説明

難燃性発泡性ポリスチレン系樹脂粒子

【課題】
難燃剤として粉末状のテトラブロモシクロオクタン(TBCO)を用いても、TBCOの樹脂粒子への吸収が不均一となることを防止し、またダンゴ状となることを阻止して製造工程でのハンドリング性を良好とする。
【解決手段】
水性懸濁液中に分散させたポリスチレン系樹脂粒子に発泡剤を含浸させる前又は含浸中に、シリカ微粉末によって分散された粉末状難燃剤であるテトラブロモシクロオクタンを含浸させて、上記水性懸濁液中から取り出した難燃性発泡性ポリスチレン系樹脂粒子であって、
前記ポリスチレン系樹脂100重量部に対して前記テトラブロモシクロオクタンを0.45〜2.0重量部添加しており、
前記粉末状難燃剤であるテトラブロモシクロオクタン98.5〜99.7重量部に対して、前記シリカ微粉末が0.3〜1.5重量部を含有している。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、難燃性発泡性ポリスチレン系樹脂粒子に関する。更に詳しくは、本発明は、難燃剤としてテトラブロモシクロオクタンを使用する難燃性発泡性ポリスチレン系樹脂粒子に関する。
【背景技術】
【0002】
発泡性ポリスチレン系樹脂粒子は広い範囲の用途に使用されており、農水産分野、家電分野、建材土木分野等に使用されている。特に建材分野で壁や床の断熱材に使用されるポリスチレン系発泡成形体は、省エネルギーの観点から断熱性能に優れたものが切望されており、さらに難燃性能も求められている。
【0003】
上記の発泡性ポリスチレン系樹脂粒子の製造方法には、難燃剤をスチレン系単量体と共に重合時に添加する方法、ポリスチレン系樹脂粒子に発泡剤を含浸させる際に難燃剤を添加する方法等が採用されている。前者の方法としては、2003−335891号公報(特許文献1)及び特開2002−194130号公報(特許文献2)に記載された方法があり、後者の方法としては特開2007−246606号公報(特許文献3)に記載された方法がある。
【特許文献1】特開2003−335891号公報
【特許文献2】特開2002−194130号公報
【特許文献3】特開2007−246606号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
前者の方法では、主としてヘキサブロモシクロドデカン(HBCD)を難燃剤として使用している。HBCDは生体内への蓄積性が懸念される物質であり、その使用を無くすことが望まれている。後者の方法では、主としてテトラブロモシクロオクタン(TBCO)を使用しているが、TBCO単体では粉末状であり、保存状態により、TBCO同士がブロッキングしダンゴ状になるという、問題があった。TBCOがダンゴ状になることにより、難燃剤の分散が不均一となり、その結果粉末状難燃剤の樹脂粒子への吸収が不均一となってしまい、一部の樹脂粒子が難燃剤を多量に吸収していまうといった課題があった。また、難燃剤がダンゴ状になることにより、製造工程でのハンドリング性が悪いという課題があった。
【0005】
本発明の目的は、難燃剤として粉末状のテトラブロモシクロオクタン(TBCO)を用いても、TBCOの樹脂粒子への吸収が不均一となることを防止し、またダンゴ状となることを阻止して製造工程でのハンドリング性を良好とした難燃性発泡性ポリスチレン系樹脂粒子を提供しようとするところにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の発明者等は、生体内への蓄積性が無く、且つ製造工程においてハンドリング性の良い難燃剤を特定量使用することで、発泡させた際に粒子同士の熱融着性に優れていると共に、優れた難燃性を有する発泡成形品を得ることができる発泡性ポリスチレン樹脂粒子を提供できることを見出し発明に至った。
【0007】
本発明は、水性懸濁液中に分散させたポリスチレン系樹脂粒子に発泡剤を含浸させる前又は含浸中に、シリカ微粉末によって分散された粉末状難燃剤であるテトラブロモシクロオクタンを含浸させて、上記水性懸濁液中から取り出した難燃性発泡性ポリスチレン系樹脂粒子であって、
前記ポリスチレン系樹脂100重量部に対して前記テトラブロモシクロオクタンを0.45〜2.0重量部添加しており、
前記難燃剤がテトラブロモシクロオクタン98.5〜99.7重量部に対して、シリカ微粉末0.3〜1.5重量部を含有していることを特徴とする難燃性発泡性ポリスチレン系樹脂粒子である。
【0008】
また本発明の難燃性発泡性ポリスチレン系樹脂粒子の製造方法は、水性懸濁液中に分散させたポリスチレン系樹脂粒子に発泡剤を含浸させる前又は含浸中に、シリカ微粉末によって分散された粉末状難燃剤であるテトラブロモシクロオクタン0.45〜2.0重量部を上記ポリスチレン系樹脂粒子に含浸させて、上記水性懸濁液中から取り出した難燃性発泡性ポリスチレン系樹脂粒子を製造する方法であって、上記粉末状難燃剤はテトラブロモシクロオクタン98.5〜99.7重量部に対して、上記シリカ微粉末を0.3〜1.5重量部含有していることを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
これにより、本発明の難燃性発泡ポリスチレン系粒子は、発泡性ポリスチレン系粒子に難燃剤が均一に吸収されていることを特徴とする。添加する難燃剤は、テトラブロモシクロオクタンにシリカの微粉末を入れており、シリカ微粉末を入れることによりテトラブロモシクロオクタンの分散性が著しく向上する。従って、製造上でのハンドリング性が非常に良く、発泡性ポリスチレン系樹脂粒子に難燃剤を均一に吸収させることが可能であり、成形時の熱融着性が良好な難燃性発泡性ポリスチレン系樹脂粒子を提供できる。
【0010】
更に、テトラブロモシクロオクタンは、シリカ微粉末により均一に且つ安定的に分散しているので、テトラブロモシクロオクタンが二次凝集や沈降を生じるようなことはなく、テトラブロモシクロオクタンによって配管ラインが閉塞するなどの問題は発生しない。
【0011】
また、難燃剤に入れるシリカ微粉末は全て製造工程中において排水中に流れ出るために、得られる発泡性ポリスチレン系樹脂粒子には難燃剤のみが吸収されている。そして、シリカ微粉末が吸収されていないために、上記難燃性発泡ポリスチレン系粒子から得られた、発泡体の難燃性を低下させることは無い。
【0012】
また、難燃剤HBCDを含有していない難燃性発泡ポリスチレン系樹脂から得られる発泡体であるために生体内への蓄積性がなく、かつ断熱性と難燃性に優れた成形体となりえる発泡性ポリスチレン系樹脂粒子を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
本発明の難燃性発泡性ポリスチレン系樹脂粒子は、水性懸濁液中に分散させたポリスチレン系樹脂粒子に発泡剤を含浸させる前又は含浸中に、上記ポリスチレン系樹脂粒子中に粉末難燃剤テトラブロモシクロオクタンを0.45〜2.0重量部を含浸させて得られる難燃性発泡性ポリスチレン系樹脂粒子を製造する方法であって、上記難燃剤は、テトラブロモシクロオクタン98.5〜99.7重量部、シリカ微粉末を0.3〜1.5重量部含有していることを特徴とする。ここで、発泡剤を含浸後にテトラブロモシクロオクタンを添加すると、得られる難燃性発泡性ポリスチレン樹脂粒子が硬化する問題があった。
【0014】
以下、本発明の実施の形態をより詳細に説明する。
本発明におけるポリスチレン系樹脂粒子は、公知の方法で製造されたものを用いることができ、例えば、
(1)水性媒体、スチレン系単量体及び重合開始剤をオートクレーブ内に供給し、オートクレーブ内において加熱、攪拌しながらスチレン系単量体を懸濁重合させてポリスチレン系樹脂粒子を製造する懸濁重合法、
(2)水性媒体及びポリスチレン系樹脂種粒子をオートクレーブ内に供給し、ポリスチレン系樹脂種粒子を水性媒体中に分散させた後、オートクレーブ内を加熱、攪拌しながらスチレン系単量体を連続的に或いは断続的に供給して、ポリスチレン系樹脂種粒子にスチレン系単量体を吸収させつつ重合開始剤の存在下にて重合させてポリスチレン系樹脂粒子を製造するシード重合法などが挙げられる。なお、ポリスチレン系樹脂種粒子は、上記(1)の懸濁重合法により製造し分級すればよい。
【0015】
ここで、本発明におけるポリスチレン系樹脂としては、例えば、スチレン、α−メチルスチレン、ビニルトルエン、クロロスチレン、エチルスチレン、イソプロピルスチレン、ジメチルスチレン、ブロモスチレンなどのスチレン系単量体の単独重合体又はこれらの共重合体などが挙げられる。
【0016】
更に、上記ポリスチレン系樹脂としては、上記スチレン系単量体を主成分とする、上記スチレン系単量体と、このスチレン系単量体と共重合可能なビニル単量体との共重合体であってもよく、このようなビニル単量体としては、例えば、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、ブチル(メタ)アクリレート、セチル(メタ)アクリレートなどのアルキル(メタ)アクリレート、(メタ)アクリロニトリル、ジメチルマレエート、ジメチルフマレート、ジエチルフマレート、エチルフマレートの他、ジビニルベンゼン、アルキレングリコールジメタクリレートなどの二官能性単量体などが挙げられる。
【0017】
そして、ポリスチレン系樹脂粒子の平均粒子径は、難燃性発泡性ポリスチレン系樹脂粒子を用いて型内発泡成形を行う場合に、難燃性発泡性ポリスチレン系樹脂粒子を予備発泡させて得られる予備発泡粒子のキャビティ内への充填性の観点から、0.3〜2.0mmが好ましく、0.6〜1.4mmがより好ましい。
【0018】
更に、ポリスチレン系樹脂粒子を構成するポリスチレン系樹脂のスチレン換算重量平均分子量は、小さいと、難燃性発泡性ポリスチレン系樹脂粒子を発泡させて得られる難燃性ポリスチレン系樹脂発泡成形体の機械的強度が低下することがある一方、大きいと、難燃性発泡性ポリスチレン系樹脂粒子の発泡性が低下し、高発泡倍率の難燃性ポリスチレン系樹脂発泡成形体を得ることができない虞れがあるので、20万〜50万が好ましく、24万〜40万がより好ましい。
【0019】
なお、上記懸濁重合法及びシード重合法において用いられる重合開始剤としては、特に限定されず、例えば、ベンゾイルパーオキサイド、ラウリルパーオキサイド、t−ブチルパーオキシベンゾエート、t−ブチルパーオキサイド、t−ブチルパーオキシピバレート、t−ブチルパーオキシイソプロピルカーボネート、t−ブチルパーオキシ−2−エチルヘキシルモノカーボネート、イソプロピルカーボネート、t−ブチルパーオキシアセテート、2,2−ビス(t−ブチルパーオキシ)ブタン、t−ブチルパーオキシ−3、3、5トリメチルヘキサノエート、ジ−t−ブチルパーオキシヘキサハイドロテレフタレートなどの有機過酸化物やアゾビスイソブチロニトリル、アゾビスジメチルバレロニトリルなどのアゾ化合物などが挙げられ、これらは単独で用いられても二種以上が併用されてもよい。
【0020】
そして、水性媒体中にポリスチレン系樹脂粒子を分散させてなる水性懸濁液は、上記懸濁重合法又はシード重合法による重合後の反応液を水性懸濁液として用いても、或いは、上記懸濁重合法又はシード重合法によって得られたポリスチレン系樹脂粒子を反応液から分離し、このポリスチレン系樹脂粒子を別途用意した水性媒体に懸濁させて水性懸濁液を形成してもよい。なお、水性媒体としては、特に限定されず、例えば、水、アルコールなどが挙げられ、水が好ましい。
【0021】
又、上記懸濁重合法又はシード重合法において、スチレン系単量体を重合させる際に、スチレン系単量体の液滴又はポリスチレン系樹脂種粒子の分散性を安定させるために懸濁安定剤を用いてもよく、このような懸濁安定剤としては、例えば、ポリビニルアルコール、メチルセルロース、ポリアクリルアミド、ポリビニルピロリドンなどの水溶性高分子や、第三リン酸カルシウム、ピロリン酸マグネシウムなどの難水溶性無機塩などが挙げられ、難水溶性無機塩を用いる場合には、アニオン界面活性剤が通常、併用される。
【0022】
上記アニオン界面活性剤としては、例えば、ラウリル硫酸ナトリウムなどのアルキル硫酸塩、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウムなどのアルキルベンゼンスルホン酸塩、オレイン酸ナトリウムなどの高級脂肪酸塩、β−テトラヒドロキシナフタレンスルホン酸塩などが挙げられ、アルキルベンゼンスルホン酸塩が好ましい。
【0023】
そして、本発明の難燃性発泡性ポリスチレン系樹脂粒子の製造方法では、上記水性懸濁液中に分散させたポリスチレン系樹脂粒子中に発泡剤を公知の要領で含浸させる。このような発泡剤としては、沸点がポリスチレン系樹脂の軟化点以下であって、常圧でガス状もしくは液状の有機化合物が適しており、例えば、プロパン、n−ブタン、イソブタン、n−ペンタン、イソペンタン、ネオペンタン、シクロペンタン、シクロペンタジエン、n−ヘキサン、石油エーテルなどの炭化水素、アセトン、メチルエチルケトンなどのケトン類、メタノール、エタノール、イソプロピルアルコールなどのアルコール類、ジメチルエーテル、ジエチルエーテル、ジプロピルエーテル、メチルエチルエーテルなどの低沸点のエーテル化合物、炭酸ガス、窒素、アンモニアなどの無機ガスなどが挙げられ、沸点が−45〜40℃の炭化水素が好ましく、プロパン、n−ブタン、イソブタン、n−ペンタン、イソペンタンがより好ましい。なお、発泡剤は、単独で用いられても二種以上が併用されてもよい。
【0024】
更に、本発明の難燃性発泡性ポリスチレン系樹脂粒子の製造方法では、水性懸濁液中に分散させたポリスチレン系樹脂粒子に発泡剤を含浸させる前に或いは含浸中に、粉末難燃剤テトラブロモシクロオクタンを上記水性懸濁液中に供給して、ポリスチレン系樹脂粒子に粉末状難燃剤を加圧下にて含浸させる。なお、水性媒体は、ポリスチレン系樹脂粒子を分散させている水性懸濁液と相溶性を有するものであれば、特に限定されず、例えば、水、アルコールなどが挙げられ、水が好ましい。
【0025】
上記粉末状難燃剤テトラブロモシクロオクタンは、分散性を向上するためにシリカ微粉末を添加している。テトラブロモシクロオクタンへのシリカ微粉末の添加方法としては、ヘンシェルミキサーなどの混合機内で一定時間混合させることが好ましい。
【0026】
また、上記粉末難燃剤テトラブロモシクロオクタンに添加されるシリカ微粉末としては、比表面積が170〜330m2/gであれば親水性・疎水性どちらでもよく、比表面積は200m2/gが最も好ましい。なお、比表面積が170m2/g未満であると、テトラブロモシクロオクタンの分散性の向上をすることができず、結果としてテトラブロモシクロオクタンが二次凝集した。また、比表面積が330m2/gより大きいと、シリカ微粉末の飛散量が多くなり、製造上のハンドリング性が悪化する問題があった。
【0027】
また、テトラブロモシクロオクタンへのシリカ微粉末の添加量は、テトラブロモシクロオクタン98.5〜99.7重量部に対して、シリカ微粉末を0.3〜1.5重量部が好ましく、更には下限値として0.5重量部が最も好ましい。0.3重量部未満であると、テトラブロモシクロオクタンの分散性を向上することができず、結果としてテトラブロモシクロオクタンが二次凝集した。また、1.5重量部より多いと、シリカ微粉末の飛散量が多くなり、製造上のハンドリング性が悪化する問題があった。
【0028】
そして、ポリスチレン系樹脂粒子に対するテトラブロモシクロオクタンの含有量はポリスチレン系樹脂粒子100重量部に対して、好ましくは0.45〜2.0重量部となるように、より好ましくは0.6〜1.5重量部となるように、特に好ましくは0.7〜1.0重量部となるように調整することが好ましい。0.45重量部未満であると得られる難燃性発泡性ポリスチレン系樹脂成形体の難燃性が低下することがある。また、2.00重量部より多いと、製造コストが高くなる一方、予備発泡時のブロッキングの量が多く発生し予備発泡粒子の成形機金型内への充填性が悪化する。
【0029】
水性懸濁液中に分散させたポリスチレン系樹脂粒子中に発泡剤及び粉末状難燃剤を含浸させて難燃性発泡性ポリスチレン系樹脂粒子を製造した後、この難燃性発泡性ポリスチレン系樹脂粒子を水性懸濁液中から取り出して、必要に応じて、難燃性発泡性ポリスチレン系樹脂粒子に洗浄処理、乾燥処理を施せばよい。
【0030】
又、難燃性発泡性ポリスチレン系樹脂粒子の平均粒子径は、型内発泡成形を行う場合に、難燃性発泡性ポリスチレン系樹脂粒子を予備発泡させて得られる予備発泡粒子のキャビティ内への充填性の観点から、0.3〜2.0mmが好ましく、0.6〜1.4mmがより好ましい。
【0031】
なお、難燃性発泡性ポリスチレン系樹脂粒子には、粉末状難燃剤以外に、物性を損なわない範囲内において、気泡調整剤、充填剤、難燃助剤、滑剤、着色剤、溶剤などの添加剤を必要に応じて添加することができ、これら添加剤を難燃性発泡性ポリスチレン系樹脂粒子に添加する場合には、ポリスチレン系樹脂粒子を分散させた水性懸濁液中に添加剤を添加すればよい。
【0032】
次に、上記難燃性発泡性ポリスチレン系樹脂粒子を用いて難燃性ポリスチレン系樹脂発泡成形体の製造要領について説明する。難燃性発泡性ポリスチレン系樹脂粒子を用いて難燃性ポリスチレン系樹脂発泡成形体を製造する要領としては、公知の方法を採用することができ、具体的には、難燃性発泡性ポリスチレン系樹脂粒子を加熱して予備発泡させて、嵩密度0.01〜0.05g/cm3程度のポリスチレン系樹脂予備発泡粒子とし、このポリスチレン系樹脂予備発泡粒子を金型のキャビティ内に充填して加熱、発泡させることによって難燃性ポリスチレン系樹脂発泡成形体を得ることができる。
【0033】
上記難燃性ポリスチレン系樹脂発泡成形体の密度は、低いと、難燃性ポリスチレン系樹脂発泡成形体の独立気泡率が低下して、難燃性ポリスチレン系樹脂発泡成形体の断熱性や機械的強度が低下することがある一方、高いと、型内発泡成形における一サイクルに要する時間が長くなり、難燃性ポリスチレン系樹脂発泡成形体の生産効率が低下することがあるので、0.01〜0.05g/cm3が好ましい。
【実施例】
【0034】
以下、実施例及び比較例により本発明を説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0035】
(実施例1)
(製造例)内容積100リットルの攪拌機付オートクレーブに、第三リン酸カルシウム(大平化学社製)120g、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム2.4g、ベンゾイルパーオキサイド(純度75重量%)140g、t−ブチルパーオキシ−2−エチルヘキシルモノカーボネート30g、イオン交換水40kg及びスチレン単量体40kgを供給して攪拌羽を100rpmの回転速度にて回転させて撹拌して水性懸濁液を形成した。
【0036】
次に、攪拌羽を100rpmの回転速度で回転させて水性懸濁液を攪拌しながら、オートクレーブ内の温度を90℃まで昇温して90℃にて6時間に亘って保持し、更に、オートクレーブ内の温度を120℃まで昇温し、120℃で2時間に亘って保持することによって、スチレン単量体を懸濁重合した。
【0037】
しかる後、オートクレーブ内の温度を25℃まで冷却してオートクレーブ内からポリスチレン粒子を取り出して、洗浄、脱水を複数回に亘って繰り返し行い、乾燥工程を経た後、ポリスチレン粒子を分級して、粒子径が0.6〜0.85mmで且つ重量平均分子量が30万のポリスチレン粒子を得た。
【0038】
次に、別の100リットルの攪拌機付オートクレーブにイオン交換水30kg、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム4g、ピロリン酸マグネシウム100gを供給した後、オートクレーブ内に上記ポリスチレン粒子11kgを種粒子として供給して攪拌して水中に均一に分散させた。
【0039】
又、イオン交換水6kgにドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム2g及びピロリン酸マグネシウム20gを分散させてなる分散液を作製する一方、スチレン単量体5kgに重合開始剤のベンゾイルパーオキサイド(純度75%)88g及びt−ブチルパーオキシ−2−エチルヘキシルモノカーボネート50gを溶解させてなるスチレン単量体溶液を作製し、このスチレン単量体溶液を上記分散液に添加してホモミキサーを用いて攪拌して乳濁化させて乳濁液を得た。
【0040】
そして、オートクレーブ内を75℃に加熱、保持した上でオートクレーブ内に上記乳濁液を添加し、ポリスチレン種粒子中にスチレン単量体及びベンゾイルパーオキサイドが円滑に吸収されるように30分間に亘って保持し、しかる後、オートクレーブ内を75℃から108℃まで0.2℃/分の昇温速度で昇温しながら、オートクレーブ内にスチレン単量体28kgを160分かけて連続的に滴下し、次に、スチレン単量体の滴下が終了してから20分後に、1℃/分の昇温速度で120℃まで昇温して90分間に亘って保持してシード重合によりポリスチレン粒子を得た。又、スチレン単量体は全て重合に用いられていた。
【0041】
(実施例1)
難燃剤テトラブロモシクロオクタン(第一工業製薬社製 商品名「ピロガードFR−200」)440gに流動化剤としてシリカ(日本アエロジル社製 商品名「AEROSIL200」)を2.24g加えて乾式混合し(例えばヘンシェルミキサー)、難燃剤Aを作成した。
【0042】
次に、オートクレーブ内を1℃/分の降温速度にて90℃まで冷却した上で、オートクレーブ内に難燃助剤としてジクミルパーオキサイド132gを供給した後、上記難燃剤Aをオートクレーブ内に供給した。
【0043】
そして、オートクレーブ内に難燃剤Aを供給してから30分経過後にオートクレーブを密閉し、しかる後、発泡剤としてブタン(イソブタン/ノルマルブタン(重量比)=30/70)2640gと、ペンタン(イソペンタン/ノルマルペンタン(重量比)=20/80) 1100gとを窒素加圧によってオートクレーブ内に30分間で圧入し、その状態で3時間保持した。
【0044】
しかる後、オートクレーブ内を25℃まで冷却し、オートクレーブ内から難燃性発泡性ポリスチレン粒子を取り出して洗浄、脱水を複数回に亘って繰り返し行い、乾燥工程を経た後、難燃性発泡性ポリスチレン粒子を分級して粒子径が0.85〜1.2mm、平均粒子径が1.1mmで且つ重量平均分子量が30万の難燃性発泡性ポリスチレン粒子を得た。
なお、難燃剤Aの粉末状難燃剤は全てポリスチレン粒子に含浸されていた。
【0045】
(実施例2)
難燃剤Aの作製において、テトラブロモシクロオクタンの量を220gとした以外は実施例1と同様にして難燃性発泡性ポリスチレン粒子を得た。
【0046】
(実施例3)
難燃剤Aの作製において、テトラブロモシクロオクタンの量を660gとした以外は実施例1と同様にして難燃性発泡性ポリスチレン粒子を得た。
【0047】
(実施例4)
難燃剤Aの作製において、テトラブロモシクロオクタンの量を880gとした以外は実施例1と同様にして難燃性発泡性ポリスチレン粒子を得た。
【0048】
(実施例5)
難燃剤Aの作製において、親水性シリカを2.24gの代わりに4.48gとした以外は実施例1と同様にして難燃性発泡性ポリスチレン粒子を得た。
【0049】
(実施例6)
難燃剤Aの作製において、親水性シリカを2.24gの代わりに6.72gとした以外は実施例1と同様にして難燃性発泡性ポリスチレン粒子を得た。
【0050】
(実施例7)
難燃剤Aの作製において、流動化剤として親水性シリカ(日本アエロジル社製 商品名「AEROSIL300」)を使用以外は実施例1と同様にして難燃性発泡性ポリスチレン粒子を得た。
【0051】
(実施例8)
難燃剤Aの作製において、流動化剤として疎水性シリカ(日本アエロジル社製 商品名「AEROSILR974」)を使用以外は実施例1と同様にして難燃性発泡性ポリスチレン粒子を得た。
【0052】
(比較例1)
難燃剤Aの作製において、テトラブロモシクロオクタンの量を88gとした以外は実施例1と同様にして難燃性発泡性ポリスチレン粒子を得た。
【0053】
(比較例2)
難燃剤Aの作製において、テトラブロモシクロオクタンの量を1320gとした以外は実施例1と同様にして難燃性発泡性ポリスチレン粒子を得た。
【0054】
(比較例3)
難燃剤Aの作製において、親水性シリカを使用しなかったこと以外は実施例1と同様にして難燃性発泡性ポリスチレン粒子を得た。
【0055】
(比較例4)
難燃剤Aの作製において、親水性シリカを2.24gの代わりに0.22gとした以外は実施例1と同様にして難燃性発泡性ポリスチレン粒子を得た。
【0056】
(比較例5)
難燃剤Aの作製において、親水性シリカを2.24gの代わりに8.96gとした以外は実施例1と同様にして難燃性発泡性ポリスチレン粒子を得た。
【0057】
(比較例6)
難燃剤Aの作製において、流動化剤として親水性シリカ(日本アエロジル社製 商品名「AEROSIL130」)を使用以外は実施例1と同様にして難燃性発泡性ポリスチレン粒子を得た。
【0058】
(比較例7)
難燃剤Aの作製において、流動化剤として親水性シリカ(日本アエロジル社製 商品名「AEROSIL380」)を使用以外は実施例1と同様にして難燃性発泡性ポリスチレン粒子を得た。
【0059】
(比較例8)
難燃剤Aの作製において、親水性シリカを2.24gの代わりにテトラブロモビスフェノールA-ビス(2,3ジブロモプロピルエーテル)88.0gとした以外は実施例1と同様にして難燃性発泡性ポリスチレン粒子を得た。
【0060】
上記の各実施例及び各比較例について、表1及び表2に示す様に、以下の通りの評価をした。
【表1】

【0061】
【表2】

【0062】
[シリカ比表面積の測定方法]
本発明に使用されるシリカ微粉末の比表面積の測定方法は全てBET法に基づく。
【0063】
[難燃剤Aのブロッキング評価]
難燃剤100gをポリエチレン袋に入れて50mm直径筒に詰め、1.1kgの錘を乗せ40℃オーブンに1ヶ月保管した後、取り出して状態を観察し評価した。
×・・・非常に硬い状態で難燃剤が固まっており、握っても崩れきらない。
△・・・硬い状態では難燃剤が固まってはいるが、手で握ると崩れる。
○・・・締まり感はあるが固まりはなく、さらさらの状態である。
【0064】
[ポリスチレン発泡成形体の成形]
得られた難燃性発泡性ポリスチレン粒子40kg、並びに、表面処理剤としてポリエチレングリコール20g、ステアリン酸亜鉛60g、脂肪酸トリグリセライド(理研ビタミン社製 商品名「リケマールVT−50」)40g及び脂肪酸モノグリセライド(理研ビタミン社製 商品名「リケマールS−100P」)20gをタンブラーミキサーに供給し、30分間に亘って撹拌して難燃性発泡性ポリスチレン粒子の表面に表面処理剤を被覆した。
次に、難燃性発泡性ポリスチレン粒子を15℃の保冷庫にて48時間に亘って保管した後、特許庁公報 57(1982)−133〔3347〕周知・慣用技術集(発泡成形)第39頁に記載の発泡層上面検出器までの容積量が350リットルである円筒型パッチ式加圧予備発泡機に1ショット当たり難燃性発泡性ポリスチレン粒子5.8kgを供給して水蒸気により2分間加熱しポリスチレン予備発泡粒子を得た。
しかる後、上記ポリスチレン予備発泡粒子を室温雰囲気下で24時間に亘って放置する一方、縦 840×横930mm×高さ530mmの直方体形状のキャビティを有する金型を備えたブロック成形機(笹原工業株式会社製 商品名「PEONY・205DS」)を用意し、この金型のキャビティ内にポリスチレン予備発泡粒子を充填して0.07MPa(ゲージ圧)の水蒸気を金型のキャビティ内に20秒間に亘って圧入することによってポリスチレン予備発泡粒子を二次発泡させ、次に、金型内圧力が−0.01MPaとなるまで金型を冷却して直方体形状の難燃性ポリスチレン発泡成形体を得た。その後、難燃性ポリスチレン発泡成形体を70℃の乾燥室にて3日間に亘って保管した。
【0065】
[予備発泡粒子の結合]
上記の要領で得られたポリスチレン予備発泡粒子をW(g)用意し、このポリスチレン予備発泡粒子を目開きが1cmの篩でふるい、篩上に残ったポリスチレン予備発泡粒子の重量W(g)を測定して、下記式に基づいて予備発泡粒子結合度を算出し、その結果を表1、2に示した。なお、1重量%以下を「○」、1重量%を超えるものを「×」と評価した。
予備発泡粒子の結合度(重量%)=100×W/W
【0066】
[燃焼性試験]
得られた難燃性ポリスチレン発泡成形体から縦200mm×横25mm×高さ10mmの直方体形状の試験片5個をバーチカルカッターにて切り出し、60℃オーブンで1日間養生後、JIS A9511−2006の測定方法Aに準じて測定を行い、5個の試験片の平均値を求め、消炎時間とし、下記基準に基づいて総合的に評価し、その結果を自消性として表1、2に示した。なお、上記JIS規格では消炎時間が3秒以内である必要があり、2秒以内であれば好ましく、1秒以内であればより好ましい。
×・・・消炎時間が3秒を超えているか、又は、試験片の1個でも残じんがあるか若しくは燃焼限界指示線を越えて燃焼する。
○・・・消炎時間が1秒を超え3秒以内であり、5個のサンプル全てにおいて、残じんがなく燃焼限界指示線を越えて燃焼しない。
◎・・・消炎時間が1秒以内であり、5個のサンプル全てにおいて、残じんがなく燃焼限界指示線を越えて燃焼しない。
【0067】
[発泡成形体の外観評価]
発泡成形体の外観を目視観察し下記の基準に基づいて評価をした。
○・・・発泡粒子同士の融着部分が平滑であった。
×・・・発泡粒子同士の融着部分に凹凸が発生していた。
【0068】
[熱融着性]
ニクロムカットにより得られた下から6枚目のスライス品(縦1840mm×横980mm×厚み50mm)の上面における長辺方向の中央部分に、短辺方向に沿ってカッターナイフで深さ5mmの切り込み線を入れた後、この切れ込み線に沿ってスライス品を手で二分割して縦920mm×横930mm×厚み50mmの分割片を得た。
得られた分割片の破断面において、発泡粒子内で破断している粒子(a)と、発泡粒子同士の界面で破断している粒子数(b)とを数え、下記式に基づいて融着率を算出し、その結果を表1、2に示した。なお、70%以上の融着割合は◎、50%〜70%未満の融着割合は○、50%未満の融着割合は×とする。
融着率(%)=100×粒子数(a)/(粒子数(a)+粒子径(b)
【0069】
表1より、前記ポリスチレン系樹脂100重量部に対して前記テトラブロモシクロオクタンを0.45〜2.0重量部添加しており、前記粉末状難燃剤であるテトラブロモシクロオクタン98.5〜99.7重量部に対して、前記シリカ微粉末が0.3〜1.5重量部を含有している実施例は、ブロッキング評価、予備発泡粒子の結合、燃焼性試験(自消性)、燃焼試験評価、発泡成形品の外観評価、熱融着性のいずれについても、良好であることが認められる。
これに対して、表2より、前記ポリスチレン系樹脂100重量部に対して前記テトラブロモシクロオクタンを0.2重量部含んでいる比較例1は燃焼性試験(自消性)が悪化し、燃焼試験評価が×となっている。また前記ポリスチレン系樹脂100重量部に対して前記テトラブロモシクロオクタンを3.0重量部含んでいる比較例2はブロッキング評価が×及び熱融着性が×となっている。また親水性シリカが含まれていない比較例3はブロッキング評価が×、予備発泡粒子の結合も×である。前記シリカ微粉末が0.05重量部である比較例4ではブロッキング評価が×、予備発泡粒子の結合も×である。また前記シリカ微粉末が2重量部である比較例5は発泡成形品の外観評価の点で問題がある。またシリカ粉末飛散が大きい。また流動化剤をテトラブロモビスフェノールA-ビス(2,3ジブロモプロピルエーテル)に変えた比較例6は、予備発泡粒子の結合が×で、また燃焼性試験(自消性)も悪化し、また燃焼試験評価も×である。
【産業上の利用可能性】
【0070】
本発明の難燃性発泡性ポリスチレン粒子は、広い範囲の用途に使用されており、農水産分野、家電分野、建材土木分野等に使用されている。特に建材分野で壁や床の断熱材に使用される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
水性懸濁液中に分散させたポリスチレン系樹脂粒子に発泡剤を含浸させる前又は含浸中に、シリカ微粉末によって分散された粉末状難燃剤であるテトラブロモシクロオクタンを含浸させて、上記水性懸濁液中から取り出した難燃性発泡性ポリスチレン系樹脂粒子であって、
前記ポリスチレン系樹脂100重量部に対して前記テトラブロモシクロオクタンを0.45〜2.0重量部添加しており、
前記粉末状難燃剤であるテトラブロモシクロオクタン98.5〜99.7重量部に対して、前記シリカ微粉末が0.3〜1.5重量部を含有していることを特徴とする難燃性発泡性ポリスチレン系樹脂粒子。
【請求項2】
シリカ微粉末の比表面積が170〜330m2/gである請求項1記載の難燃性発泡性ポリスチレン樹脂粒子。
【請求項3】
水性懸濁液中に分散させたポリスチレン系樹脂粒子に発泡剤を含浸させる前又は含浸中に、シリカ微粉末によって分散された粉末状難燃剤であるテトラブロモシクロオクタン0.45〜2.0重量部を上記ポリスチレン系樹脂粒子に含浸させて、上記水性懸濁液中から取り出した難燃性発泡性ポリスチレン系樹脂粒子を製造する方法であって、上記粉末状難燃剤はテトラブロモシクロオクタン98.5〜99.7重量部に対して、上記シリカ微粉末を0.3〜1.5重量部含有していることを特徴とする難燃性発泡性ポリスチレン系樹脂粒子を製造する方法。
【請求項4】
請求項1又は2のいずれかに記載の難燃性発泡性ポリスチレン系樹脂粒子を予備発泡させてなることを特徴とする予備発泡粒子。
【請求項5】
請求項4に記載の予備発泡粒子を型内に充填して発泡させて得られたことを特徴とする発泡成形体。



【公開番号】特開2010−84011(P2010−84011A)
【公開日】平成22年4月15日(2010.4.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−254568(P2008−254568)
【出願日】平成20年9月30日(2008.9.30)
【出願人】(000002440)積水化成品工業株式会社 (1,335)
【Fターム(参考)】