説明

難燃繊維複合体およびそれを用いて製造した布帛

本発明は、ハロゲン原子を17重量%以上含む重合体100重量部に対して、Sb化合物を0.5〜50重量部含有させた繊維(A)20〜85重量%、耐熱繊維(B)5〜80重量%、セルロース系繊維(C)0〜40重量%、可燃性繊維(D)0〜40重量%の割合で複合してなる難燃繊維複合体に関する。 上記複合体を家屋内の家具や寝具等に使用することにより素材の難燃性を一段と向上させ、より高度な難燃性が要求される分野への使用を可能とすることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
本発明は、従来の難燃繊維複合体では解決が困難であった課題、すなわち寝具製品の難燃性を一段と向上させ、さらに加工性、かさ高性を向上し、更には加工性や風合い、触感が良好で、意匠性のある家具、寝具用の安価で高度な難燃繊維複合体およびそれを用いて製造した布帛に関する。
【背景技術】
火災の防止には、家屋内の家具や寝具等に使用される素材への難燃性付与が好ましい。 家具や寝具では使用時の快適さのために、綿やウレタンフォームなどの易燃性素材が用いられるため、防炎には、その易燃性素材への着炎を長時間に渉り防止することが重要である。また、その防炎素材は家具や寝具の快適さや意匠性を損なわないものでなければならない。過去様々な難燃繊維や防災薬剤が検討されてきたが、この高度な難燃性と家具、寝具用素材の要件を充分に兼ね備えたものは未だ現れていない。
例えば、綿布に防災薬剤を塗布する、いわゆる後加工防災という手法があるが、防災薬剤の付着の均一化、付着による布の硬化、洗濯による脱離、安全性などの問題があった。また、ハロゲンを共重合させた高分子による繊維からなる布帛は、意匠性に優れており、難燃性であることが知られているが、強制燃焼させた場合には燃焼を継続するために構造を維持することができないため、前述の寝具や家具に用いられる木綿やウレタンフォームへの着炎を防ぐ耐火性能は不充分であった。 また、耐熱繊維からの布は、難燃性は優れているが、他の難燃化されていない天然繊維や化学繊維の燃焼を防ぐ力に乏しく、それらを複合した素材では難燃性が不充分であるため、必然的に耐熱性繊維のみで作られた、極めて高価なものとなる問題がある。また、耐熱性繊維には、開繊時の加工性の問題や、吸湿性や触感の悪さ、そして染色性の悪さから意匠性の高い色柄を得るのが難しいという問題もある。
これらの家具、寝具用素材の欠点を改良し、一般的な特性として要求される優れた風合、吸湿性、触感を有し、かつ、安定した難燃性を有する素材として、特開昭61−89339号には、難燃剤を大量に添加した高度に難燃化した含ハロゲン繊維と、難燃化していない他の繊維とを組み合わせた難燃繊維複合体が、提案されている。また、特開平8−218259号には、耐熱性繊維を少量混ぜることで、作業服用途に使用可能な、ハロゲンSb含有繊維と木綿などとの混合により、風合いや吸湿性に優れ、高度な難燃性を有する高度難燃繊維複合体が得られることが記載されているが、家具や寝具製品に用いられるウレタンへの着火を防止するために不織布として用いる際に、不織布の製造において加工が困難であること、キルティング加工した際のかさ高さが不十分であること、難燃剤を多量に添加している繊維を一定量以上含んでいるため、光沢感や発色性に乏しく意匠性に問題があり、火源が離れたときの自己消火性は持っているが、激しい炎に長時間晒されたときに前述の寝具や家具に用いられる木綿やウレタンフォームへの着炎を防ぐ耐火性能は不充分であることなど、難燃繊維複合体として問題があった。
【発明の開示】
本発明は、従来の難燃繊維複合体では解決が困難であった課題、すなわち寝具製品の難燃性を一段と向上させ、さらに加工性、かさ高性を向上し、更には加工性や風合い、触感が良好で、意匠性のある家具、寝具用の安価で高度な難燃繊維複合体を得るためになされたものである。
本発明者らは、前記問題を解決するため鋭意検討を重ねた結果、他の可燃性繊維の燃焼を防ぐ力の乏しい耐熱繊維に対し、塩素含有重合体よりなる繊維と、他のセルロース系繊維を含む可燃性繊維を混合して繊維複合体にすると、意匠性、風合い、触感に優れ、長時間の炎にも耐え得る難燃性を兼ね備えた難燃繊維複合体が得られることを見出した。また、耐熱繊維単独で使用するときの問題であった、加工性や価格の問題も改善できることを見出し、本発明を完成するに至った。
すなわち、本発明はハロゲン原子を17重量%以上含む重合体100重量部に対して、Sb化合物を0.5〜50重量部含有させた繊維(A)20〜85重量%、耐熱繊維(B)5〜80重量%、セルロース系繊維(C)0〜40重量%、化学性繊維などの可燃性繊維(D)0〜40重量%との合計が100重量%になるように複合してなる難燃繊維複合体に関する。また、前記繊維(A)におけるハロゲン原子を含む重合体が、アクリロニトリル30〜70重量%、ハロゲン含有ビニル系単量体70〜30重量%およびこれらと共重合可能なビニル系単量体0〜10重量%よりなる共重合体であり、前記耐熱繊維(B)が珪酸含有セルロース系繊維、アラミド繊維、メラミン繊維より選ばれる繊維であり、前記セルロース系繊維(C)が難燃加工を施していない木綿、麻、アセテート系繊維、レーヨン系繊維より選ばれる繊維、前記化学繊維などの可燃性繊維(D)がポリエステル繊維、ナイロン繊維のうち少なくとも1種の繊維であることを特徴とする難燃繊維複合体に関する。
上記記載の複合体において風合いや吸湿性の点から、ハロゲン原子を17重量%以上含む重合体100重量部に対してSb化合物6〜50重量部を含有させた繊維(A)85〜20重量%と、前記耐熱繊維(B)である珪酸含有セルロース系繊維15〜80重量%、前記化学繊維などの可燃性繊維(D)が1種以上の化学繊維0〜40重量%とからなり、各繊維の含有量が(A)≧(D)または(B)≧(D)となるように複合してなる難燃繊維複合体または、ハロゲン原子を17重量%以上含む重合体100重量部に対して、Sb化合物を6〜50重量部含有させた繊維(A)80〜20重量%、耐熱繊維(B)5〜40重量%、セルロース系繊維(C)5〜40重量%、前記化学繊維などの可燃性繊維(D)がポリエステル繊維5〜40重量%の割合で複合してなる難燃繊維複合体が好ましく、また風合いや意匠性の点から、前記繊維(A)である塩素原子を25重量%以上含む重合体100重量部に対して、Sbを0.5〜5.5重量部含有させた繊維30〜70重量%、耐熱繊維(B)10〜50重量%、セルロース系繊維(C)5〜40重量%、および化学繊維など可燃性繊維(D)0〜30重量%からなり、繊維(A)〜(D)の含有量が(1)(A)≧(D)、(2)(A)+(D)が50〜90重量%、および(3)(C)+(D)が30〜60重量%、を満たす難燃繊維複合体が好ましい。
さらに、本発明は前記難燃繊維複合体を用いて製造した布帛および不織布に関する。
本発明の難燃繊維複合体においては、前記繊維(A)としてはハロゲン原子を17%以上含む重合体に対して、Sb化合物0.5〜50重量部を含有させた繊維、また、その一例である塩素を25重量%以上含む重合体に対して、Sb化合物を0.5〜5.5重量部含有させた繊維が使用される。
前記ハロゲンを17%以上含む重合体における好ましいハロゲン含量の下限としては20%、さらには26%、上限としては86%、さらには73%、とくには48%である。前記ハロゲン含有量が17%未満の場合、繊維を難燃化することが困難になり、好ましくない。前記塩素を25重量%以上含む重合体における好ましい塩素含量の下限としては26%、上限としては73重量%、特には48〜58重量%である。前記塩素含有量が25重量%未満の場合、可燃性繊維との繊維複合体を難燃化することが困難になり、好ましくない。
前記のごときハロゲン原子を17%以上含む重合体としては、例えばハロゲンを含有する単量体の重合体、前記ハロゲンを含有する単量体とハロゲンを含有しない単量体との共重合体、ハロゲンを含有する重合体とハロゲンを含有しない重合体とを混合したもの、またはハロゲンを含有しない単量体もしくは重合体を重合中〜重合後に、ハロゲンを導入したハロゲン含有重合体などがあげられるが、これらに限定されるものではない。
このようなハロゲン原子を17%以上含む重合体の具体例としては、例えば塩化ビニル、塩化ビニリデン、臭化ビニル、臭化ビニリデンなどのハロゲン含有ビニル系単量体の単独重合体または2種以上の共重合体;アクリロニトリル−塩化ビニル、アクリロニトリル−塩化ビニリデン、アクリロニトリル−臭化ビニル、アクリロニトリル−塩化ビニル−塩化ビニリデン、アクリロニトリル−塩化ビニル−臭化ビニル、アクリロニトリル−塩化ビニリデン−臭化ビニルなどのハロゲン含有ビニル系単量体とアクリロニトリルとの共重合体;塩化ビニル、塩化ビニリデン、臭化ビニル、臭化ビニリデンなどのハロゲン含有ビニル単量体の1種以上とアクリロニトリルおよびこれらと共重合可能なビニル系単量体との共重合体;アクリロニトリル単独重合体にハロゲン含有化合物を添加・重合させた重合体;ハロゲン含有ポリエステルなどがあげられるが、これらに限定されるものではない。また、前記単独重合体や共重合体を適宜混合して使用してもよい。
前記共重合可能なビニル系単量体としては、例えばアクリル酸、そのエステル、メタクリル酸、そのエステル、アクリルアミド、メタクリルアミド、酢酸ビニル、ビニルスルホン酸、その塩、メタリルスルホン酸、その塩、スチレンスルホン酸、その塩、2−アクリルアミド−2−メチルスルホン酸、その塩などがあげられ、それらの1種または2種以上が用いられる。
前記ハロゲン原子を17%以上含む重合体が、アクリロニトリル30〜70%、ハロゲン含有ビニル系単量体70〜30%およびそれらと共重合可能なビニル系単量体0〜10%、好ましくはアクリロニトリル40〜60%、ハロゲン含有ビニル系単量体60〜40%およびそれらと共重合可能なビニル系単量体0〜10%からなる重合体の場合には、得られる繊維が所望の性能(強度、難燃性、染色性など)を有しつつアクリル繊維の風合を有するためとくに好ましい。また、共重合可能なビニル系単量体の少なくとも1種がスルホン酸基含有ビニル系単量体の場合には、染色性が向上するため好ましい。
前記ハロゲン含有ビニル系単量体およびアクリロニトリルからの単位を含む共重合体の具体例としては、例えば塩化ビニル50部、アクリロニトリル49部、スチレンスルホン酸ソーダ1部よりなる共重合体、塩化ビニリデン43.5部、アクリロニトリル55部、スチレンスルホン酸ソーダ1.5部よりなる共重合体、塩化ビニリデン41部、アクリロニトリル56部、2−アクリルアミド−2−メチルスルホン酸ソーダ3部などがあげられる。
本発明に用いるSb化合物は難燃剤として用いられるものであり、その具体例としては酸化アンチモン(Sb2O3、Sb2O4、Sb2O5など)、アンチモン酸やその塩類、オキシ塩化アンチモンなどの無機アンチモン化合物があげられるが、これらに限定されるものではない。これらは単独で用いてもよく、2種以上組み合わせて用いてもよい。
また、前記Sb化合物の粒子径としては、2μm以下に揃えたものが、ハロゲン含有重合体にSb化合物を添加してなる繊維製造工程上でのノズル詰りなどのトラブル回避、繊維の強度向上などの点から好ましい。
ハロゲン原子を17%以上含む重合体100重量部に対するSb化合物の割合は6〜50重量部、好ましくは8〜40重量部、さらに好ましくは10〜30重量部である。該量が6重量部未満では難燃繊維複合体として必要な難燃性を得るために、ハロゲン原子を17%以上含む重合体にSb化合物を含有させた繊維(A)(以下、繊維(A)という)の難燃繊維複合体中における混合率を高める必要があるが、難燃繊維複合体の難燃性以外の特徴、例えば風合、吸湿性、触感などの高い性能がえられにくくなる。一方、該量が50重量部をこえると、繊維製造時のノズル詰まりや繊維物性(強度、伸度など)の低下がおこり、高度に難燃化した繊維の製造面や品質面などで問題が生じ、好ましくない。
本発明においては、ハロゲン原子を17%以上含む重合体に対するSb化合物の量が6〜50重量部に維持される限り、他の難燃剤と組み合わせて用いてもよい。前記Sb化合物と組み合わせて用いることができる他の難燃剤としては、例えばヘキサブロモベンゼンなどの芳香族ハロゲン化合物、塩化パラフィンなどの脂肪族ハロゲン化合物、トリス(2,3−ジクロロプロピル)ホスフェートなどの含ハロゲンリン化合物、ポリリン酸アンモニウムなどの無機リン化合物、MgO、Mg(OH)2、MgCO3などの無機マグネシウム化合物、酸化第2スズ、オキシハロゲン化第2スズ、水酸化第1スズ、ZnSnO3、ZnSn(OH)6などの無機スズ系化合物などがあげられる。該他の難燃剤の使用量は、ハロゲンを17%以上含む重合体100重量部に対して1重量部以上、10重量部以下であることが好ましい。また、難燃剤の合計量としては、ハロゲンを17%以上含む重合体に対して50重量部以下、さらには40重量部以下であるのが繊維の製造工程上のトラブルおよび繊維の強度低下などの物性低下回避の点から好ましい。
また、繊維(A)のうち前記塩素を25重量%以上含む重合体に用いられるSb化合物についても特に限定されるものではないが、前述した難燃剤として公知である酸化アンチモン(Sb2O3、Sb2O4、Sb2O5など)、アンチモン酸やその塩類、オキシ塩化アンチモンなどの無機アンチモン化合物、MgO、Mg(OH)2、MgCO3などの無機マグネシウム化合物、酸化第2スズ、オキシハロゲン化第2スズ、水酸化第1スズなどの無機スズ化合物などが難燃性の向上として好ましいが、粒子径として2μm以下に揃えたものを単独あるいは2種以上組み合わせて0.5〜5.5重量部含有させることが、繊維への光沢付与や染色における発色性と難燃性の付与に好ましく、光沢付与や発色性に関しては0.5〜3.5重量部含有させることがさらに好ましい。
前記ハロゲンを17%以上含む重合体に対して、Sb化合物0.5〜50重量部を含有させた繊維(A)は、短繊維でも長繊維でもよいが、本発明に用いられる耐熱繊維(B)や、セルロース系繊維(C)や、化学繊維などの可燃性繊維(D)と、複合させて加工するには複合させる繊維に近似なものが好ましく、繊維製品用途に使用される耐熱繊維や、天然繊維および化学繊維に合わせて、1.7〜3.3dtex、カット長38〜64mm程度の短繊維が好ましい。しかし、不織布等の用途で、嵩や腰のある難燃繊維複合体を得るためには、7.8dtex〜12dtex、カット長51〜102mm程度の短繊維が好ましい。
本発明に用いる耐熱繊維(B)(以下、繊維(B)という)は、難燃繊維複合体中の可燃性成分が燃焼する際に該難燃繊維複合体の形状を維持する骨格となるために使用される成分であり、融点がある場合には融点が350℃以上、融点がない場合には分解温度が300℃以上の耐熱性を有する繊維である。
前記繊維(B)としては、例えば芳香族ポリアミド、メラミン、ポリアミドイミド、ポリベンゾイミダゾールなどからの前記のごとき繊維や、珪酸含有繊維、フェノール系繊維、炭素繊維などがあげられ、これらの繊維(B)は単独で用いてもよく、2種以上併用してもよい。
前記芳香族ポリアミド繊維の具体例としては、例えば分解開始温度が450℃以上であるパラ系芳香族ポリアミド繊維(例えばデュポン(DuPont)社製のケブラー(Kevlar)、帝人(株)製のテクノーラ(Technora)、テイジン・トワロン(株)製のトワロン(Twaron)など)、分解温度が約550℃のメタ系芳香族ポリアミド繊維(例えばデュポン社製のノーメックス(Nomex)、帝人(株)製のコーネックス(Conex)、ユニチカ(株)製のアピエイル(Apyeilなど)があげられる。前記メラミン繊維の具体例としては、分解開始温度が約370℃のメラミン繊維(例えば例えばバソフィルファイバーズ(Basofil Fibers)社のバソフィル(Basofil)など)があげられる。また、前記ポリアミドイミド繊維の具体例としては、分解開始温度が約380℃のポリアミドイミド繊維(例えばローヌ プーラン(Rhone Poulenc)社製のカーメル(Kermel)など)があげられる。さらに、前記ポリベンゾイミダゾール繊維の具体例としては、分解開始温度が約450℃のポリベンゾイミダゾール繊維(例えばセラニーズ(Celanese)社製のPBIなど)があげられる。前記フェノール系繊維の具体例としては、分解開始温度が約370℃のノボロイド繊維(例えばカイノール社のカイノール(Kynol)など)があげられる。前記珪酸含有セルロース系繊維の具体例としては、例えば珪酸を繊維中に約30%含有したサテリ(Sateri)社のヴィジル(Visil)があげられる。本発明に用いる珪酸含有セルロース系繊維は、難燃繊維複合体が難燃性向上、布帛の強度維持のために使用される成分でありに優れた風合や吸湿性などの快適性を与えるとともに、燃焼時に炭化膜を形成するのに効果がある成分であり、珪酸を繊維中に20〜50%含有するセルロース繊維であり、通常、1.7〜8dtex程度の繊度、38〜128mm程度のカット長を有する。
本発明に用いるセルロース系繊維(C)(以下、繊維(C)という)とは本発明の難燃繊維複合体に優れた風合や吸湿性などの快適性を与えるための成分である。さらに、前記ハロゲン原子を含む重合体(A)とともに燃焼させた場合に炭化し、該難燃繊維複合体中に高温でも分解されにくい炭化状物を形成させる成分である。
具体例としては、綿、麻、アセテート繊維、レーヨンなどの繊維があげられ、これらの繊維(C)は単独で用いてもよく、2種以上併用してもよい。
前記化学繊維などの可燃性繊維(D)(以下、繊維(D)という)の具体例としては、プロミックスなどの半合成繊維、ポリエステル繊維、ナイロン繊維、アクリル繊維などの合成繊維などがあげられ、これらの繊維(D)は単独で用いてもよく、2種以上併用してもよい。これらのうちではポリエステル繊維、ナイロン繊維などの溶融する繊維であることが好ましい。ポリエステル繊維、ナイロン繊維は、燃焼時に溶融物が生じ、難燃繊維複合体を覆うことで難燃繊維複合体により形成される炭化膜がより強固なものとなり、激しい炎に長時間晒されても寝具や家具に用いられる綿やウレタンフォームへの着炎を防ぐ耐火性能を付与することができるために好ましい。その理由としては、それらの繊維は燃焼過程で生じる溶融物が難燃繊維複合体中に浸潤し、繊維間の隙間を埋め、構造を強固なものにするためであることが考えられる。なかでもポリエステル繊維は軟化点や溶融点が高く、難燃繊維複合体の耐熱性を向上させることからさらに好ましい。さらに、ポリエステル繊維は、安価であることと、腰が強いのが特徴で、腰が強いために不織布に加工した際の嵩高さが出しやすく、キルティング加工した際の意匠性の点で優れているため、例えばベットマットやベットパッドなどに加工した際の仕上げの美しさ、嵩高さ、風合いなどを付与できるという点でも好ましい。
本発明においては請求項8記載の2〜3成分系の場合、繊維(A)85〜20部と繊維(B)である珪酸含有セルロース系繊維15〜80重量%、繊維(D)0〜40重量%から、本発明の難燃繊維複合体100重量%が製造されるが、それらの混合割合は、得られる難燃繊維複合体から製造される最終製品に要求される難燃性とともに、吸水性、風合、吸湿性、触感、意匠性、製品強力、耐洗濯性、耐久性などの品質に応じて決定される。一般に、繊維(A)85〜20重量%、好ましくは75〜25重量%、珪酸含有セルロース繊維15〜80重量%、好ましくは20〜70重量%、繊維(D)0〜40重量%、好ましくは5〜35重量%の合計が100重量%になるように複合せしめられる。
繊維(A)の量が20重量%未満の場合、得られる難燃繊維複合体の難燃性が不足し、一方、80重量%を超える場合、難燃性には優れるが、繊維(B)である珪酸含有セルロース繊維の割合が少なくなり、激しい炎に長時間晒されたときに寝具や家具に用いられる綿やウレタンフォームへの着炎を防ぐ耐火性能が充分でなくなる。
また、繊維(D)の量が40重量%を超える場合、繊維(A)、繊維(B)の量が少なくなり、充分な難燃性が得られなくなる。
また、繊維(B)である珪酸含有セルロース繊維の量が15重量%未満の場合、激しい炎に長時間晒されたときに寝具や家具に用いられる綿やウレタンフォームへの着炎を防ぐ耐火性能が充分でなくなり、一方、80重量%を超える場合、繊維(A)の割合が少なくなり、充分な難燃性が得られなくなる。
本発明の難燃繊維複合体が優れた難燃性を示す理由は、燃焼時には繊維(A)から発生するハロゲン化Sb化合物の燃焼抑制効果と、繊維(B)である珪酸含有セルロース繊維による複合体の炭化膜形成効果が相乗し、さらに繊維(D)が燃焼時に溶融し難燃繊維複合体を覆うことで難燃繊維複合体により形成される炭化膜がより強固なものとなることで激しい炎に長時間晒されても寝具や家具に用いられる綿やウレタンフォームへの着炎を防ぐ耐火性能が付与され予想以上に優れた難燃性を示すものと考えられる。本来、繊維(B)である珪酸含有セルロース繊維は燃えつきにくい繊維であるが、他の可燃性の繊維を難燃化する力に乏しいために、繊維(B)と繊維(D)のみを複合しても繊維(D)が難燃化されることはない。本発明のように繊維を複合することにより、はじめて顕著な効果が得られる。
本発明においては請求項11記載の4成分系である場合、繊維(A)80〜20重量%と繊維(B)5〜40重量%、繊維(C)5〜40重量%、繊維(D)であるポリエステル繊維5〜40重量%とから、本発明の難燃繊維複合体100重量%が製造されるが、それらの混合割合は、得られる難燃繊維複合体から製造される最終製品に要求される難燃性とともに、吸水性、風合、吸湿性、触感、意匠性、製品強力、耐洗濯性、耐久性などの品質に応じて決定される。繊維(A)80〜20重量%、好ましくは60〜30重量%、繊維(B)5〜40重量%、好ましくは10〜35重量%、繊維(C)5〜40重量%、好ましくは10〜35重量%、および繊維(D)であるポリエステル繊維5〜40重量%、好ましくは10〜35重量%の合計が100重量%になるように複合せしめられる。
繊維(A)の量が20重量%未満の場合、得られる難燃繊維複合体の難燃性が不足し、一方、80重量%を超える場合、難燃性には優れるが、繊維(B)、繊維(C)の割合が少なくなり、激しい炎に長時間晒されたときに寝具や家具に用いられる綿やウレタンフォームへの着炎を防ぐ炭化膜の形成が不充分で耐火性能が充分でなくなる。
また、繊維(D)であるポリエステル繊維の量が5重量%未満の場合、加工性、かさ高性、風合、触感などが不足し、一方、40重量%を超える場合、繊維(A)、繊維(B)、繊維(C)の量が少なくなり、充分な難燃性が得られなくなる。
また、繊維(B)の量が5重量%未満の場合、激しい炎に長時間晒されたときに寝具や家具に用いられる綿やウレタンフォームへの着炎を防ぐ耐火性能が充分でなくなり難燃性向上効果が充分えられず、一方、40重量%を超える場合、耐熱繊維の欠点である加工性や風合いや意匠性に劣る難燃繊維複合体しか得られなくなる。
さらに、繊維(D)であるセルロース系繊維の量が5重量%未満の場合、吸水性、風合い、吸湿性、触感などが不足するとともに、炭化膜形成による難燃性向上効果が充分得られず、一方、40重量%を超える場合、繊維(A)、繊維(B)の量が少なくなり、激しい炎に長時間晒されたときに寝具や家具に用いられる綿やウレタンフォームへの着炎を防ぐ耐火性能が充分でなくなり充分な難燃性が得られなくなる。
本発明の難燃繊維複合体が優れた難燃性を示す理由は、燃焼時には繊維(A)から発生するハロゲン化Sb化合物の燃焼抑制効果と、繊維(B)による複合体の炭化膜形成効果、繊維(C)が繊維(A)とともに燃焼させた際に炭化による炭化膜形成効果が相乗し、さらに繊維(D)であるポリエステル繊維が燃焼時に溶融し難燃繊維複合体を覆うことで難燃繊維複合体により形成される炭化膜がより強固なものとなることで激しい炎に長時間晒されても寝具や家具に用いられる綿やウレタンフォームへの着炎を防ぐ耐火性能が付与され予想以上に優れた難燃性を示すものと考えられる。本来、繊維(B)は燃えつきにくい繊維であるが、他の可燃性の繊維を難燃化する力に乏しいために、繊維(B)と繊維(D)のみを、また繊維(B)と繊維(C)のみを複合しても繊維(B)、繊維(D)が難燃化されることはない。本発明のように繊維を複合することにより、はじめて顕著な効果が得られる。
本発明において請求項12記載の3〜4成分系の場合、繊維(A)である塩素を25重量%以上含む重合体に対して、Sb化合物を0.5〜5.5重量部含有させた繊維(A)30〜80重量重量%と、繊維(B)10〜50重量%と、繊維(C)5〜40重量%と、繊維(D)0〜30重量%の合計が100重量%であり、難燃繊維複合体中の各繊維の含有量が(A)≧(C)かつ(A)+(C)が50〜90重量%かつ(B)+(C)が30〜60重量%になるように、本発明の難燃繊維複合体が製造されるが、それらの混合割合は、得られる難燃繊維複合体から製造される最終製品に要求される難燃性とともに、意匠性、吸水性、風合、吸湿性、触感、製品強力、耐洗濯性、耐久性などの品質に応じて決定される。一般に、繊維(A)である塩素を25重量%以上含む重合体に対して、Sb化合物を0.5〜5.5重量部含有させた繊維30〜80重量%、好ましくは35〜55重量%、繊維(B)10〜50重量%、好ましくは15〜45重量%、繊維(C)5〜40重量%、好ましくは10〜35重量%、および繊維(D)0〜30重量%、好ましくは0〜25重量%、さらに好ましくは0〜15重量%の合計が100重量%であり、難燃繊維複合体中の各繊維の含有量が(A)≧(C)かつ(A)+(C)が50〜90重量%かつ(B)+(C)が30〜60重量%になるように複合せしめられる。
繊維(A)である塩素を25重量%以上含む重合体に対して、Sb化合物を0.5〜5.5重量部含有させた繊維の量が30重量%未満の場合、繊維(C)や繊維(D)の燃焼を防ぐ力が充分でなくなり、得られる難燃繊維複合体の難燃性が不足し、一方、80重量%を超える場合、難燃繊維複合体自体の難燃性には優れるが、燃焼時に難燃繊維複合体中の形状を維持する骨格となる成分が不足する結果、例えば椅子やマットレスに用いられるウレタンフォームなどの易燃性素材への着炎を防止する性能が充分でなくなる。また、風合、吸湿性なども充分でなくなる。繊維(C)や繊維(D)の燃焼を防ぐためには、繊維(A)である塩素を25重量%以上含む重合体に対して、Sb化合物を0.5〜5.5重量部含有させた繊維の量が40〜80重量%であることが好ましい。
また、繊維(B)の量が10重量%未満の場合、長時間の炎に耐え得る難燃効果が充分得られず、一方、50重量%を超える場合、耐熱繊維の欠点である風合いや意匠性に劣る難燃繊維複合体しか得られなくなる。
また、繊維(C)の量が5重量%未満の場合、風合い、吸湿性などが充分でなくなるとともに、炭化状物を形成させる成分が不足するため長時間の炎に耐え得る難燃効果が充分得られず、一方、40重量%を超える場合、難燃繊維複合体中の可燃成分が多くなり難燃性が充分でなくなる。繊維(A)である塩素を25重量%以上含む重合体に対して、Sb化合物を0.5〜5.5重量部含有させた繊維の量と繊維(B)の量の合計が55重量%未満である場合には、難燃繊維複合体に燃焼時に充分な量の炭化状物を形成させるために、繊維(C)の量が30〜40重量%であることが好ましい。
さらに、繊維(D)の量が30重量%を超える場合も、難燃繊維複合体中の可燃成分が多くなり難燃性が充分でなくなる。
また、難燃繊維複合体中の、繊維(A)である塩素を25重量%以上含む重合体に対して、Sb化合物を0.5〜5.5重量部含有させた繊維の量が繊維(C)の量より少ない場合、炭化状物を形成することが充分でなくなり長時間の炎に耐え得る難燃効果が充分でなくなる。
また、難燃繊維複合体中の、繊維(A)である塩素を25重量%以上含む重合体に対して、SB化合物を0.5〜5.5重量部含有させた繊維の量と繊維(C)の量の合計が50重量%未満の場合、炭化状物を形成させる成分が不足するため長時間の炎に耐え得る難燃効果が充分得られず、また、風合いも充分でなくなり、一方、90重量%を超える場合、繊維(B)の量が不足し、充分な難燃効果が得られなくなる。
さらに、繊維(B)の量と繊維(C)の量の合計が30重量%未満の場合、燃焼時に難燃繊維複合体中の構造を維持する成分が少なくなるため、難燃効果が充分でなくなり、一方、60重量%を超える場合、繊維(A)である塩素を25重量%以上含む重合体に対して、Sb化合物を0.5〜5.5重量部含有させた繊維の量の割合が繊維(B)の量と繊維(C)の量の合計に対して少なくなり、長時間の炎に耐え得る構造の形成が充分でなくなるため、難燃効果が充分でなくなる。
本発明の難燃繊維複合体が優れた難燃性を示す理由は、燃焼時に難燃繊維複合体が加熱され、燃焼を起こすような温度条件になったときに、繊維(A)である塩素を25重量%以上含む重合体に対して、Sb化合物を0.5〜5.5重量部含有させた繊維から活性塩素ラジカルや塩化水素が放出され、難燃繊維複合体の燃焼連鎖反応を導く活性ラジカルを捕捉して、燃焼連鎖反応を切断する燃焼抑制と、それにより脱水炭化が促進され、高温時でも分解されにくい炭化状物を形成させる繊維(C)、さらに繊維(B)による複合体の耐熱性向上の効果が相乗し、予想以上に優れた難燃性を示すものと考えられる。本来、繊維(B)は燃えにくい繊維であるが、他の繊維(C)を難燃化する力に乏しいために、繊維(B)と繊維(C)とを複合しても繊維(C)が難燃化されることはなく、本発明のように繊維を複合することにより、はじめて顕著な効果が得られる。
さらに、繊維(D)に、ポリエステル繊維、ナイロン繊維などの溶融する繊維のうち少なくとも1種を使用することで、燃焼過程で生じる溶融物が難燃繊維複合体中に浸潤し、繊維間の隙間を埋め、構造を強固なものにし、難燃繊維複合体の難燃性が向上することが考えられる。また、繊維(A)である塩素を25重量%以上含む重合体に対して、Sb化合物を0.5〜5.5重量部含有させた繊維に酸化アンチモンを使用することで、高温時に塩素化合物と酸化アンチモンが反応し、揮発性の塩化アンチモンを生じ、これが空気よりも重いために反応系に長く留まり有効な活性ラジカル捕捉剤となって働くためと考えられる。
本発明の難燃繊維複合体は、前述のごとき繊維(A)、(B)、(C)、(D)が複合したものであり、織物、編物、不織布などの布帛、スライバーやウェブなどの繊維の集合体、紡績糸や合糸・撚糸などの糸状物、編み紐、組み紐などのヒモ状物のごとき形態のものである。
前記複合したとは、繊維(A)、(B)、(C)、(D)をさまざまな方法で混ぜ合わせて所定の比率で含有する布帛などを得ることをいい、混綿、紡績、撚糸、織り、編みの段階でそれぞれの繊維や糸を組み合わせることを意味する。
本発明の難燃繊維複合体には、必要に応じて帯電防止剤、熱着色防止剤、耐光性向上剤、白度向上剤、失透性防止剤などを含有せしめてもよい。
このようにして得られる本発明の難燃繊維複合体は、所望の難燃性を有し、風合、触感、吸湿性、意匠性などに優れた特性を有する。
本発明の難燃繊維複合体を製造する方法としては、前述の繊維(A)、(B)、(C)、(D)が短繊維の場合、これらを混合して紡績したり、それぞれの糸やスライバーを製造して撚り合わせたり、1種のスライバーに2種の紡績糸をまきつけたり、2種をまぜあわせたスライバーに1種の紡績糸をまきつけたりして製造してもよく、また、これらの方法を組み合わせて製造してもよい。
また、前述の繊維(A)、(B)、(C)、(D)が長繊維の場合、それぞれの長繊維をよりあわせたり、1種の長繊維に2種の長繊維をそれぞれまきつけたり、2種のよりあわせた長繊維と1種の長繊維をまきつけたり、1種の長繊維に2種のよりあわせた長繊維をまきつけたりして製造してもよく、また、これらの方法を組み合わせて製造してもよい。
さらに、前述の繊維(A)、(B)、(C)、(D)のうちの一部が短繊維で残りが長繊維の場合、短繊維のものは混合して紡績糸として、これを長繊維のものと撚り合わせるなどして製造してもよい。
本発明の難燃繊維複合体を用いて布帛を製造すると、本発明の難燃繊維複合体が有する優れた特性、すなわち優れた難燃性を有し、風合、触感、吸湿性、意匠性などの優れた特性を有する布帛が得られる。
前記布帛とは、織物、編物、不織布、紐類などを含む概念であり、難燃作業服などの衣料のみならず、カーテン、カーペットなどのインテリア製品や、シーツ、毛布、ベッドマット、ベッドパットなどの寝具など高度な難燃性が要求され、かつ風合、吸湿性、触感、意匠性などの一般的な繊維特性に優れていることが必要な用途に好適に使用されるものである。これら布帛の製造には特別の方法は必要なく、従来からの一般に用いられている製法をそのまま用いることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
以下、実施をあげて本発明をさらに詳しく説明するが、本発明はかかる実施例のみに限定されるものではない。なお実施例における繊維の難燃性は不織布を用いて下記のようにして測定した。
(燃焼試験用不織布の作成)
(1)試料不織布
試料不織布は所定の割合で混合した繊維を用いて、ニードルパンチ方式により、目付け200g/m2、縦30cm×横45cmの不織布を作成した。
(2)カバー用不織布
カバー用ポリエステル不織布も同様に、ニードルパンチ方式により、目付け200g/m2、縦30cm×横45cmの不織布を作成した。
(燃焼試験用試料の作成)
簡易マットレスを作成し燃焼試験用試料とした。上記(2)カバー用ポリエステル不織布の上に上記(1)試料不織布を、更にその上に表面生地としてポリエステル製織布(目付け120g/m2)を重ねた3層構造物をカタン糸を用いキルティングし、縦30cm×横45cm×厚さ7.5cm、密度22Kg/m3のポリウレタンフォーム(東洋ゴム工業(株)製タイプ360S)の上にステープルを用いて固定した。
(燃焼試験方法)
(1)バーナー形状
バーナーヘッドの形状はT字型であり、バーナーヘッドは外径1.27cm、肉厚0.0889cmのステンレス鋼で作成し、T字の横棒は長さ30.48cmで、T字の横棒の最上面に直径1.2mmの穴(ガスの出る穴)が等間隔に34個開けてある。
(2)燃焼試験方法
燃焼試験用試料を3層構造物側を上面にセットし、バーナーヘッドを試料上面から見て試料の長軸方向に平行に、かつ、試料の中央に、そして、炎の出る穴の面が試料上方42mmの高さになるように、T字の横棒が水平に縦棒が垂直上方に伸びるようにセットする。燃焼ガスはプロパン(純度99%以上)を使用し、ガス圧力0.11MPa、ガス流量12.9L/minで着炎時間は70秒とした。この時のウレタンフォームへの着火の有無、試料不織布の状態、表面生地の燃焼の評価を実施した。この時にウレタンフォームへの着火がない場合を○、着火がある場合を×として、試料不織布の炭化膜の状態は燃焼試験終了後に、試料不織布の炭化膜に貫通した穴があいていない場合、またはひびがない場合を○、穴やひびがある場合を×として、表面生地の燃焼はバーナーによる着炎が終了した後30秒以内に速やかに自己消化した場合を○、燃焼を継続した場合を×として評価を実施した。難燃性の評価として、前記3項目のすべて○の場合を○、一つでも×の項目がある場合には×として評価した。
(官能評価結果)
(試料不織布かさ高さ)
難燃繊維複合体不織布の加工性を評価するために、キルティング加工時の生地のボリューム感について官能評価を行った。
評価方法は、視覚的観点から、キルティング加工した際の表生地用のボリューム感において寝具用不織布としてのボリューム感が好適なものを○(例えばポリエステル繊維を用いた際の不織布)、使用可能なレベルであるものを△、それより劣るものを×(例えばレーヨン繊維を用いた際の不織布)として評価した。
(セルロース繊維の特徴の評価方法)
難燃繊維複合体がセルロース系繊維としての特徴(視感、触感)を有するか否かについて官能評価試験を行った。○はセルロース系繊維の特徴(視感、触感)を有する、×は有しないことを示す。
(試料不織布白度評価方法)
難燃繊維複合体不織布の意匠性を評価するために、試料不織布の白色度について官能評価を行った。
評価方法は、視覚的観点から官能的評価を行い、布張り家具表面生地用途において光沢、および発色性が要求される場合にの使用に適するレベルであるものを○、不適切であるものを×として評価した。
(風合い評価方法)
難燃繊維複合体不織布の風合い、触感について、特にドライタッチ感の官能評価を行った。
評価方法は、布張り家具の表生地用途において好適なレベルもしくは使用可能であるものを○(例えばポリエステル繊維を用いた際の不織布)、それより劣るものを×(例えばメラミン繊維を用いた際の不織布)として評価した。
(意匠性(光沢感、発色性)評価方法)
難燃繊維複合体不織布の意匠性を評価するために、試料不織布の光沢感と染色後の発色性について、それぞれ官能評価を行った。
評価方法は、視覚的観点から官能的評価を実施した。
光沢については、布張り家具の表生地用途における使用に適するものレベルのものを○、不適切なものを×として評価した。
発色性においては、布張り家具の表生地用途において要求される発色性に対して使用に適するレベルであるものを○、不適切であるものを×として評価した。
染色方法はカチオン染料(Maxilon Yellow 2RL0.55%omf、Maxilon Red GRL0.25%omf、Maxilon Blue GRL0.30%omf:いずれもチバ・ガイギー(Ciba−Geigy)社製)と、助剤として、酢酸および酢酸ナトリウムおよび陰イオン系分散剤2%omf(LevenolWX:花王(株)製)、促染剤0.4%omf(ラウリル硫酸ナトリウム)を用い、浴比1:2.5で1時間常圧沸騰させ、遠心脱水機にて水切り後、常温で乾燥させ、こげ茶色の色相を有する不織布を得た。
(製造例1)
アクリロニトリル51重量%、塩化ビニリデン48重量%およびp−スチレンスルホン酸ソーダ1重量%よりなる共重合体をジメチルホルムアミドに樹脂濃度が30重量%になるように溶解させた。得られた樹脂溶液の樹脂重量100部に対して15部の三酸化アンチモンを添加し、紡糸原液とした。
前記三酸化アンチモンは、2μm以下に揃えられた粒子径を有し、希釈樹脂溶液に均一に分散するように事前に調整して用いた。
三酸化アンチモンを含んだ紡糸原液をノズル孔径0.08mmおよび孔数300ホールのノズルを用い、50重量%ジメチルホルムアミド水溶液中へ押し出し、水洗したのち120℃で乾燥し、ついで3倍に延伸してから、さらに145℃で5分間熱処理を行なうことにより、繊維(A)を得た。
得られた繊維の塩素含有量は、塩素含有共重合体の重量に対して35.1重量%であった。また、得られた繊維は繊度2.2dtex、強度2.5cN/dtex、伸度40%、カット長51mmの短繊維であった。
(製造例2)
アクリロニトリル56重量%、塩化ビニリデン41重量%、2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸ソーダ3重量%よりなる共重合体をジメチルホルムアミドに樹脂濃度が20重量%になるように溶解させた。得られた樹脂溶液の樹脂重量に対して三酸化アンチモンを添加し、紡糸原液とした。三酸化アンチモンの添加量については、表1に示す。
前記三酸化アンチモンは、2μm以下に揃えられた粒子径を有し、希釈樹脂溶液に均一に分散するように事前に調整して用いた。
三酸化アンチモンを含んだ紡糸原液をノズル孔径0.08mmおよび孔数300ホールのノズルを用い、50重量%ジメチルホルムアミド水溶液中へ押し出し、水洗したのち120℃で乾燥し、ついで3倍に延伸してから、さらに145℃で5分間熱処理を行なうことにより、繊維(A)を得た。
得られた繊維の塩素含有量は、塩素含有共重合体の重量に対して30.0重量%であった。また、得られた繊維は繊度2.2dtex、強度2.9cN/dtex、伸度38%、カット長51mmの短繊維であった。
(実施例1〜7および比較例1〜14)
製造例1で得られた繊維(A)、繊維(B)としてメラミン繊維であるバソフィル(Basofil、1〜3.5dtex程度の分布を有する、カット長20〜200mmの分布を有する、バソフィルファイバーズ(Basofil Fibers)社製)、珪素含有セルロース系繊維であるヴィジル(Visil、1.7dtex、カット長40mm、サテリ(SATERI)社製)、パラ系芳香族ポリアミド繊維であるテクノーラ(Technora、1.7dtex、カット長38mm、帝人(株)製)、セルロース系繊維(C)としてレーヨン(1.5dtex、カット長38mm)、繊維(D)としてポリエステル繊維(6.6dtex、カット長51mm)を表1に示す割合で混綿し、試料不織布を作製し、燃焼試験を実施した。評価結果を表2に示す。


実施例1〜7は燃焼試験結果、試料不織布のかさ高さ、セルロース系繊維としての特徴(風合いなど)は全て良好であり、繊維(B)による違いも観られなかった。
比較例1,5,6,10では繊維(A)の効果で表面生地の炎は速やかに消火するが、繊維(B)の割合が少ないため炭化膜形成能力が不足し、ウレタンフォームが直接バーナーの炎にさらされることで燃焼した。比較例2,4,8では繊維(A)、および繊維(B)の割合が少ないため、難燃性が不足し、ウレタンフォームも表面生地も燃焼した。比較例3,7,9では繊維(B)により炭化膜が形成されウレタンフォームは燃焼しないが、繊維(A)の割合が少ないため表面生地は燃焼を続けた。比較例11では繊維(A)と繊維(B)の割合が高いため炭化膜形成力があり燃焼試験結果は良好であるが、繊維(D)を含まないためにかさ高性が不充分であった。比較例4,5,6では繊維(A)の割合が少なく、試料に着火した炎を消す力が弱く、表面生地の燃焼を消す力が不足している。比較例5,7では繊維(D)の割合が大きく、ポリエステル繊維に着火した炎が燃え広がり、難燃性に劣った。試料不織布かさ高性においては実施例、比較例ともに繊維(D)が入ることにより、ボリューム感が増した。セルロース系繊維としての特徴(風合いなど)は、比較例1〜3,4,5,6については繊維(C)を含まないためにセルロース系繊維としての風合いを有さず、比較例9については繊維(B)の比率が高いため繊維(C)を含むが風合いは劣るものとなった。
(実施例8〜12および比較例13〜20)
製造例1で得られた繊維(A)、繊維(B)として珪酸含有セルロース繊維であるヴィジル(Visil、1.7dtex、カット長40mm、サテリ(Sateri)社製)、繊維(D)としてポリエステル繊維(6.6dtex、カット長51mm)を表3に示す割合で混綿し、試料不織布を作製し、燃焼試験を実施した。結果を表3に示す。

実施例8〜12の難燃繊維複合体の燃焼結果は良好であるが、比較例13,14,17の複合体では繊維(B)である珪酸含有セルロース系繊維の割合が少ないため炭化膜形成能力が不足し、ウレタンフォームが直接バーナーの炎にさらされることで燃焼した。比較例16,17,18,19では繊維(A)の割合が少なく、試料に着火した炎を消す力が弱く、表面生地の燃焼を消す力が不足している。比較例17,20の複合体では繊維(D)の割合が他の繊維に比べて大きく、ポリエステル繊維に着火した炎が燃え広がり、難燃性に劣った。
また、官能評価の結果は、試料不織布白度評価結果については実施例、比較例ともに試料不織布の黄味を感じることはできず良好であった。風合い評価結果については実施例については良好であったが、比較例13,14,17においてポリエステル繊維が不足し、風合いが劣るものであった。
(実施例13〜21および比較例21〜33)
製造例2で得られた繊維(A)と、繊維(B)としてメラミン繊維であるバソフィル(Basofil、1〜3.5dtex程度の分布を有する、カット長20〜200mmの分布を有する、バソフィルファイバーズ(Basofil Fibers)社製)、珪素含有セルロース系繊維であるヴィジル(Visil、1.7dtex、カット長40mm、SATERI社製)、パラ系芳香族ポリアミド繊維であるテクノーラ(Technora、1.7dtex、カット長38mm、帝人(株)製)、セルロース系繊維(C)としてレーヨン(1.7dtex、カット長38mm)、繊維(D)としてポリエステル繊維(6.6dtex、カット長51mm)を表4に示す割合で混綿し、試料不織布を作製し、燃焼試験を実施した。評価結果を表5に示す。


実施例13〜21は全て、燃焼試験結果は良好であり、意匠性、風合いも布張り家具の表生地として使用可能なレベルであった。比較例21,22,23,25,26,27,29,31では、炭化膜を形成させる成分が不足しているため、あるいは、燃焼時に難燃繊維複合体中の構造を維持する成分が不足しているため、または、その両方の理由により、燃焼試験中に試料不織布に貫通した穴やひびが生じ、ウレタンフォームが直接バーナーの炎にさらされることで燃焼した。比較例24,28,30では繊維(B)が多く含まれているため、燃焼時に難燃繊維複合体中の構造を維持する成分は充分であり、穴やひびは生じなかったが、繊維(A)の割合が少ないため試料に着火した炎を消す力が弱く、表面生地の燃焼を消す力が不足している。比較例32,33では燃焼試験結果は良好であり、風合いも布張り家具の表生地として使用可能なレベルであったが、繊維(A)に三酸化アンチモンが多量に含まれているために光沢に乏しく、布張り家具の表生地として使用には不充分であった。
【産業上の利用可能性】
本発明の難燃繊維複合体を用いて布帛を製造すると、本発明の難燃繊維複合体が有する優れた特性、すなわち優れた難燃性を有し、意匠性、風合、触感、吸湿性などの優れた特性を有する布帛が得られる。
前記布帛とは、織物、編物、不織布、紐類などを含む概念であり、椅子張り生地、ふとんカバー、枕カバー、シーツ、ベッドカバーやマットレスカバーなどの家具、寝具用の表生地のみならず、毛布や、非難燃生地とウレタンフォームの間に挿入するバリア用素材、難燃作業服などの衣料、カーテン、カーペットなどのインテリア製品など、高度な難燃性が要求され、かつ意匠性、風合、吸湿性、触感などの一般的な繊維特性に優れていることが必要な用途に好適に使用されるものである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ハロゲン原子を17重量%以上含む重合体100重量部に対して、Sb化合物を0.5〜50重量部含有させた繊維(A)20〜85重量%、耐熱繊維(B)5〜80重量%、セルロース系繊維(C)0〜40重量%、化学性繊維などの可燃性繊維(D)0〜40重量%を複合してなる難燃繊維複合体。
【請求項2】
ハロゲン原子を17重量%以上含む重合体100重量部に対して、Sb化合物を6〜50重量部含有させた繊維(A)20〜85重量%、耐熱繊維(B)15〜80重量%、化学性繊維などの可燃性繊維(D)0〜40重量%を複合してなる請求項1記載の難燃繊維複合体。
【請求項3】
ハロゲン原子を17重量%以上含む重合体100重量部に対して、Sb化合物を0.5〜50重量部含有させた繊維(A)20〜85重量%、耐熱繊維(B)5〜40重量%、セルロース系繊維(C)5〜40重量%、化学性繊維などの可燃性繊維(D)5〜40重量%を複合してなる請求項1記載の難燃繊維複合体。
【請求項4】
前記ハロゲン原子を含む重合体が、アクリロニトリル30〜70重量%、ハロゲン含有ビニル系単量体70〜30重量%およびこれらと共重合可能なビニル系単量体0〜10重量%よりなる共重合体である請求項1〜3いずれかに記載の難燃繊維複合体。
【請求項5】
前記耐熱繊維(B)が珪酸含有セルロース系繊維、アラミド繊維、メラミン繊維より選ばれる請求項1〜3いずれかに記載の難燃繊維複合体。
【請求項6】
前記セルロース系繊維(C)が難燃加工を施していない木綿、麻、アセテート系繊維、レーヨン系繊維より選ばれる請求項1または3記載の難燃繊維複合体。
【請求項7】
前記化学繊維などの可燃性繊維(D)がポリエステル繊維、ナイロン繊維のうち少なくとも1種を含む請求項1〜3いずれかに記載の難燃繊維複合体。
【請求項8】
前記ハロゲン原子を含む重合体である塩素原子を17重量%以上含む重合体100重量部に対してSb化合物6〜50重量部を含有させた繊維85〜20重量%、前記耐熱繊維(B)である珪酸含有セルロース系繊維15〜80重量%、1種以上の前記化学性繊維などの可燃性繊維(D)0〜40重量%からなり、各繊維の含有量が(A)≧(D)または(B)≧(D)となるように複合してなる請求項2記載の難燃繊維複合体。
【請求項9】
前記化学繊維などの可燃性繊維(D)として、ポリエステル繊維および/またはナイロン繊維を、難燃繊維複合体中5〜35重量%含有する請求項2、3、7または8に記載の難燃繊維複合体。
【請求項10】
前記耐熱繊維(B)である珪酸含有セルロース系繊維が、繊維中に珪酸を20〜50重量%含有する請求項2、4、5、7、8または9記載の難燃繊維複合体。
【請求項11】
前記ハロゲン原子を含む重合体である塩素原子を17重量%以上含む重合体100重量部に対して、Sb化合物を6〜50重量部含有させた繊維(A)80〜20重量%、耐熱繊維(B)5〜40重量%、セルロース系繊維(C)5〜40重量%、前記化学繊維などの可燃性繊維(D)としてポリエステル繊維5〜40重量%を複合してなる請求項3、4、5、6または7記載の難燃繊維複合体。
【請求項12】
前記繊維(A)であるハロゲン原子を含む重合体である塩素原子を25重量%以上含む重合体100重量部に対して、Sbを0.5〜5.5重量部含有させた繊維30〜70重量%、耐熱繊維(B)10〜50重量%、セルロース系繊維(C)5〜40重量%、および化学繊維などの可燃性繊維(D)0〜30重量%からなり、繊維(A)〜(D)の含有量が
(1)(A)≧(D)、(2)(A)+(D)が50〜90重量%、および(3)(C)+(D)が30〜60重量%、を満たす請求項1、4、5、6または7記載の難燃繊維複合体。
【請求項13】
前記ハロゲン原子を含む重合体である塩素を含む重合体が、アクリロニトリル40〜60重量%、塩素含有ビニル系単量体60〜40重量%、およびこれらと共重合可能なビニル系単量体0〜10重量%よりなる共重合体である請求項1、4または12記載の難燃繊維複合体。
【請求項14】
前記化学繊維などの可燃性繊維(D)がポリエステル繊維、ナイロン繊維のうち少なくとも1種の繊維を16〜100重量%含む請求項1、7、12または13記載の難燃繊維複合体。
【請求項15】
前記化学繊維などの可燃性繊維(D)が、ポリエステル繊維を16〜100重量%含む可燃性繊維である請求項1、7、12、13または14記載の難燃繊維複合体。
【請求項16】
前記ハロゲン原子を含む重合体である塩素原子を含む重合体にSb化合物を含有させた繊維が、40〜70重量%である請求項1、12、13、14または15記載の難燃繊維複合体。
【請求項17】
セルロース系繊維(C)が、30〜40重量%である請求項1、6、12、13、14、15または16記載の難燃繊維複合体。
【請求項18】
前記Sb化合物の含有量が、前記ハロゲン原子を含む重合体である塩素原子を含む重合体100重量%に対して0.5〜3.5重量部である請求項1、12、13、14、15、16または17記載の難燃繊維複合体。
【請求項19】
請求項1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17または18記載の難燃繊維複合体を用いて製造した布帛。
【請求項20】
請求項1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17または18記載の難燃繊維複合体を用いて製造した不織布。

【国際公開番号】WO2004/097088
【国際公開日】平成16年11月11日(2004.11.11)
【発行日】平成18年7月13日(2006.7.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−505844(P2005−505844)
【国際出願番号】PCT/JP2004/005583
【国際出願日】平成16年4月19日(2004.4.19)
【出願人】(000000941)株式会社カネカ (3,932)
【Fターム(参考)】