説明

難燃性配向ポリエステルフィルム

【課題】難燃性に優れるとともに、従来の難燃ポリエステルフィルムよりも優れた耐加水分解性、耐熱耐久性および耐熱寸法安定性を備える難燃性ポリエステルフィルムを提供する。
【解決手段】ポリエステルの全ジオール成分を基準として特定のジオールタイプのホスフィンオキシド化合物から誘導される成分を1モル%以上25モル%以下の範囲で有する共重合ポリエステル樹脂を含む難燃性配向ポリエステルフィルムであり、該ポリエステルフィルムが0.50dl/g以上1.0dl/g以下の固有粘度および0.12以上の面配向係数であり、かつ150℃、30分熱処理したときの主配向方向の熱収縮率が0%以上2.5%以下である難燃性配向ポリエステルフィルムによって達成される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は難燃性を有するポリエステルフィルムに関するものであり、更に詳しくは、難燃性に優れるとともに、従来の難燃ポリエステルフィルムよりも優れた耐加水分解性、耐熱耐久性および耐熱寸法安定性を備える難燃性ポリエステルフィルムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
ポリエステルフィルム、特にポリエチレンテレフタレートやポリエチレンナフタレートの二軸延伸フィルムは、優れた機械的性質、耐熱性、耐薬品性を有するため、磁気テープ、強磁性薄膜テープ、写真フィルム、包装用フィルム、電子部品用フィルム、電気絶縁フィルム、金属ラミネート用フィルムおよび保護用フィルム等の素材として広く用いられている。
【0003】
近年、製造物責任法の施行に伴い、火災に対する安全性を確保するために樹脂の難燃化が強く要望されている。
従来用いられている有機ハロゲン化合物、ハロゲン含有有機リン化合物等のハロゲン系難燃剤は、難燃効果は高いものの、成形・加工時にハロゲンが遊離し、腐食性のハロゲン化水素ガスを発生して、成形・加工機器を腐食させる可能性、また作業環境を悪化させる可能性が指摘されている。また前記難燃剤は、火災などの燃焼に際してハロゲン化水素等のガスを発生する可能性が指摘されている。そのため、近年ハロゲン系難燃剤に替わり、ハロゲンを含まない難燃剤を用いることが強く要望されている。
【0004】
ハロゲンを含まない難燃剤による難燃化方法の1つとして種々のリン系化合物が検討されており、ポリエステルと共重合可能なリン系化合物として、例えばポリエステルにカルボキシホスフィン酸を共重合する方法が開示されている。しかしながらこの難燃化手法の場合、難燃性は発現するものの、ポリエステルの熱安定性低下を伴うことがあった。
【0005】
ポリエステルと共重合可能な他のリン系化合物として、カルボン酸を両末端に有するホスフィンオキサイド化合物が特許文献1に記載されている。また、特許文献2にはポリエステルと共重合可能なホスフィンオキサイド化合物として、カルボン酸を両末端に有するホスフィンオキサイド化合物や水酸基を両末端に有するホスフィンオキサイド化合物が種々例示されており、難燃性に優れ、耐加水分解性の低下が抑制されること、得られたポリエステル重合体を用いてフィルムに成形してもよいことが記載されている。
一方、ハロゲンを含まない難燃ポリエステルフィルムに対して、難燃効果だけでなく、よりポリエステル本来の諸特性を維持した実用性の高いフィルムが望まれているのが現状である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平9−272734号公報
【特許文献2】特開平10−25338号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の目的は、かかる従来技術の課題を解消し、難燃性に優れるとともに、従来の難燃ポリエステルフィルムよりも優れた耐加水分解性、耐熱耐久性および耐熱寸法安定性を備える難燃性ポリエステルフィルムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、前記課題を解決するために鋭意検討した結果、ホスフィンオキサイド化合物の中でも水酸基を両末端に有するジオールタイプのホスフィンオキサイド化合物を用いて共重合ポリエステルを得ることにより、得られたポリエステルフィルムの耐加水分解性および耐熱耐久性が大幅に向上すること、一方で共重合化により高温での寸法変化が大きくなるため、耐熱寸法安定性を高めようとすると、耐加水分解性の低下につながることを鑑み、難燃性を備えながら、同時に従来の難燃ポリエステルフィルムよりも優れた耐加水分解性、耐熱耐久性および耐熱寸法安定性を備える難燃性ポリエステルフィルムを提供するものである。
【0009】
具体的には、ホスフィンオキサイド化合物の中でも水酸基を両末端に有するホスフィンオキサイド化合物を用いた共重合ポリエステルを用いることにより、従来知られていたジカルボン酸タイプのホスフィンオキサイド化合物に較べて耐加水分解性能や耐熱耐久性が大きく向上すること、さらにその共重合ポリエステルの固有粘度を高くし、フィルムの面配向を高めた上で高温熱固定処理を施すことにより、面配向を保ったままで熱収縮率特性を向上させることが可能となり、従来の難燃ポリエステルフィルムに較べてより優れた耐加水分解性、耐熱耐久性と耐熱寸法安定性の両立化が可能となることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0010】
すなわち本発明の目的は、ポリエステルの全ジオール成分を基準として、下記式(1)で表わされるホスフィンオキシド化合物から誘導される成分を1モル%以上25モル%以下の範囲で有する共重合ポリエステル樹脂を含む難燃性配向ポリエステルフィルムであり、該ポリエステルフィルムが0.50dl/g以上1.0dl/g以下の固有粘度および0.12以上の面配向係数であり、かつ150℃、30分熱処理したときの主配向方向の熱収縮率が0%以上2.5%以下である難燃性配向ポリエステルフィルムによって達成される。
【0011】
【化1】

(式中、Rは水素、炭素数1〜12の1価の飽和炭化水素または1価の芳香族炭化水素のいずれか1つを表わし、m、nはそれぞれ1〜6の整数を表わす)
【0012】
また、本発明の難燃性配向ポリエステルフィルムは、その好ましい態様として、ポリエステルの主たる繰り返し単位がエチレンテレフタレートまたはエチレンナフタレンジカルボキシレートであること、ポリエステルフィルム中のリン原子濃度がポリエステルフィルムの重量を基準として0.5重量%以上3.0重量%以下であること、121℃、2気圧の飽和水蒸気中で10時間処理した後のポリエステルフィルムの破断伸度保持率が40%以上であること、150℃の温度下で150時間処理した後のポリエステルフィルムの破断伸度保持率が40%以上であること、フレキシブルプリント回路またはフラットケーブルの基板として用いられること、の少なくともいずれか一つを具備するものを包含する。
【発明の効果】
【0013】
本発明の難燃性配向ポリエステルフィルムは難燃性に優れるとともに、従来の難燃ポリエステルフィルムよりも優れた耐加水分解性、耐熱耐久性および耐熱寸法安定性を有しており、本発明のポリエステルフィルム単体で十分な難燃性とポリエステルフィルムとしての機械的特性を備えることから、従来の難燃ポリエステルフィルムのようにさらに難燃層を設けるなどの積層化をしなくても、難燃性が求められる種々の用途、例えばフレキシブルプリント回路基板のような電気電子用途などに好適に用いることができ、その工業的価値は極めて高い。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明を詳しく説明する。
<ポリエステル>
本発明の難燃性配向ポリエステルフィルムは、ポリエステルの全ジオール成分を基準として下記式(1)で表わされるホスフィンオキシド化合物から誘導される成分(以下、リン含有共重合単位と称することがある)を1モル%以上25モル%以下の範囲で有する共重合ポリエステル樹脂を含む。
【0015】
【化2】

(式中、Rは水素、炭素数1〜12の1価の飽和炭化水素または1価の芳香族炭化水素のいずれか1つを表わし、m、nはそれぞれ1〜6の整数を表わす)
【0016】
本発明における共重合ポリエステル樹脂が、ジオールタイプのホスフィンオキシド化合物モノマーに由来するリン含有共重合単位を有することにより、高い難燃性と耐加水分解性、耐熱耐久性とを付与することができる。
【0017】
式(1)で表わされるホスフィンオキシド化合物からなる単位のうち、m、nで表わされるメチレン鎖数は好ましくは1〜4であり、さらに好ましくは2〜3である。
また、式(1)で表わされるホスフィンオキシド化合物からなる単位のうち、Rで表わされる置換基の中でも、炭素数1〜6の飽和炭化水素、フェニル基が好ましく例示される。これら好ましく例示されるリン含有共重合単位を有する共重合ポリエステル樹脂を用いることにより、ポリエステルフィルムとしての十分な機械的特性や耐熱性を得ることができる。
【0018】
本発明において、難燃性付与成分としてホスフィンオキシド化合物を用いることが必要であり、かつホスフィンオキシド化合物の中でもモノマーの状態でジオールの化合物またはその誘導体を用いることが必要である。ポリエステル主鎖中に、難燃成分として、ホスフィンオキシド化合物以外の化合物に由来するリン含有共重合単位、例えばホスフィン酸あるいはホスホン酸エステル由来のリン含有共重合単位が所定量存在すると、ポリエステル組成物の耐熱性、耐加水分解性に悪影響を及ぼし、本発明の目的を満足するフィルム耐久性を得ることができない。またホスフィンオキシド化合物においてもジカルボン酸の化合物またはその誘導体をモノマー成分として用いた場合、ジオールタイプのホスフィンオキシド化合物ほどの耐加水分解特性や耐熱耐久性が得られない。
【0019】
また、共重合ポリエステル樹脂における該リン含有共重合単位の含有量は、ポリエステルの全ジオール成分を基準として1モル%以上25モル%以下の範囲であり、その下限値は好ましくは3モル%、さらに好ましくは5モル%であり、上限値は好ましくは20モル%、さらに好ましくは15モル%、特に好ましくは10モル%である。
該リン含有共重合単位の含有量が下限値に満たないと本発明の目的とする難燃性を得ることができない。また、該リン含有共重合単位の含有量が上限値を超えるとポリエステルフィルムとしての十分な機械的特性や耐熱性、耐熱寸法安定性を得ることができない。
【0020】
上記ホスフィンオキシド化合物からなるモノマー成分を共重合させた結果、ポリエステルフィルム中のリン原子濃度が、ポリエステルフィルムの重量を基準として0.5重量%以上3.0重量%以下であることが、本発明の目的とする難燃性を得るために好ましい。かかるリン原子濃度の下限値は、より好ましくは0.6重量%、さらに好ましくは0.7重量%であり、一方かかるリン原子濃度の上限値は、より好ましくは2.5重量%、さらに好ましくは2.0重量%、特に好ましくは1.5重量%である。
【0021】
本発明における共重合ポリエステル樹脂の主たる繰り返し単位はエチレンテレフタレートまたはエチレンナフタレンジカルボキシレートであり、エチレンナフタレンジカルボキシレートの中でもエチレン−2,6−ナフタレンジカルボキシレートが好ましい。ここで「主たる」とは、ポリエステル樹脂の全繰り返し単位の50モル%以上であることをいい、より好ましくは70モル%以上、さらに好ましくは75モル%以上、特に好ましくは80モル%以上、最も好ましくは85モル%以上である。
【0022】
本発明における共重合ポリエステル樹脂は、得られたフィルムの特性が本発明の範囲を超えなければ、その他の共重合成分を含むことができる。その他の共重合成分としては、得られたフィルムの特性が本発明の範囲を超えなければ、特に限定されない。具体的には、好ましいジカルボン酸成分として、イソフタル酸、テレフタル酸、オルトフタル酸、2,6−ナフタレンジカルボン酸、2,7−ナフタレンジカルボン酸、1,4−ナフタレンジカルボン酸、4,4’−ビフェニレンジカルボン酸などの芳香族ジカルボン酸成分の中から主たる成分以外の成分、シクロヘキサン−1,4−ジカルボン酸などの脂環族ジカルボン酸成分、コハク酸、アジピン酸、セバシン酸などの脂肪族ジカルボン酸成分など、好ましいジオール成分としては、プロピレングリコール、トリメチレングリコール、テトラメチレングリコールなどの脂肪族ジオール成分、シクロヘキサン−1,4−ジメタノールなどの脂環族ジオール成分、ビスフェノールAなどの芳香族ジオール成分、ジエチレングリコール、ポリエチレングリコール、ポリテトラメチレングリコールなどのエーテル縮合型ジオール成分などが挙げられる。また、前述の好ましいジカルボン酸およびジオール成分以外の成分として、p−ヒドロキシ安息香酸、ω−ヒドロキシ酪酸、ω−ヒドロキシ吉草酸、乳酸などのヒドロキシカルボン酸成分、ポリカーボネートに見られるような炭酸成分、さらに、トリメリット酸、ピロメリット酸やグリセリンなどの3官能以上の成分が挙げられる。
【0023】
本発明の共重合ポリエステル樹脂は、従来公知の方法、例えばジカルボン酸とグリコールの反応で直接低重合度ポリエステルを得る方法や、ジカルボン酸の低級アルキルエステルとグリコールとを従来公知のエステル交換触媒である、例えばナトリウム、カリウム、マグネシウム、カルシウム、亜鉛、ストロンチウム、チタン、ジルコニウム、マンガン、コバルトを含む化合物の一種または二種以上を用いて反応させた後、重縮合触媒の存在下で重合反応を行う方法で得ることができる。重縮合触媒としては、三酸化アンチモン、五酸化アンチモンのようなアンチモン化合物、二酸化ゲルマニウムで代表されるようなゲルマニウム化合物、テトラエチルチタネート、テトラプロピルチタネート、テトラフェニルチタネートまたはこれらの部分加水分解物、蓚酸チタニルアンモニウム、蓚酸チタニルカリウム、チタントリスアセチルアセトネートのようなチタン化合物を用いることができる。
【0024】
本発明における共重合ポリエステル樹脂の固有粘度は、ο−クロロフェノールを溶媒とし、25℃にて測定された固有粘度が、0.50dl/g以上1.5dl/g以下であることが好ましく、さらに0.55dl/g以上1.2dl/g以下であることが好ましい。
共重合ポリエステル樹脂の固有粘度が下限値に満たないと、フィルム製膜後に高温熱固定処理を施すことにより、フィルムの面配向を十分に保つことができず、フィルムとしての耐加水分解性、耐熱耐久性と耐熱寸法安定性との両立が困難である。一方、上限値を越える共重合ポリエステル樹脂は溶融粘度が高いため溶融押出が困難であるうえ、重合時間が長く不経済である。
【0025】
さらに、共重合ポリエステル樹脂がフィルムの主成分であり、得られたフィルムの特性が本発明の範囲を超えない限り、ポリエステル以外の樹脂との混合物を原材料としてもよい。ここで「共重合ポリエステル樹脂がフィルムの主成分である」とは、例えば混合物が海島構造をとった場合には連続した「海」領域を構成する樹脂が共重合ポリエステル樹脂である状態を指し、より好ましくはフィルム重量を基準として共重合ポリエステル樹脂の含有量が50重量%以上、さらに好ましくは75重量%以上、特に好ましくは90重量%以上である。
【0026】
その他、得られたフィルムの特性が本発明の範囲を超えるものでない限りにおいて、本発明のポリエステルフィルム中に各種添加剤、例えば紫外線吸収剤、安定剤、帯電防止剤、染料、顔料、および滑剤などを含有させてもよい。
【0027】
<フィルムの物性>
(固有粘度)
本発明の難燃性配向ポリエステルフィルムの固有粘度は0.50dl/g以上1.0dl/g以下である必要がある。ここでフィルムの固有粘度は、ο−クロロフェノールを溶媒とし、25℃にて測定された値で表わされる。フィルムの固有粘度の下限値は、好ましくは0.55dl/g、さらに好ましくは0.60dl/gである。難燃性配向ポリエステルフィルムの固有粘度が下限値に満たないと、ポリマーの絡み合い密度が十分でないため、フィルム製膜時にいったん形成されたフィルムの面配向特性が高温熱固定処理によって緩和してしまい、フィルムとしての耐加水分解性と耐熱寸法安定性の両立が困難である。
【0028】
またフィルムの固有粘度の上限値はかかる範囲内でより高い方が好ましいが、溶融押出性などとの関係で0.90dl/g以下であってもよく、さらに0.80dl/g以下であってもよい。
【0029】
(面配向係数)
本発明の難燃性配向ポリエステルフィルムは、面配向係数が0.12以上であり、好ましくは0.14以上、さらに好ましくは0.15以上、特に好ましくは0.16以上である。またフィルムの面配向係数の上限値はポリエステルの性質上おのずと制限され、高くても0.3未満である。
本発明の難燃性配向ポリエステルフィルムは、ジオールタイプのホスフィンオキシド化合物を共重合した共重合ポリエステル樹脂を用い、さらにフィルムの面配向係数がかかる範囲にあることにより、難燃かつ耐熱寸法安定性に優れるポリエステルフィルムでありながら、従来の難燃性ポリエステルフィルムにくらべて、より本来のポリエステルに近い耐加水分解性や耐熱耐久性を備えることができる。
【0030】
(耐熱寸法安定性)
本発明の難燃性配向ポリエステルフィルムは、150℃、30分熱処理したときの主配向方向の熱収縮率が0%以上2.5%以下である。かかる熱収縮率は好ましくは0.5%以上2.0%以下、さらに好ましくは0.8%以上1.5%以下である。
ここで主配向方向とは、フィルムにおける分子鎖の配向が最も高い方向を指し、通常はフィルムがより高く延伸される方向を指す。
【0031】
本発明の難燃性配向ポリエステルフィルムは、リン含有共重合単位をポリマー中に有するため、通常であればホモポリマーのフィルムに較べて高温での熱収縮率が大きくなる傾向にある。しかしながら、本発明は通常よりも高い熱固定温度、すなわち通常よりも融点により近い熱固定温度で高温熱固定処理を施すことにより、従来の共重合系の難燃性ポリエステルフィルムに較べてより優れた耐熱寸法安定性を得ることができる。
具体的な熱固定温度は(Tm−30)〜(Tm−5)℃の範囲であり、さらに好ましくは(Tm−25)〜(Tm−10)℃の範囲である。ここでTmとはポリエステルの融点を表わす。
【0032】
(耐湿熱耐久性)
本発明の難燃性配向ポリエステルフィルムは、121℃、2気圧の飽和水蒸気中で10時間処理した後のポリエステルフィルムの破断伸度保持率が40%以上であることが好ましい。かかるフィルム破断伸度保持率は、さらに好ましくは50%以上である。かかる破断伸度保持率はフィルムの主配向方向を測定方向としたときの値である。
【0033】
本発明の難燃性配向ポリエステルフィルムは、難燃成分としてジオールタイプのホスフィンオキシド化合物を共重合し、さらに本発明の面配向特性を備えることにより、難燃性に優れると同時に優れた耐加水分解性をも有しており、湿熱処理後も高いフィルム破断伸度保持率を維持することができる。
【0034】
(耐熱耐久性)
また、本発明の難燃性配向ポリエステルフィルムは、150℃の温度下で150時間処理した後のポリエステルフィルムの破断伸度保持率が40%以上であることが好ましく、さらに50%以上であることが好ましい。かかる破断伸度保持率はフィルムの主配向方向を測定方向としたときの値である。
【0035】
本発明の難燃性配向ポリエステルフィルムは、難燃成分としてジオールタイプのホスフィンオキシド化合物を共重合し、さらに本発明の面配向特性を備えることにより、難燃性に優れると同時に優れた耐熱耐久性を有しており、乾熱処理後も高いフィルム破断伸度保持率を維持することができる。
【0036】
<フィルムの製造方法>
本発明の難燃性配向ポリエステルフィルムを製造する方法として、前述したようなポリエステル樹脂組成物を原料とし、ポリエステルを押出機に供給して溶融押出し、固化成形したシートを少なくとも一方向に延伸するフィルム製造方法が挙げられ、二方向に延伸した二軸配向フィルムであることが好ましい。
【0037】
フィルム製膜方法は、公知の製膜方法を用いて製造することができ、例えば共重合ポリエステル樹脂組成物を十分に乾燥させた後、共重合ポリエステル樹脂の融点であるTm〜(Tm+70)℃、さらに好ましくは(Tm+10)〜(Tm+60)℃の温度で押出機内で溶融し、Tダイなどのスリットダイを通じて未延伸フィルムが製造される。本発明のフィルム固有粘度を得るために、押出温度はかかる範囲内で極力低いことが好ましい。
【0038】
次いで該未延伸フィルムを逐次または同時二軸延伸し、熱固定する方法で製造することができる。
例えば逐次二軸延伸により製膜する場合、未延伸フィルムを共重合ポリエステル樹脂のガラス転移温度(以下Tgと称することがある)以上(Tg+80)℃以下の温度範囲で、縦方向(フィルム連続製膜方向、フィルム長手方向、MD方向と称することがある)および横方向(フィルム幅方向、MD方向と称することがある)に延伸することが好ましい。延伸温度のより好ましい範囲は(Tg+20)〜(Tg+60)℃である。
【0039】
またフィルムの延伸倍率については、該未延伸フィルムを縦方向に2.5〜5.5倍および横方向に2.5〜6.0倍となる範囲で延伸処理を行う。延伸倍率の好ましい値は、縦方向に3.5〜4.5倍、横方向に3.5〜5.0倍である。かかる範囲の延伸倍率で延伸を行うことにより、得られる延伸フィルムの分子配向を適正なものとすることができ、上述したような耐久性の確保がより容易になる。延伸倍率が下限値に満たない場合は、これらの特性を十分なものとすることが困難な可能性があり、一方、延伸倍率値が上限を超える場合は、延伸工程中に破断が生じるため生産性が劣る。
【0040】
延伸後に熱固定処理を行うに際し、熱固定処理温度は(Tm−30)〜(Tm−5)℃の範囲であり、さらに好ましくは(Tm−25)〜(Tm−10)℃の範囲である。かかる温度範囲で熱固定処理を行うことにより、本発明の耐熱寸法安定性を得ることができる。また、さらに耐熱寸法安定性を高めるために、この熱固定処理に加えてフィルムの弛緩処理や更なる延伸処理などの処理を行ってもよい。
【0041】
<用途>
本発明の難燃性配向ポリエステルフィルムは、難燃性が求められる種々の用途に用いることができる。例えばフレキシブルプリント回路基板やモータ絶縁のような電気電子用途、フラットケーブルなどの電線用途、リチウムイオン電池などのラベルや絶縁部材といった蓄電池用途、などに好適に用いることができる。
【実施例】
【0042】
以下、実施例により本発明を詳述するが、本発明はこれらの実施例のみに限定されるものではない。なお、各特性値は以下の方法で測定した。また、実施例中の部および%は、特に断らない限り、それぞれ重量部および重量%を意味する。
【0043】
(1)ポリエステル成分量
H−NMR測定、13C−NMR測定、よりポリエステルの成分および共重合成分及び各成分量を特定した。
【0044】
(2)固有粘度
ポリエステルチップ、フィルムの固有粘度について、o−クロロフェノールを溶媒とし、25℃で測定した。
【0045】
(3)リン原子濃度
得られたフィルムのリン原子濃度を蛍光X線の発光強度より算出した。
【0046】
(4)面配向係数
得られたフィルムについて、以下の方法でNaD線(589.3nm)に対する屈折率を測定し、面配向係数の算出に供した。すなわち、波長473nm、633nm、830nmの3種のレーザー光にて、屈折率計(Metricon社製、プリズムカプラ)を用いて測定された、フィルムの3方向における屈折率nx、ny、nzを、下記のCauchyの屈折率波長分散フィッティング式
(λ)=a/λ+b/λ+c
(ここで、n(λ):波長λ(nm)における各方向の屈折率(i=MD、TD、Z)、a、b、c:定数、をそれぞれ示す)
に代入し、得られた3つの式からa、b、cの定数を求め、しかる後に589.3nmにおける屈折率(nMD(589.3)、nTD(589.3)、n(589.3))を算出した。得られた屈折率から、下記式に従い、面配向係数Nsを算出した。
Ns=(nMD+nTD)/2−n
(上式中、Nsは面配向係数、nMDはMD方向の屈折率、nTDはTD方向の屈折率、nはフィルム厚み方向の屈折率をそれぞれ表す)
【0047】
(5)主配向方向の判定
得られたフィルムサンプルから、0.5°の精度でMDおよびTDに平行な、60mm四方の正方形のサンプルを切り出した。該サンプルを、エリプソメーター(日本分光製 装置名 M−220)の複屈折測定用サンプルステージに、0.5°の精度で取り付けた後、自動測定にて550nm入射光に対して最大の位相差を示すようにサンプルステージを回転させ、主配向方向を求めた。
【0048】
(6)耐熱寸法安定性
フィルムサンプルに30cm間隔で標点をつけ、荷重をかけずに150℃のオーブンで30分間熱処理を実施し、熱処理後の標点間隔を測定して、主配向方向において、下記式にて熱収縮率を算出した。
熱収縮率(%)=((熱処理前標点間距離−熱処理後標点間距離)/熱処理前標点間距離)×100
【0049】
(7)燃焼性
フィルムサンプルをUL−94VTM法に準拠して評価した。サンプルを20cm×5cmにカットし、23±2℃、50±5%RH中で48時間放置し、その後、試料下端をバーナーから10mm上方に離し垂直に保持した。該試料の下端を内径9.5mm、炎長20mmのブンゼンバーナーを加熱源とし、3秒間接炎した。VTM−0,VTM−1,VTM−2の評価基準に沿って難燃性を評価し、n=5の測定回数のうち、同じランクになった数の最も多いランクとした。
【0050】
(8)耐久性評価
[i]フィルム処理
a)耐加水分解性(耐湿熱耐久性)
150mm長×10mm幅の短冊状のフィルムを、121℃・2atm・濡れ飽和モード・100%RHに設定した環境試験機内にステンレス製のクリップで吊り下げる。10時間経過後にフィルムを取り出し、評価に供した。なお、フィルムサンプルを切り出すにあたり、フィルムの主配向方向が長さ方向となるよう切り出した。
b)耐熱耐久性
200mm長×10mm幅の短冊状のフィルムを、150℃のオーブン内にステンレス製のクリップで吊り下げる。150時間経過後にオーブンからフィルムを取り出し、評価に供した。なお、フィルムサンプルを切り出すにあたり、フィルムの主配向方向が長さ方向となるよう切り出した。
【0051】
[ii]機械特性評価(破断伸度保持率)
上記a)の処理を行ったフィルムサンプル、上記b)の処理を行ったフィルムサンプル、および未処理のフィルムサンプルそれぞれについて、ORIENTEC社製テンシロンUTM−4−100型を用いてチャック間距離10cm、引張速度10mm/secで引張応力を測定し、下記式に従ってそれぞれの処理後の引張破断伸度保持率を算出した。
破断伸度保持率(%)=(100時間経過時の引張破断伸度/初期の引張破断伸度)×100
なお、かかる破断伸度保持率はフィルムの主配向方向を測定方向としたときの値である。また、測定はそれぞれ5回ずつ行い、その平均値をもとに算出した。
【0052】
[実施例1]
テレフタル酸ジメチルエステル100重量部、エチレングリコール60重量部を、エステル交換触媒として酢酸マンガン四水塩0.03重量部を使用して、常法に従ってエステル交換反応させた後、エチレングリコールに分散させた平均粒径1.5μmの多孔質シリカ粒子0.06重量%(フィルムの重量基準)を添加した。ついで、下記式(2)で表わされる、ビス(3−ヒドロキシトリメチレン)n−ブチルホスフィンオキシド10重量部を添加し、三酸化アンチモン0.024重量部を添加して、引き続き高温高真空下で常法にて重縮合反応を行い、固有粘度0.70dl/gのポリエステルを得た。ポリエステル中のリン原子濃度は、表1に示すとおりであった。
【0053】
【化3】

【0054】
得られたポリエステルを170℃ドライヤーで3時間乾燥後、押出機に投入し、280℃で溶融混練し、280℃のダイスよりシート状に成形した。この溶融物を、表面温度20℃に維持した回転冷却ドラム上に溶融押出して、厚み630μmの未延伸フィルムを製膜した。次に、得られた未延伸フィルムを75℃に予熱し、低速ローラーと高速ローラーの間で15mm上方より800℃の表面温度の赤外線ヒーター1本にて加熱しながら製膜方向(MD方向)に4.1倍延伸し、さらに、縦延伸したフィルムの両端をクリップで保持しながらテンターに導き100℃に加熱された雰囲気中で製膜方向に垂直な方向(TD方向)に4.2倍延伸し、さらに横方向に固定したまま全幅の3%の弛緩を与えながら220℃で熱処理し、厚み50μmの二軸配向ポリエステルフィルムを得た。得られたフィルムの特性を表1に示す。
【0055】
[実施例2]
添加するホスフィンオキシド化合物を下記式(3)であらわされるものとした以外は、実施例1と同様の方法によって二軸配向ポリエステルフィルムを得た。得られたフィルムの特性を表1に示す。
【0056】
【化4】

【0057】
[実施例3]
添加するホスフィンオキシド化合物の量を変更し、ポリエステル中のリン濃度を表1に示す通りとした以外は、実施例1と同様の方法によって二軸配向ポリエステルフィルムを得た。得られたフィルムの特性を表1に示す。
【0058】
[実施例4]
重縮合反応後のポリエステルの固有粘度を変更し、得られたフィルムの固有粘度を表1に示す通りとした以外は、実施例1と同様の方法によって二軸配向ポリエステルフィルムを得た。得られたフィルムの特性を表1に示す。
【0059】
[実施例5]
MD方向およびTD方向の延伸倍率を表1に示す通りとした以外は、実施例1と同様の方法によって二軸配向ポリエステルフィルムを得た。得られたフィルムの特性を表1に示す。
【0060】
[実施例6]
熱固定温度を表1に示す通りとした以外は、実施例1と同様の方法によって二軸配向ポリエステルフィルムを得た。得られたフィルムの特性を表1に示す。
【0061】
[実施例7]
テレフタル酸ジメチルエステルの代わりにナフタレン−2,6−ジカルボン酸ジメチルエステルを用い、MD方向延伸における予熱温度を120℃に、TD方向延伸における温度を140℃にし、また熱固定温度を230℃とした以外は、実施例1と同様の方法によって二軸配向ポリエステルフィルムを得た。得られたフィルムの特性を表1に示す。
【0062】
【表1】

【0063】
[比較例1]
添加する有機リン化合物を下記式(4)であらわされるものとした以外は、実施例1と同様の方法によって二軸配向ポリエステルフィルムを得た。得られたフィルムの特性を表2に示す。分子鎖中にホスフィン酸エステル結合部位を有するため、耐熱性、耐加水分解性とも不足している。
【0064】
【化5】

【0065】
[比較例2]
原料樹脂組成物を、固有粘度0.66dl/gのポリエチレンテレフタレートとした以外は、実施例1と同様の方法によって二軸配向ポリエステルフィルムを得た。得られたフィルムの特性を表2に示す。ホスフィンオキシド化合物などの有機リン化合物を含有しないため、難燃性に劣る。
【0066】
[比較例3]
添加するホスフィンオキシド化合物の量を変更し、ポリエステル中のリン濃度を表2に示す通りとした以外は、実施例1と同様の方法によって二軸配向ポリエステルフィルムを得た。得られたフィルムの特性を表2に示す。共重合量が多く、また十分な分子の面配向を得ることができず、耐熱寸法安定性、耐熱性、耐加水分解性とも不足している。
【0067】
[比較例4]
添加するホスフィンオキシド化合物を下記式(5)で表されるビス(2−カルボキシエチル)メチルホスフィンオキシドに変更した以外は、実施例1と同様の方法によって二軸配向ポリエステルフィルムを得た。得られたフィルムの特性を表2に示す。ジオールタイプのホスフィンオキシド化合物を用いたフィルムに比べ、耐熱性、耐加水分解性とも不足している。
【0068】
【化6】

【0069】
[比較例5]
添加するホスフィンオキシド化合物を下記式(6)で表されるものとした以外は、実施例1と同様の方法によって二軸配向ポリエステルフィルムを得た。得られたフィルムの特性を表2に示す。ジオールタイプのホスフィンオキシド化合物を用いたフィルムに比べ、耐熱性、耐加水分解性が不足している。
【0070】
【化7】

【0071】
[比較例6]
重縮合反応後のポリエステルの固有粘度を変更し、得られたフィルムの固有粘度を表2に示す通りとした以外は実施例1と同様の方法によって二軸配向ポリエステルフィルムを得た。得られたフィルムの特性を表2に示す。得られたフィルムのポリエステルの分子量が小さく、また十分な分子の面配向を得ることができず、耐熱性、耐加水分解性とも不足している。
【0072】
[比較例7]
MD方向およびTD方向の延伸倍率を表2に示す通りとした以外は、実施例1と同様の方法によって二軸配向ポリエステルフィルムを得た。得られたフィルムの特性を表2に示す。面配向係数が低いため、耐熱性、耐加水分解性とも不足している。
【0073】
[比較例8]
熱固定温度を表2に示す通りとした以外は、実施例1と同様の方法によって二軸配向ポリエステルフィルムを得た。得られたフィルムの特性を表2に示す。耐熱性、耐加水分解性は良好であったが、熱収縮率が非常に大きく、熱寸法安定性が十分でなかった。
【0074】
【表2】

【産業上の利用可能性】
【0075】
本発明の難燃性配向ポリエステルフィルムは難燃性に優れるとともに、従来の難燃ポリエステルフィルムよりも優れた耐加水分解性、耐熱耐久性および耐熱寸法安定性を有しており、本発明のポリエステルフィルム単体で十分な難燃性とポリエステルフィルムとしての機械的特性を備えることから、従来の難燃ポリエステルフィルムのようにさらに難燃層を設けるなどの積層化をしなくても、難燃性が求められる種々の用途、例えばフレキシブルプリント回路基板のような電気電子用途などに好適に用いることができ、その工業的価値は極めて高い。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリエステルの全ジオール成分を基準として、下記式(1)で表わされるホスフィンオキシド化合物から誘導される成分を1モル%以上25モル%以下の範囲で有する共重合ポリエステル樹脂を含む難燃性配向ポリエステルフィルムであり、該ポリエステルフィルムが0.50dl/g以上1.0dl/g以下の固有粘度および0.12以上の面配向係数であり、かつ150℃、30分熱処理したときの主配向方向の熱収縮率が0%以上2.5%以下であることを特徴とする難燃性配向ポリエステルフィルム。
【化1】

(式中、Rは水素、炭素数1〜12の1価の飽和炭化水素または1価の芳香族炭化水素のいずれか1つを表わし、m、nはそれぞれ1〜6の整数を表わす)
【請求項2】
ポリエステルの主たる繰り返し単位がエチレンテレフタレートまたはエチレンナフタレンジカルボキシレートである請求項1に記載の難燃性配向ポリエステルフィルム。
【請求項3】
ポリエステルフィルム中のリン原子濃度がポリエステルフィルムの重量を基準として0.5重量%以上3.0重量%以下である請求項1または2に記載の難燃性配向ポリエステルフィルム。
【請求項4】
121℃、2気圧の飽和水蒸気中で10時間処理した後のポリエステルフィルムの破断伸度保持率が40%以上である請求項1〜3のいずれかに記載の難燃性配向ポリエステルフィルム。
【請求項5】
150℃の温度下で150時間処理した後のポリエステルフィルムの破断伸度保持率が40%以上である請求項1〜4のいずれかに記載の難燃性配向ポリエステルフィルム。
【請求項6】
フレキシブルプリント回路またはフラットケーブルの基板として用いられる請求項1〜5のいずれかに記載の難燃性配向ポリエステルフィルム。

【公開番号】特開2012−126864(P2012−126864A)
【公開日】平成24年7月5日(2012.7.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−281518(P2010−281518)
【出願日】平成22年12月17日(2010.12.17)
【出願人】(301020226)帝人デュポンフィルム株式会社 (517)
【Fターム(参考)】