説明

難燃熱可塑性樹脂組成物

【課題】
難燃性に優れ、かつ耐熱性と耐衝撃性が均衡して優れたハロゲン系化合物を含有しない熱可塑性樹脂組成物を提供する。
【解決手段】
ゴム質重合体(a)20〜80重量部の存在下に、芳香族ビニル系単量体(b)40〜90重量%、シアン化ビニル系単量体(c)10〜60重量%およびその他の共重合可能なビニル系単量体(d)0〜50重量%からなる単量体混合物80〜20重量部をグラフト共重合して得られたグラフト率が10〜100重量%のグラフト共重合体(A)10〜60重量%と、芳香族ビニル系単量体(b)40〜90重量%、シアン化ビニル系単量体(c)10〜60重量%およびその他の共重合可能なビニル系単量体(d)0〜50重量%からなる単量体混合物を共重合して得られたビニル系共重合体(B)40〜90重量%からなるスチレン系ゴム強化樹脂100重量部((A)+(B))に対して、9,10−ジヒドロ−9−オキサ−10−ホスファフェナントレン−10−オキサイドおよびジフェニルホスフィンオキシドからなる群から選ばれた少なくとも1種のエポキシ基と反応し得る活性水素を有する有機リン系化合物と、少なくとも2官能のエポキシ基を持つ非ハロゲン系エポキシ樹脂との反応生成物である含リンエポキシ系難燃剤(C)1〜40重量部および該含リンエポキシ系難燃剤(C)以外のリン系難燃剤(D)を配合してなる難燃熱可塑性樹脂組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、難燃性に優れ、かつ耐熱性と成形加工性が均衡して優れたハロゲン系化合物を含有しない熱可塑性樹脂組成物に関するものである。
【背景技術】
【0002】
プラスチックスは、優れた機械的性質、成形加工性および電気絶縁性によって、家庭電気機器、OA機器および自動車などの各部品を始めとする広範な分野で使用されている。しかしながら、プラスチックスの大半は易燃性であり、安全性の問題で難燃化に対し種々の技術が案出されてきた。
【0003】
一般的には、難燃化効率の高い塩素系難燃剤および臭素系難燃剤と酸化アンチモンを樹脂に配合して難燃化する方法が採用されている。しかしながら、この方法は、燃焼時の火種の落下(ドリップ)防止のために難燃剤を多く含有するので、樹脂組成物の機械的性質や耐熱性が悪化する欠点があり、さらに成形時や燃焼時にハロゲン化合物の分解により有毒ガスが発生する問題を有していた。
【0004】
近年の環境問題に関連し、塩素系難燃剤および臭素系難燃剤を含有しない難燃性樹脂が求められ、樹脂にリン化合物を添加する方法が提案されているが、難燃性は十分とはいえなかった(特許文献1、2参照。)。
【0005】
これに対して、熱可塑性樹脂、リン含有フェノール樹脂、リン酸エステルおよびフッ素樹脂からなる熱可塑性樹脂組成物が提案されている(特許文献3参照。)。また別に、リン酸エステルオリゴマーや含リンエポキシ系難燃剤を熱可塑性樹脂の難燃剤として使用することが提案されている(特許文献4、5参照。)。しかしながら、これらのリン酸エステルやリン酸エステルオリゴマーは、耐加水分解性や熱安定性が比較的低く、熱可塑性樹脂との混練りや成形時に、分解したり揮発したりするため、作業環境や製造設備を汚染したり、成形品の表面にブリードアウトすることなどが問題となっている。
【特許文献1】特開昭59−24736号公報
【特許文献2】特開昭63−117057号公報
【特許文献3】特開平9−296120号公報
【特許文献4】特開平5−70671号公報
【特許文献5】特開2000−143942号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、難燃性に優れ、かつ耐熱性と成形加工性と耐衝撃性が均衡して優れたハロゲン系化合物を含有しない熱可塑性樹脂組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意検討した結果、ゴム質重合体含有グラフト共重合体と芳香族ビニル系共重合体からなる樹脂に、特定のリン含有エポキシ樹脂およびその他の非ハロゲン系難燃剤を配合することにより、難燃性と耐熱性に優れた難燃性熱可塑性樹脂を得ることを見出し、本発明に到達した。
【0008】
すなわち、本発明の難燃性熱可塑性樹脂は、ゴム質重合体(a)20〜80重量部の存在下に、芳香族ビニル系単量体(b)40〜90重量%、シアン化ビニル系単量体(c)10〜60重量%およびその他の共重合可能なビニル系単量体(d)0〜50重量%からなる単量体混合物80〜20重量部をグラフト共重合して得られたグラフト率が10〜100重量%のグラフト共重合体(A)10〜60重量%と、芳香族ビニル系単量体(b)40〜90重量%、シアン化ビニル系単量体(c)10〜60重量%およびその他の共重合可能なビニル系単量体(d)0〜50重量%からなる単量体混合物を共重合して得られたビニル系共重合体(B)40〜90重量%からなるスチレン系ゴム強化樹脂100重量部((A)+(B))に対して、9,10−ジヒドロ−9−オキサ−10−ホスファフェナントレン−10−オキサイドおよびジフェニルホスフィンオキシドからなる群から選ばれた少なくとも1種のエポキシ基と反応し得る活性水素を有する有機リン系化合物と、少なくとも2官能のエポキシ基を持つ非ハロゲン系エポキシ樹脂との反応生成物である含リンエポキシ系難燃剤(C)1〜40重量部および該含リンエポキシ系難燃剤(C)以外のリン系難燃剤(D)を配合してなることを特徴とする難燃熱可塑性樹脂組成物である。
【0009】
本発明の難燃熱可塑性樹脂組成物の好ましい態様によれば、前記のスチレン系ゴム強化樹脂100重量部に対する前記のリン系難燃剤(D)の配合量は1〜20重量部である。
【0010】
本発明の難燃熱可塑性樹脂組成物の好ましい態様によれば、前記の含リンエポキシ系難燃剤(C)と前記のリン系難燃剤(D)の重量配合比は、含リンエポキシ系難燃剤(C)/リン系難燃剤(D)≦0.5である。
【0011】
本発明の難燃熱可塑性樹脂組成物の好ましい態様によれば、前記のリン系難燃剤(D)は、非ハロゲン系難燃剤である。
【0012】
本発明の難燃熱可塑性樹脂組成物の好ましい態様によれば、前記のリン系難燃剤(D)は、縮合リン酸エステル系難燃剤である。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、難燃性に優れ、かつ耐熱性と成形加工性が均衡して優れたハロゲン系化合物を含有しない難燃熱可塑性樹脂組成物が得られ、ハロゲン系化合物を含有しないので、成形時や燃焼時にハロゲン化合物の分解有毒ガスを発生しない。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、本発明の難燃熱可塑性樹脂組成物について具体的に説明する。
【0015】
本発明の難燃熱可塑性樹脂組成物は、ゴム質重合体(a)20〜80重量部の存在下に、芳香族ビニル系単量体(b)40〜90重量%、シアン化ビニル系単量体(c)10〜60重量%およびその他の共重合可能なビニル系単量体(d)0〜80(50)重量%からなる単量体混合物80〜20重量部をグラフト共重合して得られたグラフト率が10〜100重量%のグラフト共重合体(A)10〜60重量%と、芳香族ビニル系単量体(b)40〜90重量%、シアン化ビニル系単量体(c)10〜60重量%およびその他の共重合可能なビニル系単量体(d)0〜50重量%からなる単量体混合物を共重合して得られたビニル系共重合体(B)40〜90重量%からなるスチレン系ゴム強化樹脂100重量部((A)+(B))に対して、9,10−ジヒドロ−9−オキサ−10−ホスファフェナントレン−10−オキサイドおよびジフェニルホスフィンオキシドからなる群から選ばれた少なくとも1種のエポキシ基と反応し得る活性水素を有する有機燐系化合物と、少なくとも2官能のエポキシ基を持つ非ハロゲン系エポキシ樹脂との反応生成物であるリンエポキシ系難燃剤(C)1〜40重量部および該含リンエポキシ系難燃剤(C)以外のリン系難燃剤(D)を配合してなることを特徴とする難燃熱可塑性樹脂組成物である。
【0016】
本発明の難燃熱可塑性樹脂組成物において、前記のグラフト共重合体(A)は、好ましくはゴム質重合体(a)30〜70重量部に、芳香族ビニル系単量体(b)60〜80重量%、シアン化ビニル系単量体(c)20〜40重量%およびその他の共重合可能なビニル系単量体(d)0〜20重量%からなる単量体混合物を70〜30重量部グラフト共重合して得られたものである。
【0017】
本発明において、グラフト共重合体(A)に用いられるゴム質重合体(a)としては、ジエン系ゴム、アクリル系ゴムおよびエチレン系ゴム等が挙げられる。それらの具体例としては、ポリブタジエン、ポリ(ブタジエン−スチレン)、ポリ(ブタジエン−アクリロニトリル)、ポリイソプレン、ポリ(ブタジエン−アクリル酸ブチル)、ポリ(ブタジエン−メタクリル酸メチル)、ポリ(アクリル酸ブチル−メタクリル酸メチル)、ポリ(ブタジエン−アクリル酸エチル)、エチレン−プロピレンラバー、エチレン−プロピレン−ジエンラバー、ポリ(エチレン−イソプレン)、およびポリ(エチレン−アクリル酸メチル)等が挙げられる。
【0018】
これらのゴム質重合体(a)は、1種または2種以上の混合物で使用される。これらのゴム質重合体(a)の中でも、耐衝撃性の点で、ポリブタジエン、ポリ(ブタジエン−スチレン)、ポリ(ブタジエン−アクリロニトリル)およびエチレン−プロピレンラバーが好ましく用いられる。
【0019】
本発明で用いられる芳香族ビニル系単量体(b)の具体例としては、スチレン、α−メチルスチレン、オルソメチルスチレン、パラメチルスチレン、パラ−t−ブチルスチレンおよびハロゲン化スチレン等が挙げられ、これらの中から1種または2種以上を用いることができる。中でも、スチレンとα−メチルスチレンが好ましく、特に好ましくはスチレンである。
【0020】
本発明で用いられるシアン化ビニル系単量体(c)の具体例としては、アクリロニトリルおよびメタアクリロニトリル等が挙げられ、これらは1種または2種以上を用いることができる。中でも、耐衝撃性の点でアクリロニトリルが好ましく用いられる。
【0021】
本発明で用いられる上記の共重合可能なその他のビニル系単量体(d)の具体例としては、メタクリル酸メチル等の不飽和カルボン酸エステル系単量体、N−メチルマレイミド、N−シクロヘキシルマレイミド、N−フェニルマレイミド等のマレイミド化合物、マレイン酸等の不飽和ジカルボン酸、無水マレイン酸等の不飽和ジカルボン酸無水物およびアクリルアミド等の不飽和アミドなどが挙げられる。これらは単独ないし2種以上の混合物で用いることができる。
【0022】
本発明の難燃熱可塑性樹脂組成物において、ビニル系共重合体(B)は、芳香族ビニル系単量体(b)40〜90重量%、シアン化ビニル系単量体(c)10〜60重量%およびその他の共重合可能なビニル系単量体(d)0〜50重量%からなる単量体混合物を共重合して得られたビニル系共重合体である。
【0023】
本発明において、ビニル系共重合体(B)は、好ましくは芳香族ビニル系単量体(b)50〜80重量%、シアン化ビニル系単量体(c)10〜40重量%およびその他の共重合可能なビニル系単量体(d)0〜40重量%からなる単量体混合物を共重合して得られたビニル系共重合体である。
【0024】
本発明において、ビニル系共重合体(B)は、さらに好ましくは芳香族ビニル系単量体(b)60〜80重量%、シアン化ビニル系単量体(c)20〜40重量%およびその他の共重合可能なビニル系単量体(d)0〜20重量%からなる単量体混合物を共重合して得られたビニル系共重合体である。
【0025】
本発明で用いられる芳香族ビニル系単量体(b)の具体例としては、スチレン、α−メチルスチレン、オルソメチルスチレン、パラメチルスチレン、パラ−t−ブチルスチレンおよびハロゲン化スチレン等が挙げられ、これらの中から1種または2種以上を用いることができる。中でも、スチレンとα−メチルスチレンが好ましく、特に好ましくはスチレンである。
【0026】
本発明で用いられるシアン化ビニル系単量体(c)の具体例としては、アクリロニトリルおよびメタアクリロニトリル等が挙げられ、これらは1種または2種以上を用いることができる。中でも、耐衝撃性の点でアクリロニトリルが好ましく用いられる。
【0027】
本発明で用いられる上記の共重合可能なその他のビニル系単量体(d)の具体例としては、メタクリル酸メチル等の不飽和カルボン酸エステル系単量体、N−メチルマレイミド、N−シクロヘキシルマレイミド、N−フェニルマレイミド等のマレイミド化合物、マレイン酸等の不飽和ジカルボン酸、無水マレイン酸等の不飽和ジカルボン酸無水物およびアクリルアミド等の不飽和アミドなどが挙げられる。これらは単独ないし2種以上の混合物で用いることができる。
【0028】
本発明で用いられるグラフト共重合体(A)とビニル系共重合体(B)の製造方法には特に制限はなく、塊状重合、溶液重合、懸濁重合および乳化重合等のいずれの方法であってもよい。また、単量体の仕込方法としては、初期一括仕込み、単量体の一部または全てを連続仕込み、あるいは単量体の一部または全てを分割仕込みのいずれの方法を用いてもよい。
【0029】
本発明で用いられるスチレン系ゴム強化樹脂を構成するグラフト重合体(A)とビニル系共重合体(B)の割合は、グラフト重合体(A)が10〜60重量%であり、ビニル系共重合体(B)が90〜40重量%である。好ましくはグラフト共重合体(A)が10〜40重量%であり、ビニル系共重合体(B)が90〜60重量%である。
【0030】
本発明で用いられる含リンエポキシ系難燃剤(C)は、9,10−ジヒドロ−9−オキサ−10−ホスファフェナントレン−10−オキサイド(e)およびジフェニルホスフィンオキシド(f)からなる群から選ばれた少なくとも1種のエポキシ基と反応し得る活性水素を有する有機リン系化合物と、少なくとも2官能のエポキシ基を持つ非ハロゲン系エポキシ樹脂との反応生成物のリン系難燃剤である。
【0031】
本発明で用いられるエポキシ基と反応し得る活性水素を有する有機燐系化合物としては、例えば、HC A 、D P P O 、H C A とベンゾキノンとの反応生成物9 , 1 0 − ジヒドロ− 9 − オキサ− 1 0 − ホスファフェナントレン− 1 0 − オキサイドハイドロキノン、H C A と1 , 4 −ナフトキノンとの反応生成物9 , 1 0 − ジヒドロ− 9 − オキサ− 1 0 − ホスファフェナントレン− 1 0 − オキサイドハイドロナフトールキノン、D P P O とベンゾキノンとの反応生成物ジフェニルホスフィンオキシドハイドロキノン、D P P O とナフトキノンとの反応生成物ジフェニルホスフィンオキシドナフトールキノン、フェニルホスホン酸、メチルホスホン酸、エチルホスホン酸、およびブチルホスホン酸など挙げることができる。ほかに、ジメチルホスフィン酸、ジエチルホスフィン酸およびジフェニルホスフィン酸等のホスフィン酸類や、ジメチルホスホン酸、ジエチルホスホン酸およびジフェニルホスホン酸等のホスホン酸類を用いることができる。または、上記の活性水素を有する有機燐系化合物を併用することもできる。
【0032】
本発明で用いられる少なくとも2官能のエポキシ基を持つ非ハロゲン系エポキシ樹脂としては、ハイドロキノン型エポキシ樹脂、ビスフェノールA 型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、ビスフェノールS型エポキシ樹脂、ビフェニル型エポキシ樹脂等の2官能型エポキシ樹脂、フェノールノボラック型エポキシ樹脂、クレゾールノボラック型エポキシ樹脂、ビスフェノールA ノボラック型エポキシ樹脂、ハイドロナフトールノボラック型エポキシ樹脂等の多官能ノボラック型エポキシ樹脂、アミノフェノール型エポキシ樹脂、イソシアヌ酸型エポキシ樹脂、およびジアミノジフェニルメタン型エポキシ樹脂等の多官能アミノ型エポキシ樹脂など挙げることができる。中でも、フェノールノボラック型エポキシ樹脂が好適である。
【0033】
この非ハロゲン系エポキシ樹脂の平均重合度は、0〜10程度が望ましく、より好ましい平均重合度は0〜8の平均重合度はである。非ハロゲン系エポキシ樹脂は、非ハロゲン系エポキシ樹脂を単独または併用して使用することができる。
【0034】
この含リンエポキシ系難燃剤(C)は、スチレン系ゴム強化樹脂100重量部に対し、1〜40重量部配合される。好ましくは、スチレン系ゴム強化樹脂100重量部に対し、1〜20重量部配合される。
【0035】
上述のとおり、本発明で用いられる含リンエポキシ系難燃剤(C)は、特定のエポキシ基と反応し得る活性水素を有する有機リン系化合物と、少なくとも2官能のエポキシ基を持つ非ハロゲン系エポキシ樹脂との反応生成物であり、この含リンエポキシ系難燃剤(C)は、ハロゲン系化合物を含有しないリン系難燃剤である。このような含リンエポキシ系難燃剤(C)の市販品としては、商品名FRX−4070(東都化成社製)が挙げられる。
【0036】
この含リンエポキシ系難燃剤の構成としては、リン含有ハイドロキノン類やジホスホン酸類を用いて、非ハロゲン系エポキシ樹脂の分子量を調整し、さらに、末端のエポキシ基をモノホスフィン酸やモノホスホン酸で反応させることによりリン原子を導入する。非ハロゲン系エポキシ樹脂のエポキシ当量に対し、有機リン化合物の活性水素が1当量のものと反応させるとき、反応比は1/0.3〜1/1(当量比)の比率が好ましく、さらに好ましい比率は1/0.4〜1/0.9である。エポキシ当量に対し、活性水素当量の反応比が0.3未満では、リン含有量が低く、難燃付与効果が小さい。また、反応比が1を超えると、活性水素を持つ有機リン化合物が残存し、熱安定性が低下する可能性がある。また、非ハロゲン系エポキシ樹脂の分子量を調整するとき、エポキシ当量に対し、有機リン化合物の活性水素が2当量のものを用いて反応させる。この場合、非ハロゲン系エポキシ樹脂のエポキシ当量に対し、有機リン化合物の活性水素当量との反応比は1/0.01〜1/0.5(当量比)程度でよい、エポキシ当量に対し、活性水素当量との反応比が0.5を超える場合、残存のエポキシ基が少なくなり、モノホスフィン酸やモノホスホン酸の反応比が減少し、リン含有量が低く難燃付与性が落ちてしまう可能性がある。
【0037】
本発明で用いられる新規含燐エポキシ系難燃剤の製造方法としては、例えば、次のような方法がある。少なくとも2 官能のエポキシ基を持つ非ハロゲンエポキシ樹脂とHCAやDPPOのような1官能の活性水素を有する燐化合物とを80〜230℃の範囲で加熱反応させる方法、あるいは、アルカリ金属やアルカリ土類金属のような金属類を含有する触媒を除く、3級アミン、イミタゾール、4級アモニウム塩のような窒素系触媒、またはホスフィン、ホスホニウム塩のような燐系触媒などの塩基性触媒の存在下、加熱反応させる方法などがある。また、難燃剤の分子量を調整する場合、エポキシ樹脂とビスフェノール類や2官能の活性水素を有する燐化合物とを上記触媒の存在下、加熱反応させてから、さらに1官能の活性水素を有する燐化合物とエポキシ基とを反応させる方法がある。得られた燐含有難燃剤の平均重合度は0〜10程度が良く、平均重合度はより好ましくは0〜8である。
【0038】
本発明で用いられるリン系難燃剤(D)は、前記の含リンエポキシ系難燃剤(C)以外のリン系難燃剤である。このようなリン系難燃剤(D)としては、例えば、トリメチルホスフェート、トリエチルホスフェート、トリブチルホスフェート、トリオクチルホスフェート、トリブトキシエチルホスフェート、トリフェニルホスフェート、トリクレジルホスフェート、オクチルジフェニルホスフェート等の非ハロゲンリン酸エステル類、および下記の一般式1
【0039】
【化1】

【0040】
(式中、Xはアリーレン基を表し、R1、R2、R3、R4は置換または非置換のフェニル基を表す。)で示される縮合リン酸エステル類等が挙げられる。中でも、上記一般式1に示される縮合リン酸エステル類(縮合リン酸エステル系難燃剤)が好適である。
【0041】
このようなリン系難燃剤(D)の市販品としては、商品名PX200やCR733S(いずれも大八化学化学工業社製)やPFR、FP−600、FP−700(株式会社ADEKA社製)等が挙げられる。
【0042】
このリン系難燃剤(D)の配合量は、スチレン系ゴム強化樹脂100重量部に対し好ましくは1〜20重量部であり、より好ましくは5〜10重量部である。
【0043】
本発明において、含リンエポキシ系難燃剤(C)とリン系難燃剤(D)の重量配合比は、好ましくは含リンエポキシ系難燃剤(C)/リン系難燃剤(D)≧1.5であり、より好ましくは、10≧含リンエポキシ系難燃剤(C)/リン系難燃剤(D)≧2.0である。含リンエポキシ系難燃剤(C)よりリン系難燃剤(D)の割合が多くなると、耐熱性の低下が大きくなる傾向がある。
【0044】
次に、本発明の難燃熱可塑性樹脂組成物の製造方法について説明する。難燃熱可塑性樹脂組成物は、スチレン系ゴム強化樹脂、含リンエポキシ系難燃剤(C)および該含リンエポキシ系難燃剤(C)以外のリン系難燃剤(D)を、V型ブレンダー、スーパーミキサー、スーパーフローターおよびヘンシェルミキサーなどの混合機を用いて予備混合した組成物であってもよいが、通常、前記予備混合物を均一に溶融混合した混合物である場合が多い。このような混合物は、前記予備混合物に混練手段を用い、例えば、好ましくは200〜280℃、より好ましくは220〜260℃程度の温度で溶融混練し、ペレット化することにより得ることができる。混練手段としては、種々の溶融混合機、例えば、ニーダー、一軸および二軸押出し機などが使用することができるが、二軸押出し機などを用いて樹脂組成物を溶融して押出し、ペレタイザによりペレット化する場合が多い。
【0045】
本発明の難燃熱可塑性樹脂組成物には、本発明の効果を損なわない範囲内で、ポリ塩化ビニル、ポリエチレンやポリプロピレン等のポリオレフィン、ナイロン6やナイロン66等のポリアミド、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレートおよびポリシクロヘキサンジメチルテレフタレート等のポリエステル、ポリカーボネートおよび各種エラストマー類等を加えて、成形用樹脂としての性能を改良することもできる。
【0046】
また、本発明の難燃熱可塑性樹脂組成物には、目的とする難燃性と耐熱性を阻害しない限りにおいて、ヒンダードフェノール系、含硫黄化合物系および含リン有機化合物系などの酸化防止剤、フェノール系やアクリレート系などの熱安定剤、ベンゾトリアゾール系、ベンソフェノン系およびサクシレート系などの紫外線吸収剤、有機ニッケル系やヒンダードアミン系などの光安定剤などの各種安定剤、高級脂肪酸の金属塩類、高級脂肪酸アミド類などの滑剤、フタル酸エステル類やリン酸エステル類などの可塑剤、アルキルカルボン酸やアルキルスルホン酸の金属塩、カーボンブラック、顔料および染料などを添加することもでき、また、各種強化剤や充填材を配合することもできる。
【0047】
上記によって得られた本発明の難燃熱可塑性樹脂組成物は、射出成形、押出成形、ブロー成形、真空成形、圧縮成形およびガスアシスト成形などの現在熱可塑性樹脂の成形に用いられる公知の方法によって成形することができ、成形方法自体は特に制限されるものではない。
【0048】
本発明の難燃熱可塑性樹脂組成物を成形して得られる成形品は、OA機器や家電機器などのハウジングおよびそれらの部品類、各種一般雑貨やシート等に適している。例えば、薄型TV、液晶プロジェクター、複写機、プリンター、ノートブックパソコン、携帯電話、照明器具、リフレクターのハウジングおよびそれら機構部品等の使用に適している。
【実施例】
【0049】
本発明をさらに具体的に説明するために、以下、実施例を挙げて説明する。参考例および実施例(比較例)中で用いた特性および物性の測定方法を、以下に示す。
【0050】
(1)グラフト共重合体(A)のグラフト率:
グラフト共重合体(A)の所定量(m)に、アセトンを加え3時間還流し溶液を得た。この溶液を、8000rpm(10,000G)で30分間遠心分離後、不溶分を濾過した。この不溶分を70℃の温度で5時間減圧乾燥し、乾燥重量(n)を測定した。次の式でグラフト率を算出した。
【0051】
・グラフト率=[(n)−(m)×L]/[(m)×L]×100。
【0052】
ここでLは、グラフト共重合体中のゴム含有率を意味する。
【0053】
(2)ビニル系共重合体(B)の極限粘度:
ビニル系重合体(B)の極限粘度は、ウベローデ粘度計を使用し、測定温度30℃で、試料濃度0.4g/dlのメチルエチルケトン溶媒を用いて測定した。
【0054】
(3)エポキシ当量:
JIS K−7236(2001)に準じて測定した。
【0055】
(4)軟化点:
JIS K−7234(1986)に準じて測定した。
【0056】
(5)燐含有量:
試料に、硫酸、硝酸および過塩素酸を加えて加熱分解し、すべての燐を正燐酸とする。硫酸酸性溶液中で、メタバナジン酸塩およびモリブデン酸塩を反応させ、リンバナードモリブデン酸錯体を生じさせる。リンバナードモリブテン酸錯体溶液を波長460nmにおける吸光度を測定し、検量線によって燐含有量を求めた。
【0057】
(6)シャルピー衝撃強さ:
ISO 179(2000)(温度23℃、湿度50RH%)に準じて測定した。
【0058】
(7)MFR(メルトフローレート値):
ISO 1133(2005)(220℃、98N荷重)に準じて測定した。
【0059】
(8)荷重たわみ温度:
ISO 75(2004)(1.8MPa荷重)に準じて測定した。
【0060】
(9)燃焼性:
UL94規格に従い、垂直型燃焼テストを1/8″×1/2″×5″の燃焼試験片で行った。試験方法は次のとおりである。
【0061】
[試験方法]:
燃焼試験片を垂直に保持し、燃焼試験片の下端中央に長さ20mmの青色炎を10秒間接炎後,炎を離して燃焼時間を測定する。一回目の炎が消火して再び10秒間接炎する。判定は次のとおりである。
【0062】
[V−2]:
1回目と2回目の接炎後30秒以上燃えず、2回目の接炎後のグロー消火時間は60秒以内である。30cm下方に置かれたガーゼは着火してもよい。更に、5本の燃焼試験片の有炎燃焼時間の合計が、250秒以内である。
【0063】
[V−2NG]:
1回目と2回目の接炎後30秒より燃焼もしくは、2回目の接炎後のグロー消火時間は60秒以上である。また、5本の燃焼試験片の有炎燃焼時間の合計が、250秒より大きくなる場合もNG(No Good)となる。
【0064】
(参考例1)グラフト共重合体(A)A1の製造方法
窒素置換した反応器に、純水120部、ブドウ糖0.5部、ピロリン酸ナトリウム0.5部、硫酸第一鉄0.005部およびポリブタジエンラテックス(ゴム粒子径0.3μm、ゲル含有率85%)60部(固形分換算)を仕込み、撹拌しながら反応器内の温度を65℃に昇温した。内温が65℃に達した時点を重合開始として、モノマ(スチレン30部、アクリロニトリル10部)およびt−ドデシルメルカプタン0.3部からなる混合物を5時間かけて連続滴下した。同時に並行してクメンハイドロパーオキサイド0.25部、オレイン酸カリウム2.5部および純水25部からなる水溶液を7時間かけて連続滴下し、反応を完結させた。得られたスチレン系共重合体ラテックスを硫酸で凝固し、苛性ソ−ダで中和後、洗浄、濾過、乾燥してグラフト共重合体(A)A1を得た。このグラフト共重合体(A)のグラフト率は35%であり、樹脂成分のηsp/cは、0.35dl/gであった。
【0065】
(参考例2)ビニル系共重合体(B−1)の製造方法
スチレン70重量%とアクリロニトリル30重量%からなる単量体混合物を塊状重合して、ペレット状のビニル系共重合体を得た。このビニル系共重合体(B−1)のηsp/cは0.53dl/gであった。
【0066】
(参考例3)ビニル系共重合体(B−2)の製造方法
スチレン70重量%とアクリロニトリル30重量%からなる単量体混合物を塊状重合して、ペレット状のビニル系共重合体を得た。このビニル系共重合体(B−2)のηsp/cは、0.43dl/gであった。
【0067】
(参考例4)含リンエポキシ系難燃剤
東都化成株式会社製FRX−4070を使用した(軟化点:130℃、リン含有量:7.5%、エポキシ当量:4700g/eq)。
【0068】
(参考例5)リン系難燃剤(I)
大八化学化学工業株式会社製 PX200を使用した(リン含有量:9.0%)。
【0069】
(参考例6)リン系難燃剤(II)
大八化学工業株式会社製 CR733Sを使用した(リン含有量:10.5%)。
【0070】
(実施例1〜5)
参考例1〜6で得られたグラフト共重合体(A)A1、ビニル系共重合体(B―1)B1と(B−2)B2、含リンエポキシ難燃剤、リン系難燃剤(I)と(II)を、それぞれ表1に記載の割合で、ヘンシェルミキサーを使用して配合した後、40mmφ単軸押出機を使用し、バレル温度230℃で押出を行いペレット状の熱可塑性樹脂組成物を製造した。得られた結果を表1に示す。
【0071】
(比較例1〜4)
参考例1〜6で得られたグラフト共重合体(A)A1、ビニル系共重合体(B―1)B1と(B−2)B2、含リンエポキシ難燃剤、リン系難燃剤(I)と(II)を、それぞれ表1に記載の割合で、ヘンシェルミキサーを使用して配合した後、40mmφ単軸押出機を使用し、バレル温度230℃で押出を行いペレット状の熱可塑性樹脂組成物を製造した。得られた結果を表1に示す。
【0072】
【表1】

【0073】
実施例1〜5の本発明で得られた難燃熱可塑性樹脂組成物を成形した熱可塑性樹脂組成物成形体は、耐熱性、難燃性および耐衝撃性の物性バランスに優れたものであった。しかしながら、比較例1で得られた難燃熱可塑性樹脂組成物からの成形体は、含リンエポキシ系難燃剤(C)のみのため、難燃性に劣るものであった。また、比較例2は、含リンエポキシ難燃剤(C)を使用していないため、耐熱性に劣る結果であった。比較例3は、ゴム質重合体(A)の配合量が多すぎるため難燃性が劣るものであった。また比較例4は、難燃剤添加量が多いため、耐衝撃性が劣る結果になった。
【産業上の利用可能性】
【0074】
本発明の難燃熱可塑性樹脂組成物は、難燃性および耐熱性に優れているため、種々の用途に幅広く利用することができ有用である。本発明の難燃熱可塑性樹脂組成物を成形して得られる成形品は、OA機器や家電機器などのハウジングおよびそれらの部品類、各種一般雑貨やシート等に適している。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ゴム質重合体(a)20〜80重量部の存在下に、芳香族ビニル系単量体(b)40〜90重量%、シアン化ビニル系単量体(c)10〜60重量%およびその他の共重合可能なビニル系単量体(d)0〜50重量%からなる単量体混合物80〜20重量部をグラフト共重合して得られたグラフト率が10〜100重量%のグラフト共重合体(A)10〜60重量%と、芳香族ビニル系単量体(b)40〜90重量%、シアン化ビニル系単量体(c)10〜60重量%およびその他の共重合可能なビニル系単量体(d)0〜50重量%からなる単量体混合物を共重合して得られたビニル系共重合体(B)40〜90重量%からなるスチレン系ゴム強化樹脂100重量部((A)+(B))に対して、9,10−ジヒドロ−9−オキサ−10−ホスファフェナントレン−10−オキサイドおよびジフェニルホスフィンオキシドからなる群から選ばれた少なくとも1種のエポキシ基と反応し得る活性水素を有する有機リン系化合物と、少なくとも2官能のエポキシ基を持つ非ハロゲン系エポキシ樹脂との反応生成物である含リンエポキシ系難燃剤(C)1〜40重量部および該含リンエポキシ系難燃剤(C)以外のリン系難燃剤(D)を配合してなることを特徴とする難燃熱可塑性樹脂組成物。
【請求項2】
スチレン系ゴム強化樹脂100重量部に対するリン系難燃剤(D)の配合量が、1〜20重量部である請求項1記載の難燃熱可塑性樹脂組成物。
【請求項3】
含リンエポキシ系難燃剤(C)とリン系難燃剤(D)の重量配合比が、
含リンエポキシ系難燃剤(C)/リン系難燃剤(D)≧1.5
である請求項1または2記載の難燃熱可塑性樹脂組成物。
【請求項4】
リン系難燃剤(D)が、縮合リン酸エステル系難燃剤である請求項1〜3のいずれかにに記載の難燃熱可塑性樹脂組成物。

【公開番号】特開2009−67996(P2009−67996A)
【公開日】平成21年4月2日(2009.4.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−204274(P2008−204274)
【出願日】平成20年8月7日(2008.8.7)
【出願人】(000003159)東レ株式会社 (7,677)
【Fターム(参考)】