説明

雪の含水率測定方法及び含水率測定器具

【課題】雪の含水率の測定において、測定にかかるコストを低減させることができると共に従来に比べて測定の手間を軽減させることができるようにする。
【解決手段】雪採取容器に雪試料を収容すると共に雪試料の重量Ws〔g〕を計測するステップ(S1)と、水位観測管を通過させて0℃の水を雪採取容器内に注入すると共に水位観測管内の水位を観測するステップ(S2)と、雪採取容器内部の収容物が全て水になった状態の水位観測管内の水位を観測するステップ(S3)と、水位観測管内の水位の低下分の体積Vi〔cm3〕を求めるステップ(S4)と、Wi=ρi/(1−ρi)×Vi(ただし、ρiは氷の密度〔g/cm3〕を表す)によって雪試料の氷成分の重量Wi〔g〕を算出するステップと、ξ=(Ws−Wi)/Ws×100 によって雪試料の含水率ξ〔%〕を求めるステップとを有するようにした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、雪の含水率測定方法及び含水率測定器具に関する。
【背景技術】
【0002】
雪の含水率を測定する従来の器具・装置としては、例えば、図4に示すように、測定対象の積雪の一部を採取する透明な容器102と、この透明な容器102を通して採取雪試料101に対し赤外線を照射すると共に採取雪試料101の表面からの反射光106の強度を検出する赤外線反射型センサ103と、透明な容器102の支持部に組み込まれたロードセル104と、赤外線反射型センサ103の出力及びロードセル104の出力を取り込んで反射光強度と密度との相関により含水率を判定するAND回路105とを備えるものがある(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平10−142146号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1の雪の含水率測定装置では、採取雪試料の表面に赤外線を照射してこの採取雪試料の表面からの反射光に基づいて含水率を測定するため、赤外線が透過することができない採取雪試料内部の含水率も考慮した測定をすることができないという問題がある。また、特許文献1の雪の含水率測定装置では、採取雪試料に赤外線を照射すると共にこの採取雪試料表面からの反射光を受光する赤外線反射型センサなどの特別の装置が必要であって装置が大型化しコストが高くなってしまうという問題や、反射光強度と密度との相関を予め導出して準備しておく必要があり手間がかかるという問題がある。そしてこれらのために特許文献1の雪の含水率測定装置は汎用性が高いとは言い難い。
【0005】
そこで、本発明は、特別の装置を必要としないので測定にかかるコストを低減させることができると共に従来に比べて測定の手間を軽減させることができ、加えて、現地における雪試料のサンプリングを簡便に済ませることができる雪の含水率測定方法及び含水率測定器具を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
かかる目的を達成するため、請求項1記載の雪の含水率測定方法は、本体と該本体に対して水密性を発揮して取り付けられる蓋と前記本体の内部と連通する水位観測管とを有する雪採取容器の前記本体の内部に雪試料を収容すると共に当該雪試料の重量Ws〔g〕を計測するステップ(S1)と、前記雪試料を収容し且つ前記蓋が取り付けられた状態で前記水位観測管を通過させて該水位観測管内に水面が位置するまで0℃の水を前記雪採取容器内に注入すると共に前記水位観測管内の水位を観測するステップ(S2)と、前記本体の内部の収容物が全て水になった状態の前記水位観測管内の水位を観測するステップ(S3)と、前記S2の処理における前記水位と前記S3の処理における前記水位とに基づいて前記水位観測管内の水位の低下分の体積Vi〔cm3〕を求めるステップ(S4)と、前記水位の低下分の体積Viを用いて Wi=ρi/(1−ρi)×Vi(ただし、ρiは氷の密度〔g/cm3〕を表す)によって前記雪試料の氷成分の重量Wi〔g〕を算出するステップと、前記雪試料の重量Ws及び前記雪試料の氷成分の重量Wiを用いて ξ=(Ws−Wi)/Ws×100 によって前記雪試料の含水率ξ〔%〕を求めるステップとを有するようにしている。
【0007】
また、請求項4記載の雪の含水率測定器具は、本体と該本体に対して水密性を発揮して取り付けられる蓋と前記本体の内部と連通する水位観測管とを有して雪採取容器を構成し、前記本体の内部に雪試料を収容すると共に当該雪試料の重量Ws〔g〕を計測するステップ(S1)と、前記雪試料を収容し且つ前記蓋が取り付けられた状態で前記水位観測管を通過させて該水位観測管内に水面が位置するまで0℃の水を前記雪採取容器内に注入すると共に前記水位観測管内の水位を観測するステップ(S2)と、前記本体の内部の収容物が全て水になった状態の前記水位観測管内の水位を観測するステップ(S3)と、前記S2の処理における前記水位と前記S3の処理における前記水位とに基づいて前記水位観測管内の水位の低下分の体積Vi〔cm3〕を求めるステップ(S4)と、前記水位の低下分の体積Viを用いて Wi=ρi/(1−ρi)×Vi(ただし、ρiは氷の密度〔g/cm3〕を表す)によって前記雪試料の氷成分の重量Wi〔g〕を算出するステップと、前記雪試料の重量Ws及び前記雪試料の氷成分の重量Wiを用いて ξ=(Ws−Wi)/Ws×100 によって前記雪試料の含水率ξ〔%〕を求めるステップとによる前記雪試料の含水率の測定に用いられるものである。
【0008】
これらの雪の含水率測定方法及び含水率測定器具によると、下記に説明する原理によって、概要としては雪を構成する氷と水との体積のうち氷が融解する前後での体積変化に着目して氷成分の体積を求めて当該氷成分の重量を求めることによって、雪の含水率を求めることができる。
【0009】
具体的には、雪の氷成分の重量Wiは、当該雪の氷成分が融解していない状態と融解している状態とでの体積変化量Viと氷の密度ρiとを用いて数式1のように表される。
(数1) Wi=ρi/(1−ρi)×Vi
【0010】
そして、雪の含水率(重量含水率)ξ〔%〕は、雪の水成分の重量Wwと雪の重量Wsとを用いて数式2のように表される。
(数2) ξ=Ww/Ws×100
【0011】
また、雪の重量Wsは、雪の氷成分の重量Wiと雪の水成分の重量Wwとの合計であるので、数式3のように表される。したがって、数式2は数式4のように表される。
(数3) Ws=Wi+Ww
(数4) ξ=(Ws−Wi)/Ws×100
【0012】
すなわち、雪の含水率(重量含水率)ξは、雪の重量Wsと雪の氷成分のみの重量Wiとによって表される。そして、雪の氷成分のみの重量Wiは、数式1に示すように、雪の氷成分が融解していない状態と融解している状態とでの体積変化量Viと氷の密度ρiとによって表される。よって、雪の含水率(重量含水率)ξは、雪の重量Wsと氷成分の融解前後での雪の体積変化Viと氷の密度ρiとによって表される。
【0013】
したがって、本発明の雪の含水率測定方法及び含水率測定器具によれば、測定において必要とされる計測は重量計測及び水位観測のみであると共に含水率の算定方法も簡便であり、特殊な機器や設備及び特別の知識や技術を用いることなく雪試料の含水率が測定される。また、測定対象の雪試料の採取を行う現地における作業が容易・簡便であるので、細かい作業や高度の技術が必要とされる場合のような誤差の発生が回避される。また、採取した雪試料の全てを用いて含水率の測定を行うようにしているので、例えば試料表面の一部分のみなどのように雪試料の一部分の性状の偏りの影響をできる限り排除して正確な含水率が測定される。
【0014】
また、請求項2記載の発明は、請求項1記載の雪の含水率測定方法において、前記雪採取容器の容積Vc〔cc〕と前記水位観測管の内径Φs〔cm〕とが、Φs≦√[0.12/π×(1−ρi)/ρi×Vc] (ただし、πは円周率を表す)の関係を満たしているようにしている。また、請求項5記載の発明は、請求項4記載の雪の含水率測定器具において、前記雪採取容器の容積Vc〔cc〕と前記水位観測管の内径Φs〔cm〕とが、Φs≦√[0.12/π×(1−ρi)/ρi×Vc] (ただし、πは円周率を表す)の関係を満たしているようにしている。これらの場合には、水位観測管内の水位を雪試料採取地点(即ち積雪現地)において目視によって観測する場合の読み取り精度を考慮した上で含水率測定誤差を5%以内にするための、雪採取容器の容積と水位観測管の内径との関係が達成される。
【0015】
また、請求項3記載の発明は、請求項1記載の雪の含水率測定方法において、前記S2の処理の際から前記S3の処理の際にかけての前記本体の温度上昇による前記本体の膨張分の体積を前記水位観測管内の水位の低下分の体積Viから差し引くようにしている。また、請求項6記載の発明は、請求項4記載の雪の含水率測定器具において、前記S2の処理の際から前記S3の処理の際にかけての前記本体の温度上昇による前記本体の膨張分の体積を前記水位観測管内の水位の低下分の体積Viから差し引くようにしている。これらの場合には、温度変化に起因して雪採取容器の本体が膨張することによる水位観測管内の見かけ上の水位低下が是正される。
【発明の効果】
【0016】
本発明の雪の含水率測定方法及び含水率測定器具によれば、特殊な機器や設備及び特別の知識や技術を用いることなく雪試料の含水率を測定することができるので、含水率の測定にかかるコストを低減すると共に手間を軽減することが可能になり、雪の含水率測定技術としての汎用性の向上を図ることが可能になる。また、測定対象の雪試料の採取を行う現地における作業が容易・簡便で済むので、含水率測定作業にかかる手間を軽減して作業効率の向上を図ることが可能になり、雪の含水率測定技術としての汎用性の向上を図ることが可能になる。また、細かい作業や高度の技術が必要とされる場合のような誤差の発生を回避することができるので、雪の含水率測定の信頼性の向上を図ることが可能になる。また、雪試料の一部分のみの性状の偏りの影響をできる限り排除して正確な含水率を測定することができるので、雪の含水率測定の信頼性の向上を図ることが可能になる。
【0017】
また、請求項2記載の雪の含水率測定方法及び請求項5記載の雪の含水率測定器具によれば、目視によって観測する場合の読み取り精度を考慮した上で含水率測定誤差を5%以内にするための、雪採取容器の容積と水位観測管の内径との関係を達成することができるので、雪の含水率測定の信頼性の向上を図ることが可能になる。
【0018】
また、請求項3記載の雪の含水率測定方法及び請求項6記載の雪の含水率測定器具によれば、温度変化に起因して雪採取容器の本体が膨張することによる水位観測管内の見かけ上の水位低下を是正することができるので、雪の含水率測定の信頼性の向上を図ることが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明の雪の含水率測定方法の実施形態の一例を説明するフローチャートである。
【図2】本発明の雪の含水率測定器具の実施形態の一例を説明する斜視図である。
【図3】実施形態の雪採取容器に0℃の水を注入する処理を説明する図である。
【図4】従来の雪の含水率測定装置を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明の構成を図面に示す実施の形態の一例に基づいて詳細に説明する。
【0021】
図1から図3に、本発明の雪の含水率測定方法及び含水率測定器具の実施形態の一例を示す。本実施形態の雪の含水率測定方法は、図2及び図3に示す本実施形態の雪の含水率測定器具としての雪採取容器1を用い、図1に示すように、本体2と該本体2に対して水密性を発揮して取り付けられる蓋3と本体2の内部と連通する水位観測管4とを有する雪採取容器1の本体2の内部に雪試料5を収容すると共に当該雪試料5の重量Ws〔g〕を計測するステップ(S1)と、雪試料5を収容し且つ蓋3が取り付けられた状態で水位観測管4を通過させて該水位観測管4内に水面が位置するまで0℃の水を雪採取容器1内に注入すると共に水位観測管4内の水位を観測するステップ(S2)と、本体2の内部の収容物が全て水になった状態の水位観測管4内の水位を観測するステップ(S3)と、S2の処理における水位とS3の処理における水位とに基づいて水位観測管4内の水位の低下分の体積Vi〔cm3〕を求めるステップ(S4)と、水位の低下分の体積Viを用いて Wi=ρi/(1−ρi)×Vi(ただし、ρiは氷の密度〔g/cm3〕を表す)によって雪試料5の氷成分の重量Wi〔g〕を算出するステップと、雪試料5の重量Ws及び雪試料5の氷成分の重量Wiを用いて ξ=(Ws−Wi)/Ws×100 によって雪試料5の含水率ξ〔%〕を求めるステップとを有するようにしている。
【0022】
また、本実施形態における雪の含水率測定器具としての雪採取容器1は、図1から図3に示すように、本体2と該本体2に対して水密性を発揮して取り付けられる蓋3と本体2の内部と連通する水位観測管4とを有するものとして構成され、本体2の内部に雪試料5を収容すると共に当該雪試料5の重量Ws〔g〕を計測するステップ(S1)と、雪試料5を収容し且つ蓋3が取り付けられた状態で水位観測管4を通過させて該水位観測管4内に水面が位置するまで0℃の水を雪採取容器1内に注入すると共に水位観測管4内の水位を観測するステップ(S2)と、本体2の内部の収容物が全て水になった状態の水位観測管4内の水位を観測するステップ(S3)と、S2の処理における水位とS3の処理における水位とに基づいて水位観測管4内の水位の低下分の体積Vi〔cm3〕を求めるステップ(S4)と、水位の低下分の体積Viを用いて Wi=ρi/(1−ρi)×Vi(ただし、ρiは氷の密度〔g/cm3〕を表す)によって雪試料5の氷成分の重量Wi〔g〕を算出するステップと、雪試料5の重量Ws及び雪試料5の氷成分の重量Wiを用いて ξ=(Ws−Wi)/Ws×100 によって雪試料5の含水率ξ〔%〕を求めるステップとによる雪試料5の含水率の測定に用いられるものである。
【0023】
本実施形態における雪の含水率測定器具としての雪採取容器1は、図2に示すように、円筒周壁と底とを有するコップ形の本体2と、当該本体2の上端の開口部を密封するための円盤形の蓋3と、下端部分が蓋3を上下方向に貫通して本体2の内部と連通する円筒形状の水位観測管4とを有する。
【0024】
蓋3は、雪採取容器1の本体2の上端開口部に、本体2との間で水密性を発揮すると共に着脱可能に取り付けられる。本実施形態では、本体2の円筒周壁上端部分の環状形状に合わせた環状の溝が蓋3の下面に形成され、当該環状溝に本体2の円筒周壁上端部分が差し込まれ嵌められて水密性が確保されるようにしている。
【0025】
水位観測管4は、下端部分が蓋3を上下方向に貫通し、前記下端部分が蓋3との間で水密性を有するようにして固定されて蓋3に対して取り付けられる。本発明では、水位観測管4内の水位を観測する必要があるので、水位観測管4は内部の水位を外部から認識できるように透明若しくは半透明の材質によって形成される。
【0026】
本発明における雪採取容器1の本体2の内部の容量は特定の大きさに限定されるものではなく、小さ過ぎると、後述のS1の処理における雪試料の採取の際に取り扱い難くなって作業の円滑性が低下してしまったり、後述のS2の処理とS3の処理との間での差違が小さくなってしまって誤差が大きくなってしまったりする一方で、大き過ぎると、複数の雪試料採取地点を回る際の携帯に不向きになってしまったりすることを考慮しながら適当に設定される。具体的には例えば20〜50〔cc〕程度の範囲で、測定対象の雪試料の採取可能量に合わせて適宜設定される。すなわち、測定対象の雪の試料が少量しか確保できない場合には例えば20〜30〔cc〕程度とし、一方、測定対象の雪の試料が或る程度の量確保できる場合には例えば40〜50〔cc〕程度とすることなどが考えられる。
【0027】
また、雪採取容器1の本体2や蓋3の材質は特定のものに限定されるものではないが、温度変化によって容器が膨張・収縮すると測定結果に誤差が生じてしまうので、雪採取容器1は熱膨張率が小さい材質で温度変化による体積変化が小さいように製作されることが好ましい。また、雪採取容器1は或る程度の保温性を有する材質で製作されることが好ましい。雪採取容器1(即ち、本体2,蓋3,水位観測管4)は、具体的には例えば、合成樹脂や金属などによって製作される。
【0028】
また、雪採取容器1について、予め、空(から)且つ乾燥状態での重量(即ち、本体2と蓋3と水位観測管4との合計重量)を計測しておく。
【0029】
そして、本発明による雪の含水率の測定においては、まず、雪採取容器1に収容された雪試料5の重量Wsを計測する(S1)。
【0030】
具体的には、雪採取容器1の本体2内に測定対象の積雪から採取した雪試料5を投入する。そして、水位観測管4が固定されている蓋3を本体2に嵌め、雪試料5を本体2内部に収容した状態の雪採取容器1の重量〔g〕を計測する。
【0031】
なお、本発明においては、本体2内に雪試料5が投入されれば良く、例えばすり切り一杯丁度にしたりする必要はない。また、本体2内に雪試料5が収容された状態で本体2と雪試料5との間に隙間があっても良いし、隙間なく詰め込まれていても良い。なお、雪試料5を採取する際に自然状態(積雪状態)の雪を手で触ると体温によって雪の性状に影響を与えてしまうことがあり得るので、本体2で直接掬って採取するようにしたり匙や篦などで掬って本体2に投入したりすることが好ましい。
【0032】
そして、雪試料5を収容した状態の雪採取容器1の重量から、予め計測しておいた空(から)且つ乾燥状態での雪採取容器1の重量を引いて、雪採取容器1に収容された雪試料5の重量Wsを求める。
【0033】
次に、雪試料5を収容した状態の雪採取容器1に0℃の水を注入し、水位観測管4内の水位L0を観測する。(S2)。
【0034】
S2の処理では、雪採取容器1内に収容された雪試料5の氷成分が氷の状態(即ち、積雪状態における雪の氷成分が氷のままで融解していない状態)での水位観測管4内の水位L0を観測する。
【0035】
S2の処理では、雪採取容器1内の空気泡をできる限り排出させる(言い換えると、本体2内を雪試料5と0℃の水とで満たす)ことができるように0℃の水を注入することが好ましい。具体的には、水位観測管4よりも一層細い注入管6を水位観測管4から本体2の底部直近に至るまで挿入し、この注入管6によって0℃の水を徐々に注入して本体2内の雪試料5に0℃の水を底の方から染み込ませるようにすることが好ましい。なお、細い注入管6による0℃の水の注入は、具体的には図3に示すように、注入管6を備える注射器7などを用いることが考えられる。また、0℃の水としては例えば氷水を用いる。
【0036】
なお、S2からS4までの処理に亘って空気泡が雪採取容器1内に入ったままであれば雪の重量含水率の測定結果に影響はなく測定誤差の原因にはならない。言い換えると、雪採取容器1内に空気泡が一切入っていないことが本発明の条件ではなく、雪採取容器1内に空気泡が入っていても構わない。
【0037】
ここで、本発明では、水位観測管4内における水位の変化、具体的には水位の低下を観測する。そこで、S2の処理においては、後に或る程度低下しても水位が水位観測管4内にあるように、言い換えると、後の水位の低下を見越し、水位が水位観測管4の上側位置になるまで0℃の水を注入するようにすることが考えられる。
【0038】
ここで、水位観測管4内の水位の観測は、S2の処理における0℃の水の注入後の水位を読み取るための目盛を水位観測管4に予め付けておいて当該目盛から読み取った水面位置を水位としても良いし、水位目印を水位観測管4に予め付けておいて当該水位目印まで水を注入することによってS2の処理における水位としても良いし、水位観測管4の任意の位置まで水を注入して当該位置に印を付けるようにしても良い。印を付ける場合には、具体的には例えば、水位観測管4に取り付けた輪ゴムやクリップの位置を水面位置に合わせて動かすようにしたり、水面位置に印を書き付けたりすれば良い。なお、S2の処理における水位L0としては、水位観測管4から注入管6を引き抜いた状態での水位を観測する。また、本発明では、予め決めておいた水位まで水を注入すること、及び、任意で注入した水の水位を特定しておくこと、のどちらも含めて水位の観測という。
【0039】
次に、S2の処理において雪採取容器1に0℃の水を注入したことによってS1の処理において雪採取容器1に収容された雪試料5の氷成分が融解した状態での水位観測管4内の水位L1を観測する(S3)。
【0040】
S3の処理では、雪採取容器1内に収容された雪試料5の氷成分が融解して容器1内の収容物が全て水の状態での水位観測管4内の水位L1を観測する。
【0041】
次に、水位観測管4内の水位の低下分の体積Viを求める(S4)。
【0042】
具体的には、S2の処理における水位観測管4内の水位L0とS3の処理における水位観測管4内の水位L1との差である水位の低下量L(=L0−L1)を求め、当該水位の低下量Lを用いて数式5によって水位観測管4内の水位の低下分の体積Viを求める。
(数5) Vi=π/4×d2×L
ここに、 Vi:雪採取容器の水位観測管内の水位の低下分の体積〔cm3〕,
d :雪採取容器の水位観測管の内径〔cm〕,
L :雪採取容器の水位観測管内の水位の低下量〔cm〕,
π :円周率 をそれぞれ表す。
【0043】
次に、雪採取容器1に収容された雪試料5の氷成分の重量Wiを算出する(S5)。
【0044】
具体的には、S4の処理において算出された水位の低下分の体積Viは雪試料5の氷成分の融解前後での体積変化量に等しいので、当該水位の低下分の体積Viを用いて数式6によって雪採取容器1に収容された雪試料5の氷成分の重量Wiを算出する。
(数6) Wi=ρi/(1−ρi)×Vi
ここに、 Wi:雪採取容器に収容された雪試料の氷成分の重量〔g〕,
Vi:雪採取容器の水位観測管内の水位の低下分の体積〔cm3〕,
ρi:氷の密度〔g/cm3〕 をそれぞれ表す。
【0045】
次に、雪採取容器1に収容された雪試料5の含水率を算出する(S6)。
【0046】
具体的には、S1の処理において計測された雪採取容器1に収容された雪試料5の重量WsとS5の処理において算出された雪試料5の氷成分の重量Wiとの差分が雪試料5の水成分の重量であるので、これら雪試料5の重量Wsと氷成分の重量Wiとを用いて数式7によって雪採取容器1に収容された雪試料5の含水率(重量含水率)ξを算出する。
(数7) ξ=(Ws−Wi)/Ws×100
ここに、 ξ :雪採取容器に収容された雪試料の含水率〔%〕,
Ws:雪採取容器に収容された雪試料の重量〔g〕,
Wi:雪採取容器に収容された雪試料の氷成分の重量〔g〕
をそれぞれ表す。
【0047】
以上の処理により、採取した雪試料5の含水率ξが求められる。
【0048】
以下では、本発明による雪の含水率の測定において良好な精度を確保するための検討を行う。
【0049】
〈検討1〉雪採取容器1の容量と水位観測管4の内径との関係
まず、雪採取容器1の容量と水位観測管4の内径との間の好ましい関係について検討する。
【0050】
本発明は雪に占める氷成分の体積変化を水位観測管4内の水位変化に基づいて検出するものであるので、雪採取容器1の容量(厳密には、雪採取容器1内に収容される雪試料5の容積)と水位観測管4の内径とは、良好な測定精度を確保するために以下の条件を満たすことが好ましい。
【0051】
ここでの検討の条件を以下の通りとする。
〈設定条件〉
含水率測定誤差(許容範囲) :5%以内
雪採取容器の容量 :Vc〔cc〕
水位観測管の内径 :Φs〔cm〕
水位観測管内の水位の読み取り精度:0.1〔cm〕
雪試料の最低密度 :0.10〔g/cm3
雪試料の最大含水率 :40〔%〕
氷の密度 :ρi〔g/cm3
【0052】
なお、水位観測管内の水位の読み取り精度は、水位観測管内の水位を雪試料採取地点(即ち積雪現地)において目視によって観測する場合の読み取り可能な最小幅(言い換えると、最小単位)である。また、雪採取容器の容量Vcは、本体2と蓋3とによって区画される空間の容量である。
【0053】
上記条件の下では、最低密度で最大含水率の雪試料5を雪採取容器1に隙間なく収容した場合、含まれる氷成分の融解前後での体積変化、即ち、雪採取容器1の水位観測管4内の水位の低下分の体積Viは数式8で求められる。
(数8) Vi=Vc×0.10×(1−0.4)/ρi×(1−ρi)
【0054】
含水率測定誤差に相当する水位観測管4内の体積変化Vsが水位観測管内の水位の読み取り精度に相当する水位観測管4内の体積以上であれば、良好な測定精度を確保することができる。したがって、数式9の関係が満たされていれば良い。
(数9) Vs=Vi×0.05≧π/4×Φs2×0.1
【0055】
数式8と数式9とから数式10が導出される。そして、この数式10によって表される条件が、雪採取容器1の容量Vcと水位観測管4の内径Φsとの間の好ましい関係である。
(数10) Φs≦√[0.12/π×(1−ρi)/ρi×Vc]
【0056】
具体的には例えば、雪採取容器1の容量Vcが30〔cc〕である場合には、水位観測管4の内径Φsは0.32〔cm〕以下であることが好ましい。
【0057】
〈検討2〉空気泡の残留による含水率測定精度への影響
次に、S2の処理において雪採取容器1内に空気泡が残留した場合の、当該残留空気泡が測定精度に与える影響について検討する。
【0058】
本発明における、空気泡が雪採取容器1内に残留した場合の測定精度に与える影響は、具体的には、S2の処理の際の温度(即ち0℃)からS3の処理の際の温度への変化に起因する残留空気泡の体積膨張による水位観測管4内の水位低下の抑制(低減)である。
【0059】
ここでの検討の条件を以下の通りとする。
〈設定条件〉
残留空気泡 :1〔mm3〕が5粒
S2の処理の際の温度:0〔℃〕
S3の処理の際の温度:20〔℃〕
【0060】
温度上昇による空気泡の膨張分の体積Va〔cc〕は数式11によって表される。
(数11) Va=3.00×10-3×20×(1.0×10-3)×5=300×10-6
【0061】
上記の空気泡の膨張分の体積Va=300×10-6〔cc〕は、水位観測管4の内径を例えば0.32〔cm〕とした場合の水位観測管内の水位の読み取り精度(0.1〔cm〕)に相当する水位観測管4内の体積0.0080〔cm3〕よりも十分に小さいので、含水率測定精度に与える影響は殆どないと言える。
【0062】
〈検討3〉温度上昇に起因する雪採取容器の膨張による含水率測定誤差への影響
次に、S2の処理の際の温度(即ち0℃)からS3の処理の際の温度への上昇に起因する雪採取容器1の膨張による含水率測定値への影響について検討する。
【0063】
具体的には、雪採取容器1の本体2が例えば合成樹脂によって製作されて温度変化によって膨張・収縮する場合、本体2の膨張によって水位観測管4内の水位が低下するので、S2の処理からS3の処理にかけて温度が上昇すると本体2が膨張して測定誤差が生じることになる。
【0064】
ここでの検討の条件を以下の通りとする。
〈設定条件〉
雪採取容器の本体の高さL :5〔cm〕
雪採取容器の本体の直径D :3〔cm〕
雪採取容器の材質の線膨張係数κ:100〜180×10-6〔1/℃〕
S2の処理の際の温度 :0〔℃〕
S3の処理の際の温度 :20〔℃〕(即ち、温度変化Δt=20〔℃〕)
【0065】
なお、上記設定条件のうちの膨張係数κの値は、ポリエチレンの線膨張係数に相当する値を想定している。
【0066】
温度変化による雪採取容器1の本体2の膨張分の体積ΔVc〔cm3〕は数式12によって求められる。
(数12) ΔVc=ΔSc×(L+ΔL)
=ΔSc×L(1+κ×Δt)
=π/4×(2D2κ+D2κ2Δt)×Δt×L(1+κ×Δt)
=π/4×2D2κ×Δt×L(1+κ×Δt)
ここに、 ΔL :雪採取容器の本体の高さの温度変化による変化量〔cm〕,
ΔSc:雪採取容器の本体の底面積の温度変化による変化量〔cm2
をそれぞれ表す。
なお、π/4×D2κ2Δt×Δtはごく小さい値となるのでゼロとみなした。
【0067】
したがって、上述の設定条件を数式12に当てはめると、温度変化による雪採取容器1の本体2の膨張分の体積ΔVcは数式13のように算出される。
(数13) ΔVc=π/4×2×32×180×10-6×20×5×(1+180×10-6×20)
=0.255〔cc〕
【0068】
上記の本体2の膨張分の体積ΔVc=0.255〔cc〕は、水位観測管4の内径を例えば0.32〔cm〕とした場合の水位観測管内の水位の変化量L'に換算すると、数式14に示すように、水位の変化量L'=1.6〔mm/℃〕になる。
(数14) π/4×0.322×L'=0.255 より L'=3.17〔cm/20℃〕=1.6〔mm/℃〕
【0069】
したがって、水位観測管4の内径が0.32〔cm〕である場合には、0℃からの温度上昇1℃あたり1.6〔mm〕を、S3の処理における水位L1に加えるか、又は、S4の処理における水位の低下量L(=L0−L1)から差し引くことによって含水率測定精度を向上させることができる。すなわち、S3の処理の際の雪採取容器1の本体2の温度がt℃である場合には、1.6×t〔mm〕を、S3の処理における水位L1に加えるか、S4の処理における水位の低下量L(=L0−L1)から差し引くかすれば良い。
【0070】
以上の検討より、S2の処理の際からS3の処理の際にかけて本体2の温度が上昇している場合には、温度変化に起因して雪採取容器1の本体2が膨張することによるものであって雪試料5の氷成分の融解前後での体積変化とは関係がない水位観測管4内の見かけ上の水位低下を是正するため、S2の処理の際からS3の処理の際にかけての本体2の温度上昇による本体2の膨張分の体積を水位観測管4内の水位の低下分の体積から差し引くようにすることが好ましい。
【0071】
以上のように構成された本発明の雪の含水率測定方法及び含水率測定器具によると、特殊な機器や設備及び特別の知識や技術を用いることなく雪試料5の含水率を測定することができるので、含水率の測定にかかるコストを低減すると共に手間を軽減することが可能になり、雪の含水率測定技術としての汎用性の向上を図ることが可能になる。また、測定対象の雪試料5の採取を行う現地における作業が容易・簡便で済むので、含水率測定作業にかかる手間を軽減して作業効率の向上を図ることが可能になり、雪の含水率測定技術としての汎用性の向上を図ることが可能になる。また、細かい作業や高度の技術が必要とされる場合のような誤差の発生を回避することができるので、雪の含水率測定の信頼性の向上を図ることが可能になる。また、雪試料の一部分のみの性状の偏りの影響をできる限り排除して正確な含水率を測定することができるので、雪の含水率測定の信頼性の向上を図ることが可能になる。
【0072】
なお、上述の形態は本発明の好適な形態の一例ではあるがこれに限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において種々変形実施可能である。例えば、上述の実施形態では、雪採取容器として図2に示す雪採取容器1を用いるようにしているが、本発明の雪の含水率測定方法を実行する際に適用可能な雪採取容器はこれに限られるものではない。具体的には例えば、図2に示す雪採取容器1では本体2は円筒周壁を有するコップ形に形成されているが、本体2の形状はこれに限られるものではなく、例えば断面多角形の直方体形状や多角柱形状でも良い。また、水位観測管4の取付位置も上述の実施形態における雪採取容器1におけるものには限られない。
【0073】
また、上述の実施形態では、雪採取容器1の蓋3は円盤形に形成されているが、蓋3の下面は、水位観測管4が貫通する箇所を頂点としてすり鉢状に形成されているようにしても良い。この場合には、そしてまた水位観測管4の下端部が蓋3の下面よりも下方に突出しないようにすることにより、S2の処理において0℃の水を注入する際に、本体2内の残留空気泡を水面の上昇に合わせて蓋3下面のすり鉢形状の頂点である水位観測管4の貫通孔に集めてより一層確実に排出することができるという作用効果を発揮する。
【0074】
また、上述の実施形態では、S2の処理とS3の処理とにおいて水位観測管4内の水位を観測してS4の処理において水位観測管4内の水位の低下分の体積Viを算出するようにしているが、水位観測管4内の水位の変化量を水位の変化分の体積Viに換算した目盛を水位観測管4の周壁に予め付けておいて、S2の処理とS3の処理とにおいてこの換算目盛を読み取ることによって水位の低下分の体積Viを求める(S4)ようにしても良い。この場合には、この体積換算目盛を読み取ることがS2とS3との処理における水位観測管4内の水位の観測に該当する。
【符号の説明】
【0075】
1 雪採取容器
2 本体
3 蓋
4 水位観測管
5 雪試料

【特許請求の範囲】
【請求項1】
本体と該本体に対して水密性を発揮して取り付けられる蓋と前記本体の内部と連通する水位観測管とを有する雪採取容器の前記本体の内部に雪試料を収容すると共に当該雪試料の重量Ws〔g〕を計測するステップ(S1)と、前記雪試料を収容し且つ前記蓋が取り付けられた状態で前記水位観測管を通過させて該水位観測管内に水面が位置するまで0℃の水を前記雪採取容器内に注入すると共に前記水位観測管内の水位を観測するステップ(S2)と、前記本体の内部の収容物が全て水になった状態の前記水位観測管内の水位を観測するステップ(S3)と、前記S2の処理における前記水位と前記S3の処理における前記水位とに基づいて前記水位観測管内の水位の低下分の体積Vi〔cm3〕を求めるステップ(S4)と、前記水位の低下分の体積Viを用いて Wi=ρi/(1−ρi)×Vi(ただし、ρiは氷の密度〔g/cm3〕を表す)によって前記雪試料の氷成分の重量Wi〔g〕を算出するステップと、前記雪試料の重量Ws及び前記雪試料の氷成分の重量Wiを用いて ξ=(Ws−Wi)/Ws×100 によって前記雪試料の含水率ξ〔%〕を求めるステップとを有することを特徴とする雪の含水率測定方法。
【請求項2】
前記雪採取容器の容積Vc〔cc〕と前記水位観測管の内径Φs〔cm〕とが、Φs≦√[0.12/π×(1−ρi)/ρi×Vc](ただし、πは円周率を表す)の関係を満たしていることを特徴とする請求項1記載の雪の含水率測定方法。
【請求項3】
前記S2の処理の際から前記S3の処理の際にかけての前記本体の温度上昇による前記本体の膨張分の体積を前記水位観測管内の水位の低下分の体積Viから差し引くことを特徴とする請求項1記載の雪の含水率測定方法。
【請求項4】
本体と該本体に対して水密性を発揮して取り付けられる蓋と前記本体の内部と連通する水位観測管とを有して雪採取容器を構成し、前記本体の内部に雪試料を収容すると共に当該雪試料の重量Ws〔g〕を計測するステップ(S1)と、前記雪試料を収容し且つ前記蓋が取り付けられた状態で前記水位観測管を通過させて該水位観測管内に水面が位置するまで0℃の水を前記雪採取容器内に注入すると共に前記水位観測管内の水位を観測するステップ(S2)と、前記本体の内部の収容物が全て水になった状態の前記水位観測管内の水位を観測するステップ(S3)と、前記S2の処理における前記水位と前記S3の処理における前記水位とに基づいて前記水位観測管内の水位の低下分の体積Vi〔cm3〕を求めるステップ(S4)と、前記水位の低下分の体積Viを用いて Wi=ρi/(1−ρi)×Vi(ただし、ρiは氷の密度〔g/cm3〕を表す)によって前記雪試料の氷成分の重量Wi〔g〕を算出するステップと、前記雪試料の重量Ws及び前記雪試料の氷成分の重量Wiを用いて ξ=(Ws−Wi)/Ws×100 によって前記雪試料の含水率ξ〔%〕を求めるステップとによる前記雪試料の含水率の測定に用いられることを特徴とする雪の含水率測定器具。
【請求項5】
前記雪採取容器の容積Vc〔cc〕と前記水位観測管の内径Φs〔cm〕とが、Φs≦√[0.12/π×(1−ρi)/ρi×Vc] (ただし、πは円周率を表す)の関係を満たしていることを特徴とする請求項4記載の雪の含水率測定器具。
【請求項6】
前記S2の処理の際から前記S3の処理の際にかけての前記本体の温度上昇による前記本体の膨張分の体積を前記水位観測管内の水位の低下分の体積Viから差し引くことを特徴とする請求項4記載の雪の含水率測定器具。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2012−220413(P2012−220413A)
【公開日】平成24年11月12日(2012.11.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−88262(P2011−88262)
【出願日】平成23年4月12日(2011.4.12)
【出願人】(000173809)一般財団法人電力中央研究所 (1,040)