説明

電位測定治具及び電位測定方法

【課題】本発明は、ひび割れのような細い隙間に入る構造の電位測定治具及びこれを用いて水素イオン濃度を測定できる電位測定方法を提供することを目的とする。
【解決手段】本発明に係る電位測定治具301は、長手方向に対する断面が多角形又は円形である柱状又は錘状の金属棒11と、金属棒11の側面を覆う絶縁被覆12と、金属棒11と異なる金属であり、金属棒11の一端において絶縁被覆12の外周に配置される金属端13と、を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、2点間の電位差を測定する際に用いる電位測定治具及びこれを用いた電位測定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
水素イオン濃度は環境の特性を示す指標として重要である。特に、鉄鋼に対する腐食性は水素イオン濃度の指数pHが大きいアルカリ性では低く、pHが小さい酸性では高くなる。したがってpHの測定は腐食環境の判定のためのひとつの指標として用いられる。近年、コンクリートのひび割れに起因する腐食が問題となることがあり(例えば、特許文献1を参照。)、ひびの中のような細い隙間における環境中での水素イオン濃度について情報が必要になってきている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2008−309524号公報
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】横河電気カタログ(http://www.yokogawa.co.jp/an/ph−orp/an−electrd−001ja.htm 2010年8月17日検索)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
水素イオン濃度を測定する方法として、中和滴定、指示薬、pH試験紙、pHメーターなどの方法がある。しかし、これらの方法はコンクリートのひび割れのような細い隙間には適用できなかった。中和滴定や指示薬はひび割れのなかでは判別が困難であり、pH試験紙ではすきまの浅いところから深いところまでのうちの最もpHが変動したところの情報しかわからない。
【0006】
pHメーターはガラスに封入した参照電極を用いるため、ひび割れのような細い隙間に入る構造にすることは困難である(例えば、非特許文献1を参照。)。例えば、pHメーターから細いルギン管を出して使用するとすれば次のような課題がある。まず、ルギン管自身の口径をひび割れの大きさにおさめるのは極めて困難である。そして、ルギン管の口径を小さくすると溶液の表面張力による気泡の混入を防止することが必要となる。さらには、気泡が入らなかったとしても電気抵抗が大きくなり計測が困難となる。
【0007】
そこで、前記課題を解決するために、本発明は、ひび割れのような細い隙間に入る構造の電位測定治具及びこれを用いて水素イオン濃度を測定できる電位測定方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するために、本発明に係る電位測定治具は、金属を概略ひび割れの幅の大きさより小さく加工し、金属周辺に薄い絶縁被覆を施すことととした。また、本発明に係る電位測定方法は、前記電位測定治具を用いて金属とその酸化物との平衡電位を測定することとした。
【0009】
具体的には、本発明に係る電位測定治具は、長手方向に対する断面が多角形又は円形である柱状又は錘状の金属棒と、前記金属棒の側面を覆う絶縁被覆と、前記金属棒と異なる金属であり、前記金属棒の一端において前記絶縁被覆の外周に配置される金属端と、を備える。
【0010】
前記金属棒の一端を概略ひび割れの幅の大きさより小さく加工することで、ひび割れ内に挿入することができる。そして、前記金属棒を参照電極、前記金属端を対極としてひび割れのあるコンクリートのような測定対象物との電位差を測定することができる。
【0011】
従って、本発明は、ひび割れのような細い隙間に入る構造の電位測定治具を提供することができる。
【0012】
本発明に係る電位測定治具の前記金属端は、
前記絶縁被覆外周にらせん状に配置された金属線の先端とすることができる。
【0013】
本発明に係る電位測定方法は、前記電位測定治具の金属棒を参照電極とし、前記電位測定治具の金属端を対極とし、作用電極に接続した測定対象の金属と前記金属棒との間の電位差を測定する。
【0014】
本電位測定方法は、前記電位測定治具の先端部をひび割れのような細い隙間に入れ、測定対象内ある金属との電位差を測定する。測定した電位差と水素イオン濃度との関係は、データブック等で既知となっているため、本電位測定方法で測定対象内の水素イオン濃度を知ることができる。
【0015】
従って、本発明は、前記電位測定治具を用いる水素イオン濃度を測定できる電位測定方法を提供することができる。
【0016】
例えば、前記測定対象の金属をコンクリート内にある鉄筋とし、前記電位測定治具の前記金属棒の一端側を前記コンクリート表面にある、水分が存在する空隙内に差込み、前記電位差を測定することで、コンクリートのひび割れに起因する腐食状況を数値化することができる。
【発明の効果】
【0017】
本発明は、ひび割れのような細い隙間に入る構造の電位測定治具及びこれを用いて水素イオン濃度を測定できる電位測定方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明に係る電位測定治具を説明する図である。
【図2】本発明に係る電位測定治具を説明する図である。
【図3】本発明に係る電位測定方法を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
添付の図面を参照して本発明の実施形態を説明する。以下に説明する実施形態は本発明の実施例であり、本発明は、以下の実施形態に制限されるものではない。なお、本明細書及び図面において符号が同じ構成要素は、相互に同一のものを示すものとする。
【0020】
(実施形態1)
図1は、本実施形態の電位測定治具301を説明する図である。図1(a)は側面図であり、図1(b)は断面図である。本実施形態の電位測定治具301は、長手方向に対する断面が多角形又は円形である柱状又は錘状の金属棒11と、金属棒11の側面を覆う絶縁被覆12と、金属棒11と異なる金属であり、金属棒11の一端において絶縁被覆12の外周に配置される金属端13(図1において不図示)と、を備える。
【0021】
金属棒11は、金属を所定の半径の円筒状、もしくはその断面内に入る大きさの多角形その他任意の断面をもつ柱状あるいは錘状としたものである。そして、両端面以外の側面の部分を絶縁被覆12で絶縁する。
【0022】
より具体的には、金属棒11は、例えば半径100μmに引き抜いた銅線とすることができる。金属棒11は、銅のほかにイリジウムや鉄でもよい。金属棒11の半径は、例えば、コンクリートのひび割れに応じた大きさとするため、100μmより細くてもよく、1μmでもよい。絶縁被覆12は、厚さ50μmのポリエチレンである。絶縁被覆は絶縁性の物質であればよく、金属棒11の半径が1μmであれば、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE:Poly Tetra Fluoro Ethylene)を1μmの厚みで蒸着してもよい。
【0023】
電位を測定するためには電流を流すことが必要である。そのための対極として金属棒11と同じ金属または他の金属を金属端13として絶縁被覆12の上に配置する。金属端13の金属は、例えば、金属棒11がイリジウムであれば白金とすることができる。
【0024】
金属端13は、絶縁被覆12外周にらせん状に配置された金属線の先端である。例えば、金属端13は図2のように白金線を配置することができる。また、金属端13は、絶縁被覆12の表面に蒸着された金属薄膜とすることもできる。さらに金属端13は、絶縁被覆12の表面に網のように配置された複数の金属線であってもよい。
【0025】
(実施形態2)
図3は、図2の電位測定治具301を利用した電位測定方法を説明する図である。本電位測定方法は、電位測定治具301の金属棒11を参照電極とし、電位測定治具301の金属端13を対極とし、作用電極に接続した測定対象の金属と金属棒11との間の電位差を測定する。具体的には、測定対象の金属をコンクリート22内にある鉄筋21とし、電位測定治具301の金属棒11の一端側をコンクリート22表面にある、水分24が存在する空隙(ひび割れ部23)内に差込み、電位差を測定する。
【0026】
本実施形態では、鉄筋コンクリート101を測定対象としている。本電位測定方法は、電位測定治具301を参照電極として、当該参照電極と鉄筋21との間の電位差を調べることで参照電極と鉄筋21との間の平均の水素イオン濃度を測定することができる。具体的には、図3のように、コンクリート22のひび割れ部23に電位測定治具301の一端を差込み、コンクリート22中の鉄筋21を作用電極、金属端13を対極、金属棒11を参照電極として電位差計又はポテンショスタット25の端子に接続する。そして、金属棒11と鉄筋21との間の電位差を四端子三電極法で測定する。図3は、25がポテンショスタットの場合であり、作用電極1及び作用電極2を鉄筋21に接続している。
【0027】
そして、鉄筋の電位と水素イオン濃度との関係がデータブックで既知である。このようなデータはpH−電位図(Pourvaix図)として一般に知られている。このため、金属棒11と鉄筋21との間の電位差とPourvaix図とから、鉄筋コンクリート101のひび割れ部23から鉄筋21までの平均水素イオン濃度を求めることができる。
【0028】
(他の実施形態)
図3では、測定対象を鉄筋コンクリート101としたが、鉄筋21ではない他の金属を利用しても水素イオン濃度を求めることができる。例えば、コンクリートに埋め込んだ金属部(ボルトや試験用金属配線)を利用しても本電位測定方法で水素イオン濃度を求めることができる。具体的には、電位測定治具301の金属棒11が銅であり、作用電極としてコンクリートに埋め込んだ鉄のボルトを利用してもよい。金属棒11とボルトとの電位差を測定することで、電位測定治具301を差し込んだ部分からボルトまでの平均水素イオン濃度を測定することができる。なお、この場合も水素イオン濃度は、ボルトの電位(ボルトの金属の電位)をデータブックに参照することで求められる。
【産業上の利用可能性】
【0029】
本実施形態では鉄筋コンクリートの水素イオン濃度を測定する場合を説明したが、この実施形態に限定されず、本発明は地中の水素イオン濃度も測定することができる。
【符号の説明】
【0030】
11:金属棒
12:絶縁被覆
13:金属端
21:鉄筋
22:コンクリート
23:ひび割れ部
24:水分
25:電位差計又はポテンショスタット
101:鉄筋コンクリート
301:電位測定治具

【特許請求の範囲】
【請求項1】
長手方向に対する断面が多角形又は円形である柱状又は錘状の金属棒と、
前記金属棒の側面を覆う絶縁被覆と、
前記金属棒と異なる金属であり、前記金属棒の一端において前記絶縁被覆の外周に配置される金属端と、
を備える電位測定治具。
【請求項2】
前記金属端は、
前記絶縁被覆外周にらせん状に配置された金属線の先端であることを特徴とする請求項1に記載の電位測定治具。
【請求項3】
請求項1に記載の電位測定治具の金属棒を参照電極とし、前記電位測定治具の金属端を対極とし、作用電極に接続した測定対象の金属と前記金属棒との間の電位差を測定する電位測定方法。
【請求項4】
前記測定対象の金属をコンクリート内にある鉄筋とし、前記電位測定治具の前記金属棒の一端側を前記コンクリート表面にある、水分が存在する空隙内に差込み、前記電位差を測定することを特徴とする請求項3に記載の電位測定方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2012−47601(P2012−47601A)
【公開日】平成24年3月8日(2012.3.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−190076(P2010−190076)
【出願日】平成22年8月26日(2010.8.26)
【出願人】(000004226)日本電信電話株式会社 (13,992)
【Fターム(参考)】