説明

雨水処理施設

【課題】貯水槽10を備えた雨水処理施設Aにおいて、天井面が地表面に近い位置になるようにして貯水槽10を地中に埋設することが求められる場合でも、貯水槽10に貯留された雨水に起因して、土壌表層部が軟弱化するのを回避できるようにする。それにより、地中に埋設する貯水槽10の貯水容積を容易かつ低コストで増大可能とする。
【解決手段】雨水貯留空間を持つ構成部材11が透水性シート13によって覆われた形態の貯水槽10が地中に埋設されてなる雨水処理施設Aにおいて、埋設されている貯水槽10は上方領域を遮水性シート12で覆い、その領域からは貯水槽10内の貯水が地中に浸透しないようする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は雨水処理施設、より詳しくは、雨水貯留空間を持つ構成部材が透水性シートによって覆われた貯水槽が地中に埋設されてなる雨水処理施設に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、中小河川の排水能力を上回る規模の降雨が短期間に集中して生じたときに、河川からの溢水によって災害が生じるのを防止する目的で、地中に貯水槽を埋設して雨水の一部を一時的に当該貯水槽に貯水するようにした雨水処理施設を設けることが、都市部などで行われている。貯水槽には貯留槽と浸透槽の2つの形態があり、施設を設置する環境等に応じて適宜選択される。貯留槽は全体が遮水性シートで覆われた形態であり、道路側溝等から槽内に流入した雨水はそのまま貯留され、必要時にポンプ等で汲み上げて散水等に利用される。浸透槽は全体が透水性シートで覆われた形態であり、槽内に流入した雨水は一時的に槽内に貯水されるが、時間の経過と共に透水性シートを通って周囲の地盤中に浸透していくことで槽外に排出される。
【0003】
そのような浸透槽を備えた雨水処理施設の例が、特許文献1あるいは特許文献2に記載されている。特許文献1では、特許文献3に記載されるような、凸部からなる列が一定の間隔を置いて多列に平行に形成されている樹脂成形品である貯水空間形成部材の複数枚を交互に直角に交差した姿勢で積層して形成された貯水槽が、地盤中に埋設されており、該貯水槽の全体は透水性シートで覆われている。特許文献2では、路面に透水性を有する表層部を形成し、該表層部の下方に容器状部材を縦横かつ上下に連結したブロック構造体を埋設して上記表層部に浸透した水をブロック構造体に集めて貯留部となすとともに、該ブロック構造体の路面の内側となる側面を遮水性シートで覆い、それにより、ブロック構造体に貯まった水が道路の主要部の下方に浸透するのを防止している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2010−229803号公報
【特許文献2】特許第4084478号公報
【特許文献3】特開2009−24447号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に記載される形態の雨水処理施設において、集中豪雨等によって大量の雨水が貯水槽内に流入し貯水槽が満水状態となったときに、貯水槽の上方領域からも雨水が周囲の地盤中に時間と共に浸透していく。そのために、貯水槽全体を地表面に近い位置に設置すると、その浸透水により、地表面に近い土壌が過剰に水分を含んだ状態となり、軟弱土壌となってしまう。それを回避するために、すなわち、設計雨量あるいはそれを超えた雨量の降雨があった場合にも、表層土壌の軟弱化を引き起こすことがないように、これまでの雨水処理施設では、例えば地表面から5m以下等、かなり深い位置に貯水槽を埋設するようにしている。
【0006】
特許文献2に記載の雨水処理施設の場合は、ブロック構造体(貯水槽)の路面の内側となる側面を遮水性シートで覆うことで、道路の主要部の下方が軟弱化することは回避できる。しかし、道路の両側には貯水槽から雨水が浸透していくので、周囲の建物等への影響を考慮すると、やはり貯水槽を地表面に近接した位置に設置することはできない。
【0007】
気象環境の変化により、従来の設計雨量を超える量の降雨が集中豪雨として起こり得ることが予測され、新たに設計する雨水処理施設はもちろん、すでに設置されている上記形態の雨水処理施設にも、それに対する対策を講じることが求められる。対策の一つとして、貯水槽の容積を大きくすることが挙げられる。この場合、特に道路下に貯水槽を設置するような場合には、横幅には制限があることから、貯水容積を大きくするには、上下高さを大きくするのが現実的解決策とならざるを得ない。その際に、容積の増加分だけ地盤を深く掘削してそこに貯水槽を埋設設置することで、表層土壌に悪影響を与えることなく、課題を解決することはできる。しかし、より深く掘削することは、施工コストあるいは改修コストが大きく増大する。地表面に近い位置に上面が位置するように貯水槽を設置できれば、比較して低コストで施工あるいは改修することができる。しかし、従来形式の貯水槽、すなわち全体が透水性シートで覆われた貯水槽を用いる場合には、前記したように土壌表層部の軟弱化を引き起こす恐れがあり、有効な解決策とはならない。
【0008】
雨水処理施設の施工場所によっては、十分な深さに貯水槽を設置することができない場合もある。その場合、これまでと同じ貯水容量の貯水槽を用いようとすると、従来よりも地表面に近い深さに貯水槽を設置せざるを得なくなり、同様な問題が生じることから、実際の施工に当たっては、より小さい容積の貯水槽を埋設することとなる。
【0009】
本発明は、上記の事情に鑑みてなされたものであり、事情により、天井面が地表面に近い位置になるようにして貯水槽を地中に埋設することが求められる場合でも、貯水槽に貯留された雨水に起因して、土壌表層部に軟弱化が生じるのを回避できるようにした雨水処理施設を開示することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記の課題を解決するための本発明による雨水処理施設は、雨水貯留空間を持つ構成部材が透水性シートによって覆われた形態の貯水槽が地中に埋設されてなる雨水処理施設において、前記埋設されている貯水槽は上方領域に遮水性シートで覆われた領域を有し、その領域からは貯水槽内の貯水が地中に浸透しないようにされていることを特徴とする。
【0011】
本発明による雨水処理施設では、地中に埋設した貯水槽の上方領域、すなわち地表面に近い領域は、遮水性シートで覆われており、集中豪雨時に流入する雨水によって貯水槽が満水の状態となったときでも、該遮水性シートで覆われた領域からは、貯留水が地盤中に浸透していくことはない。貯留水は、貯水槽におけるより下位の領域、すなわち透水性シートで覆われた領域から地盤中に次第に浸透していく。そのために、当該貯水槽を地表面にかなり近接した位置に設置(埋設)したとしても、地表面および地表面に近い土層部分が、貯水槽から地盤中に浸透していく水によって軟弱化するのを回避できる。
【0012】
一例として、既設の雨水処理施設の貯水量をより大きなものにすることを求められる場合、地盤をさらに深く掘削するのではなく、既に地中に埋設されている貯水槽の天井面近傍まで掘削し、貯水槽の上部側に雨水貯留空間を持つ構成部材を追加的に積み重ね、積み重ねた部分の前記構成部材を遮水性シートで覆うことで、当該雨水処理施設を、貯水容積が大きくなり、かつ貯水槽が満水状態になったときでも地表面に近い土層に軟弱化等の悪影響を生じさせることのない雨水処理施設に改修することが可能となる。そのために、改修に要する施工コストを大幅に低減することができる。
【0013】
新規に雨水処理施設を施工する場合でも、従来の雨水処理施設におけるのとほぼ同じ深さまで地盤を掘削することで、より貯水量の大きい貯水槽を地中に埋設することができ、単位貯水量当たりの施工コストを低減することができる。また、地盤中に除去困難な障害物が存在するなど地盤側の都合で深く掘削することができず、限られた少ない容量の貯水槽を地中に埋設せざるを得ないことから、施工が見送られるか、施工したとしても面方向に多数の貯水槽を埋設せざるを得なかった地域においても、設計指針等に適応した雨水処理施設を低コストで施工することが可能となる。そのために、より多くの箇所に低コストで雨水処理施設を施工することができるようになり、本発明は、ゲリラ的な集中豪雨に対する溢水対策として、有効に貢献することができる。
【0014】
本発明による雨水処理施設は任意の場所に設置することができるが、地表面から大きな荷重、特に集中荷重が掛かるような場所に設置する場合には、荷重から貯水槽を保護するために、貯水槽の上面にコンクリート床版を設置することが好ましい。コンクリート床版の横幅を貯水槽の横幅よりも広くすることは、より広い面積に荷重を分散させることができるので、より好ましい。
【0015】
本発明による雨水処理施設において、貯水槽の上方領域は遮水性シートで覆われている。通常、遮水性シートは通気性を備えないので、貯水槽内の貯水レベルが次第に上昇して遮水性シートで覆われた領域まで達すると、貯水槽内に存在していた空気の逃げ道がなくなり、閉じ込められた空気により浮力が生じる。それを回避するために、貯水槽の天井面に排気管を設ける等、何らかの排気手段を設けることが望ましい。
【0016】
前記した貯水槽の上面にコンクリート床版が設置される形態の雨水処理施設の場合には、貯水槽のコンクリート床版に近接する周側壁部分に、遮水性シートが存在しない領域を形成することで、前記排気手段に代えることができる。また、コンクリート床版として通気性を備えたコンクリート床版を用いる場合には、貯水槽が当該コンクリート床版に接している領域には遮水性シートが存在しないようにすることで、前記排気手段に代えることができる。
【0017】
本発明による雨水処理施設において、遮水性シートで覆うこととなる貯水槽の上方領域を当該貯水槽の天井面からどの程度まで下方に下がった領域とするかは一律でなく、雨水処理施設が設置される場所での地盤条件、地表面と貯水槽の天井面との間の距離などを考慮して、実験的にあるいは設計計算により、それぞれ設定される。その一例として、貯水槽が道路下、少なくとも路盤と路床とを備えた道路構造内に埋設される構造の雨水処理施設の場合において、貯水槽をその上面位置が前記路盤にまで達するようにして埋設した態様の雨水処理施設においては、前記遮水性シートは埋設した貯水槽の少なくとも前記路盤に位置する領域を覆うようにして配置されていることが好ましい。
【0018】
その理由は、道路構造において、路盤部分は主に砕石で構成される部分であり、その部分に雨水が浸入すると崩れやすくなることによる。路盤が上層路盤と下層路盤とからなる場合には、貯水槽はその天井面が下層路盤内に位置するようにして埋設することが推奨される。それにより、過度の上載荷重により天井面が破損または変形するのを防止することができる。さらに好ましくは、貯水槽が路盤下の路床内に位置する部分における路盤側に近い領域までも遮水性シートで覆うようにする。それにより、路床部分が貯水槽から排出される水によって軟弱化するのを確実に阻止することができる。
【0019】
なお、本発明による雨水処理施設において、貯水槽を形成するための雨水貯留空間を持つ構成部材には、従来の雨水処理施設における貯水槽形成部材を適宜用いることができる。一例として、前記した特許文献1または3に記載のように、樹脂成形品である貯水空間形成部材を用い、その複数枚が交互に直角に交差した姿勢で積層することで貯水槽としてもよく、特許文献2に記載されるような、筒状のブロック構造体を積み重ねて貯水槽としてもよい。
【0020】
本発明による雨水処理施設において、透水性シートには水が透過することのできる不織布を用いるが好ましく、遮水性シートには水を透過させないシート、例えば、加硫ゴム系シート、非加硫ゴム系シートなどの合成ゴムシート、熱可塑性エラストマー系シート、エチレン酢酸ビニル樹脂系シートなどの合成樹脂シートのようなシートを用いるのが好ましい。貯水槽の遮水性シートで覆われる部分においては、透水性シートに遮水性シートが一体に積層されたものを用いることにより、施工工数を低減することができる。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、貯水槽を備えた雨水処理施設において、天井面が地表面に近い位置になるようにして貯水槽を地中に埋設することが求められる場合でも、貯水槽に貯留された雨水に起因して、土壌表層部が軟弱化するのを回避できるようにした雨水処理施設が得られる。本発明により、雨水処理施設において、地中に埋設する貯水槽の貯水容積を容易かつ低コストで大きくすることができるようになり、雨水処理施設の普及に大きく寄与することができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】本発明による雨水処理施設の一例を道路横断方向の断面で示す図。
【図2】本発明による雨水処理施設での貯水槽の位置(図2(a))と従来の雨水処理施設での貯水槽の位置(図2(b))とを比較して説明するための第1の図。
【図3】本発明による雨水処理施設での貯水槽の位置(図3(a))と従来の雨水処理施設での貯水槽の位置(図3(b))とを比較して説明するための第2の図。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、図面を参照しながら、本発明による雨水処理施設のいくつかの実施の形態を説明する。
図1に示す雨水処理施設Aにおいて、雨水処理施設Aは、貯水槽10と、管理枡としても機能する流入桝20とを備える。貯水槽10は、前記した特許文献1あるいは3に記載されるような雨水貯留空間を持つ構成部材11、より詳しくは、凸部からなる列が一定の間隔を保持して多列に平行に形成されている樹脂成形品である貯水空間形成部材の複数枚が交互に直角に交差した姿勢で積層されて形成されており、それ自体は公知のものであってよい。
【0024】
図示の例において、貯水槽10は車30が走る道路下の地盤中に、当該道路の路線方向に沿って所要の長さに埋設されている。そして、貯水槽10の側部には一定間隔で前記流入桝20が設置されている。
【0025】
貯水槽10の道路面に近い部分、すなわち貯水槽10の上方領域は、遮水性シート12で覆われており、さらに、貯水槽10の全体は透水性シート13で覆われている。図示の例では、貯水槽10の上方ほぼ2/5程度の側壁と天井面の全部が遮水性シート12で覆われているが、天井面からどの程度下方までの側壁を遮水性シート12で覆うかは、施工場所の地盤条件や貯水槽10の埋設深さに応じて設定することとなる。貯水槽10の天井面にはコンクリート床版40が設置されており、道路面からの荷重の分散を図っている。
【0026】
流入桝20は、側壁に形成した2つの通水口21、22を介して、貯水槽10と連通状態となっている。流入桝20の底面23は、貯水槽10の底面14により低位に位置しており、流入桝20の貯水槽10の底面14により下位の空間は沈砂枡24としての機能を果たしている。流入桝20の他の側壁における、貯水槽10の天井面に近い部分には雨水流入口25が、また貯水槽10の底面14に近い部分にはオリフィスを備えた雨水流出口26が、それぞれ設けられている。さらに、流入桝20の上端は地表面に開放しており、適宜の蓋27により閉鎖されている。
【0027】
限定されるものではないが、この例において、地表面からコンクリート床版40までの距離は、20〜60cmであり、地表面から貯水槽10の底面14までの距離は500cmである。
【0028】
上記の雨水処理施設Aでの雨水の処理態様を説明する。降雨時に、図示しない道路側溝等から雨水流入口25を通って、雨水が流入桝20内に流入する。流入した雨水は貯水槽10の沈砂枡24として機能する領域に滞留する。滞留する雨水の水面が雨水流出口26のレベルに達すると、雨水は、オリフィスで規制された量だけ雨水流出口26を通って、図示しない河川等に排出される。
【0029】
雨水の流入量が雨水流出口26からの規定排出量を超えると、流入桝20内での雨水の水面は次第に上昇していき、前記通水口21、22を通って貯水槽10内にも流入する。それにより、雨水は貯水槽10内に貯水された状態となる。そして、貯水槽10内に貯水された雨水は、貯水槽10を覆っている透水性シート13を通って、時間の経過と共に周囲の地盤に浸透していく。
【0030】
地盤への浸透量よりも雨水流入口25から流入する雨水の量が多くなると、貯水槽10内の水面は次第に上昇していく。そして、過度の降雨量を伴う集中豪雨が生じたようなときには、水位は貯水槽10の天井面まで到達した満水状態となる。その状態でも、貯水槽10内の雨水は、透水性シート13を通って周囲の地盤に浸透していくが、上記の貯水槽では、その上方部位は遮水性シート12によって覆われているので、遮水性シート12によって覆われた領域からは、雨水が周囲の地盤に浸透していくことはない。そのために、貯水槽10の遮水性シート12によって覆われた領域近傍の地盤およびそれよりも上位の地盤が、貯水槽10から浸透していく雨水に起因して軟弱化することはない。したがって、本発明による雨水処理施設では、貯水槽10をかなり地表面(道路面)に近いところに埋設しても、地表面に近い地盤層を不安定にすることはないという利点がもたらされる。
【0031】
次に、図2および図3を参照して、本発明による雨水処理施設がもたらす利点を、従来の雨水処理施設の対比しながら、より詳しく説明する。なお、図2および図3では、図1に基づき説明した流入桝20については図示していないが、実際の雨水処理施設においては、流入桝20が敷設される。また、図2(a)および図3(a)において、貯水槽10の構成は、図1に示した貯水槽10と同じであってよく、同じ部材には同じ符号を付すことで、詳細な説明は省略する。さらに、図2(b)および図3(b)に示す従来の雨水処理施設における貯水槽10Aの構成も、遮水性シート12を備えないことを除き、基本的に図1に示した貯水槽10と同じであってよく、ここでも同じ部材には同じ符号を付すことで、詳細な説明は省略する。
【0032】
図2(b)に示す従来の雨水処理施設において、貯水槽10Aは、全体が透水性シート13で覆われており、満水状態となったときに、貯水槽10Aの上方部分、すなわちコンクリート床版40に近接した領域部分からも、貯留された雨水は周囲の地盤に浸透していく。浸透水により地盤が軟弱化するのは避けられないので、軟弱化が地表面Lおよび地表面に近い地盤Sに及ばないように、貯水槽10Aは、地表面Lから十分に深い位置(例えば、貯水槽10Aの天井面の位置Pと地表面Lとの距離Xが60〜290cm程度となる位置)に埋設されている。
【0033】
したがって、事情により貯水槽10Aの貯水容積を大きくすることが求められる場合には、貯水槽10Aの全体を一旦取り出し、原地盤をさらに深く掘削した後、再度貯水槽10Aを埋設する作業が必要となり、大きな改修費用が必要となる。また、新規に貯水容積の大きな貯水槽を持つ雨水処理施設を施工する場合でも、施工コストが高騰する。
【0034】
図2(a)に示す本発明による雨水処理施設Aでは、改修に当たり、コンクリート床版40の近くまで地盤を掘り起こし、コンクリート床版40を除去した後、必要とされる容積分だけ新たに雨水貯留空間を持つ構成部材11aを積み上げる。新たに積み上げた構成部材11aの少なくとも周囲側壁を遮水性シート12で覆い、さらに構造的安定性を確保するために、新たに積み上げた構成部材11aの全体を、従来からの構成部材11の一部も含むようにして、透水性シート13で覆う。最後に、そのようにして形成された貯水槽10の上にコンクリート床版40を配置し地盤の埋め戻しを行うことで、本発明による、すなわち貯水能力を増大した貯水槽10を備えた雨水処理施設Aが完成する。その施工は容易であり、改修に要する施工コストは大幅に低減する。
【0035】
新たに従来よりも貯水能力の大きな貯水槽10を備えた雨水処理施設Aを施工する場合でも同様であり、地盤の掘削は、従来の雨水処理施設における貯水槽10Aの底面14が位置する深さ近傍まで行えばよく、従来とほぼ同じ程度の施工コストで、より貯水能力の大きな貯水槽10を備えた雨水処理施設Aを得ることができる。
【0036】
図3に示す例は、新たに施工する場所における地盤の状況から、原地盤を深くまで掘削できない場合である。図3(b)に示す例は、原地盤を所望の深さまで掘削できる場所での道路下に所望容積の貯水槽10Aを埋設した従来の雨水処理施設を示している。道路の構造は、通常、原地盤の上に構築した厚さ100cm程度の路床と、その上の厚さ10〜40cm程度の下層路盤と、その上の厚さ15〜50cm程度の上層路盤と、その上の表層・基層とで構成されており、これまでの雨水処理施設では、路盤および路盤に近い路床領域が、貯水槽10Aからの雨水が浸透することで、軟弱化するのを防止するために、貯水槽10Aはその天井面が路床内に位置するように設置されるのが普通である。
【0037】
したがって、新たな雨水処理施設を施工することが求められる地域において、原地盤を深くまで掘削できない区域がある場合、従来法に沿って雨水処理施設を施工すると、少なくとも当該区域では貯水槽10Aの高さを低くし、貯水容積を小さくせざるを得ない。しかし、図3(a)に示すように、本発明による雨水処理施設Aに従えば、貯水槽10の天井面の高さ位置を路盤の位置まで引き上げても、貯水槽10の路盤および路盤に近い路床領域に位置する側壁部分は遮水性シート12で覆われているので、その領域に貯水槽10内に貯水された雨水が浸透していくことはなく、地盤における路盤および路盤に近い路床領域での軟弱化は生じない。したがって、貯水槽10の容積を減じることなく、雨水処理施設Aを設置することが可能となる。
【0038】
上記した本発明による雨水処理施設Aでは、貯水槽10の上方領域のすべて、すなわち天井部と周側壁部分のすべてを遮水性シート12で覆う態様を図示したが、この場合には、貯水槽10内の水位が遮水性シート12で覆われた領域まで達すると、貯水槽10内に存在していた空気が閉じ込められることで、浮力が生じる。それを回避するために、図示しないが、先端が地表面に達する排気用のパイプを貯水槽10の天井面に取り付けることが望ましい。また、図示のように、コンクリート床版40が設置される場合には、貯水槽10のコンクリート床版40に近接する周側壁部分に、遮水性シート12が存在しない領域を形成するか、コンクリート床版40として通気性を備えたコンクリート床版を用い、貯水槽10の天井面には遮水性シート12が存在しない領域を形成することが好ましい。
【符号の説明】
【0039】
A…雨水処理施設、
10…貯水槽、
11…雨水貯留空間を持つ構成部材、
12…遮水性シート、
13…透水性シート、
20…流入桝、
30…車、
40…コンクリート床版。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
雨水貯留空間を持つ構成部材が透水性シートによって覆われた形態の貯水槽が地中に埋設されてなる雨水処理施設において、前記埋設されている貯水槽は上方領域に遮水性シートで覆われた領域を有し、その領域からは貯水槽内の貯水が地中に浸透しないようにされていることを特徴とする雨水処理施設。
【請求項2】
前記貯水槽の上面にはコンクリート床版が設置されていること特徴とする請求項1に記載の雨水処理施設。
【請求項3】
前記貯水槽の前記コンクリート床版に近接する周側壁部分には前記遮水性シートが存在しない領域が形成されていることを特徴とする請求項2に記載の雨水処理施設。
【請求項4】
前記コンクリート床版は通気孔を備えており、前記貯水槽がコンクリート床版に接している領域には遮水性シートが存在しないことを特徴とする請求項2に記載の雨水処理施設。
【請求項5】
前記貯水槽は、少なくとも路盤と路床とを備えた道路構造内に、その上面位置が前記路盤にまで達するようにして埋設されており、前記遮水性シートは前記貯水槽の少なくとも前記路盤に位置する領域を覆うようにして配置されていることを特徴とする請求項1ないし4のいずれか一項に記載の雨水処理施設。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2012−255250(P2012−255250A)
【公開日】平成24年12月27日(2012.12.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−127366(P2011−127366)
【出願日】平成23年6月7日(2011.6.7)
【出願人】(000002440)積水化成品工業株式会社 (1,335)
【Fターム(参考)】