説明

難燃性粉体組成物、難燃性樹脂組成物、難燃性樹脂成形体及び難燃性樹脂発泡成形体

【課題】 本発明は、可燃性の樹脂成形体や樹脂発泡体に対してJIS Z2150の防炎1級及び/又はUL94のV0に合格可能な難燃性を付与できると共に、加熱されてもハロゲン系等の毒ガスを発生することがなく、人体に対する安全性が確保され、しかも取扱いが簡便な難燃性粉体組成物を提供することを、その課題とする。

【解決手段】 本発明の難燃性粉体組成物は、スルファミン酸グアニジンと、カルボキシ化合物とからなる難燃性組成物が水に溶解してなる難燃性水性組成物中の水分を除去することにより得られた粉体の難燃性組成物であって、
該カルボキシ化合物が、クエン酸の金属塩と、必要に応じて添加されるクエン酸とからなり、該カルボキシ化合物の含有量が、スルファミン酸グアニジンとカルボキシ化合物の合計含有量に対して5〜50重量%である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、難燃性粉体組成物、難燃性樹脂組成物、難燃性樹脂成形体、難燃性樹脂発泡成形体に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、天然の織物、合成樹脂製の織物、不織布、シート、合成樹脂成形体等の基材の難燃化は、塩素系や臭素系等のハロゲン系の難燃剤を用いて行われてきた。しかし、ハロゲン系の難燃剤は、加工時や燃焼時に毒性ガスを発生するという欠点を有し、それを吸い込むと死に至る場合さえあるものである。また、人体に対する蓄積性があるという問題もある。従って、これからの難燃剤としては優れた難燃性を有すると同時に、燃焼時に毒ガスを発生したり、人体に対する毒性のないものであることが要求されている。
【0003】
繊維製品や樹脂発泡体は、建材や自動車や航空機などに広く用いられている。特に、ポリウレタン発泡体は、家具や自動車座席用等のクッション材、寝具用マットレス、枕、工業用シール材、防音材、電気製品の部品等の幅広い用途に用いられている。しかし、繊維製品やポリウレタン発泡体は炎に晒されると直ちに燃え始めるという問題を有しているので、前記用途において難燃化することが要求されている。
【0004】
建材や自動車や航空機などに用いられる繊維製品や樹脂発泡体は、規格UL94の防炎試験の「V0」に合格することが望ましい。しかし、従来においては、加工時や燃焼時に毒性ガスを発生することがない難燃剤であって、且つ、それが用いられたポリエステル等の繊維製品やポリウレタンなどの樹脂発泡体を規格UL94の防炎試験の「V0」に合格可能にする難燃剤は存在しなかった。
【0005】
なお、従来の塩素系や臭素系等のハロゲン系難燃剤は、難燃性を有するとはいっても、其れが塗布乾燥された繊維製品が炎に晒された際の滴下物着火を防止することはできないことから、該繊維製品は前記「V0」には合格できないものであった。
【0006】
そこで、塩素系や臭素系等のハロゲン系難燃剤には、前記のように毒性ガス発生の問題、人体に対する蓄積性等の安全性の問題があることから、ハロゲン系難燃剤の代わりに、メラミン粉末やリン酸エステル系の難燃剤を用いることが提案されている(特開2001−2749)。しかし、メラミン粉末で難燃性を付与するには、メラミン粉末を多量に添加しなければならないことから、それを含有する樹脂製品や樹脂発泡体の物性が低下し、例えば硬くなってしまうという問題が新たに発生してしまう。また、リン酸エステル系の難燃剤を添加すると、べたついたり変色したりする製品になってしまうという問題が新たに発生してしまう。
【0007】
一方、自動車の窓ガラスや鏡、道路の反射ミラーは雨が降ると曇ってその役目を果たさなくなってしまうという問題がある。これを防ぐために、界面活性剤を塗布することが行われているが、界面活性剤は其の効果に持続性がないので、雨が降る度に塗りなおさなければならない。また、自動車の車体は、撥水加工が施されているため、静電気が発生しやすく汚れやすいという欠点がある。従って、帯電防止性、防曇性、防汚性を有する薬剤であって、それを含有するもの、例えばウレタン発泡体を用いて自動車のガラスや鏡、道路の反射ミラーを拭いて洗浄することにより防曇化することができ、それを用いて自動車の車体を拭いて洗浄すれば防汚化できるシートやウレタン発泡体の開発が期待されている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、可燃性の樹脂成形体や樹脂発泡体に対してJIS Z2150の防炎1級及び/又はUL94のV0に合格可能な難燃性を付与できると共に、加熱されてもハロゲン系等の毒ガスを発生することがなく、人体に対する安全性が確保され、しかも取扱いが簡便な難燃性粉体組成物、難燃性樹脂組成物、難燃性樹脂成形体、難燃性樹脂発泡体を提供することを、その課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者は、従来においては、難燃助剤として用いられていたにすぎないグアニジン化合物が燃焼時に毒性ガスを発生することがなく、人体に対する危険性も小さいことに着目し、グアニジン化合物を用いてシートや成形体等を難燃化することを試みた。その方法として、グアニジン化合物を主成分とする水性液体を作製し、この水性液体をシートや成形体等に塗布し乾燥させることによりグアニジン化合物でコーティングして、炎に晒された対象物の表面を窒素で覆うことにより難燃化することを試みた。具体的には、リン酸グアニジンやスルファミン酸グアニジンを用いて繊維製品などを難燃化することを試みた。しかし、この方法ではJIS Z2150の防炎2級に合格する程度の難燃効果を得ることも容易ではなかった。難燃性を向上させることができない原因の一つとしてグアニジン化合物を高濃度にすることができないことが考えられた。例えば、リン酸グアニジンは酸性が強い条件下では、水に多量に溶解するが、pHを4〜9、特に6〜8の中性にすると、溶解度が低下し、水100重量部に15重量部溶解させることも容易ではなかった。
【0010】
そこで、本発明者は鋭意研究した結果、有機カルボン酸等のカルボキシル基を有するカルボキシ化合物の金属塩を用いると多量のグアニジン化合物を溶解させることができることを発見し、しかもグアニジン化合物と組合わせると、該有機化合物は激しい炎を発することなく直ちに炭化することを発見し、?難燃化用水性組成物を得ることができた。この難燃化用水性組成物を塗布乾燥した繊維製品等に炎を当てると、グアニジン化合物に起因する窒素リッチな雰囲気下で有機化合物が早期に熱分解、炭化して炭化被膜を形成し、同時に繊維が収縮するので(炭化収縮)、溶融物が燃えながら滴下することによる滴下物着火が起きないことを発見した。これによりJIS Z2150の防炎1級、更にはUL規格のV0に合格することに成功した。
【0011】
本発明者は更に研究を進めることにより、グアニジン化合物とカルボキシ化合物と水溶性有機高分子と親水性多孔質無機微粒子(以下、親水性無機微粒子ともいう。)とを添加した高粘度水性液は、持続性のある親水性塗膜を形成できることを発見し、この塗膜が帯電防止性、防曇性、防汚性が発現することを発見し、更に有機カルボン酸の金属塩が添加されている場合には、洗浄剤としても使用できることを発見し、帯電防止性、防曇性、防汚性及び洗浄性を併せもつ高粘度の多機能性水性組成物に到達した。
【0012】
本発明者は更に研究を進めることにより、ポリオールと、イソシアネートと、高粘度の多機能性水性組成物とを添加する順番を工夫すれば、驚くべきことに難燃性ポリウレタン発泡体を得ることができることを見出した。これは、多量の水分が存在すると、ポリウレタンの発泡性が阻害されるという、強い技術常識を覆す発見である。ポリウレタン発泡の製造を可能にした原因としては、水溶性有機高分子(有機系増粘剤)や親水性無機微粒子(無機系増粘剤)により、粘度が高められていることにあると考えられる。
【0013】
本発明によれば以下に示す、難燃性水性組成物、難燃性粉体組成物、難燃性樹脂組成物、難燃性樹脂成形体、難燃性樹脂発泡成形体が提供される。
[1] スルファミン酸グアニジンと、カルボキシ化合物とからなる難燃性組成物が水に溶解してなる難燃性水性組成物中の水分を除去することにより得られた粉体の難燃性組成物であって、
該カルボキシ化合物が、クエン酸の金属塩と、必要に応じて添加されるクエン酸とからなり、
該カルボキシ化合物の含有量が、スルファミン酸グアニジンとカルボキシ化合物の合計含有量に対して5〜50重量%であることを特徴とする難燃性粉体組成物。
[2] 前記難燃性水性組成物が、更にメラミンシアヌレートを含有する、前記1に記載の難燃性粉体組成物。
[3] 前記難燃性水性組成物のpHが6〜8である、前記1に記載の難燃性粉体組成物。
[4] 請求項1に記載の難燃性粉体組成物を含有することを特徴とする難燃性樹脂組成物。
[5] 難燃性粉体組成物の含有量が1〜60重量%であることを特徴とする前記4に記載の難燃性樹脂組成物。
[6] 前記難燃性樹脂組成物を構成する樹脂が、ポリエチレン系樹脂、ポリプロピレン系樹脂、ポリスチレン系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリ塩化ビニル系樹脂のいずれかであることを特徴とする前記4に記載の難燃性樹脂組成物。
[7] 前記1に記載の難燃性粉体組成物を含有することを特徴とする難燃性樹脂成形体。
[8] 前記難燃性樹脂成形体を構成する樹脂が、ポリエチレン系樹脂、ポリプロピレン系樹脂、ポリスチレン系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリ塩化ビニル系樹脂のいずれかであることを特徴とする前記7に記載の難燃性樹脂成形体。
[9] JIS Z2150の防炎1級及び/又は規格UL94のV0に合格することを特徴とする前記7に記載の難燃性樹脂組成物。
[10] 前記1〜3のいずれかに記載の難燃性粉体組成物を含有することを特徴とする難燃性樹脂発泡成形体
[11] 前記難燃性樹脂発泡成形体を構成する樹脂が、ポリエチレン系樹脂、ポリプロピレン系樹脂、ポリスチレン系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリ塩化ビニル系樹脂のいずれかであることを特徴とする前記10に記載の難燃性樹脂発泡成形体。
[12] JIS Z2150の防炎1級及び/又は規格UL94のV0に合格することを特徴とする前記11に記載の難燃性樹脂発泡成形体。

【発明の効果】
【0014】
本発明の難燃性組成物(以下、多機能性組成物ともいう。)と水からなる難燃性水性組成物(以下、多機能性水性組成物ともいう。)は、特定且つ特定量のカルボキシ化合物が添加されていることにより特定のグアニジン骨格を含むグアニジン化合物を多量に、且つ均一に分散した状態で含有するものである。更に該カルボキシ化合物は窒素リッチの雰囲気下で炎に晒されると即座に分解炭化する性質を有することから、本発明の水性組成物が塗布乾燥された繊維製品やシート等は、炎に晒されると、該グアニジン化合物に起因する窒素リッチな雰囲気下、カルボキシ化合物が直ちに炭化し、更に炭化被膜を形成するので、繊維製品等が炎を発することなく収縮するようになる(炭化収縮)。この炭化収縮により、溶融物が燃えながら滴下することがないので(滴下物着火が起きない)、本発明の水性組成物を用いることにより、規格UL94の「V0」に合格可能な難燃性繊維製品やシートを得ることができる。なお、本発明の多機能性水性組成物は、燃焼時に毒性ガスを発生することがなく、人体に対しても安全なものである。従って、本発明の繊維製品等は、航空機や列車等の乗物に安全に使用することができる。更に、本発明の多機能性水性組成物の水性液に繊維やシートなどを浸漬し、塗布乾燥することにより、難燃性などの多機能性を付与することができる。
【0015】
本発明の多機能性組成物においては、リン原子を骨格原子として有しないグアニジン化合物を用い、これに添加する化合物もノンリン系のものを選択することにより、ノンリン系の難燃化用組成物として構成することができる。該ノンリン系の難燃化用組成物は、リン元素に起因するべとつきや変色が起きないものである。また、本発明の多機能性組成物においては、塩素系や臭素系等のハロゲン系難燃剤を含有しないものであることから、加工時や燃焼時に塩素系や臭素系等の毒性ガスを発生することがない。また、グアニジン化合物は人体に対する蓄積性もない。
【0016】
本発明の多機能性組成物は、粉体組成物とすることができる。粉体組成物を樹脂に含有させることにより多機能性樹脂組成物が得られる。この樹脂組成物から多機能性樹脂成形品(シート、ボードなど)や多機能性樹脂発泡成形体を得ることができる。
【0017】
本発明の多機能性組成物は、水と乳化剤と樹脂微粒子を含むことにより、エマルジョンとすることができる。このエマルジョンから、難燃性などの多機能性を有する、接着剤、粘着剤、塗料、シーラント等を得ることができる。
【0018】
また、本発明の多機能性水性組成物は更に水溶性有機高分子と親水性多孔質無機微粒子を含有することができ、難燃性高粘度水性組成物(以下、難燃化処理用高粘度水性液又は多機能性高粘度水性組成物ともいう。)とすることができる。得られた高粘度水性組成物は、帯電防止効果、防曇効果、防汚効果、洗浄効果を発現することができ、更に水溶性有機高分子を含有することから、燃焼時の炭化が更に促進され、帯電防止効果、防曇効果、防汚効果を持続可能な、親水性塗膜を形成することができる。
【0019】
また、多機能性高粘度水性組成物は、水溶性有機高分子(有機系増粘剤)と親水性多孔質無機微粒子(無機系増粘剤)とを含有し粘度が高められていることから、多量の水分の存在下であっても、ポリウレタンの発泡を可能にできるものである。
なお、前記ノンハロゲン系多機能性水性組成物に水溶性有機高分子(有機系増粘剤)のみが加わったノンハロゲン系多機能性水性組成物も粘度が高められていることにより、ポリウレタンの発泡を可能にするものである。
【0020】
本発明の多機能性高粘度水性組成物から得られる固形分や粉末を含有する難燃性ポリウレタン発泡体(以下、多機能性ポリウレタン発泡体ともいう。)は、優れた難燃性を有し、しかも火炎に曝されても毒性ガスを発生することがなく、顕著な物性の変化がなく、更にノンリン系の組成物として構成されたものは、べとつくことがなく、変色しにくいものである。また、多機能性ポリウレタン発泡体は、有機カルボン酸の金属塩を含有する場合には、水を含浸させるだけで洗浄効果を発現するので、便利な洗浄用具として使用することができるものである。更に、多機能性ポリウレタン発泡体は、帯電防止性、防曇性、防汚性に優れ、更に水溶性有機高分子を含有することから製膜性も有するので、該ポリウレタン発泡体で拭いた自動車のガラスや鏡、道路の反射ミラーは、持続的な帯電防止効果、防曇効果、防汚効果を発現するようになる。
【0021】
本発明の多機能性ポリウレタン発泡体の製造方法によれば、ノンハロゲン系多機能性高粘度水性組成物が多量の水分を含有するにもかかわらず、優れた帯電防止性、防曇性、洗浄性を有する多機能性ポリウレタン発泡体を得ることができる。
【0022】
本発明の防曇性及び/又は防汚性の付与方法によれば、防曇性付与及び/又は防汚性付与部材を、自動車、列車、家屋等の窓ガラスや鏡を構成するガラス等の表面上の一部に貼設したり、窓枠やフレームの一部に部材を組み込んで周設することにより、窓ガラスや鏡等を長期にわたって防曇化及び/又は防汚化することができる。
【0023】
本発明の多機能性テープは、前記多機能性組成物が塗布乾燥された繊維製品やシート、前記粉体組成物や粉末状組成物を含有する繊維製品やシート、又は前記多機能性ポリウレタン発泡体からなるので、優れた難燃性を有し電線の被覆や、難燃性のコーキング用可撓性テープとして用いることができる。また、防汚性テープや特定の水溶性有機高分子及び親水性多孔質無機微粒子を用いたものは防曇性テープとして用いることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0024】
本発明の多機能性組成物は、意図する使用に応じて、水性組成物、粉体組成物、高粘度水性組成物、エマルジョンなどの様々な形態をとり得るが、その基本となる組成物は、必須成分として、下記式(1)
【化1】





で表されるグアニジン骨格を含む非環式グアニジン化合物と、有機カルボン酸、その酸無水物、金属塩及びエスエルの中から選ばれる少なくとも1種のカルボキシ化合物からなる。これらの成分の詳細を次に説明する。
【0025】
非環式グアニジン化合物としては、上記式(1)で示されるグアニジン骨格を有し、加熱されると窒素ガスやアンモニア等の不活性ガスを放出するものであればいかなるものでも用いることができるが、このようなものとしては、例えば、グアニジン、グアジニノ基を有する化合物、グアニル尿素、ジシアンジアミド、ピグアニド、グアナゾール、ジフェニルグアニジン、アルギニン等が挙げられる。これらの中では、入手しやすく、工業的に利用しやすいグアニジンが好ましい。該グアニジンとしては、グアニジンそのものを用いることもできるが、グアニジンが強アルカリ性であることから、取扱いやすく、水に良く解け、pH4〜9の水性組成物を得やすいことから、グアニジンと無機酸との化合物が好ましい。具体的には、下記(2)式で表される塩酸グアニジン、下記(3)式で表される硝酸グアニジン、下記(4)式で表される炭酸グアニジン、下記(5)式で表されるスルファミン酸グアニジン、下記(6)式で表される燐酸グアニジン等が挙げられ、其の外に、下記(7)式で表される重炭酸アミノ塩酸グアニジン、下記(8)式で表される塩酸アミノグアニジン、下記(9)式で表されるリン酸グアニル尿素等が挙げられる。
なお、本発明においては、前記の非環式グアニジン化合物の中から、(5)式で表されるスルファミン酸グアニジンが選択される。
【0026】
【化2】

【0027】
【化3】

【0028】
【化4】

【0029】
【化5】

【0030】
【化6】

【0031】
【化7】

【0032】
【化8】

【0033】
【化9】

【0034】
上式において、nは通常0.5〜3、好ましくは0.7〜2.5、より好ましくは1〜2の範囲で定められる。
【0035】
なお、得られる多機能性水性組成物のpHを4〜9に容易に調整できることから、前記リン酸グアニジンの場合、其の水溶液のpHは4〜11が好ましく、5〜10がより好ましく、6〜8が更に好ましく、6.5〜7.5が更に好ましい。また、前記スルファミン酸グアニジンの場合、其の水溶液のpHは4〜11が好ましく、6〜10がより好ましく、7〜9が更に好ましく、7.5〜8.5が更に好ましい。
【0036】
本発明で用いるカルボキシ化合物は、有機カルボン酸、その酸無水物、金属塩及びエスエルの中から選ばれる。カルボキシ化合物は、カルボキシル基(−COO−)を1分子中に少なくとも1個、好ましくは複数(1分子中に2〜10個、より好ましくは2〜6個、更に好ましくは2〜3個)含むものである。なお、本発明においては、カルボキシ化合物の中から、クエン酸の金属塩と、必要に応じて添加されるクエン酸が選択される。
有機カルボン酸とは、カルボン酸構造(R−COOH)を酸成分とする化合物をいい、脂肪酸(長鎖炭化水素の1価のカルボン酸)、脂肪族ジカルボン酸、脂肪族トリカルボン酸、芳香族モノカルボン酸、芳香族ジカルボン酸、芳香族トリカルボン酸、オキソカルボン酸を含み、更に不飽和脂肪酸やヒドロキシ基を併せ持つヒドロキシ酸(脂肪族オキシカルボン酸、脂肪族オキシジカルボン酸、脂肪族オキシトリカルボン酸、芳香族オキシモノカルボン酸、芳香族オキシジカルボン酸、芳香族オキシトリカルボン酸等)等が包含される。
【0037】
前記脂肪族カルボン酸の具体例として、ギ酸(メタン酸)、酢酸(エタン酸)、プロピオン酸(プロパン酸)、酪酸(ブタン酸)、吉草酸(ペンタン酸)、カプロン酸(ヘキサン酸)、エナント酸(ヘプタン酸)、カプリル酸(オクタン酸)、ペラルゴン酸(ノナン酸)、カプリン酸(デカン酸)、ラウリン酸(ドデカン酸)、ミリスチン酸(テトラデカン酸)、ペンタデカン酸、パルミチン酸(ヘキサデカン酸、セタン酸)、マルガリン酸(ヘプタデカン酸)、ステアリン酸(オクタデカン酸)、オレイン酸、リノール酸、リノレン酸、アラキドン酸、ドコサヘキサエン酸、エイコサペンタエン酸が挙げられる。
【0038】
前記脂肪族オキシカルボン酸の具体例として、乳酸(オキシプロピオン酸)が挙げられ、脂肪族ジカルボン酸の具体例として、シュウ酸、マロン酸、コハク酸、ピメリン酸等が挙げられ、トリカルボン酸の具体例として、トリメリト酸、トリカルバリリル酸等が挙げられ、芳香族カルボン酸の具体例として、安息香酸が挙げられ、芳香族ジカルボン酸の具体例として、フタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸、芳香族トリカルボン酸の具体例として、トリメシン酸(1,3,5−ベンゼントリカルボン酸)が挙げられ、芳香族ヘキサカルボン酸の具体例として、メリト酸が挙げられ、芳香族オキシカルボン酸の具体例として、サリチル酸、没食子酸が挙げられ、不飽和脂肪酸の具体例として、ケイ皮酸が挙げられ、脂肪族オキソカルボン酸の具体例として、ピルビン酸が挙げられ、脂肪族オキシジカルボン酸の具体例として、リンゴ酸、酒石酸等が挙げられ、脂肪族オキシトリカルボン酸の具体例として、クエン酸が挙げられ、その他の不飽和脂肪酸やヒドロキシ酸などの具体例としてフマル酸、マレイン酸、アコニット酸、グルタル酸、アジピン酸、アミノ酸、ニトロカルボン酸が挙げられる。本発明においては、これらの中から選択された二以上の有機酸を混合したものを用いることができる。
【0039】
本発明における有機カルボン酸としては、前記の有機カルボン酸の中でも、日常的に用いられる繊維や、合成樹脂製品の難燃化に用いられることから、刺激臭、不快臭のないことが好ましい。また、pH調整の観点から、前記の通り複数のカルボキシル基を有するものが好ましい。二個のカルボキシル基を有し、pHの緩衝性を有するものとしては、シュウ酸、マロン酸、コハク酸、リンゴ酸、酒石酸、フマル酸、マレイン酸、グルタル酸、アジピン酸、フタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸が挙げられる。三個のカルボキシル基を有するものとしては、クエン酸、アコニット酸、トリメリト酸、トリカリルバリ酸、トリメシン酸が挙げられる。六個のカルボキシル基を有するものとしては、メリト酸が挙げられる。
【0040】
更に、入手しやすさを考慮すると、クエン酸(3個のカルボキシル基を含み、COOの含有率が分子全体の69重量%)、りんご酸(2個のカルボキシル基を含み、該COOの含有率が分子全体の66重量%)、酒石酸(2個のカルボキシル基を含み、COOの含有率が分子全体の59重量%)、シュウ酸が好ましく、食用として用いられ安全性が高いことからクエン酸、りんご酸、酒石酸がより好ましく、pHの緩衝性が高いことからクエン酸が更に好ましい。
【0041】
また、耐熱性に優れていることを考慮すると、フタル酸(前記COOの含有率53重量%)、イソフタル酸(前記COOの含有率53重量%)、テレフタル酸(前記COOの含有率53重量%)、トリメリト酸(前記COOの含有率63重量%)、トリメシン酸(前記COOの含有率63重量%)、トリメリト酸(前記COOの含有率63重量%)、メリト酸(前記COOの含有率77重量%)が好ましく挙げられる。
【0042】
カルボキシ化合物として、有機カルボン酸が水酸基を有し、該水酸基とカルボキシル基がエステル結合を形成している、環状のラクトン構造を有する化合物(分子内エステル)を好ましく用いることができる。このものもカルボキシル基に由来するCOOを有し、加熱されると二酸化炭素を放出して炭化する機能を有する。
該ラクトン構造を有する有機化合物としてはL−アスコルビン酸(ビタミンC、前記COOの含有率25重量%)やアラボアスコルビン酸(イソビタミンC、前記COOの含有率25重量%)が挙げられる。ラクトン構造を有する有機化合物の金属塩の場合、水酸基の水素を金属で置き換えたものが用いてpHを調整することができる。例えば、L−アスコルビン酸Cの場合、水酸基の水素がナトリウムで置き換えられたL−アスコルビン酸ナトリウムCNaOを用いることができる。
【0043】
本発明の多機能性組成物の難燃化作用は、次のメカニズムによるものであると推定される。
難燃化の対象物が炎に晒されると、カルボキシ化合物は早期に分解炭化して、難燃化の対象物を炭化物で覆ってしまう機能を有すると考えられる。即ち、カルボキシ化合物は炎に晒されると、分解してカルボキシル基に起因する炭酸ガスを放出し、更に熱分解されて炭素に富んだ物質になり、難燃化対象物の表面を覆って炭化膜を形成する。一方、グアニジン化合物が窒素ガスやアンモニアなどを放出し、同時にカルボキシ化合物が分解して不燃性の炭酸ガスや水分を放出し、これらの不燃性ガスで難燃化対象物が覆われる。更に、カルボキシ化合物は、前記したように、不燃性ガスリッチの雰囲気中で分解して炭化し、炭素の薄い層(炭化膜)が難燃化対象物の表面に形成される。この炭化膜は、酸素を通さず、燃えない膜であることから、難燃化対象物の燃焼が抑制され、しかも窒素等の不燃性ガスリッチの雰囲気下であることから、優れた難燃化が達成され、難燃化対象物から炎を遠ざけると、火が直ちに消える。更に、難燃化対象物が熱可塑性樹脂や熱硬化性樹脂の場合、炭化膜の形成と同時に難燃化対象物の収縮(炭化収縮)が起きるので、溶融物が燃えながら滴下することが起きない(滴下物着火が起きない)。本発明の多機能性水性組成物は、このような難燃化効果を有するので、繊維やポリウレタン発泡体等の可燃物に規格UL94の「V0」に合格可能な難燃性を付与できるものである。
なお、炭化収縮が起きるのは合成樹脂製品の場合であって、紙などの場合には、単に炭化は起きるが激しい収縮は起きない。
【0044】
このように、不燃性ガスリッチな雰囲気下で、早期に分解して炭酸ガスを放出して炭化しやすいという観点から、前記のように、カルボキシ化合物としては1分子中のカルボキシル基を構成するCOOの含有率が50重量%以上のものが好ましい。
【0045】
本発明の多機能性組成物においては、前記スルファミン酸グアニジンとカルボキシ化合物の合計に対するカルボキシ化合物の含有量は、5〜50重量%である。カルボキシ化合物の含有量が少なすぎると、後述する炭化作用、更に炭化収縮が起きない虞があり、多すぎると難燃性が低下する虞があるので好ましくない。
かかる観点から、カルボキシ化合物の含有量の下限は、7重量%が好ましく、9重量%がより好ましく、更に好ましくは10重量%、特に好ましくは15重量%である。また、其の上限は40重量%が好ましく、より好ましくは30重量%である。
【0046】
また、本発明の多機能組成物には、必要に応じて調色剤や抗菌剤を添加することもできる。また、後述するように、繊維やポリウレタン発泡体に塗布乾燥させた場合の風合いをよくする為に界面活性剤を添加することもできる。
【0047】
本発明の多機能組成物を難燃性組成物として使用する場合には、難燃性ホスホネート化合物を添加することができる。これにより、残塵を低減することができ、更にコストダウンを図ることができる。但し、其の添加量は、前記非環式グアニジン化合物100重量部に対して、10〜20重量部である。但し、ノンリン系の多機能性組成物として構成する場合には、難燃性ホスホネート化合物を添加してはならない。
【0048】
難燃性ホスホネート化合物の例としては、例えば、特表2007−501313号公報に記載されているものや、其の比較例として記載されているものが挙げられる。詳細については、特表2007−501313号公報を参照されたい。
【0049】
なお、上記の多機能性組成物は、難燃性ばかりでなく、吸湿性や洗浄性を有するものである。
【0050】
本発明の多機能性組成物においては非環式グアニジン化合物と、カルボキシ化合物の混合物であってもよいし、非環式グアニジン化合物とカルボキシ化合物が何らかの相互作用(例えばイオン結合)により結合していても良い。
次に、本発明の多機能性組成物の好ましい形態を説明する。
【0051】
本発明の多機能性水性組成物は、前記多機能性組成物と水からなる。この場合の水性組成物には、水溶液、水分散液、水エマルジョン、含水ゲル、含水ペースト、高粘度含水液等の液体状や半固体状の組成物が包含されるが、ここでは水溶液、水分散液について説明し、高粘度水性組成物、エマルジョンについては別途後述する。
【0052】
本発明の水性組成物のpHは、4〜9、好ましくは5〜8、より好ましくは6〜8、更に好ましくは6.5〜7.5である。酸性やアルカリ性が強いと、取扱い難いものになってしまう。また、強いアルカリ性は、グアニジン化合物からアンモニアが発生しやすくなるので好ましくない。
【0053】
pH4〜9の条件下では、グアニジン化合物の溶解度は低下する傾向があるが、本発明においては、カルボキシ化合物、特に有機カルボン酸と其の金属塩の組合せを用いることにより非環式グアニジン化合物の溶解度が増大すると共に、pHを4〜9の範囲内に容易に調整することができる。
なお、有機カルボン酸の金属塩は単なる有機カルボン酸より水に溶けやすいので、使いやすいものである。更に、有機カルボン酸を多量に添加すると酸性が強くなりすぎるので、pHを4〜9に調整調整するためには、カルボキシ化合物として有機カルボン酸の金属塩を用い、pH調整に有機カルボン酸を用いることが好ましい。
但し、最終的なpH調整には他の酸やアルカリをpH調整剤として用いることができる。
【0054】
非環式グアニジン化合物としては、その濃度調整や、組成物のpH調整が容易である点から、スルファミン酸グアニジンや、リン酸グアニジンが好ましく、ノンリン系の組成物として構成する場合にはスルファミン酸グアニジンが好ましい。これらのものを用いるときには、組成物のpHを4〜9の範囲に調整し、組成物中の非環式グアニジン化合物の濃度を5重量%以上、更に10重量%以上に調整することが容易であるという利点がある。
【0055】
なお、本発明書で言うカルボキシ化合物には、有機カルボン酸、有機カルボン酸無水物、有機カルボン酸の金属塩及び有機カルボン酸エスエルが包含される。また、この場合の有機カルボン酸エスエルには、カルボン酸の分子内エステルが包含される。但し、本発明においては、カルボキシ化合物として、クエン酸の金属塩と、必要に応じて添加されるクエン酸が選択される。
【0056】
カルボキシ化合物としては、1分子中のカルボキシル基(−COO−)含有量が50重量%以上、好ましくは55重量%以上、より好ましくは60重量%以上のものである。カルボキシル基含有率の上限値は、特に制約されないが、通常、85重量%程度である。
【0057】
カルボキシ化合物において、好ましくは有機カルボン酸に含まれるカルボキシル基の少なくとも1つは、金属塩に変換されているが、この場合の金属塩を形成する金属には、アルカリ金属(Na、K、Li等)、アルカリ土類金属(Ca、Mg、Ba等)、遷移金属(Zn、Mn、Ti等)が包含される。本発明では、特にナトリウム金属塩やカリウム金属塩等のアルカリ金属塩の使用が好ましい。
【0058】
カルボキシ化合物を構成する有機カルボン酸金属塩において、その有機カルボン酸には、炭素数2以上、好ましくは8以上のモノカルボン酸、ジカルボン酸、トリカルボン酸、オキシカルボン酸が包含される。
【0059】
本発明の多機能性組成物を水性液として製造する場合、難燃化成分の含有量(カルボキシ化合物とスルファミン酸グアニジンの合計の含有量)は10〜80重量%が好ましく、30〜70重量%がより好ましく、40〜60重量%が更に好ましい。固体の難燃化成分の含有量が少なすぎると、効果的な難燃性が発揮されなくなり、含有量が多すぎると繊維製品等の風合いを損なう虞がある。
【0060】
また、カルボキシ化合物を含有する水溶液には、前記pH4〜9の条件下であっても、グアニジン化合物を多量に溶解させることができる(カルボキシ化合物がグアニジン化合物の溶解剤として働く。)。その結果、グアニジン化合物が均一に溶解、分散した多機能性水性組成物、更に後述する多機能性高粘度水性組成物を得ることができる。
具体的には、リン酸グアニジンやスルファミン酸グアニジンは、20℃の水100重量部に15重量部程度しか溶けないが、有機カルボン酸の金属塩(例えば、クエン酸ナトリウム)が添加されていると50重量部以上溶解させることが可能になる。
【0061】
また、カルボキシ化合物、特に有機カルボン酸と有機カルボン酸の金属塩の組合せを用いることにより、得られる多機能性水性組成物の水溶液をpH4〜9に容易に調整することができる。即ち、カルボキシ化合物は酸性が強いために、カルボキシ化合物そのものを用いると多機能性水性組成物の酸性が強くなりすぎる傾向がある。これに対して、有機化合物の金属塩はアルカリ性に向かうため、得られる多機能性水性組成物のpHを4〜9、好ましくは5〜8、より好ましくは6〜8に容易に調整することができる。
【0062】
pHを効果的に調整するためには、有機カルボン酸は、後述するクエン酸などの多塩基酸であることが好ましい。クエン酸ナトリウムなどの多塩基酸の金属塩は両性物質であり、酸と塩基が段階的に反応するためpHを安定化させる緩衝性を有する。このpHの緩衝性の観点からは、カルボキシル基を含む有機化合物として、2以上のカルボキシル基を有する有機酸が好ましく、3以上のカルボキシル基を有する有機酸がより好ましい。これらの多塩基酸としての有機カルボン酸の金属塩を用いると、pH4〜9の範囲内でpHが安定した多機能性水性組成物、更には後述する多機能性高粘度水性組成物を容易に得ることができる。
【0063】
前記のようにpHの調節剤として、有機カルボン酸と該有機カルボン酸の金属塩を用いる場合、グアニジン化合物の種類、カルボキシ化合物の種類、pHによっては、有機カルボン酸そのものが存在することもありる。
【0064】
本発明の多機能性水性組成物は、前記グアニジン化合物と併用して、環状のアミノトリアジン系窒素化合物を含有することができる。殆どの場合、アミノトリアジン系窒素化合物は水に不溶性である。
【0065】
本発明において用いられるアミノトリアジン系窒素化合物としては、下記(10)式で表されるホルモグアナミン、下記(11)式で表されるグアニルメラミン、下記(12)式で表されるシアノメラミン、下記(13)式で表されるアリールグアナミン、下記(14)式で表されるメラミン、下記(15)式で表されるアムメリン、下記(16)式で表されるアムメリド、下記(17)式で表されるメラム、下記(18)式で表されるメロン等が挙げられる。
これらの中では、高い温度での難燃化特性に優れ、汎用されているという点で、メラミン、メロンが好ましい。
【0066】
リン酸グアニジンをはじめとする水溶性の非環式の前記グアニジン化合物は、200〜300℃の低温から難燃化特性を発揮するのに対し、環状のアミノトリアジン系窒素化合物は、非環式のものに比べると高温での難燃化特性に優れ、特にメロンなどは600℃を超える高温で難燃化特性を発揮するので、グアニジン化合物とアミノトリアジン系環状窒素化合物を併用することにより、低温から高温までの優れた難燃化特性を得ることができる。
【0067】
【化10】

【0068】
【化11】

【0069】
【化12】

【0070】
【化13】

(13)式中、Rはアリール基を表す。
【0071】
【化14】

【0072】
【化15】

【0073】
【化16】

【0074】
【化17】

【0075】
【化18】

【0076】
非環式グアニジン化合物とアミノトリアジン系窒素化合物を併用する場合、非環式グアニジン化合物100重量部に対して、アミノトリアジン系窒素化合物10〜60重量部を添加することが好ましく、より好ましくは30〜40重量部である。アミノトリアジン系窒素化合物の含有量が10重量部以上であれば、高温での難燃化特性を発現することができ、60重量部以下であれば、風合いを大きく損なうことがない。
【0077】
次に、本発明の多機能性水性組成物の製造方法について、前記グアニジン化合物がスルファミン酸グアニジンであり、前記有機カルボン酸の金属塩がクエン酸ナトリウムである場合について説明する。但し、本発明はこの組合せに限定されるものではない。
【0078】
多機能性水性組成物の製造例
65℃の温水100重量部に、高速ミキサーを用いて良く攪拌しながら、クエン酸ナトリウム(扶桑化学工業(株)製精製クエン酸三ナトリウム、CNa・2HO:5重量%水溶液のpH8)13.3重量部と、クエン酸1.7重量部と、スルファミン酸グアニジン((株)三和ケミカル製「アピノン−101」:1重量%水溶液のpH7.5)67重量部を溶解させ、攪拌しながら室温まで冷却して水性組成物を得た。この水性組成物を110℃で乾燥して、水分を飛ばしてから、得られた固体状の組成物をボールミルで粉末化した。
なお、温水の温度は、グアニジン化合物を溶解させやすいことから、その下限は60℃が好ましい。また、その上限は、取扱いやすいことから、70℃が好ましい。この温水の温度は、後記多機能性高粘度水性組成物においても同様である。
【0079】
多機能性水性組成物の製造方法において、スルファミン酸グアニジンの代わりに他のグアニジン化合物、例えば、リン酸グアニジン((株)三和ケミカル製のアピノン−303」:2重量%水溶液のpH9)を用い、クエン酸ナトリウムの代わりに、他の有機カルボン酸の金属塩、例えば、酒石酸ナトリウム(扶桑化学工業(株)製L−酒石酸ナトリウム:CNa・2HO:5重量%水溶液のpH8)、リンゴ酸ナトリウム(例えば、扶桑化学工業(株)「リンゴ酸ソルト」DL−リンゴ酸ナトリウム:CNa・1/2)、アスコルビン酸ナトリウム(扶桑化学工業(株)製L−アスコルビン酸ナトリウム:CNaO)を用いることにより、前記と同様に水性組成物を得ることができた。このようにして得られた水性組成物に含浸させたポリエステル繊維製品は、JIS Z2150の防炎1級に合格することができた。

【0080】
前記の製造例は一例であり、本発明の多機能性水性組成物の製造においては、温水100重量部に対し、通常15〜100重量部の非環式グアニジン化合物、カルボキシ化合物3〜100重量部の範囲内で、前記多機能性組成物の組成となるように調整することができる。
【0081】
本発明の多機能性水性組成物に、木材、壁紙、皮革及び皮革製品、紙、不織布、織布、繊維、フエルト等の繊維製品、紙、織物、不織布、合成樹脂等からなるシート、ボード、フィルム等の各種の製品を含浸又は塗布して乾燥させると、これらのものは、JIS Z2150の防炎1級、更にはUL規格のV0に合格可能な顕著な難燃性を示すようになる。なお、本発明の多機能性水性組成物は(特に、ノンリン系のものとして構成されたもの)は、それが塗布乾燥された繊維等の風合いを損なうことが無く変色させることもない。従って、本発明の多機能性水性組成物は、建材、自動車用材料、航空機用材料等の難燃性が要求されるものの難燃化に好適に用いることができる。
【0082】
本発明の多機能性水性組成物を繊維製品に塗布乾燥する場合、多機能性水性組成物(固形分)の塗布量は、繊維の目付けによって異なるが、例えば目付け100g/mの生地の場合、乾燥した状態で5〜60g/mが好ましく、10〜40g/mがより好ましく、15〜30g/mが更に好ましい。該塗布量が少ないと難燃性の発現が不十分になり、塗布量が多すぎると風合いが悪くなる虞がある。
【0083】
前記繊維製品としては、ポリエステル系、ポリアミド系、ポリアクリルニトリル系、ウレタン系などの合成繊維や、木綿、絹、麻、羊毛などの天然繊維ならびに、レーヨンなどの半合成繊維からなるものが挙げられ、これらの繊維単独でも、また混紡、混繊、交編織などの形態をとることができる。
【0084】
本発明の多機能性水性組成物中の水分を除去して得られる粉体組成物は各種樹脂に混入することにより難燃化などの多機能性を有する樹脂組成物とすることができ、そして該難燃化樹脂組成物を成形することにより難燃性を有する樹脂製品を得ることができる。これらの用途に用いる場合、多機能性組成物のカルボキシ化合物としては、耐熱性に優れるサリチル酸、フタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸、トリメリト酸、トリメシン酸、トリメリト酸、メリト酸などの芳香族カルボン酸、その酸無水物、金属塩またはエスエルを用いることが好ましい。
【0085】
対象となる樹脂としては、半合成高分子、熱硬化性樹脂、熱可塑性樹脂、合成ゴムなどが挙げられる。半合成高分子としては、セルロースアセテート、セルロースニトレートなどのセルロース系樹脂、カゼインプラスチック、大豆タンパクプラスチック等が挙げられる。熱硬化性樹脂としては、フェノール樹脂、エポキシ樹脂、メラミン樹脂、尿素樹脂(ユリア樹脂)、不飽和ポリエステル樹脂、アルキド樹脂
、ポリウレタン樹脂、ポリイミド樹脂等が挙げられる。熱可塑性樹脂としては、塩化ビニル系樹脂;ポリエチレン系樹脂、ポリプロピレン系樹脂などのポリオレフィン系樹脂;ポリスチレン系樹脂、アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン樹脂、アクリル樹脂;ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリトリメチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、
ポリエチレンナフタレート、ポリブチレンナフタレートなどのポリエステル系樹脂;各種ナイロン、アラミド樹脂などのポリアミド系樹脂;ポリカーボネイト系樹脂、ポリフェニレンエーテル樹脂、ポリフェニレンエーテル樹脂、ポリフェニレンサルファイド樹脂、ポリエーテルエーテルケトン等が挙げられる。合成ゴムとしては、イソプレン系、ブタジエン系、アクリロニトリル系、クロロプレン系、スチレン系、スチレン−ブタジエン系のものなどが挙げられる。
【0086】
これらの樹脂に本発明の多機能性粉末状組成物を含有させる方法に制限はないが、熱可塑性樹脂の場合には、粉末状組成物を高濃度に含有するマスターバッチを製造し、該マスターバッチを用いて射出成形や押出成形などを行って成形体を製造したり、繊維を製造したりする方法が一例として挙げられる。なお、マスターバッチの製造方法としては、押出法などの従来公知の方法を採用することができる。
【0087】
マスターバッチを商品として製造する場合には、汎用性という点で、ポリエチレン系樹脂、ポリプロピレン系樹脂、ポリスチレン系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリ塩化ビニル系樹脂のマスターバッチを製造することが好ましい。マスターバッチに添加する粉末状の多機能性組成物の含有量としては、10〜60重量%が好ましく、20〜55重量%がより好ましく、30〜50重量%が更に好ましい。該含有量が10重量%未満では、濃度が低すぎてマスターバッチを製造する利点が小さくなり、60重量%超では、マスターバッチの製造の難度が高くなるので好ましくない。
【0088】
難燃性樹脂製品用マスターバッチの製造例を次に示す。
マスターバッチの製造例1
65℃の温水100重量部に、高速ミキサーを用いて良く攪拌しながら、トリメシン酸ナトリウム(大和化成株式会社製のトリメシン酸3当量と水酸化ナトリウム3当量を水中で反応させたものの30重量%水溶液)を40重量部と、スルファミン酸グアニジン((株)三和ケミカル製のアピノン−101」1重量%水溶液のpH7.5)60重量部を溶解させた。得られた水溶液を110℃で乾燥し、得られた固形物をボールミルで粉末化した。押出機を用いて、MFI:25g/10分のポリスチレン樹脂100重量部と該粉末30重量部とをブレンドし、難燃性樹脂製品用のマスターバッチを作製した。このマスターバッチ40重量部とMFI:5g/10分のポリスチレン樹脂100重量部とを押出機でブレンドして得られたポリスチレン樹脂を0.5mmに加熱、冷却プレス成形して得られた樹脂板は、JIS Z2150の防炎1級に合格することができた。
【0089】
マスターバッチの製造例2
MFI20g/分の低密度ポリエチレン100重量部と、前記クエン酸ナトリウム(扶桑化学工業(株)製精製クエン酸三ナトリウム)とスルファミン酸グアニジン((株)三和ケミカル製「アピノン−101」を用いて製造した水性組成物の粉末30重量部とを、窒素パージしながら加圧ニーダーでブレンドし、難燃性樹脂製品用のマスターバッチを作製した。このマスターバッチ40重量部とMFI:7g/10gの低密度ポリエチレン100重量部を窒素パージしながら加圧ニーダーで混合して得られた低密度ポリエチレン樹脂を0.5mmに加熱、冷却プレス成形して得られた樹脂板は、JIS Z2150の防炎1級に合格することができた。
【0090】
これらの多機能性樹脂組成物を用いた最終製品、具体的には水性の状態で塗布、乾燥させたり、粉体として含有させた最終製品としては、フィルム、シート、テープ、ペレット、ブロック、不織布、織布、繊維等の各種繊維製品、建材、電化製品等の包装資材、家具、家庭用品、自動車や航空機などの車両用内装材などが挙げられる。なお、これらの成形体は発泡成形体とすることができる。
【0091】
前記多機能性水性組成物は、樹脂エマルジョンの形態とすることができる。多機能性水性樹脂エマルジョンは、原料エマルジョンと前記多機能性水性組成物とを混合することにより得ることができる。
【0092】
該多機能性水性樹脂エマルジョンは、本発明の多機能性水性組成物が溶解した水に、乳化剤の作用により樹脂微粒子が分散しているものである。多機能性樹脂エマルジョンは、本発明の多機能性組成物(固形分として)を、樹脂微粒子100重量部に対して5〜80重量部含有していることが好ましく、より好ましくは10〜60重量部であり、更に好ましくは15〜50重量部である。多機能性組成物の含有量が少なすぎると、難燃化効果を発現できない虞があり、多すぎると、樹脂微粒子の接着、粘着機能が低下する虞がある。
【0093】
前記原料エマルジョンに制限はなく、あらゆるエマルジョンを用いることができ、例えば、ポリ酢酸ビニル、酢酸ビニル−アクリル酸エステル共重合樹脂、酢酸ビニル−マレイン酸ジブチル共重合樹脂、酢酸ビニル−ベオバ共重合樹脂、酢酸ビニル−エチレン共重合樹脂(VAE)、エチレン−酢酸ビニル共重合樹脂(EVA)などの酢酸ビニル系共重合樹脂エマルジョン、アクリル酸エステル−メタクリル酸メチル共重合樹脂、アクリル酸エステル−スチレン共重合樹脂などのアクリル酸エステル系共重合樹脂エマルジョン、ポリエステル系ポリウレタン樹脂、ポリエーテル系ポリウレタン樹脂、ポリカーボネート系ポリウレタン樹脂、ポリカプロラクトン系ポリウレタン樹脂、アクリル系ポリウレタン樹脂などのポリウレタン樹脂エマルジョン、ポリエステル系樹脂エマルジョン、ポリアミド系樹脂エマルジョン、ポリエチレン系樹脂エマルジョン、アイオノマー樹脂エマルジョン、シラン系樹脂エマルジョン、フッ素樹脂エマルジョン、シリコーンエマルジョンなど、及び、これらのエマルジョンの混合物、更に、これらの樹脂構造中に水酸基、カルボン酸基、4級アンモニウム塩基などを導入させた官能基含有変性共重合体エマルジョンなどが挙げられる。
これらの中では、広く使用され、入手しやすいことから、アクリル系エマルジョン、ウレタン系エマルジョンが好ましい。
【0094】
また、樹脂微粒子の大きさにも制限はなく、乳化剤にも制限はない。
【0095】
本発明の多機能性水性樹脂エマルジョンの製造に用いる原料エマルジョンは、新たに製造することもできれば、市販のエマルジョンを用いることもできる。
【0096】
原料エマルジョンと前記多機能性水性組成物とを混合することにより、多機能性水性樹脂エマルジョンを製造する場合、例えば樹脂微粒子を45重量%含有する原料エマルジョン100重量部に対して、前記多機能性水性組成物(固形分35重量%含有)を30〜120重量部混合して攪拌すればよい。
【0097】
次に、本発明の高粘度の難燃性水性組成物(以下、難燃化処理用高粘度水性液又は多機能性高粘度水性組成物ともいう。)について説明する。多機能性高粘度水性組成物は、前記多機能性水性組成物と、水溶性有機高分子と、親水性多孔質無機微粒子とを含むものである。該多機能性高粘度水性組成物(以下、高粘度水性組成物ともいう。)は、難燃性のほかに、優れた帯電防止性、防曇性、防汚性、洗浄性を有する。
【0098】
即ち、本発明の高粘度水性組成物は、難燃剤として用いることにより、対象物にJIS Z2150の防炎1級、更にはUL規格のV0に合格可能な顕著な難燃性を付与することができる。また、本発明の高粘度水性組成物は、前記有機カルボン酸の金属塩等を含有することから、洗浄性を発現するものである。更に、本発明の高粘度水性組成物は、後述する特定の親水性多孔質無機微粒子を含有することにより、帯電防止性、防曇性、防汚性が発現するものである。更に、本発明の高粘度水性組成物は、有機高分子を含有することから、製膜性を発現し、塗布された高粘度水性組成物中の固形分を固定化できるので、帯電防止性、防曇性、防汚性を永続化させることができる。更にまた、該高粘度水性組成物は高粘度であることにより、ポリオール成分とイソシアネート成分と共に用いることによりポリウレタン発泡体を製造することができ、このポリウレタン発泡体は、JIS Z2150の防炎1級、更にUL規格のV0合格可能な優れた難燃性を示し、更に、該ポリウレタン発泡体は防曇性付与材、帯電防止性付与材、防塵性付与材、洗浄材としても使用することができる。
【0099】
なお、本発明の高粘度水性組成物が帯電防止性、防曇性、防汚性を有するのは、該高粘度水性組成物中の固形分が親水性の化合物の集合体であることによると考えられる。即ち、非環式グアニジン化合物が吸湿性を有し、カルボキシ化合物、特に、有機カルボン酸の金属塩は親水性の化合物であり、カルボキシ化合物を添加すると非環式グアニジン化合物の溶解度が増大することから、カルボキシ化合物と非環式グアニジン化合物とは親水性を増大させるイオン結合を形成している可能性が大きく、親水性多孔質無機微粒子が親水性の化合物であることから、親水性の化合物の集合体である高粘度水性組成物が帯電防止性、防曇性、防汚性を有していると考えられる。
【0100】
本発明の高粘度水性組成物における、グアニジン化合物(スルファミン酸グアニジン)とカルボキシ化合物(クエン酸の金属塩と必要に応じて添加されるクエン酸)の使用量は、前記多機能性水性組成物と同様である。
【0101】
高粘度水性組成物が含有する水溶性有機高分子としては、水酸基、カルボニル基、カルボキシル基、スルホン酸基、エーテル基、アミノ基、アミド基、ウレタン基などの極性基(親水基)を有する有機高分子が用いられる。
【0102】
本発明における水溶性有機高分子の具体例として、アラビアゴム、トラガカント、アラビノガラクタン、ローカストビーンガム(キャロブガム)、グアーガム、カラヤガム、カラギーナン、ペクチン、寒天、クインスシード(マルメロ)、デンプン(コメ、トウモロコシ、バレイショ、コムギ)、アルゲコロイド、トラントガム等の植物系水溶性有機高分子、キサンタンガム、デキストラン、サクシノグルカン、プルラン等の微生物系水溶性有機高分子、コラーゲン、カゼイン、アルブミン、ゼラチン等の動物系水溶性有機高分子、カルボキシメチルデンプン、メチルヒドロキシプロピルデンプン等のデンプン系水溶性有機高分子、メチルセルロース、エチルセルロース、メチルヒドロキシプロピルセルロース、カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシメチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ニトロセルロース、セルロース硫酸ナトリウム、カルボキシメチルセルロースナトリウム(CMC)、結晶セルロース、セルロース末のセルロース系水溶性有機高分子、アルギン酸ナトリウム、アルギン酸プロピレングリコールエステル等のアルギン酸系水溶性有機高分子、ポリビニルメチルエーテル、ポリビニルピロリドン、カルボキシビニルポリマー等のビニル系高分子、ポリエチレングリコール等のポリオキシエチレン系水溶性有機高分子、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレン共重合体系水溶性有機高分子、ポリアクリル酸ナトリウム、ポリエチルアクリレート、ポリアクリル酸アミド等のアクリル系水溶性有機高分子、ポリエーテルポリオール系ウレタンポリマー等のウレタン系水溶性有機高分子等を単独で、または混合して用いることができる。
【0103】
本発明においては、前記の水溶性有機高分子の中でも、粘度の向上性(増粘効果)に優れ、製膜性に優れ、炎に晒された場合における前記有機カルボン酸の炭化に伴う炭化膜形成機能を向上させることができ、更に帯電防止性、防曇性、防汚性を永続化できる特性に優れていることからポリエーテルポリオール系ウレタンポリマーが好ましい。
【0104】
本発明で用いられるポリエーテルポリオール系ウレタンポリマーの好ましい例としては、特公平1−55292号公報に開示されたものが挙げられる。このウレタンポリマーは、少なくとも3個の疎水性基を有し、且つこれらの疎水性基の少なくとも2個が末端基であり、これらの疎水性基は一緒にして全部で少なくとも20個の炭素原子を含み、これらの疎水性基は親水性ポリエステル基を通して連結されており、その数平均分子量が10000〜200000のものである。
【0105】
このものは、少なくとも一種のポリエーテルポリオールからなる反応体(a)、少なくとも一種の有機ポリイソシアネートからなる反応体(b)、単官能活性水素含有化合物及び/又は有機モノイソシアネートから選ばれる少なくとも一種の単官能活性水素有機化合物からなる反応体(c)、少なくとも一種の多価アルール又は多価アルコールエステルからなる反応体(d)を用いて、次の反応の反応生成物として得ることができる。
1)少なくとも3個のヒドロキシル基を含むポリエーテルポリオールからなる反応体(a)と前記有機モノイソシアネートとの反応;
2)反応体(a)と2個のイソシアネート基を含む反応体(b)と前記単官能活性水素含有化合物との反応;
3)反応体(a)と少なくとも3個のイソシアネート基を含む反応体(b)と前記単官能活性水素含有化合物との反応;
4)反応体(a)と反応体(b)と前記有機モノイソシアネートとの反応;
5)反応体(a)と反応体(b)と前記有機モノイソシアネートとの反応体(d)
【0106】
上記ポリエーテルポリオールの詳細については、特公平1−55292号公報を参照されたい。
【0107】
また、本発明においては、特開平9−67562号公報に詳細に記載されているポリエーテルポリオール系ウレタンポリマー、特開平9−71766号公報に詳細に記載されているポリエーテルポリオール系ウレタンポリマー、特開平9−110821号公報に詳細に記載されているポリエーテルポリオール系ウレタンポリマー、特開平10−245541号公報に詳細に記載されているポリエーテルポリオール系ウレタンポリマー、特開平11−199854号公報に詳細に記載されているポリエーテルポリオール系ウレタンポリマー、特開2000−239649号公報に詳細に記載されているポリエーテルポリオール系ウレタンポリマー、特開2002−226542号公報に詳細に記載されているポリエーテルポリオール系ウレタンポリマーを用いることもできる。これらのポリエーテルポリオール系ウレタンポリマーの詳細については、上記公報を参照されたい。
【0108】
本発明において好ましく用いられるポリエーテルポリオール系ウレタンの水溶性有機高分子であって、市販されているものとしては、(株)ADEKA製のアデカノールUH420が挙げられる。
【0109】
水溶性有機高分子の含有量は、前記ポリエーテルポリオール系ウレタンポリマー(固形分を20重量%含有)の場合、水100重量部に対して、5〜30重量部、その下限は、好ましくは10重量部であり、その上限は、好ましくは20重量部である。
【0110】
本発明の高粘度水性組成物が含有する、親水性多孔質無機微粒子(以下、親水性無機微粒子ともいう。)は水を吸収することから、水中で増粘効果を示し無機系増粘剤として働くことができるものであり、疎水性の無機微粒子に親水化処理を施したものも含まれる。該無機微粒子は、前記水溶性有機高分子(有機系増粘剤)で増大した粘度を更に増加させることができ、ポリウレタンを発泡させる場合の気泡形成に好ましい作用を及ぼすことができる。また、親水性無機微粒子は、それ自体が不燃性であり、前記グアニジン化合物や有機カルボン酸の金属塩等を吸収、吸着することにより担持して、炭化促進の核としても機能することができ、難燃性を更に向上させることができる。従って、前記水溶性有機高分子と、該親水性無機微粒子で粘度を調整された高粘度水性組成物は、難燃性ポリウレタン発泡体や難燃性接着剤の製造等に好適に用いることができる。
【0111】
該親水性の無機微粒子としては、シリカライト、天然ゼオライト、合成ゼオライト、モンモリロナイト、セピオライト等の結晶性ケイ酸塩又はそれらの混合物;ホワイトカーボン(含水非晶質二酸化ケイ素)、非晶質ケイ酸、水ガラス、パーライト等の非晶性ケイ素化合物又はそれらの混合物;白土、活性白土、ケイソウ土、カオリン、ベントナイト、木節粘土、ガイロメ粘土等の粘土;シリカ、アルミナ、シリカゲル、酸化マグネシウム、チタニア、アルミナ、ジルコニア、シリカ/アルミナ、シリカ/チタニア等の金属酸化物等が挙げられる。
【0112】
前記の中では、結晶性又は非晶性のケイ酸塩又はケイ素化合物が好ましく、その中でも合成ゼオライト、セピオライト、ホワイトカーボン(含水非晶質二酸化ケイ素、SiO・nHO)が好ましい。合成ゼオライトは、多孔質で、吸水性に優れるので、増粘剤として機能する上に、グアニジン化合物や親水性有機高分子等を吸収、吸着等により担持して炭化膜形成の核としても働くことができ、多数の水酸基を有するので、pH調整効果を有し、更に水性液中での分散性もよい。ホワイトカーボンも同様である。
セピオライトは、増粘性に優れる。また、ナトリウム四珪素雲母を元とする膨潤系マイカが増粘効果に優れることから好ましく用いられ、酸化アルミニウムのウィスカーも好ましく用いられる。
これらの無機微粒子は併用することができ、所望される粘度調整効果、pH調整効果、炭化膜形成効果、分散性を考慮して、配合を定めることができる。
なお、二酸化ケイ素(シリカ)を主成分とするものは、帯電防止性、防曇性、防汚性の発現に寄与する特性が特に強い。
【0113】
硫酸金属塩の水和物は、帯電防止性、防曇性、防汚性を発現することができ、後述するポリウレタン発泡体の製造時に、分解して生成する水によりスコーチによる変色を防止することができる。硫酸塩の水和物の中では、水に対する溶解度が大きく、帯電防止性、防曇性、防汚性に優れ、食品用途にも使用可能な硫酸マグネシウムの水和物が好ましい。
【0114】
親水性の無機微粒子の平均粒径は0.1〜50μmが好ましく、0.5〜20μmがより好ましく、0.5〜10μmがより好ましい。該平均粒径がこの範囲内のものは、水性液体の粘度の調整機能に優れ、グアニジン化合物等の担持効果に優れている。
【0115】
本発明の高粘度水性組成物において、親水性無機微粒子の含有量は、水100重量部に対して1〜10重量部が好ましく、2〜6重量部がより好ましい。該含有量が1重量部以上であれば、増粘効果や炭化膜形成効果や、pH調整効果が発揮される。一方、該含有量が10重量部以下であれば、粘度の増大効果が大きくなりすぎることがなく、高粘度水性組成物を対象物に均一に塗布することができ、また対象物に均一に含有させることができ、更にポリウレタンの均一な気泡を形成することができる。
【0116】
本発明の高粘度水性組成物は、多機能な難燃性発泡ポリウレタンを製造したり、難燃性接着剤などの製造用に用いるために、粘度が増大されたものである。高粘度水性組成物の粘度は使用目的により異なり、最適な粘度は当業者により容易に決定することができる。たとえば、該粘度が6,000cps以上であれば、発泡ポリウレタンを製造し、接着剤を製造することができる。一方、該粘度が30,000cps以下であれば、グアニジン化合物を繊維製品などに均一に塗布したり、合成樹脂中に均一に含有させたり、接着剤中に均一に含有させたりすることができ、ポリウレタンの発泡を阻害することもない。かかる観点から、25℃における粘度は、6,000〜30,000cpsが好ましく、7,000〜25,000cpsがより好ましく、8,000〜20,000cpsが更に好ましく、10,000〜18,000cpsが特に好ましい。
【0117】
前記粘度は、BM型粘度計(ローター:No4、回転数:60回転)により25℃において測定したものである。
【0118】
本発明の高粘度水性組成物には、必要に応じて調色剤や抗菌剤を添加することもできる。また、後述するように、シートに塗布したり、ポリウレタン発泡体に含有させた場合の風合いをよくする為に界面活性剤を添加することもできる。また、前記親水性多孔質無機微粒子の分散性を良くするために、炭素数1〜6の脂肪族アルコールを添加することができ、扱いやすく匂いが強くないことからエチルアルコールが好ましい。
【0119】
次に、本発明の高粘度水性組成物の製造方法について、グアニジン化合物がスルファミン酸グアニジンであり、有機カルボン酸の金属塩がクエン酸ナトリウム、水溶性有機高分子がポリエーテルポリオール系ウレタンポリマーであり、親水性無機微粒子がホワイトカーボン、合成ゼオライトである場合について説明する。但し、本発明はこの組合せに限定されるものではない。
【0120】
高粘度水性組成物の製造例
65℃の温水に、高速ミキサーを用いて良く攪拌しながら、クエン酸ナトリウム(扶桑化学工業(株)製精製クエン酸三ナトリウム、CNa・2HO、10重量%水溶液pH8)13.3重量部とクエン酸1.7重量部とスルファミン酸グアニジン((株)三和ケミカル製「アピノン−101」:1重量%水溶液のpH7.5)67重量部を添加して溶解させ、次に水溶性有機高分子としてポリエーテルポリオール系ウレタンポリマー(株)ADEKA製のアデカノールUH−420(固形分20重量%)17重量部、親水性無機微粒子(東ソー・シリカ(株)製のホワイトカーボン:含水非晶質二酸化ケイ素「Nipall NS−P」)3.5重量部、親水性無機微粒子(三洋化学(株)製の「ゼオビルダー」)5重量部を順に添加し、良く攪拌しながら室温まで冷却することにより、本発明の高粘度水性組成物を得た。
【0121】
なお、スルファミン酸グアニジンの代わりにリン酸グアニジン((株)三和ケミカル製のアピノン−303」:2重量%水溶液のpH9)を用い、クエン酸ナトリウムの代わりに、酒石酸ナトリウム(扶桑化学工業(株)製L−酒石酸ナトリウム:CNa・2HO、5重量%水溶液のpH8)、リンゴ酸ナトリウム(扶桑化学工業(株)「リンゴ酸ソルト」DL−リンゴ酸ナトリウム:CNa・1/2)、アスコルビン酸ナトリウム(扶桑化学工業(株)製L−アスコルビン酸ナトリウム:CNaO)を用いることにより、前記と同様に高粘度水性組成物を得ることができた。
【0122】
このようにして得られた高粘度水性組成物は、後述するように、繊維製品に塗布乾燥することによりJIS Z2150の防炎1級に合格可能な難燃性を付与することができた。更に、UL規格のV0に合格可能な難燃性や、帯電防止性、防曇性、洗浄性を付与できるものである。
【0123】
本発明の高粘度水性組成物は、其れに含まれる水分を除去、乾燥し、好ましくは粉末化することにより、多機能性粉末状組成物とすることができる。
【0124】
本発明の高粘度水性組成物及びそれから得られる粉末状組成物は、後述するようにメラミンシアヌレートにより代表される、環状のアミノトリアジン系窒素化合物とシアヌール酸を反応させて得られる化合物(塩)を含有することができ、メラミンシアヌレート等を含有する粉末状組成物は、後述するようにポリウレタン発泡体の製造に用いることにより、ポリウレタン発泡体の難燃性を更に向上させ、その硬さ、コシの強さを増大させることができる。
【0125】
本発明の難燃性繊維製品や難燃性シートは、繊維製品や素材シートを高粘度水性組成物に、刷毛を用いたり、含浸する等して素材シートに高粘度水性組成物を塗布し乾燥することにより、得ることができる。本発明の高粘度水性組成物を用いると、重ね塗りをしないでも1回の塗布や、含浸で優れた難燃性製品を得ることができ、更に配合成分を選択することにより、防曇性、帯電防止性、防汚性、洗浄性を有する繊維製品や、シートを得ることができる。該繊維製品や、シートは防曇性、帯電防止性、防汚性、洗浄性、製膜性を発現することから、水を含浸させるだけで洗浄用具として用いることができ、磨いたガラスや鏡は曇りにくいものとなり、埃が付きにくくなる。
【0126】
多機能な難燃性繊維製品や難燃性シートを構成する素材に制限はないが、前記多機能性水性組成物を用いた難燃性繊維製品や難燃性シートについて例示したものが挙げられる。
【0127】
高粘度水性組成物中の固形分の塗布量は、シートの目付けによって異なるが、例えば目付け100g/mのシートの場合、乾燥した状態で5〜60g/mが好ましく、10〜40g/mがより好ましく、15〜30g/mが更に好ましい。該塗布量が少ないと難燃性、防曇性、帯電防止性、防汚性、洗浄性の発現が不十分になり、塗布量が多すぎると風合いが悪くなる虞がある。
【0128】
本発明の高粘度水性組成物と水分散系の接着剤や水系の接着剤とを混合することにより、水性の難燃性接着剤を得ることができる。
水分散系の接着剤としては、デンプン系接着剤、アクリル樹脂エマルジョン接着剤、ウレタン樹脂エマルジョン接着剤、エチレン-酢酸ビニル樹脂エマルジョン接着剤、酢酸ビニル樹脂エマルジョン接着剤、水性高分子−イソシアネート系接着剤、スチレン-ブタジエンゴム系ラテックス接着剤、ポリビニルアルコール系接着剤などが挙げられる。また、水系の接着剤としては、膠系接着剤、α-オレフィン系接着剤、水性高分子−イソシアネート系接着剤、フェノール樹脂系接着剤、ポリビニルピロリドン樹脂系接着剤、メラミン樹脂系接着剤、ユリア樹脂系接着剤、レゾルシノール系接着剤などが挙げられる。
【0129】
次に、本発明の多機能性ポリウレタン発泡体について説明する。該多機能性ポリウレタン発泡体は、前記本発明の高粘度水性組成物中の固形分又は前記粉体組成物を含有する多機能性の発泡体であり、特に親水性多孔質無機微粒子を含有する高粘度水組成物を用いた場合、その配合組成を選択することにより、防曇性、帯電防止性、防汚性、洗浄性を併せ持つ多機能な発泡体になるものである。
【0130】
該多機能性ポリウレタン発泡体は、前記多機能性高粘度水性組成物を用いて下記の方法(a)又は方法(b)により得ることができる。また、前記粉末状組成物を用いて下記の方法(c)又は方法(d)により得ることができる。
次に、該方法(a)〜(d)について説明する。
【0131】
方法(a)は、ポリオール成分とイソシアネート成分とを少なくとも含む混合物に、前記高粘度水性組成物を添加し、発泡剤の存在下で重合反応させることにより、多機能性ポリウレタン発泡体を得る方法である。
【0132】
方法(b)は、ポリオール成分と前記本発明の高粘度水性組成物とを少なくとも含む混合物に、イソシアネート成分を添加し、発泡剤の存在下で重合反応させることにより、多機能性ポリウレタン発泡体を得る方法である。
【0133】
方法(a)や方法(b)で製造された、ポリウレタン発泡体は、水を多量に含む高粘度水性組成物を用いて製造されたにもかかわらず、良好な発泡体である。この発泡体は、難燃性を有し、配合組成を選択することにより、防曇性、帯電防止性、防汚性、洗浄性を発現し、高粘度水性組成物中の固形分を含有するにもかかわらず顕著な物性変化がなく、特にノンリン系の高粘度水性組成物を用いて製造されたものは、べとつくこともなく、変色することもなく、風合いの良いものである。なお、ポリオール成分とイソシアネート成分とを混合する前に、本発明の高粘度水性組成物をイソシアネートに添加すると発泡が阻害されて、得られる発泡体がぼろぼろになってしまう。
【0134】
このポリオール成分とイソシアネート成分の混合物に、高粘度水性組成物を添加するという構成、更にポリオール成分と高粘度水性組成物の混合物に、イソシアネート成分を添加するという構成は、単純なようであっても、本発明者が始めて見出したものであり、水が多量に存在すると発泡性が阻害されるという従来の当業者の技術常識を打ち破る方法である。
【0135】
方法(c)は、ポリオール成分とイソシアネート成分とを少なくとも含む混合物に、前記粉末状組成物を添加し、発泡剤の存在下で重合反応させることにより、多機能性ポリウレタン発泡体を得る方法である。
【0136】
方法(d)は、ポリオール成分と前記本発明の粉末状組成物とを少なくとも含む混合物に、イソシアネート成分を添加し、発泡剤の存在下で重合反応させることにより、多機能性ポリウレタン発泡体を得る方法である。
【0137】
前記方法(a)、(b)、(c)、(d)により得られる多機能性ポリウレタン発泡体の密度は、発泡剤の添加量に応じ変化するが、一般的には、10〜1200kg/mが好ましく、より好ましくは200〜800kg/mである。
【0138】
なお、本発明の多機能性水性組成物に、前記水溶性有機高分子のみを加えた多機能性水性組成物や、その粉末を用いてもポリウレタン発泡体を製造することができる。其の場合、水溶性有機高分子としてポリエーテルポリオール系ウレタンポリマーを選択することにより、前記炭化皮膜の形成特性が増大することにより難燃性を向上させることができる。この発泡体は、カルボキシ化合物を含有することにより、洗浄性を有するものである。
【0139】
本発明のポリウレタン発泡体の製造(方法(a)、(b)、(c)、(d))にあたって利用するポリオール成分やイソシアネート成分については、特に制限はなく、従来一般にポリウレタンの製造に用いられている各種のものを使用することができる。
【0140】
このうち、ポリオール成分の例としては、エチレングリコール、プロピレングリコール、ブチレングリコール、ジエチレングリコール、トリメチロールプロパン、ヘキサントリオール、グリセリン、トリメチロールエタン、ペンタエリストリール等の低分子量ポリオール;ポリカプロラクトン、多塩基酸とヒドロキシル化合物から製造されるポリエステルポリオール;ポリオキシエチレングリコール、ポリオシキプロピレングリコール、ポリ(オキシプロピレン)ポリ(オキシエチレン)グリコール、ポリ(オキシブチレン)グルコール、ポリ(オキシテトラメチレン)グリコール等のポリエーテルポリオール等を挙げることができる。また、アクリルポリオール;ヒマシ油あるいはトール油誘導体を用いることもできる。
【0141】
また、イソシアネート成分の例としては、脂肪族系イソシアネート、芳香族系イソシアネートや、それらの変性体を挙げることができる。
【0142】
このうち、脂肪族系イソシアネートとしては、例えば、ヘキサメチレンジイソシアネート等が、芳香族系イソシアネートとしては、例えば、ジフェニルメタンジイソシアネート、ポリメリックジフェニルイソシアネート、トリレンジイソシアネート、キシリレンジイソシアネート、ナフタレンジイソシアネート、トリフェニルメタントリイソシアネート等が、またイソシアネート変性体としては、例えば、ウレタンプレポリマー等がそれぞれ挙げられる。
【0143】
本発明の多機能性ポリウレタン発泡体は、一般に行われる方法に準じて調製することができる。すなわち、ポリウレタン鎖の調製方式としては、ワンショット法、プレポリマー法、擬プレポリマー法等のいずれの方法を利用しも良く、ポリウレタン発泡体の製造方式も、スラブ、モールドのいずれの方法を利用しても良い。
【0144】
多機能性ポリウレタン発泡体を前記方法(a)、(b)で製造する際の発泡剤としては、本発明の高粘度水性組成物に含まれる水分を用いることもできれば、予め発泡剤としての水分を含有するポリオール成分を用いることもできる。発泡倍率の調節はイソシアネート成分の配合量によって調節する。ポリイソシアネートの添加量を多くすれば、発生する二酸化炭素の量が多くなるので発泡倍率が増大し、ポリイソシアネートの添加量を少なくすれば、発生する二酸化炭素の量が少なくなるので発泡倍率が小さくなる。方法(c)、(d)の場合には、通常のポリウレタン発泡体の製造方法と同様に適量加える水分であり、イソシアネート成分の配合量等の通常の方法によって発泡倍率を調節することができる。但し、一般にポリウレタンの製造に用いられている各種のものを併せて使用できる。その例としては、有機系発泡剤、無機系発泡剤が挙げられる。有機系発泡剤としては、例えば、ニトロアルカン、ニトロ尿素、アルドオキシム、活性メチレン化合物、酸アミド、3級アルコール、しゅう酸水和物が、無機系発泡剤としては、例えば、トリクロロモノフルオロメタン、ジクロロジフルオロメタン、ホウ酸、固体炭酸、液化炭酸ガス、水酸化アルミニウム等が挙げられる。
【0145】
また、ポリオール成分とイソシアネート成分の反応速度を調整するために触媒を添加する必要があり、ポリウレタンの製造に普通一般に用いられる触媒、例えば、アミン類、フォスフィン類のルイス塩基やルイス酸の有機金属化合物(アルミニウム、スズ)等をポットライフに応じて用いることができる。なお、触媒はイソシアネート成分に加えておくことが好ましい。
【0146】
また、整泡剤として公知の有機珪素系界面活性剤を添加することができ、気泡の安定化を目的としてジエタノールアミン又はトリエタノールアミンを添加することが好ましい。
【0147】
前記した各成分を混合、反応させて多機能性ポリウレタン発泡体とする、反応成型時の攪拌のために用いる混合装置としては、一般にポリウレタン発泡体の成形に用いられる装置、例えば、機械式攪拌機、高圧攪拌機、エアミキシング機等のいずれも用いることができる。
【0148】
本発明の多機能性ポリウレタン発泡体の調製において、その反応に必要な熱は自然反応熱により与えられるが、使用するポリオール成分、イソシアネート成分の反応性によっては、100〜150℃程度の温度まで加熱しても良い。
【0149】
本発明の多機能性ポリウレタン発泡体における高粘度水性組成物中の固形分又は多機能性粉末状組成物の含有量は、5〜50重量%が好ましく、より好ましくは10〜40重量%であり、更に好ましくは15〜30重量%である。該含有量が5重量%以上であれば、難燃性、更に防曇性、帯電防止性、防汚性、洗浄性を発現させることができ、50重量%以下であれば、ポリウレタン発泡体の物性が低下する虞がない。
【0150】
ポリオール成分とイソシアネート成分の合計に対する高粘度水性組成物の配合量は、高粘度水性組成物の水分含有量の影響を受けるが、前記方法(a)で固形分を40重量%(水分量60重量%)含む高粘度水性組成物を用いる場合、ポリオール成分とイソシアネート成分の合計100重量部に対して、通常25〜400重量部であり、好ましくは60〜250重量部であり、より好ましくは80〜170重量部である。高粘度水性組成物の配合量が少なすぎる場合、得られる発泡体の難燃性が低くなる虞があり、多すぎる場合、発泡が阻害される虞がある。なお、ポリオール成分に対するイソシアネート成分の通常の配合量は、ポリオール成分100重量部に対して、イソシアネート成分が15〜40重量部であり、目標とする発泡倍率によって定められる。
【0151】
方法(a)によるポリウレタン発泡体の製造例
ポリオール成分としての旭硝子ウレタン(株)製のポリオールシステム「FNC−4004」(発泡剤としての水を含有する。)80重量部と、イソシアネート成分としての日本ウレタン工業(株)製の「コロネート1025」(2,6−トリレンジイソシアネートを含むトリレンジイソシアネート50重量%と、4,4‘−ジフェニルメタンジイソシアネート20重量%と、ポリメチレンポリフェニルポリイソシアネートと、触媒の混合物)20重量部を攪拌しながら混ぜ、前記記載の高粘度水性組成物の製造例で得られた高粘度水性組成物の各々を添加することにより、難燃性ポリウレタン発泡体を得ることができた。
方法(a)により得られたポリウレタン発泡体は、JIS Z2150の防炎1級することができた。更にUL規格のV0に合格可能なものである。
【0152】
前記高粘度の多機能性水性組成物において、親水性無機微粒子を含まず、水溶性有機高分子を含有する水性組成物を用いた方法(a)によるポリウレタン発泡体の製造例
(1)65℃の温水に、高速ミキサーを用いて良く攪拌しながら、クエン酸ナトリウム(扶桑化学工業(株)製精製クエン酸三ナトリウム、CNa・2HO、10重量%水溶液pH8)13.3重量部とクエン酸1.7重量部と、スルファミン酸グアニジン((株)三和ケミカル製「アピノン−101」:1重量%水溶液のpH7.5)67重量部を添加して溶解させ、次に水溶性有機高分子としてポリエーテルポリオール系ウレタンポリマー(株)ADEKA製のアデカノールUH−420(固形分20重量%)17重量部を添加し、良く攪拌しながら室温まで冷却することにより、高粘度水性組成物(P)を得た。
【0153】
(2)ポリオール成分としての旭硝子ウレタン(株)製のポリオールシステム「FNC−4004」(発泡剤としての水を含有する。)80重量部と、イソシアネート成分としての日本ウレタン工業(株)製の「コロネート1025」(2,6−トリレンジイソシアネートを含むトリレンジイソシアネート50重量%と、4,4‘−ジフェニルメタンジイソシアネート20重量%と、ポリメチレンポリフェニルポリイソシアネートと、触媒の混合物)20重量部を攪拌しながら混ぜ、前記高粘度水性組成物(P)を添加することにより、多機能性ポリウレタン発泡体を得ることができた。
【0154】
前記において、スルファミン酸グアニジンの代わりにリン酸グアニジン((株)三和ケミカル製のアピノン−303」:2重量%水溶液のpH9)を用い、クエン酸ナトリウムの代わりに、酒石酸ナトリウム(扶桑化学工業(株)製L−酒石酸ナトリウム:CNa・2HO、5重量%水溶液のpH8)、リンゴ酸ナトリウム(扶桑化学工業(株)「リンゴ酸ソルト」DL−リンゴ酸ナトリウム:CNa・1/2)、アスコルビン酸ナトリウム(扶桑化学工業(株)製L−アスコルビン酸ナトリウム:CNaO)を用いることにより、前記と同様に高粘度水性組成物(Q)を得ることができ、更にポリウレタン発泡体を製造することができた。
【0155】
本発明の多機能性水性組成物を用いた方法(a)によるポリウレタン発泡体は、JIS Z2150の防炎1級に合格することができた。
【0156】
方法(b)によるポリウレタン発泡体の製造例
前記ポリオールシステム「FNC−4004」80重量部と、前記方法で得られた多機能性高粘度水性組成物80重量部とを攪拌しながら混ぜ、次にイソシアネート成分としての前記「コロネート1025」20重量部を添加して、見かけ密度0.13g/cmのポリウレタン発泡体を得た。得られたポリウレタン発泡体にベトツキは全くなく、変色することがなく、風合いに問題がなかった。
方法bにより得られたポリウレタン発泡体は、JIS Z2150の防炎1級することができた。更にUL規格のV0に合格可能なものである。
【0157】
本発明の多機能性ポリウレタン発泡体は、前記アミノトリアジン系窒素化合物とシアヌール酸またはイソシアヌール酸とを反応させて得られる塩eを含有することができる。即ち、発泡剤の存在下、該化合物をポリオール成分と共にイソシアネート成分と反応させることにより、該ポリウレタン発泡体の構成成分とすることができる。これにより該発泡体の難燃性は更に向上する。
【0158】
本発明において、特に好ましい塩eは、入手しやすさ及び価格の点からメラミンシアヌレートである。メラミンシアヌレートを用いてポリウレタン発泡体を製造する場合、前記方法(a)、(b)において、ポリオール成分にメラミンシアヌレートを添加し、分散させたものを用いることもできれば、前記方法(a)、(b)において、前記水性組成物にメラミンシアヌレートを添加して、メラミンシアヌレートをグアニジン化合物や有機カルボン酸の金属塩と共に親水性無機微粒子に担持させた高粘度水性組成物を用いることもできれば、前記方法(c)、(d)において、メラミンシアヌレートを含有する該高粘度水性組成物から水分を除去、乾燥し、更に粉末化した組成物を用いることもできる。
【0159】
メラミンシアヌレートを含有するポリウレタン発泡体は、難燃性が更に向上しているものである。更に、硬さが増し、コシが強いので、洗浄用具として好適に用いることができる。その場合、メラミンシアヌレートの添加量によって、ポリウレタン発泡体のコシの強さを調整することができる。具体的には、前記粉末状の高粘度水組成物50重量部を含有する水100重量部に対して、メラミンシアヌレートの添加量は、20〜50重量部が好ましく、30〜40重量部がより好ましい。
【0160】
本発明の多機能性ポリウレタン発泡体は、難燃性に優れる発泡体であることから、建材、家具、航空機、自動車などの車両の緩衝材として好適に使用できるものである。また、該ポリウレタン発泡体は、グアニジン系鎖状窒素化合物、有機カルボン酸の金属塩等、親水性無機微粒子それぞれの種類を選定することにより、防曇性、帯電防止性、防汚性、洗浄性を発現し、水溶性有機高分子の種類を選定することにより製膜性も発現する。このような本発明の多機能性ポリウレタン発泡体は、水に含浸させるだけで洗浄用具として用いることができ、通常のスポンジタワシ、ポリウレタン発泡体では落ちない汚れを落とすことができる。また、該多機能性ポリウレタン発泡体で磨いたガラスや鏡の表面は曇りにくくなり、自動車のガラスや道路の反射鏡は雨が降っても曇りにくくなり、自動車の車体は汚れにくくなる。
【0161】
本発明の防曇性及び/又は防汚性付与の方法においては、前記防曇付与性、防汚付与性及び/又は洗浄性を有する多機能性繊維製品、多機能性シート、多機能性ポリウレタン発泡体のいずれかからなる防曇性付与及び/又は防汚性付与部材を、防曇性及び/又は防汚性を付与する対象表面に接触保持させる。この場合の接触保持方法としては、該付与部材の一部又は全部が対象表面に接触するように配置固定化する方法であればよい。この場合の固定化方法には、接着や粘着等の化学的方法の他、押圧部材により押圧固定化する等の機械的方法が包含される。
【0162】
前記付与部材は、好ましくは対象表面の上側二隅や中央、又は下側二隅や中央に平面状に配設するか、対象表面の周縁部に沿って帯状に配設するのがよい。
【0163】
該対象表面は、親水性表面であることが必要であるが、該表面が撥水性表面である場合、予め親水化処理して親水性表面に形成する。この場合の親水化処理は、前記高粘度水性組成物を対象表面に塗布し、異物、水分を布で軽く拭取ることにより行うことができる。また、界面活性剤を用いて対象表面を洗浄し、水分を布で拭取ることによっても行うことができる。
【0164】
対象表面に防曇性及び/又は防汚性を継続して付与するには、該対象表面に該付与部材を接触保持させた状態で、該対象表面に対して、水蒸気や水滴を接触させたり、ホースを用いて水をかける等して水分を供給すればよい。また、自然にふってくる雨や、風呂場で発生する蒸気などの、対象表面が存在する環境により自然に供給される水分でも良い。このようにして、水分を供給すると、該表面に供給された水分は、該対象表面に接触保持された付与部材とも接触し、該付与部材中に含まれる防曇成分や防汚成分を溶出させて、該対象表面に防曇成分や防汚成分を含む親水性膜が形成される。これによって、該対象表面に防曇性及び/又は防汚性が付与される。
【0165】
本発明の防曇性付与及び/又は防汚性付与部材による防曇性付与及び/又は防汚性付与の対象物としては、自動車、列車、航空機、家屋の窓ガラスやガラス質の鏡が代表的なものとして挙げられる。但し、窓や鏡はガラス質以外の合成樹脂製のものも対象となり、交通安全用の合成樹脂性の反射ミラーなども好適な対象物となる。それ以外にも、金属性の自動車の車体や建築物の壁等が防汚性付与の対象となる。
【0166】
本発明の付与部材を対象物の表面に配設する場合、具体的には、該部材を対象物の表面の1/300〜1/10の面積に切り出したものを配設し、表面に直接接触させることが好ましい。其の場合、外観を損なわないために、該付与部材は、対象表面の上方の両端部や中央部、下方の両端部や中央部に付設することが好ましい。
【0167】
また、本発明の防曇性付与及び/又は防汚性付与部材は、対象表面の周縁に沿って帯状に周設することもできる。具体的には、窓枠や鏡のフレームの一部として該部材を用いることにより、対象表面を防曇化、防汚化することができる。この場合、付与部材を対象表面に直接接触させないで、窓枠や鏡のフレーム上の対象表面に近い位置に配設し、滲み出た成分が対象物の表面に達するようにすることもできる。
【0168】
本発明の付与部材は、前記対象表面に接着又は粘着可能なテープ、シート、又はワッペンとして構成されていることが好ましい。これらの厚さは、ポリウレタン発泡体の場合で1〜15mm、シートの場合で、合成樹脂や繊維などの素材によっても異なるが、通常0.1〜3mmである。粘着可能にするには、両面テープを用いてもよければ、粘着剤を塗布してもよい。なお、ポリウレタン発泡体は、前記高粘度水性組成物中の固形分を発泡体中に含有するものでもよければ、前記多機能性高粘度水性組成物に含浸乾燥させたものでもよい。
【0169】
また、本発明においては、防曇性付与及び/又は防汚性付与部材を前記対象表面を摺動させてもよい。例えば、自動車や列車等の窓ガラスに取り付けられるワイパーブレードの一部又は全部として該付与部材を用いて、窓ガラスの表面を摺動させることができる。
【0170】
本発明の多機能性高粘度水性組成物や多機能性粉末状組成物を用いた最終製品、具体的には水性の状態で塗布、乾燥させたり、粉体として含有させた最終製品としては、フィルム、シート、テープ、ペレット、ブロック、不織布、織布、繊維等の各種繊維製品、建材、電化製品等の包装資材、家具、家庭用品、自動車や航空機などの車両用内装材などが挙げられる。なお、これらの成形体は発泡成形体とすることができる。
【0171】
本発明の多機能性テープは、前記多機能性組成物が塗布乾燥された繊維製品やシート、前記粉体組成物や粉末状組成物を含有する繊維製品やシートは、前記多機能性ポリウレタン発泡体からなるので、優れた難燃性を有し電線の被覆や、難燃性の建築用コーキング用テープとして用いることができる。また、防汚性テープとして用いることができ、特定の水溶性有機高分子及び親水性多孔質無機微粒子を用いたものは防曇性テープとして用いることができる。該テープの厚みは、前記付与部材と同じであり、その幅は5〜20mmである。また、該多機能性テープには接着性又は粘着性を付与することができる。
【0172】
本発明の水性や粉体の多機能性組成物は、優れた難燃化効果、帯電防止性を有し、また 本発明の多機能性高粘度水性組成物や多機能性粉末状組成物は、難燃化効果を有し、優れた防曇性、帯電防止性、防汚性、洗浄性、製膜性を発現できることから、本明細書で説明した用途以外にも幅広い用途での使用が期待される。
【実施例】
【0173】
次に、本発明を実施例によりさらに詳細に説明する。なお、以下において示す部及び%はいずれも重量基準である。
【0174】
実施例1、2
(株)AIHO製の高速ミキサー「MX−45」を用い、65℃の温水500gを高速攪拌しながら、表1に示す種類、量のカルボキシ化合物とグアニジン化合物を溶解させ、次に高速攪拌しながら温水を室温まで自然放冷して、表1に示す多機能性水性組成物(水溶液)を得た。
【0175】
比較例1
(株)AIHO製の高速ミキサー「MX−45」を用いて攪拌しながら、65℃の温水500gに、pH9のスルファミン酸グアニジン(株式会社三和ケミカル製「アピノン−301」)を300g溶解させた。このものを冷却したところ、多量のスルファミン酸グアニジンが沈殿した。上澄みを取出して比較例1の多機能性水性組成物(pH7.5)とした。
【0176】
比較例2
(株)AIHO製の高速ミキサー「MX−45」を用い、65℃の温水500gを高速攪拌しながら、実施例1と同様のクエン酸ナトリウム66.5gとクエン酸8.5gを溶解させ、次に高速攪拌しながら温水を室温まで自然放冷して、クエン酸ナトリウム等の水溶液を得た。
【0177】
参考難燃性試験(1)
実施例1、2、比較例1、2で得られた難燃性水溶液6mLを30cm×20cmmの紙に塗布し、乾燥させてからバーナーの炎に10秒接触させたところ、実施例1、2の水性組成物(水溶液)を塗布した紙は、炭化長さが5mm以下であり、JIS Z2150の防炎1級に合格する難燃性を示した。これに対し、比較例1の水溶液を塗布した紙は、炭化長さが5mm以上であり、防炎3級に合格する程度の難燃性を示しただけであった。
比較例2の水溶液を塗布した紙は、バーナーの炎に接触させると激しく燃え出し、難燃性が発現することはなかった。
【0178】
参考難燃性試験(2)
実施例1で得られた多機能性水性組成物に(株)セイレン製のポリエステル繊維を20秒浸漬した後、乾燥させたものから、各10枚の試験片(幅13mm×長さ125mm×繊維の厚み)を作製した。
各試験片につきUL94に従って耐炎性試験を行った。即ち、通風のないチェンバ内で、クランプのあるリングスタンドを用いて、試験片を垂直に吊るした。次に、ブンゼンバーナの炎を長さ20mmの青い炎になるように調整し、該炎を試験片の下炎の中心点にあて、バーナーの先端が試験片の下端から10mm下に位置するようにし、10秒間接炎(第1回目の接炎)してから炎を取去った。繊維の燃焼が終わってから第1回目の接炎と同様に再度10秒間接炎(第2回目の接炎)してから炎を取去った。各試験片につき、第1回目の残炎時間(t1)、第2回目の残炎時間(t2)、(t1+t2)時間、2回目の残じん(t3)、(t2+t3)時間、クランプまでの残炎・残じんの有無、滴下物着火の有無を表2に示す。表2から、実施例1の多機能性水溶液を塗布乾燥したものはUL94の「V0」に合格していることが判る。なお、この難燃性試験は、財団法人「日本繊維製品品質技術センターの福井試験センター」が行ったものである。
【0179】
【表1】

【0180】
【表2】

【0181】
参考実施例3
昭和高分子(株)製のアクリルエマルジョン「商品名ポリゾール(固形分40重量%)」100重量部と、参考実施例1の多機能性水溶液60重量部を混合し、高速で攪拌して、難燃性樹脂エマルジョンを得た。
【0182】
参考難燃性試験(3)
1辺10cm、高さ5cmの鉄製容器に、参考実施例3の多機能性樹脂エマルジョン10ccを入れ、バーナーで30秒熱したところ、炎が出ることなく樹脂微粒子が炭化した。これに対し、原料エマルジョン10ccを入れて、バーナーで30秒熱すると、炎が激しく出た。
【0183】
参考実施例4、参考比較例3、参考実施例5、参考実施例6
(株)AIHO製の高速ミキサー「MX−45」を用い、65℃の温水1000mLを高速攪拌しながら、表3に示す種類、量のカルボキシ化合物とグアニジン化合物を溶解させ、次に表3に示す種類、量の水溶性有機高分子、親水性無機微粒子を順に添加し、次に高速攪拌しながら室温まで自然冷却して、表3に示す成分含有量の高粘度水性組成物を得た。
なお、参考比較例3の場合、カルボキシ化合物が添加されていないため、多量のスルファミン酸グアニジンが沈殿してしまった。従って、参考比較例3については、後記の難燃性試験、防曇性試験、ポリウレタンの発泡試験等においては、上澄み液を用いて各試験を行った。
【0184】
【表3】



【0185】
参考難燃性試験(4)
参考実施例4、参考比較例3、参考実施例5、参考実施例6で得られた高粘度水性組成物6mLを30cm×20cmmの紙に塗布し、乾燥させてから、該紙をJIS Z2150に準拠して傾かせた状態で、バーナーの炎に10秒接触させたところ、参考実施例4、5、6の高粘度水性組成物を塗布乾燥した紙は、炭化長さが5mm以下であり、防炎1級に合格する難燃性を示した。これに対し、参考比較例3の水性液を塗布乾燥した紙は、炭化長さが5mm以上であり、防炎2級に合格する程度の難燃性を示しただけであった。
【0186】
参考難燃性試験(5)
参考実施例4で得られた高粘度水性組成物に、(株)セイレン製ポリエステル繊維を20秒浸漬した後、乾燥したものから、各10枚の試験片(幅13mm×長さ125mm×繊維の厚み)を作製した。
各試験片につき、前記難燃性試験(2)と同様に、UL94の耐炎性試験を行った。試験結果を表4に示す。表4から、参考実施例4の高粘度水性組成物を塗布乾燥したものはUL94の「V0」に合格していることが判る。なお、この難燃性試験は、財団法人「日本繊維製品品質技術センターの福井試験センター」が行ったものである。
【0187】
【表4】

【0188】
参考防曇性試験(1)
<1>5cm×10cmのガラス板の片面に参考実施例4、参考比較例3、参考実施例5、参考実施例6で得られた水性液を3ml塗布し、布で異物、水分を軽く拭取り、乾燥させた。
<2>次に、家庭用加湿器「象印マホービン(株)製 スチーム加湿器EF−LE30 定格加湿能力300ml/h」の上部蒸気噴出し口の部分を20cm×10cmのガラス2枚と10cm×10cmのガラス2枚のガラスで囲んだ空間を形成し、その内部に実施例4、参考比較例3、参考実施例5、参考実施例6の水性液を塗布乾燥したガラス板と水性液を塗布乾燥していないガラス板(ブランク)の各々を立て掛け、該空間の上部から蒸気が逃げないように20cm×10cmのガラスを乗せてから、蒸気を発生させて飽和状態とした。そのまま、1時間加湿器作動させながら放置した。
<3>その結果、参考実施例4の水性液を塗布乾燥したガラス板の面は1時間経過した後も殆ど曇らず、結露もしなかった。これに対し、参考比較例3の水性液を塗布乾燥したガラス板は、激しく曇ることはなかったが実施例4のものに比べると僅かに曇が発生し透明性が悪くなった。参考実施例6の水性液を塗布乾燥したガラス板は、親水性無機微粒子が添加されていないことから、ブランクのガラス板と同様に、蒸気を発生させると直ちに曇り、結露が発生した。参考実施例5の水性液を塗布乾燥したガラス板は最初は曇らなかったが、次第に曇り始めて結露が発生し、その防曇性に持続性がないことが確認された。其の原因としては、水性有機高分子が添加されていないため、持続性のある塗膜が形成されていないためであると考えられる。
<4> 以上の結果から、表3の参考実施例4の防曇性の欄には◎を記入し、参考比較例3の欄には△を記入し、参考実施例5の欄には○(持続性なし)を記入し、参考実施例6の欄には×を記入した。
<5>参考実施例5、参考実施例6の水性組成物は、スルファミン酸グアニジンとクエン酸ナトリウムを含有することにより優れた難燃性を示すことができる。しかし、参考実施例5の水性組成物は水溶性有機高分子を含有しないことにより製膜性に欠けることから、参考実施例4の水性組成物のような防曇性を発揮することができない。また、参考実施例6の水性組成物は親水性無機微粒子を含有しないことから、防曇性に劣っている。なお、参考実施例5、参考実施例6は、難燃性を有していると言う点では参考実施例であるが、防曇性を発現する水性組成物に対しては、参考比較例となるものである。

【0189】
参考実施例7
ポリウレタン発泡体の製造
ポリオール成分としての旭硝子ウレタン(株)製のポリオールシステム「FNC−4004」(発泡剤としての水を含有する。)80重量部と、イソシアネート成分としての日本ウレタン工業(株)製の「コロネート1025」(2,6−トリレンジイソシアネートを含むトリレンジイソシアネート50重量%と、4,4‘−ジフェニルメタンジイソシアネート20重量%と、ポリメチレンポリフェニルポリイソシアネートと、触媒の混合物)20重量部を攪拌しながら混ぜ、次に参考実施例4の高粘度水性組成物を80重量部添加して、見かけ密度0.11g/cmのポリウレタン発泡体を得た。得られたポリウレタン発泡体にベトツキは全くなく、風合いに問題が無く、変色することがなく、大きな物性の低下も見られなかった。表3の参考実施例4のポリウレタンの発泡性の欄には◎を記入した。
【0190】
参考実施例8、参考実施例9、参考比較例4
ポリウレタン発泡体の製造
参考実施例7と同様に、参考比較例3、参考実施例5、参考実施例6の高粘度水性組成物を用いてポリウレタン発泡体を作成し、その発泡性を観察した。
参考比較例3の水溶液を用いた場合(参考比較例4)、参考実施例7と同様に良好な発泡体を得ることができた(表3の参考比較例3のポリウレタンの発泡性の欄には◎を記入した。)。参考実施例5の高粘度水性組成物を用いた場合(参考実施例8)、粘度不足のため、発泡体を得ることはできたが発泡性が劣っていた(表3の参考実施例5のポリウレタンの発泡性の欄には△を記入した。)。参考実施例6の高粘度水性組成物を用いた場合(参考実施例9)、参考実施例8より良い発泡体を得ることはできたが、参考実施例7、参考比較例4には及ばなかった(表3の参考実施例6のポリウレタンの発泡性の欄には○を記入した。)。
【0191】
参考実施例10
参考実施例4の配合に加え、日産化学株式会社社製のメラミンシアヌレート(MC−610)200重量部を添加し、高粘度水性組成物を得た。
【0192】
ポリウレタン発泡体の製造
ポリオール成分としての旭硝子ウレタン(株)製のポリオールシステム「FNC−4004」(発泡剤としての水を含有する。)100重量部と、イソシアネート成分としての日本ウレタン工業(株)製の「コロネート1025」(2,6−トリレンジイソシアネートを含むトリレンジイソシアネート50重量%と、4,4‘−ジフェニルメタンジイソシアネート20重量%と、ポリメチレンポリフェニルポリイソシアネートと、触媒の混合物)20重量部と前記高粘度水性組成物200重量部を攪拌しながら混ぜ、見かけ密度0.26g/cmのポリウレタン発泡体を得た。得られたポリウレタン発泡体にベトツキ、変色は全くなく、洗浄用具として用いるのに十分なコシの強さを有するものであった。また、難燃性に優れ、炎に晒された場合の溶融物の滴下が全くなかった。
【0193】
難燃性試験(6)
JIS Z 2150に準拠して、参考実施例7、参考比較例4、参考実施例8、参考実施例9で得られたポリウレタン発泡体にバーナーの炎を10秒接触させたところ、参考実施例7、参考実施例8、参考実施例9のポリウレタン発泡体は、炭化長さが5mm以下であり、防炎1級に合格する難燃性を示した。これに対し、参考比較例4のポリウレタン発泡体は、炭化長さが5mm以上であり、JISA1322の難燃性試験方法の防炎2級に合格する程度の難燃性を示しただけであった。
【0194】
難燃性試験(7)
参考実施例7で得られたポリウレタン発泡体から、各10枚の試験片(幅50mm×長さ150mm×厚み13mm)を作製した。
各試験片につきUL94の耐炎性試験を行った。即ち、通風のないチェンバ内で、クランプのあるリングスタンドを用いて、試験片を垂直に吊るした。次に、ブンゼンバーナの炎を長さ38mmの青い炎になるように調整し、該炎を試験片の下炎の中心点にあてて、60秒間接炎してから炎を取去った。各試験片につき、着火時間、残じん時間、破損した長さ、滴下物による綿着火の有無を表5に示す。表5から、参考実施例7で得られたポリウレタン発泡体は、UL94の「V0」に合格していることが判る。なお、この難燃性試験は、財団法人「日本繊維製品品質技術センターの福井試験センター」が行ったものである。
【0195】
【表5】

【0196】
参考洗浄性試験
長年にわたって使用した結果、汚れがこびり付いた2m角のガラステーブルを、参考実施例7で得られたポリウレタン発泡体に水を含浸させて磨いたところ、汚れを容易に落とすことができた。更に、その後、ガラステーブルに埃が付きにくくなった。また、参考実施例8、参考実施例9で得られたポリウレタン発泡体もクエン酸ナトリウムを含有するため、参考実施例7には劣るが優れた洗浄性を示した
これに対し、参考比較例4で得られたポリウレタン発泡体に水を含浸させて磨いたところ、汚れは容易に落ちなかった。
この結果に基づき、表3の参考実施例7、参考実施例8、参考実施例9の洗浄性には◎を記入し、参考比較例3の洗浄性には×を記入した。
【0197】
参考防曇性試験(2)
<1> 参考実施例7で得られたポリウレタン発泡体に水を含浸させて、自動車のレアーガラス(後部ガラス)の外側半分、車体の半分を擦って、親水性塗膜を形成してから、異物、水を布で軽く拭きとった。
<2>その後、車体に水道水を放流させた。参考実施例7で得られたポリウレタン発泡体を用いて親水性塗膜を形成した部分においては、水は全面に拡がって流れ、特に水平のルーフ及びボンネットにはきれいな水膜ができた。ここで水道の栓を止めると直ちに放流のやんだ所から、例えば、ボンネットの高い部分から水平に水膜がきれて行き、水切れが非常に良く、水滴が殆ど残らないことが確認された。これに対し、参考実施例7のポリウレタン発泡体で親水性塗膜を形成しなかった部分においては、撥水加工が施されているため、水平のルーフ及びボンネットには水膜が形成されず、水道の栓を止めると放流のやんだ所には、水滴が散在する状態になった。
<3>また、自動車のレアーウインドウの外側に親水性塗膜を形成した部分は、雨が降っても水はけがよく視界を良好に保つことができた。これに対し、親水性塗膜を形成しなかった部分は、雨が降ると水滴(水玉)がレアーウインドウの外側に付着し、視界が悪くなった。また、親水性塗膜を塗布乾燥した部分には、寒い朝でも霜が結露しなかったが、塗布乾燥していない部分には霜が結露してしまった。
<4>また、親水性塗膜を形成した部分は汚れ難く、1週間放置したところ目立つような埃はつかなかった。僅かについた埃も水をかけるだけで簡単に落とすことができた。これに対し、親水性塗膜を形成しなかった部分は、1週間放置しておくと埃の付着が目立つようになった。
【0198】
参考帯電性試験
参考実施例4で得られた水溶液を用いて表面処理した織物について、JIS L1094法によりその帯電防止性を評価した。その結果、無処理の場合には、その電荷の半減期は120秒以上、その摩擦帯電圧は4000V以上であったのに対し、参考実施例4の場合には、その電荷の半減期は約10秒、その摩擦帯電圧は約1500Vであり、本発明の高粘度水性組成物で形成した塗膜は、良好な帯電防止性を有することが判る。
【0199】
参考実施例11、参考実施例12
表6に示す種類、量のグアニジン化合物、親水性無機微粒子を用いた以外は、参考実施例4と同様に高粘度水性組成物を得た。
【0200】
【表6】


【0201】
得られた高粘度水性組成物を用いて参考難燃性試験(4)と同様に参考難燃性試験を行ったところ、参考実施例11、参考実施例12の高粘度水性組成物を塗布乾燥した紙は、防炎1級に合格する難燃性を示した。また、参考難燃性試験(5)と同様に難燃性試験を行ったところ、参考実施例11、12の高粘度水性組成物を塗布乾燥したポリエステル繊維は、UL94の「V0」に合格する難燃性を示した。
【0202】
参考実施例13、参考実施例14
参考実施例11、参考実施例12の夫々の高粘度水性組成物を用いて参考実施例7と同様にポリウレタン発泡体を製造した。得られたポリウレタン発泡体は共に、大きな物性の低下も見られなかった。表6の参考実施例13、参考実施例14のポリウレタンの発泡性の欄には◎を記入した。特に、スルファミン酸グアニジンを用いて参考実施例13で得られたポリウレタン発泡体はベトツキが全くなく、風合いに問題が無く、変色することがないものであった。
【0203】
参考防曇性試験(3)
<1>参考実施例11の高粘度水性組成物と市販のTOTO(株)製「結露水滴防止コート」の防曇付与性の比較を行った。
<2>12.5cm×13.5cmの鏡を2枚用意して、各々に参考実施例4の高粘度水性組成物3mlと「結露水滴防止コート」3mlを塗り、布で異物、水分を軽く拭取って乾燥させた。参考実施例4の高粘度水性組成物を塗布した鏡には、更に参考実施例4の高粘度水性組成物5mlを浸み込ませたウレタンテープ(1cm×12.5cm×厚さ0.6cm)を鏡の表面の最上部に貼設し、接触させた。
<2>次に、家庭用加湿器「象印マホービン(株)製 スチーム加湿器EF−LE30 定格加湿能力300ml/h」の上部蒸気噴出し口の部分を20cm×10cmのガラス2枚と10cm×10cmのガラス2枚のガラスで囲んで空間を形成し、その内部に前記2枚の鏡を立て、該空間の上部から蒸気が逃げないように20cm×10cmのガラスを乗せてから、蒸気を発生させて飽和状態とした。
<3>1日10時間加湿器作動させながら10日放置した。その結果を表7に示す。
表7中、○印は「結露・水滴なし、曇なし」を、△印は「曇少し発生」を、×印は「全面結露、全面曇発生」をそれぞれ示す。
<4>表7から、本発明の高粘度水性組成物を塗布、乾燥し、更に高粘度水性組成物を浸み込ませたウレタンテープを付設接触させた鏡は、10日後も曇、結露が発生しないのに対し、従来の防曇付与性製品は、6日もすると防曇付与性がなくなってしまうことが判る。
【0204】
【表7】

【0205】
参考防曇性試験(4)
自動車のレアーウインドウ(幅120cm×高さ77cm)を、水に浸した参考実施例13のポリウレタン発泡体で擦って洗浄してから、布で異物及び水分を軽く拭き取った。次に、参考実施例13のポリウレタン発泡体を厚み2mm、幅1mmの粘着性テープとして作製し、水に濡らして、レアーウインドウの上端側に沿って貼り。そのようにして、毎日自動車を1ヶ月乗り回した。その間、2回雨が降った。いずれの雨の場合も、雨水はレアーウインドウの全面に拡がって流れ、視界は良好であった。



【特許請求の範囲】
【請求項1】
スルファミン酸グアニジンと、カルボキシ化合物とからなる難燃性組成物が水に溶解してなる難燃性水性組成物中の水分を除去することにより得られた粉体の難燃性組成物であって、
該カルボキシ化合物が、クエン酸の金属塩と、必要に応じて添加されるクエン酸とからなり、
該カルボキシ化合物の含有量が、スルファミン酸グアニジンとカルボキシ化合物の合計含有量に対して5〜50重量%であることを特徴とする難燃性粉体組成物。
【請求項2】
前記難燃性水性組成物が、更にメラミンシアヌレートを含有する、請求項1に記載の難燃性粉体組成物。
【請求項3】
前記難燃性水性組成物のpHが6〜8である、請求項1に記載の難燃性粉体組成物。
【請求項4】
請求項1に記載の難燃性粉体組成物を含有することを特徴とする難燃性樹脂組成物。
【請求項5】
難燃性粉体組成物の含有量が1〜60重量%であることを特徴とする請求項4に記載の難燃性樹脂組成物。
【請求項6】
前記難燃性樹脂組成物を構成する樹脂が、ポリエチレン系樹脂、ポリプロピレン系樹脂、ポリスチレン系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリ塩化ビニル系樹脂のいずれかであることを特徴とする請求項4に記載の難燃性樹脂組成物。
【請求項7】
請求項1に記載の難燃性粉体組成物を含有することを特徴とする難燃性樹脂成形体。
【請求項8】
前記難燃性樹脂成形体を構成する樹脂が、ポリエチレン系樹脂、ポリプロピレン系樹脂、ポリスチレン系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリ塩化ビニル系樹脂のいずれかであることを特徴とする請求項7に記載の難燃性樹脂成形体。
【請求項9】
JIS Z2150の防炎1級及び/又は規格UL94のV0に合格することを特徴とする請求項7に記載の難燃性樹脂組成物。
【請求項10】
請求項1〜3のいずれかに記載の難燃性粉体組成物を含有することを特徴とする難燃性樹脂発泡成形体。
【請求項11】
前記難燃性樹脂発泡成形体を構成する樹脂が、ポリエチレン系樹脂、ポリプロピレン系樹脂、ポリスチレン系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリ塩化ビニル系樹脂のいずれかであることを特徴とする請求項10に記載の難燃性樹脂発泡成形体。
【請求項12】
JIS Z2150の防炎1級及び/又は規格UL94のV0に合格することを特徴とする請求項11に記載の難燃性樹脂発泡成形体。





【公開番号】特開2012−255167(P2012−255167A)
【公開日】平成24年12月27日(2012.12.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−181680(P2012−181680)
【出願日】平成24年8月20日(2012.8.20)
【分割の表示】特願2009−187491(P2009−187491)の分割
【原出願日】平成20年6月12日(2008.6.12)
【出願人】(595149221)南姜エフニカ株式会社 (9)
【Fターム(参考)】