説明

難聴疾患の予防又は治療剤

【課題】極めて優れた効果を有する新規な難聴疾患の予防又は治療剤を提供する。
【解決手段】メチル基供与剤とヒストン脱アセチル化酵素阻害剤を配合してなる、難聴疾患の予防又は治療剤である。メチル基供与剤としてはL−メチオニン、D−メチオニン、S−アデノシルメチオニン等が、及びヒストン脱アセチル化酵素阻害剤としてはバルプロ酸ナトリウムが、それぞれ好適に利用される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、新規な難聴疾患の予防又は治療剤に関する。
【背景技術】
【0002】
難聴は、65歳以上で3分の1の人が患う疾患であり、その克服は、高齢化社会における国民の生活の質にかかわる重要課題である。難聴の原因には、騒音、薬剤、遺伝、生活習慣等があるが、加齢も主要な原因とされる。
【0003】
加齢性難聴等の徐々に進行する難聴の分子レベルでの発症機序として酸化ストレス傷害説が提唱されており、この説に基づき、細胞活動にともない発生する活性酸素等の除去剤(いわゆるラジカル・スカベンジャー)投与やストレス抵抗性上昇剤投与による聴力低下防止の研究が行なわれているが(例えば、非特許文献1及び2参照)、その効果は広く認められているとはい
えない。また、臨床においては葉酸やビタミンB12が投与されることもあるが(例えば、非特許文献3及び4参照)、その有効性についても疑問視されている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】Takumida M, et al., "Radical scavengers for elderly patients with age-related hearing loss", Acta Oto-Laryngologica, 2009(129), p.36-44
【非特許文献2】Mikuriya T, et al., "Attenuation of progressive hearing loss in a model of age-related hearing loss by a heat shock protein inducer, geranylgeranylacetone", Brain Research, 2008(1212), p.9-17
【非特許文献3】Durga J, et al., "Effects of folic acid supplementation on hearing in older adults: a randomized, controlled trial", Ann Intern Med, 2007(146), p.1-9
【非特許文献4】Houston DK, et al., "Age-related hearing loss, vitamin B-12, and folate in elderly women", Am J Clin Nutr, 1999(69), p.564-71
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
一方、メチル基供与剤であるL−メチオニンは必須アミノ酸であり、また、ヒストン脱アセチル化酵素阻害剤であるバルプロ酸ナトリウムは抗てんかん薬、抗うつ薬として古くから利用されている。しかし、メチル基供与剤及びヒストン脱アセチル化酵素阻害剤を難聴の予防及び治療剤として利用することは知られていない。
【0006】
本発明は上記従来技術の有する問題点に鑑みなされたものであり、その目的とするところは、極めて優れた効果を有する新規な難聴疾患の予防又は治療剤を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の上記目的は、下記の手段によって達成される。
【0008】
(1)即ち、本発明は、メチル基供与剤とヒストン脱アセチル化酵素阻害剤を配合してなる、難聴疾患の予防又は治療剤である。
【0009】
(2)本発明はまた、前記メチル基供与剤は、メチオニン、アデノシルメチオニン、デカルボキシアデノシルメチオニン、ビタミンB12及び葉酸並びにこれらの誘導体からなる群より選択される1種又は2種以上の組み合わせからなる、(1)に記載の難聴疾患の予防及び治療剤である。
【0010】
(3)本発明はまた、前記メチル基供与剤は、L−メチオニン、D−メチオニン又はS−アデノシルメチオニンである、(2)に記載の難聴疾患の予防及び治療剤である。
【0011】
(4)本発明はまた、前記ヒストン脱アセチル化酵素阻害剤は、バルプロ酸、トリコスタチンA、オキサムフラチン、ブチル酸、トラポキシン、アピシジン、スルフォラファン、デプシペプチド(FK228)、N−(2−アミノフェニル)−4−[N−(ピリジン−3イルメトキシカルボニル)アミノメチル]ベンザミド(MS−275)、N−(2−アミノフェニル)−N´−フェニルオクタンジアミド(CAY10433)、4−(ジメチルアミノ)−N−[6−(ヒドロキシアミノ)−6−オキソヘキシル]−ベンザミド(CAY10398)、4−(ジメチルアミノ)−N−[7−(ヒドロキシアミノ)−7−オキソヘプチル]−ベンザミド(M344)、シクロ−(D−Pro−L−Ala−D−Ala−L−2−アミノ−8−オキソ−9,10−エポキシデカン酸(HCトキシン)、ヒドロキサミン酸サブエロイルアニリド(SAHA)、ビス−ヒドロキサミン酸サブエロイル、4−フェニルブチル酸、6−(1,3−ジオキソ−1H,3H−ベンゾ[デ]イソキノリン−2−イル)−N−ヒドロキシヘキサンアミド(スクリプタイド)、4−(1,3−ジオキソ−1H,3H−ベンゾ[デ]イソキノリン−2−イル)−N−ヒドロキシブタンアミド(ヌルスクリプト)、スプリトマイシン、デプデシン、BIX01294 トリヒドロクロライド若しくはその誘導体又はこれらの生理的に許容される塩である、(1)〜(3)のいずれか1項に記載の難聴疾患の予防又は治療剤である。
【0012】
(5)本発明はまた、前記ヒストン脱アセチル化酵素阻害剤は、バルプロ酸ナトリウムである、(4)に記載の難聴疾患の予防又は治療剤である。
【0013】
(6)本発明はまた、前記メチル基供与剤と前記ヒストン脱アセチル化酵素阻害剤の配合比が、1:20〜20:1である、(1)〜(5)のいずれか1項に記載の難聴疾患の予防又は治療剤である。
【0014】
(7)本発明はまた、前記難聴は、メニエール病、両性発作性頭位めまい症、前庭神経炎若しくはその他の末梢性めまい、中枢性めまい若しくはその他の前庭機能障害、騒音による内耳障害、両側性感音難聴、一側性感音難聴、両側性混合難聴、片側性混合難聴、聴器毒性難聴、老人性難聴、突発性難聴、遺伝子難聴のうち進行性のもの、耳の変性障害若しくは血管障害、耳鳴、又は聴神経障害である、(1)〜(6)のいずれか1項に記載の難聴疾患の予防又は治療剤である。
【発明の効果】
【0015】
本発明の難聴疾患の予防又は治療剤によれば、メチル基供与剤とヒストン脱アセチル化酵素阻害剤が配合されてなるので、内耳聴覚上皮におけるエピジェネティック制御機構が調節され、細胞内でDNA等のメチル化修飾とヒストン分子アセチル化レベルが上昇して遺伝子の発現量及びゲノムの安定性が制御されて、結果として内耳細胞機能の低下が顕著に抑制されるという優れた効果を奏するものである。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】実施例1による被験群、対照群及び比較群の加齢性難聴モデル動物マウス聴覚閾値に対する効果を示したグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明の難聴疾患の予防又は治療剤は、メチル基供与剤とヒストン脱アセチル化酵素阻害剤を配合してなることを特徴とするものである。
【0018】
本発明で利用されるメチル基供与剤としては、構造中にメチル基を含み生体内でDNAやヒストンのメチル化反応においてメチル基を供与することができる物質、又はそのような物質によるメチル化反応の補因子として働く物質であれば特に限定されるものではなく、既知の物質を利用することができる。具体例を示せば、メチオニン、アデノシルメチオニン、デカルボキシアデノシルメチオニン、コリン、カルニチン、トリメチルグリシン、ビタミンB12、葉酸等又はこれらの誘導体が挙げられ、これらを単独で又は2種以上を組み合わせて利用することができる。これらの中では、メチオニン、アデノシルメチオニン、ビタミンB12又は葉酸が好ましく、特にL−メチオニン、D−メチオニン又はS−アデノシルメチオニンが好適に利用される。
【0019】
また、本発明で利用されるヒストン脱アセチル化酵素阻害剤としては、生体内でヒストン脱アセチル化酵素(HDAC)によるヒストン脱アセチル化反応を阻害する(つまりヒストンのアセチル化を促進する)働きを有する物質であれば特に限定されるものではなく、既知の物質を利用することができる。その具体例を示せば、バルプロ酸、トリコスタチンA、オキサムフラチン、ブチル酸、トラポキシン、アピシジン、スルフォラファン、デプシペプチド(FK228)、N−(2−アミノフェニル)−4−[N−(ピリジン−3イルメトキシカルボニル)アミノメチル]ベンザミド(MS−275)、N−(2−アミノフェニル)−N´−フェニルオクタンジアミド(CAY10433)、4−(ジメチルアミノ)−N−[6−(ヒドロキシアミノ)−6−オキソヘキシル]−ベンザミド(CAY10398)、4−(ジメチルアミノ)−N−[7−(ヒドロキシアミノ)−7−オキソヘプチル]−ベンザミド(M344)、シクロ−(D−Pro−L−Ala−D−Ala−L−2−アミノ−8−オキソ−9,10−エポキシデカン酸(HCトキシン)、ヒドロキサミン酸サブエロイルアニリド(SAHA)、ビス−ヒドロキサミン酸サブエロイル、4−フェニルブチル酸、6−(1,3−ジオキソ−1H,3H−ベンゾ[デ]イソキノリン−2−イル)−N−ヒドロキシヘキサンアミド(スクリプタイド)、4−(1,3−ジオキソ−1H,3H−ベンゾ[デ]イソキノリン−2−イル)−N−ヒドロキシブタンアミド(ヌルスクリプト)、スプリトマイシン、デプデシン、BIX01294 トリヒドロクロライド等若しくはこれらの誘導体又はこれらの生理的に許容される塩が挙げられる。これらの中では、バルプロ酸、ブチル酸又はこれらの生理的に許容される塩が好ましく、特にバルプロ酸ナトリウムが好適に利用される。
【0020】
本発明の難聴疾患の予防又は治療剤は、前記メチル基供与剤及び前記ヒストン脱アセチル化酵素阻害剤を配合して、錠剤、丸剤、散剤、粉剤、顆粒剤、シロップ剤、液剤、懸濁剤、乳剤、カプセル剤等として患者に経口投与することができる。また、注射剤として静脈内、筋肉内、皮内、皮下、腹腔内、動脈内、脊髄腔内、若しくは鼓室(中耳腔)内等、又は直接内耳に投与してもよい。または、前記メチル基供与剤及び前記ヒストン脱アセチル化酵素阻害剤を予め個別に上述の製剤形態に製剤したものを配合して配合剤として患者に投与してもよい。これらのうち、好ましい製剤形態や投与形態等は、患者の年齢、性別、体質、症状、処置時期等に応じて、医師によって適宜選択される。
【0021】
本発明の難聴疾患の予防又は治療剤を、錠剤、丸剤、散剤、粉剤、顆粒剤等の固形製剤とする場合には、前記メチル基供与剤及び前記ヒストン脱アセチル化酵素阻害剤を、常法に従って適当な添加剤、例えば、乳糖、ショ糖、マンニット、トウモロコシデンプン、合成もしくは天然ガム、結晶セルロース等の賦形剤、デンプン、セルロース誘導体、アラビアゴム、ゼラチン、ポリビニルピロリドン等の結合剤、カルボシキメチルセルーロースカルシウム、カルボシキメチルセルーロースナトリウム、デンプン、コーンスターチ、アルギン酸ナトリウム等の崩壊剤、タルク、ステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸ナトリウム等の滑沢剤、炭酸カルシウム、炭酸ナトリウム、リン酸カルシウム、リン酸ナトリウム等の充填剤または希釈剤等と適宜混合して製造することができる。錠剤等は、必要に応じて適当な被覆用基剤を用いて、糖衣、ゼラチン、腸溶被覆、フイルムコーティング等を施しても良い。
【0022】
本発明の難聴疾患の予防又は治療剤を、注射剤、シロップ剤、液剤、懸濁剤、乳剤等の液状製剤とする場合には、前記メチル基供与剤及び前記ヒストン脱アセチル化酵素阻害剤を、精製水、リン酸緩衝液等の適当な緩衝液、生理的食塩水、リンゲル溶液、ロック溶液等の生理的塩類溶液、カカオバター、ゴマ油、オリーブ油等の植物油、鉱油、高級アルコール、高級脂肪酸、エタノール等の有機溶媒等に溶解して、必要に応じてコレステロール等の乳化剤、アラビアゴム等の懸濁剤、分散助剤、浸潤剤、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油系、ポリエチレングリコール系等の界面活性剤、リン酸ナトリウム等の溶解補助剤、糖、糖アルコール、アルブミン等の安定化剤、パラベン等の保存剤、塩化ナトリウム、ブドウ糖、グリセリン等の等張化剤、緩衝剤、無痛化剤、吸着防止剤、保湿剤、酸化防止剤、着色剤、甘味料、フレーバー、芳香物質等を適宜添加することにより、滅菌された水溶液、非水溶液、懸濁液、リポソームまたはエマルジョン等として調整できる。この際、注射剤は、生理学的なpH、好ましくは6〜8の範囲内のpHを有することが好ましい。
【0023】
本発明の難聴疾患の予防又は治療剤における前記メチル基供与剤と前記ヒストン脱アセチル化酵素阻害剤の配合比は、1:20〜20:1、好ましくは1:10〜10:1である。
【0024】
また、本発明の難聴疾患の予防又は治療剤に含まれる前記メチル基供与剤及び前記ヒストン脱アセチル化酵素阻害剤の総量は、投与形態、重篤度や目的とする投与量などによって様々であるが、一般的には、製剤の全重量に対して1〜60重量%、好ましくは5〜50重量%である。
【0025】
また、本発明の難聴疾患の予防又は治療剤の投与量は、患者の年齢、体重及び症状、目的とする投与形態や方法、治療効果、および処置期間等によって異なり、正確な量は医師により決定されるものであるが、通常、成人に対し1日当り、前記メチル基供与剤及び前記ヒストン脱アセチル化酵素阻害剤の総量の投与量換算で、経口投与の場合は800〜2400mgを、静脈内投与の場合は400〜2000mgを、1回または数回に分けて投与する。
【0026】
本発明の難聴疾患の予防又は治療剤の作用機序は必ずしも明確ではないが、聴覚発達と維持には、ゲノムDNAのメチル化修飾及びヒストン分子のアセチル化やメチル化等の修飾を介して遺伝子発現調節及びゲノムDNAの安定性を調節するエピジェネティック制御機構が関与しているものと考えられる。従って、メチル基供与剤とヒストン脱アセチル化酵素阻害剤(ヒストンアセチル化促進剤)を同時に投与すると、メチル基供与剤がDNAのメチル化修飾を促進し、低メチル化されているDNA領域のメチル化レベルが正常化し、ヒストンのメチル基修飾と協調して、複数の遺伝子(聴覚感覚細胞、神経細胞及び周辺の細胞において、音刺激応答、音情報の伝導伝達、周辺の細胞間の情報伝達、酸化ストレス抵抗、免疫応答、細胞傷害に対する修復、あるいは細胞増殖などの役割をもち、総合的に細胞機能維持および細胞生存に資するもの)の発現が正常な状態に調節されると考えられる。また、ゲノムDNAのメチル化レベルが亢進されることによりゲノムの安定性が増し、細胞の傷害抵抗性が増すと考えられる。一方、ヒストン脱アセチル化阻害剤により、ヒストンのアセチル化が亢進し、アセチル化亢進部位における遺伝子発現が上昇して、DNAメチル化修飾とヒストンアセチル化の協調により、上記複数の遺伝子の発現が調節されると考えられる。さらに、メチル基供与体の投与によるDNAおよびヒストンのメチル基修飾と協調することにより、相乗的な効果を示すものと考えられる。
【0027】
従って、本発明の難聴疾患の予防又は治療剤は、メニエール病、両性発作性頭位めまい症、前庭神経炎若しくはその他の末梢性めまい、中枢性めまい若しくはその他の前庭機能障害、騒音による内耳障害、両側性感音難聴、一側性感音難聴、両側性混合難聴、片側性混合難聴、聴器毒性難聴、老人性難聴、突発性難聴、遺伝子難聴のうち進行性のもの、耳の変性障害若しくは血管障害、耳鳴、又は聴神経障害等の難聴疾患の予防又は治療に有効である。
【0028】
次に、本発明の難聴疾患の予防又は治療剤を、実施例によりさらに詳細に説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
【実施例1】
【0029】
加齢性難聴モデル動物の聴覚閾値に対するL−メチオニン及びバルプロ酸ナトリウムの投与効果を確認した。
【0030】
加齢性に聴力が低下するDBA/2J系統のマウス(Qing Yin Zhenga et al., "Assessment of hearing in 80 inbred strains of mice by ABR threshold analyses", Hear Res. 1999(130), p94-107参照)を用いて、4週齢雄性のDBA/2J系統マウス1群4〜6匹に対して、L−メチオニン500mg/kg及びバルプロ酸ナトリウム300mg/kgを0.1M炭酸ナトリウム緩衝液に溶解し、1日1回、8週間皮下投与して被験群とした。
【0031】
12週齢時に聴覚閾値を聴性脳幹反射(ABR)法により測定し、4週齢からの聴覚閾値変化を比較した結果を図1に示した。比較のため、同様にして、L−メチオニン500mg/kg、バルプロ酸ナトリウム300mg/kg、葉酸20mg/kg及びビタミンB12(15mg/kg)をそれぞれ単独で0.1M炭酸ナトリウム緩衝液に溶解して投与したL−メチオニン投与群(比較群1)、バルプロ酸ナトリウム投与群(比較群2)、葉酸投与群(比較群3)及びビタミンB12投与群(比較群4)、並びに0.1M炭酸ナトリウム緩衝液のみを投与した対照群の結果を図1に示した。
【0032】
図1に示す通り、対照群では、音の周波数により17.5〜28dBの聴力閾値上昇(つまり聴力低下)が観察されたが、本発明の被験群では、聴覚閾値上昇が8kHzで16.2±3.0dB,32kHzで5.6±2.2dBに止まり、有意(図中に*で示す)に抑制された。これに対して、L−メチオニン投与群(比較群1)、バルプロ酸ナトリウム投与群(比較群2)及び葉酸投与群(比較群3)では、聴覚閾値上昇は有意に抑制されなかった。また、ビタミンB12投与群(比較群4)では、32kHzでのみ12.1±1.4dBの閾値上昇となり、対照群に比較し有意に閾値上昇が抑えられたが、その効果は本発明の被験群には及ばなかった。
【産業上の利用可能性】
【0033】
上述したように、本発明の難聴疾患の予防又は治療剤は、メチル基供与剤とヒストン脱アセチル化酵素阻害剤とによってエピジェネティック制御機構が調節されることにより内耳細胞機能の低下が顕著に防止されるので、メニエール病、両性発作性頭位めまい症、前庭神経炎若しくはその他の末梢性めまい、中枢性めまい若しくはその他の前庭機能障害、騒音による内耳障害、両側性感音難聴、一側性感音難聴、両側性混合難聴、片側性混合難聴、聴器毒性難聴、老人性難聴、突発性難聴、遺伝子難聴のうち進行性のもの、耳の変性障害若しくは血管障害、耳鳴、又は聴神経障害等の難聴疾患の予防又は治療として極めて有用である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
メチル基供与剤とヒストン脱アセチル化酵素阻害剤を配合してなる、難聴疾患の予防又は治療剤。
【請求項2】
前記メチル基供与剤は、メチオニン、アデノシルメチオニン、デカルボキシアデノシルメチオニン、ビタミンB12及び葉酸並びにこれらの誘導体からなる群より選択される1種又は2種以上の組み合わせからなる、請求項1に記載の難聴疾患の予防及び治療剤。
【請求項3】
前記メチル基供与剤は、L−メチオニン、D−メチオニン又はS−アデノシルメチオニンである、請求項2に記載の難聴疾患の予防及び治療剤。
【請求項4】
前記ヒストン脱アセチル化酵素阻害剤は、バルプロ酸、トリコスタチンA、オキサムフラチン、ブチル酸、トラポキシン、アピシジン、スルフォラファン、デプシペプチド(FK228)、N−(2−アミノフェニル)−4−[N−(ピリジン−3イルメトキシカルボニル)アミノメチル]ベンザミド(MS−275)、N−(2−アミノフェニル)−N´−フェニルオクタンジアミド(CAY10433)、4−(ジメチルアミノ)−N−[6−(ヒドロキシアミノ)−6−オキソヘキシル]−ベンザミド(CAY10398)、4−(ジメチルアミノ)−N−[7−(ヒドロキシアミノ)−7−オキソヘプチル]−ベンザミド(M344)、シクロ−(D−Pro−L−Ala−D−Ala−L−2−アミノ−8−オキソ−9,10−エポキシデカン酸(HCトキシン)、ヒドロキサミン酸サブエロイルアニリド(SAHA)、ビス−ヒドロキサミン酸サブエロイル、4−フェニルブチル酸、6−(1,3−ジオキソ−1H,3H−ベンゾ[デ]イソキノリン−2−イル)−N−ヒドロキシヘキサンアミド(スクリプタイド)、4−(1,3−ジオキソ−1H,3H−ベンゾ[デ]イソキノリン−2−イル)−N−ヒドロキシブタンアミド(ヌルスクリプト)、スプリトマイシン、デプデシン、BIX01294 トリヒドロクロライド若しくはその誘導体又はこれらの生理的に許容される塩である、請求項1〜3のいずれか1項に記載の難聴疾患の予防又は治療剤。
【請求項5】
前記ヒストン脱アセチル化酵素阻害剤は、バルプロ酸ナトリウムである、請求項4に記載の難聴疾患の予防又は治療剤。
【請求項6】
前記メチル基供与剤と前記ヒストン脱アセチル化酵素阻害剤の配合比が、1:20〜20:1である、請求項1〜5のいずれか1項に記載の難聴疾患の予防又は治療剤。
【請求項7】
前記難聴は、メニエール病、両性発作性頭位めまい症、前庭神経炎若しくはその他の末梢性めまい、中枢性めまい若しくはその他の前庭機能障害、騒音による内耳障害、両側性感音難聴、一側性感音難聴、両側性混合難聴、片側性混合難聴、聴器毒性難聴、老人性難聴、突発性難聴、遺伝子難聴のうち進行性のもの、耳の変性障害若しくは血管障害、耳鳴、又は聴神経障害である、請求項1〜6のいずれか1項に記載の難聴疾患の予防又は治療剤。

【図1】
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【公開番号】特開2012−148995(P2012−148995A)
【公開日】平成24年8月9日(2012.8.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−7581(P2011−7581)
【出願日】平成23年1月18日(2011.1.18)
【出願人】(803000056)財団法人ヒューマンサイエンス振興財団 (341)
【Fターム(参考)】