説明

難燃性金属被覆布帛、その製造方法およびそれを有する電磁波シールド用ガスケット

【課題】優れた電磁波シールド性を有し、十分な難燃性と接着性とを兼ね備え、さらには、タック力が弱く、電磁波シールド用ガスケット部品として好適な難燃性金属被覆布帛、その製造方法およびそれを用いた電磁波シールド用ガスケットを提供する。
【手段】金属被覆布帛の少なくとも片面に、比重1.0以上3.0未満の難燃剤粒子(A)、比重3.0以上8.0未満の難燃剤粒子(B)、および軟化点が50〜130℃である熱可塑性接着剤(C)を含有する組成物(D)からなる皮膜を有する金属被覆布帛である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電磁波シールド性を有する難燃性金属被覆布帛とその製造方法およびそれを有する電磁波シールド用ガスケットに関し、より詳細には、難燃性と接着性とを兼ね備え、さらにはタック力の弱い難燃性金属被覆布帛とその製造方法およびそれを有する電磁波シールド用ガスケットに関する。
【背景技術】
【0002】
オフィスや家庭において、各種情報端末を主とする電子機器が急速に普及するに伴い、これらの電子機器から発生する静電気や電磁波による、他の電子機器や人体への影響が危惧されている。これら静電気や電磁波による障害を防ぐ為に、優れた電磁波シールド性を有する電磁波シールド用ガスケットが求められている。更に製造物責任法(PL法)などの施行により、UL規格などを満足する、高度な難燃性を有する電磁波シールド用ガスケットが、強く望まれている。
【0003】
電磁波シールド用ガスケットの一例として、芯材に合成樹脂発泡体を使用し、これに導電性を有する布帛を巻きつけて接着させたものがあるが、高度の難燃性を実現させるためには、導電性を有する布帛(以下、単に導電性布帛と称す)自体に、優れた難燃性が必要である。さらに、芯材に金属被覆布帛を接着させるために、優れた接着性も求められる。
【0004】
難燃性と接着性とを有する金属被覆布帛には、導電性布帛の少なくとも片面に、難燃剤と軟化点130℃以上の熱可塑性樹脂とが含まれる混合樹脂をダイレクトコーティングなどで皮膜化し、その後、皮膜形成面に軟化点50〜130℃の熱可塑性接着剤をラミネートにて皮膜化させるものがある。
これは十分な難燃性と接着性とを有することができるが、加工工程が2段階であることから製造コストが高くなるという問題点がある。
【0005】
また、工程数を削減し製造コストを低減させる為、特許文献1には、難燃剤と軟化点50〜130℃の熱可塑性接着剤とを混合し、ダイレクトコーティングなどで皮膜化させる方法が開示されている。以下、難燃剤と軟化点50℃〜130℃の熱可塑性接着剤とを混合したものを、難燃ホットメルト樹脂、難燃ホットメルト樹脂を皮膜化したものを難燃ホットメルト皮膜と表記する。
この方法は、目的の難燃性と接着性とを得ることができるが、難燃ホットメルト皮膜のタック力が強いという問題点がある。タック力が強いと、布帛に難燃ホットメルト樹脂を塗工、乾燥して、ロール状に巻き取った後、検査工程やガスケット製造工程において、該布帛をシート状に開放する際に、該布帛の金属が難燃ホットメルト皮膜に移るという欠点が発生する。
【0006】
そこで、タック力を弱くする方法として、一般的にタック防止剤を混合する方法が知られているが、接着性が悪くなるという問題が発生する。接着性が悪くなるとガスケット製造時に芯材となるウレタンフォームとの接着不良が起こりやすく、良質なガスケットが得られない。また、ガスケット製造機の設定温度を、より高温にする必要があり、製造機への負荷が大きくなるなどの不具合も生じる。
【0007】
また、難燃ホットメルト樹脂の難燃剤成分比率を大きくする方法もあるが、目的のタック性を得ようとする場合、比重の重いハロゲン化合物やアンチモン系化合物の難燃剤では難燃剤成分の沈降が速くなる。難燃剤の沈降が発生すると、難燃ホットメルト皮膜を形成する加工の初めと終わりとで成分構成が変わってしまい、目的の性能が得られないおそれや、予備タンクに保管された難燃ホットメルト樹脂の底部の粘度が上昇し、皮膜にムラが発生するおそれがある。また、大量に難燃剤成分を添加すると、やはり目的の接着性を得ることが出来ない。
【0008】
【特許文献1】特開2006−299447号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、このような現状に鑑みてなされたものであり、優れた電磁波シールド性を有し、十分な難燃性と接着性とを兼ね備え、さらには、タック力が弱く、電磁波シールド用ガスケット部品として好適な難燃性金属被覆布帛、その製造方法およびそれを用いた電磁波シールド用ガスケットを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
すなわち、本発明は、金属被覆布帛の少なくとも片面に、比重1.0以上3.0未満の難燃剤粒子(A)、比重3.0以上8.0未満の難燃剤粒子(B)、および軟化点が50〜130℃である熱可塑性接着剤(C)を含有する組成物(D)からなる皮膜を有する難燃性金属被覆布帛(以下、難燃ホットメルト金属被覆布帛と称する場合がある)に関する。
【0011】
前記皮膜は、ダイレクトコーティングまたはラミネートにより形成されてなることが好ましい。
【0012】
前記難燃剤粒子(A)が、メラミンシアヌレート、リン酸メラミン、メラミン縮合物およびホウ酸亜鉛からなる群から選ばれる少なくとも1種であることが好ましい。
【0013】
前記難燃剤粒子(B)が、ハロゲン系化合物、アンチモン系化合物およびモリブデン酸系化合物からなる群から選ばれる少なくとも1種であることが好ましい。
【0014】
前記組成物(D)が、難燃剤粒子(A)3〜20重量%、難燃剤粒子(B)45〜70重量%および熱可塑性接着剤(C)10〜40重量%を含有することが好ましい。
【0015】
また、本発明は、金属被覆布帛の少なくとも片面に、ダイレクトコーティング法またはラミネート法により、比重1.0以上3.0未満の難燃剤粒子(A)、比重3.0以上8.0未満の難燃剤粒子(B)、および、軟化点が50〜130℃である熱可塑性接着剤(C)を含有する組成物(D)の層を形成する工程を含む難燃性金属被覆布帛の製造方法に関する。
【0016】
さらにまた、本発明は、合成樹脂発泡体からなる芯材と、該芯材を回捲する前記記載の難燃性金属被覆布帛とを有する電磁波シールド用ガスケットに関する。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、優れた電磁波シールド性を有し、十分な難燃性と接着性とを兼ね備え、さらにはタック力が弱く、電磁波シールド用ガスケット部品として好適な難燃性金属被覆布帛、その製造方法およびそれを用いた電磁波シールド用ガスケットを提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
以下、本発明について詳細に説明する。
本発明において用いられる布帛としては、織物、編物、不織布などの形態のものをあげることができ、特に限定されない。なかでも、布帛強度、形態安定性の点で、織物が好ましい。
【0019】
また、用いられる繊維素材としては、ポリエステル系(ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレートなど)、ポリアミド系(ナイロン6、ナイロン66など)、ポリオレフィン系(ポリエチレン、ポリプロピレンなど)、ポリアクリロニトリル系、ポリビニルアルコール系、ポリウレタン系などの合成繊維、セルロース系(ジアセテート、トリアセテートなど)、蛋白質系(プロミックスなど)などの半合成繊維、セルロース系(レーヨン、キュプラなど)、蛋白質系(カゼイン繊維など)などの再生繊維、セルロース系(木綿、麻など)、蛋白質系(羊毛、絹など)などの天然繊維をあげることができ、これらが2種類以上組み合わされていてもよい。なかでも、加工性および耐久性を考慮すると合成繊維が好ましく、ポリエステル系繊維がより好ましい。
【0020】
また、その総繊度は、20〜100dtexであることが好ましい。総繊度が、20dtexより小さいと、十分な強度が得られない傾向にあり、100dtexをこえると、布帛の柔軟性が得られない傾向にある。
【0021】
また、金属被覆後の布帛の目付けは、30〜80g/mであることが好ましい。目付けが、30g/mより小さいと、十分な布帛強度が得られない傾向にあり、80g/mをこえると、布帛の柔軟性が得られない傾向にある。
【0022】
本発明で用いられる金属被覆布帛とは、前記布帛の繊維表面が金属で被覆されたものである。被覆の方法としては、蒸着法、スパッタリング法、電気メッキ法、および、無電解メッキ法など従来公知の方法により行うことができる。なかでも、形成される金属皮膜の均一性、および生産性を考慮すると、無電解メッキ法、あるいは、無電解メッキ法と電気メッキ法の併用が好ましい。また、金属の定着を確実にするために、予め、繊維の表面に付着している糊剤、油剤、ゴミなどの不純物を、精練処理により完全に除去しておくことが好ましい。精練処理は、従来公知の方法を採用することができ、特に限定されない。
【0023】
用いられる金属としては、金、銀、銅、亜鉛、ニッケル、およびそれらの合金などをあげることができる。なかでも、導電性および製造コストを考慮すると、銅、ニッケルが好ましい。
【0024】
これらの金属によって形成される皮膜は、1層あるいは2層であることが好ましい。3層以上になると金属皮膜の厚みが大きくなり、布帛の風合いが硬くなるばかりか、製造コストも高くなるなど好ましくない。金属皮膜を2層に積層する場合は、同種の金属を2層に積層してもよく、また、異なる金属を積層してもよい。これらは、求められる電磁波シールド性や耐久性を考慮して適宜に設定すればよい。
【0025】
金属の総被覆量は、5〜80g/mであることが好ましく、10〜50g/mであることがより好ましい。金属被覆量が5g/mより少ないと、電磁波シールド材としての十分なシールド性が得られない傾向にあり、80g/mをこえると、金属被覆布帛の風合が粗硬になる虞がある。
【0026】
本発明の難燃性と接着性とを有する難燃ホットメルト金属被覆布帛は、前記のようにして得られた金属被覆布帛の少なくとも片面に、比重1.0以上3.0未満の難燃剤粒子(A)、比重3.0以上8.0未満の難燃剤粒子(B)、および、軟化点が50〜130℃である熱可塑性接着剤(C)を含有する組成物(D)の層を有するものである。
【0027】
前記したように、電磁波シールド材として使用される難燃性金属被覆布帛には、電磁波シールド性能、難燃性、および、芯材に対する接着性はもちろんのこと、さらには、難燃ホットメルト皮膜のタック力が弱いことが求められる。通常、金属被覆布帛が製造されると、ロール状に巻き取られる。その後、検査工程や接着工程の際にロールを開放するが、このとき、付与されている難燃ホットメルト皮膜のタック力が強いと、それと密着していた金属皮膜が剥がれて、難燃ホットメルト皮膜側に移ってしまい、電磁波シールド性能に影響を及ぼす。
【0028】
そこで、タック力の弱い難燃ホットメルト皮膜の開発を試みたわけだが、セルロース系のタック防止剤などを添加したり、難燃剤の配合比率を大きくすると、確かにタック力は弱まるが、芯材となるウレタンフォームとの接着力も弱くなるという問題点がある。
【0029】
鋭意検討の結果、一般的に使用されている比重3.0以上8.0未満の難燃剤粒子(B)およびホットメルト樹脂として使用される50〜130℃の熱可塑性接着剤である(C)に、比重1.0以上3.0未満の難燃剤粒子(A)を添加することで、接着力を維持しつつ、タック力を弱められることを見出した。
【0030】
本発明で用いられる難燃剤粒子(A)は、比重が1.0以上3.0未満の粒子である。好ましくは、比重が1.5〜2.0である。このような難燃剤粒子としては、難燃剤として用いられる従来公知の化合物を使用することができ、特に限定されない。なかでも、メラミンシアヌレート、リン酸メラミン、メラミン縮合物、ホウ酸系化合物が好ましく、メラミンシアヌレートがより好ましい。これらは単独で用いても併用してもよい。メラミンの縮合生成物としては、メラミン、メラム、メレムおよびメロンがあげられる。なかでも、難燃ホットメルト皮膜のタック力を弱くし、且つ、燃焼性の残じん時間を更に抑制できる点で、ホウ酸亜鉛が好ましい。
【0031】
難燃剤粒子(A)の配合量は、組成物(D)に対して、3〜20重量%であることが好ましく、5〜20重量%であることがより好ましく、5〜15重量%であることがとくに好ましい。難燃剤粒子(A)が3重量%より少ないと、タック力を抑制する効果が弱くなる傾向にあり、20重量%をこえると、接着性を損なう傾向にある。比重が低く、難燃性を有する難燃剤粒子(A)を適量添加することで、所定の難燃性と接着性とを維持し、タック力を弱くすることが可能である。
【0032】
また、その粒径は、0.1〜100μmであることが好ましい。0.1μmより小さいと、実用に適さなくなる傾向にあり、100μmをこえると、均一に分散することが困難になる傾向にある。
【0033】
本発明に用いる難燃剤粒子(B)は、比重が3.0以上8.0未満の粒子であることを特徴とする。好ましくは、比重が3.0〜6.0である。このような難燃性粒子としては、難燃剤として用いられる従来公知の化合物を使用することができ、特に限定されない。なかでも、難燃性効果に優れるハロゲン系化合物、アンチモン系化合物およびモリブデン酸系化合物からなる群から選ばれる少なくとも1種であることが好ましい。具体的には、ハロゲン系化合物としては脂肪族臭素化合物、ビスフェノール系臭素化合物、芳香族系臭素化合物、ビフェニル系臭素化合物、脂肪族系塩素化合物、アンチモン系化合物としては三酸化アンチモンがあげられる。前記ハロゲン系化合物およびアンチモン系化合物は、単体で使用するときと比較して相乗効果があることから、2種以上を併用することが好ましい。更に、難燃剤粒子(B)としてモリブデン酸系化合物を配合することが、難燃性効果、特に、残じん時間を抑制する効果が得られる点で好ましい。モリブデン酸系化合物としては、モリブデン酸亜鉛、モリブデン酸カルシウム、モリブデン酸アルミニウムがあげられるが、なかでも、残じん時間抑制効果の高い、モリブデン酸亜鉛が好ましい。
【0034】
また、その粒径は、0.1〜100μmであることが好ましい。0.1μmより小さいと、実用に適さなくなる傾向にあり、100μmをこえると、均一に分散することが困難になる傾向にある。
【0035】
難燃剤粒子(B)の配合量は、組成物(D)に対して、45〜70重量%であることが好ましく、50〜70重量%であることがより好ましく、50〜60重量%であることがとくに好ましい。難燃剤粒子(B)が45重量%より少ないと、所望の難燃性を付与することが難しくなる傾向にあり、70重量%をこえると、所望の接着性を付与することができない傾向にある。
【0036】
本発明において熱可塑性接着剤(C)は、前記難燃剤粒子(A)および難燃剤粒子(B)を金属被覆布帛に固着させる機能を有し、バインダー樹脂として用いられる。さらに、本発明の難燃ホットメルト金属被覆布帛を用いて電磁波シールド用ガスケットを製造する際に、芯材となる発泡体などに該難燃ホットメルト金属被覆布帛を接着させるための接着剤樹脂としての機能も有する。
【0037】
このような目的で用いられる熱可塑性接着剤(C)の具体例としては、ウレタン樹脂、アクリル樹脂およびポリエステル樹脂などをあげることができる。これは単独で用いても2種類以上併用してもよい。なかでも、柔軟性を考慮すると、ウレタン樹脂およびアクリル樹脂が好ましく、ウレタン樹脂がより好ましい。ウレタン樹脂は、難燃性を阻害し難く、且つ、風合いが柔軟であることから、本発明において特に好ましく用いられる。
【0038】
前記熱可塑性接着剤(C)の軟化点は50〜130℃であり、80〜120℃であることが好ましい。熱可塑性接着剤(C)の軟化点が50℃より低いと、皮膜の乾燥直後に巻取りができなかったり、梱包輸送時に巻き取り背面へ皮膜が移行したりする。また、ガスケットとしての使用中に、高温環境下において芯材から難燃ホットメルト金属被覆布帛が剥がれるなどのトラブルが予測される。軟化点が130℃をこえると、ガスケット製造時に芯材となるウレタンフォームとの接着不良が起こりやすく、良質なガスケットが得られない。また、製造機の設定温度もより高温の条件が必要となり、製造機への負荷が大きくなるなどの不具合が生じる。前記熱可塑性接着剤(C)は、有機溶剤に溶解させた状態で市販されており、容易に入手可能である。
【0039】
前記熱可塑性接着剤(C)の配合量は、組成物(D)に対して、10〜40重量%であることが好ましく、15〜30重量%であることがより好ましい。前記熱可塑性接着剤(C)が10重量%より少ないと、ウレタンフォームとの接着性が悪くなる傾向にあり、40重量%をこえると、タック性が強くなり布帛の金属が難燃ホットメルト皮膜に移るという欠点が発生する傾向にある。
【0040】
本発明で使用される組成物(D)は、前記難燃剤粒子(A)、難燃剤粒子(B)および熱可塑性接着剤(C)を含むものであり、さらに、着色、風合い調整および絶縁性などの機能性付与などを目的に、その性能を阻害しない範囲で他の添加物を配合することができる。そのような添加物の具体例として、シリコーンゴム、オレフィン系重合体、変性ニトリルゴム、変性ポリブタジエンゴムなどのエラストマー、ポリエチレンなどの熱可塑性樹脂および顔料などをあげることができる。
【0041】
組成物(D)を金属被覆布帛に付与する際には、各種原料を溶解または分散させる。溶解または分散する溶媒としては、ベンゼン、トルエン、キシレン、メチルエチルケトンおよびジメチルフォルムアミドなどの有機溶剤をあげることができる。また、工業用ガソリン、石油ナフサおよびターペンなどの鉱物油留分を用いてもよい。これらは単独で用いても2種類以上併用してもよい。
【0042】
溶媒は、組成物の粘度が3000〜25000cps、より好ましくは4000〜20000cpsとなるように、適量添加する。粘度が3000cpsより低いと、布帛の反対面に組成物が裏漏れして外観品位を損なう傾向にあり、25000cpsをこえると塗工性が悪くなる傾向にある。
【0043】
組成物の調製は、各種原料を均一に分散混合できるものであれば、いかなる方法を用いても構わない。一般的な方法として、プロペラ攪拌による分散混合や、ニーダー、ローラーなどの混練による分散混合をあげることができる。
【0044】
本発明の難燃ホットメルト金属被覆布帛は、金属被覆布帛に、例えばダイレクトコーティング法またはラミネート法により、前記組成物(D)からなる層を形成させることにより製造することができる。
【0045】
ダイレクトコーティング法としては、ナイフコーター、ロールコーター、スリットコーターなどを用いた通常の方法を採用することができる。組成物を金属被覆布帛にコーティングした後、乾燥などにより溶媒を取り除き、組成物(D)からなる皮膜を形成する。また、ラミネート方式により皮膜を形成してもよい。
【0046】
前記組成物(D)の付与量は、50〜200g/mであることが好ましい。50g/mより小さいと、高度な難燃性と接着性を得ることが難しくなる傾向にあり、200g/mをこえると、過剰に難燃性と接着性を有するだけでなく、布帛本来の柔軟性が損なわれる傾向にある。
【0047】
なお、金属被覆布帛には、裏漏れを防止する目的で、予め、アクリル樹脂、ポリウレタン樹脂またはポリエステル樹脂などによる目止めコーティングを行ってもよい。目止めコーティングは、前記組成物の層を形成する面と同一面であっても、反対面であっても構わない。また、目止め樹脂には着色を目的に顔料を添加しても、更なる難燃性向上を目的に難燃剤を添加してもよい。
【0048】
目止め樹脂の付与量は、1.0〜10.0g/mであることが好ましい。1.0g/mより小さいと、目止め効果が弱く裏漏れする傾向にあり、10.0g/mをこえると、布帛本来の柔軟性が失われる傾向にある。
【0049】
また、本発明の難燃ホットメルト金属被覆布帛を用いて電磁波シールド用ガスケットを作成する際には、芯材として、柔軟で圧縮復元性に富み、三次元構造を有する発泡体を用いることができる。
【0050】
この発泡体の例として、シリコーン樹脂、メラミン樹脂など難燃性を特徴とする合成樹脂からなる発泡体や、ポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂、ポリウレタン樹脂、ポリエステル樹脂、ポリイミド樹脂、ポリブタジエン樹脂などがあげられる。また、これらに難燃剤を添加した後に発泡させた発泡体、更には、発泡させた後に難燃剤を含浸、コーティング、スプレーなどにより付与した発泡体などがある。なかでも、難燃剤を添加したポリウレタン樹脂を発泡させた発泡体が、柔軟で圧縮復元性に富み、工程数も少なく、経済的にも優れるため、好ましく用いられる。また、用いられる難燃剤は、ハロゲン系化合物、アンチモン化合物、リン化合物など特に限定されるものではない。
【0051】
本発明の電磁波シールド用ガスケットは、前記発泡体などの芯材に、本発明の難燃ホットメルト金属被覆布帛の組成物の層を有する面を内側にして捲きつけた後、使用した熱可塑性接着剤の軟化点以上の温度に加熱して、芯材と難燃ホットメルト金属被覆布帛とを接着させることにより得ることができる。
【0052】
実施例
以下、実施例をあげて本発明をさらに詳しく説明するが、本発明は以下の実施例により何ら限定されるものではない。実施例中の「部」および「%」は重量基準であるものとする。また、得られた難燃ホットメルト金属被覆布帛またはガスケットの性能は、次の方法により評価した。
【0053】
(1)難燃性
作成した電磁波シールド用ガスケットを用いて、UL94 V−0試験法に従い評価した。
【0054】
(2)接着性
作成した電磁波シールド用ガスケットを1日間放置し、芯材と回捲きされている金属被覆布帛を剥がした。剥がされた金属被覆布帛の表面を目視にて観察し、以下に従い評価した。
◎ 芯材が材料破壊し、難燃ホットメルト皮膜面に多量に接着している。
○ 芯材が材料破壊し、難燃ホットメルト皮膜面に少量接着している。
× 芯材と難燃ホットメルト皮膜の間で界面剥離している。
【0055】
(3)タック力(裏移り性)
作成した難燃ホットメルト金属被覆布帛を幅25.4mmにカットし、2.0N/25.4mmの荷重をかけてロール状に巻き取った。そのまま1週間放置し、その後テープ状に解いた。難燃ホットメルト皮膜表面を観察し、金属被覆布帛の金属が難燃ホットメルト皮膜面に移行しているかを確認し、以下に従い評価した。
◎ タック力が極めて弱く、移行していない。
○ タック力が弱く、移行していない。
× タック力が強く、移行している。
【0056】
(4)表面導通性
三菱化学(株)製のLoresta−EP MCP−T360 ESPタイプの抵抗値測定器を用い、作成した難燃ホットメルト金属被覆布帛表面の抵抗値を測定した。
【0057】
(5)電磁波シールド性
関西電子工業振興センターによるKEC法に準拠し、10MHz〜1GHzにおける電磁波の遮蔽性能を、日本ヒューレットパッカード(株)製のトラッキングジェネレーター付きスペクトラムアナライザーHP8591EMを用いて、作成した難燃ホットメルト金属被覆布帛について測定した。
【0058】
実施例1
(金属被覆布帛の作製)
ポリエステル系繊維織物(経糸56dtex/36f、緯糸56dtex/36f)を精練、乾燥、熱処理し、塩化パラジウム0.3g/L、塩化第一錫30g/L、36%塩酸300ml/Lを含む40℃の水溶液に2分間浸漬し、その後水洗した。続いて、酸濃度0.1N、30℃のホウ沸化水素酸に5分間浸漬して水洗した後に、硫酸銅7.5g/L、37%ホルマリン30ml/L、ロッシェル塩85g/Lを含む30℃の無電解銅メッキ液に5分間浸漬し、水洗した。続いて、スルファミン酸ニッケル300g/L、ホウ酸30g/L、塩化ニッケル15g/Lを含む、pH3.7、35℃の電気ニッケルメッキ液に10分間、電流密度5A/dmで浸漬してニッケルを積層させた後、水洗した。織物には銅が10g/m、ニッケルが4g/mメッキされていた。得られた金属被覆織物の目付けは64g/mであった。
【0059】
(目止めコーティング)
得られた金属被覆織物の片面に、下記処方1の目止め樹脂をナイフを用いてコーティングし、130℃で1分間乾燥した。付与量は固形分で4g/mであった。
【0060】
〈処方1〉
クリスボン2116EL 100部
(大日本インキ化学工業(株)、ポリウレタン樹脂、固形分30%)
クリスボンNX 2.0部
(大日本インキ化学工業(株)製、イソシアネート架橋剤、固形分75%)
ジメチルフォルムアミド 適量
【0061】
なお、ジメチルフォルムアミドの添加量を調整することにより、粘度を15000cpsに調整した。
【0062】
(難燃ホットメルト皮膜の形成)
次に、目止めコーティングと同一面に下記処方2の樹脂組成物をナイフを用いてコーティングし、130℃で2分間乾燥した。付与量は固形分で120g/mであった。
【0063】
〈処方2〉
ビゴールBUI−854 180部
(大京化学(株)製、リン酸エステル、芳香族ブロム化合物(比重3.25)および三酸化アンチモン(比重5.2)含有、固形分85%(難燃剤粒子はそのうちの約83%))、
メラミンシアヌレート 20部
(難燃剤、比重1.7)
レザミンUD1305 100部
(大日精化工業(株)製、ウレタン樹脂、軟化点95℃、固形分50%)
メチルエチルケトン 適量
ジメチルフォルムアミド 適量
【0064】
なお、メチルエチルケトンとジメチルフォルムアミドの添加量を調整することにより、粘度を8000cpsに調整した。
【0065】
(電磁波シールド用ガスケットの作成)
(株)ブリヂストン製のウレタン発泡体エバーライトGNKを、厚み3mm、幅13mm×長さ125mmにカットして芯材とした。前記で得られた難燃ホットメルト金属被覆布帛を、幅33mm×長さ125mmにカットして、前記芯材に樹脂組成物層が接する用に回捲し、150℃のアイロンを3秒間押し当てて接着し、電磁波シールド用ガスケットを作成した。
【0066】
実施例2
難燃ホットメルト樹脂として以下の処方3を使用した以外は、実施例1と同様にして難燃ホットメルト金属被覆布帛および電磁波シールド用ガスケットを作製した。
【0067】
〈処方3〉
ビゴールBUI−854 170部
メラミンシアヌレート 20部
レザミンUD1305 100部
レザミンME3612LP 30部
(大日精化工業(株)製、ウレタン樹脂、軟化点145℃、固形分30%)
メチルエチルケトン 適量
ジメチルフォルムアミド 適量
【0068】
なお、メチルエチルケトンとジメチルフォルムアミドの添加量を調整することにより、粘度を8000cpsに調整した。
【0069】
実施例3
処方1の目止め樹脂を両面にコーティングしたこと以外は、実施例1と同様にして難燃ホットメルト金属被覆布帛および電磁波シールド用ガスケットを作製した。なお、目止め樹脂の付与量は、それぞれ固形分で4g/mであり、片面ごとに130℃で1分間乾燥した。
【0070】
実施例4
難燃ホットメルト樹脂として以下の処方4を使用した以外は、実施例1と同様にして難燃ホットメルト金属被覆布帛および電磁波シールド用ガスケットを作製した。
【0071】
〈処方4〉
ビゴールBUI−854 180部
ホウ酸亜鉛 20部
(難燃剤、比重2.7)
レザミンUD1305 100部
メチルエチルケトン 適量
ジメチルフォルムアミド 適量
【0072】
なお、メチルエチルケトンとジメチルフォルムアミドの添加量を調整することにより、粘度を8000cpsに調整した。
【0073】
比較例1
難燃ホットメルト樹脂として以下の処方5を使用した以外は、実施例1と同様にして難燃ホットメルト金属被覆布帛および電磁波シールド用ガスケットを作製した。
【0074】
〈処方5〉
ビゴールBUI−854 180部
レザミンUD1305 100部
レザミンCUT725 5部
(大日精化製、セルロース系タック防止剤、固形分25%)
メチルエチルケトン 適量
ジメチルフォルムアミド 適量
【0075】
なお、メチルエチルケトンとジメチルフォルムアミドの添加量を調整することにより、粘度を8000cpsに調整した。
【0076】
比較例2
難燃ホットメルト樹脂として以下の処方6を使用した以外は、実施例1と同様にして難燃ホットメルト金属被覆布帛および電磁波シールド用ガスケットを作製した。
【0077】
〈処方6〉
ビゴールBUI−854 180部
レザミンUD1305 100部
メチルエチルケトン 適量
ジメチルフォルムアミド 適量
【0078】
なお、メチルエチルケトンとジメチルフォルムアミドの添加量を調整することにより、粘度を8000cpsに調整した。
【0079】
比較例3
難燃ホットメルト樹脂として以下の処方7を使用した以外は、実施例1と同様にして難燃ホットメルト金属被覆布帛および電磁波シールド用ガスケットを作製した。
【0080】
〈処方7〉
ビゴールBUI−854 300部
レザミンUD1305 100部
メチルエチルケトン 適量
ジメチルフォルムアミド 適量
【0081】
なお、メチルエチルケトンとジメチルフォルムアミドの添加量を調整することにより、粘度を8000cpsに調整した。
【0082】
比較例4
難燃ホットメルト樹脂として以下の処方8を使用した以外は、実施例1と同様にして難燃ホットメルト金属被覆布帛および電磁波シールド用ガスケットを作製した。
【0083】
〈処方8〉
ビゴールBUI−854 100部
レザミンUD1305 100部
メチルエチルケトン 適量
ジメチルフォルムアミド 適量
【0084】
なお、メチルエチルケトンとジメチルフォルムアミドの添加量を調整することにより、粘度を8000cpsに調整した。
【0085】
比較例5
難燃ホットメルト樹脂として以下の処方9を使用した以外は、実施例1と同様にして難燃ホットメルト金属被覆布帛および電磁波シールド用ガスケットを作製した。
【0086】
〈処方9〉
ビゴールBUI−854 180部
レザミンUD1305 100部
レザミンME3612LP 30部
メチルエチルケトン 適量
ジメチルフォルムアミド 適量
【0087】
なお、メチルエチルケトンとジメチルフォルムアミドの添加量を調整することにより、粘度を8000cpsに調整した。
【0088】
【表1】

【0089】
表1から明らかなように、実施例1〜4では、高度な難燃性および接着性に加えて、タック力が弱かった。一方、比較例1、3は接着性が悪い皮膜が形成された。比較例4は難燃性が悪く、且つ、タック力が強かった。比較例2、5はタック力が強かった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属被覆布帛の少なくとも片面に、比重1.0以上3.0未満の難燃剤粒子(A)、比重3.0以上8.0未満の難燃剤粒子(B)、および、軟化点が50〜130℃である熱可塑性接着剤(C)を含有する組成物(D)からなる皮膜を有する難燃性金属被覆布帛。
【請求項2】
前記皮膜がダイレクトコーティングまたはラミネートにより形成されてなる請求項1記載の難燃性金属被覆布帛。
【請求項3】
前記難燃剤粒子(A)が、メラミンシアヌレート、リン酸メラミン、メラミン縮合物およびホウ酸亜鉛からなる群から選ばれる少なくとも1種である請求項1または2記載の難燃性金属被覆布帛。
【請求項4】
前記難燃剤粒子(B)が、ハロゲン系化合物、アンチモン系化合物およびモリブデン酸系化合物からなる群から選ばれる少なくとも1種である請求項1または2記載の難燃性金属被覆布帛。
【請求項5】
前記組成物(D)が、難燃剤粒子(A)3〜20重量%、難燃剤粒子(B)45〜70重量%および熱可塑性接着剤(C)10〜40重量%を含有する請求項1、2、3または4記載の難燃性金属被覆布帛。
【請求項6】
金属被覆布帛の少なくとも片面に、ダイレクトコーティング法またはラミネート法により、比重1.0以上3.0未満の難燃剤粒子(A)、比重3.0以上8.0未満の難燃剤粒子(B)、および、軟化点が50〜130℃である熱可塑性接着剤(C)を含有する組成物(D)の層を形成する工程を含む難燃性金属被覆布帛の製造方法。
【請求項7】
合成樹脂発泡体からなる芯材と、該芯材を回捲する請求項1、2、3、4または5記載の難燃性金属被覆布帛とを有する電磁波シールド用ガスケット。

【公開番号】特開2010−100949(P2010−100949A)
【公開日】平成22年5月6日(2010.5.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−271013(P2008−271013)
【出願日】平成20年10月21日(2008.10.21)
【出願人】(000107907)セーレン株式会社 (462)
【出願人】(592092032)大京化学株式会社 (19)
【Fターム(参考)】