説明

電力増幅器のバイアス回路および電力増幅器

【課題】コンプリメンタリSEPP回路において、出力抵抗を高くすることなくバイアス電流の安定したバイアス回路を提供する。
【解決手段】バイアス電流を検出する差動増幅器と、所定の電圧値と差動増幅器の出力電圧値との差分を増幅する演算増幅器と、演算増幅器の出力信号を絶縁伝達する絶縁伝達器と、絶縁伝達器の出力に応じたバイアス電圧を出力するバイアス電圧源とを備えたコンプリメンタリSEPP回路のバイアス回路。差動増幅器、演算増幅器、絶縁伝達器の動作により、バイアス電圧源は、バイアス電流が増加すると出力するバイアス電圧を低下させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電力増幅器のバイアス回路に関し、特に、コンプリメンタリSEPP回路におけるバイアス回路に関する。
【背景技術】
【0002】
出力容量が大きい電力増幅器として、極性の異なるトランジスタを組み合わせたコンプリメンタリSEPP(Single Ended Push-Pull)回路が一般に用いられている。図4は、従来のSEPP回路の基本構成例を示す回路図である。ここでは、説明を簡単にするため、トランジスタQ11、Q12のhFEは無限大で、エミッタ内部抵抗は0Ωとする。
【0003】
本図のSEPP回路を電力増幅器として動作させるため、トランジスタQ11、Q12にバイアス電流IBを流す必要がある。このため、バイアス電源VB11とバイアス電源VB12との合計であるバイアス電圧VB1をそれぞれのトランジスタのベースに印加する。
【0004】
バイアス電圧VB1から、ベース−エミッタ間電圧VBE11およびVBE12を引いた電圧VB2がそれぞれのトランジスタのエミッタ間に生じる。そして、それぞれのトランジスタのエミッタに接続されたバイアス抵抗RE11、RE12で決まるバイアス電流IBが流れる。ここで、バイアス電流IBは、[数1]に示す値となる。
【数1】

【0005】
入力信号V1は、バイアス電圧VB11およびVB12に重畳され、トランジスタQ11、Q12のベースに印加される。ベースに印加された信号は、ベース−エミッタ間電圧VBE11、VBE12分の電位にシフトされ、エミッタに出力される。それぞれのトランジスタから出力された信号電圧は、バイアス抵抗RE11、RE12で分圧されて出力端子T1に出力される。
【0006】
このとき、出力抵抗は、バイアス抵抗RE11、RE12の並列抵抗値となる。この出力抵抗値を小さくできれば、トランジスタQ11、Q12および電源が許容できるだけの電圧と電流とを低抵抗で出力することができるようになる。
【0007】
さらに、図5に示すように、この回路を並列接続することにより、トランジスタのコレクタ電流やコレクタ損失などの許容値をさらに増加し、出力抵抗も小さくすることが可能になる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開平8−288760号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
上述のように、図4に示したコンプリメンタリSEPP回路においてバイアス電流IBは、[数1]に示す値となる。ここで、トランジスタのベース−エミッタ間電圧VBE11、VBE12は、温度に対する特性変化が大きいため、周辺温度の変動により値が変動し、これによりバイアス電流IBも値が変動してしまうという問題がある。バイアス電流IBの変動の割合は、ベース−エミッタ間電圧VBE11、VBE12の変動分と、VB2との比になる。
【0010】
例えば、図5に示したコンプリメンタリSEPP回路を並列接続した回路において、バイアス抵抗は0.1Ωであり、VBE1およびVBE2が0.60Vとすると、VB2は0.2Vとなり、各バイアス電流は1Aとなる。このとき、出力抵抗が16.7mΩで、±10V、±6Aの出力が可能となる。
【0011】
この回路で、ベース−エミッタ間電圧VBE11、VBE12が、それぞれ0.60Vから、周囲温度等の影響により、0.55Vに50mV変動したとすると、バイアス電流IBは、1.0Aから1.5Aとなり、電源消費電力は、61.50Wから92.25Wとなって、いずれも1.5倍に増加する。このため、トランジスタの許容電流やコレクタ損失および電源電流容量も大きなものを選択する必要が生じる。
【0012】
バイアス電流IBの変動を抑える方法として、VB2を大きくして、VBE11とVBE12の比を大きくすることがあげられる。しかし、VB2を大きくしようとすると、バイアス抵抗RE11、RE12の値が大きくなり、出力抵抗と消費電力とが大きくなってしまう。
【0013】
例えば、図6に示すように、VB2を2Vとして設計すると、バイアス抵抗は1Ωとなる。この回路で、ベース−エミッタ間電圧VBE11、VBE12が、それぞれ0.60Vから0.65Vに50mV変動した場合、バイアス電流IBは、1.0Aから1.05Aとなり、電源消費電力は、72.30Wから75.92Wとなり、バイアス電流変動、電源消費電力増とも5%程度に収めることができるが、出力抵抗は10倍となってしまう。また、VB2が大きくなった分、電源電圧も高くする必要があるため、消費電力も増加することになる。
【0014】
また、バイアス電流IBの変動を抑えるため、図7に示すように、バイアス電源VB11とバイアス電源VB12に、VBEの温度特性と等しい順方向電圧温度特性を有するダイオード等を直列挿入することも行なわれている。これは、ダイオード等を直列挿入することにより温度変動による特性変化を相殺し、VBEの変動によるバイアス電流への影響を少なくしようとするものであるが、温度特性を完全に一致させることは困難であり、また、物理的な配置により、ダイオード等とトランジスタQ11、Q12との温度不均衡が生じてしまうことから、完全に特性変化を相殺することは極めて難しい。
【0015】
そこで、本発明は、コンプリメンタリSEPP回路において、出力抵抗を高くすることなくバイアス電流の安定したバイアス回路を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0016】
上記課題を解決するため、本発明の電力増幅器のバイアス回路は、バイアス電流を検出する差動増幅器と、所定の電圧値と前記差動増幅器の出力電圧値との差分を増幅する演算増幅器と、前記演算増幅器の出力信号を絶縁伝達する絶縁伝達器と、前記絶縁伝達器の出力に応じたバイアス電圧を出力するバイアス電圧源と、を備えたことを特徴とする。
【0017】
前記差動増幅器、前記演算増幅器、前記絶縁伝達器の動作により、前記バイアス電圧源は、前記バイアス電流が増加すると出力するバイアス電圧を低下させることができる。
【0018】
また、前記電力増幅器は、コンプリメンタリSEPP回路とすることができる。
上記課題を解決するため、本発明の電力増幅器は、上記のバイアス回路を備えたコンプリメンタリSEPP回路を複数個並列に接続したことを特徴とする。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、コンプリメンタリSEPP回路において、出力抵抗を高くすることなくバイアス電流の安定したバイアス回路を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本実施形態に係るバイアス回路を示す回路図である。
【図2】本実施形態に係るバイアス回路の具体的な構成例を示す回路図である。
【図3】本実施形態に係るバイアス回路を用いたコンプリメンタリSEPP回路を並列接続した回路を示す図である。
【図4】従来のコンプリメンタリSEPP回路の基本回路を示す図である。
【図5】従来のコンプリメンタリSEPP回路を並列接続した回路を示す図である。
【図6】バイアス電流の変動を抑える従来の方法を説明する図である。
【図7】バイアス電流の変動を抑える従来の方法を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
本発明の実施の形態について図面を参照して説明する。図1は、本実施形態に係るバイアス回路を示す回路図である。バイアス回路100は、極性の異なるトランジスタQ11、Q12とを用いたコンプリメンタリSEPP回路のバイアス回路として用いられ、差動増幅器110と、演算増幅器120と、バイアス電流制御電圧源130と、フォトカプラ140と、定電圧源150とを備えている。
【0022】
差動増幅器110は、トランジスタQ11、Q12のエミッタに接続されたバイアス抵抗RE11、RE12を流れるバイアス電流IBを検出し、電圧V3として出力する。演算増幅器120は、オペアンプ等の高利得の電圧増幅回路であり、バイアス電流制御電圧源130の電圧V2と差動増幅器110の出力電圧V3との差分を反転増幅し、電圧V4として出力する。
【0023】
定電圧源150は、バイアス電圧VB1を出力するバイアス電圧源として機能する。定電圧源150では、フォトカプラ140を介して伝達される演算増幅器120の浮動電位で、バイアス電圧VB1が制御される。具体的には、演算増幅器120の出力電圧V4が下降すると、バイアス電圧VB1が減少するように制御される。フォトカプラ140は、演算増幅器120と定電圧源150とを電気的に絶縁して信号を伝達する絶縁伝達器として機能する。
【0024】
本実施形態に係るバイアス回路100は、バイアス電流IBが増加した場合に、演算増幅器120により、V3がV2と等しくなるように負帰還制御が行なわれる。
【0025】
すなわち、バイアス電流IBが増加すると、バイアス抵抗RE11、RE12の電圧降下によりVB2が上昇し、差動増幅器110の出力電圧V3が上昇する。すると、演算増幅器120の高利得の反転増幅作用により、V3がV2と等しくなるように出力電圧V4が下降する。これにより、フォトカプラ140の出力が減少し、定電圧源150が出力するバイアス電圧VB1が低下する。この結果、バイアス電流IBが変動しない方向に制御される。
【0026】
したがって、この負帰還制御により、周辺温度の変動等によってトランジスタQ11、Q12のベース−エミッタ間電圧VBE11、VBE12が変動しても、バイアス電流IBは一定に保たれることになる。
【0027】
図2は、本実施形態に係るバイアス回路の具体的な構成例を示す回路図である。本回路では、電圧VB2が、0.2Vになるように制御され、バイアス電流IBは、1Aとなる。電圧VB2は、浮動変動するため、差動増幅器110により、電圧VB2をCOM電位基準に変換している。これを演算増幅器120により、高利得で反転させてフォトカプラ140の入力側電流を制御している。そして、フォトカプラ140の出力側の電流により、定電圧源150の出力電圧VB1を制御している。定電圧源150は、トランジスタQ3のVBEが、約0.7VになるようにVCEが制御されるため、VB1の値は、0.7V+IC×R2となる。
【0028】
図3は、本実施形態に係るバイアス回路を用いたコンプリメンタリSEPP回路を並列接続した回路を示す図である。本図における「A」と記載されたブロックは、図2における符号Aが示す回路に相当する。本図の例では、各コンプリメンタリSEPP回路のバイアス電流IBは1Aとなり、出力抵抗は50mΩとなるため、3段並列接続により、±10V、6Aの60W出力で、出力抵抗が16.7mΩ、消費電力が61.2Wの電力増幅器が実現できる。また、バイアス回路を各段で独立させているため、バイアス電流IBを個別に制御することが可能となる。
【0029】
このように本実施形態のバイアス回路を用いたコンプリメンタリSEPP型電力増幅器は、バイアス電流IBが安定しているのに加え、従来のコンプリメンタリSEPP型電力増幅器と比べて、出力抵抗を小さくすることができ、また、消費電力を少なくすることができる。
【符号の説明】
【0030】
100…バイアス回路
110…差動増幅器
120…演算増幅器
130…バイアス電流制御電圧源
140…フォトカプラ
150…定電圧源

【特許請求の範囲】
【請求項1】
バイアス電流を検出する差動増幅器と、
所定の電圧値と前記差動増幅器の出力電圧値との差分を増幅する演算増幅器と、
前記演算増幅器の出力信号を絶縁伝達する絶縁伝達器と、
前記絶縁伝達器の出力に応じたバイアス電圧を出力するバイアス電圧源と、を備えたことを特徴とする電力増幅器のバイアス回路。
【請求項2】
前記差動増幅器、前記演算増幅器、前記絶縁伝達器の動作により、前記バイアス電圧源は、前記バイアス電流が増加すると出力するバイアス電圧を低下させることを特徴とする請求項1に記載の電力増幅器のバイアス回路。
【請求項3】
前記電力増幅器は、コンプリメンタリSEPP回路であることを特徴とする請求項1または2に記載のバイアス回路。
【請求項4】
請求項3に記載のバイアス回路を備えたコンプリメンタリSEPP回路を複数個並列に接続したことを特徴とする電力増幅器。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2013−42422(P2013−42422A)
【公開日】平成25年2月28日(2013.2.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−178947(P2011−178947)
【出願日】平成23年8月18日(2011.8.18)
【出願人】(000006507)横河電機株式会社 (4,443)
【出願人】(596157780)横河メータ&インスツルメンツ株式会社 (43)
【上記1名の代理人】
【識別番号】000006507
【氏名又は名称】横河電機株式会社
【Fターム(参考)】