説明

電力増幅装置、基地局装置、利得調整システム、及び利得調整方法

【課題】電力増幅装置を構成する各構成要素の利得を容易に調整する。
【解決手段】電力増幅装置30は、無線周波数信号の利得を調整するための複数の可変減衰器301、307、可変減衰器301、307それぞれから供給される無線周波数信号の電力を測定する電力測定部304及び検波器311、並びに、この電力測定部304及び検波器311それぞれによって測定された無線周波数信号の電力とこの無線周波数信号の適正な電力との比較に基づいて可変減衰器301、307それぞれの利得を調整する制御部305、312を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電力増幅装置、基地局装置、利得調整システム、及び利得調整方法に関する。
【背景技術】
【0002】
W−CDMA(Wideband Code Division Multiple Access)方式やLTE(Long Term Evolution)方式等に従って通信する基地局は、電力増幅装置を備える。電力増幅装置は、無線周波数信号(以下、「RF(Radio Frequency)信号」という)の電力を所定の利得で増幅して、このRF信号を基地局のアンテナ等へ出力する装置である(例えば、特許文献1を参照)。
【0003】
電力増幅装置の部品は、経年劣化等により所定の範囲を外れた電力のRF信号が入力された場合、RF信号を劣化させるおそれがある。したがって、各部品に入力されるRF信号が所定の範囲内の電力を維持することができるように、電力増幅装置は利得を調整するための構成要素を有することが望ましい。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2003−133969号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1に記載の電力増幅装置は利得を調整するための構成要素を有しないため、電力増幅装置が経年劣化した場合に、各部品に入力されるRF信号は所定の範囲内の電力を維持することが困難であった。
【0006】
また、利得の調整が可能な構成要素が電力増幅装置内部に設けられた場合には、基地局の設置や保守点検等の際に、調整作業者が、電力増幅装置の入力信号や出力信号を観察しながら、利得を調整できる。しかしながら、この構成要素が複数設けられたときには、調整作業者が複数の構成要素の利得を同時に調整することは困難である。このため、調整作業者に対する負担が大きかった。
【0007】
本発明は上述の事情に鑑みてなされたものであり、電力増幅装置を構成する各構成要素の利得を容易に調整することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するために、本発明の第1の観点に係る電力増幅装置は、
無線周波数信号の電力を変更する複数の変更手段と、
前記複数の変更手段によって変更された前記無線周波数信号それぞれの電力を測定する測定手段と、
前記複数の変更手段によって変更された前記無線周波数信号それぞれの適正な電力と、前記測定手段によって測定された電力との比較に基づいて、前記変更手段それぞれの利得を制御する制御手段と、
を備えることを特徴とする。
【0009】
上記目的を達成するために、本発明の第2の観点に係る基地局装置は、
本発明の第1の観点に係る電力増幅装置を有することを特徴とする。
【0010】
上記目的を達成するために、本発明の第3の観点に係る利得調整システムは、
無線周波数信号を生成する信号生成手段と、
本発明の第1の観点に係る電力増幅装置と、
前記電力増幅装置が備える制御手段に制御を開始させる開始手段と、
を備えることを特徴とする。
【0011】
上記目的を達成するために、本発明の第4の観点に係る利得調整方法は、
無線周波数信号を生成する信号生成ステップと、
前記無線周波数信号の電力を変更する複数の変更ステップと、
前記複数の変更ステップによって変更された前記無線周波数信号それぞれの電力を測定する測定ステップと、
前記複数の変更ステップによって変更された前記無線周波数信号それぞれの適正な電力と、前記測定ステップによって測定された電力との比較に基づいて、前記変更ステップそれぞれの利得を制御する制御ステップと、
前記制御ステップを開始させる開始ステップと、
を含むことを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、利得を可変とする複数の構成要素それぞれが出力するRF信号の電力の適正値と、このRF信号の電力の測定値との比較に基づいて、複数の構成要素の利得を制御する。これにより、電力増幅装置を構成する各構成要素の利得を容易に調整することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】実施形態に係る利得調整システムの構成例を示すブロック図である。
【図2】利得調整システムが可変減衰器の利得を調整する処理を示すフローチャートである。
【図3】利得調整システムによって変動するRF信号の電力レベルを示す図である。
【図4】可変減衰器が設定する利得に対するRF信号の電力レベルの特性を示す図である。
【図5】利得調整システムによって変動するRF信号の電力レベルを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の実施形態について図面を参照しながら詳細に説明する。なお、説明の便宜上、信号の電力の大きさを表す指標として、信号の電力と基準電力(1mW)との比の常用対数に比例する電力レベルを使用する。また、この電力レベルの単位をdBmと表記する。また、電力又は電力レベルの利得を、単に利得と表記する。
【0015】
図1は、本実施形態に係る利得調整システム10の構成図である。図1に示されるように、利得調整システム10は、送信機20、電力増幅装置30、電力測定器40、及び調整器50を備える。
【0016】
送信機20及び電力増幅装置30は、基地局の送信機能を実現する。また、送信機20及び電力増幅装置30は、基地局が有する受信装置(図示せず)と協働することにより、基地局と移動局等との無線通信を実現する。
【0017】
送信機20は、局部発振器及び直交変調器等を含んで構成される。送信機20は、RF信号Srfの調整信号Sa0を調整器50から受信する。また、送信機20は、この調整信号Sa0に応じて、生成されたRF信号Srfを電力増幅装置30へ出力する。RF信号Srfは、W−CDMA等の方式で定められた基準を満たすテストモデルと呼ばれる信号である。例えば、RF信号Srfは、送信機20が出力するRF信号のうち最も電力レベルが高いRF信号である。
【0018】
なお、基地局の通常運用時には、送信機20は、送信データを含む信号を変調して、生成されたRF信号を電力増幅装置30へ出力する。また、送信機20は、送信電力制御技術を用いてRF信号の電力を制御する。送信電力制御技術は、自局と通信相手との距離に応じてRF信号の電力を制御する技術である。
【0019】
電力増幅装置30は、第1の可変減衰器301、第1の増幅器302、A/Dコンバータ303、電力測定部304、第1の制御部305、デジタル信号処理部306、第2の可変減衰器307、D/Aコンバータ308、第2の増幅器309、方向性結合器310、検波器311、及び第2の制御部312を備える。電力増幅装置30は、送信機20から出力されたRF信号Srfを所定の利得で増幅し、所定の電力レベルのRF信号Srfを電力測定器40へ出力する。なお、電力増幅装置30は、基地局の通常運用時には、所定の利得で電力レベルを増幅したRF信号を、電力測定器40に代えて図示しないアンテナ等へ出力する。
【0020】
第1の可変減衰器301は、送信機20から出力されたRF信号Srfを所定の電力レベルに減衰させて、第1の増幅器302へ出力する。また、第1の可変減衰器301は、第1の制御部305から出力される制御信号Sc1に従って、第1の可変減衰器301の利得を変更する。制御信号Sc1は、例えば、第1の可変減衰器301の利得を5dB大きくするように指示する信号である。
【0021】
第1の増幅器302は、第1の可変減衰器301から出力されたRF信号Srfの電力レベルを増幅して、A/Dコンバータ303へ出力する。なお、第1の増幅器302の利得は一定である。
【0022】
A/Dコンバータ303は、第1の増幅器302から出力されたRF信号Srfをアナログ信号からデジタル信号へ変換して、電力測定部304及びデジタル信号処理部306へ出力する。A/Dコンバータ303は、入力されるRF信号Srfの電力レベルが所定の電力レベルより高い場合には、RF信号Srfの変調精度を劣化させる。ここで、変調精度は、送信機20により変調されたRF信号Srfの理論値と実測値との差を表す指標である。一方、A/Dコンバータ303は、入力されるRF信号Srfの電力レベルが所定の電力レベルより低い場合には、RF信号Srfとノイズフロアとの電力比が小さくなるため、RF信号Srfの隣接チャネル漏洩電力比を劣化させる。つまり、RF信号Srfの所定チャネルが有する電力のうち、隣接するチャネルの帯域に漏洩する電力が相対的に大きくなる。隣接チャネル漏洩電力比の劣化は、RF信号Srfのノイズを大きくする要因になる。
【0023】
電力測定部304は、A/Dコンバータ303から出力されたRF信号Srfの電力レベルを測定し、測定結果の情報を含む測定信号Sp1を第1の制御部305へ出力する。
【0024】
第1の制御部305は、例えば、CPU(Central Processing Unit)及びROM(Read Only Memory)等から構成される。第1の制御部305は、A/Dコンバータ303が出力するRF信号Srfの適正な電力レベルを、あらかじめROM等に記憶する。第1の制御部305は、動作の開始を指示する調整信号Sa1を調整器50から受信して、動作を開始する。また、第1の制御部305は、電力測定部304から出力された測定信号Sp1が示す電力レベルと、ROM等に記憶する適正な電力レベルとを比較する。第1の制御部305は、この比較の結果に基づいて、第1の可変減衰器301の利得の誤差を補正するための制御信号Sc1を第1の可変減衰器301へ出力する。以上のように、第1の制御部305は、制御信号Sc1を出力することによって、第1の可変減衰器301の利得を調整する。そして、第1の制御部305は、この調整が終了した場合には、調整が終了したことを伝達する調整信号Safを調整器50へ出力し、動作を終了する。
【0025】
デジタル信号処理部306は、A/Dコンバータ303から出力されたRF信号Srfに対してデジタル信号処理を行い、処理されたRF信号Srfを第2の可変減衰器307へ出力する。デジタル信号処理は、例えば、RF信号Srfの歪特性を補償するデジタル・プリディストーションや、スプリアスを減衰させるデジタルフィルタリング等の処理である。このデジタル信号処理は、電力増幅装置30が安定的にRF信号Srfの電力レベルを増幅するために行われる。
【0026】
第2の可変減衰器307は、デジタル信号処理部306から出力されたRF信号Srfを所定の電力レベルに減衰させて、D/Aコンバータ308へ出力する。また、第2の可変減衰器307は、第2の制御部312から出力される制御信号Sc2に従って、第2の可変減衰器307の利得を変更する。制御信号Sc2は、例えば、第2の可変減衰器307の利得を5dB大きくするように指示する信号である。
【0027】
D/Aコンバータ308は、第2の可変減衰器307から出力されたRF信号Srfをデジタル信号からアナログ信号へ変換して、第2の増幅器309へ出力する。D/Aコンバータ308は、入力されるRF信号Srfの電力レベルが所定の電力レベルより高い場合にはオーバーフローを起こすため、RF信号Srfの変調精度を劣化させる。一方、D/Aコンバータ308は、入力されるRF信号Srfの電力レベルが所定の電力レベルより低い場合には、RF信号Srfとノイズフロアとの電力比が小さくなるため、RF信号Srfの隣接チャネル漏洩電力比を劣化させる。
【0028】
第2の増幅器309は、D/Aコンバータ308から出力されたRF信号Srfの電力レベルを増幅して、方向性結合器310へ出力する。なお、第2の増幅器309の利得は一定である。
【0029】
方向性結合器310は、第2の増幅器309から出力されたRF信号Srfを、電力測定器40と検波器311とに出力する。
【0030】
検波器311は、方向性結合器310から出力されたRF信号Srfの電力レベルを測定し、測定結果の情報を含む測定信号Sp2を第2の制御部312へ出力する。
【0031】
第2の制御部312は、例えば、CPU及びROM等から構成される。第2の制御部312は、方向性結合器310が出力するRF信号Srfの適正な電力レベルを、あらかじめROM等に記憶する。第2の制御部312は、動作の開始を指示する調整信号Sa2を調整器50から受信して、動作を開始する。また、第2の制御部312は、検波器311から出力された測定信号Sp2が示す電力レベルと、ROM等に記憶する適正な電力レベルとを比較する。第2の制御部312は、この比較の結果に基づいて、第2の可変減衰器307の利得の誤差を補正するための制御信号Sc2を第2の可変減衰器307へ出力する。以上のように、第2の制御部312は、制御信号Sc2を出力することによって、第2の可変減衰器307の利得を調整する。そして、第2の制御部312は、この調整が終了した場合には、動作を終了する。
【0032】
電力測定器40は、RF信号Srfの電力レベルを測定するための機器であって、例えば一般に流通するパワーメータ、スペクトラムアナライザ又は送信機テスターである。また、電力測定器40は、RF信号Srfの電力レベルとともに、歪特性、変調精度、及び隣接チャネル漏洩電力比等を測定してもよい。電力測定器40は、方向性結合器310から出力されたRF信号Srfの電力レベル等を測定し、測定結果の情報を含む測定信号Sp3を調整器50へ出力する。
【0033】
調整器50は、例えば一般に流通するパーソナルコンピュータであって、送信機20、電力増幅装置30、及び電力測定器40との間で、一般に普及しているLAN(Local Area Network)等の規格に従って信号を送受信する。この場合、パーソナルコンピュータは、専用のソフトウェアを起動することによって、調整器50として動作する。調整器50は、調整信号Sa0を送信機20へ出力して、送信機20にRF信号Srfを生成させる。また、調整器50は、調整信号Sa1を第1の制御部305へ出力して、第1の制御部305に動作を開始させる。さらに、調整器50は、第1の制御部305から調整信号Safを受信して、調整信号Sa2を第2の制御部312へ出力することにより、第2の制御部312に動作を開始させる。そして、調整器50は、電力測定器40から、電力レベル等の測定結果の情報を含む測定信号Sp3を受信して、例えば、電力増幅装置30が出力したRF信号Srfの電力レベル、歪特性、変調精度、及び隣接チャネル漏洩電力比等の情報を調整作業者に対して表示する。
【0034】
利得調整システム10は、以上のような構成要素を備える。利得調整システム10では、これらの構成要素が協働することによって、第1の可変減衰器301及び第2の可変減衰器307の利得が調整される。この調整の処理を、以下、図2を用いて説明する。
【0035】
図2は、利得調整システム10による調整の処理の例を示すフローチャートである。
【0036】
まず、調整作業者が、基地局の設置や保守点検等の際に、電力測定器40及び調整器50を送信機20及び電力増幅装置30に接続して、利得調整システム10を動作させるための準備をする。次に、調整作業者は、調整器50を起動して調整を開始する(ステップS1)。起動された調整器50は、調整信号Sa0を送信機20へ出力し、また、調整信号Sa1を第1の制御部305へ出力する。
【0037】
次に、調整信号Sa0を受信した送信機20は、テストモデルの信号をRF信号Srfとして生成し、第1の可変減衰器301へ出力する(ステップS2)。
【0038】
電力測定部304は、送信機20から第1の可変減衰器301、第1の増幅器302及びA/Dコンバータ303を介して入力されたRF信号Srfの電力レベルを測定し、測定値Laを得る(ステップS3)。また、電力測定部304は、測定値Laの情報を含む測定信号Sp1を、第1の制御部305へ出力する。
【0039】
第1の制御部305は、調整器50から調整信号Sa1を受信して、動作を開始する。第1の制御部305は、入力された測定信号Sp1が示す測定値Laと、あらかじめ記憶する電力レベルの適正値Lbとの差を算出して、電力レベルの誤差Lcを得る(ステップS4)。なお、電力増幅装置30の各構成要素が経年劣化等していない場合、この誤差Lcは、第1の可変減衰器301の利得の実際の値L1と、この利得の適正値との差に等しい。
【0040】
第1の制御部305は、誤差Lcの大きさが、ROM等にあらかじめ記憶された閾値Ldよりも小さいかどうかを判定する(ステップS5)。誤差Lcの大きさが閾値Ld以上である場合(ステップS5;NO)、第1の制御部305は、誤差Lcを補正するための制御信号Sc1を、第1の可変減衰器301へ出力する。この制御信号Sc1を受信した第1の可変減衰器301は、利得L1に対して誤差Lcを加算することにより、利得L1を更新する(ステップS6)。
【0041】
その後、第1の制御部305により誤差Lcの大きさが閾値Ldよりも小さいと判定されるまで、ステップS3乃至S6の処理が繰り返される。これにより、A/Dコンバータ303が出力するRF信号Srfの電力レベルの測定値Laと、第1の制御部305が記憶する電力レベルの適正値Lbとがほぼ等しくなるように、利得L1が調整される。以上のように第1の可変減衰器301の利得L1が調整されることにより、A/Dコンバータ303には、所要の電力レベルのRF信号Srfが入力される。
【0042】
以上のステップS3乃至S6の調整処理の数値例を、図3を用いて説明する。図3は、RF信号Srfが電力増幅装置30に入力されてから出力されるまでの、RF信号Srfの電力レベルの変動の例を示す図である。図の横軸は時刻を、縦軸は電力レベルをそれぞれ表す。時刻T1は送信機20がRF信号Srfを出力する時刻、時刻T2は第1の可変減衰器301がRF信号Srfを出力する時刻、時刻T3は第1の増幅器302がRF信号Srfを出力する時刻、時刻T4は第2の可変減衰器307がRF信号Srfを出力する時刻、時刻T5は第2の増幅器309がRF信号Srfを出力する時刻、時刻T6は電力増幅装置がRF信号Srfを出力する時刻である。また、一点鎖線は利得L1が調整される前の電力レベルを、破線はその調整後の電力レベルをそれぞれ表す。なお、閾値Ldは0.1dBmとする。
【0043】
図3に示されるように、A/Dコンバータ303が出力するRF信号Srfの電力レベル、すなわち時刻T3における電力レベルの適正値Lbは20dBmとする。また、調整前の利得L1は時刻T1及びT2間で−14dB、測定値Laは時刻T3で16dBmであるとする。この場合、第1の制御部305が算出する誤差Lcは4dBである。次に、第1の制御部305は、誤差Lcの大きさが閾値Ld以上であるため、誤差Lcを補正するための制御信号Sc1、すなわち利得L1に4dBを加算するように指示する信号を、第1の可変減衰器301へ出力する。この制御信号Sc1を受信した第1の可変減衰器301は、調整前の利得L1と誤差Lcとを加算して得られた−10dBを、新たな利得L1として設定する。これにより、測定値Laは、適正値Lbと等しい20dBmとなる。以上のようにして、第1の可変減衰器301の利得L1が調整される。
【0044】
さらにステップS3乃至S6の調整の反復動作について、図4を用いて説明する。図4は、第1の可変減衰器301が設定する利得L1に対する、A/Dコンバータ303が出力するRF信号Srfの電力レベルの特性を示す図である。図3で説明した場合と同様に、A/Dコンバータ303が出力するRF信号Srfの電力レベルの適正値Lbは20dBmとし、測定値Laは16dBmとする。
【0045】
図4に示される直線G1は、図3で説明した例と同様に、各構成要素が経年劣化せず、誤差Lcが第1の可変減衰器の利得の実測値L1とこの利得の適正値との差に等しい場合の特性を表す。特性が直線G1で示される場合、RF信号Srfの電力レベルの変化量は、第1の可変減衰器301による利得L1の変化量に等しい。例えば、第1の可変減衰器301が利得L1を4dBだけ大きい値に変更すると、RF信号Srfの電力レベルも4dBmだけ高くなる。
【0046】
特性が直線G1で示される場合、調整が開始された時点における利得L1及びRF信号Srfの電力レベルは、点P1aで示される。図3を用いて説明したように、第1の制御部305は、電力レベルの測定値Laと適正値Lbの差として誤差4dBを算出する。次に第1の制御部305は、利得L1を4dBだけ大きくするように指示する制御信号Sc1を、第1の可変減衰器301へ出力する。第1の可変減衰器301が、この指示に従って利得L1を4dBだけ大きくして−10dBに設定する。したがって、RF信号Srfの電力レベルは、点P1bに示されるように適正値Lbと等しくなる。
【0047】
一方、曲線G2は、各構成要素の経年劣化等により直線G1から変化した場合の特性の一例を表す。特性が曲線G2で示される場合、RF信号Srfの電力レベルの変化量は、第1の可変減衰器301による利得L1の変化量とは異なり、また、利得L1の値に依存する。
【0048】
特性が曲線G2で示される場合、調整が開始された時点における利得L1及びRF信号Srfの電力レベルは、点P2aで示される。特性が直線G1で示される場合と同様に、誤差Lcは4dBなので、第1の可変減衰器301は、制御信号Sc1に従って利得L1を4dBだけ大きくする。ここで、RF信号Srfの電力レベルは、点P2bに示されるように19dBmとなる。したがって第1の制御部305は、再度誤差を算出して、この誤差と同じ量、すなわち1dBだけ利得L1を大きくするように指示する制御信号Sc1を、第1の可変減衰器301へ出力する。これにより、RF信号Srfの電力レベルは、点P2cに示されるように適正値Lbと等しくなる。
【0049】
図2に戻り、ステップS5にて誤差Lcの大きさが閾値Ldよりも小さいと判定された場合は(ステップS5;YES)、第1の制御部305は、調整が終了したことを示す調整信号Safを調整器50へ出力する。その後、第1の制御部305は動作を終了する。調整信号Safを受信した調整器50は、次に、調整信号Sa2を第2の制御部312へ出力する。これにより、第2の制御部312は、動作を開始する(ステップS7)。
【0050】
次に、検波器311は、方向性結合器から出力されたRF信号Srfの電力レベルを測定し、測定値Leを得る(ステップS8)。また、検波器311は、測定値Leの情報を含む測定信号Sp2を、第2の制御部312へ出力する。
【0051】
第2の制御部312は、受信した測定信号Sp2が示す測定値Leと、あらかじめ記憶する電力レベルの適正値Lfとの差を算出して、電力レベルの誤差Lgを得る(ステップS9)。なお、電力増幅装置30の各構成要素が経年劣化等していない場合、この誤差Lgは、第2の可変減衰器307の利得の実際の値L2と、この利得の適正値との差に等しい。
【0052】
第2の制御部312は、誤差Lgの大きさが、ROM等にあらかじめ記憶された閾値Lhより小さいかどうかを判定する(ステップS10)。誤差Lgの大きさが閾値Lh以上である場合(ステップS10;NO)、第2の制御部312は、誤差Lgを補正するための制御信号Sc2を、第2の可変減衰器307へ出力する。この制御信号Sc2を受信した第2の可変減衰器307は、利得L2に対して誤差Lgを加算することにより、利得L2を更新する(ステップS11)。
【0053】
その後、ステップS8へ戻り、第2の制御部312により誤差Lgの大きさが閾値Lhよりも小さいと判定されるまで、ステップS8乃至S11の処理が繰り返される。これにより、方向性結合器310が出力するRF信号Srfの電力レベルの測定値Leと、第2の制御部312が記憶する電力レベルの適正値Lfとがほぼ等しくなるように、利得L2が調整される。以上のように第2の可変減衰器307の利得L2が調整されることにより、D/Aコンバータ308には、所要の電力レベルのRF信号Srfが入力される。
【0054】
以上のステップS8乃至S11の調整処理の数値例を、図5を用いて説明する。図5は、図3と同様にRF信号Srfの電力レベルの変動を示す図である。ただし、図5の破線は第2の可変減衰器307の利得L2が調整される前の電力レベルを、実線はその調整後の電力レベルをそれぞれ表す。なお、閾値Lhは0.1dBmとする。
【0055】
図5に示されるように、方向性結合器310が出力するRF信号Srfの電力レベル、すなわち時刻T5における電力レベルの適正値Lfは40dBmとする。また、調整前の利得L2は時刻T3及びT4間で−9dB、測定値Leは時刻T5で46dBmであるとする。この場合、第2の制御部312が算出する誤差Lgは−6dBである。次に、第2の制御部312は、誤差Lgの大きさが閾値Lh以上であるため、誤差Lgを補正するための制御信号Sc2、すなわち利得L2に−6dBを加算するように指示する信号を、第2の可変減衰器307へ出力する。この制御信号Sc2を受信した第2の可変減衰器307は、調整前の利得L2と誤差Lgとを加算して得られた−15dBを、新たな利得L2として設定する。これにより、測定値Leは、適正値Lfと等しい40dBmとなる。以上のようにして、第2の可変減衰器307の利得L2が調整される。
【0056】
以上説明したように、本実施形態に係る電力増幅装置30では、第1の制御部305が測定信号Sp1に基づいて第1の可変減衰器301の利得L1を、第2の制御部312が測定信号Sp2に基づいて第2の可変減衰器307の利得L2を、それぞれ自動的に調整する。これにより、調整器50を起動するだけで、電力増幅装置30を構成する各構成要素の利得を容易に調整することが可能となる。したがって、不慣れな調整作業者による作業においても調整ミスが少なくなり、また、基地局と移動局等との間の通話品質・通信品質の劣化を防ぐことができる。
【0057】
また、調整作業者は、電力測定器40及び調整器50を用いて、調整後の電力増幅装置30が出力するRF信号Srfを詳細に観察できる。これにより、調整作業者は、RF信号Srfの電力レベルだけではなく歪特性、変調精度及び隣接チャネル漏洩電力比等の各種の特性を確認しながら調整作業を行うことができる。
【0058】
また、調整作業者は、調整器50として一般に流通するパーソナルコンピュータを、電力測定器40として一般に流通するスペクトラムアナライザ等を使用できるので、基地局の設置や保守点検等の際に、利得調整システム10を容易に組むことができる。
【0059】
また、調整器50が調整信号Sa0、Sa1、及びSa2を出力した場合のみ、第1の制御部305及び第2の制御部312が動作する。このため、利得調整システム10は、基地局の通常運用に必要のない余分な電力を消費することがなく、消費電力を節約することができる。
【0060】
また、第1の制御部305及び第2の制御部312は、測定信号Sp1及びSp2の受信と、これらの測定信号に基づく調整とをそれぞれ反復して行う。これにより、電力増幅装置30の構成要素の特性が経年劣化等によって変化した場合であっても、A/Dコンバ−タ303及びD/Aコンバ−タに入力されるRF信号Srfの電力を、適正な電力レベルに調整することができる。
【0061】
また、まず第1の可変減衰器301の利得L1が調整され、次に第2の可変減衰器307の利得L2が調整される。つまり、調整器50は、利得が調整されていない可変減衰器のうち、送信機20が出力する一定の電力レベルのRF信号Srfを受信する可変減衰器のいずれか、又は、利得を調整された可変減衰器が出力するRF信号Srfを他の可変減衰器を経由せずに受信する可変減衰器のいずれかから順に利得を調整する。これにより、利得調整システム10は、調整に必要のない余分な処理をすることなく、効率的に調整を行うことができる。
【0062】
また、調整器50が送信機20に一定の電力のRF信号Srfを出力させるため、電力増幅装置30に入力されるRF信号Srfの電力レベルが不明な場合でも、利得調整システム10は、電力増幅装置30の利得を調整することができる。
【0063】
また、電力測定器40は調整の確認を行うためにのみ使用され、調整の処理には関係ないので、電力測定器40を省いて利得調整システム10を構成してもよい。この場合は、電力増幅装置30が出力するRF信号Srfの電力レベルが不明になる。この場合であっても、利得調整システム10は電力増幅装置30を構成する各構成要素の利得を調整することができる。
【0064】
上述の実施形態において、電力増幅装置30は、利得を調整するための構成要素として2個の可変減衰器を備えているが、利得を調整するための構成要素を3個以上備えてもよい。この場合、利得調整システム10によって、電力増幅装置30内部の3個以上の構成要素が、適正な電力レベルのRF信号Srfを受信することができる。
【0065】
上述の実施形態において、利得調整システム10は、利得を調整するための構成要素として可変減衰器を備え、RF信号Srfの電力レベルを増幅させる構成要素として増幅器を備えたが、これらに代えて可変増幅器を備えてもよい。例えば、利得調整システム10は、第1の可変減衰器301及び第1の増幅器302に代えて1個の可変増幅器を用いて、RF信号Srfの利得の調整及び電力の増幅をしてもよい。この場合、構成要素の数を減らすことができ、電力増幅装置30を簡素な構成とすることができる。
【0066】
上述の実施形態において、検波器311が測定信号を第2の制御部312へ出力したが、方向性結合器310及び検波器311を省いて構成してもよい。この場合、調整器50が、調整を開始する指示とともに電力測定器40が測定した電力レベルの情報を、調整信号Sa2として第2の制御部312へ出力してもよい。
【0067】
上述の実施形態において、複数の制御部のそれぞれが、複数の可変減衰器のそれぞれに対して制御信号を出力したが、1個の制御部が複数の可変減衰器に対して制御信号を出力してもよい。また、一又は複数の制御部を、調整器50の構成要素としてもよい。この場合、調整器50が、測定信号を受信し、可変減衰器へ制御信号を出力する構成としてもよい。
【0068】
上述の実施形態において、第1の可変減衰器301の利得L1がまず調整され、次に第2の可変減衰器307の利得L2が調整されるように、調整器50が調整信号を出力したが、調整器50は調整信号Sa0、Sa1、及びSa2を任意の順序で出力してもよい。例えば、調整器50が調整信号Sa0、Sa1、及びSa2を同時に出力すれば、調整に要する時間を短縮することができる。また、例えば、調整器50が調整信号Sa0、Sa1、及びSa2を順次出力すれば、電力測定器40を用いて電力増幅装置30の出力信号を観察することにより、電力増幅装置内部の経年劣化の度合いを推測することが可能となる。
【0069】
上述の実施形態において、調整器50として一般に流通するパーソナルコンピュータを、電力測定器40としてスペクトラムアナライザ等をそれぞれ用いたが、これには限られない。例えば、調整信号を出力する専用の回路又は回路及びプログラムを調整器50として作成してもよいし、調整器50及び電力測定器40と同様の機能を有する1個の機器を用いて利得調整システム10を構成してもよい。
【0070】
上述の実施形態の一部又は全部は、以下の付記のようにも記載されうるが、以下には限られない。
【0071】
(付記1)
無線周波数信号の電力を変更する複数の変更手段と、
前記複数の変更手段によって変更された前記無線周波数信号それぞれの電力を測定する測定手段と、
前記複数の変更手段によって変更された前記無線周波数信号それぞれの適正な電力と、前記測定手段によって測定された電力との比較に基づいて、前記変更手段それぞれの利得を制御する制御手段と、
を備えることを特徴とする電力増幅装置。
【0072】
(付記2)
前記変更手段それぞれは、
前記無線周波数信号の電力を減衰させる可変減衰手段と、
前記無線周波数信号の電力を増幅する定率増幅手段と、を備え、
前記制御手段は、
前記可変減衰手段それぞれの利得を制御する、
ことを特徴とする付記1に記載の電力増幅装置。
【0073】
(付記3)
前記変更手段それぞれは、
前記無線周波数信号の電力を増幅する、
ことを特徴とする付記1に記載の電力増幅装置。
【0074】
(付記4)
前記制御手段は、
前記複数の変更手段によって電力が変更された前記無線周波数信号それぞれの適正な電力と、前記測定手段によって測定された電力との比較、及び、この比較に基づく前記変更手段それぞれの利得の制御を交互に行う、
ことを特徴とする付記1乃至3のいずれか一項に記載の電力増幅装置。
【0075】
(付記5)
付記1乃至4のいずれか一項に記載の電力増幅装置を有することを特徴とする基地局装置。
【0076】
(付記6)
無線周波数信号を生成する信号生成手段と、
付記1乃至4のいずれか一項に記載の電力増幅装置と、
前記電力増幅装置が備える制御手段に制御を開始させる開始手段と、
を備えることを特徴とする利得調整システム。
【0077】
(付記7)
前記開始手段は、
前記電力増幅装置が備える複数の変更手段のうち、前記制御手段によって利得が調整されておらず、前記信号生成手段から出力された前記無線周波数信号が前記変更手段を経由せずに入力される前記複数の変更手段のいずれか、又は、前記制御手段によって利得が調整された前記変更手段それぞれが出力する前記無線周波数信号が前記変更手段を経由せずに入力される前記複数の変更手段のいずれかから順に利得を制御するための動作を前記制御手段に開始させる、
ことを特徴とする付記6に記載の利得調整システム。
【0078】
(付記8)
無線周波数信号を生成する信号生成ステップと、
前記無線周波数信号の電力を変更する複数の変更ステップと、
前記複数の変更ステップによって変更された前記無線周波数信号それぞれの電力を測定する測定ステップと、
前記複数の変更ステップによって変更された前記無線周波数信号それぞれの適正な電力と、前記測定ステップによって測定された電力との比較に基づいて、前記変更ステップそれぞれの利得を制御する制御ステップと、
前記制御ステップを開始させる開始ステップと、
を含むことを特徴とする利得調整方法。
【符号の説明】
【0079】
10 利得調整システム
20 送信機
30 電力増幅装置
301 第1の可変減衰器
302 第1の増幅器
303 A/Dコンバータ
304 電力測定部
305 第1の制御部
306 デジタル信号処理部
307 第2の可変減衰器
308 D/Aコンバータ
309 第2の増幅器
310 方向性結合器
311 検波器
312 第2の制御部
40 電力測定器
50 調整器
Srf RF信号
Sa0、Sa1、Saf、Sa2 調整信号
Sc1、Sc2 制御信号
Sp1、Sp2、Sp3 測定信号

【特許請求の範囲】
【請求項1】
無線周波数信号の電力を変更する複数の変更手段と、
前記複数の変更手段によって変更された前記無線周波数信号それぞれの電力を測定する測定手段と、
前記複数の変更手段によって変更された前記無線周波数信号それぞれの適正な電力と、前記測定手段によって測定された電力との比較に基づいて、前記変更手段それぞれの利得を制御する制御手段と、
を備えることを特徴とする電力増幅装置。
【請求項2】
前記変更手段それぞれは、
前記無線周波数信号の電力を減衰させる可変減衰手段と、
前記無線周波数信号の電力を増幅する定率増幅手段と、を備え、
前記制御手段は、
前記可変減衰手段それぞれの利得を制御する、
ことを特徴とする請求項1に記載の電力増幅装置。
【請求項3】
前記変更手段それぞれは、
前記無線周波数信号の電力を増幅する、
ことを特徴とする請求項1に記載の電力増幅装置。
【請求項4】
前記制御手段は、
前記複数の変更手段によって電力が変更された前記無線周波数信号それぞれの適正な電力と、前記測定手段によって測定された電力との比較、及び、この比較に基づく前記変更手段それぞれの利得の制御を交互に行う、
ことを特徴とする請求項1乃至3のいずれか一項に記載の電力増幅装置。
【請求項5】
請求項1乃至4のいずれか一項に記載の電力増幅装置を有することを特徴とする基地局装置。
【請求項6】
無線周波数信号を生成する信号生成手段と、
請求項1乃至4のいずれか一項に記載の電力増幅装置と、
前記電力増幅装置が備える制御手段に制御を開始させる開始手段と、
を備えることを特徴とする利得調整システム。
【請求項7】
前記開始手段は、
前記電力増幅装置が備える複数の変更手段のうち、前記制御手段によって利得が調整されておらず、前記信号生成手段から出力された前記無線周波数信号が前記変更手段を経由せずに入力される前記複数の変更手段のいずれか、又は、前記制御手段によって利得が調整された前記変更手段それぞれが出力する前記無線周波数信号が前記変更手段を経由せずに入力される前記複数の変更手段のいずれかから順に利得を制御するための動作を前記制御手段に開始させる、
ことを特徴とする請求項6に記載の利得調整システム。
【請求項8】
無線周波数信号を生成する信号生成ステップと、
前記無線周波数信号の電力を変更する複数の変更ステップと、
前記複数の変更ステップによって変更された前記無線周波数信号それぞれの電力を測定する測定ステップと、
前記複数の変更ステップによって変更された前記無線周波数信号それぞれの適正な電力と、前記測定ステップによって測定された電力との比較に基づいて、前記変更ステップそれぞれの利得を制御する制御ステップと、
前記制御ステップを開始させる開始ステップと、
を含むことを特徴とする利得調整方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2012−186530(P2012−186530A)
【公開日】平成24年9月27日(2012.9.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−46335(P2011−46335)
【出願日】平成23年3月3日(2011.3.3)
【出願人】(390010179)埼玉日本電気株式会社 (1,228)
【Fターム(参考)】