説明

電力伝達系のための誘電材料

【課題】非接触式電力伝達系を提供する。
【解決手段】この電力伝達系は誘電材料を含む場集束素子を含む。誘電材料は(Ba,Sr)TiO又はCaCuTi12の群から選択される組成物を含む。(Ba,Sr)TiOの組成物には、Ca1−x−yBaSrTi1−zCr3−δのような材料が包含され、ここで0<x<1、0<y<1、0≦z≦0.01、0≦δ≦1、0≦p≦1である。CaCuTi12の組成物には、Ca1−x−yBaSr(Ca1−zCu)CuTi4−δAlδ12−0.5δのような材料が包含され、ここで0≦x<0.5、0≦y<0.5、0≦z≦1、0≦d≦0.1である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、一般に電力伝達系に関し、特に共鳴型非接触式電力伝達系に関する。
【背景技術】
【0002】

瞬時又は連続的なエネルギー伝達が必要とされるが相互に接続する線は不都合であるようなある種の用途では、非接触式電力伝達(contactless power transfer)が望ましい。1つの非接触式電力伝達法は、主要な(dominant)磁場を発生する一次変換器コイル及び一次変換器コイルの近傍で対応する電圧を二次変換器コイルの原理に基づいて作動する電磁誘導法である。二次変換器コイルが受ける磁場は2つのコイル間の距離の二乗の関数として減少し、従って数ミリメートルを超える距離では一次コイルと二次コイルのカップリングは弱い。
【0003】
もう1つ別の非接触式電力伝達法では、共鳴誘導カップリングにより誘導性電力伝達の効率の増大を試みる。送信機と受信機の素子は同じ周波数で共鳴し、最大の誘導はこの共鳴周波数で起こる。しかし、かかる共鳴誘導は負荷及び間隙の変動に対して感受性である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】

【特許文献1】米国特許第6970055号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
現在容認できるものより長い距離離れたコイルで作動することができ、不整合(misalignment)又は負荷の変動にあっても有効である効率的な非接触式電力伝達系が求められている。さらに、高い誘電特性と低い誘電損失率を有し、所要の周波数範囲で電力伝達系に使用することができる順応性で効率的な材料が求められている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
要約すると、1つの実施形態において、電力伝達系が提供される。この電力伝達系は誘電材料を含んでなる場集束素子(field-focusing element)を含む。この誘電材料は式Ca1−x−yBaSrTi1−zCr3−δで表される組成物を含んでなり、式中のxとyはゼロと1の間の値で変化することができ、従って0<x<1、0<y<1であり、zはゼロ〜0.01の値で変化することができ、従って0≦z≦0.01であり、δとpはゼロ〜1の値で変化することができ、従って0≦δ≦1、0≦p≦1である。
【0007】
1つの実施形態において、電力伝達系が提供される。この電力伝達系は、電源に連結された第1コイル及び負荷に連結された第2コイル、並びに誘電材料を含んでなり第1コイルと第2コイルとの間に配置された場集束素子を含んでいる。この誘電材料は式Ca1−x−yBaSrTi1−zCr3−δで表される組成物を含んでなり、式中のxとyはゼロと1の間の値で変化することができ、従って0<x<1、0<y<1であり、zはゼロ〜0.01の値で変化することができ、従って0≦z≦0.01であり、δとpはゼロ〜0.5の値で変化することができ、従って0≦δ≦0.5、0≦p≦0.5である。
【0008】
別の実施形態において、電力伝達系が提供される。この電力伝達系は誘電材料を含んでなる場集束素子を含んでいる。この誘電材料はCa1−x−yBaSr(Ca1−zCu)CuTi4−δAlδ12−0.5δを含んでなり、ここで、xとyはゼロ〜0.5の値で変化することができ、従って0≦x<0.5、0≦y<0.5であり、zはゼロ〜1の値で変化することができ、従って0≦z≦1であり、δはゼロ〜0.1の値で変化することができ、従って0≦d≦0.1である。
【0009】
1つの実施形態において、電力伝達系が提供される。この電力伝達系は、電源に連結された第1コイル、及び負荷に連結された第2コイル、並びに第1コイルと第2コイルの間に配置された場集束素子を含んでいる。この場集束素子は、Ca1−x−yBaSrCuTi12となるような誘電材料を含んでなり、ここで、xとyはゼロと0.2の間の値で変化することができ、従って0<x<0.2、0<y<0.2である。
【0010】
1つの実施形態において、電力伝達系が提供される。この電力伝達系は、電源に連結された第1コイル、負荷に連結された第2コイル、並びに第1コイルと第2コイルの間に配置された場集束素子を含んでいる。この場集束素子は誘電材料を含んでなり、この誘電材料はCa2−x−yBaSrCuTi4−δAlδ12−0.5δを含んでなり、ここで、xとyはゼロ〜0.2の値で変化することができ、従って0≦x<0.2、0≦y<0.2であり、δはゼロ〜0.1の値で変化することができ、従って0<δ≦0.1である。
【0011】
本発明の上記及びその他の特徴、局面、及び利点は添付の図面を参照した以下の詳細な説明を読むことによりさらに良好に理解されるであろう。図面中、類似の符号は図面を通じて類似の部分を表す。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】図1は、本発明の1つの実施形態による代表的な非接触式電力伝達系を示す。
【図2】図2は、本発明の1つの実施形態による代表的な場集束素子を示す。
【図3】図3は、本発明の様々な実施形態による場集束素子の複数の代表的な構造を示す。
【図4】図4は、複数の共鳴器がアレイ状に並んで配列され場集束素子として使用される実施形態を示す。
【図5】図5は、本発明の1つの実施形態による埋め込み材料の複数の代表的な構造を示す。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明の実施形態は、電力伝達系及び電力伝達系に使用することができる誘電材料を含む。
【0014】
以下の明細書及び特許請求の範囲において、単数形態は、前後関係から明らかに他の意味を示さない限り、複数の場合を包含する。
【0015】
非接触式電力伝達系は、通例、一次コイルと二次コイルとの間の短距離電力伝達で特徴付けられる。例えば、1つの実施形態の誘導性電力伝達系は、一次コイルと二次コイルを用いて、電気的に隔離された2つの回路間で電力を伝達する。電源に連結されると一次コイルの回りに磁場が確立される。一次コイルから二次コイルに伝達される電力の量は二次コイルを連結する一次磁場のレベルに比例する。電気変換器は高い透過度の磁気コアを用いて、一次コイルと二次コイルの間で磁場を連結し、少なくとも約98%の程度の効率を達成する。しかし、かかる系を非接触式電力伝達用に構成すると、2つのコイル間の空隙により磁場カップリングが低減する。かかる低減したカップリングは非接触式電力伝達系の効率に影響を及ぼす。
【0016】
本明細書に開示されている幾つかの実施形態により、負荷の変動に対する感受性が低下した丈夫な非接触式電力伝達系、コイルの不整合時の効率的な電力伝達、及び電力伝達効率を高める場集束構造体が得られる。
【0017】
図1は、電源14に連結され磁場(図には示していない)を生成するように構成された第1コイル12を含む本発明の1つの実施形態による非接触式電力伝達系10の一例を図解する。第2コイル16は第1コイル12からの電力を受け取るように構成されている。本明細書で使用する場合、用語「第1コイル」は「一次コイル」とも称され得、また、用語「第2コイル」は「二次コイル」とも称され得る。これらの一次コイルと二次コイルは、例えば銅のような、あらゆる良好な導電性材料で作成することができる。電源14からの磁場を集束するために第1コイル12と第2コイル16との間に場集束素子18が配置されている。別の実施形態において、場集束素子は電場及び/又は電磁場を集束させるために使用できる。用語「磁場集束素子」と「場集束素子」は同義語として互換的に使用される。1つの実施形態において、磁場集束素子18は自己共鳴コイルとして構成され、第1コイルを介して励起されたとき定在波電流分布を有する。もう1つ別の実施形態において、磁場集束素子は能動アレイ(active array)又は受動アレイ(passive array)として作動する複数の共鳴器を含み、その各々の共鳴器は定在波電流分布を有する自己共鳴コイルとして構成される。さらに別の実施形態において、磁場集束素子は複数の組のかかる共鳴器を含み、各々のかかる共鳴器の組は特定の位相で励起される。これらの組の共鳴器を異なる位相で励起すると、所望の方向の場集束を増強し得ることが了解されるであろう。
【0018】
磁場集束素子18はさらに、第2コイル16に磁場を集束させて、第1コイル12と第2コイル16とのカップリングを増強するように構成されている。1つの実施形態において、場集束素子18に定在波電流分布を創成することにより、磁場集束素子18の回りに非均一な磁場分布が発生する。図に示された実施形態において、場集束素子18は一例として第1コイル12の方に近接して配置されている。幾つかの系においては、場集束素子18を第2コイル16の方に近接して配置するのが有利であり得る。電源14から伝達される電力を利用するために負荷20が第2コイル16に連結されている。幾つかの実施形態において、非接触式電力伝達系10はまた、同時に第2コイルから第1コイルへ電力を伝達して、この系が双方向の電力伝達をすることができるように構成することもできる。可能な負荷の非限定例には、電球、電池、コンピューター、センサー、又は作動のために電力を必要とするあらゆるデバイスが包含される。
【0019】
非接触式電力伝達系10は電源14から負荷20に電力を伝達するのに使用できる。1つの実施形態において、電源14は、AC電力をより高い周波数に変換するために電力変換エレクトロニクスと組み合わせた単相AC発電機又は3相AC発電機からなる。第1コイル12が磁場集束素子18の共鳴周波数で励起されると、磁場集束素子18内でこの場集束素子の2つの開放端(22、24)間に定在波電流分布が発生する。この定在波電流分布により、磁場集束素子18の回りに非均一な磁場分布が生じる。かかる非均一な電流分布は任意の所望の方向、例えば、この例では第2コイル16の方向に磁場を集束させるようになっている。共鳴周波数で作動する場合、磁場集束素子18に対する小さい励起であっても、磁場集束素子の長さ25に沿って大きい振幅の電流分布が生じる。この大きな電流量の非均一な分布により、第2コイル16の方向に増幅され集束した磁場が得られ、その結果電力伝達のより高い効率が得られる。
【0020】
図2は、本発明の1つの実施形態による場集束素子の一例を図解する。図1で磁場集束素子18として実施し得る様々な構造のうち、1つのかかる構造を図2に図解する。図解した実施形態において、参照数字30は、本明細書中で「オメガ構造」という場集束構造であり、数メガヘルツの範囲で作動する。この「オメガ構造」により、高いキャパシタンスとインダクタンスが可能になり、また共鳴周波数付近で負の透過度も可能となる。負の透過度は主要な場応答に役立ち、磁場を制御するのに有効である。かかる構造の共鳴周波数は、ターン(turn)(32、34、36)の数(巻数)、ターン間の間隙(38)、及び渦巻の幅(40)を変えることによって調節することができる。渦巻構造と比べて周囲の長さが増大するので、この「オメガ構造」では、より低い共鳴周波数で作動するために低下した構造的大きさを必要とする。
【0021】
図3は、本発明の様々な実施形態による場集束素子の構造の複数の例を図解する。1つの実施形態において、場集束素子は単一のループコイル50を含む。別の実施形態において、場集束素子は分割リング構造52、渦巻構造54、スイスロール構造56、又は螺旋コイル58のような複数のターンを含む。特定の用途に対する構造の選択は、場集束素子の大きさ及び自己共鳴周波数によって決定される。例えば、低電力用途(例えば、約1ワット未満)では、約1000MHzまでの共鳴周波数が可能である。高電力用途(例えば、約100ワット〜約500キロワット)では、数百kHzの程度の共鳴周波数が可能である。
【0022】
図4は、複数の共鳴器がアレイ状に並んで配置され場集束素子として使用される実施形態を図解する。アレイとして並んだ共鳴器は、特定の位相関係で励起される線形又は平面アレイのような特定のアレイ配列に配列された複数の共鳴器コイルを構成する。個々の共鳴器(66−77)又は波長以下の(sub-wavelength)共鳴器は磁場を所望の方向に集束させるように構成されている。かかる配列において、アレイ内の共鳴器からの場は、所望の方向で建設的に干渉(相加的に増強)して磁場集束を達成し、残りの空間では破壊的に干渉する(相殺する)。別の実施形態において、共鳴器は少なくとも1つの線形、円形、平面、又は三次元アレイとして配列される。図示した実施形態において、個々の共鳴器70−74が一列に配置され、4つのかかる列66−69が互いに上下に配列される。アレイ64の一部である個々の共鳴器は全体で少なくとも1以上の共鳴周波数に対するように構成される。特定の実施形態において、アレイの個々の共鳴器は全て、製造上予想される変動及びその他の一般的な原因の変動の正常な範囲内で同じである。
【0023】
本発明の電力伝達系の1つの実施形態において、場集束素子18の共鳴器は誘電材料で、例えば誘電性空洞共鳴器の形態に作成することができる。場集束素子に使用される誘電材料は高い誘電定数(誘電率、ε)と低い損失正接を有するのが望ましい。高い誘電定数は共鳴器の所与の小さめの寸法で低い共鳴周波数を達成するのに役立ち、一方低い損失正接は誘電損失を容認できる限界内に保つために望ましい。
【0024】
1つの実施形態において、場集束素子18は、共鳴周波数で励起された際に磁場を集束させる自己共鳴コイルからなる。この共鳴器は、その自己共鳴周波数が自己キャパシタンス及び自己インダクタンスに依存する任意の形状の自己共鳴コイルである。このコイルの自己共鳴周波数はコイルの幾何学的パラメーターに依存する。例えば螺旋共鳴器コイルの場合、共鳴周波数は、螺旋の全長が電磁励起の半波長又は半波長の倍数であるようなものである。結果として、低い周波数におけるこれらの共鳴器の設計は空間的制約のため困難である。共鳴器の大きさを小さくする1つの方法は共鳴器を高い誘電定数の媒体内に埋め込むことである。
【0025】
1つの実施形態において、場集束素子18の共鳴器又は1つのアレイとして並んだ複数の共鳴器は、より小さい大きさの共鳴器でより低い共鳴周波数を達成するために、高い誘電定数を有する材料又は高い透過度を有する磁気材料又は高い誘電率及び高い磁気透過度を有する磁気誘電性媒体内に埋め込まれる。高い透過度の材料は共鳴器の自己インダクタンスを高め、高い誘電率の材料は共鳴器の自己キャパシタンスを高めて、共鳴の周波数を低下させる。別の実施形態において、高い透過度の材料はまた、一次コイルと場集束素子との間、及び場集束素子と二次コイルとの間のカップリングを増大するように構成されてもいる。埋め込み材料の高い誘電定数は共鳴器の作動可能な周波数範囲を狭めるのに役立つ。周波数低下における誘電定数の効果を表1に示す。
【0026】
【表1】

共鳴器を誘電性媒体内に埋め込むと、コイルのターンの間のターン間(inter-turn)キャパシタンスが増大し、そのため共鳴器の共鳴周波数を低下するのに役立つ。高い誘電定数のために、共鳴器の大きさの大幅な低下が可能である。高い誘電定数の別の利点は電場を共鳴器内に閉じ込めることであり、放射損失が減少するので電力伝達の効率が改良される。しかし、高い誘電定数を有する材料の選択の重要な設計基準の1つは作動周波数におけるその材料の損失正接である。低い誘電損失正接で最大のカップリング効率が確保される。損失正接が高いと、共鳴器での熱の形態における損失が高くなる。熱損失の問題は、電力レベルが高いと重要である。低い電力レベルでは、高い損失正接値が容認できる。電力レベルが1kWより高い用途では高い誘電定数と極端に低い損失正接の誘電材料が望ましい。高い誘電定数は数百kHzの周波数で小型共鳴器を達成するのに役立ち、低い損失正接は誘電体内の損失を低減するのに役立つ。
【0027】
高い誘電定数と低い損失正接の材料によって可能になる電力伝達系は電気自動車充電器、回転する負荷への電力伝達、鉱業用車両の非接触式充電を始めとする用途があり、この場合電力伝達レベルは数kW程度である。高い誘電定数と高い損失の誘電材料を有する電力伝達系は、電力レベルが数ミリワットである海中コネクターのような用途に使用することができる。
【0028】
いろいろな形状を有する高い誘電定数の材料が場集束素子として機能することができる。例えば、高い誘電定数の円形の誘電ディスクは幾つかの周波数で共鳴器として機能することができる。この場合の共鳴周波数は共鳴器の幾何学的構造によって決定される。場集束素子として使用することができる共鳴器のいろいろな形状の非限定例を図5に示す。場集束素子18は、多層共鳴器として積み重ねて多重共鳴周波数とすることができる。この種の構成は、一方のチャンネルを電力伝達に使用することができ、かつ他方のチャンネルを異なるデバイス間の低電力データ伝送に使用することができる多角的電力伝達に役立つ。
【0029】
高い誘電定数の材料はまた、薄膜又は厚膜コーティングとして金属表面上に使用して、スイスロール構造体56のような場集束構造体を創成することもできる。スイスロールの異なる層間の高い誘電定数はその構造体のキャパシタンスを増大することにより周波数をかなり低下させる。
【0030】
限定されることはないがチタン酸銅カルシウム及びチタン酸ストロンチウムバリウムのような材料が、高い誘電定数を示す材料の例である。1つの実施形態において、誘電材料はバルク材として使用される。用語「バルク材」は、本明細書で使用する場合、その全ての面が約1mmより大きい三次元構造を有するあらゆる材料を指す。1つの実施形態において、誘電材料はコーティングとして使用される。このコーティングは薄膜形態又は厚膜形態であることができる。本明細書で使用する場合、「薄膜」は約100ミクロン未満の厚さを有し、一方厚膜は約100ミクロン〜約1ミリメートルの厚さを有することができる。
【0031】
1つの実施形態において、ある組合せの材料を、共鳴器を埋め込むのに使用することができる。例えば、高い誘電定数を有する2種以上の材料又は高い透過度を有する2種以上の材料の混合物を埋め込み材料として使用することができる。別の実施形態において、各々が高い誘電定数又は高い透過度を有する2種以上の材料の混合物を埋め込み材料として使用することができる。
【0032】
チタン酸ストロンチウムバリウム(Ba,Sr)TiO及びチタン酸銅カルシウムCaCuTi12は異なる結晶構造を有し、異なる温度依存性を示す。例えば、(Ba,Sr)TiOはペロブスカイト群に属し、約120℃の温度で立方晶から正方晶への結晶構造遷移を示す強誘電性材料である。CaCuTi12は強誘電性材料ではなく、体心立方(b.c.c)構造を有する。(Ba,Sr)TiO及びCaCuTi12系における誘電定数及び誘電損失正接のような、誘電特性に影響する要因も異なり得る。例えば、双極子の生成及び秩序化は(Ba,Sr)TiO系における強誘電性及び高い誘電定数の原因であると考えられ、一方CaCuTi12系は絶縁性の結晶粒界及び半導体結晶粒子を有することにより障壁層キャパシタンスに起因する効果を有すると考えられる。
【0033】
1つの実施形態において、誘電定数及び損失正接のような誘電特性が所望の用途における一定の周波数範囲で実質的に安定である誘電材料を使用するのが望ましい。本明細書で用語「実質的に安定」とは、値の変化により、その電力伝達系の性能の変化が約10%を越えないことを意味する。従って、周波数範囲の所要の値及び幅は、その場集束素子を使用する用途に依存して変化し得る。1つの実施形態において、所望の周波数範囲は約100Hz〜約100MHzである。幾つかの実施形態において、所望の周波数範囲は約1kHz〜約100kHzである。別の実施形態において、所望の周波数範囲は約100kHz〜約1MHzである。1以上の実施形態において、所望の周波数範囲は約1MHZ〜約5MHzである。
【0034】
高い誘電定数と共に低い誘電損失正接を有する材料は、埋め込み材料又は空洞共鳴器として使用したとき、低い誘電定数と高い損失正接を有する材料と比較して、共鳴器の自己キャパシタンスを高める点で効率的に機能する。従って、共鳴器の作動周波数で高い誘電定数と低い誘電損失正接の両方を有する材料を場集束素子18に使用するのが望ましい。
【0035】
電力伝達系の場集束素子18に使用される誘電材料は、一般に、約100に等しいか又はそれより大きい高い誘電定数と可能な限り低い損失正接とを必要とする。1つの実施形態において、約0.1以下の損失正接は場集束素子に使用される誘電材料として容認され得る。以後の実施形態において、約0.01以下の損失正接が誘電材料として望ましい。
【0036】
本発明者は(Ba,Sr)TiO及びCaCuTi12系に属する誘電材料の望ましい誘電特性を改良するための種々の方策を検討した。性質増強を検討した種々の方法には、限定されることはないが、カチオンのドープ、アニオンのドープ、粒界のドープ、密度増分、複合体形成、並びに焼結条件、焼結雰囲気、及び組織及び微細組織的特徴の変更がある。
【0037】
従って、1つの実施形態において、例えば、上記電力伝達系の場集束素子18に使用される式Ca1−x−yBaSrTi1−zCr3−δを有する材料系が提供される。ここで、0<x<1、0<y<1、0≦z≦0.01、0≦δ≦1、0≦p≦1である。簡単にするためにこの系を以後「BST材料系」という。本明細書で使用する場合、用語「ゼロより大きい」とは、意図された成分が、不純物として存在し得る偶発的な量ではなく意図的に添加されることを意味する。本明細書で使用する場合、範囲の終点は、正常な測定及びプロセス変動の必要に応じて表示された数の上下の偶発的な変動を含む。1つの実施形態において、誘電材料としてBST材料系を含む電力伝達系が提示される。
【0038】
1つの実施形態において、例えば、上記電力伝達系の場集束素子18に使用される式Ca1−x−yBaSr(Ca1−zCu)CuTi4−δAlδ12−0.5δを有する材料系が提示される。ここで、0≦x<0.5、0≦y<0.5、0≦z≦1、0≦δ≦0.1である。簡単にするためにこの系を以後「CCT材料系」という。CCT材料系に関して本明細書で使用する場合、式Ca1−x−yBaSr(Ca1−zCu)CuTi4−δAlδ12−0.5δは、この式により意味される特定の比を満たす化合物及び混合物を包含する理論式であり、必ずしも、標準的な特徴付け技術により特定することができる形態で単一の化合物が存在することを意味するものではない。簡単にいうと、上記式で特定される材料は、実際、全体として上記式で特定される全体の組成を有する複数の相として存在し得る。1つの実施形態において、誘電材料としてCCT材料系を含む電力伝達系が提示される。
【0039】
一般に、カチオンドーパントは、酸素空孔を吸収することにより粒界の抵抗性を増大し、これにより誘電定数と損失正接の両方を低減することが見出されている。カチオン部位にドープすることによって、ドープされたカチオンは粒界で電子密度を吸収することにより低減し、これにより粒界の伝導が減少し、従って誘電定数と損失が減少する。
【0040】
一般に、アニオン部位にドープすることによって、格子のカチオンは電子密度を吸収することにより低減し、これにより結晶粒子内に絶縁性の平面欠陥が創成される。この絶縁性の平面欠陥は結晶粒子の内部障壁の電気抵抗を低減することにより誘電損失を減少することができる。
【0041】
BST材料系で、バリウムとストロンチウムのレベルを変えてその有利な誘電特性に対する効果を検討した。こうして、1つの実施形態において、0.3≦xであるBST材料系を含む電力伝達系が提供される。従って、この実施形態において、バリウムレベルは約0.3以上である。別の実施形態においては、x+y=1である。従って、この実施形態において、BST材料系は、バリウム又はストロンチウム部位にいかなる他のドーパントも含有しない。1つの実施形態において、BST材料系中のストロンチウムレベルは0.4≦y<1となるようなものである。従って、この実施形態において、ストロンチウムレベルは常に約0.4以上である。上記BST材料系の例としては、限定されることはないが、Ba0.3Sr0.7TiO及びBa0.4Sr0.6TiOがある。
【0042】
BST材料系を有する電力伝達系の1つの実施形態において、BST材料系のバリウム又はストロンチウムは有利な誘電特性を高めるためにカルシウムのようなカチオンにより部分的に置き換えられている。1つの実施形態において、BST材料系は0.9≦x+y<1となるようなものである。従って、この実施形態において、BST材料系はバリウム又はストロンチウム部位に別のドーパントを含有しているが、そのドーパントの値は常に約0.1以下である。上記BST材料系の例として、限定されることはないが、Ba0.55Sr0.40Ca0.05TiO及びBa0.5Sr0.4Ca0.1TiOがある。
【0043】
BST材料系を有する電力伝達系の1つの実施形態において、チタンはクロムにより部分的に置き換えられており、これは損失正接を減少するのに役立ち得る。1つの実施形態において、クロムはBST材料系の約2原子%未満のチタンを置換している。以後の実施形態において、クロム置換は約0.01原子%〜約1原子%の範囲である。従って、この実施形態において、上記式中の量zは約0.0001〜約0.01で変化する。さらなる実施形態において、クロム置換は約0.2原子%〜約1原子%のチタンの範囲であり、zの値は約0.002〜約0.01で変化する。1つの実施形態において、BST材料系において、z>0であり、δとpは両方とも0に等しい。この実施形態において、BST材料系はカチオン置換を含んでいるが、アニオン置換は含まない。上記BST材料系の例としては、限定されることはないが、Ba0.3Sr0.7Cr0.002Ti0.998がある。BST系で、チタンが上記の例におけるクロムのような三価のカチオンで置換されると、酸素レベルも化学量論的に変化することができる。例えば上記の例で、酸素原子の数は、0.002原子のクロムの置換を受け入れるために、3ではなく2.999であることができる。さらなる実施形態において、BST材料系で、バリウム又はストロンチウムがカルシウム又はランタンのようなカチオンで部分的に置き換えられ、チタンがクロムで部分的に置き換えられる。このBST材料系の例には、限定されることはないが、Ba0.55Sr0.4Ca0.5Cr0.002Ti0.998がある。以下の表2に、BST材料系の幾つかの例とその誘電特性を、変化するレベルのバリウム及びストロンチウム並びに幾つかのカチオンドーパントと共に示す。
【0044】
【表2】

BST材料系を有する電力伝達系の1つの実施形態において、酸素はアニオンのドープ添加を介して窒素により部分的に置き換えられている。窒素とフッ素が酸素を置換するのに使用されるアニオンドーパントの2つの例である。1つの実施形態において、窒素はこのBST材料系において0≦δ≦1、0≦p≦1となるように置換される。従って、1つの実施形態において、アニオン置換は、BST材料系内の約25%以下の酸素が窒素により置換されるようなものである。1つの実施形態において、プロセス条件に応じて、窒素はBST材料系内の酸素を置換するのに−3の酸化状態である。1つの実施形態において、窒素は0≦δ≦1、0≦p≦0.8となるように置換される。1つの実施形態において、窒素置換はBST材料系の約10原子%未満の酸素を置き換える。1つの実施形態において、窒素は0.1≦δ≦0.8、0.1≦p≦0.8となるように置換される。1つの実施形態において、酸素は窒素ではなくフッ素により、0≦δ≦1、p=0となるように置換される。さらなる実施形態において、酸素は窒素ではなくフッ素により、0.1≦δ≦1、p=0となるように置換される。もう1つ別の実施形態において、酸素は窒素とフッ素の両者により、0.1≦δ≦0.5、0.05≦p≦0.3となるような条件で置換される。
【0045】
BST材料系を有する電力伝達系の1つの実施形態において、酸素はz=0であり、δとpが両方とも0より大きくなるように別のアニオンにより置換される。すなわち、この実施形態において、アニオン置換はカチオン置換がない状態で行われる。組成Ba0.3Sr0.7TiO2.80.13を有するBST材料系が一例として挙げられる。この材料は約2.5MHzの周波数で約0.0001という極めて低い誘電損失と約506という適切な誘電定数を示す。
【0046】
電力伝達系の1つの実施形態において、BST材料系はカチオンとアニオンの両方によりドープされる。1つの実施形態において、z、δ及びpが全てゼロより大きくなるように、チタンがクロムにより部分的に置き換えられ、酸素が窒素により部分的に置き換えられる。1つの例において、組成Ba0.4Sr0.6Cr0.005Ti0.9952.80.13を有する材料が挙げられ、これは約3.13MHzの周波数で約0.003の損失正接と約819の誘電定数を示す。さらなる実施形態において、0<x+y<1であり、z、δ、及びpが全てゼロより大きく、カチオン性ドーパントがバリウム又はストロンチウム部位に存在し、クロムがチタンを部分的に置換し、窒素が酸素を部分的に置換している。表3に、カチオンドーパントを含むか又は含まないBST材料系でアニオンがドープされた幾つかの材料の誘電性値を示す。
【0047】
【表3】

既に提示したように、1つの実施形態において、Ca1−x−yBaSr(Ca1−zCu)CuTi4−δAlδ12−0.5δとなるようなCCT材料系を含む場集束素子18を含んでなる電力伝達系が提示され、ここで、0≦x<0.5、0≦y<0.5、0≦z≦1、0≦δ≦0.1である。1つの実施形態において、CCT材料系はCaCuTi12からなる。別の実施形態において、CCT材料系は約100kHzの周波数で約3500より大きい誘電定数と約0.07未満の損失正接を有するCaCuTi12からなる。
【0048】
1つの実施形態において、CCT材料系を含む電力伝達系で、x>0である。別の実施形態においては、y>0である。1つのさらなる実施形態において、x>0、y>0である。すなわち、上記実施形態において、カルシウムがバリウム及び/又はストロンチウムにより部分的に置き換えられている。バリウムとストロンチウムのドーパントを用いて調製され、非常に良好な誘電特性を示すCCT材料系の1つの例はBa0.01Sr0.2Ca0.79CuTi12である。この材料は広範な周波数範囲にわたって実質的に均一な誘電定数と損失正接の値を有しており、そのためこの材料は可変範囲の周波数で機能する用途に有用となる。材料Ba0.01Sr0.2Ca0.79CuTi12の誘電定数は約4500−5000の範囲にあり、損失正接は約1kHz〜約100kHzの全周波数範囲で約0.06〜0.08の範囲である。この材料は約1kHz〜100kHzの範囲のあらゆる周波数で非接触式電力伝送に適している。
【0049】
場集束素子18に使用されるCCT材料系を含む電力伝達系の1つの実施形態において、xとyは両方ともゼロに等しく、z=1であり、銅は、例えばランタンのような他の適切なカチオンにより部分的に置き換えられている。別の1つの実施形態において、チタンは鉄、アルミニウム、クロム、ジルコニウム、又はこれらの任意の組合せにより部分的に置き換えられる。1つの実施形態において、上記の置換のいずれか又は全てが共存する。
【0050】
以下に挙げる例は、上に提示した場集束素子18に使用することができるいろいろなCCT材料系を、測定されたその誘電定数と損失正接の概略の値と共に示す。ここには幾つかの特定の例を挙げるが、当業者にはドーパントの組合せとレベルの変動が了解されるであろう。
【0051】
良好な誘電特性を示すCCT材料系の1つの例はCaCuTi12である。表4に、純粋なCaCuTi12材料とドープされたものの特性のうちの幾つかを挙げる。
【0052】
【表4】

1つの実施形態において、電力伝達系の場集束素子18のCCT材料系で、x、y、及びzの全てがゼロに等しく、銅が、例えばランタンのような他の適切なカチオンにより部分的に置き換えられている。別の1つの実施形態においては、チタンが鉄、アルミニウム、クロム、ジルコニウム、又はこれらの任意の組合せにより部分的に置き換えられている。1つの実施形態において、上記の置換のいずれか又は全てが共存する。
【0053】
以下に挙げる例は、CCT材料系を含む場集束素子を有する電力伝達系として上に提示したいろいろな実施形態を、これらの材料の測定された誘電定数と損失正接の概略の値と共に示す。ここには幾つかの特定の例を挙げるが、ドーパントの組合せとレベルの変動が当業者には分かるであろう。
【0054】
1つの実施形態において、CaCuTi12は、約33.3モル%のCaCuTi12と約66.7モル%のCaTiOを有する場集束素子18のCCT材料系の材料である。表5から分かるように、この材料は純粋な形態とドープされた形態で幾つかの良好な誘電特性を示す。
【0055】
【表5】

電力伝達系の1つの実施形態において、場集束素子の誘電材料はCCT材料系と共にSrTiOを含む。この誘電材料の1つの例は(0.6CaCuTi12+0.4SrTiO)である。この組合せは約10kHz〜約35kHzの周波数範囲で約7000より大きい誘電定数値と約0.09未満の損失正接値を有する。この誘電材料のもう1つ別の例は(0.6CaCuTi3.94Al0.0611.97+0.4SrTiO)である。この組合せは約1kHz〜約10kHzの周波数範囲で約9000より大きい誘電定数値と約0.09未満の損失正接値を有する。
【0056】
本発明者は、材料の密度もその材料の誘電特性に対して重要な役割を果たすことを見出した。誘電材料の微細組織が稠密であれば、その材料は物体内に含んでいる空気の気孔がより少ない。空気は通常誘電材料より低い誘電定数を有しており、従って材料内に存在すると全体の誘電定数がより低くなると予想される。そこで、本発明者は、材料の全体の密度を増大することにより誘電定数を増大するために実験を行った。1つの実施形態において、いろいろなBST及びCCT材料系をいろいろな高温で焼結し、その誘電定数と損失正接の値を検討した。焼結温度を上昇させることにより誘電定数が増大するのに対して、高温で焼結した試料では損失正接値が減少することが分かった。さらに、BST及びCCT材料の両方の系において、より短い焼結時間で高温焼結すると、より長い焼結時間より低い温度で焼結した場合と比べて損失正接値の低減に役立つのが観察された。例えば、1440℃で2時間焼結したBa0.55Sr0.4Ca0.05TiOのようなBST材料系では、1350℃で12時間焼結した同じ材料と比較してより低い損失正接値の材料が得られた。同様に、1100℃で2時間焼結したCCT材料系では、1050℃で12時間焼結した同じ材料と比較してより低い損失正接値を有する材料が得られた。
【0057】
電力伝達系の1つの実施形態において、場集束素子18に使用しようとするBST及びCCT材料を焼結する前に冷間静水圧プレス(CIP)にかけて材料の密度を増大させた。1つの実施形態において、CIPと最終的な焼結により得られたBST材料の密度はその組成物の理論密度の約80%より大きい。1つの実施形態において、この密度は理論密度の約90%より大きい。さらなる実施形態において、密度は理論密度の約96%より大きい。別の1つの実施形態において、密度は理論密度の約98%より大きい。
【0058】
CIPで加工処理した組成物の例としてBa0.55Sr0.4Ca0.05TiO及びBa0.5Sr0.4Ca0.1TiOがある。これらの例の材料の幾つかの誘電定数値を、通常の加工処理をした試料とCIPにかけた試料で比較して表6に示し、損失正接値の比較を表7に示す。これらの表から、焼結の前に材料をCIPにかけることによる誘電定数の増加は全ての材料に対して全ての周波数で観察されたのに対して、損失正接値を低下するCIPの効果は比較的に高い周波数範囲の測定で観察されたことが分かる。
【0059】
【表6】

【0060】
【表7】

しかし、上記材料は全て、CIPにかけることにより、約10kHZ〜約2MHzの周波数範囲で約2000より大きい非常に良好な誘電定数値と約0.08未満の低い損失正接値を示したので、これらの材料は非接触式電力伝達用途の場集束素子18に使用するのに良好であると共にその他の用途に有用である。
【0061】
本発明者はさらに、酸素富化雰囲気、窒素雰囲気、又は例えば水素雰囲気のような還元性雰囲気のようないろいろな雰囲気で材料を処理することによる実験を誘電材料に対して行った。例えば、酸素富化雰囲気はCCT及びBST群の材料の誘電特性を変化させることができる。CCT群の材料の場合、酸素雰囲気での焼結は材料中の酸素空孔を補い、従ってより低い誘電定数とより低い損失正接を生じるのが観察される。BST材料系の場合、酸素雰囲気で焼結すると、材料の密度が増大し、従って誘電定数が増大する。窒素雰囲気での焼結は材料から幾らかの酸素を取り除き、従ってその材料を酸素不足にし、酸素空孔と電子密度を増大させ、高い誘電定数と増大した損失正接を生じると予想される。表8及び9に、例示材料Ba0.5Sr0.4Ca0.1TiO及びBa0.55Sr0.4Ca0.05TiOに対する約100Hz〜約1MHzの周波数範囲における誘電定数及び損失正接の値の比較をそれぞれ示す。高温焼結の効果と同様に、BST材料系の酸素雰囲気での焼結は誘電定数を増大させるのが見られ、一方損失正接値も増大するのが見られた。
【0062】
【表8】

【0063】
【表9】

1つの実験で、より良好な誘電性値を得るために、BST材料をCIPにかけ、また酸素雰囲気で焼結もした。例として、限定されることはないが、酸素雰囲気中約1440℃で2時間焼結したBa0.55Sr0.4Ca0.05TiOでは、約1MHz〜約10MHzの周波数範囲で約1900より大きい誘電定数値と約0.01未満の損失正接値が得られる。さらに、この材料は約2.91MHzの周波数で約1900より大きい誘電定数と約0.0008の損失正接値を有する。酸素雰囲気中約1440℃で2時間焼結したBa0.55Sr0.4Ca0.05Cr0.01Ti0.99は約4.95kHzの周波数で約1300より大きい誘電定数値と約0.001未満の損失正接値を有する。
【0064】
電力伝達系の1つの実施形態において、誘電材料はバルク材形態で存在し、結晶粒子と結晶粒界を有する多結晶性である。BST又はCCT材料系における増大した粒界伝導は誘電定数と損失正接の両者を増大し得る。例えば、粒界における金属の析出は金属と電子の界面に起因する静電ポテンシャルを作り出すことにより粒界伝導及び、その結果として誘電定数と損失正接を増大する。
【0065】
電力伝達系の1つの実施形態において、場集束素子に含まれる上記材料のいずれかに酸化ビスマスのようなビスマス含有材料がドープされている。さらなる実施形態において、ビスマスは場集束素子として使用されている多結晶性材料の結晶粒界内の金属相に存在する。関連する実施形態において、酸化ビスマスがドープされ、還元されて誘電材料の結晶粒界内で金属のビスマスとなる。1つの実施形態において、酸化ビスマスは、BST材料を場集束素子18に組み込み可能なバルク形態に形成し焼結する前に、Bi及びTiOをカ焼したBST粉末と混合することによって結晶粒界に導入される。1つの実施形態において、約3モル%未満のBi.3TiOがBST材料系に存在する。1つの実施形態において、BST材料系は結晶粒界に金属ビスマス相を有する。BST材料系の誘電定数は結晶粒界に金属ビスマス相を有することにより顕著に増大することが分かる。幾つかの例において、金属ビスマスを粒界に配置することによるBST材料系の誘電定数値の増大分は約2のオーダーを超えた。1モル%のBi.3TiOのドープを有する材料Ba0.4Sr0.6TiOを一例として考えることができる。この材料は約315kHzの周波数で約30800より大きい極めて高い誘電定数と約0.001の極めて低い損失正接率を示し、従って本明細書に記載した非接触式電力伝達系の場集束素子として良好な材料である。
【0066】
1つの実験で、BST材料系を焼結する前に冷間静水圧プレスすることによって稠密にした。また、さらなる実施形態においては、この材料を、粒界に酸化ビスマスをドープし、この酸化ビスマスを窒素中5%水素で約1200℃において約12時間のような還元性雰囲気処理によって金属のビスマスに還元した。1つの実施形態において、ビスマスをドープしたBST材料系を含んでなる場集束素子を含む電力伝達系が提示される。例として、Ba0.4Sr0.6Cr0.01Ti0.99+1モル%Bi.3TiO及びBa0.4Sr0.6Cr0.01Ti0.99+1モル%Bi.3TiOのような材料がある。この材料は約100Hzの周波数で約11030000より大きい極めて高い誘電定数を示す。しかし、この材料の誘電損失正接は約100Hzの周波数で約0.9という多少高い値を有する。これらの材料は、低電力伝達用途のような高い誘電定数が極めて重要である一方で高い損失正接値を受け入れることができる用途で有用であり得る。
【0067】
1つの実施形態において、場集束素子を有する電力伝達系は、カチオンと粒界ドーパントの両方がドープされたBST材料系を含む。カチオンのドープと粒界のドープの両方を有し、望ましい誘電特性を示すBST材料の例として、約1モル%のBi.3TiOがドープされたBa0.3Sr0.7Cr0.002Ti0.998がある。この材料は約1.4MHzで約7668の誘電定数と約0.007の誘電損失を示した。他の用途も考えることができるが、この材料は本明細書に記載した高電力伝達用の非接触式電力伝送系の場集束素子として特に適している。カチオンと粒界のドープの両方を有する誘電材料の別の例は約1モル%のBi.3TiOがドープされたBa0.3Sr0.7Cr0.005Ti0.995である。この材料は約100Hzの周波数で約3470000より大きい非常に高い誘電定数を示す。しかし、この材料はまた、高電力伝達用の場集束素子の材料の適用を制限し得る約1という高い損失正接値も有する。
【0068】
1つの実施形態において、場集束素子18を有する電力伝達系はアニオンと粒界ドーパントの両方がドープされたBST材料系の材料を含んでなる。1つの実施形態において、酸素が窒素により部分的に置き換えられ、ビスマスが結晶粒界に配置された。アニオンのドープと粒界のドープの両方を有し、望ましい誘電特性を示したBST材料の一例としては、約1モル%のBi.3TiOがドープされたBa0.3Sr0.7TiO2.80.13がある。この材料は約100Hzの周波数で約1793610の極めて高い誘電定数を示した。しかし、この材料は約1の損失正接を有していた。この材料は低電力伝達系に使用することができる。さらに、損失正接値を下げるためのいろいろな置換又は方法に関する実験により、場集束素子に使用するのにより適した材料が得られ得る。
【0069】
1つの実施形態において、場集束素子18を有する電力伝達系はカチオン、アニオン、及び粒界のドーパントがドープされたBST材料系の材料を含んでなる。1つの実施形態において、チタンがクロムにより部分的に置き換えられ、酸素が窒素により部分的に置き換えられ、金属のビスマスが結晶粒界に配置される。BST材料系でカチオン、アニオン、及び粒界のドーパントを有する材料の1つの例は約1モル%のBi.3TiOを有するBa0.3Sr0.7Cr0.005Ti0.9952.80.13である。この材料は約150kHzの周波数で約63000より大きい極めて高い誘電定数と約0.006の誘電損失正接を示した。従って、この材料は本明細書に記載した電力伝達系の場集束素子に使用するのに非常に適切である。
【0070】
1つの例において、表3に既に記載したように、本発明者はBST材料系の材料の調製のための出発材料を変え、損失正接の減少に注目した。バリウム及びストロンチウムの起源としてそれぞれBaF及びSrFを用いることによりBa0.4Sr0.6TiO材料を調製した。バリウム及びストロンチウムのためのフッ化物起源で出発することにより、幾らかのフッ素が酸素を置換し、従ってBST材料系の誘電性値を変化させることが期待される。BaFとSrFを用いることにより調製したBa0.4Sr0.6TiOは100Hz〜10MHzの全周波数範囲にわたって約0.01未満の誘電損失率を示し、最小値は1.4MHzで0.0001であった。この材料はまた、上記全周波数範囲にわたって約415の均一な誘電定数を示した。この材料は約100Hz〜約10MHzの周波数範囲で非接触式に電力を伝送するのに有利に使用できる。
【0071】
電力伝達系の1つの実施形態において、例えば環境又は作動上の変化に起因する温度の変化に適応するために室温付近の一定の温度範囲にわたって誘電定数及び損失正接のような誘電特性が安定な誘電材料を使用するのが望ましい。1つの実施形態において、誘電材料は、その誘電特性が約−50℃〜約150℃で実質的に安定であれば有益である。「実質的に安定」とは、本明細書で使用する場合、材料の誘電特性が所与の温度範囲にわたってその室温値の約10%を超えて変化しないことを意味する。1つの実施形態において、約−15℃〜約120℃で実質的に安定な誘電特性を有する誘電材料が本発明で提示される。さらなる実施形態において、誘電材料は約−20℃〜約60℃で実質的に安定な誘電特性を有する。1つの実施形態において、本発明で提示されるBST及びCCT材料は広い温度範囲にわたって安定であり、室温付近で安定な誘電特性を有するセラミック材料である。
【実施例】
【0072】
以下の実施例で特定の実施形態による方法、材料及び結果を例示するが、特許請求の範囲に制限を課すものと考えるべきではない。全ての成分は一般の化学品供給業者から市販されている。
【0073】
材料の調製:
いろいろな実施例で特定されるBST及びCCT材料系に対して採られた一般的な調製方法の概要を以下に示す。しかし、当業者には理解されるように、以下に示す実施例で、出発材料の小さい変動、調製、カ焼、及び焼結の温度、時間、及び雰囲気、調製された粉末及びバルク材の大きさ及び形状の変動が許され得る。
【0074】
純粋な及びドープされたCCT及びBST材料系の調製
化学量論的濃度のCaCO、CuO及びTiOを混合し、乾燥条件でボールミル粉砕し、1000℃で24時間空気中でカ焼した。カ焼温度と雰囲気を幾つかの材料について変化させて温度と雰囲気の影響を検討した。所要によりバリウム、ストロンチウム、クロム、アルミニウム、ランタン、鉄、及びジルコニウムドーパントをドープするためにそれぞれBaCO、SrCO、Cr、Al、La、Fe、ZrOを固体状態混合により所要のモルパーセントで加えた。粒界のドープのために約1モル%のBi.3TiOを加えた。尿素を用いて固体状態混合とカ焼により酸素部位に窒素をドープした。酸素部位にフッ素ドーパントを含ませるための出発材料として化学量論的量のBaF、SrF、及び/又はCaFを使用した。
【0075】
カ焼した混合物に約2wt%のポリ酢酸ビニル(PVA)を加え、瑪瑙乳鉢を用いて十分に混合した。この混合物を、イソプロパノール媒体中でボールミル粉砕を用いてさらにミル粉砕した。この粉末を、液圧プレスを用い、4MPaの圧力で、次いで6MPaでプレスしてグリーンペレットにした。冷間静水圧プレス(CIP)したペレットを得るために、CIP機を用いて、静水圧プレスしたペレットをさらに稠密にした。次に、このペレットを1050℃、1100℃、1350℃、又は1440℃で2、12、又は24時間、所要により空気、酸素、又は窒素雰囲気中で焼結した。焼結中に酸化ビスマスを金属のビスマスに還元するために窒素雰囲気中に5%の水素を用いた。誘電性測定の目的で、焼結したペレットを銀ペーストで被覆した。誘電性測定はAgilent 4294Aインピーダンス分析器を用いて行い、Novocontrol Alpha−Kインピーダンス分析器を用いて検証した。カ焼し焼結した試料のXRDを確かめた。材料の調製、加工処理及び誘電性値測定の一般的な方法について上に概説したが、以下に挙げる実施例は、選択した幾つかの材料の調製、加工処理、測定、及び結果に関する特定の詳細を含んでいる。
【実施例1】
【0076】
CIPにより加工処理したBa0.55Sr0.4Ca0.05TiO
約13.071gmのBaCO、9.579gmのTiO、10.152gmのSr(NO及び0.6gmのCaCOを一緒に加え、乳鉢と乳棒を用いて15分手練りした。この混合物に、ほぼ等しい体積のイソプロパノールと体積で約3倍のジルコニア粉砕媒体を加え、およそ6時間ラックミル粉砕した。この均一な混合物をアルミナるつぼに移し、1100℃で2時間カ焼した。このカ焼した粉末に約2wt%のPVAを加え、瑪瑙乳鉢を用いて混合した。等体積のイソプロパノールを加え、得られた材料を再びラックミル粉砕した。
【0077】
この粉末を次に、約4MPaの圧力で液圧プレスを用いて約3グラムの重量のペレットにプレスした。このペレットをポリエチレンフィルムに真空密閉し、約30MPaの圧力で冷間静水圧プレスした。このペレットを1440℃で2時間空気中で焼結した。この焼結したペレットに、数ミクロンの厚さの銀ペーストコーティングを施し、200℃で2時間乾燥した。次いで、Agilent 4294Aインピーダンス分析器を用いてペレットの誘電定数と損失正接を測定した。表10に、この材料の誘電性測定結果をしめす。
【0078】
【表10】

【実施例2】
【0079】
Ba0.01Sr0.2Ca0.79CuTi12
約0.079gmのBaCO、12.790gmのTiO、1.175gmのSrCO、3.165gmのCaCO及び9.554gmのCuOを一緒に加え、乳鉢と乳棒を用いて15分手練りした。この混合物に、ほぼ等体積のイソプロパノールと体積で約3倍のジルコニア粉砕媒体を加え、およそ6時間ラックミル粉砕した。この均一な混合物をアルミナるつぼに移し、1000℃で24時間カ焼した。このカ焼した粉末に、約2wt%のPVAを加え、瑪瑙乳鉢を用いて混合した。得られた材料に等体積のイソプロパノールを加え、再びラックミル粉砕した。
【0080】
この粉末を次に、約6MPaの圧力で液圧プレスを用いて約3グラムの重量のペレットにプレスした。このペレットを1100℃で2時間空気中で焼結した。この焼結したペレットに、数ミクロンの厚さの銀ペーストコーティングを施し、200℃で2時間乾燥した。次に、Agilent 4294Aインピーダンス分析器を用いて、ペレットの誘電定数と損失正接を測定した。表22に、この材料の誘電性測定結果を示す。
【0081】
【表11】

【実施例3】
【0082】
CaCuTi3.94Al0.0611.97
約8.497 CaCO、6.753gmのCuO、13.357gmのTiO及び0.955gmのAl(NO.9HOを一緒に加え、乳鉢と乳棒を用いて15分手練りした。この混合物に、ほぼ等体積のイソプロパノール及び約3倍ののジルコニア粉砕媒体を加え、およそ6時間ラックミル粉砕した。この均一な混合物をアルミナるつぼに移し、1000℃で24時間カ焼した。このカ焼した粉末に、約2wt%のPVAを加え、瑪瑙乳鉢を用いて混合した。得られた材料に、等体積のイソプロパノールを加え、再びラックミル粉砕した。
【0083】
次にこの粉末を約6MPaの圧力で液圧プレスを使用することにより、約3グラム重量のペレットにプレスした。このペレットを1100℃で2時間空気中で焼結した。この焼結したペレットに、数ミクロンの厚さの銀ペーストコーティングを施し、200℃で2時間乾燥した。次いで、Agilent 4294Aインピーダンス分析器を用いてペレットの誘電定数と損失正接を測定した。表12に、この材料の誘電性測定結果を示す。
【0084】
【表12】

有利なことに、本明細書で幾つかの実施形態として開示した電力伝達系は、場集束素子を含むように構成され、共鳴の周波数と同様に負荷における変動に対して感受性がより低い。本明細書に記載したように、場集束素子18は非接触式電力伝達系の磁場集束及び効率を高めるために使用できる。さらに、場集束素子はBST材料系、CCT材料系又は両者の組合せを含む誘電材料を含んでなる。誘電材料の使用により場集束素子の磁場集束が増大して、その結果一次コイル、場集束素子、及び二次コイルを介する電力及びデータの伝送を同時に達成することができる。
【0085】
本明細書では本発明の幾つかの特徴のみを例示し説明して来たが、当業者には多くの修正及び変更が分かるであろう。従って、特許請求の範囲は、本発明の真の思想内に入るものとしてかかる修正及び変更を全て包含するものと了解されたい。
【符号の説明】
【0086】
10−電力伝達系
12−第1コイル
14−電源
16−第2コイル
18−場集束素子
20−負荷
22−場集束素子の1つの開放端
24−場集束素子のもう1つの開放端
25−場集束素子の長さ
30−オメガ場集束構造体
32、34、36−オメガ構造体におけるターンの番号
38−ターン間の間隙
40−渦巻の幅
50−単一のループコイル
52−分割リング構造体
54−渦巻構造体
56−スイスロール構造体
58−螺旋コイル
64−共鳴器のアレイ
66、67、68、69−共鳴器の列
70、71、72、73、74−列内に配列された個々の共鳴器
75、77、79−個々の共鳴器
76、78−共鳴器間の変位

【特許請求の範囲】
【請求項1】
誘電材料を含む場集束素子18を含んでなる電力伝達系10であって、誘電材料がCa1−x−yBaSrTi1−zCr3−δを含んでなり、ここで0<x<1、0<y<1、0≦z≦0.01、0≦δ≦1、0≦p≦1である、前記系10。
【請求項2】
誘電材料が結晶粒子及び結晶粒界を含む多結晶性材料であり、誘電材料がさらに結晶粒界に配置されたビスマスを含む相を含む、請求項1記載の系10。
【請求項3】
前記相が金属のビスマスを含む、請求項2記載の系10。
【請求項4】
誘電材料がBa0.3Sr0.7Cr0.002Ti0.998からなる、請求項1記載の系10。
【請求項5】
z>0であり、δ及びpがいずれも0に等しい、請求項1記載の系10。
【請求項6】
z=0であり、δ及びpがいずれも0より大きい、請求項1記載の系10。
【請求項7】
z、δ、及びpが全てゼロより大きい、請求項1記載の系10。
【請求項8】
誘電材料がBa0.3Sr0.7Cr0.005Ti0.9952.80.13からなる、請求項1記載の系10。
【請求項9】
誘電材料がさらに約1原子パーセント未満の量でフッ素を含む、請求項1記載の系10。
【請求項10】
電源14に連結された第1コイル12、
負荷20に連結された第2コイル16、及び
第1コイル12と第2コイル16の間に配置され、誘電材料を含む場集束素子18
を含んでなる電力伝達系10であって、誘電材料がCa1−x−yBaSrTi1−zCr3−δを含んでなり、ここで0<x<1、0<y<1、0≦z≦0.01、0≦δ≦0.5、0≦p≦0.5である、前記系10。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2011−236122(P2011−236122A)
【公開日】平成23年11月24日(2011.11.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−103930(P2011−103930)
【出願日】平成23年5月9日(2011.5.9)
【出願人】(390041542)ゼネラル・エレクトリック・カンパニイ (6,332)
【Fターム(参考)】