電力変換装置
【課題】スイッチング回数を低減できる電力変換装置を提供する。
【解決手段】キャリア生成部は、電圧指令値V**がキャリアの最小値以下の値である期間の一つ後の期間であって、キャリアの最小値より大きい第1所定値を採る第1期間T10、及び電圧指令値が最大値以上である期間の一つ前の期間であって、電圧指令値が最大値よりも小さい第2所定値を採る第2期間T10の少なくともいずれか一方において、単調に減少するキャリアC1をスイッチング制御部に与え、電圧指令値が前記最大値以上の値である期間の一つ後の期間であって、最大値よりも小さい第3所定値を採る第3期間T13、及び電圧指令値が最小値以下である期間の一つ前の期間であって、電圧指令値が最小値より大きい第4所定値を採る第4期間T13の少なくともいずれか一方において、単調に増加するキャリアC2をスイッチング制御部に与える。
【解決手段】キャリア生成部は、電圧指令値V**がキャリアの最小値以下の値である期間の一つ後の期間であって、キャリアの最小値より大きい第1所定値を採る第1期間T10、及び電圧指令値が最大値以上である期間の一つ前の期間であって、電圧指令値が最大値よりも小さい第2所定値を採る第2期間T10の少なくともいずれか一方において、単調に減少するキャリアC1をスイッチング制御部に与え、電圧指令値が前記最大値以上の値である期間の一つ後の期間であって、最大値よりも小さい第3所定値を採る第3期間T13、及び電圧指令値が最小値以下である期間の一つ前の期間であって、電圧指令値が最小値より大きい第4所定値を採る第4期間T13の少なくともいずれか一方において、単調に増加するキャリアC2をスイッチング制御部に与える。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は電力変換装置に関し、特に電力変換装置が有するスイッチング素子のスイッチング回数を低減する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
モータへと交流電圧を与える装置としてインバータが用いられる。インバータは入力された直流電圧を交流電圧に変換して、交流電圧をモータへと出力する。かかるインバータは例えばキャリアと指令値との比較に基づいて制御される。指令値はインバータの出力電圧についての指令値であって、モータの回転位置角や速度指令等に基づいて、まず第1指令値V*が生成される。そしてキャリアとの比較には、第1指令値V*に基づいて生成される第2指令値V**が採用される。第2指令値V**は所定周期(例えばキャリアの周期)毎に一定値を採る。
【0003】
かかるインバータにおいて矩形波の相電圧を出力する場合、指令値V*は矩形波であって相電圧の周期と同じ周期を有する。一方で、この指令値V*は所定周期毎に一定値を採るとは限らないので、この指令値V*を所定周期ごとに更新して、キャリアと比較すべき指令値V**を生成する。例えば図14では破線でキャリアの周期を示しており、ここに例示するように、キャリアの周期毎の指令値V**には、当該周期の開始時点における指令値V*の値を採用する。
【0004】
そして、図14に例示する指令値V**とキャリアとの比較に基づいてインバータが制御されて、インバータは相電圧Vを出力する。かかる相電圧Vにおいて、相電圧Vが最大値を採る期間と相電圧が最小値を採る期間とは相違する。換言すると、相電圧Vにアンバランスが生じる。かかる相違によって、インバータが出力する相電流にはいわゆるオフセットが生じる。換言すれば、相電流の1周期の平均値が零にならない。
【0005】
かかる問題を解決する手段として、例えば特許文献1における技術が採用できる。特許文献1においては、出力電圧のバランスが崩れるときに、キャリアの周期を指令値V*と同期させている。
【0006】
また本発明に関連する技術として、特許文献2が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特許第4205157号
【特許文献2】特開平9−308256号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、特許文献1に記載の技術ではキャリアの周期を出力電圧の周期の整数分の1にしてキャリアと出力電圧とを同期させる必要があるので、キャリアの周期を変化させる必要がある。よって制御を複雑化させる。
【0009】
そこで、指令値V*を補正して図2の電圧指令値V**を生成することが考えられる。図2の指令値V**はその最大値V1を採る期間とその最小値V2を採る期間との間で所定値を採る。これによって、指令値V**の周期T2における平均値を指令値V*の周期T2における平均値に近づけることができ、ひいては出力電圧の周期T2における平均値に近づけることができる。これによって出力電圧のアンバランスを低減できる。
【0010】
一方で、このような指令値V**と例えば二等辺三角波のキャリアCとを比較してスイッチング素子を制御すれば、図15に例示するように、インバータが出力する相電圧Vは周期T2において3つのパルスを有する。一つのパルスはインバータのスイッチング素子のスイッチパターンが2回切り替わることによって形成される。よって3つのパルスはスイッチング素子のスイッチング回数が6回であることを意味している。かかるスイッチング回数に比例してスイッチング損失が増大する。
【0011】
そこで、本発明は、簡単な制御でスイッチング回数を抑制することができる電力変換装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明にかかる電力変換装置の第1の態様は、第1入力端(P1)と、前記第1入力端の電位よりも低い電位が印加される第2入力端(P2)と、出力端(Pu,Pv,Pw)と、前記第1入力端と前記出力端との間に接続される上側スイッチング素子(S1〜S3)と、前記第2入力端と前記出力端との間に接続される下側スイッチング素子(S4〜S6)とを含む電力変換装置(1)と、前記電力変換装置が出力する出力電圧についての電圧指令値と、所定周期を有するキャリアとの比較に基づいて、前記上側スイッチング素子および前記下側スイッチング素子を制御するスイッチング制御部(33)と、いずれも前記所定周期を有し、かつ、前記電圧指令値が前記キャリアの最小値以下の値である期間の一つ後の期間であって、前記キャリアの最小値より大きい第1所定値を採る第1期間(T11)、及び前記電圧指令値が前記最大値以上である期間の一つ前の期間であって、前記電圧指令値が前記最大値よりも小さい第2所定値を採る第2期間(T13)の少なくともいずれか一方において、単調に減少する前記キャリア(C1)を前記スイッチング制御部に与え、いずれも前記所定周期を有し、かつ、前記電圧指令値が前記最大値以上の値である期間の一つ後の期間であって、前記最大値よりも小さい第3所定値を採る第3期間(T16)、及び前記電圧指令値が前記最小値以下である期間の一つ前の期間であって、前記電圧指令値が前記最小値より大きい第4所定値を採る第4期間(T18)の少なくともいずれか一方において、単調に増加する前記キャリア(C2)を前記スイッチング制御部に与える、キャリア生成部(32)とを備え、前記電力変換装置は前記出力電圧の周期において1パルスのみを有する電圧を出力する。
【0013】
本発明にかかる電力変換装置の第2の態様は、第1の態様にかかる電力変換装置であって、前記電圧指令値は、前記第1期間の一つ後の期間において前記キャリアの前記最大値以上の値をとり、前記第3期間の一つ後の期間において前記キャリアの前記最小値以下の値をとる。
【0014】
本発明にかかる電力変換装置の第3の態様は、第1又は第2の態様にかかる電力変換装置であって、矩形波の補正前電圧指令値(V*)に対して補正を行って前記電圧指令値(V**)を生成する電圧指令生成部(31)を更に備え、前記電圧指令生成部は、前記所定周期を有する前記期間における前記補正前電圧指令値を、前記期間における前記補正前電圧指令値の最大値と最小値との間の中間値に補正して、前記電圧指令値を生成する。
【0015】
本発明にかかる電力変換装置の第4の態様は、第3の態様にかかる電力変換装置であって、前記電圧指令生成部(31)は、前記補正前電圧指令値(V*)を前記所定周期ごとにその平均値に補正して前記電圧指令値(V**)を生成する。
【発明の効果】
【0016】
本発明にかかる電力変換装置の第1及び第2の態様によれば、電圧指令値が最大値から低下するときの2つの期間の境界の前後において上側スイッチング素子および下側スイッチング素子のスイッチングパターンは変化しない。また電圧指令値が最大値へと増大するときの2つの期間の境界の前後において当該スイッチングパターンは変化しない。よって、スイッチング回数を低減することができる。
【0017】
本発明にかかる電力変換装置の第3の態様によれば、所定周期毎に補正前電圧指令値を各期間における自身の最大値又は最小値に補正して電圧指令値を生成する場合に比して、電圧指令値の平均値を補正前電圧指令値の平均値に近づけることができる。
【0018】
本発明にかかる電力変換装置の第4の態様によれば、理論的に、電圧指令値の平均値を補正前電圧指令値の平均値に一致させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】インバータの概念的な構成を例示する図である。
【図2】電圧指令値の一例を示す図である。
【図3】電圧指令値とキャリアと出力電圧との一例を示す図である。
【図4】電圧指令値とキャリアと出力電圧との一例を示す図である。
【図5】電圧指令値とキャリアと出力電圧との一例を示す図である。
【図6】電圧指令値とキャリアと出力電圧との一例を示す図である。
【図7】電圧指令値の一例を示す図である。
【図8】電圧指令値の一例を示す図である。
【図9】電圧指令値の一例を示す図である。
【図10】電圧指令値の一例を示す図である。
【図11】電圧指令値の一例を示す図である。
【図12】電圧指令値とキャリアと出力電圧との一例を示す図である。
【図13】電圧指令値とキャリアと出力電圧との一例を示す図である。
【図14】従来の電圧指令値の一例を示す図である。
【図15】電圧指令値とキャリアと出力電圧との一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
第1の実施の形態.
図1に示すように、インバータ1は入力端P1,P2及び出力端Pu,Pv,Pwと接続される。入力端P1,P2には直流電圧が印加される。ここでは入力端P2に印加される電位は入力端P1に印加される電位よりも低い。
【0021】
インバータ1は直流電圧を交流電圧に変換し、この交流電圧を出力端Pu,Pv,Pwへと出力する。より詳細な構造の一例として、インバータ1はスイッチング素子S1〜S6とダイオードD1〜D6とを備えている。スイッチング素子S1〜S6は例えば絶縁ゲートバイポーラトランジスタ又は電界効果トランジスタなどである。各スイッチング素子S1〜S3は出力端Pu,Pv,Pwの各々と入力端P1との間に設けられている。以下では、各スイッチング素子S1〜S3を上側のスイッチング素子とも呼ぶ。ダイオードD1〜D3のアノードはそれぞれ出力端Pu,Pv,Pwに接続され、ダイオードD1〜D3はそれぞれスイッチング素子S1〜S3と並列に接続される。各スイッチング素子S4〜S6は出力端Pu,Pv,Pwの各々と入力端P2との間に設けられている。以下では各スイッチング素子S4〜S6を下側のスイッチング素子とも呼ぶ。ダイオードD4〜D6のアノードは入力端P2に接続され、ダイオードD4〜D6はそれぞれスイッチング素子S4〜S6と並列に接続される。
【0022】
かかるスイッチング素子S1〜S6には制御部3からそれぞれスイッチ信号が与えられる。かかるスイッチ信号により各スイッチング素子S1〜S6が導通する。制御部3が適切なタイミングでスイッチング素子S1〜S6へとそれぞれスイッチ信号を与えることにより、インバータ1は直流電圧を交流電圧に変換する。なお、制御部3の制御によって、スイッチング素子S1,S4は相互に排他的に導通し、スイッチング素子S2,S5は相互に排他的に導通し、スイッチング素子S3,S6は相互に排他的に導通する。これは、入力端P1,P2が短絡してスイッチング素子に大電流が流れることを防止するためである。
【0023】
インバータ1は例えば誘導性負荷2を駆動することができる。誘導性負荷2は出力端Pu,Pv,Pwに接続される。誘導性負荷2は例えばモータであって、インバータ1によって印加される交流電圧に応じて回転する。
【0024】
なお図1の例示ではインバータ1は3つの出力端Pu,Pv,Pwと接続されている。つまり三相交流電圧を出力する三相インバータ1が図1に示されている。しかしながら、インバータ1は三相インバータに限らず単相インバータであってもよく、三相以上のインバータであってもよい。以下ではインバータ1が三相インバータである場合を例に採って説明する。
【0025】
制御部3は電圧指令生成部31とキャリア生成部32とスイッチング制御部33とを備えている。まずこれらの各要素について概説した上で各要素について詳述する。
【0026】
電圧指令生成部31は、インバータ1が出力する相電圧(以下、出力電圧とも呼ぶ)についての電圧指令値V**を生成してこれをスイッチング制御部33に出力する。図1の例示では、インバータ1は三相交流電圧を出力するので、電圧指令値V**は3つの相電圧指令値Vu**,Vv**,Vw**を含んでいる。具体的な電圧指令値V**については後に詳述する。
【0027】
キャリア生成部32は所定周期を有して互いに異なるキャリアC1,C2を生成し、キャリアC1,C2の何れか一方をスイッチング制御部33へと与える。
【0028】
スイッチング制御部33は、電圧指令生成部31からの第2電圧指令値V**と、キャリア生成部32からのキャリアとの比較に基づいて、スイッチング素子S1〜S6へとスイッチ信号を出力する。
【0029】
またここでは、制御部3はマイクロコンピュータと記憶装置を含んで構成される。マイクロコンピュータは、プログラムに記述された各処理ステップ(換言すれば手順)を実行する。上記記憶装置は、例えばROM(Read Only Memory)、RAM(Random Access Memory)、書き換え可能な不揮発性メモリ(EPROM(Erasable Programmable ROM)等)、ハードディスク装置などの各種記憶装置の1つ又は複数で構成可能である。当該記憶装置は、各種の情報やデータ等を格納し、またマイクロコンピュータが実行するプログラムを格納し、また、プログラムを実行するための作業領域を提供する。なお、マイクロコンピュータは、プログラムに記述された各処理ステップに対応する各種手段として機能するとも把握でき、あるいは、各処理ステップに対応する各種機能を実現するとも把握できる。また、制御部3はこれに限らず、制御部3によって実行される各種手順、あるいは実現される各種手段又は各種機能の一部又は全部をハードウェアで実現しても構わない。
【0030】
電圧指令生成部31の具体的な動作の一例について図2を参照して説明する。電圧指令生成部31は電圧指令値V**を生成する。図2の例示において複数の破線のうち隣接する二者で挟まれる期間はいずれも所定周期T1を有する。電圧指令値V**は期間T10の始期において自身の最小値V2(例えば0)から立ち上がって所定値を採り、期間T10の終期において立ち上がって自身の最大値V1を採る。電圧指令値V**は期間T10の次の期間T11から期間T12までは最大値V1を採り、期間T12の次の期間T13の始期において立ち下がって所定値を採り、期間T13の終期において立ち下がって最小値V2を採る。電圧指令値V**は期間T13の次の期間から期間T14までは最小値V2を採り、期間T14の次の期間T15の始期において再び最小値V2から立ち上がって所定値を採り、期間T15の終期において最大値V1へと立ち上がる。
【0031】
なお図2の例示では、代表的に電圧指令値V**の形状が示されている。実際には電圧指令値V**は相電圧指令値Vu**,Vv**,Vw**を含んでおり、これらの位相は互いに120度ずつずれる。
【0032】
また図2に例示する電圧指令値V**は例えば次のように生成される。すなわち電圧指令生成部31には補正前電圧指令値V*(以下、単に電圧指令値V*と呼ぶ)が入力され、電圧指令値V*を補正して電圧指令値V**を生成する。なお図1の例示では、インバータ1は三相交流電圧を出力するので、電圧指令値V*は3つの相電圧指令値Vu*,Vv*,Vw*を含んでいる。相電圧指令値Vu*,Vv*,Vw*の位相は互いに120度ずつずれる。
【0033】
電圧指令値V*は矩形波であり、最大値V1と最小値V2とを交互に採る。ここでは電圧指令値V*が最大値V1を採る期間は電圧指令値V*が最小値V2を採る期間と等しい。図2の例示では、電圧指令値V*は期間T10内において最小値V2から立ち上がって最大値V1を採り、期間T13内において最大値V1から立ち下がって最小値V2を採る。そして再び期間T15内において最小値V2から立ち上がって最大値V1を採る。
【0034】
電圧指令生成部31は、例えば各期間において電圧指令値V*が変化しないときには、電圧指令値V*を補正しない。つまり電圧指令値V*の値をそのまま採用して電圧指令値V**を生成する。例えば図2に示すように、期間T11,T12,T14において電圧指令値V*が一定値を採っている。よって、これらの期間では電圧指令値V**は電圧指令値V*と一致する。また例えば各期間において電圧指令値V*が変化するときには、電圧指令生成部31はその期間における電圧指令値V*を、その期間における電圧指令値V*の最大値と最小値との間の中間値に補正して、電圧指令値V**を生成する。例えば図2に示すように、期間T10,T13,T15において電圧指令値V*は変化する。よって、これらの期間では電圧指令値V**には最大値V1と最小値V2の間の中間値が採用される。以上の動作によって図2に例示する電圧指令値V**が生成される。
【0035】
かかる動作によって、所定周期T1ごとに値を認識するマイコンが電圧指令値V*を電圧指令値V**として認識することができる。また電圧指令値V*を補正して電圧指令値V**が生成される場合には、電圧指令生成部31は電圧指令値補正部と把握することもできる。
【0036】
キャリア生成部32は所定周期T1を有するキャリアC1,C2を生成する。より詳細にはキャリア生成部32は図3に例示するように、各期間において単調に減少する単調減少キャリアC1と、期間の各々において単調に増加する単調増加キャリアC2を生成する。キャリアC1,C2のいずれの周期も所定周期T1と等しい。キャリアC1は例えば傾斜部分が負の直角三角波であり、各期間において最大値V1から最小値V2へと時間の経過とともに比例して減少する。キャリアC2は例えば傾斜部分が正の直角三角波であり、各期間において最小値V2から最大値V1へと例えば時間の経過と共に比例して増大する。キャリアC1,C2はいわゆる鋸波と呼ばれる。なお、キャリアC1,C2は時間の経過と共に比例する必要はなく、図4に例示するように湾曲していてもよい。この点は後述する他の態様についても同様であるので、繰り返しの説明を避ける。
【0037】
キャリア生成部32は電圧指令生成部31からの情報(後述する)に基づいてキャリアC1,C2の何れか一方をスイッチング制御部33に出力する。
【0038】
電圧指令生成部31は電圧指令値V**を、これが出力される期間よりも前の期間に生成する。例えば期間T11において出力する電圧指令値V**は期間T10以前に生成される。したがって、電圧指令生成部31はある期間において出力される電圧指令値V**とその次の期間において出力される電圧指令値V**の値を認識することができる。そして、電圧指令生成部31は、次の期間が、電圧指令値V**が自身の最大値V1から所定値に立ち下がって第1所定値を採る期間(例えば期間T13)であるときに、その旨をキャリア生成部32に通知する。
【0039】
キャリア生成部32は電圧指令生成部31からの通知がなければキャリアC1をスイッチング制御部33に出力する。一方、電圧指令生成部31から通知されると、キャリア生成部32は当該次の期間においてキャリアC2をスイッチング制御部33に出力する。よって、図3,4の例示では、期間T13においてキャリアC2が採用されている。
【0040】
スイッチング制御部33は電圧指令値V**とキャリアとの比較に基づいてスイッチング素子S1〜S6を制御する。例えばスイッチング制御部33は電圧指令値V**がキャリア以上であるときに上側のスイッチング素子を導通させ下側のスイッチング素子を非導通とし、電圧指令値V**がキャリア以下であるときに上側のスイッチング素子を非導通とし、下側のスイッチング素子を導通させる。
【0041】
さて、上述の電圧指令生成部31およびキャリア生成部32の動作によって、電圧指令値V**が最大値V1から所定値に立ち下がる期間(例えば期間T13)において、キャリアC2が採用される。なおキャリアC2は当該期間において単調増加しているので、当該期間の前半部分において電圧指令値V**はキャリアC2以上となる。よって、当該期間の前半部分において上側のスイッチング素子が導通し、下側のスイッチング素子が非導通する。一方、当該期間の一つ前の期間(例えば期間T12)においては電圧指令値V**が最大値V1を採るのでキャリアC1以上となる。よってこの期間においては、上側スイッチング素子が導通し、下側スイッチング素子が非導通する。つまり、これらの2つの期間(例えば期間T12,T13)の境界の前後において上側スイッチング素子と下側スイッチング素子のスイッチパターンが変化しない。換言すれば、これら2つの期間の境界の前後において出力電圧Vは立ち下がらずに高電位を維持し続ける。
【0042】
また電圧指令値V**が最大値V1から所定値に立ち下がる期間以外の期間ではキャリアC1が採用される。よって、電圧指令値V**が最小値V2から所定値へと立ち上がる期間(例えば期間T10,T15)においてもキャリアC1が採用される。キャリアC1は当該期間において単調減少するので、当該期間の後半部分において電圧指令値V**はキャリアC1以上となる。よって、当該期間の後半部分において上側のスイッチング素子が導通し、下側のスイッチング素子が非導通する。一方、当該期間の次の期間(例えば期間T11、期間T15の次の期間)においては電圧指令値V**が最大値V1を採るので、上側スイッチング素子が導通し、下側スイッチング素子が非導通する。つまり、これらの2つの期間(例えば期間T10,T11、期間T15とその次の期間)の境界の前後において上側スイッチング素子と下側スイッチング素子のスイッチパターンが変化しない。換言すれば、これら2つの期間の境界の前後において出力電圧Vは立ち下がらずに高電位を維持し続ける。
【0043】
また期間T13の次の期間においては電圧指令値V**が最小値V2を採るので、上側スイッチング素子が非導通し、下側スイッチング素子が導通する。期間T13では上述したようにキャリアC2が採用されるので、その後半部分においては上側スイッチング素子が非導通し、下側スイッチング素子が導通する。したがって、期間T13およびその次の期間の境界の前後において上側スイッチング素子と下側スイッチング素子のスイッチパターンが変化しない。換言すれば、これら2つの期間の境界の前後において出力電圧Vは低電位を維持し続ける。
【0044】
また期間T14においても電圧指令値V**が最小値V2を採るので、上側スイッチング素子が非導通し、下側スイッチング素子が導通する。期間T14の次の期間T15においては上述したようにキャリアC1が採用されるので、期間T15の前半部分において上側スイッチング素子が非導通し、下側スイッチング素子が導通する。したがって、期間T14,T15の境界の前後において上側スイッチング素子と下側スイッチング素子のスイッチパターンが変化しない。換言すれば、これら2つの期間の境界の前後において出力電圧Vは低電位を維持し続ける。
【0045】
したがって、図3,4に例示するように、インバータ1は1周期(即ち周期T2)内において1パルスのみを有する出力電圧Vを出力する。言い換えれば、最も少ないスイッチ回数で交流電圧を出力できる。
【0046】
一方で電圧指令値V*が立ち下がる時点および立ち上がる時点が各期間の境界のいずれかに位置していれば、電圧指令値V**は電圧指令値V*と同一形状を有する。このとき、三角波/直角三角波のいずれのキャリアを採用しても、インバータ1は1周期内において1パルスのみを有する出力電圧Vを出力できる。しかしながら、これを実現するために、所定周期T1を電圧指令値V*の周期T2の整数分の1にする必要がある。よって周期T2が変化するたびに所定周期T1を変化させる必要があり、制御が困難である。他方、本実施の形態では所定周期T1を周期T2の整数分の1にする必要がなく、制御が容易である。
【0047】
なお、図3,4の例示では、電圧指令値V**の最大値V1および最小値V2はそれぞれキャリアC1,C2の最大値および最小値と一致しているが、これに限らない。端的にいえば、図3,4の電圧指令値V**が最大値V1を採る期間において電圧指令値V**がキャリアの最大値以上であればよく、図3,4の電圧指令値V**が最小値V2を採る期間において電圧指令値V**がキャリアCの最小値以下であればよい。
【0048】
これを次のようにも表現できる。電圧指令値V**は少なくとも一つ以上の期間(例えば期間T10よりも前の期間)においてキャリアの最小値以下であり、これに続く期間(例えば期間T10)の始期においてキャリアの最小値以下の値から立ち上がって所定値を採る。かかる所定値はキャリアの最小値よりも大きくキャリアの最大値よりも小さい値である。そして電圧指令値V**はこの期間の終期で立ち上がってキャリアの最大値以上の値を採り、これに続く少なくとも一つの期間(例えば期間T11〜T12)においてキャリアの最大値以上を維持する。さらに、これに続く期間(例えば期間T13)の始期において電圧指令値V**はキャリアCの最大値以上の値から所定値に立ち下がる。かかる所定値もキャリアの最小値よりも大きくキャリアの最大値よりも小さい値である。そして、電圧指令値V**はこの期間の終期において立ち下がってキャリアCの最小値以下の値を採り、再び少なくとも一つ以上の期間においてキャリアの最小値以下を維持する。
【0049】
これによっても図3,4と同様に、インバータ1は1周期(即ち周期T2)内において1パルスのみを有する出力電圧Vを出力する。言い換えれば、最も少ないスイッチ回数で交流電圧を出力できる。この点は後述する他の態様であっても同様であるので、繰り返しの説明を避ける。
【0050】
なお、キャリア生成部32は電圧指令生成部31から通知がなければキャリアC2をスイッチング制御部33に出力してもよい。この場合、電圧指令生成部31は次のようにキャリア生成部32に通知する。即ち、次の期間が、第2電圧指令値V**が最小値V2から所定値へと立ち上がる期間(例えば期間T10)であるときに、電圧指令生成部31はキャリア生成部32にその旨を通知する。当該通知を受け取ればキャリア生成部32は当該次の期間においてキャリアC1をスイッチング制御部33に出力する。これによっても、インバータ1は図3,4と同じ出力電圧Vを出力することができる。
【0051】
また電圧指令値V**が最大値V1を採る間(例えば期間T11〜期間T12)はキャリアに拠らずに出力電圧Vが高電位を維持し、電圧指令値V**が最小値V2を採る期間はキャリアに拠らずに出力電圧Vが低電位を維持する。よって、図5に例示するように、電圧指令値V**が最大値V1又は最小値V2を採る期間では、制御周期T1と同じ周期を有して各期間において増大して低減する、例えば二等辺三角波のキャリアC3を採用しても良い。
【0052】
要するに、期間T10,T15において単調に減少するキャリアC1を採用し、期間T13において単調に増加するキャリアC2を採用すればよい。これによって、インバータ1は最も少ないスイッチ回数で交流電圧を出力できる。
【0053】
なおスイッチング制御部33は、電圧指令値V**がキャリア以下であるときに上側のスイッチング素子を導通させ、下側のスイッチング素子を非導通としてもよい。この場合の電圧指令値V**とキャリアと出力電圧Vとが図6に例示されている。
【0054】
図6の電圧指令値V**は、例えば図2の電圧指令値V**を上下に対称に変化させたものである。そして、電圧指令値V**が最小値V2から所定値へと立ち上がる(例えば期間T13)において、単調に減少するキャリアC1が採用される。当該期間においてはキャリアC1が単調に減少するので、その前半の期間においてパルスが出力される。一方、当該期間の一つの期間(例えば期間T12)においては電圧指令値V**が最小値V2を採るので出力電圧Vは高電位を維持する。よって、これらの2つの期間(例えばT12,T13)の境界の前後で出力電圧Vは立ち下がらず高電位を維持し続ける。
【0055】
また電圧指令値V**が最大値V1から立ち下がる期間(例えば期間T10)において、単調に増加するキャリアC2が採用される。当該期間においてはキャリアC2が単調に増加するので、その後半の期間において出力電圧Vが立ち上がる。一方、当該期間の次の期間(例えば期間T11)においては電圧指令値V**が最小値V2を採るので、出力電圧Vは高電位を維持する。よって、これらの2つの期間(例えば期間T10,T11)の境界の前後で出力電圧Vは立ち下がらず高電位を維持し続ける。
【0056】
したがって、図6に例示するように、インバータ1は1周期において1パルスのみを有する出力電圧Vを出力する。言い換えれば、最も少ないスイッチ回数で交流電圧を出力でき、図3,4を参照して説明した効果と同様の効果を招来する。
【0057】
なお電圧指令生成部31が電圧指令値V*から電圧指令値V**を生成すれば、図9の電圧指令値V**に比較して、インバータ1は電圧指令値V*に近い電圧を出力することができる。言い換えれば、電圧指令値V**の周期T2における平均値を電圧指令値V*の周期T2における平均値に近づけることができる。ひいては出力電圧のアンバランスを低減できる。
【0058】
また期間T10,T13,T15において、電圧指令値V**はそれぞれの期間における電圧指令値V*の平均値を採っていることが望ましい。言い換えれば上記中間値は各期間における電圧指令値V*の平均値である。かかる平均値は次のように導くことができる。すなわち、これらの各期間のうち電圧指令値V*が最大値V1を採る期間を期間Tv1とし、これらの各期間のうち電圧指令値V*が最小値V2を採る期間を期間Tv2(=T1−Tv1)と仮定する。このとき、これらの各期間における電圧指令値V**は次式を満たす。
【0059】
V**=(V1・Tv1+V2・Tv2)/T1 ・・・(1)
【0060】
かかる電圧指令値V**を採用すれば、理論的には電圧指令値V**の周期T2における平均値を電圧指令値V*の周期T2における平均値と等しくできる。
【0061】
しかも、電圧指令値V**の周期T2における平均値を電圧指令値V**の周期T2における平均値に近づけることができるので、出力電圧Vの周期T2における平均値も電圧指令値V**の平均値に近づけることができる。言い換えれば、出力電圧Vが最大値を採る期間と出力電圧Vが最小値を採る期間との差(アンバランス)を低減することができる。図2の例示では、理論的に電圧指令値V**の平均値が電圧指令値V*の平均値と等しいので、出力電圧Vのアンバランスを理論的には解消できる。
【0062】
なお、所定周期T1を周期T2の整数分の1に設定すれば、電圧指令値V*とキャリアとの比較に基づく制御によっても同様の効果を招来する。しかしながら、所定周期T1を周期T2に基づいて変化させる必要があり、所定周期T1を変更するための演算又は処理が必要である。よって、制御が複雑化する。一方、本実施の形態によれば、所定周期T1を電圧指令値V*の周期T2の整数分の1とする必要がない。したがって制御を簡単にできる。
【0063】
また所定周期T1を高めれば、電圧指令値V*とキャリアとの比較に基づく制御によっても、アンバランスを低減できる。しかしながら、所定周期T1を高めることは必要となる演算処理能力を高め、ひいては製造コストの増大を招く。一方、本実施の形態によれば、所定周期T1を高める必要がないのでかかる製造コストの増大を抑制できる。
【0064】
<第2電圧指令値V**の具体的な生成方法の一例>
第1電圧指令値V*は矩形波であって、電気角30度で立ち下がり、電気角210度で立ち上がると仮定する。図7は電圧指令値V*と電圧指令値V**との一例を拡大して示している。図7には電圧指令値V*が立ち下がる部分の近傍が示されている。電圧指令値V*は電気角30度において最大値V1から最小値V2へと立ち下がっている。
【0065】
電圧指令生成部31は、制御周期T1ごとに、電圧指令値V*を補正して電圧指令値V**を生成する。例えば各期間における中央の時点において、各期間の次の期間における電圧指令値V**を生成する。
【0066】
ここで各期間の中央の時点における電圧指令値V*の電気角をδ[N](Nは整数)とすると、幾何学的に次式を満足する。
【0067】
δ[n+1]−δ[n]:30°−δ[n]=T1:Tv1−T1/2 ・・・(2)
【0068】
式(2)を変形すると期間Tv1が導かれ、さらにTv2=T1−Tv1も考慮すると期間Tv2が導かれる。
【0069】
Tv1=T1・(1/2+(30°-δ[n])/(δ[n+1]-δ[n])) ・・・(3)
Tv2=T1・(1/2-(30°-δ[n])/(δ[n+1]-δ[n])) ・・・(4)
【0070】
ここでは制御周期T1は一定であり、また電圧指令値V*の周期T2が一定であると仮定すると、δ[n+1]−δ[n]=δ[n]−δ[n−1]=k(一定)(nは整数)が成立する。かかる仮定は例えば誘導性負荷2の一例たるモータが一定の回転速度で駆動されていることを意味する。δ[n+1]−δ[n]=δ[n]−δ[n−1]=kを考慮して式(3)及び式(4)を変形すると、次式が導かれる。
【0071】
Tv1=T1・(1/2+(30°-δ[n-1]-k)/k) ・・・(5)
Tv2=T1・(1/2-(30°-δ[n-1]-k)/k) ・・・(6)
【0072】
この期間Tv1,Tv2を式(1)に代入することで、電圧指令生成部31は期間T11における電圧指令値V**を求めることができる。なお、期間T11における電圧指令値V**を算出する時点で、δ[n]とδ[n+1]が既知である場合は式(3),(4)を用いて電圧指令値V**を算出してもよい。
【0073】
図8は電圧指令値V*と電圧指令値V**との他の一例を拡大して示している。図8には電圧指令値V*が立ち下がる部分の近傍が示されている。電圧指令値V*は例えば電気角30度において最大値V1から最小値V2へと立ち下がっている。図7の例示と比較して、電気角δ[n]が電圧指令値V*が立ち下がるときの電気角(例えば30度)よりも大きい。このとき例えば幾何学的に次式を満足する。
【0074】
δ[n]−δ[n−1]:δ[n]−30°=T1:T1/2−Tv1・・・(7)
【0075】
式(7)は電気角δ[n],δ[n−1]を用いて表される。つまり、電圧指令値V*が立ち上がる時点に近い電気角δ[n],δ[n−1]が採用される。かかる式(7)を変形すると期間Tv1が導かれ、さらにTv2=T1−Tv1も考慮すると期間Tv2が導かれる。
【0076】
Tv1=T1・(1/2+(30°-δ[n])/(δ[n]-δ[n-1])) ・・・(8)
Tv2=T1・(1/2-(30°-δ[n])/(δ[n]-δ[n-1])) ・・・(9)
【0077】
ここで、電気角速度が急峻に変化しないものとすると、δ[n+1]−δ[n]=δ[n]−δ[n−1]=kが成り立つ。これを用いて式(8)及び式(9)を変形すると、式(5)及び式(6)が導かれる。
【0078】
この期間Tv1,Tv2を式(1)に代入することで、電圧指令生成部31は期間T11における電圧指令値V**を求めることができる。なお、期間T11における電圧指令値V**を算出する時点で、δ[n−1]とδ[n]が既知である場合は式(8),(9)を用いて電圧指令値V**を算出してもよい。
【0079】
なお、電圧指令値V*は電気角30度で立ち下がると仮定したが、任意の電気角で立ち上がってもよい。式(2)〜式(9)において「30°」を当該任意の電気角に置き換えればよい。
【0080】
また上述の例では、時点δにおける電圧指令値V*を用いているが、電圧指令値V*が制御周期T1毎に一つの値を採る場合であればその値を用いればよい。例えば制御部3のマイクロコンピュータが実行するプログラムにて電圧指令値V*を生成する場合には、例えば制御周期T1ごとに一つの電圧指令値V*が生成される。
【0081】
また必ずしも上述の式を採用する必要はなく、例えば現在の制御周期T1と、その前後の制御周期での電圧指令値V*のいずれかふたつ又は全てに基づき、電圧指令値V**を生成してもよい。
【0082】
第2の実施の形態.
第2の実施の形態にかかるインバータの構成は図1の構成と同様である。ただし第2の実施の形態では、図9或いは図10に例示するように電圧指令値V**が生成される。電圧指令値V**は一定値を採る一対の平坦区間と、階段形状を採って当該一対の平坦区間を繋ぐ階段状区間(期間T11〜T13,期間T16〜18)とを備えている。図9の例示では、電圧指令値V**の最大値V1及び最小値V2はキャリアの最大値Vc1及び最小値Vc2とそれぞれと一致している。一方で、図10の例示では、最大値V1は最大値Vc1よりも大きく、最小値V2は最小値Vc2よりも小さい。要するに、最大値V1は最大値Vc1以上であり、最小値V2は最小値Vc2以下である。
【0083】
このような電圧指令値V**は例えば台形波の電圧指令値V*を補正することで生成できる。一例として以下に詳細に説明する。電圧指令生成部31は、第1の実施の形態と同様に、制御周期T1を有する各期間において電圧指令値V*が一定であれば、電圧指令値V*の値をそのまま採用して電圧指令値V**を生成する。よって、これらの期間では電圧指令値V**は電圧指令値V*と一致する。
【0084】
また例えば各期間において電圧指令値V*がキャリアCの最大値Vc1以上又は最小値Vc2以下であれば、電圧指令値V*の値をそのまま採用して電圧指令値V**を生成しても良い。図9の例示において、例えば期間T14において電圧指令値V*がキャリアの最大値Vc1以上である。よって期間T14における電圧指令値V**は最大値Vc1以上の任意の値であってよい。同じく、電圧指令値V*がキャリアの最小値Vc2以下である期間において電圧指令値V**は最小値Vc2以下の任意の値であってよい。また期間の途中で電圧指令値V*が最大値Vc1を跨ぐ場合、又は電圧指令値V*が最小値Vc2を跨ぐ場合には、その期間(例えば期間T13,T16)における電圧指令値V**はその期間における電圧指令値V*の最小値より大きく最大値未満の値が採用されてもよい。またその期間における電圧指令値V*の平均値が最大値Vc1を超えていれば、その期間における電圧指令値V**は最大値Vc1以上の任意の値であってよい。またその期間における電圧指令値V*の平均値が最小値Vc2を下回っていれば、その期間における電圧指令値V**は最小値Vc2以下の任意の値であってもよい。
【0085】
また各期間において電圧指令値V*が最小値Vc2以上かつ最大値Vc1以下の間で変化していれば、電圧指令補正部31はその期間における電圧指令値V*を、その期間における電圧指令値V*の最大値と最小値との間の中間値に補正して、電圧指令値V**を生成する。例えば図9においては期間T12における電圧指令値V**は、期間T12における電圧指令値V*の最大値V11と最小値V12との間の中間値である。
【0086】
かかる電圧指令値V**によっても、第1の実施の形態で説明したように、電圧指令値V**の周期T2における平均値を、電圧指令値V*の周期T2における平均値に近づけることができ、第1の実施の形態と同様の効果を招来する。
【0087】
なお、図11に例示するように正弦波の電圧指令値V*を補正して電圧指令値V**を生成しても良い。なお図11の例示では、正弦波の周期に対して各期間を誇張して示している。図11に例示するように、電圧指令値V*がキャリアの最大値Vc1以上となる期間は少なくとも一つ存在し、電圧指令値V*がキャリアの最小値Vc2以下となる期間が少なくとも一つ存在する。かかる正弦波の電圧指令値V*に対して上述した補正を行うことで、例えば図11に例示する電圧指令値V**を生成できる。
【0088】
図12は電圧指令値とキャリアと出力電圧との一例を示している。なお以下では、図9の電圧指令V*を採用する場合について説明するが、図10,11に例示する電圧指令値V**を採用した場合であっても以下の内容が適用される。さて、図12に例示するように、標準的にはキャリア生成部32はキャリアC1をスイッチング制御部33に出力する。
【0089】
電圧指令生成部31は、所定期間(例えば期間T15)において電圧指令値V**が最大値Vc1以上の値を採り、次の期間(例えば期間T16)において電圧指令値V**が最大値Vc1よりも小さく最小値Vc2よりも大きい値を採るときには、その旨をキャリア生成部32に通知する。換言すると、電圧指令生成部31は、電圧指令値V**が最大値Vc1以上の値から当該値に立ち下がって当該値を採る期間において、その旨をキャリア生成部32に通知する。或いは電圧指令生成部31は、所定期間(例えば期間T19)において電圧指令値V**が最小値Vc2以下の値を採り、その一つ前の期間(例えば期間T18)において電圧指令値V**が最大値Vc1よりも小さく最小値Vc2よりも大きい値を採るときには、その旨をキャリア生成部32に通知する。
【0090】
その旨が通知されたキャリア生成部32は当該次の期間(例えば期間T16)或いは当該一つ前の期間(期間T18)においてキャリアC2をスイッチング制御部33に出力する。
【0091】
図12の例示において、期間T16にてキャリアC2が採用されれば、期間T15,T16の境界の前後で相電圧Vは高電位を維持する。よってこの境界の前後ではスイッチングパターンが変らない。したがってスイッチング回数を低減できる。なお図12の例示では、電圧指令値V**が減少傾向にあって中間値を採用する期間(例えば期間T17,T18)においても、キャリア生成部32はキャリアC2をスイッチング制御部33に出力している。ただし、例えば期間T16にてキャリアC2が採用されていれば、期間T17,T18のキャリアは任意の三角波であってよい。また、期間T18においてキャリアC2が採用されれば、期間T18,T19の境界の前後で相電圧Vは低電位を維持する。よってこの境界の前後ではスイッチングパターンが変らない。したがってスイッチング回数を低減できる。なお期間T18においてキャリアC2が採用されれば、期間T16,T17で採用されるキャリアは任意の三角波であってよい。
【0092】
かかる制御によって、電圧指令値V**が最大値Vc1以上の値を採る期間の最も広いパルスの前後においてそれぞれパルスの個数を一つ低減することができる。この理由は、図3の説明から理解できるので詳細な説明は省略する。したがって、スイッチング回数を低減することができる。
【0093】
また第1の実施の形態と同様に、キャリア生成部32は標準的にキャリアC2をスイッチング制御部33に出力し、電圧指令値V**が最大値Vc1以上の値を採る期間(例えば期間T14)の一つ前の期間であって、電圧指令値V**が最大値Vc1よりも小さく最小値Vc2よりも大きい値を採る期間(例えば期間T13)、若しくは電圧指令値V**が最小値Vc2以下の値から最大値Vc1よりも小さく最小値Vc2よりも大きい値に立ち上がって当該値を採る期間(例えば期間T11)において、キャリアC1をスイッチング制御部33に出力しても良い。
【0094】
図12の例示において、期間T13にてキャリアC1が採用されれば、期間T13,T14の境界の前後で相電圧Vは高電位を維持する。よってこの境界の前後ではスイッチングパターンが変らない。したがってスイッチング回数を低減できる。なお図12の例示では、電圧指令値V**が増大傾向にあって中間値を採用する期間(例えば期間T11,T12)においても、キャリア生成部32はキャリアC1をスイッチング制御部33に出力している。ただし、期間T13にてキャリアC1が採用されていれば、期間T11,T12のキャリアは任意の三角波であってよい。また、期間T11においてキャリアC1が採用されれば、期間T10,T11の境界の前後で相電圧Vは低電位を維持する。よってこの境界の前後ではスイッチングパターンが変らない。したがってスイッチング回数を低減できる。また期間T11においてキャリアC1が採用されれば、期間T12,T13で採用されるキャリアは任意の三角波であってよい。
【0095】
また第1の実施の形態と同様に、電圧指令値V**が最大値Vc1以上の値を採る期間においてはキャリアの形状に拠らずに相電圧Vが高電位を維持し、電圧指令値V**が最小値Vc2以下の値を採る期間においてはキャリアの形状に拠らずに相電圧Vは低電位を維持し続ける。よって、図13に例示するように、これらの期間においては各期間で増大して低減する例えば二等辺三角波のキャリアC3を採用しても良い。
【0096】
またキャリアCが電圧指令値V**以上であるときに上側のスイッチング素子を導通させてもよい。この場合であっても、上述した条件でキャリアC1,C2を採用すれば、スイッチング回数を低減することができる。
【符号の説明】
【0097】
1 インバータ
C,C1,C2 キャリア
P1,P2 入力端
Pu,Pv,Pw 出力端
S1〜S6 スイッチング素子
【技術分野】
【0001】
本発明は電力変換装置に関し、特に電力変換装置が有するスイッチング素子のスイッチング回数を低減する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
モータへと交流電圧を与える装置としてインバータが用いられる。インバータは入力された直流電圧を交流電圧に変換して、交流電圧をモータへと出力する。かかるインバータは例えばキャリアと指令値との比較に基づいて制御される。指令値はインバータの出力電圧についての指令値であって、モータの回転位置角や速度指令等に基づいて、まず第1指令値V*が生成される。そしてキャリアとの比較には、第1指令値V*に基づいて生成される第2指令値V**が採用される。第2指令値V**は所定周期(例えばキャリアの周期)毎に一定値を採る。
【0003】
かかるインバータにおいて矩形波の相電圧を出力する場合、指令値V*は矩形波であって相電圧の周期と同じ周期を有する。一方で、この指令値V*は所定周期毎に一定値を採るとは限らないので、この指令値V*を所定周期ごとに更新して、キャリアと比較すべき指令値V**を生成する。例えば図14では破線でキャリアの周期を示しており、ここに例示するように、キャリアの周期毎の指令値V**には、当該周期の開始時点における指令値V*の値を採用する。
【0004】
そして、図14に例示する指令値V**とキャリアとの比較に基づいてインバータが制御されて、インバータは相電圧Vを出力する。かかる相電圧Vにおいて、相電圧Vが最大値を採る期間と相電圧が最小値を採る期間とは相違する。換言すると、相電圧Vにアンバランスが生じる。かかる相違によって、インバータが出力する相電流にはいわゆるオフセットが生じる。換言すれば、相電流の1周期の平均値が零にならない。
【0005】
かかる問題を解決する手段として、例えば特許文献1における技術が採用できる。特許文献1においては、出力電圧のバランスが崩れるときに、キャリアの周期を指令値V*と同期させている。
【0006】
また本発明に関連する技術として、特許文献2が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特許第4205157号
【特許文献2】特開平9−308256号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、特許文献1に記載の技術ではキャリアの周期を出力電圧の周期の整数分の1にしてキャリアと出力電圧とを同期させる必要があるので、キャリアの周期を変化させる必要がある。よって制御を複雑化させる。
【0009】
そこで、指令値V*を補正して図2の電圧指令値V**を生成することが考えられる。図2の指令値V**はその最大値V1を採る期間とその最小値V2を採る期間との間で所定値を採る。これによって、指令値V**の周期T2における平均値を指令値V*の周期T2における平均値に近づけることができ、ひいては出力電圧の周期T2における平均値に近づけることができる。これによって出力電圧のアンバランスを低減できる。
【0010】
一方で、このような指令値V**と例えば二等辺三角波のキャリアCとを比較してスイッチング素子を制御すれば、図15に例示するように、インバータが出力する相電圧Vは周期T2において3つのパルスを有する。一つのパルスはインバータのスイッチング素子のスイッチパターンが2回切り替わることによって形成される。よって3つのパルスはスイッチング素子のスイッチング回数が6回であることを意味している。かかるスイッチング回数に比例してスイッチング損失が増大する。
【0011】
そこで、本発明は、簡単な制御でスイッチング回数を抑制することができる電力変換装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明にかかる電力変換装置の第1の態様は、第1入力端(P1)と、前記第1入力端の電位よりも低い電位が印加される第2入力端(P2)と、出力端(Pu,Pv,Pw)と、前記第1入力端と前記出力端との間に接続される上側スイッチング素子(S1〜S3)と、前記第2入力端と前記出力端との間に接続される下側スイッチング素子(S4〜S6)とを含む電力変換装置(1)と、前記電力変換装置が出力する出力電圧についての電圧指令値と、所定周期を有するキャリアとの比較に基づいて、前記上側スイッチング素子および前記下側スイッチング素子を制御するスイッチング制御部(33)と、いずれも前記所定周期を有し、かつ、前記電圧指令値が前記キャリアの最小値以下の値である期間の一つ後の期間であって、前記キャリアの最小値より大きい第1所定値を採る第1期間(T11)、及び前記電圧指令値が前記最大値以上である期間の一つ前の期間であって、前記電圧指令値が前記最大値よりも小さい第2所定値を採る第2期間(T13)の少なくともいずれか一方において、単調に減少する前記キャリア(C1)を前記スイッチング制御部に与え、いずれも前記所定周期を有し、かつ、前記電圧指令値が前記最大値以上の値である期間の一つ後の期間であって、前記最大値よりも小さい第3所定値を採る第3期間(T16)、及び前記電圧指令値が前記最小値以下である期間の一つ前の期間であって、前記電圧指令値が前記最小値より大きい第4所定値を採る第4期間(T18)の少なくともいずれか一方において、単調に増加する前記キャリア(C2)を前記スイッチング制御部に与える、キャリア生成部(32)とを備え、前記電力変換装置は前記出力電圧の周期において1パルスのみを有する電圧を出力する。
【0013】
本発明にかかる電力変換装置の第2の態様は、第1の態様にかかる電力変換装置であって、前記電圧指令値は、前記第1期間の一つ後の期間において前記キャリアの前記最大値以上の値をとり、前記第3期間の一つ後の期間において前記キャリアの前記最小値以下の値をとる。
【0014】
本発明にかかる電力変換装置の第3の態様は、第1又は第2の態様にかかる電力変換装置であって、矩形波の補正前電圧指令値(V*)に対して補正を行って前記電圧指令値(V**)を生成する電圧指令生成部(31)を更に備え、前記電圧指令生成部は、前記所定周期を有する前記期間における前記補正前電圧指令値を、前記期間における前記補正前電圧指令値の最大値と最小値との間の中間値に補正して、前記電圧指令値を生成する。
【0015】
本発明にかかる電力変換装置の第4の態様は、第3の態様にかかる電力変換装置であって、前記電圧指令生成部(31)は、前記補正前電圧指令値(V*)を前記所定周期ごとにその平均値に補正して前記電圧指令値(V**)を生成する。
【発明の効果】
【0016】
本発明にかかる電力変換装置の第1及び第2の態様によれば、電圧指令値が最大値から低下するときの2つの期間の境界の前後において上側スイッチング素子および下側スイッチング素子のスイッチングパターンは変化しない。また電圧指令値が最大値へと増大するときの2つの期間の境界の前後において当該スイッチングパターンは変化しない。よって、スイッチング回数を低減することができる。
【0017】
本発明にかかる電力変換装置の第3の態様によれば、所定周期毎に補正前電圧指令値を各期間における自身の最大値又は最小値に補正して電圧指令値を生成する場合に比して、電圧指令値の平均値を補正前電圧指令値の平均値に近づけることができる。
【0018】
本発明にかかる電力変換装置の第4の態様によれば、理論的に、電圧指令値の平均値を補正前電圧指令値の平均値に一致させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】インバータの概念的な構成を例示する図である。
【図2】電圧指令値の一例を示す図である。
【図3】電圧指令値とキャリアと出力電圧との一例を示す図である。
【図4】電圧指令値とキャリアと出力電圧との一例を示す図である。
【図5】電圧指令値とキャリアと出力電圧との一例を示す図である。
【図6】電圧指令値とキャリアと出力電圧との一例を示す図である。
【図7】電圧指令値の一例を示す図である。
【図8】電圧指令値の一例を示す図である。
【図9】電圧指令値の一例を示す図である。
【図10】電圧指令値の一例を示す図である。
【図11】電圧指令値の一例を示す図である。
【図12】電圧指令値とキャリアと出力電圧との一例を示す図である。
【図13】電圧指令値とキャリアと出力電圧との一例を示す図である。
【図14】従来の電圧指令値の一例を示す図である。
【図15】電圧指令値とキャリアと出力電圧との一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
第1の実施の形態.
図1に示すように、インバータ1は入力端P1,P2及び出力端Pu,Pv,Pwと接続される。入力端P1,P2には直流電圧が印加される。ここでは入力端P2に印加される電位は入力端P1に印加される電位よりも低い。
【0021】
インバータ1は直流電圧を交流電圧に変換し、この交流電圧を出力端Pu,Pv,Pwへと出力する。より詳細な構造の一例として、インバータ1はスイッチング素子S1〜S6とダイオードD1〜D6とを備えている。スイッチング素子S1〜S6は例えば絶縁ゲートバイポーラトランジスタ又は電界効果トランジスタなどである。各スイッチング素子S1〜S3は出力端Pu,Pv,Pwの各々と入力端P1との間に設けられている。以下では、各スイッチング素子S1〜S3を上側のスイッチング素子とも呼ぶ。ダイオードD1〜D3のアノードはそれぞれ出力端Pu,Pv,Pwに接続され、ダイオードD1〜D3はそれぞれスイッチング素子S1〜S3と並列に接続される。各スイッチング素子S4〜S6は出力端Pu,Pv,Pwの各々と入力端P2との間に設けられている。以下では各スイッチング素子S4〜S6を下側のスイッチング素子とも呼ぶ。ダイオードD4〜D6のアノードは入力端P2に接続され、ダイオードD4〜D6はそれぞれスイッチング素子S4〜S6と並列に接続される。
【0022】
かかるスイッチング素子S1〜S6には制御部3からそれぞれスイッチ信号が与えられる。かかるスイッチ信号により各スイッチング素子S1〜S6が導通する。制御部3が適切なタイミングでスイッチング素子S1〜S6へとそれぞれスイッチ信号を与えることにより、インバータ1は直流電圧を交流電圧に変換する。なお、制御部3の制御によって、スイッチング素子S1,S4は相互に排他的に導通し、スイッチング素子S2,S5は相互に排他的に導通し、スイッチング素子S3,S6は相互に排他的に導通する。これは、入力端P1,P2が短絡してスイッチング素子に大電流が流れることを防止するためである。
【0023】
インバータ1は例えば誘導性負荷2を駆動することができる。誘導性負荷2は出力端Pu,Pv,Pwに接続される。誘導性負荷2は例えばモータであって、インバータ1によって印加される交流電圧に応じて回転する。
【0024】
なお図1の例示ではインバータ1は3つの出力端Pu,Pv,Pwと接続されている。つまり三相交流電圧を出力する三相インバータ1が図1に示されている。しかしながら、インバータ1は三相インバータに限らず単相インバータであってもよく、三相以上のインバータであってもよい。以下ではインバータ1が三相インバータである場合を例に採って説明する。
【0025】
制御部3は電圧指令生成部31とキャリア生成部32とスイッチング制御部33とを備えている。まずこれらの各要素について概説した上で各要素について詳述する。
【0026】
電圧指令生成部31は、インバータ1が出力する相電圧(以下、出力電圧とも呼ぶ)についての電圧指令値V**を生成してこれをスイッチング制御部33に出力する。図1の例示では、インバータ1は三相交流電圧を出力するので、電圧指令値V**は3つの相電圧指令値Vu**,Vv**,Vw**を含んでいる。具体的な電圧指令値V**については後に詳述する。
【0027】
キャリア生成部32は所定周期を有して互いに異なるキャリアC1,C2を生成し、キャリアC1,C2の何れか一方をスイッチング制御部33へと与える。
【0028】
スイッチング制御部33は、電圧指令生成部31からの第2電圧指令値V**と、キャリア生成部32からのキャリアとの比較に基づいて、スイッチング素子S1〜S6へとスイッチ信号を出力する。
【0029】
またここでは、制御部3はマイクロコンピュータと記憶装置を含んで構成される。マイクロコンピュータは、プログラムに記述された各処理ステップ(換言すれば手順)を実行する。上記記憶装置は、例えばROM(Read Only Memory)、RAM(Random Access Memory)、書き換え可能な不揮発性メモリ(EPROM(Erasable Programmable ROM)等)、ハードディスク装置などの各種記憶装置の1つ又は複数で構成可能である。当該記憶装置は、各種の情報やデータ等を格納し、またマイクロコンピュータが実行するプログラムを格納し、また、プログラムを実行するための作業領域を提供する。なお、マイクロコンピュータは、プログラムに記述された各処理ステップに対応する各種手段として機能するとも把握でき、あるいは、各処理ステップに対応する各種機能を実現するとも把握できる。また、制御部3はこれに限らず、制御部3によって実行される各種手順、あるいは実現される各種手段又は各種機能の一部又は全部をハードウェアで実現しても構わない。
【0030】
電圧指令生成部31の具体的な動作の一例について図2を参照して説明する。電圧指令生成部31は電圧指令値V**を生成する。図2の例示において複数の破線のうち隣接する二者で挟まれる期間はいずれも所定周期T1を有する。電圧指令値V**は期間T10の始期において自身の最小値V2(例えば0)から立ち上がって所定値を採り、期間T10の終期において立ち上がって自身の最大値V1を採る。電圧指令値V**は期間T10の次の期間T11から期間T12までは最大値V1を採り、期間T12の次の期間T13の始期において立ち下がって所定値を採り、期間T13の終期において立ち下がって最小値V2を採る。電圧指令値V**は期間T13の次の期間から期間T14までは最小値V2を採り、期間T14の次の期間T15の始期において再び最小値V2から立ち上がって所定値を採り、期間T15の終期において最大値V1へと立ち上がる。
【0031】
なお図2の例示では、代表的に電圧指令値V**の形状が示されている。実際には電圧指令値V**は相電圧指令値Vu**,Vv**,Vw**を含んでおり、これらの位相は互いに120度ずつずれる。
【0032】
また図2に例示する電圧指令値V**は例えば次のように生成される。すなわち電圧指令生成部31には補正前電圧指令値V*(以下、単に電圧指令値V*と呼ぶ)が入力され、電圧指令値V*を補正して電圧指令値V**を生成する。なお図1の例示では、インバータ1は三相交流電圧を出力するので、電圧指令値V*は3つの相電圧指令値Vu*,Vv*,Vw*を含んでいる。相電圧指令値Vu*,Vv*,Vw*の位相は互いに120度ずつずれる。
【0033】
電圧指令値V*は矩形波であり、最大値V1と最小値V2とを交互に採る。ここでは電圧指令値V*が最大値V1を採る期間は電圧指令値V*が最小値V2を採る期間と等しい。図2の例示では、電圧指令値V*は期間T10内において最小値V2から立ち上がって最大値V1を採り、期間T13内において最大値V1から立ち下がって最小値V2を採る。そして再び期間T15内において最小値V2から立ち上がって最大値V1を採る。
【0034】
電圧指令生成部31は、例えば各期間において電圧指令値V*が変化しないときには、電圧指令値V*を補正しない。つまり電圧指令値V*の値をそのまま採用して電圧指令値V**を生成する。例えば図2に示すように、期間T11,T12,T14において電圧指令値V*が一定値を採っている。よって、これらの期間では電圧指令値V**は電圧指令値V*と一致する。また例えば各期間において電圧指令値V*が変化するときには、電圧指令生成部31はその期間における電圧指令値V*を、その期間における電圧指令値V*の最大値と最小値との間の中間値に補正して、電圧指令値V**を生成する。例えば図2に示すように、期間T10,T13,T15において電圧指令値V*は変化する。よって、これらの期間では電圧指令値V**には最大値V1と最小値V2の間の中間値が採用される。以上の動作によって図2に例示する電圧指令値V**が生成される。
【0035】
かかる動作によって、所定周期T1ごとに値を認識するマイコンが電圧指令値V*を電圧指令値V**として認識することができる。また電圧指令値V*を補正して電圧指令値V**が生成される場合には、電圧指令生成部31は電圧指令値補正部と把握することもできる。
【0036】
キャリア生成部32は所定周期T1を有するキャリアC1,C2を生成する。より詳細にはキャリア生成部32は図3に例示するように、各期間において単調に減少する単調減少キャリアC1と、期間の各々において単調に増加する単調増加キャリアC2を生成する。キャリアC1,C2のいずれの周期も所定周期T1と等しい。キャリアC1は例えば傾斜部分が負の直角三角波であり、各期間において最大値V1から最小値V2へと時間の経過とともに比例して減少する。キャリアC2は例えば傾斜部分が正の直角三角波であり、各期間において最小値V2から最大値V1へと例えば時間の経過と共に比例して増大する。キャリアC1,C2はいわゆる鋸波と呼ばれる。なお、キャリアC1,C2は時間の経過と共に比例する必要はなく、図4に例示するように湾曲していてもよい。この点は後述する他の態様についても同様であるので、繰り返しの説明を避ける。
【0037】
キャリア生成部32は電圧指令生成部31からの情報(後述する)に基づいてキャリアC1,C2の何れか一方をスイッチング制御部33に出力する。
【0038】
電圧指令生成部31は電圧指令値V**を、これが出力される期間よりも前の期間に生成する。例えば期間T11において出力する電圧指令値V**は期間T10以前に生成される。したがって、電圧指令生成部31はある期間において出力される電圧指令値V**とその次の期間において出力される電圧指令値V**の値を認識することができる。そして、電圧指令生成部31は、次の期間が、電圧指令値V**が自身の最大値V1から所定値に立ち下がって第1所定値を採る期間(例えば期間T13)であるときに、その旨をキャリア生成部32に通知する。
【0039】
キャリア生成部32は電圧指令生成部31からの通知がなければキャリアC1をスイッチング制御部33に出力する。一方、電圧指令生成部31から通知されると、キャリア生成部32は当該次の期間においてキャリアC2をスイッチング制御部33に出力する。よって、図3,4の例示では、期間T13においてキャリアC2が採用されている。
【0040】
スイッチング制御部33は電圧指令値V**とキャリアとの比較に基づいてスイッチング素子S1〜S6を制御する。例えばスイッチング制御部33は電圧指令値V**がキャリア以上であるときに上側のスイッチング素子を導通させ下側のスイッチング素子を非導通とし、電圧指令値V**がキャリア以下であるときに上側のスイッチング素子を非導通とし、下側のスイッチング素子を導通させる。
【0041】
さて、上述の電圧指令生成部31およびキャリア生成部32の動作によって、電圧指令値V**が最大値V1から所定値に立ち下がる期間(例えば期間T13)において、キャリアC2が採用される。なおキャリアC2は当該期間において単調増加しているので、当該期間の前半部分において電圧指令値V**はキャリアC2以上となる。よって、当該期間の前半部分において上側のスイッチング素子が導通し、下側のスイッチング素子が非導通する。一方、当該期間の一つ前の期間(例えば期間T12)においては電圧指令値V**が最大値V1を採るのでキャリアC1以上となる。よってこの期間においては、上側スイッチング素子が導通し、下側スイッチング素子が非導通する。つまり、これらの2つの期間(例えば期間T12,T13)の境界の前後において上側スイッチング素子と下側スイッチング素子のスイッチパターンが変化しない。換言すれば、これら2つの期間の境界の前後において出力電圧Vは立ち下がらずに高電位を維持し続ける。
【0042】
また電圧指令値V**が最大値V1から所定値に立ち下がる期間以外の期間ではキャリアC1が採用される。よって、電圧指令値V**が最小値V2から所定値へと立ち上がる期間(例えば期間T10,T15)においてもキャリアC1が採用される。キャリアC1は当該期間において単調減少するので、当該期間の後半部分において電圧指令値V**はキャリアC1以上となる。よって、当該期間の後半部分において上側のスイッチング素子が導通し、下側のスイッチング素子が非導通する。一方、当該期間の次の期間(例えば期間T11、期間T15の次の期間)においては電圧指令値V**が最大値V1を採るので、上側スイッチング素子が導通し、下側スイッチング素子が非導通する。つまり、これらの2つの期間(例えば期間T10,T11、期間T15とその次の期間)の境界の前後において上側スイッチング素子と下側スイッチング素子のスイッチパターンが変化しない。換言すれば、これら2つの期間の境界の前後において出力電圧Vは立ち下がらずに高電位を維持し続ける。
【0043】
また期間T13の次の期間においては電圧指令値V**が最小値V2を採るので、上側スイッチング素子が非導通し、下側スイッチング素子が導通する。期間T13では上述したようにキャリアC2が採用されるので、その後半部分においては上側スイッチング素子が非導通し、下側スイッチング素子が導通する。したがって、期間T13およびその次の期間の境界の前後において上側スイッチング素子と下側スイッチング素子のスイッチパターンが変化しない。換言すれば、これら2つの期間の境界の前後において出力電圧Vは低電位を維持し続ける。
【0044】
また期間T14においても電圧指令値V**が最小値V2を採るので、上側スイッチング素子が非導通し、下側スイッチング素子が導通する。期間T14の次の期間T15においては上述したようにキャリアC1が採用されるので、期間T15の前半部分において上側スイッチング素子が非導通し、下側スイッチング素子が導通する。したがって、期間T14,T15の境界の前後において上側スイッチング素子と下側スイッチング素子のスイッチパターンが変化しない。換言すれば、これら2つの期間の境界の前後において出力電圧Vは低電位を維持し続ける。
【0045】
したがって、図3,4に例示するように、インバータ1は1周期(即ち周期T2)内において1パルスのみを有する出力電圧Vを出力する。言い換えれば、最も少ないスイッチ回数で交流電圧を出力できる。
【0046】
一方で電圧指令値V*が立ち下がる時点および立ち上がる時点が各期間の境界のいずれかに位置していれば、電圧指令値V**は電圧指令値V*と同一形状を有する。このとき、三角波/直角三角波のいずれのキャリアを採用しても、インバータ1は1周期内において1パルスのみを有する出力電圧Vを出力できる。しかしながら、これを実現するために、所定周期T1を電圧指令値V*の周期T2の整数分の1にする必要がある。よって周期T2が変化するたびに所定周期T1を変化させる必要があり、制御が困難である。他方、本実施の形態では所定周期T1を周期T2の整数分の1にする必要がなく、制御が容易である。
【0047】
なお、図3,4の例示では、電圧指令値V**の最大値V1および最小値V2はそれぞれキャリアC1,C2の最大値および最小値と一致しているが、これに限らない。端的にいえば、図3,4の電圧指令値V**が最大値V1を採る期間において電圧指令値V**がキャリアの最大値以上であればよく、図3,4の電圧指令値V**が最小値V2を採る期間において電圧指令値V**がキャリアCの最小値以下であればよい。
【0048】
これを次のようにも表現できる。電圧指令値V**は少なくとも一つ以上の期間(例えば期間T10よりも前の期間)においてキャリアの最小値以下であり、これに続く期間(例えば期間T10)の始期においてキャリアの最小値以下の値から立ち上がって所定値を採る。かかる所定値はキャリアの最小値よりも大きくキャリアの最大値よりも小さい値である。そして電圧指令値V**はこの期間の終期で立ち上がってキャリアの最大値以上の値を採り、これに続く少なくとも一つの期間(例えば期間T11〜T12)においてキャリアの最大値以上を維持する。さらに、これに続く期間(例えば期間T13)の始期において電圧指令値V**はキャリアCの最大値以上の値から所定値に立ち下がる。かかる所定値もキャリアの最小値よりも大きくキャリアの最大値よりも小さい値である。そして、電圧指令値V**はこの期間の終期において立ち下がってキャリアCの最小値以下の値を採り、再び少なくとも一つ以上の期間においてキャリアの最小値以下を維持する。
【0049】
これによっても図3,4と同様に、インバータ1は1周期(即ち周期T2)内において1パルスのみを有する出力電圧Vを出力する。言い換えれば、最も少ないスイッチ回数で交流電圧を出力できる。この点は後述する他の態様であっても同様であるので、繰り返しの説明を避ける。
【0050】
なお、キャリア生成部32は電圧指令生成部31から通知がなければキャリアC2をスイッチング制御部33に出力してもよい。この場合、電圧指令生成部31は次のようにキャリア生成部32に通知する。即ち、次の期間が、第2電圧指令値V**が最小値V2から所定値へと立ち上がる期間(例えば期間T10)であるときに、電圧指令生成部31はキャリア生成部32にその旨を通知する。当該通知を受け取ればキャリア生成部32は当該次の期間においてキャリアC1をスイッチング制御部33に出力する。これによっても、インバータ1は図3,4と同じ出力電圧Vを出力することができる。
【0051】
また電圧指令値V**が最大値V1を採る間(例えば期間T11〜期間T12)はキャリアに拠らずに出力電圧Vが高電位を維持し、電圧指令値V**が最小値V2を採る期間はキャリアに拠らずに出力電圧Vが低電位を維持する。よって、図5に例示するように、電圧指令値V**が最大値V1又は最小値V2を採る期間では、制御周期T1と同じ周期を有して各期間において増大して低減する、例えば二等辺三角波のキャリアC3を採用しても良い。
【0052】
要するに、期間T10,T15において単調に減少するキャリアC1を採用し、期間T13において単調に増加するキャリアC2を採用すればよい。これによって、インバータ1は最も少ないスイッチ回数で交流電圧を出力できる。
【0053】
なおスイッチング制御部33は、電圧指令値V**がキャリア以下であるときに上側のスイッチング素子を導通させ、下側のスイッチング素子を非導通としてもよい。この場合の電圧指令値V**とキャリアと出力電圧Vとが図6に例示されている。
【0054】
図6の電圧指令値V**は、例えば図2の電圧指令値V**を上下に対称に変化させたものである。そして、電圧指令値V**が最小値V2から所定値へと立ち上がる(例えば期間T13)において、単調に減少するキャリアC1が採用される。当該期間においてはキャリアC1が単調に減少するので、その前半の期間においてパルスが出力される。一方、当該期間の一つの期間(例えば期間T12)においては電圧指令値V**が最小値V2を採るので出力電圧Vは高電位を維持する。よって、これらの2つの期間(例えばT12,T13)の境界の前後で出力電圧Vは立ち下がらず高電位を維持し続ける。
【0055】
また電圧指令値V**が最大値V1から立ち下がる期間(例えば期間T10)において、単調に増加するキャリアC2が採用される。当該期間においてはキャリアC2が単調に増加するので、その後半の期間において出力電圧Vが立ち上がる。一方、当該期間の次の期間(例えば期間T11)においては電圧指令値V**が最小値V2を採るので、出力電圧Vは高電位を維持する。よって、これらの2つの期間(例えば期間T10,T11)の境界の前後で出力電圧Vは立ち下がらず高電位を維持し続ける。
【0056】
したがって、図6に例示するように、インバータ1は1周期において1パルスのみを有する出力電圧Vを出力する。言い換えれば、最も少ないスイッチ回数で交流電圧を出力でき、図3,4を参照して説明した効果と同様の効果を招来する。
【0057】
なお電圧指令生成部31が電圧指令値V*から電圧指令値V**を生成すれば、図9の電圧指令値V**に比較して、インバータ1は電圧指令値V*に近い電圧を出力することができる。言い換えれば、電圧指令値V**の周期T2における平均値を電圧指令値V*の周期T2における平均値に近づけることができる。ひいては出力電圧のアンバランスを低減できる。
【0058】
また期間T10,T13,T15において、電圧指令値V**はそれぞれの期間における電圧指令値V*の平均値を採っていることが望ましい。言い換えれば上記中間値は各期間における電圧指令値V*の平均値である。かかる平均値は次のように導くことができる。すなわち、これらの各期間のうち電圧指令値V*が最大値V1を採る期間を期間Tv1とし、これらの各期間のうち電圧指令値V*が最小値V2を採る期間を期間Tv2(=T1−Tv1)と仮定する。このとき、これらの各期間における電圧指令値V**は次式を満たす。
【0059】
V**=(V1・Tv1+V2・Tv2)/T1 ・・・(1)
【0060】
かかる電圧指令値V**を採用すれば、理論的には電圧指令値V**の周期T2における平均値を電圧指令値V*の周期T2における平均値と等しくできる。
【0061】
しかも、電圧指令値V**の周期T2における平均値を電圧指令値V**の周期T2における平均値に近づけることができるので、出力電圧Vの周期T2における平均値も電圧指令値V**の平均値に近づけることができる。言い換えれば、出力電圧Vが最大値を採る期間と出力電圧Vが最小値を採る期間との差(アンバランス)を低減することができる。図2の例示では、理論的に電圧指令値V**の平均値が電圧指令値V*の平均値と等しいので、出力電圧Vのアンバランスを理論的には解消できる。
【0062】
なお、所定周期T1を周期T2の整数分の1に設定すれば、電圧指令値V*とキャリアとの比較に基づく制御によっても同様の効果を招来する。しかしながら、所定周期T1を周期T2に基づいて変化させる必要があり、所定周期T1を変更するための演算又は処理が必要である。よって、制御が複雑化する。一方、本実施の形態によれば、所定周期T1を電圧指令値V*の周期T2の整数分の1とする必要がない。したがって制御を簡単にできる。
【0063】
また所定周期T1を高めれば、電圧指令値V*とキャリアとの比較に基づく制御によっても、アンバランスを低減できる。しかしながら、所定周期T1を高めることは必要となる演算処理能力を高め、ひいては製造コストの増大を招く。一方、本実施の形態によれば、所定周期T1を高める必要がないのでかかる製造コストの増大を抑制できる。
【0064】
<第2電圧指令値V**の具体的な生成方法の一例>
第1電圧指令値V*は矩形波であって、電気角30度で立ち下がり、電気角210度で立ち上がると仮定する。図7は電圧指令値V*と電圧指令値V**との一例を拡大して示している。図7には電圧指令値V*が立ち下がる部分の近傍が示されている。電圧指令値V*は電気角30度において最大値V1から最小値V2へと立ち下がっている。
【0065】
電圧指令生成部31は、制御周期T1ごとに、電圧指令値V*を補正して電圧指令値V**を生成する。例えば各期間における中央の時点において、各期間の次の期間における電圧指令値V**を生成する。
【0066】
ここで各期間の中央の時点における電圧指令値V*の電気角をδ[N](Nは整数)とすると、幾何学的に次式を満足する。
【0067】
δ[n+1]−δ[n]:30°−δ[n]=T1:Tv1−T1/2 ・・・(2)
【0068】
式(2)を変形すると期間Tv1が導かれ、さらにTv2=T1−Tv1も考慮すると期間Tv2が導かれる。
【0069】
Tv1=T1・(1/2+(30°-δ[n])/(δ[n+1]-δ[n])) ・・・(3)
Tv2=T1・(1/2-(30°-δ[n])/(δ[n+1]-δ[n])) ・・・(4)
【0070】
ここでは制御周期T1は一定であり、また電圧指令値V*の周期T2が一定であると仮定すると、δ[n+1]−δ[n]=δ[n]−δ[n−1]=k(一定)(nは整数)が成立する。かかる仮定は例えば誘導性負荷2の一例たるモータが一定の回転速度で駆動されていることを意味する。δ[n+1]−δ[n]=δ[n]−δ[n−1]=kを考慮して式(3)及び式(4)を変形すると、次式が導かれる。
【0071】
Tv1=T1・(1/2+(30°-δ[n-1]-k)/k) ・・・(5)
Tv2=T1・(1/2-(30°-δ[n-1]-k)/k) ・・・(6)
【0072】
この期間Tv1,Tv2を式(1)に代入することで、電圧指令生成部31は期間T11における電圧指令値V**を求めることができる。なお、期間T11における電圧指令値V**を算出する時点で、δ[n]とδ[n+1]が既知である場合は式(3),(4)を用いて電圧指令値V**を算出してもよい。
【0073】
図8は電圧指令値V*と電圧指令値V**との他の一例を拡大して示している。図8には電圧指令値V*が立ち下がる部分の近傍が示されている。電圧指令値V*は例えば電気角30度において最大値V1から最小値V2へと立ち下がっている。図7の例示と比較して、電気角δ[n]が電圧指令値V*が立ち下がるときの電気角(例えば30度)よりも大きい。このとき例えば幾何学的に次式を満足する。
【0074】
δ[n]−δ[n−1]:δ[n]−30°=T1:T1/2−Tv1・・・(7)
【0075】
式(7)は電気角δ[n],δ[n−1]を用いて表される。つまり、電圧指令値V*が立ち上がる時点に近い電気角δ[n],δ[n−1]が採用される。かかる式(7)を変形すると期間Tv1が導かれ、さらにTv2=T1−Tv1も考慮すると期間Tv2が導かれる。
【0076】
Tv1=T1・(1/2+(30°-δ[n])/(δ[n]-δ[n-1])) ・・・(8)
Tv2=T1・(1/2-(30°-δ[n])/(δ[n]-δ[n-1])) ・・・(9)
【0077】
ここで、電気角速度が急峻に変化しないものとすると、δ[n+1]−δ[n]=δ[n]−δ[n−1]=kが成り立つ。これを用いて式(8)及び式(9)を変形すると、式(5)及び式(6)が導かれる。
【0078】
この期間Tv1,Tv2を式(1)に代入することで、電圧指令生成部31は期間T11における電圧指令値V**を求めることができる。なお、期間T11における電圧指令値V**を算出する時点で、δ[n−1]とδ[n]が既知である場合は式(8),(9)を用いて電圧指令値V**を算出してもよい。
【0079】
なお、電圧指令値V*は電気角30度で立ち下がると仮定したが、任意の電気角で立ち上がってもよい。式(2)〜式(9)において「30°」を当該任意の電気角に置き換えればよい。
【0080】
また上述の例では、時点δにおける電圧指令値V*を用いているが、電圧指令値V*が制御周期T1毎に一つの値を採る場合であればその値を用いればよい。例えば制御部3のマイクロコンピュータが実行するプログラムにて電圧指令値V*を生成する場合には、例えば制御周期T1ごとに一つの電圧指令値V*が生成される。
【0081】
また必ずしも上述の式を採用する必要はなく、例えば現在の制御周期T1と、その前後の制御周期での電圧指令値V*のいずれかふたつ又は全てに基づき、電圧指令値V**を生成してもよい。
【0082】
第2の実施の形態.
第2の実施の形態にかかるインバータの構成は図1の構成と同様である。ただし第2の実施の形態では、図9或いは図10に例示するように電圧指令値V**が生成される。電圧指令値V**は一定値を採る一対の平坦区間と、階段形状を採って当該一対の平坦区間を繋ぐ階段状区間(期間T11〜T13,期間T16〜18)とを備えている。図9の例示では、電圧指令値V**の最大値V1及び最小値V2はキャリアの最大値Vc1及び最小値Vc2とそれぞれと一致している。一方で、図10の例示では、最大値V1は最大値Vc1よりも大きく、最小値V2は最小値Vc2よりも小さい。要するに、最大値V1は最大値Vc1以上であり、最小値V2は最小値Vc2以下である。
【0083】
このような電圧指令値V**は例えば台形波の電圧指令値V*を補正することで生成できる。一例として以下に詳細に説明する。電圧指令生成部31は、第1の実施の形態と同様に、制御周期T1を有する各期間において電圧指令値V*が一定であれば、電圧指令値V*の値をそのまま採用して電圧指令値V**を生成する。よって、これらの期間では電圧指令値V**は電圧指令値V*と一致する。
【0084】
また例えば各期間において電圧指令値V*がキャリアCの最大値Vc1以上又は最小値Vc2以下であれば、電圧指令値V*の値をそのまま採用して電圧指令値V**を生成しても良い。図9の例示において、例えば期間T14において電圧指令値V*がキャリアの最大値Vc1以上である。よって期間T14における電圧指令値V**は最大値Vc1以上の任意の値であってよい。同じく、電圧指令値V*がキャリアの最小値Vc2以下である期間において電圧指令値V**は最小値Vc2以下の任意の値であってよい。また期間の途中で電圧指令値V*が最大値Vc1を跨ぐ場合、又は電圧指令値V*が最小値Vc2を跨ぐ場合には、その期間(例えば期間T13,T16)における電圧指令値V**はその期間における電圧指令値V*の最小値より大きく最大値未満の値が採用されてもよい。またその期間における電圧指令値V*の平均値が最大値Vc1を超えていれば、その期間における電圧指令値V**は最大値Vc1以上の任意の値であってよい。またその期間における電圧指令値V*の平均値が最小値Vc2を下回っていれば、その期間における電圧指令値V**は最小値Vc2以下の任意の値であってもよい。
【0085】
また各期間において電圧指令値V*が最小値Vc2以上かつ最大値Vc1以下の間で変化していれば、電圧指令補正部31はその期間における電圧指令値V*を、その期間における電圧指令値V*の最大値と最小値との間の中間値に補正して、電圧指令値V**を生成する。例えば図9においては期間T12における電圧指令値V**は、期間T12における電圧指令値V*の最大値V11と最小値V12との間の中間値である。
【0086】
かかる電圧指令値V**によっても、第1の実施の形態で説明したように、電圧指令値V**の周期T2における平均値を、電圧指令値V*の周期T2における平均値に近づけることができ、第1の実施の形態と同様の効果を招来する。
【0087】
なお、図11に例示するように正弦波の電圧指令値V*を補正して電圧指令値V**を生成しても良い。なお図11の例示では、正弦波の周期に対して各期間を誇張して示している。図11に例示するように、電圧指令値V*がキャリアの最大値Vc1以上となる期間は少なくとも一つ存在し、電圧指令値V*がキャリアの最小値Vc2以下となる期間が少なくとも一つ存在する。かかる正弦波の電圧指令値V*に対して上述した補正を行うことで、例えば図11に例示する電圧指令値V**を生成できる。
【0088】
図12は電圧指令値とキャリアと出力電圧との一例を示している。なお以下では、図9の電圧指令V*を採用する場合について説明するが、図10,11に例示する電圧指令値V**を採用した場合であっても以下の内容が適用される。さて、図12に例示するように、標準的にはキャリア生成部32はキャリアC1をスイッチング制御部33に出力する。
【0089】
電圧指令生成部31は、所定期間(例えば期間T15)において電圧指令値V**が最大値Vc1以上の値を採り、次の期間(例えば期間T16)において電圧指令値V**が最大値Vc1よりも小さく最小値Vc2よりも大きい値を採るときには、その旨をキャリア生成部32に通知する。換言すると、電圧指令生成部31は、電圧指令値V**が最大値Vc1以上の値から当該値に立ち下がって当該値を採る期間において、その旨をキャリア生成部32に通知する。或いは電圧指令生成部31は、所定期間(例えば期間T19)において電圧指令値V**が最小値Vc2以下の値を採り、その一つ前の期間(例えば期間T18)において電圧指令値V**が最大値Vc1よりも小さく最小値Vc2よりも大きい値を採るときには、その旨をキャリア生成部32に通知する。
【0090】
その旨が通知されたキャリア生成部32は当該次の期間(例えば期間T16)或いは当該一つ前の期間(期間T18)においてキャリアC2をスイッチング制御部33に出力する。
【0091】
図12の例示において、期間T16にてキャリアC2が採用されれば、期間T15,T16の境界の前後で相電圧Vは高電位を維持する。よってこの境界の前後ではスイッチングパターンが変らない。したがってスイッチング回数を低減できる。なお図12の例示では、電圧指令値V**が減少傾向にあって中間値を採用する期間(例えば期間T17,T18)においても、キャリア生成部32はキャリアC2をスイッチング制御部33に出力している。ただし、例えば期間T16にてキャリアC2が採用されていれば、期間T17,T18のキャリアは任意の三角波であってよい。また、期間T18においてキャリアC2が採用されれば、期間T18,T19の境界の前後で相電圧Vは低電位を維持する。よってこの境界の前後ではスイッチングパターンが変らない。したがってスイッチング回数を低減できる。なお期間T18においてキャリアC2が採用されれば、期間T16,T17で採用されるキャリアは任意の三角波であってよい。
【0092】
かかる制御によって、電圧指令値V**が最大値Vc1以上の値を採る期間の最も広いパルスの前後においてそれぞれパルスの個数を一つ低減することができる。この理由は、図3の説明から理解できるので詳細な説明は省略する。したがって、スイッチング回数を低減することができる。
【0093】
また第1の実施の形態と同様に、キャリア生成部32は標準的にキャリアC2をスイッチング制御部33に出力し、電圧指令値V**が最大値Vc1以上の値を採る期間(例えば期間T14)の一つ前の期間であって、電圧指令値V**が最大値Vc1よりも小さく最小値Vc2よりも大きい値を採る期間(例えば期間T13)、若しくは電圧指令値V**が最小値Vc2以下の値から最大値Vc1よりも小さく最小値Vc2よりも大きい値に立ち上がって当該値を採る期間(例えば期間T11)において、キャリアC1をスイッチング制御部33に出力しても良い。
【0094】
図12の例示において、期間T13にてキャリアC1が採用されれば、期間T13,T14の境界の前後で相電圧Vは高電位を維持する。よってこの境界の前後ではスイッチングパターンが変らない。したがってスイッチング回数を低減できる。なお図12の例示では、電圧指令値V**が増大傾向にあって中間値を採用する期間(例えば期間T11,T12)においても、キャリア生成部32はキャリアC1をスイッチング制御部33に出力している。ただし、期間T13にてキャリアC1が採用されていれば、期間T11,T12のキャリアは任意の三角波であってよい。また、期間T11においてキャリアC1が採用されれば、期間T10,T11の境界の前後で相電圧Vは低電位を維持する。よってこの境界の前後ではスイッチングパターンが変らない。したがってスイッチング回数を低減できる。また期間T11においてキャリアC1が採用されれば、期間T12,T13で採用されるキャリアは任意の三角波であってよい。
【0095】
また第1の実施の形態と同様に、電圧指令値V**が最大値Vc1以上の値を採る期間においてはキャリアの形状に拠らずに相電圧Vが高電位を維持し、電圧指令値V**が最小値Vc2以下の値を採る期間においてはキャリアの形状に拠らずに相電圧Vは低電位を維持し続ける。よって、図13に例示するように、これらの期間においては各期間で増大して低減する例えば二等辺三角波のキャリアC3を採用しても良い。
【0096】
またキャリアCが電圧指令値V**以上であるときに上側のスイッチング素子を導通させてもよい。この場合であっても、上述した条件でキャリアC1,C2を採用すれば、スイッチング回数を低減することができる。
【符号の説明】
【0097】
1 インバータ
C,C1,C2 キャリア
P1,P2 入力端
Pu,Pv,Pw 出力端
S1〜S6 スイッチング素子
【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1入力端(P1)と、
前記第1入力端の電位よりも低い電位が印加される第2入力端(P2)と、
出力端(Pu,Pv,Pw)と、
前記第1入力端と前記出力端との間に接続される上側スイッチング素子(S1〜S3)と、前記第2入力端と前記出力端との間に接続される下側スイッチング素子(S4〜S6)とを含む電力変換装置(1)と、
前記電力変換装置が出力する出力電圧についての電圧指令値と、所定周期を有するキャリアとの比較に基づいて、前記上側スイッチング素子および前記下側スイッチング素子を制御するスイッチング制御部(33)と、
いずれも前記所定周期を有し、かつ、前記電圧指令値が前記キャリアの最小値以下の値である期間の一つ後の期間であって、前記キャリアの最小値より大きい第1所定値を採る第1期間(T11)、及び前記電圧指令値が前記最大値以上である期間の一つ前の期間であって、前記電圧指令値が前記最大値よりも小さい第2所定値を採る第2期間(T13)の少なくともいずれか一方において、単調に減少する前記キャリア(C1)を前記スイッチング制御部に与え、いずれも前記所定周期を有し、かつ、前記電圧指令値が前記最大値以上の値である期間の一つ後の期間であって、前記最大値よりも小さい第3所定値を採る第3期間(T16)、及び前記電圧指令値が前記最小値以下である期間の一つ前の期間であって、前記電圧指令値が前記最小値より大きい第4所定値を採る第4期間(T18)の少なくともいずれか一方において、単調に増加する前記キャリア(C2)を前記スイッチング制御部に与える、キャリア生成部(32)と
を備える、電力変換装置。
【請求項2】
前記電圧指令値は、前記第1期間の一つ後の期間において前記キャリアの前記最大値以上の値をとり、前記第3期間の一つ後の期間において前記キャリアの前記最小値以下の値をとる、請求項1に記載の電力変換装置。
【請求項3】
補正前電圧指令値(V*)に対して補正を行って前記電圧指令値(V**)を生成する電圧指令生成部(31)を更に備え、
前記電圧指令生成部は、前記所定周期を有する前記期間における前記補正前電圧指令値を、前記期間における前記キャリアの前記最大値と前記最小値との間の中間値に補正して、前記電圧指令値を生成する、請求項1又は2に記載の電力変換装置。
【請求項4】
前記電圧指令生成部(31)は、前記補正前電圧指令値(V*)を前記所定周期ごとにその平均値に補正して前記電圧指令値(V**)を生成する、請求項3に記載の電力変換装置。
【請求項1】
第1入力端(P1)と、
前記第1入力端の電位よりも低い電位が印加される第2入力端(P2)と、
出力端(Pu,Pv,Pw)と、
前記第1入力端と前記出力端との間に接続される上側スイッチング素子(S1〜S3)と、前記第2入力端と前記出力端との間に接続される下側スイッチング素子(S4〜S6)とを含む電力変換装置(1)と、
前記電力変換装置が出力する出力電圧についての電圧指令値と、所定周期を有するキャリアとの比較に基づいて、前記上側スイッチング素子および前記下側スイッチング素子を制御するスイッチング制御部(33)と、
いずれも前記所定周期を有し、かつ、前記電圧指令値が前記キャリアの最小値以下の値である期間の一つ後の期間であって、前記キャリアの最小値より大きい第1所定値を採る第1期間(T11)、及び前記電圧指令値が前記最大値以上である期間の一つ前の期間であって、前記電圧指令値が前記最大値よりも小さい第2所定値を採る第2期間(T13)の少なくともいずれか一方において、単調に減少する前記キャリア(C1)を前記スイッチング制御部に与え、いずれも前記所定周期を有し、かつ、前記電圧指令値が前記最大値以上の値である期間の一つ後の期間であって、前記最大値よりも小さい第3所定値を採る第3期間(T16)、及び前記電圧指令値が前記最小値以下である期間の一つ前の期間であって、前記電圧指令値が前記最小値より大きい第4所定値を採る第4期間(T18)の少なくともいずれか一方において、単調に増加する前記キャリア(C2)を前記スイッチング制御部に与える、キャリア生成部(32)と
を備える、電力変換装置。
【請求項2】
前記電圧指令値は、前記第1期間の一つ後の期間において前記キャリアの前記最大値以上の値をとり、前記第3期間の一つ後の期間において前記キャリアの前記最小値以下の値をとる、請求項1に記載の電力変換装置。
【請求項3】
補正前電圧指令値(V*)に対して補正を行って前記電圧指令値(V**)を生成する電圧指令生成部(31)を更に備え、
前記電圧指令生成部は、前記所定周期を有する前記期間における前記補正前電圧指令値を、前記期間における前記キャリアの前記最大値と前記最小値との間の中間値に補正して、前記電圧指令値を生成する、請求項1又は2に記載の電力変換装置。
【請求項4】
前記電圧指令生成部(31)は、前記補正前電圧指令値(V*)を前記所定周期ごとにその平均値に補正して前記電圧指令値(V**)を生成する、請求項3に記載の電力変換装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【公開番号】特開2012−110088(P2012−110088A)
【公開日】平成24年6月7日(2012.6.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−255687(P2010−255687)
【出願日】平成22年11月16日(2010.11.16)
【特許番号】特許第4911241号(P4911241)
【特許公報発行日】平成24年4月4日(2012.4.4)
【出願人】(000002853)ダイキン工業株式会社 (7,604)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成24年6月7日(2012.6.7)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年11月16日(2010.11.16)
【特許番号】特許第4911241号(P4911241)
【特許公報発行日】平成24年4月4日(2012.4.4)
【出願人】(000002853)ダイキン工業株式会社 (7,604)
【Fターム(参考)】
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