説明

電力増幅器の過電流検出回路及びその方法

【課題】 しきい値を的確に可変して過電流検出の誤作動を防止する。
【解決手段】 過電流検出回路6Bは、Q2のエミッタと出力端子Oの間の電流検出抵抗R11の両端間に抵抗R21、R31が接続されている。R31の両端が過電流検出トランジスタQ5のベース−エミッタ間に接続されており、出力端子Oと−VB の間にダイオードD21、抵抗R61が接続されており、D21のカソードがQ5のエミッタと接続されている。R21とR31の接続点とグランド間には抵抗R51とD11が接続されており、R51とD11の接続点とQ2のエミッタの間にコンデンサC21が接続されている。R51、D11、C21のしきい値可変回路9Aは出力電圧の大きさが大きくなるとしきい値を大きくし、出力電圧の大きさが小さくなるとしきい値を小さくするが、C21とD11により、出力電圧の大きさが増加するときはしきい値を早く増大変化させ、減少するときはしきい値をゆっくり減少変化させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は電力増幅器の過電流検出回路及びその方法に係り、とくに出力電圧の大きさに応じて過電流検出用のしきい値を可変する電力増幅器の過電流検出回路及びその方法に関する。
【背景技術】
【0002】
オーディオ用のパワーアンプでは負荷の短絡等で過大な負荷電流が流れると、出力段のパワートランジスタや電源回路などが破壊してしまう。このため、負荷電流値が所定のしきい値を超えたか否かを検出する過電流検出回路を設け、過電流が生じたとき保護回路を働かせて電源回路の電源出力を停止させたり、入力を抑えて過大な負荷電流が流れないようにしている。例えば、実開平1−64288号公報には電力増幅器の出力端子とスピーカの間にシリーズに電流検出抵抗を設け、電流検出抵抗の両端電圧を分圧して過電流検出トランジスタのベースに印加し、両端電圧が所定のしきい値を超えると過電流検出トランジスタがオンし、保護回路が働いて電力増幅器の電源回路の出力電圧を遮断する構成が開示されている(特許文献1)。また、可銅鉄平・藤本正熙・島田公明・君塚雅憲共編「最新オーディオ技術」(平成3年4月20日オーム社発行)90、91頁には、電力増幅器の出力段のコンプリメンタリ接続SEPP回路を構成する増幅素子と中点の出力端子間に電流検出抵抗を設け、電流検出抵抗の両端電圧を分圧して過電流検出トランジスタのベースに印加し、両端電圧が所定のしきい値を超えると過電流検出トランジスタがオンし、保護回路が働いて電流制限する構成が開示されている(非特許文献1)。
【0003】
図1に従来のAB級動作(B級動作に近い)の車載用パワーアンプの過電流検出回路の具体例を示す。1はコンプリメンタリ接続SEPP回路構成の出力段であり、各々ダーリントン接続されたnpn型トランジスタQ1とQ2、pnp型トランジスタQ3とQ4が電源回路2から供給された+VB と−VB の間に接続されており、出力段1の中点が出力端子Oを成し、グランドとの間に負荷3が接続されている。Q1とQ3のベースには図示しない電圧増幅段で生成された同相で変化する信号e1、e2が入力端子4、5を介して印加されている。出力端子Oから図示しない初段に負帰還(NFB)が掛けられている。
6と7は出力段1の+電源側と−電源側に設けられた過電流検出回路であり、この内、過電流検出回路6はQ2のコレクタ−エミッタ間に流れる電流が過電流検出用のしきい値を超えると、過電流検出信号を保護回路8へ出力し、過電流検出回路7はQ4のエミッタ−コレクタ間に流れる電流が過電流検出用のしきい値を超えると、過電流検出信号を保護回路8へ出力する。過電流検出信号を入力した保護回路8は電源回路2の+VB と−VB の電圧出力を停止させる。
【0004】
+電源側の過電流検出回路6は、Q2のエミッタと出力端子Oの間にシリーズに接続された小抵抗の電流検出抵抗R11と、R11の両端電圧を分圧する抵抗R21、R31と、R31の両端がベースとエミッタに接続され、コレクタが抵抗R41を介して+VB にプルアップされたnpn型の過電流検出トランジスタQ5と、Q5のベース−エミッタ間に接続されたノイズ除去用のコンデンサC11とにより構成されている。Q5はベース−エミッタ間電圧VBEが0.6Vを越えるとオンし、R41に生じる電圧降下が過電流検出信号として保護回路8に出力される。過電流検出のしきい値Ith1はR11〜R31の値で定まり、R11<<R21、R11<<R31として、R11を流れる電流の大きさをI1 とすると、次式、
1 ×R11×(R31/(R21+R31))=0.6
が成立するときの電流I1 がしきい値Ith1となり、I1 <Ith1の間、Q5はオフ、I1 ≧Ith1でオンとなる。
【0005】
−電源側の過電流検出回路7も6と同様に構成されており、Q4のエミッタと出力端子Oの間にシリーズに接続された小抵抗の電流検出抵抗R12と、R12の両端電圧を分圧する抵抗R22、R32と、R32の両端がベースとエミッタに接続され、コレクタが抵抗R42を介して−VB にプルダウンされたpnp型の過電流検出トランジスタQ6と、Q6のベース−エミッタ間に接続されたノイズ除去用のコンデンサC12とにより構成されている。Q6はベース−エミッタ間電圧VBEが0.6Vを越えるとオンし、R42に生じる電圧降下が過電流検出信号として保護回路8に出力される。過電流検出のしきい値はR12〜R32の値で定まり、R12<<R22、R12<<R32として、R12を流れる電流の大きさをI2 とすると、次式、
2 ×R12×(R32/(R22+R32))=0.6
が成立するときの電流I2 がしきい値Ith2となり、I2 <Ith2の間、Q6はオフ、I2 ≧Ith2でオンとなる。例えば、図1の如くR11=R12=0.1Ω、R21=R22=1kΩ、R31=R32=1.2kΩ、C11=C12=1000pFとすると、Ith 1とIth2は約11Aとなる(図2の破線参照)。
【0006】
Ith1、Ith2は、正常動作時に過電流を誤検出しないようにするため、定格出力時の電流のピーク値より大きく設定する必要があり、回路素子定数のバラツキや過電流検出トランジスタQ5、Q6のオン時のベース−エミッタ間電圧VBEの温度による変動を考慮すると、正常動作時の負荷電流IO の最大ピーク値より相当大きくしておかなければならない。けれども、しきい値を正常動作時の最大ピーク値より大きく設定すると次のような問題が生じる。負荷のインピーダンスをパラメータとした出力電圧と負荷電流IO の大きさの関係は図2の如くなる。出力段1のアイドリング電流(Q2からQ4へ貫流する電流)は数十mAと小さく、I1 、I2 がほぼ負荷電流IO に等しいとすると、過電流保護機能は主に出力の短絡を想定したものであり、ほぼ完全に短絡したときは負荷インピーダンスがほぼ零となるため、出力電圧VO の大小に拘わらず負荷電流の大きさがしきい値Ith 1、Ith2を越えるので、過電流保護が正しく働く(図2の実線a参照)。けれども、不完全な短絡により接触抵抗が生じると、出力電圧VO が小さいときに負荷電流IO の大きさがしきい値Ith1、Ith2を下回って過電流保護が働かず、しきい値Ith1、Ith2よりは小さいが比較的大きな電流が流れ続けてしまう恐れがあった。例えば、接触抵抗が0.5Ωあれば出力電圧VO のピークが約5V以下のときに掛かる事態が起きてしまう(図2の実線b参照)。これは前記した特許文献1、非特許文献2記載の過電流検出回路においても全く同様に起きる。
【0007】
この問題を解決するため、従来、出力電圧の大きさによりしきい値を可変する提案がされていた。具体的には、図1の過電流検出回路6、7を図3の過電流検出回路6A、7Aの如く変更し、抵抗R21、R31の接続点とグランド間に抵抗R51と逆阻止用のダイオードD11をシリーズ接続し、抵抗R22とR32の接続点とグランド間に抵抗R52と逆阻止用のダイオードD12をシリーズ接続する。ほぼ出力電圧VO と同じ電圧のQ2のエミッタ電圧が大きくなるとR21、R51、D11の経路で流れる枝電流が大きくなり、抵抗R21での電圧降下が大きくなるので、その分、抵抗R31の両端電圧が小さくなる。従って、Q5をオンするためのI1 の大きさは、出力電圧VO が小さいときは比較的小さくでき、出力電圧VO が大きいときは比較的大きくできる。図3の回路定数とした場合、出力電圧VO が小さいときしきい値ITHは約6〜7Aとなり、負荷の不完全短絡時の接触抵抗が0.5Ωであっても出力電圧VO が図2のVm(=約4V)以上になればQ5、Q6がオンする。この結果、出力電圧VO がVmを下回っている場合に流れ続ける負荷電流IO は6〜7A以下に抑えられる。若し、しきい値ITHが6Aのままでは、負荷に2Ωのスピーカを接続したとき、約40Wほど出力しただけで、過電流保護機能が働いてしまうことになるが(図2の実線c参照)、出力電圧VO が大きくなるにつれてしきい値ITHを大きくすることで(図2の一点鎖線参照)、正常動作時の出力が不用意に制限される事態を回避できることになる。
【0008】
ところが、図3の構成は、負荷が抵抗であれば上記説明の通り動作するが、負荷のスピーカは純粋な抵抗でなく誘導成分を有しているため過電流保護機能が誤作動することがあった。すなわち、誘導性の負荷では出力電圧のピークと負荷電流のピークが一致せず、大出力時、出力電圧が大きなピークに達して下がったあとに負荷電流の大きなピークを迎える。このとき、出力電圧が下がっているためしきい値も既に下がっており、過電流保護機能が誤作動してしまう。近年はスピーカの耐入力の増大とともに抵抗成分が小さくなり、誘導成分の比率が大きくなってきたため(特に車載用サブウーファ)、かかる問題が顕在化してきた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】実開平1−64288号公報
【非特許文献】
【0010】
【非特許文献1】可銅鉄平・藤本正熙・島田公明・君塚雅憲共編「最新オーディオ技術」オーム社平成3年4月20日
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は上記した従来技術の問題に鑑み、しきい値を的確に可変して過電流検出の誤作動を防止することのできる電力増幅器の過電流検出回路およびその方法を提供することを、その目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明の1つは、電力増幅器の出力段の増幅素子と負荷の間に介装されるかまたは出力段の増幅素子とシリーズに接続された電流検出抵抗と、電流検出抵抗を流れる電流が過電流検出用のしきい値を超えると過電流検出信号を出力する過電流検出信号出力手段と、電力増幅器の出力電圧の大きさの変化に応じて、出力電圧の大きさが大きくなると前記しきい値を大きくし、出力電圧の大きさが小さくなると前記しきい値を小さくするしきい値可変手段と、を備えた電力増幅器の過電流検出回路において、しきい値可変手段に、出力電圧の大きさが増加するときは前記しきい値を早く増大変化させ、減少するときは前記しきい値をゆっくり減少変化させるしきい値制御手段を設けたこと、を特徴としている。
しきい値制御手段は、電力増幅器の出力電圧の大きさの増減と連動して大きさの増減する電圧により充電され、充電時と放電時で時定数が異なるコンデンサ回路により構成することができる。
また、本発明の他の1つは、電力増幅器の出力段の増幅素子と負荷の間に介装された電流検出抵抗を流れる電流が過電流検出用のしきい値を超えると過電流検出信号を出力し、電力増幅器の出力電圧の大きさの変化に応じて、出力電圧の大きさが大きくなると負荷電流に対する過電流検出用のしきい値を大きくし、出力電圧の大きさが小さくなると過電流検出用のしきい値を小さくするようにした電力増幅器の過電流検出方法において、出力電圧の大きさが増加するときは前記しきい値を早く増大変化させ、減少するときは前記しきい値をゆっくり減少変化させるようにしたこと、を特徴としている。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、誘導性負荷により、出力電圧がピークに達して下がったあと負荷電流のピークが来ても、しきい値が出力電圧のピーク時の値に対して僅かに小さくなっているだけなので、過電流検出の誤作動を防止することができる。
また、しきい値制御を、電力増幅器の出力電圧の大きさの増減と連動して大きさの増減する電圧により充電され、充電時と放電時で時定数が異なるコンデンサ回路により行なうことにより、構成が簡単で済む。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】従来のAB級動作の車載用パワーアンプの過電流検出回路の構成を示す回路図である。
【図2】負荷のインピーダンスをパラメータとした出力電圧と負荷電流の関係を示す線図である。
【図3】従来の他の過電流検出回路の構成を示す回路図である。
【図4】本発明の第1実施例に係るAB級動作の車載用パワーアンプの過電流検出回路の構成を示す回路図である(実施例1)。
【図5】負荷のインピーダンスをパラメータとした出力電圧と負荷電流の関係を示す線図である。
【図6】本発明の第2実施例に係るD級動作の車載用パワーアンプの過電流検出回路の構成を示す回路図である(実施例2)。
【図7】本発明の第3実施例に係るD級動作の車載用パワーアンプの過電流検出回路の構成を示す回路図である(実施例3)。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の実施の形態を実施例に基づき説明する。
【実施例1】
【0016】
図4を参照して本発明の第1実施例を説明する。図4は本発明に係る車載用パワーアンプの過電流検出回路の構成を示す回路図であり、図3と同様の構成部分には同一の符号が付してある。
1はコンプリメンタリ接続SEPP回路構成の出力段であり、各々ダーリントン接続されたnpn型トランジスタQ1とQ2、pnp型トランジスタQ3とQ4が電源回路2から供給された+VB と−VB の間に接続されており、出力段1の中点が出力端子Oを成し、グランドとの間に負荷3が接続されている。Q1とQ3のベースには図示しない電圧増幅段で生成された同相で変化する信号e1、e2が入力端子4、5を介して印加されている。出力端子Oから図示しない初段に負帰還(NFB)が掛けられている。
6Bと7Bは出力段1の+電源側と−電源側に設けられた過電流検出回路であり、過電流検出回路6BはQ2のコレクタ−エミッタ間に流れる電流の大きさ(瞬時値の絶対値)が過電流検出用のしきい値ITH1を超えると、過電流検出信号を保護回路8へ出力し、過電流検出回路7BはQ4のエミッタ−コレクタ間に流れる電流の大きさ(瞬時値の絶対値)が過電流検出用のしきい値ITH2を超えると、過電流検出信号を保護回路8へ出力する。過電流検出信号を入力した保護回路8は電源回路2の+VB と−VB の電圧出力を停止させる。
【0017】
+電源側の過電流検出回路6Bでは、Q2のエミッタと出力端子Oの間にシリーズに小抵抗の電流検出抵抗R11が接続されており、Q2のエミッタとR11の接続点とトランジスタQ5のベース間に抵抗R21が接続されている。R31の両端がnpn型の過電流検出トランジスタQ5のベース−エミッタ間に接続されており、Q5のベース−エミッタ間にノイズ除去用のコンデンサC11が接続されている。出力端子Oと−VB の間にダイオードD21、抵抗R61がシリーズに接続されており、D21のカソードがQ5のエミッタと接続されている。Q5は抵抗R31の両端電圧が0.6V以上になるとオンするが、D21の順方向降下電圧をVAKとすると、図3のR11の両端電圧が本実施例ではR11の両端電圧とVAKの和に置き換えられてR21とR31にシリーズに掛かる電圧がVAK分だけ増大するので、R11を大きくすることなく過電流検出感度が上がる。
【0018】
抵抗R21とR31の接続点とグランド間には抵抗R51と逆阻止用のダイオードD11がシリーズに接続されており、R51とD11の接続点とQ2のエミッタの間にコンデンサC21が接続されている。R51、D11、C21は出力電圧VO の大きさの変化に応じて、出力電圧VO の大きさが大きくなるとしきい値ITH1を大きくし、出力電圧VO の大きさが小さくなるとしきい値ITH1を小さくするしきい値可変回路9Aを成す。C21とD11はしきい値制御手段を成し、出力電圧VO の大きさが増加するときは前記しきい値ITH1を早く増大変化させ、減少するときは前記しきい値ITH1をゆっくり減少変化させる。
【0019】
−電源側の過電流検出回路7Bは、+電源側とほぼ対称に構成されており、出力端子OとQ4のエミッタの間にシリーズに小抵抗の電流検出抵抗R12が接続されており、Q4のエミッタとR12の接続点とトランジスタQ6のベース間に抵抗R22が接続されている。R33の両端がpnp型の過電流検出トランジスタQ6のエミッタ−ベース間に接続されており、Q6のエミッタ−ベース間にノイズ除去用のコンデンサC12が接続されている。出力端子Oと+VB の間にダイオードD22、抵抗R62がシリーズに接続されており、D22のアノードがQ6のエミッタと接続されている。Q6は抵抗R32の両端電圧が0.6V以上になるとオンするが、D22の順方向降下電圧をVAKとすると、図3のR12の両端電圧が本実施例ではR12の両端電圧とVAKの和に置き換えられてR22とR32にシリーズに掛かる電圧がVAK分だけ増大するので、R12を大きくすることなく過電流検出感度が上がる。
【0020】
R22とR32の接続点とグランド間には抵抗R52と逆阻止用のダイオードD12がシリーズに接続されており、R52とD12の接続点とQ4のエミッタの間にコンデンサC22が接続されている。R52、D12、C22は出力電圧VO の大きさの変化に応じて、出力電圧VO の大きさが大きくなるとしきい値ITH2を大きくし、出力電圧VO の大きさが小さくなるとしきい値ITH2を小さくするしきい値可変回路10Aを成す。また、C22とD12はしきい値制御手段を成し、出力電圧VO の大きさが増加するときは前記しきい値ITH2を早く増大変化させ、減少するときは前記しきい値ITH2をゆっくり減少変化させる。
【0021】
次に、図5を参照して上記した実施例の動作を過電流検出回路6Bを中心に説明する。図5は負荷インピーダンスをパラメータとした出力電圧VO と負荷電流IO の関係を示す線図である。
過電流検出回路6Bは出力端子Oから負荷3の方向へ負荷電流IO が流れる期間を対象に過電流検出を行う。今、C21がない場合を考えると、図3と同様に、Q2のエミッタ電圧の大きさ(瞬時値の絶対値)が小さいときはR21→R51→D11→グランドの経路で流れる枝電流が小さく、抵抗R21での電圧降下が小さくなるので、その分、抵抗R31の両端電圧が大きくなる。反対にQ2のエミッタ電圧の大きさが大きくなるとR21→R51→D11→グランドの経路で流れる枝電流が大きくなり、抵抗R21での電圧降下が大きくなるので、その分、抵抗R31の両端電圧が小さくなる。従って、Q5をオンするためのI1 の大きさ(瞬時値の絶対値)であるしきい値ITH1は、出力電圧VO が小さいときは比較的小さくでき、出力電圧VO が大きいときは比較的大きくできる。
C21が有るとき、Q2のエミッタ電圧の大きさが増大するときは、Q2→C21→D11→グランドの経路でC21が速やかに充電され、抵抗R21を流れる電流はC21が無いときとほぼ同じであり、出力電圧VO の大きさが大きくなるのに追従してしきい値ITH1は速やかに増大する。反対に、Q2のエミッタ電圧の大きさが減少するときは、D11によりグランドへの放電が阻止されるので、C21の充電電圧は抵抗R21→R51→C21の経路でゆっくり放電される。この放電電流が抵抗R21からR51へ流れる枝電流として維持されるので、しきい値ITH1は出力電圧VO の大きさの減少速度に比してゆっくりとした変化になり、しきい値ITH1が保持される。
【0022】
負荷3が誘導性のとき、出力電圧VO のピークに遅れて負荷電流IO のピークが訪れるが、20Hzのオーディオ信号入力時で遅れ時間は最大でも12.5ms程度であり、しきい値ITH1の保持時間が数十ms程度になるように回路定数を設定することで過電流検出の誤作動を防止できることになる。図4に示す回路定数にした場合、C21の放電の時定数は約180msとなり、出力電圧VO がピークに達するとほぼ同時にしきい値ITH1もピークに達するが、その後、数十ms程度の時間ではしきい値ITH1はそれほど変化しないので、負荷電流IO のピークが遅れて到来しても出力電圧VO のピークに見合ったしきい値ITH1により過電流検出ができる。
【0023】
図4の回路定数では、出力電圧VO のピーク値が0V近くのとき、負荷電流IO に対するしきい値ITH1はD21の過電流検出感度増大機能により約3Aであり、出力電圧VO のピーク値が10V、20V、30Vと大きくなるに連れて約8A、約13A、約19Aと大きくなる(図5参照)。負荷が完全に短絡すると、負荷インピーダンスがほぼ0Ωとなり、出力電圧VO の大小に拘わらずしきい値ITH1を遥かに越える大きな負荷電流IO が流れるので、過電流検出トランジスタQ5がオンし、過電流保護機能が働く。負荷が不完全に短絡し、接触抵抗による負荷インピーダンスが例えば0.5Ω程度存在すると、出力電圧VO が比較的小さいときに負荷電流IO がしきい値ITH1を下回って流れ続けてしまう恐れがあるが、出力電圧VO が小さいときはしきい値ITH1も小さいため、大きな電流が流れ続けるのを防止できる。この場合は出力電圧VO が少し大きいだけで負荷電流IO がしきい値ITH1を上回るので過電流検出トランジスタQ5がオンし、過電流保護機能が働く。
【0024】
一方、正常動作時、負荷インピーダンスは通常2Ω以上あり、出力電圧VO が数V程度と小さいときは負荷電流IO のピークは3Aより小さく、出力電圧VO のピーク値が10V、20V、30Vと大きくなっても、各々負荷電流IO のピークは約8A、約13A、約19Aより小さい。スピーカの如く誘導性負荷の場合、出力電圧VO のピークに遅れて負荷電流IO のピークが訪れるが、出力電圧VO のピークに応じたしきい値ITH1が保持されるので、負荷電流IO のピークがしきい値ITH1を超えて過電流を誤検出するのを回避できる。
−電源側の過電流検出回路7Bは負荷3から出力端子Oの方向へ負荷電流IO が流れる期間を対象に過電流検出を行うが、6Bと全く同様に動作する。
【0025】
この実施例によれば、出力電圧VO の大きさの変化に応じて、出力電圧VO の大きさが大きくなるとしきい値ITH1、ITH2を大きくし、出力電圧VO の大きさが小さくなるとしきい値ITH1、ITH2を小さくし、この際、出力電圧VO の大きさが増加するときはしきい値ITH1、ITH2を早く増大変化させ、減少するときはしきい値ITH1、ITH2をゆっくり減少変化させたので、負荷が不完全に短絡し、接触抵抗による負荷インピーダンスが例えば0.5Ω程度存在すると、出力電圧VO が比較的小さいときに負荷電流IO がしきい値ITH1、ITH2を下回って流れ続けてしまう恐れがあるが、出力電圧VO が小さいときはしきい値ITH1、ITH2も小さいため、大きな電流が流れ続けるのを防止できる。また、正常動作時、出力電圧VO のピークに遅れて負荷電流IO のピークが訪れるが、出力電圧VO のピークに応じたしきい値ITH1、ITH2が保持されるので、負荷電流IO のピークがしきい値ITH1、ITH2を超えて過電流を誤検出するのを回避できる。
また、しきい値ITH1、ITH2の可変は、出力電圧VO の増減と連動して増減するQ2、Q4のエミッタ電圧により充電され、充電時と放電時で時定数が異なる簡単なコンデンサ回路により構成できる。
また、D21、D22により、電流検出抵抗R11、R12を大きくすることなく過電流検出感度を増大でき、電力ロスを小さくできる。
【実施例2】
【0026】
図6を参照して本発明の第2実施例を説明する。図6は本発明に係るD級動作の車載用パワーアンプの出力段周辺の構成を示す回路図であり、図4と同様の構成部分には同一の符号が付してある。
図4の実施例では、出力段のトランジスタと出力端子の間に電流検出抵抗を介装したが、図6の第2実施例では、出力端子と負荷の間に介装する場合を説明する。
11は一般的なD級最終出力段であり、MOS−FETQ7、Q8が電源回路2から供給された+VB と−VB の間に接続されており、D級最終出力段11の中点Cと出力端子Oの間に低域成分を抽出するローパスフィルタ12が設けられている。出力端子Oとグランドとの間に負荷3が接続されている。Q7とQ8のゲートには図示しない出力FETスイッチング回路で生成された出力FETスイッチング信号e1’、e2’が入力端子13、14を介して印加されており、Q7とQ8は交互にオン・オフを繰り返す。
6Cと7Cは過電流検出回路であり、過電流検出回路6Cは出力端子Oから負荷3の方向に流れる負荷電流IO の大きさ(瞬時値の絶対値)が過電流検出用のしきい値ITH1’を超えると、過電流検出信号を保護回路8へ出力し、過電流検出回路7Cは負荷3から出力端子Oの方向へ流れる負荷電流IO の大きさ(瞬時値の絶対値)が過電流検出用のしきい値ITH2’を超えると、過電流検出信号を保護回路8へ出力する。
【0027】
過電流検出回路6C、7Cは出力端子Oと負荷3の間にシリーズに介装された共通の電流検出抵抗R1を有している。過電流検出回路6C、7Cは、図4の6B、7Bと同様に構成されており、同様の機能を発揮する。図6の回路定数では、出力電圧VO のピーク値が0V近くのとき、負荷電流IO に対するしきい値ITH1’(ITH2’)はD21(D22)の過電流検出感度増大機能により約3Aであり、出力電圧VO のピーク値が10V、20V、30Vと大きくなるに連れて約8A、約13A、約19Aと大きくなる。C21(C22)の放電の時定数は約180msであり、出力電圧VO がピークに達するとほぼ同時にしきい値ITH1’(ITH2’)もピークに達するが、その後、数十ms程度の時間ではしきい値ITH1’(ITH2’)はそれほど変化しないので、負荷電流IO のピークが遅れて到来しても出力電圧VO のピークに見合ったしきい値ITH1’(ITH2’)により過電流検出ができる。
従って、負荷が不完全に短絡し、接触抵抗による負荷インピーダンスが例えば0.5Ω程度存在すると、出力電圧VO が比較的小さいときに負荷電流IO がしきい値ITH1’(ITH2’)を下回って流れ続けてしまう恐れがあるが、出力電圧VO が小さいときはしきい値ITH1’(ITH2’)も小さいため、大きな電流が流れ続けるのを防止できる。また、正常動作時、出力電圧VO のピークに遅れて負荷電流IO のピークが訪れるが、出力電圧VO のピークに応じたしきい値ITH1’(ITH2’)が保持されるので、負荷電流IO のピークがしきい値ITH1’(ITH2’)を超えて過電流を誤検出するのを回避できる。
【実施例3】
【0028】
次に、図7を参照して本発明の第3実施例を説明する。図7は本発明に係るD級動作の車載用パワーアンプの出力段周辺の構成を示す一回路図であり、図6と同様の構成部分には同一の符号が付してある。
図6の実施例では、パワーアンプの出力端子と負荷の間に電流検出抵抗を介装したが、図7の第3実施例では、D級最終出力段のトランジスタにシリーズに電流検出抵抗を介装する場合を説明する。
11Aは一般的なD級最終出力段であり、MOS−FETQ7、Q8が電源回路2Aから供給された+VB と−VB の間に接続されており、D級最終出力段11Aの中点Cと出力端子Oの間に低域成分を抽出するローパスフィルタ12が設けられている。出力端子Oとグランドとの間に負荷3が接続されている。Q7とQ8のゲートには図示しない出力FETスイッチング回路で生成された出力FETスイッチング信号e1’、e2’が入力端子13、14を介して印加されており、Q7とQ8は交互にオン・オフを繰り返す。
6Dと7DはD級最終出力段11Aの+電源側と−電源側に設けられた過電流検出回路であり、過電流検出回路6DはQ7のソース−ドレイン間に間歇的に流れる電流I1 の大きさ(瞬時値の絶対値)が過電流検出用のしきい値ITH1”を超えると、過電流検出信号を保護回路8へ出力し、過電流検出回路7DはQ8のソース−ドレイン間に間歇的に流れる電流I2 の大きさ(瞬時値の絶対値)が過電流検出用のしきい値ITH2”を超えると、過電流検出信号を保護回路8へ出力する。
【0029】
+電源側の過電流検出回路6Dでは、+VB とQ7の間にシリーズに小抵抗の電流検出抵抗R11が接続されており、R11とQ7の接続点とpnp型の過電流検出トランジスタQ5" のベース間に抵抗R21が接続されている。電源回路2Aで生成された±VH ( 但し、|±VH |>|±VB |) の内、+VH と+VB の間に抵抗R61と過電流検出感度増大用のダイオードD21がシリーズに接続されており、R61とD21の接続点がQ5”のエミッタと接続されるとともに、Q5”のベースとの間に抵抗R31とノイズ除去用のコンデンサC11がパラレルに接続されている。Q5”のコレクタは抵抗R41を介してグラウンドにプルダウンされており、Q5" はベース−エミッタ間電圧VBEが0.6Vを越えるとオンし、R41に生じる電圧降下が過電流検出信号として保護回路8に出力されが、D21の順方向降下電圧をVAKとすると、R11の両端電圧とVAKの和がR21とR31にシリーズに掛かることで、R11を大きくすることなく過電流検出感度が上がる。
【0030】
9Bは出力電圧VO の大きさの変化に応じて、出力電圧VO の大きさが大きくなるとしきい値ITH1”を大きくし、出力電圧VO の大きさが小さくなるとしきい値ITH1”を小さくするしきい値可変回路である。このしきい値可変回路9Bでは、+VB と出力端子Oの間に、抵抗R71と大容量コンデンサC31がシリーズに接続されている。出力端子Oの平均電位はグランド電位であり、C31は大きな時定数で充電されることで両端電圧がほぼ+VB となる。このため、R71とC31の接続点P1の電位はほぼ+VB に出力電圧VO を足したものとなり、出力電圧VO の振幅が小さいときはほぼ+VB を中心に小さな振幅で変化し、出力電圧VO の振幅が大きいときはほぼ+VB を中心に大きな振幅で変化する。R71とC31の接続点P1とQ5”のベースの間には、ダイオードD11と抵抗R51がシリーズに接続されている。
図3のしきい値可変回路9の場合と同様に、出力電圧VO の大きさが大きくなり、P1の電位と+VB との差電圧が大きくなると、出力電圧VO が正の間にC31→D11→R51→R21の経路で流れる枝電流が大きくなり、抵抗R21での電圧降下が大きくなるので、その分、抵抗R31の両端電圧が小さくなる。従って、Q5”をオンするためのI1 の大きさは、出力電圧VO の大きさが小さいときは比較的小さくでき、出力電圧VO の大きさが大きいときは比較的大きくできる。D11とR51の接続点と+VB の間にコンデンサC12が接続されている。C12とD11はしきい値制御手段を成し、出力電圧VO の大きさが増加するときは前記しきい値ITH1" を早く増大変化させ、減少するときは前記しきい値ITH1" をゆっくり減少変化させる。
【0031】
−電源側の過電流検出回路7Dは、+電源側とほぼ対称に構成されており、−VB とQ8の間にシリーズに小抵抗の電流検出抵抗R12が接続されており、R12とQ8の接続点とnpn型の過電流検出トランジスタQ6" のベース間に抵抗R22が接続されている。電源回路2Aで生成された−VH と−VB の間に抵抗R62と検出感度増大用のダイオードD22がシリーズに接続されており、R62とD22の接続点がQ6”のエミッタと接続されるとともに、Q6”のベースとの間に抵抗R32とノイズ除去用のコンデンサC12がパラレルに接続されている。Q6”のコレクタは抵抗R42を介してグラウンドにプルアップされており、Q6" はベース−エミッタ間電圧VBEが0.6Vを越えるとオンし、R42に生じる電圧降下が過電流検出信号として保護回路8に出力されるが、D22の順方向降下電圧をVAKとすると、R12の両端電圧とVAKの和がR22とR32にシリーズに掛かることで、R12を大きくすることなく過電流検出感度が上がる。
【0032】
10Bは出力電圧VO の大きさの変化に応じて、出力電圧VO の大きさが大きくなるとしきい値ITH2”を大きくし、出力電圧VO の大きさが小さくなるとしきい値ITH2”を小さくするしきい値可変回路である。このしきい値可変回路10Bでは、−VB と出力端子Oの間に、抵抗R72と大容量コンデンサC32がシリーズに接続されている。出力端子Oの平均電位はグランド電位であり、C32は大きな時定数で充電されることで両端電圧がほぼ+VB となる。このため、R72とC32の接続点P2の電位はほぼ−VB に出力電圧VO を足したものとなり、出力電圧VO の振幅が小さいときはほぼ−VB を中心に小さな振幅で変化し、出力電圧VO の振幅が大きいときはほぼ−VB を中心に大きな振幅で変化する。R62とC32の接続点P2とQ6”のベースの間には、ダイオードD12と抵抗R52がシリーズに接続されている。
図3のしきい値可変回路10の場合と同様に、出力電圧VO の大きさが大きくなり、P2の電位と−VB との差電圧が大きくなると、出力電圧VO が負の間にC32→D12→R52→R22の経路で流れる枝電流が大きくなり、抵抗R22での電圧降下が大きくなるので、その分、抵抗R32の両端電圧が小さくなる。従って、Q6”をオンするためのI2 の大きさは、出力電圧VO の大きさが小さいときは比較的小さくでき、出力電圧VO の大きさが大きいときは比較的大きくできる。D12とR52の接続点と−VB の間にコンデンサC22が接続されている。C22とD12はしきい値制御手段を成し、出力電圧VO の大きさが増加するときは前記しきい値ITH2" を早く増大変化させ、減少するときは前記しきい値ITH2" をゆっくり減少変化させる。
【0033】
次に、上記した第3実施例の動作を過電流検出回路6Dを中心に説明する。
過電流検出回路6DはQ7に電流I1 が流れる期間を対象に過電流検出を行う。今、C21がない場合を考えると、出力電圧VO の大きさ(瞬時値の絶対値)が小さく、P1の電位と+VB の差電圧が小さいときはC31→D11→R51→R21の経路で流れる枝電流が小さく、抵抗R21での電圧降下が小さくなるので、その分、抵抗R31の両端電圧が大きくなる。反対に出力電圧VO の大きさが大きくなるとC31→D11→R51→R21の経路で流れる枝電流が大きくなり、抵抗R21での電圧降下が大きくなるので、その分、抵抗R31の両端電圧が小さくなる。従って、Q5”をオンするためのI1 の大きさ(瞬時値の絶対値)であるしきい値ITH1”は、出力電圧VO が小さいときは比較的小さくでき、出力電圧VO が大きいときは比較的大きくできる。
C21が有るとき、出力電圧VO の大きさが増大するときは、C31→D11→C21→R11→Q7→LPF12→C31の経路でC21が速やかに充電され、抵抗R21を流れる電流はC21が無いときとほぼ同じであり、出力電圧VO の大きさが大きくなるのに追従してしきい値ITH1”は速やかに増大する。反対に、出力電圧VO の大きさが減少するときは、D11によりP1側への放電が阻止されるので、C21の充電電圧は抵抗R51→R21→Q7→LPF12→グランドの経路でゆっくり放電される。この放電電流が抵抗R51からR21へ流れる枝電流として維持されるので、しきい値ITH1”は出力電圧VO の大きさの減少速度に比してゆっくりとした変化になり、しきい値ITH1”が保持される。
【0034】
負荷3が誘導性のとき、出力電圧VO のピークに遅れて電流I1 のピークが訪れるが、20Hzのオーディオ信号入力時で遅れ時間は最大でも12.5ms程度であり、しきい値ITH1”の保持時間が数十ms程度になるように回路定数を設定することで過電流検出の誤作動を防止できることになる。図7に示す回路定数にした場合、C21の放電の時定数は約180msとなり、出力電圧VO がピークに達するとほぼ同時にしきい値ITH1”もピークに達するが、その後、数十ms程度の時間ではしきい値ITH1”はそれほど変化しないので、電流I1 のピークが遅れて到来しても出力電圧VO のピークに見合ったしきい値ITH1”により過電流検出ができる。
【0035】
図7の回路定数では、出力電圧VO のピーク値が0V近くのとき、電流I1 に対するしきい値ITH1”はD21の過電流検出感度増大機能により約3Aであり、出力電圧VO のピーク値が10V、20V、30Vと大きくなるに連れて約8A、約13A、約19Aと大きくなる。負荷が完全に短絡すると、負荷インピーダンスがほぼ0Ωとなり、出力電圧VO の大小に拘わらずしきい値ITH1”を遥かに越える大きな電流I1 が流れるので、過電流検出トランジスタQ5”がオンし、過電流保護機能が働く。負荷が不完全に短絡し、接触抵抗による負荷インピーダンスが例えば0.5Ω程度存在すると、出力電圧VO が比較的小さいときに電流I1 がしきい値ITH1”を下回って流れ続けてしまう恐れがあるが、出力電圧VO が小さいときはしきい値ITH1”も小さいため、大きな電流が流れ続けるのを防止できる。この場合は出力電圧VO が少し大きいだけで電流I1 がしきい値ITH1”を上回るので過電流検出トランジスタQ5”がオンし、過電流保護機能が働く。
【0036】
一方、正常動作時、負荷インピーダンスは通常2Ω以上あり、出力電圧VO が数V程度と小さいときは電流I1 のピークは3Aより小さく、出力電圧VO のピーク値が10V、20V、30Vと大きくなっても、各々電流I1 のピークは約8A、約13A、約19Aより小さい。スピーカの如く誘導性負荷の場合、出力電圧VO のピークに遅れて電流I1 のピークが訪れるが、出力電圧VO のピークに応じたしきい値ITH1”が保持されるので、電流I1 のピークがしきい値ITH1”を超えて過電流を誤検出するのを回避できる。
−電源側の過電流検出回路7DはQ8荷から流れる電流I2 を対象に過電流検出を行うが、6Dと全く同様に動作する。
【0037】
この第3実施例によれば、出力電圧VO の大きさの変化に応じて、出力電圧VO の大きさが大きくなるとしきい値ITH1”(ITH2”)を大きくし、出力電圧VO の大きさが小さくなるとしきい値ITH1”(ITH2”)を小さくし、この際、出力電圧VO の大きさが増加するときはしきい値ITH1”(ITH2”)を早く増大変化させ、減少するときはしきい値ITH1”(ITH2”)をゆっくり減少変化させたので、負荷が不完全に短絡し、接触抵抗による負荷インピーダンスが例えば0.5Ω程度存在すると、出力電圧VO が比較的小さいときに電流I1 (I2 )がしきい値ITH1”(ITH2”)を下回って流れ続けてしまう恐れがあるが、出力電圧VO が小さいときはしきい値ITH1”(ITH2”)も小さいため、大きな電流が流れ続けるのを防止できる。また、正常動作時、出力電圧VO のピークに遅れて電流I1 (I2 )のピークが訪れるが、出力電圧VO のピークに応じたしきい値ITH1”(ITH2”)が保持されるので、電流I1 (I2 )のピークがしきい値ITH1”(ITH2”)を超えて過電流を誤検出するのを回避できる。
また、しきい値ITH1”(ITH2”)の可変は、出力電圧VO の大きさの増減と連動して大きさの増減する電圧により充電され、充電時と放電時で時定数の異なる簡単なコンデンサ回路により構成できる。
また、D21(D22)により、電流検出抵抗R11(R12)を大きくすることなく過電流検出感度を増大でき、電力ロスを小さくできる。
【0038】
なお、上記した各実施例では、過電流検出感度を上げるためD21、D22を設けたが、これらを省略し、図4ではQ5とQ6のエミッタを出力端子Oと接続し、図6ではQ5とQ6のエミッタを電流検出抵抗R1の負荷側と接続し、図7ではQ5”のエミッタを+VB と接続するとともにQ6”のエミッタを−VB と接続するようにしても良い。また、図4、図6、図7に示した回路定数の数値も一例であり、本発明はこれに何ら限定されるものでない。
【産業上の利用可能性】
【0039】
本発明は、車載用、家庭用のオーディオパワーアンプ、オーディオ用途以外の各種アンプに適用できる。
【符号の説明】
【0040】
1 出力段
11、11A D級最終出力段
3 負荷
6B、6C、6D、7B、7C、7D 過電流検出回路
9A、9B、10A、10B しきい値可変回路

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電力増幅器の出力段の増幅素子と負荷の間に介装されるかまたは出力段の増幅素子とシリーズに接続された電流検出抵抗と、電流検出抵抗を流れる電流が過電流検出用のしきい値を超えると過電流検出信号を出力する過電流検出信号出力手段と、電力増幅器の出力電圧の大きさの変化に応じて、出力電圧の大きさが大きくなると前記しきい値を大きくし、出力電圧の大きさが小さくなると前記しきい値を小さくするしきい値可変手段と、を備えた電力増幅器の過電流検出回路において、
しきい値可変手段に、出力電圧の大きさが増加するときは前記しきい値を早く増大変化させ、減少するときは前記しきい値をゆっくり減少変化させるしきい値制御手段を設けたこと、
を特徴とする電力増幅器の過電流検出回路。
【請求項2】
前記しきい値制御手段は、電力増幅器の出力電圧の大きさの増減と連動して大きさの増減する電圧により充電され、充電時と放電時で時定数が異なるコンデンサ回路により構成したこと、
を特徴とする請求項1記載の電力増幅器の過電流検出回路。
【請求項3】
電力増幅器の出力段の増幅素子と負荷の間に介装されるかまたは出力段の増幅素子とシリーズに接続された電流検出抵抗を流れる電流が過電流検出用のしきい値を超えると過電流検出信号を出力し、電力増幅器の出力電圧の大きさの変化に応じて、出力電圧の大きさが大きくなると負荷電流に対する過電流検出用のしきい値を大きくし、出力電圧の大きさが小さくなると過電流検出用のしきい値を小さくするようにした電力増幅器の過電流検出方法において、
出力電圧の大きさが増加するときは前記しきい値を早く増大変化させ、減少するときは前記しきい値をゆっくり減少変化させるようにしたこと、
を特徴とする電力増幅器の過電流検出方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2011−223204(P2011−223204A)
【公開日】平成23年11月4日(2011.11.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−88818(P2010−88818)
【出願日】平成22年4月7日(2010.4.7)
【出願人】(000003595)株式会社ケンウッド (1,981)
【出願人】(595120530)株式会社ケンウッド・エンジニアリング (22)
【Fターム(参考)】