説明

電力最適化されたフラックスゲートセンサ制御

本発明は、磁気的に柔らかいコアの周りに配置され、励起信号発生器に接続された励起コイルと、磁気的に柔らかいコアの周りに配置され、評価ユニットに接続された検出コイルとを有する、磁界を測定する測定装置に関する。前記励起信号発生器は、磁界を発生させるための励起信号を発生させ、前記励起コイルへ出力するように構成されており、前記評価ユニットは前記検出コイルから出力された測定信号を評価するように構成されている。本発明によれば、前記励起信号発生器は、一定の励起信号を発生させる直流信号発生器と、交流励起信号を発生させるための交流信号発生器とを含んでいる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
先行技術
フラックスゲートセンサを用いた磁界測定の原理は実際に多方面で利用されている。この測定原理は、磁気的に柔らかいコアを励起コイルによって交互に磁化反転させ、発生した時間依存する磁束を検出コイルで検出することに基づいている。磁束の変化は測定すべき外部磁界に依存して磁気的に柔らかいコアの磁化曲線から決まる。
【0002】
磁化反転が速ければ速いほど、検出コイルによって発生する電圧も高くなるので、検出コイルによって発生する電圧は、透磁率の高いコアを選択することにより磁化ヒステリシスを急峻にすることによっても高くすることができるし、励起コイルの周波数を上げることによっても高くすることができる。
【0003】
ある公知の測定方法は検出コイルの電圧の振れに基づいて磁化反転の時点を測定する。この時点は外部磁界に依存しているため、測定すべき磁界の強度の尺度となる。
【0004】
フラックスゲートセンサの測定範囲は励起コイルの励起電圧に依存する。励起電圧が高ければ高いほど、磁化反転の移動の余地が大きくなる、つまり、より大きな外部磁界を測定することができる。励起電圧と外部磁界の測定可能な量との間の関係はほぼ線形である。実用上は、関心のある磁界に干渉磁界が重畳していてもよい。これらの干渉磁界が一定でその大きさが既知ならば、これら干渉磁界を測定のために補償することができる。しかし問題なのは、測定すべき磁界よりも干渉磁界の方が遥かに大きい場合がありうることである。この場合には、干渉磁界と測定すべき磁界とを合わせて測定することができるように測定範囲を拡張しなければならない。これは励起電圧を相応して上げなければならないことを意味する。その結果、測定装置の電力消費も大きくなる。
【0005】
したがって本発明の課題は、強い干渉磁界の下での磁界測定のためにフラックスゲートセンサ装置の電力消費を低減することである。
【0006】
発明の概要
本発明は、測定範囲を拡張するのではなく測定範囲を移動させるように、作用する外部磁界に相応して励起電圧を適合させるべきとの洞察から成っている。測定範囲が移動することで、励起電圧の振幅は小さくなる。このようにして、同じ測定条件の下でも電力消費が最小化される。それゆえ、本発明の第1の態様では、磁気的に柔らかいコアの周りに配置され励起信号発生器に接続された励起コイルと、磁気的に柔らかいコアの周りに配置され評価ユニットに接続された検出コイルとによって磁界を測定する測定装置が提案される。この測定装置において、励起信号発生器は磁界を発生させるための励起信号を発生させ、励起コイルへ出力するように構成されており、評価ユニットは検出コイルが出力した測定信号を評価するように構成されている。本発明によれば、励起信号発生器は、一定の励起信号を発生させる直流信号発生器と、交流励起信号を発生させる交流信号発生器とを含んでおり、直流信号発生器と交流信号発生器は、一定の励起信号と交流励起信号とが重畳するように互いに接続されている。
【0007】
一定の励起信号は測定中に既知の一定の干渉磁界を補償し、その一方で交流励起信号は、測定すべき磁界の大きさが許す限り、低減させることができる。その結果、励起信号の生成に起因する測定装置の電力消費は、励起信号の振幅を増大させる周知の場合に比べて明らかに低下する。
【0008】
好ましくは、直流信号発生器は選択可能な値を有する一定の励起信号を発生させるように構成されている。代替的または付加的に、交流信号発生器は選択可能な振幅で交流励起信号を発生させるように構成されていてよい。これらの回路措置の利点は、励起信号のその時の成分をその時の磁界測定の状況に合わせることができる点にある。
【0009】
特に好ましくは、交流信号発生器は、直流信号発生器によって生成される一定の励起信号の振幅よりも大きな選択可能な振幅で交流励起信号を発生させるように構成されている。こうすることで、一定の励起信号と交流励起信号との重畳から発生する励起信号によって測定原理の基礎である磁化反転がつねに実現されることが保証される。これは例えば、交流信号発生器と直流信号発生器とを互いに接続し、交流信号発生器が一定の励起信号の選択された値の絶対値を、さらに任意選択的にはオフセット値の絶対値も、選択された振幅に加算することによって実現することができる。外部磁界に応じて、符号変化のない励起信号も使用してよい。
【0010】
交流信号発生器と直流信号発生器は例えば直列接続された電圧源または並列接続された電流源として実現することができる。
【0011】
本発明の第2の態様では、磁界を測定する方法が提案される。この測定方法は以下のステップを含む。
励起信号を発生させ、この励起信号を磁気的に柔らかいコアの周りに配置された励起コイルへと出力するステップ;
励起コイルにより励起信号を磁界に変換し、磁気的に柔らかいコアの周りに配置された検出コイルにより磁界を測定信号に変換し、この測定信号を評価ユニットへと出力するステップ。
【0012】
本発明によれば、励起信号を発生させるステップにおいて、一定の励起信号と交流励起信号とが重畳されて前記励起信号が形成される。
【0013】
有利には、一定の励起信号の値および/または交流励起信号の振幅は予め設定可能である。
【0014】
特に有利には、交流励起信号の振幅は一定の励起信号の値よりも大きい。外部磁界に応じて、符号変化のない励起信号も使用してよい。
【0015】
以下に、本発明を図面に基づいてより詳しく説明する。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】フラックスゲートセンサの構造を示す。
【図2】励起信号と測定信号の信号波形を3つのサブ図で示す。
【図3】本発明に従い、既知の一定の干渉磁界を補償すると同時に測定装置の電力消費を最適化する一例を2つのサブ図で示す。
【0017】
実施例
図1にはフラックスゲートセンサの構造が示されている。励起信号発生器11は磁気的に柔らかいコア30の周りに配置された励起コイル21の両端に接続されている(実線)。同様に、磁気的に柔らかいコア30の周りには検出コイル22が配置されており(破線)、検出コイル22の両端は評価ユニット12に接続されている。励起コイル21と検出コイル22は互いに電気的に絶縁されており、さらには磁気的に柔らかいコア30からも電気的に絶縁されている。
【0018】
図2では、励起信号と測定信号の信号波形が3つのサブ図に示されている。サブ図a)には、無磁界の場合の励起信号(下側の時間軸)と測定信号(上側の時間軸)の信号波形が示されている。検出コイル22から出力された測定信号は、励起信号の符合の変化または零交差が生じる時点において、電圧の短い振れを示している。この電圧の振れの符号は励起信号の符合の変化の方向に依存している。
【0019】
サブ図b)には、測定の間一定に留まる外部磁界が磁気的に柔らかいコア30を貫いている場合の相応する信号波形が示されている。外部磁界と励起信号により発生させられた磁界とが磁気的に柔らかいコア30の中で重畳することにより、測定信号の電圧の短い振れの時点は零交差の時点とは逆方向へ移動する。なお、この移動方向は電圧の短い振れの符号または励起信号の符合の変化の方向に依存する。それゆえ、それぞれの対の電圧パルスが互いに近づく。電圧の短い振れの時間的な移動は外部磁界の強度の尺度である。
【0020】
電圧パルスの対が時間的に重なるくらいに外部磁界が強くなると、磁気的に柔らかいコア30の磁化反転は起こらなくなるので、前記の測定原理は機能しなくなる。先行技術においては、この場合、励起信号の振幅を相応して増大させなければならない。しかし、これは電力消費を大きく増大させてしまう。
【0021】
第3のサブ図c)には、外部磁界が存在している別のケースが示されている。しかし、サブ図b)のケースとは異なり、符号が逆である。ここでもまた、測定信号の電圧の短い振れの時点は励起信号の零交差とは逆方向へ移動する。しかし、外部磁界の符号が逆なため、移動方向も逆である。
【0022】
図3には、本発明に従い、既知の一定の干渉磁界を補償すると同時に測定装置の電力消費を最適化する一例が2つのサブ図で示されている。サブ図a)には、図2のサブ図c)の信号波形に相当する信号波形が示されている。強い外部磁界の測定を行うことができるためには、励起信号の振幅が相応して大きくなければならない。強い既知の干渉磁界と重畳した小さな磁界を測定する場合、先行技術では、小さな磁界と強い既知の干渉磁界を合わせて測定することができるように、励起信号の振幅が非常に大きく選択される。
【0023】
サブ図b)には、小さな磁界の測定に必要な範囲を超えて励起信号の振幅を増大させることなく、本発明によってどのようにして強い既知の干渉磁界が補償されるのかが示されている。サブ図b)の下側の時間軸上に示されている励起信号は、磁気的に柔らかいコア30の中の強い既知の干渉磁界を補償する程度の大きさに選定された直流成分V0を有している。直流成分V0はサブ図b)では水平破線として図示されている。図示のケースでは、測定すべき小さな磁界は0に等しい。それゆえ、測定信号の電圧の短い振れの時点は、励起信号の交流成分が直流成分V0と交差する時点と重なる(垂直破線を参照せよ)。干渉磁界が存在しない測定環境とは異なり、本発明の測定原理を使用した場合、励起信号の振幅は変化しない。ただ、直流成分V0を発生させるために、測定装置の電力消費がある程度上昇するだけである。しかし、全体としては必要な電力は大幅に少なくなる。さらに、励起信号の急峻性(ΔV/Δt)は変えずに、単位時間当たりの測定の回数または励起信号の(交流成分の)周波数を上げることができる。このことは、とりわけ、複数の測定を平均することによる測定結果の改善、または急速に変化する磁界の測定に利用することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
磁界を測定する測定装置であって、
磁気的に柔らかいコア(30)の周りに配置され、励起信号発生器(11)に接続された励起コイル(21)と、
磁気的に柔らかいコア(30)の周りに配置され、評価ユニット(12)に接続された検出コイル(22)と
を有しており、
前記励起信号発生器(11)は、磁界を発生させるための励起信号を発生させ、前記励起コイル(21)へ出力するように構成されており、
前記評価ユニット(12)は前記検出コイル(22)から出力された測定信号を評価するように構成されており、
前記励起信号発生器(11)は、一定の励起信号を発生させる直流信号発生器と、交流励起信号を発生させるための交流信号発生器とを含んでおり、
前記直流信号発生器と前記交流信号発生器は、前記一定の励起信号と前記交流励起信号とが重畳するように互いに接続されている、測定装置において、
前記直流信号発生器は前記測定装置に印加される一定の干渉磁界を補償する一定の励起信号を発生させることを特徴とする
磁界を測定する測定装置。
【請求項2】
前記直流信号発生器は、選択可能な値を有する一定の励起信号を発生させるように構成されている、請求項1記載の測定装置。
【請求項3】
前記交流信号発生器は、選択可能な振幅を有する交流励起信号を発生させるように構成されている、請求項1または2記載の測定装置。
【請求項4】
前記交流信号発生器は、前記直流信号発生器により発生させられる一定の励起信号よりも大きな選択可能な振幅を有する交流励起信号を発生させるように構成されている、請求項2または3記載の測定装置。
【請求項5】
前記直流信号発生器と前記交流信号発生器は電圧源であり、互いに直列接続されている、請求項1から4までのいずれか1項記載の測定装置。
【請求項6】
前記直流信号発生器と前記交流信号発生器は電流源であり、互いに並列接続されている、請求項1から4までのいずれか1項記載の測定装置。
【請求項7】
磁界を測定する測定方法であって、
励起信号を発生させ、該励起信号を磁気的に柔らかいコア(30)の周りに配置された励起コイル(21)へ出力するステップと、
前記励起信号を前記励起コイル(21)によって磁界に変換するステップと、
前記磁界を磁気的に柔らかいコア(30)の周りに配置された検出コイル(22)によって測定信号に変換し、該測定信号を評価ユニット(12)へ出力するステップとを有しており、
励起信号を発生させる前記ステップにおいて、一定の励起信号と交流励起信号とを重畳して前記励起信号を形成する、測定方法において、
測定装置に印加される一定の干渉磁界を補償する一定の励起信号を発生させることを特徴とする
磁界を測定する測定方法。
【請求項8】
前記一定の励起信号の値は予め設定可能である、請求項7記載の測定方法。
【請求項9】
前記交流励起信号の振幅は予め設定可能である、請求項7または8記載の測定方法。
【請求項10】
前記交流励起信号の振幅は前記一定の励起信号の値よりも大きい、請求項8または9記載の測定方法。

【図1】
image rotate

【図2a)】
image rotate

【図2b)】
image rotate

【図2c)】
image rotate

【図3a)】
image rotate

【図3b)】
image rotate


【公表番号】特表2013−505453(P2013−505453A)
【公表日】平成25年2月14日(2013.2.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−530193(P2012−530193)
【出願日】平成22年8月3日(2010.8.3)
【国際出願番号】PCT/EP2010/061313
【国際公開番号】WO2011/035973
【国際公開日】平成23年3月31日(2011.3.31)
【出願人】(390023711)ローベルト ボツシユ ゲゼルシヤフト ミツト ベシユレンクテル ハフツング (2,908)
【氏名又は名称原語表記】ROBERT BOSCH GMBH
【住所又は居所原語表記】Stuttgart, Germany
【Fターム(参考)】