説明

電力変換装置

【課題】自己インダクタンスを有する接続ラインを用いてなる電力変換装置において、スイッチング素子をターンオンまたはオフしたときに、電流経路とスナバコンデンサとが共振することを抑制することができ、配置の自由度を向上させることができる電力変換装置を提供する。
【解決手段】一対の接続ライン20、30の少なくとも一方の接続ラインに、当該接続ラインよりも自己インダクタンスが低いと共に抵抗値が高い補助配線21〜23、31〜33を備える。そして、補助配線21〜23、31〜33を含んで構成される電流経路の自己インダクタンスを、一対の接続ライン20、30を含んで構成される電流経路の自己インダクタンスより小さくする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、一対の接続ラインの間にスイッチング素子を直列接続してなる直列接続体と、この直列接続体と並列接続されるスナバコンデンサとを備えてなる電力変換装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来より、一対の接続ラインの間に絶縁ゲートバイポーラトランジスタ(以下、単にIGBTという)等のスイッチング素子を直列接続してなる直列接続体を備え、電源と回転電機(モータ)等の負荷との間に配置されて直流電力を交流電力に変換する電力変換装置が知られている。
【0003】
このような電力変換装置では、近年、スイッチング過度時間を短くするために、スイッチングの高速化が進められている。しかしながら、接続ラインは、例えば、金属板をプレス加工等することにより形成されており、自己インダクタンスLを有している。このため、スイッチングの高速化に伴って、スイッチング素子をターンオンまたはオフしたときに生じるサージ電圧(ΔV=−L・di/dt)が大きくなり、スイッチング素子が破壊されてしまうことがある。
【0004】
したがって、最近では、上記電力変換装置において、直列接続体にサージ電圧を吸収するスナバコンデンサを備え、スイッチング素子がサージ電圧により破壊されることを抑制することが知られている。しかしながら、スナバコンデンサを備えた電力変換装置では、スナバコンデンサを配置することによりサージ電圧を吸収することができるものの、スイッチング素子をターンオンまたはオフしたときには、スナバコンデンサと電流経路(接続ライン)とが共振してスナバコンデンサの端子間の電圧が振動し、出力に歪みが生じるという新たな問題が発生する。
【0005】
この問題を解決するため、接続ラインに対して、誘導電流を発生させる板状の誘導導体を絶縁物を介して平行に、かつ近接させて配置した電力変換装置が開示されている(例えば、特許文献1参照)。
【0006】
このような電力変換装置では、接続ラインに交流成分が流れると、その電流によって接続ラインの周囲に磁界が発生する。そして、この磁界により、接続ラインに近接して配置された誘導導体に誘導起電力が発生し、誘導導体には接続ラインに流れる電流とは逆方向に誘導電流が流れることになる。このため、誘導導体の周囲には、誘導電流により接続ラインの周囲に形成される磁界と反対方向の磁界が形成されることになり、接続ラインの周囲に形成される磁界を弱めることができる。すなわち、接続ラインと誘導導体との間に生じる相互インダクタンスにより、交流成分が流れる電流経路全体の自己インダクタンスを低減することができ、これにより、スナバコンデンサと電流経路(接続ライン)とが共振することを抑制することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平09−135565号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、このような電力変換装置では、自己インダクタンスを低減するために、接続ラインに対して誘導導体を平行に、かつ近接させ、絶縁物を介して配置しなければならないため、配置が制限されるという問題がある。
【0009】
本発明は上記点に鑑みて、自己インダクタンスを有する接続ラインを用いてなる電力変換装置において、スイッチング素子をターンオンまたはオフしたときに、電流経路とスナバコンデンサとが共振することを抑制することができ、配置の自由度を向上させることができる電力変換装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的を達成するため、請求項1に記載の発明では、電流が流れる一対の接続ライン(20、30)を備え、一対の接続ライン(20、30)の間に、スイッチング素子(51、52、61、62、71、72)を直列接続してなる直列接続体と、直列接続体に備えられたスナバコンデンサ(80)とを有する電力変換装置において、一対の接続ライン(20、30)の少なくとも一方の接続ラインには、当該接続ラインよりも自己インダクタンスが低いと共に抵抗値が高い補助配線(21〜23、31〜33)が備えられ、補助配線(21〜23、31〜33)を含んで構成される電流経路の自己インダクタンスは、一対の接続ライン(20、30)を含んで構成される電流経路の自己インダクタンスより小さくされていることを特徴とする。
【0011】
このような電力変換装置では、一対の接続ライン(20、30)の少なくとも一方の接続ラインに、この接続ラインよりも自己インダクタンスが低いと共に抵抗値が高い補助配線(21〜23、31〜33)が備えられている。そして、補助配線(21〜23、31〜33)を含んで構成される電流経路の自己インダクタンスは、一対の接続ライン(20、30)を含んで構成される電流経路の自己インダクタンスより小さくされている。このため、交流成分は補助配線(21〜23、31〜33)を含んで構成される電流経路を流れることになる。すなわち、スイッチング素子(51、52、61、62、71、72)をターンオンまたはオフしたときのサージ電流は、補助配線(21〜23、31〜33)を含んで構成される電流経路を流れることになり、補助配線(21〜23、31〜33)を備えていない電力変換装置と比較して、電流経路とスナバコンデンサ(80)とが共振することを抑制することができる。
【0012】
また、接続ライン(20、30)には補助配線(21〜23、31〜33)が備えられるため、板状の誘導導体を備える従来の電力変換装置と比較して、補助配線(21〜23、31〜33)と接続ラインとの間に絶縁物を備える必要はない。そして、補助配線(21〜23、31〜33)を含んで構成される電流経路の自己インダクタンスが一対の接続ライン(20、30)を含んで構成される電流経路の自己インダクタンスより小さくされていればよいため、補助配線(21〜23、31〜33)を接続ラインに平行に配置しなくてもよいし、補助配線(21〜23、31〜33)を接続ラインに近接させて配置しなくてもよい。したがって、板状の誘導導体を備える従来の電力変換装置と比較して、配置の自由度を向上させることができる。
【0013】
例えば、請求項2に記載の発明のように、補助配線(21〜23、31〜33)を含んで構成される電流経路で囲まれる面積を一対の接続ライン(20、30)を含んで構成される電流経路で囲まれる面積より小さくすることができる。
【0014】
また、請求項3に記載の発明のように、一対の接続ライン(20、30)に、それぞれ補助配線(21〜23、31〜33)を備えることができる。
【0015】
さらに、請求項4に記載の発明のように、補助配線(21〜23、31〜33)の剛性を接続ライン(20、30)の剛性よりも低くすることができる。
【0016】
また、請求項5に記載の発明のように、補助配線(21〜23、31〜33)を中空部を有する筒状の磁気コア(130)の中空部を通過して備えることができる。
【0017】
そして、請求項6に記載の発明のように、一対の接続ライン(20、30)のうち一方の接続ラインを、芯線(20a)と、当該芯線(20a)を覆う絶縁体と、絶縁体の周囲に配置された補助配線(21〜23、31〜33)を備えた編組線を用いて構成し、補助配線(21〜23、31〜33)を、他方の接続ラインと電気的に接続することができる。
【0018】
また、請求項7に記載の発明のように、補助配線(21〜23、31〜33)にダンピング抵抗を備えることができる。このような電力変換装置では、ダンピング抵抗の抵抗値を適宜変更することにより、電流経路とスナバコンデンサ(80)とが共振したときのスナバコンデンサ(80)の端子間の電圧のピーク値や減衰性を容易に調整することができる。
【0019】
なお、この欄および特許請求の範囲で記載した各手段の括弧内の符号は、後述する実施形態に記載の具体的手段との対応関係を示すものである。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本発明の第1実施形態における電力変換装置を用いて3相交流モータを制御する制御装置を構成したときの回路構成を示す図である。
【図2】図1に示す制御装置における平滑コンデンサとU相アームに備えられたスナバコンデンサとの間の回路構成を示す模式図である
【図3】図1に示す電力変換装置の部分的な平面模式図である。
【図4】(a)は補助配線を備えていない回路構成を示す図、(b)はスナバコンデンサの端子間の電圧を示す図である。
【図5】(a)は補助配線を備えた回路構成を示す図、(b)はスナバコンデンサの端子間の電圧を示す図である。
【図6】(a)はダンピング抵抗の抵抗値を臨界制動値としたときのスナバコンデンサの端子間の電圧を示す図であり、(b)はダンピング抵抗の抵抗値を臨界制動値の約半分としたときのスナバコンデンサの端子間の電圧を示す図である。
【図7】本発明の第2実施形態における電力変換装置の部分的な平面模式図である。
【図8】図7の回路構成を示す図である。
【図9】本発明の第3実施形態における電力変換装置の部分的な平面模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
(第1実施形態)
本発明の第1実施形態について説明する。図1は、本実施形態における電力変換装置を用いて3相交流モータを制御する制御装置を構成したときの回路構成を示す図である。
【0022】
図1に示されるように、本実施形態の電力変換装置は、本発明の一対の接続ラインに相当する、電源10の正極と接続される高電位側の電源ライン20と電源10の負極と接続される低電位側の接地ライン30とを有している。電源ライン20および接地ライン30は、本実施形態では、金属板をプレス加工等することにより形成されており、例えば、インダクタンスが500nH、抵抗値が1mΩである。そして、この電源ライン20と接地ライン30との間には、平滑コンデンサ40、U相アーム50、V相アーム60、W相アーム70が並列に備えられている。
【0023】
平滑コンデンサ40は、電源10から供給される主電流を平滑するものであり、電源10とU相アーム50との間に備えられている。平滑コンデンサ40としては、例えば、550μFのものが用いられる。
【0024】
U相アーム50、V相アーム60、W相アーム70それぞれは、電源ライン20と接続される高電位側のスイッチング素子51、61、71および接地ライン30と接続される低電位側のスイッチング素子52、62、72の二つのスイッチング素子51、52、61、62、71、72が直列接続されてなる直列接続体を有する構成とされている。そして、各スイッチング素子51、52、61、62、71、72には、ダイオード53、54、63、64、73、74が逆並列接続されて備えられている。
【0025】
また、U相アーム50、V相アーム60、W相アーム70それぞれには、スナバコンデンサ80が備えられている。スナバコンデンサ80は、スイッチング素子51、52、61、62、71、72をターンオンまたはオフしたときに生じるサージ電圧を吸収するものであり、例えば、1μFのものが用いられる。
【0026】
スイッチング素子51、52、61、62、71、72は、特に限定されるものではないが、例えば、IGBTが用いられる。そして、各スイッチング素子51、52、61、62、71、72のゲートは、図示しない制御回路に接続されており、制御回路からの制御信号により各スイッチング素子51、52、61、62、71、72のターンオンまたはオフの切換えが行われるようになっている。
【0027】
また、U相アーム50、V相アーム60、およびW相アーム70には、それぞれ2つのスイッチング素子51、52、61、62、71、72の間に、回転電機(モータ)等の負荷90と接続される接続配線55、65、75が接続されている。
【0028】
さらに、電源ライン20には、平滑コンデンサ40の接続点とU相アーム50の接続点との間、平滑コンデンサ40の接続点とV相アーム60の接続点との間、平滑コンデンサ40の接続点とW相アーム70の接続点との間に、電源ライン20よりも自己インダクタンスが低く、かつ抵抗値が高い補助配線21〜23がそれぞれ備えられている。同様に、接地ライン30には、平滑コンデンサ40の接続点とU相アーム50の接続点との間、平滑コンデンサ40の接続点とV相アーム60の接続点との間、平滑コンデンサ40の接続点とW相アーム70の接続点との間に、接地ライン30よりも自己インダクタンスが低く、かつ抵抗値が高い補助配線31〜33がそれぞれ備えられている。各補助配線21〜23、31〜33は、例えば、ビニール線やワイヤ等の金属に対して柔軟な素材で作られた一般的なもの、つまり接続ライン20、30より剛性が低いものが用いられ、自己インダクタンスが100nH、抵抗値が10mΩのものが用いられる。
【0029】
図2は、図1に示す制御装置における平滑コンデンサ40とU相アーム50に備えられたスナバコンデンサ80との間の回路構成を示す模式図である。なお、図2では、補助配線22、23、32、33を省略して示してある。
【0030】
図2に示されるように、電源ライン20および接地ライン30には、電源ライン20よりも自己インダクタンスが低く、かつ抵抗値が高い補助配線21、31が備えられている。このため、直流成分は主として電源ライン20および接地ライン30を有する電流経路(図2中Aの経路)を流れ、交流成分は主として補助配線21、31を有する電流経路(図2中Bの経路)を流れる。また、交流成分は、補助配線21と補助配線31とにおいて、反対方向に流れる。
【0031】
本実施形態では、補助配線21〜23、31〜33は次のように電源ライン20および接地ライン30に備えられている。図3は、図1に示す電力変換装置の部分的な平面模式図であり、図1中の二点鎖線部分に相当している。なお、図3中では、補助配線22、23、32、33は省略して示してある。
【0032】
図3に示されるように、電力変換装置は、電源ライン20および接地ライン30が平行に配置されており、電源ライン20および接地ライン30はそれぞれ平滑コンデンサ40を含む半導体モジュール100と、スイッチング素子51、52が直列接続された直列接続体、ダイオード53、54、スナバコンデンサ80を含む半導体モジュール110にネジ120により固定されている。
【0033】
電源ライン20に備えられる補助配線21は、電源ライン20の平面方向であって、接地ライン30側に突出して備えられており、接地ライン30に備えられる補助配線31は、接地ライン30の平面方向であって、電源ライン20側に突出して備えられている。そして、補助配線21のうち接地ライン30側に突出している部分と補助配線30のうち電源ライン20側に突出している部分とは、平行とされている。
【0034】
つまり、電流経路全体の自己インダクタンスは、単純には、電流経路によって囲まれる面積に比例するため、電源ライン20および接地ライン30を有して構成される電流経路によって囲まれる面積より補助配線21、31を有して構成される電流経路によって囲まれる面積が小さくなるようにしている。すなわち、補助配線21、31を含んで構成される電流経路は、電源ライン20および接地ライン30を含んで構成される電流経路で囲まれる面積と同じである場合であっても、補助配線21、31の自己インダクタンスは電源ライン20および接地ライン30より小さくされているため、電流経路全体の自己インダクタンスが小さくなる。しかしながら、本実施形態では、上記のように、補助配線21、31を含んで構成される電流経路で囲まれる面積を小さくすることにより、さらに電流経路全体の自己インダクタンスが小さくなるようにしている。
【0035】
言い換えると、補助配線21、31を近接して配置することにより電流経路全体の自己インダクタンスが小さくなるようにしている。例えば、図2中Bの電流経路の自己インダクタンスLは、補助配線21の自己インダクタンスをL1、補助配線31の自己インダクタンスをL2、補助配線21、31の相互インダクタンスをMとすると、補助配線21、31には互いに反対方向の交流成分が流れるため、L=L1+L2−Mで示される。このため、補助配線21、31を近接して配置することにより、補助配線21、31を電磁結合させて相互インダクタンスが大きくなるようにし、電流経路全体の自己インダクタンスが小さくなるようにしている。
【0036】
なお、上記では、補助配線21、31のうち突出している部分が平行とされているものについて説明したが、例えば、補助配線21と補助配線31とがねじり合わされていてもよい。また、補助配線21と補助配線31とは、例えば、ビニール平行線を用いて構成されていてもよい。さらに、上記では、平滑コンデンサ40とU相アーム50に備えられたスナバコンデンサ80との間の部分について説明したが、他の部分も同様の構成とされている。すなわち、補助配線22、23は、電源ライン20の平面方向であって、接地ライン30側に突出して備えられ、補助配線32、33は、接地ライン30の平面方向であって、電源ライン20側に突出して備えられている。
【0037】
以上説明したように、本実施形態の電力変換装置では、電源ライン20および接地ライン30にそれぞれ、電源ライン20よりも自己インダクタンスが低く、かつ抵抗値が高い補助配線21〜23、31〜33が備えられている。そして、補助配線21、31を含んで構成される電流経路(例えば、図2中Bの電流経路)の自己インダクタンスは、電源ライン20および接地ライン30を含んで構成される電流経路(例えば、図2中Aの電流経路)の自己インダクタンスより小さくされている。このため、交流成分は補助配線21〜23、31〜33を含んで構成される電流経路を流れることになる。すなわち、スイッチング素子51、52、61、62、71、72をターンオンまたはオフしたときのサージ電流は、補助配線21〜23、31〜33を含んで構成される電流経路を流れることになり、補助配線21〜23、31〜33を備えていない電力変換装置と比較して、電流経路とスナバコンデンサ80とが共振することを抑制することができる。
【0038】
図4、図5は、下アーム駆動ハーフブリッジ回路を用いてスナバコンデンサ80の端子間の電圧をシミュレーションにより調べた結果であり、図4(a)は補助配線を備えていない回路構成を示す図、図4(b)はスナバコンデンサ80の端子間の電圧を示す図である。また、図5(a)は補助配線を備えた回路構成を示す図であり、図5(b)はスナバコンデンサ80の端子間の電圧を示す図である。なお、図4、図5では、電源10の電圧を150Vとし、電流を40Aとしたときのシミュレーション結果である。また、図4、図5では、電源ライン20および接地ライン30のインダクタンスを500nH、抵抗値を1mΩとし、平滑コンデンサ40の容量を550μF、スナバコンデンサ80の容量を1μFとしている。そして、図5では、補助配線21、31のインダクタンスを100nH、抵抗値を10mΩとしている。また、図4では、電源ライン20と接地ライン30との相互インダクタンスを10nHとし、図5では、補助配線21、31の相互インダクタンスを100nHとしている。
【0039】
図4(b)に示されるように、補助配線を備えていない場合には、時点T1においてスイッチング素子52をターンオフすると、スナバコンデンサ80と電流経路とが共振してスナバコンデンサ80の端子間の電圧が振動し、50μs後でも振動が収束しないことが確認される。これに対し、図5(b)に示されるように、補助配線21、31を備えている場合には、時点T1においてスイッチング素子52をターンオフすると、スナバコンデンサ80と電流経路とが共振してスナバコンデンサ80の端子間の電圧が振動するものの、補助配線21、31を備えていない場合と比較して、電圧のピーク値を低減することができると共に、約20μs後には振動をほぼ収束できることが確認される。
【0040】
すなわち、本実施形態の電力変換装置では、補助配線21、31を備えていることにより、電流経路とスナバコンデンサ80とが共振することを抑制することができる。なお、スナバコンデンサ80はスイッチング素子51、52の近傍に配置されるものであり、平滑コンデンサ40の容量より十分に小さいため、上記電力変換装置においては、スナバコンデンサ80と電流経路との間が共振することになる。また、上記では、スイッチング素子52をターンオフしたときのスナバコンデンサ80の端子間の電圧について説明したが、スイッチング素子52をターンオンしたときのスナバコンデンサ80の端子間の電圧の挙動についても同様の結果となる。
【0041】
また、このような電力変換装置においては、補助配線21〜23、31〜33にダンピング抵抗を備えて抵抗値を調整してもよい。ダンピング抵抗の抵抗値は、特に、限定されるものではないが、補助配線21〜23、31〜33を含んで構成される電流経路の臨界制動値に基づいて適宜選択されることが好ましい。
【0042】
図6は、図5(a)に示す回路にダンピング抵抗を挿入したときのスナバコンデンサ80の端子間の電圧を示す図であり、(a)は、ダンピング抵抗の抵抗値を臨界制動値としたときのスナバコンデンサ80の端子間の電圧を示す図、(b)は、ダンピング抵抗の抵抗値を臨界制動値の約半分としたときのスナバコンデンサ80の端子間の電圧を示す図である。
【0043】
図6に示されるように、時点T1でターンオフすると、ダンピング抵抗を挿入することにより、ダンピング抵抗を挿入していないスナバコンデンサ80の端子間の電圧と比較して、減衰性を高くすることができることが確認できる。しかしながら、図6(a)に示されるように、ダンピング抵抗の抵抗値を臨界制動値とした場合には、図5(b)と比較して、電圧の振動の減衰性を高くすることができるものの、電圧のピーク値が高くなる。これに対し、図6(b)に示されるように、ダンピング抵抗の抵抗値を臨界制動値の約半分とした場合には、図5(b)と比較して、電圧の振動の減衰性を高くしつつ、電圧のピーク値を小さくすることができる。このため、ダンピング抵抗を挿入する場合には、ダンピング抵抗の抵抗値を臨界制動値の約半分とすることが好ましい。
【0044】
また、上記電力変換装置では、電源ライン20および接地ライン30には、ビニール線やワイヤ等の補助配線21〜23、31〜33を備えればよく、補助配線21〜23、31〜33と電源ライン20および接地ライン30との間に絶縁物を備える必要はない。そして、補助配線21〜23、31〜33を含んで構成される電流経路の自己インダクタンスが電源ライン20および接地ライン30を含んで構成される電流経路の自己インダクタンスより小さくされていればよいため、補助配線21〜23、31〜33を電源ライン20および接地ライン30に平行に配置しなくてもよいし、補助配線21〜23、31〜33を電源ライン20および接地ライン30に近接させて配置しなくてもよい。このため、板状の誘導導体を備える従来の電力変換装置と比較して、配置の自由度を向上させることができる。
【0045】
また、誘導導体に誘導電流を流して電流経路の自己インダクタンスを低減する従来の電力変換装置と比較して、補助配線21〜23、31〜33にダンピング抵抗を備えることにより、電圧のピーク値や減衰性の調整を容易に行うことができる。
【0046】
そして、本実施形態では、補助配線21、31、補助配線22、32、補助配線23、33を近接して配置することにより、相互インダクタンスが大きくなるようにしているため、さらに、電流経路全体の自己インダクタンスを低減させることができる。
【0047】
(第2実施形態)
本発明の第2実施形態について説明する。本実施形態の電力変換装置は、上記第1実施形態に対して、電源ライン20を編組線で構成したものであり、その他に関しては上記第1実施形態と同様であるためここでは説明を省略する。図7は、本実施形態における電力変換装置の部分的な平面模式図であり、図1中の二点鎖線部分に相当している。なお、図7中では、補助配線22、23は省略して示してある。
【0048】
図7に示されるように、本実施形態の電源ライン20は編組線を用いて構成されている。編組線は、AlやCu等で構成される芯線を樹脂等の絶縁体で覆うと共に絶縁体の周囲に補助配線21を編み込んで備え、さらに、この補助配線21を覆う樹脂等の絶縁体を配置したものである。そして、補助配線21は、半導体モジュール100、110と接続される部分の近傍からそれぞれ引き伸ばされて接地ライン30と電気的に接続されている。このため、編組線の芯線20aと接地ライン30を含んで構成される電流経路によって囲まれる面積より芯線20aと補助配線21を含んで構成される電流経路によって囲まれる面積を小さくすることができる。
【0049】
図8は、図7の回路構成を示す模式図である。なお、図8中では、補助配線22、23は省略して示してある。図8に示されるように、交流成分は図8中Cの電流経路を流れ、電源ライン20側では芯線20aを流れると共に接地ライン30側では補助配線21を流れる。なお、補助配線22、23についても同様であり、接地ライン30側では交流成分が補助配線22、23を流れる。
【0050】
このような電力変換装置では、電源ライン20を編組線を用いて構成し、芯線20aの周囲に配置されている補助配線21〜23を利用して交流成分が流れる電流経路を構成している。このため、上記第1実施形態と比較して、逆方向に交流成分が流れる電流経路、つまり芯線20aと補助配線21〜23とをさらに近接させることができ、相互インダクタンスを大きくすることができるので、電流経路全体の自己インダクタンスをさらに低減することができる。
【0051】
(第3実施形態)
本発明の第3実施形態について説明する。本実施形態の電力変換装置は、上記第1実施形態に対して、補助配線21〜23、31〜33を通過させる中空部を有する磁気コアを備えたものであり、その他に関しては上記第1実施形態と同様であるためここでは説明を省略する。図9は、本実施形態における電力変換装置の部分的な平面模式図であり、図1中の二点鎖線部分に相当している。なお、図9中では、補助配線22、23、32、33を省略して示してある。
【0052】
図9に示されるように、本実施形態の電力変換装置は、中空部を有する筒状の磁気コア130を備えており、補助配線21が磁気コア130の中空部を通過して備えられている。特に限定されるものではないが、磁気コア130は、例えば、フェライト等を用いて構成されている。
【0053】
このような電力変換装置では、磁気コア130を備えており、磁気コア130の周囲には磁界が形成される。そして、補助配線21、31は、磁気コア130の中空部を通過して備えられている。このため、磁気コア130を備えていない場合と比較して、補助配線21、31に交流成分が流れたとき、補助配線21、31の周囲の磁束の変化を小さくすることができ、自己インダクタンスを小さくすることができる。このため、さらに、補助配線21、31とスナバコンデンサ80とが共振することを抑制することができる。
【0054】
(他の実施形態)
上記第1実施形態では、電源ライン20および接地ライン30に補助配線21〜23、31〜33が備えられている例について説明したが、例えば、電源ライン20にのみ補助配線21〜23が備えられていても良いし、接地ライン30にのみ補助配線31〜33が備えられていてもよい。
【0055】
また、上記第1、第3実施形態では、電源ライン20には、平滑コンデンサ40の接続点とU相アーム50の接続点との間、平滑コンデンサ40の接続点とV相アーム60の接続点との間、平滑コンデンサ40の接続点とW相アーム70の接続点との間に、補助配線21〜23が備えられており、接地ライン30には、平滑コンデンサ40の接続点とU相アーム50の接続点との間、平滑コンデンサ40の接続点とV相アーム60の接続点との間、平滑コンデンサ40の接続点とW相アーム70の接続点との間に、補助配線31〜33が備えられている例について説明したが、例えば、次のようにすることもできる。すなわち、電源ライン20のうち、平滑コンデンサ40の接続点とU相アーム50の接続点との間、U相アーム50の接続点とV相アーム60の接続点との間、V相アーム60の接続点とW相アーム70の接続点との間にそれぞれ補助配線21〜23を備えることができる。同様に、接地ライン30のうち、平滑コンデンサ40の接続点とU相アーム50の接続点との間、U相アーム50の接続点とV相アーム60の接続点との間、V相アーム60の接続点とW相アーム70の接続点との間にそれぞれ補助配線31〜33を備えることができる。
【0056】
そして上記第2実施形態においても、電源ライン20のうち、平滑コンデンサ40の接続点とU相アーム50の接続点との間、U相アーム50の接続点とV相アーム60の接続点との間、V相アーム60の接続点とW相アーム70の接続点との間にそれぞれ補助配線21〜23を備えることができる。
【0057】
また、上記各実施形態では、3相交流モータを制御する制御装置に本発明の電力変換装置を適用した例について説明したが、例えば、単層交流モータを制御する制御装置に適用することも可能である。
【符号の説明】
【0058】
10 電源
20 電源ライン
21〜23 補助配線
30 接地ライン
31〜33 補助配線
40 平滑コンデンサ
50 U相アーム
60 V相アーム
70 W相アーム
80 スナバコンデンサ
90 負荷

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電流が流れる一対の接続ライン(20、30)を備え、前記一対の接続ライン(20、30)の間に、スイッチング素子(51、52、61、62、71、72)を直列接続してなる直列接続体と、前記直列接続体に備えられたスナバコンデンサ(80)とを有する電力変換装置において、
前記一対の接続ライン(20、30)の少なくとも一方の接続ラインには、当該接続ラインよりも自己インダクタンスが低いと共に抵抗値が高い補助配線(21〜23、31〜33)が備えられ、
前記補助配線(21〜23、31〜33)を含んで構成される電流経路の自己インダクタンスは、前記一対の接続ライン(20、30)を含んで構成される電流経路の自己インダクタンスより小さくされていることを特徴とする電力変換装置。
【請求項2】
前記補助配線(21〜23、31〜33)を含んで構成される電流経路で囲まれる面積は、前記一対の接続ライン(20、30)を含んで構成される電流経路で囲まれる面積より小さくされていることを特徴とする請求項1に記載の電力変換装置。
【請求項3】
前記一対の接続ライン(20、30)には、それぞれ前記補助配線(21〜23、31〜33)が備えられていることを特徴とする請求項1または2に記載の電力変換装置。
【請求項4】
前記補助配線(21〜23、31〜33)の剛性は、前記接続ライン(20、30)の剛性よりも低くされていることを特徴とする請求項1ないし3のいずれか1つに記載の電力変換装置。
【請求項5】
前記補助配線(21〜23、31〜33)は、中空部を有する筒状の磁気コア(130)の前記中空部を通過して備えられていることを特徴とする請求項1ないし4のいずれか1つに記載の電力変換装置。
【請求項6】
前記一対の接続ライン(20、30)のうち一方の接続ラインは、芯線(20a)と、当該芯線(20a)を覆う絶縁体と、絶縁体の周囲に配置された前記補助配線(21〜23、31〜33)を備えた編組線を用いて構成され、
前記補助配線(21〜23、31〜33)は、引き伸ばされて他方の接続ラインと電気的に接続されていることを特徴とする請求項1に記載の電力変換装置。
【請求項7】
前記補助配線(21〜23、31〜33)には、ダンピング抵抗が備えられていることを特徴とする請求項1ないし6のいずれか1つに記載の電力変換装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2012−70485(P2012−70485A)
【公開日】平成24年4月5日(2012.4.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−211014(P2010−211014)
【出願日】平成22年9月21日(2010.9.21)
【出願人】(000004260)株式会社デンソー (27,639)
【Fターム(参考)】