説明

電力線通信システムとその構築方法

【課題】 通信ケーブルが敷設されていない集合建築物であっても、通信信号の減衰を効率的に低減することができる、汎用性の高い電力線通信システムを提供する。
【解決手段】 本発明の電力線通信システム1は、電力線を信号伝送路として通信を行うものであり、幹線電力線3に接続された分電盤20と、この分電盤20を介して分岐する支線電力線とを有する既設の電力線網5を備えている。支線電力線4にはそれぞれ複数の子機モデム9が接続されている。この子機モデム9と通信する親機モデム8は、電力線3,4よりも通信信号の伝送特性が優れた通信ケーブル6を介して、電力線通信のための通信信号を分電盤20に注入及び抽出する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電力線を信号伝送路として通信を行う電力線通信システムとその構築方法に関する。特に、複数の住戸を有する複数階の集合建築物において、通信信号の減衰を低減して各住戸が良好に通信することができる電力線通信システムとその構築方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
電力線通信システム(Power Line Communication System:以下、PLCシステムと略記することがある。)は、周波数が50Hz又は60Hzの商用電流が流れる電力線に、通信信号としての高周波信号(数kHzから高いものでは数十MHz以上に及ぶ。)を重畳して通信を行うものである。
かかるPLCシステムは専用の通信回線を使用することなく、各家屋等に引き込まれた既設の電力線(配電線あるいは電灯線とも呼ばれる。)を利用して大容量のデータ送受信が可能なシステムとして注目されている(例えば、非特許文献1参照)。
【0003】
図8は、PLCユーザの家屋が複数階の集合建築物である場合の、PLCシステムを採用した集合建築物の斜視図であり、図9は、同システムの配線構造図である。
図8に示すように、この集合建築物31では、外部ネットワーク7から変圧器や開閉器等を含む電力機器32が収納された配電室2までの通信には、光ファイバ10を用い、電力機器32ら各住戸33までの通信には、配電室2から延びる低圧配電線(幹線)3と、この配電線3から分岐して各住戸33に通じる屋内配線(支線)4とを用いている。
【0004】
PLC信号で通信を行う親機モデム8は配電室2に設けられている。この親機モデム8は、光ファイバ10を介して外部ネットワーク7と通信が可能であり、光信号と電気信号(PLC信号)を相互変換するメディアコンバータとしての機能を併有している。
各住戸33の屋内配線4のコンセントにはそれぞれ子機モデム9が接続されている。この子機モデム9は、親機モデム8との間で電力線を介したPLC信号で通信を行い、パソコン等の端末機器11とLANケーブルを介してイーサネット(登録商標:以下同様)信号で通信を行う。
【0005】
なお、図8及び図9に示す例では、親機モデム8が光信号とPLC信号の相互変換を行うメディアコンバータ(MC)としての機能を有するが、光信号での外部ネットワークとの通信のためのメディアコンバータを別途設置する場合もある。また、この例では、配電室2が集合住宅の外部に配置されているが、その内部に配置される場合もある。
【0006】
上記構成のPLCシステムにおいて、例えば、住戸33のユーザが外部ネットワーク7に通信信号を送信する場合、端末機器11から伝送されたイーサネット信号は、子機モデム9にて抽出されてPLC信号に変調され、コンセント(図示せず)を介して屋内配線4に注入される。
そして、このPLC信号は、屋内配線4→分電盤→電力量メータ→低圧配電線3を経て電力機器32の低圧側(二次側)に伝搬され、電力機器32の低圧側に接続された親機モデム8によって抽出されて、光信号に変換される。この光信号は、光ファイバ10に注入されて外部ネットワーク7に伝送される。なお、ユーザが通信信号を受信する場合は、上記送信の場合と反対の経路を辿る。
【0007】
図9に示すように、PLCシステムに利用する低圧配電線3及び屋内配線4よりなる電力線網5には分岐が多く、しかも、電力線には通常シールドが施されていない。
従って、1台の親機モデム8で複数の子機モデム9の通信制御を行う場合、屋内配線4においてPLC信号の減衰が大きくなり、通信不能ないし通信困難な住戸33が生じうるという問題があり、住戸数の多い集合建築物31ではこの問題が特に顕著化する。
具体的には、親機モデム8の信号注入点から離れた住戸33では、親機モデム8と子機モデム9との間の伝送長さが大きく、かつ、その間の分岐も多くなるので、PLC信号の減衰量が多くなる。
【0008】
例えば、図9に示す配線構造の場合、最上階の屋内配線4の末端部分に位置する子機モデムS5では、そこに至るまでの間に電力線が6回分岐しているため、その分岐による信号減衰だけを考慮しても、信号レベルは1/2の6乗=1/128に低下することになる。
このため、特にこのような屋内配線4の末端部分では、PLC信号を子機モデム9によって抽出するのが困難になったり、子機モデム9からの通信信号を親機モデム8が抽出できなかったりする場合がある。
【0009】
そこで、集合建築物にPLCシステムを構築するに当たって、電力線だけではなく、通信信号の減衰がより少ない通信ケーブル(例えば、同軸ケーブルや電話線)を信号伝送路に利用することで、親機モデムと子機モデムの間の通信信号の減衰を低減する技術が既に提案されている(特許文献1参照)。
この従来のPLCシステムは、集合建築物に既に敷設された通信ケーブルと電力線との組み合せからなる信号伝送路と、通信ケーブルに対してPLC信号の注入及び抽出を行う親機モデムと、通信ケーブルと電力線との間でPLC信号を中継する中継装置と、電力線に接続された子機モデムとを備えている(特許文献1の図1)。
【0010】
【非特許文献1】江藤潔、「電力線搬送(PLC:Power Line Communication)の現状」、Interface、CQ出版社、2000年9月、pp.70-81
【特許文献1】特開2005−295501号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
上記特許文献1に記載のPLCシステムでは、親機モデムと中継装置との間の信号伝送路が信号減衰の少ない通信ケーブルであり、信号伝送路の一部に当該通信ケーブルが利用されるので、電力線のみで信号伝送路を構築する場合に比べて、通信信号の減衰を低減することができる。
しかし、かかる従来のPLCシステムでは、集合建築物に敷設された既設の通信ケーブルを利用してPLC信号の伝送を行っているので、通信ケーブルが敷設されていない集合建築物には適用できず、汎用性が低いという欠点がある。
【0012】
本発明は、このような実情に鑑み、通信ケーブルが敷設されていない集合建築物であっても、通信信号の減衰を効率的に低減することができる、汎用性の高い電力線通信システムとその構築方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明の電力線通信システム(請求項1)は、電力線を信号伝送路として通信を行う電力線通信システムであって、幹線電力線に接続された分電盤と、この分電盤を介して分岐する支線電力線とを有する電力線網と、前記支線電力線にそれぞれ接続された電力線通信を行う複数の子機モデムと、前記電力線よりも通信信号の伝送特性が優れた通信ケーブルを介して、電力線通信のための通信信号を前記分電盤に注入及び抽出する親機モデムと、を備えていることを特徴とする。
【0014】
また、上記電力線通信システムは、次の各工程を含む構築方法によって構築することができる(請求項4)。なお、かかる構築方法は、各工程(1)〜(3)の順序を入れ替えても成立する。
(1) 分電盤から分岐する既設の支線電力線に電力線通信を行う子機モデムを接続する工程
(2) 前記分電盤を含む電力線網の他に、電力線よりも通信信号の伝送特性が優れた通信ケーブルを電力線通信のための通信経路として新たに敷設する工程
(3) 電力線通信のための通信信号を前記通信ケーブルに注入及び抽出可能な親機モデムに接続された当該通信ケーブルを、前記分電盤に接続する工程
【0015】
本発明によれば、親機モデムが、電力線よりも通信信号の伝送特性が優れた通信ケーブルを介して、電力線通信のための通信信号(PLC信号)を分電盤に注入及び抽出するので、電力線のみで信号伝送路を構築する場合に比べて、通信信号の減衰を低減することができる。
しかも、本発明では、既設の電力線網に含まれる分電盤に通信信号を注入及び抽出するための通信ケーブルを新たに敷設するようにしたので、通信ケーブルを有しない集合建築物に対しても適用可能であり、システム構築の汎用性を向上することができる。
【0016】
本発明において、電力線通信システムを構築する建物が、前記幹線電力線とこれに接続された複数の前記分電盤とを収容するパイプシャフトを備えている場合には、前記親機モデムと前記通信ケーブルを前記パイプシャフトに収納することが好ましい(請求項2)。
この場合、新設される通信ケーブルや親機モデムが既設の幹線電力線や分電盤とともにパイプシャフトに収容されるので、電力線通信システムを省スペースで構築することができる。
【0017】
ところで、電力線通信システムでは電力線を通信信号の伝送路として利用するが、電力線は比較的信号の漏洩が大きく、アマチュア無線等に悪影響が生じるおそれがあるため、2006年10月に高速PLCが解禁された際にも、PLC信号での通信は「屋内」に限定するという規制がある。
しかし、上記規制の下では、例えばある敷地内に同一所有者の別個の建物がある場合であっても、建物毎に親機モデムを設置する必要があり、システム構築の効率が悪いという欠点がある。
【0018】
そこで、本発明において、異なる複数の建物に設置された配電系統が分離した前記電力線網を備えている場合には、前記親機モデムは、前記通信ケーブルを介して、電力線通信のための通信信号を複数の前記建物の前記各分電盤に対してそれぞれ注入及び抽出するものを採用することが好ましい(請求項3)。
この場合、親機モデムが、通信信号の伝送特性が優れた新設の通信ケーブルを介して、電力線通信のための通信信号を複数の建物の各分電盤に対してそれぞれ注入及び抽出するので、配電系統が分離した電力線網を一つの親機モデムで共通のローカルネットワークとして構築することができる。
【0019】
また、新設される通信ケーブル(例えば同軸ケーブル等)は、一般に電力線よりも外部漏洩が少ないので、当該通信ケーブルを複数の建物の外部に敷設しても、信号漏洩のおそれが殆どない。このため、アマチュア無線等に悪影響が生じるのを未然に防止しつつ、複数の建物の独立した電力線網に対して、共通のローカルネットワークを構築することができる。
【発明の効果】
【0020】
以上の通り、本発明によれば、信号伝送路の一部に伝送特性が優れた通信ケーブルを利用するとともに、その通信ケーブルを新たに敷設するようにしたので、通信ケーブルを有しない集合建築物に対しても、通信信号の減衰が少ない電力線通信システムを構築することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
以下、図面に基づいて、本発明の実施形態を説明する。
〔第一実施形態〕
図1は、本発明の第一実施形態に係る電力線通信システムの配線構造図である。
本実施形態の電力線通信システム1は、例えば高層マンション、高層ホテル又はオフィスビル等の集合建築物31、すなわち、一つの建屋で各階に複数の住戸33を有する複数階の集合建築物31を対象として構築されるもので、当該建築物31に敷設された電力線3,4を信号伝送路として通信を行う電力線通信システムである。
もっとも、建築物31は、必ずしも複数の住戸33を有するものや、複数階のものに限定されるものではなく、一つの建築物31に後述する分岐状の電力線網5が敷設される場合も包含する。
【0022】
図1に示すように、本実施形態の電力線通信システム1は、配電室2から延びる幹線電力線としての配電線3と、この配電線3に接続された分電盤20と、この分電盤20を介して分岐して各住戸33に通じる支線電力線としての屋内配線4とからなる既設の電力線網5と、電力線よりも伝送特性が優れた通信ケーブルの一つである同軸ケーブル6とを組み合わせ、PLC信号の信号伝送路を構築している。
なお、図1に示す配線構造では、電力線網5の分電盤20が集合建築物31の3階〜7階に合計5機あり、この各分電盤20の主幹ブレーカに配電線3が接続され、同各分電盤20の分岐ブレーカに屋内配線4がそれぞれ接続されている。
【0023】
また、この電力線通信システム1は、外部ネットワーク7と光信号等による通信が可能な親機モデム8と、建築物31の各住戸33に設置されかつ親機モデム8とPLC信号による通信が可能な子機モデム9とを備えている。
本実施形態の親機モデム8は、低周波帯域を利用する第一モデム8Aと、高周波帯域を利用する第二モデム8Bとからなり、これらの各モデム8A,8Bは、1本の光ファイバ10と、複数本(図例では2本又は3本)の同軸ケーブル6が接続されており、光信号とPLC信号を相互変換するメディアコンバータとしての機能を有する。
【0024】
従って、外部ネットワーク7からの下りの光信号は、親機モデム8A,8Bで下りのPLC信号に変換され、このPLC信号は、親機モデム8A,8Bに分岐接続された各同軸ケーブル6に注入される。
また、各同軸ケーブル6からの上りのPLC信号は、親機モデム8A,8Bで上りの光信号に変換され、この上りの光信号は光ファイバ10に注入される。
もっとも、光信号での外部ネットワーク7との通信のためのメディアコンバータ12(例えば図4参照)を、親機モデム8の上流側に別途設置する場合もある。
【0025】
各子機モデム9は、PLC信号とイーサネット信号等のローカルネットワーク信号を相互変換するメディアコンバータとしての機能を有する。すなわち、各子機モデム9は、親機モデム8との間で電力線を介したPLC信号で通信を行い、パソコン等の端末機器11(図8参照)とLANケーブルを介してローカルネットワークワーク信号で通信を行うものである。
なお、図1の配線構造では、3階〜7階に設置された各屋内配線4にはそれぞれ10個の子機モデム9が接続されており、従って、子機モデム9は合計50台ある。
【0026】
親機モデム8A,8Bから分岐する同軸ケーブル6は、キャパシティブカップリングユニット(信号結合器)21を介して各階の分電盤20の主幹ブレーカに接続されている。このカップリングユニット21は、電力線と同軸ケーブル6とを物理的に分断し、かつ、それらの間で高周波のPLC信号のみを伝送できるようにする結合器であり、例えば結合トランスを含んで構成されている。
このため、親機モデム8A,8Bから各同軸ケーブル6にそれぞれ注入された下りのPLC信号は、上記カップリングユニット21と分電盤20を介して各階の屋内配線4に注入される。
【0027】
また、子機モデム9から屋内配線4に注入された上りのPLC信号は、分電盤20とカップリングユニット21を介して同軸ケーブル6に注入される。
図1に示す集合建築物31では、既設の電力線網5を構成する配電線3とこれに接続された各分電盤20を収容する、各階に通じるパイプシャフト22を備えている。
そこで、本実施形態では、電力線通信システム1を構築する際に新設される同軸ケーブル6と親機モデム8を、配電線3や分電盤20とともに当該パイプシャフト22に収容することにより、電力線通信システム1を省スペースで構築するようにしている。
【0028】
上記電力線通信システム1は、例えば、各住戸33のコンセント13に子機モデム9を接続して、分電盤20から分岐する既設の屋内配線4に電力線通信を行う子機モデム9を接続する第一工程と、分電盤20を含む電力線網5の他に同軸ケーブル6を電力線通信のための通信経路として新たに敷設する第二工程と、PLC信号を同軸ケーブル6に注入及び抽出可能な親機モデム8に接続された当該通信ケーブル6を、分電盤20に接続する第三工程とを行うことによって構築することができる。
なお、上記第一〜第三工程は、必ずしもその順番で行う必要はなく、その順序を入れ替えてもよい。
【0029】
図2は、第一実施形態の比較例に係る電力線通信システムの配線構造図である。
この比較例の電力線通信システム1が第一実施形態の電力線通信システム1と異なる点は、親機モデム8の下り側の信号伝送路が従来通りの電力線23よりなり、この電力線23を分電盤20の主幹ブレーカに接続している点にある。
なお、図2に示す比較例では、親機モデム8から延びる電力線23は、4階と7階の分電盤20に接続され、残りの3階、5階及び6階の分電盤20には、親機モデム8からのPLC信号を中継する中継装置24が接続されている。
【0030】
図3(a)は、第一実施形態の通信システムにおける5階〜7階の各住戸の実効速度を示す棒グラフであり、図3(b)は、比較例の通信システムにおける5階〜7階の各住戸の実効速度を示す棒グラフである。
なお、これらのグラフにおいて、横軸は各住戸33の部屋番号を示し、縦軸は各部屋番号での実効速度(Mbps)を示している。また、ハッチング(斜線)付きの棒グラフが下り速度であり、ハッチング無しの白抜きの棒グラフが上り速度である。
【0031】
図3(a)と図3(b)を対比すれば明らかなように、比較例の通信システム(図2)の場合には、中継装置24で信号注入している5階と6階の住戸33での実効速度が低くなっているのに対して、第一実施形態の電力線通信システム1(図1)の場合には、5階〜7階のすべての住戸33において良好な実効速度が得られている。
このように、本実施形態の電力線通信システム1によれば、親機モデム8が、電力線3,4よりも通信信号の伝送特性が優れた通信ケーブルである同軸ケーブル6を介して、PLC信号を分電盤20に注入及び抽出するので、電力線3,4のみで信号伝送路を構築する場合に比べて、通信信号の減衰を低減することができる。
【0032】
また、本実施形態の電力線通信システム1では、既設の電力線網5に含まれる分電盤20に通信信号を注入及び抽出するための同軸ケーブル6を新たに敷設するようにしたので、同軸ケーブル6その他の通信専用のケーブルがなくて電力線網5しか有していない集合建築物31に対しても、信号減衰が少ないPLCシステムを構築することができ、PLCによるシステム構築の汎用性を向上することができる。
【0033】
更に、本実施形態の電力線通信システム1では、伝送特性が優れた複数本の同軸ケーブル6が各親機モデム8A,8Bから分岐しており、この分岐した各同軸ケーブル6をそれぞれ別個の分電盤20に接続しているので、中継装置24(図2参照)を設けなくても良好な信号伝送が可能となり、システム構築に必要なモデム数を低減できるという利点もある。
【0034】
〔第二実施形態〕
図4は、本発明の第二実施形態に係る電力線通信システムの配線構造図である。
本実施形態の電力線通信システム1は、例えば学校、役所又は研究所等の集合建築物31、すなわち、比較的広い敷地の範囲で複数の建屋31A〜31Dに分かれており、その各建屋31A〜31Dが複数階建ての集合建築物31を対象として構築されたもので、当該建築物31に敷設された電力線3,4を信号伝送路として通信を行う電力線通信システムである。
【0035】
図4に示すように、本実施形態の集合建築物31は、3階建ての西建屋31Aと、2階建ての中央建屋31Bと、3階建ての東建屋31Cと、2階建ての北建屋31Dとから構成されている。
本実施形態の電力線通信システム1は、配電室2から各建屋31A〜31Dに延びる幹線電力線としての配電線3と、この配電線3に接続された分電盤20と、この分電盤20を介して分岐して各建屋31A〜31Dの各階に通じる支線電力線としての屋内配線4とからなる既設の電力線網5と、電力線よりも伝送特性が優れた通信ケーブルの一つである同軸ケーブル6とを組み合わせ、PLC信号の信号伝送路を構築している。
【0036】
西建屋31Aの場合には、キュービクル2からの配電線3が、1階部分にある二つの分電盤20に接続され、この配電線3が接続された分電盤20に、2階及び3階部分にある分電盤20が屋内配線4を介して接続され、この各分電盤20は屋内配線4を介して複数のコンセント13に通じている。
一方、中央建屋31Bの場合には、キュービクル2からの配電線3が、1階部分にある一つの分電盤20に接続され、この配電線3が接続された分電盤20は、1階部分にある他の分電盤20と2階部分にある分電盤20に屋内配線4を介して接続され、この各分電盤20は屋内配線4を介して複数のコンセント13に通じている。
【0037】
東建屋31Cの場合には、キュービクル2からの配電線3が、1階部分にある一つの分電盤20に接続され、この配電線3が接続された分電盤20は、1階部分にある他の分電盤20と2階及び3階部分にある分電盤20に屋内配線4を介して接続され、この各分電盤20は屋内配線4を介して複数のコンセント13に通じている。
また、北建屋31Dの場合には、キュービクル2からの配電線3が、2階部分にある一つの分電盤20に接続され、この分電盤20は、1階及び2階部分にあるコンセント13に屋内配線4を介して通じている。
【0038】
また、この電力線通信システム1は、外部ネットワーク7と光信号等による通信が可能なメディアコンバータ12と、このコンバータ12とレイヤ2スイッチ15を介して接続された親機モデム8と、各建屋31A〜31Dのコンセント13に接続して使用される複数の子機モデム9とを備えている。なお、図4では、図面の簡略化のために、子機モデム9の図示を省略してある。
【0039】
本実施形態の親機モデム8も、低周波帯域を利用する第一モデム8Aと、高周波帯域を利用する第二モデム8Bとからなり、これらの各モデム8A,8Bは、1本のイーサネットケーブル14と、複数本(図例では2本又は3本)の同軸ケーブル6が接続されており、イーサネット信号とPLC信号を相互変換するメディアコンバータとしての機能を有する。
【0040】
従って、外部ネットワーク7からの下りの光信号は、メディアコンバータ12でイーサネット信号に変換され、このイーサネット信号は、親機モデム8A,8Bで下りのPLC信号に変換され、このPLC信号は、親機モデム8A,8Bに分岐接続された各同軸ケーブル6に注入される。
また、各同軸ケーブル6からの上りのPLC信号は、親機モデム8A,8Bで上りのイーサネット信号に変換され、このイーサネット信号は、メディアコンバータ12で光信号に変換され、この上りの光信号は光ファイバ10に注入される。
【0041】
二つの親機モデム8A,8Bのうち、低周波用の第一モデム8Aから分岐する同軸ケーブル6は、西建屋31Aの一階部分にある二つの分電盤20の主幹ブレーカに前記カップリングユニット21を介して接続されている。
また、高周波用の第二モデム8Bから分岐する同軸ケーブル6は、東建屋31Cの一階部分にある分電盤20の主幹ブレーカと、中央建屋31Bの一階部分にある分電盤20の主幹ブレーカにカップリングユニット21を介してそれぞれ接続されている。
【0042】
このため、親機モデム8A,8Bから各同軸ケーブル6にそれぞれ注入された下りのPLC信号は、上記カップリングユニット21と分電盤20を介して各建屋31A〜31Cの屋内配線4に注入される。
また、各建屋31A〜31Cのコンセント13に接続された子機モデム9から屋内配線4に注入された上りのPLC信号は、分電盤20とカップリングユニット21を介して同軸ケーブル6に注入される。
【0043】
第一モデム8Aから西建屋31Aの左側の分電盤20まで延びる同軸ケーブル6の長さは約50mであり、第二モデム8Bから中央建屋31Bの分電盤20まで延びる同軸ケーブル6の長さも約50mである。
なお、各建屋31A〜31Dには、合計で28個のコンセント13が設けられており、図4ではその各コンセントに0〜27までのナンバリングを施してある。また、図4に示す電力線通信システム1では、北建屋31Dの分電盤20に接続された親機モデム8Dについては、下り側の信号伝送路が従来通りの電力線よりなる。
【0044】
図5は、第二実施形態の比較例に係る電力線通信システムの配線構造図である。
この比較例の電力線通信システム1が第二実施形態の電力線通信システム1と異なる点は、親機モデム8の下り側の信号伝送路が従来通りの電力線23よりなり、この電力線23を分電盤20の主幹ブレーカに接続している点にある。
なお、図5に示す比較例では、従来の親機モデム8は図4に示す第二実施形態の場合と同じ分電盤20に接続されているとともに、その他の分電盤20に、親機モデム8からのPLC信号を中継する中継装置24が接続されている。
【0045】
図6は、第二実施形態の通信システムとその比較例の通信システムにおける各コンセントでの実効速度を示す棒グラフである。
なお、このグラフにおいて、横軸は測定対象としたコンセント番号(0〜27)を示し、縦軸はコンセント番号での実効速度(Mbps)を示している。また、ハッチング(斜線)付きの棒グラフが下り速度であり、ハッチング無しの白抜きの棒グラフが上り速度である。更に、各コンセント番号に対応して併記した4本の棒グラフのうち、左側2本が第二実施形態の場合(図4)であり、右側2本が比較例の場合(図5)である。
【0046】
図6を見れば明らかなように、比較例の電力線通信システム1(図5)の場合には、特に上りの実効速度が10Mbps以下になる場合が多く、十分な速度が保証できているとは言い難いのに対して、第二実施形態の電力線通信システム1(図4)の場合には、測定対象としたすべての建屋31A〜31Dのコンセント13において良好な実効速度が得られている。
このように、本実施形態の電力線通信システム1においても、親機モデム8が、電力線3,4よりも通信信号の伝送特性が優れた通信ケーブルである同軸ケーブル6を介して、PLC信号を分電盤20に注入及び抽出するので、電力線3,4のみで信号伝送路を構築する場合に比べて、通信信号の減衰を低減することができる。
【0047】
また、本実施形態の電力線通信システム1では、既設の電力線網5に含まれる分電盤20に通信信号を注入及び抽出するための同軸ケーブル6を新たに敷設しているので、同軸ケーブル6その他の通信専用のケーブルがなく電力線網5しか有していない建屋31A〜31Dに対しても、信号減衰が少ないPLCシステムを構築することができ、PLCによるシステム構築の汎用性を向上することができる。
【0048】
更に、本実施形態の電力線通信システム1においても、伝送特性が優れた複数本の同軸ケーブル6が各親機モデム8A,8Bから分岐しており、この分岐した各同軸ケーブル6をそれぞれ別個の分電盤20に接続しているので、中継装置24(図5参照)を設けなくても良好な信号伝送が可能となり、システム構築に必要なモデム数を低減することができる。
【0049】
〔第三実施形態〕
図7は、本発明の第三実施形態に係る電力線通信システムの配線構造図である。
本実施形態の電力線通信システム1が第一実施形態のものと異なる点は、異なる複数の建物31E,31Fに設置された配電系統が分離した電力線網5,5を備えており、この各電力線網5,5に対して一つの親機モデム8で共通のローカルネットワークを構築している点にある。
【0050】
すなわち、比較的信号の漏洩が大きい電力線を伝送路とする電力線通信システムでは、アマチュア無線等に悪影響が生じるおそれがあるため、現時点においてもPLC信号での通信は「屋内」に限定するという規制があるが、かかる規制の下では、例えば図7に示すように、別個の建物31E,31Fが同一所有者のものであっても、建物31E,31Fごとに親機モデムを設置する必要があり、システム構築の効率が悪い。
【0051】
そこで、本実施形態では、同軸ケーブル6にPLC信号を注入又は抽出可能な親機モデム8を一方の建物31Eに設置し、この親機モデム8から分岐する複数本の同軸ケーブル6の一部を当該一方の建物31Eの分電盤20に接続するとともに、残りの同軸ケーブル6を屋外に敷設して他方の建物31Fまで引き延ばし、この引き延ばされた同軸ケーブル6を、他方の建物31Fの分電盤20に接続するようにしている。
なお、図7では、建物31E,31Fが二棟の場合を例示しているが、三棟以上の建物の分電盤に同軸ケーブル6で信号注入することも可能である。
【0052】
このように、本実施形態の電力線通信システム1によれば、親機モデム8が同軸ケーブル6を介してPLC信号を複数の建物31E,31Fの各分電盤20に対してそれぞれ注入及び抽出するので、配電系統が分離した電力線網5,5を一つの親機モデム8で共通のローカルネットワークとして構築することができる。
また、この場合、屋外に敷設される同軸ケーブル6は電力線よりも外部漏洩が少なく、屋外での信号漏洩のおそれが殆どないので、アマチュア無線等に悪影響が生じるのを未然に防止しつつ、複数の建物31E,31Fの独立した電力線網5,5に対して、共通のローカルネットワークを構築できるようになる。
【0053】
本発明は、上記実施形態に限定されるものではない。
例えば、上記実施形態では、電力線よりも伝送特性が優れた通信ケーブルとして同軸ケーブル6を採用しているが、例えば電話線やインタホン用通信線等のその他の通信ケーブルであってもよい。
【図面の簡単な説明】
【0054】
【図1】本発明の第一実施形態に係る電力線通信システムの配線構造図である。
【図2】第一実施形態の比較例に係る電力線通信システムの配線構造図である。
【図3】(a)は、第一実施形態の通信システムにおける5階〜7階の各住戸の実効速度を示す棒グラフであり、(b)は、比較例の通信システムにおける5階〜7階の各住戸の実効速度を示す棒グラフである。
【図4】本発明の第二実施形態に係る電力線通信システムの配線構造図である。
【図5】第二実施形態の比較例に係る電力線通信システムの配線構造図である。
【図6】第二実施形態の通信システムとその比較例の通信システムにおける各コンセントでの実効速度を示す棒グラフである。
【図7】本発明の第二実施形態に係る電力線通信システムの配線構造図である。
【図8】従来の電力線通信システムを採用した集合建築物の斜視図である。
【図9】従来の電力線通信システムの配線構造図である。
【符号の説明】
【0055】
1:電力線通信システム 2:配電室 3:配電線(幹線電力線)
4:屋内配線(支線電力線) 5:電力線網 6:同軸ケーブル(通信ケーブル)
7:外部ネットワーク 8:親機モデム 8A:第一モデム 8B:第二モデム
9:子機モデム 10:光ファイバ 11:端末機器
12:メディアコンバータ 13:コンセント 14:イーサネットケーブル
15:レイヤ2スイッチ 20:分電盤 21:カップリングユニット
22:パイプシャフト 23:電力線 24:中継装置 31:集合建築物
31A:西建屋 31B:中央建屋 31C:東建屋 31D:北建屋
31E:建物 31F:建物 32:電力機器 33:住戸

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電力線を信号伝送路として通信を行う電力線通信システムであって、
幹線電力線に接続された分電盤と、この分電盤を介して分岐する支線電力線とを有する既設の電力線網と、
前記支線電力線にそれぞれ接続された電力線通信を行う複数の子機モデムと、
前記電力線よりも通信信号の伝送特性が優れた新設の通信ケーブルを介して、電力線通信のための通信信号を前記分電盤に注入及び抽出する親機モデムと、
を備えていることを特徴とする電力線通信システム。
【請求項2】
前記幹線電力線とこれに接続された複数の前記分電盤とを収容するパイプシャフトを備えており、
前記親機モデムと前記通信ケーブルが前記パイプシャフトに収納されている請求項1に記載の電力線通信システム。
【請求項3】
異なる複数の建物に設置された配電系統が分離した前記電力線網を備え、
前記親機モデムは、前記通信ケーブルを介して、電力線通信のための通信信号を複数の前記建物の前記各分電盤に対してそれぞれ注入及び抽出する請求項1又は2に記載の電力線通信システム。
【請求項4】
次の各工程を含むことを特徴とする電力線通信システムの構築方法。
(1) 分電盤から分岐する既設の支線電力線に電力線通信を行う子機モデムを接続する工程
(2) 前記分電盤を含む電力線網の他に、電力線よりも通信信号の伝送特性が優れた通信ケーブルを電力線通信のための通信経路として新たに敷設する工程
(3) 前記通信ケーブルに電力線通信のための通信信号を注入及び抽出可能な親機モデムに接続された当該通信ケーブルを、前記分電盤に接続する工程

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2009−213051(P2009−213051A)
【公開日】平成21年9月17日(2009.9.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−56414(P2008−56414)
【出願日】平成20年3月6日(2008.3.6)
【出願人】(000002130)住友電気工業株式会社 (12,747)
【出願人】(504126112)住友電工システムソリューション株式会社 (78)
【Fターム(参考)】