説明

電力変換装置

【課題】
過熱等の異常状態が発生した直後に短絡電流が発生した場合において、短絡保護処理を行う前にスイッチング素子に流れる短絡電流を遮断してしまう事態を防止し、過大なサージ電圧から適切に保護することができる電力変換装置を提供する。
【解決手段】
スイッチング素子Qを駆動する駆動回路11と、スイッチング素子Qに流れる電流を検出する電流検出手段13と、短絡状態を検出したとき、スイッチング素子Qに流れる電流を所定範囲に制限して所定時間駆動を継続する短絡保護手段14と、を備え、スイッチング素子Qを停止すべき異常状態が検出されたときに、駆動回路11がスイッチング素子Qの駆動を停止する電力変換装置1において、異常状態が検出された後であって異常状態に基づく駆動停止が実行される前に短絡状態を検出した場合に、異常状態に基づく駆動停止よりも短絡保護手段14に基づく短絡保護処理を優先して実行する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、過剰な電流が流れたときに保護動作を行う電力変換装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
IGBT、MOSFET等をスイッチング素子として用いる電力変換装置では、スイッチング素子の破損を防止するべく、過熱やゲート電圧低下といった異常状態が発生したときにスイッチング素子の駆動を停止する保護機能が駆動回路に設けられている。スイッチング素子の駆動を停止すると、スイッチング素子に流れている電流Iと浮遊インダクタンスLに起因して、L×dI/dtに相当するサージ電圧が発生する。そのため、駆動回路は、サージ電圧がスイッチング素子の耐圧よりも小さくなるように、ターンオフ時間を設定する。
【0003】
しかしながら、短絡状態時に通常のターンオフ時間でスイッチング素子の駆動を停止すると、スイッチング素子に過剰な電流が流れているため、スイッチング素子の耐圧以上のサージ電圧が発生し、スイッチング素子が破損してしまう。
【0004】
そこで、短絡電流を検出すると、最初にスイッチング素子に流れる電流を所定範囲に制限する短絡保護回路を設け、短絡保護回路によって電流を所定範囲に制限した後に、駆動回路によりスイッチング素子に流れる電流を遮断する技術が開示されている(例えば、特許文献1参照)。
【特許文献1】特開平5−218836
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、例えば、スイッチング素子の過熱という異常状態を検出したすぐ直後に短絡電流がスイッチング素子に流れてしまうと、駆動回路の過熱保護機能が働いて、スイッチング素子に流れる電流を制限する前に、スイッチング素子に流れる短絡電流を遮断してしまう。この結果、スイッチング素子に流れる電流を制限せずにスイッチング素子に流れる短絡電流を遮断してしまい、スイッチング素子に過大なサージ電圧が発生し、素子破壊の恐れが生じる。
【0006】
本発明は、上記課題に鑑みたものであり、短絡状態が起きたときにスイッチング素子の保護を行うことができる電力変換装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
請求項1記載の発明は、スイッチング素子と、スイッチング素子を駆動する駆動回路と、スイッチング素子に流れる電流を検出する電流検出手段と、電流検出手段により短絡状態を検出したとき、スイッチング素子に流れる電流を所定範囲に制限して所定時間駆動を継続する短絡保護手段と、を備え、スイッチング素子を停止すべき異常状態が検出されたときに、駆動回路がスイッチング素子の駆動を停止する電力変換装置において、異常状態が検出された後であって異常状態に基づく駆動停止が実行される前に短絡状態を検出した場合に、異常状態に基づく駆動停止よりも短絡保護手段に基づく短絡保護処理を優先して実行することを特徴とする。
【0008】
上記構成によれば、異常状態に基づく駆動停止が行われる前に短絡状態を検出した場合には、短絡保護手段に基づく短絡保護処理を優先して実行する。この結果、短絡保護処理を行う前に、スイッチング素子に流れる短絡電流を遮断してしまう事態を防止することができ、過大なサージ電圧からスイッチング素子を適切に保護することができる。
【0009】
請求項2記載の発明は、電流検出手段が検出する電流が、短絡状態を検出する電流の短絡閾値より小さく、かつ、過電流常状態を検出する過電流閾値以上に設定した基準値を超えたときに、短絡状態及び過電流状態以外の異常状態に基づく駆動停止の実行処理を行わないことを特徴とする。
【0010】
上記構成によれば、上記基準値を、短絡閾値より小さくすることにより、短絡状態及び過電流状態以外の異常状態に基づく駆動停止の実行処理を行わないとする処理を早期に開始することができる。
【0011】
また、基準値を過電流閾値より大きくし、かつ、駆動停止の実行処理を行わないとする異常状態から過電流異常と短絡異常を除くことで、異常状態が発生したにも関わらず、スイッチング素子の駆動停止が行われないという事態を防止することができる。
【0012】
この結果、短絡状態を検出してから短絡保護処理を行うまでの間に時間差がある結果、短絡状態及び過電流状態以外の異常状態に基づく駆動停止が発生することを防ぐことができる。
【0013】
また、上記駆動停止の実行処理は、請求項3ないし5に記載したように、電流検出手段が検出した電流が所定値以下となったとき、短絡保護手段によりスイッチング素子に流れる電流が所定範囲に制限された後に、又は、短絡状態を検出してから所定の時間経過後に、短絡状態及び過電流状態以外の異常状態に基づく駆動停止の実行処理を実行可能な状態にする。
【0014】
上記構成のタイミングで実行処理を実行可能な状態にすることで、先に検出された異常状態に基づく遮断が行われるようになり、短絡保護による遮断処理と異常状態による遮断処理とが迅速な遮断処理が可能となる。
【0015】
請求項6記載の発明は、スイッチング素子と、スイッチング素子を駆動する駆動回路と、スイッチング素子に流れる電流を検出する電流検出手段と、を備え、スイッチング素子を停止すべき異常状態が検出されたときに、スイッチング素子をオンからオフにするのに要するターンオフ時間を異常状態時に応じて切り替えてスイッチング素子の駆動停止を行う電力変換装置において、第1の異常状態が検出された後であって、第1の異常状態に基づく駆動停止が実行される前に、第1の異常状態よりもターンオフ時間が長い第2の異常状態を検出した場合には、第1の異常状態に基づく駆動停止よりも第2の異常状態に基づく駆動停止を優先して実行することを特徴とする。
【0016】
第1の異常状態に基づく駆動停止よりも第2の異常状態に基づく駆動停止を優先して実行する結果、例えば、過熱異常が検出された直後に、過電流異常が検出されたとしても、ターンオフ時間が短い第1の異常状態に基づく駆動停止は行われず、ターンオフ時間が長い第2の異常状態に基づく駆動停止、すなわち、ソフト遮断が行われるため、サージ電圧の抑制の発生を効果的に防止することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
(全体構造)
図1に本発明の実施形態である電力変換装置の全体構成図、図2に本発明の実施形態である電力変換装置の要部構成を示す。
【0018】
電力変換装置1は、スイッチング素子Q1〜Q6と、スイッチング素子Q1〜Q6を駆動する駆動回路11と、スイッチング素子Q1〜Q6に流れる電流を検出する電流検出手段13と、電流検出手段13により短絡状態を検出したとき、スイッチング素子Q1〜Q6に流れる電流を所定範囲に制限して所定時間駆動を継続する短絡保護手段14と、を備える。電力変換装置1は、バッテリ2から供給される電力を所望の電力に変換して、負荷であるモータ3に出力する。
【0019】
スイッチング素子Q1〜Q6はそれぞれ駆動回路11によって駆動される。スイッチング素子Q1、Q3、Q5は、バッテリ2の正端子と接続され、スイッチング素子Q2、Q4、Q6はバッテリ2の負端子と接続される。スイッチング素子Q1〜Q6には、フリーホイールダイオード(FWD)D1〜D6が並列に接続される。バッテリ2と並列に接続されるコンデンサCは、バッテリ2からの電力が供給される電源ラインの電圧を平滑するために用いられる。スイッチング素子Q1とスイッチング素子Q2、スイッチング素子Q3とスイッチング素子Q4、スイッチング素子Q5とスイッチング素子Q6は、それぞれ一対の直列体として接続される。それぞれ一対の直列接続対の中点は、モータ3のU相、V相及びW相と接続される。
(駆動回路)
駆動回路11は、スイッチング素子Qの制御端子に電圧を印加することでスイッチング素子Qを駆動する回路であり、スイッチング素子Qを停止すべき異常状態を検出すると、スイッチング素子Qの駆動を停止する。
【0020】
駆動回路11は、MOSFET31及びMOSEFT32と接続されており、ゲート駆動電源35の電圧を断続することでスイッチング素子Qを駆動する。駆動回路11がスイッチング素子Qを駆動する場合には、MOSFET31をオン、MOSFET32をオフとし、ゲート駆動電源35の電圧をスイッチング素子Qのゲート端子に印加する。一方、駆動回路11がスイッチング素子Qを遮断する場合には、MOFFET31をオフ、MOSFET32をオンにし、ゲート駆動電源35の電圧を遮断する。スイッチング素子Qに電圧が印加されると、コレクタ・エミッタ間が通電し、負荷に電力を供給できるようになる。
【0021】
駆動回路11は、スイッチング素子Qを停止すべき異常状態を検出すると、スイッチング素子Qに印加するゲート電圧を遮断して、スイッチング素子Qを異常状態から保護する。
【0022】
スイッチング素子Qを停止すべき異常状態としては、スイッチング素子Qの過熱、感温ダイオードの断線、スイッチング素子Qに印加するゲート電圧の低下、短絡異常、過電流異常といった異常状態があげられる。短絡異常が発生した場合には、短絡保護手段14により、スイッチング素子Qに流れる電流を所定範囲に制限した後に、駆動回路11がゲート電圧を遮断し、過大なサージ電圧の発生を防止する。短絡保護手段14については後述する。
(温度センサ)
温度センサ12は、スイッチング素子Q1〜Q6の温度を検出するものであり、本実施例では、感温素子として感温ダイオードを用いている。温度センサ12は、感温ダイオードの電圧降下により、スイッチング素子Q1〜Q6の温度を検出する。温度センサ12が検出した温度が、スイッチング素子Q1〜Q6が不具合を起こすと想定される温度を超えた場合、駆動回路11はスイッチング素子に印加するゲート電圧を遮断し、スイッチング素子Q1〜Q6の駆動を停止させてスイッチング素子Q1〜Q6を保護する。また、感温ダイオードが断線した場合にも、駆動回路11はスイッチング素子Q1〜Q6の駆動を停止する。
【0023】
(電流検出手段)
電流検出手段13は、スイッチング素子Q1〜Q6に流れる電流を検出する手段であり、センス端子34と、分圧抵抗41、分圧抵抗42とからなる。センス端子34は、スイッチング素子Q1〜Q6が有する端子であり、コレクタ端子とセンス端子34の間には、コレクタ端子とエミッタ端子との間に流れる主電流の数百〜数千分の1のセンス電流を流すことができる。
【0024】
センス端子34には、分圧抵抗41と分圧抵抗42とが直列に接続されており、分圧抵抗41と分圧抵抗42は、スイッチング素子Q1〜Q6に流れる電流に比例した微小電流を検出する。分圧抵抗41と分圧抵抗42との中点43はMOSFET33のゲート端子と駆動回路11とに接続されており、MOSFET33のゲート端子と駆動回路11のそれぞれに中点43の電圧が伝達される。
【0025】
中点43の電圧が駆動回路11に入力されると、駆動回路11は内部に有する比較器(図示せず)を用いて基準電圧と比較することによって過電流や短絡を判断する。
【0026】
(短絡保護手段)
短絡保護手段14は、MOSFET33とツェナーダイオードDIとからなり、MOSFET33のゲート端子は、分圧抵抗41と分圧抵抗42との間に接続されている。スイッチング素子Qに短絡電流が流れると、分圧抵抗42による電圧降下分がMOSFET33をオンにするために必要な電圧を上回り、MOSFET33がオンとなる。この結果、ツェナーダイオードに逆方向の電流が流れ、スイッチング素子Qに印加される駆動電圧はツェナー電圧まで低下する。これにより、ゲート電圧が低下し、スイッチング素子Qに流れる電流は減少し、スイッチング素子Qを短絡電流による破壊から保護することができる。
【0027】
(短絡電流発生時における保護処理)
図3を用いて短絡状態が発生した場合におけるスイッチング素子のゲート電圧、コレクタ電流、コレクタ−エミッタ間電圧を用いて短絡電流発生時の保護処理について説明する。図3は、上から、スイッチング素子Qのゲート・エミッタ間電圧、コレクタ電流、コレクタ・エミッタ間電圧、異常状態を検出した際のFAIL出力を示す図である。
【0028】
スイッチング素子Qに短絡電流が流れると、電流検出手段13を介して、短絡保護手段14のMOSFET33に印加される電圧が増加する。この結果、MOSFET33がオンとなり、スイッチング素子Qに印加されるゲート電圧であるVGE(ゲート・エミッタ間電圧)が低下し、コレクタ電流は所定範囲に制限される(図3の遮断Aに対応)。短絡保護手段14は、駆動回路11を介さずにスイッチング素子Qに流れる電流を制限するため、スイッチング素子Qを短絡電流から素早く保護することができる。
【0029】
一方、FAIL出力は、電流検出手段13が検出した電流が短絡閾値を超えてから数usecにHIGHレベルからLOWレベルになる。FAIL出力がLOWレベルになることを検出した駆動回路11は、スイッチング素子Qのゲート電圧を遮断する。このように、スイッチング素子Qに流れる電流を2段階の処理によって遮断することで、過大なサージ電圧の発生を抑制することができる。
【0030】
次に、図4を用いて、過熱による異常状態が検出された直後にスイッチング素子Qに短絡電流が流れた場合の駆動回路11の保護処理について説明する。図4は、本発明の実施形態に係る電力変換装置1において、過熱異常発生後に短絡電流が発生した時の電圧波形、電流波形等を示す図である。図4は、上からゲート−エミッタ間電圧の電圧波形、コレクタ電流、ゲート−エミッタ間電圧、駆動回路11におけるFAIL出力を示す。
【0031】
過熱による異常状態が検出された後であって、異常状態に基づく駆動停止が実行される前に短絡状態を検出した場合、電力変換装置1は、異常状態に基づく駆動停止よりも短絡保護手段14に基づく短絡保護処理を優先して実行する。
【0032】
すなわち、通常、駆動回路11により過熱による異常状態が検出されると、過熱による異常状態の検出から数sec後にFAIL出力がHIGHレベルからLOWレベルとなり、スイッチング素子のゲート電圧の遮断が行われる。しかし、過熱による異常状態が検出された後であって、異常状態に基づく駆動停止が実行される前に、電流検出手段13が検出する電流が、基準値を超えたことを検出すると、短絡状態及び過電流状態以外の異常状態に基づく駆動停止を行わないようにするマスク処理が駆動回路11に働く。マスク処理が働いた場合、駆動回路11は過熱による異常状態に関するFAIL出力を検出しないため、スイッチング素子に短絡電流が流れた状況でいきなりスイッチング素子を遮断することはなくなり、過大なサージ電圧が発生することを防止することができる。
【0033】
その後、電流検出手段13が検出する電流が、短絡閾値を超えると、短絡保護手段14によってスイッチング素子に流れる電流は所定範囲に制限される。このように、電流検出手段13が検出する電流が基準値を超えた場合には、過熱による異常状態に基づく駆動停止を行わないため、短絡状態を検出してから電流を所定範囲に制限するまでの間において、過熱による異常状態に基づく駆動停止が行われることによって過大なサージ電圧が発生することを防止できる。
【0034】
なお、図4において、基準値は過電流閾値と等しい値に設定されているが、基準値は短絡状態を検出する電流の短絡閾値より小さく、かつ、過電流常状態を検出する過電流閾値以上に設定すれば足りる。
【0035】
次に、図5及び図6を用いて電流検出手段13が検出した電流が基準値を超えたものの短絡閾値に至らなかった場合の処理について説明する。図5のCASE1に示すように、電流検出手段13が検出した電流が基準値を超えると(ステップ001)、過電流状態及び短絡状態以外の異常状態に基づく駆動停止は行わないとする保護処理が働く(ステップ002)。その後、電流検出手段13が検出した電流が基準値等に設定された所定値以下となると(ステップS003)、短絡状態及び過電流状態以外の異常状態に基づく駆動停止の実行処理を再び実行可能な状態とする(ステップ004)。駆動停止の実行処理が再び実行可能な状態になった後に、未だ過熱による異常状態が続いている場合には、過熱による異常状態に基づいて駆動停止の実行処理が行われる。
【0036】
一方、図5のCASE2に示すように、電流検出手段が検出した電流が基準値を超えたものの、そのまま基準値と短絡閾値の間に位置する電流値を維持するときには、過電流という異常状態に基づいてスイッチング素子の駆動停止を行う。したがって、過熱による異常状態に基づく駆動停止が行われなくても、過電流状態に基づく駆動停止が行われるため、適切にスイッチング素子の保護を行うことができる。
【0037】
図5では、電流検出手段13が検出した電流が所定値以下となったときに、短絡状態及び過電流状態以外の異常状態に基づく駆動停止の実行処理は実行可能な状態にするが、短絡保護手段14によりスイッチング素子に流れる電流が所定範囲に制限された後に、又は、短絡状態を検出してから所定の時間経過後に、短絡状態及び過電流状態以外の異常状態に基づく駆動停止の実行処理を実行可能な状態にしてもよい。
【0038】
上記構成のタイミングで実行処理を実行可能な状態にすることで、先に検出された異常状態に基づく遮断が行われるようになり、短絡保護による遮断処理と異常状態による遮断処理とが迅速な遮断処理が可能となる。
(ターンオフ時間を切り替える場合の処置)
次に、図7を用いて、過熱、ゲート電圧低下、感温ダイオード断線といった第1の異常状態と、過電流、短絡といった第2の異常状態とで、異常状態が発生したときにスイッチング素子をオンからオフにするのに要するターンオフ時間を切り替える場合について説明する。
【0039】
ターンオフ時間が同じ場合、過熱が発生しているときと、過電流が発生しているときとでは、発生するサージ電圧の大きさが異なる。そのため、サージ電圧抑制のために第2の異常状態が発生したときのターンオフ時間を第1の異常状態が発生したときのターンオフ時間より長くするソフト遮断が行われる。
【0040】
本発明の実施形態に係る電力変換装置1においては、第1の異常状態が検出された後であって、第1の異常状態に基づく駆動停止が実行される前に、第1の異常状態よりもターンオフ時間が長い第2の異常状態を検出した場合には、第1の異常状態に基づく駆動停止よりも第2の異常状態に基づく駆動停止を優先して実行する。
【0041】
第1の異常状態に基づく駆動停止よりも第2の異常状態に基づく駆動停止を優先して実行する結果、例えば、過熱異常が検出された直後に、過電流異常が検出されたとしても、過熱異常(第1の異常状態)に基づく駆動停止は行われず、ターンオフ時間が長い過電流異常(第2の異常状態)に基づく駆動停止、すなわち、ソフト遮断が行われるため、サージ電圧の抑制の発生を効果的に防止することができる。
【0042】
さらに、第2の異常状態が発生せず第1の異常状態が発生した場合のターンオフ時間は第2の異常状態が発生したときのターンオフ時間よりも短いため、第1の異常状態が発生したときには迅速なスイッチング素子の保護処理を行うことができる。
(従来方式の説明)
図8に、従来の電力変換装置1において、過熱異常が発生した直後にスイッチング素子に短絡電流が流れた場合の電圧波形、電流波形を示す。
【0043】
通常、スイッチング素子に短絡電流が流れた場合は、遮断Aに示すように、短絡保護手段14によりゲート電圧を制限してスイッチング素子に流れる電流を所定の範囲に制限した後に、スイッチング素子に印加するゲート電圧を完全に遮断する。このように、2段階に分けてゲート電圧を低下させるため、過大なサージ電圧が発生することを防ぐことができる。
【0044】
しかしながら、スイッチング素子の過熱を検出した直後に短絡状態を検出した場合には、短絡電流が流れているにも関わらず、過熱による異常状態に基づいてスイッチング素子の駆動停止を行う。このため、遮断Bに示すように、短絡保護手段14による電流の制限を行わずに、短絡電流が流れている状態で、スイッチング素子の駆動を停止する。この結果、スイッチング素子に過大なサージ電圧を引き起こす。
【図面の簡単な説明】
【0045】
【図1】本発明の実施形態に係る電力変換装置の全体構成を示す図である。
【図2】本発明の実施形態に係る電力変換装置の要部構成を示す概略図である。
【図3】本発明の実施形態に係る電力変換装置において、短絡電流が発生した時の電圧波形、電流波形等を示す図である。
【図4】本発明の実施形態に係る電力変換装置において、過熱異常状態発生後に短絡電流が発生した時の電圧波形、電流波形等を示す図である。
【図5】本発明の実施形態に係る電力変換装置において、電流値が基準値を超えた後に短絡閾値を超えなかった場合を示す図である。
【図6】本発明の実施形態に係る電力変換装置において、駆動回路におけるマスク処理のフローチャートを示す図である。
【図7】本発明の実施形態に係る電力変換装置において、過熱異常発生後に過電流が発生したときの電圧波形、電流波形等を示す図である。
【図8】従来の電力変換装置において、過熱異常状態発生後に短絡電流が発生した時の電圧波形、電流波形等を示す図である。
【符号の説明】
【0046】
1 電力変換装置
11 駆動回路
13 電流検出手段
14 短絡保護手段
Q、Q1〜Q6 スイッチング素子

【特許請求の範囲】
【請求項1】
スイッチング素子と、
前記スイッチング素子を駆動する駆動回路と、
前記スイッチング素子に流れる電流を検出する電流検出手段と、
前記電流検出手段により短絡状態を検出したとき、前記スイッチング素子に流れる電流を所定範囲に制限して所定時間駆動を継続する短絡保護手段と、
を備え、
前記スイッチング素子を停止すべき異常状態が検出されたときに、前記駆動回路が前記スイッチング素子の駆動を停止する電力変換装置において、
前記異常状態が検出された後であって前記異常状態に基づく駆動停止が実行される前に前記短絡状態を検出した場合に、
前記異常状態に基づく駆動停止よりも前記短絡保護手段に基づく短絡保護処理を優先して実行することを特徴とする電力変換装置。
【請求項2】
前記電流検出手段が検出する電流が、前記短絡状態を検出する電流の短絡閾値より小さく、かつ、過電流常状態を検出する過電流閾値以上に設定した基準値を超えたときに、
前記短絡状態及び前記過電流状態以外の異常状態に基づく駆動停止の実行処理を行わないことを特徴とする請求項1記載の電力変換装置。
【請求項3】
前記電流検出手段が検出した電流が所定値以下となったとき、前記短絡状態及び前記過電流状態以外の異常状態に基づく駆動停止を実行可能な状態とすることを特徴とする請求項2記載の電力変換装置。
【請求項4】
前記短絡保護手段により前記スイッチング素子に流れる電流が所定範囲に制限された後に、前記短絡状態及び前記過電流状態以外の異常状態に基づく駆動停止を実行可能な状態にすることを特徴とする請求項2記載の電力変換装置。
【請求項5】
前記短絡状態を検出してから所定の時間経過後に、前記短絡状態及び前記過電流状態以外の異常状態に基づく駆動停止の実行処理を実行可能な状態にすることを特徴とする請求項2記載の電力変換装置。
【請求項6】
スイッチング素子と、前記スイッチング素子を駆動する駆動回路と、前記スイッチング素子に流れる電流を検出する電流検出手段と、を備え、前記スイッチング素子を停止すべき異常状態が検出されたときに、前記スイッチング素子をオンからオフにするのに要するターンオフ時間を前記異常状態時に応じて切り替えて前記スイッチング素子の駆動停止を行う電力変換装置において、第1の異常状態が検出された後であって、前記第1の異常状態に基づく駆動停止が実行される前に、前記第1の異常状態よりも前記ターンオフ時間が長い第2の異常状態を検出した場合には、前記第1の異常状態に基づく駆動停止よりも前記第2の異常状態に基づく駆動停止を優先して実行することを特徴とする電力変換装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2010−154595(P2010−154595A)
【公開日】平成22年7月8日(2010.7.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−327214(P2008−327214)
【出願日】平成20年12月24日(2008.12.24)
【出願人】(000004260)株式会社デンソー (27,639)
【Fターム(参考)】