説明

電位差型劣化センサーの長寿命化方法

【課題】電位差型劣化センサーを用いて内燃機関用潤滑油の劣化診断を行うに際し、電位差型劣化センサーの寿命を十分に長くすることを可能とする方法を提供すること。
【解決手段】本発明は、電位差型劣化センサーを装着した内燃機関用の潤滑油として、鉱油および/または合成油からなる基油と、組成物全量基準で、リン元素換算量として200〜2000質量ppmの、ヒドロカルビル亜リン酸化合物の金属塩およびヒドロカルビルリン酸化合物の金属塩から選ばれる少なくとも1種のリン含有化合物と、金属系清浄剤と、を含有する潤滑油組成物を用いることを特徴とする、電位差型劣化センサーの長寿命化方法を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電位差型劣化センサーの長寿命化方法に関する。
【背景技術】
【0002】
内燃機関用潤滑油の劣化度を評価する方法として、運転時間や温度、燃料消費量より潤滑油の劣化を換算する方法が提案されている(例えば、特許文献1、2を参照。)。しかし、この方法は、潤滑油の劣化を直接測定しているのではないため、同じ運転条件においても潤滑油性能により劣化の度合いが異なり、その都度換算方法を変更する必要がある。
【0003】
また、潤滑油の劣化診断方法としては、赤外分光分析計を用いる方法(例えば、特許文献3、4を参照。)、紫外可視分光計を用いる方法(例えば、特許文献5を参照。)などがある。しかし、これらの方法においては、潤滑油中のスラッジ分が光学レンズへ付着して信号が変化してしまうことにより、潤滑油の正確な劣化度の検出を行うことができないという欠点がある。
【0004】
その他の方法としては、電極間に生じる電位差より潤滑油の劣化度を診断する、いわゆる電位差型劣化センサーを用いる方法(特許文献6〜8)が提案されている。
【特許文献1】特開2002−317615号公報
【特許文献2】特開平9−189211号公報
【特許文献3】特開平8−226896号公報
【特許文献4】特開平9−100712号公報
【特許文献5】特開2001−305128号公報
【特許文献6】特開2004−150947号公報
【特許文献7】特開平6−201649号公報
【特許文献8】特開平5−281188号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、電位差型劣化センサーを用いる方法の場合、使用期間が長くなると劣化診断の精度が低下するという問題がある。
【0006】
本発明は、このような実情に鑑みてなされたものであり、電位差型劣化センサーを用いて内燃機関用潤滑油の劣化診断を行うに際し、電位差型劣化センサーの寿命を十分に長くすることを可能とする方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、上記目的を達成すべく鋭意検討した結果、従来法において電位差型劣化センサーの寿命が短くなるのは、内燃機関用潤滑油による電極の腐食及び電極表面の不活性化に起因していることを見出した。特に、内燃機関用潤滑油がジヒドロカルビルジチオリン酸亜鉛等の添加剤を含有する場合に、電位差型劣化センサーの寿命が短くなりやすいことがわかった。
【0008】
そこで本発明者は、上記知見に基づきさらに検討を重ねた結果、内燃機関用潤滑油として特定の組成を有する潤滑油組成物を用いることによって上記課題が解決されることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0009】
すなわち、本発明は、電位差型劣化センサーを装着した内燃機関用の潤滑油として、鉱油および/または合成油からなる基油と、組成物全量基準で、リン元素換算量として200〜2000質量ppmの、ヒドロカルビル亜リン酸化合物の金属塩及びヒドロカルビルリン酸化合物の金属塩から選ばれる少なくとも1種のリン含有化合物と、金属系清浄剤と、を含有する潤滑油組成物を用いることを特徴とする、電位差型劣化センサーの長寿命化方法を提供する。
【0010】
本発明の電位差型劣化センサーの長寿命化方法においては、内燃機関用潤滑油として上記特定の組成を有する潤滑油組成物を用いることで、内燃機関用潤滑油としての本質的機能を損なうことなく、電位差型劣化センサーの電極の腐食及び電極表面の不活性化が抑制されるため、電位差型劣化センサーを十分に長寿命化することが可能となる。また、従来の内燃機関用潤滑油にはトリアゾール系化合物等の腐食防止剤が添加される場合があるが、本発明においては、潤滑油組成物に腐食防止剤を添加せずとも、電位差型劣化センサーを長寿命化することができる。
【0011】
本発明において、上記潤滑油組成物における金属系清浄剤の含有量は、組成物全量基準で、カルシウム元素含有量として500〜4500質量ppmであることが好ましい。
【0012】
また、上記潤滑油組成物は、酸化防止剤、無灰分散剤、粘度指数向上剤、流動点降下剤及び消泡剤から選ばれる少なくとも1種をさらに含有することが好ましい。
【発明の効果】
【0013】
以上の通り、本発明によれば、電位差型劣化センサーを用いて内燃機関用潤滑油の劣化診断を行うに際し、電位差型劣化センサーの寿命を十分に長くすることを可能とする方法が提供される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、本発明の好適な実施形態について詳細に説明する。
【0015】
本発明において使用される電位差型劣化センサーは特に制限されないが、一般的には、1対の電極を潤滑油に浸し、該電極間の電位差を検出することにより潤滑油の劣化度を診断するものである。潤滑油の劣化度は、例えば、予め潤滑油の所定の物性値(酸価、塩基価など)についてその使用限界値及び対応する電位差を定めておき、実際に測定される電位差が使用限界値に対応する電位差に至ったか否かに基づいて診断することができる。あるいは、電位差を経時的に測定し、電位差の減少傾向が増大傾向に転じたときに使用限界に至ったと判断してもよい。さらに、電位差型劣化センサーは、電位差の測定値又は劣化診断の結果を表示する表示部をさらに備えるものであってもよい。
【0016】
電位差型劣化センサーが備える電極は、上記電位差の測定が可能であれば特に制限されないが、(1)鉛/ロジウム、インジウム、銅、銀、ステンレス、チタン、タングステン、の組合わせ、(2)錫/ステンレス、チタン、タングステンの組合わせ、(3)銅/白金、ロジウム、イリジウムの組合わせ、(4)銀/白金、イリジウムもしくはその酸化物、ルテニウムもしくはその酸化物、ロジウムもしくはその酸化物の組合わせ、(5)白金/インジウム、ニッケル、イリジウムもしくはその酸化物、ルテニウムもしくはその酸化物、ロジウムもしくはその酸化物の組合わせ、(6)金/イリジウム、ルテニウム、ロジウム又はその酸化物の組合わせ、(7)コバルト/ステンレス、チタン、タングステンの組合わせ、(8)亜鉛/ロジウム、イリジウム、ステンレス、チタン、タングステンの組合わせ、(9)ロジウム−インジウムの組合わせ、(10)イリジウム−インジウムの組合わせが好ましい。特に、本発明の電位差型劣化センサーの長寿命化方法は、電位差型劣化センサーが鉛/ロジウム、鉛/インジウム、鉛/銅、鉛/銀、鉛/ステンレス、鉛/チタン、鉛/タングステン、錫/ステンレス、錫/チタン、錫/タングステン、銅/白金、銅/ロジウム、銅/イリジウム、銀/白金、銀/イリジウムもしくはその酸化物、銀/ルテニウムもしくはその酸化物、銀/ロジウムもしくはその酸化物で構成される電極を備える場合に好適である。
【0017】
次に、本発明で用いられる潤滑油組成物について詳述する。
【0018】
本発明で用いられる潤滑油組成物が含有する潤滑油基油は、特に制限されず、通常の潤滑油に使用される鉱油系基油及び/又は合成系基油が使用できる。
【0019】
鉱油系基油としては、具体的には、原油を常圧蒸留して得られる常圧残油を減圧蒸留して得られた潤滑油留分を、溶剤脱れき、溶剤抽出、水素化分解、溶剤脱ろう、水素化精製等の処理を1つ以上行って精製したもの、あるいはワックス異性化鉱油、フィッシャートロプシュプロセス等により製造されるGTLWAX(ガストゥリキッドワックス)を異性化する手法で製造される潤滑油基油等が例示できる。
【0020】
鉱油系基油の全芳香族分は、特に制限はないが、好ましくは40質量%以下であり、より好ましくは30質量%以下である。全芳香族分は0質量%でも良いが、添加剤の溶解性の点で1質量%以上であることが好ましく、5質量%以上であることがさらに好ましく、10質量%以上であることがさらに好ましく、20質量%以上であることが特に好ましい。基油の全芳香族分が40質量%を越える場合は、酸化安定性が劣るため好ましくない。
なお、上記全芳香族分とは、ASTM D2549に準拠して測定した芳香族留分(aromatic fraction)含有量を意味する。通常この芳香族留分には、アルキルベンゼン、アルキルナフタレンの他、アントラセン、フェナントレン、これらのアルキル化物、ベンゼン環が四環以上縮合した化合物、及びピリジン類、キノリン類、フェノール類、ナフトール類等のヘテロ芳香族を有する化合物等が含まれる。
【0021】
また、鉱油系基油中の硫黄分は、特に制限はないが、1質量%以下であることが好ましく、0.5質量%以下であることがさらに好ましく、硫黄分は0質量%でも良いが、好ましくは0.1質量%以上、より好ましくは0.2質量%以上である。鉱油系基油の硫黄分をある程度含むことにより、添加剤の溶解性を十分に高めることができる。
【0022】
合成系基油としては、具体的には、ポリブテン又はその水素化物;1−オクテンオリゴマー、1−デセンオリゴマー等のポリα−オレフィン又はその水素化物;ジトリデシルグルタレート、ジ−2−エチルヘキシルアジペート、ジイソデシルアジペート、ジトリデシルアジペート、ジ−2−エチルヘキシルセバケート等のジエステル;トリメチロールプロパンカプリレート、トリメチロールプロパンペラルゴネート、ペンタエリスリトール−2−エチルヘキサノエート、ペンタエリスリトールペラルゴネート等のポリオールエステル;マレイン酸ジブチル等のジカルボン酸類と炭素数2〜30のα−オレフィンとの共重合体、アルキルナフタレン、アルキルベンゼン、芳香族エステル等の芳香族系合成油又はこれらの混合物等が例示できる。
【0023】
本発明では、潤滑油基油として、鉱油系基油、合成系基油又はこれらの中から選ばれる2種以上の潤滑油の任意混合物等が使用できる。例えば、1種以上の鉱油系基油、1種以上の合成系基油、1種以上の鉱油系基油と1種以上の合成系基油との混合油等を挙げることができる。
【0024】
潤滑油基油の動粘度は特に制限はないが、その100℃での動粘度は、3〜40mm2/sであることが好ましく、より好ましくは、4〜30mm2/s、特に好ましくは5〜20mm2/sである。潤滑油基油の100℃での動粘度が40mm2/sを越える場合は、低温粘度特性が悪化し、一方、その動粘度が3mm2/s未満の場合は、潤滑箇所での油膜形成が不十分であるため潤滑性に劣り、また潤滑油基油の蒸発損失が大きくなるため、それぞれ好ましくない。
【0025】
潤滑油基油の蒸発損失量としては、NOACK蒸発量で、20質量%以下であることが好 ましく、16質量%以下であることがさらに好ましく、10質量%以下であることが特に好ましい。潤滑油基油のNOACK蒸発量が20質量%を超える場合、潤滑油の蒸発損失が大きく、粘度増加等の原因となるため好ましくない。なお、ここでいうNOACK蒸発量とは、ASTMD 5800に準拠して測定される潤滑油の蒸発量を測定したものである。
【0026】
潤滑油基油の粘度指数は特に制限はないが、低温から高温まで優れた粘度特性が得られるようにその値は好ましくは85以上であり、より好ましくは90以上であり、更に好ましくは100以上であり、粘度指数の上限については特に制限はなく、ノルマルパラフィン、スラックワックスやGTLワックス等、あるいはこれらを異性化したイソパラフィン系鉱油のような135〜180程度のものや、コンプレックスエステル系基油やHVI−PAO系基油のような150〜250程度のものも使用することができるが、添加剤の溶解性や貯蔵安定性の点で、120以下であることが好ましく、110以下であることが望ましい。
【0027】
また、本発明で用いられる潤滑油組成物は、(A)ヒドロカルビル亜リン酸化合物の金属塩およびヒドロカルビルリン酸化合物の金属塩から選ばれる少なくとも1種のリン含有化合物(以下、場合により「(A)成分」という。)を含有する。
【0028】
ヒドロカルビル亜リン酸化合物の金属塩とは、下記一般式(1)で表される化合物の金属塩である。また、ヒドロカルビルリン酸化合物の金属塩とは、下記式(2)で表される化合物の金属塩である。
【化1】


[一般式(1)中、R、R及びRはそれぞれ水素原子又は炭素数1〜30の炭化水素基を示し、R、R及びRのうち少なくとも1個は水素である。]
【化2】


[一般式(2)中、R、R及びRはそれぞれ水素原子又は炭素数1〜30の炭化水素基を示し、R、R及びRのうち少なくとも1個は水素である。]
【0029】
上記一般式(1)、(2)中、R〜Rで表される炭素数1〜30の炭化水素基としては、具体的には、アルキル基、シクロアルキル基、アルケニル基、アルキル置換シクロアルキル基、アリール基、アルキル置換アリール基、及びアリールアルキル基を挙げることができる。
【0030】
また、R〜Rで表されるアルキル基としては、例えばメチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、ノニル基、デシル基、ウンデシル基、ドデシル基、トリデシル基、テトラデシル基、ペンタデシル基、ヘキサデシル基、ヘプタデシル基、オクタデシル基等のアルキル基(これらアルキル基は直鎖状でも分枝状でもよい)を挙げることができる。
【0031】
また、R〜Rで表されるシクロアルキル基としては、例えば、シクロペンチル基、シクロヘキシル基、シクロヘプチル基等の炭素数5〜7のシクロアルキル基を挙げることができる。また上記アルキルシクロアルキル基としては、例えば、メチルシクロペンチル基、ジメチルシクロペンチル基、メチルエチルシクロペンチル基、ジエチルシクロペンチル基、メチルシクロヘキシル基、ジメチルシクロヘキシル基、メチルエチルシクロヘキシル基、ジエチルシクロヘキシル基、メチルシクロヘプチル基、ジメチルシクロヘプチル基、メチルエチルシクロヘプチル基、ジエチルシクロヘプチル基等の炭素数6〜11のアルキルシクロアルキル基(アルキル基のシクロアルキル基への置換位置も任意である)を挙げることができる。
【0032】
また、R〜Rで表されるアルケニル基としては、例えば、ブテニル基、ペンテニル基、ヘキセニル基、ヘプテニル基、オクテニル基、ノネニル基、デセニル基、ウンデセニル基、ドデセニル基、トリデセニル基、テトラデセニル基、ペンタデセニル基、ヘキサデセニル基、ヘプタデセニル基、オクタデセニル基等のアルケニル基(これらアルケニル基は直鎖状でも分枝状でもよく、また二重結合の位置も任意である)を挙げることができる。
【0033】
また、R〜Rで表されるアリール基としては、例えば、フェニル基、ナフチル基等のアリール基を挙げることができる。また上記アルキルアリール基としては、例えば、トリル基、キシリル基、エチルフェニル基、プロピルフェニル基、ブチルフェニル基、ペンチルフェニル基、ヘキシルフェニル基、ヘプチルフェニル基、オクチルフェニル基、ノニルフェニル基、デシルフェニル基、ウンデシルフェニル基、ドデシルフェニル基等の炭素数7〜18のアルキルアリール基(アルキル基は直鎖状でも分枝状でもよく、またアリール基への置換位置も任意である)を挙げることができる。
【0034】
また、R〜Rで表されるアリールアルキル基としては、例えばベンジル基、フェニルエチル基、フェニルプロピル基、フェニルブチル基、フェニルペンチル基、フェニルヘキシル基等の炭素数7〜12のアリールアルキル基(これらアルキル基は直鎖状でも分枝状でもよい)を挙げることができる。
【0035】
〜Rで表される炭素数1〜30の炭化水素基は、炭素数1〜30のアルキル基又は炭素数6〜24のアリール基であることが好ましく、更に好ましくは炭素数3〜18のアルキル基、最も好ましくは炭素数4〜12のアルキル基である。
【0036】
ヒドロカルビル亜リン酸化合物としては、具体的には、一般式(1)中のR〜Rのうち1つが炭素数1〜30の炭化水素基である化合物(亜リン酸モノエステル)、又は、一般式(1)中のR〜Rのうち2つが炭素数1〜30の炭化水素基である化合物(亜リン酸ジノエステル)を挙げることができる。
【0037】
また、ヒドロカルビルリン酸化合物としては、具体的には、一般式(2)中のR〜Rのうち1つが炭素数1〜30の炭化水素基である化合物(リン酸モノエステル);一般式(2)中のR〜Rのうち2つが炭素数1〜30の炭化水素基である化合物(リン酸ジエステル)を挙げることができる。
【0038】
また、一般式(1)又は(2)で表される化合物の金属塩としては、リン含有化合物に金属酸化物、金属水酸化物、金属炭酸塩、金属塩化物等の金属塩基を作用させて、残存する酸性水素の一部又は全部を中和した塩を挙げることができる。
【0039】
上記金属塩基における金属としては、具体的には、リチウム、ナトリウム、カリウム、セシウム等のアルカリ金属、カルシウム、マグネシウム、バリウム等のアルカリ土類金属、亜鉛、銅、鉄、鉛、ニッケル、銀、マンガン、モリブデン等の重金属等が挙げられる。これらの中ではカルシウム、マグネシウム等のアルカリ土類金属及び亜鉛が好ましく、更に亜鉛がより好ましい。
【0040】
(A)成分は、金属の価数やリン含有化合物のOH基の数に応じその構造が異なり得る。例えば、酸化亜鉛1molとリン酸ジエステル(OH基が1つ)2molを反応させた場合、下記一般式(3)で表わされる構造の化合物が主成分として得られると考えられるが、ポリマー化した分子も存在していると考えられる。
【化3】


[一般式(3)中のRは一般式(4)中のR〜Rと同義である。]
【0041】
また、例えば、酸化亜鉛1molとリン酸モノエステル(OH基が2つ)1molとを反応させた場合、下記一般式(4)で表わされる構造の化合物が主成分として得られると考えられるが、ポリマー化した分子も存在していると考えられる。
【化4】


[一般式(4)中のRは一般式(4)中のR〜Rと同義である。]
【0042】
これらの(A)成分の中では、炭素数3〜18のアルキル基又はアリール基を2個有する亜リン酸ジエステルと亜鉛又はカルシウムとの塩、炭素数3〜18のアルキル基又はアリール基を1個有するリン酸モノエステルと亜鉛又はカルシウムとの塩、あるいは炭素数3〜18のアルキル基又はアリール基を2個有するリン酸ジエステルと亜鉛又はカルシウムとの塩、であることが好ましい。これらの(A)成分は、1種類あるいは2種類以上を任意に配合することができる。特に一般式(4)におけるR、R及びR10の2つが炭素数3〜18の炭化水素基であり、1つが水素であるリン含有化合物の亜鉛塩であることが、電極の腐食をより確実に抑制できる点から好ましい。
【0043】
本発明で用いられる潤滑油組成物において(A)成分の含有量は、組成物全量基準で、リン元素換算量として、200質量ppm以上であり、好ましくは300質量ppm以上、特に好ましくは500質量ppm以上であり、また、2000質量ppm以下であり、好ましくは1600質量ppm以下、さらに好ましくは1200質量ppm以下である。(A)成分の含有量が、リン元素として200質量ppm未満の場合は、エンジン部品の耐摩耗性を低下させるおそれがあるため好ましくない。一方、(A)成分の含有量が、リン元素として2000質量ppmを超える場合は、基油への溶解性が低下するおそれがあるため好ましくない。
【0044】
また、本発明の潤滑油組成物は、上記の潤滑油基油及び(A)成分に加えて、金属系清浄剤(以下、場合により「(B)成分」という。)を含有する。(B)成分としては、潤滑油用の金属系清浄剤として通常用いられる任意の化合物が使用可能であるが、例えば、アルカリ金属又はアルカリ土類金属のスルホネート、フェネート、サリチレート、ナフテネート等が挙げられる。これらの金属系清浄剤は、1種を単独で用いてもよく、また、二種類以上組み合わせて用いてもよい。
【0045】
スルホネート系清浄剤としては、分子量1300〜1500、好ましくは400〜700のアルキル芳香族化合物をスルフォン化することによって得られるアルキル芳香族スルフォン酸のアルカリ金属塩又はアルカリ土類金属塩、及び/又はその(過)塩基性塩を用いることができる。また、アルカリ金属又はアルカリ土類金属としては、ナトリウム、カリウム、マグネシウム、バリウム、カルシウム等が挙げられ、マグネシウム及び/又はカルシウムが好ましく、カルシウムが特に好ましく用いられる。
【0046】
アルキル芳香族スルフォン酸としては、具体的にはいわゆる石油スルフォン酸や合成スルフォン酸等が挙げられる。ここでいう石油スルフォン酸としては、一般に鉱油の潤滑油留分のアルキル芳香族化合物をスルフォン化したものやホワイトオイル製造時に副生する、いわゆるマホガニー酸等が用いられる。また合成スルフォン酸としては、例えば洗剤の原料となるアルキルベンゼン製造プラントから副生したり、ポリオレフィンをベンゼンにアルキル化することにより得られる、直鎖状や分枝状のアルキル基を有するアルキルベンゼンをスルフォン化したもの、あるいはジノニルナフタレン等のアルキルナフタレンをスルフォン化したもの等が用いられる。またこれらアルキル芳香族化合物をスルフォン化する際のスルフォン化剤としては特に制限はないが、通常、発煙硫酸や無水硫酸が用いられる。
【0047】
フェネート系清浄剤としては、アルキルフェノール、アルキルフェノールサルファイド、アルキルフェノールのマンニッヒ反応物のアルカリ金属塩又はアルカリ土類金属塩、及び/又はその(過)塩基性塩を用いることができる。また、アルカリ金属又はアルカリ土類金属としては、ナトリウム、カリウム、マグネシウム、バリウム、カルシウム等が挙げられ、マグネシウム及び/又はカルシウムが好ましく、カルシウムが特に好ましく用いられる。
【0048】
サリシレート系清浄剤としては、炭素数1〜19の炭化水素基を1つ有するアルカリ金属又はアルカリ土類金属サリシレート及び/又はその(過)塩基性塩、炭素数20〜40の炭化水素基を1つ有するアルカリ金属又はアルカリ土類金属サリシレート及び/又はその(過)塩基性塩、炭素数1〜40の炭化水素基を2つ又はそれ以上有するアルカリ金属又はアルカリ土類金属サリシレート及び/又はその(過)塩基性塩(これら炭化水素基は同一でも異なっていても良い)等が挙げられる。これらの中では、低温流動性に優れる点で、炭素数8〜19の炭化水素基を1つ有するアルカリ金属又はアルカリ土類金属サリシレート及び/又はその(過)塩基性塩を用いることが望ましい。また、アルカリ金属又はアルカリ土類金属としては、ナトリウム、カリウム、マグネシウム、バリウム、カルシウム等が挙げられ、マグネシウム及び/又はカルシウムが好ましく、カルシウムが特に好ましく用いられる。
【0049】
(B)成分の塩基価は特に制限されないが、20〜400mgKOH/gの範囲が好ましく、100〜330mgKOH/gの範囲であることが好ましく、150〜320mgKOH/gの範囲であることがより好ましい。金属系清浄剤の塩基価が20mgKOH/g以下の場合には、使用油中の酸性成分を十分中和できないおそれがあり、350mgKOH/gを超える場合には溶解性に問題を生ずるおそれがある。なお、ここでいう塩基価とは、JISK2501「石油製品及び潤滑油−中和価試験法」の7.に準拠して測定される過塩素酸法による塩基価を意味する。
【0050】
また、(B)成分の金属比は特に制限されないが、好ましくは1.0以上、より好ましくは1.1以上、特に好ましくは1.2以上であり、また、好ましくは10以下、より好ましくは8以下、特に好ましくは5.5以下のものを使用することが望ましい。なお、ここでいう金属比とは、金属系清浄剤における金属元素の価数×金属元素含有量(モル%)/せっけん基含有量(モル%)で表され、金属元素とは、カルシウム、マグネシウム等、せっけん基とはスルフォン酸基、フェノール基、サリチル酸基等を意味する。
【0051】
本発明で用いられる潤滑油組成物において、(B)成分の含有量は、組成物全量基準で、金属元素換算量として、好ましくは500ppm以上であり、より好ましくは800ppm以上、さらに好ましくは1000ppm以上である。(B)成分の含有量が金属元素換算量として500ppm未満の場合は十分な電極腐食防止性が得られないおそれがあるため好ましくない。また、(B)成分の含有量は、組成物全量基準で、金属元素換算量として、好ましくは4500ppm以下であり、より好ましくは3000ppm以下、さらに好ましくは2300ppm以下である。(B)成分の含有量が金属元素換算量として4500ppmを超える場合はスラッジが堆積するおそれがあるため好ましくない。また潤滑油基油等の希釈剤を含む形での(B)成分の添加量は、組成物全量基準で0.2〜30質量%、好ましくは1〜20質量%、特に好ましくは2〜5質量%である。
【0052】
本発明で用いられる潤滑油組成物は、上記の潤滑油基油、(A)成分及び(B)成分に加えて、その性能を更に向上させるため又は他に要求される性能を付加するために、その目的に応じて潤滑油に一般的に使用されている任意の添加剤を添加することができる。このような添加剤としては、例えば、酸化防止剤、無灰分散剤、粘度指数向上剤、流動点降下剤、消泡剤等を挙げることができる。
【0053】
酸化防止剤としては、フェノール系、アミン系等の無灰酸化防止剤、銅系、モリブデン系等の金属系酸化防止剤が挙げられる。これらの含有量は、組成物全量基準で、通常、0.1〜5質量%である。
【0054】
無灰分散剤としては、例えば、以下の(i)〜(iii)から選択される化合物またはこれらをホウ素含有化合物、カルボン酸等により変成した化合物を用いることができる。
(i)炭素数40〜400のアルキル基又はアルケニル基を分子中に少なくとも1個有するコハク酸イミド、あるいはその誘導体、
(ii)炭素数40〜400のアルキル基又はアルケニル基を分子中に少なくとも1個有するベンジルアミン、あるいはその誘導体、
(iii)炭素数40〜400のアルキル基又はアルケニル基を分子中に少なくとも1個有するポリアミン、あるいはその誘導体。
これらの含有量は、組成物全量基準で、通常、0.1〜10質量%である。
【0055】
粘度指数向上剤としては、ポリメタクリレート系粘度指数向上剤、オレフィン共重合体系粘度指数向上剤、スチレン−ジエン共重合体系粘度指数向上剤、スチレン−無水マレイン酸エステル共重合体系粘度指数向上剤又はポリアルキルスチレン系粘度指数向上剤等が挙げられる。これら粘度指数向上剤の重量平均分子量は、通常800〜1,000,000、好ましくは100,000〜900,000である。また、粘度指数向上剤の含有量は、組成物全量基準で通常0.1〜20質量%である。
【0056】
消泡剤としては、例えば、シリコーン、フルオロシリコール、又はフルオロアルキルエーテル等が挙げられる。
【0057】
本発明の潤滑油組成物の100℃における動粘度は、5.6〜16.3mm2/sであることが必要であり、好ましくは7〜16mm2/s、より好ましくは8〜15.5mm2/sである。100℃における動粘度が5.6mm2/s以下の場合には、潤滑性不良となるおそれがあり、16.3mm2/sを超える場合には流動性に問題を生ずるおそれがある。ここでいう100℃における動粘度とは、ASTMD−445に規定される100℃での動粘度を示す。
【実施例】
【0058】
以下、実施例及び比較例に基づき本発明をさらに具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に何ら限定されるものではない。
【0059】
[実施例1〜3、比較例1〜4]
実施例1〜3及び比較例1〜4においては、それぞれ以下に示す基油及び添加剤を用いて表1に示す組成を有する潤滑油組成物を調製し、腐食酸化安定度試験による評価を行った。
(潤滑油基油)
(潤滑油基油)
基油1:パラフィン系基油(100℃における動粘度:4.41mm/s、硫黄分:1300質量ppm、全芳香族分26.1質量%)
基油2:パラフィン系基油(100℃における動粘度:10.8mm/s、硫黄分:5800質量ppm、全芳香族分36.5質量%)
(リン含有化合物)
A1:ジアルキルリン酸亜鉛(一般式(2)で表され、かつ、R〜Rのうち1つが水素原子であり、2つが炭素数の8のアルキル基である化合物の亜鉛塩)
A2:ジ−sec−アルキルジチオリン酸亜鉛(アルキル基:炭素数4および6)
(金属系清浄剤)
B1:カルシウム スルフォネート(塩基価:320mgKOH/g)
B2:カルシウム フェネート(塩基価:250mgKOH/g)
B3:カルシウム サリチレート(塩基価:170mgKOH/g)
(その他の添加剤)
C1:フェノール系酸化防止剤(トリデシル−3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート)
C2:ポリメタクリレート系流動点降下剤
C3:オレフィン共重合体系粘度指数向上剤(エチレン‐プロピレン共重合体、SSI=45)
C4:トリアゾール系腐食防止剤。
【0060】
腐食酸化安定度試験は、修正Federal Test Method Standard 791 5308 Methodに準拠して行なった。試験片としては、サイズ0.8mm×25.4mm×25.4mmの銀、銅および鉛材を用いた。試験油量を100mlとし、試験温度150℃で72h浸漬した後の、油中への金属元素溶出量により評価した。得られた結果を表1、2に示す。
【0061】
【表1】

【0062】
【表2】

【0063】
表1、2に示したように、実施例1〜3においては、比較例1〜4と比較して、金属溶出量が著しく少なかった。特に、実施例1〜3で用いた潤滑油組成物はトリアゾール系腐食防止剤を含有しないものであったが、潤滑油組成物がトリアゾール系腐食防止剤を含有する比較例2と比べても、良好な結果を与えるものであった。これらの結果から、電位差型センサーを長寿命化できることが示唆された。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
電位差型劣化センサーを装着した内燃機関用の潤滑油として、
鉱油および/または合成油からなる基油と、
組成物全量基準で、リン元素換算量として200〜2000質量ppmの、ヒドロカルビル亜リン酸化合物の金属塩およびヒドロカルビルリン酸化合物の金属塩から選ばれる少なくとも1種のリン含有化合物と、
金属系清浄剤と、
を含有する潤滑油組成物を用いることを特徴とする、電位差型劣化センサーの長寿命化方法。
【請求項2】
前記潤滑油組成物における前記金属系清浄剤の含有量が、組成物全量基準で、カルシウム元素含有量として500〜4500質量ppmであることを特徴とする、請求項1記載の電位差型劣化センサーの長寿命化方法。
【請求項3】
前記潤滑油組成物が、酸化防止剤、無灰分散剤、粘度指数向上剤、流動点降下剤及び消泡剤から選ばれる少なくとも1種をさらに含有することを特徴とする、請求項1又は2記載の電位差型劣化センサーの長寿命化方法。


【公開番号】特開2009−120763(P2009−120763A)
【公開日】平成21年6月4日(2009.6.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−298017(P2007−298017)
【出願日】平成19年11月16日(2007.11.16)
【出願人】(000004444)新日本石油株式会社 (1,898)
【Fターム(参考)】