電力系統の短絡容量監視方法およびそのシステム
【課題】複数の計測地点で経時的に同期計測した複数のデータを用いて、所望の断面における実状に合った短絡容量を把握、監視可能な電力系統の短絡容量監視方法およびそのシステムを提供する。
【解決手段】同期計測端末5が各計測地点である計測点1、2の電圧・電流のフェーザ量D101を経時的に同期計測する。また、短絡容量監視装置7のデータセット作成部91では電圧・電流のフェーザ量D101に基づいて計測周期T0毎に複数のデータ数nを持つデータセットD102を作成する。このデータセットD102を用いて、背後インピーダンス推定手段92が背後インピーダンスD103を推定し、推定した背後インピーダンスD103に基づいて、短絡容量計算手段93が短絡容量D104を計算する。
【解決手段】同期計測端末5が各計測地点である計測点1、2の電圧・電流のフェーザ量D101を経時的に同期計測する。また、短絡容量監視装置7のデータセット作成部91では電圧・電流のフェーザ量D101に基づいて計測周期T0毎に複数のデータ数nを持つデータセットD102を作成する。このデータセットD102を用いて、背後インピーダンス推定手段92が背後インピーダンスD103を推定し、推定した背後インピーダンスD103に基づいて、短絡容量計算手段93が短絡容量D104を計算する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、実状に合った短絡容量の計測が可能な電力系統の短絡容量監視方法およびシステムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
電力系統で短絡故障が発生すると、系統に接続した発電機から短絡地点に向かって短絡電流が流れる。この短絡電流に線間電圧を乗じた値が短絡容量となるが、近年の電力系統では短絡容量が増加傾向にある。これは、基幹系統では大規模電源が偏在化し、下位系統では分散電源の導入が拡大しているためである。
【0003】
電力系統の短絡容量が増加すれば系統事故時に流れる短絡電流も大きくなり、既存の遮断器の定格遮断容量を超えるおそれがある。この場合、それまでの遮断器を上位定格遮断器へ取替えることが考えられるが、コストの高騰を招くことは否めない。そこで、高インピーダンス機器や限流リアクトルの採用や、系統分割により、電力系統の短絡容量を抑える技術が提案されている。
【0004】
中でも、系統分割は、短絡容量の抑制対策として非常に有効である。具体的には、常時系統を分割する方式、高次系統電圧を新たに導入して既存の系統を分割する方式、直流連系(BTB:Back to Back)により交流系統を分割する方式などが知られている。
【0005】
しかしながら、電力系統の短絡容量の抑制化対策として系統の分割運用が実施されると、系統運用の硬直化が余儀なくされ、系統連系のメリットが損なわれる可能性がある。つまり、系統運用の柔軟性を確保する上で、系統の分割運用は必要最小限に抑えることが望ましい。
【0006】
そのためには、短絡容量を正確に把握することが不可欠である。正確な短絡容量を把握することで、実状に合う保護リレー整定値の選定が可能となる。つまり、系統保護の観点から見ても、短絡容量を知ることは重要である。
【0007】
ところが、短絡故障発生時の系統構成の状態(例えば上位系での系統切り替えなど)や発電機並列台数、さらには短絡地点の位置や故障の種類など、様々な要因によって、電力系統の短絡容量は、その大きさ及び分布が絶えず変化する。
【0008】
電力系統の短絡容量を直接測定することは困難であるため、従来では、系統を構成する送電線、変圧器、発電機など、予め定められた系統設備の定数を用いることにより、短絡容量を計算していた(例えば、非特許文献1参照)。ただし、系統設備の定数を用いる場合、全ての発電機並解列状態や系統構成を反映した上で計算しなくてはならず、面倒である。短絡容量の測定方法としては、間接的な電力系統の短絡容量計測方法が一般的である。例えば、電力用コンデンサあるいは分路リアクトルの投入に伴う電圧変動率の測定値から、短絡容量を間接的に求める(非特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】新田目 倖造著「電力系統技術計算の応用」電気書院,5章 p.121-194
【非特許文献2】新田目 倖造著「電力系統技術計算の応用」電気書院,9章p.401-402
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかしながら、既に述べたように、系統構成の状態などによって電力系統の短絡容量は絶えず変わる。したがって、実状に合った短絡容量を厳密に求めることは容易ではなく、上述した従来技術には次のような課題が指摘されていた。すなわち、非特許文献1のように、系統設備の定数を用いた計算によって短絡容量を求めたとしても、その計算結果が実際に系統の状態を現しているかどうかを評価することができなかった。
【0011】
また、非特許文献2のように、電圧変動率の測定値から間接的に短絡容量を求める簡易的な計算方法を用いた場合では、電力用コンデンサあるいは分路リアクトルの投入タイミングに基づいて短絡容量を計測している。このため、所望の断面について短絡容量の計測を行うことは難しかった。
【0012】
本発明は、上述した課題を解決するために提案されたものであり、複数の計測地点で経時的に同期計測した複数のデータを用いて、所望の断面における実状に合った短絡容量を把握、監視可能な電力系統の短絡容量監視方法およびそのシステムを提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記目的を達成するため、本発明は、電力系統の短絡容量を監視する方法であって、電力系統での送電線を介した少なくとも2つの計測地点において、各計測地点の電圧および電流のフェーザ量を経時的に同期計測するデータ計測ステップと、前記データ計測ステップにて計測した計測データを収集するデータ収集ステップと、前記データ収集ステップにて収集した計測データに基づいて所定の周期毎に複数のデータ数を持つデータセットを作成するデータセット作成ステップと、前記データセット作成ステップにて作成した前記データセットを用いて短絡地点から電源側を見た背後インピーダンスを推定する背後インピーダンス推定ステップと、前記背後インピーダンス推定ステップにて推定した前記背後インピーダンスにより短絡容量を計算する短絡容量計算ステップを含むことを特徴とする。
【発明の効果】
【0014】
本発明に係る電力系統の短絡容量監視方法およびシステムによれば、複数の計測地点にて電圧と電流のフェーザ量を同期計測し、複数の同期計測データを用いて背後インピーダンスを推定演算することで、推定した背後インピーダンスに基づき、実状に合った短絡容量を計算することが可能となり、正確な短絡容量を把握、監視することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明に係る第1の実施形態の構成図。
【図2】第1の実施形態の処理フローを示す図。
【図3】第1の実施形態において各計測地点の電圧・電流フェーザ量から推定用データセットを作成する処理の説明図。
【図4】第1の実施形態における短絡発生時の電力系統の説明図。
【図5】第1の実施形態における短絡前の等価回路の説明図。
【図6】第1の実施形態における短絡インピーダンスの説明図。
【図7】第1の実施形態における短絡時の等価回路の説明図。
【図8】第1の実施形態において送電線を介した2地点で計測した場合の短絡発生時の電力系統の説明図。
【図9】第1の実施形態において送電線を介した2地点で計測した場合の短絡前の等価回路の説明図。
【図10】第1の実施形態において送電線を介した2地点で計測した場合の短絡インピーダンスの説明図。
【図11】第1の実施形態において送電線を介した2地点で計測した場合の短絡時の等価回路の説明図。
【図12】本発明に係る第2の実施形態の処理フローを示す図。
【図13】本発明に係る第3の実施形態において、系統の微小変動が大きい場合を説明するためのグラフであって、(a)は推定用データセットのフェーザ量の分布図、(b)は時間変化の概念図。
【図14】本発明の係る第3の実施形態において、系統の微小変動が小さい場合を説明するためのグラフであって、(a)は推定用データセットのフェーザ量の分布図、(b)は時間変化の概念図。
【図15】本発明に係る第4の実施形態を説明するためのグラフであって、計測した電圧フェーザ量に外れ値が無い分布を示すグラフ。
【図16】本発明に係る第4の実施形態を説明するためのグラフであって、計測した電圧フェーザ量に外れ値が有る分布を示すグラフ。
【図17】本発明に係る第5の実施形態を説明するためのグラフであって、計測した短絡容量に外れ値が無い場合で、(a)は時刻ごとの短絡容量の計算結果、(b)は一定期間の短絡容量の分布を示すグラフ。
【図18】本発明に係る第5の実施形態を説明するためのグラフであって、計測した短絡容量に外れ値が有る場合で、計測した電圧フェーザ量に外れ値が有る分布を示すグラフ。
【図19】本発明に係る第6の実施形態の処理フローを示す図。
【図20】本発明に係る第7の実施形態の構成図。
【図21】本発明の他の実施形態において各計測地点の電圧・電流フェーザ量から推定用データセットを作成する処理の説明図。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明に係る実施形態の一例について、図面を参照して具体的に説明する。なお、各実施形態において同一の構成については同一の符号を付し、重複する説明は省略する。
【0017】
(1)第1の実施形態
[構成]
本発明に係る第1の実施形態について、図1を用いて説明する。第1の実施形態は電力系統1における短絡容量を監視するシステムであって、図1は第1の実施形態の構成図である。図1に示すように、電力系統1には複数の発電機2が接続されると共に、送電線3を介して複数の負荷4が接続されている。各負荷4の接続点には同期計測端末5が設置されている。符号6は同期信号用衛星を示している。
【0018】
同期信号用衛星6は、GPS(Grobal Positioning System:全地球測位システム)信号を、同期信号として同期計測端末5に送信するようになっている。同期計測端末5は、同期信号用衛星6から送信される同期信号を用いて、負荷4の接続点における線間電圧のフェーザ量および線電流のフェーザ量を、経時的に同期計測するように構成されている。なお、以下の説明では、電圧と電流は各々、線間電圧と線電流を表しており、電圧・電流のフェーザ量とは、電圧および電流の大きさと位相に関するデータである。
【0019】
同期計測端末5には、PMU(Phasor Measurement Unit)が組み込まれている。PMUは、同期信号用衛星6からGPS信号を所定の計測周期で受信し、受信したGPS信号を同期信号として高精度なフェーザ量の同期計測を実現して計測データを出力する装置である(フェーザ通信規格に関しては、IEEE Standard C37.118-2005を参照)。また、各同期計測端末5には、電圧・電流のフェーザ量を計測データとして送信する通信手段が設けられている。
【0020】
第1の実施形態に係る短絡容量監視システムにおいて、上記の同期計測端末5および同期信号用衛星6がデータ計測手段を構成し、短絡容量監視装置7が本システムの主要部を構成する。短絡容量監視装置7には、通信手段を介して各同期計測端末5が接続されており、以下のような機能を持つ部分が組み込まれている。すなわち、短絡容量監視装置7には、各同期計測端末5からの計測データを収集、記憶するデータ収集記憶部8と、計測データに基づいて短絡容量を求める演算を行う演算処理部9と、パラメータの設定や結果表示を行う表示/入出力部10とが設置されている。また、短絡容量監視装置7の演算処理部9には演算処理を担う機能的な部分として、データセット作成部91、背後インピーダンス推定部92、短絡容量計算部93が設けられている。
【0021】
[全体の処理フロー]
続いて第1の実施形態による電力系統の短絡容量監視方法について、図2の処理フローを用いて具体的に説明する。まず、同期信号用衛星6から送信される同期信号を用いて、同期計測端末5が各計測地点である計測点1、2の電圧・電流のフェーザ量D101を経時的に同期計測し(データ計測ステップS101)、短絡容量監視装置7のデータ収集記憶部8にて電圧・電流のフェーザ量D101を収集、記憶する(データ収集・記憶ステップS102)。
【0022】
また、短絡容量監視装置7の演算処理部9では、データセット作成部91によるデータセット作成ステップS103、背後インピーダンス推定部92による背後インピーダンス推定ステップS104、短絡容量計算部93による短絡容量計算ステップS105を順次行う。
【0023】
すなわち、データセット作成部91では、収集・記憶した電圧・電流のフェーザ量D101に基づいて、計測周期T0毎に複数のデータ数nを持つデータセットD102を作成する(データセット作成ステップS103)。このデータセットD102を用いて、背後インピーダンス推定手段92が背後インピーダンスD103を推定する(背後インピーダンス推定ステップS104)。最後に、推定した背後インピーダンスD103に基づいて、短絡容量計算手段93が短絡容量D104を計算する(短絡容量計算ステップS105)。
【0024】
[データセット作成ステップ]
以下、演算処理部9によるステップS103〜S105について、詳しく説明する。まず、データセット作成部91によるデータセット作成ステップS103について、図3を用いて説明する。図3は、計測点1、2における電圧・電流フェーザ量D101からデータセットD102を作成する方法に関しての説明図である。
【0025】
図3中の電圧・電流フェーザ量D101は、計測点1、2において同期計測端末5により経時的に同期計測された線間電圧および線電流のフェーザ量である。図3に示した例では、計測周期T0毎に各計測点1、2の電圧および電流のフェーザ量V1k、I1kをそれぞれn個収集している(k=1、2、…n)。
【0026】
つまり、計測点1側では、n個の電圧および電流のフェーザ量V11、I11、…V1n、I1nを収集し、これらの計測データからデータセットD102Aを作成する。また、計測点2側でもn個の電圧および電流のフェーザ量V21、I21、…V2n、I2nを収集し、これらの計測データからデータセットD102Bを作成する。なお、推定用のデータセットD102の推定サンプル間隔T1は、計測間隔T0と等しく設定している。また、図3の中では、電気量を示すアルファベットの上に傍点を付しているが、これはフェーザ量であることを示す。また、他の図面および後述する各数式においても、フェーザ量の記述に関しては同様である。
【0027】
[背後インピーダンス推定ステップ]
背後インピーダンス推定ステップS104では、以上のようにして作成したデータセットD102を複数用いて、背後インピーダンス推定部92が背後インピーダンスを推定する。
【0028】
図4は、短絡発生時の電力系統について、短絡地点から電源側を見た背後インピーダンスZsys0(=Rsys0+jXsys0)と、短絡地点から負荷側を見た負荷インピーダンスZL2で表した図である。また、図5は、短絡前の等価回路であって、VG(=VGr+jVGi)は背後電圧である。
【0029】
背後電圧VGと背後インピーダンスZsys0、さらに1つの地点の計測データである電圧・電流フェーザ量Vk、Ik(k=1、2、…n)については、下記(1)式の関係が成立する。
【数1】
【0030】
上記(1)式に次の(2)式を代入すると、(1)式の関係は(3)式で示すことができる。
【数2】
【数3】
【0031】
各計測地点において、n個の電圧・電流フェーザ量Vk、Ikを計測する期間は、系統の微小変動のみであって、背後インピーダンスZsys0は変化しないと仮定すると、Vrk、Vik、Irk、Iikという複数の計測データについて、上記(3)式が成り立つことになる。
【0032】
したがって、例えば最小二乗法を適用することにより、背後電圧VG(=VGr+jVGi)と、背後インピーダンスZsys0(=Rsys0+jXsys0)を求めることができる。なお、背後電圧VGおよび背後インピーダンスZsys0の求解は、最小二乗法に限らず、(3)式の誤差を最小化する解を求める方法であれば、適宜選択自由である。
【0033】
[短絡容量計算ステップ]
短絡容量計算ステップS105では、短絡容量計算部93にて、推定した背後インピーダンスZsys0および負荷インピーダンスZL2を用いて短絡インピーダンスZscを計算し、そこから短絡電流Iscおよび短絡容量Pscを計算する。
【0034】
負荷インピーダンスZL2は、電圧Vと電流Iの計測値から、次の(4)式により求められる。
【数4】
【0035】
テブナンの定理から、短絡地点から見た内部インピーダンスが短絡インピーダンスZscとなり(図6参照)、短絡インピーダンスZscは下記の(5)式にて与えられる。すなわち、負荷インピーダンスZL2と背後インピーダンスZsys0との積を、負荷インピーダンスZL2と背後インピーダンスZsys0との和によって除した値が、短絡インピーダンスZscとなる。
【数5】
【0036】
このように求めた短絡インピーダンスZscにて、短絡前の計測点電圧Vを除した値が短絡電流Iscとなる(図7および(6)式参照)。
【数6】
【0037】
さらに、下記の(7)式に示すように、短絡電流Iscに短絡前の計測点電圧Vを乗じることで短絡容量Pscを求めることができる。
【数7】
【0038】
以上のようにして、短絡容量計算部92では、背後インピーダンス推定部92の推定した背後インピーダンスZsys0と、上記(4)〜(7)式を用いることにより、短絡容量Psc、短絡電流Iscを算出する。なお、求めた短絡容量Psc短絡電流Iscは、データセットD102のデータ数nの分布として得られる。そのため、実際の短絡容量Pscあるいは短絡電流Iscは、代表値として中央値、最頻値あるいは平均値などを採用する。
【0039】
[送電線を介した2地点で計測した場合の背後インピーダンス推定処理]
系統の中には、送電線や負荷が存在するので、複数の短絡地点における計測に加えて、送電線を介した地点においてもフェーザ量の計測を行うことで、冗長性を持たせると共に、背後インピーダンスの推定精度を高める必要がある。ここで、送電線を介した2地点で計測した場合の、背後インピーダンス推定ステップについて説明する。
【0040】
短絡発生時の電力系統について、送電線を介した負荷端から電源側を見た背後インピーダンスZsys(=Rsys+jXsys)、送電線インピーダンスZline、負荷インピーダンスZL1、ZL2で現すと、図8のようになる。また、短絡前の等価回路は図9で現される。テブナンの定理から、短絡地点から見た内部インピーダンスが短絡インピーダンスZscとなり、下記の(8)式のように表される(図10参照)。なお、短絡時の等価回路については、図11にて現される。
【数8】
【0041】
ここで、負荷インピーダンスZL1、ZL2は、各々計測値から(9)、(10)式によって計算できる。
【数9】
【数10】
【0042】
送電線インピーダンスZlineは定数を用いるか、あるいは計測値を用いて(11)式のように算出する。
【数11】
【0043】
2地点計測の場合、背後電圧VG、背後インピーダンスZsys、送電線インピーダンスZlineと、2つの地点の計測データ(経時的に計測した複数の電圧・電流フェーザ量)V1k、I1k、V2k、I2kに関しては、下記(12)式の関係が成立する。
【数12】
【0044】
上記(12)式に次の(13)式を代入すると、(12)式の関係は(14)式で示される。
【数13】
【数14】
【0045】
背後電圧VG(=VGr+jVGi)と背後インピーダンスZsys(=Rsys+jXsys)は、1地点計測の場合と同様にして、(14)式に対し、例えば最小二乗法を適用することで解くことができる。なお、背後電圧VGおよび背後インピーダンスZsysの求解は最小二乗法に限らず、(14)式の誤差を最小化する解を求める方法であれば、適宜選択自由である点も、1地点計測の場合と同様である。
【0046】
[送電線を介した2地点で計測した場合の短絡容量計算処理]
以上のようにして推定した背後インピーダンスZsysと、上記の(8)〜(11)式から、短絡インピーダンスZscを計算することができ、この計算結果と前記(1)〜(3)式を用いて、短絡電流Iscおよび短絡容量Pscを求めることが可能である。このような2地点計測を行った場合、各計測地点での負荷変動を、計測データによって捉えることができるので、背後インピーダンスZsysの推定誤差を小さくすることが可能である。
【0047】
[作用効果]
上述したように、第1の実施形態では、複数の同期計測データを用いて背後インピーダンスを推定し、推定した背後インピーダンスに基づいて短絡容量を計算することにより、たとえ短絡容量が変化したとしても、必要とする断面について実状に合った短絡容量を正確に求めることができる。
【0048】
したがって、正確な短絡容量を定期的に監視することが可能となり、短絡容量抑制対策となる系統分割の運用に際しても、その実施を必要最小限のケースに絞ることができる。これにより、系統運用の柔軟性を確保して、系統連系のメリットを活かすことができる。また、実状に合う保護リレー整定値も選定可能なので、電力品質の向上に寄与することができる。
【0049】
(2)第2の実施形態
[構成]
次に、本発明に係る第2の実施形態について、図12を用いて説明する。図12は第2の実施形態における処理手順の一例を示している。
【0050】
第2の実施形態に係る電力系統の短絡容量監視システムでは、同期計測端末5にて経時的に同期計測する計測データとして、各計測点の三相電圧・電流フェーザ量D101’を用いており、短絡容量監視装置7の演算処理部9にて、データ収集・記憶ステップS102とデータセット作成ステップS103との間で、正相分演算を行う正相分演算ステップS106を行う点に特徴がある。
【0051】
正相分演算ステップS106では、同期計測端末5にて計測された三相電圧・電流フェーザ量Dデータ101’を入力し、対称座標変換することで電圧・電流フェーザ量の正相分D105を計算し、さらに、求めた正相分D105をデータセット作成手段91に送る。
【0052】
なお、正相分演算ステップS106を、短絡容量監視装置7の演算処理部9にて行うのではなく、同期計測端末5側で行うようにしてもよい。この場合、同期計測端末5では電圧・電流フェーザ量の正相分D104を経時的に同期計測し、計測した正相分D105を、短絡容量監視装置7に送ることになる。
【0053】
[作用効果]
第2の実施形態では、上記第1の実施形態の持つ作用効果に加えて、計測データとして三相電圧・電流フェーザ量D101’を採用したことで、系統における不平衡の影響を排除することができる。このため、より高い精度で短絡容量を求めることが可能となる。
【0054】
(3)第3の実施形態
[構成]
続いて、本発明に係る第3の実施形態について説明する。第3の実施形態の特徴は、短絡容量監視装置7のデータセット作成部91によるデータセット作成ステップS103にある。
【0055】
推定用データセットは、複数回計測した電圧フェーザ量と電流フェーザ量からなるため、一定の分布を持つ。第3の実施形態では、データセット作成部91によるデータセット作成ステップS103において、サンプル周期T1と、データセットV1k、I1k、V2k、I2k(k=1、2、…、n)に含まれるデータの数nを可変とし、任意の計測地点の電流I2の大きさの分布を基準として、データセットV1k、I1k、V2k、I2kの計測期間を選定する点に特徴がある。例えば、30分以内で標準偏差σが一定以上となる分布の計測値10点を、推定用のデータセットV1k、I1k、V2k、I2kとして選定する。標準偏差σの大きさは、計測地点の負荷の大きさによるので、例えば負荷平均値の5%以上となる分布を選ぶようにする。
【0056】
ここで、電力系統1の微小変動が大きい場合と、電力系統1の微小変動が小さい場合とで、どのようにして推定用データセットを選定するのかについて、図13、図14のグラフを用いて説明する。図13は電力系統1の微小変動が大きい場合のフェーザ量分布を示しており、図14では系統の微小変動が小さい場合のフェーザ量分布を示している。
【0057】
なお、図13、図14において、左側の(a)は縦軸に頻度を示したデータセットV1k、I1k、V2k、I2kのフェーザ量の分布図、右側の(b)は縦軸に電流I2を示した時間変化の概念図であって、ある時刻に計測した、1箇所の計測地点の電流I2の大きさの分布を示している。
【0058】
このうち、電力系統1の微小変動が大きいということは、データセットV1k、I1k、V2k、I2kの分布のバラツキが大きいことを表している(図13(a)においてデータ区間が左右方向に広がっている状態を示す)。また、電力系統1の微小変動が小さければ、データセットV1k、I1k、V2k、I2kの分布のバラツキも小さくなる(図13(b)においてデータ区間が左右方向にまとまっている状態を示す)。このとき、データセットV1k、I1k、V2k、I2kの計測期間が短過ぎると、計算誤差が生じる。一方、データセットV1k、I1k、V2k、I2kの計測期間が長過ぎれば、計測期間中に系統の背後インピーダンスZsys0が変化することがある。
【0059】
そこで、第3の実施形態では、系統の変動状態に応じてデータセットV1k、I1k、V2k、I2kの計測期間を考慮しつつ、データセットV1k、I1k、V2k、I2kにおける電圧・電流フェーザ量の分布幅を広く持たせるように、推定用データセット作成部91にて推定用データセットのサンプル周期T1とデータ数nを選定するようにする。なお、以上の説明では電流の分布を基準として、推定用のデータセットV1k、I1k、V2k、I2kの計測期間を選定したが、電流の分布を基準とする以外にも、電圧の分布や位相の分布を基準として、データセットの計測期間を選定するようにしてもよい。
【0060】
[作用効果]
以上のような第3の実施形態によれば、次のような独自の作用効果がある。すなわち、データセット作成部91におけるデータセット作成ステップS103にて、データセットV1k、I1k、V2k、I2kの作成に際してサンプル周期T1とデータ数nを可変としたことで、背後インピーダンスZsys0を高い精度で推定可能である。これにより、計算誤差を小さくすることができ、精度良く短絡容量を求めることができる。
【0061】
(4)第4の実施形態
[構成]
次に、本発明に係る第4の実施形態について、図15、図16を用いて説明する。
【0062】
第4の実施形態は、前記第3の実施形態と同じく、データセット作成部91によるデータセット作成ステップS103に改良を加えたものである。すなわち、第4の実施形態におけるデータセット作成ステップS103では、集めたデータセットV1k、I1k、V2k、I2kの中から外れ値を検出し、これを除いた上でデータセットV1k、I1k、V2k、I2kを作成するようにしたことを特徴としている。
【0063】
データセットV1k、I1k、V2k、I2kは、複数回計測した電圧フェーザ量と電流フェーザ量からなるため、一定の分布を持つ。電流または位相の分布についても同様である。図15、図16では、ある時刻に計測した、1箇所の計測地点の電圧フェーザ量の大きさの分布を示している。
【0064】
このうち、図15では電圧フェーザ量の外れ値が無い分布を示しており、図16では電圧フェーザ量の外れ値がある分布を示している。外れ値とは、系統の不測の変動などにより、他の分布から著しく外れたデータである。このような外れ値は、例えばスミルノフ・グラブズ検定など統計処理を行って検出することができる。図16のように推定用のデータセットV1k、I1k、V2k、I2kの分布の中に、他の計測値から外れた値がある場合は、データセット作成部91では外れ値を除いた上でデータセットV1k、I1k、V2k、I2kを作成し、背後インピーダンス推定部92に与えることになる。
【0065】
[作用効果]
以上のような第4の実施形態によれば、データセット作成部91によるデータセット作成ステップS103において、データセットV1k、I1k、V2k、I2kの中で外れ値を予め除いておくので、系統における不測の変動による影響を受ける心配が無い。したがって、背後インピーダンスZsys0の推定精度を高めて、計算誤差を小さくすることができる。これにより、常に正確な短絡容量を求めることができる。
【0066】
(5)第5の実施形態
[構成]
次に、本発明に係る第5の実施形態について、図17、図18を用いて説明する。
【0067】
第5の実施形態は、前記第4の実施形態と同じく、演算処理時に外れ値を除外するものであるが、データセット作成ステップS103を行う時に外れ値を除外するのではなく、短絡容量計算ステップS105を行った際に短絡容量Pscあるいは短絡電流Iscの中で外れ値を除外するようにしたことに特徴がある。
【0068】
図17、図18に示した概念図では、時刻ごとの短絡容量Pscの計算結果(各図上段の(a))と、一定期間の短絡容量Pscの分布(各図下段の(b))を現している。短絡容量計算部93による短絡容量計算ステップを逐次繰り返すことで、短絡容量Pscの時間変化をみることができる。図17では短絡容量Pscの外れ値が無い場合を示しており、図18では短絡容量Pscの外れ値がある場合を示している。
【0069】
短絡容量計算ステップS105の実施による1回の短絡容量計算では、短絡容量Pscの分布が得られるので、代表値(例えば分布の中央値、最頻値あるいは平均値など)を計算してプロットしている。そして、一定期間の短絡容量Pscの代表値は分布を持つことになる。このとき、図18(b)のように短絡容量計算結果の分布の中に、他の計測値から外れた外れ値がある場合は、その外れ値を取り除く。なお、外れ値の検出は、上記第4の実施形態と同じく、例えばスミルノフ・グラブズ検定など統計処理を行うことで、実施可能である。
【0070】
[作用効果]
以上のような第5の実施形態によれば、短絡容量計算部93による短絡容量計算ステップにて外れ値である短絡容量Pscを取り除くことで、系統の不測の変動や急変による影響を確実に排除することができる。
【0071】
(6)第6の実施形態
[構成]
本発明に係る第6の実施形態について、図19を参照して説明する。図19は、第6の実施形態の処理フローを示す図である。
【0072】
図19に示すように、第6の実施形態では、短絡容量計算部93による短絡容量計算ステップS105において、特性の異なる複数の短絡容量計算方法1〜mを用意しておき、予め設定しておいた判断基準に基づいて複数の短絡容量計算方法1〜mの中から1つを選定するようになっている。このとき、計算方法の判断基準に関しては、系統構成の状態、短絡容量Pscの大きさ、短絡容量Pscの時間変化、系統の微小変動幅など、複数の基準を設定可能である。
【0073】
例えば、5つの短絡容量計算方法を用意しておき、最も一般的な計算方法を計算方法1とする。計算方法2は、系統の微小変動に強いという特性を持ち、計算方法3は計測地点間に負荷がある場合に有効である。また、計算方法4は短絡容量Pscの時間変化に対応可能、計算方法5は短絡容量Pscが小さい場合に有利であるといった特性を持つ。
【0074】
このような計算方法1〜5において、計算方法1をデフォルトとし、計算方法2〜5の選定を決める判断基準は、次の通りとする。計算方法2では微小変動の閾値σ、計算方法3では負荷の存在、計算方法4では短絡容量Pscの時間変化の有無、計算方法5では短絡容量Pscの閾値PscXである。
【0075】
すなわち、系統微小変動が閾値σよりも小さい場合、又は計測地点間に負荷が無い場合、又は短絡容量が一定の場合、又は短絡容量Pscが閾値PscXよりも大きい場合、短絡容量計算部93による短絡容量計算ステップS105では、短絡容量計算方法1を採用する。
【0076】
これに対して、系統微小変動が閾値σよりも大きい場合には計算方法2を採用する。また、計測地点間に負荷が有る場合には計算方法3を採用し、短絡容量Pscに時間変化があった場合には計算方法4を採用する。さらに、短絡容量Pscが閾値PscXよりも小さい場合には計算方法5を、それぞれ採用する。
【0077】
なお、計算方法2〜5の採用基準が重なった場合、各計算方法の優先順位は、計算方法2、3、4、5の順番として、計算方法を1つだけ採用する。例えば、系統微小変動が閾値σよりも大きく、且つ計測地点間に負荷が有る場合には、計算方法2と3の採用基準を満たすことになるので、計算方法2を採用する。
【0078】
また、短絡容量scに時間変化があり、且つ短絡容量Pscが閾値PscXよりも小さい場合には計算方法4と5の採用基準を満たすことになるので、計算方法4を採用する。なお、計算方法を1つだけ採用するのではなく、計算方法1〜5のうち、複数の計算方法を採用して複数の短絡容量Pscを求めておき、最終的に1つの短絡容量Pscを選択するようにしても良い。
【0079】
[作用効果]
以上のような第6の実施形態によれば、上記実施形態の持つ作用効果に加え、系統の状態に応じた最適な計算方法を採用することで、精度良く短絡容量を求めることができるといった、独自の作用効果を発揮することができる。
【0080】
(7)第7の実施形態
[構成]
本発明に係る第7の実施形態について、図20を参照して説明する。図20は、第7の実施形態の構成図である。図20に示すように、第7の実施形態における短絡容量監視システムでは、短絡容量監視装置7に通信制御部11を備え、伝送路12を介して同期計測端末5から電圧・電流フェーザ量をオンラインで収集することに特徴がある。
【0081】
[作用効果]
以上のような構成を有する第7の実施形態によれば、オンライン計測した電圧・電流フェーザ量を用いて逐次、短絡容量の推定演算を行うことができる。このため、短絡容量を常時連続的に監視可能であり、電力系統の信頼性の向上に寄与することができる。
【0082】
(8)他の実施形態
なお、本発明は以上の実施形態に限定されるものではなく、同期計測端末の設置数や短絡容量監視装置の構成などは適宜変更可能である。例えば、第1の実施形態において、推定用のデータセットD102の推定サンプル間隔T1は、計測間隔T0と等しくしたが、推定サンプル間隔T1と計測間隔T0と等しくなくてもよく、図21に示すように、推定サンプル間隔T1>計測間隔T0と設定してもよい。このようにして、推定サンプル周期T1毎にデータ数nのデータセットD102を作成することも可能である。
【符号の説明】
【0083】
1…電力系統
2…発電機
3…送電線
4…負荷
5…同期計測端末
6…同期信号用衛星
7…短絡容量監視装置
8…データ収集・記憶部
9…演算処理部
91…データセット作成部
92…背後インピーダンス推定部
93…短絡容量計算部
10…表示/入出力部
11…通信制御部
12…伝送路
【技術分野】
【0001】
本発明は、実状に合った短絡容量の計測が可能な電力系統の短絡容量監視方法およびシステムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
電力系統で短絡故障が発生すると、系統に接続した発電機から短絡地点に向かって短絡電流が流れる。この短絡電流に線間電圧を乗じた値が短絡容量となるが、近年の電力系統では短絡容量が増加傾向にある。これは、基幹系統では大規模電源が偏在化し、下位系統では分散電源の導入が拡大しているためである。
【0003】
電力系統の短絡容量が増加すれば系統事故時に流れる短絡電流も大きくなり、既存の遮断器の定格遮断容量を超えるおそれがある。この場合、それまでの遮断器を上位定格遮断器へ取替えることが考えられるが、コストの高騰を招くことは否めない。そこで、高インピーダンス機器や限流リアクトルの採用や、系統分割により、電力系統の短絡容量を抑える技術が提案されている。
【0004】
中でも、系統分割は、短絡容量の抑制対策として非常に有効である。具体的には、常時系統を分割する方式、高次系統電圧を新たに導入して既存の系統を分割する方式、直流連系(BTB:Back to Back)により交流系統を分割する方式などが知られている。
【0005】
しかしながら、電力系統の短絡容量の抑制化対策として系統の分割運用が実施されると、系統運用の硬直化が余儀なくされ、系統連系のメリットが損なわれる可能性がある。つまり、系統運用の柔軟性を確保する上で、系統の分割運用は必要最小限に抑えることが望ましい。
【0006】
そのためには、短絡容量を正確に把握することが不可欠である。正確な短絡容量を把握することで、実状に合う保護リレー整定値の選定が可能となる。つまり、系統保護の観点から見ても、短絡容量を知ることは重要である。
【0007】
ところが、短絡故障発生時の系統構成の状態(例えば上位系での系統切り替えなど)や発電機並列台数、さらには短絡地点の位置や故障の種類など、様々な要因によって、電力系統の短絡容量は、その大きさ及び分布が絶えず変化する。
【0008】
電力系統の短絡容量を直接測定することは困難であるため、従来では、系統を構成する送電線、変圧器、発電機など、予め定められた系統設備の定数を用いることにより、短絡容量を計算していた(例えば、非特許文献1参照)。ただし、系統設備の定数を用いる場合、全ての発電機並解列状態や系統構成を反映した上で計算しなくてはならず、面倒である。短絡容量の測定方法としては、間接的な電力系統の短絡容量計測方法が一般的である。例えば、電力用コンデンサあるいは分路リアクトルの投入に伴う電圧変動率の測定値から、短絡容量を間接的に求める(非特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】新田目 倖造著「電力系統技術計算の応用」電気書院,5章 p.121-194
【非特許文献2】新田目 倖造著「電力系統技術計算の応用」電気書院,9章p.401-402
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかしながら、既に述べたように、系統構成の状態などによって電力系統の短絡容量は絶えず変わる。したがって、実状に合った短絡容量を厳密に求めることは容易ではなく、上述した従来技術には次のような課題が指摘されていた。すなわち、非特許文献1のように、系統設備の定数を用いた計算によって短絡容量を求めたとしても、その計算結果が実際に系統の状態を現しているかどうかを評価することができなかった。
【0011】
また、非特許文献2のように、電圧変動率の測定値から間接的に短絡容量を求める簡易的な計算方法を用いた場合では、電力用コンデンサあるいは分路リアクトルの投入タイミングに基づいて短絡容量を計測している。このため、所望の断面について短絡容量の計測を行うことは難しかった。
【0012】
本発明は、上述した課題を解決するために提案されたものであり、複数の計測地点で経時的に同期計測した複数のデータを用いて、所望の断面における実状に合った短絡容量を把握、監視可能な電力系統の短絡容量監視方法およびそのシステムを提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記目的を達成するため、本発明は、電力系統の短絡容量を監視する方法であって、電力系統での送電線を介した少なくとも2つの計測地点において、各計測地点の電圧および電流のフェーザ量を経時的に同期計測するデータ計測ステップと、前記データ計測ステップにて計測した計測データを収集するデータ収集ステップと、前記データ収集ステップにて収集した計測データに基づいて所定の周期毎に複数のデータ数を持つデータセットを作成するデータセット作成ステップと、前記データセット作成ステップにて作成した前記データセットを用いて短絡地点から電源側を見た背後インピーダンスを推定する背後インピーダンス推定ステップと、前記背後インピーダンス推定ステップにて推定した前記背後インピーダンスにより短絡容量を計算する短絡容量計算ステップを含むことを特徴とする。
【発明の効果】
【0014】
本発明に係る電力系統の短絡容量監視方法およびシステムによれば、複数の計測地点にて電圧と電流のフェーザ量を同期計測し、複数の同期計測データを用いて背後インピーダンスを推定演算することで、推定した背後インピーダンスに基づき、実状に合った短絡容量を計算することが可能となり、正確な短絡容量を把握、監視することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明に係る第1の実施形態の構成図。
【図2】第1の実施形態の処理フローを示す図。
【図3】第1の実施形態において各計測地点の電圧・電流フェーザ量から推定用データセットを作成する処理の説明図。
【図4】第1の実施形態における短絡発生時の電力系統の説明図。
【図5】第1の実施形態における短絡前の等価回路の説明図。
【図6】第1の実施形態における短絡インピーダンスの説明図。
【図7】第1の実施形態における短絡時の等価回路の説明図。
【図8】第1の実施形態において送電線を介した2地点で計測した場合の短絡発生時の電力系統の説明図。
【図9】第1の実施形態において送電線を介した2地点で計測した場合の短絡前の等価回路の説明図。
【図10】第1の実施形態において送電線を介した2地点で計測した場合の短絡インピーダンスの説明図。
【図11】第1の実施形態において送電線を介した2地点で計測した場合の短絡時の等価回路の説明図。
【図12】本発明に係る第2の実施形態の処理フローを示す図。
【図13】本発明に係る第3の実施形態において、系統の微小変動が大きい場合を説明するためのグラフであって、(a)は推定用データセットのフェーザ量の分布図、(b)は時間変化の概念図。
【図14】本発明の係る第3の実施形態において、系統の微小変動が小さい場合を説明するためのグラフであって、(a)は推定用データセットのフェーザ量の分布図、(b)は時間変化の概念図。
【図15】本発明に係る第4の実施形態を説明するためのグラフであって、計測した電圧フェーザ量に外れ値が無い分布を示すグラフ。
【図16】本発明に係る第4の実施形態を説明するためのグラフであって、計測した電圧フェーザ量に外れ値が有る分布を示すグラフ。
【図17】本発明に係る第5の実施形態を説明するためのグラフであって、計測した短絡容量に外れ値が無い場合で、(a)は時刻ごとの短絡容量の計算結果、(b)は一定期間の短絡容量の分布を示すグラフ。
【図18】本発明に係る第5の実施形態を説明するためのグラフであって、計測した短絡容量に外れ値が有る場合で、計測した電圧フェーザ量に外れ値が有る分布を示すグラフ。
【図19】本発明に係る第6の実施形態の処理フローを示す図。
【図20】本発明に係る第7の実施形態の構成図。
【図21】本発明の他の実施形態において各計測地点の電圧・電流フェーザ量から推定用データセットを作成する処理の説明図。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明に係る実施形態の一例について、図面を参照して具体的に説明する。なお、各実施形態において同一の構成については同一の符号を付し、重複する説明は省略する。
【0017】
(1)第1の実施形態
[構成]
本発明に係る第1の実施形態について、図1を用いて説明する。第1の実施形態は電力系統1における短絡容量を監視するシステムであって、図1は第1の実施形態の構成図である。図1に示すように、電力系統1には複数の発電機2が接続されると共に、送電線3を介して複数の負荷4が接続されている。各負荷4の接続点には同期計測端末5が設置されている。符号6は同期信号用衛星を示している。
【0018】
同期信号用衛星6は、GPS(Grobal Positioning System:全地球測位システム)信号を、同期信号として同期計測端末5に送信するようになっている。同期計測端末5は、同期信号用衛星6から送信される同期信号を用いて、負荷4の接続点における線間電圧のフェーザ量および線電流のフェーザ量を、経時的に同期計測するように構成されている。なお、以下の説明では、電圧と電流は各々、線間電圧と線電流を表しており、電圧・電流のフェーザ量とは、電圧および電流の大きさと位相に関するデータである。
【0019】
同期計測端末5には、PMU(Phasor Measurement Unit)が組み込まれている。PMUは、同期信号用衛星6からGPS信号を所定の計測周期で受信し、受信したGPS信号を同期信号として高精度なフェーザ量の同期計測を実現して計測データを出力する装置である(フェーザ通信規格に関しては、IEEE Standard C37.118-2005を参照)。また、各同期計測端末5には、電圧・電流のフェーザ量を計測データとして送信する通信手段が設けられている。
【0020】
第1の実施形態に係る短絡容量監視システムにおいて、上記の同期計測端末5および同期信号用衛星6がデータ計測手段を構成し、短絡容量監視装置7が本システムの主要部を構成する。短絡容量監視装置7には、通信手段を介して各同期計測端末5が接続されており、以下のような機能を持つ部分が組み込まれている。すなわち、短絡容量監視装置7には、各同期計測端末5からの計測データを収集、記憶するデータ収集記憶部8と、計測データに基づいて短絡容量を求める演算を行う演算処理部9と、パラメータの設定や結果表示を行う表示/入出力部10とが設置されている。また、短絡容量監視装置7の演算処理部9には演算処理を担う機能的な部分として、データセット作成部91、背後インピーダンス推定部92、短絡容量計算部93が設けられている。
【0021】
[全体の処理フロー]
続いて第1の実施形態による電力系統の短絡容量監視方法について、図2の処理フローを用いて具体的に説明する。まず、同期信号用衛星6から送信される同期信号を用いて、同期計測端末5が各計測地点である計測点1、2の電圧・電流のフェーザ量D101を経時的に同期計測し(データ計測ステップS101)、短絡容量監視装置7のデータ収集記憶部8にて電圧・電流のフェーザ量D101を収集、記憶する(データ収集・記憶ステップS102)。
【0022】
また、短絡容量監視装置7の演算処理部9では、データセット作成部91によるデータセット作成ステップS103、背後インピーダンス推定部92による背後インピーダンス推定ステップS104、短絡容量計算部93による短絡容量計算ステップS105を順次行う。
【0023】
すなわち、データセット作成部91では、収集・記憶した電圧・電流のフェーザ量D101に基づいて、計測周期T0毎に複数のデータ数nを持つデータセットD102を作成する(データセット作成ステップS103)。このデータセットD102を用いて、背後インピーダンス推定手段92が背後インピーダンスD103を推定する(背後インピーダンス推定ステップS104)。最後に、推定した背後インピーダンスD103に基づいて、短絡容量計算手段93が短絡容量D104を計算する(短絡容量計算ステップS105)。
【0024】
[データセット作成ステップ]
以下、演算処理部9によるステップS103〜S105について、詳しく説明する。まず、データセット作成部91によるデータセット作成ステップS103について、図3を用いて説明する。図3は、計測点1、2における電圧・電流フェーザ量D101からデータセットD102を作成する方法に関しての説明図である。
【0025】
図3中の電圧・電流フェーザ量D101は、計測点1、2において同期計測端末5により経時的に同期計測された線間電圧および線電流のフェーザ量である。図3に示した例では、計測周期T0毎に各計測点1、2の電圧および電流のフェーザ量V1k、I1kをそれぞれn個収集している(k=1、2、…n)。
【0026】
つまり、計測点1側では、n個の電圧および電流のフェーザ量V11、I11、…V1n、I1nを収集し、これらの計測データからデータセットD102Aを作成する。また、計測点2側でもn個の電圧および電流のフェーザ量V21、I21、…V2n、I2nを収集し、これらの計測データからデータセットD102Bを作成する。なお、推定用のデータセットD102の推定サンプル間隔T1は、計測間隔T0と等しく設定している。また、図3の中では、電気量を示すアルファベットの上に傍点を付しているが、これはフェーザ量であることを示す。また、他の図面および後述する各数式においても、フェーザ量の記述に関しては同様である。
【0027】
[背後インピーダンス推定ステップ]
背後インピーダンス推定ステップS104では、以上のようにして作成したデータセットD102を複数用いて、背後インピーダンス推定部92が背後インピーダンスを推定する。
【0028】
図4は、短絡発生時の電力系統について、短絡地点から電源側を見た背後インピーダンスZsys0(=Rsys0+jXsys0)と、短絡地点から負荷側を見た負荷インピーダンスZL2で表した図である。また、図5は、短絡前の等価回路であって、VG(=VGr+jVGi)は背後電圧である。
【0029】
背後電圧VGと背後インピーダンスZsys0、さらに1つの地点の計測データである電圧・電流フェーザ量Vk、Ik(k=1、2、…n)については、下記(1)式の関係が成立する。
【数1】
【0030】
上記(1)式に次の(2)式を代入すると、(1)式の関係は(3)式で示すことができる。
【数2】
【数3】
【0031】
各計測地点において、n個の電圧・電流フェーザ量Vk、Ikを計測する期間は、系統の微小変動のみであって、背後インピーダンスZsys0は変化しないと仮定すると、Vrk、Vik、Irk、Iikという複数の計測データについて、上記(3)式が成り立つことになる。
【0032】
したがって、例えば最小二乗法を適用することにより、背後電圧VG(=VGr+jVGi)と、背後インピーダンスZsys0(=Rsys0+jXsys0)を求めることができる。なお、背後電圧VGおよび背後インピーダンスZsys0の求解は、最小二乗法に限らず、(3)式の誤差を最小化する解を求める方法であれば、適宜選択自由である。
【0033】
[短絡容量計算ステップ]
短絡容量計算ステップS105では、短絡容量計算部93にて、推定した背後インピーダンスZsys0および負荷インピーダンスZL2を用いて短絡インピーダンスZscを計算し、そこから短絡電流Iscおよび短絡容量Pscを計算する。
【0034】
負荷インピーダンスZL2は、電圧Vと電流Iの計測値から、次の(4)式により求められる。
【数4】
【0035】
テブナンの定理から、短絡地点から見た内部インピーダンスが短絡インピーダンスZscとなり(図6参照)、短絡インピーダンスZscは下記の(5)式にて与えられる。すなわち、負荷インピーダンスZL2と背後インピーダンスZsys0との積を、負荷インピーダンスZL2と背後インピーダンスZsys0との和によって除した値が、短絡インピーダンスZscとなる。
【数5】
【0036】
このように求めた短絡インピーダンスZscにて、短絡前の計測点電圧Vを除した値が短絡電流Iscとなる(図7および(6)式参照)。
【数6】
【0037】
さらに、下記の(7)式に示すように、短絡電流Iscに短絡前の計測点電圧Vを乗じることで短絡容量Pscを求めることができる。
【数7】
【0038】
以上のようにして、短絡容量計算部92では、背後インピーダンス推定部92の推定した背後インピーダンスZsys0と、上記(4)〜(7)式を用いることにより、短絡容量Psc、短絡電流Iscを算出する。なお、求めた短絡容量Psc短絡電流Iscは、データセットD102のデータ数nの分布として得られる。そのため、実際の短絡容量Pscあるいは短絡電流Iscは、代表値として中央値、最頻値あるいは平均値などを採用する。
【0039】
[送電線を介した2地点で計測した場合の背後インピーダンス推定処理]
系統の中には、送電線や負荷が存在するので、複数の短絡地点における計測に加えて、送電線を介した地点においてもフェーザ量の計測を行うことで、冗長性を持たせると共に、背後インピーダンスの推定精度を高める必要がある。ここで、送電線を介した2地点で計測した場合の、背後インピーダンス推定ステップについて説明する。
【0040】
短絡発生時の電力系統について、送電線を介した負荷端から電源側を見た背後インピーダンスZsys(=Rsys+jXsys)、送電線インピーダンスZline、負荷インピーダンスZL1、ZL2で現すと、図8のようになる。また、短絡前の等価回路は図9で現される。テブナンの定理から、短絡地点から見た内部インピーダンスが短絡インピーダンスZscとなり、下記の(8)式のように表される(図10参照)。なお、短絡時の等価回路については、図11にて現される。
【数8】
【0041】
ここで、負荷インピーダンスZL1、ZL2は、各々計測値から(9)、(10)式によって計算できる。
【数9】
【数10】
【0042】
送電線インピーダンスZlineは定数を用いるか、あるいは計測値を用いて(11)式のように算出する。
【数11】
【0043】
2地点計測の場合、背後電圧VG、背後インピーダンスZsys、送電線インピーダンスZlineと、2つの地点の計測データ(経時的に計測した複数の電圧・電流フェーザ量)V1k、I1k、V2k、I2kに関しては、下記(12)式の関係が成立する。
【数12】
【0044】
上記(12)式に次の(13)式を代入すると、(12)式の関係は(14)式で示される。
【数13】
【数14】
【0045】
背後電圧VG(=VGr+jVGi)と背後インピーダンスZsys(=Rsys+jXsys)は、1地点計測の場合と同様にして、(14)式に対し、例えば最小二乗法を適用することで解くことができる。なお、背後電圧VGおよび背後インピーダンスZsysの求解は最小二乗法に限らず、(14)式の誤差を最小化する解を求める方法であれば、適宜選択自由である点も、1地点計測の場合と同様である。
【0046】
[送電線を介した2地点で計測した場合の短絡容量計算処理]
以上のようにして推定した背後インピーダンスZsysと、上記の(8)〜(11)式から、短絡インピーダンスZscを計算することができ、この計算結果と前記(1)〜(3)式を用いて、短絡電流Iscおよび短絡容量Pscを求めることが可能である。このような2地点計測を行った場合、各計測地点での負荷変動を、計測データによって捉えることができるので、背後インピーダンスZsysの推定誤差を小さくすることが可能である。
【0047】
[作用効果]
上述したように、第1の実施形態では、複数の同期計測データを用いて背後インピーダンスを推定し、推定した背後インピーダンスに基づいて短絡容量を計算することにより、たとえ短絡容量が変化したとしても、必要とする断面について実状に合った短絡容量を正確に求めることができる。
【0048】
したがって、正確な短絡容量を定期的に監視することが可能となり、短絡容量抑制対策となる系統分割の運用に際しても、その実施を必要最小限のケースに絞ることができる。これにより、系統運用の柔軟性を確保して、系統連系のメリットを活かすことができる。また、実状に合う保護リレー整定値も選定可能なので、電力品質の向上に寄与することができる。
【0049】
(2)第2の実施形態
[構成]
次に、本発明に係る第2の実施形態について、図12を用いて説明する。図12は第2の実施形態における処理手順の一例を示している。
【0050】
第2の実施形態に係る電力系統の短絡容量監視システムでは、同期計測端末5にて経時的に同期計測する計測データとして、各計測点の三相電圧・電流フェーザ量D101’を用いており、短絡容量監視装置7の演算処理部9にて、データ収集・記憶ステップS102とデータセット作成ステップS103との間で、正相分演算を行う正相分演算ステップS106を行う点に特徴がある。
【0051】
正相分演算ステップS106では、同期計測端末5にて計測された三相電圧・電流フェーザ量Dデータ101’を入力し、対称座標変換することで電圧・電流フェーザ量の正相分D105を計算し、さらに、求めた正相分D105をデータセット作成手段91に送る。
【0052】
なお、正相分演算ステップS106を、短絡容量監視装置7の演算処理部9にて行うのではなく、同期計測端末5側で行うようにしてもよい。この場合、同期計測端末5では電圧・電流フェーザ量の正相分D104を経時的に同期計測し、計測した正相分D105を、短絡容量監視装置7に送ることになる。
【0053】
[作用効果]
第2の実施形態では、上記第1の実施形態の持つ作用効果に加えて、計測データとして三相電圧・電流フェーザ量D101’を採用したことで、系統における不平衡の影響を排除することができる。このため、より高い精度で短絡容量を求めることが可能となる。
【0054】
(3)第3の実施形態
[構成]
続いて、本発明に係る第3の実施形態について説明する。第3の実施形態の特徴は、短絡容量監視装置7のデータセット作成部91によるデータセット作成ステップS103にある。
【0055】
推定用データセットは、複数回計測した電圧フェーザ量と電流フェーザ量からなるため、一定の分布を持つ。第3の実施形態では、データセット作成部91によるデータセット作成ステップS103において、サンプル周期T1と、データセットV1k、I1k、V2k、I2k(k=1、2、…、n)に含まれるデータの数nを可変とし、任意の計測地点の電流I2の大きさの分布を基準として、データセットV1k、I1k、V2k、I2kの計測期間を選定する点に特徴がある。例えば、30分以内で標準偏差σが一定以上となる分布の計測値10点を、推定用のデータセットV1k、I1k、V2k、I2kとして選定する。標準偏差σの大きさは、計測地点の負荷の大きさによるので、例えば負荷平均値の5%以上となる分布を選ぶようにする。
【0056】
ここで、電力系統1の微小変動が大きい場合と、電力系統1の微小変動が小さい場合とで、どのようにして推定用データセットを選定するのかについて、図13、図14のグラフを用いて説明する。図13は電力系統1の微小変動が大きい場合のフェーザ量分布を示しており、図14では系統の微小変動が小さい場合のフェーザ量分布を示している。
【0057】
なお、図13、図14において、左側の(a)は縦軸に頻度を示したデータセットV1k、I1k、V2k、I2kのフェーザ量の分布図、右側の(b)は縦軸に電流I2を示した時間変化の概念図であって、ある時刻に計測した、1箇所の計測地点の電流I2の大きさの分布を示している。
【0058】
このうち、電力系統1の微小変動が大きいということは、データセットV1k、I1k、V2k、I2kの分布のバラツキが大きいことを表している(図13(a)においてデータ区間が左右方向に広がっている状態を示す)。また、電力系統1の微小変動が小さければ、データセットV1k、I1k、V2k、I2kの分布のバラツキも小さくなる(図13(b)においてデータ区間が左右方向にまとまっている状態を示す)。このとき、データセットV1k、I1k、V2k、I2kの計測期間が短過ぎると、計算誤差が生じる。一方、データセットV1k、I1k、V2k、I2kの計測期間が長過ぎれば、計測期間中に系統の背後インピーダンスZsys0が変化することがある。
【0059】
そこで、第3の実施形態では、系統の変動状態に応じてデータセットV1k、I1k、V2k、I2kの計測期間を考慮しつつ、データセットV1k、I1k、V2k、I2kにおける電圧・電流フェーザ量の分布幅を広く持たせるように、推定用データセット作成部91にて推定用データセットのサンプル周期T1とデータ数nを選定するようにする。なお、以上の説明では電流の分布を基準として、推定用のデータセットV1k、I1k、V2k、I2kの計測期間を選定したが、電流の分布を基準とする以外にも、電圧の分布や位相の分布を基準として、データセットの計測期間を選定するようにしてもよい。
【0060】
[作用効果]
以上のような第3の実施形態によれば、次のような独自の作用効果がある。すなわち、データセット作成部91におけるデータセット作成ステップS103にて、データセットV1k、I1k、V2k、I2kの作成に際してサンプル周期T1とデータ数nを可変としたことで、背後インピーダンスZsys0を高い精度で推定可能である。これにより、計算誤差を小さくすることができ、精度良く短絡容量を求めることができる。
【0061】
(4)第4の実施形態
[構成]
次に、本発明に係る第4の実施形態について、図15、図16を用いて説明する。
【0062】
第4の実施形態は、前記第3の実施形態と同じく、データセット作成部91によるデータセット作成ステップS103に改良を加えたものである。すなわち、第4の実施形態におけるデータセット作成ステップS103では、集めたデータセットV1k、I1k、V2k、I2kの中から外れ値を検出し、これを除いた上でデータセットV1k、I1k、V2k、I2kを作成するようにしたことを特徴としている。
【0063】
データセットV1k、I1k、V2k、I2kは、複数回計測した電圧フェーザ量と電流フェーザ量からなるため、一定の分布を持つ。電流または位相の分布についても同様である。図15、図16では、ある時刻に計測した、1箇所の計測地点の電圧フェーザ量の大きさの分布を示している。
【0064】
このうち、図15では電圧フェーザ量の外れ値が無い分布を示しており、図16では電圧フェーザ量の外れ値がある分布を示している。外れ値とは、系統の不測の変動などにより、他の分布から著しく外れたデータである。このような外れ値は、例えばスミルノフ・グラブズ検定など統計処理を行って検出することができる。図16のように推定用のデータセットV1k、I1k、V2k、I2kの分布の中に、他の計測値から外れた値がある場合は、データセット作成部91では外れ値を除いた上でデータセットV1k、I1k、V2k、I2kを作成し、背後インピーダンス推定部92に与えることになる。
【0065】
[作用効果]
以上のような第4の実施形態によれば、データセット作成部91によるデータセット作成ステップS103において、データセットV1k、I1k、V2k、I2kの中で外れ値を予め除いておくので、系統における不測の変動による影響を受ける心配が無い。したがって、背後インピーダンスZsys0の推定精度を高めて、計算誤差を小さくすることができる。これにより、常に正確な短絡容量を求めることができる。
【0066】
(5)第5の実施形態
[構成]
次に、本発明に係る第5の実施形態について、図17、図18を用いて説明する。
【0067】
第5の実施形態は、前記第4の実施形態と同じく、演算処理時に外れ値を除外するものであるが、データセット作成ステップS103を行う時に外れ値を除外するのではなく、短絡容量計算ステップS105を行った際に短絡容量Pscあるいは短絡電流Iscの中で外れ値を除外するようにしたことに特徴がある。
【0068】
図17、図18に示した概念図では、時刻ごとの短絡容量Pscの計算結果(各図上段の(a))と、一定期間の短絡容量Pscの分布(各図下段の(b))を現している。短絡容量計算部93による短絡容量計算ステップを逐次繰り返すことで、短絡容量Pscの時間変化をみることができる。図17では短絡容量Pscの外れ値が無い場合を示しており、図18では短絡容量Pscの外れ値がある場合を示している。
【0069】
短絡容量計算ステップS105の実施による1回の短絡容量計算では、短絡容量Pscの分布が得られるので、代表値(例えば分布の中央値、最頻値あるいは平均値など)を計算してプロットしている。そして、一定期間の短絡容量Pscの代表値は分布を持つことになる。このとき、図18(b)のように短絡容量計算結果の分布の中に、他の計測値から外れた外れ値がある場合は、その外れ値を取り除く。なお、外れ値の検出は、上記第4の実施形態と同じく、例えばスミルノフ・グラブズ検定など統計処理を行うことで、実施可能である。
【0070】
[作用効果]
以上のような第5の実施形態によれば、短絡容量計算部93による短絡容量計算ステップにて外れ値である短絡容量Pscを取り除くことで、系統の不測の変動や急変による影響を確実に排除することができる。
【0071】
(6)第6の実施形態
[構成]
本発明に係る第6の実施形態について、図19を参照して説明する。図19は、第6の実施形態の処理フローを示す図である。
【0072】
図19に示すように、第6の実施形態では、短絡容量計算部93による短絡容量計算ステップS105において、特性の異なる複数の短絡容量計算方法1〜mを用意しておき、予め設定しておいた判断基準に基づいて複数の短絡容量計算方法1〜mの中から1つを選定するようになっている。このとき、計算方法の判断基準に関しては、系統構成の状態、短絡容量Pscの大きさ、短絡容量Pscの時間変化、系統の微小変動幅など、複数の基準を設定可能である。
【0073】
例えば、5つの短絡容量計算方法を用意しておき、最も一般的な計算方法を計算方法1とする。計算方法2は、系統の微小変動に強いという特性を持ち、計算方法3は計測地点間に負荷がある場合に有効である。また、計算方法4は短絡容量Pscの時間変化に対応可能、計算方法5は短絡容量Pscが小さい場合に有利であるといった特性を持つ。
【0074】
このような計算方法1〜5において、計算方法1をデフォルトとし、計算方法2〜5の選定を決める判断基準は、次の通りとする。計算方法2では微小変動の閾値σ、計算方法3では負荷の存在、計算方法4では短絡容量Pscの時間変化の有無、計算方法5では短絡容量Pscの閾値PscXである。
【0075】
すなわち、系統微小変動が閾値σよりも小さい場合、又は計測地点間に負荷が無い場合、又は短絡容量が一定の場合、又は短絡容量Pscが閾値PscXよりも大きい場合、短絡容量計算部93による短絡容量計算ステップS105では、短絡容量計算方法1を採用する。
【0076】
これに対して、系統微小変動が閾値σよりも大きい場合には計算方法2を採用する。また、計測地点間に負荷が有る場合には計算方法3を採用し、短絡容量Pscに時間変化があった場合には計算方法4を採用する。さらに、短絡容量Pscが閾値PscXよりも小さい場合には計算方法5を、それぞれ採用する。
【0077】
なお、計算方法2〜5の採用基準が重なった場合、各計算方法の優先順位は、計算方法2、3、4、5の順番として、計算方法を1つだけ採用する。例えば、系統微小変動が閾値σよりも大きく、且つ計測地点間に負荷が有る場合には、計算方法2と3の採用基準を満たすことになるので、計算方法2を採用する。
【0078】
また、短絡容量scに時間変化があり、且つ短絡容量Pscが閾値PscXよりも小さい場合には計算方法4と5の採用基準を満たすことになるので、計算方法4を採用する。なお、計算方法を1つだけ採用するのではなく、計算方法1〜5のうち、複数の計算方法を採用して複数の短絡容量Pscを求めておき、最終的に1つの短絡容量Pscを選択するようにしても良い。
【0079】
[作用効果]
以上のような第6の実施形態によれば、上記実施形態の持つ作用効果に加え、系統の状態に応じた最適な計算方法を採用することで、精度良く短絡容量を求めることができるといった、独自の作用効果を発揮することができる。
【0080】
(7)第7の実施形態
[構成]
本発明に係る第7の実施形態について、図20を参照して説明する。図20は、第7の実施形態の構成図である。図20に示すように、第7の実施形態における短絡容量監視システムでは、短絡容量監視装置7に通信制御部11を備え、伝送路12を介して同期計測端末5から電圧・電流フェーザ量をオンラインで収集することに特徴がある。
【0081】
[作用効果]
以上のような構成を有する第7の実施形態によれば、オンライン計測した電圧・電流フェーザ量を用いて逐次、短絡容量の推定演算を行うことができる。このため、短絡容量を常時連続的に監視可能であり、電力系統の信頼性の向上に寄与することができる。
【0082】
(8)他の実施形態
なお、本発明は以上の実施形態に限定されるものではなく、同期計測端末の設置数や短絡容量監視装置の構成などは適宜変更可能である。例えば、第1の実施形態において、推定用のデータセットD102の推定サンプル間隔T1は、計測間隔T0と等しくしたが、推定サンプル間隔T1と計測間隔T0と等しくなくてもよく、図21に示すように、推定サンプル間隔T1>計測間隔T0と設定してもよい。このようにして、推定サンプル周期T1毎にデータ数nのデータセットD102を作成することも可能である。
【符号の説明】
【0083】
1…電力系統
2…発電機
3…送電線
4…負荷
5…同期計測端末
6…同期信号用衛星
7…短絡容量監視装置
8…データ収集・記憶部
9…演算処理部
91…データセット作成部
92…背後インピーダンス推定部
93…短絡容量計算部
10…表示/入出力部
11…通信制御部
12…伝送路
【特許請求の範囲】
【請求項1】
電力系統の短絡容量を監視する方法であって、
電力系統での送電線を介した少なくとも2つの計測地点において、各計測地点の電圧および電流のフェーザ量を経時的に同期計測するデータ計測ステップと、
前記データ計測ステップにて計測した計測データを収集するデータ収集ステップと、
前記データ収集ステップにて収集した計測データに基づいて所定の周期毎に複数のデータ数を持つデータセットを作成するデータセット作成ステップと、
前記データセット作成ステップにて作成した前記データセットを用いて短絡地点から電源側を見た背後インピーダンスを推定する背後インピーダンス推定ステップと、
前記背後インピーダンス推定ステップにて推定した前記背後インピーダンスにより短絡容量を計算する短絡容量計算ステップを含むことを特徴とする電力系統の短絡容量監視方法。
【請求項2】
前記データセット作成ステップでは、系統の変動状態に応じてサンプル周期および前記データセットに含まれるデータの数を可変とすることを特徴とする請求項1記載の電力系統の短絡容量監視方法。
【請求項3】
前記データセット作成ステップでは、前記データセットの中で外れ値を除くことを特徴とした請求項1または請求項2記載の電力系統の短絡容量監視方法。
【請求項4】
前記短絡容量計算ステップでは、計算した短絡容量あるいは短絡電流の中で外れ値を除くことを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項に記載の電力系統の短絡容量監視方法。
【請求項5】
前記短絡容量計測ステップにて収集した電圧および電流のフェーザ量をオンラインで収集する通信ステップを含み、
前記短絡容量計算ステップでは逐次的に短絡容量あるいは短絡電流を計算することを特徴とする請求項1〜4のいずれか一項に記載の電力系統の短絡容量監視方法。
【請求項6】
電力系統の短絡容量を監視するシステムであって、
電力系統での送電線を介した少なくとも2つの計測地点において、各計測地点の電圧および電流のフェーザ量を経時的に同期計測するデータ計測手段と、
前記データ計測手段にて計測した計測データを収集するデータ収集手段と、
前記データ収集手段にて収集した計測データに基づいて所定の周期毎に複数のデータ数を持つデータセットを作成するデータセット作成手段と、
前記データセット作成手段にて作成した前記データセットを用いて短絡地点から電源側を見た背後インピーダンスを推定する背後インピーダンス推定手段と、
前記背後インピーダンス推定手段にて推定した前記背後インピーダンスにより短絡容量を計算する短絡容量計算手段を設けたことを特徴とする電力系統の短絡容量監視システム。
【請求項1】
電力系統の短絡容量を監視する方法であって、
電力系統での送電線を介した少なくとも2つの計測地点において、各計測地点の電圧および電流のフェーザ量を経時的に同期計測するデータ計測ステップと、
前記データ計測ステップにて計測した計測データを収集するデータ収集ステップと、
前記データ収集ステップにて収集した計測データに基づいて所定の周期毎に複数のデータ数を持つデータセットを作成するデータセット作成ステップと、
前記データセット作成ステップにて作成した前記データセットを用いて短絡地点から電源側を見た背後インピーダンスを推定する背後インピーダンス推定ステップと、
前記背後インピーダンス推定ステップにて推定した前記背後インピーダンスにより短絡容量を計算する短絡容量計算ステップを含むことを特徴とする電力系統の短絡容量監視方法。
【請求項2】
前記データセット作成ステップでは、系統の変動状態に応じてサンプル周期および前記データセットに含まれるデータの数を可変とすることを特徴とする請求項1記載の電力系統の短絡容量監視方法。
【請求項3】
前記データセット作成ステップでは、前記データセットの中で外れ値を除くことを特徴とした請求項1または請求項2記載の電力系統の短絡容量監視方法。
【請求項4】
前記短絡容量計算ステップでは、計算した短絡容量あるいは短絡電流の中で外れ値を除くことを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項に記載の電力系統の短絡容量監視方法。
【請求項5】
前記短絡容量計測ステップにて収集した電圧および電流のフェーザ量をオンラインで収集する通信ステップを含み、
前記短絡容量計算ステップでは逐次的に短絡容量あるいは短絡電流を計算することを特徴とする請求項1〜4のいずれか一項に記載の電力系統の短絡容量監視方法。
【請求項6】
電力系統の短絡容量を監視するシステムであって、
電力系統での送電線を介した少なくとも2つの計測地点において、各計測地点の電圧および電流のフェーザ量を経時的に同期計測するデータ計測手段と、
前記データ計測手段にて計測した計測データを収集するデータ収集手段と、
前記データ収集手段にて収集した計測データに基づいて所定の周期毎に複数のデータ数を持つデータセットを作成するデータセット作成手段と、
前記データセット作成手段にて作成した前記データセットを用いて短絡地点から電源側を見た背後インピーダンスを推定する背後インピーダンス推定手段と、
前記背後インピーダンス推定手段にて推定した前記背後インピーダンスにより短絡容量を計算する短絡容量計算手段を設けたことを特徴とする電力系統の短絡容量監視システム。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【公開番号】特開2012−90398(P2012−90398A)
【公開日】平成24年5月10日(2012.5.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−233924(P2010−233924)
【出願日】平成22年10月18日(2010.10.18)
【出願人】(000003078)株式会社東芝 (54,554)
【出願人】(000213297)中部電力株式会社 (811)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成24年5月10日(2012.5.10)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年10月18日(2010.10.18)
【出願人】(000003078)株式会社東芝 (54,554)
【出願人】(000213297)中部電力株式会社 (811)
【Fターム(参考)】
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