説明

難黄変性厚膜型塗り床材

【課題】紫外線の照射を受けても変色せず、意匠性、硬度等の諸特性が優れた塗り床を形成可能な厚膜型塗り床材を提供する。
【解決手段】本発明は、ポリイソシアネート化合物を含有する基剤、及びヒマシ油変性ポリオールを含有する硬化剤からなり、塗布前に混合する2液反応硬化型のポリウレタン樹脂系厚膜型塗り床材であって、ポリイソシアネート化合物が、1,6−ジイソシアナトヘキサンから得られ、イソシアヌレート構造を50%以上の割合で有するポリイソシアネート化合物を含み、常温硬化時のL表色系における明度指数Lが80以上である、ポリウレタン樹脂系厚膜型塗り床材である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、建築物の床の仕上げ材として適用される現場施工型の合成樹脂系塗り床材に関する。さらに詳細には、本発明は、床面の防塵、磨耗の防止およびカラーリングによる意匠性付与などのウレタン樹脂系塗り床材の一般的性能に加え、紫外線の影響による塗膜の変色性を大幅に軽減することで、長期的に塗り床材の施工初期の色合いを保持することができる厚膜型の淡彩色塗り床材に関する。
【背景技術】
【0002】
建築物の床に施工される塗り床材は、塗膜厚みにより、塗膜厚みが0.2〜0.4mmの薄膜型塗り床材と、塗膜厚みが0.8〜3mm位までの厚膜型塗り床材とに分類することができる。(ここでは樹脂モルタル工法は除く。)
【0003】
この薄膜型塗り床材には、材料の粘度調整のために、有機溶剤または水性の場合には水が一般的に材料中に30〜60%配合されている。このような薄膜型塗り床材は、ローラー刷毛で簡単に施工することができ、下地コンクリート床面の簡易的な防塵やカラーリングによる意匠性付与を目的に使用されている。薄膜型塗り床材の合成樹脂の種類としては、主なものにエポキシ樹脂系、ウレタン樹脂系、アクリル樹脂系がある。特にアクリル樹脂系においては、耐候性が良いことから、太陽光や殺菌灯等の紫外線からの影響を受ける場所に適用されている。
【0004】
一方、厚膜型塗り床材の合成樹脂の種類としては、エポキシ樹脂系やウレタン樹脂系が多く使用されているが、耐候性の優れているものがない。そのため、このような樹脂を用いた厚膜型塗り床材は、白色や淡彩色等の紫外線の影響による変色が目立つ色調として採用することは困難である。
【0005】
従って、このような厚膜型塗り床材によって白色系や淡彩色を施工しなくてはならない場合には、塗膜の変色を防止するために、塗り床材を施工して硬化させた後に、アクリル樹脂系などの耐候性の良い薄膜型塗り床材をトップコートとして施工する必要がある。その結果、必要な工程が増え、工期が1日延びてしまう不都合がある。また、この場合、トップコート層が薄膜であるためにローラー刷毛によるスジ目が発生したり、光沢の不均一等により、本来の厚膜型塗り床材の高級な仕上がり観が損なわれてしまうことになる。
【0006】
特許文献1には、イソシアネート基含有化合物を含む主剤成分と、ヒマシ油変性ポリオールを含む硬化剤成分とからなる防食被覆材、及び、この防食被覆材の施工例としてコンクリート床が記載されている。しかし、該文献には、イソシアネート基含有化合物の一例として1,6−ジイソシアナトヘキサンや、これとポリオールとを反応させたイソシアネート基末端プレポリマーが記載されているものの、イソシアネート基含有化合物のモノマー結合構造や粘度については記載がなく、更にその効果についても記載されていない。また、この防食被覆材の適用分野として、厚塗りや、床材の色について言及されていない。
【0007】
特許文献2には、特殊なポリオールと天然油誘導体とポリイソシアネート化合物とを含む床被覆材組成物が開示されている。この組成物において、特殊ポリオールと天然油誘導体を混合して用いる効果として、塗膜表面の発泡が抑制されること、及び低粘度で十分な可使時間を有することが挙げられている。用いられるポリイソシアネート化合物の一例として、1,6−ジイソシアナトヘキサン、およびそのイソシアヌレート構造を有する三量体化合物が挙げられている。しかし、該文献には、ポリイソシアネート化合物のモノマー結合構造と塗膜の耐変色性との直接的な関係は、記載されていない。また、この組成物の適用分野として、厚塗りや床材の色について言及されていない。
【0008】
特許文献3には、特殊なヒマシ油変性ポリオールとポリイソシアネートとから形成されたポリウレタン、及びその用途として床材が記載さている。用いられるポリイソシアネートの一例として、1,6−ジイソシアナトヘキサンや、イソシアヌレート変性体が挙げられている。しかし、該文献には、ポリイソシアネート化合物のモノマー結合構造を特定することによる効果は、記載されていない。また、このポリウレタンの適用分野として、床材の色調について言及されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2001−181569号公報
【特許文献2】特開2002−317149号公報
【特許文献3】特開2003−292563号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、建築物の床仕上げ材として使用される塗り床材において、太陽光や水銀灯、殺菌灯、蛍光灯などからの紫外線の照射を受けても黄変や変色が起こりにくく、耐候性が優れた塗り床を形成可能であり、揮発成分含有量の少ない厚膜型の淡彩色塗り床材を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは鋭意検討した結果、1,6−ジイソシアナトヘキサンから得られ、イソシアヌレート構造を50%以上の割合で有するポリイソシアネートを含有する基剤と、ヒマシ油変性ポリオールを含有する硬化剤とからなり、常温硬化時の明度指数が一定値以上である、2液反応硬化型のポリウレタン樹脂系塗り床材が、上記課題を解決できることを見いだし、本発明を完成するに至った。
【0012】
すなわち、本発明の構成は、以下のとおりである。
(1)ポリイソシアネート化合物を含有する基剤、及びヒマシ油変性ポリオールを含有する硬化剤からなり、塗布前に混合する2液反応硬化型のポリウレタン樹脂系厚膜型塗り床材であって、ポリイソシアネート化合物が、1,6−ジイソシアナトヘキサンから得られ、イソシアヌレート構造を50%以上の割合で有するポリイソシアネート化合物を含み、常温硬化時のL表色系における明度指数Lが80以上である、ポリウレタン樹脂系厚膜型塗り床材。
(2)ポリイソシアネート化合物の25℃における粘度が、200〜2000mPa・sである上記(1)記載のポリウレタン樹脂系厚膜型塗り床材。
(3)硬化剤に含有されるヒマシ油変性ポリオールが、ビスフェノールA型又はビスフェノールF型のエポキシ樹脂に、ヒマシ油脂肪酸を付加させてなるポリオールである上記(1)又は(2)に記載のポリウレタン樹脂系厚膜型塗り床材。
(4)硬化剤が、体質顔料、脱水剤、色顔料及び硬化触媒を含むコンパウンドである上記(1)〜(3)のいずれかに記載のポリウレタン樹脂系厚膜型塗り床材。
(5)硬化触媒として、有機錫化合物を使用する上記(1)〜(4)のいずれかに記載のポリウレタン樹脂系厚膜型塗り床材。
(6)ポリウレタン樹脂系塗り床材のトータル不揮発分量が、90%以上である上記(1)〜(5)のいずれかに記載のポリウレタン樹脂系厚膜型塗床材。
(7)上記(1)〜(6)のいずれかに記載のポリウレタン樹脂系厚膜型塗り床材から得られた塗り床であって、平均膜厚が0.8mm以上である塗り床。
なお、ここでの「塗り床」とは、塗り床材(床面施工用の塗料)を建築物の床下地に施工し、硬化させた場合において、床下地と接着した状態で一体化し、床機能を発揮する硬化塗膜を意味する。用いられる床下地の材料としては、特に限定されないが、典型的にはコンクリートやセメントモルタルが挙げられる。床下地の材料として、鉄板などの鋼板を用いることもできる。
【発明の効果】
【0013】
本発明により得られるポリウレタン樹脂系厚膜型塗り床材は、蛍光灯、水銀灯、太陽光、また場合によっては殺菌灯などから発せられる紫外線の影響による塗膜の黄変が非常に少ないことから、施工初期の色合いを長期間維持することができる。そのためこれまで不可能であった厚膜型塗り床材による白色や淡彩色の仕上げが可能となり、意匠性に富んだ床面を形成することができる。
更に、当該塗り床材から得られた塗り床は、強靱な架橋塗膜であるため、長期間に渡って優れた耐候性を有している。それと同時に、当該塗り床材は、厚膜の塗膜を形成するために好適に用いられ、得られた塗り床は、レベリング性や平滑性に優れた高級な仕上がり感を有する。
【0014】
更に、当該塗り床は、ウレタン樹脂の適度な弾性を有しているため、歩行感が優れ、疲労しにくい機能が得られ、さらに転倒した場合の怪我防止の効果を有する。また、引張り伸び性能があるため、下地コンクリートの乾燥収縮によるひび割れに対しても追従性があり、塗膜にクラックが生じにくい機能も有している。加えて、当該塗り床は、塗膜表面へのブリードがないため清掃性も良好であり、日常の生活材、例えば醤油、ソース、ケチャップ、コーヒー等が零れた場合でも、塗膜の色変化がなく耐汚染性も良好である。更には、低濃度の酸類やアルカリ類に対しても耐久性があることから、幅広い用途の床材として適用できる。
【発明を実施するための形態】
【0015】
まず、本発明の塗り床材に使用する基剤について説明する。
この基剤は、ポリイソシアネート化合物を含有する。ポリイソシアネート化合物は、1,6−ジイソシアナトヘキサン(以下、HDI)から得られ、モノマー結合構造としてイソシアヌレート構造を有する化合物である。HDIから得られたイソシアヌレート構造を有するポリイソシアネート化合物を選択することによって、ポリウレタン樹脂系塗り床材から形成される塗り床(硬化塗膜)の耐黄変性、耐光性、耐候性が向上するだけでなく、塗膜の強度向上やブリードの抑制にも効果が有り、更に、塗り床材の施工時(塗布時)の優れた泡抜け性、発泡性が得られ、また長いポットライフを達成することができる。これらの利点により、本発明の塗り床材は、厚塗り施工が可能であり、また意匠性が高い淡彩色用途で使用することができる。
【0016】
HDIから得られるイソシアヌレート構造を有するポリイソシアネート化合物を製造するためには、例えば特開昭55−38380号公報、特開平01−33115号公報、特開平01−54077号公報等の公知の技術を用いれば良い。なお、必要に応じて、他の脂肪族ジイソシアネート、脂環式ジイソシアネートや難黄変性芳香族ジイソシアネートや、それらのプレポリマーを混合しても良い。
【0017】
ポリイソシアネート化合物は、イソシアヌレート構造を分子内に50%以上含有していることが必要であり、80%以上含有していることがより好ましい。イソシアヌレート構造を分子内に50%以上含有していると、ポリウレタン樹脂系塗り床材から形成される塗り床の硬度、耐候性が一段と優れ、また耐熱性も優れる。ポリイソシアネート化合物中のイソシアヌレート構造の含有比率は、C13−NMRで、イソシアネートのカルボニル基のケミカルシフトを測定し、その面積を比較することで測定することが出来る。
【0018】
ポリイソシアネート化合物の粘度は、溶剤や可塑剤を含有しない条件で、25℃で200〜2000mPa・sであることが好ましい。300〜1800mPa・sであることがより好ましく、更に好ましくは450〜1500mPa・sである。この粘度を200mPa・s以上とすることでポリイソシアネート化合物の架橋性が十分となり、2000mPa・s以下とすることで基剤の固形分を高くすることが出来る。粘度は、E型粘度計を用いて測定することができる。
【0019】
ポリイソシアネート化合物の固形分は、90%以上であることが好ましいが、昨今の環境問題および人体への安全性を考慮すると95%以上であることがより好しく、99%以上であることが最も好ましい。固形分は、ポリイソシアネート化合物約1gを105℃で3時間、オーブン等の中で加熱した場合の加熱残分の割合を測定することによって求めることが出来る。
【0020】
ポリイソシアネート化合物におけるイソシアネート基含有率(以下、NCO含有率)は、好ましくは10%〜25%、より好ましくは15〜25%である。NCO含有率を10%以上とすることでウレタン樹脂系塗り床材から得られる塗膜の硬度が十分となり、25%以下とすることでポリオールとの反応後に不純物として含まれるHDIモノマーの量が十分に少なくなる。ポリイソシアネート化合物のNCO含有率は、イソシアネート基を過剰の2Nアミンで中和した後、1N塩酸による逆滴定を行うことによって求めることができる。
【0021】
ポリイソシアネート化合物のイソシアネート基の数平均官能基数は、2.5〜4.0が好ましく、2.8〜3.8がより好ましく、3.0〜3.5が最も好ましい。数平均官能基数を2.5以上とすることで架橋性が十分となり、3.8以下とすることでポットライフが長くなる。数平均官能基数は、(数平均分子量×NCO含有率)/4200で求めることが出来る。数平均分子量は、ゲルパーミションクロマトグラフィー(以下、GPC)で測定することが出来る。
【0022】
ポリイソシアネート化合物のGPCの測定方法について述べる。測定条件は、以下のとおりである。使用機器:HLC−8120(東ソー株式会社製)、使用カラム:TSK GEL SuperH1000、TSK GEL SuperH2000、TSK GEL SuperH3000(何れも東ソー株式会社製)、試料濃度:5wt/vol%、キャリア:THF、検出方法:視差屈折計、流出量0.6ml/min、カラム温度:30℃。GPCの検量線は、分子量50000〜2050のポリスチレン(ジーエルサイエンス株式会社製PSS−06(Mw50000)、BK13007(Mp=20000、Mw/Mn=1.03)、PSS−08(Mw=9000)、PSS−09(Mw=4000)、5040−35125(Mp=2050、Mw/Mn=1.05))、1,6−ジイソシアナトヘキサン系ポリイソシアネート化合物(デュラネートTPA−100、旭化成ケミカルズ株式会社製)のイソシアヌレート体の3量体〜7量体(イソシアヌレート3量体分子量=504、イソシアヌレート5量体分子量=840、イソシアヌレート7量体分子量=1176)、及びHDI(分子量=168)を標準として作成することができる。
【0023】
続いて、本発明の塗り床材に使用する硬化剤について説明する。
この硬化剤は、ヒマシ油変性ポリオールを含有する。ヒマシ油変性ポリオールとは、疎水性が高いヒマシ油の性質を利用して、ヒマシ油をベースとして更に水酸基を付加させたポリオールである。ヒマシ油変性ポリオールとしては、ヒマシ油のアルキレンオキサイド付加物、ヒマシ油またはヒマシ油脂肪酸と低分子ポリオール・ポリエステルポリオール・ポリエーテルポリオールとのエステル交換物、ヒマシ油のジオール型の部分脱水化物や部分アシル化物、これらの水添物などが挙げられる。その中でも、ビスフェノールA型もしくはビスフェノールF型のエポキシ樹脂に、ヒマシ油脂肪酸を付加させてなるポリオールが好ましい。更に、1分子中に10〜50重量%のビスフェノールA骨格を有するものが適しており、20〜40重量%有しているのがより好ましい。
【0024】
これらヒマシ油変性ポリオールは低粘度であることから、塗り床材施工時において良好な作業性を確保することができる。そして、ヒマシ油変性ポリオールを含む塗り床材は、十分な疎水性が付与されていることにより、基剤と硬化剤の混合時の空気の巻き込み、及び施工された塗膜が湿気を含んだ空気と接触することによる炭酸ガス発生を抑制することができるため、良好な仕上り性を得ることができる。
【0025】
ヒマシ油変性ポリオールの粘度は、B形粘度計を用いて測定することができる。この粘度は、塗り床材の施工性および硬化後の仕上り性から、溶剤や可塑剤を含有しない条件で、25℃で1000〜7000mPa・sであることが好ましく、1500〜5000mPa・sであることがより好ましい。
【0026】
また、ヒマシ油変性ポリオールの水酸基価は150〜300mgKOH/gであることが好ましく、200〜250mgKOH/gであることがさらに好ましい。水酸基価を150mgKOH/g以上とすることで硬度が十分な塗膜を形成可能であり、300mgKOH/g以下とすることで塗り床材の硬化性が改善され、ポリウレタン樹脂としての強靱性が得られる。
【0027】
このヒマシ油変性ポリオールの数平均分子量は、500〜2000が好ましく、700〜1200であることがさらに好ましい。数平均分子量を500以上とすることで硬化性が十分となり、ポリウレタン樹脂としての強靱性が得られ、2000以下とすることで硬度が十分な塗膜を形成可能であり、ポリウレタン樹脂の粘度が低く適正な範囲となる。数平均分子量は、ゲルパーミションクロマトグラフィー(以下、GPC)で測定することが出来る。
【0028】
ヒマシ油変性ポリオールのGPCの測定方法について述べる。測定条件は、以下のとおりである。使用機器:Shodex GPC−104(昭和電工株式会社製)、使用カラム:Shodex GPC KF−600RL、Shodex GPC KF−602、Shodex GPC KF−603、Shodex GPC KF−604(何れも昭和電工株式会社製)、試料濃度:2.5wt/vol%、キャリア:THF、検出方法:視差屈折計、流出量0.6ml/min、カラム温度:40℃。GPCの検量線は、分子量4230000〜1260のポリスチレン(昭和電工株式会社製SM−105 S−4230(Mw=4230000、Mw/Mn=1.05)、SM−105 S−2330(Mw=2330000、Mw/Mn=1.06)、SM−105 S−956(Mw=956000、Mw/Mn=1.03)、SM−105 S−723(Mw=723000、Mw/Mn=1.05)、SM−105 S−219(Mw=211000、Mw/Mn=1.03)、SM−105 S−52.2(Mw=52200、Mw/Mn=1.02)、SM−105 S−30.3(Mw=30300、Mw/Mn=1.02)、SM−105 S−13.0(Mw=13000、Mw/Mn=1.02)、SM−105 S−3.79(Mw=3790、Mw/Mn=1.04)、SM−105 S−1.26(Mw=1260、Mw/Mn=1.06))を標準として作成することができる。
【0029】
また、このヒマシ油変性ポリオールにおけるヒドロキシル基の数平均官能基数は、3.0〜5.0が好ましく、3.5〜4.5が好ましい。数平均官能基数は、上記の様にして測定した数平均分子量を水酸基当量で割ること(以下の式)で求められる。
数平均官能基数=数平均分子量/水酸基当量(水酸基当量=(56.11/水酸基価)×1000)
【0030】
更に、このヒマシ油変性ポリオールにおいては含有する水分率は低い方が良く、0.05%以下であることが好ましい。水分率は、カールフィッシャー微量水分測定器(三菱化学製CA−100型)を用いて測定することができる。準備として、滴定セルにアクアミクロンAX(三菱化学製)を約100mL入れ、対極液槽にアクアミクロンCXU(三菱化学製)を5mL入れる。次いで、試料を注射器で吸い取り、滴定セルに注入して測定を行うことができる。
【0031】
ヒマシ油変性ポリオールの固形分も、ポリイソシアネート化合物と同様に、昨今の環境問題および人体への安全性を考慮すると95%以上であることが好しく、99%以上であることがより好ましい。固形分は、ポリイソシアネート化合物約1gを105℃で3時間、オーブン等の中で加熱した場合の加熱残分の割合を測定することによって求めることが出来る。
【0032】
硬化剤には、上記ヒマシ油変性ポリオールに加えて、必要に応じて、例えば、アクリルポリオール、ポリアルキレングリコール、ポリブタジエン系ポリオール、ポリカーボネートポリオール等のポリオールを混合して用いることもできる。
【0033】
本発明の塗り床材は、基剤と硬化剤の2液反応硬化型であり、この基剤と硬化剤の配合割合は、イソシアネート基/ヒドロキシル基のモル比が、0.7〜1.3であることが好ましく、0.9〜1.1であることがより好ましい。このモル比を0.7以上とすることで乾燥性が十分なものとなり、1.3以下とすることで炭酸ガスの発生が少なく、得られる塗膜の外観が美しくなる。
【0034】
本発明の塗り床材には、好ましくは脱水剤が使用される。脱水剤は、好ましくは硬化剤に配合される。この脱水剤は、硬化反応の過程で炭酸ガスの発生を低減させることを目的として用いられる。脱水剤としては、合成ゼオライト、シリカゲル、酸化カルシウム、活性アルミナ等の吸水作用のある粉体が使用でき、例えば細孔径3Å〜5Åの合成ゼオライトを使用することができる。
【0035】
本発明の塗り床材は、施工現場で適度な粘性を有していることが必要であることから、好ましくは粘度調整剤を使用する。粘度調整剤は、好ましくは硬化剤に配合される。粘度調整剤としては、フタル酸ジブチル、フタル酸ジ2−エチルヘキシル、フタル酸ジオクチル、フタル酸ジブチルベンジル等のフタル酸エステル類、アジピン酸ジオクチル、セバシン酸ジブチル、セバシン酸ジオクチル等の脂肪族二塩基酸エステル類等、一般的にウレタン系材料に配合される可塑剤が使用できる。また、植物油系エステルも使用することができる。
【0036】
更に、本発明の塗り床材には好ましくは体質顔料を使用することができる。体質顔料は、好ましくは硬化剤に配合される。体質顔料としては、炭酸カルシウム、硫酸バリウム、シリカ、クレー、タルクなどが使用できる。体質顔料は、施工性および硬化塗膜の物性から、粘度調整剤の配合量とのバランスを考慮して配合する。
【0037】
本発明の塗り床材には、硬化触媒を使用することが好ましい。硬化触媒は、好ましくは硬化剤に配合される。この硬化触媒としては、トリエチルアミン、トリプロピルアミン、トリエチレンジアミン、1,4−ジアザビシクロ[2,2,2]オクタン等のアミン系触媒、オクチル酸錫、オレイン酸錫、ラウリン酸錫、ジブチル錫ジアセテート、ジブチル錫ジラウレート、ジブチル錫ジクロライド、オクチル酸鉛、ナフテン酸鉛、オクチル酸ビスマス等の有機金属系触媒等が挙げられる。これらの硬化触媒の中でも、有機錫化合物がより好ましい。また、これらの硬化触媒のうち、触媒効果の点から、ジブチル錫ジアセテート、ジブチル錫ジラウレート、ジブチル錫ジクロライドの使用が最も好ましい。
【0038】
さらに必要に応じて、本発明の塗り床材には、添加剤として、消泡剤、分散剤、色別れ防止剤、レベリング剤等の塗料用添加剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、加水分解防止剤等の安定剤等も使用することができる。
【0039】
硬化剤は、好ましくは色顔料を含有する。色顔料としては、酸化チタン、カーボンブラック、銅フタロシアニン系顔料、弁柄、アゾ系顔料等の一般的なものが使用できる。
【0040】
本発明の塗り床材は、厚膜型であることから塗膜の硬化性を考慮し、また昨今のシックハウス問題等の環境対策を考慮して、トータル不揮発分量は90%以上であることが好ましい。このトータル不揮発分量は、JIS K5601−1−2塗料成分試験方法 第1部:通則 第2節:加熱残分に示される方法で求められる。ポリイソシアネート化合物を含有する基剤成分と、ヒマシ油変性ポリオールをベースとし、体質顔料、硬化触媒、色顔料、添加剤等の必要成分を分散混合してコンパウンドとして作製された硬化剤とを、規定の配合比率で十分に撹拌混合したものを試料とし、この試料に対して上記JIS試験方法に準拠した試験を行い、トータル不揮発分量を評価した。ここでの試験の条件は、加熱温度:105℃、加熱時間:1時間とした。
【0041】
本発明のポリウレタン樹脂系塗り床材の色調は、淡彩色又は白色である。ここでの淡彩色又は白色とは、常温硬化時のL表色系における明度指数Lが80以上であるものを指しており、クロマティクネス指数aおよびbについては、特に規定するものではない。本発明のポリウレタン樹脂系塗り床材から得られる塗り床は、0.8mm以上の平均膜厚(任意の複数点の膜厚の平均)を有することが好ましい。0.8mm以上の膜厚を有することによって、床表面の凸凹を覆い隠し、美しい表面性が達成できるだけでなく、塗膜の弾性によって歩行時の疲れを低減することができ、更には転倒時における怪我を防止することができる。膜厚の上限は、一般的には2mm程度であるが、耐衝撃性などを向上させるために3mm以上の膜厚に塗布する場合もある。
【0042】
塗り床材の施工方法としては、一般的な合成樹脂系塗り床材と同様の方法を用いることができる。例えば、床面コンクリート表面を研磨処理により汚れや脆弱な層を除去し、その面にウレタン樹脂系やエポキシ樹脂系のプライマーを塗付し硬化させた後、当該塗り床材を金ゴテを使用して施工することができる。1回当たりの典型的な塗付量は、0.8〜2.0kg/平方メートルとすることができる。
【実施例】
【0043】
以下に、本発明を、実施例により具体的に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
【0044】
ポリイソシアネート化合物のNCO含有率は、イソシアネート基を過剰の2Nアミンで中和した後、1N塩酸による逆滴定を行うことによって求めた。
また、ポリイソシアネート化合物の粘度は、E型粘度計(株式会社トキメック社)を用いて25℃で測定した。用いた標準ローター(1°34’×R24)の回転数は、以下の通りである。
100r.p.m.(128mPa・s未満の場合)
50r.p.m. (128mPa・s〜256mPa・sの場合)
20r.p.m. (256mPa・s〜640mPa・sの場合)
10r.p.m. (640mPa・s〜1280mPa・sの場合)
5r.p.m. (1280mPa・s〜2560mPa・sの場合)
【0045】
また、ポリオールの粘度は、BH形粘度計(東機産業株式会社)を用いて、ローター回転速度20r.p.m、温度25℃で測定した。使用したローターは以下の通りである。
No.2 (200mPa・s〜1600mPa・sの場合)
No.3 (500mPa・s〜4000mPa・sの場合)
No.4 (1000mPa・s〜8000mPa・sの場合)
【0046】
実施例1
硬化剤として、数平均分子量700、水酸基価232mgKOH/g、粘度4000mPa・s、固形分100%であるヒマシ油変性ポリオールURIC F−40(伊藤製油株式会社)100重量部、湿潤分散剤としてDisperbyk−108(ビックケミー社)1.0重量部、消泡剤としてBYK−054(ビックケミー社)1.8重量部、硫酸バリウムとしてバライトBA(堺化学工業株式会社)100重量部、合成ゼオライトとしてゼオラムA4(東ソー株式会社)20重量部、錫系触媒としてネオスタンU−100(日東化成株式会社)0.05重量部、白色カラーペーストとしてTFC−U2021VCホワイト(東京インキ株式会社)17.0重量部を真空式分散機に投入し、減圧下で十分に内容物が均一に分散するまで混合撹拌を行った。
【0047】
この硬化剤250gに対し、基剤となるポリイソシアネート化合物として、1,6−ジイソシアナトヘキサン系ポリイソシアネート化合物であり、イソシアヌレート基含有率90%以上、NCO含有率23.1%、粘度1300mPa・s、数平均分子量590、数平均官能基数3.2、固形分99%以上であるデュラネートTPA−100(旭化成ケミカルズ株式会社)を78g(NCO/OH=1.0)計量し、撹拌混合したものを試料とし、以下に示す方法でこの試料を硬化させたものを各種物性の試験材料とした。
【0048】
実施例2
硬化剤として、数平均分子量630、水酸基価178mgKOH/g、粘度4000mPa・s、固形分100%であるヒマシ油変性ポリオールURIC AC−006(伊藤製油株式会社)100重量部、湿潤分散剤としてDisperbyk−108(ビックケミー社)1.0重量部、消泡剤としてBYK−054(ビックケミー社)1.8重量部、硫酸バリウムとしてバライトBA(堺化学工業株式会社)100重量部、合成ゼオライトとしてゼオラムA4(東ソー株式会社)20重量部、錫系触媒としてネオスタンU−100(日東化成株式会社)0.05重量部、白色カラーペーストとしてTFC−U2021VCホワイト(東京インキ株式会社)17.0重量部を真空式分散機に投入し、減圧下で十分に内容物が均一に分散するまで混合撹拌を行った。
【0049】
この硬化剤250gに対し、基剤となるポリイソシアネート化合物としては、上記実施例1と同じ1,6−ジイソシアナトヘキサン系ポリイソシアネート化合物であり、数平均分子量590、NCO含有率23.1%であるデュラネートTPA−100(旭化成ケミカルズ株式会社)を60g(NCO/OH=1.0)計量し、撹拌混合したものを試料とし、以下に示す方法でこの試料を硬化させたものを各種物性の試験材料とした。
【0050】
実施例3
硬化剤として実施例1と同様に作製した硬化剤を使用し、この硬化剤250gに対し、基剤となるポリイソシアネート化合物としては、1,6−ジイソシアナトヘキサン系ポリイソシアネート化合物であり、イソシアヌレート基含有率90%以上、NCO含有率21.7%、粘度2600mPa・s、数平均分子量670、数平均官能基数3.3、固形分99%以上であるデュラネートTKA−100(旭化成ケミカルズ株式会社)を83g(NCO/OH=1.0)計量し、撹拌混合したものを試料とし、以下に示す方法でこの試料を硬化させたものを各種物性の試験材料とした。
【0051】
実施例4
硬化剤として実施例1と同様に作製した硬化剤を使用し、この硬化剤250gに対し、基剤となるポリイソシアネート化合物としては、1,6−ジイソシアナトヘキサン系ポリイソシアネート化合物であり、イソシアヌレート基含有率60%以上、NCO含有率20.6%、数平均分子量560、粘度500mPa・s、数平均官能基数2.8、固形分99%以上であるデュラネートTSA−100(旭化成ケミカルズ株式会社)を87g(NCO/OH=1.0)計量し、撹拌混合したものを試料とし、以下に示す方法でこの試料を硬化させたものを各種物性の試験材料とした。
【0052】
比較例1
硬化剤として実施例1と同様に作製した硬化剤を使用し、この硬化剤250gに対し、基剤となるポリイソシアネート化合物としては、1,6−ジイソシアナトヘキサン系ポリイソシアネート化合物であり、イソシアヌレート基含有率10%以下、NCO含有率8.5%、数平均分子量1580、粘度1200mPa・s、数平均官能基数3.2、固形分90%であるデュラネートE402−100(旭化成ケミカルズ株式会社)を212g(NCO/OH=1.0)計量し、撹拌混合したものを試料とし、以下に示す方法でこの試料を硬化させたものを各種物性の試験材料とした。
【0053】
比較例2
硬化剤として実施例1と同様に作製した硬化剤を使用し、この硬化剤250gに対し、基剤となるポリイソシアネート化合物としては、1,6−ジイソシアナトヘキサン系ポリイソシアネート化合物であり、イソシアヌレート基含有率10%以下、NCO含有率23.5%、数平均分子量590、粘度1800mPa・s、数平均官能基数3.3、固形分99%以上であるデュラネート24A−100(旭化成ケミカルズ株式会社)を77g(NCO/OH=1.0)計量し、撹拌混合したものを試料とし、以下に示す方法でこの試料を硬化させたものを各種物性の試験材料とした。
【0054】
比較例3
硬化剤として実施例1と同様に作製した硬化剤を使用し、この硬化剤250gに対し、基剤となるポリイソシアネート化合物として、トリレンジイソシネート系ポリイソシアネート化合物であり、NCO含有率5.8%、粘度5640mPa・s、数平均分子量670、数平均官能基数2.15、固形分88.3%であるプライアデックPF−2393(DIC株式会社)を312g(NCO/OH=1.0)計量し、撹拌混合したものを試料とし、以下に示す方法でこの試料を硬化させたものを各種物性の試験材料とした。
【0055】
比較例4
硬化剤として実施例1と同様に作製した硬化剤を使用し、この硬化剤250gに対し、基剤となるポリイソシアネート化合物として、ポリメチレンポリフェニルポリイソシアネートであり、NCO含有量31.2%、粘度200mPa・s、固形分99%以上であるミリオネートMR−200(日本ポリウレタン株式会社)を58g(NCO/OH=1.0)計量し、撹拌混合したものを試料とし、以下に示す方法でこの試料を硬化させたものを各種物性の試験材料とした。
【0056】
比較例5
硬化剤として、ポリプロピレングリコール系ポリオールであり、数平均分子量2000 、水酸基価56mgKOH/g、粘度300mPa・s、固形分99%以上であるハイフレックスD2000(第一工業製薬株式会社)100重量部、湿潤分散剤としてDisperbyk−108(ビックケミー社)1.0重量部、消泡剤としてBYK−054(ビックケミー社)1.8重量部、硫酸バリウムとしてバライトBA(堺化学工業株式会社)100重量部、合成ゼオライトとしてゼオラムA4(東ソー株式会社)20重量部、錫系触媒としてネオスタンU−100(日東化成株式会社)0.05重量部、白色カラーペーストとしてTFC−U2021VCホワイト(東京インキ株式会社)17.0重量部を真空式分散機に投入し、減圧下で十分に内容物が均一に分散するまで混合撹拌を行った。
【0057】
この硬化剤250gに対し、基剤となるポリイソシアネート化合物としては、上記実施例1と同じ1,6−ジイソシアナトヘキサン系ポリイソシアネート化合物であり、数平均分子量590、NCO含有量23.1%であるデュラネートTPA−100(旭化成ケミカルズ株式会社)を19g(NCO/OH=1.0)計量し、撹拌混合したものを試料とし、以下に示す方法でこの試料を硬化させたものを各種物性の試験材料とした。
【0058】
試験体の作製方法
試験体I:予め環境条件を10℃50%RHおよび30℃90%RHに調整された部屋で、JIS A5371プレキャスト無筋コンクリート製品に準拠した普通平板(縦300mm、横300mm、厚み60mm)の表面を、サンドペーパー#50で研磨処理をした後、プライマーとして湿気硬化型ウレタン系プライマーであるプライアデックT−117(DIC株式会社製)を刷毛にて塗布量0.1kg/平方メートル塗布し、これを硬化乾燥させたものを下地として、上記の各試料を金ゴテにより1.4kg/平方メートル(硬化後の平均膜厚1.0mm)塗布し、7日間硬化養生した。
【0059】
試験体II:予め環境条件を23℃50%RHに調整された部屋で、テフロン(登録商標)シートを貼り付けたガラス板を水平に設置した上に、上記の各試料を平均膜厚が2mmになるように塗り付ける。7日間硬化養生後に硬化塗膜をテフロン(登録商標)シート面から剥がし取り試験体とした。
【0060】
各種物性の試験方法
・トータル不揮発分量:硬化させる前の段階における試料について測定を行った。各実施例および比較例に示した配合処方で混合した直後の試料について、JIS K5601−1−2塗料成分試験方法−第一部:通則−第二節:加熱残分に準拠して測定を行った。試料採取量は1g、加熱温度は105℃、加熱時間は60分とした。
・明度指数L:試験体IIを使用し、JIS K5600−4−5塗料一般試験方法−第4節:塗膜の視覚特性−第5節:測色(測定)に準拠して、色彩色差計CR−400(コニカミノルタセンシング株式会社)により、試験体の明度指数Lを測定した。
・粘度上昇率:基剤と硬化剤を混合した直後の粘度を測定し、これを初期粘度とする。その混合物を15分放置した後の粘度を測定し、これを経過粘度とする。経過粘度の初期粘度に対する上昇率を以下の式より求めた。
粘度上昇率(%)={(経過粘度−初期粘度)/初期粘度}×100
ここでの粘度は、BH形粘度計(東機産業株式会社製)を用いて、ローター回転速度20r.p.m、温度23℃で測定した。使用したローターは、以下のとおりである。
No.4(1000mPa・s〜8000mPa・sの場合)
No.5(2000mPa・s〜16000mPa・sの場合)
No.6(5000mPa・s〜40000mPa・sの場合)
【0061】
・塗膜の外観:試験体Iを使用し、7日間硬化養生後の塗膜の外観(発泡及びタック)を目視にて観察評価した。また、塗膜の表面のブリード(配合されている原料の一部が塗膜表面に移行する現象)の有無を指触により観察した。
・硬度:試験体IIの塗膜を3枚重ねて使用し、JIS K7215プラスチックのデュロメータ硬さ試験方法に準拠し、タイプAにおけるデュロメータ硬さを測定した。
・引張強度:試験体IIを使用し、JIS K6251加硫ゴム及び熱可塑性ゴム−引張特性の求め方に準拠し、ダンベル状3号形にて最大強度を測定した。
【0062】
・伸び率:試験体IIを使用し、JIS K6251に準拠し、引張強度の測定時において、試験体が破断し始めた時の伸び幅から伸び率を求めた。
・接着強度:試験体Iを使用し、建研式引張試験にて測定した。40mm×40mmの鋼製アタッチメントを塗膜にエポキシ系接着剤を用いて接着させ、接着剤が硬化後、鋼製アタッチメントに沿って塗膜に切り込みを入れ、鋼製アタッチメントを垂直に引っ張り上げて塗膜が剥離した時の最大強度を測定した。この最大強度を単位面積当たりの強度に換算し、これを接着強度とした。
接着強度(N/mm)=最大強度/(40×40)
・摩耗質量:試験体IIを平滑なステンレス板に装着したものを試験に供した。試験の方法は、JIS K5600−5−9塗料一般試験方法−第5部:塗膜の機械的性質−第9節:耐摩耗性(摩耗輪法)に準拠し、テーバー摩耗試験機を使用して摩耗した質量を測定した。試験条件は、摩耗輪CS−17、荷重9.8N、回転数1000回とした。
【0063】
・耐候性:試験体IIを使用し、JIS K5600−7−7に準拠し、塗料一般試験方法−第7部:塗膜の長期耐久性−第7節:促進耐候性(キセノンランプ法)により600時間所定の環境下に暴露した。測定の方法は、JIS K5600−4−5塗料一般試験方法−第4節:塗膜の視覚特性−第5節:測色(測定)に準拠して、色彩色差計CR−400(コニカミノルタセンシング(株)製)により、試験体のLを測定し、JIS K5600−4−6塗料一般試験方法−第4節:塗膜の視覚特性−第6節:測色(色差の計算)に準拠してブランク塗膜との色差ΔEabを求めた。
色差ΔEabを求める式は、以下の通りである。
暴露前の測定値を基準色(L、a、b)とし、暴露後の測定値を(L、a、b)とすると、色差ΔEabは以下の式で得られる。
ΔL=L−L Δa=a−a Δb=b−b
ΔEab=[(ΔL+(Δa+(Δb(1/2)
【0064】
・耐水性:水道水2mlを試験体Iの表面に滴下し、48時間経過後に滴下した水道水をワイパーで拭き取った後の塗膜の状態を観察した。
・耐薬品性:薬液2mlを試験体Iの表面に滴下し、48時間経過後に滴下した薬液をワイパーで拭き取り除去した後の塗膜の状態を観察した。薬液は、塩酸、クエン酸、水酸化ナトリウム、次亜塩素酸の各々の5%水溶液と、水酸化カルシウムの飽和水溶液を用いた。
【0065】
各種物性の評価基準は、以下のとおりである。

【0066】
トータル不揮発分量は、実施例1から実施例4および比較例1から比較例5の全てにおいて、95%〜99%の範囲で測定された。また、常温硬化時の(試験体IIの)明度指数Lは、実施例1から実施例4および比較例1から比較例5の全てにおいて、92〜94の範囲で測定された。
トータル不揮発分量および明度指数L以外の物性に関し、実施例1〜実施例4における試験結果を表1に、比較例1〜比較例5における試験結果を表2に示す。
【0067】
【表1】

【0068】
【表2】

【0069】
これらの結果から、本発明による実施例1〜4による塗り床材及び形成された塗膜は、比較例1〜5によるものと比べ、耐候性(耐変色性)をはじめ、塗膜概観、硬度等の諸物性においてバランスの優れた特性を有することが分かった。
【産業上の利用可能性】
【0070】
本発明による難黄変性の厚膜型塗り床材から形成される塗り床は、床仕上げ材として必要な機能である適度な硬度および耐久性を有している。更に、当該塗り床材は、厚膜型の塗膜で、且つ白色や淡彩色の仕上げが可能であることから、高い意匠性が要求される商業施設やレジャー施設など、幅広い用途に適用できる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリイソシアネート化合物を含有する基剤、及びヒマシ油変性ポリオールを含有する硬化剤からなり、塗布前に混合する2液反応硬化型のポリウレタン樹脂系厚膜型塗り床材であって、ポリイソシアネート化合物が、1,6−ジイソシアナトヘキサンから得られ、イソシアヌレート構造を50%以上の割合で有するポリイソシアネート化合物を含み、常温硬化時のL表色系における明度指数Lが80以上である、ポリウレタン樹脂系厚膜型塗り床材。
【請求項2】
ポリイソシアネート化合物の25℃における粘度が、200〜2000mPa・sである請求項1に記載のポリウレタン樹脂系厚膜型塗り床材。
【請求項3】
硬化剤に含有されるヒマシ油変性ポリオールが、ビスフェノールA型又はビスフェノールF型のエポキシ樹脂に、ヒマシ油脂肪酸を付加させてなるポリオールである請求項1又は2に記載のポリウレタン樹脂系厚膜型塗り床材。
【請求項4】
硬化剤が、体質顔料、脱水剤、色顔料及び硬化触媒を含むコンパウンドである請求項1〜3のいずれかに記載のポリウレタン樹脂系厚膜型塗り床材。
【請求項5】
硬化触媒として、有機錫化合物を使用する請求項1〜4のいずれかに記載のポリウレタン樹脂系厚膜型塗り床材。
【請求項6】
ポリウレタン樹脂系塗床材のトータル不揮発分量が、90%以上である請求項1〜5のいずれかに記載のポリウレタン樹脂系厚膜型塗り床材。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれかに記載のポリウレタン樹脂系厚膜型塗り床材から得られた塗り床であって、平均膜厚が0.8mm以上である塗り床。

【公開番号】特開2011−236360(P2011−236360A)
【公開日】平成23年11月24日(2011.11.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−110266(P2010−110266)
【出願日】平成22年5月12日(2010.5.12)
【出願人】(303046314)旭化成ケミカルズ株式会社 (2,513)
【出願人】(598108412)株式会社エービーシー建材研究所 (13)
【Fターム(参考)】