説明

難燃性透明ポリカーボネート系樹脂組成物

【課題】難燃性、透明性、耐衝撃性に優れるポリカーボネート系樹脂組成物、この組成物で形成された成形体及びその製造方法を提供する。
【解決手段】ポリカーボネート系樹脂100重量部に対して、ハロゲン含有トリアジン化合物の割合が4〜22重量部、フッ素樹脂の割合が0.01〜0.2重量部で構成する。前記ポリカーボネート系樹脂は、ビスフェノール型ポリカーボネート系樹脂であってもよく、塩化メチレンを用いて20℃で測定した場合、粘度平均分子量が16000以上であってもよい。前記ハロゲン含有トリアジン化合物は2,4,6−トリス(2,4,6−トリハロフェノキシ)−1,3,5−トリアジンで構成する。この樹脂組成物には、アンチモン化合物などの難燃助剤を実質的に含有させなくてもよい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、難燃性、透明性、耐衝撃性に優れたポリカーボネート系樹脂組成物及びこの樹脂組成物で形成された成形体に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリカーボネート樹脂は、透明性、難燃性、耐衝撃性に優れる材料であるが、電子機器用途などにおいては更なる難燃性を付与するために、難燃剤やドリップ防止剤を添加する必要がある。しかし、これらの添加剤を添加すると、透明性や耐衝撃性を損ない、高度に難燃性を保持しつつ、透明性や機械的特性も充足するのが極めて困難である。
【0003】
特開2008−297425号公報(特許文献1)には、芳香族ポリカーボネート系樹脂100重量部に対し、フィブリル形成能を有するポリテトラフルオロエチレン0.01重量部以上0.1重量部未満、および難燃剤0.001〜20重量部を含有する難燃性ポリカーボネート樹脂組成物が開示されている。また、この文献には、難燃剤として、有機金属塩系難燃剤、有機リン系難燃剤、シリコーン系難燃剤が例示されている。さらに、この文献の実施例では、ISO179に準拠したシャルピー衝撃強度が15〜20kJ/mであり、UL94に準拠した難燃性が、厚み3mmの試験片において、V−0である樹脂組成物を得たことが記載されている。しかし、この樹脂組成物は、難燃性、透明性、及び耐衝撃性が十分ではない。特に、この樹脂組成物は、「くもりをともなった透明性」を呈するため、透明性が不十分である。
【0004】
特開平3−34972号公報(特許文献2)には、トリス−(トリブロモフェノキシ)−S−トリアジンを主成分とする合成樹脂用難燃剤が開示されている。この文献には、前記難燃剤をポリカーボネート樹脂などの汎用の合成樹脂に添加してもよく、添加量は、対象樹脂に対して0.2〜40重量%であることが記載されている。しかし、この難燃剤だけでは難燃性が充分ではない。また、ハロゲン系難燃剤の難燃性を向上させるため、アンチモン系難燃助剤と組み合わせると、この文献の実施例にも記載のように、透明性が低下する。
【0005】
特開2002−3688号公報(特許文献3)には、2,4,6−トリス(2,4,6−トリブロモフェノキシ)−1,3,5−トリアジンなどの難燃剤を含む難燃性透明ゴム変性スチレン系樹脂組成物が開示されている。しかし、この樹脂組成物は、難燃性が充分ではなく、例えば、実施例では、厚み約2.4mmの試験片で、UL94に準拠した難燃性がV−2である。従って、この樹脂組成物では難燃性を向上するために、厚みを大きくする必要がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2008−297425号公報(請求項1、段落番号[0007]、実施例)
【特許文献2】特開平3−34972号公報(第3頁左下欄第9行〜第3頁右下欄第1行、実施例)
【特許文献3】特開2002−3688号公報(請求項1、段落番号[0013]、実施例)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
従って、本発明の目的は、難燃性、透明性、耐衝撃性に優れるポリカーボネート系樹脂組成物、この組成物で形成された成形体及びその製造方法を提供することにある。
【0008】
本発明の他の目的は、厚みが薄くても難燃性が高く、透明性、耐衝撃性に優れるポリカーボネート系樹脂組成物、この組成物で形成された成形体及びその製造方法を提供することにある。
【0009】
本発明のさらに他の目的は、射出成形における生産性を向上できるポリカーボネート系樹脂組成物、この組成物で形成された成形体及びその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者は、前記課題を達成するため鋭意検討した結果、ポリカーボネート系樹脂と、特定のハロゲン含有トリアジン化合物と、フッ素樹脂とを所定の割合で組み合わせることにより、難燃性、透明性、耐衝撃性の全ての特性について優れることを見いだし、本発明を完成した。
【0011】
すなわち、本発明の難燃性透明樹脂組成物は、ポリカーボネート系樹脂と、2,4,6−トリス(2,4,6−トリフェノキシ)−1,3,5−トリアジンで構成されたハロゲン含有トリアジン化合物と、フッ素樹脂とで構成された樹脂組成物であって、ポリカーボネート系樹脂100重量部に対して、ハロゲン含有トリアジン化合物の割合が4〜22重量部であり、フッ素樹脂の割合が0.01〜0.2重量部である。前記ポリカーボネート系樹脂100重量部に対して、前記ハロゲン含有トリアジン化合物の割合が5〜20重量部であり、前記フッ素樹脂の割合が0.01〜0.05重量部であってもよい。
【0012】
本発明の樹脂組成物は、難燃助剤を実質的に含まなくてもよい。
【0013】
ポリカーボネート系樹脂は、ビスフェノール型ポリカーボネート系樹脂であってもよく、例えば、塩化メチレンを用い20℃で測定した場合、粘度平均分子量が16000以上(16000〜50000程度)であってもよい。
【0014】
フッ素樹脂の平均粒径は0.05〜1μmであってもよい。
【0015】
本発明の樹脂組成物は、(i)試験片の厚み3mmで測定したとき、ASTM D 1003−00に準拠した全光線透過率が50%以上であり、かつヘーズが70%以下であり、(ii)試験片の厚み2.5mmで測定したとき、UL94燃焼性試験に準拠した難燃性がV−0であり、(iii)ISO179に準拠した耐衝撃性が3kJ/cm以上であってもよい。また、本発明の樹脂組成物は、ISO1133に準拠したMFR(メルトフローレート)値(260℃、荷重2.16kgで10分間に流出する樹脂の重量)が、5〜80g/10分であり、かつガラス転移温度(Tg)が120〜150℃であってもよい。
【0016】
本発明は、前記樹脂組成物で形成された成形品及びその製造方法を含む。成形品の製造方法は射出成形であってもよい。
【0017】
本発明の樹脂組成物で形成される成形品は、電気・電子機器、オフィスオートメーション機器、家電機器、携帯端末機器、これらの機器カバー、及びコンセントカバーから選択された少なくとも一種の物品の部品であってもよい。
【発明の効果】
【0018】
本発明の樹脂組成物は、ポリカーボネート系樹脂と、ハロゲン含有トリアジン化合物と、フッ素樹脂とを所定の割合で含むため、難燃性、透明性、耐衝撃性に優れている。特に、この樹脂組成物で形成される成形品は、厚みが薄くても、難燃性、透明性、耐衝撃性に優れている。また、ポリカーボネート系樹脂とハロゲン含有トリアジン化合物とを組み合わせることにより、樹脂組成物のガラス転移温度(Tg)を低下でき、流動性を向上でき、成形品の生産性、特に射出成形における生産性を向上できる。
【発明を実施するための形態】
【0019】
[難燃性透明樹脂組成物]
本発明の難燃性透明樹脂組成物は、ポリカーボネート系樹脂と、ハロゲン含有トリアジン化合物と、フッ素樹脂とで構成されている。
【0020】
(ポリカーボネート系樹脂)
ポリカーボネート系樹脂は、慣用の方法(例えば、ホスゲン法、エステル交換法など)により得ることができる。
【0021】
ポリカーボネート系樹脂としては、芳香族ポリカーボネート系樹脂(芳香族ジヒドロキシ化合物を重合成分とするポリカーボネート系樹脂)、特に、ビスフェノール型ポリカーボネート系樹脂(ビスフェノール類を重合成分とするポリカーボネート系樹脂)が好ましい。
【0022】
ビスフェノール類としては、例えば、ビス(ヒドロキシフェニル)アルカン類[例えば、ビス(4−ヒドロキシフェニル)メタン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)エタン、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン(ビスフェノールA)、2,2−ビス(4−ヒドロキシ−3−メチルフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)ブタン、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−3−メチルブタンなどのビス(ヒドロキシフェニル)C1−6アルカンなど]、ビス(ヒドロキシアリール)シクロアルカン類[例えば、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)シクロペンタン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)シクロヘキサンなどのビス(ヒドロキシフェニル)C4−10シクロアルカンなど]、ビス(ヒドロキシフェニル)エーテル類[例えば、ビス(4−ヒドロキシフェニル)エーテルなど]、ビス(ヒドロキシフェニル)スルホン類[例えば、ビス(4−ヒドロキシフェニル)スルホンなど]、ビス(ヒドロキシフェニル)スルフィド類[例えば、ビス(4−ヒドロキシフェニル)スルフィドなど]などが例示できる。これらのビスフェノール類は単独で又は二種以上組み合わせて使用できる。
【0023】
また、難燃性を向上させる観点から、ビスフェノール類は、臭素などによりハロゲン化されていてもよい。
【0024】
これらのビスフェノール類のうち、ビスフェノールAなどのビス(ヒドロキシアリール)C1−6アルカンなどが好ましい。
【0025】
ポリカーボネート系樹脂の粘度平均分子量は、例えば、塩化メチレンを用い20℃で測定した場合、10000以上(例えば、15000〜50000)の範囲から選択でき、耐衝撃性の観点から、16000以上が好ましく、例えば、16000〜50000(例えば、16000〜45000)、好ましくは18000〜40000(例えば、18000〜35000)、さらに好ましくは20000〜30000(特に、20000〜25000)程度であってもよい。分子量がこの範囲にあると、流動性と耐衝撃性とのバランスに優れる。なお、本発明では、ポリカーボネート系樹脂の分子量が比較的高くても、ハロゲン含有トリアジン化合物との相溶性が高いため、流動性が高まり、成形性を向上できる。
【0026】
ポリカーボネート系樹脂のガラス転移温度(Tg)は、110〜160℃、好ましくは115〜155℃、さらに好ましくは120〜150℃程度であってもよい。ポリカーボネート系樹脂とハロゲン含有トリアジン化合物とを組み合わせて使用すると、樹脂組成物のガラス転移温度を、ハロゲン含有トリアジン化合物の含有量に応じて、1〜25℃、好ましくは5〜22℃、さらに好ましくは10〜20℃程度低下できる。
【0027】
(ハロゲン含有トリアジン化合物)
ハロゲン含有トリアジン化合物は、難燃剤として機能するとともに、ポリカーボネート系樹脂と相溶し、ポリカーボネート系樹脂の溶融流動性を向上させる作用を有する。
【0028】
ハロゲン含有トリアジン化合物としては、ハロアリールオキシ−1,3,5−トリアジン類、特に2,4,6−トリス(2,4,6−トリハロフェノキシ)−1,3,5−トリアジンが好ましい。トリハロフェノキシ基のハロゲン原子は、F原子、Cl原子、Br原子であってもよく、特にBr原子が好ましい。
【0029】
ハロゲン含有トリアジン化合物は、ポリカーボネート系樹脂の溶融温度において、溶融可能であり、ハロゲン含有トリアジン化合物の融点は、例えば、300℃以下(例えば、100〜300℃、好ましくは150〜270℃、さらに好ましくは200〜250℃(例えば、225〜235℃)程度であってもよい。
【0030】
ハロゲン含有トリアジン化合物の割合は、ポリカーボネート系樹脂100重量部に対して、例えば、4〜22重量部(5〜20重量部)の範囲から選択でき、透明性及び難燃性のバランスの点から、例えば、4.2〜20重量部、好ましくは4.5〜15重量部、さらに好ましくは4.8〜10重量部(特に5〜8重量部)程度であってもよい。更に薄肉成形など高度な成形性を要求される場合には、ハロゲン含有トリアジン化合物の割合は、ポリカーボネート系樹脂100重量部に対して、8〜22重量部、好ましくは10〜21重量部、さらに好ましくは15〜20重量部(特に、18〜20重量部)程度であってもよい。本発明では、このようにハロゲン含有トリアジン化合物の割合を大きくしても、透明性は損なわれない。一方、ハロゲン含有トリアジン化合物の割合を増加すると、樹脂組成物のガラス転移温度(Tg)を低下でき、MFR(メルトフローレート)値を向上できる。
【0031】
本発明の樹脂組成物は、アンチモン化合物などの難燃助剤は、透明性の点から、実質的に含有しないのが好ましく、ポリカーボネート系樹脂100重量部に対して、1重量部以下、好ましくは0.1重量部以下、さらに好ましくは0.01重量部以下であってもよい。
【0032】
(フッ素樹脂)
フッ素樹脂は、火種及び融液の落下(ドリップ)を抑制するため難燃助剤として機能し、フィブリル形成能を有していてもよい。フッ素樹脂としては、フッ素含有ビニル系単量体の単独又は共重合体が利用できる。
【0033】
フッ素樹脂としては、ポリビニルフルオライド(PVF)、ポリビニリデンフルオライド(PVDF)、ポリトリフルオロエチレン(PTrFE)、ポリクロロトリフルオロエチレン、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)などの単独重合体、エチレン−テトラフルオロエチレン共重合体、エチレン−クロロトリフルオロエチレン共重合体、テトラフルオロエチレン−ヘキサフルオロプロピレン共重合体、テトラフルオロエチレン−パ−フルオロプロピルビニルエーテル共重合体などが例示できる。
【0034】
これらのフッ素樹脂は単独で又は二種以上組み合わせて使用できる。これらのフッ素樹脂のうち、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)などのテトラフルオロエチレン単独重合体又はテトラフルオロエチレンを主要な構成単位とする共重合体が好ましい。
【0035】
フッ素樹脂のフッ素含量は、例えば、50〜80重量%、好ましくは60〜79重量%、さらに好ましくは70〜78重量%程度であってもよい。
【0036】
フッ素樹脂の分子量は、標準比重から求められる数平均分子量において、100万〜1000万、好ましくは200万〜700万程度であってもよい。
【0037】
フッ素樹脂(特にフィブリル形成能を有するフッ素樹脂)は、平均一次粒子径が0.05〜1μm、好ましくは0.1〜0.5μm、さらに好ましくは0.1〜0.3μmであってもよい。ファインパウダーを使用する場合の平均二次粒子径としては10〜5000μm、好ましくは100〜1000μm、さらに好ましくは100〜700μm程度であってもよい。
【0038】
フッ素樹脂(特にフィブリル形成能を有するフッ素樹脂)は、固体形状(粒子状など)のほか、水性分散液(水にフッ素樹脂粒子が分散した分散液など)の形態で使用可能であり、ポリカーボネート系樹脂中での分散性に優れ、フローマーク、シルバー(微細な繊維状の筋模様)の発生が抑制され、良好な表面外観を得られる点から、水性分散液の形態で使用することが好ましい。
【0039】
フッ素樹脂(水性分散液の形態で使用する場合は、固形分)の割合は、ポリカーボネート系樹脂100重量部に対して、例えば、0.01〜0.2重量部の範囲から選択できるが、透明性の点から、0.01〜0.15重量部、好ましくは0.011〜0.1重量部、さらに好ましくは0.012〜0.08重量部(特に0.012〜0.06重量部)程度である。特に、ヘーズ値の小さい高度な透明性が必要な場合には、0.01〜0.05重量部、好ましくは0.01〜0.04重量部、さらに好ましくは0.011〜0.035重量部(特に0.012〜0.03重量部)程度であってもよい。この範囲にあれば、難燃性を低下することなく、透明性及び耐衝撃性を向上できる。
【0040】
ハロゲン含有トリアジン化合物に対するフッ素樹脂の割合は、ハロゲン含有トリアジン化合物100重量部に対し、0.05〜5重量部、好ましくは0.1〜1重量部、さらに好ましくは0.15〜0.5重量部(特に0.2〜0.4重量部)程度であってもよい。
【0041】
(離型剤)
本発明の樹脂組成物には、さらに、成形性、特に射出成形による成形品の生産性を向上する点などから、離型剤を含有させてもよい。
【0042】
離型剤としては、ワックス類(例えば、ポリエチレンワックス、エチレン共重合体ワックス、ポリプロピレンワックス等のC2−4オレフィン系ワックスなど)、高級脂肪酸塩(例えば、C8−30脂肪酸アルカリ金属塩などの高級脂肪酸金属塩など)、高級脂肪酸エステル(例えば、C8−30脂肪酸アルキルエステルなどの高級脂肪酸アルキルエステルなど)、高級脂肪酸アミド(例えば、C8−35脂肪酸アミド、アルキレンビス脂肪酸アミド等)、シリコーン系化合物(例えば、シリコーンオイル、シリコーン樹脂など)等が例示できる。これらの離型剤は、単独で又は二種以上組み合わせて使用できる。
【0043】
これらの離型剤のうち、ワックス類、高級脂肪酸塩、高級脂肪酸エステル、高級脂肪酸アミドが好ましく、高級アルコール脂肪酸エステル(例えば、ラウリルステアレート、ミリスチルステアリレート、ステアリルステアレートなどのC6−20アルカン酸C6−20アルキルエステルなど)が特に好ましい。
【0044】
離型剤の割合は、ポリカーボネート系樹脂100重量部に対して、5重量部以下(例えば、0.01〜5重量部、好ましくは0.05〜1重量部、さらに好ましくは0.1〜0.5重量部程度)であってもよい。
【0045】
(安定剤)
本発明の樹脂組成物には、さらに、屋外で使用する用途などに対して安定性を向上する観点などから、安定剤(酸化防止剤、紫外線吸収剤、熱安定剤など)を含有させてもよい。
【0046】
安定剤としては、いずれも慣用の安定剤を利用できる。酸化防止剤としては、フェノール系酸化防止剤、イオウ系酸化防止剤、アミン系酸化防止剤、ヒドロキノン系酸化防止剤、キノリン系酸化防止剤などが例示できる。紫外線吸収剤としては、サリチル酸エステル系紫外線吸収剤、ベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤、ヒドロキシベンゾフェノン系紫外線吸収剤、ヒンダードアミン系紫外線吸収剤などが例示できる。熱安定剤としては、エスファイト系熱安定剤、イオウ系熱安定剤、ヒドロキシアミン系熱安定剤などが例示できる。
【0047】
本発明では、透明性を損なわず、安定性を付与できる観点から、これらの安定剤のうち、少なくとも酸化防止剤を含むのが好ましく、フェノール系酸化防止剤とイオウ系酸化防止剤との組合せが特に好ましい。
【0048】
フェノール系酸化防止剤としては、ヒンダードフェノール類(例えば、1,6−ヘキサンジオール−ビス[3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]などのC2−10アルカンジオール−ビス[3−(3,5−ジ−分岐C3−6アルキル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート];トリエチレングリコール−ビス[3−(3−t−ブチル−5−メチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]などのジ又はトリオキシC2−4アルキレンジオール−ビス[3−(3,5−ジ−分岐C3−6アルキル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート];グリセリントリス[3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]などのC3−8アルカントリオール−ビス[3−(3,5−ジ−分岐C3−6アルキル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート];ペンタエリスリトールテトラキス[3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]などのC4−8アルカンテトラオールテトラキス[3−(3,5−ジ−分岐C3−6アルキル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]など)などが例示できる。これらのフェノール系酸化防止剤のうち、ペンタエリスリトールテトラキス[3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネートなどのC4−8アルカンテトラオールテトラキス[3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]が好ましい。これらのフェノール系酸化防止剤は単独で又は二種以上組み合わせて使用できる。
【0049】
イオウ系酸化防止剤としては、チオジカルボン酸ジアルキルエステル(例えば、ジラウリル3,3’−チオジプロピオネート、ジミリスチル3,3’−チオジプロピオネート、ジステアリル3,3’−チオジプロピオネート、ラウリルステアリル3,3’−チオジプロピオネートなどのチオジC2−10アルカンカルボン酸ジC8−30アルキルエステルなど)、ポリオールのアルキルチオカルボン酸エステル(例えば、ペンタエリスリトールテトラキス(3−ステアリルチオ−プロピオネート)などのC3−10アルカンジ乃至テトラオール−C10−20アルキルチオC2−4アルカノエートなど)などが例示できる。これらのイオウ系酸化防止剤は単独で又は二種以上組み合わせて使用してもよい。これらのイオウ系酸化防止剤のうち、ジステアリル−3,3’−チオジプロピオネートなどのチオジC2−6アルカンカルボン酸ジC10−20アルキルエステルが好ましい。
【0050】
フェノール系酸化防止剤とイオウ系酸化防止剤の割合(重量比)は、前者/後者=90/10〜10/90、好ましくは70/30〜30/70、さらに好ましくは60/40〜40/60程度であってもよい。
【0051】
安定剤の割合は、ポリカーボネート系樹脂100重量部に対して、5重量部以下(例えば、0.01〜5重量部、好ましくは0.05〜1重量部、さらに好ましくは0.1〜0.5重量部程度)であってもよい。
【0052】
(任意成分)
本発明の樹脂組成物には、透明性、耐衝撃性の効果を損なわない範囲で、他の樹脂成分、他の慣用の難燃剤及び難燃助剤成分、他の添加剤[例えば、帯電防止剤、滑剤、結晶化核剤、可塑剤、潤滑剤、着色剤(染料、顔料など)など]を含有させてもよい。
【0053】
これらの任意成分の割合は、ポリカーボネート系樹脂100重量部に対して、1重量部以下(例えば、0〜1重量部、好ましくは0〜0.1重量部、さらに好ましくは0〜0.01重量部程度)であってもよい。
【0054】
本発明の樹脂組成物は、難燃性、透明性、耐衝撃性の全ての特性に優れており、例えば、試験片の厚み3mmで測定したとき、ASTM D 1003−00に準拠した全光線透過率が30%以上の範囲から選択でき、例えば、50〜100%、好ましくは60〜99%(例えば70〜98%)、さらに好ましくは75〜95%(特に80〜90%)程度であってもよい。本発明の樹脂組成物は全光線透過率だけでなく、ヘーズ値の小さい透明成形体を形成できる。例えば、試験片の厚み3mmで測定したとき、ASTM D 1003−00に準拠したヘーズ値は80%以下の範囲から選択でき、例えば、0.1〜70%、好ましくは0.3〜50%(0.5〜30%)、さらに好ましくは1〜20%(特に2〜10%)程度であってもよい。
【0055】
本発明の樹脂組成物は、試験片の厚み2.5mmで測定したとき、UL94燃焼性試験に準拠した難燃性がV−0であってもよい。また、ISO179に準拠した耐衝撃性は3kJ/cm以上(例えば、3〜10kJ/cm、3.5〜9kJ/cm、4〜8kJ/cm程度)であってもよい。
【0056】
さらに、ISO1133に準拠したMFR(メルトフローレート)値(260℃、荷重2.16kgで10分間に流出する樹脂の重量)は、5〜80g/10分(例えば、10〜80g/10分)、好ましくは10〜70g/10分、さらに好ましくは15〜60g/10分程度であってもよい。特に、薄肉成形など高度な成形性を要求される場合、ハロゲン含有トリアジン化合物の割合を大きくすることにより、ISO1133に準拠したMFR値を、20〜80g/10分、好ましくは30〜70g/10分、40〜60g/10分程度に調整してもよい。
【0057】
本発明の樹脂組成物のガラス転移温度(Tg)は、例えば、120〜150℃程度の範囲から選択でき、通常130〜148℃、好ましくは140〜146℃程度である。高い成形性が要求される場合には、120〜140℃、特に125〜135℃となるように、ハロゲン含有トリアジン化合物の割合を増加して調整してもよい。
【0058】
特に、本発明の樹脂組成物は、全光線透過率、ヘーズ、難燃性及び耐衝撃性の全てにおいて優れた特性を有しており、極めて透明性、難燃性、耐衝撃性のバランスに優れている。
【0059】
[難燃性透明樹脂組成物で形成される成形品の製造方法]
本発明の樹脂組成物は、ポリカーボネート系樹脂に、難燃剤と、フッ素樹脂と、必要により他の成分(離型剤、安定剤など)とを溶融混合することにより得られる。なお、各成分の混合順序は特に制限されず、ポリカーボネート系樹脂に、ポリカーボネート系樹脂以外の成分の全てを一度に混合してもよく、一部の成分を添加して混合した後、残る成分を(必要により複数回に分割して)混合してもよい。
【0060】
溶融混合は、慣用の方法、例えば、慣用の混練機(例えば、単軸もしくは二軸押出機、ニーダー、カレンダーロールなど)を用いて、各成分を混合することにより行う場合が多い。
【0061】
溶融混合における温度は200〜320℃、好ましくは220〜310℃、さらに好ましくは230〜300℃(例えば、240〜290℃)程度である。
【0062】
このようにして得られた樹脂組成物は射出成形に供して成形してもよい。射出成形の方法としては、一般に使用される熱可塑性樹脂の射出成形機を用いて成形する方法が利用できる。
【0063】
射出成形における溶融混合温度(シリンダー温度)は、200〜320℃(特に、230〜300℃)程度である。
【0064】
なお、ポリカーボネート系樹脂と、難燃剤と、フッ素樹脂との混練は段階的に行ってもよく、例えば、前述の慣用の押出混練法やロール混練法を用いて、濃度の高いマスターバッチを調製し、ペレット化した後、射出成形において予備乾燥したポリカーボネート系樹脂のペレットと混合して射出成形機に供給し、射出成形機の射出スクリューによって最終的な混練を行ってもよい。
【0065】
射出成形における射出圧力は、例えば、50〜200MPa程度であり、射出速度は、例えば、0.3〜3m/分程度であってもよい。金型温度は、例えば、10〜100℃、好ましくは20〜90℃、さらに好ましくは30〜80℃(特に、40〜70℃)程度であってもよい。本発明において、ハロゲン含有トリアジン化合物がポリカーボネート系樹脂と相溶し、樹脂組成物のガラス転移温度(Tg)を低減できるため、成形温度を低減できる。さらに、メルトフローレート(MFR)も向上する。そのため、金型温度も低減(例えば、20〜30℃程度)でき、金型の冷却時間を短縮でき、射出成形サイクルを大幅に向上できる。
【実施例】
【0066】
以下に、実施例に基づいて本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例によって限定されるものではない。
【0067】
実施例及び比較例で用いた成分の内容、及び組成物の特性の評価方法を以下に示す。
【0068】
(1)各成分の内容
(ポリカーボネート系樹脂)
PC1:ビスフェノールA型芳香族ポリカーボネート樹脂、商品名「ユーピロンS2000F」、三菱エンジニアリングプラスチックス(社)製、粘度平均分子量22000〜23000
PC2:ビスフェノールA型芳香族ポリカーボネート樹脂、商品名「ユーピロンS3000F」、三菱エンジニアリングプラスチックス(社)製、粘度平均分子量20000〜21000
PC3:ビスフェノールA型芳香族ポリカーボネート樹脂、商品名「ユーピロンS1000F」、三菱エンジニアリングプラスチックス(社)製、粘度平均分子量24000〜25000
PC4:ビスフェノールA型芳香族ポリカーボネート樹脂、商品名「カリバー1080DVD」、住友ダウ(社)製、粘度平均分子量15000。
【0069】
(ハロゲン含有トリアジン化合物)
FR1:2,4,6−トリス(2,4,6−トリブロモフェノキシ)−1,3,5−トリアジン、商品名「ピロガードSR245」、第一工業製薬(社)製
FR2:テトラブロモビスフェノールAジグリシジルエーテルとブロム化ビスフェノール付加物、商品名「プラサームEP16」、大日本インキ化学工業(社)製
FR3:トリブロモフェノール・2,2−ビス(ジブロモ−4−ヒドロキシフェニル)プロパン・2,2−ビス{ジブロモ−4−(2,3−エポキシプロポキシ)フェニル}プロパン重付加物、商品名「SRT3040」、阪本薬品工業(社)製
FR4:1,2−ビス(2,3,4,5,6−ペンタブロモフェニルエタン)、商品名「Saytex 8010」、アルベマール(社)製。
【0070】
(フッ素樹脂)
PTFE:ポリテトラフルオロエチレン、商品名「ポリフロンPTFE D210C」、ダイキン工業(株)製、フッ素化ポリエチレン含有量60重量%、平均粒径0.22μm。
【0071】
(他の添加剤)
添加剤1:離型剤、商品名「リケマールSL800」、理研ビタミン(社)製、主成分:ステアリルステアレート
添加剤2:フェノール系酸化防止剤、商品名「イルガノックス1010」、チバジャパン(社)製、主成分:ペンタエリスリトールテトラキス[3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]
添加剤3:イオウ系酸化防止剤、商品名「スミライザーTPS」、住友化学工業(社)製、主成分:ジステアリル−3,3’−チオジプロピオネート。
【0072】
(2)各特性の評価方法
[透明性]
射出成形法により、作製した厚さ3mmの平板につき、ASTM D 1003−00に準拠し、全光線透過率(%)、ヘーズ(%)を測定して、評価した。
【0073】
[難燃性]
米国アンダーライターラボラトリーズ発行のUL94に準拠した方法で、2.5mmの厚みのサンプルにつき燃焼試験を実施した。この燃焼試験では、試験片のゲート側より着火した。
【0074】
[耐衝撃性]
ISO179に準拠した方法で、シャルピー衝撃値(kJ/cm)を測定し、評価した。
【0075】
[流動性(MFR)]
ISO1133に準拠した方法で、260℃、荷重2.16kgで10分間に流出する樹脂の重量の測定を行った。
【0076】
[ガラス転移温度(Tg)]
示差走査熱量計(DSC)にて、昇温速度20℃/分で300℃まで測定し、ガラス転移点を評価した。
【0077】
実施例1〜8及び比較例1〜8
ポリカーボネート系樹脂と、ハロゲン含有トリアジン化合物と、フッ素樹脂とを表1に示す割合(重量部)で混合し、樹脂組成物を調製し、射出成形機(100MSII、三菱重工業(株))を用いて、シリンダ温度260℃、金型60℃、速度18%の成形条件で、サンプルの平板を製造した。各種特性を評価した結果を表1に示す。
【0078】
【表1】

【0079】
なお、表1のPTFEは固形分の割合を示す。
【0080】
表1から明らかなように、比較例に比べ、実施例では難燃性がV−0を示し、難燃性に優れていた。また、比較例では、難燃性と透明性と耐衝撃性の3つの特性のいずれかが劣っているが、実施例では3つの特性を全て兼ね備えていた。
【産業上の利用可能性】
【0081】
本発明の難燃性透明樹脂組成物は、難燃性、透明性、耐衝撃性の全ての特性に優れ、種々の用途、例えば、電気・電子機器、オフィスオートメーション(OA)機器、家電機器、携帯端末機器、これらの機器カバー、及びコンセントカバーなどの部品に好適に利用できる。特に、屋外に設置する物品に利用しても、難燃性、透明性、耐衝撃性に優れるため、好適に用いることができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリカーボネート系樹脂と、2,4,6−トリス(2,4,6−トリハロフェノキシ)−1,3,5−トリアジンで構成されたハロゲン含有トリアジン化合物と、フッ素樹脂とで構成された樹脂組成物であって、前記ポリカーボネート系樹脂100重量部に対して、前記ハロゲン含有トリアジン化合物の割合が4〜22重量部であり、前記フッ素樹脂の割合が0.01〜0.2重量部である難燃性透明樹脂組成物。
【請求項2】
ポリカーボネート系樹脂100重量部に対して、ハロゲン含有トリアジン化合物の割合が5〜20重量部であり、フッ素樹脂の割合が0.01〜0.05重量部である請求項1記載の樹脂組成物。
【請求項3】
難燃助剤を実質的に含まない請求項1又は2記載の樹脂組成物。
【請求項4】
ポリカーボネート系樹脂が、粘度平均分子量が16000以上のビスフェノール型ポリカーボネート系樹脂である請求項1〜3のいずれかに記載の樹脂組成物。
【請求項5】
フッ素樹脂の平均粒径が0.05〜1μmである請求項1〜4のいずれかに記載の樹脂組成物。
【請求項6】
(i)試験片の厚み3mmで測定したとき、ASTM D 1003−00に準拠した全光線透過率が50%以上であり、かつヘーズが70%以下であり、(ii)試験片の厚み2.5mmで測定したとき、UL94燃焼性試験に準拠した難燃性がV−0であり、(iii)ISO179に準拠した耐衝撃性が3kJ/cm以上である請求項1〜5のいずれかに記載の樹脂組成物。
【請求項7】
ISO1133に準拠したMFR値が、5〜80g/10分であり、かつガラス転移温度が120〜150℃である請求項1〜6のいずれかに記載の樹脂組成物。
【請求項8】
請求項1〜7のいずれかに記載の樹脂組成物で形成された成形品。
【請求項9】
電気・電子機器、オフィスオートメーション機器、家電機器、携帯端末機器、これらの機器カバー、及びコンセントカバーから選択された少なくとも一種の物品の部品である請求項8記載の成形品。
【請求項10】
請求項1〜7のいずれかに記載の樹脂組成物を成形して、成形品を製造する方法。
【請求項11】
射出成形で成形品を製造する請求項10記載の方法。

【公開番号】特開2010−235650(P2010−235650A)
【公開日】平成22年10月21日(2010.10.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−81973(P2009−81973)
【出願日】平成21年3月30日(2009.3.30)
【出願人】(501041528)ダイセルポリマー株式会社 (144)
【Fターム(参考)】