説明

電力変換装置

【課題】通常運転においてコンバータのスイッチングに際して寄生インダクタンスに起因して直流リンク電圧が増大し、これによってコンデンサへと流れる電流を抑制する電力変換装置を提供する。
【解決手段】コンバータ4は、複数の入力端Pr,Ps,Ptの各々と直流電源線LHとの間で接続されたスイッチング素子と、複数の入力端Pr,Ps,Ptの各々と直流電源線LLとの間で接続されたスイッチング素子とを有している。コンデンサC1と抵抗R1とダイオードD1とが直流電源線LH,LLの間で相互に直列に接続される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電力変換装置に関し、特にコンバータの出力側にクランプ回路(スナバも含む)を有する電力変換装置に関する。
【背景技術】
【0002】
インバータの代表的な主回路構成として、いわゆる間接形交流電力変換回路が一般に用いられている。間接形交流電力変換回路では交流を整流し、平滑回路を介して直流に変換し、電圧形変換器により交流出力が得られる。
【0003】
一方、交流電圧から直接に交流出力を得る方式として、マトリックスコンバータを代表とする直接形交流電力変換装置が知られている。直接形交流電力変換装置は商用周波数による電圧脈動を平滑する大型のコンデンサや、リアクトルが不要となることから、変換器の小型化が期待でき、次世代の電力変換器として近年注目されつつある。
【0004】
例えば特許文献1及び2には直流リンクに平滑回路を介することなく交流から直接交流へ変換できることが開示されている。また特許文献3には直流リンクにクランプ回路を設け、直接形交流電力変換装置における回生電流の問題の解決を企図する技術が開示されている。
【0005】
特許文献4においては、入力端とコンバータとの間に限流抵抗を設け、クランプ回路が有するコンデンサへと突入電流が生じる技術が開示されている。またコンデンサに電圧が充電された後は限流抵抗での消費電力を回避すべく、スイッチによって限流抵抗を短絡している。
【0006】
特許文献5においては、単相コンデンサレスインバータにおいて、直流リンクにダイオードと抵抗とコンデンサからなる直列体を設けた技術が開示されている。当該抵抗はコンデンサへと突入電流を抑制する限流抵抗として機能している。
【0007】
なお、本願に関連するものとして特許文献6,7,8を挙げる。特許文献6には供給される電流を大きく、かつ遅相にしてモータの回転位置推定の誤差を削減する技術が開示されている。特許文献7には間接形交流電力変換回路において電源の瞬停/再起動に対応する技術が開示されている。特許文献8にはコンバータの自然転流モードと等価なダイオードブリッジを用いた電力変換について記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2007−312589号公報
【特許文献2】国際公開第2007/123118号
【特許文献3】特許第4049189号
【特許文献4】特開2009−95149号公報
【特許文献5】特許第3772898号
【特許文献6】特許第3806872号公報
【特許文献7】特開平5−56682号公報
【特許文献8】特許第2524771号公報
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】Lixiang Wei, Thomas A Lipo,“A Novel Matrix Converter Topology With Simple Commutation”, IEEE IAS 2001, vol.3, 2001, pp1749-1754.
【非特許文献2】伊藤里絵、高橋勲、「マトリクスコンバータにおける入出力無効電力の非干渉制御法」、電気学会半導体電力変換研究会SPC−01−121,2001
【非特許文献3】加藤康司、伊藤淳一、「昇圧形AC/DC/AC直接形電力変換器の波形改善」、平成19年電気学会全国大会4−098(2007)、第4分冊153〜154頁
【非特許文献4】加藤康司、伊藤淳一、「入力電流に着目した昇圧形AC/DC/AC直接形電力変換器の波形改善」、平成19年電気学会産業応用部門大会1−31,I-279〜282頁
【非特許文献5】竹下隆晴、外山浩司、松井信行、「電流形三相インバータ・コンバータの三角波比較方式PWM制御」、電気学会論文誌D、vol.116、No.1、第106〜107頁、1996
【非特許文献6】Siyoung Kim, Seung-Ki Sul, Thomas A. Lipo, "AC/AC Power Conversion Based on Matrix Converter Topology with Unidirectional Switches", IEEE trans. on Industry applications, vol.36,No.1, 2000, pp139-145.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
特許文献4の技術では、直接形交流電力変換装置の起動時にコンデンサへと突入電流が流れることを防止できるものの、消費電力の観点から直接形交流電力変換装置の通常運転では限流抵抗が短絡される。よって、例えば通常運転における電流形コンバータのスイッチングに際して回路の寄生インダクタンスによって直流リンクにコンデンサのクランプ電圧を超える電圧が印加されると、コンデンサに大きな電流が流れる。
【0011】
また特許文献5の技術では、直流リンクにおいてコンデンサと直列に接続された抵抗と、かかる抵抗と並列接続されたスイッチとが設けられている。しかしながら、特許文献5に記載の技術ではコンバータとしてダイオード整流回路が採用されている。ダイオード整流回路は入力交流電圧を整流できるものの、整流した直流電圧(直流リンクの電圧)を変化させることはできない。よって、起動時には大きな直流電圧が直流リンクに印加される。この大きな直流電圧による起動時の突入電流を抑制すべく、この抵抗は比較的大きな抵抗値を有する。しかも、消費電力の観点から通常運転においてはスイッチがオンして抵抗が短絡される。
【0012】
なお特許文献5に記載の技術では上述したようにダイオード整流回路が採用されているため、コンバータのスイッチングに際した寄生インダクタンスによる直流リンク電圧の増大についてはなんら示唆されていない。
【0013】
そこで本発明は、起動後の通常運転においてコンバータのスイッチングに際して寄生インダクタンスに起因して直流リンク電圧が増大し、これによってコンデンサへと流れる電流を抑制する電力変換装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明にかかる電力変換装置の第1の態様は、複数の入力端(Pu,Pv,Pw)と、第1の直流電源線(LH)と、前記第1の直流電源線よりも低い電位が印加される第2の直流電源線(LL)と、少なくとも2つの前記複数の入力端の各々と前記第1の直流電源線との間に接続された複数のスイッチング素子(Trp,Tsp,Ttp)と、前記少なくとも2つの前記複数の入力端の各々と前記第2の直流電源線との間に接続された複数のスイッチング素子(Trn,Tsn,Ttn)とを有する電流形コンバータ(4)と、前記第1及び前記第2の直流電源線の間で、アノードを前記第1の直流電源側に向けて設けられるダイオード(D1)と、前記第1及び前記第2の直流電源線の間で前記ダイオードと直列に接続されるコンデンサ(C1)と、前記第1及び前記第2の直流電源線の間で前記コンデンサ及び前記ダイオードと直列に接続される第1抵抗(R1)とを備える。
【0015】
本発明にかかる電力変換装置の第2の態様は、第1の態様にかかる電力変換装置であって、少なくとも一つの前記複数の入力端と前記コンデンサとを結ぶ直列経路に設けられる第2抵抗(R81,R82)と、前記第2抵抗を介した前記少なくとも一つの前記複数の入力端と前記コンデンサとの間の導通/非導通を選択する第1スイッチ(S81,S82)とを更に備え、前記第1抵抗(R1)は前記第2抵抗よりも低い抵抗値を有する。
【0016】
本発明にかかる電力変換装置の第3の態様は、第1又は第2の態様にかかる電力変換装置であって、誘導性負荷(7)に接続される複数の出力端(Pu,Pv,Pw)と、前記複数の出力端の各々と前記第1の直流電源線(LH)との間に接続される複数のスイッチング素子(Tup,Tvp,Twp)と、前記複数の出力端の各々と前記第2の直流電源線(LL)との間に接続される複数のスイッチング素子(Tun,Tvn,Twn)とを有する電圧形インバータ(6)とを更に備え、前記第1抵抗(R1)の抵抗値は、前記電圧形インバータの定格電圧から前記複数の入力端(Pu,Pv,Pw)の相互間に印加される線間電圧の最大値を減算した値を、前記誘導性負荷から前記電圧形インバータを介して流れる回生電流を除した値以下である。
【0017】
本発明にかかる電力変換装置の第4の態様は、第1又は第2の態様にかかる電力変換装置であって、誘導性負荷(7)に接続される複数の出力端(Pu,Pv,Pw)と、前記複数の出力端の各々と前記第1の直流電源線(LH)との間に接続される複数のスイッチング素子(Tup,Tvp,Twp)と、前記複数の出力端の各々と前記第2の直流電源線(LL)との間に接続される複数のスイッチング素子(Tun,Tvn,Twn)とを有する電圧形インバータ(6)と、前記第1抵抗(R1)と並列に接続された第2スイッチ(S1)とを更に備える。
【0018】
本発明にかかる電力変換装置の第5の態様は、第1又は第2の態様にかかる電力変換装置であって、誘導性負荷(7)に接続される複数の出力端(Pu,Pv,Pw)と、前記複数の出力端の各々と前記第1の直流電源線(LH)との間に接続される複数のスイッチング素子(Tup,Tvp,Twp)と、前記複数の出力端の各々と前記第2の直流電源線(LL)との間に接続される複数のスイッチング素子(Tun,Tvn,Twn)とを有する電圧形インバータ(6)と、前記ダイオード及び前記第1抵抗(R1)と並列に接続された双方向の第3スイッチ(S5)とを更に備える。
【0019】
本発明にかかる電力変換装置の第6の態様は、第5の態様にかかる電力変換装置であって、前記第3スイッチ(S5)は、前記ダイオード(D1)と逆並列に接続された第1トランジスタ(T1)と、アノードを前記第2の直流電源線(LL)側に、カソードを前記第1の直流電源線(LH)側にそれぞれ向けて、前記第1抵抗と並列に接続された第2のダイオード(D2)と、前記第2のダイオードと逆並列に接続された第2トランジスタ(T2)とを備える。
【0020】
本発明にかかる電力変換装置の第7の態様は、第5の態様にかかる電力変換装置であって、前記ダイオード(D1)及び前記第1抵抗(R1)は前記コンデンサ(C1)に対して同じ側に設けられ、前記第3スイッチ(S5)は、アノードを前記第2の直流電源線(LL)側に、カソードを前記第1の直流電源線(LH)側にそれぞれ向けて、前記第1抵抗と並列に接続された第2のダイオード(D2)と、アノードが前記第2のダイオード(D2)のカソードに接続された第3のダイオード(D3)と、アノードが前記ダイオード(D1)のカソードに接続された第4のダイオード(D4)と、コレクタが前記第3のダイオードのカソードと前記第4のダイオードのカソードと、エミッタが前記ダイオード及び前記第2のダイオードのアノードとそれぞれ接続されたトランジスタとを備える。
【0021】
本発明にかかる電力変換装置の第8の態様は、第4乃至第7の何れか一つの態様にかかる電力変換装置であって、前記第3スイッチ(S1,S5)は、前記電圧形インバータ(6)の全ての前記複数のスイッチ素子(Tup,Tvp,Twp,Tun,Tvn,Twn)を非導通とする前に導通する。
【0022】
本発明にかかる電力変換装置の第9の態様は、第5乃至第8の何れか一つの態様にかかる電力変換装置であって、前記複数の入力端は3つの入力端であり、前記複数の出力端は3つの出力端であって、前記電流形コンバータ(4)は、いずれもが360度周期であって互いに位相が120度ずれる3つの台形波とキャリアとの比較結果によって決定される、第1の転流モードと120度通電モードのいずれかに従って転流し、前記第1の転流モードにおいて前記台形波の各々は、120度区間で連続する平坦区間の一対と、これら一対の平坦区間をつなぐ60度区間の傾斜領域の一対を有し、前記電流形コンバータは、前記第1の転流モードにおいては、前記平坦区間の一対の間で遷移する前記台形波と前記キャリアとの比較によって転流し、前記第1の転流モードが採用されている状態で前記第3スイッチ(S5)が導通することを契機として、前記120度通電モードが採用され、前記第3スイッチが非導通となる時点以降で前記第1の転流モードが採用される。
【0023】
本発明にかかる電力変換装置の第10の態様は、第9の態様にかかる電力変換装置であって、前記第3スイッチ(S5)は、前記複数の出力端(Pu,Pv,Pw)に接続される前記誘導性負荷(7)の力率が所定値を下回るときに導通する。
【0024】
本発明にかかる電力変換装置の第11の態様は、第10の態様にかかる電力変換装置であって、前記誘導性負荷(7)は回転機であり、起動当初の所定期間は前記120度通電モードに従って前記電流形コンバータ(4)が転流する。
【0025】
本発明にかかる電力変換装置の第12の態様は、第9の態様にかかる電力変換装置であって、前記第3スイッチ(S5)は、前記第1及び前記第2の直流電源線(LH,LL)間の直流電圧が第1の閾値を下回るときに導通する。
【0026】
本発明にかかる電力変換装置の第13の態様は、第12の態様にかかる電力変換装置であって、前記第3スイッチ(S5)は、前記第1及び前記第2の直流電源線(LH,LL)間の直流電圧が前記第1の閾値以上の第2の閾値を超える値を所定期間維持したことを以て非導通となり、前記第3スイッチが非導通となったことを契機として前記第1の転流モードが採用される。
【0027】
本発明にかかる電力変換装置の第14の態様は、第13の態様にかかる電力変換装置であって、前記第3スイッチ(S5)は、前記第1及び前記第2の直流電源線(LH,LL)間の直流電圧が前記第1の閾値以上の第2の閾値を超えたことを契機として非導通となる。
【0028】
本発明にかかる電力変換装置の第15の態様は、第14の態様にかかる電力変換装置であって、前記第3スイッチ(S5)が非導通となったことを契機として前記第1の転流モードが採用される。
【0029】
本発明にかかる電力変換装置の第16の態様は、第14の態様にかかる電力変換装置であって、前記第3スイッチ(S5)が非導通となってから所定期間が経過した後に前記第1の転流モードが採用される。
【0030】
本発明にかかる電力変換装置の第17の態様は、第1の何れか一つの態様にかかる電力変換装置であって、前記ダイオード(D1)及び前記第1抵抗(R1)は前記コンデンサ(C1)に対して前記第2の直流電源線(LL)側に設けられ、前記第1及び前記第2の直流電源線(LH,LL)の間で前記ダイオード(D1)及び前記第1抵抗(R1)の直列接続に対して前記コンデンサと反対側で直列に接続された第2のコンデンサ(C2)と、アノードが前記直列接続と前記第2のコンデンサとの間に、カソードが前記第1の直流電源線にそれぞれ接続された第2のダイオード(D12)と、アノードが前記第2の直流電源線に、カソードが前記直列接続と前記コンデンサとの間にそれぞれ接続された第3のダイオード(D13)とを更に備える。
【0031】
本発明にかかる電力変換装置の第18の態様は、第9のいずれか一つの態様にかかる電力変換装置であって、前記120度通電モードは第2の転流モードであり、前記第2の転流モードにおいて前記台形波の各々は、180度区間で連続する平坦区間の一対を有し、前記電流形コンバータ(4)は、前記第2の転流モードにおいては、前記平坦区間の一対の間で遷移する前記台形波と前記キャリアとの比較によって転流する。
【0032】
本発明にかかる電力変換装置の第19の態様は、第9のいずれか一つの態様にかかる電力変換装置であって、前記120度通電モードは、前記電流形コンバータ(4)が有する全ての前記複数のスイッチング素子(Trp,Tsp,Ttp,Trn,Tsn,Ttn)が導通する自然転流モードである。
【発明の効果】
【0033】
本発明にかかる電力変換装置の第1の態様によれば、電流形コンバータのスイッチングに際して、回路の寄生容量(例えばインダクタンス)に起因して第1及び第2の直流電源線の間に過大な電圧が印加されたとしても、第1抵抗がコンデンサへと流れる電流を制限することができる。
【0034】
しかも、複数の入力端に印加される線間電圧が異常により増大し、コンデンサの両端電圧を超えて、コンデンサへと電流が流れたとしても、第1抵抗によってコンデンサに流れる電流の増大を抑制することができる。
【0035】
本発明にかかる電力変換装置の第2の態様によれば、複数の入力端から電源が投入される際に、第1スイッチを非導通とし、スイッチング素子群を適宜に導通させることで、第2抵抗を経由してコンデンサを充電することができる。このとき、電流は第2抵抗を経由するのでコンデンサへの突入電流を避けてコンデンサを充電できる。コンデンサに所望の電圧が充電されたときには第1スイッチを導通させて第2抵抗を短絡させることができるので、コンデンサの充電後には第2抵抗での消費電力を回避できる。また、第1抵抗の抵抗値を第2抵抗の抵抗値より小さくしているので、回路規模や製造コストを低減できる。
【0036】
なお電源投入後の通常運転において、第1抵抗は回路の寄生容量或いは線間電圧の増大に起因してコンデンサに流れる電流を低減する。このときコンデンサには既に電圧が充電されているので、コンデンサに充電されていない電源投入時に比べて、第1抵抗の抵抗値を第2抵抗の抵抗値よりも低減できる。換言すれば、第1抵抗の抵抗値を第2抵抗の抵抗値よりも小さく設定しても、コンデンサへと流れる電流の増大を抑制する程度を低減させない。
【0037】
本発明にかかる電力変換装置の第3の態様によれば、回生電流が第1抵抗を流れることで、第1及び第2の直流電源線の間の電圧が増大しても、電圧形インバータへと印加される電圧を抑制できる。
【0038】
本発明にかかる電力変換装置の第4の態様によれば、誘導性負荷から電圧形インバータを介して回生電流がコンデンサへと流れるときに、第2スイッチを導通することで、第1及び第2の直流電源線の間の電圧の、第1抵抗による増大を回避できる。
【0039】
本発明にかかる電力変換装置の第5の態様によれば、誘導性負荷から電圧形インバータを介して回生電流がコンデンサへと流れるときに、第3スイッチを導通することで、第1及び第2の直流電源線の間の電圧の、第1抵抗による増大を回避できる。また、出力端に接続される負荷の力率の低下、入力端に接続される電源の瞬時電圧低下などに対応するために第3スイッチを導通させてクランプ回路の本来的な機能を停止させることができる。
【0040】
本発明にかかる電力変換装置の第6の態様によれば、クランプ回路としてのダイオードを、双方向スイッチの構成要素として機能させていている。よって、ダイオードの個数を低減できる。
【0041】
本発明にかかる電力変換装置の第7の態様によれば、第6の態様にかかる電力変換装置の第3スイッチに比べてトランジスタの数を低減できる。
【0042】
本発明にかかる電力変換装置の第8の態様によれば、より確実に回生電流が第1抵抗を回避する。
【0043】
本発明にかかる電力変換装置の第9の態様によれば、出力端に接続される負荷の力率の低下、入力端に接続される電源の瞬時電圧低下などに対応するために第3スイッチを導通させてクランプ回路の本来的な機能を停止させる場合であっても、第3スイッチを導通させずにクランプ回路の本来的な機能を発揮させる場合であっても、コンバータの転流モードを適切に変更し、回生電流の吸収と直接形交流電力変換とを両立できる。
【0044】
本発明にかかる電力変換装置の第10の態様によれば、力率低下によって増大する回生電流に起因した第1の転流モードの機能不全を回避する。
【0045】
本発明にかかる電力変換装置の第11,第13乃至第16の態様によれば、起動当初において回転機の位置検出を行うべく遅相となる電流に起因した力率の低下に対処する。
【0046】
本発明にかかる電力変換装置の第12の態様によれば、直流電圧の低下に起因した第1の転流モードの機能不全を回避する。
【0047】
本発明にかかる電力変換装置の第17の態様によれば、第3スイッチが非導通しているときは、第1及び第2のコンデンサが直列接続された経路で充電され、第1及び第2のコンデンサが並列接続された経路で放電されるので、第1及び第2のコンデンサに要求される耐圧が小さくて足りる。また第3スイッチが導通しているときは、第1及び第2のコンデンサが直列接続された経路で充放電され、クランプ回路としての機能が停止される。
【0048】
本発明にかかる電力変換装置の第18の態様によれば、コンバータは、第1及び第2の転流モードのいずれにおいても台形波と前記キャリアとの比較によって転流するので、これらの転流モードに応じて個別に設計を行う必要がない。
【0049】
本発明にかかる電力変換装置の第19の態様によれば、120度通電モードにおいて台形波とキャリアの比較を行う必要はない。
【図面の簡単な説明】
【0050】
【図1】直接形交流電力変換装置の概念的な構成を例示する図である。
【図2】第1の転流モードに採用される台形波を例示するグラフである。
【図3】第1の転流モードにおける線間電圧指令を示すグラフである。
【図4】第1及び第2の直流電源線の間の電圧を示すグラフである。
【図5】瞬時電圧降下が生じた際の作用を説明するためのグラフである。
【図6】図5の拡大図である。
【図7】瞬時電圧降下が生じた際の直接形交流電力変換装置の等価回路である。
【図8】抵抗R1の抵抗値とコンデンサC1へと流れる電流ic1との関係を示すグラフである。
【図9】第1の転流モードにおける振幅変調補正を行うための補正値を示す図である。
【図10】第1の転流モードにおけるコンバータとインバータの動作を説明するグラフである。
【図11】インバータを停止した際の作用を説明するためのグラフである。
【図12】抵抗R1の抵抗値と直流リンク電圧Vdcとの関係を示すグラフである。
【図13】直接形交流電力変換装置の概念的な他の一例を示す図である。
【図14】第2の実施の形態に係る直接形交流電力変換装置の概念的な構成を例示する図である。
【図15】第2の実施の形態に係る直接形交流電力変換装置の概念的な構成を例示する図である。
【図16】第3の実施の形態に係る直接形交流電力変換装置を例示する概念的な構成図である。
【図17】第3の実施の形態に係るクランプ回路を例示する概念的な構成図である。
【図18】クランプ回路が支持するクランプ電圧と負荷力率との関係を示すグラフである。
【図19】第4の実施の形態に係るクランプ回路を例示する概念的な構成図である。
【図20】第4の実施の形態に係るクランプ回路を例示する概念的な構成図である。
【図21】第2の転流モードに採用される台形波を例示するグラフである。
【図22】第2の転流モードにおける線間電圧指令を示すグラフである。
【図23】第2の転流モードにおける振幅変調補正を行うための補正値を示す図である。
【図24】第2の転流モードにおけるコンバータとインバータの動作を説明するグラフである。
【図25】第2の転流モードにおけるコンバータとインバータの動作を説明するグラフである。
【図26】コンバータ及びインバータの転流を行うための制御部の概念的な一例を示すブロック図である。
【図27】仮想的なインバータの構成を示す回路図である。
【図28】特許文献5の図6(d)(e)を示す図である。
【図29】第4の実施の形態に係るクランプ回路を例示する概念的な構成図である。
【図30】第4の実施の形態に係るクランプ回路を例示する概念的な構成図である。
【図31】瞬時停電のときもクランプ回路が機能している場合の動作を示すグラフである。
【図32】コンバータの転流モードを切り換えた動作を示すグラフである。
【図33】コンバータの転流モードを切り換えた動作を示すグラフである。
【図34】コンバータの転流モードを切り換えた動作を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0051】
第1の実施の形態.
<構成>
図1に示すように、直接形交流電力変換装置は、電流形コンバータ4、クランプ回路5、電圧形インバータ6を備えている。電流形コンバータ4、クランプ回路5及び電圧形インバータ6はこの順で互いに接続されている。
【0052】
直接形交流電力変換装置には、3つの入力端Pr,Ps,Pt、リアクトル群2、及びコンデンサ群3を経由して電源1から三相交流の相電圧が入力される。直接形交流電力変換装置は3つの出力端Pu,Pv,Pwを介して誘導性負荷7へと交流電圧を出力する。直接形交流電力変換装置は直流リンクとなる直流電源線LH,LLをも備えている。コンバータ4の機能により、直流電源線LHは直流電源線LLよりも高電位となる。
【0053】
コンバータ4は例えば6つのスイッチング素子Trp,Tsp,Ttp,Trn,Tsn,Ttnを含む。これらは説明の都合上、第1スイッチング素子群と称することもある。各スイッチング素子Trp,Tsp,Ttpは入力端Pr,Ps,Ptの各々と直流電源線LHとの間に設けられる。スイッチング素子Trn,Tsn,Ttnはそれぞれ入力端Pr,Ps,Ptと直流電源線LLとの間に設けられる。コンバータ4はいわゆる電流形コンバータを構成し、6つのダイオードDrp,Dsp,Dtp,Drn,Dsn,Dtnを含む。これらは説明の都合上、第1ダイオード群と称することもある。
【0054】
ダイオードDrp,Dsp,Dtp,Drn,Dsn,Dtnはいずれもそのカソードを直流電源線LH側に、そのアノードを直流電源線LL側に向けて配置される。ダイオードDrpは、入力端Prと直流電源線LHとの間で、スイッチング素子Trpと直列に接続される。同様にして、ダイオードDsp,Dtp,Drn,Dsn,Dtnは、それぞれスイッチング素子Tsp,Ttp,Trn,Tsn,Ttnと直列に接続される。
【0055】
インバータ6は6つのスイッチング素子Tup,Tvp,Twp,Tun,Tvn,Twnを含む。これらは説明の都合上、第2スイッチング素子群と称することもある。各スイッチング素子Tup,Tvp,Twpは出力端Pu,Pv,Pwの各々と直流電源線LHとの間に設けられる。各スイッチング素子Tun,Tvn,Twnは出力端Pu,Pv,Pwの各々と直流電源線LLとの間に設けられる。インバータ6はいわゆる電圧形インバータを構成し、6つのダイオードDup,Dvp,Dwp,Dun,Dvn,Dwnを含む。これらは説明の都合上、第2ダイオード群と称することもある。
【0056】
ダイオードDup,Dvp,Dwp,Dun,Dvn,Dwnはいずれもそのカソードを直流電源線LH側に、そのアノードを直流電源線LL側に向けて配置される。ダイオードDupは、出力端Puと直流電源線LHとの間で、スイッチング素子Tupと並列に接続される。同様にして、ダイオードDvp,Dwp,Dun,Dvn,Dwnは、それぞれスイッチング素子Tvp,Twp,Tun,Tvn,Twnと並列に接続される。
【0057】
例えば第1スイッチング素子群及び第2スイッチング素子群のそれぞれのスイッチング素子にはIGBT(絶縁ゲート型バイポーラトランジスタ、以下、単にIGBTと呼ぶ)が採用される。
【0058】
クランプ回路5では、クランプダイオードD1とコンデンサC1と抵抗R1とが直流電源線LH,LLの間で相互に直列に接続される。クランプダイオードD1はそのアノードを直流電源線LH側に、そのカソードを直流電源線LL側に向けて配置される。なお、コンデンサC1とクランプダイオードD1との直列接続は、いわゆるCDスナバとしての構成を実現する。本願ではかかるCDスナバもクランプ回路に含めて把握する(当該明細書の[技術分野]参照)。
【0059】
コンバータ4の入力側には、リアクトル群2とコンデンサ群3とが設けられている。リアクトル群2はリアクトルLr,Ls,Ltと抵抗Rr,Rs,Rtとを含んでいる。各リアクトルLr,Ls,Ltは入力端Pr,Ps,Ptの各々とコンバータ4との間に設けられている。抵抗Rr,Rs,RtはリアクトルLr,Ls,Ltとそれぞれ並列に接続されている。コンデンサ群3はリアクトル群2とコンバータ4との間に設けられ、コンデンサCr,Cs,Ctを含んでいる。図1の例示ではコンデンサCr,Cs,Ctの一端がそれぞれリアクトルLr,Ls,Ltの一端と接続され、他端が互いに接続されている。リアクトルLr,Ls,LtとコンデンサCr,Cs,Ctとは二次のフィルタを構成し、電流のキャリヤ成分を抑制する。抵抗Rr,Rs,Rtはダンピング抵抗として機能し、入力される電圧の急峻な変動によって生じる当該共振回路の出力電圧の振動の幅を制限する。
【0060】
負荷7は例えば回転機であり、誘導性負荷であることを示す等価回路で図示されている。具体的には、リアクトルLuと抵抗Ruとが相互に直列され、この直列体の一端が出力端Puに接続される。リアクトルLv,Lwと抵抗Ru,Rwについても同様である。またこれらの直列体の他端が相互に接続される。
【0061】
なお本願にかかる最上位概念では必ずしもクランプ回路5の後段はインバータ6と負荷7に限らない。よって、以下では、まず、通常運転におけるコンバータ4の制御について説明する。次に、インバータ6の制御についての説明を後回しにして本願にかかる効果について述べる。インバータ6及び負荷7についてはその後に述べる。
【0062】
<コンバータ4の転流>
コンバータ4は以下で詳述する第1の転流モードに従って転流する。
【0063】
第1の転流モードにおいては、360度の周期を有し、互いにその位相が120度ずれる三つの台形波と、キャリアとの比較結果によって転流を決定する。これらの台形波の各々は、120度区間で連続する平坦区間の一対と、これら一対の平坦区間をつなぐ60度区間の傾斜領域の一対を有する。コンバータ4は、平坦区間の一対の間で遷移する傾斜領域と、キャリアとの比較によって転流する。
【0064】
第1の転流モードは既に特許文献1,2において示された転流技術である。台形波の内での60度区間の傾斜領域と、キャリアとの比較結果に基づいて、コンバータ4が転流する。図2は当該台形波を例示するグラフである。横軸には位相角360度分を示した。当該グラフにおいて略三角形の領域に記された相電圧ベクトルV4,V6,V2,V3,V1,V5は、それぞれが記された領域において当該相電圧ベクトルが対応するスイッチングのパターンが占める割合を示す。つまり位相角0度では相電圧ベクトルV4に相当するスイッチングのみが実行され、位相角30度では相電圧ベクトルV4に相当するスイッチングと、相電圧ベクトルV6に相当するスイッチングとが1:1の割合で実行され、位相角60度では相電圧ベクトルV6に相当するスイッチングのみが実行される。
【0065】
なお、相電圧ベクトルに付記された数字を二進数に変換して得られる三桁の数字の各桁は、仮想的な電圧形コンバータにおけるスイッチング素子群の相毎の導通/非導通を示す。例えば相電圧ベクトルV4の「4」を二進数に変換すると、「100」となる。二進数の数字の1は直流電源線LHと接続されたスイッチング素子が導通することを、二進数の0は直流電源線LLと接続されたスイッチング素子が導通することを示す。また二進数の3桁目はr相を、その2桁目はs相を、その1桁目はt相をそれぞれ示す。即ち相電圧ベクトルV4においては、仮想的な電圧形コンバータが電源のr相電圧を直流電源線LHへと与え、s相電圧及びt相電圧を直流電源線LLへと与える。
【0066】
既に特許文献1,2において示されたとおり、キャリアと比較されるべき電流形コンバータの指令値は、電流と電圧との双対性から、仮想的な電圧形コンバータの相電圧指令Vr*,Vs*,Vt*とキャリアとの比較に基づいて行うことができる。上述のように、キャリアと比較されるのは台形波のうち60度区間の傾斜領域である。よって、相電圧指令Vr*,Vs*,Vt*のうち、最大値を採るものでもなければ最小値を採るものでもない、いわゆる中間相に相当するものを、キャリアとの比較対象として抽出すればよい。
【0067】
より具体的にはこれらの相電圧指令Vr*,Vs*,Vt*から得られる線間電圧指令Vrs*,Vst*,Vtr*と、電流形コンバータの線電流指令(例えば非特許文献1参照)とが互いに等価であるので、相電圧指令Vr*,Vs*,Vt*から非特許文献5に基づく論理演算を適用して、電流形コンバータの指令値を求めることができる。図3は線間電圧指令Vrs*,Vst*,Vtr*を示すグラフである。
【0068】
既に非特許文献1や特許文献1,2において示されたとおり、第1の転流モードでコンバータを転流させることにより、線電流はほぼ正弦波形となるものの直流リンク電圧の平均値が脈動する(図4の平均値Vdc1も参照)。具体的には当該平均値は、60度区間毎にその中央で極大値を採り、当該区間の両端においてその極大値の√3/2の値を最小値として採る(非特許文献1や特許文献1,2においては脈動する電圧の振幅は相電圧の3/2であるので、三相電圧の線間電圧が印加される直流リンク電圧を基準とすると最小値は極大値の√3/2となる)。
【0069】
図4は直流リンク電圧Vdcの包絡線E1,E2(それぞれ、線間電圧のうち最も大きい電圧と、次に大きい電圧に相当する)と、直流リンク電圧Vdcからパルス幅変調による変動を除いた平均値Vdc1と、コンデンサC1の両端電圧Vc1とを示すグラフである。直流リンク電圧Vdcは包絡線E1,E2の間をコンバータ4のスイッチングによって遷移するため、省略している。かかるコンバータ4の動作を言い換えると、コンバータ4は、自身に入力される3つの線間電圧のうち、最も大きい最大線間電圧E1と次に大きい中間線間電圧E2とを、繰り返し交互に直流電源線LH,LLの間に出力する。
【0070】
図中の平均値Vdc1は(√3/2)Em/Vmで表される(詳細な導出については非特許文献1や特許文献1,2参照)。ここでEmは最大相電圧と最小相電圧の差の最大値(即ち最大線間電圧E1の最大値)であり、Vmは最大相電圧の絶対値である。平均値Vdc1はコンバータのキャリアの一周期内で直流リンク電圧Vdcを平均した値となる。
【0071】
直流リンク電圧Vdcの平均値Vdc1の脈動を補正して三相平衡を実現するためにはインバータ6側において振幅変調補正を行うことが望ましい。この点については本願にかかる上位概念の本質ではないため後述する。
【0072】
コンバータ4の第1の転流モードに従う動作によって、コンデンサC1には最大線間電圧E1の最大値が充電される(図4中の両端電圧Vc1)。クランプダイオードD1はコンデンサC1から直流電源線LHへと流れる電流を阻害するので、直流リンク電圧VdcがコンデンサC1の両端電圧Vc1を超えない限り、コンデンサC1の両端電圧Vc1は、最大線間電圧E1の最大値に維持される。以下、コンデンサC1の両端電圧Vc1をクランプ電圧Vc1とも称する。
【0073】
以上のようなコンバータ4の制御において、電源1に瞬時電圧降下が生じる場合がある。例えば負荷7とは異なる他の負荷が本直接形交流電力変換装置と並列して電源1に接続された場合、この他の負荷へと瞬時に大電流が流れると電源1に瞬時電圧降下が生じ得る。このような電源1の瞬時電圧降下は特に電源インピーダンスが高い電源1を採用した場合に生じやすい。そしてかかる瞬時電圧降下に伴って、リアクトル群2とコンデンサ群3とからなる共振回路がコンデンサCr,Cs,Ctの両端電圧を増大、より具体的には振動させる場合がある。なおコンデンサCr,Cs,Ctの両端電圧はコンバータ4に入力される相電圧とも把握できる。
【0074】
図5は電源1に瞬時電圧降下が生じた場合の、相電圧VrとコンデンサCrの両端電圧Vcrと直流リンク電圧Vdcとクランプ電圧Vc1とコンデンサC1へと流れる電流ic1とを示すグラフである。但し、抵抗R1が設けられていない場合(換言すれば抵抗R1の抵抗値がほぼ零である場合)の結果が示されている。なお、実際には相電圧Vs,Vtにも瞬時電圧降下が生じ得るものの、図示を簡略化するために相電圧Vrのみが示されている。
【0075】
相電圧Vrに瞬時電圧降下が生じると、瞬時電圧降下に起因した振動が両端電圧Vcrに生じる。なお、瞬時電圧降下に起因した振動以外にも両端電圧Vcrには鋸歯状の振動が生じているが、この振動はコンバータ4のスイッチングに起因して生じる振動であり瞬時電圧降下に起因しない。例えば相電圧Vrが中間相に相当する場合には、相電圧Vr(より具体的には両端電圧Vcr)が直流電源線LH,LLのいずれにも印加されない期間といずれかに印加される期間とが交互に現れ、このスイッチングによって両端電圧Vcrには鋸歯状の振動が生じる。一方、相電圧Vr(より具体的には両端電圧Vcr)が直流電源線LH,LLのいずれかに常に印加される期間(例えば相電圧Vrが最大相且つ相電圧Vs,Vtが負となる期間、換言すると相電圧Vrの波高値付近)ではコンデンサCrにはあまり振動が生じない。
【0076】
相電圧Vrに瞬時電圧降下が生じた場合は、コンバータ4のスイッチングに起因した振動に加えて、瞬時電圧降下に起因した減衰振動が両端電圧Vcrに生じる。かかる減衰振動は意図しないものであって両端電圧Vcrの増大を招く。
【0077】
図6は図5における時刻20.00msから時刻25.00msまでのグラフを拡大して示している。図5,6の例示では、相電圧Vrが瞬時電圧降下から回復して両端電圧Vcrが増大している時刻t1においてコンバータ4は中間線間電圧E2から切り換えて最大線間電圧E1を直流リンク電圧Vdcとして直流電源線LH,LLに出力している。このとき、両端電圧Vcrの増大に伴って直流リンク電圧Vdcがクランプ電圧Vc1を超え、これによってコンデンサC1へと電流ic1が流れている。図5,6の例示では電流ic1は100Aを超えている。
【0078】
なお図5,6の例示では、最大線間電圧E1が直流電源線LH,LLの間に出力されているときに、直流リンク電圧Vdcがクランプ電圧Vc1を超えている。但し、中間線間電圧E2が直流リンク電圧Vdcとして直流電源線LH,LLの間に印加されているときであっても、コンデンサCr,Cs,Ctの両端電圧の増大によっては直流リンク電圧Vdcがクランプ電圧Vc1を超え得る。しかしながら、実際にはこのような現象はほとんど生じない。なぜなら、抵抗Rr,Rs,Rtは共振回路に対するダンピング抵抗として機能し、瞬時電圧降下に起因する両端電圧Cr,Cs,Ctの振動の振幅を抑制するからである。かかるダンピング抵抗によって、例えばコンバータ4に入力される線間電圧の増分は、最大線間電圧E1の最大値の10分の1程度以下に抑えられる。中間線間電圧E2の最大値は最大線間電圧E1の最大値の√3/2倍であるので、中間線間電圧E2が最も大きい時点で共振回路による電圧の増大が生じたとしても、中間線間電圧E2はクランプ電圧Vc1(最大線間電圧E1の最大値)を超えない。
【0079】
図7は瞬時電圧降下に起因してコンデンサC1へと電流ic1が流れる場合の、直接形電力変換装置の等価回路を示している。最大線間電圧E1はクランプ電圧Vc1を超えるノイズ源として把握され、中間線間電圧E2はクランプ電圧Vc1を超えない直流電源として把握される。
【0080】
上述したようにコンバータ4は最大線間電圧E1と中間線間電圧E2とを交互に直流電源線LH,LLの間に出力する。よってこの等価回路においては、最大線間電圧E1を直流電源線LH,LLの間に印加させるトランジスタ及びこれと直列に接続されるダイオードが、当該ノイズ源と直列に接続されて示され、中間線間電圧E2を直流電源線LH,LLの間に印加させるトランジスタ及びこれと直列に接続されるダイオードが、当該直流電源と直列に接続されて示される。また直流電源線LH,LLの間にはクランプ回路5が設けられているが、クランプ回路5には抵抗R1は設けられていないものが例示される。また、この等価回路においてはクランプ回路5の後段で直流電源線LH,LLの間にインバータ6及び誘導性負荷7からなる電流源が設けられている。
【0081】
かかる等価回路において、中間線間電圧E2はクランプ電圧Vc1を超えないので、中間線間電圧E2が選択されている期間においてクランプ回路5には電流が流れずに、直流電源からインバータ6及び誘導性負荷7へと電流が流れる。また最大線間電圧E1はクランプ電圧Vc1を超えるので最大線間電圧E1が選択されている期間においてノイズ源からクランプ回路5へと電流が流れる。
【0082】
以上のように、瞬時電圧降下に起因して、最大線間電圧E1が選択されている期間においてコンデンサC1へと大きな電流ic1が流れ得る。このような電流ic1は望ましくなく、かかる電流ic1の低下が望まれる。そこで、本願では抵抗R1を直流電源線LH,LLの間でコンデンサC1と直列に設けている(図1を参照)。かかる抵抗R1によって、電源の瞬時電圧降下に起因してコンデンサC1へと流れる電流ic1を低減できる。
【0083】
ここで抵抗R1の抵抗値について考察する。例えば特許文献4に既に示されているとおり、相互に直列に接続されたリアクトルとコンデンサと抵抗と直流電源からなる回路において、コンデンサが全く充電されていない状態で初期的に流れる電流は理論的には電源電圧と抵抗の抵抗値のみに依存する。より具体的には電源電圧を抵抗値で除算した値が突入電流として把握される。
【0084】
本直接形交流電力変換装置においては、既に充電されたコンデンサC1の両端電圧Vc1と、両端電圧Vc1を超えた直流リンク電圧Vdcの差分△E(図6参照)が、上記回路における電源電圧に相当する。差分ΔEは電源電圧の10分の1程度であるので、瞬時電圧低下に起因する電流ic1は、例えば直接形交流電力変換装置の起動時におけるコンデンサC1への突入電流に比して、小さい。よって、電流ic1を抑制する抵抗R1の抵抗値は突入電流を抑制するための抵抗の抵抗値に比して小さくてよい。この点については第2の実施の形態で詳述する。
【0085】
図8は、本直接形交流電力変換装置において抵抗R1の抵抗値と電流ic1の最大値との関係を示すグラフである。図8から理解できるように、電流ic1の最大値は抵抗R1の抵抗値の増大ととともに低下して所定の値に漸近する。ここでは、電源1の線間電圧の実効値を456V、リアクトルLr,Ls,Ltのインダクタンスを1mH、コンデンサCr,Cs,Ctの電気容量を10μF、コンデンサC1の電気容量を390μF、負荷7の抵抗成分を10.8Ω、インダクタンス成分を13.6mHとして、計算している。なお、通常運転では抵抗R81,R82は短絡されているため無視されている。
【0086】
図8より、抵抗R1の抵抗値が4Ωよりも小さい範囲では電流icは比較的急峻に低下し、抵抗R1の抵抗値が4Ωよりも大きい範囲では比較的緩やかに低減する。よって抵抗R1の抵抗値を4Ω以上とすることで、電流ic1を効率よく低減できる。
【0087】
なお、通常運転においては、コンデンサC1が充電されてクランプ電圧Vc1は最大線間電圧E1の最大値と一致する。よって、コンバータ4に意図しない大きい電圧が入力されない限り、コンバータ4側からコンデンサC1へと電流は流れない。ひいてはコンデンサC1と直列に接続された抵抗R1にも電流は流れない。従って、本願のように、抵抗R1を設けたとしてもコンバータ4の通常運転に際して、コンバータ4から抵抗R1へと電流が流れて抵抗R1にて電力を消費することは回避される。
【0088】
<インバータ6の転流>
既に図4に示したとおり、第1の転流モードでコンバータ4を転流させることにより、直流リンク電圧Vdcの平均値Vdc1が脈動する。具体的には平均値Vdc1は、60度区間毎にその中央で極値を採り、当該区間の両端においてその極値の√3/2の値を最小値として採る。この脈動を補正して三相平衡を実現するためには、インバータ6側の線間電圧指令に対して振幅変調補正を行うことが望ましい。図9はかかる振幅変調補正を行うための補正値を例示するグラフである。かかる補正は例えば非特許文献1に例示されている。
【0089】
今、コンバータ4のスイッチング素子Ttnが導通しつつ、スイッチング素子Ttp,Trn,Tsnが非導通であって、スイッチング素子Trp,Tspが相補的に導通する状況を考える。スイッチング素子Trpが導通する期間と、スイッチング素子Tspが導通する期間との比は、それぞれ図3の線間電圧指令Vrs*の値と線間電圧指令Vst*の値との比に等しい。よってスイッチング素子Trpが導通する期間と、スイッチング素子Tspが導通する期間との比をdrt:dstとして説明を続ける。
【0090】
図10は第1の転流モードにおけるコンバータ4とインバータ6の動作を説明するグラフである。コンバータ4の転流に用いられるキャリアCとして、その値が0〜drt+dstまで変動し、周期tsの三角波(鋸歯波でもよい)と仮定する。キャリアCが0〜drtの値を採るときにスイッチング素子Trpが導通し、drt〜drt+dstの値を採るときにスイッチング素子Tspが導通する制御を行うことにより、スイッチング素子Trpが導通する期間と、スイッチング素子Tspが導通する期間との比をdrt:dstにできる。
【0091】
入力電流Ir,Is,Itはそれぞれ入力端Pr,Psに流れ込む電流及び入力端Ptから流れ出す電流を示している。また直流リンク電流Idcは直流リンク部を流れる電流であり、ここではクランプ回路5に流れる電流を無視して考えて、直流電源線LH,LLを流れる電流である。
【0092】
インバータ6側の転流に用いられるキャリアCも、コンバータ4の転流に用いられるキャリアCと共有する。インバータ6の転流が電圧ベクトルV0,V4,V6を採用して繰り返される場合が図10に例示されている。但し、インバータ6での電圧ベクトルとコンバータ4の転流で採用される仮想的な相電圧ベクトルとは直接の関係はない。インバータ6の転流で採用される電圧ベクトルに付記された数字を二進数に変換して得られる三桁の数字の各桁は、第2のスイッチング素子群の相毎の導通/非導通を示す。例えば電圧ベクトルV4はインバータ6が直流電源線LHを出力端Puに接続し、直流電源線LLを出力端Pv,Pwへと接続するパターンを示している。
【0093】
この場合、電圧ベクトルV0,V4,V6を採る期間の比をそれぞれd0,d4,d6(但しd6=1−d0−d4)で示せば、既に特許文献1,2において示されたとおり、キャリアCが値drt(1−d0)〜drt+dst・d0を採る期間で電圧ベクトルV0を採り、キャリアCが値drt+dst・d0〜drt+dst(d0+d4)を採る期間及び値drt(1−d0−d4)〜drt(1−d0)を採る期間で電圧ベクトルV4を採り、キャリアCが値0〜drt(1−d0−d4)を採る期間及び値drt+dst(d0+d4)〜drt+dstを採る期間で電圧ベクトルV6を採ればよい。
【0094】
換言すればキャリアCが値drt(1−d0−d4),drt(1−d0),drt,drt+dst・d0,drt+dst(d0+d4)を採る時点を契機として、第2のスイッチング素子群の導通パターンを切り替えればよい。
【0095】
なお、スイッチング素子Tup,Tvp,Twp,Tun,Tvn,Twnは、図10のスイッチング信号Sup,Svp,Swp,Sun,Svn,Swnの活性/非活性(グラフ上では高電位/低電位として示される)によって、それぞれ導通/非導通するとした。
【0096】
ここではインバータ6の転流が電圧ベクトルV0,V4,V6を採用して繰り返される場合を例示しているため、スイッチング素子Twpは常に非導通、スイッチング素子Twnは常に導通となるので、スイッチング信号Swp,Swnはそれぞれ非活性、活性として示されている。
【0097】
また、電圧ベクトルV0が採用されている期間はスイッチング素子Tup,Tvp,Twpの全てが非導通となるので、直流リンク電流Idcは当該期間で零となる。これに伴い、コンバータ4がキャリアCが値drtを採る時点で転流するにも拘わらず、入力電流Ir,Is,Itは零となっている。しかも電圧ベクトルV0が採用されている期間がdrtとdstで内分されるので、入力電流Ir,Isが零となる期間が同じdrtとdstの比で分配される。よって、入力電流の波形劣化を抑制することができる。
【0098】
図10に示すように、電圧ベクトルV0が採用されている期間において、コンバータ4は出力電圧として最大線間電圧(図10のスイッチングでは線間電圧Vst)と中間線間電圧(図10のスイッチングでは線間電圧Vrt)とを切り替える。つまり、直流リンク電流Idcが零である期間において、最大線間電圧/中間線間電圧が切り替わる。しかしながら、回路の寄生インダクタンス(例えば直流電源線LHのインダクタンス成分)によって、零電圧ベクトルV0が採用されている期間であっても直流リンク電流idcが流れ得る。かかる直流リンク電流idcはコンデンサC1へと流れる。なぜなら電圧ベクトルV0が採用されているときには直流電源線LHからインバータ6を介して直流電源線LLへと電流は流れないからである。
【0099】
そして特に中間線間電圧から最大線間電圧へと切り替わるときにコンデンサC1へと大きな電流が流れやすい。最大線間電圧は中間線間電圧よりも大きいからである。
【0100】
しかしながら、本実施の形態にかかる直接形交流電力変換装置においては、コンデンサC1と直列に抵抗R1が設けられている。したがって、抵抗R1は回路の寄生インダクタンスに起因してコンデンサC1へと流れる電流をも低減することができる。
【0101】
なお、回路の寄生インダクタンスとコンバータ4のスイッチングに起因して直流リンクに過大な電圧が印加されてコンデンサC1へと電流が流れる場合も考えられる。よって、かかるメカニズムによるコンデンサC1への電流は、必ずしもインバータ6の存在を前提としない。
【0102】
<過電流によるインバータ6の停止>
かかるインバータ6において、例えば負荷7へと過電流が生じた場合、負荷7への電流の供給を停止すべくスイッチ素子Tup,Tun,Tvp,Tvn,Twp,Twnを非導通とさせる(以下、インバータ6の停止と呼ぶ)。この場合、負荷7に蓄積された誘導エネルギーがダイオードDup,Dun,Dvp,Dvn,Dwp,Dwnを介してクランプ回路5へと回生される。
【0103】
例えば負荷7へと流れる電流が所定の過電流設定値に達したことを契機として、インバータ6を停止させた場合、最大で過電流設定値と等しい回生電流がクランプ回路5へと流れる。図11は過電流によってインバータ6を停止させた場合の、コンデンサC1へと流れる電流ic1(以下、回生電流ic1とも呼ぶ)と、直流リンク電圧Vdcと、抵抗R1の電圧降下Vr1とを示している。図11においては、過電流設定値を22Aとしており、その他の回路定数は図8で示したグラフにおける回路定数と同じである。
【0104】
図11に示すように、例えば時刻t2にてインバータ6を停止した時、負荷7からインバータ6を介してコンデンサC1へと回生電流ic1が流れる。時刻t2において回生電流ic1は22Aである。かかる回生電流ic1は負荷7の誘導エネルギーに起因するので時間と共に低下して零に至る。よって、回生電流ic1を因数として算出される電圧降下Vr1も電流ic1と同じく時間と共に低下して零に至る。
【0105】
直流リンク電圧Vdcは抵抗R1の電圧降下Vr1とコンデンサC1の両端電圧Vc1との和である。コンデンサC1の両端電圧Vc1は回生電流ic1の積分に基づいて上昇するので、その上昇速度は電圧降下Vr1のそれと比較して緩慢であり、時刻t2直後においては殆ど変化しない。よって直流リンク電圧Vdcの最大値は時刻t2での電圧降下Vr1(=抵抗値×過電流設定値)と、時刻t2での両端電圧Vc1(=最大線間電圧E1の最大値)との和である。
【0106】
図11の例示では、直流リンク電圧Vdcは時刻t2にて電圧降下Vr1の分、増大し、その後、時間の経過と共に低下している。かかる直流リンク電圧Vdcの増大は好ましくなく、低減が望まれている。
【0107】
図12は、回生電流に起因する直流リンク電圧Vdcの最大値と、抵抗R1の抵抗値との関係を示している。抵抗値の大きい範囲では直流リンク電圧Vdcの最大値は抵抗R1の抵抗値に比例する。これは抵抗R1の電圧降下Vr1の最大が両端電圧Vc1の上昇分△Vc1よりも大きいためである。即ち図11の例示の如く、時刻t2での電圧降下Vr1と時刻t2での両端電圧Vc1の和が直流リンク電圧Vdcの最大値となる。
【0108】
一方、抵抗R1の抵抗値が小さい範囲では直流リンク電圧Vdcの最大値は抵抗値に依存せずに一定である。これは、抵抗R1の電圧降下Vr1の最大(即ち、時刻t2での電圧降下Vr1)がコンデンサC1の両端電圧Vc1の上昇分△Vc1よりも小さいためである。このとき、抵抗R1の電圧降下Vr1に依らず直流リンク電圧Vdcの最大値はコンデンサC1の両端電圧Vc1の最大値である。
【0109】
かかる直流リンク電圧Vdcの最大値が例えばインバータ6の定格電圧を超えないように抵抗R1の抵抗値が設定されるとよい。具体的には、抵抗R1の抵抗値は、インバータ6の定格電圧Vmaxから時刻t2での両端電圧Vc1を減算した値(Vmax−Vc1)から、回生電流の最大値(即ち過電流設定値)を除算した値以下に設定されるとよい。なお、時刻t2での両端電圧Vc1はコンバータ4に入力される最大線間電圧E1の最大値である。
【0110】
例えばインバータ6の定格電圧Vmaxを820Vとすると、図12の例示においては抵抗R1の抵抗値を4Ω以下とすることで、直流リンク電圧Vdcを定格電圧Vmax以下にすることができる。
【0111】
<クランプ回路5の他の構成>
図13に示される直接形交流電力変換装置は図1に比してクランプ回路5の構成が相違している。クランプ回路5はコンデンサC1,C2と、クランプダイオードD1と、ダイオードD12,D13と、抵抗R1とを備えている。
【0112】
コンデンサC1,C2は直流電源線LH,LLの間で相互に直列に接続されている。コンデンサC1はコンデンサC2に対して直流電源線LH側に設けられている。クランプダイオードD1はコンデンサC1,C2の間でこれらと相互に直列に接続される。クランプダイオードD1はそのアノードを直流電源線LH側に、そのカソードを直流電源線LL側にそれぞれ向けて配置される。抵抗R1はコンデンサC1,C2の間でクランプダイオードD1と直列に接続される。ダイオードD12のアノードはクランプダイオードD1及び抵抗R1の直列体とコンデンサC2との間に、そのカソードは直流電源線LHにそれぞれ接続される。ダイオードD13のアノードは直流電源線LLに、そのカソードはクランプダイオードD1及び抵抗R1の直列体とコンデンサC1との間にそれぞれ接続される。
【0113】
かかるクランプ回路5によれば、コンデンサC1,C2が互いに直列接続された経路で充電され、コンデンサC1,C2が互いに並列接続された経路で放電されるので、これらのコンデンサに要求される耐圧が小さくて足りる(特許文献3参照)。また既に特許文献3に示されているように、クランプ回路5は負荷7の力率(以下、「負荷力率」と呼ぶ)に応じた充放電動作を行う。これにより、負荷力率が低い範囲においてクランプ回路5のクランプ電圧(コンデンサC1,C2の一組の両端電圧)の増大を抑制することができる。しかも、コンデンサC1,C2の放電経路には抵抗R1が介在しないので、コンデンサC1,C2の放電に際して抵抗R1で消費電力が生じることを回避できる。
【0114】
かかるクランプ回路5においても、コンバータ4に入力される電圧が意図せず増大した際の、図1のクランプ回路5と同様に、コンデンサC1,C2へと流れる電流を低減できる。
【0115】
第2の実施の形態.
第2の実施の形態においては、直接形交流電力変換装置の起動時においてコンデンサC1へと流れる突入電流を抑制することを目的とする。また、起動後の通常運転において小さい抵抗でコンデンサへと流れる電流を抑制する。
【0116】
図14に例示する直流形電力変換装置では、図1の構造と比較して、コンバータ4の入力側に、限流抵抗群8も設けられている。限流抵抗群8は例えば入力端Pr,Ps,Ptとリアクトル群2との間に設けられ、抵抗R81,R82とスイッチS81,S82とを含んでいる。抵抗R81,R82は例えば入力端Pr,Ptとコンバータ4(より具体的には例えばリアクトル群2)との間に設けられている。抵抗R81,R82の抵抗値は抵抗R1の抵抗値よりも大きく、抵抗R81,R82はいわゆる限流抵抗として機能する。例えば直接形交流電力変換装置の起動時に、初期的には電圧が充電されていないコンデンサC1を充電するところ、コンデンサC1への突入電流を抑制するために抵抗R81,R82が設けられている。
【0117】
ここでは、起動時に、コンバータ4が入力端Pr,Ps,Ptに印加される相電圧の全てを利用してコンデンサC1へと直流電圧を印加し、これによりコンデンサC1を充電することが想定されている。例えば、起動時に、コンバータ4が有するスイッチング素子の全てを導通させて、コンバータ4をダイオードブリッジとして機能させる。かかる動作において、コンデンサC1と入力端Pr,Ps,Ptとを結ぶ直流ループのいずれにおいても抵抗R81,R82の少なくとも何れか一方が介在する。これにより、コンデンサC1へと突入電流が抑制される。抵抗R81,R82は、入力端Pr,Ps,Ptの何れか2つにそれぞれ設けられていればよく、また3つ抵抗が入力端Pr,Ps,Ptにそれぞれ設けられていてもよい。
【0118】
スイッチS81,S82はそれぞれ抵抗R81,R82と並列に接続されている。スイッチS81,S82は例えば起動時に開状態となってコンデンサC1の充電に際して抵抗R81,R82を機能させる。即ち、抵抗R81,R82を介してコンデンサC1に充電電流が流れる。一方、起動が終了しコンデンサC1に十分な電圧が充電されると、スイッチS81,S82は閉状態となり、抵抗R81,R82の機能を停止させる。即ち、起動後の直接形交流電力変換装置の通常運転では抵抗R81,R82には電流が流れない。よって、通常運転での抵抗R81,R82における消費電力を回避することができる。
【0119】
また、既に特許文献4に示されたように、例えば起動時に、コンバータ4が入力端Pr,Ps,Ptのいずれか2つに印加される相電圧のみを利用してコンデンサC1を充電してもよい。例えば入力端Pr,Psの線間電圧(入力端Prの相電圧と入力端Psの相電圧の差)が正のときにスイッチング素子Trp,Tsnを導通させ、入力端Pr,Psの線間電圧が負のときにスイッチング素子Trn,Tspを導通させる。この場合、入力端Pr,PsとコンデンサC1とを結ぶ直線経路のみに電流が流れるので、2つの入力端Pr,Psの何れか一方に抵抗R81及びスイッチS81が設けられていればよく、抵抗R82とスイッチS82は設けられなくてもよい。
【0120】
また例えば図15に示す態様であってもよい。図15の例示では、コンデンサC1は、互いに直列接続された2つのコンデンサC1,C2に分割されている。電源1は中性点を有しており、かかる中性点が入力端Pnに接続される。限流抵抗群8は入力端PnとコンデンサC1,C2の間で互いに直列に接続される抵抗R81及びスイッチS81を含んでいる。
【0121】
起動時には、スイッチS81が閉状態となり、コンバータ4が入力端Pr,Ps,Ptの少なくとも何れか1つと、入力端Pnに印加される電圧を利用して、コンデンサC1,C2の各々へと相電圧を倍電圧整流した直流電圧を印加する。かかる倍電圧整流に際して、コンデンサC1,C2の各々へと流れる電流経路のいずれにも抵抗R81が介在する。よってコンデンサC1,C2の各々へと流れる突入電流を抑制できる。そして、起動後にはスイッチS81が開状態となり、通常運転では電流は抵抗R81を流れない。
【0122】
なお、上述したいずれの抵抗R81,R82も、入力端の少なくとも何れか1つとコンデンサC1(或いはコンデンサC1,C2)とを結ぶ経路に設けられると把握できる。また上述したいずれのスイッチS81,S82も、それぞれ抵抗R81,R82を介した入力端とコンデンサC1との間の導通/非導通を選択すると把握できる。
【0123】
なお第1の実施の形態においては限流抵抗群8が設けられていない。しかしながら第1の実施の形態であっても、次のような場合は突入電流の問題が生じない。例えばコンデンサC1の電気容量が小さい場合であれば、起動時にコンデンサC1へと流れる電流が小さいので突入電流の問題は生じない。さて、コンデンサC1は例えばインバータ6の全てのスイッチング素子をオフしたときに負荷7からの誘導エネルギーを吸収するのに十分な電気容量を必要とする。より詳細には、コンデンサC1が負荷7からの回生電流を吸収した後のコンデンサC1の両端電圧が例えばインバータ6の耐圧以下となるように、コンデンサC1の電気容量が設定される。よって負荷7のインダクタンス成分が小さければ、負荷7の誘導エネルギーが小さいのでコンデンサC1は小さい電気容量で足りる。したがって、この場合であれば限流抵抗群8を要しない。
【0124】
次に、起動時における限流抵抗の抵抗値および第1の実施の形態にかかる抵抗R1の抵抗値について考慮する。なお限流抵抗の抵抗値とは、抵抗R1の抵抗値と、抵抗R81又は抵抗R82の抵抗値との和である。なぜなら、起動時でのコンデンサC1の充電においては、抵抗R81,R1或いは抵抗R82,R1がコンデンサC1へと流れる電流経路に介在するからである。
【0125】
起動時ではコンデンサC1には電圧が充電されていないので、第1の実施の形態で述べた差分△Eではなく線間電圧の最大値が電源電圧として把握される。なお、電源投入時による瞬時電圧変動よって、その1割ほど増大した最大線間電圧E1の最大値がコンバータ4に入力され得る。かかる増大はリアクトル群2及びコンデンサ群3の共振回路に起因する。よって、電源電圧はかかる増分も含めて考慮する。
【0126】
最大線間電圧の最大線間電圧E1の最大値は645(=√2×456)Vなので、例えば突入電流idcを35A以下とするためには限流抵抗の抵抗値をおよそ20Ω(=645V×1.1/35A)以上とする必要がある。
【0127】
一方、図8から理解できるように、電流idcの最大値を35A以下とするためには、抵抗R1の抵抗値を2Ω以上とすればよい。これは上述した限流抵抗の抵抗値の10分の1である。
【0128】
以上のように、抵抗R1の抵抗値を抵抗R81,R82の抵抗値よりも小さい値(例えば10分の1程度)に設定したとしても、通常運転においてコンデンサC1へと流れる電流ic1を十分に抑制することができる。また抵抗R1の抵抗値を抵抗R81,R82の抵抗値よりも小さくしているので、回路規模や製造コストを低減できる。
【0129】
なお第1の実施の形態においても図13のクランプ回路15が適用されてもよい。また以下で説明する他の実施の形態はいずれも第1及び第2の実施の形態に適用可能である。
【0130】
第3の実施の形態.
第3の実施の形態では第1の実施の形態に比してクランプ回路の構成が相違している。図16は第3の実施の形態にかかる直接形交流電力変換装置の概念的な構成を示している。直接形交流電力変換装置はクランプ回路5を除いて図14と同一である。クランプ回路5は図14のクランプ回路5に比してスイッチS1を更に備えている。なお、限流抵抗群8は必須要件ではない。
【0131】
スイッチS1は抵抗R1と並列に接続されている。図16の例示では、スイッチS1はIGBTであって、そのコレクタを直流電源線LH側にそのエミッタを直流電源線LL側にそれぞれ向けて配置されている。
【0132】
スイッチS1は例えば制御部9によってその導通/非導通が制御される。また制御部9は第1の実施の形態で説明した制御に則って、コンバータ4、インバータ6へスイッチ信号を出力する。なお、第1の実施の形態で説明した制御を実行するより具体的な機能ブロックについては第4の実施の形態で述べる。
【0133】
かかる直接形交流電力変換装置によれば、負荷7へと流れる電流が所定の過電流設定値を超えたことを契機としてインバータ6を停止させると共に、スイッチS1を導通させることができる。例えば制御部9が負荷7へと流れる電流を検知してこれが所定の過電流設定値に達したと判断したときに、インバータ6を停止させるとともに、スイッチS1を導通させる。
【0134】
これによって、負荷7からコンデンサC1へと流れる回生電流ic1は抵抗R1を避ける。よって、インバータ6を停止した際の抵抗R1の電圧降下Vr1による直流リンク電圧Vdcの増大を回避することができる。換言すれば、第1の実施の形態で説明した抵抗R1の抵抗値の上限を撤廃できるので、例えば瞬時電圧降下又は寄生インダクタンスに起因してコンバータ4からコンデンサC1へと流れる電流idc1を低減すべく抵抗R1の抵抗値を増大させることができる。
【0135】
なおインバータ6を停止させるに先立ってスイッチS1を導通させることが望ましい。スイッチS1が導通した後でインバータ6が停止するので、回生電流ic1はより確実に抵抗R1を回避するからである。これは、例えばインバータ6を停止させる基準となる過電流設定値よりも低い値を、スイッチS1を導通させる基準値として採用することによって実現される。
【0136】
図17はクランプ回路5の他の一例を示す図である。図13のクランプ回路5と比較してスイッチS1を備えている。スイッチS1は図16のスイッチS1と同じ機能、作用を果たすので詳細な説明は省略する。
【0137】
第4の実施の形態.
図13に示すクランプ回路5を備えた直接形交流電力変換装置において、コンデンサC1,C2は負荷7の負荷力率に基づいた充放電を行う。
【0138】
特許文献6に示されるように、遅相にして回転機の回転位置推定の誤差を削減する場合、力率は低下する。図18はクランプ回路5が支持するクランプ電圧(コンデンサC1,C2の両端電圧の和)と、負荷力率との関係を示すグラフである。但し電源電圧を415V(誤差±10%)とした。横軸には負荷力率の逆正接値たる負荷位相角を採った。またクランプ回路5はコンデンサC1,C2の充電時に相互に直列に接続され、放電時には相互に並列に接続されるため、クランプ電圧は二本のグラフで示されている。
【0139】
負荷力率が0.5以上であれば、充電時のクランプ電圧を、線間電圧の波高値415×√3×√2=1000(V)以下とすることができる(放電時のクランプ電圧も電源電圧の波高値以下となる)。
【0140】
しかしながら、負荷力率が0.2と大幅に低くなると、回生電流が力行時の電流と同程度となってクランプ回路5への充電電流が増大し、放電時のクランプ電圧が電源電圧の波高値に近い650V程度に達してしまう。かかるクランプ電圧の増大は望ましくなく、低減が望まれている。
【0141】
そこで、本願では負荷力率が小さいときにクランプ回路5を平滑回路として機能させることを提案する。
【0142】
<クランプ回路>
図19はクランプ回路5の概念的な構成の一例を示している。クランプ回路5は図13のクランプ回路5と比較してスイッチ部S5を更に備えている。スイッチ部S5は、抵抗R1を介さずにコンデンサC1,C2が直流電源線LH,LLと双方向で導通する平滑回路状態と、抵抗R1を介してコンデンサC1,C2がクランプ回路として機能するクランプ回路状態とを、切り換える。
【0143】
つまり、スイッチ部S5は抵抗R1及びクランプダイオードD1と並列に接続される双方向スイッチであればよい。但し、スイッチ部S5をトランジスタとダイオードで構成する場合、クランプダイオードD1を、スイッチ部S5の一部として兼用させるとよい。ダイオードの個数を減らして双方向スイッチを構成できるからである。
【0144】
スイッチ部S5は例えばトランジスタT1,T2とダイオードD2とを含んでいる。トランジスタT1はダイオードD1と並列に接続される。トランジスタT1は例えばIGBTであって、そのエミッタを直流電源線LL側にそのコレクタを直流電源線LH側にそれぞれ向けて配置される。
【0145】
トランジスタT2は抵抗R1と並列に接続される。トランジスタT2は例えばIGBTであって、そのエミッタを直流電源線LH側にそのコレクタを直流電源線LL側にそれぞれ向けて配置される。ダイオードD2はアノードを直流電源線LL側にカソードを直流電源線LH側にそれぞれ向けて抵抗R1と並列に接続される。
【0146】
なお、トランジスタT1,T2、クランプダイオードD1及びダイオードD2からなる部分は双方向スイッチとも把握できる。
【0147】
トランジスタT1,T2の両方を非導通とすることで、クランプ回路5は等価的に図13のクランプ回路5として機能する。一方、トランジスタT1,T2の両方を導通させることで、クランプ回路5は等価的に、互いに直列接続されたコンデンサC1,C2のみを有する平滑回路として機能する。よって、例えば負荷力率が小さいときに、トランジスタT1,T2の両方を導通させることでクランプ回路5を平滑回路として機能させることができる。クランプ回路5を平滑回路として機能させると、負荷7からコンデンサC1,C2へと回生されるエネルギーは再び負荷7へと与えられるので、コンデンサC1,C2の両端電圧の増大を招かない。以上のように、負荷力率が所定値を下回るときにコンデンサC1,C2の両端電圧(クランプ電圧)の増大を回避できる。
【0148】
また、第3の実施の形態で述べたように、負荷7へと流れる電流が過電流設定値に達したことを契機としてトランジスタT2を導通させてもよい。これによって、抵抗R1を短絡させて回生電流をコンデンサC1,C2へと流すことができ、第3の実施の形態と同様に直流リンク電圧Vdcの増大を抑制できる。この点は後述する他のクランプ回路5においても同様である。
【0149】
図20はクランプ回路5の概念的な構成の他の一例を示す。図19に示すクランプ回路5と比して、スイッチ部S5の構成が異なっている。
【0150】
スイッチ部S5はトランジスタT3と、ダイオードD2〜D4を備えている。ダイオードD2はそのアノードを直流電源線LL側にそのカソードを直流電源線LH側にそれぞれ向けて抵抗R1と並列に接続されている。ダイオードD3のアノードはダイオードD2のカソードに接続され、ダイオードD4のアノードはクランプダイオードD1のカソードに接続されている。ダイオードD3のカソードとダイオードD4のカソードとが互いに接続されている。
【0151】
トランジスタT3は例えばIGBTである。トランジスタT3のコレクタはダイオードD3のカソード及びダイオードD4のカソードに接続される。トランジスタT3のエミッタはダイオードD2のアノード及びダイオードD1のアノードに接続される。
【0152】
かかるスイッチ部S5によっても、トランジスタT3の導通によってクランプ回路5を平滑回路として機能させ、トランジスタT3の非導通によってクランプ回路としての本来的な機能を発揮させることができる。よって、負荷力率が所定値を下回るときにスイッチ部S5を導通させることで、コンデンサC1,C2の両端電圧の増大を回避できる。また図19に示すスイッチ部S5に比してトランジスタの個数が少なくて済むので、製造コストを低減できる。
【0153】
このようなクランプ回路5によれば負荷力率が低いときのコンデンサC1,C2の両端電圧の増大を抑制できるものの、クランプ回路5が平滑回路として機能した場合、コンバータ4が第1の転流モードで転流しても電流を出力することが困難となる。コンバータ4が出力する中間線間電圧E2よりも、コンデンサC1,C2の一組が支持する電圧(クランプ電圧)が大きいからである。よって、このようなコンバータ4の第1の転流モードによる出力の不全を避ける手法についても提案する。具体的には、コンバータ4を第1の転流モードとは異なる転流モードで動作させる。
【0154】
<第2の転流モード>
第2の転流モードも、第1の転流モードと同様に、360度周期を有し、互いにその位相が120度ずれる三つの台形波と、キャリアとの比較結果によって転流を決定する。第2の転流モードにおいて台形波の各々は、180度で連続する平坦区間の一対を有し、実質的には矩形波である。一般に「台形」という概念は「矩形」を含むため、本願ではキャリアとの比較において第2の転流モードで用いる矩形波も、第1の転流モードでキャリアと比較される台形波と同様に、台形波と呼称する。
【0155】
第2の転流モードでキャリアと比較される台形波は、実質的に矩形波であるので、平坦区間の一対の間で遷移する期間は非常に短い。
【0156】
図21は当該台形波を例示するグラフである。図21では図2と同様にして横軸を採り、相電圧ベクトルV4,V6,V2,V3,V1,V5を記載した。位相角0〜30度では相電圧ベクトルV4に相当するスイッチングのみが実行され、位相角30度〜90度では相電圧ベクトルV6に相当するスイッチングのみが実行される。
【0157】
よって第2の転流モードにおいて相電圧指令Vr*,Vs*,Vt*から得られる線間電圧指令Vrs*,Vst*,Vtr*として位相角0〜30度において採用される値は、図2において位相角0度で採用される値となる。また位相角30〜90度において採用される値は、図2において位相角60度で採用される値となる。このようにして、線間電圧指令Vrs*,Vst*,Vtr*は、図22のグラフで示されるように、矩形波となる。
【0158】
従って電流形コンバータでキャリアと比較される値は位相角0〜30度においてdst=0となり、位相角30〜90度においてdrt=0となる。
【0159】
なお、第2の転流モードでは、詳細な説明は省略するが、中間相の相電圧は直流リンクに印加されないため、直流リンク電圧の平均値の脈動は、最大相電圧と最小相電圧の差の脈動となる。この脈動は従って、第1の転流モードのそれとは大小関係が反対となる。そしてその振幅を補正して三相平衡を実現するため、線間電圧指令に対して振幅変調補正を行ってもよい。図23はかかる振幅変調補正を行うための補正値を例示するグラフである。かかる補正は例えば特許文献8に例示されている。
【0160】
図24及び図25は、第2の転流モードにおけるコンバータ4とインバータ6の動作を説明するグラフである。図24及び図25は、図21乃至図23で示された位相角に換算して、それぞれ0〜30度における動作と、位相角30〜90度における動作とを示している。
【0161】
上述のように位相角0〜30度においてコンバータ4でキャリアCと比較される値はdst=0となるので、キャリアCの最大値はdrtと表される。また位相角30〜90度においてコンバータ4でキャリアCと比較される値はdrt=0となるので、キャリアCの最大値はdstと表される。つまりコンバータ4では位相角0〜90度において共通して値drtが指令値として採用されるが、結果的にはコンバータ4の転流はキャリアCと値drtとの比較を必要とせず、位相角0〜30度において入力電流Ir=It,Is=0となり、位相角30〜90度において入力電流Is=It,Ir=0となる。
【0162】
よって位相角0〜30度におけるインバータ6側の転流(図24)は、第1の転流モードにおける電圧側インバータの比較(図10参照)においてdst=0とおいて、キャリアCが値drt(1−d0)〜drtを採る期間で電圧ベクトルV0を採り、キャリアCが値drt(1−d0−d4)〜drt(1−d0)を採る期間で電圧ベクトルV4を採り、キャリアCが値0〜drt(1−d0−d4)を採る期間で電圧ベクトルV6を採ればよい。
【0163】
換言すればキャリアCが値drt(1−d0−d4),drt(1−d0)を採る時点を契機として、第2のスイッチング素子群の導通パターンを切り替えればよい。
【0164】
同様にして、位相角30〜90度におけるインバータ6側の転流(図25)は、第1の転流モードにおける電圧側インバータの比較(図10参照)においてdrt=0とおいて、キャリアCが値0〜dst・d0を採る期間で電圧ベクトルV0を採り、キャリアCが値dst・d0〜dst(d0+d4)を採る期間で電圧ベクトルV4を採り、キャリアCが値dst(d0+d4)〜dstを採る期間で電圧ベクトルV6を採ればよい。
【0165】
換言すればキャリアCが値dst・d0,dst(d0+d4)を採る時点を契機として、第2のスイッチング素子群の導通パターンを切り替えればよい。
【0166】
また第1の転流モードと同様に、ここでも電圧ベクトルV0を採用する場合を例示したので、電圧ベクトルV0が採用される期間においては直流リンク電流Idcが零となる。これに伴い、コンバータ4の転流に依存せずに入力電流Ir,Is,Itは零となっている。
【0167】
またインバータ6の転流が電圧ベクトルV0,V4,V6を採用して繰り返される場合を例示しているため、図24ではスイッチング素子Tup,Tvp,Twpは常に非導通、スイッチング素子Twnは常に導通となるので、スイッチング信号Sup,Svp,Swp、スイッチング信号Swnはそれぞれ非活性、活性として示されている。また図25ではスイッチング素子Tun,Tvn,Twpは常に非導通、スイッチング素子Twnは常に導通となるので、スイッチング信号Sun,Svn,Swp、スイッチング信号Swnはそれぞれ非活性、活性として示されている。
【0168】
<自然転流モード>
自然転流モードは、第1スイッチング素子群の全てが導通することにより、キャリアとの比較を行わずに第1ダイオード群のみで整流するモードである。
【0169】
上述の説明から明白なように、第2の転流モードでのコンバータ4の転流は、結果的には第1のスイッチング素子群の動作に依存しない。具体的には、コンバータ4の線電流指令に相当する図22で示された線間電圧指令Vrs*,Vst*,Vtr*が120度通電と通称されるパターンの矩形波を呈していることから、全ての第1のスイッチング素子群を導通させて、第1ダイオード群のみで整流するモードと等価である。よって自然転流モードと第2の転流モードとは、いずれも120度通電である点で共通し、相互に代替可能である。本願ではこのように120度通電を実現するコンバータ4の転流モードを120度通電モードと称する。なお、120度通電による電力変換装置の制御は非特許文献6にも紹介されている。
【0170】
自然転流モードにおけるコンバータ4の転流も、第2の転流モードと同様に、結果的にはキャリアCと値drtとの比較を必要としない。
【0171】
次に、上述のスイッチングを行うための具体的な構成を例示的に説明する。図26はコンバータ4の転流やインバータ6の転流を行うための制御部9の概念的な一例を示すブロック図である。制御部9は大別してコンバータ転流信号生成部81と、インバータ転流信号生成部82と、切り替え信号生成部83とに区分される。
【0172】
<コンバータ4の転流>
コンバータ転流信号生成部81は、入力端Prの電圧Vr(特にその位相)を入力し、スイッチング信号Srp,Ssp,Stp,Srn,Ssn,Stnを出力する。スイッチング信号Srp,Ssp,Stp,Srn,Ssn,Stnの活性/非活性により、それぞれスイッチング素子Trp,Tsp,Ttp,Trn,Tsn,Ttnが導通/非導通する。
【0173】
インバータ転流信号生成部82は、電圧Vr(特にその位相)と運転周波数の指令値f*を入力し、スイッチング信号Sup,Svp,Swp,Sun,Svn,Swnを出力する。
【0174】
切り替え信号生成部83は、直流電源線LH,LLの間の電圧である直流リンク電圧Vdc(望ましくは直流リンク電圧Vdcからパルス幅変調による変動を除いた平均値)に基づいて切り替え信号Sclを生成する。切り替え信号Sclの活性、非活性に応じて、スイッチ部S5がそれぞれ導通/非導通する。
【0175】
コンバータ転流信号生成部81は、台形状電圧指令生成部11と、比較器12と、電流形ゲート論理変換部13とを有する。これらの動作は特許文献1,2で公知な技術であるので詳細な説明は省略するが、その概略は以下の通りである。
【0176】
台形状電圧指令生成部11は例えば所定のテーブルに基づいて、台形波を有する相電圧指令Vr*,Vs*,Vt*を生成する。例えば第1の転流モードで採用される台形波の傾斜領域は、その振幅を正規化して±√3・tan(θ)で示される(θは相電圧Vrの位相を基準として各相毎に定まる位相であって−π/6≦θ≦π/6)。また第2の転流モードで採用される相電圧指令Vr*,Vs*,Vt*は、その値が遷移する近傍において急峻な傾斜を有する。
【0177】
比較器12は、キャリアと相電圧指令Vr*,Vs*,Vt*とを比較した結果を出力し、これに基づいて電流形ゲート論理変換部13がスイッチング信号Srp,Ssp,Stp,Srn,Ssn,Stnを生成する。この生成について以下に述べる。
【0178】
前掲した非特許文献5には、電圧形インバータの相電圧と電流形インバータの相電流との双対性、及び電圧形インバータの線間電圧と電流形インバータの相電流との双対性に鑑みて、線電流指令値に基づくスイッチングと相電流指令値に基づくスイッチングとの対応関係について教示している。
【0179】
図27はここで検討する仮想的なインバータの構成を示す回路図である。当該インバータは、コンバータ4のスイッチングについて検討するためのものであり、インバータ6とは直接には関係ないので、三相交流についてa相、b相、c相との名称を採用する。当該インバータはa相のハイアーム側にスイッチ素子Qapを、ローアーム側にスイッチ素子Qanを、それぞれ有している。当該インバータは同様にして、b相においてスイッチ素子Qbp,Qbnを、c相においてスイッチ素子Qcp,Qcnを、それぞれ有している。
【0180】
a相の線電流は、a相−c相間の相電流icaとb相−a相間の相電流ibaとの差で求まるため、これらの一対の相電流を流すスイッチングを行う場合のみ、a相電流が流れる。他の相の線電流についても同様である。そこで、相電流ijkが上アーム側のスイッチ素子に流れるか否かを記号Sjkで、下アーム側のスイッチ素子に流れるか否かを記号SjkBで表すことにする。ここで記号j,kは相互に異なりつつも記号a,b,cを代表し、記号Sjk,SjkBが二値論理“1”/“0”をとることで、相電流ijkが「流れる」/「流れない」を示すこととする。
【0181】
インバータが相電圧指令とキャリアとの比較に基づいて線電流を流すときに、ハイアーム側のスイッチ素子Qjp、ローアーム側のスイッチ素子Qjnの導通/非導通を制御するスイッチ指令を、それぞれ記号Sj+,Sj-で示すと、非特許文献5に示す内容は次の変換式で示される:Sa+=Sac・SbaB,Sb+=Sba・ScbB,Sc+=Scb・SacB,Sa-=Sba・SacB,Sb-=Scb・SbaB,Sc-=Sac・ScbB。
【0182】
ここで更に、電圧形インバータの相電圧と電流形インバータの相電流との双対性に鑑みれば、上記の各式の右辺の論理値は、電圧形インバータでの相電圧とキャリアとの比較結果として得られることが分かる。非特許文献5によれば、相電流ijkの指令値が相電圧Vjの指令値と対応する。よって記号Sjkの論理は相電圧指令Vj*とキャリアとの比較によってスイッチ素子Qjpを導通させる論理と一致し、記号SjkBの論理は相電圧指令Vj*とキャリアとの比較によってスイッチ素子Qjnを導通させる論理と一致する。
【0183】
記号SbaBの論理は相電圧指令Vbとキャリアとの比較によってスイッチ素子Qap,Qbpをそれぞれ導通/非導通させる論理と一致し、記号Sbaの論理は相電圧指令Vbとキャリアとの比較によってスイッチ素子Qbp,Qapをそれぞれ導通/非導通させる論理と一致する。より具体的には、相電圧指令Vbがキャリア以下の場合にはスイッチ素子Sapを導通させ、以上の場合にはスイッチ素子Qbpを導通させる。そして記号Sa+、Sb+は線電流を流すときにそれぞれスイッチ素子Qap,Qbpを導通させる期間を示す。
【0184】
今、図2で示された相電圧指令Vr*,Vs*,Vt*を電圧指令Va*,Vb*,Vc*と読み替えて、これらが位相角0〜60度にある場合を説明する。電圧指令Va*,Vc*はそれぞれ値1,−1を採るので、Sac=1,SacB=0,Scb=0,ScbB=1となる。これにより、Sa+=SbaB,Sb+=Sba,Sc+=Sa-=Sb-=0となる。
【0185】
換言すれば、a相,b相,c相をそれぞれr相、s相、t相と読み替えて、相電圧指令Vs*がキャリアC以下の場合にはスイッチ素子Qrpが導通し、キャリアC以上の場合にはスイッチ素子Qspが導通する。キャリアCの最小値が0であることに鑑みれば、電圧指令信号Vsの値がスイッチ素子Qrpを導通させる期間に相当する。
【0186】
以上のことから相電圧指令Vsの値は、キャリアCと比較される指令値を求める際の基準値drtとなる。これはコンバータ4のスイッチ素子Qrp,Qspを値drt,dstの比に比例する期間で交互に導通させる転流のタイミングを規定する。他の位相角においても同様に、電圧指令Vr*,Vt*の値についても上記の説明が妥当する。
【0187】
図26に戻り、上述のようにして決定される相電圧指令Vr*,Vs*,Vt*とキャリアCとの比較によって得られた結果は、比較器12から電流形ゲート論理変換部13へと与えられる。そして上の変換式で示された変換式に則った変換が行われることにより、スイッチング信号Srp,Ssp,Stp,Srn,Ssn,Stnが求められる。
【0188】
キャリアCを生成するキャリア生成部14はコンバータ転流信号生成部81に設けられてもよいし、次に説明するインバータ転流信号生成部82に設けられてもよいし、両者のいずれに属すると把握してもよい。
【0189】
<インバータ6の転流>
インバータ転流信号生成部82は、出力電圧指令生成部21と、中間相検出部22と、指令値補正部23と、比較器24と、論理演算部25とを有する。インバータ転流信号生成部82の動作も特許文献1,2で公知であるので、簡単な説明に留める。
【0190】
中間相検出部22は、相電圧指令Vr*,Vs*,Vt*のうち、いずれがいわゆる中間相に相当するかを判断する。第1の転流モードについてみれば、図2に例示された位相角0〜60°においては相電圧指令Vs*が相当する。そして相電圧指令Vs*の値に鑑み、比drt:dstが決定され、値drt,dstが指令値補正部23に与えられる。これらの比はどの相電圧指令が中間相に相当するかによって異なるので、図26では相電圧指令Vr*,Vt*が中間相である場合も含め、値drt,dstに相当する値をそれぞれ補正値dx,dyとして記載した。以下でもこの表現を採用する。
【0191】
但し、第2の転流モード、あるいは自然転流モードを採用する場合、中間相が存在する期間が非常に短い。よって実質的には、相電圧指令Vr*,Vs*,Vt*から一意に決定される線間電圧指令Vrs*,Vst*,Vtr*の、いずれが中間相であるかを抽出することになる。そして例えば位相角0〜30度において線間電圧指令Vst*が中間相となり、このとき値dstが0に設定される。また位相角30〜90度において線間電圧指令Vrs*が中間相となり、このとき値drtが0に設定される。
【0192】
中間相検出部22はインバータ転流信号生成部82に設けられてもよいし、先に説明したコンバータ転流信号生成部81に設けられてもよいし、両者のいずれに属すると把握してもよい。
【0193】
出力電圧指令生成部21は電圧Vr(特にその位相)と運転周波数の指令値f*とを入力し、インバータ6の電圧指令値Vu*,Vv*,Vw*を生成する。このような電圧指令値Vu*,Vv*,Vw*の生成は周知の技術であるので説明を省略する。
【0194】
指令値補正部23は、電圧指令値Vu*,Vv*,Vw*と、補正値dx,dyとに基づいて、インバータ6の転流のためにキャリアCと比較すべき値を生成する。図10に即して言えば(即ち相電圧指令Vs*が中間相である場合を例に採れば)、電圧指令値Vu*,Vv*,Vw*に基づいて値d0,d4,d6(=1−d0−d4)を計算し、これと値drt,dstとに基づいて、値drt(1−d0−d4),drt(1−d0),drt+dst・d0,drt+dst(d0+d4)を生成する。また値0,drt+dstも出力する。これらの値は比較器24において比較され、その結果が論理演算部25によって演算される。そして論理演算部25は比較器24における比較結果に基づいてスイッチング信号Sup,Svp,Swp,Sun,Svn,Swnを生成する。
【0195】
<転流モードの切り替え>
切り替え信号生成部83は切り替え指令生成部31と、切り替え信号発生部32とを有している。切り替え指令生成部31は、後述する基準に従って、直流リンク電圧Vdcに基づいて第1の転流モードと、第2の転流モード(若しくは自然転流モード)の切替えを判断して切り替え指令Jを生成する。
【0196】
台形状電圧指令生成部11は切り替え指令Jに従って、その出力する相電圧指令Vr*,Vs*,Vt*が有する台形波の種類を切り替える。また、上述のように、中間相検出部22における中間相検出は、実質的には、第1の転流モードにおいては相電圧指令Vr*,Vs*,Vt*の中間相を、第2の転流モードにおいては線間電圧指令Vrs*,Vst*,Vtr*の中間相を、それぞれ検出することが好適である。よって中間相検出部22は切り替え指令Jに従って、相電圧指令、線間電圧指令のいずれの中間相を検出するかを切り替えてもよい。
【0197】
なお、第2の転流モードに替えて自然転流モードが採用される場合、第1スイッチング素子群の全てが導通するため、実質的にコンバータ転流信号生成部81、インバータ転流信号生成部82、切り替え信号生成部83が上記のように機能する必要はなく、スイッチング信号Srp,Srp,Ssp,Ssn,Ssn,Ssnを全て活性化させてもよい。例えば図26において破線矢印で示すように、電流形ゲート論理変換部13に切り替え指令Jを与える。切り替え指令Jが第1の転流モードを設定する場合には、電流形ゲート論理変換部13は上述の動作をする。切り替え指令Jが自然転流モードを設定する場合には、電流形ゲート論理変換部13がいずれも活性化したスイッチング信号Srp,Srp,Ssp,Ssn,Ssn,Ssnを出力する。
【0198】
但し、そのような、自然転流モードのための特別な動作を切り替え信号生成部83に行わせるよりも、相電圧指令Vr*,Vs*,Vt*の波形を第2転流モード用に生成する方が、装置設計の観点からは容易であるという利点がある。つまり第1及び第2の転流モードのいずれにおいても台形波とキャリアとの比較によってコンバータ4が転流するので、これらの転流モードに応じて個別に設計を行う必要がない。
【0199】
他方、120度通電モードに自然転流モードを採用すれば台形波とキャリアの比較を行う必要はない。
【0200】
切り替え指令Jが、コンバータ4の転流モードとして第1の転流モードを設定する場合に、切り替え信号発生部32は切り替え信号Sclを非活性にする。またコンバータ4の転流モードとして第2の転流モード若しくは自然転流モードを設定する場合に、切り替え信号発生部32は切り替え信号Sclを活性にする。
【0201】
さて、上述したように第1の転流モードを採用し、クランプ回路5を平滑回路として機能させた場合、コンバータ4が第1の転流モードで転流しても、電流を出力することが困難となる。
【0202】
これに対して第2の転流モードや自然転流モードでは、120度通電のパターンで電流が流れるため、入力端Pr,Ps,Ptのいずれかのうち最大相に対応する相電圧が印加されるものが直流電源線LHに接続されるので、コンバータ4からインバータ6へと電位を供給することが確保できる。つまり力率低下によって増大する回生電流に起因した第1の転流モードの機能不全を回避し、以て直接形交流電力変換が実現できる。
【0203】
従って、負荷力率が所定値を下回った場合にスイッチ部S5を導通させ、かつ第2の転流モード(若しくは自然転流モード)を採用することが望ましい。より詳細には、第1の転流モードが採用されている状態でスイッチ部S5が導通することを契機として、第2の転流モード若しくは自然転流モードが採用される。なお、スイッチ部S5が非導通となる時点以降で第1の転流モードを採用する。
【0204】
負荷力率は、図18を見ても了解されるように、コンデンサが支持するクランプ電圧を検出して推測できる。あるいはクランプ電圧の変動は直流リンク電圧Vdcの大きさを左右するので、直流リンク電圧Vdcを検出することにより、負荷力率を推測できる。よって図26に示されたように切り替え指令生成部31が直流リンク電圧Vdc(あるいはクランプ電圧)を入力し、これから平均値Vdc1を求め、当該平均値Vdc1を負荷力率についての上記所定値に相当する閾値と比較し、切り替え指令Jを生成することができる。
【0205】
あるいは、特許文献5の図6(d)に示されるように、電流位相角に対して、電流極性が反転する位相角はπ/6で遅相する。特許文献5の図6(e)に示されるように、インバータの出力電圧の位相角は既知であるので、これらの位相角の差から負荷電流の位相を検出し、これに基づいて力率の大きさを推定することができる。つまり切り替え指令生成部31への入力として、図26に示された直流リンク電圧Vdcに代えて、インバータ出力電流のゼロクロス、インバータの出力電圧を入力し、両者の位相差と負荷力率の所定値に相当する閾値と比較し、切り替え指令Jを生成することができる。図28として、特許文献5の図6(d)(e)を示した。グラフI_V4,I_V6はそれぞれインバータが電圧ベクトルV4,V6を採るときに流れる直流電流を示し、グラフt4,t6はそれぞれインバータが電圧ベクトルV4,V6を採る時比率を示す。
【0206】
あるいは遅相にして回転機の回転位置推定の誤差を削減する運転は、起動当初において採用されることに鑑みれば、起動当初にスイッチ部S5を導通させ、これを契機として第2の転流モード若しくは自然転流モードが採用すればよい。そして所定期間が経過するまでは第2の転流モード若しくは自然転流モードに従ってコンバータ4が転流し、所定期間が経過した後にスイッチ部S5を非導通とさせる。この時点以降で第1の転流モードを採用すればよい。このようにして、負荷7が回転機である場合、その起動当初において位置検出を行うべく遅相となる電流に起因した力率の低下に対処できる。
【0207】
なお、上述のように、クランプ回路5でダイオードD12,D13を設けず、いわゆるCDスナバを採用することができる。図29,30はかかるクランプ回路5を示している。図29,30のクランプ回路5はそれぞれ図19,20のクランプ回路5からダイオードD12,D13を除いたものと同一である。かかる場合でもスイッチ部S5を導通させることで、クランプ回路5を平滑回路として機能させることができる。
【0208】
しかしこの場合、負荷力率が√3/2以上でないとスイッチ部S5を非導通とさせてもクランプ回路5が効果的に機能しない。よって切り替え指令Jが第1の転流モードを選択する時期を、負荷力率が√3/2以上となるまで待つことが望ましい。
【0209】
<入力端に接続される電源の瞬時電圧低下>
瞬時停電によりコンバータ4に入力する三相交流電圧が消失すると、クランプ回路5ではコンデンサC1,C2が並列接続されて放電するので、クランプ電圧は半減する。特に負荷7が回転機である場合、クランプ電圧の減少は回転機の鎖交磁束を弱め、電流が多くなってインバータ6が停止したり、脱調によって運転停止を招くおそれがある。
【0210】
図31は瞬時停電のときにもクランプ回路5が機能している場合の動作を示すグラフである。電源1が発生する電源電圧は50Hz400Vであり、停電は1/4周期だけ発生した場合を例示している。
【0211】
相電圧Vr,Vs,Vtはそれぞれ入力端Pr,Ps,Ptにおける電圧を示し、電源線電流Ir,Is,Itはそれぞれ入力端Pr,Ps,Ptへとコンデンサ群3から流れ込む電流を示し、クランプ回路直列電圧Vcはクランプ回路5においてコンデンサC1,C2が支持する電圧の和を示し、直流リンク電圧Vdcは直流電源線LH,LLの間の電圧を示し、負荷線間電圧は出力端Pu,Pv,Pwに印加されている電圧Vu,Vv,Vwの差を示し(但し図示しているのは電圧Vu,Vvの差Vuvである)、負荷線電流Iu,Iv,Iwはそれぞれ出力端Pu,Pv,Pwから負荷7へと流れ出す電流を示している。
【0212】
相電圧Vr,Vs,Vtが全て零となることにより、電源線電流Ir,Is,Itはリンギングを伴って零に収束し、直流リンク電圧VdcはコンデンサC1,C2の各々が支持する電圧が維持されるだけであって低下する。これに伴い、負荷線間電圧Vuvも半減し、負荷線電流Iu,Iv,Iwは大きく乱れる。
【0213】
そこで、瞬時停電を契機としてスイッチ部S5を短絡する。具体的には直流リンク電圧Vdcの平均値Vdc1が第1の閾値(例えば400V)を下回るときを契機として切り替え信号Sclを活性化させる。この場合の切り替え指令Jの生成については前述した。
【0214】
図32及び図33は、いずれも上述のように切り替え信号Sclを活性化させ、切り替え信号Sclが活性化しているときにはコンバータ4の転流モードを120度通電モード(第2転流モードまたは自然転流モード)とし、切り替え信号Sclが非活性化しているときにはコンバータ4の転流モードを第1の転流モードとした場合の、動作を示すグラフである。図31と同様に、電源1が発生する電源電圧は50Hz400Vであり、停電は1/4周期だけ発生した場合を例示した。
【0215】
いずれも切り替え信号Sclが活性化している間は、コンデンサC1,C2が直流電源線LH,LL間で直列に接続されるので、直流リンク電圧Vdcがクランプ回路直列電圧Vcと一致する。
【0216】
そして切り替え信号Sclが活性化している間は120度通電モードでコンバータ4が転流するので、やがてクランプ電圧Vc(直流リンク電圧Vdc)は上昇する。
【0217】
但し図32は、直流リンク電圧Vdcが第2の閾値(これは第1の閾値以上で例えば450V)を超えた値を所定期間維持したことを以て、切り替え信号Sclを非活性化させる場合を例示している。また図33は、直流リンク電圧Vdcが第2の閾値(これは第1の閾値以上で例えば600V)を超えたことを契機として、切り替え信号Sclを非活性化させる場合を例示している。
【0218】
図32に示された動作では第1の転流モードに移行する際の直流リンク電圧Vdcが過大とならず、その後も直流リンク電圧Vdcが過大になりにくいという利点がある。図33に示された動作では、電源線電流Ir,Is,Itに生じるリンギングが生じる回数が少ないという利点がある。
【0219】
図34も瞬時停電に伴う動作を示すグラフである。当該動作も、図32及び図33に示された動作と同様に、直流リンク電圧Vdcの平均値Vdc1が第1の閾値(例えば400V)を下回るときを契機として切り替え信号Sclを活性化させる。そして図34に示された動作も、直流リンク電圧Vdcが第2の閾値(これは第1の閾値以上で例えば600V)を超えたことを契機として、切り替え信号Sclを非活性化させる点で、図33に示された動作と同様である。
【0220】
但し、図34に示された動作では、切り替え信号Sclを非活性化させてから120度通電モードへと移るまでに、所定時間だけ遅延を設ける。つまり、図31乃至図33に示された動作は、いずれもスイッチ部S5が非導通となる時点以降で第1の転流モードが採用される点で共通するが、図34に示された動作では、スイッチ部S5が非導通となった時点以降であって所定時間が経過してから第1の転流モードが採用される点で図32、図33に示された動作と相違する。このような所定時間の遅延は、切り替え指令Jが第1の転流モードを設定しても、台形状電圧指令生成部11において計時することによって実現できる。
【0221】
図34に示された動作では、切り替え信号Sclを非活性化させてから120度通電モードへと移るまでの間、コンバータ4の転流には120度通電モードが採用される。このように、クランプ回路が機能している場合に120度通電モードを採用してコンバータを転流させると、電源線電流Ir,Is,Itは大きく乱れるが、直流リンク電圧Vdcを損なうものではない。
【0222】
従って、スイッチ部S5を設けない場合であっても、直流リンク電圧Vdcを検出し、以て停電を検出し、当該停電時には120度通電モードを採用してコンバータを転流させてもよい。
【0223】
なお、切り替え信号Sclを活性化させるタイミングは平均値Vdc1を用いるのみならず、直流リンク電圧Vdc自体を用いてもよい。図31において示されるように、また図4を用いて説明したように、直流リンク電圧Vdcはコンバータ4のスイッチングにより包絡線間を遷移する。よって例えば上述のように第1の閾値を400Vに設定すると、正常運転時においても直流リンク電圧Vdcは第1の閾値よりも小さい値を離散的に採っている。
【0224】
よって単に直流リンク電圧Vdcを用いて切り替え信号Sclを活性化させるタイミングを決定するには、切り替え指令生成部31の直流リンク電圧Vdcに対する感度を低下させればよい。具体的には切り替え指令生成部31は直流リンク電圧Vdcの大きさを認識するのに必要な時間を長く採ればよい。例えば直流リンク電圧Vdcが第1の閾値以下を所定期間維持するときに切り替え指令Jを生成し、スイッチ部S5を導通させる。
【0225】
もちろん平均値Vdc1と第1の閾値とを比較する方が、直流リンク電圧Vdcを所定期間継続して計測する必要がない点で有利である。
【0226】
直流リンク電圧Vdcから平均値Vdc1を求める機能は、切り替え指令生成部31が担ってもよい。あるいは当該機能は別途に設ける演算部あるいは積分回路に担わせ、切り替え指令生成部31には平均値Vdc1が入力されてもよい。
【符号の説明】
【0227】
4 電流形コンバータ
5 クランプ回路
6 電圧形インバータ
C1,C2 コンデンサ
Dcl クランプダイオード
D12,D13 ダイオード
LH 第1の直流電源線
LL 第2の直流電源線
Pr,Ps,Pt 入力端
Pu,Pv,Pw 出力端
S1 スイッチ
S5 スイッチ部
Trp,Tsp,Ttp,Trn,Tsn,Ttn 第1スイッチング素子群
Tup,Tvp,Twp,Tun,Tvn,Twn 第2スイッチング素子群
Vr*,Vs*,Vt* 台形波(相電圧指令)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の入力端(Pu,Pv,Pw)と、
第1の直流電源線(LH)と、
前記第1の直流電源線よりも低い電位が印加される第2の直流電源線(LL)と、
少なくとも2つの前記複数の入力端の各々と前記第1の直流電源線との間に接続された複数のスイッチング素子(Trp,Tsp,Ttp)と、前記少なくとも2つの前記複数の入力端の各々と前記第2の直流電源線との間に接続された複数のスイッチング素子(Trn,Tsn,Ttn)とを有する電流形コンバータ(4)と、
前記第1及び前記第2の直流電源線の間で、アノードを前記第1の直流電源側に向けて設けられるダイオード(D1)と、
前記第1及び前記第2の直流電源線の間で前記ダイオードと直列に接続されるコンデンサ(C1)と、
前記第1及び前記第2の直流電源線の間で前記コンデンサ及び前記ダイオードと直列に接続される第1抵抗(R1)と
を備える、電力変換装置。
【請求項2】
少なくとも一つの前記複数の入力端と前記コンデンサとを結ぶ直列経路に設けられる第2抵抗(R81,R82)と、
前記第2抵抗を介した前記少なくとも一つの前記複数の入力端と前記コンデンサとの間の導通/非導通を選択する第1スイッチ(S81,S82)と
を更に備え、
前記第1抵抗(R1)は前記第2抵抗よりも低い抵抗値を有する、請求項1に記載の電力変換装置。
【請求項3】
誘導性負荷(7)に接続される複数の出力端(Pu,Pv,Pw)と、
前記複数の出力端の各々と前記第1の直流電源線(LH)との間に接続される複数のスイッチング素子(Tup,Tvp,Twp)と、前記複数の出力端の各々と前記第2の直流電源線(LL)との間に接続される複数のスイッチング素子(Tun,Tvn,Twn)とを有する電圧形インバータ(6)と
を更に備え、
前記第1抵抗(R1)の抵抗値は、前記電圧形インバータの定格電圧から前記複数の入力端(Pu,Pv,Pw)の相互間に印加される線間電圧の最大値を減算した値を、前記誘導性負荷から前記電圧形インバータを介して流れる回生電流を除した値以下である、請求項1又は2に記載の電力変換装置。
【請求項4】
誘導性負荷(7)に接続される複数の出力端(Pu,Pv,Pw)と、
前記複数の出力端の各々と前記第1の直流電源線(LH)との間に接続される複数のスイッチング素子(Tup,Tvp,Twp)と、前記複数の出力端の各々と前記第2の直流電源線(LL)との間に接続される複数のスイッチング素子(Tun,Tvn,Twn)とを有する電圧形インバータ(6)と、
前記第1抵抗(R1)と並列に接続された第2スイッチ(S1)と
を更に備える、請求項1又は2に記載の電力変換装置。
【請求項5】
誘導性負荷(7)に接続される複数の出力端(Pu,Pv,Pw)と、
前記複数の出力端の各々と前記第1の直流電源線(LH)との間に接続される複数のスイッチング素子(Tup,Tvp,Twp)と、前記複数の出力端の各々と前記第2の直流電源線(LL)との間に接続される複数のスイッチング素子(Tun,Tvn,Twn)とを有する電圧形インバータ(6)と、
前記ダイオード及び前記第1抵抗(R1)と並列に接続された双方向の第3スイッチ(S5)と
を更に備える、請求項1又は2に記載の電力変換装置。
【請求項6】
前記第3スイッチ(S5)は、
前記ダイオード(D1)と逆並列に接続された第1トランジスタ(T1)と、
アノードを前記第2の直流電源線(LL)側に、カソードを前記第1の直流電源線(LH)側にそれぞれ向けて、前記第1抵抗と並列に接続された第2のダイオード(D2)と、
前記第2のダイオードと逆並列に接続された第2トランジスタ(T2)と
を備える、請求項5に記載の電力変換装置。
【請求項7】
前記ダイオード(D1)及び前記第1抵抗(R1)は前記コンデンサ(C1)に対して同じ側に設けられ、
前記第3スイッチ(S5)は、
アノードを前記第2の直流電源線(LL)側に、カソードを前記第1の直流電源線(LH)側にそれぞれ向けて、前記第1抵抗と並列に接続された第2のダイオード(D2)と、
アノードが前記第2のダイオード(D2)のカソードに接続された第3のダイオード(D3)と、
アノードが前記ダイオード(D1)のカソードに接続された第4のダイオード(D4)と、
コレクタが前記第3のダイオードのカソードと前記第4のダイオードのカソードと、エミッタが前記ダイオード及び前記第2のダイオードのアノードとそれぞれ接続されたトランジスタと
を備える、請求項5に記載の電力変換装置。
【請求項8】
前記第3スイッチ(S1,S5)は、前記電圧形インバータ(6)の全ての前記複数のスイッチ素子(Tup,Tvp,Twp,Tun,Tvn,Twn)を非導通とする前に導通する、請求項4乃至7の何れか一つに記載の電力変換装置。
【請求項9】
前記複数の入力端は3つの入力端であり、前記複数の出力端は3つの出力端であって、
前記電流形コンバータ(4)は、いずれもが360度周期であって互いに位相が120度ずれる3つの台形波とキャリアとの比較結果によって決定される、第1の転流モードと120度通電モードのいずれかに従って転流し、
前記第1の転流モードにおいて前記台形波の各々は、120度区間で連続する平坦区間の一対と、これら一対の平坦区間をつなぐ60度区間の傾斜領域の一対を有し、
前記電流形コンバータは、前記第1の転流モードにおいては、前記平坦区間の一対の間で遷移する前記台形波と前記キャリアとの比較によって転流し、
前記第1の転流モードが採用されている状態で前記第3スイッチ(S5)が導通することを契機として、前記120度通電モードが採用され、
前記第3スイッチが非導通となる時点以降で前記第1の転流モードが採用される、請求項5乃至8の何れか一つに記載の電力変換装置。
【請求項10】
前記第3スイッチ(S5)は、前記複数の出力端(Pu,Pv,Pw)に接続される前記誘導性負荷(7)の力率が所定値を下回るときに導通する、請求項9に記載の電力変換装置。
【請求項11】
前記誘導性負荷(7)は回転機であり、起動当初の所定期間は前記120度通電モードに従って前記電流形コンバータ(4)が転流する、請求項10に記載の電力変換装置。
【請求項12】
前記第3スイッチ(S5)は、前記第1及び前記第2の直流電源線(LH,LL)間の直流電圧が第1の閾値を下回るときに導通する、請求項9に記載の電力変換装置。
【請求項13】
前記第3スイッチ(S5)は、前記第1及び前記第2の直流電源線(LH,LL)間の直流電圧が前記第1の閾値以上の第2の閾値を超える値を所定期間維持したことを以て非導通となり、
前記第3スイッチが非導通となったことを契機として前記第1の転流モードが採用される、請求項12に記載の電力変換装置。
【請求項14】
前記第3スイッチ(S5)は、前記第1及び前記第2の直流電源線(LH,LL)間の直流電圧が前記第1の閾値以上の第2の閾値を超えたことを契機として非導通となる、請求項13に記載の電力変換装置。
【請求項15】
前記第3スイッチ(S5)が非導通となったことを契機として前記第1の転流モードが採用される、請求項14に記載の電力変換装置。
【請求項16】
前記第3スイッチ(S5)が非導通となってから所定期間が経過した後に前記第1の転流モードが採用される、請求項14に記載の電力変換装置。
【請求項17】
前記ダイオード(D1)及び前記第1抵抗(R1)は前記コンデンサ(C1)に対して前記第2の直流電源線(LL)側に設けられ、
前記第1及び前記第2の直流電源線(LH,LL)の間で前記ダイオード(D1)及び前記第1抵抗(R1)の直列接続に対して前記コンデンサと反対側で直列に接続された第2のコンデンサ(C2)と、
アノードが前記直列接続と前記第2のコンデンサとの間に、カソードが前記第1の直流電源線にそれぞれ接続された第2のダイオード(D12)と、
アノードが前記第2の直流電源線に、カソードが前記直列接続と前記コンデンサとの間にそれぞれ接続された第3のダイオード(D13)と
を更に備える、請求項1乃至16の何れか一つに記載の電力変換装置。
【請求項18】
前記120度通電モードは第2の転流モードであり、
前記第2の転流モードにおいて前記台形波の各々は、180度区間で連続する平坦区間の一対を有し、
前記電流形コンバータ(4)は、前記第2の転流モードにおいては、前記平坦区間の一対の間で遷移する前記台形波と前記キャリアとの比較によって転流する、請求項9乃至17のいずれか一つに記載の電力変換装置。
【請求項19】
前記120度通電モードは、前記電流形コンバータ(4)が有する全ての前記複数のスイッチング素子(Trp,Tsp,Ttp,Trn,Tsn,Ttn)が導通する自然転流モードである、請求項9乃至17のいずれか一つに記載の電力変換装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【図23】
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【図24】
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【図25】
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【図26】
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【図27】
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【図28】
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【図29】
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【図30】
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【図31】
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【図32】
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【図33】
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【図34】
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【公開番号】特開2011−15604(P2011−15604A)
【公開日】平成23年1月20日(2011.1.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−127399(P2010−127399)
【出願日】平成22年6月3日(2010.6.3)
【出願人】(000002853)ダイキン工業株式会社 (7,604)
【Fターム(参考)】