説明

電位依存性カチオンチャネル抑制剤

【課題】優れた電位依存性カチオンチャネル阻害剤を提供する。
【解決手段】
下記式(1)


〔式中、Xは、−O−Y(ここで、Yは、水素原子又は水酸基で置換されていてもよい炭素数1〜14のアルキル基若しくは炭素数2〜20のアルコキシアルキル基を示す)、又は−NR12(ここで、R1及びR2は、各々同一又は異なって水素原子又は炭素数1〜10のアルキル基を示す)を示す〕
で表されるフタリド類縁体を有効成分とする電位依存性カチオンチャネル阻害剤又はマスキング剤。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電位依存性カチオンチャネル抑制剤に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、生活環境の変化に起因する化学物質やハウスダスト等の外来刺激物質の増加によるアレルギー等の過敏症の増加や、自己の体臭や家庭における種々の生活臭を初めとする生活環境の臭気を嫌悪する傾向の高まり等、過敏な感覚に起因する日常の不快感が問題となっている。
感覚は、皮膚感覚や深部感覚等の体性感覚、内臓痛等の内臓感覚、視覚、聴覚、味覚、嗅覚等の特殊感覚に分類することができる。感覚の情報は、例えば、皮膚の各種受容器、筋紡錘、網膜、嗅粘膜、味蕾、蝸牛の有毛細胞等の末梢の感覚受容器等によって受容され、知覚感覚において神経インパルスに変換された後、電気信号として中枢まで伝達される。
【0003】
例えば、痛覚は、皮膚の自由神経終末で受容される侵害刺激(温度刺激、化学刺激、機械刺激)によって惹起される。自由神経終末には、各々の刺激に感受性のイオンチャネルが存在しており、刺激を受けた場合、これらのイオンチャネルが開口することでカチオンチャネルが細胞内に流入し、結果として電位依存性カチオンチャネルが活性化されて、神経の活動電位(インパルス)が発生する(非特許文献1)。また、かゆみを起こす刺激としては、機械刺激、熱刺激、電気刺激等の物理的刺激と、起痒物質等の化学的刺激とが知られている。これらの刺激は、主として真皮内のマスト細胞からヒスタミンを放出させ、放出されたヒスタミンは自由神経終末上の受容体と結合してカルシウムイオンの流入を引き起こし、最終的に神経の活動電位を発生させると考えられている(非特許文献2)。
【0004】
同様に、他の何れの感覚の発生にも、情報は、最終的には、神経細胞の電位依存性カチオンチャネルの活性化によって発生する活動電位の形態で中枢に伝達される。電位依存性カチオンチャネルは更に、こうした活動電位の発生や伝導だけでなく、シナプス間隙や神経筋終末への神経伝達物質の放出にも関与している。
従って、電位依存性カチオンチャネルの活性化を阻害すれば、感覚を刺激することが可能である。実際、電位依存性カチオンチャネル阻害剤を利用して感覚を抑制させる方法は、従来から医療現場等で使用されている。例えば、局所麻酔剤や抗不整脈薬として使用されるリドカイン(例えばキロシカイン(登録商標))は、電位依存性ナトリウムチャネル阻害剤である。電位依存性カルシウムチャネル阻害剤であるガバペンチン(例えば、ガバペン(登録商標)、ニューロンチン(登録商標))、は抗痙攣剤或いは鎮痛補助薬として使用されている。たま、電位依存性カルシウムチャネル又はナトリウムチャネルのインヒビター(例えば、バラパミル)が、外的攻撃に対する皮膚の耐性閾値を増加させ、皮膚の過敏症に適用できることが報告されている(特許文献1)。
【0005】
知覚神経の電位依存性カチオンチャネルを阻害することによって、医療目的での感覚抑制効果が得られるだけでなく、日常感じる過敏な感覚又は不快な感覚を抑制又は調整することにより、生活の質を改善することができる可能性がある。
【0006】
ところで、フタリド−3−酢酸類縁体は、各種合成反応の原料あるいは中間体として、また抗痙攣剤(アルキルアミド体)として知られているが(非特許文献3)、一般にはあまり利用されておらず、フタリド−3−酢酸類縁体に電位依存性チャネル阻害作用があることは知られていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特表2002−505268号公報
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】富永真琴, 実験医学, vol.24, No.15: 54-59 (2006)
【非特許文献2】豊田雅彦, 綜合臨床、Vo.53, No.5: 1629-1636 (2004)
【非特許文献3】Hu, Gaoyun; Xiang, Yang; Xiang, Honglin; Tan, Zhuanyun; Chen, Shicai; Huang, Hao., Zhongguo Yaowu Huaxue Zazhi, 8(3), 169-173 (1998)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、感覚の抑制若しくは調整、又は日常感じる過敏な感覚若しくは不快な感覚の低減に利用することができる電位依存性カチオンチャネル阻害剤に関する。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、電位依存性チャネルを効果的に阻害し、感覚の抑制又は調整に利用し得る物質を探索した結果、下記式で表されるフタリド−3−酢酸類縁体が、有効な電位依存性チャネル阻害効果が認められることを見出した。
【0011】
すなわち、本発明は以下の1)〜5)に係るものである。
1)下記式(1)
【0012】
【化1】

【0013】
〔式中、Xは、−O−Y(ここで、Yは、水素原子又は水酸基で置換されていてもよい炭素数1〜14のアルキル基若しくは炭素数2〜20のアルコキシアルキル基を示す)、又は−NR12(ここで、R1及びR2は、各々同一又は異なって水素原子又は炭素数1〜10のアルキル基を示す)を示す〕
で表されるフタリド類縁体を有効成分とする電位依存性カチオンチャネル阻害剤又はマスキング剤。
【0014】
2)上記Xが−O−Yである上記1)記載の電位依存性カチオンチャネル阻害剤又はマスキング剤。
3)上記Yが、水酸基で置換されていてもよい炭素数3〜8のアルキル基又はアルコキシアルキル基である上記2)記載の電位依存性カチオンチャネル阻害剤又はマスキング剤。
4)上記Yが、炭素数4〜8のアルキル基である上記3)記載の電位依存性カチオンチャネル阻害剤又はマスキング剤。
5)上記式(1)で表される化合物が、フタリド−3−酢酸−ブチルエステル又はフタリド−3−酢酸−イソペンチルエステルである上記1)〜4)の何れか1記載の電位依存性カチオンチャネル阻害剤又はマスキング剤。
【発明の効果】
【0015】
本発明の電位依存性カチオンチャネル阻害剤及びマスキング剤は、種々の感覚を効果的に抑制又は調整することで、医薬品の分野のみならず食品、化粧品、家庭用品等の分野においても有用であり、日常感じる過敏な感覚又は不快な感覚、特に不快臭を低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】試験物質による電位依存性カチオンチャネル活性抑制能の測定実験データを示す。
【図2】各フタリド−3−酢酸類縁体の内向き電流抑制率(電位依存性カチオンチャネル阻害率)を示す。
【図3】各フタリド−3−酢酸類縁体の内向き電流抑制率(電位依存性カチオンチャネル阻害率)を示す。
【図4】電位依存性カチオンチャネル抑制(阻害)率とマスキングスコアとの相関関係を示す。
【発明を実施するための形態】
【0017】
式(1)中、Xが−O−Yである場合の、当該Yで示される炭素数1〜14のアルキル基又は炭素数2〜20のアルコキシアルキル基における「アルキル基」としては、直鎖又は分岐鎖のものが包含される。例えば、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、ノニル基、デシル基、ウンデシル基、ドデシル基、トリデシル基、テトラデシル基、イソプロピル基、イソブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基、イソペンチル基、ネオペンチル基等が挙げられる。
このうち、炭素数1〜10のアルキル基が好ましく、より炭素数3〜8のアルキル基が好ましい。好ましくは、エチル基、ブチル基、イソブチル基、2−プロピル基、イソペンチル基、ヘキシル基及びオクチル基が挙げられる。
【0018】
また、炭素数2〜20のアルコキシアルキル基における「アルコキシ」としては、炭素数1〜6、好ましくは炭素数2〜4の低級アルコキシが挙げられ、例えば、メトキシ、エトキシ、プロポキシ、ブトキシ、ペントオキシ、イソプロポキシ、イソブトキシ、2−ヒドロキシ−プロポキシ等が挙げられる。
【0019】
また、上記アルコキシアルキル基としては、炭素数2〜10、好ましくは5〜7のものが挙げられ、例えば、2−プロポキシ−プロピル基、エトキシ−エチル基等が挙げられる。
【0020】
また、上記アルキル基及びアルコキシアルキル基の水素原子は、1〜3個の水酸基で置換されてもよい。
水酸基で置換されたアルキル基としては、例えば、ヒドロキシメチル基、ヒドロキシエチル基、2−ヒドロキシプロピル基、3−ヒドロキシブチル基等が挙げられ、好ましくは3−ヒドロキシブチル基等が挙げられる。
また、水酸基で置換されたアルコキシアルキル基としては、例えば、2−(2−ヒドロキシ−プロポキシ)−プロピル基、2−(2−ヒドロキシ−エトキシ)−エチル基等が挙げられ、好ましくは、2−(2−ヒドロキシ−プロポキシ)−プロピル基等が挙げられる。
【0021】
また、上記Xが−NR12の場合、当該R1及びR2で示される炭素数1〜10のアルキル基としては、直鎖又は分岐鎖のものが包含され、上述した「アルキル基」と同様のものが例示できる。
このうち、炭素数1〜6のアルキル基が好ましく、更に炭素数2〜4のアルキル基が好ましい。好ましくは、エチル基、プロピル基、ブチル基が挙げられる。
1及びR2は、何れか1つが水素原子であるのが好ましい。
【0022】
上記式(1)中、薬理作用の点から、上記Xが−O−Yであるのが好ましい。当該Yのアルキル基又はアルコキシアルキル基の炭素数は、1〜8、より3〜8、更に4〜8であるのが好ましい。このうち、炭素数4〜5の直鎖又は分岐鎖アルキル基が好ましい。
【0023】
尚、上記式(1)で表される化合物は、光学異性体を含むものであるが、何れの異性体でもよい。
【0024】
上記式(1)で表される化合物のうち、電位依存性チャネル阻害作用の点で、下記の化化合物1〔フタリド−3−酢酸〕、化合物2〔フタリド−3−酢酸 メチルエステル〕、化合物3〔フタリド−3−酢酸 エチルエステル〕、化合物4〔フタリド−3−酢酸 ブチルエステル〕、化合物5〔フタリド−3−酢酸 3−ヒドロキシブチルエステル〕、化合物6〔フタリド−3−酢酸 2−(2−ヒドロキシ−プロポキシ)−プロピルエステル〕、化合物7〔フタリド−3−アセタミド〕、化合物8〔N−エチル−フタリド−3−アセタミド〕、化合物9〔N−ブチル−フタリド−3−アセタミド〕、化合物10〔フタリド−3−酢酸 イソブチルエステル〕、化合物11〔フタリド−3−酢酸 イソペンチルエステル〕、化合物12〔フタリド−3−酢酸 ヘキシルエステル〕及び化合物13〔フタリド−3−酢酸 オクチルエステル〕が好ましい。
【0025】
【化2】

【0026】
上記式(1)で表される化合物は、公知の化学合成方法によって製造することができる。当該化合物は、例えば、市販のフタリド−3−酢酸を原料とし、これをエステル化又はアミド化することによって得ることができる。エステル化は、公知の方法、例えばフィッシャーエステル合成反応で、相応するアルコール(例えば、1価や多価アルコール、アルコキシアルコール、ヒドロキシアルコキシアルコール等)と反応させることで行うことができる。また、アミド化は、フタリド−3−酢酸を遊離酸又は当該遊離酸の反応性誘導体、例えば酸塩化物、混合無水物、イミダゾリド又はアジ化物とし、相応するアミン(例えば、アンモニア、直鎖又は分岐鎖アルキルアミン、直鎖又は分岐鎖ジアルキルアミン等)と反応させることで行うことができる。
また、適宜市販品を使用しても良い。
【0027】
後記実施例に示すように、本発明の化合物は、生体由来受容器細胞の電位依存性カチオンチャネルにより生じる電気的活動を抑制すること、言い換えれば、神経の活動電位の発生や伝達を抑制することができる。
【0028】
ここで、電位依存性カチオンチャネル阻害とは、電位依存性カチオンチャネルからの細胞内へのイオンの流入を阻害することを云い、阻害される電位依存性カチオンチャネルとしては、電位依存性Na+チャネル、電位依存性K+チャネル、電位依存性Ca2+チャネルが挙げられる。このうち、電位依存性Ca2+チャネルは、更に、電気生理学的、薬理学的性質から、L−,N,P−,Q−,R−,及びT−typeに分類することができ、これらは何れも本発明の化合物の標的である。
【0029】
斯様に、本発明の化合物は、電位依存性カチオンチャネル阻害作用を有することから、生物の種々の感覚を抑制又は調整するために用いることができる。
ここで、上記抑制又は調整される種々の感覚としては、皮膚や粘膜で受容される触覚、圧覚、温覚、冷覚、痛覚、及び筋、腱や関節からの感覚を含む、体性感覚;臓器感覚及び内臓痛を含む内臓感覚;視覚、聴覚、味覚、嗅覚及び平衡感覚を含む特殊感覚;ならびに、その他の感覚(例えば、掻痒感、しびれ、神経痛、疼痛、その他不快感等)が挙げられる。 これらのあらゆる感覚は、電位依存性カチオン阻害物質により抑制、軽減又は改善され得る。また、これらの種々の感覚は、しばしば刺激への感受性が亢進し、嗅覚過敏、又は痛覚過敏(hyperalgesia)、異痛症(alodynia)、痒み過敏などの皮膚知覚過敏といった不快な症状を呈するが、電位依存性カチオンチャネルを阻害すれば、これらの症状のうち末梢知覚神経活動の亢進に起因する症状の予防、改善又は治療に利用できる。なお、皮膚痛覚過敏とは、痛みの感覚が亢進し、痛みとなる刺激をより強く感じる感覚異常のことを、異痛症とは通常では疼痛をもたらさない刺激でも全て疼痛として認識される感覚異常のことを、痒み過敏とは普段であれば痒みを感じない刺激に対しても痒みを感じる感覚異常のことをいう。
【0030】
例えば、皮膚末梢神経系のナトリウム又はカルシウムチャネル阻害は皮膚耐性閾値を増加させることができる(特許文献1;特表2002-505268)。また、後記実施例に示すように、電位依存性カチオンチャネル抑制率とマスキングスコア(不快臭)とに相関関係が認められることから、本発明の化合物は、不快臭のマスキングのために用いることもできる。
【0031】
ここに、「皮膚耐性閾値」とは、この値を超えると皮膚は外部刺激に対し、知覚不全の兆候、すなわち皮膚領域における多かれ少なかれ痛みのある感覚、例えば刺痛、チクチクする痛み、痒み又は掻痒、火傷感、暖温感、不快感、激痛及び/又は赤み又は紅斑等を伴った反応を起こすようになる皮膚の興奮性閾値を意味するものである。
また、「外部刺激」とは、例えば界面活性剤や防腐剤、又は香料など刺激性を有する化合物、及び環境、食物、風、摩擦、シェービング、石鹸、カルシウム濃度の高い硬水、温度変化、毛糸などを意味するものである。
【0032】
よって、本発明の化合物は、ヒトを含む動物に摂取若しくは投与して、又は不快臭低減を望む対象物に混合、噴霧若しくは塗布等して、物電位依存性カチオンチャネル阻害、皮膚知覚過敏改善及び嗅覚マスキングを図るために使用することができ、電位依存性カチオンチャネル阻害剤、知覚過敏改善剤及びマスキング剤(以下、「電位依存性カチオンチャネル阻害剤等」とも云う)となり得、また当該電位依存性カチオンチャネル阻害剤等を製造するために使用することができる。
当該電位依存性カチオンチャネル阻害剤等は、それ自体が電位依存性カチオンチャネル阻害、知覚過敏改善又はマスキングのための医薬品、医薬部外品、化粧品、ハウスケア製品、食品、機能性食品又は飼料等であってもよく、これら医薬品等に配合して使用される素材又は製剤であってもよい。
【0033】
尚、上記式(1)で表される各化合物は、1種のみを使用してもよく、2種以上組み合わせて使用してもよい。
【0034】
本発明の化合物を含む医薬品、医薬部外品又はその他の組成物等としては、医学または獣医学分野で使用される麻酔剤、鎮静剤、鎮痛剤、鎮咳剤、抗炎症剤、過敏症やアレルギー反応などの過剰な感覚の抑制剤、痒み止め、ペインクリニック用医薬や介護や旅行で使用される吸引・点鼻による嗅覚抑制剤等の医薬品及び医薬部外品;抗カビ剤、液体タイプの衣料用抗菌仕上げ剤、衣料用洗剤、衣料用柔軟剤、衣料用漂白剤、住居用洗剤、排水口用洗剤、浴室用洗剤、トイレ用洗剤、トイレ用芳香防臭洗浄剤、洗濯機用洗剤、台所用洗浄剤、食器用洗浄剤、消臭剤等のハウスケア製品;皮膚過敏症抑制作用を有する入浴剤や化粧料、知覚過敏抑制作用を有する歯磨き粉やマウスウォッシュ等やウエットティッシュ、制汗剤、ふき取りシート等のボディケア製品等が挙げられる。
【0035】
上記医薬品、医薬部外品は、標的とする感覚、又は標的とする対象や身体部位等に応じて、任意の投与形態で投与することができる。標的とする感覚としては上述のとおりであり、標的とする対象や身体部位としては、例えば、生体、ならびに生体由来の組織、器官及び細胞が挙げられる。
投与形態としては、経口投与及び非経口投与が挙げられる。経口投与のための剤型としては、錠剤、被覆錠剤、顆粒剤、散剤、カプセル剤のような固形投薬形態、あるいはエリキシル、シロップおよび懸濁液のような液体投薬形態が挙げられる。非経口投与のための経路としては、注射、輸液、経皮、経粘膜、経鼻、経腸、吸入、坐剤、ボーラス等が挙げられ、剤型としては、錠剤、カプセル、液体、粉末、顆粒、軟膏、スプレー、ミスト、クリーム、乳液、ジェル、ペースト、ローション、パップ、プラスター、スティック、シート等が挙げられる。
【0036】
上記製剤には、本発明の化合物に、必要に応じて、任意の他の成分と組み合わせて使用されてもよい。好ましい他の成分としては、薬学的に許容される担体が挙げられる。薬学的に許容される担体の具体的な例としては、賦形剤、結合剤、崩壊剤、滑沢剤、希釈剤、浸透圧調整剤、pH調整剤、乳化剤、防腐剤、安定剤、酸化防止剤、着色剤、紫外線吸収剤、保湿剤、増粘剤、光沢剤、活性増強剤、矯味剤、矯臭剤等が挙げられる。本発明の電位依存性カチオンチャネル阻害剤は、さらに、公知の他の薬効成分(例えば、他のイオンチャネル阻害剤、感覚抑制若しくは調整剤、抗炎症剤、殺菌剤等)と組み合わせて使用してもよい。
【0037】
医薬品、医薬部外品、その他の組成物等における本発明の化合物の配合量は、その使用形態や目的により異なるが、例えば感覚抑制に使用する場合、通常、0.01〜50質量%、好ましくは0.1〜10質量%、より好ましくは0.1〜5質量%である。
【0038】
また、本発明の化合物を含む食品及び飼料等としては、例えば、パン類、麺類、菓子類、ゼリー類、乳製品、冷凍食品、インスタント食品、澱粉加工製品、加工肉製品、その他加工食品、飲料、スープ類、調味料及び栄養補助食品等の食品;牛、豚、鶏、羊、馬等に用いる家畜用飼料、ウサギ、ラット、マウス等に用いる小動物用飼料、マグロ、ウナギ、タイ、ハマチ、エビ等に用いる魚介類用飼料、犬、猫、小鳥、リス等に用いるペットフード等の飼料等が挙げられる。
【0039】
上記食品や飼料には、本発明の化合物に、必要に応じて、任意の他の成分と組み合わせて使用されてもよい。好ましい他の成分としては、食品や飼料分野で許容される担体が挙げられる。当該許容される担体の具体的な例としては、溶剤、軟化剤、油脂、乳化剤、防腐剤、香料、安定剤、着色剤、紫外線吸収剤、酸化防止剤、保湿剤、増粘剤、ゲル化剤、保型剤、pH調整剤、調味料、防腐剤、栄養補強剤等が挙げられる。
食品や飼料の形態としては、特に限定されないが、液状、半固体状、固体状の他、上記の経口投与製剤と同様の、錠剤、丸剤、カプセル剤、液剤、シロップ剤、粉末剤、顆粒剤等の形態であってもよい。
【0040】
また、食品又は飼料中の、本発明の化合物の含有量は、その使用形態により異なるが、乾燥物換算で、通常0.001〜50質量%であり、0.01〜10質量%が好ましく、0.1〜5質量%がより好ましい。
【0041】
医薬品や機能性食品等として使用する場合の投与・摂取量は、効果が得られる量であれば特に限定されない。またその投与・摂取量は、対象者の状態、体重、性別、年齢又はその他の要因に従って変動し得るが、経口投与・摂取の場合の成人1人当たりの1日の投与・摂取量は、通常、本発明化合物として、0.001〜100gが好ましい。また、上記製剤は、任意の投与・摂取計画に従って投与・摂取され得るが、1日1回〜数回に分け、数週間〜数カ月間継続して投与・摂取するのが好ましい。
【0042】
本発明の電位依存性カチオンチャネル阻害剤等の投与又は摂取対象者としては、それを必要としていれば特に限定されないが、上述の種々の感覚を抑制又は調整すること、例えば皮膚知覚過敏改善や嗅覚マスキング作用を目的とするヒトやヒト以外の哺乳動物が好ましい。
【実施例】
【0043】
以下、本発明を具体的に説明するために実施例及び試験例を挙げるが本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0044】
〔フタリド−3−酢酸類縁体〕
(1)化合物1:フタリド−3−酢酸
〔phthalide-3-acetic acid:(3-Oxo-1,3-dihydro-isobenzofuran-1-yl)-acetic acid〕(Alfa Aesar (Lancaster)製、和光純薬工業(株)より購入)
(2)化合物2:フタリド−3−酢酸 メチルエステル
〔phthalide-3-acetic acid methyl ester:(3-Oxo-1,3-dihydro-isobenzofuran-1-yl)-acetic acid methyl ester〕(製造例は後述)
(3)化合物3:フタリド−3−酢酸 エチルエステル
〔phthalide-3-acetic acid ethyl ester:(3-Oxo-1,3-dihydro-isobenzofuran-1-yl)-acetic acid ethyl ester〕(製造例は後述)
(4)化合物4:フタリド−3−酢酸 ブチルエステル
〔phthalide-3-acetic acid butyl ester:(3-Oxo-1,3-dihydro-isobenzofuran-1-yl)-acetic acid butyl ester〕(製造例は後述)
(5)化合物5: フタリド−3−酢酸 3−ヒドロキシブチルエステル
〔phthalide-3-acetic acid 3-hydroxybutyl ester:(3-Oxo-1,3-dihydro-isobenzofuran-1-yl)-acetic acid 3-hydroxy-butyl ester〕(製造例は後述)
(6)化合物6:フタリド−3−酢酸 2−(2−ヒドロキシ−プロポキシ)−プロピルエステル
〔phthalide-3-acetic acid 2-(2-hydroxy-propoxy)-propyl ester :(3-Oxo-1,3-dihydro-isobenzofuran-1-yl)-acetic acid 2-(2-hydroxy-propoxy)-propyl ester〕(製造例は後述)
(7)化合物7:フタリド−3−アセタミド
〔phthalide-3-acetamide: 2-(3-Oxo-1,3-dihydro-isobenzofuran-1-yl)-acetamide〕(製造例は後述)
(8)化合物8:N−エチル−フタリド−3−アセタミド
〔Senkyunolide N:N-Ethyl-2-(3-oxo-1,3-dihydro-isobenzofuran-1-yl)-acetamide〕(製造例は後述)
(9)化合物9:N−ブチル−フタリド−3−アセタミド
〔Senkyunolide N:N-butyl-2-(3-oxo-1,3-dihydro-isobenzofuran-1-yl)-acetamide〕(製造例は後述)
(10)化合物10:フタリド−3−酢酸 イソブチルエステル
〔phthalide-3-acetic acid isobutyl ester:(3-Oxo-1,3-dihydro-isobenzofuran-1-yl)-acetic acid isobutyl ester〕(製造例は後述)
(11)化合物11:フタリド−3−酢酸 イソペンチルエステル
〔phthalide-3-acetic acid isopentyl ester:(3-Oxo-1,3-dihydro-isobenzofuran-1-yl)-acetic acid isopentyl ester〕(製造例は後述)
(12)化合物12:フタリド−3−酢酸 ヘキシルエステル
〔phthalide-3-acetic acid hexyl ester:(3-Oxo-1,3-dihydro-isobenzofuran-1-yl)-acetic acid hexyl ester〕(製造例は後述)
(13)化合物13:フタリド−3−酢酸 オクチルエステル
〔phthalide-3-acetic acid octyl ester:(3-Oxo-1,3-dihydro-isobenzofuran-1-yl)-acetic acid octyl ester〕(製造例は後述)
【0045】
化合物2の製造
フタリド−3−酢酸1mmol(192.2 mg)と触媒量の濃硫酸を10mLのメタノールに溶解し、60℃で24時間過熱攪拌した。反応液をエバポレーターで濃縮後、30mLの酢酸エチルに溶解し、1w/v%重曹水30mLで2回洗浄した。酢酸エチル層をエバポレーターで濃縮し、化合物2(フタリド−3−酢酸 メチルエステル)を得た。
得られた化合物2の13C-NMRデータ (CDCl3)δ: 39.35, 52.25, 76.90, 122.04, 125.87, 125.89, 129.60, 134.31, 148.65, 169.74, 169.84 ppm
【0046】
化合物3の製造
フタリド−3−酢酸1mmol(192.2 mg)と触媒量の濃硫酸を10mLのエタノールに溶解し、60℃で24時間過熱攪拌した。反応液をエバポレーターで濃縮後、30mLの酢酸エチルに溶解し、1w/v%重曹水30mLで2回洗浄した。酢酸エチル層をエバポレーターで濃縮し、化合物3(フタリド−3−酢酸 エチルエステル)を得た。
得られた化合物3の13C-NMRデータ (CDCl3)δ: 14.10, 39.54, 61.29, 76.98, 122.06, 125.84, 125.92, 129.55, 134.27, 148.75, 169.26, 169.91 ppm
【0047】
化合物4の製造
フタリド−3−酢酸1mmol(192.2 mg)と触媒量の濃硫酸を10mLのブタノールに溶解し、60℃で24時間過熱攪拌した。反応液をエバポレーターで濃縮後、30mLの酢酸エチルに溶解し、1w/v%重曹水30mLで2回洗浄した。酢酸エチル層をエバポレーターで濃縮し、シリカゲルカラムクロマトグラフィー(ヘキサン−酢酸エチル系)にて精製し、化合物4(フタリド−3−酢酸 ブチルエステル)を得た。
得られた化合物4の13C-NMRデータ (CDCl3)δ: 13.66, 19.04, 30.47, 39.52, 65.19, 76.99, 122.05, 125.86, 125.93, 129.55, 134.26, 148.77, 169.35, 169.91, ppm
【0048】
化合物5の製造
フタリド−3−酢酸1mmol(192.2 mg)と触媒量の濃硫酸と2mLの1,3−ブタンジオールを8mLのテトラヒドロフランに溶解し、60℃で24時間過熱攪拌した。反応液をエバポレーターで濃縮後、30mLの酢酸エチルに溶解し、1w/v%重曹水30mLで2回洗浄した。酢酸エチル層をエバポレーターで濃縮し、シリカゲルカラムクロマトグラフィー(ヘキサン−酢酸エチル系)にて精製し、化合物5(フタリド−3−酢酸 3−ヒドロキシブチルエステル)を得た。
得られた化合物5の1H-NMRデータ (CDCl3)δ: 1.23(3H), 1.72(1H), 1.79(1H), 2.92(2H), 3.87(1H), 4.23(1H), 4.40(1H), 5.88(1H), 7.50(1H), 7.56(1H), 7.69(1H), 7.92(1H) ppm
【0049】
化合物6の製造
フタリド−3−酢酸1mmol(192.2 mg)と触媒量の濃硫酸と2mLのジプロピレングリコールを8mLのテトラヒドロフランに溶解し、60℃で24時間過熱攪拌した。反応液をエバポレーターで濃縮後、30mLの酢酸エチルに溶解し、1w/v%重曹水30mLで2回洗浄した。酢酸エチル層をエバポレーターで濃縮し、シリカゲルカラムクロマトグラフィー(ヘキサン−酢酸エチル系)にて精製し、化合物6(フタリド−3−酢酸 2−(2−ヒドロキシ−プロポキシ)−プロピルエステル)を得た。
得られた化合物6の1H-NMRデータ (CDCl3)δ: 1.13(3H), 1.18(3H), 2.94(2H), 3.1-5.2(6H), 5.89(1H), 7.51(1H), 7.56(1H), 7.69(1H), 7.92(1H) ppm
【0050】
化合物7の製造
フタリド−3−酢酸1mmol(192.2 mg)をテトラヒドロフラン5mLに溶解し、塩化チオニル3mmol(357mg)を添加後、室温にて24時間攪拌し、反応液をエバポレーターで濃縮し、フタリド−3−酢酸クロリドを得た。テトラヒドロフラン5mLに溶解後、フタリド−3−酢酸クロリドが消失するまでアンモニアガスを加えた。エバポレーターで濃縮後、30mLの酢酸エチルに溶解し、1w/v%重曹水30mLで2回洗浄した。酢酸エチル層をエバポレーターで濃縮し、化合物7(フタリド−3−アセタミド)を得た。
得られた化合物7の13C-NMRデータ (CDCl3)δ: 41.04, 78.77, 123.55, 125.74, 126.59, 130.08, 134.97, 150.74, 170.34, 171.27, ppm
【0051】
化合物8の製造
フタリド−3−酢酸1mmol(192.2 mg)をテトラヒドロフラン5mLに溶解し、塩化チオニル3mmol(357mg)を添加後、室温にて24時間攪拌し、反応液をエバポレーターで濃縮し、フタリド−3−酢酸クロリドを得た。テトラヒドロフラン5mLに溶解後、フタリド−3−酢酸クロリドが消失するまでエチルアミンを加えた。エバポレーターで濃縮後、30mLの酢酸エチルに溶解し、1w/v%重曹水30mLで2回洗浄した。酢酸エチル層をエバポレーターで濃縮し、シリカゲルカラムクロマトグラフィー(ヘキサン−酢酸エチル系)後、化合物8(N−エチル−フタリド−3−アセタミド)を得た。
得られた化合物8の13C-NMRデータ (CDCl3)δ: 14.62, 34.57, 41.81, 78.06, 122.31, 125.39, 125.61, 129.45, 134.38, 149.04, 168.05, 170.17 ppm
【0052】
化合物9の製造
フタリド−3−酢酸1mmol(192.2 mg)をテトラヒドロフラン5mLに溶解し、塩化チオニル3mmol(357mg)を添加後、室温にて24時間攪拌し、反応液をエバポレーターで濃縮し、フタリド−3−酢酸クロリドを得た。テトラヒドロフラン5mLに溶解後、フタリド−3−酢酸クロリドが消失するまでブチルアミンを加えた。エバポレーターで濃縮後、30mLの酢酸エチルに溶解し、1w/v%重曹水30mLで2回洗浄した。酢酸エチル層をエバポレーターで濃縮し、シリカゲルカラムクロマトグラフィー(ヘキサン−酢酸エチル系)後、化合物9(N−ブチル−フタリド−3−アセタミド)を得た。
得られた化合物9の13C-NMRデータ (CDCl3)δ: 13.69, 19.96, 31.42, 39.45, 41.9, 78.04,122.33, 125.43, 125.65, 129.47, 134.37, 149.02, 168.12, 170.11 ppm
【0053】
化合物10の製造
フタリド−3−酢酸1mmol(192.2 mg)と触媒量の濃硫酸を10mLのイソブタノールに溶解し、60℃で24時間過熱攪拌した。反応液をエバポレーターで濃縮後、30mLの酢酸エチルに溶解し、1w/v%重曹水30mLで2回洗浄した。酢酸エチル層をエバポレーターで濃縮し、シリカゲルカラムクロマトグラフィー(ヘキサン−酢酸エチル系)にて精製し、化合物10(フタリド−3−酢酸 イソブチルエステル)を得た。
得られた化合物10の13C-NMRデータ (CDCl3)δ: 18.92, 27.5, 39.37, 71.2, 76.92, 121.98, 125.69, 125.79, 129.45, 134.21, 148.66, 169.21, 169.8 ppm
【0054】
化合物11の製造
フタリド−3−酢酸1mmol(192.2 mg)と触媒量の濃硫酸を10mLのイソペンタノールに溶解し、60℃で24時間過熱攪拌した。反応液をエバポレーターで濃縮後、30mLの酢酸エチルに溶解し、1w/v%重曹水30mLで2回洗浄した。酢酸エチル層をエバポレーターで濃縮し、シリカゲルカラムクロマトグラフィー(ヘキサン−酢酸エチル系)にて精製し、化合物11(フタリド−3−酢酸 イソペンチルエステル)を得た。
得られた化合物11の13C-NMRデータ (CDCl3)δ: 22.38, 22.41, 24.94, 37.11, 39.54, 63.99, 76.98, 122.05, 125.87, 125.94, 129.55, 134.26, 148.76, 169.35, 169.9 ppm
【0055】
化合物12の製造
フタリド−3−酢酸1mmol(192.2 mg)と触媒量の濃硫酸と2mLのヘキサノールを8mLのテトラヒドロフランに溶解し、60℃で24時間過熱攪拌した。反応液をエバポレーターで濃縮後、30mLの酢酸エチルに溶解し、1w/v%重曹水30mLで2回洗浄した。酢酸エチル層をエバポレーターで濃縮し、シリカゲルカラムクロマトグラフィー(ヘキサン−酢酸エチル系)にて精製し、化合物12(フタリド−3−酢酸 ヘキシルエステル)を得た。
得られた化合物12の13C-NMRデータ (CDCl3)δ: 13.97, 22.48, 25.47, 28.41, 31.34, 39.51, 65.47, 76.98, 122.06, 125.84, 125.92, 129.53, 134.25, 148.77, 169.34, 169.89 ppm
【0056】
化合物13の製造
フタリド−3−酢酸1mmol(192.2 mg)と触媒量の濃硫酸と2mLのオクタノールを8mLのテトラヒドロフランに溶解し、60℃で24時間過熱攪拌した。反応液をエバポレーターで濃縮後、30mLの酢酸エチルに溶解し、1w/v%重曹水30mLで2回洗浄した。酢酸エチル層をエバポレーターで濃縮し、シリカゲルカラムクロマトグラフィー(ヘキサン−酢酸エチル系)にて精製し、化合物13(フタリド−3−酢酸 オクチルエステル)を得た。
得られた化合物13の13C-NMRデータ (CDCl3)δ: 14.07, 22.61, 25.81, 28.45, 29.12, 29.14, 31.73, 39.52, 65.48, 76.98, 122.06, 125.85, 125.93, 129.54, 134.25, 148.77, 169.35, 169.9 ppm
【0057】
試験例1
1.嗅細胞の単離
アカハライモリより公知の方法(Kurahashiら, J. Physiol. (1989), 419: 177-192)に従って嗅細胞を単離し、正常リンガー液に浸した。単離方法を簡単に示すと、氷水中で冬眠状態にしたイモリにダブルピスを施し、頭蓋を切開し嗅粘膜を取り出す。取り出した嗅粘膜を0.1%コラゲナーゼ溶液中で37℃にて5分間インキュベートし、コラゲナーゼを洗い流したあと、ガラスピペットにて組織を粉砕し細胞を単離した。正常リンガー液としては、NaCl 110mM、KCl 3.7 mM、CaCl2 3 mM、MgCl2 1 mM、グルコース 15 mM、ピルビン酸ナトリウム 1 mM、HEPES 10 mM、フェノールレッド 0.001%(w/v)、pH 7.4(NaOHで調整)を用いた。
【0058】
2.電気的活動の測定
〔A.設定〕 単離した嗅細胞を全細胞記録法により膜電位を固定し、膜電流の計測を行った(Kawaiら, J. Gen. Physiol. (1997), vol.109: 265-272)。電極は、ホウケイ酸ガラスキャピラリー(直径1.2mm)を用い、電極作成用プラー(P-97, SUTTER INSTRUMENT CO.)にて作製した(電極抵抗6.0MΩ前後)。電極内には、電極内溶液と銀塩化銀線を挿入し、銀塩化銀線はパッチクランプアンプ(EPC10, HEKA)と接続し、膜電位の固定、脱分極刺激を行った。電極内溶液としては、CsCl 119 mM、HEPES 10 mM、CaCl2 1mM、EGTA 5mM、フェノールレッド 0.001%(w/v)、pH7.4(CsOHで調整)を用いた。膜電流の記録は、パッチクランプアンプに接続したコンピュータ(IBM互換機)にて行い(Sampling frequency, 1kHz)、測定、解析にはPatch Masterソフトウェア(HEKA)を用いた。試験物質の添加(吹きかけ)には、圧力制御装置を用いた。圧力制御装置とは、エアーコンプレッサーより送り込まれた圧縮空気を、コンピューター制御にて任意の圧力まで減圧し、設定した時間、その圧縮空気を、試験物質を充填したガラスピペット尾部へ送り込む装置である(Itoら、日本生理学雑誌, 1995,vol.57,127-133)。
【0059】
〔B.手順〕 上記各試験物質(上記化合物1〜13の各化合物)による電位依存性カチオンチャネル活性への影響を調べるため、単離した嗅細胞の膜電位を-90 mVに固定し、200ミリ秒間隔で20ミリ秒間、膜電位を-20 mVへ脱分極させ、脱分極直後に生じる内向き電流のピーク強度(図1、|a|=〔脱分極直後に生じる内向き電流値〕−〔ベースライン値〕)を測定した。脱分極刺激を繰り返し続けながら、試験物質(2%溶液/溶媒:エタノール)を、正常リンガー液1 mLあたり5μLの量で混合し(最終濃度0.01%)、嗅細胞近傍(10 μm)に先端が来るようにセットしたガラスピペット(先端口径 1 μm)を通じて吹きかけることにより(650ミリ秒間、圧力100kPa及び50kPa)嗅細胞に添加し、それに伴う内向き電流の変化(図1、|b|=〔ピーク強度が最も抑制されたときの内向き電流値〕−〔ベースライン値〕)を調べた。この吹きかけを5回連続して行った。さらに、エキス添加直前の脱分極によって生じた内向き電流のピーク強度(a)の平均値Aを、エキス添加直後の脱分極によって生じた内向き電流のピーク強度(b)の平均値Bを算出した。
尚、試験中、稀に試験物質添加に伴い、嗅覚受容体が応答し、CNGチャネルに由来する内向き電流が観察される場合が起きるが、このようなケースは除外した。このケースは、試験物質が試験に用いた嗅細胞上の嗅覚受容体のアゴニストとして作用することにより生じたと考えられる。CNGチャネル電流は、その強度、ピーク形状、持続時間などから電位依存性チャネル電流と容易に区別することができる。
【0060】
〔C.結果〕
下式に示す「B:ピーク強度が最も抑制されたときの内向き電流値(b)の平均値」及び「A:試験物質添加直前の脱分極直後に生じる内向き電流値(a)の平均値」から「内向き電流抑制率(%)」を算出し、この結果をもとに、各試験物質添加による電位依存性カチオンチャネルの電気的活動に対する抑制能をそれぞれ評価した。なお、内向き電流抑制率が高い成分ほど、電位依存性カチオンチャネル阻害効果が高いものとなる。
【0061】
内向き電流抑制率(%)=〔1−(A/B)〕×100
【0062】
各フタリド−3−酢酸類縁体の電位依存性チャネル阻害率を図2及び3に示す。
【0063】
参考例:電位依存性チャネル阻害作用とマスキング効果との相関関係
図4及び表2に示すように、内向き電流抑制率(%)とマスキングスコアとに相関関係が認められたので、電位依存性カチオンチャネル阻害作用の強い成分は不快臭のマスキング素材として有用である。
〔官能評価試験〕
官能評価の嗅覚マスキング試験をパネラー20名に対して実施した。悪臭物質として1%イソ吉草酸を、対照として悪臭に対する嗅覚感度低下効果が知られている1,8−シネオールを用いた。
悪臭 2μLと、表2に示す 0.1%濃度の評価化合物の試験溶液 4μLを別々の綿球(直径 1cm)にしみこませ、別々の 50mL注射筒内で12時間、室温で揮発させた。注射筒内で気化したイソ吉草酸と評価化合物をフタ付きのPP容器(容積 500mL)内へ注入し、混和させた。
評価は、パネラー自身がPP容器のフタをわずかに開け、容器内の匂いを嗅ぎ、イソ吉草酸の匂いに対するマスキング強度を判定した。
マスキング強度の評価は、気化したイソ吉草酸のみを注入したPP容器内の臭気強度と比較し、以下の6段階のマスキングスコアにより行い、20名の平均値を求めた。この結果を表2に示した。
0:マスキングされていない
1:マスキング効果がごくわずかに認められる
2:マスキング効果がやや認められる
3:マスキング効果が十分認められる
4:ほとんどマスキングされている
5:完全にマスキングされている
【0064】
【表1】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(1)
【化1】

〔式中、Xは、−O−Y(ここで、Yは、水素原子又は水酸基で置換されていてもよい炭素数1〜14のアルキル基若しくは炭素数2〜20のアルコキシアルキル基を示す)、又は−NR12(ここで、R1及びR2は、各々同一又は異なって水素原子又は炭素数1〜10のアルキル基を示す)を示す〕
で表されるフタリド類縁体を有効成分とする電位依存性カチオンチャネル阻害剤。
【請求項2】
上記Xが−O−Yである請求項1記載の電位依存性カチオンチャネル阻害剤。
【請求項3】
上記Yが、水酸基で置換されていてもよい炭素数3〜8のアルキル基又は炭素数3〜8のアルコキシアルキル基である請求項2記載の電位依存性カチオンチャネル阻害剤。
【請求項4】
上記Yが、炭素数4〜8のアルキル基である請求項3記載の電位依存性カチオンチャネル阻害剤。
【請求項5】
上記式(1)で表される化合物が、フタリド−3−酢酸−ブチルエステル又はフタリド−3−酢酸−イソペンチルエステルである請求項1〜4の何れか1項記載の電位依存性カチオンチャネル阻害剤。
【請求項6】
下記式(1)
【化2】

〔式中、Xは、−O−Y(ここで、Yは、水素原子又は水酸基で置換されていてもよい炭素数1〜14のアルキル基若しくは炭素数2〜20のアルコキシアルキル基を示す)、又は−NR12(ここで、R1及びR2は、各々同一又は異なって水素原子又は炭素数1〜10のアルキル基を示す)を示す〕
で表されるフタリド類縁体を有効成分とするマスキング剤。
【請求項7】
上記Xが−O−Yである請求項6記載のマスキング剤。
【請求項8】
上記Yが、水酸基で置換されていてもよい炭素数3〜8のアルキル基又は炭素数3〜8のアルコキシアルキル基である請求項7記載のマスキング剤。
【請求項9】
上記Yが、炭素数4〜8のアルキル基である請求項8記載のマスキング剤。
【請求項10】
上記式(1)で表される化合物が、フタリド−3−酢酸−ブチルエステル又はフタリド−3−酢酸−イソペンチルエステルである請求項6〜9の何れか1項記載のマスキング剤。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2011−256121(P2011−256121A)
【公開日】平成23年12月22日(2011.12.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−130245(P2010−130245)
【出願日】平成22年6月7日(2010.6.7)
【出願人】(000000918)花王株式会社 (8,290)
【Fターム(参考)】