説明

雨水流入施設管理支援方法、雨水流入施設管理支援装置、雨水流入施設管理支援システム、並びに、雨水流入施設管理支援装置として機能させるプログラム

【課題】雨水流入施設内における流量変化もしくは水質変化を長期的、安定的かつ正確に推定すること。
【解決手段】雨水流入施設における下水中の導電率から当該下水の流量もしくは水質を推定する雨水流入施設管理支援方法であって、雨水流入施設に設置された導電率計12によって観測された晴天日の汚水の導電率値を、導電率計12によって観測された雨天日の下水の導電率値で割って希釈率を算出し、当該希釈率に基づいて下水の流量を推定することを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、降雨時に雨水吐室もしくは流域下水道への接続人孔等の雨水流入施設の適切な運転管理を行うために、雨水流入施設内の流量変化もしくは水質変化を推定する雨水流入施設管理支援方法、雨水流入施設管理支援装置、雨水流入施設管理支援システム、並びに、雨水流入施設管理支援装置として機能させるプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、合流式下水道等の雨水流入施設において、雨天時に河川、湖沼、海域等の公共用水区域に排出される水中の汚濁物質が公共用水の水環境に悪影響を及ぼしている。中でも、合流式下水道では雨水の流入が多いことから、下水処理場からの越流水が大きな問題となっている。このような問題を受けて、下水道施行令の改正が行われ、ポンプ場、下水処理場、雨水貯留施設、自然吐口等の雨水流入施設からの越流実態の観測が義務付けられた。
【0003】
しかしながら、当該観測は、年1回行うことを義務付けたものであり、様々な降雨特性を考慮した場合には、実用性に乏しい。したがって、より実用性を高めるためには、越流実態を連続的に観測することが必要とされる。特に、雨天時には、合流式下水道に堆積していた汚濁物質が流出するため、雨天時の水質を観測することが要求される。
【0004】
これに伴い、雨天時の雨水流入施設内の水質を予測する水質予測システム等の導入が要請されると共に、雨水流入施設内における水質等の特性に基づいて、雨水流入施設の適切な運転管理を行うことも要請される。
【0005】
特許文献1には、濁度計によって雨水処理設備の濁度を測定し、この測定された濁度と、水質予測部により予測された雨水流入施設の濁度予測値との差を濁度補正値とし、当該濁度補正値に基づいて雨水流入施設の水質を予測して雨水流入施設の水質制御を行う雨水流入施設管理支援装置が開示されている。
【0006】
【特許文献1】特開2006−274577号公報(要約書、発明の詳細な説明)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1に開示されている雨水流入施設管理支援装置では、濁度計を用いて水質変化の予測を行っている。この濁度計は藻等の堆積物が付着しやすく、安定した水質の連続観測ができないといった問題がある。このため、特許文献1に開示されている雨水流入施設管理支援装置では、長期かつ安定的に水質変化の予測ができないといった問題がある。
【0008】
また、雨水流入施設に流量観測機器を設置し、該流量観測機器によって観測された流量に基づいて、雨水流入施設の水質変化を予測することも可能である。しかしながら、流量観測機器は、整流している場所で流量を観測する必要があるため、合流式下水道のように水の流れが変化する場所において正確な流量を観測することができない。このように、流量観測を行う場所が制限されることから、水質変化を予測する場所も制限され、結果的に、雨水流入施設の適切な運転管理を行うことができないといった問題が発生する。
【0009】
本発明は上記の事情にもとづきなされたもので、その目的とするところは、雨水流入施設の適切な運転管理を行うために、雨水流入施設内における流量変化もしくは水質変化を長期的、安定的かつ正確に推定することが可能な雨水流入施設管理支援方法、雨水流入施設管理支援装置、雨水流入施設管理支援システム、並びに、雨水流入施設管理支援装置として機能させるプログラムを提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するために、本発明は、雨水流入施設における下水中の導電率から当該下水の流量もしくは水質を推定する雨水流入施設管理支援方法であって、雨水流入施設に設置された導電率計によって観測された晴天日の汚水の導電率値を、導電率計によって観測された雨天日の下水の導電率値で割って希釈率を算出し、当該希釈率に基づいて下水の流量を推定することを特徴とする雨水流入施設管理支援方法としている。
【0011】
このような方法を用いた場合には、晴天日の汚水の導電率値を雨天日の下水の導電率値で割って希釈率を算出することにより、雨天日の下水が晴天日の汚水に対してどのくらい薄められたのかを求めることができる。ここで、下水とは、汚水に雨水が混入したものを意味する。このため、希釈率に基づいて、雨天日の流量を推定することが可能となる。したがって、導電率計を用いて流量の推定を行い、その結果、流量計を用いる場合と比較して、観測箇所に制約されることなく、長期的、安定的かつ正確に流量の推定を行うことができる。
【0012】
また、本発明は、さらに、雨水流入施設において過去に観測された複数の導電率値の時系列データである過去導電率観測データを導電率観測データ記憶部に記憶し、導電率計によって推定日に観測された下水の導電率値の時系列データである推定日導電率観測データを観測値記憶部に記憶し、観測値記憶部から推定日導電率観測データを抽出すると共に、導電率観測データ記憶部から過去導電率観測データを順番に抽出し、導電率観測データ抽出部において抽出された、過去導電率観測データが推定日導電率観測データと近似しているか否か判別し、希釈率に基づいて将来の下水の流量を予測する雨水流入施設管理支援方法としている。
【0013】
このように、過去の多くの導電率観測データを用いることで、将来の下水の流量を予測することができる。
【0014】
また、本発明は、上述の流量の推定/予測(推測若しくは予測を意味する。)は、希釈率を入力とし、流量を出力とするモデル式を用いて行われることを特徴とする雨水流入施設管理支援方法としている。このため、希釈率に基づいて、現在の下水の流量の推定若しくは将来の下水の流量の予測を、より正確に行うことが可能となる。
【0015】
また、本発明は、さらに、推定/予測された流量に基づいて、水質を推定/予測することを特徴とする雨水流入施設管理支援方法としている。このため、導電率値に基づいて下水の流量を推定/予測し、さらに水質を推定/予測することが可能となる。
【0016】
また、本発明は、雨水流入施設における下水中の導電率から当該下水の流量もしくは水質を推定する雨水流入施設管理支援装置であって、演算されたデータが記憶される記憶部と、雨水流入施設において過去に観測された複数の導電率値の時系列データである過去導電率観測データが記憶される導電率観測データ記憶部と、導電率計によって推定日に観測された下水の導電率値である推定日導電率観測値が記憶される観測値記憶部と、導電率観測データ記憶部から晴天日に観測された汚水の過去導電率観測データを抽出する晴天日導電率観測データ抽出部と、晴天日の汚水の過去導電率観測データの値を、下水の推定日導電率値で割って希釈率を算出する希釈率算出部と、希釈率に基づいて、推定すべき下水の流量値である流量値を算出する推定流量値算出部と、を有する雨水流入施設管理支援装置としている。
【0017】
このため、推定日に観測された導電率値に基づいて現在の下水の流量を推定することができる。導電率は、流量を直接観測する場合と比較して、場所に制約されることなく観測が可能である。このため、観測箇所に制約されず、長期的、安定的かつ正確に流量の推定を行うこと可能となる。
【0018】
また、本発明は、さらに、演算されたデータが記憶される記憶部と、雨水流入施設において過去に観測された複数の導電率値の時系列データである過去導電率観測データが記憶される導電率観測データ記憶部と、導電率計によって推定日に観測された下水の導電率値の時系列データである推定日導電率観測データが記憶される観測値記憶部と、観測値記憶部から推定日導電率観測データを抽出すると共に、導電率観測データ記憶部から過去導電率観測データを順番に抽出する導電率観測データ抽出部と、導電率観測データ抽出部において抽出された、過去導電率観測データが推定日導電率観測データと近似しているか否か判別する近似判別部と、近似判別部において近似していると判別された過去導電率観測データから将来の下水の導電率値を求める導電率値算出部とを備え、推定流量値算出部は、将来の下水の導電率値から前記希釈率を求め、予測すべき下水の流量値を算出することを特徴とする雨水流入施設管理支援装置としている。
【0019】
このため、過去の多くの導電率観測データを用いることで、将来の下水の流量を予測することができる。
【0020】
また、本発明は、さらに、近似判別部は、過去の共通する時系列において、推定日導電率観測データと過去導電率観測データが近似するか否かを判別することを特徴とする雨水流入施設管理支援装置としている。このように、共通する時系列において、推定日導電率観測データと過去導電率観測データとの近似の判別を行っているため、判別精度の向上を図ることが可能となる。
【0021】
また、本発明は、さらに、導電率観測データ抽出部において抽出された、推定日導電率観測データと、過去導電率観測データとの累積自乗誤差を算出する累積自乗誤差算出部を有し、近似判別部での近似の判別は、累積自乗誤差算出部で算出された累積自乗誤差に基づいて行われることを特徴とする雨水流入施設管理支援装置としている。このため、高い精度で近似の判別を行うことができる。したがって、判別精度の向上を図ることが可能となる。
【0022】
また、本発明は、さらに、近似判別部は、累積自乗誤差算出部で算出された累積自乗誤差が小さいものの上位1つもしくは上位複数の過去導電率観測データに関するデータを記憶部に記憶させることを特徴とする雨水流入施設管理支援装置としている。このように構成した場合には、流量を推定するためのデータとなる過去導電率観測データを複数確保できるため、判別精度の向上を図ることが可能となる。
【0023】
また、本発明は、さらに、晴天日の過去導電率観測データを、さらに曜日別で抽出する曜日別導電率観測データ抽出部を有することを特徴とする雨水流入施設管理支援装置としている。このように構成により、観測日の特性を考慮した晴天日の過去導電率観測データを取得することが可能となる。
【0024】
また、本発明は、さらに、晴天日導電率観測データ抽出部は、導電率観測データ記憶部から晴天日の過去導電率観測データを複数抽出し、該抽出された複数の晴天日の過去導電率観測データの値の平均値を算出することを特徴とする雨水流入施設管理支援装置としている。このように構成した場合には、より正確な晴天日導電率観測データを取得することが可能となる。
【0025】
また、本発明は、さらに、推定流量値算出部における流量値の算出は、希釈率を入力とし、流量を出力とするモデル式を用いて行われることを特徴とする雨水流入施設管理支援装置としている。このため、希釈率に基づいて、現在の下水の流量の推定若しくは将来の下水の流量の予測を、より正確に行うことが可能となる。
【0026】
また、本発明は、さらに、推定/予測された流量値に基づいて、水質を推定/予測することを特徴とする雨水流入施設管理支援装置としている。このため、導電率値に基づいて下水の流量を推定/予測し、さらに水質を推定/予測することが可能となる。
【0027】
また、本発明は、上述のいずれかの雨水流入施設管理支援装置と、雨水流入施設における下水若しくは汚水の導電率を観測する導電率計とを備える雨水流入施設管理支援システムとしている。
【0028】
このようなシステムを構成した場合には、観測箇所に制約されることなく、長期的、安定的かつ正確に流量および水質の推定を行うことが可能となる。
【0029】
また、本発明は、コンピュータを上述のいずれかの雨水流入施設管理支援装置として機能させることを特徴とするプログラムとしている。
【0030】
このように構成した場合には、プログラムをディスク等の媒体にコピーし、当該媒体にコピーされたプログラムを複数のコンピュータにインストールすることが可能となる。したがって、プログラムがインストールされた複数のコンピュータを雨水流入施設管理支援装置として機能させることが可能となる。
【発明の効果】
【0031】
本発明によると、雨水流入施設内における流量変化もしくは水質変化を長期的、安定的かつ正確に推定することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0032】
以下、本発明の一実施の形態に係る雨水流入施設管理支援システム10について、図面を参照しながら説明する。
【0033】
さらに、以下では、雨水流入施設管理支援装置20、雨水流入施設管理支援方法、並びに、雨水流入施設管理支援装置20を機能させるプログラムについても、雨水流入施設管理支援システム10と共に説明する。
【0034】
図1は、本発明の一実施の形態に係る雨水流入施設管理支援システム10の構成を示す図である。
【0035】
雨水流入施設管理支援システム10は、例えば、雨水吐室、流域下水道への接続孔もしくは合流式下水道等の雨水流入施設内における雨天日の水中の導電率を観測し、観測した導電率の値(以下、EC値という。)から、雨天日における現在もしくは将来の流量および水質の経時的変化を推定/予測するシステムである。ここで、推定は、現在の流量または水質に対して用い、予測は、将来の流量または水質に対して用いる。なお、水質の指標としてBOD(Biochemical Oxygen Demand)値を採用する。図1に示すように、雨水流入施設管理支援システム10は、水中の導電率を観測する導電率計(以下、EC計という。)12と、雨水流入施設管理支援装置20とを備えている。本実施の形態では、雨天の日曜日にEC計12によって雨水流入施設内の導電率を観測し、該観測された導電率値に基づいて、観測時の流量および水質を推定すると共に、観測された30分間の導電率の観測値に基づいて、その後1時間の流量および水質の経時的変化を予測するものとする。
【0036】
EC計12は、例えば、推定対象となる合流式下水道内の所定の位置に設置される。雨水流入施設管理支援装置20は、EC計12で観測したEC値に基づいて、雨天日の所定時刻(現在とする)の流量および水質を推定若しくは所定時間における経時的な流量および水質の変化を予測する装置である。
【0037】
雨水流入施設管理支援装置20は、コンピュータシステムにより構成されるもので主に、制御部22と、演算部24と、表示部26と、EC観測値収集部28と、観測値記憶部29と、記憶部30と、導電率観測データ記憶部であるEC観測データ記憶部32と、雨天導電率観測データ記憶部である雨天EC観測データ記憶部33と、EC推定部34と、流量推定部36と、水質推定部38とを有し、それぞれがバスで接続されている。なお、演算部24、表示部26、EC観測値収集部28、観測値記憶部29、記憶部30、EC観測データ記憶部32、雨天EC観測データ記憶部33、EC推定部34、流量推定部36および水質推定部38は制御部22の指令に基づいて作動する。これらのハードウェアと、ソフトウェアとが協働することにより、雨水流入施設管理支援装置20による流量変化および水質変化の推定が実現される。ここで、各構成部は、推定のみならず、予測の処理も行うことができる。データを記憶する構成部(29,30,32,33)は、RAM等のメモリおよびCPUにより主に構成される。制御部22,演算部24、EC観測値収集部28、EC推定部34、流量推定部36、水質推定部38は、主に、CPUから構成される。表示部26は、CPUとディスプレイにより主に、構成される。
【0038】
上述したように、制御部22は、雨水流入施設管理支援装置20の全体の制御を司る部分である。制御部22は、例えば、記憶部30に記憶されたプログラムを実行すると共に、演算部24や水質推定部38等で算出されたデータを受け取り、それらデータを加工した上で、表示部26等に送信する。演算部24は、入力されるデータに基づいて演算処理を行う部分である。表示部26は、入力される各種データを出力する部分である。EC観測値収集部28は、EC計12により観測されたEC値を、例えば、1分毎等の周期的に収集する部分である。観測値記憶部29は、推定日に、EC観測値収集部28で取得されたEC値の時系列データである推定日導電率観測データ(以下、推定日EC観測データという。)や、推定日に、不図示の流量計や濁度計で観測された流量値や濁度値の時系列データを記憶する部分である。記憶部30は、演算用のプログラムを記憶すると共に、算出された各種データを適宜記憶する部分である。
【0039】
EC観測データ記憶部32は、雨水流入施設内で過去に観測された複数のEC値の時系列データである過去導電率観測データ(以下、過去EC観測データという。)が記憶されているデータベースである。EC観測データ記憶部32は、例えば、雨天日・晴天日等の天気や曜日毎に分類した状態で、過去EC観測データを記憶している。雨天EC観測データ記憶部33は、雨水流入施設において過去に観測された雨天日の複数の過去EC観測データが記憶されているデータベースである。EC推定部34は、推定日EC観測データおよび過去EC観測データに基づいて、推定対象となる雨水流入施設内において推定されるEC値(以下、推定EC値という。)を算出する部分である。流量推定部36は、推定EC値の時系列データ(以下、推定ECデータという。)に基づいて、雨水流入施設内において推定される流量値(以下、推定流量値という。)を算出する部分である。水質推定部38は、推定流量値の時系列データ(以下、推定流量データという。)に基づいて、雨水流入施設内において推定されるBOD値(以下、推定水質値という。)を時系列的に算出する部分である。
【0040】
EC推定部34は、導電率観測データ抽出部であるEC観測データ抽出部40と、累積自乗誤差算出部42と、近似判別部44と、導電率値算出部である推定EC値算出部46を有する。また、流量推定部36は、晴天日導電率観測データ抽出部である晴天日EC観測データ抽出部48と、曜日別導電率観測データ抽出部である曜日別EC観測データ抽出部50と、希釈率算出部52と、推定流量値算出部54とを有する。
【0041】
EC観測データ抽出部40は、観測値記憶部29から推定日EC観測データを抽出すると共に、EC観測データ記憶部32に記憶されている複数の過去EC観測データの中から、例えば、1つの過去EC観測データを順次抽出する部分である。累積自乗誤差算出部42は、過去から現在までの所定の時系列の範囲における、推定日EC観測データと、過去EC観測データとの後述する累積自乗誤差を算出する部分である。近似判別部44は、累積自乗誤差の小さい上位10個の累積自乗誤差の値と、それらの累積自乗誤差の値とその算出に用いられた過去EC観測データを関連付けるための関連付けデータを記憶部30に記憶する部分である。推定EC値算出部46は、上記関連付けデータに基づいて、推定EC値を算出する部分である。
【0042】
晴天日EC観測データ抽出部48は、EC観測データ記憶部32から晴天日の過去EC観測データを抽出する部分である。曜日別EC観測データ抽出部50は、晴天日EC観測データ抽出部48によって抽出された晴天日の過去EC観測データから、さらに、推定日の曜日である日曜日の過去EC観測データを抽出する部分である。希釈率算出部52は、晴天日の過去EC観測データと推定ECデータを取得し、それらのデータの値から後述する希釈率を算出する部分である。推定流量値算出部54は、希釈率に基づいて流量を算出するモデル式である流量推定式を作成し、その作成した流量推定式から推定流量値を算出する部分である。
【0043】
次に、雨水流入施設管理支援システム10が、観測されたEC値に基づいて、観測時の流量および水質を推定する処理について説明する。流量の推定は、流量推定部36が推定流量値を算出することによって行われる。また、水質の推定は、水質推定部38が推定水質値を算出することによって行われる。なお、これらの算出処理は、制御部22の指令に基づいて行われる。
【0044】
まず、上述した雨水流入施設管理支援システム10の算出処理のうち、流量推定部36における推定流量値の算出処理について説明する。図2は、流量推定部36が観測された導電率値に基づいて、観測時の流量を推定する処理を示すフローチャートである。
【0045】
図2に示すように、まず、晴天日EC観測データ抽出部48は、雨天日EC観測データ記憶部33に記憶されている雨天日の過去EC観測データと、EC観測データ記憶部32に記憶されている過去EC観測データを照合し、EC観測データ記憶部32における晴天日の過去EC観測データを識別する。そして、EC観測データ記憶部32から識別された晴天日の過去EC観測データを抽出する(ステップS101)。次に、曜日別EC観測データ抽出部50は、ステップS101で抽出された複数の晴天日における過去EC観測データの中から日曜日の過去EC観測データをさらに抽出する(ステップS102)。さらに、曜日別EC観測データ抽出部50は、抽出された晴天日の日曜日における過去EC観測データの平均値(以下、晴天日EC観測データという。)を算出する(ステップS103)。
【0046】
次に、希釈率算出部52は、推定日にEC計12によって観測されたEC値を取得する(ステップS104)。さらに、ステップS103で算出された晴天日EC観測データのうち、ステップS104で取得されたEC値の時刻に対応するEC観測値の時系列データを抽出する(ステップS105)。
【0047】
さらに、希釈率算出部52は、ステップS105で抽出された晴天日のEC観測値(EC(dry))と、ステップS104で取得された雨天日のEC値(EC(wet))を用い、以下に示す(1)式により希釈率Zを算出する(ステップS106)。
【0048】
Z=EC(dry)/EC(wet) ・・・・・・・・・・(1)
Z:希釈率
EC(dry):晴天日のEC観測値
EC(wet):雨天日のEC観測値
【0049】
次に、推定流量値算出部54は、以下の(2)式で示す、流量推定式を作成する(ステップS107)。流量推定式は希釈率Zを入力とし、推定流量Qを算出するための2次多項式である。流量推定式におけるα,βおよびγは係数であり、これらの値は観測日の降雨量に基づいて決定される。係数α,βおよびγの値は、回帰分析を用いて、流量推定式と観測した流量値(流量観測値)との相関係数が最も1に近くなったものを採用する。なお、流量推定式は2次多項式に限定されるものではなく、例えば、1次式もしくは3次式等の他の形態の式を状況に応じて適宜使用することが可能である。
【0050】
Q=αZ+βZ+γ ・・・・・・・・・・・・・・・・・(2)
Q:推定流量
Z:希釈率
α,β,γ:係数
【0051】
さらに、推定流量値算出部54は、ステップS107で作成された流量推定式に、ステップS106で算出された希釈率Zの値を代入することにより、観測時の推定流量値を算出する(ステップS108)。以上のような処理を経ることにより、観測されたEC値に基づいて、観測時における推定流量値が算出される。その結果、観測時の流量の推定を行うことが可能となる。
【0052】
次に、上述した雨水流入施設管理支援システム10の算出処理のうち、水質推定部38における推定水質値の算出処理について説明する。
【0053】
水質推定部38は、まず、流量推定部36で算出された推定流量値を取得する。次に、当該推定流量値に基づき、以下の(3)式および(4)式で示す公知の水質推定モデル式を用いて観測時の推定水質値を算出する。(3)式および(4)式における負荷流出係数C、堆積負荷量Pおよび流量係数mはパラメータであり、これらの値は経験則および観測日の降雨量に基づいて決定される。
【0054】
dP/dt=DWL−C・P・Q ・・・・・・・・・・・(3)
L=C・P・Q ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(4)
L:負荷量
C:負荷流出係数(パラメータ)
P:堆積負荷量(パラメータ)
Q:推定流量
m:流量係数(パラメータ)
DWL:晴天日負荷量
【0055】
以上のような処理を経ることにより、流量推定部36で算出された推定流量値から、観測時の推定水質値が算出される。そして、算出された推定水質値から観測時の水質の推定を行うことができる。
【0056】
次に、雨水流入施設管理支援システム10が、観測された30分間の導電率の観測値に基づいて、その後1時間のEC値、流量および水質の経時的変化を予測する処理について説明する。EC値の予測は、EC推定部34がEC値を算出することによって行われる。流量の予測は、流量推定部36が流量値を算出することによって行われる。また、水質の予測は、水質推定部38が水質値を算出することによって行われる。なお、これらの算出処理は、制御部22の指令に基づいて行われる。
【0057】
まず、上述した雨水流入施設管理支援システム10の算出処理のうち、EC推定部34におけるEC値の算出処理について説明する。なお、EC観測データ記憶部32に記憶されている過去EC観測データの数をnd個とする。また、EC推定部34におけるEC値の算出処理は、制御部22の指令に基づいて行われる。
【0058】
図3は、EC推定部34における観測後1時間の予測を行うためのEC値の算出処理を示すフローチャートである。
【0059】
雨水流入施設管理支援システム10の電源を入力すると、制御部22の指令により、EC推定部34は処理を開始する。なお、記憶部30は、後述する累積自乗誤差算出部42によって算出された累積自乗誤差の値を記憶する10個の記憶領域(M1〜M10)を有する。なお、本実施の形態では、EC値の立証性および算出処理の迅速性の観点から、記憶領域(M1〜M10)の個数をそれぞれ10個とする。
【0060】
図3に示すように、まず、制御部22は、記憶領域(M1〜M10)のそれぞれに、例えば、初期値として∞を代入する。また、累積自乗誤差の算出回数(=I)の値を0と設定し、記憶領域(M1〜M10)に記憶されている累積自乗誤差の値と取得した算出値(=T)とを比較する際に用いられる繰り返し変数(=n)の値を1と設定する(ステップS201)。
【0061】
次に、EC観測データ抽出部40は、現在から遡って30分前まで(例えば、19時から19時半)の推定日EC観測データを観測値記憶部29から抽出する(ステップS202)。さらに、EC観測データ抽出部40は、EC観測データ記憶部32から過去EC観測データを順番に1つずつ合計nd個抽出する(ステップS203)。次に、累積自乗誤差算出部42は、その抽出した過去EC観測データと、ステップS202で抽出した推定日EC観測データとの累積自乗誤差を算出する(ステップS204)。なお、本実施の形態では、抽出された推定日EC観測データおける過去30分(例えば、19時から19時半)の時間帯において、推定日EC観測データおよび過去日EC観測データに基づいて累積自乗誤差が算出される。また、本実施の形態では、当該30分間における、5分間隔毎の推定日EC観測データと過去EC観測データとの誤差(合計6個の誤差)を算出し、該算出された各誤差を乗じた値の和を累積自乗誤差とする。また、後述するステップS209で記憶領域(M1〜M10)に記憶される前の累積自乗誤差の値のみを算出値Tという。さらに、上述したように、算出値Tは、該算出値Tを算出する際に使用した過去EC観測データとの関連付けを行うための関連付けデータを有している。
【0062】
次に、制御部22の指令により、算出回数Iに1を加算し、加算後の算出回数Iを算出する(ステップS205)。次に、近似判別部44は、ステップS204で取得された累積自乗誤差の算出値Tと、記憶領域(M1〜M1)に記憶されているそれぞれの累積自乗誤差の値を比較する(ステップS206,S207,S208)。なお、取得された累積自乗誤差の算出値Tと、記憶領域(M1〜M10)に記憶されているそれぞれの累積自乗誤差の値との比較は、記憶領域(M1〜M10)のそれぞれに記憶されている累積自乗誤差の値より小さな算出値Tが発見されるまで、最大10回、繰り返されるようになっている(ステップS206,S207,S208)。具体的には、記憶領域(M1〜M10)に記憶されている累積自乗誤差の値が算出値Tより小さいと判断した場合(ステップS206にてYESの場合)には、ステップS207に進み、繰り返し変数nの値に1が加算される(ステップS207)。そして、ステップS208に進み、繰り返し変数nが10に満たないと判断した場合には、ステップS206に戻り、他の記憶領域(M1〜M10のうちの該当領域)に記憶されている累積自乗誤差の値と算出値Tとの比較が行われる。
【0063】
一方、ステップS206において、算出値Tが記憶領域(M1〜M10)に記憶されている累積自乗誤差の値より小さいと判断した場合(ステップS206にてNOの場合)には、ステップS209に進む。続いて、近似判別部44は、比較対象となった記憶領域M1〜M10のうちの該当領域に記憶されている累積自乗誤差の値を、算出値Tと入れ替える(ステップS209)。その後、ステップS210に進み、繰り返し変数nの値を1に書き換え、ステップS203に戻る。なお、ステップS209における最初の10回(算出回数Iが1〜10の場合)の算出値Tの入れ替えでは、例えば、算出回数I=1の場合には記憶領域M1の値を入れ替え、算出回数I=2の場合には記憶領域M2の値を入れ替える等、全ての記憶領域(M1〜M10)に記憶されている∞の値を算出値Tに順次入れ替えるようにする。
【0064】
また、ステップS208において繰り返し変数nが10より大きいと判断した場合(ステップS208でYESの場合)、ステップS211に進み、累積自乗誤差をnd回以上算出したか否かを判断する(ステップS211)。ステップS211でYESと判断した場合には、推定EC値算出部46は、記憶領域(M1〜M10)に記憶されているそれぞれの算出値Tの有する関連付けデータから、該算出値Tを算出する際に使用した過去EC観測データを取得する。さらに、推定EC値算出部46は、それぞれの過去EC観測データにおける現時刻から将来1時間(例えば、19時半から20時半)のEC値(以下、個別EC値という。)の時系列データを抽出し、各記憶領域(M1〜M10)に記憶する(ステップS212)。一方、ステップS211でNOの場合には、ステップS210に進み、繰り返し変数nを1に書き換えた後、ステップS203に戻る。ステップS201〜ステップS211までの処理を経ることにより、記憶領域(M1〜M10)には、累積自乗誤差の小さな上位10個の個別EC値の時系列データ(以下、個別ECデータという。)が記憶されることになる。
【0065】
次に、推定EC値算出部46は、ステップS212を経た後、記憶領域(M1〜M10)に記憶された累積自乗誤差の小さな上位10個の個別ECデータの平均値を算出し、EC値を取得する(ステップS213)。なお、このEC値の時系列データ(ECデータ)は記憶部30におけるM1〜M10以外の他の記憶領域に記憶される。次に、制御部22の指令に基づいて、10個の個別ECデータとECデータの情報が表示部26に送信され、表示部26がそれらのデータを時系列的に画面に出力する(ステップS214)。以上のような処理を経て、将来1時間の時系列的なEC値が算出され、その時系列データが表示部26に出力される。
【0066】
次に、上述した雨水流入施設管理支援システム10の算出処理のうち、流量推定部36における流量値の算出処理について説明する。なお、流量推定部36における流量値の算出処理は、制御部22の指令に基づいて行われる。
【0067】
図4は、流量推定部36における観測後1時間の流量データの算出処理を示すフローチャートである。なお、観測後1時間の流量データの算出処理は、観測時の流量値の算出処理と類似しているため、類似する部分の説明を簡略化する。
【0068】
図4に示すように、まず、晴天日EC観測データ抽出部48は、EC観測データ記憶部32から識別された晴天日の過去EC観測データを抽出する(ステップS301)。次に、曜日別EC観測データ抽出部50は、ステップS301で抽出された複数の晴天日における過去EC観測データの中から日曜日の過去EC観測データをさらに抽出する(ステップS302)。さらに、曜日別EC観測データ抽出部50は、晴天日EC観測データを算出する(ステップS303)。
【0069】
次に、希釈率算出部52は、EC推定部34で算出された将来1時間のEC値の時系列データを取得する(ステップS304)。さらに、ステップS303で算出された晴天日EC観測データのうち、ステップS304で取得されたEC値の時刻に対応するEC観測値の時系列データを抽出する(ステップS305)。
【0070】
さらに、希釈率算出部52は、ステップS305で抽出された晴天日のEC観測値(EC(dry))と、ステップS304で取得された雨天日のEC観測値に対応するEC値(EC(wet))を用い、上述した(1)式により希釈率Zを算出する(ステップS306)。なお、希釈率Zは取得したEC値の時間(1時間)において時系列的に算出される。
【0071】
次に、推定流量値算出部54は、上述した(2)式で示す式を作成する(ステップS307)。
【0072】
さらに、推定流量値算出部54は、ステップS307で作成された式に、ステップS306で算出された希釈率Zの値を代入することにより、将来1時間の流量値を時系列的に算出する(ステップS308)。以上のような処理を経ることにより、EC推定部34で算出されたEC値に基づいて、将来1時間の流量値が算出される。その結果、将来1時間の流量変化の予測を行うことが可能となる。
【0073】
次に、上述した雨水流入施設管理支援システム10の算出処理のうち、水質推定部36における水質値の算出処理が上述した場合と同様な手順で行われる。そして、流量推定部36で算出された流量値から、将来1時間の水質データが算出され、該算出された水質データから将来1時間の水質変化の予測を行うことができる。
【0074】
以上のように構成された雨水流入施設管理支援システム10では、推定日EC観測データと、過去EC観測データに基づいて取得されたECデータから、流量値を取得できる。したがって、観測箇所に制約されず、長期的、安定的かつ正確に流量変化を推定/予測することが可能となる。さらに、流量値に基づいて水質値を求めることができる。このように、EC観測データに基づいて水質値を求めることができるため、観測箇所に制約されず、長期的、安定的かつ正確に水質変化を推定/予測すること可能となる。その結果、合流下水道等の雨水流入施設の適切な運転管理を行うことが可能となる。
【0075】
また、雨水流入施設管理支援方法では、晴天日の汚水のEC観測値を雨天日の下水のEC観測値で割って希釈率を算出し、該希釈率に基づいて、流量値を算出している。したがって、EC計12を用いて流量の推定/予測を行うことができる。その結果、流量計を用いる場合と比較して、観測箇所に制約されることなく、長期的、安定的かつ正確に流量の推定/予測を行うことができる。
【0076】
また、EC推定部34は、推定日EC観測データと、過去EC観測データとの累積自乗誤差を算出し、その累積自乗誤差が小さいものの上位10個の過去EC観測データを抽出し、それらの平均値からEC値を算出している。このため、実際に観測するデータとより近似する過去EC観測データを抽出することができ、その結果、算出されるEC値の精度が向上する。
【0077】
また、流量推定部36では、EC観測値の曜日に対応する複数の日曜日における晴天日の汚水のEC観測データの平均値を算出している。このため、より信頼性の高い晴天日EC観測データを取得することが可能となる。
【0078】
また、流量推定部36では、希釈率Zを入力とし、流量を出力とする式を作成している。このため、この式を用いて降雨状況に応じた流量値を算出することが可能となる。
【0079】
以上、本発明の一実施の形態について説明したが、本発明は上述の形態に限定されることなく、種々変形した形態にて実施可能である。
【0080】
上述の実施の形態では、EC観測データ抽出部40で、EC観測データ記憶部32記憶されているnd個全ての過去EC観測データを抽出し、累積自乗誤差算出部42でnd個の累積自乗誤差を算出しているが、算出する累積自乗誤差はnd個に限定されるものではなく、nd個より少ない個数の過去EC観測データを抽出し、その抽出した個数の累積自乗誤差を算出するようにしても良い。
【0081】
また、上述の実施の形態では、EC推定部34は、観測時のEC値を用いて観測時における流量を推定すると共に、過去30分の推定日EC観測データを取得して、将来1時間のEC値を算出している。しかしながら、取得される推定日EC観測データの時間帯および算出されるEC値の時間帯は、それぞれ30分および1時間に限定されるものではなく、例えば、過去1時間の推定日EC観測データを取得して、将来2時間のEC値を算出するようにしても良い。また、過去に観測されたEC観測データから、過去の流量値および水質値を算出することにより、雨水流入施設管理支援システム10を、過去の流量および水質を検証するために用いても良い。
【0082】
また、上述の実施の形態では、EC推定部34は、累積自乗誤差のうち当該誤差の値が小さな過去EC観測データを上位から順番に10個し取得し、10個の過去EC観測データの平均値をECデータとしているが、累積自乗誤差によって取得するEC観測データの数は10個に限定されるものではなく、例えば、1個もしくは15個等他の数としても良い。
【0083】
また、上述の実施の形態では、EC観測データ抽出部40は、日曜日の晴天日のEC観測データを抽出しているように、EC計12によってEC値を観測した曜日を基準として、EC観測データを抽出しているが、この晴天日のEC観測データからさらに抽出されるデータの基準を曜日に限定することなく、例えば、平日であるか休日であるかを基準にしても良いし、祭り等の特別な行事が行われる日を基準にしても良い。また、台風が通過した次の日を基準としたり、春・夏・秋・冬等の季節を基準としたり、他の基準を設定するようにしても良い。
【0084】
また、上述の実施の形態では、雨水流入施設管理支援システム10や雨水流入施設管理支援装置20等の機能を特定のハードウェアを指定して機能別手段として行わせているが、全てまたはその一部をプログラムからなるソフトウェアによって実現しても、あるいはその少なくとも一部をハードウェアで実現しても良い。例えば、制御部22における処理の全部またはその一部は、1または複数のプログラムによりコンピュータ上で実現しても良く、その少なくとも一部をハードウェアで実現しても良い。
【0085】
また、上述の実施の形態では、EC推定部34におけるECデータの算出において、累積自乗誤差を算出する毎に、算出された算出値Tと記憶領域(M1〜M10)に記憶されている累積自乗誤差の値と比較しているが、最初に、EC観測データ記憶部32に記憶されているnd個の全ての過去EC観測データについて累積自乗誤差をそれぞれ算出し、その算出された累積自乗誤差の算出値Tのうちで値が小さな上位10個の将来1時間後のEC観測データを記憶領域(M1〜M10)に記憶するようにしても良い。
【実施例】
【0086】
以下、本発明の実施例について説明する。
【0087】
まず、EC推定部によって得られたEC値の結果について示す。
【0088】
表1に、合流式下水道において測定したEC観測値の結果を示す。また、表2および表3にEC推定部によって算出されたEC値の結果の一例を示す。なお、EC値の観測(以下、EC観測という。)は、降雨日である2007年6月22日にEC計を用いて行った。また、EC値の予測(以下、EC予測という。)は、2007年6月22日の19時〜21時半(表1における波線Aで囲んだ部分)まで行ったものを示す。具体的には、19時〜19時半までのEC観測値に基づいて、19時半〜20時半までのEC予測を行うと共に、20時〜20時半までのEC観測値に基づいて、20時半〜21時半までのEC予測を行った。
【表1】

【表2】

【表3】

【0089】
表2に示すように、19時〜19時半までのEC観測値に基づいて取得された19時半〜20時半までの10個のEC値のグラフは、19時半〜20時半までのEC観測値のグラフから大きく離れることはなかった。また、10個のEC値のグラフの平均をとった19時半〜20時半までのEC値のグラフは19時半〜20時半までのEC観測値のグラフと近似するものとなった。
【0090】
また、表3に示すように、20時〜20時半までのEC観測値に基づいて取得された20時半〜21時半までの10個のEC値のグラフは、20時半〜21時半までのEC観測値のグラフから大きく離れることはなかった。また、20時半〜21時半までのEC値のグラフは20時半〜21時半までのEC観測値のグラフと近似するものとなった。
【0091】
以上の結果より、EC推定部によってEC予測を正確に行えることが分かった。
【0092】
次に、流量推定部によって得られた流量データの結果について示す。
【0093】
表4に、流量推定部により算出された希釈率の時系列的な変化と、観測した流量値(以下、流量観測値という。)の時系列的な変化の比較を示す。また、表5に、希釈率を変数とした流量推定式のグラフと流量観測値との比較を示す。また、表6に、流量推定部によって算出された推定流量値のグラフと流量観測値の時系列的な変化との比較を示す。なお、EC観測および流量観測は、降雨日である2007年6月10日の0時〜2007年6月11日の16時までEC計およびポンプを用いてそれぞれ行った。また、流量値の予測(以下、流量予測という。)は、2007年6月10日の0時半〜2007年6月11日の16時半まで行った。なお、流量予測で使用される流量推定式における係数α,βおよびγの値をそれぞれ0.1835、−0.5257および1.0337に設定した。この場合の相関係数Rの値は0.8268であった。
【表4】

【表5】

【表6】

【0094】
表4に示すように、EC観測データ記憶部から抽出され、流量推定部によって算出された晴天日の汚水のEC観測値(EC(dry))を、雨天日である2007年6月10日の下水のEC観測値(EC(wet))で割った希釈率(EC(dry)/EC(wet))のグラフと流量観測値(Q)のグラフは類似するものとなった。特に、時間を30分ずらした流量観測値(Q(+30))のグラフと希釈率(EC(dry)/EC(wet))のグラフはより類似するものとなることがわかる。また、これらの結果から、希釈率(EC(dry)/EC(wet))から流量の値が予測できることがわかった。
【0095】
また、表5に示すように、この流量推定式によって算出された流量の値を時間において30分ずらした流量の値(Q(+30))と、時間において30分ずらした流量観測値(Q(+30))との相関係数Rの値は0.8268となった。この結果から、流量推定式で算出される流量値(Q(+30))と流量観測値(Q(+30))はさほど誤差がないことがわかった。したがって、希釈率(EC(dry)/EC(wet))を入力とした流量推定式を用いて流量の値が予測できることがわかった。
【0096】
また、表6に示すように、流量推定式によって算出された流量値のグラフは、流量観測値の時系列変化と近似していることが分かった。
【0097】
以上の結果より、希釈率に基づいて流量を正確に予測できることが分かった。
【0098】
次に、水質推定部によって得られた水質データの結果について示す。
【0099】
表7に、水質推定部によって算出された水質値のグラフと、観測した水質値(以下、水質観測値という。)の時系列的な変化の比較を示す。なお、水質の観測および水質変化の予測(以下、水質予測という。)は、降雨日である2007年7月14日12時〜2007年7月14日12時まで行った。また、水質予測で使用される水質推定モデル式における負荷流出係数Cを0.00005、堆積負荷量Pを0.10、流量係数mを1.4および晴天時負荷量DWLを99.3にそれぞれ設定した。
【表7】

【0100】
表7に示すように、水質推定モデル式によって算出された水質値のグラフは、水質観測値の時系列変化と近似していることが分かった。
【0101】
以上の結果より、流量に基づいて水質を正確に予測できることが分かった。また、上述の各結果を考察すると、EC計で観測したEC観測値に基づいて、水質予測を正確に行えることが分かった。
【産業上の利用可能性】
【0102】
本発明の雨水流入施設管理支援装置、雨水流入施設管理支援システム、雨水流入施設管理支援方法、並びに、雨水流入施設管理支援装置として機能させるプログラムは、雨水流入施設の運転管理を行うサービス産業において利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0103】
【図1】本発明の一実施の形態に係る雨水流入施設管理支援システムの構成を示す図である。
【図2】図1中の流量推定部における観測時の流量値の算出処理を示すフローチャートである。
【図3】図1中のEC推定部における観測後一時間のEC値の算出処理を示すフローチャートである。
【図4】図1中の流量推定部における観測後一時間の流量値の算出処理を示すフローチャートである。
【符号の説明】
【0104】
10…雨水流入施設管理支援システム
12…EC計
20…雨水流入施設管理支援装置
29…観測値記憶部
30…記憶部
32…EC観測データ記憶部(導電率観測データ記憶部)
33…雨天EC観測データ記憶部(雨天導電率観測データ記憶部)
34…EC推定部
36…流量推定部
38…水質推定部
40…EC観測データ抽出部(導電率観測データ抽出部)
42…累積自乗誤差算出部
44…近似判別部
46…推定EC値算出部(導電率値算出部)
48…晴天日EC観測データ抽出部(晴天日導電率観測データ抽出部)
50…曜日別EC観測データ抽出部(曜日別導電率観測データ抽出部)
52…希釈率算出部
54…推定流量値算出部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
雨水流入施設における下水中の導電率から当該下水の流量もしくは水質を推定する雨水流入施設管理支援方法であって、
上記雨水流入施設に設置された導電率計によって観測された晴天日の汚水の導電率値を、上記導電率計によって観測された雨天日の下水の導電率値で割って希釈率を算出し、当該希釈率に基づいて下水の流量を推定することを特徴とする雨水流入施設管理支援方法。
【請求項2】
さらに、前記雨水流入施設において過去に観測された複数の導電率値の時系列データである過去導電率観測データを導電率観測データ記憶部に記憶し、
前記導電率計によって推定日に観測された下水の導電率値の時系列データである推定日導電率観測データを観測値記憶部に記憶し、
上記観測値記憶部から上記推定日導電率観測データを抽出すると共に、上記導電率観測データ記憶部から上記過去導電率観測データを順番に抽出し、
上記導電率観測データ抽出部において抽出された、上記過去導電率観測データが上記推定日導電率観測データと近似しているか否か判別し、前記希釈率に基づいて将来の下水の流量を予測することを特徴とする請求項1に記載の雨水流入施設管理支援方法。
【請求項3】
前記流量の推定/予測は、前記希釈率を入力とし、流量を出力とするモデル式を用いて行われることを特徴とする請求項1または2記載の雨水流入施設管理支援方法。
【請求項4】
前記推定/予測された流量に基づいて、水質を推定/予測することを特徴とする請求項1から3のいずれか1項記載の雨水流入施設管理支援方法。
【請求項5】
雨水流入施設における下水中の導電率から当該下水の流量もしくは水質を推定する雨水流入施設管理支援装置であって、
演算されたデータが記憶される記憶部と、
上記雨水流入施設において過去に観測された複数の導電率値の時系列データである過去導電率観測データが記憶される導電率観測データ記憶部と、
導電率計によって推定日に観測された下水の導電率値である推定日導電率観測値が記憶される観測値記憶部と、
上記導電率観測データ記憶部から晴天日に観測された汚水の過去導電率観測データを抽出する晴天日導電率観測データ抽出部と、
上記晴天日の汚水の過去導電率観測データの値を、下水の上記推定日導電率値で割って希釈率を算出する希釈率算出部と、
上記希釈率に基づいて、推定すべき下水の流量値である流量値を算出する推定流量値算出部と、を有することを特徴とする雨水流入施設管理支援装置。
【請求項6】
さらに、演算されたデータが記憶される記憶部と、
前記雨水流入施設において過去に観測された複数の導電率値の時系列データである過去導電率観測データが記憶される導電率観測データ記憶部と、
導電率計によって推定日に観測された下水の導電率値の時系列データである推定日導電率観測データが記憶される観測値記憶部と、
上記観測値記憶部から上記推定日導電率観測データを抽出すると共に、上記導電率観測データ記憶部から上記過去導電率観測データを順番に抽出する導電率観測データ抽出部と、
上記導電率観測データ抽出部において抽出された、上記過去導電率観測データが上記推定日導電率観測データと近似しているか否か判別する近似判別部と、
上記近似判別部において近似していると判別された上記過去導電率観測データから将来の下水の導電率値を求める導電率値算出部とを備え、
前記推定流量値算出部は、上記将来の下水の導電率値から前記希釈率を求め、予測すべき下水の流量値を算出することを特徴とする請求項5に記載の雨水流入施設管理支援装置。
【請求項7】
前記近似判別部は、過去の共通する時系列において、前記推定日導電率観測データと過去導電率観測データが近似するか否かを判別することを特徴とする請求項6記載の雨水流入施設管理支援装置。
【請求項8】
さらに、前記導電率観測データ抽出部において抽出された、前記推定日導電率観測データと、前記過去導電率観測データとの累積自乗誤差を算出する累積自乗誤差算出部を有し、
前記近似判別部での近似の判別は、上記累積自乗誤差算出部で算出された累積自乗誤差に基づいて行われることを特徴とする請求項6または7記載の雨水流入施設管理支援装置。
【請求項9】
前記近似判別部は、前記累積自乗誤差算出部で算出された累積自乗誤差が小さいものの上位1つもしくは上位複数の前記過去導電率観測データに関するデータを前記記憶部に記憶させることを特徴とする請求項6から8のいずれか1項記載の雨水流入施設管理支援装置。
【請求項10】
前記晴天日の過去導電率観測データを、さらに曜日別で抽出する曜日別導電率観測データ抽出部を有することを特徴とする請求項5から9のいずれか1項記載の雨水流入施設管理支援装置。
【請求項11】
前記晴天日導電率観測データ抽出部は、前記導電率観測データ記憶部から前記晴天日の過去導電率観測データを複数抽出し、
該抽出された複数の前記晴天日の過去導電率観測データの値の平均値を算出することを特徴とする請求項5から10のいずれか1項に記載の雨水流入施設管理支援装置。
【請求項12】
前記推定流量値算出部における前記流量値の算出は、前記希釈率を入力とし、流量を出力とするモデル式を用いて行われることを特徴とする請求項5から11のいずれか1項記載の雨水流入施設管理支援装置。
【請求項13】
前記流量値に基づいて、水質を推定/予測することを特徴とする請求項5から12のいずれか1項記載の雨水流入施設管理支援装置。
【請求項14】
請求項5から13のいずれか1項記載の雨水流入施設管理支援装置と、
雨水流入施設における下水若しくは汚水の導電率を観測する導電率計と、
を備えることを特徴とする雨水流入施設管理支援システム。
【請求項15】
コンピュータを請求項5から13のいずれか1項記載の雨水流入施設管理支援装置として機能させることを特徴とするプログラム。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate


【公開番号】特開2009−180051(P2009−180051A)
【公開日】平成21年8月13日(2009.8.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−22137(P2008−22137)
【出願日】平成20年1月31日(2008.1.31)
【出願人】(397028016)株式会社日水コン (18)
【Fターム(参考)】