説明

電力線通信システム

【課題】本発明は、簡易な構成でありながら、通信能力を向上させることができるPLCモデムおよび電力線通信システムを提供することを目的とする。
【解決手段】
上記の目的を解決するために、本発明のPLCモデム3は、ディファレンシャルモードで電力線4に信号を入出力するディファレンシャルモード入出力部7と、コモンモードで電力線4に信号を入出力するコモンモード入出力部8とを有するものであり、ディファレンシャルモードとコモンモードを併用した通信を行う。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電力線を介して通信を行う技術(PLC)に関するものである。
【背景技術】
【0002】
電力線通信(Power−Line Communication、以下PLC)は、電力線を通信媒体として、通信信号を重畳する技術である。新たな専用通信線の敷設を必要とせず、既存の電力線設備にて高速なネットワークが構築できるため注目されている。
【0003】
電力線通信はすでに普及しており、PLCモデムも多くの機種が流通している。実用化されているこれらのPLCモデムはディファレンシャルモードで通信を行うものである。理論的にはコモンモードでも信号の伝送は可能なはずであるが、不要輻射による既存通信業務に対する干渉が懸念されており、コモンモードで通信を行うPLCモデムは見られない。むしろ、特許文献1などに示されるように、ディファレンシャルモードでの通信に付随して発生するコモンモード電流をいかに削除するかについての技術が盛んに論じられており、コモンモードは排除すべきものと考えられている。
【特許文献1】特開2008−99023号公開特許公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
これまでのPLCではディファレンシャルモードによる通信のみが行われていた。したがって、一通りかつ1本の信号伝達経路しか有しない。しかし、通信されるデータ量は増大し続けており、PLCにおいてもより高速の通信技術が求められる。特に、ダイバーシティ技術を適用できることが望ましい。
【0005】
本発明は、簡易な構成でありながら、通信能力を向上させることができるPLCモデムおよび電力線通信システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記の目的を解決するために、本発明のPLCモデムは、ディファレンシャルモードで電力線に信号を入出力するディファレンシャルモード入出力部と、コモンモードで電力線に信号を入出力するコモンモード入出力部とを有する。
【0007】
また、本発明の電力線通信システムは、複数のPLCモデムによって通信を行うシステムであって、各PLCモデムはディファレンシャルモードで電力線に信号を入出力するディファレンシャルモード入出力部と、コモンモードで電力線に信号を入出力するコモンモード入出力部と、ディファレンシャルモード入出力部とディファレンシャルモード入出力部の切替を行う切替装置を有し、少なくとも1台のPLCモデムにはPLCモデム制御ドライバをインストールしたコンピュータが接続されており、このPLCモデム制御ドライバは所定の判定条件に従ってPLCモデムの切替装置に対して切替信号を送信するようにコンピュータに指令する機能を有することを特徴とする。ここで、PLCモデムの切替装置の切替手段として、PLCモデム制御ドライバは、
コンピュータに接続されたPLCモデム(以下、「マスタモデム」という)から試験用パケットを他の所定のPLCモデム(以下、「スレーブモデム」という)に対して送信させるようコンピュータに指令する試験パケット送信機能と、
スレーブモデムが受信に成功したデータ量を示すデータをスレーブモデムから受信するようにコンピュータに指令する受信成功データ受信機能と、
受信したデータよりスループットを算定するスループット算定機能とを備え、
さらに、マスタモデムおよびスレーブモデムに切替信号を送りながらマスタモデムおよびスレーブモデムの切替装置の切替を行い、各切替条件ごとに試験パケット送信、受信成功データ受信およびスループット算定を行ってそのスループット値を記憶装置に記憶させ、記憶されたスループット値同士の比較を行って最も大きなスループット値を得たときのマスタモデムおよびスレーブモデムの切替装置の状態を判定し、その状態になるようにマスタモデムおよびスレーブモデムに切替信号を送るようにコンピュータに指令する機能をPLCモデム制御ドライバが備えるように構成することができる。
【発明の効果】
【0008】
本発明のPLCモデムおよび電力線通信システムは、これまで電力線通信に使用されていなかったコモンモードによる通信機能を備えることによって、通信速度を向上させることができる。コモンモードとディファレンシャルモードを併用することによって、ダイバーシティ技術の適用が可能になる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
この発明を実施するための最良の形態について説明する。図1はこの発明に関する電力線通信システムを示す概念図である。電力線通信システム1は、電力線4に接続された複数のPLCモデム3を介して通信を行うものである。
【0010】
ここで示す電力線ケーブル2は船舶で使用されるあじろがい装ケーブルであり、平行2芯の電力線4a,bの外部に網状に巻かれた鋼線のシールド5(あじろがい装)を有する。このシールド5は船体に接地されている。したがって、シールド5は安定したグランド電位となっている。このような環境化においては、電力線4とシールド5の間に信号を重畳するコモンモード通信を行っても、不要輻射問題の懸念が少ない。
【0011】
また、船舶以外にも、工場内などにおいては金属管内に電力線が挿入されている場合がある。この場合も、一種のシールドケーブルとなっており、対地平衡度も結果として良好であり、コモンモード通信を行っても、不要輻射問題の懸念が少ない。
【0012】
PLCモデム3は、ディファレンシャルモードで電力線に信号を入出力するディファレンシャルモード入出力部6と、コモンモードで電力線に信号を入出力するコモンモード入出力部7とを有する。また、ディファレンシャルモード入出力部6とディファレンシャルモード入出力部7の切替を行う切替装置8が備えられている。本例において切替装置は、ディファレンシャルモード入出力部6とディファレンシャルモード入出力部7のいずれかを択一的に選択するものである。しかし、ディファレンシャルモード入出力部6とディファレンシャルモード入出力部7の双方を同時に使用する選択も含まれてよい。また、手動スイッチで切り替えるものでもよく、リレーなど機械的に切替制御ができるものでもよい。本例は、電気的に切替制御ができるものであり、接続されたコンピュータ9のPLCモデム制御ドライバによって制御される。
【0013】
各PLCモデム3は、それぞれ個別にディファレンシャルモード入出力部6とディファレンシャルモード入出力部7ができる。ここで、コンピュータ9に接続されたPLCモデム3mをマスタモデムとし、他のPLCモデム3sをスレーブモデムとして、マスタモデム3mからスレーブモデム3sに対して信号を送信することを考える。マスタモデム3mとスレーブモデム3sの両方でディファレンシャルモードを選択すると、通常のPLCモデムと同じ、伝播モードTTR(Transverse Transfer Ratio)となる。また、両方をコモンモードとし、コモンモード送信・コモンモード受信LTR(Longitudinal Transfer Ratio)とすることができる。これらに加えて、ディファレンシャルモード送信・コモンモード受信TCTR(Transverse Conversion Transfer Ratio)やその逆のコモンモード送信・ディファレンシャルモード受信LCTR(Longitudinal Conversion Transfer Ratio)のようにモード転換を利用した伝播モードも選択できる。
【0014】
これらの伝播モードに対してMIMO(Multiple-Input Multiple-Output)伝送技術などのダイバーシティ技術を適用することによって、通信速度や通信品質を向上させることができる。ダイバーシティ受信の方法は合成式と選択式に大別できる。ここでは、実施が簡便な選択式を例に説明する。この場合は、4つの伝播モードから適切なものを選択すればよい。選択のための判定基準としては、スループットが最大になる条件や使用周波数帯における平均伝達関数が最良となる条件、あるいはS/N比、さらにはこれらの要素を総合評価した値などが使用できる。
【0015】
つぎに、切替装置に対する切替制御の例について説明する。図2は、切替制御の例を示すフローチャートである。本例においては、この切替制御プログラムはPLCモデム制御ドライバ10の一部としてマスタモデム3mに接続されたコンピュータ9にインストールされている。つまり、PLCモデム制御ドライバ10は、通常のPLCモデム用の通信制御機能に加えて、図2に示すような切替制御プログラムが付加されている。
【0016】
まず、通信状態試験ルーチンS2について説明する。この通信状態試験ルーチンS2は、
T1:コンピュータに接続されたマスタモデム3mから試験用パケットをスレーブモデム3sに対して送信させるようコンピュータに指令する試験パケット送信ステップと、
T2:スレーブモデム3sが受信に成功したデータ量を示すデータをスレーブモデムから受信するようにコンピュータに指令する受信成功データ受信機能と、
T3:受信したデータよりスループットを算定するスループット算定機能と、を有する。
【0017】
試験パケット送信ステップT1により、予め約束された内容のデータを含む試験用パケットがスレーブモデム3sに対して送信される。この試験用パケットを受信したスレーブモデム3sは、受信に成功したデータの量を算定し、受信成功データを作成し、これをマスタモデム3mに対して送信する。ここで、このような受信成功データの送信の命令もマスタモデム3mから行うことができるが、試験用パケット受信時にこのような応答をするような指令をスレーブモデム3s側の制御プログラムに含ませておいてもよい。
【0018】
受信成功データ受信ステップT2において、スレーブモデム3sから送られた受信成功データをマスタモデム3mが受信する。そして、スループット算定ステップT3により受信成功データに基づいて、スループット値を算定する。こうして、そのときの伝播モードにおける通信状態の評価ができる。
【0019】
ついで、この通信状態試験ルーチンに基づいた切替制御について説明する。まず、切替命令ステップS1において、コンピュータ9は切替指令を送信してマスタモデム3mとスレーブモデム3sの切替装置をある状態に設定する。たとえば1回目の実行時は伝播モードのTTR、2回目はLTR、3回目はTCTR、4回目はLCTRを指令する。
【0020】
つぎに前述の通信状態試験ルーチンS2を実行し、その伝播モードに対するスループットを得る。スループット記憶ステップS3により、得られたスループットを記憶装置11に記憶する。
【0021】
以上のジョブを4回繰り返すことによって、すべての伝播モードについてのスループット値を得ることができる。判定ステップS4においては、これらのスループット値の比較を行い、最大のものを決定する。そして、最後に切替命令ステップS5を実行し最も大きなスループット値を得たときのマスタモデム3mおよびスレーブモデム3sの切替装置の状態になるようにマスタモデムおよびスレーブモデムに切替信号を送るようにコンピュータに指令する。
【0022】
こうして、マスタモデム3mおよびスレーブモデム3sは最適な伝播モードに設定される。ここでは、送信側マスタモデム3m・受信側スレーブモデム3sの場合の最適条件評価を説明した。多くの場合において、逆方法の通信でもこの条件が最適となる。したがって、この切替制御に基づいて、マスタモデム3mおよびスレーブモデム3sの切替を決定することができる。しかし、より厳密な最適条件を求める場合には、逆方向に試験用パケッの送信を行って、逆方向通信の評価をすることも可能である。
【0023】
ここで、電力線とのインターフェース回路の第1の例について説明する。図3はインターフェース回路の第1の例を示す回路図である。ディファレンシャルモード入出力部として第1のトランス6が、コモンモード入出力部として第2のトランス7が設けられている。たとえば、通常のPLCモデムに用いているパルストランスの中間タップを用いて、第2のトランス7よりコモンモード信号を注入・抽出することができる。
【0024】
インターフェース回路の第2の例について説明する。図4はインターフェース回路の第2の例を示す回路図である。LCL(Longitudinal Conversion Loss)を測定する際に用いられるLCLプローブを流用した例である。端子A,Bをディファレンシャルモード入出力部として使用し、端子Fをコモンモード入出力部として使用する。
【0025】
インターフェース回路の第2の例を使用して、愛媛大学の構内で各伝播モードの伝達関数を測定した。図5は伝達関数の測定結果を示すグラフである。構内のコンセントより異なる組み合わせをいくつか選択して測定を行っている。図5(a)は番号として1と10を付したコンセントの組み合わせのデータであり、図5(b)は番号3と5の組み合わせについてのデータを示している。表1には、周波数帯4MHz〜20MHzの伝達関数の平均値とスループット値を示す。
【表1】

【0026】
コモンモードによる通信を行って伝達関数やスループット値を測定すること自体がこれまで行われたことのない新しいことである。そして、環境によってはコモンモード伝送の方がディファレンシャルモード伝送よりも伝達関数やスループット値において優れている場合があることが確認できる。また、TCTRが優れている場合もある。これらは、合成式あるいは選択式のどちらでもダイバーシティ受信を行えば通信速度あるいは品質が向上できることを示している。最もスループット値が高い伝播モードを選択する選択式ダイバーシティ受信を行った場合、ディファレンスモードしか使用しない場合に比べて約40%スループットを向上することができた。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】この発明の電力線通信システムを示す概念図である。
【図2】切替制御の例を示すフローチャートである。
【図3】インターフェース回路の第1の例を示す回路図である。
【図4】インターフェース回路の第2の例を示す回路図である。
【図5】伝達関数の測定結果を示すグラフである。
【符号の説明】
【0028】
1.電力線通信システム
2.電力線ケーブル
3.PLCモデム
4.電力線(芯線)
5.シールド
6.ディファレンシャルモード入出力部
7.コモンモード入出力部
8.切替装置
9.コンピュータ
10.PLCモデム制御ドライバ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ディファレンシャルモードで電力線に信号を入出力するディファレンシャルモード入出力部と、コモンモードで電力線に信号を入出力するコモンモード入出力部とを有するPLCモデム。
【請求項2】
複数のPLCモデムによって通信を行う電力線通信システムであって、各PLCモデムはディファレンシャルモードで電力線に信号を入出力するディファレンシャルモード入出力部と、コモンモードで電力線に信号を入出力するコモンモード入出力部と、ディファレンシャルモード入出力部とディファレンシャルモード入出力部の切替を行う切替装置を有し、少なくとも1台のPLCモデムにはPLCモデム制御ドライバをインストールしたコンピュータが接続されており、このPLCモデム制御ドライバは所定の判定条件に従ってPLCモデムの切替装置に対して切替信号を送信するようにコンピュータに指令する機能を有することを特徴とする電力線通信システム。
【請求項3】
PLCモデム制御ドライバは、コンピュータに接続されたPLCモデム(以下、「マスタモデム」という)から試験用パケットを他の所定のPLCモデム(以下、「スレーブモデム」という)に対して送信させるようコンピュータに指令する試験パケット送信機能と、
スレーブモデムが受信に成功したデータ量を示すデータをスレーブモデムから受信するようにコンピュータに指令する受信成功データ受信機能と、
受信したデータよりスループットを算定するスループット算定機能とを有し、
さらに、マスタモデムおよびスレーブモデムに切替信号を送りながらマスタモデムおよびスレーブモデムの切替装置の切替を行い、各切替条件ごとに試験パケット送信、受信成功データ受信およびスループット算定を行ってそのスループット値を記憶装置に記憶させ、記憶されたスループット値同士の比較を行って最も大きなスループット値を得たときのマスタモデムおよびスレーブモデムの切替装置の状態を判定し、その状態になるようにマスタモデムおよびスレーブモデムに切替信号を送るようにコンピュータに指令する機能をPLCモデム制御ドライバが有するものである請求項2に記載の電力線通信システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2010−109780(P2010−109780A)
【公開日】平成22年5月13日(2010.5.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−280596(P2008−280596)
【出願日】平成20年10月30日(2008.10.30)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 平成20年8月20日 発行の「平成20年電気学会 電子・情報・システム部門大会講演論文集」に発表
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)四国総合通信局、戦略的情報通信研究開発推進制度における研究開発の委託事業「電磁環境適応型電力線通信による大型船内LANの構築に関する研究開発」、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
【出願人】(504147254)国立大学法人愛媛大学 (214)
【出願人】(391013092)渦潮電機株式会社 (10)
【出願人】(502104295)株式会社プレミネット (4)
【Fターム(参考)】