説明

難燃性高密度織物生地およびその製造方法

【課題】良好な制電性と優れた防塵性能、発塵防止性能を有するとともに、軽く、運動特性・着用感も良好で着用者に疲労を与えない点で優れた防塵衣料を構成することを可能にする難燃性高密度織物生地とその製造方法を提供すること。
【解決手段】中空率が20%〜65%の中空合成繊維マルチフィラメント糸と導電性フィラメントとが少なくとも交織されてなり、カバーファクターが2800〜3200の範囲である高密度織物生地であって、該高密度織物生地の裏面にカレンダー加工が施されて通気量が0.3〜1.0cm3 /cm2 /秒であり、かつ生地全体に浸漬処理による難燃剤付与がされてなることを特徴とする難燃性高密度織物生地。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、難燃性高密度織物生地およびその製造方法に関する。
【0002】
更に詳しくは、特に、高度な発塵防止効果が要請される半導体製造工場のクリーンルーム内等で作業者が着用して作業をする防塵衣料用の生地として最適な難燃性高密度織物生地とその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0003】
従来、クリーンルーム内などで作業者が着用する防塵衣服には、優れた防塵性能と制電性能を有することが要求される。
【0004】
たとえば、導通性および制電性に優れた防塵衣として、経糸(たて糸)および/または緯糸(よこ糸)として、合成繊維フィラメント糸条からなる芯に導電性複合繊維糸をカバリングした導電糸条を用いた織物を用いて縫製した防塵衣についての提案がされ、具体的には、 上記のカバリングとして、所謂ダブルカバリング糸を使用することや、導電性複合繊維糸としてカーボンを含有した複合繊維糸を用いること、さらに、縫製の縫糸としてもカーボンを含有した導電性複合繊維糸を使用することなどが提案されている(特許文献1)。
【0005】
しかし、この提案の防塵衣は、制電性の点では優れているものの、防塵性の点では、縫い目の存在などによると考えられるが、発塵(当該生地自体から塵を生ずる特性)防止性と防塵(当該生地が身体側内部の塵を、通過させないという特性)の点でいまだ改善の余地があるものであった。
【0006】
また、編織物により構成される基底層と、該基底層上に接着され、無空タイプの高吸収性ポリウレタン樹脂製フィルムからなる中間層と、該中間層上に接着されて経糸または緯糸方向に所定の間隔で導電糸が配列されるポリエステル高密度織物により構成される外皮層とを有する3層構造である半導体クリーンルーム用防塵生地と該生地を用いた防塵服が提案されている(特許文献2)。
【0007】
しかし、この提案になる防塵生地は、生地全体に特殊な樹脂フィルム層を有するものであり、着心地・着用感が良くないものであった。
【特許文献1】特開平11−350296号公報
【特許文献2】特開平11−189944号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の目的は、良好な制電性と優れた防塵性能、発塵防止性能を有するとともに、軽く、運動特性・着用感も良好で着用者に疲労を与えない点で優れた防塵衣料を構成することを可能にする難燃性高密度織物生地とその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上述した目的を達成する本発明の難燃性高密度織物生地は、以下の(1)の構成からなるものである。
(1)中空率が20%〜65%の中空合成繊維マルチフィラメント糸と導電性フィラメントとが少なくとも交織されてなり、カバーファクターが2800〜3200の範囲である高密度織物生地であって、該高密度織物生地の裏面にカレンダー加工が施されて通気量が0.3〜1.0cm3 /cm2 /秒であり、かつ生地全体に浸漬処理による難燃剤付与がされてなることを特徴とする難燃性高密度織物生地。
【0010】
また、かかる本発明の難燃性高密度織物生地において、具体的に、より好ましくは以下の(2)〜(7)のいずれかの難燃性高密度織物生地である。
(2)LOI値が32〜37である難燃特性を示すものであることを特徴とする上記(1)記載の難燃性高密度織物生地。
(3)前記導電性フィラメントが、該フィラメント中8〜25%重量%のカーボンを含有してなるものであることを特徴とする(1)または(2)記載の難燃性高密度織物生地。
(4)前記導電性フィラメントが、織物中において、経糸および緯糸のそれぞれにおいて少なくともその一部として用いられて格子状を呈して存在してなることを特徴とする上記(1)〜(3)のいずれかに記載の難燃性高密度織物生地。
(5)織物中において、緯糸に非中空の合成繊維マルチフィラメント糸が使用されてなることを特徴とする上記(1)〜(4)のいずれかに記載の難燃性高密度織物生地。
(6)織物の緯糸が、経糸よりも細い糸繊度のものであり、下記(a)式の関係を満足し、かつ、緯糸織密度が経糸織密度よりも大きいことを特徴とする上記(1)〜(5)のいずれかに記載の難燃性高密度織物生地。
1.2×Dw≦Df≦3.0×Dw ……(a)
【0011】
ここで、Dwは緯糸の太さ(デシテックス)、 Dfは経糸の太さ(デシテックス)である。
(7)織物の緯糸が、非中空の合成繊維マルチフィラメント糸を使用し、かつ、緯糸織密度が経糸織密度よりも大きいことを特徴とする上記(1)〜(6)記載の難燃性高密度織物生地。
(8)防塵衣料用生地であることを特徴とする上記(1)〜(7)のいずれかに記載の難燃性高密度織物生地。
【0012】
また、上述した目的を達成する本発明の難燃性高密度織物生地の製造方法は、以下の(9)の構成からなるものである。
(9)少なくとも経糸に中空率が20%〜65%の中空合成繊維マルチフィラメント糸を用い、かつ少なくとも導電性フィラメントを経糸および/または緯糸に用いて、カバーファクターが2800〜3200の高密度織物を製織し、得られた高密度織物の裏面にカレンダー加工を施し、さらに難燃剤の浸漬処理を施すことを特徴とする難燃性高密度織物生地の製造方法。
(10)難燃剤の浸漬付与処理が、該難燃剤を含有させた染色浴中にて染色と同時に行う処理であることを特徴とする上記(9)記載の難燃性高密度織物生地の製造方法。
(11)難燃性高密度織物生地が防塵衣料用生地であることを特徴とする上記(9)または(10)記載の難燃性高密度織物生地の製造方法。
【発明の効果】
【0013】
請求項1にかかる本発明によれば、良好な制電性と優れた防塵性能、発塵防止性能を有し、かつ、軽く、運動特性・着用感も良好で、着用者に疲労を与えない点で優れた防塵衣料を構成することを可能にする難燃性高密度織物生地が提供される。
【0014】
請求項9にかかる本発明によれば、良好な制電性と優れた発塵防止性能を有し、かつ、軽く、運動特性・着用感も良好で、着用者に疲労を与えない点で優れた防塵衣料を構成することを可能にする難燃性高密度織物生地を製造する方法が提供される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、更に詳しく本発明の難燃性高密度織物生地について、説明する。
【0016】
本発明の難燃性高密度織物生地は、中空率が20%〜65%の中空合成繊維マルチフィラメント糸と導電性フィラメントとが少なくとも交織されてなり、カバーファクターが2800〜3200の範囲である高密度織物生地である。そして、さらに、該高密度織物生地の裏面にカレンダー加工が施されて通気量が0.3〜1.0cm3 /cm2 /秒であり、かつ生地全体に難燃剤浸漬による難燃加工が施されてなることを特徴とする。
【0017】
本発明の難燃性高密度織物生地においては、織物生地の過半を中空率が20%〜65%の中空合成繊維マルチフィラメント糸を用いて構成することが重要である。このような中空率の中空合成繊維マルチフィラメント糸を用いることにより、防塵衣料全体の重量を、通常の非中空繊維を使用したものよりも20〜30%程度は軽くでき、日夜、緻密で高度な作業をする作業者に与える身体的疲労・負担を軽減化でき、生産性の向上に寄与するものである。合成繊維は、ポリエステル繊維、ポリアミド繊維などの各種のものを使用できるが、丈夫さの点等からポリエステル繊維を使用するのが好ましい。マルチフィラメント糸を使用するのは、発塵防止性能の点からであり、短繊維を使用すると自ら発生する繊維屑もあるので好ましくない。
【0018】
中空合成繊維の中空率は、20%〜65%の範囲であることが軽量さと丈夫さのバランスの点で重要であり、一般的には、30%〜55%の範囲であることがより好ましい。
【0019】
特に、より高度な軽量化をねらうのであれば、経糸および緯糸の双方に中空合成繊維マルチフィラメント糸を用いて、導電性フィラメントと交織することが好ましく、特に、防塵衣服が半導体等の電子機器の製造工場内や精密機器の製造工場内、あるいは食品製造工場内などで着用される作業衣服である場合には、軽量であることに基づく快適性や自由運動性、安全性の点で、経糸および緯糸の双方に用いることが望ましい。
【0020】
もし、作業内容などから、防塵衣服として、その生地強度(引裂き強度等)がより高いことが有効である作業衣服の場合には、経糸には中空合成マルチフィラメント糸を用いて、かつ少なくとも緯糸の一部には非中空の合成繊維マルチフィラメント糸を適宜に用いることが望ましい。
【0021】
導電性フィラメントは、良好な制電性を実現する上で、該導電性フィラメント中8〜25重量%のカーボンブラックあるいは白色カーボンなどのカーボンが添加されているものを用いることが好ましい。より好ましくは、導電性フィラメント中に15重量%〜20重量%のカーボンブラックあるいは白色カーボンを添加したものを用いるのがよく、特に、該カーボンブラックあるいは白色カーボンがフィラメント繊維の横断面上で、該断面表面にカーボンが露出した状態で存在しているものがよく、総繊度(マルチフィラメント糸としての繊度)は17デシテックス〜28デシテックスで、フィラメント数が3〜5本のマルチフィラメント糸の状態のものがよい。
【0022】
上述のような導電性フィラメントは、ポリエステル成分80重量%に対してカーボンブラックまたは白色カーボンが20重量%の比率で含有されている導電性フィラメント繊維などを使用することが好ましく、例えば、そのような導電性繊維としては、商品名「クラカーボ(株式会社クラレ、登録商標)」、「クラカーボ(株式会社クラレ、登録商標)II」、「セルメック(株式会社クラレ、登録商標)」、「ベルトロン(カネボウ合繊株式会社、登録商標)」として市販されているものなどが該当する。導電性フィラメントは、織物生地全重量に対してカーボン成分の重量比として、1重量%〜4重量%の範囲内の使用比率で用いられるのがよい。
【0023】
該導電性フィラメントは、高密度織物中において、3mm〜15mm程度の一定間隔をおいて、ストライプ(シマ柄)状に存在しているようなものでもよいが、高密度織物の経糸および緯糸として用いられて、上述と同様の経および緯の一定間隔(3mm〜15mm程度)で格子状を呈して存在するようにすることがより良好な制電性付与効果を得る上で好ましい。すなわち、格子状とする場合においても、経方向、緯方向のそれぞれとも3mm〜15mm程度として用いるのが好ましく、より好ましくは、5mm〜10mm程度の一定間隔をおいて、導電性フィラメントが存在するように製織するのがよい。
【0024】
本発明にかかる高密度織物生地は、その高密度のレベルとして、カバーファクター値が2600〜3200の範囲内であることが重要であり、該カバーファクター値が2800未満であると高密度化の効果が乏しくなり、3200よりも大きい場合には、生産性の点で難しかったり、相応の効果として得られなくなり好ましくないものである。
【0025】
特に、織物の緯糸が、経糸よりも細い糸繊度のものであって、前記(a)式(1.3×Dw≦Df≦3.0×Dw。ここで、Dwは緯糸の太さ(デシテックス)、 Dfは経糸の太さ(デシテックス)である)の関係を満足し、かつ、緯糸織密度が経糸織密度よりも大きいものであることが、高密度織物による効果を十分に発揮させる点で好ましい。
【0026】
そして、さらに該高密度織物生地は、裏面がカレンダー加工されていることが重要であり、該カレンダー加工は、織り目つぶし加工とも言うべきものであり、該カレンダー加工により通気量が0.3〜1.0cm3 /cm2 /秒の範囲内になるように調節されているものである。通常の場合は、そのようなカレンダー加工を施さない単なる高密度織物の場合、通気量は、本発明者等の知見によれば、1.2〜1.8cm3 /cm2 /秒程度のレベルである。
【0027】
該カレンダー加工は、発塵防止性と防塵性能の両者の向上効果をもたらすものであり、生地裏面に対して施すことが重要であり、表の面には必要であれば施してもよいが、通常は、裏面に施すことにより上述の通気特性(通気量)を得ることが技術主旨である。カレンダー加工を行うには、、特に限定されるものではないが、鏡面ローラに織物生地を圧接させつつ通過させることなどにより行うことができる。
【0028】
本発明の高密度織物生地は、さらに該生地全体に難燃剤の浸漬による難燃加工が施されてなるものであり、該難燃加工のレベルは、難燃性を表すパラメータであるLOI値で32〜37を示すレベルであることが好ましい。難燃特性の付与は、高密度織物を製織した後、前述のカレンダー加工の前あるいは後に、該生地全体に難燃剤の処理液を浸漬(浸透)させることで行うことがよい。処理方法は、難燃剤処理液の浴漕中に高密度織物を通過させるティップ処理が最も好ましいが、それと同様の効果を得るレベルでのスプレー処理・撒布処理であってもよい。特に、本発明者らの各種知見によれば、染色染料と難燃剤を一緒に染色釜に入れて染色浴中に該高密度織物を浸漬させて処理(浴中処理)をするようにすることが工程的に有利であり好ましい。
【0029】
難燃剤は、状来から知られているものなどを適宜に使用することができ、特に限定されるものではないが、例えば、ホウ酸ナトリウム重合体、ケイ酸ナトリウム重合体、燐酸グアニジン誘導体、含硫黄窒素化合物、りン酸エステルアミド、あるいは芳香族縮合リン酸エステル化合物等によるものなどを使用することができる。 特に、LOI値で32〜37を示すレベルのものにするには、上述した難燃剤を用いて、かつ、付与量を、一般的には、1〜4g/m2 とすることにより所望の難燃性能を得ることができる。
【0030】
本発明の難燃性高密度織物は、以上に述べたように、少なくとも経糸に中空率が20%〜65%の中空合成繊維マルチフィラメント糸を用い、かつ少なくとも導電性フィラメントを経糸および/または緯糸に用いて、カバーファクターが2800〜3200の高密度織物を製織し、得られた高密度織物の裏面にカレンダー加工と、生地全体に対して難燃剤の浸漬処理を施すことにより製造することができる。
【0031】
なお、以上の説明において、中空合成繊維の中空率(%)、織物生地のカバーファクター、カーボンの含有量(重量%)の各値は、それぞれ下記する方法で測定して得られる値である。
(1)中空合成繊維の中空率(%):
中空合成繊維の中空率H(%)は、合成繊維1本の全体の断面積(中空部分の断面積も含む)Wの中において、中空部分の断面積Mの占める比率で表す。すなわち、次の式で表されるものである。
中空合成繊維の中空率H(%)=(M/W)×100
【0032】
本発明では、断面積は単位をmm2 として小数点以下第1位まで求め、算出するものである。n数は4としてその平均値を中空率H(%)とした。
(2)織物生地のカバーファクター:
織物生地のカバーファクターは、次の式で表されるものである。
C=(Nw√Dw)+(Nf√Df)
C:カバーファクター
Nw:経糸本数(本/インチ)
Dw:経糸の太さ(デシテックス)
Nf:緯糸本数(本/インチ)
Df:緯糸の太さ(デシテックス)
【0033】
本発明では、上記式を用いて、n数3回で算出してその平均値を求め、その際、小数点以下第1位を切り上げる。また、Nw(経糸本数)とNf(緯糸本数)については、1インチ当たりの本数を小数点以下第1位を切り上げて求めたものであり、その際、1インチは25.4mmとした。また、Dw(経糸の太さ)とDf(緯糸の太さ)については、糸重量を測定してデシテックス繊度を求める。さらに、繊度の計算上、中空繊維の場合には、中空率(%)を掛けて求めたものであり、小数点以下第2位を四捨五入して算出した。
(3)通気量:
通気量の測定は、JIS−L 1096 A法(フラジール形法による。試料は異なる5ケ所から試験片約20cm×20cmを採集し、フラジール形試験機を用い、円筒の一端に試験片を取り付けた後、加減抵抗器によって傾斜型気圧計が125Pa(1.27cmH2 O)の圧力を示すように吸込みファンを調整し、そのときの垂直形気圧計の示す圧力と、使用した空気孔の種類とから、試験機に附属の表によって試験片を通過する空気量(cm3 /cm2 /秒)を求める。測定は5回とし、その平均値を算出し、小数点以下1桁に丸める。
(4)LOI値:
LOI値の測定は、JIS−L1091 E法(限界酸素指数法)によるものである。
【0034】
試験片は、直径0.8mm〜0.9mmmの針金などを芯にしてこより状に密に巻き上げ、その長さを90mmにした後、針金を抜き取る。この試験片を10枚用意する。
【0035】
次に、この試験片は、その上端部が燃焼円筒の上端部から100mmの距離に位置するよう垂直に試験片支持具に取り付ける。
【0036】
次に、試験片の推定酸素濃度を選択し、あらかじめその濃度に、該当する酸素流量および窒素流量を選んで装置を設定する。酸素および窒素流量調節バルブを開き、燃焼円筒内に30sec間ガスを放出した後、試験片の上部に点火する。この場合、試験片の上部全体が着火し、炎上に燃えることを確認した後、点火器の炎を取り去り、直ちに燃焼時間と同時に燃焼長さの測定を開始する。
【0037】
次のa)またはb)の操作を繰り返し、試験片の燃焼時間が3分以上継続して燃焼するか、または着火後の燃焼長さが少なくとも50mm以上燃え続けるのに必要な最低の酸素流量とそのときの窒素流量を決定する。ただし、燃焼中はそれらの流量を変えない。
【0038】
a)試験片の燃焼時間が3分を越える場合、または燃焼長さが50mmを越える場合は、いずれも酸素濃度が高すぎるので徐々に下げる。
【0039】
b)着火後すぐに消えるか、燃焼時間3分未満または燃焼長さが50mm未満で消える場合は、いずれも酸素濃度が低すぎるので徐々に上げる。
【0040】
次の式によって限界酸素指数(LOI値)を求める。試験回数は3回とし、その平均値を求め、小数点以下1桁に丸める。
LOI値=O2/O2−N2×100
O2:得られた酸素の流量(L/分)
N2:O2に対応した窒素の流量(L/分)
【0041】
(5)カーボンの含有量(重量%):
カーボンは、試料約5gの絶乾質量を求め、電気戸中で強熱を避けて灰化し、これを少量の水で200mlのヒーターに移す。ヒーターを加熱して水分を除いた後、濃硫酸(比重1.84)15mlと硫酸アンモニウム約10gを加えて時計皿で覆い、砂浴上で初めは徐々に、終わりは強く、液が透明になるまで加熱する。放冷後、液温が50℃以上にならないように注意しながら水を加えて全量を約100mlとし、これを1リットルの全量フラスコに移し、水で標線まで希釈する。この中からAmlをピペットで50mlの全量フラスコに移し、過酸化水素水(3%)5ml、および1mol/リットル硫酸10mlを加えて発色させた後、水で標線まで希釈する。この液をセルに移し、光電比色計で波長420nmにおける吸光度を測定し、これからあらかじめ作成した検量線によって、カ−ボン濃度(g/50ml)を求め、次式に従ってカーボン重量%を算出し、2回の平均値を小数点以下第2位に丸めて求めるものである。
T={(B×1000)/(C×A)}×100
T:カーボン重量%
A:採取した希釈液(ml)
B:カーボン重量(g/50ml)
C:試料の絶乾質量(g)
【0042】
(6)発塵量:
発塵量の測定方法は、JIS B 9923 タンブリング法に準ずるものであり、以下の方法による。
【0043】
すなわち、測定する試料を110cm×110cmの大きさに裁断し、これを2枚作り、これを純粋水と洗剤で2回繰り返して洗濯・乾燥後、3回目は純粋水のみで洗濯・クリーン乾燥する。
【0044】
次に、試料をタンブリング式発塵試験機の回転しているドラム内に投入し、ドラム内の羽根によって掻き揚げる動作と、重力によって落下する動作を与え、試料とドラム内面あるいは試料自身の摩擦によって発塵させる。
【0045】
このときの発生する発塵粒子0.5μmをパーティクルカウンターで測定する。試験場所はクリーンルームClass1内で実施する。
(7)通塵捕集効率:
通塵捕集効率は、IEST−RP−CC003.3 APPENDIX 粒子の透過効率試験に準じて行ったものである。
【0046】
すなわち、測定する試料を60cm×60cmの大きさに裁断して1枚作り、これを純粋水と洗剤で2回繰り返し洗濯・乾燥後、3回目は純粋水のみで洗濯・クリーン乾燥する。
【0047】
次に、試料を透過装置にホースバンドで固定し、クリーンエアーを吸引して塵が0になるのを確認する。塵発生装置の出口に、試料を取り付けないで透過装置を設置し、試料測定前の塵数を測定する。次に、透過装置に試料を取り付けて、透過後塵数を測定する。さらに、透過装置から試料を取り外して、試料測定後の塵数を測定する。
【0048】
よって、下式で通塵捕集効率を算出する。
【0049】
通塵捕集効率(%)={(透過前塵数ー透過後塵数)/透過前塵数}×100
透過前塵数:試料測定前と測定後の、1分間ずつ15回連続の各測定値から、それぞれ最大値と最小値を2つずつカットし、残り11分間の各測定値の平均をとった。
【0050】
透過後塵数:1分間ずつ15回連続測定し、最大値と最小値を2つずつカットした残り11分間の測定値である。
【0051】
なお、測定条件は次の通り。
面風速(濾過風速):0.091cm/sec
測定試料面積 :491cm2 (25cmφ)
サンプリング吸引量:2.83L/min(0.1ft3 /min)
測定粒径 :0.1μm
測定面(上流側) :粒子の当てる面
【実施例】
【0052】
実施例1
実施例1では、経糸にポリエステルフィラメント糸、84dtex(T)−24F(フィラメント)−セミダルの中空率40%、ラグビーボール状断面形状糸を用い、緯糸にポリエステルフィラメント加工糸56dtex(T)−24F−セミダルの丸断面形状糸を用い、さらに、経糸、緯糸にカーボン含有率20%の導電性ポリエステルフィラメント糸28dtex−4F−丸断面形状糸と、ポリエステルフィラメント加工糸56dtex(T)−24F−セミダル断面形状糸と、S方向に200t/mのヨリ数で引合わせた糸を5mmピッチに格子状に配置した綾織物組織で、下表の通りの密度で、織機にウォタージエットルーム(回転数:450rpm)を用いて試作した。
【0053】
それぞれの試作織物を精錬−中間セット−液流染色(同時浴中難燃剤付与加工)(リン酸エステルアミド濃度15%owf、130℃×90分)−仕上げセット−170℃×30tで布帛片面に乾熱カレンダー加工を行った。
【0054】
さらに、カバーファクターをチエックしたところ、カバーファクターが2600以下の水準1の場合は、通気量が1.2cm3 /cm2 /秒以上となり、発塵量も大きく防塵衣用途には不適であった。また、カバーファクターが3200以上の水準5の場合は、通気量が0.2cm2 /cm2 /秒となり、かつ、発塵量は少なくなるが、風合いが硬くなり、通気量が小さいので、着用中に蒸れるという不快感が発生する。
【0055】
以上の結果から、水準2〜水準4のカバーファクターは2800〜3200の範囲にあリ防塵衣用途に適している。また、通気量はカバーファクターと関連しており、カバーファクター2800〜3200の範囲がよい。
【0056】
【表1】

【0057】
実施例2
本実施例は、上記実施例1の水準3の経糸:ポリエステルフィラメント糸の84dtex(T)−24F−セミダル、ラグビーボール状の状断面形態の中空率を70%、65%、40%、20%、15%、0%の6水準を用いて織物を試作した。緯糸および格子状糸は実施例1と同じものを用いた。また、染色加工・カレンダー加工も、実施例1と同様に、染色浴中難燃加工・カレンダー加工を施した。
【0058】
その結果を表2に示す。その結果、水準6の中空率0%、水準7の中空率15%は本発明の20%〜65%に比し、重くて軽量感に欠け、クリーンルームでの作業者に疲労負担が多くなり、防塵衣用途としては不向きである。一方、水準11の中空率70%以上となると、引き裂き強力が小さくなり、着用耐久性が劣り不適である。
【0059】
以上のことから、中空率は水準8〜水準10の範囲である20%〜65%が防塵衣用途に適している。
【0060】
【表2】

【0061】
実施例3
本発明と比較実施例は、上記の実施例1の水準3の試作織物の、カレンダー加工をしたものと、該水準3の同一織物規格の生地でカレンダー加工しなかったもの(未カレンダー加工品)と比較した。なお、カレンダー条件は次の通りであり、またいずれも染色浴中難燃加工は施しているものである。
【0062】
装置:加地鉄工所
布帛速度:20m/min
ロール温度:170℃
ロール圧力:30t
その結果は、表3に示す。本結果から、カレンダー加工なしの水準13は、布帛の通気量、発塵量、通塵捕集効率、厚さが大きくなり、防塵衣用途としては不向きである。一方、カレンダー加工した水準12の場合は、布帛の通気量、発塵量、通塵捕集効率、厚さも防塵衣性能クラス1レベルのものが得られた。
【0063】
【表3】

【0064】
実施例4
本発明と比較実施例は、上記の実施例1の水準3の試作織物の染色工程で浴中難燃剤吸尽加工したものと、該水準3の生地で染色工程での浴中難燃剤吸尽加工をしていないもの(染色加工だけ)を作った。なお、カレンダー加工は170℃×30tで実施した。
【0065】
なお、難燃加工条件は次の通りとした。
装置:平野金属製ヒートセッター
布帛速度:25m/min
難燃剤:リン酸エステルアミド 濃度15%owf
浴比:1:20
温度×時間:130℃×90分
【0066】
その結果を表4に示す。この結果から、本発明の難燃加工した水準14を、JIS−L1091E法(臨界酸素指数法)で評価した結果、LOI値は32であった。一方、難燃加工しない水準15のLOI値は28であった。
【0067】
また、難燃加工をした水準14は、発塵量、通気量とも極めて優れているものであった。
【0068】
【表4】

【0069】
実施例5
緯糸の種類と織物密度の条件を種々変更し、本発明と比較実施例の結果を表5に示した。なお、布帛の作り方は実施例1と同じである。
【0070】
【表5】

【0071】
以上の結果から、よこ糸の太さによる防塵衣用途から判定すると、1.3×Dw≦Df≦3.0×Dwの範囲のたてとよこの太さ組み合わせの本発明の水準17、水準18、水準19は通気量、発塵量、通塵捕集効率、引裂き強力、風合いも良好であり、防塵衣用途に適している。
1.3×Dw≦Df≦3.0×Dwの範囲から外れた比較の水準16は、通気量、發塵量が大きく、かつ、風合いが硬く、ごわごわしたもので、防塵衣用途には不適であった。さらに、比較の水準20は、比較水準16の逆で風合いが極薄でぺらぺらなものとなり、かつ、引き裂き強力が小さく防塵衣用途には不向きであった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
中空率が20%〜65%の中空合成繊維マルチフィラメント糸と導電性フィラメントとが少なくとも交織されてなり、カバーファクターが2800〜3200の範囲である高密度織物生地であって、該高密度織物生地の裏面にカレンダー加工が施されて通気量が0.3〜1.0cm3 /cm2 /秒であり、かつ生地全体に浸漬処理による難燃剤付与がされてなることを特徴とする難燃性高密度織物生地。
【請求項2】
LOI値が32〜37である難燃特性を示すものであることを特徴とする請求項1記載の難燃性高密度織物生地。
【請求項3】
前記導電性フィラメントが、該フィラメント中8〜25%重量%のカーボンを含有してなるものであることを特徴とする請求項1または2記載の難燃性高密度織物生地。
【請求項4】
前記導電性フィラメントが、織物中において、経糸および緯糸のそれぞれにおいて少なくともその一部として用いられて格子状を呈して存在してなることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の難燃性高密度織物生地。
【請求項5】
織物中において、緯糸に非中空の合成繊維マルチフィラメント糸が使用されてなることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の難燃性高密度織物生地。
【請求項6】
織物の緯糸が、経糸よりも細い糸繊度のものであり、下記(a)式の関係を満足し、かつ、緯糸織密度が経糸織密度よりも大きいことを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載の難燃性高密度織物生地。
1.3×Dw≦Df≦3.0×Dw ……(a)
ここで、Dw:緯糸の太さ(デシテックス)、 Df:経糸の太さ(デシテックス)
【請求項7】
織物の緯糸が、非中空の合成繊維マルチフィラメント糸を使用し、かつ、緯糸織密度が経糸織密度よりも大きいことを特徴とする請求項1〜6のいずれかに記載の難燃性高密度織物生地。
【請求項8】
防塵衣料用生地であることを特徴とする請求項1〜7のいずれかに記載の難燃性高密度織物生地。
【請求項9】
少なくとも経糸に中空率が20%〜65%の中空合成繊維マルチフィラメント糸を用い、かつ少なくとも導電性フィラメントを経糸および/または緯糸に用いて、カバーファクターが2800〜3200の高密度織物を製織し、得られた高密度織物の裏面にカレンダー加工を施し、さらに難燃剤の浸漬付与処理を施すことを特徴とする難燃性高密度織物生地の製造方法。
【請求項10】
難燃剤の浸漬付与処理が、該難燃剤を含有させた染色浴中にて染色と同時に行う処理であることを特徴とする請求項9記載の難燃性高密度織物生地の製造方法。
【請求項11】
難燃性高密度織物生地が防塵衣料用生地であることを特徴とする請求項9または10記載の難燃性高密度織物生地の製造方法。

【公開番号】特開2008−231626(P2008−231626A)
【公開日】平成20年10月2日(2008.10.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−74853(P2007−74853)
【出願日】平成19年3月22日(2007.3.22)
【出願人】(390009988)ケイテー・ニット株式会社 (2)
【Fターム(参考)】