリ−D−乳酸をブロック共重合体とする方法が好ましい。
【0048】
脂肪族ポリエステル樹脂(II)の製造方法としては、既知の重合方法を用いることができ、特にポリ乳酸については、乳酸からの直接重合法、ラクチドを介する開環重合法などを採用することができる。
【0049】
脂肪族ポリエステル樹脂(II)の分子量や分子量分布は、実質的に成形加工が可能であれば、特に限定されるものではないが、重量平均分子量としては、好ましくは1万以上、より好ましくは4万以上、特に好ましくは8万以上であるのがよい。ここでいう重量平均分子量とは、溶媒としてヘキサフルオロイソプロパノールを用いたゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)で測定したポリメタクリル酸メチル(PMMA)換算の重量平均分子量である。
【0050】
脂肪族ポリエステル樹脂(II)の融点は、特に限定されるものではないが、90℃以上であることが好ましく、さらに150℃以上であることが好ましい。
【0051】
本発明における樹脂組成物の配合比は特に限定されないが、本発明の効果を奏するにあたっては、樹脂組成物の合計量100重量部において、スチレン系樹脂(I)と脂肪族ポリエステル樹脂(II)が、重量比85:15〜99:1の割合であるのが好ましく、より好ましくは重量比90:10〜95:5の割合である。スチレン系樹脂(I)の割合が上記の範囲未満もしくは脂肪族ポリエステル樹脂(II)の割合が上記の範囲を超えると、難燃性、機械的強度および耐熱性が低下する。
【0052】
本発明で用いられるリン酸エステル系難燃剤(III)とは、トリメチルホスフェート、トリエチルホスフェート、トリブチルホスフェート、トリオクチルホスフェート、トリブトキシエチルホスフェート、トリフェニルホスフェート、トリクレジルホスフェート、オクチルジフェニルホスフェート等のリン酸エステル類であり、非ハロゲン系のリン酸エステル類であることが好ましい。
【0053】
また、リン酸エステル系難燃剤(III)としては、下記一般式1
【0054】
【化3】

【0055】
(一般式1中、R〜Rはフェニル基あるいはハロゲンを含有しない有機残基で置換されたフェニル基のいずれかを表し、それぞれ同一であっても異なっていてもよい。また、R〜R12は水素原子または炭素数1〜5のアルキル基を表し、それぞれ同一であっても異なっていてもよい。Yは直接結合、O、S、SO、C(CH、CHまたはCHPhのいずれかを表し、Phはフェニル基を表す。)
で示されるものが、難燃化の効率の点からより好ましい。
【0056】
上記の一般式1で示されるリン酸エステル系難燃剤(III)において、R〜Rはフェニル基あるいはハロゲンを含有しない有機残基で置換されたフェニル基のいずれかを表し、それぞれ同一または異なっていても良い。具体例としては、フェニル基、トリル基、キシリル基、クメニル基、メシチル基、ナフチル基、インデニル基およびアントリル基などが挙げられるが、フェニル基、トリル基、キシリル基、クメニル基およびナフチル基が好ましく、特にフェニル基、トリル基およびキシリル基が好ましい。
【0057】
また、上記一般式1において、R〜R12は水素または炭素数1〜5のアルキル基のいずれかを示し、それぞれ同一であっても異なっていても良い。ここで、炭素数1〜5のアルキル基の具体例としては、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基、n−イソプロピル基、ネオペンチル基、tert−ペンチル基、2ーイソプロピル基、3−イソプロピル基およびネオイソプロピル基などが挙げられるが、特に、水素、メチル基およびエチル基が好ましく、とりわけ水素が好ましい。
【0058】
また、Yは直接結合、O、S、SO、C(CH、CH、CHPhのいずれかを表し、Phはフェニル基を表す。中でも、C(CHが好ましい。
【0059】
上記一般式(1)で表されるリン酸エステル系難燃剤(III)の具体例として、ビスフェノールAビスホスフェート、ビスフェノールAビス(ジフェニルホスフェート)、ヒドロキノンビスホスフェート、レゾルシノールビス(ジキシリルホスフェート)、レゾルシノールビスホスフェート、レゾルシノール(ジフェニルホスフェート)、レゾルシノールビス(ジフェニルホスフェート)あるいはこれらの置換体、縮合体などを例示できる。特に、レゾルシノールビス(ジキシリルホスフェート)、レゾルシノールビス(ジフェニルホスフェート)などが剛性と難燃性とのバランスに優れており、好ましく用いられる。これらは単独で使用しても、2種以上を組み合わせて使用しても、どちらでもよい。
【0060】
本発明におけるリン酸エステル系難燃剤(III)の配合量は、樹脂組成物100重量部に対し8〜18重量部であり、より好ましくは10〜16重量部である。リン酸エステル系難燃剤(III)の配合量が上記の範囲未満では難燃性が十分でなく、逆に上記の範囲を超えると得られる熱可塑性樹脂の機械的強度および耐熱性が低下し、ガス発生量が増加する傾向が招かれる。
【0061】
本発明に用いられる芳香族カーボネートオリゴマー(IV)とは、粘度平均分子量[Mv]が1,000〜10,000である低分子量の芳香族カーボネートオリゴマーを指す。なお、粘度平均分子量[Mv]とは、溶媒としてジクロロメタンを使用し、ウベローデ粘度計を用いて温度20°Cでの極限粘度[η](単位dl/g)を求め、更にSchnellの粘度式、すなわち、[η]=1.23×10−4×(Mv)0.83から算出される値を意味する。ここで極限粘度[η]とは各溶液濃度[C](g/dl)での比粘度[ηsp]を測定し、下記式により算出した値である。
η=limηsp/c(c→0)。
【0062】
芳香族カーボネートオリゴマー(IV)は、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン、2,2−ビス(3,5−ジメチル−4−ヒドロキシフェニル)プロパンで代表的に例示される芳香族ジヒドロキシ化合物と、ホスゲンで代表的に例示されるカーボネート前駆体との反応によって得られる。
【0063】
芳香族ジヒドロキシ化合物としては、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン(以下、ビスフェノールAと記載することがある。)、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)エタン、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)ブタン、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)オクタン、2,2−ビス(4−ヒドロキシ−3−メチルフェニル)プロパン、1,1−ビス(3−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−ヒドロキシ−3,5−ジメチルフェニル)プロパン、2,2−ビス(3−フェニル−4−ヒドロキシフェニル)プロパン、2,2−ビス(3−シクロヘキシル−4−ヒドロキシフェニル)プロパン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−1−フェニルエタン、ビス(4−ヒドロキシフェニル)ジフェニルメタン等で例示されるビス(ヒドロキシアリール)アルカン類;1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)シクロペンタン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)シクロヘキサン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−3,3,5−トリメチルシクロヘキサン等で例示されるビス(ヒドロキシアリール)シクロアルカン類;9,9−ビス(4−ヒドロキシフェニル)フルオレン、9,9−ビス(4−ヒドロキシ−3−メチルフェニル)フルオレン等で例示されるカルド構造含有ビスフェノール類;4,4'−ジヒドロキシジフェニルエーテル、4,4'−ジヒドロキシ−3,3'−ジメチルジフェニルエーテル等で例示されるジヒドロキシジアリールエーテル類;4,4'−ジヒドロキシジフェニルスルフィド、4,4'−ジヒドロキシ−3,3'−ジメチルジフェニルスルフィド等で例示されるジヒドロキシジアリールスルフィド類;4,4'−ジヒドロキシジフェニルスルホキシド、4,4'−ジヒドロキシ−3,3'−ジメチルジフェニルスルホキシド等で例示されるジヒドロキシジアリールスルホキシド類;4,4'−ジヒドロキシジフェニルスルホン、4,4'−ジヒドロキシ−3,3'−ジメチルジフェニルスルホン等で例示されるジヒドロキシジアリールスルホン類;ハイドロキノン、レゾルシン、4,4'−ジヒドロキシジフェニル等が挙げられる。
これらの中で好ましいのは、ビス(4−ヒドロキシフェニル)アルカン類であり、特に好ましいのは、ビスフェノールAである。これらの芳香族ジヒドロキシ化合物は、1種類でも2種類以上を組み合わせて用いてもよい。
【0064】
芳香族ジヒドロキシ化合物と反応させるカーボネート前駆体としては、カルボニルハライド、カーボネートエステル、ハロホルメート等が使用され、具体的にはホスゲン;ジフェニルカーボネート、ジトリルカーボネート等のジアリールカーボネート類;ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート等のジアルキルカーボネート類;二価フェノールのジハロホルメート等が挙げられる。中でもホスゲンが好ましく用いられることが多い。これらカーボネート前駆体もまた1種類でも2種類以上を組み合わせて用いてもよい。
【0065】
本発明で用いられる芳香族カーボネートオリゴマー(IV)の製造法は、特に限定されるものではなく、従来から知られている方法によって製造することができ、具体的には、界面重合法(ホスゲン法)、溶融エステル交換法、溶液重合法(ピリジン法)、環状カーボネート化合物の開環重合法、プレポリマーの固相エステル交換法等を挙げることができる。
【0066】
界面重合法による反応は、反応に不活性な有機溶媒、アルカリ水溶液の存在下で、通常pHを9以上に保ち、芳香族ジヒドロキシ化合物、ならびに必要に応じて分子量調整剤(末端停止剤)および芳香族ジヒドロキシ化合物の酸化防止のための酸化防止剤を用い、ホスゲンと反応させた後、第三級アミンまたは第四級アンモニウム塩等の重合触媒を添加し、界面重合を行うことによってポリカーボネートを得る。分子量調節剤の添加はホスゲン化時から重合反応開始時までの間であれば特に限定されない。なお反応温度は例えば、0〜40℃で、反応時間は例えば数分(例えば10分)〜数時間(例えば6時間)である。
【0067】
界面重合に適用できる有機溶媒としては、界面重合反応に不活性であり、水と混ざり合わなければいかなるものでも使用できる。例えば、ジクロロメタン、1,2−ジクロロエタン、クロロホルム、モノクロロベンゼン、ジクロロベンゼン等の塩素化炭化水素、ベンゼン、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素等が挙げられる。またアルカリ水溶液に用いられるアルカリ化合物としては、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等のアルカリ金属の水酸化物が挙げられる。
【0068】
界面重合に適用できる分子量調節剤としては、一価のフェノール性水酸基を有する化合物やフェニルクロロフォルメートが挙げられる。一価のフェノール性水酸基を有する化合物としては、m−メチルフェノール、p−メチルフェノール、m−プロピルフェノール、p−プロピルフェノール、p−tert−ブチルフェノールおよびp−長鎖アルキル置換フェノール等が挙げられる。分子量調節剤の使用量は、芳香族ジヒドロキシ化合物100モルに対して、好ましくは0.5モル以上、より好ましくは1モル以上である。
【0069】
界面重合で製造する場合、重合触媒としては、トリメチルアミン、トリエチルアミン、トリブチルアミン、トリプロピルアミン、トリヘキシルアミン、ピリジン等の第三級アミン類;トリメチルベンジルアンモニウムクロライド、テトラブチルアンモニウムクロライド、テトラメチルアンモニウムクロライド、トリエチルベンジルアンモニウムクロライド、トリオクチルメチルアンモニウムクロライド等の第四級アンモニウム塩等が挙げられる。
【0070】
溶融エステル交換法による反応は、例えば、炭酸ジエステルと芳香族ジヒドロキシ化合物とのエステル交換反応である。芳香族ジヒドロキシ化合物は前述したと同様のものが例示でき、これらの芳香族ジヒドロキシ化合物は単独で、または2種以上を混合して用いることができる。これらのなかでも、ビスフェノールAが好ましい。
【0071】
炭酸ジエステルとしては、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、ジ−tert−ブチルカーボネート等の炭酸ジアルキル化合物、ジフェニルカーボネートおよびジトリルカーボネート等の置換ジフェニルカーボネート等が例示される。炭酸ジエステルは、好ましくはジフェニルカーボネート、ジメチルカーボネートまたは置換ジフェニルカーボネートであり、より好ましくはジフェニルカーボネート、ジメチルカーボネートであり、特に好ましくはジフェニルカーボネートである。
【0072】
一般的に、炭酸ジエステルと芳香族ジヒドロキシ化合物との混合比率を調整したり、反応時の減圧度を調整したりすることによって、所望の分子量および末端ヒドロキシル基量を有するポリカーボネートが得られる。より積極的な方法として、反応時に別途、末端停止剤を添加する調整方法も周知である。この際の末端停止剤としては、一価フェノール類、一価カルボン酸類、炭酸ジエステル類が挙げられる。末端ヒドロキシル基量は、製品ポリカーボネートの熱安定性、加水分解安定性、色調等に大きな影響を及ぼす。用途にもよるが、実用的な物性を持たせるためには、好ましくは1,000ppm以下であり、より好ましくは700ppm以下である。
【0073】
また、エステル交換法で製造する場合、末端ヒドロキシル基量が100ppm以上であることが好ましい。このような末端ヒドロキシル基量とすることにより、分子量の低下を抑制でき、色調もより良好なものとすることができる。従って、芳香族ジヒドロキシ化合物1モルに対して、炭酸ジエステルを等モル量以上用いるのが好ましく、1.01〜1.30モルの量で用いるのがより好ましく、1.02〜1.2のモル比で用いられることが特に好ましい。
【0074】
エステル交換法で製造する場合、通常エステル交換触媒が使用される。エステル交換触媒は、特に制限はないが、アルカリ金属化合物および/またはアルカリ土類金属化合物が好ましい。また、補助的に、塩基性ホウ素化合物、塩基性リン化合物、塩基性アンモニウム化合物またはアミン系化合物等の塩基性化合物を併用することも可能である。上記原料を用いたエステル交換反応としては、100〜320℃の温度で反応を行い、最終的には絶対圧2.6×102Pa(2mmHg)以下の減圧下、芳香族ヒドロキシ化合物等の副生成物を除去しながら溶融重縮合反応を行う方法が例示される。
【0075】
溶融重縮合は、バッチ式または連続的に行うことができるが、芳香族カーボネートオリゴマー(IV)成分の安定性等を考慮すると、連続式で行うことが好ましい。エステル交換法ポリカーボネート中の触媒の失活剤としては、該触媒を中和する化合物、例えば、イオウ含有酸性化合物またはそれより形成される誘導体を使用することが好ましい。このような触媒を中和する化合物は、該触媒が含有するアルカリ金属に対して、好ましくは0.5〜10当量、より好ましくは1〜5当量の範囲で添加する。さらに加えて、このような触媒を中和する化合物は、ポリカーボネートに対して、好ましくは1〜100ppm、より好ましくは1〜20ppmの範囲で添加する。
【0076】
本発明で用いる芳香族カーボネートオリゴマー(IV)の分子量は、極限粘度[η]から換算した粘度平均分子量[Mv]で1,000〜10,000の範囲である。粘度平均分子量[Mv]が1,000未満では成形時に成形品からブリードアウトすることが懸念され、また耐衝撃性が低下する。一方、前記10,000を越えると難燃性が低下し、安定してUL94 V−2の難燃性が発現しなくなる。なお、これらのバランスを考慮すると、粘度平均分子量[Mv]は、1,500〜9,000が好ましく、2,000〜8,000がより好ましい。なお、粘度平均分子量の異なる2種類以上の芳香族カーボネートオリゴマーを混合することにより、上記粘度平均分子量[Mv]のものを得てもよい。この場合、粘度平均分子量が上記好適な範囲に含まれていない芳香族カーボネートオリゴマーを混合に使用することもできる。
【0077】
本発明で用いる芳香族カーボネートオリゴマー(IV)は、上述の方法により得られるものであれば特に制限はないが、一般式2で表される繰り返し構造単位を有する、粘度平均分子量[Mv]が1,000〜10,000であるものが好適に用いられる。
【0078】
【化4】

【0079】
(式中、Zは炭素数2〜5の置換あるいは非置換のアルキリデン基、シクロヘキシリデン基、酸素原子、硫黄原子またはスルホニル基を表す。R13〜R16は、水素原子または炭素数1〜6のアルキル基であり、それぞれ同一であっても異なっていてもよい。)。
【0080】
本発明で用いる芳香族カーボネートオリゴマー(IV)の添加量は、樹脂組成物100重量部に対し0.1〜3重量部であり、好ましくは0.2〜2.5重量部であり、より好ましくは0.3〜2重量部である。芳香族カーボネートオリゴマー(IV)の添加量が上記の範囲未満では難燃性が十分でなく、逆に上記の範囲を超えると得られる熱可塑性樹脂組成物の機械的強度および耐熱性が低下し、ガス発生量が増加する傾向が招かれるため好ましくない。
【0081】
本発明の難燃性熱可塑性樹脂組成物においては、溶融時の劣化防止の観点から酸化防止剤を添加するのが好ましく、特に添加した際に難燃性に悪影響を及ぼさないことから、含リン有機化合物系酸化防止剤(V)が好ましい。含リン有機化合物系酸化防止剤(V)としては、トリスノニルフェニルホスファイト、トリス(2,4−ジ−t−ブチルフェニル)ホスファイト、ジステアリルペンタエリスリトールジホスファイト、ビス(2,4−ジ−t−ブチルフェニル)ペンタエリスリトールホスファイト、ビス(2,6−ジ−t−ブチル−4−メチルフェニル)ペンタエリスリトールホスファイト、2,2−メチレンビス(4,6−ジ−t−ブチルフェニル)オクチルホスファイト、テトラキス(4,6−ジ−t−ブチルフェニル)-4,4,−ビフェニレン-ジ-ホスホナイトなどが用いられ、中でもジステアリルペンタエリスリトールジホスファイトが好適に用いられる。
【0082】
本発明における含リン有機化合物系酸化防止剤(V)の配合量は、樹脂組成物100重量部に対し0.1〜1重量部が好ましく、より好ましくは0.3〜0.8重量部である。配合量が上記の範囲未満では溶融時の劣化防止効果が十分でなく、逆に上記の範囲を超えると熱可塑性樹脂組成物を成形する際のガス発生量が増えるため、好ましくない。
【0083】
本発明の難燃性熱可塑性樹脂組成物の製造方法に関しては特に制限はなく、(I)〜(V)を、例えばV型ブレンダー、スーパーミキサー、スーパーフローターおよびヘンシェルミキサーなどの混合機を用いて予備混合した組成物であってもよいが、通常、前記予備混合物を均一に溶融混合した混合物である場合が多い。このような混合物は、前記予備混合物に混練手段を用い、例えば、好ましくは200〜280℃、より好ましくは220〜260℃程度の温度で溶融混練し、ペレット化することにより得ることができる。具体的な溶融混練、ペレット化の手段としては、種々の溶融混合機、例えば、ニーダー、一軸および二軸押出機などを用いて樹脂組成物を溶融して押出し、ペレタイザによりペレット化する方法が挙げられる。
【0084】
その他、本発明の難燃性熱可塑性樹脂組成物には、本発明の目的を損なわない範囲で、ポリ塩化ビニル、ポリエチレンやポリプロピレン等のポリオレフィン、ナイロン6やナイロン66等のポリアミド、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレートおよびポリシクロヘキサンジメチルテレフタレート等のポリエステル、ポリカーボネート、ポリテトラフルオロエチレンなどのフッ素系樹脂および各種エラストマー類等を配合することにより、成形用樹脂組成物として性能をさらに改良することができる。
【0085】
また、本発明の難燃性熱可塑性樹脂組成物には、難燃性向上の観点から、シリコーン化合物を添加してもよい。シリコーン化合物としては、シリコーン粉末、シリコーンゴム、シリコーンオイル、シリコーン樹脂、および相溶性や反応性を改良したこれらの誘導体が挙げられる。また、シリコーン化合物にはシリカ充填剤が含まれていてもよく、その混合方法としては通常公知の方法を適用することができる。
【0086】
また、本発明の難燃性熱可塑性樹脂組成物には、さらに必要に応じて、ガラス繊維、ガラスパウダー、ガラスビーズ、ガラスフレーク、アルミナ、アルミナ繊維、炭素繊維、黒鉛繊維、ステンレス繊維、ウィスカ、チタン酸カリ繊維、ワラステナイト、アスベスト、ハードクレー、焼成クレー、タルク、カオリン、マイカ、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、酸化アルミニウムおよび鉱物などの無機充填材や、ヒンダードフェノール系、ベンゾトリアゾール系、ベンゾフェノン系、ベンゾエート系およびシアノアクリレート系の紫外線吸収剤滑剤、高級脂肪酸や酸エステル系および酸アミド系、さらに高級アルコールなどの滑剤および可塑剤、モンタン酸およびその塩、そのエステル、そのハーフエステル、ステアリルアルコール、ステアラミドおよびエチレンワックスなどの離型剤、亜リン酸塩、次亜リン酸塩などの着色防止剤、リン酸、リン酸1ナトリウム、無水マレイン酸、無水コハク酸などの中和剤、核剤、アミン系、スルホン酸系、ポリエーテル系などの帯電防止剤、カーボンブラック、顔料、染料などの着色剤、などの通常の添加剤を1種以上含有することができる。
【0087】
上記によって得られた本発明の難燃性熱可塑性樹脂組成物は、射出成形、押出成形、ブロー成形、真空成形、圧縮成形およびガスアシスト成形などの現在熱可塑性樹脂の成形に用いられる公知の方法によって成形することができ、成形方法自体は特に制限されるものではない。
【0088】
本発明の難燃性熱可塑性樹脂組成物は、難燃性、成形加工性に優れており、電気・電子部品、自動車部品、機械機構部品、OA機器、家電機器などのハウジングおよびそれらの部品類など種々の用途に用いることができる。具体的には、例えば、各種ギヤー、各種ケース、センサー、LEPランプ、コネクター、ソケット、抵抗器、リレーケース、スイッチ、コイルボビン、コンデンサー、バリコンケース、光ピックアップ、発振子、各種端子板、変成器、プラグ、プリント配線板、チューナー、スピーカー、マイクロフォン、ヘッドフォン、小型モーター、磁気ヘッドベース、パワーモジュール、ハウジング、半導体、液晶、FDDキャリッジ、FDDシャーシ、モーターブラッシュホルダー、パラボラアンテナ、コンピューター関連部品などに代表される電気・電子部品、VTR部品、テレビ枠、台座、バックキャビ等のテレビ部品、アイロン、ヘアードライヤー、炊飯器部品、電子レンジ部品、音響部品、オーディオ・レーザーディスク(登録商標)、コンパクトディスクなどの音声機器部品、照明部品、冷蔵庫部品、エアコン部品、タイプライター部品、ワードプロセッサー部品などに代表される家庭、事務電気製品部品、オフィスコンピューター関連部品、電話機関連部品、ファクシミリ関連部品、複写機関連部品、洗浄用治具、オイルレス軸受、船尾軸受、水中軸受、などの各種軸受、モーター部品、ライター、タイプライターなどに代表される機械関連部品、顕微鏡、双眼鏡、カメラ、時計などに代表される光学機器、精密機械関連部品;オルタネーターターミナル、オルタネーターコネクター、ICレギュレーター、排気ガスバルブなどの各種バルブ、燃料関係・排気系・吸気系各種パイプ、エアーインテークノズルスノーケル、インテークマニホールド、燃料ポンプ、エンジン冷却水ジョイント、キャブレターメインボディー、キャブレタースペーサー、排気ガスセンサー、冷却水センサー、油温センサー、ブレーキパットウェアーセンサー、スロットルポジションセンサー、クランクシャフトポジションセンサー、エアーフローメーター、エアコン用サーモスタットベース、暖房温風フローコントロールバルブ、ラジエーターモーター用ブラッシュホルダー、ウォーターポンプインペラー、タービンべイン、ワイパーモーター関係部品、デュストリビュター、スタータースィッチ、スターターリレー、トランスミッション用ワイヤーハーネス、ウィンドウオッシャーノズル、エアコンパネルスィッチ基板、燃料関係電磁気弁用コイル、ヒューズ用コネクター、ホーンターミナル、電装部品絶縁板、ステップモーターローター、ランプソケット、ランプリフレクター、ランプハウジング、ブレーキピストン、ソレノイドボビン、エンジンオイルフィルター、点火装置ケースなどが挙げられ、これら各種の用途にとって極めて有用である。
【実施例】
【0089】
以下、本発明を実施例および比較例にて詳細に説明するが、これをもって本発明を制限するものではない。
【0090】
(1)重量平均ゴム粒子径
「Rubber Age Vol.88 p.484〜490(1960)by E.Schmidt, P.H.Biddison」記載のアルギン酸ナトリウム法によって求めた。すなわち、アルギン酸ナトリウムの濃度によりクリーム化するポリブタジエン粒子径が異なることを利用して、クリーム化した重量割合とアルギン酸ナトリウム濃度の累積重量分率より累積重量分率50%の粒子径を求めた。
【0091】
(2)グラフト率
グラフト共重合体所定量(m)にアセトンを加え、3時間還流し、この溶液を8800r/min(10000G)で40分間遠心分離後、不溶分を濾取し、この不溶分を60℃で5時間減圧乾燥し、重量(n)を測定した。グラフト率は、下記式より算出した。
グラフト率(%)={[(n)−(m)×L]/[(m)×L]}×100
ここで、Lはグラフト共重合体のゴム含有量である。
【0092】
(3)還元粘度[ηsp/c]
サンプル1gにアセトン200mlを加え、3時間還流し、この溶液を8800r/min(10000G)で40分間遠心分離した後、不溶分を濾過する。濾液をロータリーエバポレーターで濃縮し、析出物(アセトン可溶分)を60℃で5時間減圧乾燥後、0.4g/100ml(メチルエチルケトン、30℃)に調整し、ウベローデ粘度計を用い[ηsp/c]を測定した。
【0093】
(4)極限粘度[η]
サンプル1gをジクロロメタン100cmに均一溶解させ、ウベローデ粘度計を用い比粘度[ηsp]を測定した。更に濃度を変えて同様に比粘度を測定し、濃度[c]と[ηsp/c]とをプロットしたグラフを濃度ゼロ側へ外挿した値を極限粘度[η]とした。即ち、η=limηsp/c(c→0)より算出した。
【0094】
(5)難燃性[UL94 V−2]
射出成形により得た0.75mm厚および3mm厚の難燃性評価用試験片について、UL94で定められている評価基準に従い難燃性を評価した。燃焼試験片を垂直に保持し、燃焼試験片の下端中央に長さ20mmの青色炎を10秒間接炎後、炎を離して燃焼時間を測定した。その後、一回目の炎が消火して再び10秒間接炎後の燃焼時間とグロー消火時間を測定した。判定は次のとおりである。
【0095】
[V−2]:
1回目と2回目の接炎後30秒以上燃えず、2回目の接炎後のグロー消火時間は60秒以内である。30cm下方に置かれたガーゼは着火してもよい。なお、測定はn=5で実施する。更に、5本の燃焼試験片の有炎燃焼時間の合計が、250秒以内である。
【0096】
[V−2NG]:
1回目と2回目の接炎後30秒より燃焼もしくは、2回目の接炎後のグロー消火時間は60秒以上である。なお、測定はn=5で実施する。また、5本の燃焼試験片の有炎燃焼時間の合計が、250秒より大きくなる場合もNGとなる。
【0097】
(6)メルトフローレート
80℃熱風乾燥機中で3時間乾燥した熱可塑性樹脂組成物のペレットを、ISO−1133(2005年)に準拠し、220℃、98Nの条件で測定した。
【0098】
(7)荷重たわみ温度
ISO 75(2004年)の規定に準拠し、試験片厚み4.0mm、1.8MPaの条件で測定した。
【0099】
(8)シャルピー衝撃強度
ISO 179(2000年)の規定に準拠し、Vノッチ入り(残り幅8.0mm)、23℃、50%RHの条件で測定した。
【0100】
[参考例1]グラフト共重合体(A)の製造方法
窒素置換した反応器に、純水120重量部、ブドウ糖0.5重量部、ピロリン酸ナトリウム0.5重量部、硫酸第一鉄0.005重量部およびポリブタジエンラテックス(重量平均ゴム粒子径0.3μm、ゲル含有率85%)60重量部(固形分換算)を仕込み、撹拌しながら反応器内の温度を65℃に昇温した。内温が65℃に達した時点を重合開始としてモノマー(スチレン30重量部およびアクリロニトリル10重量部)およびt−ドデシルメルカプタン0.3重量部からなる混合物を5時間かけて連続滴下した。同時に並行してクメンハイドロパーオキサイド0.25重量部、オレイン酸カリウム2.5重量部および純水25重量部からなる水溶液を7時間かけて連続滴下し、反応を完結させた。得られたスチレン系共重合体ラテックスを硫酸で凝固し、苛性ソーダで中和した後、洗浄、濾過、乾燥してグラフト共重合体(A)を得た。このスチレン系グラフト共重合体(A)のグラフト率は35%、アセトン可溶分の還元粘度ηsp/cは0.35dl/gであった。
【0101】
[参考例2]ビニル系(共)重合体(B)の製造方法
単量体蒸気の蒸発還流用コンデンサーおよびヘリカルリボン翼を有する2mの完全混合型重合槽と、単軸押出機型予熱機と、2軸押出機型脱モノマー機および脱モノマー機の先端から1/3長のバレル部にタンデムに接続した加熱装置を有する2軸押出機型フィーダーとからなる連続式塊状重合装置を用いて、次のように、共重合と樹脂成分の混合を実施した。
【0102】
まず、スチレン70.0重量部、アクリロニトリル30.0重量部、n−オクチルメルカプタン0.15重量部および1,1-ジ(t-ブチルパーオキシ)シクロヘキサン0.01重量部からなる単量体混合物を、150kg/時で重合槽に連続的に供給し、重合温度130℃、槽内圧0.08MPaに保って連続塊状重合させた。重合槽出における重合反応混合物の重合率は、74〜76%の間に制御した。得られた重合反応生成物を、二軸押出機型脱モノマー機により未反応モノマーをベント口より減圧蒸留回収して、見かけの重合率を99%以上にしてストランド状に吐出してカッターによりペレット化しビニル系(共)重合体(B)を得た。このビニル系(共)重合体(B)の還元粘度ηsp/cは0.53dl/gであった。
【0103】
[参考例3]脂肪族ポリエステル樹脂(II)
NatureWorks社製のポリ乳酸(重量平均分子量200,000、D−乳酸単位1%、融点175℃のポリ−L−乳酸)を準備した。
【0104】
[参考例4]リン酸エステル系難燃剤(III)
リン酸エステル系難燃剤(III)−1
レゾルシノールビス(ジキシリルホスフェート)(商品名:PX200、大八化学工業製、リン含有量:9.0%)を準備した。
【0105】
リン酸エステル系難燃剤(III)−2
レゾルシノールビス(ジフェニルホスフェート)(商品名:CR733S、大八化学工業製、リン含有量:10.5%)を準備した。
【0106】
[参考例5]芳香族カーボネートオリゴマー(IV)
8重量%の水酸化ナトリウム水溶液42.1Lに、ビスフェノールA5.472kg(24mol)、ハイドロサルファイド6.0g、p−tert−ブチルフェノール1.028kgを溶解し、溶液Aを調整した。また、ジクロロメタン24.0Lを攪拌しつつ、15℃に保ちながらホスゲン3.0kgを50分かけて吹き込み、溶液Bを調整した。次に、溶液Aを攪拌しながら、溶液Aに溶液Bを加え反応させた。反応後、12.0mLのトリエチルアミンを加え、20〜25℃にて約1時間攪拌し重合させた。重合終了後、反応液を水相と有機相とに分離し、有機相をリン酸で中和し、洗液(水相)の導電率が10μS/cm以下になるまで水洗を繰り返した。得られた重合体溶液を、45℃に保った温水に滴下し、溶媒を蒸発除去して白色粉末状沈殿物を得た。この沈殿物を濾過し、110℃で24時間乾燥し、芳香族カーボネートオリゴマー(IV)を得た。
【0107】
20℃に於ける極限粘度[η]は0.19dl/gであった。極限粘度[η]と粘度平均分子量[Mv]との間にはSchnellの粘度式:[η]=1.23×10−4×(Mv)0.83の関係があることが知られており、極限粘度[η]の値より換算した結果、[Mv]は6,950であることを確認した。また、赤外線吸収スペクトルにより分析した結果、1770cm−1付近にカルボニル基による吸収、1240cm−1付近にエーテル結合による吸収が認められ、カーボネート結合を有するポリマーであることを確認した。
【0108】
[参考例6]含リン有機化合物系酸化防止剤(V)
ジステアリルペンタエリスリトールジホスファイト(商品名:“アデカスタブ”PEP−8、株式会社ADEKA製)を準備した。
【0109】
[実施例1〜8]
参考例で示したグラフト共重合体(A)、ビニル系(共)重合体(B)、脂肪族ポリエステル樹脂(II)、リン酸エステル系難燃剤(III)、芳香族カーボネートオリゴマー(IV)、含リン有機化合物系酸化防止剤(V)、を表1に示した配合比で混合し、ベント付40mm単軸押出機を用いシリンダー設定温度230℃で溶融混練、押出しを行うことによって、ペレット状の難燃性熱可塑性樹脂組成物を製造した。
【0110】
【表1】

【0111】
[実施例9]
実施例1〜8で得られた難燃性熱可塑性樹脂組成物を80℃熱風乾燥機中で3時間予備乾燥し、住友重機械工業社製電動射出成形機SE50を用いシリンダー温度230℃、金型温度60℃でISO527(1993年)で規定された引張試験片(全長150mm、試験部の幅10mm、厚さ4mm)を成形した。いずれも成形性に問題なく、良品を採取可能であった。なお、本成形片を加工し、荷重たわみ温度、シャルピー衝撃強度測定用の試験片を作製した。
【0112】
[比較例1〜7]
参考例で示したグラフト共重合体(A)、ビニル系(共)重合体(B)、脂肪族ポリエステル樹脂(II)、リン酸エステル系難燃剤(III)、芳香族カーボネートオリゴマー(IV)、含リン有機化合物系酸化防止剤(V)、を表2に示した配合比で混合し、実施例と同様の方法でペレット状の難燃性熱可塑性樹脂組成物を製造した。各物性を測定し、測定結果を表2に示した。なお、実施例9の方法に従って荷重たわみ温度、シャルピー衝撃強度測定用の試験片を作製した。
【0113】
【表2】

【0114】
表1、2の結果から、次のことが明らかになった。
【0115】
本発明の難燃性熱可塑性樹脂組成物(実施例1〜7)は、いずれも難燃性、流動性、耐熱性および機械的強度が均衡して優れていた。
【0116】
一方、比較例1〜3では芳香族カーボネートオリゴマー(III)が添加されておらず、それぞれ実施例2、3および5と比較して難燃性が劣るものであった。逆に比較例4では芳香族カーボネートオリゴマー(IV)添加量が多く、それぞれ実施例2、6と比較して機械強度が劣るものであった。
【0117】
比較例5ではリン酸エステル系難燃剤(III)の添加量が少なく、それぞれ実施例1〜4に比較して難燃性が劣るものであった。一方、比較例6ではリン酸エステル系難燃剤(III)の添加量が多く、実施例1〜4と比較して機械強度が劣るものであった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
スチレン系樹脂(I)および脂肪族ポリエステル樹脂(II)を含む樹脂組成物100重量部に対し、リン酸エステル系難燃剤(III)8〜18重量部および粘度平均分子量[Mv]が1,000〜10,000である芳香族カーボネートオリゴマー(IV)0.1〜3重量部を含む、難燃性熱可塑性樹脂組成物。
【請求項2】
スチレン系樹脂(I)および脂肪族ポリエステル樹脂(II)を含む樹脂組成物100重量部が、スチレン系樹脂(I)および脂肪族ポリエステル樹脂(II)を、重量比85:15〜99:1の割合で含む組成物である、請求項1に記載の難燃性熱可塑性樹脂組成物。
【請求項3】
脂肪族ポリエステル樹脂(II)がポリ乳酸である、請求項1または2に記載の難燃性熱可塑性樹脂組成物。
【請求項4】
リン酸エステル系難燃剤(III)が下記一般式1で表される、請求項1〜3のいずれかに記載の難燃性熱可塑性樹脂組成物。
【化1】

(一般式1中、R〜Rはフェニル基あるいはハロゲンを含有しない有機残基で置換されたフェニル基のいずれかを表し、相互に同一または相異なっていてもよい。また、R〜R12は水素原子または炭素数1〜5のアルキル基を表し、相互に同一または相異なっていてもよい。Yは直接結合、O、S、SO2 、C(CH3 2 、CH2 またはCHPhのいずれかを表し、Phはフェニル基を表す。)
【請求項5】
芳香族カーボネートオリゴマー(IV)が下記一般式2で表される、請求項1〜4のいずれかに記載の難燃性熱可塑性樹脂組成物。
【化2】

(一般式2中、Zは炭素数2〜5の置換あるいは非置換のアルキリデン基、シクロヘキシリデン基、酸素原子、硫黄原子またはスルホニル基を表す。R13、R14、R15、R16は、水素原子または炭素数1〜3のアルキル基であり、それぞれ同一であっても異なっていてもよい。)
【請求項6】
スチレン系樹脂(I)が、ゴム質重合体(a)に、芳香族ビニル系単量体(b)ならびにシアン化ビニル系単量体(c)および共重合可能なその他のビニル系単量体(d)から選ばれた1種以上の単量体を含有する単量体混合物をグラフト共重合せしめたグラフト共重合体(A)と、芳香族ビニル系単量体(b)ならびにシアン化ビニル系単量体(c)および共重合可能なその他のビニル系単量体(d)から選ばれた1種以上の単量体を含有するビニル系(共)重合体(B)が、重量比10:90〜40:60の割合で含まれる組成物である、請求項1〜5のいずれかに記載の難燃性熱可塑性樹脂組成物。
【請求項7】
グラフト共重合体(A)が、ゴム質重合体(a)10〜80重量部ならびに芳香族ビニル系単量体(b)20〜99重量%、シアン化ビニル系単量体(c)1〜40重量%およびこれらと共重合可能なその他のビニル系単量体(d)0〜79重量%からなる単量体混合物20〜90重量部をグラフト共重合せしめてなる、請求項6に記載の難燃性熱可塑性樹脂組成物。
【請求項8】
ビニル系(共)重合体(B)が、芳香族ビニル系単量体(b)20〜99重量%、シアン化ビニル系単量体(c)1〜40重量%およびこれらと共重合可能なその他のビニル系単量体(d)0〜79重量%を含有する、請求項6または7に記載の難燃性熱可塑性樹脂組成物。
【請求項9】
リン酸エステル系難燃剤(III)がレゾルシノールビス(ジキシリルホスフェート)(e)および/またはレゾルシノールビス(ジフェニルホスフェート)(f)である、請求項1〜8のいずれかに記載の難燃性熱可塑性樹脂組成物。
【請求項10】
さらに含リン有機化合物系酸化防止剤(V)0.1〜1重量部を含む、請求項1〜9のいずれかに記載の難燃性熱可塑性樹脂組成物。
【請求項11】
請求項1〜10のいずれかに記載の難燃性熱可塑性樹脂組成物を成形してなる、成形体。
【請求項12】
難燃性がUL94 V−2基準を満たす、請求項11に記載の成形品。

【公開番号】特開2012−197363(P2012−197363A)
【公開日】平成24年10月18日(2012.10.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−62512(P2011−62512)
【出願日】平成23年3月22日(2011.3.22)
【出願人】(000003159)東レ株式会社 (7,677)
【Fターム(参考)】