説明

電力用電線

【課題】断線面を容易に特定可能な電力用電線を提供する。
【解決手段】導電線と、導電線の長手方向の周囲を被覆する絶縁体と、導電線及び絶縁体の間に介在し、導電線及び絶縁体の断線面と地面との間に発生する電圧に基づいて発光する発光体と、を備えてなる電力用電線。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば架空配電線路等を構成して配電するための電力用電線に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば架空配電線路等に用いられる電力用電線には、公衆の保安上から、銅やアルミ等からなる導電線を絶縁体で被覆した絶縁電線を用いることが規定されている。例えば6.6kVの交流電圧が印加されている高圧配電線には、屋外用ポリエチレン絶縁電線(OE線)が用いられたり、(大容量の場合には、)屋外用架橋ポリエチレン絶縁電線(OC線)が用いられたりする(例えば、特許文献1参照。)。
【0003】
図5(a)に例示されるように、架空配電線路は、変電所1からの電力が遮断器2を介し配電線90を通じて配電される構成を備えている。同図は、架空配電線路の平常時の構成例を示す模式図である。高圧(例えば6.6kV)の配電線90は、複数の配電柱3の碍子3aに架設されて、各配電柱3に設けられた柱上変圧器3bにより低圧(例えば200V)に変圧された電力を各需要家へ供給するようになっている。碍子3aは地面4から所定の高さをもって設けられて、地上で活動する人々の安全が確保されるようになっている。
【0004】
ところで、配電線90は台風等の災害により断線し、その断線配電線90a、90bが、地絡せずに地面4から浮いた状態をとる場合がある。この場合、例えば、一方の断線配電線90aが鉛直方向下方に垂下した状態で地面4から浮いていたり、或いは、一方の断線配電線90aが地面4に落ちるが、後述する断線面90cの部分は地面4から浮いていたりする。図5(b)の例示では、一方の断線配電線90aが鉛直方向下方に垂下した状態で地面4から浮いている。同図は、架空配電線路の断線事故時の構成例を示す模式図である。同図の例示では、或る2本の配電柱3間の配電線90が断線している。そこで、この区間より上流の需要家に対しできるだけ電力を供給する目的から、遮断器2は開かれずに、2本の配電柱3のうちの変電所1側の配電柱3までは配電が続けられる。同図の例示では、交流電圧が印加されている上に、絶縁被覆されていない断線面90cが地面4に対して接近している(但し、地絡していない)ため、地上で活動する人々にとって感電の危険が生じる。そこで、架空配電線路を管理する電力会社の作業員は、この活線状態の断線面90cに所定の対策を講じるべく、現場に赴いてこの断線面90cを特定する作業を行うようになっている。作業員は、例えば目視により、垂下している断線配電線90aを特定する。
【特許文献1】特開2000−348540号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、作業員が目視により断線面90cを探し出すのには困難がともなう。このような場合、作業員自身も、未確認の断線面90cに不用意に接近し過ぎて感電事故を起こす虞がある。
【0006】
本発明は、かかる課題に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、断線面を容易に特定可能な電力用電線を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記課題を解決するための発明は、導電線と、前記導電線の長手方向の周囲を被覆する絶縁体と、前記導電線及び前記絶縁体の間に介在し、前記導電線及び前記絶縁体の断線面と大地電位面との間に発生する電圧に基づいて発光する発光体と、を備えてなる電力用電線である。
【0008】
この電力用電線が断線すると、発光体は、断線面において導電線及び絶縁体とともに露出する。断線した電力用電線のうち、電圧が印加されている側の電力用電線(活線状態の電力用電線)の断線面に露出した発光体は、断線面と大地電位面との間に発生する電圧に基づいて発光する。一方、断線面に露出していない発光体は、一般に不透明な絶縁体に被覆されているため、たとえ発光したとしても視認できない。よって、活線状態の電力用電線の断線面における発光体の発光のみが視認可能となる。これにより、電力用電線の断線面を容易に特定可能となる。尚、大地電位面とは、大地と同電位の面のことであり、例えば、いわゆる地面を意味するものである。
【0009】
また、かかる電力用電線において、前記発光体は、前記断線面と大地電位面との間の距離が短くなるほど発光輝度が明るくなる材料から形成される、ことが好ましい。
例えば、鉛直方向上方に架設された電力用電線が断線すると、活線状態の電力用電線が鉛直方向下方に垂下することにより、その断線面が大地電位面(例えば地面)に接近する(但し、地絡していない)場合がある。本発明の発光体を形成する材料の発光輝度は、断線面と地面との間の距離が短くなるほど明るくなるため、前述した垂下により地面に接近した断線面における発光体の発光輝度はより明るくなる。よって、電力用電線の断線面が効果的に特定可能となる。一般に、断線面が地面に近いほど、例えば作業員に対する感電の危険度が増すが、本発明の電力用電線によれば、断線面が地面に近いほど、その発光輝度が明るくなる。そこで、作業員は、断線面の感電の危険度を認識できる。
【0010】
また、かかる電力用電線において、前記発光体は、複数の発光粒子を形成する無機EL材料と、前記複数の発光粒子を分散支持する誘電体材料と、から形成され、前記断線面と大地電位面との間の電圧に基づく電場下で発光する、ことが好ましい。
この電力用電線が断線すると、活線状態の電力用電線の断線面と大地電位面(例えば地面)との間に形成される電場と、この電場により誘電体材料に発生した分極電荷により更に形成される電場と、を合わせた電場下で、無機EL材料からなる複数の発光粒子が発光する。また、断線面と地面との間の距離が短くなるほど、上記電場は大きくなるため、複数の発光粒子の発光輝度はより明るくなる。これにより、電力用電線の断線面がより効果的に特定可能となる。
【0011】
また、かかる電力用電線は、配電用電線であることとしてもよい。
配電用電線は、例えば6.6kVの交流電圧が印加される導電線が絶縁体で被覆された電力用電線である。このため、もし断線した場合には、人身事故を回避するべく断線面を特定することが急務となる。本発明の発光体は、断線面で発光するため、容易に特定できる。
【発明の効果】
【0012】
電力用電線の断線面を容易に特定可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
===電力用電線の構成===
図1(a)及び図1(b)を参照しつつ、本実施の形態の配電線(配電用電線、電力用電線)10の構成例について説明する。図1(a)は、本実施の形態の配電線10の部分側面図及び断面図からなる模式図である。図1(b)は、本実施の形態の配電線10の断線時の構成例を示す模式図である。
【0014】
図1(a)に例示されるように、本実施の形態の配電線10は、導電線110と、導電線110の軸方向(長手方向)の周囲を被覆する絶縁体130と、導電線110及び絶縁体130の間に介在する発光体120と、を備えて構成されている。
【0015】
本実施の形態の導電線110は、例えば複数本の銅素線を撚合わせて形成された撚線導体からなるものである。本実施の形態の絶縁体130は、例えば架橋ポリエチレンからなるものである。本実施の形態の発光体120は、無機EL材料と、この無機EL材料を内部に分散支持する誘電体材料とを備えたものである。無機EL材料、誘電体材料、及びこれらの重量比は、後述する断線面10cと地面(大地電位面)4との間に形成される交流電場下で発光するように設定されている。
【0016】
尚、本実施の形態の大地電位面は、地面4としているが、これに限定されるものではなく、例えば家屋の屋根やビルの屋上等、地面4に接地された構造物の面であってもよい。要するに、大地電位面は、大地と同電位の面であれば、いかなるものであってもよい。
【0017】
<<<無機EL材料>>>
本実施の形態の無機EL材料は、いわゆる真性EL材料であり、交流電場の印加により発光するものである(電場発光)。この電場発光の原理は、以下の通りである。先ず、誘電体材料と無機EL材料との界面、或いは、誘電体材料近傍の無機EL材料における電子が電場により加速され(ホットエレクトロン)、無機EL材料における発光中心の電子を励起する。尚、このメカニズムは、例えば特開2005−116503号公報又は国際出願公開第02/080626号に開示されている通りである。次に、この発光中心は、励起状態にある電子が基底状態に戻る際のエネルギーの差分を光として放出する。
【0018】
この無機EL材料は、例えば、硫化亜鉛に対し発光中心として銅、塩素が添加された物質(ZnS:Cu,Cl)、硫化亜鉛に対し発光中心として銅、アルミニウムが添加された物質(ZnS:Cu,Al)、硫化亜鉛に対し発光中心として銅、マンガン、塩素が添加された物質(ZnS:Cu,Mn,Cl)等からなる材料である。或いは、本実施の形態の無機EL材料は、例えば、(1)赤色光の発光体として、(Zn,Mg)S:Mn、CaS:Eu、ZnS:Sm,F、Ga2O3:Cr、MgGa2O4:Eu、(2)緑色光の発光体として、(Zn,Mg)S:Mn、ZnS:Tb,F、Ga2O3:Mn、Zn2SiO4:Mn、(3)青色光の発光体として、BaAl2S4:Eu、CaS:Pb、SrS:Ce、SrS:Cu、CaGa2S4:Ce、CaAl2O4:Eu等であってよい。
【0019】
<<<誘電体材料>>>
本実施の形態の誘電体材料は、例えば有機高分子材料である。この有機高分子材料は、無機EL材料の発光を透過し易い、即ち可視光に対し透明な樹脂が好ましく、例えば、ポリアミド系樹脂、ポリエステル系樹脂、フッ素系樹脂、ポリオレフィン系樹脂等が挙げられる。尚、この有機高分子材料は、水分により変質する虞のある無機EL材料に対する防湿性を有するもの(例えばフッ素系樹脂)が好ましい。また、この有機高分子材料は、より高い電場を印加可能とするべく、誘電率がより高いものであることが好ましい。この有機高分子材料に分散支持された無機EL材料に印加される電場が高いほど、例えば前述したホットエレクトロンのエネルギーが高くなる等の理由により、この無機EL材料の光量が向上するとされている。
【0020】
ポリアミド系樹脂としては、例えば、ナイロン6(登録商標)、ナイロン66(登録商標)、ナイロン12(登録商標)等の脂肪族ポリアミド及びその共重合体、芳香族ジアミン及びジカルボン酸から形成される半芳香族ポリアミド及びその共重合体等が挙げられる。
【0021】
ポリエステル系樹脂としては、例えば、テレフタル酸、イソフタル酸、ナフタリン2,6ジカルボン酸、フタル酸、α,β-(4-カルボキシフェノキシ)エタン、4,4'-ジカルボキシフェニル、5-ナトリウムスルホイソフタル酸等の芳香族ジカルボン酸が挙げられる。また、ポリエステル系樹脂としては、例えば、アジピン酸やセバシン酸等の脂肪族ジカルボン酸又はそのエステル類と、エチレングリコール、ジエチレングリコール、1,4-ブタンジオール、1,6-ヘキサンジオール、ネオペンチルグリコール、シクロヘキサン-1,4-ジメタノール、ポリエチレングリコール、テトラメチレングリコール等のジオール化合物とから重縮合されて得られるポリエステル及びその共重合体が挙げられる。
【0022】
フッ素系樹脂としては、例えば、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、ポリテトラフルオロエチレン、ポリモノクロロトリフルオロエチレン、ポリヘキサフルオロプロピレン、及びその共重合体等が挙げられる。
【0023】
ポリオレフィン系樹脂としては、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリ4-メチル-1-ペンテン等が挙げられる。
【0024】
<<<断線時の構成>>>
図1(b)に例示されるように、本実施の形態の配電線10が断線した場合、例えば、交流電圧が印加された活線状態の断線配電線10aと、交流電圧が印加されていない断線配電線10bに分断されるものとする。同図の例示では、活線状態の断線配電線10aは、例えば配電柱(不図示)等に一部懸架され地面4に向かって垂下している。
【0025】
垂下している断線配電線10aの断線面10cは、活線状態の導電線110の切断面110cと、この周囲の発光体120の切断面120cと、更にこの周囲の絶縁体130の切断面130cと、からなるものである。導電線110の切断面110cと地面4との間に印加されている交流電圧により、発光体120の切断面120cにも交流電場が発生する。
【0026】
本実施の形態の発光体120は、この交流電場により無機EL材料が目視可能なまでの発光輝度で発光するように構成されている。即ち、この発光体120は、例えば前述したポリフッ化ビニリデン(PVDF)からなる誘電体材料が、例えば前述した銅を添加した硫化亜鉛(ZnS:Cu)からなる無機EL粒子(無機EL材料、発光粒子)を、所定の重量比で均一分散支持したものである。
【0027】
発光体120の切断面120c近傍の無機EL粒子は、前述した交流電場と、この交流電場により誘電体材料に発生した分極電荷により更に形成される電場と、を合わせた電場下で発光する。図1(b)に例示される断線面10cと地面4との間の距離が短くなるほど、上記電場は大きくなるため、無機EL粒子の発光輝度はより明るくなる。一方、切断面120cから離れている(断線面10cに露出していない)発光体120は、不透明な絶縁体130に被覆されているため、たとえ発光したとしても視認できない。よって、活線状態の断線配電線10aの断線面10cのみが発光することになる。これにより、活線状態の断線配電線10aの断線面10cを容易に特定可能となる。特に夜間に断線事故が発生した場合、作業員が目視により断線面10cを探し出し易くなる。
【0028】
また、断線面10cが地面4に近いほど、例えば地面4にいる作業員に対する感電の危険度が増すが、前述した配電線10によれば、断線面10cが地面4に近いほど、その発光輝度が明るくなる。そこで、作業員は、断線面10cの感電の危険度を認識できる。
【0029】
===交流電場下における無機EL材料の発光実験===
活線状態の断線配電線10aにおける発光体120の切断面120c(図1(b))が発光するか否かを検証するための実験を行った。図2を参照しつつ、実験装置500の構成について説明する。同図は、接地された平板電極から複数種類の距離をもって隔てられ交流電圧が印加された電線の端部における無機EL材料の発光の有無を判別する実験装置の部分模式図である。
【0030】
接地された平板電極502に対し、棒電極501が鉛直方向上方に平行に懸架され、この棒電極501に対し、電源503から0.1kV刻みで0〜10kVの範囲の交流電圧を印加可能となっている。
【0031】
棒電極501に対し、複数本の電線504a、504b、504c、504dが、各端部を鉛直方向下方に垂下させるように、所定の間隔おきに電気的に接続されている。図2の例示では、棒電極501と平板電極502との距離は0.9mであり、電線504aの端部と平板電極502との距離は0.1mであり、電線504bの端部と平板電極502との距離は0.15mであり、電線504cの端部と平板電極502との距離は0.2mであり、電線504dの端部と平板電極502との距離は0.25mである。
【0032】
複数の電線504a、504b、504c、504dの端部及び棒電極501には、発光体505a、505b、505c、505d、506がそれぞれ設けられている。この発光体505a、505b、505c、505d、506は、前述した銅を添加した硫化亜鉛(ZnS:Cu)からなる無機EL材料のペレットを、セルロース樹脂からなる誘電体材料のテープで保持したものである。
【0033】
実験装置500の周囲を暗くして、電源503から棒電極501に対する交流電圧を0.1kV刻みで増加させつつ、各発光体505a、505b、505c、505d、506の発光の有無を目視により確認した。表1は、複数の交流電圧値ごとに各発光体505a、505b、505c、505d、506の発光の有無を対応付けた表である。
【0034】
尚、表1において「○」は発光を目視できたことを示し、「×」は発光を目視できなかったことを示すものである。
【表1】

【0035】
表1によれば、棒電極501に印加される交流電圧が高いほど、平板電極502からより離れた位置で発光体が発光することがわかる。例えば、棒電極501に0.8kVの交流電圧が印加されている場合、この棒電極501に設けられた発光体506は発光しないが、電線504dの端部に設けられることにより平板電極502との距離が0.25mとなれば、発光体505dが発光することがわかる。この発光体505dでは、電線504dの端部と平板電極502との間に形成される交流電場下で無機EL材料が発光していると考えられる。この場合、電線504dの端部と平板電極502との間に印加されている交流電圧は0.8kVであるため、交流電場は、(仮に電場が均一であるとして)3.2(=0.8/0.25)kV/mとなる。
【0036】
また、表1によれば、電線504cの端部と平板電極502との間に0.7kVの交流電場が印加されている場合、平板電極502との距離が0.25mから0.2mまで縮まれば、発光体505cが発光することがわかる。この場合、発光体505c近傍の交流電場は、(仮に電場が均一であるとして)3.5(=0.7/0.2)kV/mである。
【0037】
また、表1によれば、電線504bの端部と平板電極502との間に0.6kVの交流電圧が印加されている場合、平板電極502との距離が0.2mから0.15mまで縮まれば、発光体505bが発光することがわかる。この場合、発光体505b近傍の交流電場は、(仮に電場が均一であるとして)4(=0.6/0.15)kV/mとなる。
【0038】
また、表1によれば、電線504aの端部と平板電極502との間に0.3kVの交流電圧が印加されている場合、平板電極502との距離が0.15mから0.1mまで縮まれば、発光体505aが発光することがわかる。この場合、発光体505a近傍の交流電場は、(仮に電場が均一であるとして)3(=0.3/0.1)kV/mとなる。
【0039】
以上から、前述した実験装置500に用いられた発光体505a、505b、505c、505d、506は、およそ3〜4kV/mの交流電場下において視認可能な発光輝度で発光することがわかった。
【0040】
前述した実験装置500における棒電極501及び各電線504a、504b、504c、504dは、その構成上、前述した活線状態の断線配電線10a(図1(b))に対応するものである。例えば、前述した棒電極501に接続されて平板電極502に対し垂下している電線504a、504b、504c、504dは、図1(b)に例示される地面4に向かって垂下した断線配電線10aの導電線110を模擬したものである。つまり、平板電極502(図2)は、地面4(図1(b))に対応し、棒電極501(図2)は、導電線110が例えば配電柱の碍子等(不図示)に架設されて地面4に対して略平行となっている部分(図1(b))に対応し、電線504a、504b、504c、504d(図2)は、導電線110のうちの地面4に向かって垂下する部分(図1(b))に対応し、発光体505a、505b、505c、505d(図2)は、発光体120の切断面120c(図1(b))に対応する。
【0041】
よって、例えば前述した発光体505a、505b、505c、505dがおよそ3〜4kV/mの交流電場下で発光したという実験結果(表1)は、以下のことを証明するものとなる。即ち、図1(b)に例示される活線状態にある発光体120において、交流電圧及び地面4からの距離に応じて発光し得るように、当該発光体120を構成する無機EL材料の種類、誘電体材料の種類、及び無機EL材料と誘電体材料との比率を設定できる。
【0042】
===発光体の製造例===
図3及び図4を参照しつつ、図1(a)に例示される配電線10の製造例について説明する。図3(a)は、本実施の形態の導電線110に対するテープ形状をなす発光体120の巻回状態を示す斜視図であり、図3(b)は、本実施の形態の導電線110に対するテープ形状をなす発光体120のもう一つの巻回状態を示す斜視図であり、図3(c)は、本実施の形態のテープ形状をなす発光体120の断面図である。図4は、本実施の形態のテープ形状をなす発光体120の製造工程の一例を示すフローチャートである。
【0043】
図3(a)に例示されるように、前述した導電線110の周囲を被覆する発光体120(図1(a))は、テープ形状をなす発光体120を導電線110の周りに巻回して形成される。この巻回の密度は、テープどうしが隣接するような密度であることが好ましい。巻回の密度が高くなるほど、断線面10cの面積における発光体120の切断面120cの面積の割合がより大きくなり、断線面10cの発光輝度がより明るくなる。
【0044】
但し、図3(b)に例示されるように、テープどうしが所定間隔をあけるように発光体120を巻回してもよい。このようにすれば、配電線10’のあらゆる断線面において発光体120が露出し得る一方、発光体120の被覆量が図3(a)に例示される場合よりも少なくて済むため、配電線10’の製造コストを節減できる。
【0045】
図3(c)に例示されるように、図3(a)及び図3(b)における発光体120は、以下述べる発光体120aを、例えば2枚のポリプロピレンシート(誘電体材料)120bで挟持してテープ形状をなすものである。発光体120aは、例えばアクリル系樹脂からなるバインダ(誘電体材料)122が、例えば銅を添加した硫化亜鉛(ZnS:Cu)からなる無機EL粒子(無機EL材料、発光粒子)121を所定重量比で均一分散支持したものである。次に、このテープ形状をなす発光体120の製造手順について説明する。
【0046】
図4に例示されるように、先ず、有機溶媒(例えばアセトン)に対して、バインダ122(図3(c))の素材であるアクリル系樹脂の粒子を、所定重量比で混合し周知のペイントシェーカで完全に溶解させる。アクリル系樹脂の粒子及び有機溶媒は例えば市販されているものを使用してよい(S200)。
【0047】
次に、ステップS200で得られた溶液に対し、前述した無機EL粒子121(図3(c))を、所定重量比で混合し、周知の攪拌手段により均一になるまで攪拌し分散液を得る。無機EL粒子121は例えば市販されているものを使用してよい(S201)。
次に、ステップS201で得られた分散液を、周知のバーコートにより、一方のポリプロピレンシート120b(図3(c))に塗布する(S202)。
次に、ステップS202で塗布した分散液を室温で乾燥させ、発光体120aを得る(S203)。
次に、ステップS203で乾燥した発光体120aの露出面に対し、他方のポリプロピレンシート120b(図3(c))を被覆し、2つのポリプロピレンシート120bどうしを貼り合せ、テープ形状をなす発光体120を得る(S204)。
【0048】
尚、発光体120はテープ形状に限定されるものではなく、例えば、チューブ形状をなすものであってもよいし、シート形状をなすものであってもよい。
【0049】
前述した実施の形態では、発光体120は、導電線110の周囲を直接被覆するものであったが、これに限定されるものではない。例えば、発光体120は、導電線110の外周面より外側且つ絶縁体130の外周面より内側にあればよい。要するに、発光体120は、導電線110及び絶縁体130の間に介在していればよい。これにより、配電線10が断線していなければ、発光体120の発光は、絶縁体130に被覆されて視認されることはない一方、配電線10が断線して断線面10cが露出していれば、この断線面10cにおける発光体120の切断面120cの発光が視認可能となる。
【0050】
前述した実施の形態は、本発明の理解を容易にするためのものであり、本発明を限定して解釈するためのものではない。本発明は、その趣旨を逸脱することなく変更、改良されるとともに、本発明にはその等価物も含まれる。
【0051】
前述した実施の形態では、発光体120は、真性電場発光タイプの無機EL材料を含むものであったが、これに限定されるものではなく、例えば、無機EL材料以外の1種類以上の無機材料等を、時間とともに変化する電場下で発光可能な状態となるように適宜用いてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0052】
【図1】(a)は、本実施の形態の配電線の部分側面図及び断面図からなる模式図であり、(b)は、本実施の形態の配電線の断線時の構成例を示す模式図である。
【図2】接地された平板電極から複数種類の距離をもって隔てられ交流電圧が印加された電線の端部における無機EL材料の発光の有無を判別する実験装置の部分模式図である。
【図3】(a)は、本実施の形態の導電線に対するテープ形状をなす発光体の巻回状態を示す斜視図であり、(b)は、本実施の形態の導電線に対するテープ形状をなす発光体のもう一つの巻回状態を示す斜視図であり、(c)は、本実施の形態のテープ形状をなす発光体の断面図である。
【図4】本実施の形態のテープ形状をなす発光体の製造工程の一例を示すフローチャートである。
【図5】(a)は、架空配電線路の平常時の構成例を示す模式図であり、(b)は、架空配電線路の断線事故時の構成例を示す模式図である。
【符号の説明】
【0053】
1 変電所 2 遮断器
3 配電柱 3a 碍子
3b 柱上変圧器 4 地面
10、10’ 配電線 10a、10b 断線配電線
10c 断線面 90 配電線
90a、90b 断線配電線 90c 断線面
110 導電線 110c、120c、130c 切断面
120、120a 発光体 120b ポリプロピレンシート
121 無機EL粒子 122 誘電体材料
130 被覆体 500 実験装置
501 棒電極 502 平板電極
503 電源 506 発光体
504a、504b、504c、504d 電線
505a、505b、505c、505d 発光体

【特許請求の範囲】
【請求項1】
導電線と、
前記導電線の長手方向の周囲を被覆する絶縁体と、
前記導電線及び前記絶縁体の間に介在し、前記導電線及び前記絶縁体の断線面と大地電位面との間に発生する電圧に基づいて発光する発光体と、
を備えたことを特徴とする電力用電線。
【請求項2】
前記発光体は、
前記断線面と大地電位面との間の距離が短くなるほど発光輝度が明るくなる材料から形成される、ことを特徴とする請求項1に記載の電力用電線。
【請求項3】
前記発光体は、
複数の発光粒子を形成する無機EL材料と、
前記複数の発光粒子を分散支持する誘電体材料と、から形成され、
前記断線面と大地電位面との間の電圧に基づく電場下で発光する、ことを特徴とする請求項2に記載の電力用電線。
【請求項4】
配電用電線であることを特徴とする請求項1乃至3の何れかに記載の電力用電線。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2007−213970(P2007−213970A)
【公開日】平成19年8月23日(2007.8.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−32547(P2006−32547)
【出願日】平成18年2月9日(2006.2.9)
【出願人】(000211307)中国電力株式会社 (6,505)
【出願人】(000004503)ユニチカ株式会社 (1,214)
【Fターム(参考)】