説明

電力線通信システム

【課題】本発明は、周辺の電磁環境ノイズレベル以下の輻射になるようにPLCモデムの送信電力を制御する電磁環境適応型電力線通信システムとその送信電力制御法を提供することを目的とする。
【解決手段】
上記の目的を解決するために、本発明の電力線通信システムは、電力線1に接続された複数のPLCモデム2a,2b、2c…により通信を行う通信システムであり、電力線より発生する不要輻射を受信するアンテナ4とPLCモデム2a,2b、2cの送信電力を制御するコンピュータ3aを備え、コンピュータ3aによりアンテナ4の受信信号より電界強度を算定するとともにその電界強度と所定の閾値を比較し、電界強度が閾値を超えたときに送信電力を低下させるようになした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電力線を介して通信を行う技術(PLC)に関するものである。
【背景技術】
【0002】
電力線通信(Power−Line Communication、以下PLC)は、電力線を通信媒体として、通信信号を重畳する技術である。新たな専用通信線の敷設を必要とせず、既存の電力線設備にて高速なネットワークが構築できるため注目されている。2006年10月から規制緩和された2M〜30MHzの帯域を使用するPLCモデムは、高速である半面、不要輻射による既存無線業務に対する干渉が懸念されている。
【0003】
規制緩和にあたり規定されたPLCモデムの送信電力の上限値は、一般家庭で使用した場合99%の確率で周辺の電磁環境ノイズレベル以下の輻射になると考えられる値を採用している。逆に言えば、完全に干渉を与えないことを保証した値ではない。したがって使用用途や場所によってはこの補完技術が求められているものの、これまであまり検討されていなかった。特許文献1にはコモンモード電流を抑制しながら導体線からの不要な輻射を抑制することが記載されているが、送信器が設置されたコンセントの平衡度を検出しているだけであり、線路途上の局所的な不平衡は検出できないため、それによって不要輻射が基準値以下になることは保障されない。
【特許文献1】特開2008−99023号公開特許公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
一般家庭でPLCモデムを使用する際に不要輻射が生じるのは、電力線ケーブルが非シールドであること、平行2芯であるにも関わらず配線方法の事情により対地平衡度が悪いこと、等の理由による。したがって局所的に対地平衡度が悪いと上述のように確率は1%ではあるが強い輻射が発生する可能性がある。しかし、既存のPLCモデムには漏洩量を検出して自動的に対処する手段を実装している例はなく、モデムの設置者の責任において運用されているのが実情である。
【0005】
本発明は、周辺の電磁環境ノイズレベル以下の輻射になるようにPLCモデムの送信電力を制御する電磁環境適応型電力線通信システムとその送信電力制御法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記の目的を解決するために、本発明の電力線通信システムは、電力線に接続された複数のPLCモデムにより通信を行う通信システムであり、電力線より発生する不要輻射を受信するアンテナとPLCモデムの送信電力を制御するコンピュータを備え、コンピュータによりアンテナの受信信号より漏洩電界強度を算定するとともにその電界強度と所定の閾値を比較し、電界強度が閾値を超えたときに送信電力を低下させるようになした。
【0007】
(1)干渉源であるPLCモデムが自家設備である場合、または(2)既存のアンテナ設備を流用できる場合に、周辺の電磁環境ノイズレベル以下の輻射になるようにPLCモデムの送信電力を制御する電磁環境適応型電力線通信システムとその送信電力制御法を実現する。
【0008】
(1)に該当する例は大型船舶である。海上航行中は最寄りの船舶との離隔距離は十分長いため、他の船舶に対して干渉を及ぼす可能性は極めて低い。一方、GMDSS(Global Maritime Distress and Safety System)等生命にかかわる重要な業務を無線で行っているため、同一船内のPLCモデムが無線機に対して及ぼす干渉は完全に排除する必要がある。幸い大型船舶の場合は、無線業務用のアンテナと、短波ラジオ放送の共聴用アンテナとは同じデッキに設置されるため、この共聴用アンテナを流用して業務無線用アンテナ周辺の輻射量を測定することが可能である。
【0009】
(2)に該当するのは、上記大型船舶以外に、ビル内共聴施設(アパートやマンション、事業所などビルの屋上などにアンテナを上げて各戸/各部屋へ配信するもの)がある。後者は通常テレビ用アンテナしか設備されていないが、PLCと同じ短波帯のアンテナを追加で設備すればよい。ビル内に設置されたPLCモデムに対して本発明による電力制御を行えば、隣接するビルや住宅に対する不要輻射量を周辺の電磁環境ノイズレベル以下に抑圧できる。
【発明の効果】
【0010】
本発明は、周辺の電磁環境ノイズレベル以下の輻射になるようにPLCモデムの送信電力を制御することができるという効果を有する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
この発明を実施するための最良の形態について説明する。図1はこの発明の電力線通信システムを示す概念図である。干渉源であるPLCモデムが自家設備である場合の手段が図1に示されている。電力制御はマスタ・スレーブで行う中央制御型または分散制御型いずれでもよい。電力線通信システムは電力線1に接続された複数のPLCモデム2a,2b、2c…によって、コンピュータ3a,3b、3c…間の通信を行う例であり、アンテナ4、アンテナ4の受信信号を増幅するアンプ5およびアンテナ4の受信信号より電界強度を求める電界強度測定部6を備えている。
【0012】
大型船舶内にPLCモデムを設置した場合、図1に示すように、電力線から漏洩するPLC信号を短波放送の共聴用アンテナで受信し、その電界強度によって各PLCモデムの送信電力を制御する。大型船舶の場合、無線業務を行うためのアンテナはコンパスデッキに集められており、短波放送の共聴用アンテナも同じデッキに設置される。また船体は鋼鉄製であり船壁のシールド効果は高い(10〜30dB)。従って、主な干渉源は空間を伝搬する漏洩電磁界であり、共聴用アンテナにて業務無線アンテナ周辺の電磁環境をモニタすることが可能である。
【0013】
なお、電力線を伝搬する導電性のPLC信号は、無線業務を行うホイールハウスとは異なる電力線回路でPLCモデムを使用すれば、分電盤での信号損失が大きい(10〜20dB)ため、伝導性エミッションの規格以上になることはない。
図1に示すPLCリピータは、電力制御によって送信電力を抑圧せざるをえずかつ、分電盤での信号損失によって通信不能となることを避けるために使用する。
【0014】
共聴システム利用を考慮した電界強度測定法について説明する。海上では周辺の電磁環境は極めて静寂であり、EMC専用測定器でも測定できないくらいのレベル(15dBオV/m未満)である。PLCモデムの製造コストと比べて、システムを実現するために必要な測定器(例えばスペクトルアナライザ)のコストが数十倍するのでは、実現性に欠ける。
【0015】
図1に示した共聴アンテナ出力を各船室に分配するためのアンプ出力をそのままA/D 変換し(例えば8bitのオシロスコープ)、スペクトル解析しても漏洩電界量が微弱すぎて判別できない。一度の測定で検出できる周波数帯域幅は狭くなる欠点はあるものの、廉価かつ高感度測定を行うためには、従来の狭帯域無線機と同様に同調回路と増幅回路をオシロスコープの前段に設置することが好ましい。
【0016】
本実施形態では、短波放送の共聴用アンテナシステムを利用することもあり、市販のワイドバンドレシーバ(以下「WBR」と略す) をPLC信号の漏洩量を廉価に測定する手段として利用する。これは、PLC信号の有無によってWBR出力音の変化量から漏洩量を判断する方法である。発明者らが所有するWBRとスペクトルアナライザの最低受信感度を比較したところ、WBRの方が約4dB良いことが分かっている。
【0017】
送信電力制御法(中央制御型の場合)について説明する。電力制御プログラムは、電力線から漏洩する電界強度が周辺の環境雑音よりも大きくならないように、PLCモデムの出力値を制御するプログラム群から構成される。図2は、電力制御プログラム(中央制御型の場合)の動作アルゴリズムを示すフローチャートである。
【0018】
図1に示すマスタモデム#0(M) であるPLCモデム2aには電磁環境適応電力制御コンピュータPC0(符号3a)が接続されており、このシステムの中心となる。船内のコンセントにはPLCモデム(PLCmodem#1,#2,…)2b、2c…が接続される。これらのPLCモデムにはそれぞれノードコンピュータ(node-PC#1,#2,…)(符号3b,3c,…)が接続されている。
【0019】
共聴アンテナで受信する電界はどのPLCモデムから漏洩したものかを判別するため、電磁環境適応電力制御PC0が測定対象のノードコンピュータ(符号3b,3c,…)に対して測定用パケットを複数回(図2ではN回)送信するように命令し、そのときの漏洩電界強度を測定する。受信した電界強度が閾値よりも高いか低いかを判定し、高ければ当該PLCモデムの電力値を下げるように、低ければ上げるように制御する。なお、PLCモデムの送信電力を下げすぎてマスタモデム(modem#0)であるPLCモデム2aとの通信が不通になることを避けるために、ノードコンピュータ3b、3cの管理下で送信電力を制御し、下げすぎたときは元に戻す等の対処を行う。
【0020】
プログラム群は3つのプログラムからなる。
・PC間通信(マスタ(M), スレーブ(S))
マスタプログラムがスレーブプログラムに連続パケットを送信するよう要求を出す。このときに測定される電界強度値をもとに、モデム電力制御(S)プログラムに対して、モデム電力の上げ/下げを命令する。命令実行後のモデムステータスをスレーブからマスタに通知させることにより、マスタは各モデムの状態を集中管理する。
・モデム電力制御(マスタ(M), スレーブ(S))
マスタプログラムがスレーブプログラムに対してモデム電力の上げ/下げを命令する。その結果をスレーブはマスタに通知する。
・信号処理ソフト
PC間通信(M)からの要求に応じて現在の電界強度の測定値を返答する。電界強度計としてWBRを使う場合はこのWBRの受信周波数の制御も行う。
【0021】
図2に示すように、モデムの電力を変更後、モデム電力制御(S)が送信する“モデムステータス通知”がPC間通信(M)に届かないと、結果としてACK(ACKnowledgement)パケットを受け取れないことを利用すれば、送信電力を下げすぎたことを認知できるため、元に戻す等の対処が可能となる。
漏洩しているため送信電力を下げたいのであるが、上記のように送信電力を下げると通信が不通になる場合は、この事象が所定の時間に何回発生したかをPC間通信(M)プログラムで管理するとよい。当該電力線コンセントで所定回数以上この事象が発生する場合は、以後はこのコンセントは使わない、あるいは別途漏洩対策を施す等の処置が必要である。
【0022】
ついで、送信電力制御法(分散制御型の場合)について説明する。図3は、電力制御プログラム(分散制御型の場合)の動作アルゴリズムを示すフローチャートである。システム構成は図1と同様でよいが、図3に示すアルゴリズムにすれば、各モデムが送信しているついでに、漏洩電界量を測定できる。図3に示すように送信を行うスレーブ側から電界強度測定依頼をマスタに通知する点が図2と異なる。
【0023】
分散制御型の場合は、漏洩量測定のために通信路の帯域を圧迫することはないものの、複数のモデムが時分割で同時に通信しているときには、漏洩の原因となっているモデムが自分かどうかの判断が中央制御型に比べるとあいまいになる欠点がある。モデムの使われ方が、マスタ・スレーブ型通信であれば中央制御型を、N:N型通信であれば分散制御型が適している。
【0024】
周辺の電磁環境ノイズレベルの測定法について説明する。図2に示した集中制御型の場合は、PC間通信(M)プログラムが各ノードコンピュータ(符号3b,3c,…)に対してモデムの送信電力をゼロにするように命令したのち、電界強度を測定すればよい。なおこの測定後、各モデムの送信電力を通常レベルに戻す命令をPC間通信(M)プログラムが送信しても、モデムによってはその命令を受信できないことがある。この場合は、各ノードコンピュータにて所定の時間がたてばモデムの送信電力を通常レベルに戻す等の実装が必要である。
【0025】
図3に示した分散制御型の場合、あるいは集中制御型の場合でも上述のように一斉にすべての通信を一時的に停止することが困難な場合は、以下のようにすればよい。
【0026】
信号処理プログラムは、常に電界強度をモニタしておき、所定の時間(Ts)内で測定された最小値を周辺の電磁環境ノイズレベルとみなす。
【0027】
なお、通常送信データがなくてもお互いの状況を把握するためPC間やモデム間で常にパケットをやり取りしているため、これらのパケットの送出タイミングと電界強度の測定タイミングがずれる事象が起きるのに十分な時間がTsである。また、PLCチップによっては商用周波数に同期してパケットを出すものがある。この場合は、電界強度測定も商用周波数に同期して、かつパケットが出ていないタイミングで測定すればよい。
【0028】
次に、この発明の別の実施形態について説明する。大型船舶以外に、ビル内共聴施設等に本発明を適用する場合である。
【0029】
ビル内共聴施設等は通常テレビ用アンテナしか設備されていないが、PLCと同じ短波帯のアンテナを追加で設備すればよい。システムの構成は図1と同じである。ビル内に設置されたPLCモデムに対して本発明による電力制御を行えば、隣接するビルや住宅に対する不要輻射量を周辺の電磁環境ノイズレベル以下に抑圧できる。
【0030】
ただし、自分のビル内の無線局に対する干渉を抑圧することを目的とする場合は、当該無線局のアンテナ近傍に短波帯のアンテナを追加で設備するとよい。
【0031】
同様に、隣接するビルや住宅に対する障害を抑圧することを目的とする場合は、漏洩箇所を特定しその近傍に短波帯のアンテナを追加で設備するとよい。
【0032】
漏洩場所が複数存在する場合、または電力線を伝搬する導電性のPLC信号による障害を抑圧する場合の代用アンテナについて説明する。隣接するビルや住宅に対する障害を引き起こしている漏洩箇所が複数存在する場合、それらを網羅するように漏洩量を測定するためには複数のアンテナが必要になることがある。また電力線を伝搬する導電性のPLC信号による障害を抑圧する場合、これまで述べたアンテナとは異なるセンサが必要となる。
【0033】
アンテナの代用としては、窓枠のアルミサッシや金属什器も使える。また、窓際に配線されている電力線や電話線等もワイヤアンテナとして使用できる。
【0034】
電力線から不要輻射が起きるのは、導電性のPLC信号のうちコモンモード成分であることから、電力線にクランプ式の電流計を装着すれば代用アンテナとして機能する。電力線や電話線もワイヤアンテナとして使用する場合もこのクランプと同じ原理でコモンモード成分を抽出すればよい。
【0035】
PLCは既存の電力線(エネルギーを伝送する線路)に通信信号も重畳する技術であり、合理的な通信方式である反面、通信専用線でないために生じる不要輻射問題を有している。2006年の規制緩和に際しても、現実解として99%の一般家庭で問題の生じない値を設定した。本発明では、完全に干渉を与えないことを保証することが求められる用途や場所にPLC技術を適用するためには必須の技術である。
【0036】
本発明では、周辺の電磁環境に適応して送信電力を制御するという従来にない評価関数を用いた通信システムの基本的な概念を提唱するものであり、PLCに限らず有限の周波数資源を有効活用するために、既存の無線局と共存することが求められているような新規の無線サービス(UWB等)に適用可能な基本概念である。
【0037】
本発明で提供する電界強度をWBRで測定する方式は、PLCモデムとのコストバランスに配慮した方式であり、ビジネス的にも可能なものである。
【図面の簡単な説明】
【0038】
【図1】この発明の電力線通信システムを示す概念図である。
【図2】電力制御プログラム(中央制御型の場合)の動作アルゴリズムを示すフローチャートである。
【図3】電力制御プログラム(分散制御型の場合)の動作アルゴリズムを示すフローチャートである。
【符号の説明】
【0039】
1.電力線
2.PLCモデム
3.コンピュータ
4.アンテナ
5.アンプ
6.電界強度測定部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電力線に接続された複数のPLCモデムにより通信を行う電力線通信システムであり、電力線より発生する不要輻射を受信するアンテナとPLCモデムへ供給される電力を制御するコンピュータを備え、コンピュータによりアンテナの受信信号より電界強度を算定するとともにその電界強度と所定の閾値を比較し、電界強度が閾値を超えたときにモデムの送信電力を低下させるようになした電力線通信システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2010−81445(P2010−81445A)
【公開日】平成22年4月8日(2010.4.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−249290(P2008−249290)
【出願日】平成20年9月26日(2008.9.26)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)四国総合通信局、戦略的情報通信研究開発推進制度における研究開発の委託事業「電磁環境適応型電力線通信による大型船内LANの構築に関する研究開発」、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
【出願人】(504147254)国立大学法人愛媛大学 (214)
【出願人】(391013092)渦潮電機株式会社 (10)
【出願人】(502104295)株式会社プレミネット (4)
【Fターム(参考)】