説明

難燃性繊維及び不織布、それらを用いた不織布加工品

【課題】有害物質の発生など、環境および人体に対しての悪影響が極めて低く、優れた難燃性能と優れた耐候性能を兼ね備え、かつ、エレクトレット処理が容易に行える熱可塑性樹脂繊維、それを用いた不織布およびエアーフィルター等を提供する。
【解決手段】環状ホスファゼン化合物及び鎖状ホスファゼン化合物から選ばれた少なくとも1種のホスファゼン化合物、特定の基を含むヒンダードアミン化合物ならびに熱可塑性樹脂からなる繊維に、ソルビタン脂肪酸エステル類およびポリオキシアルキレンアルキルエーテル等を主成分として含有する非イオン性の繊維処理剤を付着してなる難燃性繊維。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、難燃性繊維及び不織布、それらを用いた不織布加工品に関する。さらに詳しくは、優れた難燃性と優れた耐候性とを兼ね備えた難燃性繊維に関する。また、例えばエアーフィルター(エレクトレットフィルター)等の不織布加工品に用いられるエレクトレット処理用難燃性短繊維として適用することが可能な難燃性繊維に関する。該難燃性繊維をエレクトレット処理用難燃性短繊維に適用した場合には、繊維処理剤の洗浄工程を必要とせずにエレクトレット処理が可能となる。
【背景技術】
【0002】
近年、ビルや地下街から、研究所や工場等のクリーンルームにいたるまで、ごみ、塵、埃のない空間への関心が高まっており、これらの空間を提供するために、繊維の帯電性を利用して塵埃を捕集するエアーフィルター等の需要が増加してきている。このようなエアーフィルターには帯電性を有する合成繊維やそれからなる不織布加工品が多く利用されていが、火災発生の防止あるいは火災発生時の安全性確保等の観点から、難燃性を付与することが求められている。
【0003】
上記の不織布加工品は、一般にステープル繊維やショートカット繊維を原綿として、カード法やエアレイド法等の加工方法によってウェブ化された後、熱融着や物理的な交絡によって得られた不織布に、エレクトレット処理を施して得ることができる。エレクトレット処理とは、不織布への加工時または、不織布化後に熱エレクトレット化やコロナ放電エレクトレット化などによって、不織布を帯電させる工程である。
【0004】
一般的に不織布加工に用いられる繊維には、静電気の発生による不織布の加工性や操業性への悪影響を抑制するために、その表面に界面活性剤などの繊維処理剤が付着している。しかし、このような繊維処理剤は上記不織布加工品の場合、エレクトレット処理の妨げとなるだけでなく、経時的捕集効率の低下の要因にもなる。
【0005】
そのため、不織布のエレクトレット処理工程を行うためには、二次的な水洗や湯洗等の洗浄工程を導入する方法や、スパンレース法で交絡しながら繊維処理剤を洗浄除去する方法が用いられており、工程上の制約が生じ、工程設備の増加や製造コストの上昇等の問題が生じている。また、熱処理工程での油剤付着量の減少を利用して不織布化とエレクトレット化を可能にする方法が記載されている(下記、特許文献1を参照)。しかし、エレクトレット加工前に必ず熱処理工程を要するという制約や、繊維処理剤の付着量を規定の量以下に制御するという高い品質管理技術が必要とされる。
【0006】
また、エアーフィルター等は長期間にわたって使用されることが多いため、繊維に難燃性を付与させ、かつ、熱劣化もしくは紫外線劣化に起因する物理的強度の低下も防止する必要がある。繊維に難燃性を付与させる難燃剤には、ハロゲン化合物、重金属化合物、金属水酸化物およびリン化合物等があり、それらは単独もしくは併合して用いられている。
【0007】
なかでも、一般的な難燃剤として、塩素系または臭素系のハロゲン化合物を単独、もしくは酸化アンチモン等と組み合わせた難燃剤組成物を挙げることができる。特に、臭素系ハロゲン化合物と三酸化アンチモンとからなる難燃剤組成物は、優れた難燃効果を有するため幅広い用途に使用されている。
【0008】
しかしながら、環境問題に対する意識が高まってきた今日では、ハロゲン化合物が燃焼時に有害なガス(ハロゲン化水素)を発生させる点や、ダイオキシン発生の原因となる可能性を有している点が問題視されてきた。また、酸化アンチモンのような重金属類は発癌性物質となる可能性が指摘されているので、人体に触れるような場所での使用は健康上望ましくない。
【0009】
エアーフィルター等の劣化防止方法としては、該用途に用いられる繊維等に耐候安定剤を配合させるという手法が一般的であるが、上記ハロゲン化合物や酸化アンチモンから発生する酸性基は、耐候安定剤の活性を奪ってしまうため、前記難燃剤組成物を用いた繊維等は耐候性が向上せず、長期間の使用に耐えられないという問題を有している。そのため、耐候性を阻害させることがなく、重金属を含有せず、燃焼時または加工時に有害物質を発生させない難燃剤が強く望まれている。
【0010】
繊維のエレクトレット性を向上させ、かつ、燃焼時または加工時に有害物質を発生させない難燃剤として、特定の構造を有するヒンダードアミン化合物が開示されている(下記、特許文献2、3を参照)。しかし、該ヒンダードアミン化合物も、上記難燃剤組成物に比べ難燃性が劣るため、前述同様の欠点を有している。また、エレクトレット処理用難燃性短繊維として用いるには、前述同様にエレクトレット処理工程前に、不織布の繊維処理剤を洗浄除去する必要があり、工程上の制約が生じる。
【0011】
【特許文献1】特開2002−339256号公報
【特許文献2】特開2003−292688号公報
【特許文献3】特開2004−344756号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
上記のような状況において、有害物質の発生など、環境および人体に対しての悪影響が極めて低く、優れた難燃性能と優れた耐候性能を兼ね備えた難燃性繊維が望まれている。また、カード工程やエアレイド工程のような乾式の不織布加工工程において、静電気の発生によって加工性を損なわない程度に油剤が付着されている熱可塑性樹脂からなる繊維であり、不織布化時/後の油剤の付着量変化や、洗浄工程の導入などの加工法の制約を受けずにエレクトレット処理が容易に行える難燃性繊維および該繊維によって得られる繊維成形体も望まれている。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者らは、上記課題を解決するために、鋭意研究を重ねた結果、熱可塑性樹脂に対して、特定の構造を有するホスファゼン化合物、及び所望により、特定の構造を有するヒンダードアミン化合物とを特定比率で配合させて得られた繊維に、特定の非イオン性の繊維処理剤を用いることで、エレクトレット処理を容易に行える難燃性繊維及び難燃性不織布加工品が提供できることを見出し、その知見に基づいて本発明を完成するに至った。
【0014】
本発明は、以下の構成を有する。
【0015】
[1] 下記一般式(I)で表される環状ホスファゼン化合物および/または下記一般式
(II)で表される鎖状ホスファゼン化合物を含む熱可塑性樹脂を用いて得られた繊維に、非イオン性の繊維処理剤を付着してなる難燃性繊維。
【化8】

(一般式(I)中、mは3〜10の整数であり、Qはアルコキシル、アリールオキシ及びアミノよりなる群からそれぞれ独立して選ばれた基である。)
【化9】

(一般式(II)中、nは3〜10の整数であり、Qはアルコキシル、アリールオキシ及びアミノよりなる群からそれぞれ独立して選ばれた基である。)
【0016】
[2] 前記熱可塑性樹脂は、さらに下記一般式(III)で表される基を含むヒンダードアミン化合物を含む、上記[1]に記載する難燃性繊維。
【化10】

(一般式(III)中、
1は、置換されていてもよいアルキル、置換されていてもよいシクロアルキル、置換されていてもよい二環式もしくは三環式の炭化水素、または、置換されていてもよいフェニルアルキルであり、
2、R3、R4及びR5は、それぞれ独立して、置換されていてもよいアルキルであるか、R2とR3および/もしくはR4とR5が結合したペンタメチレンであり、
6は、置換されていてもよいアルコキシル、置換されていてもよいアリールオキシ、置換されていてもよいアミノ、または、下記一般式(IV)で示される結合基であり、そして、
一般式(III)においてAは、酸素、または、−NR7−である。なお、R7は水素、または、置換されていてもよいアルキルである。)
【化11】

(一般式(IV)中、
1は、一般式(III)におけるR1とは独立して、一般式(III)におけるR1と同じ基であり、
2、R3、R4及びR5は、一般式(III)におけるR2、R3、R4及びR5とは独立して、それぞれ一般式(III)におけるR2、R3、R4及びR5と同じ基であり、そして、
Aは、一般式(III)におけるAとは独立して、一般式(III)におけるAと同じ基である。)
【0017】
[3] 上記一般式(III)及び上記一般式(IV)中、
1は、それぞれ独立して、置換されていてもよい炭素数1〜18のアルキル、置換されていてもよい炭素数5〜12のシクロアルキル、置換されていてもよい炭素数7〜12の二環式もしくは三環式の炭化水素、または、置換されていてもよい炭素数7〜15のフェニルアルキルであり、
2、R3、R4及びR5は、それぞれ独立して、置換されていてもよい炭素数1〜4のアルキルであるか、R2とR3および/もしくはR4とR5が結合したペンタメチレンであり、
6は、それぞれ独立して、置換されていてもよい炭素数1〜4のアルコキシル、置換されていてもよい炭素数6〜12のアリールオキシ、置換されていてもよい炭素数1〜18のアミノ、または、上記一般式(IV)で示される結合基であり、そして、
上記一般式(III)及び上記一般式(IV)においてAは、それぞれ独立して、酸素、または、−NR7−であり、なお、R7は水素、または、置換されていてもよい炭素数1〜12の直鎖または分岐鎖のアルキルである、
上記[2]に記載する難燃性繊維。
【0018】
[4] 前記熱可塑性樹脂は、
前記環状ホスファゼン化合物および/または前記鎖状ホスファゼン化合物を0.25〜5.0重量%の範囲で含み、
前記ヒンダードアミン化合物を0重量%より多く、3.0重量%以下の範囲で含む、
上記[2]又は[3]に記載する難燃性繊維。
【0019】
[5] 前記非イオン性の繊維処理剤は、下記一般式(V)もしくは下記一般式(VI)
で示されるソルビタン脂肪酸エステル類及び下記一般式(VII)で示されるポリオキシアルキレンアルキルエーテルの群から選ばれた少なくとも1種を主成分として含有する、上記[1]ないし[4]のいずれかに記載する難燃性繊維。
【化12】

【化13】

(一般式(V)及び一般式(VI)中、
8、R9及びR10は、それぞれ独立して水酸基、ポリオキシエチレンまたはポリオキシプロピレンであり、そして、
11は、脂肪族炭化水素である。)
【化14】

(一般式(VII)中、
12は、脂肪族炭化水素であり、R13は水素または置換されていてもよいアルキルであり、そして、kは5〜50の整数である。)
【0020】
[6] 上記一般式(V)及び上記一般式(VI)中、
8、R9及びR10の重合度(エチレンオキシドまたはプロピレンオキシドの構成単位)は、それぞれ独立して0〜55であり、R11は、炭素数16〜30の飽和もしくは不飽和の脂肪族炭化水素であり、
上記一般式(VII)中、
12は、炭素数12〜30の飽和もしくは不飽和の脂肪族炭化水素であり、R13は水素またはメチルである、
上記[5]に記載する難燃性繊維。
【0021】
[7] 前記繊維には、該繊維の重量に対して0.01〜1.5重量%に相当する量の前記非イオン性の繊維処理剤が付着されている、上記[1]ないし[6]のいずれかに記載する難燃性繊維。
【0022】
[8] 前記難燃性繊維は、繊維長3〜120mmの短繊維である、上記[1]ないし[7]のいずれかに記載する難燃性繊維。
【0023】
[9] 前記難燃性繊維は、エレクトレット処理用である、上記[1]ないし[8]のいずれかに記載する難燃性繊維。
【0024】
[10] 前記繊維は、融点差を有する少なくとも2種類の熱可塑性樹脂で構成される繊維であって、少なくとも1種類の該熱可塑性樹脂はポリオレフィンであり、該ポリオレフィンは前記繊維の表面の少なくとも一部を長さ方向に連続して露出している、熱接着性複合繊維である上記[1]ないし[9]のいずれかに記載の難燃性繊維。
【0025】
[11] 前記繊維は、該繊維を構成する熱可塑性樹脂の少なくとも1種が反応性官能基を有するビニルモノマーからなる重合体を含む樹脂である、上記[1]ないし[10]のいずれかに記載する難燃性繊維。
【0026】
[12] 上記[1]ないし[11]のいずれかに記載する難燃性繊維を用いて得られる不織布。
【0027】
[13] 上記[1]ないし[11]のいずれかに記載する難燃性繊維を用いて、エアレイド法またはカード法により得られる不織布。
【0028】
[14] メルトブロー法、スパンボンド法、スパンレース法、カード法、エアレイド法、または、抄造法により製造された不織布、ネット及び多孔性フィルムから選ばれた少なくとも1種と、上記[12]又は[13]に記載する不織布とを積層して得られる複合化不織布。
【0029】
[15] メルトブロー法、スパンボンド法、スパンレース法、カード法、エアレイド法、または、抄造法により製造された不織布、ネット及び多孔性フィルムから選ばれた少なくとも1種と、上記[1]ないし[11]のいずれかに記載する難燃性繊維を用いてエアレイド法により得られる不織繊維集合体とを積層して得られる複合化不織布。
【0030】
[16] メルトブロー法、スパンボンド法、スパンレース法、カード法、エアレイド法、または、抄造法により製造された不織布、ネット及び多孔性フィルムから選ばれた少なくとも1種と、上記[1]ないし[11]のいずれかに記載する難燃性繊維を用いてカード法により得られる不織繊維集合体とを積層して得られる複合化不織布。
【0031】
[17] 上記[12]又は[13]に記載する不織布もしくは上記[14]ないし[16]のいずれかに記載する複合化不織布を用いたエレクトレット材料。
【0032】
[18] 上記[12]又は[13]に記載する不織布もしくは上記[14]ないし[16]のいずれかに記載する複合化不織布をエレクトレット処理して得られる帯電不織布または帯電複合化不織布。
【0033】
[19] 上記[18]に記載する帯電不織布または帯電複合化不織布を用いたフィルター。
【0034】
[20] 上記[18]に記載する帯電不織布または帯電複合化不織布を用いたエアーフィルター。
【発明の効果】
【0035】
本発明の難燃性繊維の好ましい態様によれば、特定の構造を有するホスファゼン化合物、及び所望により、特定の構造を有するヒンダードアミン化合物とを特定比率にて配合させた熱可塑性樹脂を用いて得られた繊維に、ソルビタン脂肪酸エステル類または、ポリオキシアルキレンアルキルエーテルを主成分とする非イオン性の繊維処理剤を付着させることで、繊維に適度な帯電性を付与することができる。したがって、優れた難燃性能と優れた耐候性能を兼ね備え、かつエアレイド機やカード機による不織布加工では静電気の発生を抑制し、不織布への熱エレクトレット加工時には、繊維処理剤の洗浄工程等の除去工程を必要としないで、不織布加工品の性能として必要十分な静電気量の帯電が可能である。しかも熱履歴による付着油脂分のコントロールも必要としないため、該繊維より得られたウェブはニードルパンチ等の様々な不織布加工条件を用いることが可能である。
【0036】
なお、本明細書で用いている「主成分」なる用語は、難燃性繊維に用いられる繊維処理剤中に、ソルビタン脂肪酸エステル類およびポリオキシアルキレンアルキルエーテルから選ばれる少なくとも1種以上の成分の合計が繊維処理剤の有効成分重量に対して、少なくとも50重量%以上の範囲で配合されている意味で用いている。
【発明を実施するための最良の形態】
【0037】
以下、本発明を詳細に説明する。本発明の難燃性繊維は、特定の構造を有するホスファゼン化合物と、及び所望により、特定の構造を有するヒンダードアミン化合物とを特定比率にて含む熱可塑性樹脂を用いて得られた繊維であり、かつ、ソルビタン脂肪酸エステル類およびポリオキシアルキレンアルキルエーテルを主成分する非イオン性の繊維処理剤が該繊維に対して特定重量%付着している。
【0038】
<ホスファゼン化合物>
本発明の難燃性繊維に用いられるホスファゼン化合物は、下記の一般式(I)で表され
る環状ホスファゼン化合物および下記の一般式(II)で表される鎖状ホスファゼン化合物から選ばれた少なくとも1種である。
【0039】
【化15】

(一般式(I)中、mは3〜10の整数であり、Qはアルコキシル、アリールオキシ及びアミノよりなる群からそれぞれ独立して選ばれた基である。)
【化16】

(一般式(II)中、nは3〜10の整数であり、Qはアルコキシル、アリールオキシ及びアミノよりなる群からそれぞれ独立して選ばれた基である。)
【0040】
前記一般式(I)および(II)で示されるホスファゼン化合物は、定義された範囲内
のものであれば、格別の制限はない。なお、置換基Qとしてのアルコキシ、アリールオキシおよびアミノの例としては次のようなものを挙げることができる。
【0041】
前記アルコキシとしては、好ましくは炭素数1〜8のアルコキシ、より好ましくは炭素数1〜4のアルコキシが挙げられる。具体的なアルコキシとしては、メトキシ、エトキシ、n−プロポキシ、イソプロポキシ、n−ブトキシ、イソブトキシ、s−ブトキシ、t−ブトキシ、ペントキシ、シクロペントキシ、ヘキシルオキシ、シクロヘキシルオキシ、ヘプチルオキシ、シクロヘプチルオキシ、オクチルオキシ、シクロオクチルオキシ、フェノキシなどを挙げることができる。
【0042】
前記アリールオキシとしては、好ましくは炭素数6〜20のアリールオキシ、より好ましくは炭素数6〜16のアリールオキシ、さらに好ましくは炭素数6〜13のアリールオキシが挙げられる。具体的なアリールオキシとしては、例えば、非置換または、メチル、エチル、n−プロピル、イソプロピル、t−ブチル、t−オクチル、メトキシ、エトキシ、2,3−ジメチル、2,4−ジメチル、2,5−ジメチル、2,6−ジメチル、3,5−ジメチル、フェニルなどで置換されたフェニルオキシ、ナフチルオキシ、アントラセニルオキシ、フェナントリルオキシなどを挙げることができる。さらに、前記アリールとして、ナフチル等を挙げることもできる。
【0043】
前記アミノとしては、アミノ;メチルアミノ、エチルアミノ、シクロヘキシルアミノ、アセチルアミノなどの直鎖もしくは分岐鎖を有するモノアルキルアミノ;ジメチルアミノ、ジエチルアミノ、ジブチルアミノなどの直鎖もしくは分岐鎖を有するジアルキルアミノ;ジフェニルアミノなどのジアリールアミノなどを挙げることができる。
【0044】
また、ホスファゼン化合物は、置換基Qの位置に、製造工程において未反応物として残るハロゲンを有する副生物を含有している場合があるが、本発明は有害なガスの発生が極端に少ない難燃性繊維の提供を目的としているため、該ホスファゼン化合物中の全ハロゲン含有量を0.05重量%以下にすることが望ましい。
【0045】
<環状ホスファゼン化合物の具体例>
本発明の難燃性繊維に用いられる前記一般式(I)で示される環状ホスファゼン化合物
の具体例としては、1,1,3,3,5,5−ヘキサ(メトキシ)シクロトリホスファゼン、1,1,3,3,5,5−ヘキサ(エトキシ)シクロトリホスファゼン、1,1,3,3,5,5−ヘキサ(n−プロポキシ)シクロトリホスファゼン、1,1,3,3,5,5−ヘキサ(イソ−プロポキシ)シクロトリホスファゼン、1,1,3,3,5,5−ヘキサ(n−ブトキシ)シクロトリホスファゼン、1,1,3,3,5,5−ヘキサ(イソ−ブトキシ)シクロトリホスファゼン、1,1,3,3,5,5−ヘキサ(フェノキシ)シクロトリホスファゼン、1,1,3,3,5,5−ヘキサ(p−トリルオキシ)シクロトリホスファゼン、1,1,3,3,5,5−ヘキサ(m−トリルオキシ)シクロトリホスファゼン、1,1,3,3,5,5−ヘキサ(o−トリルオキシ)シクロトリホスファゼン、1,1,3,3,5,5−ヘキサ(p−アニシルオキシ)シクロトリホスファゼン、1,1,3,3,5,5−ヘキサ(m−アニシルオキシ)シクロトリホスファゼン、1,1,3,3,5,5−ヘキサ(o−アニシルオキシ)シクロトリホスファゼン、1,1,3,3,5,5−ヘキサ(4−エチルフェノキシ)シクロトリホスファゼン、1,1,3,3,5,5−ヘキサ(4−n−プロピルフェノキシ)シクロトリホスファゼン、1,1,3,3,5,5−ヘキサ(4−イソ−プロピルフェノキシ)シクロトリホスファゼン、1,1,3,3,5,5−ヘキサ(4−t−ブチルフェノキシ)シクロトリホスファゼン、1,1,3,3,5,5−ヘキサ(4−t−オクチルフェノキシ)シクロトリホスファゼン、1,1,3,3,5,5−ヘキサ(2,3−ジメチルフェノキシ)シクロトリホスファゼン、1,1,3,3,5,5−ヘキサ(2,4−ジメチルフェノキシ)シクロトリホスファゼン、1,1,3,3,5,5−ヘキサ(2,5−ジメチルフェノキシ)シクロトリホスファゼン、1,1,3,3,5,5−ヘキサ(2,6−ジメチルフェノキシ)シクロトリホスファゼン、1,1,3,3,5,5−ヘキサアミノシクロトリホスファゼン、1,1,3,3,5,5−ヘキサ(4−フェニルフェノキシ)シクロトリホスファゼン、1,3,5−トリス(メトキシ)−1,3,5−トリス(フェノキシ)シクロトリホスファゼン、1,3,5−トリス(エトキシ)−1,3,5−トリス(フェノキシ)シクロトリホスファゼン、1,3,5−トリス(n−プロポキシ)−1,3,5−トリス(フェノキシ)シクロトリホスファゼン、1,3,5−トリス(イソ−プロポキシ)−1,3,5−トリス(フェノキシ)シクロトリホスファゼン、1,3,5−トリス(n−ブトキシ)−1,3,5−トリス(フェノキシ)シクロトリホスファゼン、1,3,5−トリス(イソ−ブトキシ)−1,3,5−トリス(フェノキシ)シクロトリホスファゼン、1,3,5−トリス(メトキシ)−1,3,5−トリス(p−トリルオキシ)シクロトリホスファゼン、1,3,5−トリス(メトキシ)−1,3,5−トリス(m−トリルオキシ)シクロトリホスファゼン、1,3,5−トリス(メトキシ)−1,3,5−トリス(o−トリルオキシ)シクロトリホスファゼン、1,3,5−トリス(メトキシ)−1,3,5−トリス(p−アニシルオキシ)シクロトリホスファゼン、1,3,5−トリス(メトキシ)−1,3,5−トリス(m−アニシルオキシ)シクロトリホスファゼン、1,3,5−トリス(メトキシ)−1,3,5−トリス(o−アニシルオキシ)シクロトリホスファゼン、1,3,5−トリス(エトキシ)−1,3,5−トリス(p−トリルオキシ)シクロトリホスファゼン、1,3,5−トリス(エトキシ)−1,3,5−トリス(m−トリルオキシ)シクロトリホスファゼン、1,3,5−トリス(エトキシ)−1,3,5−トリス(o−トリルオキシ)シクロトリホスファゼン、1,3,5−トリス(エトキシ)−1,3,5−トリス(p−アニシルオキシ)シクロトリホスファゼン、1,3,5−トリス(エトキシ)−1,3,5−トリス(m−アニシルオキシ)シクロトリホスファゼン、1,3,5−トリス(エトキシ)−1,3,5−トリス(o−アニシルオキシ)シクロトリホスファゼン、1,3,5−トリス(n−プロポキシ)−1,3,5−トリス(p−トリルオキシ)シクロトリホスファゼン、1,3,5−トリス(n−プロポキシ)−1,3,5−トリス(m−トリルオキシ)シクロトリホスファゼン、1,3,5−トリス(n−プロポキシ)−1,3,5−トリス(o−トリルオキシ)シクロトリホスファゼン、1,3,5−トリス(n−プロポキシ)−1,3,5−トリス(p−アニシルオキシ)シクロトリホスファゼン、1,3,5−トリス(n−プロポキシ)−1,3,5−トリス(m−アニシルオキシ)シクロトリホスファゼン、1,3,5−トリス(n−プロポキシ)−1,3,5−トリス(o−アニシルオキシ)シクロトリホスファゼン、1,3,5−トリス(イソ−プロポキシ)−1,3,5−トリス(p−トリルオキシ)シクロトリホスファゼン、1,3,5−トリス(n−ブトキシ)−1,3,5−トリス(p−トリルオキシ)シクロトリホスファゼン、1,3,5−トリス(イソ−ブトキシ)−1,3,5−トリス(p−トリルオキシ)シクロトリホスファゼン、1,3,5−トリス(メトキシ)−1,3,5−トリス(4−t−ブチルフェノキシ)シクロトリホスファゼン、1,3,5−トリス(メトキシ)−1,3,5−トリス(4−t−オクチルフェノキシ)シクロトリホスファゼン、1,3,5−トリス(n−プロポキシ)−1,3,5−トリス(4−t−ブチルフェノキシ)シクロトリホスファゼン、1,3,5−トリス(n−プロポキシ)−1,3,5−トリス(4−t−オクチルフェノキシ)シクロトリホスファゼン、1,3,5−トリス(メトキシ)−1,3,5−トリス(4−フェニルフェノキシ)シクロトリホスファゼン、1,3,5−トリス(エトキシ)−1,3,5−トリス(4−フェニルフェノキシ)シクロトリホスファゼン、1,3,5−トリス(n−プロポキシ)−1,3,5−トリス(4−フェニルフェノキシ)シクロトリホスファゼン、1,3,5−トリス(イソ−プロポキシ)−1,3,5−トリス(4−フェニルフェノキシ)シクロトリホスファゼン、1,3,5−トリス(n−ブトキシ)−1,3,5−トリス(4−フェニルフェノキシ)シクロトリホスファゼン、1,3,5−トリス(イソ−ブトキシ)−1,3,5−トリス(4−フェニルフェノキシ)シクロトリホスファゼン、1,1−ジアミノ−3,3,5,5−テトラキス(メトキシ)シクロトリホスファゼン、1,1−ジアミノ−3,3,5,5−テトラキス(エトキシ)シクロトリホスファゼン、1,1−ジアミノ−3,3,5,5−テトラキス(n−プロポキシ)シクロトリホスファゼン、1,1−ジアミノ−3,3,5,5−テトラキス(イソ−プロポキシ)シクロトリホスファゼン、1,1−ジアミノ−3,3,5,5−テトラキス(n−ブトキシ)シクロトリホスファゼン、1,1−ジアミノ−3,3,5,5−テトラキス(イソ−ブトキシ)シクロトリホスファゼン、1,1−ジアミノ−3,3,5,5−テトラキス(フェノキシ)シクロトリホスファゼン、1,1−ジアミノ−3,3,5,5−テトラキス(p−トリルオキシ)シクロトリホスファゼン、1,1−ジアミノ−3,3,5,5−テトラキス(m−トリルオキシ)シクロトリホスファゼン、1,1−ジアミノ−3,3,5,5−テトラキス(o−トリルオキシ)シクロトリホスファゼン、1,1−ジアミノ−3,3,5,5−テトラキス(p−アニシルオキシ)シクロトリホスファゼン、1,1−ジアミノ−3,3,5,5−テトラキス(m−アニシルオキシ)シクロトリホスファゼン、1,1−ジアミノ−3,3,5,5−テトラキス(o−アニシルオキシ)シクロトリホスファゼン、1,1−ジアミノ−3,3,5,5−テトラキス(4−フェニルフェノキシ)シクロトリホスファゼン等が挙げられる。
【0046】
<鎖状ホスファゼン化合物の具体例>
本発明の難燃性繊維に用いられる前記一般式(II)で示される鎖状ホスファゼン化合物の具体例としては、1,1,3,3,5,5−ヘキサ(メトキシ)トリホスファゼン、1,1,3,3,5,5−ヘキサ(エトキシ)トリホスファゼン、1,1,3,3,5,5−ヘキサ(n−プロポキシ)トリホスファゼン、1,1,3,3,5,5−ヘキサ(イソ−プロポキシ)トリホスファゼン、1,1,3,3,5,5−ヘキサ(n−ブトキシ)トリホスファゼン、1,1,3,3,5,5−ヘキサ(イソ−ブトキシ)トリホスファゼン、1,1,3,3,5,5−ヘキサ(フェノキシ)トリホスファゼン、1,1,3,3,5,5−ヘキサ(p−トリルオキシ)トリホスファゼン、1,1,3,3,5,5−ヘキサ(m−トリルオキシ)トリホスファゼン、1,1,3,3,5,5−ヘキサ(o−トリルオキシ)トリホスファゼン、1,1,3,3,5,5−ヘキサ(p−アニシルオキシ)トリホスファゼン、1,1,3,3,5,5−ヘキサ(m−アニシルオキシ)トリホスファゼン、1,1,3,3,5,5−ヘキサ(o−アニシルオキシ)トリホスファゼン、1,1,3,3,5,5−ヘキサ(4−エチルフェノキシ)トリホスファゼン、1,1,3,3,5,5−ヘキサ(4−n−プロピルフェノキシ)トリホスファゼン、1,1,3,3,5,5−ヘキサ(4−イソ−プロピルフェノキシ)トリホスファゼン、1,1,3,3,5,5−ヘキサ(4−t−ブチルフェノキシ)トリホスファゼン、1,1,3,3,5,5−ヘキサ(4−t−オクチルフェノキシ)トリホスファゼン、1,1,3,3,5,5−ヘキサ(2,3−ジメチルフェノキシ)トリホスファゼン、1,1,3,3,5,5−ヘキサ(2,4−ジメチルフェノキシ)トリホスファゼン、1,1,3,3,5,5−ヘキサ(2,5−ジメチルフェノキシ)トリホスファゼン、1,1,3,3,5,5−ヘキサ(2,6−ジメチルフェノキシ)トリホスファゼン、1,1,3,3,5,5−ヘキサアミノトリホスファゼン、1,1,3,3,5,5−ヘキサ(4−フェニルフェノキシ)トリホスファゼン、1,3,5−トリス(メトキシ)−1,3,5−トリス(フェノキシ)トリホスファゼン、1,3,5−トリス(エトキシ)−1,3,5−トリス(フェノキシ)トリホスファゼン、1,3,5−トリス(n−プロポキシ)−1,3,5−トリス(フェノキシ)トリホスファゼン、1,3,5−トリス(イソ−プロポキシ)−1,3,5−トリス(フェノキシ)トリホスファゼン、1,3,5−トリス(n−ブトキシ)−1,3,5−トリス(フェノキシ)トリホスファゼン、1,3,5−トリス(イソ−ブトキシ)−1,3,5−トリス(フェノキシ)トリホスファゼン、1,3,5−トリス(メトキシ)−1,3,5−トリス(p−トリルオキシ)トリホスファゼン、1,3,5−トリス(メトキシ)−1,3,5−トリス(m−トリルオキシ)トリホスファゼン、1,3,5−トリス(メトキシ)−1,3,5−トリス(o−トリルオキシ)トリホスファゼン、1,3,5−トリス(メトキシ)−1,3,5−トリス(p−アニシルオキシ)トリホスファゼン、1,3,5−トリス(メトキシ)−1,3,5−トリス(m−アニシルオキシ)トリホスファゼン、1,3,5−トリス(メトキシ)−1,3,5−トリス(o−アニシルオキシ)トリホスファゼン、1,3,5−トリス(エトキシ)−1,3,5−トリス(p−トリルオキシ)トリホスファゼン、1,3,5−トリス(エトキシ)−1,3,5−トリス(m−トリルオキシ)トリホスファゼン、1,3,5−トリス(エトキシ)−1,3,5−トリス(o−トリルオキシ)トリホスファゼン、1,3,5−トリス(エトキシ)−1,3,5−トリス(p−アニシルオキシ)トリホスファゼン、1,3,5−トリス(エトキシ)−1,3,5−トリス(m−アニシルオキシ)トリホスファゼン、1,3,5−トリス(エトキシ)−1,3,5−トリス(o−アニシルオキシ)トリホスファゼン、1,3,5−トリス(n−プロポキシ)−1,3,5−トリス(p−トリルオキシ)トリホスファゼン、1,3,5−トリス(n−プロポキシ−1,3,5−トリス(m−トリルオキシ)トリホスファゼン、1,3,5−トリス(n−プロポキシ)−1,3,5−トリス(o−トリルオキシ)トリホスファゼン、1,3,5−トリス(n−プロポキシ)−1,3,5−トリス(p−アニシルオキシ)トリホスファゼン、1,3,5−トリス(n−プロポキシ)−1,3,5−トリス(m−アニシルオキシ)トリホスファゼン、1,3,5−トリス(n−プロポキシ)−1,3,5−トリス(o−アニシルオキシ)トリホスファゼン、1,3,5−トリス(イソ−プロポキシ)−1,3,5−トリス(p−トリルオキシ)トリホスファゼン、1,3,5−トリス(n−ブトキシ)−1,3,5−トリス(p−トリルオキシ)トリホスファゼン、1,3,5−トリス(イソ−ブトキシ)−1,3,5−トリス(p−トリルオキシ)トリホスファゼン、1,3,5−トリス(メトキシ)−1,3,5−トリス(4−t−ブチルフェノキシ)トリホスファゼン、1,3,5−トリス(メトキシ)−1,3,5−トリス(4−t−オクチルフェノキシ)トリホスファゼン、1,3,5−トリス(n−プロポキシ)−1,3,5−トリス(4−t−ブチルフェノキシ)トリホスファゼン、1,3,5−トリス(n−プロポキシ)−1,3,5−トリス(4−t−オクチルフェノキシ)トリホスファゼン、1,3,5−トリス(メトキシ)−1,3,5−トリス(4−フェニルフェノキシ)トリホスファゼン、1,3,5−トリス(エトキシ)−1,3,5−トリス(4−フェニルフェノキシ)トリホスファゼン、1,3,5−トリス(n−プロポキシ)−1,3,5−トリス(4−フェニルフェノキシ)トリホスファゼン、1,3,5−トリス(イソ−プロポキシ)−1,3,5−トリス(4−フェニルフェノキシ)トリホスファゼン、1,3,5−トリス(n−ブトキシ)−1,3,5−トリス(4−フェニルフェノキシ)トリホスファゼン、1,3,5−トリス(イソ−ブトキシ)−1,3,5−トリス(4−フェニルフェノキシ)トリホスファゼン、1,1−ジアミノ−3,3,5,5−テトラキス(メトキシ)トリホスファゼン、1,1−ジアミノ−3,3,5,5−テトラキス(エトキシ)トリホスファゼン、1,1−ジアミノ−3,3,5,5−テトラキス(n−プロポキシ)トリホスファゼン、1,1−ジアミノ−3,3,5,5−テトラキス(イソ−プロポキシ)トリホスファゼン、1,1−ジアミノ−3,3,5,5−テトラキス(n−ブトキシ)トリホスファゼン、1,1−ジアミノ−3,3,5,5−テトラキス(イソ−ブトキシ)トリホスファゼン、1,1−ジアミノ−3,3,5,5−テトラキス(フェノキシ)トリホスファゼン、1,1−ジアミノ−3,3,5,5−テトラキス(p−トリルオキシ)トリホスファゼン、1,1−ジアミノ−3,3,5,5−テトラキス(m−トリルオキシ)トリホスファゼン、1,1−ジアミノ−3,3,5,5−テトラキス(o−トリルオキシ)トリホスファゼン、1,1−ジアミノ−3,3,5,5−テトラキス(p−アニシルオキシ)トリホスファゼン、1,1−ジアミノ−3,3,5,5−テトラキス(m−アニシルオキシ)トリホスファゼン、1,1−ジアミノ−3,3,5,5−テトラキス(o−アニシルオキシ)トリホスファゼン、1,1−ジアミノ−3,3,5,5−テトラキス(4−フェニルフェノキシ)トリホスファゼン等が挙げられる。
【0047】
本発明の難燃性繊維に用いられるホスファゼン化合物として、前記環状ホスファゼン化合物および前記鎖状ホスファゼン化合物のいずれか1種を用いても、2種以上の混合体として用いてもよいが、環状ホスファゼン化合物を選択することが好ましい。
【0048】
<ヒンダードアミン化合物>
本発明の難燃性繊維に用いられるヒンダードアミン化合物は、下記一般式(III)で表される基を含むものである。
【化17】

(一般式(III)中、R1は、置換されていてもよいアルキル、置換されていてもよいシクロアルキル、置換されていてもよい二環式もしくは三環式の炭化水素、または、置換されていてもよいフェニルアルキルであり、R2、R3、R4及びR5は、それぞれ独立して、置換されていてもよいアルキルであるか、R2とR3および/もしくはR4とR5が結合したペンタメチレンであり、R6は、置換されていてもよいアルコキシル、置換されていてもよいアリールオキシ、置換されていてもよいアミノ、または、下記一般式(IV)で示される結合基であり、そして、一般式(III)においてAは、酸素、または、−NR7−である。なお、R7は水素、または、置換されていてもよいアルキルである。)
【化18】

(一般式(IV)中、R1は、一般式(III)におけるR1とは独立して、一般式(III)におけるR1と同じ基、すなわち置換されていてもよいアルキル、置換されていてもよいシクロアルキル、置換されていてもよい二環式もしくは三環式の炭化水素、または、置換されていてもよいフェニルアルキルであり、R2、R3、R4及びR5は、一般式(III)におけるR2、R3、R4及びR5とは独立して、それぞれ一般式(III)におけるR2、R3、R4及びR5と同じ基、すなわち置換されていてもよいアルキルであるか、R2とR3および/もしくはR4とR5が結合したペンタメチレンであり、そして、Aは、一般式(III)におけるAとは独立して、一般式(III)におけるAと同じ基、すなわち酸素、または、−NR7−である。)
【0049】
ここで、「置換されていてもよいアルキル」の「アルキル」としては、直鎖、分枝鎖、環状のいずれでもよく、例えば、R1については炭素数1〜18の直鎖もしくは分枝鎖状のアルキルまたは環状のアルキル、R2〜R5については炭素数1〜4の直鎖もしくは分枝鎖状のアルキルまたは環状のアルキル、そして、R7については炭素数1〜12の直鎖もしくは分枝鎖状のアルキルまたは環状のアルキルがあげられる。R1における好ましいアルキルの炭素数は1〜12、より好ましくは炭素数1〜6である。R2〜R5における好ましいアルキルの炭素数は1〜3、より好ましくは炭素数1〜2である。R7における好ましいアルキルの炭素数は1〜8、より好ましくは炭素数1〜6である。具体的なアルキルとしては、メチル、エチル、プロピル、イソプロピル、ブチル、イソブチル、s−ブチル、t−ブチル、ペンチル、シクロペンチル、ヘキシル、シクロヘキシル、ヘプチル、シクロヘプチル、オクチル、シクロオクチルなどがあげられる。
【0050】
また、「置換されていてもよいシクロアルキル」の「シクロアルキル」としては、例えば、炭素数5〜12のシクロアルキルがあげられる。好ましいシクロアルキルは、炭素数5〜10のシクロアルキルである。さらに好ましいシクロアルキルは、炭素数5〜8のシクロアルキルである。具体的なシクロアルキルとして、シクロプロピル、シクロブチル、シクロペンチル、メチルシクロペンチル、シクロヘキシル、メチルシクロヘキシル、ジメチルシクロヘキシル、シクロヘプチル又はシクロオクチルなどがあげられる。
【0051】
また、「置換されていてもよい二環式もしくは三環式の炭化水素」の「二環式もしくは三環式の炭化水素」としては、例えば、炭素数7〜12の炭化水素があげられる。好ましい炭化水素は、炭素数7〜10の炭化水素である。
【0052】
また、「置換されていてもよいフェニルアルキル」の「フェニルアルキル」としては、例えば、炭素数7〜15のフェニルアルキルがあげられる。好ましいフェニルアルキルは、炭素数7〜12のフェニルアルキルである。具体的なフェニルアルキルとして、フェニル、トリル、キシリル、ビフェニリル、ナフチル、アントラセニル、フェナントリル、ターフェニリル、フルオレニル、ピレニルなどがあげられる。
【0053】
また、「置換されていてもよいアルコキシル」の「アルコキシル」としては、好ましくは炭素数1〜4のアルコキシ、より好ましくは炭素数1〜2のアルコキシが挙げられる。具体的なアルコキシとしては、メトキシ、エトキシ、n−プロポキシ、イソプロポキシ、n−ブトキシ、イソブトキシ、s−ブトキシ、t−ブトキシ、ペントキシ、シクロペントキシ、ヘキシルオキシ、シクロヘキシルオキシ、ヘプチルオキシ、シクロヘプチルオキシ、オクチルオキシ、シクロオクチルオキシ、フェノキシなどを挙げることができる。
【0054】
また、「置換されていてもよいアリールオキシ」の「アリールオキシ」としては、炭素数6〜12のアリールオキシがあげられる。好ましくはアリールオキシとしては、炭素数6〜10のアリールオキシ、より好ましくは炭素数6〜8のアリールオキシが挙げられる。具体的なアリールオキシとしては、例えば、非置換または、メチル、エチル、n−プロピル、イソプロピル、t−ブチル、t−オクチル、メトキシ、エトキシ、2,3−ジメチル、2,4−ジメチル、2,5−ジメチル、2,6−ジメチル、3,5−ジメチル、フェニルなどで置換されたフェニルオキシ、ナフチルオキシ、アントラセニルオキシ、フェナントリルオキシなどを挙げることができる。さらに、前記アリールとして、ナフチル等を挙げることもできる。
【0055】
また、「置換されていてもよいアミノ」としては、炭素数1〜18のアミノがあげられる。好ましいアミノとしては、炭素数1〜14のアミノ、より好ましくは炭素数1〜10のアミノがあげられる。具体的なアミノとしては、アミノ;メチルアミノ、エチルアミノ、シクロヘキシルアミノ、アセチルアミノなどの直鎖もしくは分岐鎖を有するモノアルキルアミノ;ジメチルアミノ、ジエチルアミノ、ジブチルアミノなどの直鎖もしくは分岐鎖を有するジアルキルアミノ;ジフェニルアミノなどのジアリールアミノなどを挙げることができる。
【0056】
そして、「置換されていてもよい」の「置換基」としては、例えば、メチル、エチル、プロピル、イソプロピル、ブチル、イソブチル、s−ブチル、t−ブチル、ペンチル、シクロペンチル、ヘキシル、シクロヘキシル、ヘプチル、シクロヘプチル、オクチル、シクロオクチル、トリフルオロメチルなどのアルキル;フェニル、ナフチル、アントラセニル、フェナントリルなどのアリール;メチルフェニル、エチルフェニル、s−ブチルフェニル、t−ブチルフェニル、1−メチルナフチル、2−メチルナフチル、4−メチルナフチル、1,6−ジメチルナフチル、4−t−ブチルナフチルなどのアルキルアリール;ピリジル、キナゾリニル、キノリル、ピリミジニル、フリル、チエニル、ピロリル、イミダゾリル、テトラゾリル、フェナントロリニルなどのヘテロ環;シアノなどがあげられる。
【0057】
本発明の難燃性繊維に用いられるヒンダードアミン化合物は、耐候性能を有するヒンダードアミン部と難燃性能を有するsym−トリアジン部を併せ持つ構造を有している。該構造を有するヒンダードアミン化合物は、前記ホスファゼン化合物との相性がよく、併せて用いることで非常に優れた相乗効果が得られる。
【0058】
<ヒンダードアミン化合物の好ましい例>
本発明の難燃性繊維に用いられるヒンダードアミン化合物としては、下記一般式(VIII)で表される基を有するヒンダードアミン化合物が好ましい。
【0059】
【化19】

(式中、R1は、炭素数1〜18のアルキル、炭素数5〜12のシクロアルキル、炭素数7〜12の二環式もしくは三環式の炭化水素、または、炭素数7〜15のフェニルアルキルであり、R2、R3、R4およびR5は、それぞれ独立して、炭素数1〜4のアルキルであるか、R2とR3および/もしくはR4とR5が結合したペンタメチレンを表し、R7は水素、炭素数1〜12の直鎖又は、分岐鎖のアルキルを表す。)
【0060】
ここで、R1、R2、R3、R4、R5およびR7の具体例としては、前記一般式(III)及び前記一般式(IV)で説明したものをあげることができる。なお、R1同士が架橋反応を起こすこともあるが、該反応物が存在していてもなんら差し支えない。
【0061】
本発明の難燃性繊維に用いられるヒンダードアミン化合物としては、下記一般式(IX)で表されるヒンダードアミン化合物がさらに好ましい。
【0062】
【化20】

(式中、T1、T2、T3およびT4は、それぞれ独立して水素原子、前記一般式(VIII)から選ばれた基である。)
なお、R1同士が架橋反応を起こすこともあるが、該反応物が存在していてもなんら差し支えない。
【0063】
<ヒンダードアミン化合物の具体例>
前記一般式(IX)の式で表されるヒンダードアミン化合物のなかでも、T1、T2、T3が前記一般式(VIII)の基であるもの、もしくはT1、T2、T4が前記一般式(VIII)の基であるものが望ましい。具体的には、N,N’,N”−トリス{2,4−ビス[(1−シクロヘキシルオキシ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン−4−イル)n−ブチルアミノ]−sym−トリアジン−6−イル}−3,3’−エチレンジイミノジプロピルアミン、N,N’,N”−トリス{2,4−ビス[(1−シクロヘキシルオキシ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン−4−イル)n−ブチルアミノ]−sym−トリアジン−6−イル}−3,3’−エチレンジイミノジプロピルアミン、N,N’,N”−トリス{2,4−ビス[(1−オクチルオキシ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン−4−イル)n−ブチルアミノ]−sym−トリアジン−6−イル}−3,3’−エチレンジイミノジプロピルアミン、N,N’,N”−トリス{2,4−ビス[(1−メトキシ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン−4−イル)n−ブチルアミノ]−sym−トリアジン−6−イル}−3,3’−エチレンジイミノジプロピルアミン等を例示することができる。
【0064】
本発明の難燃性繊維に用いられるヒンダードアミン化合物は、前記ヒンダードアミン化合物のいずれか1種を用いても、2種以上を混合体として用いてもよい。
【0065】
<ホスファゼン化合物及びヒンダードアミン化合物の含有量>
本発明の難燃性繊維には、前記ホスファゼン化合物が、0.25〜5.0重量%、好ましくは0.5〜3.0重量%の範囲で配合されていることが望ましく、前記ヒンダードアミン化合物が、0〜3.0重量%、好ましくは0.05〜2.0重量%の範囲で配合されていることが望ましい。前記ホスファゼン化合物と前記ヒンダードアミン化合物(以下、これらを難燃剤成分という)の各添加量が前記範囲未満であると、得られる繊維に充分な難燃性能を与えることができず、他方、前記範囲を超えると逆に難燃性能を低下させる傾向があるうえにコスト高となる。
【0066】
また、難燃剤成分の総添加量が増すに従い、紡糸時に糸切れが発生しやすくなったり、繊維の物理的強度が低下したりするので、繊維中の該総添加量は、0.25〜6重量%の範囲で使用することが好ましく、1〜4.5重量%がさらに好ましい。この範囲であると、繊維の曳糸性も良好で、得られた繊維の物性にも悪影響を与えない。
【0067】
<ソルビタン脂肪酸エステル類>
本発明の難燃性繊維に用いられるソルビタン脂肪酸エステル類は下記一般式(V)もし
くは(VI)で示される構造を有する化合物である。該ソルビタン脂肪酸エステル類は非イオン系の界面活性剤に分類され、高い湿潤性と粘調性を有している。
【0068】
【化21】

【化22】

(一般式(V)及び一般式(VI)中、R8、R9及びR10は、それぞれ独立して水酸基、ポリオキシエチレンまたはポリオキシプロピレンであり、そして、R11は、脂肪族炭化水素である。)
【0069】
ここで、R8、R9及びR10の重合度(エチレンオキシドまたはプロピレンオキシドの構成単位)は、それぞれ独立して0〜55であることが好ましい。より好ましくは、それぞれ独立して5〜40であり、さらに好ましくは、それぞれ独立して10〜20である。
【0070】
また、R11は、炭素数16〜30の飽和もしくは不飽和の脂肪族炭化水素であることが好ましい。より好ましくは、炭素数16〜25の飽和もしくは不飽和の脂肪族炭化水素であり、さらに好ましくは、炭素数20〜25の飽和もしくは不飽和の脂肪族炭化水素である。
【0071】
<ソルビタン脂肪酸エステル類の具体例>
本発明の難燃性繊維に用いられるソルビタン脂肪酸エステル類の具体例としては、ソルビタンモノラウレート、ソルビタンモノパルミレート、ソルビタンモノステアレート、ソルビタンモノオレート、ソルビタンセスキオレート、ソルビタンセスキステアレート、ソルビタントリオレエート、ソルビタントリステアレート、ソルビタンモノイソステアレート、ヤシ油脂肪酸ソルビタン等が挙げられる。
【0072】
ソルビタン脂肪酸エステル類のポリオキシエチレン誘導体の例としては、ポリオキシエチレン(EO=4)ソルビタンモノラウレート、ポリオキシエチレン(EO=4)ソルビタントリステアレート、ポリオキシエチレン(EO=4)ソルビタントリオレエート、ポリオキシエチレン(EO=5)ソルビタンモノオレエート、ポリオキシエチレン(EO=6)ソルビタンモノオレエート、ポリオキシエチレン(EO=6)ソルビタンモノステアレート、ポリオキシエチレン(EO=20)モノヤシ油脂肪酸ソルビタン、ポリオキシエチレン(EO=20)ソルビタンモノパルミレート、ポリオキシエチレン(EO=5)ソルビタンモノラウレート、ポリオキシエチレン(EO=20)ソルビタンモノラウレート、ポリオキシエチレン・ポリオキシプロピレンソルビタンモノラウレート、ポリオキシエチレン(EO=20)ソルビタンモノステアレート、ポリオキシエチレン(EO=20)ソルビタンモノイソステアレート、ポリオキシエチレン(EO=20)ソルビタンモノオレエート、ポリオキシエチレン(EO=20)ソルビタントリオレエート、ポリオキシエチレン(EO=20)ソルビタントリステアレートなどが挙げられる。本発明に用いられるソルビタン脂肪酸エステル類は特にこれらに限定されるものではない。
【0073】
<繊維処理剤におけるソルビタン脂肪酸エステル類の含有量>
ソルビタン脂肪酸エステル類を繊維処理剤の主成分として含有する場合、繊維処理剤の有効成分重量に対して、50重量%以上配合され、好ましくは60〜70重量%の範囲に配合される。配合されるその他の成分としては、非イオン性の任意の界面活性剤が好ましく、これらは繊維処理剤剤の乳化や防腐効果を高めるために用いられることもある。また、非イオン性の界面活性剤として、ポリオキシアルキレンアルキルエーテルを含有することも妨げない。
【0074】
<ポリオキシアルキレンアルキルエーテル>
一方、ポリオキシアルキレンアルキルエーテルは下記一般式(VII)で示される構造を有する化合物である。
【0075】
【化23】

(一般式(VII)中、R12は、脂肪族炭化水素であり、R13は水素または置換されていてもよいアルキルであり、そして、kは5〜50の整数である。)
【0076】
ここで、R12は、炭素数12〜30の飽和もしくは不飽和の脂肪族炭化水素であることが好ましい。R12の炭素数は、繊維同士の摩擦を抑えて良好な開繊性を保つために12以上であることが好ましく、また30以下のものはポリオキシアルキレンアルキルエーテルそのものの合成が困難ではなく工業化に適している。R12の炭素数については、炭素数18〜30がより好ましく、炭素数20〜25がさらに好ましい。
【0077】
また、R13は、水素又はメチルであることが好ましい。kは5〜50の整数があげられるが、好ましくは、10〜25であり、より好ましくは15〜20である。
【0078】
<ポリオキシアルキレンアルキルエーテルの具体例>
本発明の難燃性繊維に用いられるポリオキシアルキレンアルキルエーテルの具体例としては、ポリオキシエチレン(k=20)ベヘンエーテル、ポリオキシエチレン(k=14)ステアリルエーテル、ポリオキシエチレン(k=20)テトラコサンエーテル、ポリオキシエチレン(k=18)オクタコサンエーテル、ポリオキシエチレン(k=10)トリアコンタエーテル、ポリオキシエチレン(k=5)ラウリルエーテル、ポリオキシエチレン・ポリオキシプロピレン(エチレンオキシドの構成単位が2、プロピレンオキシドの構成単位が6、全体でk=8)ラウリルエーテル等が挙げられるが、本発明に用いられるポリオキシアルキレンアルキルエーテルは特にこれらに限定されるものではない。
【0079】
<繊維処理剤におけるポリオキシアルキレンアルキルエーテルの含有量>
ポリオキシアルキレンアルキルエーテルを繊維処理剤の主成分として含有する場合、繊維処理剤の有効成分重量に対して、50重量%以上の範囲で配合され、好ましくは60〜70重量%の範囲に配合される。配合されるその他の成分としては、非イオン性の任意の界面活性剤が好ましく、これらは繊維処理剤の乳化や防腐効果を高めるために用いられることもある。また、非イオン性の界面活性剤として、ソルビタン脂肪酸エステル類を含有することも妨げない。
【0080】
<繊維処理剤における主成分の含有量>
本発明の難燃性繊維に用いられる繊維処理剤は、上記のソルビタン脂肪酸エステル類およびポリオキシアルキレンアルキルエーテルから選ばれる少なくとも2種以上を含有する場合、上記のソルビタン脂肪酸エステル類およびポリオキシアルキレンアルキルエーテルから選ばれる少なくとも2種以上の成分の合計が繊維処理剤の有効成分重量に対して、50重量%以上の範囲で配合され、好ましくは60〜70重量%の範囲に配合される。配合されるその他の成分としては、非イオン性の任意の界面活性剤が好ましく、これらは繊維処理剤の乳化や防腐効果を高めるために用いられることもある。
【0081】
本発明の難燃性繊維に用いられる繊維処理剤は上記のソルビタン脂肪酸エステル類およびポリオキシアルキレンアルキルエーテルから選ばれる少なくとも1種以上を主成分として上記の重量比で含有し、その他は任意の非イオン性の成分を含有することを妨げない。すなわち、本発明に使用される繊維処理剤は、非イオン性の成分によって構成され、イオン性の成分は含まないことが好ましい。しかし、本発明の効果を損なわない範囲であれば、目的に応じてイオン性の成分を含有することを全く妨げるものではなく、他にも必要に応じて酸化防止剤、防腐剤、防錆剤、抗菌剤、濡れ性向上剤(親水剤)等を本発明の効果を阻害しない範囲内で配合することができる。また、繊維処理剤は必要に応じて水に溶解して用いる。
【0082】
<繊維処理剤の繊維への付着量>
本発明の難燃性繊維において、ソルビタン脂肪酸エステル類、または、ポリオキシアルキレンアルキルエーテルを主成分とする繊維処理剤の繊維への付着量は、繊維重量に対し0.01〜1.5重量%であり、好ましくは0.15〜1.0重量%の範囲である。付着量を0.01重量%以上にすることにより、静電気の発生を適度に抑えることができ、不織布の加工性や地合いが良好となる。1.5重量%以下にすることにより、エレクトレット処理時の不織布の帯電が繊維処理剤によって阻害されることがなく、不織布のエレクトレット特性も向上する。
【0083】
<難燃性繊維を形成する熱可塑性樹脂>
本発明の難燃性繊維は、紡糸可能な熱可塑性樹脂を原料として使用した繊維を用いており、熱可塑性樹脂を単独または2種類以上の均一に混合された樹脂から溶融紡糸された単一繊維や、2種類以上の熱可塑性樹脂を用いて複合紡糸した複合繊維が用いられる。
【0084】
熱可塑性樹脂としては、繊維形成能を有するものであればなんら差し支えなく、具体的にはポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)などのポリエステル、ポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)などのポリオレフィン、ナイロンなどのポリアミド、ポリウレタン、ポリスチレン、アクリルなどを例示できる。なかでも、難燃剤成分の揮発を抑えるために紡糸温度を比較的低温で実施できる点、難燃性能が得やすい点などの理由から、ポリオレフィンおよびオレフィンを主成分とする共重合体が好ましい。特に、本発明の難燃剤成分は、ポリオレフィンの分解を促進させる触媒残渣を有していないか極端に少ないので、ポリオレフィンの難燃化に最適である
【0085】
ポリオレフィンとしては、入手の容易さ、取り扱いの容易さから、低密度ポリエチレン(LDPE)、直鎖状低密度ポリエチレン(L−LDPE)、高密度ポリエチレン(HDPE)、ポリプロピレン(PP)、エチレン−プロピレン共重合体、エチレン−プロピレン−ブテン共重合体がより好ましい。また、これらを主成分とした変性体、スチレンやゴムモノマーとの共重合体であっても構わない。これらの熱可塑性樹脂は、単独で用いても2種以上の混合体として用いてもいずれでもよい。
【0086】
本発明の難燃性繊維に用いられる複合繊維が、低融点熱可塑性樹脂と高融点熱可塑性樹脂との2種類の熱可塑性樹脂からなる場合、その組み合わせの例としては、高密度ポリエチレン/ポリプロピレン、低密度ポリエチレン/ポリプロピレン、線状低密度ポリエチレン/ポリプロピレン、低密度ポリエチレン/プロピレン−エチレン−ブテン−1結晶性共重合体、エチレン−プロピレン共重合体/ポリプロピレン、高密度ポリエチレン/ポリエチレンテレフタレート、ナイロン−6/ナイロン66、低融点ポリエステル/ポリエチレンテレフタレート、ポリプロピレン/ポリエチレンテレフタレート、ポリフッ化ビニリデン/ポリエチレンテレフタレート、線状低密度ポリエチレンと高密度ポリエチレンの混合物/ポリエチレン等が例示できる。好ましくは、複合繊維がポリオレフィン系の成分からなるもので、このような低融点熱可塑性樹脂/高融点熱可塑性樹脂の組み合わせとしては、例えば、高密度ポリエチレン/ポリプロピレン、エチレン−プロピレン共重合体/ポリプロピレン等を挙げることができる。
【0087】
本発明の難燃性繊維に用いられる複合繊維を構成する低融点熱可塑性樹脂と高融点熱可塑性樹脂の重量比は、低融点熱可塑性樹脂が10〜90重量%、高融点熱可塑性樹脂が90〜10重量%であり、好ましくは低融点熱可塑性樹脂が30〜70重量%、高融点熱可塑性樹脂が70〜30重量%である。低融点熱可塑性樹脂が10重量%未満の場合、熱接着性が不充分になり不織布に加工したときの不織布強力が低下する。また、逆に低融点熱可塑性樹脂が90重量%を越えた場合、芯成分である高融点熱可塑性樹脂が繊維形態を維持できにくくなる。
【0088】
本発明の難燃性繊維は、その断面構造には特に限定はなく、融点の異なる複数の熱可塑性樹脂を用いた複合構造であってもよい。特に、低融点の熱可塑性樹脂が繊維表面の少なくとも一部を繊維長さ方向に連続して形成されている複合構造の難燃性繊維は、繊維成形体を得る際に熱接着性が向上し、繊維成形体の物理的強度を良好に保つことができる。複合断面は、鞘芯型、偏心型、並列型および放射状に交互に配列された放射型等の構造の何れでも良く、中空構造をとっていても差し支えないが、融点の低い熱可塑性樹脂を鞘側に用いた鞘芯型や該樹脂を片側に持つ並列型は、繊維間の熱接着性に優れた効果を発揮する。また、種類の異なる熱可塑性樹脂が放射状に交互に配列された放射型等の構造を有しているものは、相溶性の低い熱可塑性樹脂の組み合わせを選ぶことで、分割性を有する難燃性繊維とすることができる。
【0089】
本発明の難燃性繊維が複合構造を有する場合、何れか一方にのみ難燃剤成分が配合されていてもよく、難燃剤成分の配合比率および配合量の異なる組み合わせとしても良い。例えば、複合構造が鞘芯型である難燃性繊維において、鞘側に耐候性能を有する前記ヒンダードアミン化合物を配合し、芯側に難燃性能の優れる前記ホスファゼン化合物を配合してもよいが、難燃剤成分のブリードアウトを抑制できる点から、芯側にのみ難燃剤成分を配合することが望ましい。
【0090】
本発明の難燃性繊維に用いられる複合繊維において、該繊維の表面の一部に長さ方向に沿って連続して露出する低融点成分に反応性官能基を有したビニルモノマーからなる重合体を含む樹脂(変性剤という)を含有させることができる。変性剤は、反応性官能基を有した樹脂であり、該反応性官能基としては、水酸基、アミノ、ニトリル、ニトリロ、アミド、カルボニル、カルボキシル、グリシジル等の官能基が挙げられる。
【0091】
変性ポリオレフィンは、前記反応性官能基を有するビニルモノマーを用いて重合することができ、ブロック、ランダム、ラダー等の共重合体、グラフト重合体のいずれも使用することができる。反応性官能基を有するビニルモノマーとしては、無水マレイン酸、マレイン酸、アクリル酸、メタクリル酸、フマル酸、イタコン酸等から選択された不飽和カルボン酸、その誘導体、またはその無水物を少なくとも1種含むビニルモノマー、スチレン、α−メチルスチレン等のスチレン類、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸2−ヒドロキシエチル、メタクリル酸ジメチルアミノエチル等のメタクリル酸エステル類、または同様なアクリル酸エステル等を少なくとも1種含むビニルモノマー、グリシジルアクリレート、グリシジルメタクリレート、ブテンカルボン酸エステル類、アリルグリシジルエーテル、3,4−エポキシブテン、5,6−エポキシ−1−ヘキセン、ビニルシクロヘキセンモノオキシド等を少なくとも1種含むビニルモノマーを挙げることができる。
【0092】
変性剤としては、一般的に変性剤の全重量に対して前記反応性官能基を有するビニルモノマーを0.05〜2.0mol/kgの変性率で有することが好ましく、0.05〜0.2mol/kgの変性率の変性剤を利用することがより好ましい。
【0093】
変性剤は、不織布を構成する際に無機物等の他素材との接着性が高いことや、本発明における難燃性繊維の帯電性を高めることから、本発明では変性剤として、不飽和カルボン酸またはその誘導体からなるビニルモノマーとポリオレフィンとからなる変性ポリオレフィンを好ましく用いることができる。
【0094】
上記の変性ポリオレフィンのうち、グラフト重合体である変性ポリオレフィンが、ポリマー強度が高く、繊維加工性が良好であることから、より好ましく利用でき、変性率に関しては、繊維加工性及び本発明の効果を妨げない範囲で可能な限り、高変性率であることが好ましい。
【0095】
変性ポリオレフィンの幹ポリマーとしては、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリブテン−1等が用いられる。ポリエチレンとしては、高密度ポリエチレ、線状低密度ポリエチレン、低密度ポリエチレンが用いられる。これらは、密度が0.90〜0.97g/cm3、融点は、100〜135℃程度のポリマーである。ポリプロピレンとしては、プロピレン単独重合体、プロピレンを主成分とする、プロピレンと他のα−オレフィンとの共重合体が用いられる。これらは、融点130〜170℃程度のポリマーである。ポリブテン−1は、融点が110〜130℃程度のポリマーである。これらのポリマーの中では、融点、共重合、グラフト重合の容易性を考慮するとポリエチレンが好ましく、不織布強度を向上させるためには、ポリマー強度が高い、高密度ポリエチレンがより好ましい。
【0096】
上記変性ポリオレフィンを含む低融点成分には、変性ポリオレフィンの単独、少なくとも2種の変性ポリオレフィンの混合物、少なくとも1種の変性ポリオレフィンと他の熱可塑性樹脂との混合物等を利用することができる。変性ポリオレフィンは、未変性のポリオレフィンと比較した場合、一般的にポリマー強度が低下する傾向であるため、繊維強度をより高く維持するためには、低融点成分として、高変性率の変性ポリオレフィンと未変性のポリオレフィンとの混合物を用いることが好ましく、相溶性の面から変性ポリオレフィンの幹ポリマーと同じポリマーを用いることが特に好ましい。
【0097】
変性剤と他の熱可塑性樹脂とを混合する場合には、0.1mol/kg程度以上の高変性率の変性剤を用いることが好ましい。変性剤の添加量は、低融点成分に対して、1.0〜50.0重量%配合されていることが好ましく、さらに好ましくは2.0〜20.0重量%の範囲で配合されていることが望ましい。変性剤を用いることにより、本発明の難燃性繊維と無機物等の他素材との接着性が向上し、本発明の難燃性繊維の帯電性を向上させるという効果を付加することができる。これは繊維処理剤と繊維表面に存在する変性剤の反応性官能基が反応して、帯電性を向上していると推測される。変性剤の添加量が、前記範囲未満であると帯電性の向上効果は小さく、他方、前記範囲を超えると、繊維の曳糸性が低下し繊維の物理的強度が低下する傾向にある上にコスト高となる。
【0098】
本発明の難燃性繊維を構成する熱可塑性樹脂には、本発明の効果を妨げない範囲内で酸化防止剤、光安定剤、紫外線吸収剤、中和剤、造核剤、エポキシ安定剤、滑剤、抗菌剤、難燃剤、顔料、可塑剤及び他の熱可塑性樹脂等を添加することができる。
【0099】
<本発明の難燃性繊維を用いた不織繊維集合体、不織布及び複合化不織布>
本発明の難燃性繊維の繊度は特に限定されないが、0.2〜100デニールの範囲が好ましく用いられている。本発明の難燃性繊維を含む不織布がフィルター部材に用いられる場合には、捕集対象物や要求される通気性の点によって異なるが、0.5〜30デニールの範囲の繊度が好ましく用いられる。
【0100】
本発明の難燃性繊維は一般的には、単独もしくは例えばナイロンのような他の繊維と混合して、カード法、エアレイド法等の既知の加工法でウェブを形成し、不織繊維集合体とするか、または、それをスルーエアー型熱処理機等で繊維の交点を熱融着するか、ウォータージェット法等で繊維を機械的に交絡することで不織布とされる。また、本発明の難燃性繊維は、他の不織布、ネット、多孔性フィルム等に堆積させて複合化不織布にすることができる。
【0101】
本発明の難燃性繊維を用いた不織繊維集合体、不織布、前記の複合化不織布は、メルトブロー法、スパンボンド法、スパンレース法、カード法、エアレイド法、または、抄造法等の他の加工法によって得られた不織布、ネット、多孔性フィルム等の他のシートを積層して複合化不織布にすることができる。
【0102】
スパンボンド法やメルトブロー法によりエレクトレット処理用の長繊維の繊維成形体を得る場合には、一般的に繊維処理剤を必要としないが、エアレイド法やカード法等により、短繊維を使用して繊維成形体を得る場合には、静電気の発生による不織布の加工性や操業性への悪影響を抑制するために表面に界面活性剤などの繊維処理剤が付着させる必要がある。そのため、従来、不織布のエレクトレット処理工程を行うためには、二次的な水洗や湯洗等の洗浄工程を導入する方法や、ウォータージェット法で交絡しながら繊維処理剤を洗浄除去する方法が用いられており、工程上の制約が生じ、工程設備の増加や製造コストの上昇等の問題が生じている。
【0103】
また、熱処理工程での油剤付着量の減少を利用して不織布化とエレクトレット化を可能にする方法もあるが、エレクトレット加工前に必ず熱処理工程を要するという制約や、繊維処理剤の付着量を規定の量以下に制御するという高い品質管理技術が必要とされる。本発明の難燃性繊維を用いることで、繊維処理剤が付着したままであっても加工法の制約をうけず、多段階の加工工程を経ることなく、必ずしも不織布加工時/後に熱履歴を要さないで、ニードルパンチ法やスルーエアー法等多様な不織布加工工程に適したエレクトレット繊維を得ることできる。
【0104】
<本発明の難燃性繊維の繊維長及び捲縮>
本発明の難燃性繊維としては、繊維長が3〜120mmの範囲の短繊維があげられる。
【0105】
本発明の難燃性繊維をエアレイド法により不織布加工を行う場合、繊維を篩、またはスクリーンを通して繊維が均一分散したウェブとなるよう降り積もらせることが必要である。このためには、繊維長が3〜40mmの範囲の短繊維を用いることが好ましい。繊維長が40mmを大幅に越えると均一分散が難しくなる傾向にあり、さらに不織布に地合斑ができやすくなる。逆に、繊維長が3mmを大幅に下回ると不織布に加工したときの不織布強力が低下するばかりでなくエアレイド法の特徴である嵩高性も失わる恐れがある。
【0106】
エアレイド法に用いられるウェブ製造装置としては、例えば、前後、左右、上下、水平円状等のいずれかに振動し短繊維をふるいの目から分散落下させる箱形篩いタイプの装置が使用できる。また、ネット状の金属多孔板が円筒状に成形され、かつその側面に繊維の投入口を有し、繊維をそのふるいの目から分散・落下させるネット状円筒型タイプの装置も使用できる
【0107】
本発明の難燃性繊維をカード機で流綿する場合には、繊維長が32〜120mmの繊維を用いることが好ましい。繊維長が120mmを大幅に越える繊維を流綿すると、カード機のローラーへの繊維の巻き付きが生じやすくなり、32mm未満ではウェブの形成が不充分となる。
【0108】
本発明の難燃性繊維の捲縮数は特に制限されないが、エアレイド法でウェブ化する場合には、0〜15山/25mmの範囲がウェブの形成が良好となり好ましい。このとき、捲縮数が15山/25mmをはるかに超えると繊維間の絡みが大きくなり繊維の開繊性が低下し、均一な地合いのウェブさらには不織布が得られにくくなる。また、捲縮形状はジグザグ型の二次元捲縮やスパイラル型、オーム型等の立体三次元捲縮等、いずれの形状も用いることができる。
【0109】
本発明の難燃性繊維の捲縮数は特に制限されないが、カード機で流綿する場合には、3〜20山/25mmの範囲がウェブの形成が良好となり好ましい。このとき、捲縮数が3山/25mm未満であると得られた不織布の強力が低下し、20山/25mmをはるかに超えると繊維間の絡みが大きくなり繊維の開繊性が低下し、均一な地合いのウェブさらには不織布が得られにくくなる。また、捲縮形状はジグザグ型の二次元捲縮やスパイラル型、オーム型等の立体三次元捲縮等、いずれの形状も用いることができる。
【0110】
本発明の難燃性繊維を用いてエアレイド法、またはカード法によって得られたウェブは繊維交点の熱処理や機械交絡によって不織布に加工される。熱処理は低融点熱可塑性樹脂の軟化点または融点以上、高融点熱可塑性樹脂の融点未満の温度に加熱して繊維の交点を融着する装置を用い、スルーエアー型熱処理機、エンボスロール型熱処理機、フラットロール型熱処理機等が使用できる。特にエアレイド法により得られたウェブはスルーエアー型熱処理機を用いることで嵩高な不織布が得られるため好適である。また、機械交絡は高圧水流やニードルによって機械的にウェブを絡ませる方法であり、柔らかい風合いの不織布を得るのに好適である。本発明の難燃性繊維は従来のような繊維処理剤の洗浄や熱履歴による成分の潜り込みを必ずしも要さないため、このようなニードルによる不織布化も可能である。
【0111】
<熱接着性複合繊維の製造方法>
以下に本発明の難燃性繊維に用いられる熱接着性複合繊維を製造する工程を示す。
【0112】
低融点熱可塑性樹脂が繊維表面の少なくとも一部を形成するように並列型口金、または低融点熱可塑性樹脂を鞘成分とし高融点熱可塑性樹脂を芯成分とする鞘芯型口金、若しくは偏心鞘芯型口金を用い、通常用いられる溶融紡糸機により熱可塑性樹脂を紡出する。このとき、口金直下をクエンチにより送風し、半溶融状態の熱可塑性樹脂を冷却することによって、未延伸状態の熱接着性複合繊維を製造する。このとき、溶融した熱可塑性樹脂の吐出量及び未延伸糸の引取速度を任意に設定し、目標繊度に対して1〜5倍程度の繊維径の未延伸糸とする。なお、繊維表面を形成する低融点熱可塑性樹脂の割合は、繊維断面円周率で50%以上の場合に熱接着力が充分となり、特に50〜100%の場合には強力となり好ましいが、同時にエレクトレット特性を向上させるためには必ずしもこの限りではない。得られた未延伸糸は、通常用いられる延伸機により延伸することによって、延伸糸(捲縮加工前の熱接着性複合繊維)とすることができる。なお、通常の場合、40〜120℃に加熱したロールとロールの間を、ロール間の速度比が1:1〜1:5の範囲となるように延伸処理を施す。得られた延伸糸は、ボックス型の捲縮加工機により捲縮が付与されトウとする。
【0113】
繊維処理剤の付着工程については、未延伸糸の引き取り時にキスロールにて付着する方法や、延伸時/後にタッチロール法、浸漬法、噴霧法等で付着する方法があり、これらの方法の少なくとも一種の工程にて付着される。該トウは乾燥機を用いて60〜120℃で乾燥し、押し切りカッターを用いて用途に合わせた任意の繊維長に切断し、使用される。
【0114】
本発明の難燃性繊維を用いた不織布は、繊維の低融点成分が溶融しない程度の加熱雰囲気下で電荷を与える熱エレクトレット法や、コロナ放電によって電荷を与えるコロナ放電法等のエレクトレット処理を行うことで不織布に電荷を帯電させて捕集機能等の特性を不織布に与える。エレクトレット処理法に関しては特にこの限りではない。
【0115】
本発明の難燃性繊維を用いた不織布は、前述のごとく、例えばエアレイド法やカード法によって得ることができる。該不織布の目付は特に限定されないが、フィルターに用いる場合には、8〜1000g/m2の範囲の目付が好ましい。
【0116】
本発明の難燃性繊維を用いた不織布加工品は、用途に応じて、繊維集合体、ウェブ、不織布、紙状物、編物または織物等の様々な形態をとることができるが、エアーフィルターや濾過材等のフィルター材等に用いる場合、前述の不織布、複合化不織布を用いて製造されたものが好ましい。例えば、該不織布にエレクトレット処理を行い、エアコンや空調設備に用いられるエアーフィルター等に用いることができる。複合化不織布としては、例えば、ネットと積層することで、不織布に機械的強度及び、剛性を持たせ、フィルターのプリーツ加工後の形態保持性が向上し、フィルターそのものの強度も保持できる。
【実施例】
【0117】
<物性値の測定法または定義>
以下、実施例、比較例により本発明を説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。なお、実施例、比較例中に示された物性値の測定法または定義をまとめて以下に示す。
【0118】
「捲縮数」については、JIS−L−1015に準じて測定した。
【0119】
「単糸繊度」については、JIS−L−1015に準じて測定した。
【0120】
「目付」については、不織布を50cm角に切った成形体全体の重量を秤量し、単位面積当たりの重量(g/m2)で示した。
【0121】
「難燃性1」については、JIS−L−1091のA−1法に準じて残炎時間(秒)及び炭化面積(cm2)を調べ、得られた値を基に、各不織布の難燃性能を次の4段階に評価した。評価としては、◎は「非常に優れている」、○は「優れている」、△は「難燃性能はあるが、優れたものではない」、×は「難燃性能がないか、著しく弱い」を示す。残炎時間および炭化面積ともに数値の小さい方が難燃性能に優れていることを示す。
【0122】
「難燃性2」については、UL規格の94HF−2に準じて測定を行い、各不織布の難燃性能を94HF−2規格の合否で評価した。評価としては、○は「合格」、×は「不合格」を示す。
【0123】
「耐候性」については、JIS B 7751に記載の紫外線カーボンアーク灯式耐光試験機にて、照射前、40時間、80時間、120時間、160時間、200時間照射した後の各不織布を幅2.5cm、長さ15cmの短冊状に切断してサンプルとして試験した。室温下、島津製作所(株)製オートグラフ AGS500D(商品名)を用い、速度100mm/分でサンプルが破断するまで引っ張った。破断時の引張強度を測定した後、下記式により目付60g/m2に換算し、不織布強度とし、照射前の不織布強度に対する、照射後の不織布強力の百分率を不織布強度維持率(%)とした。この値が100に近いほど、不織布の劣化が進み難い、つまり耐候性能に優れていることを示しており、得られた値を基に、各不織布の耐候性能を次の4段階に評価した。評価としては、◎は「非常に優れている」、○は「優れている」、△は「耐候性能はあるが、優れたものではない」、×は「耐候性能がないか、著しく弱い」を示す。なお、「不織布強度=引張強度×60/各不織布の目付重量」である。
【0124】
繊維処理剤付着量(%)としては、乾燥した繊維2gから、繊維に付着した繊維処理剤をメタノール25mlで抽出し、抽出メタノールからメタノールを蒸発させて残った残渣を秤量し、繊維に対する重量比(%)として算出した。
【0125】
帯電性としては、パーティクル測定器(リオン株式会社製パーティクルカウンターKC−01(0.3〜5μm))にて、大気塵(0.3〜5μm)を速度5cm/minで不織布を通過させた時に、不織布に捕集された塵の量を測定し、通過させた塵の全体の量から100分率で算出した値を捕集効率(%)とした。捕集効率は大気塵が不織布を通過するときの塵の捕集率であるが、不織布の静電気効果によって捕集された塵の捕集率を反映していると考えられるため、これを用いて不織布の帯電性の指標として用いた。捕集効率の高い繊維は帯電性に優れていることを表しており、得られた値を基に、各不織布の帯電性を次の4段階に評価した。評価としては、◎は「非常に優れている」、○は「優れている」、△は「帯電性はあるが、優れたものではない」、×は「帯電性がないか、著しく弱い」を示す。
【0126】
加工工程の効率性としては、エレクトレット不織布加工工程において、湯洗浄等の加工工程の必要性により、加工工程の効率性を次の2段階で評価した。評価としては、○は「洗浄工程なし」、×は「不織布の湯洗浄工程が必要」を示す。
【0127】
実施例1〜9及び比較例1〜4で用いた難燃剤の成分を表1に示し、繊維処理剤の成分とその配合比率を表2に示し、これら難燃剤の配合比率と繊維処理剤を付着して得られた複合繊維の製造条件を表3に示した。なお、繊維処理剤の付着方法は紡糸工程でのキスロール方式または、延伸工程でのタッチロール方式及び噴霧方式を用いた。また、繊維の捲縮数は10〜13山/25mmの繊維を用いた。
【0128】
【表1】

【0129】
【表2】

【0130】
【表3】

【0131】
<実施例1>
表3に示した各繊維を用い、エアレイド法にて、ウェブを作り、138℃のスルーエアー熱処理機を通過させて不織布とした。なお、難燃性評価に用いる不織布は、目付重量を200g/m2、耐候性評価に用いる不織布は、目付重量を60g/m2、補修効率測定用に用いる不織布は、目付重量を100g/m2に調整し、補修効率測定用に用いる不織布は、90℃雰囲気下で1分間保持した後10kVの電圧を2秒間印加することでエレクトレット不織布を作製した。
【0132】
<実施例2〜5、8、9>
表3の「実施例2〜5、8、9」に示した繊維組成と繊維処理剤を用いた以外は、実施例1と同じ繊維組成と加工条件と目付重量で各不織布を作製した。
【0133】
<実施例6>
表3の「実施例6」に示した繊維組成のトウを繊維長51mmにカットし、カード法によりウェブを作り、138℃のスルーエアー熱処理機を通過させて不織布を作製した。なお、難燃性評価に用いる不織布は、目付重量を200g/m2、耐候性評価に用いる不織布は、目付重量を60g/m2、補修効率測定用に用いる不織布は、目付重量を100g/m2に調整し、補修効率測定用に用いる不織布は、90℃雰囲気下で1分間保持した後10kVの電圧を2秒間印加することでエレクトレット不織布を作製した。
【0134】
<実施例7>
表3の「実施例7」に示した繊維組成のトウを繊維長51mmにカットし、カード法によりウェブを作り、ニードルパンチ処理機に通過させることで不織布を作製した。なお、難燃性評価に用いる不織布は、目付重量を200g/m2、耐候性評価に用いる不織布は、目付重量を60g/m2、補修効率測定用に用いる不織布は、目付重量を100g/m2に調整し、補修効率測定用に用いる不織布は、90℃雰囲気下で1分間保持した後10kVの電圧を2秒間印加することでエレクトレット不織布を作製した。
【0135】
<比較例1>
実施例1と同じ条件で作製した各不織布を湯洗して繊維処理剤を洗浄した後、補修効率測定用に用いる不織布は、エレクトレット加工をして不織布を作製した。
【0136】
<比較例2〜4>
表3の「比較例2〜4」に示した繊維組成とポリオキシエチレンアルキルエーテルにカチオン性の成分であるカチオン系界面活性剤とアニオン系界面活性剤の複塩、ノニオン系の成分であるシリコン乳化剤を加えた繊維処理剤または、ソルビタン脂肪酸エステル類にカチオン性の成分であるジオクチルスルフォサクシネートを加えた繊維処理剤を用いた以外は、実施例1と同じ条件と目付重量で各不織布を作製した。
【0137】
実施例1〜9及び比較例1〜4のエレクトレット処理用不織布の難燃性、耐候性、捕集効率を測定した結果を表4に示す。
【0138】
【表4】

【0139】
表4から、本発明の難燃性繊維である実施例1〜9は、難燃性能、耐候性能、帯電性能そして加工工程の効率性を過不足なく、満たしていることが明らかである。特に実施例1〜7は繊維処理剤を洗浄することなく、湯洗浄処理を行った比較例1と同等の捕集効率が得られていることは驚くべきことである。
【0140】
また必ずしも不織布加工時/後に熱履歴を要さないで、エレクトレット加工において良好な帯電性を示すことがわかった。即ち、本発明の難燃性繊維を用いることで、多段階の加工工程を経ることなく、ニードルパンチ法やスルーエアー法等多様な不織布加工工程に適したエレクトレット繊維を得ることを可能としている。
【0141】
しかし、比較例2〜4のイオン性を有する繊維処理剤ではエレクトレット加工による帯電性が殆ど見られなかった。これは、該繊維に帯電した電気量が繊維処理剤中に存在するイオン性成分を媒介して放電されるためと考えられる。
【0142】
また、実施例8と同じ繊維処理剤を用いた実施例4〜6、9において、エレクトレット加工による帯電性(捕集効率)が格段に優れた結果であったのは、繊維を構成する熱可塑性樹脂が異なるためと考えられ、熱可塑性樹脂の選択によって本発明の効果をさらに高めることができる。すなわち、エレクトレット加工による帯電後の静電気保持率は繊維構成樹脂に大きく依存しており、変性剤を含んだ熱可塑性樹脂を用いることは、本発明の好ましい態様の一つであるといえる。
【0143】
なお、繊維処理剤4はエレクトレット加工における帯電性においても、不織布の加工性においても良好な結果が得られていることから、繊維処理剤の成分比率が好ましい範囲にある繊維処理剤と考えられる。
【産業上の利用可能性】
【0144】
本発明の難燃性繊維は、難燃性、耐候性に優れているため、長期間に渡って物理的強度を維持することが可能であり、環境への悪影響が少なく、長期間の使用に適したものである。また、エアレイド機やカード機を用いて不織布に加工する工程では静電気の発生を抑えて効率よく加工することができ、エレクトレット処理に際しては繊維処理剤の洗浄工程を経ずに十分に帯電させることができるので、集塵効果を要求されるエアーフィルター等の不織布加工品に利用することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(I)で表される環状ホスファゼン化合物および/または下記一般式(II)で表される鎖状ホスファゼン化合物を含む熱可塑性樹脂を用いて得られた繊維に、非イオン性の繊維処理剤を付着してなる難燃性繊維。
【化1】

(一般式(I)中、mは3〜10の整数であり、Qはアルコキシル、アリールオキシ及びアミノよりなる群からそれぞれ独立して選ばれた基である。)
【化2】

(一般式(II)中、nは3〜10の整数であり、Qはアルコキシル、アリールオキシ及びアミノよりなる群からそれぞれ独立して選ばれた基である。)
【請求項2】
前記熱可塑性樹脂は、さらに下記一般式(III)で表される基を含むヒンダードアミン化合物を含む、請求項1に記載する難燃性繊維。
【化3】

(一般式(III)中、
1は、置換されていてもよいアルキル、置換されていてもよいシクロアルキル、置換されていてもよい二環式もしくは三環式の炭化水素、または、置換されていてもよいフェニルアルキルであり、
2、R3、R4及びR5は、それぞれ独立して、置換されていてもよいアルキルであるか、R2とR3および/もしくはR4とR5が結合したペンタメチレンであり、
6は、置換されていてもよいアルコキシル、置換されていてもよいアリールオキシ、置換されていてもよいアミノ、または、下記一般式(IV)で示される結合基であり、そして、
一般式(III)においてAは、酸素、または、−NR7−である。なお、R7は水素、または、置換されていてもよいアルキルである。)
【化4】

(一般式(IV)中、
1は、一般式(III)におけるR1とは独立して、一般式(III)におけるR1と同じ基であり、
2、R3、R4及びR5は、一般式(III)におけるR2、R3、R4及びR5とは独立して、それぞれ一般式(III)におけるR2、R3、R4及びR5と同じ基であり、そして、
Aは、一般式(III)におけるAとは独立して、一般式(III)におけるAと同じ基である。)
【請求項3】
上記一般式(III)及び上記一般式(IV)中、
1は、それぞれ独立して、置換されていてもよい炭素数1〜18のアルキル、置換されていてもよい炭素数5〜12のシクロアルキル、置換されていてもよい炭素数7〜12の二環式もしくは三環式の炭化水素、または、置換されていてもよい炭素数7〜15のフェニルアルキルであり、
2、R3、R4及びR5は、それぞれ独立して、置換されていてもよい炭素数1〜4のアルキルであるか、R2とR3および/もしくはR4とR5が結合したペンタメチレンであり、
6は、それぞれ独立して、置換されていてもよい炭素数1〜4のアルコキシル、置換されていてもよい炭素数6〜12のアリールオキシ、置換されていてもよい炭素数1〜18のアミノ、または、上記一般式(IV)で示される結合基であり、そして、
上記一般式(III)及び上記一般式(IV)においてAは、それぞれ独立して、酸素、または、−NR7−であり、なお、R7は水素、または、置換されていてもよい炭素数1〜12の直鎖または分岐鎖のアルキルである、
請求項2に記載する難燃性繊維。
【請求項4】
前記熱可塑性樹脂は、
前記環状ホスファゼン化合物および/または前記鎖状ホスファゼン化合物を0.25〜5.0重量%の範囲で含み、
前記ヒンダードアミン化合物を0重量%より多く、3.0重量%以下の範囲で含む、
請求項2又は3に記載する難燃性繊維。
【請求項5】
前記非イオン性の繊維処理剤は、下記一般式(V)もしくは下記一般式(VI)で示さ
れるソルビタン脂肪酸エステル類及び下記一般式(VII)で示されるポリオキシアルキレンアルキルエーテルの群から選ばれた少なくとも1種を主成分として含有する、請求項1ないし4のいずれかに記載する難燃性繊維。
【化5】

【化6】

(一般式(V)及び一般式(VI)中、
8、R9及びR10は、それぞれ独立して水酸基、ポリオキシエチレンまたはポリオキシプロピレンであり、そして、
11は、脂肪族炭化水素である。)
【化7】

(一般式(VII)中、
12は、脂肪族炭化水素であり、R13は水素または置換されていてもよいアルキルであり、そして、kは5〜50の整数である。)
【請求項6】
上記一般式(V)及び上記一般式(VI)中、
8、R9及びR10の重合度(エチレンオキシドまたはプロピレンオキシドの構成単位)は、それぞれ独立して0〜55であり、R11は、炭素数16〜30の飽和もしくは不飽和の脂肪族炭化水素であり、
上記一般式(VII)中、
12は、炭素数12〜30の飽和もしくは不飽和の脂肪族炭化水素であり、R13は水素またはメチルである、
請求項5に記載する難燃性繊維。
【請求項7】
前記繊維には、該繊維の重量に対して0.01〜1.5重量%に相当する量の前記非イオン性の繊維処理剤が付着されている、請求項1ないし6のいずれかに記載する難燃性繊維。
【請求項8】
前記難燃性繊維は、繊維長3〜120mmの短繊維である、請求項1ないし7のいずれかに記載する難燃性繊維。
【請求項9】
前記難燃性繊維は、エレクトレット処理用である、請求項1ないし8のいずれかに記載する難燃性繊維。
【請求項10】
前記繊維は、融点差を有する少なくとも2種類の熱可塑性樹脂で構成される繊維であって、少なくとも1種類の該熱可塑性樹脂はポリオレフィンであり、該ポリオレフィンは前記繊維の表面の少なくとも一部を長さ方向に連続して露出している、熱接着性複合繊維である請求項1ないし9のいずれかに記載の難燃性繊維。
【請求項11】
前記繊維は、該繊維を構成する熱可塑性樹脂の少なくとも1種が反応性官能基を有するビニルモノマーからなる重合体を含む樹脂である、請求項1ないし10のいずれかに記載する難燃性繊維。
【請求項12】
請求項1ないし11のいずれかに記載する難燃性繊維を用いて得られる不織布。
【請求項13】
請求項1ないし11のいずれかに記載する難燃性繊維を用いて、エアレイド法またはカード法により得られる不織布。
【請求項14】
メルトブロー法、スパンボンド法、スパンレース法、カード法、エアレイド法、または、抄造法により製造された不織布、ネット及び多孔性フィルムから選ばれた少なくとも1種と、請求項12又は13に記載する不織布とを積層して得られる複合化不織布。
【請求項15】
メルトブロー法、スパンボンド法、スパンレース法、カード法、エアレイド法、または、抄造法により製造された不織布、ネット及び多孔性フィルムから選ばれた少なくとも1種と、請求項1ないし11のいずれかに記載する難燃性繊維を用いてエアレイド法により得られる不織繊維集合体とを積層して得られる複合化不織布。
【請求項16】
メルトブロー法、スパンボンド法、スパンレース法、カード法、エアレイド法、または、抄造法により製造された不織布、ネット及び多孔性フィルムから選ばれた少なくとも1種と、請求項1ないし11のいずれかに記載する難燃性繊維を用いてカード法により得られる不織繊維集合体とを積層して得られる複合化不織布。
【請求項17】
請求項12又は13に記載する不織布もしくは請求項14ないし16のいずれかに記載する複合化不織布を用いたエレクトレット材料。
【請求項18】
請求項12又は13に記載する不織布もしくは請求項14ないし16のいずれかに記載する複合化不織布をエレクトレット処理して得られる帯電不織布または帯電複合化不織布。
【請求項19】
請求項18に記載する帯電不織布または帯電複合化不織布を用いたフィルター。
【請求項20】
請求項18に記載する帯電不織布または帯電複合化不織布を用いたエアーフィルター。

【公開番号】特開2007−146357(P2007−146357A)
【公開日】平成19年6月14日(2007.6.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−290034(P2006−290034)
【出願日】平成18年10月25日(2006.10.25)
【出願人】(000002071)チッソ株式会社 (658)
【出願人】(399120660)チッソポリプロ繊維株式会社 (41)
【Fターム(参考)】