電 池
【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】本発明は、周囲温度下で可逆的に作動する電池に係り、電解質および正極の改良に関するものである。
【0002】
【従来の技術】最近のマイクロエレクトロニクス化は、各種電子機器のメモリーバックアップ用電源に代表されるように、電池の電子機器内収納、エレクトロニクス素子および回路との一体化に伴って、電池の小型化、軽量化、薄形化とさらに高エネルギー密度を有する電池とが要望されている。1次電池の分野では、既にリチウム電池などの小型、軽量の電池が実用化されているが、その用途分野は限られたものである。
【0003】その原因の一つとして、従来、電気化学反応を利用した電池や電気二重層キャパシタ、エレクトロクロミック素子などの電気化学デバイスの電解質としては、一般的に液体電解質、特に有機電解液にイオン性化合物を溶解したものが用いられてきたが、液体電解質は、部品外部への液漏れ、電極物質の溶出、揮発などが発生しやすいため、長期信頼性などの問題や、封口工程での電解液の飛散などの問題が挙げられる。
【0004】そのため、これら耐漏液性、長期保存性を向上させるために、高いイオン伝導性を有するイオン伝導性高分子化合物が報告され、上記の問題を解決する手段の1つとして、さらに研究が進められている。
【0005】現在研究が進められているイオン伝導性高分子化合物は、エチレンオキシドを基本単位とするホモポリマーまたはコポリマーの直鎖状高分子、網状架橋高分子または櫛型高分子などであるが、低温でのイオン伝導度を上げることを目的として、網状架橋高分子または櫛型高分子にして結晶化を防ぐことが提案され、実施されている。特に上記網状架橋高分子を用いたイオン伝導性高分子化合物は、機械的強度が大でありかつ低温でのイオン伝導度が良好であるため有用である。
【0006】
【発明が解決しようとする課題】上記イオン伝導性高分子化合物を電気化学デバイスの電解質に応用する際、内部抵抗を低くするために電解質の薄膜化が必要となってくる。イオン伝導性高分子化合物の場合、均一な薄膜を任意の形状に容易に加工することが可能であるが、その方法が問題となってくる。例えば、イオン伝導性高分子化合物の溶液をキャストして溶媒を蒸発、除去する方法、あるいは、重合性モノマーあるいはマクロマーを基板上に塗布して、加熱重合する方法、あるいは活性光線の照射により硬化させる方法がある。従来、主に加熱重合する方法が簡便であり多く用いられてきた。しかしながら、加熱重合時間が非常に長くなり製造速度を向上させることが困難なこと、加熱炉中において温度勾配が生じ易いこと、不活性ガス雰囲気中で加熱するため、加熱炉および付帯設備が大型になることなどの問題があった。
【0007】本発明は、上記従来技術の問題点に鑑みなされたものであり、イオン伝導性高分子化合物を用いた電池において、非常に高い作業性を有し、さらに外部への液漏れの心配が全くなく長期信頼性および安全性の高い電池を提供するものである。
【0008】
【課題を解決するための手段】本発明は、負極と、少なくとも1種のイオン性化合物が溶解している高分子物質により構成されたイオン伝導性高分子化合物であって、ポリエーテル構造を有し、イオン伝導性を有している高分子化合物と電気化学的活性物質と任意に電子伝導性物質とで構成される複合正極と、少なくとも1種のイオン性化合物が溶解している高分子物質により構成されたイオン伝導性高分子化合物であって、ポリエーテル構造を有し、イオン伝導性を有している高分子物質からなる電解質からなる電池において、該複合正極および電解質を形成する方法として紫外線、電離性放射線などの活性光線の照射によって電極および電解質を形成することを特徴とする電池であることを第一の発明とする。
【0009】また、上記イオン伝導性高分子化合物が、少なくとも1種のイオン性化合物が溶解した反応性二重結合を持つポリエーテルである高分子化合物で、上記活性光線の照射によって反応させることにより、架橋ネットワーク構造を有する高分子化合物となることを特徴とすることを第二の発明とし、上記活性光線の照射において、特に電子線を使用する場合、該電子線が少なくとも100KV以上の加速電圧で照射されることを第三の発明とする。
【0010】さらに、上記イオン伝導性高分子化合物が、イオン性化合物を溶解することができる物質を含んでいることを特徴とするもので、上記電気化学的活性物質とイオン伝導性高分子化合物とを混合させて電極を提供することにより、上記の目的を達成したものである。
【0011】なお、ポリエーテルを架橋した高分子化合物に金属塩を溶解したイオン伝導性高分子化合物は、上記高分子化合物が多官能性水酸基を有するポリエーテルとジアクリレートによってエーテル結合することによって架橋するものである。
【0012】アクリレートのようなα,β−不飽和カルボニル化合物は、水酸基、アミノ基、メルカプト基などの活性水素を有する官能基と反応して付加化合物を作ることは、Michael付加反応として知られている。この反応を三官能以上の多官能性水酸基を有するポリオールとジアクリレートの反応に応用するとMichael付加反応の結果として、エーテル結合によって架橋した三次元ポリマーが得られることになる。
【0013】多官能性水酸基を有するポリエーテルとジアクリレートとの反応で得られた三次元ポリエーテルとは、その架橋構造の中にアルカリ金属塩などの金属塩を溶解させることができる。しかもエーテル結合によって生成した架橋ポリマーであるため、分子間水素結合のない、ガラス転移温度の低い構造となり、溶解した金属塩イオンの泳動がきわめて容易になる。
【0014】多官能性水酸基を有するポリエーテルとしては、例えばグリセリンとエチレンオキシドあるいはプロピレンオキシドとの反応で得られたポリエーテルが例示されるが、これらに限定されるものではない。
【0015】ジアクリレートとしては、ジエチレングリコールジアクリレート、トリエチレングリコールジアクリレートあるいはハイドロキノンジアクリレートなどのようにグリコールあるいは2価フェノールから誘導される脂肪族、芳香族ジアクリレートが用いられる。
【0016】また、ポリエチレンオキシドのジメタクリル酸エステルまたはジアクリル酸エステルとポリエーテルのモノメタクリル酸エステルまたはモノアクリル酸エステルの混合物を反応させた架橋ネットワーク構造の高分子を用いてもよい。
【0017】さらに、本発明においては、紫外線、電離性放射線などの活性光線の照射によって反応させ、架橋ネットワーク構造の高分子化合物を形成する場合、上記活性光線の照射による方法は低温で短時間で処理することが可能であるため、従来の熱的方法と比較して作業性が格段に向上するなどの長所がある。
【0018】次に、このようにして得られた高分子化合物に含有するイオン性化合物としては、例えばLiC104 、LiSCN、LiBF4、LiAsF6 、LiCF3SO3 、LiCF3 CO2 、NaI、NaSCN、NaBr、KSCN、などのLi、Na、またはKの1種を含む無機イオン塩、(CH3 )4 NBF4 、(CH3 )4 NBr、(C2 H5 )4 NC104 、(C2 H5 )4 NI、(C3 H7)4 NBr、(n−C4 H9 )4 NC104 、(n−C4 H9 )4 NI、(C2H5 )4 N−maleate、(C2 H5 )4 N−benzoate、(C2 H5 )4 N−phtalate等の四級アンモニウム塩、ステアリルスルホン酸リチウム、 オクチルスルホン酸ナトリウム、ドデシルベンゼンスルホン酸リチウム等の有機イオン塩が挙げられる。これらのイオン性化合物は、2種以上を併用してもよい。
【0019】このようなイオン性化合物の配合割合は、前述の高分子化合物のエーテル結合酸素数に対して、イオン性化合物が0.0001〜5.0モルの割合であり、中でも0.005〜2.0モルであるのが好ましい。このイオン性化合物の使用量があまり多すぎると、過剰のイオン性化合物、例えば無機イオン塩が解離せず、単に混在するのみとなり、イオン伝導度を逆に低下させる結果となる。
【0020】このイオン性化合物の含有方法等については特に制限はないが、例えば、メチルエチルケトン(MEK)やテトラハイドロフラン(THF)等の有機溶剤に溶解して、有機化合物に均一に混合した後、有機溶媒を真空減圧により除去する方法等が挙げられる。
【0021】次に、本発明では、イオン伝導性高分子化合物に高分子化合物中に含まれるイオン性化合物を溶解できる物質を含ませてもよく、この種の物質を含ませることによって、高分子化合物の基本骨格を変えることなく、伝導度を著しく向上できる。
【0022】イオン性化合物を溶解できる物質としては、プロピレンカーボネート、エチレンカーボネートなどの環状炭酸エステル、γ−ブチロラクトンなどの環状エステル、テトラヒドロフランまたはその誘導体、1,3−ジオキサン、1,2−ジメトキシエタンなどのエーテル類、アセトニトリル、ベンゾニトリルなどのニトリル類、ジオキソランはその誘導体、スルホランまたはその誘導体などの単独またはそれら2種以上の混合物などが挙げられる。しかしこれらに限定されるものではない。またその配合割合及び配合方法は任意である。
【0023】なお、本発明のイオン伝導性高分子化合物の塗布方法については、例えばアプリケータロールなどのローラコーティング、スクリーンコーティング、ドクターブレード法、スピンコーティング、バーコーダーなどの手段を用いて均一な厚みに塗布することが望ましいが、これらに限定されるものではない。
【0024】また、本発明の複合正極に使用する正極活物質としては、以下の電池電極材料が挙げられる。
【0025】すなわち、Cu0、Cu2 O、Ag2 O、CuS、CuSO2 などの1族金属化合物、TiS2 、SiO2 、SnOなどのIV族金属化合物、V2 O5 、V6O12、VOx 、Nb2 O5 、Bi2 O3 、Sb2 O3 などのV族金属化合物、CrO3 、Cr2 O3 、M0 O3 、M0 S2 、WO3 、SeO2 などのVI族金属化合物、MnO2 、Mn2 O3 などのVII族金属化合物、Fe2 O3 、FeO、Fe3 O4 、Ni2 O3 、NiO、C0 O3 、C0 OなどのVIII族金属化合物、または一般式、Lix MXy 、Lix MNy X2 (M,NはI〜VIII族の金属、Xは酸素、硫黄などのカルコゲン化合物を示す。)などの金属化合物、ポリピロール、ポリアニリン、ポリパラフェニリン、ポリアセリレン、ポリアセン系材料などの導電性高分子化合物、凝グラファイト構造炭素質材料などであるが、これらに限定されるものではない。
【0026】なお、本発明の複合正極の塗布方法については、例えばアプリケータロールなどのローラコーティング、スクリーンコーティング、トクターブレード法、スピンコーティング、バーコーダーなどの手段を用いて均一な厚みに塗布することが望ましいが、これらに限定されるものではない。
【0027】さらに、負極に使用する負極活物質としては、以下の電池電極材料が挙げられる。
【0028】すなわち、リチウム金属、リチウム−アルミニウム、リチウム−鉛、リチウム−スズ、リチウム−アルミニウム−スズ、リチウム−ガリウム、およびウッド合金などのリチウム合金およびカーボンなどの炭素質材料などであるが、これらに限定されるものではない。または上記正極活物質として使用するものを用いることもできる。
【0029】この場合、必要に応じて、アセチレンブラックなどのカーボンまたは金属粉末などの導電材料を正極内に混合して、電子伝導の向上を図ることができる。
【0030】また、上記複合正極を製造するとき、均一な混合分散系を得るために、数種の分散剤と分散媒を加えることができる。
【0031】セパレータは、上記イオン伝導性高分子化合物を単独でシート状にして複合正極と負極の間に配置するか、複合正極または負極に上記イオン伝導性高分子化合物の組成液を塗布して硬化し、複合化することも可能である。
【0032】
【作用】本発明は、少なくとも1種のイオン性化合物が溶解している高分子物質により構成されたイオン伝導性高分子化合物であって、ポリエーテル構造を有し、イオン伝導性を有している高分子化合物と電気化学的活性物質と任意に電子伝導性物質とで構成される複合正極、および少なくとも1種のイオン性化合物が溶解している高分子物質により構成されたイオン伝導性高分子化合物であって、ポリエーテル構造を有し、イオン伝導性を有している高分子物質からなる電解質を、紫外線、電離性放射線などの活性光線の照射により形成するため、低温でかつ短時間で処理することが可能となり、そのため、従来の熱的方法と比較して作業性が格段に向上し、品質の均一性を図ることが可能である。
【0033】また、上記複合正極および電解質を紫外線、電離性放射線などの活性光線の照射により形成するため、上記イオン伝導性高分子化合物の架橋度を容易にコントロールすることができるため、種々の複合正極および電解質を形成する際に、照射量を制御することにより、電気化学的に最適な電極および電解質を作製することが可能となる。
【0034】
【実施例】以下、本発明の詳細について、実施例により説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0035】
【実施例1】下記の手順にしたがって、本発明の実施例1のシート状電池を作製した。
【0036】a)電池の正極活物質として二酸化マンガンを、導電剤としてアセチレンブラックを用い、そしてポリエチレンオキシドのジメタクリル酸エステル(分子量:4000)とメトキシ化ポリエチレングリコールのモノメタクリル酸エステル(分子量:400)を7:3に混合した有機ポリマーとを混合したものを複合正極として使用した。
【0037】この複合正極の作製方法は以下の通りである。すなわち二酸化マンガンとアセチレンブラックを85:15の重量比率で混合したものに、上記有機ポリマー10重量部に、過塩素酸リチウム1重量部およびプロピレンカーボネート20重量部を混合させたものを、乾燥不活性ガス雰囲気中、10:3の重量比率で混合した。これらの混合物を、ステンレス鋼からなる正極集電板の表面に導電性カーボン被膜を形成した集電体の上にキャストした。その後、不活性ガス雰囲気中、加速電圧250KV、電子線量8Mradの電子線を照射することにより硬化させた。ステンレス集電体上に形成した複合正極被膜の厚さは、60μmであった。
b)電池の負極活物質としてリチウム金属を用い、これをステンレス鋼からなる負極集電板に圧着した。
【0038】次に上記リチウム金属上に本発明のイオン伝導性高分子化合物層を形成させるべく、上記有機ポリマー30重量部と過塩素酸リチウム6重量部およびプロピレンカーボネート64重量部を混合したものを上記リチウム金属上にキャストし、不活性ガス雰囲気中、加速電圧250KV、電子線量6Mradの電子線を照射して硬化させた。これによって得られた電解質層の厚みは、20μmであった。
c) b)で得られた電解質/リチウム/負極集電体と、a)で得られた正極集電体/複合正極を接触させることにより、シート状電池を作製した。
【0039】第1図は、本発明のシート状電池の断面図である。図中1は、ステンレス鋼からなる正極集電板で、2は複合正極であり、正極活物質に二酸化マンガンを、導電剤としてアセチレンブラックを、結着剤としてエチレンオキシドのジメタクリル酸エステルとメトキシ化ポリエチレングリコールのモノメタクリル酸エステルを混合した有機ポリマーを用いた。また、3は、本発明のイオン伝導性高分子化合物からなる電解質層である。4は、金属リチウムであり、5は、ステンレス鋼からなる負極集電板で、外装も兼ねている。6は、変性ポリプロピレンからなる封口材である。
【0040】(比較例1)下記の手順にしたがって、比較例1のシート状電池を作製した。
【0041】a)電池の正極活物質として二酸化マンガンを、導電剤としてアセチレンブラックを用い、そして実施例1と同様の有機ポリマーとを混合したものを複合正極として使用した。
【0042】この複合正極の作製方法は以下の通りである。すなわち二酸化マンガンとアセチレンブラックを85:15の重量比率で混合したものに、上記有機ポリマー10重量部に、過塩素酸リチウム1重量部、アゾビスイソブチロニトリル0.05重量部およびプロピレンカーボネート20重量部を混合させたものを、乾燥不活性ガス雰囲気中、10:3の重量比率で混合した。これらの混合物を、ステンレス鋼からなる正極集電板の表面に導電性カーボン被膜を形成した集電体の上にキャストした。その後、不活性ガス雰囲気中、100℃で1時間放置することにより硬化させた。ステンレス集電体上に形成した複合正極被膜の厚さは、60μmであった。
【0043】b)電池の負極活物質としてリチウム金属を用い、これをステンレス鋼からなる負極集電板に圧着した。
【0044】次に上記リチウム金属上に本発明のイオン伝導性高分子化合物層を形成させるべく、上記有機ポリマー30重量部と過塩素酸リチウム6重量部、アゾビスイソブチロニトリル0.05重量部およびプロピレンカーボネート64重量部を混合したものを上記リチウム金属上にキャストし、不活性ガス雰囲気中、100℃で1時間放置することにより硬化させた。これによって得られた電解質層の厚みは、20μmであった。
【0045】c)b)で得られた電解質/リチウム/負極集電体と、a)で得られた正極集電体/複合正極を接触させることにより、シート状電池を作製した。
【0046】実施例1、比較例1のシート状電池の電極面積は、作製工程によって種々変更することが可能であるが、本実施例では、その電極面積を100cm2 としたものを作製した。
【0047】本発明の実施例1のシート状電池、比較例1のシート状電池において、初期の放電特性を調べた。その結果を第2図に示した。第2図は電池組立後25℃負荷3kΩで放電したときの初期放電特性である。
【0048】第2図から明らかなように、本発明の実施例1のシート状電池は比較例1のシート状電池と比較して、初期放電特性が優れていることが認められる。
【0049】
【実施例2】下記の手順にしたがって、本発明の実施例2のシート状電池を作製した。
【0050】a)電池の正極活物質として五酸化バナジウムを、導電剤としてアセチレンブラックを用い、そしてポリエチレンオキシドのジメタクリル酸エステル(分子量:4000)とメトキシ化ポリエチレングリコールのモノメタクリル酸エステル(分子量:400)を7:3に混合した有機ポリマーとを混合したものを複合正極として使用した。
【0051】この複合正極の作製方法は以下の通りである。すなわち五酸化バナジウムとアセチレンブラックを85:15の重量比率で混合したものに、上記有機ポリマー10重量部に、六フッ化ヒ素酸リチウム1重量部、エチレンカーボネート10重量部および2−メチルテトラヒドロフラン10重量部を混合させたものを、乾燥不活性ガス雰囲気中、10:3の重量比率で混合した。これらの混合物を、ステンレス鋼からなる正極集電板の表面に導電性カーボン被膜を形成した集電体の上にキャストした。その後、不活性ガス雰囲気中、加速電圧250KV、電子線量7.5Mradの電子線を照射することにより硬化させた。ステンレス集電体上に形成した複合正極被膜の厚さは、60μmであった。
【0052】b)電池の負極活物質としてリチウム金属を用い、これをステンレス鋼からなる負極集電板に圧着した。
【0053】次に上記リチウム金属上に本発明のイオン伝導性高分子化合物層を形成させるべく、上記有機ポリマー30の重量部と六フッ化ヒ素酸リチウム6重量部、エチレンカーボネート32重量部および2−メチルテトラヒドロフラン32重量部を混合したものを上記リチウム金属上にキャストし、不活性ガス雰囲気中、加速電圧250KV、電子線量5Mradの電子線を照射して硬化させた。これによって得られた電解質層の厚みは、20μmであった。
【0054】a)b)で得られた電解質/リチウム/負極集電体と、a)で得られた正極集電体/複合正極を接触させることにより、シート状電池を作製した。
【0055】(比較例2)a)電池の正極活物質として五酸化パナジウムを、導電剤としてアセチレンブラックを用い、そしてエチレンオキシドのジメタクリル酸エステル(分子量:4000)とメトキシ化ポリエチレングリコールのモノメタクリル酸エステル(分子量:400)を7:3に混合した有機ポリマーとを混合したものを複合正極として使用した。
【0056】この複合正極の作製方法は以下の通りである。すなわち五酸化バナジウムとアセチレンブラックを85:15の重量比率で混合したものに、上記有機ポリマー10重量部に、六フッ化ヒ素酸リチウム1重量部、アゾビスイソブチロニトリル0.05重量部、エチレンカーボネート10重量部および2−メチルテトラヒドロフラン10重量部を混合させたものを、乾燥不活性ガス雰囲気中、10;3の重量比率で混合した。これらの混合物を、ステンレス鋼からなる正極集電板の表面に導電性カーボン被膜を形成した集電体の上にキャストした。その後、不活性ガス雰囲気中、100℃で1時間放置することにより硬化させた。ステンレス集電体上に形成した複合正極被膜の厚さは、60μmであった。
【0057】b)電池の負極活物質としてリチウム金属を用い、これをステンレス鋼からなる負極集電板に圧着した。
【0058】次に上記リチウム金属上に本発明のイオン伝導性高分子化合物層を形成させるべく、上記有機ポリマー30重量部と六フッ化ヒ素酸リチウム6重量部、アゾビスイソブチロニトリル0.05重量部、エチレンカーボネート32重量部および2−メチルテトラヒドロフラン32重量部を混合したものを上記リチウム金属上にキャストし、不活性ガス雰囲気中、100℃で1時間放置することにより硬化させた。これによって得られた電解質層の厚みは、20μmであった。
【0059】c)b)で得られた電解質/リチウム/負極集電体と、a)で得られた正極集電体/複合正極を接触させることにより、シート状電池を作製した。
【0060】実施例2、比較例2のシート状電池の電極面積は、作製工程によって種々変更することが可能であるが、本実施例では、その電極面積を100cm2 としたものを作製した。このシート状電池を用いて、25℃で100μA定電流の充放電サイクル試験を行った。なお、充電終止電圧3.2V、放電終止電圧2.0Vとして充放電サイクル試験を行った。第3図に充放電サイクル数と電池容量の関係を示したものである。
【0061】第3図からわかるように、本発明の高分子固体電解質を用いたシート状電池は、比較例のシート状電池と比較して、優れた充放電サイクル特性を示すことがわかる。
【0062】
【発明の効果】以上の説明から明かなように、少なくとも1種のイオン性化合物が溶解している高分子物質により構成されたイオン伝導性高分子化合物と電気化学的活性物質と任意に電子伝導性物質とで構成される複合正極、および少なくとも1種のイオン性化合物が溶解している高分子物質により構成されたイオン伝導性高分子化合物からなる電解質を、紫外線、電離性放射線などの活性光線の照射により形成することにより、低温で短時間で処理することが可能となり、従来の熱的方法と比較して作業性が格段に向上し、品質の均一性を図ることが可能である。
【0063】これらのことから、電池の製造工程の作業性および電池の性能を向上させることができるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【図1】第1図は、本発明のシート状電池の断面図である。
【図2】第2図は、実施例1のシート状電池、比較例1のシート状電池において25℃負荷3KΩで放電したときの初期放電特性を示す放電曲線を示すグラフである。
【図3】第3図は、実施例2のシート状電池、比較例2のシート状電池の充放電サイクル数と電池容量の関係を示したグラフである。
【符号の説明】
1 正極集電体
2 複合正極
3 電解質
4 金属リチウム
5 負極集電体
6 封口材
【0001】
【産業上の利用分野】本発明は、周囲温度下で可逆的に作動する電池に係り、電解質および正極の改良に関するものである。
【0002】
【従来の技術】最近のマイクロエレクトロニクス化は、各種電子機器のメモリーバックアップ用電源に代表されるように、電池の電子機器内収納、エレクトロニクス素子および回路との一体化に伴って、電池の小型化、軽量化、薄形化とさらに高エネルギー密度を有する電池とが要望されている。1次電池の分野では、既にリチウム電池などの小型、軽量の電池が実用化されているが、その用途分野は限られたものである。
【0003】その原因の一つとして、従来、電気化学反応を利用した電池や電気二重層キャパシタ、エレクトロクロミック素子などの電気化学デバイスの電解質としては、一般的に液体電解質、特に有機電解液にイオン性化合物を溶解したものが用いられてきたが、液体電解質は、部品外部への液漏れ、電極物質の溶出、揮発などが発生しやすいため、長期信頼性などの問題や、封口工程での電解液の飛散などの問題が挙げられる。
【0004】そのため、これら耐漏液性、長期保存性を向上させるために、高いイオン伝導性を有するイオン伝導性高分子化合物が報告され、上記の問題を解決する手段の1つとして、さらに研究が進められている。
【0005】現在研究が進められているイオン伝導性高分子化合物は、エチレンオキシドを基本単位とするホモポリマーまたはコポリマーの直鎖状高分子、網状架橋高分子または櫛型高分子などであるが、低温でのイオン伝導度を上げることを目的として、網状架橋高分子または櫛型高分子にして結晶化を防ぐことが提案され、実施されている。特に上記網状架橋高分子を用いたイオン伝導性高分子化合物は、機械的強度が大でありかつ低温でのイオン伝導度が良好であるため有用である。
【0006】
【発明が解決しようとする課題】上記イオン伝導性高分子化合物を電気化学デバイスの電解質に応用する際、内部抵抗を低くするために電解質の薄膜化が必要となってくる。イオン伝導性高分子化合物の場合、均一な薄膜を任意の形状に容易に加工することが可能であるが、その方法が問題となってくる。例えば、イオン伝導性高分子化合物の溶液をキャストして溶媒を蒸発、除去する方法、あるいは、重合性モノマーあるいはマクロマーを基板上に塗布して、加熱重合する方法、あるいは活性光線の照射により硬化させる方法がある。従来、主に加熱重合する方法が簡便であり多く用いられてきた。しかしながら、加熱重合時間が非常に長くなり製造速度を向上させることが困難なこと、加熱炉中において温度勾配が生じ易いこと、不活性ガス雰囲気中で加熱するため、加熱炉および付帯設備が大型になることなどの問題があった。
【0007】本発明は、上記従来技術の問題点に鑑みなされたものであり、イオン伝導性高分子化合物を用いた電池において、非常に高い作業性を有し、さらに外部への液漏れの心配が全くなく長期信頼性および安全性の高い電池を提供するものである。
【0008】
【課題を解決するための手段】本発明は、負極と、少なくとも1種のイオン性化合物が溶解している高分子物質により構成されたイオン伝導性高分子化合物であって、ポリエーテル構造を有し、イオン伝導性を有している高分子化合物と電気化学的活性物質と任意に電子伝導性物質とで構成される複合正極と、少なくとも1種のイオン性化合物が溶解している高分子物質により構成されたイオン伝導性高分子化合物であって、ポリエーテル構造を有し、イオン伝導性を有している高分子物質からなる電解質からなる電池において、該複合正極および電解質を形成する方法として紫外線、電離性放射線などの活性光線の照射によって電極および電解質を形成することを特徴とする電池であることを第一の発明とする。
【0009】また、上記イオン伝導性高分子化合物が、少なくとも1種のイオン性化合物が溶解した反応性二重結合を持つポリエーテルである高分子化合物で、上記活性光線の照射によって反応させることにより、架橋ネットワーク構造を有する高分子化合物となることを特徴とすることを第二の発明とし、上記活性光線の照射において、特に電子線を使用する場合、該電子線が少なくとも100KV以上の加速電圧で照射されることを第三の発明とする。
【0010】さらに、上記イオン伝導性高分子化合物が、イオン性化合物を溶解することができる物質を含んでいることを特徴とするもので、上記電気化学的活性物質とイオン伝導性高分子化合物とを混合させて電極を提供することにより、上記の目的を達成したものである。
【0011】なお、ポリエーテルを架橋した高分子化合物に金属塩を溶解したイオン伝導性高分子化合物は、上記高分子化合物が多官能性水酸基を有するポリエーテルとジアクリレートによってエーテル結合することによって架橋するものである。
【0012】アクリレートのようなα,β−不飽和カルボニル化合物は、水酸基、アミノ基、メルカプト基などの活性水素を有する官能基と反応して付加化合物を作ることは、Michael付加反応として知られている。この反応を三官能以上の多官能性水酸基を有するポリオールとジアクリレートの反応に応用するとMichael付加反応の結果として、エーテル結合によって架橋した三次元ポリマーが得られることになる。
【0013】多官能性水酸基を有するポリエーテルとジアクリレートとの反応で得られた三次元ポリエーテルとは、その架橋構造の中にアルカリ金属塩などの金属塩を溶解させることができる。しかもエーテル結合によって生成した架橋ポリマーであるため、分子間水素結合のない、ガラス転移温度の低い構造となり、溶解した金属塩イオンの泳動がきわめて容易になる。
【0014】多官能性水酸基を有するポリエーテルとしては、例えばグリセリンとエチレンオキシドあるいはプロピレンオキシドとの反応で得られたポリエーテルが例示されるが、これらに限定されるものではない。
【0015】ジアクリレートとしては、ジエチレングリコールジアクリレート、トリエチレングリコールジアクリレートあるいはハイドロキノンジアクリレートなどのようにグリコールあるいは2価フェノールから誘導される脂肪族、芳香族ジアクリレートが用いられる。
【0016】また、ポリエチレンオキシドのジメタクリル酸エステルまたはジアクリル酸エステルとポリエーテルのモノメタクリル酸エステルまたはモノアクリル酸エステルの混合物を反応させた架橋ネットワーク構造の高分子を用いてもよい。
【0017】さらに、本発明においては、紫外線、電離性放射線などの活性光線の照射によって反応させ、架橋ネットワーク構造の高分子化合物を形成する場合、上記活性光線の照射による方法は低温で短時間で処理することが可能であるため、従来の熱的方法と比較して作業性が格段に向上するなどの長所がある。
【0018】次に、このようにして得られた高分子化合物に含有するイオン性化合物としては、例えばLiC104 、LiSCN、LiBF4、LiAsF6 、LiCF3SO3 、LiCF3 CO2 、NaI、NaSCN、NaBr、KSCN、などのLi、Na、またはKの1種を含む無機イオン塩、(CH3 )4 NBF4 、(CH3 )4 NBr、(C2 H5 )4 NC104 、(C2 H5 )4 NI、(C3 H7)4 NBr、(n−C4 H9 )4 NC104 、(n−C4 H9 )4 NI、(C2H5 )4 N−maleate、(C2 H5 )4 N−benzoate、(C2 H5 )4 N−phtalate等の四級アンモニウム塩、ステアリルスルホン酸リチウム、 オクチルスルホン酸ナトリウム、ドデシルベンゼンスルホン酸リチウム等の有機イオン塩が挙げられる。これらのイオン性化合物は、2種以上を併用してもよい。
【0019】このようなイオン性化合物の配合割合は、前述の高分子化合物のエーテル結合酸素数に対して、イオン性化合物が0.0001〜5.0モルの割合であり、中でも0.005〜2.0モルであるのが好ましい。このイオン性化合物の使用量があまり多すぎると、過剰のイオン性化合物、例えば無機イオン塩が解離せず、単に混在するのみとなり、イオン伝導度を逆に低下させる結果となる。
【0020】このイオン性化合物の含有方法等については特に制限はないが、例えば、メチルエチルケトン(MEK)やテトラハイドロフラン(THF)等の有機溶剤に溶解して、有機化合物に均一に混合した後、有機溶媒を真空減圧により除去する方法等が挙げられる。
【0021】次に、本発明では、イオン伝導性高分子化合物に高分子化合物中に含まれるイオン性化合物を溶解できる物質を含ませてもよく、この種の物質を含ませることによって、高分子化合物の基本骨格を変えることなく、伝導度を著しく向上できる。
【0022】イオン性化合物を溶解できる物質としては、プロピレンカーボネート、エチレンカーボネートなどの環状炭酸エステル、γ−ブチロラクトンなどの環状エステル、テトラヒドロフランまたはその誘導体、1,3−ジオキサン、1,2−ジメトキシエタンなどのエーテル類、アセトニトリル、ベンゾニトリルなどのニトリル類、ジオキソランはその誘導体、スルホランまたはその誘導体などの単独またはそれら2種以上の混合物などが挙げられる。しかしこれらに限定されるものではない。またその配合割合及び配合方法は任意である。
【0023】なお、本発明のイオン伝導性高分子化合物の塗布方法については、例えばアプリケータロールなどのローラコーティング、スクリーンコーティング、ドクターブレード法、スピンコーティング、バーコーダーなどの手段を用いて均一な厚みに塗布することが望ましいが、これらに限定されるものではない。
【0024】また、本発明の複合正極に使用する正極活物質としては、以下の電池電極材料が挙げられる。
【0025】すなわち、Cu0、Cu2 O、Ag2 O、CuS、CuSO2 などの1族金属化合物、TiS2 、SiO2 、SnOなどのIV族金属化合物、V2 O5 、V6O12、VOx 、Nb2 O5 、Bi2 O3 、Sb2 O3 などのV族金属化合物、CrO3 、Cr2 O3 、M0 O3 、M0 S2 、WO3 、SeO2 などのVI族金属化合物、MnO2 、Mn2 O3 などのVII族金属化合物、Fe2 O3 、FeO、Fe3 O4 、Ni2 O3 、NiO、C0 O3 、C0 OなどのVIII族金属化合物、または一般式、Lix MXy 、Lix MNy X2 (M,NはI〜VIII族の金属、Xは酸素、硫黄などのカルコゲン化合物を示す。)などの金属化合物、ポリピロール、ポリアニリン、ポリパラフェニリン、ポリアセリレン、ポリアセン系材料などの導電性高分子化合物、凝グラファイト構造炭素質材料などであるが、これらに限定されるものではない。
【0026】なお、本発明の複合正極の塗布方法については、例えばアプリケータロールなどのローラコーティング、スクリーンコーティング、トクターブレード法、スピンコーティング、バーコーダーなどの手段を用いて均一な厚みに塗布することが望ましいが、これらに限定されるものではない。
【0027】さらに、負極に使用する負極活物質としては、以下の電池電極材料が挙げられる。
【0028】すなわち、リチウム金属、リチウム−アルミニウム、リチウム−鉛、リチウム−スズ、リチウム−アルミニウム−スズ、リチウム−ガリウム、およびウッド合金などのリチウム合金およびカーボンなどの炭素質材料などであるが、これらに限定されるものではない。または上記正極活物質として使用するものを用いることもできる。
【0029】この場合、必要に応じて、アセチレンブラックなどのカーボンまたは金属粉末などの導電材料を正極内に混合して、電子伝導の向上を図ることができる。
【0030】また、上記複合正極を製造するとき、均一な混合分散系を得るために、数種の分散剤と分散媒を加えることができる。
【0031】セパレータは、上記イオン伝導性高分子化合物を単独でシート状にして複合正極と負極の間に配置するか、複合正極または負極に上記イオン伝導性高分子化合物の組成液を塗布して硬化し、複合化することも可能である。
【0032】
【作用】本発明は、少なくとも1種のイオン性化合物が溶解している高分子物質により構成されたイオン伝導性高分子化合物であって、ポリエーテル構造を有し、イオン伝導性を有している高分子化合物と電気化学的活性物質と任意に電子伝導性物質とで構成される複合正極、および少なくとも1種のイオン性化合物が溶解している高分子物質により構成されたイオン伝導性高分子化合物であって、ポリエーテル構造を有し、イオン伝導性を有している高分子物質からなる電解質を、紫外線、電離性放射線などの活性光線の照射により形成するため、低温でかつ短時間で処理することが可能となり、そのため、従来の熱的方法と比較して作業性が格段に向上し、品質の均一性を図ることが可能である。
【0033】また、上記複合正極および電解質を紫外線、電離性放射線などの活性光線の照射により形成するため、上記イオン伝導性高分子化合物の架橋度を容易にコントロールすることができるため、種々の複合正極および電解質を形成する際に、照射量を制御することにより、電気化学的に最適な電極および電解質を作製することが可能となる。
【0034】
【実施例】以下、本発明の詳細について、実施例により説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0035】
【実施例1】下記の手順にしたがって、本発明の実施例1のシート状電池を作製した。
【0036】a)電池の正極活物質として二酸化マンガンを、導電剤としてアセチレンブラックを用い、そしてポリエチレンオキシドのジメタクリル酸エステル(分子量:4000)とメトキシ化ポリエチレングリコールのモノメタクリル酸エステル(分子量:400)を7:3に混合した有機ポリマーとを混合したものを複合正極として使用した。
【0037】この複合正極の作製方法は以下の通りである。すなわち二酸化マンガンとアセチレンブラックを85:15の重量比率で混合したものに、上記有機ポリマー10重量部に、過塩素酸リチウム1重量部およびプロピレンカーボネート20重量部を混合させたものを、乾燥不活性ガス雰囲気中、10:3の重量比率で混合した。これらの混合物を、ステンレス鋼からなる正極集電板の表面に導電性カーボン被膜を形成した集電体の上にキャストした。その後、不活性ガス雰囲気中、加速電圧250KV、電子線量8Mradの電子線を照射することにより硬化させた。ステンレス集電体上に形成した複合正極被膜の厚さは、60μmであった。
b)電池の負極活物質としてリチウム金属を用い、これをステンレス鋼からなる負極集電板に圧着した。
【0038】次に上記リチウム金属上に本発明のイオン伝導性高分子化合物層を形成させるべく、上記有機ポリマー30重量部と過塩素酸リチウム6重量部およびプロピレンカーボネート64重量部を混合したものを上記リチウム金属上にキャストし、不活性ガス雰囲気中、加速電圧250KV、電子線量6Mradの電子線を照射して硬化させた。これによって得られた電解質層の厚みは、20μmであった。
c) b)で得られた電解質/リチウム/負極集電体と、a)で得られた正極集電体/複合正極を接触させることにより、シート状電池を作製した。
【0039】第1図は、本発明のシート状電池の断面図である。図中1は、ステンレス鋼からなる正極集電板で、2は複合正極であり、正極活物質に二酸化マンガンを、導電剤としてアセチレンブラックを、結着剤としてエチレンオキシドのジメタクリル酸エステルとメトキシ化ポリエチレングリコールのモノメタクリル酸エステルを混合した有機ポリマーを用いた。また、3は、本発明のイオン伝導性高分子化合物からなる電解質層である。4は、金属リチウムであり、5は、ステンレス鋼からなる負極集電板で、外装も兼ねている。6は、変性ポリプロピレンからなる封口材である。
【0040】(比較例1)下記の手順にしたがって、比較例1のシート状電池を作製した。
【0041】a)電池の正極活物質として二酸化マンガンを、導電剤としてアセチレンブラックを用い、そして実施例1と同様の有機ポリマーとを混合したものを複合正極として使用した。
【0042】この複合正極の作製方法は以下の通りである。すなわち二酸化マンガンとアセチレンブラックを85:15の重量比率で混合したものに、上記有機ポリマー10重量部に、過塩素酸リチウム1重量部、アゾビスイソブチロニトリル0.05重量部およびプロピレンカーボネート20重量部を混合させたものを、乾燥不活性ガス雰囲気中、10:3の重量比率で混合した。これらの混合物を、ステンレス鋼からなる正極集電板の表面に導電性カーボン被膜を形成した集電体の上にキャストした。その後、不活性ガス雰囲気中、100℃で1時間放置することにより硬化させた。ステンレス集電体上に形成した複合正極被膜の厚さは、60μmであった。
【0043】b)電池の負極活物質としてリチウム金属を用い、これをステンレス鋼からなる負極集電板に圧着した。
【0044】次に上記リチウム金属上に本発明のイオン伝導性高分子化合物層を形成させるべく、上記有機ポリマー30重量部と過塩素酸リチウム6重量部、アゾビスイソブチロニトリル0.05重量部およびプロピレンカーボネート64重量部を混合したものを上記リチウム金属上にキャストし、不活性ガス雰囲気中、100℃で1時間放置することにより硬化させた。これによって得られた電解質層の厚みは、20μmであった。
【0045】c)b)で得られた電解質/リチウム/負極集電体と、a)で得られた正極集電体/複合正極を接触させることにより、シート状電池を作製した。
【0046】実施例1、比較例1のシート状電池の電極面積は、作製工程によって種々変更することが可能であるが、本実施例では、その電極面積を100cm2 としたものを作製した。
【0047】本発明の実施例1のシート状電池、比較例1のシート状電池において、初期の放電特性を調べた。その結果を第2図に示した。第2図は電池組立後25℃負荷3kΩで放電したときの初期放電特性である。
【0048】第2図から明らかなように、本発明の実施例1のシート状電池は比較例1のシート状電池と比較して、初期放電特性が優れていることが認められる。
【0049】
【実施例2】下記の手順にしたがって、本発明の実施例2のシート状電池を作製した。
【0050】a)電池の正極活物質として五酸化バナジウムを、導電剤としてアセチレンブラックを用い、そしてポリエチレンオキシドのジメタクリル酸エステル(分子量:4000)とメトキシ化ポリエチレングリコールのモノメタクリル酸エステル(分子量:400)を7:3に混合した有機ポリマーとを混合したものを複合正極として使用した。
【0051】この複合正極の作製方法は以下の通りである。すなわち五酸化バナジウムとアセチレンブラックを85:15の重量比率で混合したものに、上記有機ポリマー10重量部に、六フッ化ヒ素酸リチウム1重量部、エチレンカーボネート10重量部および2−メチルテトラヒドロフラン10重量部を混合させたものを、乾燥不活性ガス雰囲気中、10:3の重量比率で混合した。これらの混合物を、ステンレス鋼からなる正極集電板の表面に導電性カーボン被膜を形成した集電体の上にキャストした。その後、不活性ガス雰囲気中、加速電圧250KV、電子線量7.5Mradの電子線を照射することにより硬化させた。ステンレス集電体上に形成した複合正極被膜の厚さは、60μmであった。
【0052】b)電池の負極活物質としてリチウム金属を用い、これをステンレス鋼からなる負極集電板に圧着した。
【0053】次に上記リチウム金属上に本発明のイオン伝導性高分子化合物層を形成させるべく、上記有機ポリマー30の重量部と六フッ化ヒ素酸リチウム6重量部、エチレンカーボネート32重量部および2−メチルテトラヒドロフラン32重量部を混合したものを上記リチウム金属上にキャストし、不活性ガス雰囲気中、加速電圧250KV、電子線量5Mradの電子線を照射して硬化させた。これによって得られた電解質層の厚みは、20μmであった。
【0054】a)b)で得られた電解質/リチウム/負極集電体と、a)で得られた正極集電体/複合正極を接触させることにより、シート状電池を作製した。
【0055】(比較例2)a)電池の正極活物質として五酸化パナジウムを、導電剤としてアセチレンブラックを用い、そしてエチレンオキシドのジメタクリル酸エステル(分子量:4000)とメトキシ化ポリエチレングリコールのモノメタクリル酸エステル(分子量:400)を7:3に混合した有機ポリマーとを混合したものを複合正極として使用した。
【0056】この複合正極の作製方法は以下の通りである。すなわち五酸化バナジウムとアセチレンブラックを85:15の重量比率で混合したものに、上記有機ポリマー10重量部に、六フッ化ヒ素酸リチウム1重量部、アゾビスイソブチロニトリル0.05重量部、エチレンカーボネート10重量部および2−メチルテトラヒドロフラン10重量部を混合させたものを、乾燥不活性ガス雰囲気中、10;3の重量比率で混合した。これらの混合物を、ステンレス鋼からなる正極集電板の表面に導電性カーボン被膜を形成した集電体の上にキャストした。その後、不活性ガス雰囲気中、100℃で1時間放置することにより硬化させた。ステンレス集電体上に形成した複合正極被膜の厚さは、60μmであった。
【0057】b)電池の負極活物質としてリチウム金属を用い、これをステンレス鋼からなる負極集電板に圧着した。
【0058】次に上記リチウム金属上に本発明のイオン伝導性高分子化合物層を形成させるべく、上記有機ポリマー30重量部と六フッ化ヒ素酸リチウム6重量部、アゾビスイソブチロニトリル0.05重量部、エチレンカーボネート32重量部および2−メチルテトラヒドロフラン32重量部を混合したものを上記リチウム金属上にキャストし、不活性ガス雰囲気中、100℃で1時間放置することにより硬化させた。これによって得られた電解質層の厚みは、20μmであった。
【0059】c)b)で得られた電解質/リチウム/負極集電体と、a)で得られた正極集電体/複合正極を接触させることにより、シート状電池を作製した。
【0060】実施例2、比較例2のシート状電池の電極面積は、作製工程によって種々変更することが可能であるが、本実施例では、その電極面積を100cm2 としたものを作製した。このシート状電池を用いて、25℃で100μA定電流の充放電サイクル試験を行った。なお、充電終止電圧3.2V、放電終止電圧2.0Vとして充放電サイクル試験を行った。第3図に充放電サイクル数と電池容量の関係を示したものである。
【0061】第3図からわかるように、本発明の高分子固体電解質を用いたシート状電池は、比較例のシート状電池と比較して、優れた充放電サイクル特性を示すことがわかる。
【0062】
【発明の効果】以上の説明から明かなように、少なくとも1種のイオン性化合物が溶解している高分子物質により構成されたイオン伝導性高分子化合物と電気化学的活性物質と任意に電子伝導性物質とで構成される複合正極、および少なくとも1種のイオン性化合物が溶解している高分子物質により構成されたイオン伝導性高分子化合物からなる電解質を、紫外線、電離性放射線などの活性光線の照射により形成することにより、低温で短時間で処理することが可能となり、従来の熱的方法と比較して作業性が格段に向上し、品質の均一性を図ることが可能である。
【0063】これらのことから、電池の製造工程の作業性および電池の性能を向上させることができるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【図1】第1図は、本発明のシート状電池の断面図である。
【図2】第2図は、実施例1のシート状電池、比較例1のシート状電池において25℃負荷3KΩで放電したときの初期放電特性を示す放電曲線を示すグラフである。
【図3】第3図は、実施例2のシート状電池、比較例2のシート状電池の充放電サイクル数と電池容量の関係を示したグラフである。
【符号の説明】
1 正極集電体
2 複合正極
3 電解質
4 金属リチウム
5 負極集電体
6 封口材
【特許請求の範囲】
【請求項1】 負極と、少なくとも1種のイオン性化合物が溶解している高分子物質により構成されたイオン伝導性高分子化合物であって、ポリエーテル構造を有し、イオン伝導性を有している高分子化合物と電気化学的活性物質と任意に電子伝導性物質とで構成される複合正極と、少なくとも1種のイオン性化合物が溶解している高分子物質により構成されたイオン伝導性高分子化合物であって、ポリエーテル構造を有し、イオン伝導性を有している高分子化合物からなる電解質からなる電池において、該イオン伝導性高分子化合物が、ポリエーテルのモノメタクリル酸エステル若しくはモノアクリル酸エステルとポリエチレンオキシドのジメタクリル酸エステル若しくはジアクリル酸エステルとの反応で得られた三次元ポリエーテルからなる架橋構造を有する高分子化合物であり、該架橋を形成する方法として紫外線、電離性放射線などの活性光線の照射によって電極及び電解質を形成することを特徴とする電池。
【請求項2】 上記活性光線の照射において、特に電子線を使用する場合、該電子線が少なくとも100KV以上の加速電圧で照射されることを特徴とする請求項1記載の電池。
【請求項1】 負極と、少なくとも1種のイオン性化合物が溶解している高分子物質により構成されたイオン伝導性高分子化合物であって、ポリエーテル構造を有し、イオン伝導性を有している高分子化合物と電気化学的活性物質と任意に電子伝導性物質とで構成される複合正極と、少なくとも1種のイオン性化合物が溶解している高分子物質により構成されたイオン伝導性高分子化合物であって、ポリエーテル構造を有し、イオン伝導性を有している高分子化合物からなる電解質からなる電池において、該イオン伝導性高分子化合物が、ポリエーテルのモノメタクリル酸エステル若しくはモノアクリル酸エステルとポリエチレンオキシドのジメタクリル酸エステル若しくはジアクリル酸エステルとの反応で得られた三次元ポリエーテルからなる架橋構造を有する高分子化合物であり、該架橋を形成する方法として紫外線、電離性放射線などの活性光線の照射によって電極及び電解質を形成することを特徴とする電池。
【請求項2】 上記活性光線の照射において、特に電子線を使用する場合、該電子線が少なくとも100KV以上の加速電圧で照射されることを特徴とする請求項1記載の電池。
【図1】
【図2】
【図3】
【図2】
【図3】
【特許番号】第2696011号
【登録日】平成9年(1997)9月12日
【発行日】平成10年(1998)1月14日
【国際特許分類】
【出願番号】特願平3−193233
【出願日】平成3年(1991)8月1日
【公開番号】特開平5−41247
【公開日】平成5年(1993)2月19日
【出願人】(000004097)日本原子力研究所 (55)
【出願人】(000006688)株式会社ユアサコーポレーション (21)
【参考文献】
【文献】特開 平2−295004(JP,A)
【文献】特開 平1−311573(JP,A)
【文献】特開 平1−294768(JP,A)
【文献】特開 平4−253170(JP,A)
【登録日】平成9年(1997)9月12日
【発行日】平成10年(1998)1月14日
【国際特許分類】
【出願日】平成3年(1991)8月1日
【公開番号】特開平5−41247
【公開日】平成5年(1993)2月19日
【出願人】(000004097)日本原子力研究所 (55)
【出願人】(000006688)株式会社ユアサコーポレーション (21)
【参考文献】
【文献】特開 平2−295004(JP,A)
【文献】特開 平1−311573(JP,A)
【文献】特開 平1−294768(JP,A)
【文献】特開 平4−253170(JP,A)
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