説明

雨量計測ユニット及び雨量計の取付け方法

【課題】無線通信電波への影響及び雨量計測精度への影響を充分に考慮した上でアンテナユニットの近傍に雨量計を配置することにより、良好な無線通信と高精度な雨量計測を両立させることのできる雨量計測ユニット及び雨量計の取付け方法を提供すること。
【解決手段】この雨量計測ユニットUは、アンテナユニットAと、アンテナユニットAの近傍に設置された雨量計Sと、を有する雨量計測ユニットであって、アンテナユニットAは、基点8から略水平面P内において放射状に延びる複数の棒状のアンテナアーム4と、各アンテナアーム4の放射方向先端部5近傍においてその下端6aが保持され、その上端6bが略鉛直上方向に延びるように立設された棒状の空中線6と、を有して構成され、雨量計Sは、その上面側に受水用の開口部を有して上下に延びる筒形状に構成されており、かつ、上面側における最上部10の高さ位置が実質的に水平面P以下となるように雨量計Sが配置されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、雨量計測ユニット及び雨量計の取付け方法に関し、特に無線通信基地局近傍に配置した雨量計測ユニット等に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、地球温暖化や環境問題への取り組みが重要視されている。中でも気候変動に伴う突然の豪雨やそれによる水害等の自然災害の増加は深刻さを増している。そのような降雨に起因する災害の予防策として、雨量計を用いた雨量計測を利用することができる。
【0003】
雨量計によって降雨量を計測し、その降雨量を常時又は定期的に監視すれば、雨の降り始めの時刻、雨がやんだ時刻、降り続いた時間、降雨量の傾向(雨が次第に強くなってきているか、次第に弱くなってきているか。)等の降雨に関する様々な情報を把握することができる。それらの情報に基づき、その降雨地域における自然災害の発生のおそれを把握したり予測したりすることができ、災害予防に貢献することができる。
【0004】
また、例えば広範囲の地域に複数の雨量計を設置することにより、降雨範囲がどのように移動しているか等、降雨の状況変化についても把握することができる。それにより、より高精度に災害発生の予測をしたり、より早い段階での災害発生の予測をしたりすることができる。降雨範囲のみならず、現時点では雨が降っていない地域におけるその後の降雨予測が可能となり、住民を一層安全に避難させることも可能となる。
【0005】
したがって、より高精度、より安全な災害予防の観点から、雨量計は広範囲の地域に亘って数多く設置されることが望ましい。なお、このような複数の雨量計を用いた雨量計測においては、一般的に、複数の雨量計の計測データを常時監視してデータを集約して解析する統合的な雨量計測システムが適用される。
【0006】
一方、近年はPHSを含む携帯電話等の普及に伴い、それらの無線通信基地局が広範囲かつ高密度に設置されている。そこで、それら無線通信基地局に雨量計を共架することができれば、新たに設置場所、設備を確保することなく、多数の雨量計測ユニットの設置が可能となり望ましい(例えば、特許文献1を参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2002−186015号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
ここで、無線通信基地局は電波を発射して移動局と無線通信を行っていることから、無線通信基地局近傍、特に空中線に近接して雨量計を設置すると、無線通信基地局が発射する電波に悪影響を与えることがある。そこで、無線通信基地局近傍に雨量計を設置する場合は、無線通信基地局が発射する電波へ悪影響を与えないよう配慮する必要がある。
【0009】
一方、雨量計の雨量計測精度についても考慮する必要がある。例えば、雨量計で捕捉すべき雨滴が無線通信基地局の機器部材等によって遮蔽されてしまうと、正確な雨量計測を行うことができない。また、無風状態では鉛直に落下する雨滴も、風によって斜め方向に雨量計受水口に入る場合があるため、この点についても無線通信基地局の機器部材と雨量計の相対位置を十分に検討する必要がある。
【0010】
しかしながら、特許文献1に開示のものは、無線通信基地局とその近傍に設置する降雨センサーとの位置関係について考慮されていない。従って、無線通信基地局に降雨センサーを配置することによる無線通信電波に対する影響や、無線通信基地局の機器部材等による雨量計測精度への影響について技術的な検討が行われていない。
【0011】
そこで、本発明は、無線通信基地局近傍に雨量計を設置することで生じる無線通信電波への影響及び雨量計計測精度の検討を行い、良好な無線通信と高精度な雨量計測を両立させることのできる雨量計の設置方法を提供することを例示的課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明の例示的側面としての雨量計測ユニットは、中継基地局の一部を構成するアンテナユニットと、アンテナユニット近傍に設置された雨量計とを有して構成される。アンテナユニットは、基点から略水平面内において放射状に伸びる棒状のアンテナアームと、各アンテナアームの放射方向先端部においてその下端が支持され、その上端が略鉛直方向に設置された棒状の空中線とを有して構成される。
【0013】
雨量計は、その上面側に受水用の開口部を有して上下に延びる筒形状に構成されており、かつ、上面側における最上部の高さ位置がアンテナアームが位置する略水平面以下となるよう配置されている。
【0014】
雨量計測ユニットは、無線移動局相互間の通信を可能とする通信網と無線移動局との間の通信を中継する中継基地局の一部を構成するアンテナユニットと、アンテナユニットの近傍に設置された雨量計と、を有する雨量計測ユニットであって、アンテナユニットは、基点から略水平面内において放射状に延びる複数の棒状のアンテナアームと、各アンテナアームの放射方向先端部近傍においてその下端が保持され、その上端が略鉛直上方向に延びるように立設された棒状の空中線と、を有して構成され、雨量計は、その上面側に受水用の開口部を有して上下に延びる筒形状に構成されており、かつ、上面側における最上部の高さ位置が実質的に水平面以下となるように雨量計が配置されている。
【0015】
アンテナユニットの近傍に雨量計を配置することによって雨量計測ユニットとしているので、この雨量計測ユニットを広範囲の地域に亘り所定の設置間隔で設置することにより、無線移動局相互の通信と高精度な雨量計測とを両立させることができる。アンテナユニットの設置スペースと雨量計の設置スペースとをそれぞれ別途準備する必要がないので、設置スペースの節約にも寄与することができる。また、多数の雨量計をアンテナユニットと共に設置するので、安全かつ高精度な雨量計測を実現することができ、自然災害の効果的な予防に大きく貢献する。
【0016】
雨量計の上面側における最上部の高さ位置が実質的に水平面以下となるように配置されているので、アンテナユニットからの電波に対して雨量計の配置が与える悪影響を小さくすることができる。アンテナユニットから放射される電波は空中線から放射されるものが支配的であるが、この空中線から放射される電波のアンテナパターン(放射エネルギー強度分布とも言う。)の殆どがアンテナアームよりも上方における空間に指向されている。したがって、水平面以下の空間位置においては電波の放射エネルギー強度が弱く、この部分に雨量計を配置しても、通信電波に障害を与えるおそれは殆どない。
【0017】
なお、雨量計の開口部が水平面より下方に位置すると、開口部に至って計測されるべき雨滴の一部がアンテナアームや保持ポール部材によって遮断されてしまい、雨量計測の正確を期すことが難しくなる。したがって、正確な雨量計側の観点からは、雨量計の開口部が水平面よりもあまり下方とならないように、すなわち水平面と略同じ高さ位置となることが望ましい。
【0018】
無線移動局が、携帯電話であってもよい。
【0019】
アンテナユニットが、基点から下方に延びて基点において複数のアンテナアームを集約保持する保持ポール部材を更に有する場合において、雨量計における開口部の高さ位置が水平面と略等高であってもよい。
【0020】
アンテナユニットが保持ポール部材を有する場合において、雨量計の開口部を水平面より下方位置に配置すると、雨量計の開口部に至るべき雨滴の一部がアンテナアームや保持ポール部材によって遮断され、正確な雨量計測を阻害してしまう場合がある。しかしながら、雨量計の開口部が水平面と略等高とされていれば、計測されるべき雨滴がアンテナアームや保持ポール部材によって殆ど遮断されることなく開口部へと至ることとなり、正確な雨量計測に資することができる。
【0021】
複数のアンテナアームが略等長である場合において、複数のアンテナアームの先端部同士を結ぶ円を断面として鉛直方向に延びる円筒領域内に、雨量計が配置されていてもよい。
【0022】
複数のアンテナアームが略等長である場合、アンテナユニットは全体として円筒様形状を呈する。この全体形状(円筒様形状)の外側に雨量計が突出して配置されると、例えば輸送の際に邪魔になったり、作業者がアンテナユニット周囲でメンテナンス作業等をする場合にぶつかってしまったりと、取扱い性に困難が生じる。しかしながら、雨量計がこのアンテナユニットの全体形状の内側に入っていれば、換言すれば、複数のアンテナアームの先端部同士を結ぶ円を断面として鉛直方向に延びる円筒領域内に入っていれば、輸送の際に邪魔にならず、メンテナンス作業等の際にぶつかるおそれも少ない。この雨量計測ユニットの取扱い性が向上する。
【0023】
雨量計の開口部とアンテナアームとが、鉛直方向において重複しないように構成されていてもよい。
【0024】
雨量計の開口部とアンテナアームとが鉛直方向において重複しないように構成されているので、例えば無風状態の場合、鉛直方向に開口部に向けて落下する雨滴がアンテナアームによって遮断されてしまうという不具合を発生しない。したがって、雨量計測の精度の低下を防止することができる。
【0025】
基点と雨量計の開口部中心とを結ぶ線が、雨量計と隣り合う2つのアンテナアームの基点における交差角の実質的な角度二等分線であってもよい。
【0026】
雨量計の開口部中心が2つのアンテナアームの交差角の実質的な角度二等分線であるので、雨量計の開口部に対して両方のアンテナアームが略左右対称の位置関係に配置されることとなる。降雨時には横風を伴う場合が多く、横風が吹いている状態では雨滴が斜め下方に落下しつつ雨量計の開口部へと至ることとなる。このような場合に、雨量計の開口部の近傍であってかつそれよりも上方位置にアンテナアームが配置されると、強風の場合には斜め下方に落下して雨量計の開口部へと至るべき雨滴の一部がアンテナアームによって遮断されてしまう状況が生じ得る。
【0027】
雨量計の左右近傍に2つのアンテナアームが配置されている場合に、そのうちの一方のアンテナアームが雨量計の開口部により近い位置にあると、そのアンテナアーム側から吹く横風により雨滴が遮断され易くなる。雨量計に対する風向きが右方向からか左方向からかによって雨量計測精度が不安定となってしまい、高精度な雨量計測を行うことができない。
【0028】
しかしながら、雨量計の開口部に対してアンテナアームが略左右対称の位置に配置されれば、少なくとも風向きが右か左かによる計測精度の不安定さは解消される。左右どちらの方向から横風が吹いても、同じような安定性のある精度で雨量計測を行うことができる。
【0029】
雨量計の開口部が実質的に半径rの円形断面を有し、アンテナアームの基点から先端部までの長さがLであり、かつ、雨量計と隣り合う2つのアンテナアームの基点における交差角がθである場合において、基点から開口部中心までの水平面内における距離Xが実質的に、
L−r≧X≧r/{sin(θ/2)}
で与えられる範囲であってもよい。
【0030】
基点から開口部中心までの距離Xを、上記の式によって与えられる範囲に設定することで、雨量計測ユニットの全体形状の外側への雨量計の突出防止及びアンテナアームと開口部との鉛直方向における重複防止を両立させることができる。したがって、雨量計測ユニットの取扱い性を向上させつつ雨量計測精度を向上させることができ、より高精度かつ安全な災害予防に寄与することができる。
【0031】
距離Xが実質的に、
[(L−r)−r/{sin(θ/2)}]/2≧X≧r/{sin(θ/2)}
で与えられる範囲であってもよい。
【0032】
基点から開口部中心までの距離Xを、更に上記の式によって与えられる範囲に設定することで、雨量計の配置位置を空中線から有効に離間させることができ、空中線による雨滴の遮断を効果的に防止することができる。したがって、より一層の雨量計測の高精度化に貢献することができ、効果的な災害予防に寄与することができる。
【0033】
本発明の他の例示的側面としての雨量計の取付け方法は、無線移動局相互間の通信を可能とする通信網と無線移動局との間の通信を中継する中継基地局の一部を構成するアンテナユニットの近傍に雨量計を取り付ける取付け方法であって、アンテナユニットが、基点から実質的に水平面内において放射状に延びる複数の棒状のアンテナアームと、各アンテナアームの放射方向先端部近傍においてその下端が保持され、その上端が実質的に鉛直上方向に延びるように立設された棒状の空中線と、を有して構成され、かつ、雨量計が、その上面側に受水用の開口部を有して上下に延びる筒形状に構成され、雨量計を、その上面側における最上部の高さ位置が水平面以下となるように取り付けるものである。
【0034】
アンテナユニットの近傍に雨量計を配置することによって雨量計測ユニットとしているので、この雨量計測ユニットを広範囲の地域に亘り所定の設置間隔で設置することにより、無線移動局相互の通信と高精度な雨量計測とを両立させることができる。アンテナユニットの設置スペースと雨量計の設置スペースとをそれぞれ別途準備する必要がないので、設置スペースの節約にも寄与することができる。また、多数の雨量計をアンテナユニットと共に設置するので、安全かつ高精度な雨量計測を実現することができ、自然災害の効果的な予防に大きく貢献する。
【0035】
雨量計の上面側における最上部の高さ位置が実質的に水平面以下となるように配置されているので、アンテナユニットからの電波に対して雨量計の配置が与える悪影響を小さくすることができる。アンテナユニットから放射される電波は空中線から放射されるものが支配的であるが、この空中線から放射される電波のアンテナパターン(放射エネルギー強度分布とも言う。)の殆どがアンテナアームよりも上方における空間に指向されている。したがって、水平面以下の空間位置においては電波の放射エネルギー強度が弱く、この部分に雨量計を配置しても、通信電波に障害を与えるおそれは殆どない。
【0036】
本発明の更なる課題又はその他の特徴は、以下添付図面を参照して説明される好ましい実施例によって明らかにされるであろう。
【発明の効果】
【0037】
本発明によれば、無線移動局用のアンテナユニットの近傍に雨量計を配置しているので、各々の配置スペースを別途準備する必要がない。この雨量計測ユニットを広範囲に亘り多数設置するだけで、無線移動局の通信可能領域の拡大と高精度な雨量計測(及びその計測データを用いた高精度な自然災害予測や自然災害予防。)を実現することができる。
【0038】
また、アンテナユニットを構成する各構成部材と雨量計とを適切に配置しているので、無線通信への影響を最小限に抑えつつ雨量計測データの高精度化(精度低下の防止を含む。)を実現し、しかもこの雨量計測ユニットの取扱い性も向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0039】
【図1】本発明の実施の形態に係る雨量計測ユニットの概略を示す外観斜視図である。
【図2】図1に示す雨量計測ユニットを上方から見た平面図である。
【図3】図1に示す雨量計測ユニットを矢印Y方向から見た側面図である。
【図4】図1に示す雨量計測ユニットを矢印Z方向から見た側面図である。
【図5】図1に示す雨量計測ユニットにおけるアンテナユニットのアンテナパターンを示す図である。
【図6】図1に示す雨量計測ユニットを上方から見た平面図であって、雨量計近傍の要部を拡大して示した模式図である。
【図7】図1に示す雨量計測ユニットにおける距離Xと遮蔽率Cとの関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0040】
以下、本発明に実施の形態に係わる雨量計測ユニットについて、図面を用いて説明する。図1は、この雨量計測ユニットUの構成の概略の概略を示す外観斜視図である。また、図2は、この雨量計測ユニットUを上方から見た平面図、図3は図2中の矢印Y方向から見た側面図である。雨量計測ユニットUは、アンテナユニットAと雨量計Sとを有して大略構成されている。この雨量計測ユニットUは、無線移動局との通信を可能とする機能と降雨量を観測する機能とを併せ持ち、独立柱の他、例えば、ビル、家屋の屋上、電柱及び看板等に設置されている。
【0041】
雨量計測ユニットUは、無線移動局の通信可能領域(実質的に、略円形領域である。)を構築し、その通信可能領域の略中心に位置する。そして、無線移動局の通信不能領域を生じさせないために、この雨量計測ユニットUは所定の設置間隔で広範囲にわたって多数設置される。その設置間隔は、例えば、1つの雨量計測ユニットUが構築する通信可能領域が半径Rの円形領域である場合において、概ね√3・R程度の距離である。
【0042】
空中線Aは、雨量計測ユニットUのうち、無線移動局との通信を実現する機能を担う。
【0043】
アンテナユニットAは、図に示すように、基地局ポール(保持ポール部材)2、複数のアンテナアーム4、複数の空中線6を有して大略構成されている。基地局ポール2は、略鉛直方向に立設して設置される棒状の保持部材であって、その先端部分を基点8として複数のアンテナアーム4を集約的に保持している。基地局ポール2は、例えば鉄やアルミニウム合金等の金属を材料とする円柱部材で構成され、アンテナアーム4や空中線6の重量を支えるための高剛性部材である。基地局ポール2の途中部分、すなわち基点8の下方位置には、雨量計Sを取り付けるための取付けアーム12が取り付けられているが、これらについては詳細を後述する。
【0044】
アンテナアーム4は、基地局ポール2と空中線6との間を中継するように両者に接続され、基地局ポール2に対して間接的に空中線6を固定している。アンテナアーム4は、基点8において基地局ポール2に保持されている。アンテナアーム4は、例えば直径φ30mmの金属製棒状部材であって、各々の長さLがすべて同じにされている。そして複数のアンテナアーム4が基点8から先端部5に向けて水平に延び、基点8を中心として放射状に配置されている。
【0045】
水平方向に延びる8本のアンテナアーム4の上側の円柱側面部分に接する仮想的な平面が水平面Pを構成している。本実施の形態においては、例えば8本のアンテナアーム4が互いに水平面P内で45°の角度で放射状に配置され、各先端部5が正八角形の頂点に相当する位置に配置されている。
【0046】
空中線6は、各アンテナアーム4の先端部5近傍において各々その下端6aが保持され、その上端6bが略鉛直上方向に向けて延びるように立設された棒状の部材である。空中線6は、例えば直径φ30mmの円柱部材であって、図示しない中継器本体(中継基地局の一部)と電気的に接続されている。そして、中継器本体からの電気信号に基づき空中線6から電波を送信したり、PHS端末からの電波を受信してその電気信号を中継器本体に送ったりすることによって、PHS端末との無線通信を可能としている。
【0047】
雨量計Sは、その上面側に受水用の開口部11を有して略円筒形状を呈している。その円形状の開口部11内に落下した雨滴量を計測することにより、正確に雨量計測を行うことができるようになっている。雨量計Sとしては、転倒ます型雨量計や貯水型雨量計等の公知の雨量計を適用することができる。そして、広範囲に亘って設置された多数の雨量計Sは、例えば統合的に雨量計測システムや気象情報システム、災害予防システム等に接続されてそれらの計測データが集約され、降雨状況や天候変化の予測や分析、災害発生の予測や予防に利用されている。
【0048】
この雨量計Sは、図に示すように、取付けアーム12及び支持部材14によって基地局ポール2に取り付けられている。そして、その開口部11を上方に向けて略円筒形状の外形が上下方向に延びるように配置されている。なお、本実施の形態におけるアンテナユニットAに対する雨量計Sの配置位置について、以下に詳細に説明する。
【0049】
<雨量計測ユニットを側方から見た場合における雨量計の配置>
図4は、この雨量計測ユニットUを図2中の矢印Z方向から見た側面図である。雨量計Sは、2つの隣り合うアンテナアーム4の間に配置されている。水平面Pは、アンテナアーム4の円柱側面の上側部分に接するように仮想的に構築されている。そして、雨量計Sは、その上面側における最上部10の高さ位置が水平面P以下となるように配置されている。ここで、雨量計Sの上面側における最上部10が実質的に開口部11である場合には、その開口部11が水平面P以下の高さ位置となるように配置される。また、仮に雨量計Sが開口部11よりも上方に突出する突出部を有する場合には、その突出部の高さ位置が水平面P以下となるように配置される。
【0050】
図5は、この雨量計測ユニットUにおけるアンテナユニットAのアンテナパターンQを示す図である。アンテナパターンQは、アンテナユニットAから発せられる無線通信用電波の放射エネルギー強度分布を示すものである。図5においては、中心点Oを中心とする極座標における、アンテナユニットAによる無線電波の放射エネルギー強度分布を示している。なお、中心点Oは、空中線6の半分の長さに相当する高さ位置であって基点8の鉛直上方位置の点である。
【0051】
図5に示すアンテナパターンQによれば、アンテナユニットAの電波の放射エネルギー強度は、アンテナアーム4の下方、すなわち水平面Pの高さ以下の領域においては弱く、この領域に雨量計Sが配置されてもアンテナユニットAによる無線通信への悪影響は殆どない。したがって、雨量計Sの最上部10が水平面P以下の高さ位置にあれば、雨量計SがPHS端末相互の無線通信に対する障害の原因となるおそれは殆どない。
【0052】
一方、図4の記載から分かるように、横風等によって斜め下方に落下する雨滴Dがアンテナアーム4によって遮断されてしまう場合がある。このとき、雨量計Sの開口部11が水平面Pよりも下方に位置する場合には、本来は開口部11へと至って計測されるべき雨滴Dがアンテナアーム4によって遮断されて計測されないという問題が生じることとなる。
【0053】
また、図示していないが、雨量計Sの開口部11が水平面Pよりも下方に位置すると、雨量計Sによって計測されるべき雨滴Dの一部が基地局ポール2によっても遮断されてしまい、基地局ポール2が雨量計側に悪影響を与えてしまう可能性もある。
【0054】
したがって、雨量計Sの開口部11の高さ位置は、理論的には水平面Pの高さ位置以上に位置することが雨量計測の精度向上の観点からは望ましい。一方で、開口部11を水平面Pよりも上方に位置させると、雨量計S配置によるアンテナユニットAの電波への影響が懸念される。したがって、雨量計測精度向上と電波への影響低減の両立を考慮すると、雨量計Sの開口部11の高さ位置が水平面Pの高さ位置と略等高とされていることが好ましい。
【0055】
なお、横風の影響を無視すれば、開口部11の高さ位置を水平面Pの高さ位置よりも下方としても問題がない。また、どの程度の風速の横風まで考慮するかによって、開口部11の高さ位置を水平面Pの高さ位置よりどの程度下方とすることができるかが決定される。この場合において、想定される最大風速、開口部11の直径、アンテナアーム4の直径、アンテナアーム4と雨量計Sとの水平方向距離等のパラメータを考慮すれば、開口部11を水平面Pからどの程度下に下げても問題がないかを算出することができる。
【0056】
なお、アンテナアーム4が雨滴Dを遮断してしまうことによる雨量計測への悪影響を最小限とするためには、雨量計Sの配置位置を2つのアンテナアーム4の放射角度の角度二等分線上とすることが好ましい(図6参照)。すなわち、開口部11の中心(開口部中心)Nと基点8とを結ぶ直線が、雨量計Sと隣り合う左右2つのアンテナアーム4が基点8において交差する交差角の実質的な角度二等分線となっていることが好ましい。
【0057】
雨量計Sに対して、左右に隣り合う2つのアンテナアーム4が左右対称の位置関係となるので、一方のアンテナアーム4が雨量計Sにより近いということがない。雨量計測は、左右どちらからの風の影響も同様に受けることとなる。
【0058】
<雨量計測ユニットを上方から見た場合における雨量計の配置>
図6は、この雨量計測ユニットUを上方から見た平面図であって、雨量計S近傍の要部を拡大して示した模式図である。上述したように、雨量計Sは、隣り合う2つのアンテナアーム4の交差角θの実質的な角度二等分線上にその中心Nが位置するように配置されている。それにより、隣り合う2つのアンテナアーム4による雨滴Dの遮断の影響が最も少なくされ、かつ左右どちらからの風の影響も同様に(均等に)受けるようにされている。そして、後述するように、雨量計Sを基点8側になるべく近づけて配置しても、開口部11とアンテナアーム4とが鉛直方向において重複し難い。したがって、交差角θの角度二等分線上に中心Nを配置することで、高精度な雨量計測に貢献することができる。
【0059】
基点8から中心Nまでの距離Xは、雨量計Sの開口部11の半径をr、基点8からアンテナアーム4の先端部5までの長さ(実質的に、アンテナアーム4の長さ)をLとすると、以下の式で与えられる範囲であることが望ましい。
【0060】
L−r≧X≧r/{sin(θ/2)} −(1)
ここで、距離X1=L−r、距離X2={sin(θ/2)}とすると、距離X1,X2は各々図6中に示される位置に相当する。X1≧Xは、雨量計Sが、アンテナアーム4の先端部5を結ぶ円を断面として鉛直方向に延びる円筒領域内に配置されるための条件を表す。すなわち、雨量計測ユニットUを上方から見た場合に、図2及び図6に二点鎖線で示す円領域B内に、雨量計Sが配置されていることを表す。
【0061】
この円領域Bから雨量計Sが外側に突出すると、雨量計測ユニットUの輸送や運搬時、メンテナンス時等に、他の部材や作業員にぶつかってしまい取扱い性が良くない。しかし、雨量計Sが円領域B内に配置されていれば、他の部材や作業員が不意に雨量計Sにぶつかってしまうことが殆どなく、雨量計測ユニットUは良好な取扱い性を実現することができる。雨量計Sの配置位置が衝突によってズレてしまうことも防止することができるので、設置の位置再現性や高精度化に寄与することもできる。
【0062】
一方、X≧X2は、雨量計Sの開口部11とアンテナアーム4とが鉛直方向において重複しないための条件を表す。ここで、X2は、アンテナアーム4の厚さ(本実施の形態においては、アンテナアーム4の断面径)を無視した場合における理論的なXの下限値を示しているが、アンテナアーム4の厚さを考慮する場合は、一般的にX2は、r/{sin(θ/2)}よりも大きな値となる。
【0063】
X<X2となると、開口部11の一部が鉛直方向においてアンテナアーム4と重複し始め、無風状態において鉛直に落下する雨滴Dの一部がアンテナアーム4によって遮断されて開口部11へと至らないという不具合が発生し始める。しかし、X≧X2であれば、開口部11とアンテナアーム4とは鉛直方向において重複せず、そのような不具合が発生しない。
【0064】
なお、雨量計Sの左右に隣り合って位置する空中線6(図5中の斜線部参照。)は、水平面Pよりも上方へと鉛直に延びている。したがって、この空中線6による雨滴Dの遮断も雨量計測の精度にとって無視できない問題となり得る。すなわち、本来的に雨量計Sの開口部11へと至るべき雨滴Dが、横風によって雨滴Dが斜め下方に向けて落下する場合には、その一部が空中線6によって遮断されてしまって開口部11へと至らなくなってしまう場合がある。この「開口部11へと至るべき雨滴Dのうち、空中線6によって遮断されてしまう雨滴Dの割合」を遮蔽率Cで定義することとする。
【0065】
遮蔽率Cは、換言すると、「開口部11の中心Nを中心とした360°の全周長のうち、空中線6が占める長さ」とも言うことができる。
【0066】
空中線6の断面直径をdとすると、雨量計Sの左右2本の空中線6による雨滴Dの遮蔽率C1は、以下の式によって近似的に与えられる。
【0067】
【数1】

例えば、本発明の実施の形態において、空中線6の断面直径d=30mm、アンテナアーム4の長さL=650mmであって、8本の空中線6が正八角形の頂点位置に配置されている(すなわち、2本の隣り合うアンテナアーム4の交差角θ=45°)とすると、雨量計Sの左右に隣り合う2本の空中線6による遮蔽率C1は、
【0068】
【数2】

となる。また、開口部11の中心Nと基点8とを結ぶ線との交差角が67.5°の関係にある2つの空中線6(図2中の16)による遮蔽率C2は、
【0069】
【数3】

となる。また、開口部11の中心Nと基点8とを結ぶ線との交差角が112.5°の関係にある2つの空中線6(図2中の26)による遮蔽率C3は、
【0070】
【数4】

となる。また、開口部11の中心Nと基点8とを結ぶ線との交差角が157.5°の関係にある2つの空中線6(図2中の36)による遮蔽率C4は、
【0071】
【数5】

となる。
【0072】
つまり、雨量計Sの開口部11に対する8本の空中線6による遮蔽率Cは、これらの合計となり、C=C1+C2+C3+C4である。この遮蔽率Cと距離X(基点8から開口部11の中心Nまでの距離)との関係をグラフに表したものが、図7である。図7によれば、上式(1)によって雨量計Sの適正設置範囲M1が261mm≦X≦550mmとして求められている。これは、上記数式(1)に、アンテナアームの長さL=650mm、開口部11の半径r=100mm、交差角θ=45°を代入して求められる距離Xの範囲である。
【0073】
また、適正設置範囲M1の中でも、距離Xが小さい方が(すなわち、雨量計Sが基点8に近い方が)遮蔽率Cの観点からは好ましいことが図7に示されており、特に遮蔽率6.5%以下を達成する好適設置範囲M2に雨量計Sを配置することがより一層望ましい。この好適設置範囲M2は、適正設置範囲M1における距離Xの下限値から中央値までを範囲とするものであり、すなわち、261mm≦X≦406mmに相当する範囲である。この好適設置範囲M2を一般化すれば、以下の式によって表される距離Xの数値範囲となる。
【0074】
[(L−r)−r/{sin(θ/2)}]/2≧X≧r/{sin(θ/2)} −(7)
すなわち、上記に説明したように、本発明に係る雨量計測ユニットUにおいては、その側方から見た場合において、雨量計Sの最上部10が水平面P以下とされており、雨量計Sの開口部11が水平面Pと略等高とされていることが望ましい。それにより、雨量計Sの配置によるアンテナユニットAの電波放射への影響を低減することができ、しかも、アンテナアーム4による雨量計測への影響も低減することができる。
【0075】
更に、雨量計測ユニットUを、その上方から見た場合において、雨量計Sの開口部11の中心Nと基点8とを結ぶ線が隣り合う2つのアンテナアーム4同士の基点8における交差角θの角度二等分線となっていることが望ましい。それにより、アンテナアーム4による雨量計測への影響を低減することができ、風向きによる雨量計測への影響の不均衡を防止することができる。
【0076】
また、開口部11の中心Nと基点8との距離Xは、上記数式(1)で規定される適正設置範囲M1の範囲内であることが望ましく、更に上記数式(7)で規定される好適設置範囲M2の範囲内であることが一層好ましい。これにより、雨量計測ユニットUの取扱い性の向上、アンテナアーム4と開口部11との鉛直方向における重複の防止、空中線6による雨量計測への影響の低減を図ることができる。
【0077】
以上、本発明の好ましい実施の形態を説明したが、本発明はこれらに限定されるものではなく、その要旨の範囲内で様々な変形や変更が可能である。
【0078】
例えば、本発明においては、アンテナアーム4及び空中線6が各8本の場合について説明したが、もちろん、それらが各4本の場合、各6本の場合、各10本の場合等様々な本数の場合にも本発明の要旨を適用することができる。また、アンテナユニットAは、PHS端末用のものに限られず、通信可能領域が数km〜数10km程度の一般的な携帯電話用のものであっても、その他の無線移動局用のものであってもよい。雨量計Sは、転倒ます型のものであっても貯水型のものであってもよいし、その開口部11形状も円形に限られず、四角形、楕円形等様々な形状が適用可能である。
【符号の説明】
【0079】
θ:交差角
A:アンテナユニット
B:円領域
C,C1〜C4:遮蔽率
D:雨滴
d:空中線の断面直径
L:長さ
M1:適正設置範囲
M2:好適設置範囲
N:中心(開口部中心)
P:水平面
Q:アンテナパターン
r:開口部の半径
S:雨量計
U:雨量計測ユニット
X,X1,X2:距離
Y,Z:矢印
2:基地局ポール(保持ポール部材)
4:アンテナアーム
5:先端部
6,16,26,36:空中線
6a:下端
6b:上端
8:基点
10:最上部
11:開口部
12:取付けアーム
14:支持部材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
無線移動局相互間の通信を可能とする通信網と該無線移動局との間の通信を中継する中継基地局の一部を構成するアンテナユニットと、該アンテナユニットの近傍に設置された雨量計と、を有する雨量計測ユニットであって、
前記アンテナユニットは、基点から略水平面内において放射状に延びる複数の棒状のアンテナアームと、該各アンテナアームの放射方向先端部近傍においてその下端が保持され、その上端が略鉛直上方向に延びるように立設された棒状の空中線と、を有して構成され、
前記雨量計は、その上面側に受水用の開口部を有して上下に延びる筒形状に構成されており、かつ、
前記上面側における最上部の高さ位置が実質的に前記水平面以下となるように前記雨量計が配置されている雨量計測ユニット。
【請求項2】
前記無線移動局が、携帯電話である請求項1に記載の雨量計測ユニット。
【請求項3】
前記無線移動局が、PHS端末である請求項1又は請求項2に記載の雨量計測ユニット。
【請求項4】
前記アンテナユニットが、
前記基点から下方に延びて該基点において前記複数のアンテナアームを集約保持する保持ポール部材を更に有する場合において、
前記雨量計における前記開口部の高さ位置が前記水平面と略等高である請求項1から請求項3のうちいずれか1項に記載の雨量計測ユニット。
【請求項5】
前記複数のアンテナアームが略等長である場合において、
前記複数のアンテナアームの先端部同士を結ぶ円を断面として鉛直方向に延びる円筒領域内に、前記雨量計が配置されている請求項1から請求項4のうちいずれか1項に記載の雨量計測ユニット。
【請求項6】
前記雨量計の開口部と前記アンテナアームとが、鉛直方向において重複しない請求項1から請求項5のうちいずれか1項に記載の雨量計測ユニット。
【請求項7】
前記基点と前記雨量計の開口部中心とを結ぶ線が、該雨量計と隣り合う2つの前記アンテナアームの前記基点における交差角の実質的な角度二等分線である請求項1から請求項6のうちいずれか1項に記載の雨量計測ユニット。
【請求項8】
前記雨量計の開口部が実質的に半径rの円形断面を有し、
前記アンテナアームの前記基点から前記先端部までの長さがLであり、かつ、
前記雨量計と隣り合う2つの前記アンテナアームの前記基点における交差角がθである場合において、
前記基点から前記開口部中心までの前記水平面内における距離Xが実質的に、
L−r≧X≧r/{sin(θ/2)}
で与えられる範囲である請求項7に記載の雨量計測ユニット。
【請求項9】
前記距離Xが実質的に、
[(L−r)−r/{sin(θ/2)}]/2≧X≧r/{sin(θ/2)}
で与えられる範囲である請求項8に記載の雨量計測ユニット。
【請求項10】
無線移動局相互間の通信を可能とする通信網と該無線移動局との間の通信を中継する中継基地局の一部を構成するアンテナユニットの近傍に雨量計を取り付ける取付け方法であって、
前記アンテナユニットが、基点から実質的に水平面内において放射状に延びる複数の棒状のアンテナアームと、該各アンテナアームの放射方向先端部近傍においてその下端が保持され、その上端が実質的に鉛直上方向に延びるように立設された棒状の空中線と、を有して構成され、かつ、
前記雨量計が、その上面側に受水用の開口部を有して上下に延びる筒形状に構成され、
前記雨量計を、その前記上面側における最上部の高さ位置が前記水平面以下となるように取り付ける雨量計の取付け方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2011−69644(P2011−69644A)
【公開日】平成23年4月7日(2011.4.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−219055(P2009−219055)
【出願日】平成21年9月24日(2009.9.24)
【出願人】(507214083)メタウォーター株式会社 (277)
【出願人】(304058826)株式会社ウィルコム (56)
【Fターム(参考)】