説明

難燃性繊維シート

【課題】 VOCを発生させることなく、難燃性に優れている難燃性繊維シートを提供すること。
【解決手段】 本発明の難燃性繊維シートは、温度235℃、2.16kg荷重時におけるメルトボリュームフローレートが10cm/10min.以上のナイロン11樹脂を含む繊維を10mass%以上含有している。なお、ナイロン11樹脂は比重がポリエステル繊維よりも小さいため、難燃性繊維シートを従来よりも軽量にすることができ、更に、ナイロン11樹脂は耐光性に優れ、変色しにくい。そのため、自動車用の内装シートとして好適に使用できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は難燃性繊維シートに関する。特に、自動車用の内装シートとして好適に使用できる難燃性繊維シートに関する。
【背景技術】
【0002】
従来から自動車の内装シート、特に表皮シートとして、意匠性に優れるように、ポリエステル原着繊維を用いたシートが用いられている(特許文献1)。このシートは意匠性に優れるものであったが、通常、自動車の内装シートには難燃性が必要とされるため、難燃性を付与するためにリン系などの難燃剤が添加されている。しかしながら、このような難燃剤を含んでいることによって、揮発性有機化合物(VOC)を発生しやすいため、難燃剤を使用することなく、難燃性に優れているのが好ましい。
【0003】
このような難燃性の問題は自動車用途のみならず、例えば、電気製品等の緩衝材、吸音材又は断熱材、皮革シート、壁紙などの建材、フィルタ、カーテン、家具などのインテリア材、或いは耐熱衣服の用途に使用する場合にも、VOCを発生させることなく、難燃性に優れているのが好ましい。
【0004】
【特許文献1】特開平11−268596号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は上述のような状況下においてなされたものであり、VOCを発生させることなく、難燃性に優れている難燃性繊維シートを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の請求項1にかかる発明は、「温度235℃、2.16kg荷重時におけるメルトボリュームフローレートが10cm/10min.以上のナイロン11樹脂を含む繊維を10mass%以上含有する難燃性繊維シート。」である。
【0007】
本発明の請求項2にかかる発明は、「自動車用の内装シートとして使用する、請求項1記載の難燃性繊維シート。」である。
【発明の効果】
【0008】
本発明の請求項1にかかる発明は、温度235℃、2.16kg荷重時におけるメルトボリュームフローレートが10cm/10min.以上のナイロン11樹脂を含む繊維を10mass%以上含有する難燃性繊維シートは難燃剤を含まなくても、難燃性に優れていることを見出した。また、ナイロン11樹脂は比重がポリエステル繊維よりも小さいため、難燃性繊維シートを従来よりも軽量にすることができる。更に、ナイロン11樹脂は耐光性に優れ、変色しにくいという特長もある。
【0009】
本発明の請求項2にかかる発明は、自動車用の内装シートとして使用した場合であっても、十分な難燃性を発揮することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
本発明の難燃性繊維シートは、温度235℃、2.16kg荷重時におけるメルトボリュームフローレートが10cm/10min.以上のナイロン11樹脂を含む繊維を10mass%以上含有しているため、難燃剤を含まなくても難燃性に優れている。通常、ナイロン樹脂のLOI値は20〜21程度で可燃性であるという認識があるにもかかわらず、特定のナイロン11樹脂が難燃性に優れていることは驚きである。
【0011】
ナイロン11樹脂は主鎖中にアミド結合を有するポリマーである、ポリウンデカンアミドである。このナイロン11樹脂が植物由来の炭素からなると、環境に優しいため好適である。このような植物由来のナイロン11樹脂として、例えば、Rilsan(登録商標、アルケマ社製)を挙げることができる。なお、ナイロン11樹脂はポリエステル樹脂よりも比重が小さいため、難燃性繊維シートを軽量化できるという特長もある。更に、ナイロン11樹脂は耐光性に優れ、変色しにくいという特長もある。
【0012】
このようなナイロン11樹脂の中でも、温度235℃、2.16kg荷重時におけるメルトボリュームフローレートが10cm/10min.以上のナイロン11樹脂が難燃性に優れていることを見出した。本発明者の実験によると、温度235℃、2.16kg荷重時におけるメルトボリュームフローレートが10cm/10min.未満であると、十分な難燃性を発揮することができない。前記メルトボリュームフローレートが高い方が難燃性に優れる傾向があるため、20cm/10min.以上であるのが好ましく、30cm/10min.以上であるのが更に好ましい。なお、前記メルトボリュームフローレートの上限は特に限定するものではない。
【0013】
本発明における、「温度235℃、2.16kg荷重時におけるメルトボリュームフローレート」は、ISO 1133に従い、温度235℃、荷重2.16kgの条件にて測定したメルトボリュームフローレートである。
【0014】
本発明の難燃性繊維シートは上述のようなナイロン11樹脂を含む繊維(以下、単に「ナイロン11系繊維」と表記することがある)を10mass%以上含有するシートである。ナイロン11系繊維は、ナイロン11樹脂のみからなる単一繊維であることもできるし、ナイロン11樹脂以外の樹脂も含む複合繊維であることもできるが、単一繊維であると、ナイロン11樹脂量が多いことによって、より難燃性に優れているため、単一繊維からなるのが好ましい。
【0015】
なお、ナイロン11系繊維が複合繊維である場合、ナイロン11樹脂は表面に露出していても良いし、露出していなくても良い。また、複合繊維の繊維断面における配置として、例えば、芯鞘型(偏芯を含む)、サイドバイサイド型、海島型、積層型を挙げることができる。複合繊維である場合のナイロン11樹脂以外の樹脂として、ナイロン6、ナイロン66などナイロン系樹脂、ポリエチレン、ポリプロピレンなどのオレフィン系樹脂、ポリエステル系樹脂などを挙げることができる。融点の低い樹脂が繊維表面に露出している場合には、その繊維表面に露出した樹脂を融着させることによって、難燃性繊維シートに機械的強度や耐摩耗性を付与することができる。更に、複合繊維におけるナイロン11樹脂は難燃性に優れるように、複合繊維中のナイロン11樹脂が難燃性繊維シートの10mass%以上含まれているのが好ましい。
【0016】
また、ナイロン11系繊維は顔料及び/又は染料を含有する原着繊維であるのが好ましい。意匠性に優れる難燃性繊維シートであることができるためである。また、ナイロン11系繊維はVOCを発生することがないように、難燃剤を含んでいないのが好ましい。
【0017】
ナイロン11系繊維の繊度及び繊維長は難燃性繊維シートの態様によって異なるため、特に限定するものではないが、不織布の態様である場合、繊度は1dtex〜22dtexであるのが好ましく、繊維長は35〜130mmであるのが好ましい。
【0018】
本発明の難燃性繊維シートは上述のようなナイロン11系繊維を10mass%以上含有していることによって、難燃性に優れるものである。10mass%未満では難燃性に劣ることを確認している。このナイロン11系繊維量が多いほど、難燃性に優れているため、ナイロン11系繊維は20mass%以上含まれているのが好ましい。
【0019】
なお、本発明の難燃性繊維シートは上述のようなナイロン11系繊維のみから構成することができるが、難燃性を阻害しない範囲内で、ナイロン11系繊維以外の繊維を含んでいることができる。このようなナイロン11系繊維以外の繊維として、例えば、ナイロン6、ナイロン66などのナイロン系繊維、ビニロン繊維、ビニリデン繊維、ポリ塩化ビニル繊維、ポリエステル繊維、アクリル繊維、ポリエチレン、ポリプロピレンなどのポリオレフィン系繊維、ポリウレタン繊維などの合成繊維;レーヨン繊維、キュプラ繊維などの再生繊維;アセテート繊維などの半合成繊維;綿、麻などの植物繊維;羊毛、絹などの動物繊維、を挙げることができる。
【0020】
なお、ナイロン11系繊維以外の繊維も意匠性に優れるように、顔料及び/又は染料を含有する原着繊維であるのが好ましい。また、VOCを発生させることがないように、ナイロン11系繊維以外の繊維も難燃剤を含んでいないのが好ましい。更に、難燃性繊維シートに機械的強度や耐摩耗性を付与するために、融着繊維を含んでいるのが好ましい。この融着繊維はより機械的強度や耐摩耗性を付与しやすい、融点の異なる2種類以上の樹脂からなる複合繊維であるのが好ましく、融点の低い低融点樹脂が繊維表面に露出しているのが好ましい。なお、ナイロン11系繊維を溶融させない場合、融着繊維の低融点樹脂の融点はナイロン11樹脂の融点よりも低いのが好ましい。
【0021】
本発明の難燃性繊維シートはナイロン11系繊維を含むものであり、その態様は特に限定するものではないが、例えば、不織布、織物、編物、或いはこれらの複合体であることができる。なお、これらの態様からなる難燃性繊維シートは、ナイロン11系繊維を用いて、常法により製造することができる。例えば、不織布の態様を有する場合、カード機やエアレイ法などの乾式法、スパンボンド法やメルトブロー法などの直接法、又は湿式法により繊維ウエブを形成した後、ニードルパンチ、繊維融着、水流絡合、及び/又はバインダ接着を適宜組み合わせることによって、製造することができる。
【0022】
本発明の難燃性繊維シートは、前述のナイロン11系繊維を10mass%以上含有していることによって、FMVSS(Federal Motor−Vehicle Safety Standard)No.302 燃焼試験(JIS D1201)において、80mm/min.以下の難燃性に優れるものである。なお、難燃性繊維シートの目付、厚さは特に限定するものではなく、適用用途によって、適宜調整することができる。本発明の難燃性繊維シートの好適な用途である自動車用の内装シートの場合、目付は50〜400g/mであるのが好ましく、厚さは0.5〜10mmであるのが好ましい。
【0023】
このように、本発明の難燃性繊維シートは難燃剤を含んでいなくても、難燃性に優れるシートであるため、難燃性を必要とする用途、例えば、自動車用の内装シート(特に、表皮シート)、電気製品等の緩衝材、吸音材又は断熱材、皮革シート、壁紙などの建材、フィルタ、カーテン、家具などのインテリア材、或いは耐熱衣服の用途に、好適に使用することができる。特に、自動車用の内装シートとして使用しても、十分な難燃性を発揮するため、好適に使用できる。より具体的には、天井、ドアーサイド、ピラーガーニッシュ、リヤパッケージ、シートサイド、シートバック、フロアーカーペットなどの内装材の表皮材として好適に使用することができる。
【実施例】
【0024】
以下に、本発明の実施例を記載するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。なお、燃焼性試験はFMVSS No.302 燃焼試験(JIS D1201)に準じて測定した。
【0025】
(実施例1〜2、比較例1〜2)
表1に示す割合で繊維を混合し、カード機により開繊して繊維ウエブを形成した後、針密度350本/cmでニードルパンチして、ニードルパンチ不織布を製造した。次いで、このニードルパンチ不織布を温度160℃に設定した熱処理機により5分間の熱処理を実施して、融着難燃不織布を製造した。
【0026】
【表1】

#1:原着ポリエステル単一繊維(繊度:6.6dtex、繊維長:76mm、難燃剤を含んでいない)
#2:原着融着複合繊維[繊度:4.4dtex、繊維長:51mm、芯成分:ポリエステル、鞘成分:変性ポリエステル(融点:110℃)、難燃剤を含んでいない]
#3:原着ナイロン11単一繊維A[繊度:3.3dtex、繊維長:51mm、Rilsan(登録商標)BMNO、アルケマ社製、温度235℃、2.16kg荷重時におけるメルトボリュームフローレート:11cm/10min.、比重:1.03g/cm、難燃剤を含んでいない]
#4:OK・・燃焼速度が80mm/min.以下、NG・・燃焼速度が80mm/min.を超える
【0027】
この表1から、ナイロン11系繊維を10mass%以上含んでいることによって、難燃性に優れていることがわかった。
【0028】
(実施例3、比較例3〜5)
表2に示す割合で繊維を混合し、カード機により開繊して繊維ウエブを形成した後、針密度350本/cmでニードルパンチして、ニードルパンチ不織布を製造した。次いで、このニードルパンチ不織布を温度160℃に設定した熱処理機により5分間の熱処理を実施して、融着難燃不織布を製造した。
【0029】
【表2】

#1:原着ポリエステル単一繊維(繊度:6.6dtex、繊維長:76mm、難燃剤を含んでいない)
#2:原着融着複合繊維[繊度:4.4dtex、繊維長:51mm、芯成分:ポリエステル、鞘成分:変性ポリエステル(融点:110℃)、難燃剤を含んでいない]
#5:原着ナイロン11単一繊維B[繊度:3.3dtex、繊維長:51mm、Rilsan(登録商標)BECN TL、アルケマ社製、温度235℃、2.16kg荷重時におけるメルトボリュームフローレート:30cm/10min.、比重:1.03g/cm、難燃剤を含んでいない]
#6:原着ナイロン11単一繊維C[繊度:3.3dtex、繊維長:51mm、Rilsan(登録商標)BESVO A FDA、アルケマ社製、温度235℃、2.16kg荷重時におけるメルトボリュームフローレート:1cm/10min.未満、比重:1.03g/cm、難燃剤を含んでいない]
#7:原着ナイロン11単一繊維D[繊度:3.3dtex、繊維長:51mm、Rilsan(登録商標)BESNO TL、アルケマ社製、温度235℃、2.16kg荷重時におけるメルトボリュームフローレート:1cm/10min.、比重:1.03g/cm、難燃剤を含んでいない]
#4:OK・・燃焼速度が80mm/min.以下、NG・・燃焼速度が80mm/min.を超える
【0030】
この表2の結果から、ナイロン11樹脂の温度235℃、2.16kg荷重時におけるメルトボリュームフローレートが10cm/10min.以上であると、難燃性に優れていることがわかった。
【0031】
(比較例6〜13)
表3、4に示す割合で繊維を混合し、カード機により開繊して繊維ウエブを形成した後、針密度350本/cmでニードルパンチして、ニードルパンチ不織布を製造した。次いで、このニードルパンチ不織布を温度160℃に設定した熱処理機により5分間の熱処理を実施して、融着難燃不織布を製造した。
【0032】
【表3】

#1:原着ポリエステル単一繊維(繊度:6.6dtex、繊維長:76mm、難燃剤を含んでいない)
#2:原着融着複合繊維[繊度:4.4dtex、繊維長:51mm、芯成分:ポリエステル、鞘成分:変性ポリエステル(融点:110℃)、難燃剤を含んでいない]
#8:ナイロン66単一繊維[繊度:6.6dtex、繊維長:76mm、難燃剤を含んでいない]
#9:ナイロン6単一繊維[繊度:3.3dtex、繊維長:51mm、難燃剤を含んでいない]
#4:OK・・燃焼速度が80mm/min.以下、NG・・燃焼速度が80mm/min.を超える
【0033】
【表4】

#1:原着ポリエステル単一繊維(繊度:6.6dtex、繊維長:76mm、難燃剤を含んでいない)
#2:原着融着複合繊維[繊度:4.4dtex、繊維長:51mm、芯成分:ポリエステル、鞘成分:変性ポリエステル(融点:110℃)、難燃剤を含んでいない]
#8:ナイロン66単一繊維[繊度:6.6dtex、繊維長:76mm、難燃剤を含んでいない]
#9:ナイロン6単一繊維[繊度:3.3dtex、繊維長:51mm、難燃剤を含んでいない]
#4:OK・・燃焼速度が80mm/min.以下、NG・・燃焼速度が80mm/min.を超える
【0034】
この表3〜4の結果から、ナイロン66繊維又はナイロン6繊維を用いても、難燃性に優れる融着難燃不織布を製造できないことがわかった。
【産業上の利用可能性】
【0035】
本発明の難燃性繊維シートは難燃剤を含んでいなくても、難燃性に優れるシートであるため、難燃性を必要とする用途、例えば、自動車用の内装シート(特に、表皮シート)、電気製品等の緩衝材、吸音材又は断熱材、皮革シート、壁紙などの建材、フィルタ、カーテン、家具などのインテリア材、或いは耐熱衣服の用途に、好適に使用することができる。特に、自動車用の内装シートとして使用しても、十分な難燃性を発揮するため、好適に使用できる。より具体的には天井、ドアーサイド、ピラーガーニッシュ、リヤパッケージ、シートサイド、シートバック、フロアーカーペットなどの内装材の表皮材として好適に使用できる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
温度235℃、2.16kg荷重時におけるメルトボリュームフローレートが10cm/10min.以上のナイロン11樹脂を含む繊維を10mass%以上含有する難燃性繊維シート。
【請求項2】
自動車用の内装シートとして使用する、請求項1記載の難燃性繊維シート。

【公開番号】特開2012−219386(P2012−219386A)
【公開日】平成24年11月12日(2012.11.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−83240(P2011−83240)
【出願日】平成23年4月5日(2011.4.5)
【出願人】(000229542)日本バイリーン株式会社 (378)
【Fターム(参考)】