説明

電力変換システム

【課題】単位電力変換器を直流回路および交流回路で並列接続する構成を有する電力変換器においては、該並列接続された単位電力変換器のスイッチングにより、該単位電力変換器を接続する直流回路に流れる振動電流や、また、上記電力変換器が、中性点が接地された変圧器を介して交流系統に電力を送電する場合、接地回路を介して流れる零相電流を抑制可能とする。
【解決手段】本発明の電力変換器は、単位電力変換器の直流端子の正極と負極それぞれにギャップ付きリアクトルを接続し、該単位電力変換器を、該リアクトルを介して他の単位電力変換器に接続する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電力変換システムに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、半導体スイッチング素子を用いて電力変換する技術が多く用いられるようになってきている。この技術では、交流電力を半導体スイッチング素子で導通/遮断した後にコンデンサで平滑することで、正側の端子と負側の端子間に直流電流を得たり、あるいは、逆に、直流電力を半導体スイッチング素子で導通/端子することで交流電力を得ることができる。
【0003】
上記技術を組み合わせて、例えば、交流電力を半導体スイッチング素子で導通/遮断した後にコンデンサで平滑して直流電力を得て、さらに、この直流電力を半導体スイッチング素子で導通/遮断することで、所望の周波数の交流電力を得ることができる。
【0004】
この場合に、直流電流を得る過程で振動電流が発生するので、振動電流を抑制するために、リアクトルと抵抗を挿入する技術が考え付かれた。このような技術は例えば特許文献1に記載されている。
【0005】
一方、近年、再生可能エネルギーシステムの大容量化が進んでおり、太陽光パネルや風力用発電機から発生する電力を変換する半導体電力変換器も、容量が増加している。電力変換器の出力仕様は、導入されるシステム容量により異なることより、様々な容量仕様に対応するために、交流電力を直流電力に変換(あるいは、直流電力を交流に変換)する電力変換器を単位電力変換器として構成して、この単位電力変換器を並列に接続する技術が考え付かれた。このような技術は例えば非特許文献1に記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2003−319639号公報
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】「ABB low voltage wind turbine converters - ACS800, liquid-cooled 0.6 to 6 MW」, ABB, 2010
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上記の特許文献1に示される技術では、交流を直流に変換する半導体スイッチング素子と、直流を交流に変換する半導体スイッチング素子とが直接に結ばれる配線が形成されており、そのため、その配線を介して零相電流が流れ得るため、零相電流発生による該配線および該配線が接続される電気部品に係る温度が上昇してしまい、特に、コンデンサの寿命を短くしてしまう。
【0009】
また、上記の非特許文献に示される技術では、並列接続された単位電力変換器のスイッチング動作により、該単位電力変換器を接続する直流回路部分に振動電流が流れ、該単位電力変換器に内蔵されたコンデンサや、回路配線の発熱が増し、コンデンサの寿命を縮めてしまう。
【0010】
特に、上記電力変換器が、中性点が接地された変圧器を介して交流系統に電力を送電する太陽光発電用インバータや風力発電用インバータである場合、該電力変換器の接続する太陽光パネルと大地間浮遊容量や発電機巻線と発電機筺体間浮遊容量が大きく、該浮遊容量と、上記電力変換器と、変圧器中性点と、大地(接地回路)と、を介してスイッチング周波数を含む零相電流が流れる。該零相電流は直流回路を流れるため、上記直流回路配線および直流回路配線が接続される部品の発熱がさらに増し、特に、上記直流コンデンサの寿命をさらに縮めてしまう。
【0011】
本発明の目的は、回路に流れる零相電流あるいは振動電流を抑制して、回路部品の寿命を長く保てる電力変換システムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記目的を達成するために、本発明では、第1の正側直流端子と第1の負側直流端子とからなる第1の直流側端子に印加される直流電力を第1の半導体スイッチング素子により交流電力に変換する第1の電力変換ユニットと、第2の正側直流端子と第2の負側直流端子とからなる第2の直流側端子と、第2の半導体スイッチング素子とを有し、前記第2の半導体スイッチング素子が、交流電力或いは直流電力を変換して前記第2の直流側端子に出力するか、或いは、前記第2の直流側端子に印加される直流電力を交流電力に変換する第2の電力変換ユニットと、前記第1のスイッチング素子或いは前記第2のスイッチング素子のスイッチング動作に伴う変動を平滑するコンデンサを有し、前記第1の正側直流端子と、前記第2の正側直流端子をリアクトルを介して接続し、前記第1の負側直流端子と、前記第2の負側直流端子をリアクトルを介して接続するように構成した。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、回路に流れる零相電流あるいは振動電流を抑制して、回路部品の寿命を長く保つことが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】実施例1の電力変換器の説明図。
【図2】実施例2の電力変換器の説明図。
【図3】実施例2の電力変換器の説明図。
【図4】実施例1の単機電力変換器の説明図。
【図5】実施例2のチョッパの説明図。
【図6】実施例2の電力変換器の説明図。
【図7】実施例1の電力変換器の直流回路に挿入するリアクトルの説明図。
【図8】実施例1の電力変換器の直流回路に挿入するリアクトルの説明図。
【図9】実施例2の電力変換器の説明図。
【図10】実施例1の電力変換器の接続される永久磁石発電機の説明図。
【図11】実施例1の電力変換器のゲート信号算出演算部の説明図。
【図12】実施例1の電力変換器での零相電流流路説明図。
【図13】実施例1の電力変換器での零相電流流路説明図。
【図14】実施例1の電力変換器の説明図。
【図15】実施例1の電力変換器の説明図。
【図16】実施例1の電力変換器のオンディレイ発生回路のタイミングチャート。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明の詳細を、図面を用いながら説明する。
【実施例1】
【0016】
本実施例を、図1を用いて説明する。
【0017】
<概略構成>
図1に示す電力変換器は、複数の単位電力変換器で構成される風力発電用電力変換器である。符号1は本実施例の電力変換器、符号80はブレード、符号40は永久磁石発電機、符号70はブレード80の回転を永久磁石発電機回転子に伝えるシャフト(動力伝達シャフト)、符号30は電力変換器1を電力系統10000に連系するための連系トランスである。連系トランス30の二次側中性点は、電位固定のために接地されている。
【0018】
<概略機能>
電力変換器1は、永久磁石発電機40の出力する交流電力を直流電力に変換するコンバータ200、該コンバータの直流出力電力を電力系統と同じ周波数の交流電力に変換して系統に送電するインバータ100、およびインバータ100とコンバータ200を制御する制御装置1000を備える。
【0019】
ブレード80は、風のエネルギーを回転エネルギーに変換し、シャフト70を介して該回転エネルギーを永久磁石発電機40に伝達する。永久磁石発電機40の構成を、図10に示す。
【0020】
シャフト70は永久磁石発電機40の回転子40rに機械的に接続され、シャフト70は永久磁石発電機40の回転子40rを回転させる。該回転子は永久磁石40mを備え、40mの作る磁束が永久磁石発電機40の固定子巻線40sa,40sb,40scを鎖交することにより該固定子巻線に誘起電圧を発生させる。
【0021】
永久磁石発電機40は、操作者の感電を防ぐため、筺体が接地されている。
【0022】
図1に戻り、本発明の電力変換器1の説明を続ける。
【0023】
コンバータ200はIGBTにより構成される電力変換器であり、制御装置1000から出力されるゲート信号1000G2に基づき該IGBTをオン・オフすることで所望の交流電圧を永久磁石発電機40に出力する。永久磁石発電機40の固定子巻線40sには、回転子40rの回転により発生する起電力と、コンバータ200の出力する交流電圧が印加される。該巻線には該誘起電力と該交流電圧との差と、固定子巻線インピーダンスにより決まる発電機電流が流れる。
【0024】
よって、制御装置1000が永久磁石発電機40に適切なゲート信号(IGBTゲート信号)1000G2を出力することにより、コンバータ200は所望の交流電力を永久磁石発電機40より受電することができる。
【0025】
本実施例では、発電機として永久磁石発電機を示しているが、発電機は発電機外部より直流励磁電流が供給される同期発電機であってもよい。
【0026】
インバータ100は、インバータ100内のIGBTのスイッチングにより、コンバータ200によって変換された直流電力を交流電力に変換し、該交流電力を電力系統(交流系統)10000に出力する。
【0027】
具体的には、変圧器30のインバータ100側端子電圧に対して、位相の進んだ交流電圧をインバータ100より出力させるよう、制御装置1000からゲート信号(IGBTゲート信号)1000G1を出力することにより、インバータ100はコンバータ200の整流した直流電力を交流電力に変換して系統に出力する。
【0028】
<詳細構成>
電力変換器1の構成を、以下に詳細に説明する。
【0029】
<結線>
インバータ100は単位電力変換器であるインバータ10,11、およびリアクトル51,52,55,56により構成される。インバータ10の正極直流端子10Pにはリアクトル51の一端が、インバータ10の負極直流端子10Nにはリアクトル52の一端が接続される。
【0030】
同様に、インバータ11の正極直流端子11Pと負極直流端子11Nにはそれぞれリアクトル55,56の一端が接続される。
【0031】
コンバータ200は単位電力変換器であるコンバータ20,21およびリアクトル53,54,57,58により構成される。コンバータ20の正極直流端子20Pにはリアクトル53が、コンバータ20の負極直流端子20Nにはリアクトル54が接続される。
【0032】
同様に、コンバータ21の正極直流端子21Pと負極直流端子21Nにはそれぞれリアクトル57,58の一端が接続される。
【0033】
リアクトル51,53,55,57の他端はそれぞれ正極直流配線8001に接続され、リアクトル52,54,56,58の他端はそれぞれ負極直流配線8002に接続される。
【0034】
<変換器構成詳細>
単位電力変換器であるインバータ10,11,コンバータ20,コンバータ21は、それぞれ同じ主回路構成を有する。該主回路構成を、インバータ10を例に、図4を用いて説明する。
【0035】
インバータ10は、IGBT10a,10c,10e,10g,10i,10kおよび該IGBTに逆並列接続された還流ダイオード10b,10d,10f,10h,10j,10lにより構成される3相電力変換部、直流平滑コンデンサ10m、および交流リアクトル10nにより構成される。交流リアクトル10nは三脚リアクトルである。
【0036】
該IGBTは、制御装置1000から出力されるゲート信号1000G1によりオン・オフ制御され、リアクトル10nの電力変換部側に直流平滑コンデンサ10mの端子間電圧をパルス幅変調した交流電圧を出力する。
【0037】
上記ゲート信号は、図11に示すように、制御装置1000内で演算された交流出力電圧指令値と搬送波である三角波の大小比較により作成される。
【0038】
具体的には、図示しない搬送波算出器の出力である搬送波vtriと、図示しないU相,V相,W相電圧指令値算出器の出力であるU相,V相,W相電圧指令値vu_ref,vv_ref,vw_refが比較器1000c1,1000c2,1000c3にそれぞれ入力される。比較器1000c1,1000c2,1000c3は、電圧指令値が搬送波vtriより大きい時は1、その他の場合は0を出力する。
【0039】
反転器1000i1,1000i2,1000i3は、比較器1000c1,1000c2,1000c3の出力を論理反転した値を出力する。
【0040】
正極側IGBTのゲート信号は比較器の出力信号、負極側IGBTのゲート信号は反転器の出力信号に対応するが、IGBTはターンオンもしくはターンオフするために有限の時間を必要とする。この有限の時間の間、IGBTを介して直流平滑コンデンサIGBTを介した直流平滑コンデンサ10mの短絡を回避するため、比較器および反転器の出力を図16に示すようにターンオンのときだけゲート信号をTd秒遅延させるオンディレイ回路1000d1,1000d2,1000d3,1000d4,1000d5,1000d6にそれぞれ入力し、その出力をゲート信号として単位電力変換器に出力する。ここで、Tdは通常数マイクロ秒である。
【0041】
<動作の説明>
本実施例の機能およびその機能について、以下に詳細に説明する。
【0042】
特徴は、単位電力変換器の直流端子の正極と負極両方にリアクトルを備える点にある。
該リアクトルを備えることにより、単位電力変換器間の直流回路を流れる振動電流を制限することができる。それと同時に、電力変換器1を流れる零相電流を抑制することができる。
【0043】
以降、振動電流抑制効果と、零相電流抑制効果について、図を用いて順に説明する。
【0044】
まず、振動電流抑制効果を説明する。
【0045】
インバータ10とインバータ11は、交流端子および直流端子が並列に接続されている。IGBTのスイッチングに要する時間や、交流端子に接続されるリアクトル(インバータ10では交流リアクトル10n)のインピーダンスには個体差があり、インバータ10と11に同じゲート信号を与えても、インバータ10と11の電力変換部から直流回路に流入する電流には差が生じ、インバータ10とインバータ11の直流平滑コンデンサ10mと11mの端子電圧には差が生じ、振動電流が発生する。
【0046】
電力変換部から直流回路に流入する電流は、インバータ10および11のIGBTがスイッチングされるたびに変化するため、直流回路の振動電流は持続する。
【0047】
リアクトル(直流リアクトル)51,52,53,54を挿入しない場合、直流回路には直流平滑コンデンサ10m,11m、および直流平滑コンデンサを結ぶ配線のインダクタンスにより決まる共振周波数成分をもつ振動電流が流れる。この回路の共振周波数がIGBTスイッチング周波数近傍にある場合、直流回路には過大なリプル電流が流れ、直流回路や平滑コンデンサの異常過熱を引き起こす。
【0048】
リアクトル(直流リアクトル)51,52,53,54を挿入することにより、直流回路の共振周波数を調整することが可能となり、過大な振動電流を回避することができる。
具体的には、コンデンサ10m,11mのキャパシタンス,リアクトル(直流リアクトル)51,52,53,54のインダクタンスにより決まる共振周波数を、インバータ10,11のスイッチング周波数より低くすることにより、インバータ100内を流れる過大な振動電流の発生を回避することができる。
【0049】
また、該リアクトルを鉄心付きリアクトルとすることにより、該リアクトルを振動電流が流れた際に発生するヒステリシス損が、該振動電流の減衰を促進する効果を奏する。
【0050】
さらに、該鉄心付きリアクトルにギャップを設けることにより、直流電流による鉄心磁気飽和の回避と、漂遊損増加による振動電流減衰効果を得ることができる。
【0051】
リアクトル(直流リアクトル)51の構成を、図7,図8を用いて説明する。本実施例のリアクトルは、導体の周りに磁性体を配置する外鉄形リアクトルである。
【0052】
直流回路800の正極回路8001は、銅バー5106を介してリアクトルの主電流回路である銅バー5102に接続され、直流電流は銅バー5102、および銅バー5105を流れてインバータ10に流入する。
【0053】
銅バー5102には非磁性体5200を介して鉄心51011,51012が接触している。鉄心51011,51012は非磁性体5300で固定される。鉄心51011,51012は図示しない非磁性体で固定されており、鉄心(磁性体)51011と51012の間には空隙を設ける。本空隙は直流電流による磁気飽和回避、および漏れ磁束による浮遊損発生をさせるため、例えば0.5mmの空隙を設ける。
【0054】
鉄心51011には電位固定のための配線5110が接続され、銅バー5102に接続される。また、鉄心50111と51012は非磁性体(ステンレス帯)5300で機械的に固定する。鉄心51012の電位は、該ステンレス帯,鉄心51011,配線5110を介して銅バー5102に固定される。
【0055】
また、銅バー5102は絶縁体5103,5104を介して電力変換器(電力変換装置)1の筐体に固定される。該筐体は操作者の感電を避けるため、接地されている。
【0056】
本構成とすることにより、鉄心電位を主電流が流れる銅バー5102に固定できるため、筐体と鉄心との間の絶縁が容易になる。また、直流リアクトルを正極・負極それぞれに分割して配置するため、リアクトル1つあたりの必要な空間を縮小できるため、電力変換器1筐体内でのリアクトル設置場所自由度が増す。
【0057】
次に、零相電流抑制効果について説明する。
【0058】
コンバータ200は、風速により変わる永久磁石発電機40の誘起電圧周波数および振幅に応じた交流電圧を永久磁石発電機40に出力する。一方、インバータ100は連系する系統の周波数および振幅に応じた交流出力電圧をトランス側30に出力する。
【0059】
ゆえに、インバータ100の出力する交流電圧とコンバータ200の出力する交流電圧が異なり、インバータ100とコンバータ200内部のIGBTのスイッチングタイミングも異なる。
【0060】
インバータ100とコンバータ200のIGBTのスイッチング状態が異なる場合、インバータ100とコンバータ200の交流端子零相電圧に差が生じ、風力発電システム内部では、電力変換器(電力変換装置)1,トランス30の中点,大地,永久磁石発電機40の筐体,永久磁石発電機40の筐体と固定子巻線40sa,40sb,40sc間の浮遊容量,固定子巻き線を介し、零相電流が流れる。
【0061】
例として、インバータ100の正極側IGBTがすべてオン、コンバータ200の負極側IGBTがオンのときの本実施例等価回路を図12に、インバータ100の負極側IGBTがすべてオン、コンバータ200の正極側IGBTがすべてオンのときの本実施例等価回路を図13に示す。ここで、インバータ100はインバータ10と11を縮退したモデルで表しており、電流の流れる回路を実線、オフされたIGBTにより電流が流れなくなった回路を破線で示している。コンバータ200についても同様である。
【0062】
永久磁石発電機40は、固定子巻線40sa,40sb,40scの漏れインダクタンスと、該巻線と筐体間の浮遊容量の分布定数回路40seq、および永久磁石40mが回転することにより上記固定子巻線に発生した誘起電圧40e0の直列回路として表される。
【0063】
図12においては、インバータ100およびコンバータ200の直流平滑コンデンサが電源となり、インバータ100,トランス30,トランス30中性点,大地,永久磁石発電機40筐体,永久磁石発電機40の浮遊容量,固定子巻線40sa,40sb,40sc、そしてコンバータ200を零相電流が流れる。
【0064】
図13においては、上記直流平滑コンデンサが電源になることは図12と同じであるが、IGBTのスイッチング状態が異なるため、図12と逆方向に零相電流が流れる。
【0065】
このように、電力変換器1を流れる零相電流は、IGBTのスイッチング状態により極性が変わる交流電流となる。
【0066】
数メガワットの風力発電システムでは、永久磁石発電機40の筐体と固定子巻き線40sa,40sb,40scの間の浮遊容量が大きく、上記零相電流が流れやすい。
【0067】
また、スイッチング周波数が数kHzの電力変換器の場合、浮遊容量のインピーダンスが比較的小さくなり、永久磁石発電機40の浮遊容量を介した零相電流が、より流れやすくなる。
【0068】
さらに、インバータ10,11,コンバータ20,21の交流リアクトルが三脚鉄心の場合、零相に対するインダクタンスが小さく、より大きな零相電流が流れる。
【0069】
ここで、参考のため、特許文献1で開示される電力変換器と比較すると、特許文献1で開示される電力変換器では、直流回路800のうち、正極もしくは負極側のみにリアクトルが挿入されている。そのため、零相電流はリアクトルの挿入されていない回路を流れ、該零相電流を抑制する大きな効果は望めない。
【0070】
一方、本実施例の電力変換器1は、直流回路の正極,負極両方にリアクトルを備えるため、高周波の零相電流回路のインダクタンスを増すことになるため、高周波零相電流を効果的に抑制することができる。また、該リアクトルをギャップ付リアクトルとすることにより、該リアクトルと永久磁石発電機40の浮遊容量により構成されるLC回路の振動電流が発生した場合、該振動電流の該リアクトルに発生させるヒステリシス損と浮遊損により該振動電流のダンピング効果が生じ、振動電流の低減が期待できる。
【0071】
以上の理由により、本実施例の電力変換器は、単機電力変換器間の直流振動電流と、電力変換器を流れる零相電流を両方とも低減することができる。
【0072】
本実施例では、電力変換器1は永久磁石発電機に接続されているが、接続される発電機が交流励磁発電機であり、回転子のシャフトがスリップリングを介して接地されている場合は、同様の効果を奏す。
【0073】
また、本実施例の連系トランスは二次側の中性点が接地されているが、中性点が非接地または抵抗接地されているシステムにおいても、トランスの鉄心が接地されていれば零相電流が二次巻線と鉄心間の浮遊容量を介して流れるため、同様の効果を奏す。
【0074】
また、本実施例では、電力変換器1は永久磁石発電機に接続されているが、図14に示すように該発電機の変わりに連系トランス30bを介して別の電力系統(交流系統)3000に接続し、電力系統(交流系統)1000と3000との間の潮流を制御する潮流制御用電力変換装置でも同様の効果を奏す。
【0075】
また、本実施例では、電力変換器1は永久磁石発電機に接続されているが、図15に示すように電力変換器1が同一変電所1000sに接続する2つの送電線に連系し、送電線間の潮流を制御する送電線電流バランス用電力変換装置でも同様の効果を奏す。
【実施例2】
【0076】
図2を用いて、本実施例を説明する。本実施例と実施例1との差は、電力変換器20,21がチョッパ60,61に変わった点である。以上、実施例1と異なる点のみ説明する。また、図2において、図1と同一機能部は同一符号を付け、重複する説明を防ぐ。
【0077】
本実施例の電力変換器1は、太陽光パネルの発電電力を交流電力に変換して交流系統に出力する太陽光インバータである。
【0078】
電力変換器1は、太陽光パネル90と91により発電した直流電力をチョッパ60,61で昇圧し、昇圧された直流電力をインバータ100で交流電力に変換し、連系トランス30を介して該交流電力を系統に出力する。
【0079】
チョッパ60の主回路を図5に示す。チョッパ60は、IGBT60b,還流ダイオード60a,60c,直流平滑コンデンサ60d,昇圧用リアクトル60eにより構成される。
【0080】
IGBT60bは制御装置1000の出力するゲート信号によりオン・オフ制御される。電圧の低い太陽光パネルから、電圧の高い直流回路への送電を実現するチョッパ60の昇圧動作について、簡単に説明する。
【0081】
IGBT60bがオンのとき、太陽光パネル90はリアクトル60eを介して短絡されるため、リアクトル60eを流れる電流が増加する。IGBT60bがオフになると、リアクトル60eを流れていた電流は60aを介して直流回路に流入する。
【0082】
直流回路の電圧は、太陽光パネル90の出力電圧より低いため、IGBT60bがオフの間、リアクトル60eの電流は減衰するが、零まで電流が低減したときに還流ダイオード60a,60cによりリアクトル60eの流れる電流は零にクランプされる。
【0083】
再びIGBT60bがオンになるとリアクトル60eを流れる電流がゼロから増加し、IGBT60bがオフになると直流回路に太陽光パネル側から電流が流れる。以上がチョッパ60,61の昇圧動作原理である。
【0084】
数kW以上の太陽光パネルは、数10枚のパネルを直・並列接続したものであり、それぞれのパネルは感電防止のため、パネル支持具が接地されている。そのため、電力変換器1から見込んだ大地までの浮遊容量901,911が極めて大きい。
【0085】
太陽光パネルの出力する電力は直流であるため、チョッパ60,61の出力電圧は直流である。一方、インバータ100の出力する電圧は交流である。そのため、インバータ100とチョッパ60,61のIGBTスイッチングタイミングは異なる。ゆえに、実施例1同様、太陽光パネルの大地に対する浮遊容量を介して零相電流が流れる。
【0086】
本実施例の電力変換器1は、インバータ10,11の直流端子、およびチョッパ60,61の直流端子にリアクトル(直流リアクトル)51乃至58が接続され、該リアクトルを介してインバータ100とチョッパ60,61が直流回路で接続されているため、大地を介して流れる零相電流を抑制できる。
【0087】
また、チョッパコンデンサ容量とリアクトル53,54,57,58のインダクタンスで決まる共振周波数がチョッパスイッチング周波数より低くなるよう、リアクトル53,54,57,58のインダクタンスを選定することで、過大な直流振動電流が流れることを回避できる。
【0088】
また、図6に示すように昇圧チョッパを介さずに直接太陽光パネルがインバータ100に接続される場合も、インバータ100のスイッチングにより、大地に対する直流回路電位が変動するため、大地を介した零相電流が流れる。本実施例のリアクトル(直流リアクトル)51,52,53,54は浮遊容量901を介して流れる零相電流回路にインダクタンスを挿入することができるため、同様の効果を奏することができる。
【0089】
また、図3に示すように、系統から受電した電力をインバータ100で直流に変換し、コンバータ200から交流電圧を負荷5に供給し、該交流系統で停電が発生した場合はチョッパ62を介して蓄電池92から負荷5に電力を供給する無停電電源においても、蓄電池の大地間浮遊容量921,931を介して零相電流がインバータ100およびチョッパ62を介して流れる。該零相電流に対しても、図2記載の電力変換器1と同様の効果を奏す。
【0090】
また、図9に示すように、ウィンドファーム3000の発電電力変動を検出し、電力変換器1を介した蓄電池92の充放電を実施することにより、電力系統に送電される交流発電電力変動を抑制する蓄電システムにおいても、図2記載の電力変換器1と同様の効果を奏す。
【0091】
本実施例によれば、単位電力変換器間の振動電流の抑制と、零相電流の低減を同時に実現することができる。
【0092】
さらに、交流電力を直流電力に変換する電力変換システムにおいても、直流振動電流と零相電流を低減可能である。
【0093】
すなわち、本実施の電力変換器では、ギャップ付きリアクトルを直流回路の正極側および負極側に挿入することにより、零相電流の流れる回路インピーダンスを増すことができ、零相電流が低減され、直流回路電流が低減される。そのため、直流回路の温度上昇,直流コンデンサの温度上昇を抑制できる。
【0094】
また、リアクトルを直流回路に挿入することにより、直流コンデンサと直流回路を流れる高周波振動電流を抑制することができるため、直流コンデンサの温度上昇を抑制できる。
【0095】
さらに、上記リアクトルをギャップ付きとすることにより、浮遊損が増加し、上記リアクトルと直流コンデンサにより構成されるLC回路を流れる振動電流の減衰を促進することができるため、直流コンデンサを流れる振動電流を低減でき、直流コンデンサの温度上昇を抑制できる。
【符号の説明】
【0096】
1 電力変換器
10,11,100 インバータ
20,21,200 コンバータ
40 永久磁石発電機
51,52,53,54,55,56,57,58,500,501 リアクトル
60,61,62 チョッパ
70 シャフト
80 ブレード
90,91 太陽光パネル
901,911,921,931 浮遊容量
1000 制御装置
1000G1,1000G2,1000G3 ゲート信号
3000 ウィンドファーム
5102,5105,5106 銅バー
5103,5104 絶縁体
5110 配線
5200,5300 非磁性体
6000 電力変換器1の筐体
10000,30000 電力系統
51011,51012 鉄心

【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1の正側直流端子と第1の負側直流端子とからなる第1の直流側端子に印加される直流電力を第1の半導体スイッチング素子により交流電力に変換する第1の電力変換ユニットと、
第2の正側直流端子と第2の負側直流端子とからなる第2の直流側端子と、第2の半導体スイッチング素子とを有し、前記第2の半導体スイッチング素子が、交流電力或いは直流電力を変換して前記第2の直流側端子に出力するか、或いは、前記第2の直流側端子に印加される直流電力を交流電力に変換する第2の電力変換ユニットと、
前記第1のスイッチング素子或いは前記第2のスイッチング素子のスイッチング動作に伴う変動を平滑するコンデンサを有し、
前記第1の正側直流端子と、前記第2の正側直流端子をリアクトルを介して接続し、前記第1の負側直流端子と、前記第2の負側直流端子をリアクトルを介して接続することを特徴とする電力変換システム。
【請求項2】
請求項1記載の電力変換システムであって、上記リアクトルの少なくともいずれかが鉄心を備え、該鉄心がギャップを有することを特徴とする電力変換システム。
【請求項3】
請求項2記載の電力変換システムであって、上記リアクトルの少なくともいずれかを構成する鉄心のギャップが0.5mm以上であることを特徴とする電力変換システム。
【請求項4】
請求項2もしくは請求項3記載の電力変換システムであって、上記リアクトルの少なくともいずれかが外鉄形リアクトルであることを特徴とする電力変換システム。
【請求項5】
請求項2から請求項4のいずれかに記載の電力変換システムであって、該リアクトルのうち正極側に接続されるリアクトルの鉄心の電位を直流回路の正極に固定する手段を有することを特徴とする電力変換システム。
【請求項6】
請求項2から請求項4のいずれかに記載の電力変換システムであって、該リアクトルのうち負極側に接続されるリアクトルの鉄心の電位を直流回路の負極に固定する手段を有することを特徴とする電力変換システム。
【請求項7】
請求項3から請求項6のいずれかに記載の電力変換システムであって、鉄心を貫通する金属棒を直流回路電流が流れ、該金属棒を絶縁体を介して筺体に固定することを特徴とする電力変換システム。
【請求項8】
請求項1から請求項7のいずれかに記載の電力変換システムであって、前記電力変換器の直流平滑コンデンサ容量と直流回路に接続されるリアクトルの直列回路の共振周波数が、前記電力変換器のスイッチング周波数より低いことを特徴とする電力変換システム。
【請求項9】
請求項1から請求項8のいずれかに記載の電力変換システムであって、該電力変換システムが交流出力端子を備え、該交流出力端子が高調波フィルタリアクトルを介し、少なくとも2つの異なる電源に接続されることを特徴とする電力変換システム。
【請求項10】
請求項9記載の電力変換システムであって、前記電源の一つが筺体接地された発電機であることを特徴とする電力変換システム。
【請求項11】
請求項9記載の電力変換システムであって、前記電源の一つが蓄電池であることを特徴とする電力変換システム。
【請求項12】
請求項1から11のいずれかに記載の電力変換システムであって、少なくとも1つの交流系統リアクトルを備え、該リアクトルの鉄心が三脚鉄心であることを特徴とする電力変換システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【公開番号】特開2012−178938(P2012−178938A)
【公開日】平成24年9月13日(2012.9.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−41114(P2011−41114)
【出願日】平成23年2月28日(2011.2.28)
【出願人】(000005108)株式会社日立製作所 (27,607)
【Fターム(参考)】