説明

雪庇発生防止装置

【課題】設置スペースを節減でき、風の影響が小さく、しかも外観が損なわれることがない雪庇発生防止装置。
【解決手段】建築物又は構造物の上縁部分2に、外上向きに傾斜した複数のルーバーパネル8を段状に設置し、各ルーバーパネル8の外側の上端部には垂直の雪切板9を形成し、雪切板9にはパンチング加工等により多数の透孔12が貫通形成されていることを特徴とする。ルーバーパネル8は雪切板と側板とともにユニット化してもよい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、建築物におけるパラペットの上縁部分、笠木の上縁部分、高架鉄道や高架道路における防護壁や工作物(広告塔、看板等)などの構造物の上縁部分などに発生する雪庇を防止する雪庇発生防止装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、上述のような建築物や構造物の上縁部分には、降雪時に雪庇が発生しやすかった。すなわち、例えば建築物の上縁部分(例えばパラペット)では、屋根面に沿って吹く風とともに運ばれてきた飛雪が、パラペットの笠木を吹き越す際に渦状になって戻り、その粘着性により壁面等に付着しながら風下に向かって成長し発達し、雪庇となるのである。このように、吹雪の時に限って発生雪庇が発生し、雪庇が増大すると、軒下などに落下するなどして、通行人等に危害を与える危険性がある。
【0003】
また、上記防護壁の上縁部分などに雪庇が発生した場合も、同様な心配があるとともに高架鉄道や高架道路内外に落下した場合は、交通の障害になるなどの問題がある。
【0004】
そこで、特許文献1に示されるように、建築物や構造物の上縁部分の直上位置に、横断面が上記構造物の外側から内側に向かって低く傾斜する傾斜面を有する三角形状の吹上げ部を形成する構造が提案されている。これによれば、構造物の内側から外側に向かって吹いてくる風は傾斜面に沿って上方に誘導されて吹上げられるので、構造物の上縁部分上で風速が加速されるとともに、構造物から離れたときに生じる風の渦は構造物から離れた位置で発生する。したがって、雪庇の発生を有効に防止することができる。
【0005】
しかしながら、特許文献1に示す雪庇発生防止装置は、比較的小型であるため、積雪量の多い地域において吹き飛ばし能力以上の降雪があるときは、雪庇を発生させてしまうという問題がある。これに対応するためには、雪庇発生防止部材の高さを高くする必要がある。
【0006】
そこで、上記問題に対応するため、外上向きに傾斜するルーバーパネルを多段に設置する多段ルーバー方式の雪庇発生防止装置が考えられている(特許文献2参照)。これによれば、傾斜ルーバーパネルが多段に設けられているから、吹き飛ばし効果を向上させるために高さを増大させても底面積が大きくなることはないから、設置面積は小さくて済む。このため、設置場所に制約を受けることがない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特許第2882988号公報
【特許文献2】特許第4164405号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、特許文献2の装置では、間隔をおいて多段に設置されたルーバーパネルとルーバーパネル間の隙間が外部に露出し、ルーバーパネルの裏側が見え、外観が損なわれるという問題がある。
【0009】
本発明は前記問題点を解決し、設置スペースを節減できるとともに、風の影響が小さく、しかも外観が損なわれることがない雪庇発生防止装置を提供することをその課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
前記第1の課題を解決するため、請求項1に係る発明は、建築物又は構造物の上縁部分に、外上向きに傾斜した複数のルーバーパネルを段状に設置し、各ルーバーパネルの外側の上端部には垂直の雪切板を形成し、雪切板には多数の透孔が貫通形成されていることを特徴とする。
【0011】
請求項2に係る発明は、請求項1において、上記多数の透孔は、ルーバーパネルのパンチング加工によって形成されたものであることを特徴とする。
【0012】
請求項3に係る発明は、請求項1又は2において、段状に設置された上記上下段のルーバーパネルにおいて、上段のルーバーパネルの下端は、それよりも一段下の下段のルーバーパネルの上端よりも高く形成されていることを特徴とする。
【0013】
請求項4に係る発明は、請求項1、2又は3において、上記段状のルーバーパネルとルーバーパネルの外側上端部に取り付けられた雪切板と上記ルーバーパネルの両端を固定する側板とはユニットかされていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0014】
請求項1に係る発明によれば、建築物又は構造物の上縁部分に、外上向きに傾斜した複数のルーバーパネルを段状に設置したので、ルーバーパネルは、建築物又は構造物の内側から外側に向かって高くなるように傾斜している。このため、建築物又は構造物の内側から外側に向かって吹いてくる風の風速はルーバーパネルの傾斜面に沿って移動する際に加速されつつ、上方に誘導されて吹上げられる。このため、建築物から離れたときに生じる風の渦は建築物から屋外側に離れた位置で発生する。このように、建築物の上縁部分上の雪はルーバーパネルの傾斜面で吹払われ、また雪庇を発生させる風の渦も上記上縁部分から外側に離れた位置で生じるので、雪庇の発生を有効に防止することができる。
【0015】
また、風がなく雪が降る日が続くと、最上段のルーバーパネルの上部には雪が降り積もることがあるが、積雪は圧密沈降した際、最上部の雪切板によって切除されるので、大きな雪庇となることはない。
【0016】
また上記最上部の雪切板には透孔が形成されているため、雪切板と雪との間の摩擦係数が低くなり、積雪の切除がされやすい。
【0017】
さらに、雪切板によって上下段のルーバーパネル間の隙間が小さくなるが、雪切板には多数の透孔12が形成され、これらは上下段のルーバーパネル間を通過する風の通り孔となるので、ルーバーパネルの傾斜面による雪の吹き飛ばし効果が阻害されないから、雪切板によって雪庇の発生防止は阻害されない。加えて、装置の高さが高くなると、装置に加わる風圧が大きくなり、特に多段に形成された雪切板は風圧が加わる面積が大きい。しかし、雪切板には多数の透孔が形成され、風の通りがよく、風圧による影響は軽減される。
【0018】
また、各ルーバーパネル8の外側の上端部には雪切板9が垂直に形成されているので、外部からは直接には雪切板9のみが建築物の上縁部分2に壁状に現れるので、ルーバーパネルの裏側が見えることによって外観が損なわれることはない。
【0019】
請求項2に係る発明によれば、上記多数の透孔は、ルーバーパネルのパンチング加工によって形成されることができるから、多数の透孔付きルーバーパネルの製作を容易に行うことができる。
【0020】
請求項3の発明によれば、上段のルーバーパネの下端は、それよりも一段下の下段のルーバーパネルの上端よりも高く形成されているから、風はないのに雪が降る日が続くことにより上下のルーバーパネル8間に雪が積もっても、雪の高さは下段のルーバーパネルよりも高くなる。高くなった部分は、下段のルーバーパネル8の雪切板9に臨むことになるが、雪切板9の透孔12を通過した日光が雪面にあたって暖められ、融雪が進行するとともに、風圧により屋外側に押し出されるので、透孔12から外に出て垂れ落ちてしまう。したがって、上下のルーバー間に雪が詰まって雪庇発生の防止効果が損なわれることはない。
【0021】
請求項4に係る発明によれば、左右の両側板とルーバーパネルと雪切板とは予めユニット化されているので、建築物又は構造物の上縁部分に容易かつ迅速に施工でき、また搬入時、施工時などに部品が紛失するなどのトラブルを未然に回避することができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】本発明に係る雪庇発生防止装置の組み上りと分解状態を示す斜視図
【図2】雪庇発生防止ユニットの分解斜視図
【図3】雪庇発生防止装置の縦断面図
【図4】雪庇発生防止ユニットの組立態様を示す横断面図
【図5】雪庇発生防止装置による雪庇の発生防止の説明図
【図6】圧密沈降による雪庇の切除を示す説明図
【図7】雪の上下のルーバーパネル間の融雪状態を示す説明図
【発明を実施するための形態】
【0023】
図1において符号Aは雪庇発生防止装置である。この雪庇発生防止装置は、建築物のパラペット1の上縁部分(構造物の上縁部分でもよい)2に垂直に設置された複数の支柱3間に雪庇発生防止ユニットaを配設したもので、支柱3は、上縁部分2に固定された角筒状の支柱支持部材4の外側にアルミニウムの押出型材から支柱本体5を嵌合してボルトで固定することにより構成されている。3aはキャップである。
【0024】
支柱支持部材4は板状体6の中央上部に比較的短い柱部7を設けたものであり、支柱本体5は柱部7と嵌合している。
【0025】
次に、雪庇発生防止ユニットaは、図2に示されるように、左右の両側板7間に外上向きに傾斜した複数のルーバーパネル8を段状に固定し、各ルーバーパネル8の外側の上端部には垂直の雪切板9を形成してなるもので、ルーバーパネル8の上下両端には逆方向に屈曲する屈曲片8a、8bが形成され、図3に示されるように、パネル本体と屈曲片8a、8bとの連結部近傍にはビスホール10が形成されている。各ルーバーパネル8は、その両端を側板7に突き当て、側板7の外側から挿通されたネジ11をビスホール10に螺着することにより固定されている。
【0026】
なお、段状に設置された上下段のルーバーパネル8、8において、上段のルーバーパネル8の下端は、それよりも一段下の下段のルーバーパネル8の上端よりも高くなるように位置決めされている。
【0027】
次に、雪切板9には多数の透孔12が形成されているが、これらの透孔12は、ルーバーパネル8のパンチング加工によって形成すればよい。他の穿孔手段によってもよい。透孔12の大きさは一定である必要はなく、大きさの異なるものが混在していてもよい。また各透孔の間隔も、本実施形態に限られたものではない。
【0028】
図3に示されるように、雪切板9の下端内側には長手方向に沿ってボルト頭の嵌合溝13が形成されている。雪切板9は、上記嵌合溝13にボルト14の頭部をスライド嵌合し、このボルト14を側板7に固定されたルーバーパネル8の上端の屈曲片8aに設けられたボルト孔8cに挿通し、ナット15で固定されている。また、ルーバーパネル8と雪切板9の両側端部は、側板7の屋外側に屈曲形成された補強片7a(図1参照)に当接している。
【0029】
各雪切板9の下端は取り付けられる段のルーバーパネル8の上端と重なり合っているのでほぼ同じであるが、各雪切板9の上端16はその上段のルーバーパネル8の下端17よりも高くなるように配置固定される。
【0030】
なお、ルーバーパネルと雪切板とを一体の板状体から形成し、雪切板に対応する部位に透孔を形成してもよい。
【0031】
また、最上部の雪切板9は従来のものと同様に、透孔を設けない板状体であってもよい。
【0032】
ルーバーパネル8の傾斜面は、図5に矢印で示すように建築物の内側から外側に向かって吹いてくる風を上方に誘導して風速を加速させ、また、建築物から屋外側に離れたときに生じる風の渦を、建築物の壁面から離すためのもので、所定の角度をもって形成されている。ルーバーパネル8の水平面に対する傾斜角は、実験によれば、θ=55°程度から風下に発生する渦が構造物の壁面から離れることが判明した。したがって、θ≧50°とすればよい。
【0033】
なお、ルーバーパネルを設ける段数も特に制限はない。風の強弱、降雪量の多寡等に応じて決めればよい。
【0034】
雪庇発生防止ユニットaを支柱3に取り付けるときは、図4に示されるように、支柱3の両側に雪庇発生防止ユニットaを配置し、一方の雪庇発生防止ユニットaの側板7から支柱3に貫通させたボルト17をさらに他方の雪庇発生防止ユニットaの側板7を貫通させ、ナット18で固定すればよい。
【0035】
次に、上記構成の雪庇発生防止装置の作用について説明する。
【0036】
上述のように、建築物又は構造物の上縁部分2に、外上向きに傾斜した複数のルーバーパネル8を段状に設置したので、ルーバーパネル8は、建築物又は構造物の内側から外側に向かって高くなるように傾斜している。このため、図5に示したように、建築物又は構造物の内側から外側に向かって吹いてくる風の風速はルーバーパネル8の傾斜面に沿って移動する際に加速されつつ、上方に誘導されて吹上げられる。このため、建築物から離れたときに生じる風の渦は建築物から屋外側に離れた位置で発生する。このように、建築物の上縁部分2上の雪はルーバーパネル8の傾斜面で吹払われ、また雪庇を発生させる風の渦も上記上縁部分2から外側に離れた位置で生じるので、雪庇の発生を有効に防止することができる。
【0037】
また、風がなく雪が降る日が続くと、最上段のルーバーパネル8の上部には雪が降り積もることがあるが、図6に示されるように、積雪は圧密沈降した際、最上部の雪切板9によって切除されるので、大きな雪庇となることはない。しかも、上記最上部の雪切板には透孔が形成されているため、雪切板と雪との間の摩擦係数が低くなり、積雪が切除されやすい。
【0038】
さらに、雪切板9によって上下段のルーバーパネル8間の隙間が小さくなるが、雪切板9には多数の透孔12が形成され、これらは上下段のルーバーパネル8間を通過する風の通り孔となるので、ルーバーパネル8の傾斜面による雪の吹き飛ばし効果が阻害されないから、雪切板9によって雪庇の発生防止は阻害されない。加えて、装置の高さが高くなると、装置に加わる風圧が大きくなり、特に多段に形成された雪切板9は風圧が加わる面積が大きい。しかし、雪切板9には多数の透孔12が形成され、風の通りがよく、風圧による影響は軽減される。
【0039】
また、各ルーバーパネル8の外側の上端部には雪切板9が垂直に形成されているので、外部からは直接には雪切板9のみが建築物の上縁部分2に壁状に現れるので、ルーバーパネルの裏側が見えることによって外観が損なわれることはない。
【0040】
ルーバーパネル8の多数の透孔12は、ルーバーパネル8のパンチング加工によって形成されることができるから、多数の透孔付きルーバーパネル8の製作を容易に行うことができる。
【0041】
さらに、上段のルーバーパネル8の下端は、それよりも一段下の下段のルーバーパネル8の上端よりも高く形成されているから、風はないのに雪が降る日が続くことにより上下のルーバーパネル8間に雪が積もっても、雪の高さは下段のルーバーパネル8よりも高くなる。高くなった部分は、下段のルーバーパネル8の雪切板9に臨むことになるが、図7に示されるように、雪切板9の透孔12を通過した日光が雪面にあたって暖められ、融雪が進行するので、透孔12から外に出て垂れ落ちてしまう。したがって、上下のルーバー間に雪が詰まって雪庇発生の防止効果が損なわれることはない。
【0042】
また、左右の両側板7とルーバーパネル8と雪切板9とは雪庇発生防止ユニットaとして予めユニット化されているので、支柱3に取り付けるときは、ボルト17とナット18で固定すればよいので、容易かつ迅速に施工でき、また搬入時、施工時などに部品が紛失するなどのトラブルを未然に回避することができる。
【0043】
なお、透光の数や大きさなどは、このような場合を考慮して形成すればよい。
【符号の説明】
【0044】
A 雪庇発生防止装置
a 雪庇発生防止ユニット
2 上縁部分
3 支柱
8 ルーバーパネル
9 雪切板
12 透孔

【特許請求の範囲】
【請求項1】
建築物又は構造物の上縁部分に、外上向きに傾斜した複数のルーバーパネルを段状に設置し、各ルーバーパネルの外側の上端部には垂直の雪切板を形成し、雪切板には多数の透孔を貫通形成したことを特徴とする雪庇発生防止装置。
【請求項2】
上記多数の透孔は、ルーバーパネルのパンチング加工によって形成されたものであることを特徴とする、請求項1に記載の雪庇発生防止装置。
【請求項3】
段状に設置された上記上下段のルーバーパネルにおいて、上段のルーバーパネルの下端は、それよりも一段下の下段のルーバーパネルの上端よりも高く形成されていることを特徴とする、請求項1又は2に記載の雪庇発生防止装置。
【請求項4】
上記段状のルーバーパネルとルーバーパネルの外側上端部に取り付けられた雪切板と上記ルーバーパネルの両端を固定する側板とはユニット化されていることを特徴とする、請求項1、2又は3に記載の雪庇発生防止装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2013−68043(P2013−68043A)
【公開日】平成25年4月18日(2013.4.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−208688(P2011−208688)
【出願日】平成23年9月26日(2011.9.26)
【出願人】(000250432)理研軽金属工業株式会社 (89)