説明

電 極

【目的】導電材料と電解質塩と有機電解液を主な構成成分とする電極において、前記導電材料が、側鎖にチオール基を導入した高分子成分を含むことにより、電極反応時にジスルフィド化合物として効率よく反応する電極を提供する。
【構成】 アクリロニトリルとメタクリル酸メチルの共重合体をアルカリ処理して側鎖にカルボン基を作り、次に1,6−ヘキサンジオールを加えてエステル化反応し、次にL-システインを反応させて、共重合体側鎖にSH基を導入する。一部の側鎖にチオール基を導入した高分子と導電材と電解質塩、有機溶媒を主な構成材量として電極を作成する。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】本発明はコンデンサー、電子デバイス等の分野に利用される電極に関する。さらに詳しくは、チオール基がポリマーの側鎖に固定されている導電材料を用いた電極に関する。
【0002】
【従来の技術】最近、ジスルフィド化合物の可逆な酸化還元反応を利用し、このジスルフィド化合物を電極材料とした電池の提案がされている(エス.ジェイ.ビスコら、ジャーナル オフ ザ エレクトロケミカル ソサイアテイ、136 巻、2570頁、1989) 米国特許4,833,048 号)。ジスルフィド化合物とは、2RSSR+ 2e- =2RS- (Rは有機化合物一般を示す)の一般式で表すことのできる可逆な酸化還元反応を行う化合物を示すものである。この報告によれば、陽極にジスルフィド化合物、陰極にNa、Liを使用するとエネルギー密度の大きな二次電池が作成可能であることが示されている。ビスコらが提案したジスルフィド化合物としては、テトラエチルジチウラム、ジメルカプトチアジアゾール、ジチオウラシルなどが挙げられる。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】しかしながら、ビスコらの提案した上記材料を電極に用いた電池では、サイクル劣化の懸念があった。サイクル劣化の原因としては、次の2点が大きな要因であると考えられる。
(1) ジスルフィド化合物の電極外への流れ出しという問題がある。すなわち、ビスコらの提案した上記ジスルフィド化合物は、還元状態では低分子状態であるので、放電中、または放電後に電池活物質であるジスルフィド化合物が電極から拡散脱離する可能性が高い。
(2) 電極内で未反応のジスルフィド化合物が存在する。という問題がある。すなわち、ジスルフィド化合物自体は導電性およびイオン伝導性を有していない。そのため、ジスルフィド化合物を用いて電極を作成する場合は、導電材、イオン伝導材との複合化が必要である。こうして作成した電極中でジスルフィド化合物が効率よく酸化還元反応するには、ジスルフィド化合物と導電材、イオン伝導材が均一に分散することが要求される。
つまり、ジスルフィド化合物を電池電極活物質として効率よく利用するには、電極内にジスルフィド化合物を何等かの手段により固定化し、ジスルフィド化合物を電極内に均一に分散することが必要である。しかしながら従来はこの様な問題の提起と解決方法は知られていなかった。
【0004】本発明は、前記従来の問題を解決するため、チオール基をポリマーの側鎖に固定した導電材料を用いた電極を提供することを目的とする。
【0005】
【課題を解決するための手段】前記目的を達成するため、本発明の電極は、導電材料と電解質塩と有機電解液を主な構成成分とする電極において、前記導電材料が、側鎖にチオール基を導入した高分子を含むことを特徴とする。
【0006】前記構成においては、側鎖にチオール基を導入した高分子の主鎖が、アクリル系ポリマー、メタクリル系ポリマー、またはこれらのコポリマーであることが好ましい。
【0007】また前記構成においては、側鎖のチオール基を含む分子が、アルキレングリコールエステル基を介してポリマーの主鎖に結合されているか、または側鎖のチオール基を含む分子がエステル基を介してポリマーの主鎖に直接結合されていることが好ましい。
【0008】また前記構成においては、導電材料が、炭素材料,導電性高分子、金属材料から選ばれる少なくとも1種類添加されていることが好ましい。
【0009】
【作用】前記本発明の構成によれば、導電材料と電解質塩と有機電解液を主な構成成分とする電極において、前記導電材料が、側鎖にチオール基を導入した高分子成分を含むことにより、電極反応時にジスルフィド化合物として効率よく反応することができる。すなわち、電極内部にジスルフィド化合物が、均一に分散、かつ固定化されるので、電極反応時にジスルフィド化合物が効率よく反応する。
【0010】また前記、側鎖にチオール基を導入した高分子の主鎖が、アクリル系ポリマー、メタクリル系ポリマー、またはこれらのコポリマーであるという本発明の好ましい構成によれば、正極活物質の利用率のより高い電池材料とすることができる。例えば、ポリアクリロニトリルの一部の側鎖にチオール基(−SH基)を導入し、−SH基修飾ポリアクリロニトリルとすることで、主鎖が高分子のジスルフィド化合物を作成することができ、またポリアクリロニトリルの場合はゲル化可能であるので、この化合物と導電材、電解質塩、有機溶媒を主たる構成成分とするイオン伝導可能な電極膜を作成することができる。
【0011】また前記、側鎖のチオール基を含む分子が、アルキレングリコールエステル基を介してポリマーの主鎖に結合されているか、または側鎖のチオール基を含む分子がエステル基を介してポリマーの主鎖に直接結合されているという本発明の好ましい構成によれば、チオール基を化学的反応手段により容易にポリマーの側鎖に導入できる。
【0012】また前記、導電材料が炭素材料,導電性高分子、金属材料から選ばれる少なくとも1種類添加されているという本発明の好ましい構成によれば、より好ましい電池材料とすることができる。
【0013】
【実施例】以下実施例を用いて本発明をさらに具体的に説明する。本発明の側鎖にチオール基を導入したポリマー、またはコポリマーのチオール基のユニット部分を化学式で示すと、例えば下記(化1)〜(化2)のようになる。
【0014】
【化1】


【0015】
【化2】


【0016】もちろん本発明はこの様なポリマーユニットに限定されること無く、様々なポリマーユニットを使用できる。要は側鎖にチオール基をペンダントのように下げることができれば良い。チオール基はポリマー1g当たり0.01〜10ミリモルの範囲の程度導入するのが好ましい。最も簡単な導入方法としては、例えば、下記(化3)に示すように、ポリ(ヒドロキシエチルメタクリレート)のエステルの部分にL−システインを導入する方法である。
【0017】
【化3】


【0018】本発明においては、導電材としてカーボン材料、金属材料、半導体材料、酸化物系、硫化物系の導電材料、炭素材料、導電性高分子材料などが使用可能である。導電材としてカーボンを使用することも可能であり、カーボン材料としては、アセチレンブラック、ケッチェンブラック、グラファイトウイスカー、グラファイトフィブリル、カーボンウイスカー等が使用できる。導電材として導電性高分子を使用することも可能であり、その導電材として、ポリアニリン、ポリパレフェニレン、ポリピロール、ポリアセチレン、ポリパラフェニレンビニレン、ポリチオフェン等の導電性高分子およびそれらの誘導体などが有効である。
【0019】以下本発明の具体的実施例を説明する。
実施例1(アクリロニトリルコポリマーの側鎖にシステインを導入する工程)アクリロニトリルとメタクリル酸メチルの共重合体(モル比はアクリロニトリル:メタクリル酸メチル=20:1、重量平均分子量約5万)を37%のNaoH水溶液中で80度で加熱した。この反応をアンモニアガスがなくなるまで続けた。この溶液を室温まで冷却し、12M-HCl を溶解したアセトン−水混合溶媒で洗浄後、60-100メッシュで漉過した。こうしてCN末端からカルボキシル末端に修飾した共重合体200gに、18M 硫酸溶液50mlを触媒として加えた1,6−ヘキサンジオール600gを加えた。この混合溶液70度で30時間放置した。反応物を吸引漉過し、熱メタノール溶液で洗浄した。こうして得た共重合体55g とL-システイン300gを、18M硫酸溶液20mlを加えたジオキサン500ml に加えた。この混合溶液90度で30時間放置した。反応物を吸引漉過し、熱メタノール溶液で洗浄した。こうして、共重合体側鎖にSH基を導入した、SH基修飾ポリアクリロニトリル共重合体(以降共重合体Aとする)を得た。チオール基はポリマー1g当たり1ミリモル導入できた。前記工程の反応式を下記(化4)に示す。
【0020】
【化4】


【0021】(電極の作成)共重合体A(導電材料)、アセチレンブラック(導電材料)、アセトニトリル(共重合体Aの可塑化溶媒)、LiCl4 (電解質塩)、プロピレンカーボネイト(PC,有機電解液)を重量比2:0.5:0.5:1で混合した。この混合溶液をキャストし、60℃で減圧乾燥を3時間行い、厚さ150 μm の電極膜Aを得た。
(電池の作成)正極に電極膜A、負極にリチウム箔、LiCl4 をプロピレンカーボネイトに1M(=mol/l)溶かした溶液を電解質として電池Aを組んだ。
【0022】実施例2(アクリロニトリルコポリマーの側鎖にチオウラシルを導入する工程)アクリロニトリルとメタクリル酸メチルの共重合体(モル比はアクリロニトリル:メタクリル酸メチル=20:1、重量平均分子量約5万)を37%のNaoH水溶液中で80度で加熱した。この反応をアンモニアガスがなくなるまで続けた。この溶液を室温まで冷却し、12M-HCl を溶解したアセトン−水混合溶媒で洗浄後、60-100メッシュで濾過した。こうしてCN末端からカルボキシル末端に修飾した共重合体55g とチオウラシル500gを、18M 硫酸溶液20mlを加えたジオキサン500ml に加えた。この混合溶液90度で30時間放置した。反応物を吸引漉過し、熱メタノール溶液で洗浄した。こうして、共重合体側鎖にSH基を導入した、SH基修飾ポリアクリロニトリル共重合体(以降共重合体Bとする)を得た。前記工程の反応式を下記(化5)に示す。
【0023】
【化5】


【0024】(電極の作成)共重合体B(導電材料)、アセチレンブラック(導電材料)、アセトニトリル(共重合体Aの可塑化溶媒)、LiCl4 (電解質塩)、プロピレンカーボネイト(PC,有機電解液)を重量比2:0.5:0.5:1で混合した。この混合溶液をキャストし、60℃で減圧乾燥を3 時間行い、厚さ150 μm の電極膜Aを得た。
(電池の作成)正極に電極膜B、負極にリチウム箔、LiCl4 をPCに1M溶かした溶液を電解質として電池Bを組んだ。
(充放電の実験)電池A,Bを2V-4V 間の電池電圧で10mA/cm2 の電流密度で、繰り返し充放電試験を行った。その間のサイクル数、正極活物質の利用率を図1に示す。図1に示す通り、電池A,Bとも充放電回数200 回後でもその正極の利用率は80% と良好であった。
【0025】前記実施例1においてポリアクリロニトリルに−SH基を導入する際にシステインを用いたが、末端にカルボキシル基、チオール基を有すれば、その他の化合物を使用すること可能である。例えばDL−チオティック酸(DL-Thioticacid)等が挙げられる。
【0026】前記実施例2においてポリアクリロニトリルに−SH基を導入する際にウラシルを用いたが、ポリアクリロニトリル導入の物質としてチオール、ヒドロキシル基を有するもの、または2価以上のチオール基を有するものであれば、その他の化合物を使用すること可能である。
【0027】前記実施例においては、電極に用いる溶媒としてPCを用いたが、その他の使用可能な有機溶媒としてジメチルスルフォキシド、スルフォラン、ジメトキシエタン、ポリカーボネイト、2-メチルテトラヒドロフラン、γ−ブチルラクトン、アセトニトリル等を挙げることができ、これらを2種以上混合して用いてもよい。
【0028】また前記実施例においては、電極に用いる電解質塩としてLiClO4 を用いたが、その他の使用可能な電解質塩としてLiCF3 SO3 、LIBF4 、LiAsF6 、LiPF6 、(Et)4 、NClO4 、(Et4 )NBF4 等が挙げられる。
【0029】
【発明の効果】以上説明した通り、本発明によれば、導電材料と電解質塩と有機電解液を主な構成成分とする電極において、前記導電材料が、側鎖にチオール基を導入した高分子成分を含むことにより、電極反応時にジスルフィド化合物として効率よく反応することができる。また、電極内部にジスルフィド化合物が、均一に分散、かつ固定化されるので、電極反応時にジスルフィド化合物が効率よく反応する、ジスルフィド化合物を用いた電極を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の一実施例の電極を用いた電池の繰り返し充放電試験の結果を示す図。
【符号の説明】
A 本発明の実施例1の電極を用いた電池の繰り返し充放電試験のデータ。
B 本発明の実施例2の電極を用いた電池の繰り返し充放電試験のデータ。

【特許請求の範囲】
【請求項1】 導電材料と電解質塩と有機電解液を主な構成成分とする電極において、前記導電材料が、側鎖にチオール基を導入した高分子を含むことを特徴とする電極。
【請求項2】 側鎖にチオール基を導入した高分子の主鎖が、アクリル系ポリマー、メタクリル系ポリマー、またはこれらのコポリマーである請求項1に記載の電極。
【請求項3】 側鎖のチオール基を含む分子が、アルキレングリコールエステル基を介してポリマーの主鎖に結合されているか、または側鎖のチオール基を含む分子がエステル基を介してポリマーの主鎖に直接結合されている請求項1に記載の電極。
【請求項4】 導電材料が、炭素材料,導電性高分子、金属材料から選ばれる少なくとも1種類添加されている請求項1に記載の電極。

【図1】
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