説明

電力計測装置および電力計測方法

【課題】力率を別途計測することなく、簡単に電力を計測することができる電力計測装置を提供する。
【解決手段】この電力計測装置は、電流が流れる一次導体に対し、平行となるように、ブリッジ構造をとり、対称な第1乃至第4の磁性体成分で構成される磁性薄膜3を配置した磁界検出チップ100を用いる。そして、この一次導体から、ブリッジ構造における入出力端子を介してこの磁性薄膜に素子電流を供給するとともに、この入出力端子の中間位置に電圧入力端子及び電圧出力端子を接続し、磁性薄膜両端の出力を検出する。そしてこの強磁性薄膜のミアンダパターンからなる磁性薄膜に対し、素子電流を供給する方向に対し直交する方向に出力取り出しを行い、直接電力を取り出すようにしている。そして、磁石300を用いて一方向に計測磁界を印加することで、より安定に電力計測を行うことが可能となる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電力計測装置および電力計測方法にかかり、特に磁性薄膜をセンサとして用い、電流および電圧を入力して、両入力から得られる電力に相当する信号を直接出力する電力計測装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、インターネット等を利用する環境が整ってきた中で、電力の遠隔検針を含めた計測システムの開発が進められている。
使用した電力を円盤の回転数に変換し、積算演算を行うという既存の積算電力計に、回転を検出するセンサを付加したり、電流計(CT)、電圧計(PT)を新たに付加し、電子回路やマイクロプロセッサによる乗算計算を行い、電力を計測するなどの方法が用いられている。しかし、このような電力計は、装置が大型化するだけでなく、高価なものとなり、また、余計なエネルギーを消費しかねないという状況である。
そこで消費電力をそのまま電気量として測定することができるとともに、小型化および集積化の可能な電力計の開発が望まれている。
【0003】
そして最近では、磁性薄膜の磁気抵抗効果を利用し、消費電力を電気量のまま測定することの可能な電力計測装置が提案されている(非特許文献1,2)。
【0004】
これは、交流が流れる一次導体に対し、平行に置かれた(基板上に構成された)磁性薄膜と、一次電圧が前記磁性薄膜の両端に抵抗を介して印加しており、磁性薄膜の両端から出力を取り出す電力センサにおいて、2倍周波数成分の振幅値から電力IVを取り出す方式をとるものである。
【0005】
この電力計測装置では、強磁性体等の磁性体内において、電流と磁化のなす角度によりその磁性体の電気抵抗値が変わる現象であるプレーナホール効果を利用し、線形特性を得ることができる点に着目し、電力に比例する信号成分を取り出すようにしている。
ここで用いられる磁界センサは、外部磁界の変化を電気信号に変換する素子であり、強磁性薄膜や半導体薄膜等の磁界検出膜をパターニングし、その磁界検出膜のパターンに電流を流し電圧変化として外部磁界の変化を電気信号に変換するものである。
【0006】
ここで出力信号は次式(1)のようになる。
【数1】

(1)
ここで出力は、直流成分の項と、交流成分の項に分けられる。
A1はブリッジ抵抗のアンバランスで生ずる電力と関係のない不要な項、A2は電力に比例する項(瞬時電力)である。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】磁性膜を用いた薄膜電力計(電気学会マグネティックス研究会資料 VOL.MAG−05No.182)
【非特許文献2】磁性膜を用いた薄膜電力計(電気学会マグネティックス研究会資料 VOL.MAG−08No.192)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、上記電力計測装置においては、2ω成分の振幅値I1・V1の値を計測し、別途cosθを計測し、別途掛け算を行って、I1・V1・cosθを得るという方法をとっており、力率が1でない場合は力率を別途計測し演算する必要があった。また、高調波成分を有する電流波形の場合、基本波成分の電力しか取り出すことができないという問題があった。
また、プレーナーホール効果を利用した電力計測手法では出力値が小さく,また検出電流として突入電流などの大きな電流が流れると,磁性薄膜が磁化反転を起こし出力特性が変わるという問題があった。
本発明は前記実情に鑑みてなされたもので、簡単かつ安定的に電力を計測することができる電力計測装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
そこで本発明の電力計測装置は、電流が流れる一次導体に対し、平行となるように配置された磁性薄膜と、前記一次導体に接続され、前記磁性薄膜に素子電流を供給する電流入出力端子を備えた給電部と、前記磁性薄膜両端の出力を検出する検出部とを具備した磁界センサを具備し、前記磁性薄膜は、ブリッジ構造をとる第1乃至第4の磁性体成分で構成され、前記電流入出力端子の中間位置に接続される電圧入出力端子とを具備したことを特徴とする。
【0010】
また、本発明は、上記電力計測装置において、前記磁性薄膜に対して一方向に直流磁界を印加する磁界印加手段を有するものを含む。
【0011】
また、本発明は、上記電力計測装置において、前記磁界印加手段は、前記磁性薄膜に対して一次導体による磁界に略直交する方向に磁界を印加するものを含む。
【0012】
また、本発明は、上記電力計測装置において、前記磁性薄膜のブリッジ構成を成す4区間はそれぞれミアンダ形状パターン(つづら折形状パターン)で構成されるものを含む。
【0013】
また、本発明は、上記電力計測装置において、前記ブリッジ構成を成す4区間が、それぞれの区間において長手方向が隣り合う区間の長手方向とのなす角が90°であるものを含む。
【0014】
また、本発明は、上記電力計測装置において、前記磁界印加手段が磁石であるものを含む。
【0015】
また、本発明は、上記電力計測装置において、前記磁石は前記磁性薄膜の両側に、前記磁界センサに対してほぼ平行な磁界を形成するように、前記磁性薄膜の両側に配置された一対の磁石要素で構成されたものを含む。
【0016】
また、本発明は、上記電力計測装置において、前記磁石は前記磁性薄膜面に平行に配置されたひとつの磁石要素で構成されたものを含む。
【0017】
また、本発明は、上記電力計測装置において、前記磁石は前記磁性薄膜面に平行に配置された本体部と、前記本体部の両端に位置する磁極と、前記磁極付近に配置された集磁部とを具備したものを含む。
【0018】
また、本発明は、上記電力計測装置において、前記磁石は前記磁性薄膜形成面に平行に、前記磁性薄膜を挟むように配置された一対の磁石要素を備えたものを含む。
【0019】
また、本発明は、上記電力計測装置において、前記一対の磁石要素の同種磁極間に集磁部を有するものを含む。
【0020】
また、本発明は、上記電力計測装置において、前記磁界センサの電圧入出力端子からの電圧引き出し部が、前記磁石の磁極面と垂直な面に形成されたものを含む。
【0021】
また、本発明は、上記電力計測装置において、前記一次導体は前記磁性薄膜に平行となるように設置され、前記一次導体と前記磁性薄膜の中心をとおる面が前記磁性薄膜面に対して垂直であるものを含む。
【0022】
また、本発明は、上記電力計測装置において、前記磁界センサは、前記磁界印加手段と同一の基板上に形成されたものを含む。
【0023】
また、本発明は、上記電力計測装置において、前記磁界センサを構成する磁性薄膜は前記基板上に形成されており、前記磁界印加手段は、前記磁性薄膜と平行になるように、前記基板上に形成された第2の磁性薄膜を具備し、前記第2の磁性薄膜は前記磁性薄膜の外縁よりも外側に位置するものを含む。
【0024】
また、本発明は、上記電力計測装置において、前記磁界印加手段は、前記基板上に形成された第3の磁性薄膜を備え、前記第3の磁性薄膜と前記第2の磁性薄膜とが絶縁膜を介して前記磁性薄膜を挟むように構成されたものを含む。
【0025】
また、本発明は、上記電力計測装置において、前記磁界センサは、前記基板上に成膜された磁性薄膜と、前記磁性薄膜に素子電流を供給する入出力端子を備えた給電部と、前記磁性薄膜両端の出力を検出する検出電極部とを具備したものを含む。
【0026】
また、本発明の電力測定方法は、上記電力計測装置を用い、磁性薄膜のパターンに対し、前記電流入出力端子により、素子電流の方向に対して磁気抵抗が対称となるように、素子電流を供給する工程と、前記電圧入出端子により、前記素子電流の供給によって生起された出力の直流成分を取り出し、電力情報とする。
【発明の効果】
【0027】
以上説明してきたように、本発明によれば、ブリッジ構造による変化量のみを取り出すことができるため電力演算が可能であり、極めて簡単な構成で、力率を別途計測する必要がなく、直接電力を取り出すことができる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】本発明の電力測定装置の原理説明図
【図2】同等価回路図
【図3】同等価回路の要部説明図
【図4】比較例を示す説明図,(a)はシングル抵抗を用いた場合、(b)はハーフブリッジ回路を用いた場合を示す図
【図5】磁化方向を示す説明図
【図6】(a)および(b)は磁気抵抗効果の説明図
【図7】(a)および(b)はブリッジに対してθが0のバイアス磁界があった場合とθが90度のバイアス磁界があった場合の計測電流を示す説明図
【図8】同電力計測装置における計測磁界と抵抗値との関係を示す図
【図9】同電力計測装置における計測磁界強度と素子出力電圧との関係を示す図
【図10】本発明の実施の形態1の電力計測装置の上面図
【図11】本発明の実施の形態1の電力計測装置の断面図
【図12】本発明の実施の形態1の電力計測装置の磁界センサの磁性薄膜パターンの要部拡大図
【図13】本発明の実施の形態1の電力計測装置の磁界センサの素子特性を測定するための測定装置を示す回路説明図
【図14】本発明の実施の形態1の電力計測装置の磁界センサの要部断面を示す図
【図15】本発明の実施の形態2の電力計測装置の磁石の配置を示す図,(a)は概要断面図、(b)は磁界センサの一部破断概要図
【図16】本発明の実施の形態3の電力計測装置の磁石の配置を示す図,(a)は上面図、(b)は磁界センサの断面図
【図17】本発明の実施の形態4の電力計測装置の磁石の配置を示す図,(a)は上面図、(b)は磁界センサの断面図
【図18】本発明の実施の形態5の電力計測装置の磁石の配置を示す図,(a)は上面図、(b)は磁界センサの断面図
【図19】本発明の実施の形態6の電力計測装置の磁石の配置を示す図,(a)は上面図、(b)は磁界センサの断面図
【図20】本発明の実施の形態7の電力計測装置の磁石の配置を示す図,(a)は上面図、(b)は磁界センサの断面図
【図21】本発明の実施の形態8の電力計測装置の磁石の配置を示す図,(a)は上面図、(b)は磁界センサの断面図
【図22】本発明の実施の形態9の電力計測装置の磁界センサの原理説明図
【図23】本発明の実施の形態9の電力計測装置の磁界センサの上面図
【図24】本発明の実施の形態9の電力計測装置の磁界センサの断面図
【図25】本発明の実施の形態9の電力計測装置の磁界センサの断面図
【図26】本発明の実施の形態9の電力計測装置の磁界センサの変形例を示す図
【図27】本発明の実施の形態10の電力計測装置の磁界センサの原理説明図
【図28】本発明の実施の形態10の電力計測装置の磁界センサの上面図
【発明を実施するための形態】
【0029】
以下本発明の実施の形態について図面を参照しつつ詳細に説明する。
本発明の実施の形態の説明に先立ち、本発明の電力計測装置の測定原理について説明する。
本発明の電力計測装置では、電流が流れる一次導体に対し、平行となるように、ブリッジ構造をとり、対称な第1乃至第4の磁性体成分で構成される(強)磁性薄膜3を配置する。そして、この一次導体から、ブリッジ構造における入出力端子を介してこの強磁性薄膜に素子電流を供給するとともに、この入出力端子の中間位置に電圧入力端子及び電圧出力端子を接続し、磁性薄膜両端の出力を検出する。そしてこの強磁性薄膜として用いる環状パターンからなる強磁性薄膜に対し、素子電流を供給する方向に対し直交する方向に出力取り出しを行い、直接電力を取り出すようにしている。
【0030】
つまり図1に原理説明図を示すように、磁性薄膜3の環状パターンの中心に対して対称な位置にあり、この強磁性薄膜パターンの周縁上にある点A、Bを通電部とし、この線分ABに直交するとともに、円の中心を通る線分CDを出力取り出し方向としている。そして線分AC、線分CB、線分BD、線分DAがブリッジ構造をとる第1乃至第4の磁性体成分を構成する。つまり素子電流を供給する方向ABに直交する方向CDを出力取り出し方向としている。
【0031】
このとき、図1に示すように、磁性薄膜3にその直径方向に沿って配置された導体200に電流Iを流す場合を考える。このとき電流によって生じる磁界ベクトルをH、素子の持つ自発磁化ベクトルをMとしたとき、磁界ベクトルH、素子の持つ自発磁化ベクトルMを合成した磁束密度ベクトルをBM0とする(図5参照)。そして電流密度ベクトルと磁束密度ベクトルのなす角をθと、磁性薄膜3の点A−B間の各部抵抗をR、磁界によって変化する点A−B間の各部抵抗値変化の最大値をΔRとすると、点C−D間の電圧VC−Dは、電圧VA−Cと電圧VA−Dとの差で表すことができる。
これを数式化すると、
CD=I(ΔRsin2θ)
(2)
で表すことができる。ここでIは電流密度ベクトル、BM0は磁束密度ベクトル、Iは素子電流である。
従って、交流磁界を印加した時、正負を判定することができる。
【0032】
次に、図2に示すように、この強磁性薄膜の環状パターンからなる磁性薄膜3を4つのブリッジ成分R−Rとした場合を考える。この電力計測装置の要部を等価回路説明図として図3に示す。4つのブリッジ成分R−Rに固定抵抗Rを介して負荷Lが接続され、交流電源Pに接続されている。まず、図2に示す等価回路図において、次式(3)が成立し、点C−D間の電圧VC−Dは、点B−A間の電圧VB−Aに比例する(次式(3)参照)。VBAは負荷電圧に比例する。
【0033】
【数2】

(3)
【0034】
そしてこの抵抗のアンバランスの度合いは負荷電流に比例する。従って、C−D間電圧VCDは、負荷電流に比例する。
従って、C−D間電圧VC―Dは負荷で消費される電力に比例することになる。
【0035】
このようにして、フルブリッジ回路の場合、出力は、負荷電流による抵抗変化分と負荷電圧の積となるため、式(3)から明らかなように、出力がダイレクトに電力信号IVに比例した値となる。従って、適切な定数1/kを乗じることにより、C−D間電圧VC―Dから電力情報(I・V)を得ることができる。
【0036】
これに対し、図4(a)および(b)に比較例を示す。図4(a)は、シングル抵抗を用いた場合、図4(b)は、ハーフブリッジ回路を用いた場合である。
シングル抵抗を用いた場合、固定抵抗をR、磁性薄膜による抵抗成分をRとしたとき
磁性薄膜の抵抗成分R両端の電圧Vmは以下のとおりとなる。
【数3】

(4)
ここでRは負荷電流に比例するが、Vmは電力に比例しない。
負荷電流が0であるときも、V≠0であれば出力VmはVm≠0。
【0037】
一方、図4(b)に示すように、ハーフブリッジ回路を用いた場合を考える。
ハーフブリッジ回路を用いた場合、磁性薄膜による2つの抵抗成分をR、Rとしたとき、これら2つの抵抗成分をR、R両端の出力電圧V、Vは以下のとおりとなる。
【0038】
【数4】

(5)
【0039】
ハーフブリッジ回路において、出力は磁性薄膜抵抗の中心値に負荷電流磁界による抵抗変化分を加えた値と負荷電圧との積に比例する。
そのため、出力には負荷電流によらない項(0.5V)が含まれ、出力値は電力値とならない。
通常、kI<0.01となり、V中の電力情報は、1/50以下であり、信号処理で電力信号だけ取り出せたとしても、S/N比が極めて小さくなるという問題がある。ここでkは比例定数である。
【0040】
このように、シングル抵抗の場合、あるいはハーフブリッジの場合は、直接電力信号として取り出すことができないことがわかる。
これに対し、本発明のフルブリッジ回路を用いた場合、出力は負荷電流による抵抗変化分と、負荷電圧の積となるため、出力がそのまま電力信号となっている。従って、容易に電力成分の取り出しを行うことが出来ることが分かる。
【0041】
次に、本発明の電力計測装置において、磁性薄膜に対して一方向に直流磁界を印加する磁界印加手段を有するのが望ましい点について説明する。
図5は磁化方向を示す説明図である。磁石などの磁界印加手段によりバイアス磁界(Hb)を印加して、計測を行う場合、磁性薄膜[4つの成分]中の磁化(J)は、計測電流に応じて発生する磁界である計測磁界(Hex)との和となる。磁化(J)はJ(自発磁他)とH(外部磁界)に依存する。
磁化(J)=Hb+Hex
(6)
【0042】
ところで、磁性薄膜の電気抵抗値は、図6(a)および(b)に説明図を示すように、R−Rの4個の磁性薄膜成分からなるブリッジを考えた場合、電流iと磁化J間の角度をθとしたとき、
Rmr=R+ΔRcosθ
となり、抵抗Rmrはθが0の場合抵抗値は最大となり、θが90度の場合、最小となることがわかる。
【0043】
また、R−Rの4個の磁気抵抗成分からなるブリッジに対してバイアス磁界のみを印加した場合と,バイアス磁界方向に対して90°方向の計測磁界がバイアス磁界に重畳されている場合を,図7(a)および(b)にそれぞれ示す。計測磁界は,計測電流に由来して発生している磁界である。
【0044】
又、外部からの計測磁界強度の変化に対する抵抗値の変化を図8に示す。RはHex=0の場合,磁化ベクトルJの方向はバイアス磁界Hbと同じ方向となる。この時Rに流れる電流方向と磁化ベクトルがなす角度は45°であり,Rmr=R+0.5ΔRとなる。計測電流が流れ,図7(b)のHex正方向に磁界が印加されると,磁化方向JはHb方向からHex方向に傾いてくる。傾きが大きくなるにつれRを流れる電流と磁化方向Jのなす角θが大きくなり、Rの抵抗値は減少する。HexがHbと等しくなった時,磁化方向JとRを流れる電流のなす角度が90°となり,Rmr=Rとなり抵抗値は最小値をとる。さらに強いHexを与えると、磁化方向JとRを流れる電流のなす角は90°を超えるので、抵抗値は上昇する。計測電流が逆方向に流れる。一方、−Hex方向の磁界が加わる場合は、−Hexの絶対値の増加と共に磁化方向JはHb方向から−Hex方向に傾き、抵抗値は上昇する。Hb=|−Hex|のとき磁化方向JとRに流れる電流方向が平行(θ=0)となり抵抗値は最大値Rmr=R+ΔRとなる。さらに−Hexの絶対値を大きくすると磁化方向Jはさらに−Hex側に傾き、Rを流れる電流方向と磁化方向Jのなす角が広がり、抵抗値は小さくなる。RはRと同じ電流方向であるため、Hexに対してRと同じ抵抗変化を示す。R,Rに流れる電流方向はRに流れる電流方向と90°違うため、Hexに対してRと逆の抵抗変化を示す。
さらに素子に印加される電圧が一定のとき、計測磁界強度と素子出力電圧との関係を図9に示す。先に求めたHexに対するR〜Rの値を式(3)に当てはめた。また、入力電圧VB−Dは一定とした。
【0045】
【数5】

(7)
【0046】
以上のように,ブリッジ構成を成す4区間が、それぞれの区間において長手方向が隣り合う区間の長手方向とのなす角が90°の関係をなすように構成し,一次導体による磁界に略直交する方向にバイアス磁界を印加することで、出力を大きくすることが出来る。
【0047】
このように、ブリッジ構造をもつ磁性薄膜に対して一方向に直流磁界を印加する磁界印加手段を有することで、磁性薄膜の磁化方向を容易に制御することができ、出力が大きくなり、線形性を得ることができる。なお、この構成によれば、一方向に直流磁界を印加すればよいため、ブリッジ構成を成す4区間の磁性薄膜に対し、ひとつの磁界印加手段でよく、電力計測装置の装置構成の簡略化を図ることが可能となる。これに対し前述した非特許文献2の薄膜電力計の場合は、隣接要素毎に計測磁界の方向を変えるかあるいは一次導体を曲げる必要があり、装置構成が複雑となる。
また、交流の素子電流により生ずる磁界よりも大きい直流磁界を設けることで、薄膜両端の出力のふらつきを抑制することができる。
【0048】
(実施の形態1)
本実施の形態1の電力計測装置について説明する。図10にこの電力計測装置で用いられる磁界センサの上面図、図11に断面図を示す。図11は図10のX1−X1断面図である。この磁界センサは図10及び11に示すように、シリコンからなる基板1表面に絶縁膜2として酸化シリコン膜を形成し、この絶縁膜2上に強磁性特性を有する磁性薄膜3からなる4つのミアンダパターンRm1、Rm2、Rm3,Rm4を形成し、このミアンダパターンの直径方向に沿って給電部5A、5Bを構成する導体パターン、および、この給電部5A、5Bから供給される素子電流の方向に直交する方向に形成された検出部5C、5Dとしての導体パターンとを具備したものである。そして各導体パターンの先端にはパッド10A,10B,10C,10Dが設けられている。
【0049】
つまり図2に原理説明図を示したように、ブリッジ構造をなす4つの磁性薄膜3のパターンの中心に対して対称な位置にあり、この強磁性薄膜パターンの周縁上にある点A、Bを通電部とし、この線分ABを素子電流を供給する方向とし、この方向ABに直交するとともに、円の中心を通る線分CDを出力取り出し方向すなわち検出方向としている。ここで素子電流を供給する給電部5A、5Bを結ぶ線分と、検出部5C、5Dを結ぶ線分は直交している。
【0050】
ここで磁性薄膜としては、単層構造の強磁性薄膜のほか、(強磁性体/非磁性導電体)構造のアンチフェロ(結合)型薄膜、(高保磁力強磁性体/非磁性導電体/低保磁力強磁性体)構造の誘導フェリ(非結合)型薄膜、(半強磁性体/強磁性体/非磁性導電体/強磁性体)構造のスピンバルブ型薄膜、Co/Ag系統の非固溶系グラニュラー型薄膜などから選択して形成される。
また導体パターンとしては金、銅、アルミニウムなどが用いられる。
【0051】
次に、この磁界センサの製造工程について説明する。
基板1としてのシリコン基板表面に、絶縁膜2としての酸化シリコン膜を形成し、この上層に、スパッタリング法により、磁性薄膜3を形成する。
そして、フォトリソグラフィによりこの磁性薄膜3をパターニングし、同形のミアンダ形状パターンを4つ、互いに隣接するミアンダ形状パターンの主パターンの方向が90度ずつずれるように形成する。
こののち、スパッタリング法により、金などの導電体薄膜を形成し、フォトリソグラフィによりパターニングし、図10及び図11に示すような給電部5A、5Bおよび検出部5C、5Dを形成する。またこれら給電部および検出部に相当する位置にパッド10A、10B、10C,10Dを形成する。
そして必要に応じて保護膜を形成し、磁界センサが完成する。
【0052】
ここで、ミアンダ形状パターンの幅Wは10μm、長さLは1mmであった。このようにミアンダ形状パターンを構成することにより、電流方向はひとつのミアンダ形状パターンの中では、主パターンは、2方向となっている。すなわち、図12に要部拡大図を示すように、主パターンは、互いに180度異なる方向のパターンとの組み合わせパターンとなる。従って、パターン長がそのままRmrの増大につながることになる。
【0053】
このように本実施の電力計測装置によれば、磁界センサを構成する磁性薄膜の各ブロックをミアンダ形状パターンとしているため磁性薄膜の幅が小さくなるだけでなく、パターン長が増大することになる。従って、そのままRmrの増大につながるため、電気抵抗が増大し、出力を大きくすることができる。
【0054】
この磁界センサの出力特性を確認するため、図13に示すような測定装置を用いて実験を行った。図10乃至12に示した磁界センサ501の給電部A、Bに、交流電源507から変圧器506及び抵抗505を介して交流を供給するとともに、磁界センサ501の検出部C、Dにアンプ502を介して表示部としてのオシロスコープ504を接続したものである。503は安定化電源である。なおこの測定装置は鉄製のケーシング500内に収納されている。ここでは、この素子を搭載した素子基板を鉛直に配置し、素子と、測定すべき電流線との離間距離を約3mmとして測定を行った。
【0055】
このようにして得られた電流値と、素子出力電圧によれば、アンプによるオフセット以外はオフセットもなく、信頼性の高いものとなる。
【0056】
なお、前記実施の形態では、鉛直方向に配置した素子基板を用いた測定について説明したが、測定すべき電線を素子基板上に載せることによって測定を行うようにしてもよい。
【0057】
また前記実施の形態において、各ミアンダ形状パターンにおいて線幅は一定とするのが望ましい。一定ではない場合は、抵抗値が対称となるように、膜厚を調整する、あるいは、補助パターンを付加するなどの手段をとることも有効である。
また、磁性薄膜は、ミアンダ形状パターンのブリッジ構造であり、対称形であるため、素子電流方向に対して対称となるように形成しやすく、信頼性の高い磁界センサを提供することが可能となる。
また、磁性薄膜をミアンダ形状とすることで、磁性薄膜の幅が小さくなり、電気抵抗が増大し、素子の外形を大きくすることなく抵抗値を大きくすることができ、出力を大きくすることが可能となる。
さらにまた、ブリッジ構成を成す4区間が、それぞれの区間において長手方向が隣り合う区間の長手方向とのなす角が90°の関係となるように構成されている。従って隣り合う区間で抵抗変化が反対となり,もっとも効率よく抵抗値の不平衡が起こるため、出力を大きくすることが出来る。
【0058】
ここで磁性薄膜3は、図14に示すようにエポキシ樹脂などの保護膜11で覆われているのが望ましい。この構成によれば、磁力により表面に付着しやすい磁性粉を直接付着させないようにすることで出力特性の安定化を図ることが可能となる。
また、この電力計測装置においては磁界センサの入出力パッド10A−10Dをパッケージの4隅に配置することで端子をパッケージ内部で分離形成することができ、絶縁性を確保することが可能となる。
本実施の形態では、計測磁界を印加していないが、本実施の形態1の電力計測装置に対し、以下の実施の形態に示すように、一方向に計測磁界を印加することで、より安定に電力計測を行うことが可能となる。
【0059】
(実施の形態2)
次に、本発明の実施の形態2について説明する。本実施の形態の電力計測装置では、磁性薄膜3に対して一方向に直流磁界を印加する磁界印加手段として磁石要素を構成する磁石300を配置したことを特徴とするものである。磁界センサチップ100については図10に示した前記実施の形態1の磁界センサチップ100と同様であり、ミアンダ形状パターンからなる磁性薄膜がブリッジ構造をなすように接続されている。矢印Hbがこの磁石によるバイアス磁界である。
ここでは、図15(a)に概要図を示すように、一次導体による磁界に略直交する方向に磁界を印加すべく、磁界センサチップ100の磁性薄膜3の両側に配置された一対の磁石300で挟んだものである。ここで、磁石要素つまり磁石はこの磁界センサのパッケージよりも幅方向に大きく形成されている。ここで磁界センサチップ100は図15(b)に一部破断概要図を示すように、計測磁界が、磁性薄膜のパターン表面と平行となるように形成されている。
【0060】
この構成によれば、この磁石300によって印加される直流磁界によりバイアス磁界が均等にかかることになり、出力特性を安定にすることができる。また磁石の体積を増大することなく、磁性薄膜3に対して均一で強度の強い磁場を印加することが可能となる。
【0061】
また,磁石によりバイアス磁界をかけることで、磁化方向を制御しているため,突入電流などの大電流が印加された場合も磁化反転が起こらず,安定して計測が可能である。なおここでは磁性薄膜として強磁性薄膜を使用するのが望ましい。
【0062】
(実施の形態3)
次に、本発明の実施の形態3について説明する。本実施の形態の電力計測装置では、磁石300を磁界センサチップ100の磁性薄膜3形成面に対して平行に、配置したことを特徴とするものである。
ここでは、図16(a)および(b)に上面図および断面図を示すように、一次導体による磁界に略直交する方向に磁界を印加すべく、磁石要素つまり磁石300上に磁界センサチップ100を載置し、磁性薄膜3と磁界が平行にあるように配置したものである。ここで磁石はこの磁界センサのパッケージよりも幅方向に大きく形成されている。
この構成によれば、上記実施の形態2の効果に加え、磁石がひとつでよいため、低コスト化をはかることができる。なおここでは磁性薄膜として強磁性薄膜を使用するのが望ましい。
【0063】
(実施の形態4)
次に、本発明の実施の形態4について説明する。本実施の形態の電力計測装置では、上記実施の形態3の構成に加え、集磁部としてのヨーク210を配したことを特徴とするものである。本実施の形態の電力計測装置においても、磁石要素つまり磁石300を磁界センサチップ100の磁性薄膜3形成面に対して平行に配置である。
【0064】
すなわち、図17(a)および(b)に上面図および断面図を示すように、磁石300の磁極付近に集磁部としてのヨーク210が配置され、その間に磁界センサチップ100が配置されている。
【0065】
この構成によれば、上記実施の形態3の効果に加え、ヨークに磁束が吸われるため空気中への磁束漏れが小さくなり、小さな磁石でも大きな強度のバイアス磁界を印加することができる。磁石がひとつでよいため、低コスト化をはかることができる。なおここでは磁性薄膜として強磁性薄膜を使用するのが望ましい。
【0066】
(実施の形態5)
次に、本発明の実施の形態5について説明する。本実施の形態の電力計測装置では、磁石300を磁界センサチップ100の磁性薄膜3形成面に対して平行に、かつ磁性薄膜3を挟むように1対の磁石300で形成したことを特徴とするものである。
【0067】
ここでは、図18(a)および(b)に上面図および断面図を示すように、平行にかつ磁性薄膜を挟むように1対の磁石300を配設している。
【0068】
この構成によれば、上記実施の形態3の効果に加え、より均一なバイアス磁界を印加することができる。なおここでは磁性薄膜として強磁性薄膜を使用するのが望ましい。
【0069】
(実施の形態6)
次に、本発明の実施の形態6について説明する。本実施の形態の電力計測装置では、磁石300を磁界センサチップ100の磁性薄膜3形成面に対して平行に配置した実施の形態5の電力計測装置の磁石300に集磁部としてのヨーク210を同じ極性の磁極間にそれぞれ設けたことを特徴とするものである。
ここでは、図19(a)および(b)に上面図および断面図を示すように、磁石要素つまり一対の磁石300間であって、これらの磁極付近に枠状にヨーク210を配し、この一対の磁石とヨーク210との間に磁性薄膜3を備えた磁界センサチップ100を配置したことを特徴とするものである。
【0070】
この構成によれば、上記実施の形態3の効果に加え、ヨークに磁束が吸われるため、小さな磁石でも大きな強度を印加することができる。なおここでは磁性薄膜として強磁性薄膜を使用するのが望ましい。
【0071】
(実施の形態7)
次に、本発明の実施の形態7について説明する。本実施の形態の電力計測装置では、
磁界センサは、磁界印加手段と同一の基板上に形成されたことを特徴とする。図20(a)および(b)に、この電力計測装置の上面概要図および断面概要図を示す。
例えば磁界センサを構成する磁性薄膜3は基板上に形成されており、磁界印加手段は、この磁性薄膜と平行になるように、この同一基板上に形成された第2の磁性薄膜を具備し、第2の磁性薄膜は磁性薄膜の外縁よりも外側に位置するのが望ましい。なおここでは磁性薄膜として強磁性薄膜を使用するのが望ましい。
【0072】
基板としてはグレーズ加工のなされたガラス基板を用いる。そしてこのガラス基板1上にNiCo薄膜からなるミアンダ形状パターンで構成された磁性薄膜3と、磁界印加手段6としてNdFeBからなる永久磁石とが形成されている。
この構成によれば、小型化薄型化が可能であるだけでなく、図では省略したが、配線部を磁束が貫くことがないため、より安定した電力計測が可能となる。
【0073】
(実施の形態8)
次に、本発明の実施の形態8について説明する。本実施の形態の電力計測装置では、図21に示すように、磁界印加手段として、磁界センサの形成されたガラス基板1G上に形成された2つの第2の磁性薄膜6a,6bを備え、磁石要素を構成する。そしてこれら第2の磁性薄膜6a,6bによって絶縁膜2を介してミアンダ形状パターンを構成する第1の磁性薄膜3を挟むように構成する。
この構成によれば、薄膜プロセスで形成することができ、容易に小型で信頼性の高い出力計測装置を提供することが可能となる。又この構成により、高出力化、小型化および薄型化をはかることができる。
【0074】
実施の形態1乃至8では磁界センサはチップ部品で構成し、回路基板を構成するプリント配線基板に搭載するようにしたが、回路基板を構成するプリント配線基板1あるいはガラス基板1G上の直接磁性薄膜3のパターンを形成し、給電部および検出部を構成する導体パターンを配線パターンと同一工程で形成し、集積化したものである。そして増幅器やA/D変換器、CPUはチップ部品で構成する。あるいはシリコン基板上に処理回路を集積化するとともに、絶縁膜を介して磁界センサを形成し、モノリシック素子とすることも可能である。
この構成によれば、より薄型化小型化が可能となる。
なお、前記実施の形態1乃至8で説明した電力計測装置においても、磁性薄膜と磁界印か手段としての磁石を同一基板上に形成したモノリシック素子を用いてもよいことはいうまでもない。なおここでは磁性薄膜として強磁性薄膜を使用するのが望ましい。
【0075】
上記電力計測装置においても、基板上に磁性薄膜を形成することで、磁界センサと処理回路が基板で一体化でき更なる薄型化・小型化が可能となる。
【0076】
また、上記電力計測装置において、磁界センサを、基板上に成膜された磁性薄膜と、磁性薄膜に素子電流を供給する入出力端子を備えた給電部と、磁性薄膜両端の出力を検出する検出電極部とを具備し、配線パターンが給電部と検出電極部と同一の導体層で構成されたもので構成してもよい。
この構成によれば、通常の回路基板の構成に加えて、磁性体薄膜のパターンを形成するだけでよいため、極めて容易に形成可能である。
【0077】
また、上記電力計測装置において、磁性薄膜は、素子電流を供給する方向に対して磁気抵抗が対称となるように形成されるのが望ましい。ここで磁気抵抗が対称となる構成は、電気抵抗値が等しく、かつ同一形状の磁性薄膜パターンで構成することで得られる。
この構成によれば、素子電流の方向に対して磁気抵抗が対称となるように形成されているため、Vmr出力の最大値を大きく取ることができ、システムとしてのS/N比が向上する。
【0078】
また、上記電力計測装置において、検出部に並列接続されたコンデンサを有していてもよい。
この構成によれば、コンデンサでVmr信号を平滑化することで、周期未満の短期間で直流成分を取り出すことができるので高速で電力値を得ることができ、直流成分を簡単な回路構成で検出することが可能となる。
【0079】
また、上記電力計測装置を用い、磁性薄膜のパターンに対し、素子電流の方向に対して磁気抵抗が対称となるように、素子電流を供給する工程と、前記素子電流の供給によって生起された出力の直流成分を取り出し、電力情報とする。
この構成によれば、力率を別途計測する必要がなく、簡単に計測することができ、かつ積算による場合に比べ、誤差も低減される。
【0080】
また、磁界センサは、磁性薄膜と、磁性薄膜に素子電流を供給する入出力端子を備えた給電部と、素子電流の供給方向に直交する方向における前記磁性薄膜(端部間)の電圧を検出する検出部とを具備し、磁性薄膜は、素子電流の方向に対して磁気抵抗が対称となるように形成されていてもよい。
この構成によれば、磁性薄膜の出力取り出し方向を素子電流方向に対し直交する方向とするとともに、素子電流の方向に対して磁気抵抗が対称となるように形成することで、方向の正負を判定することができ、かつ磁界を印加しないときのオフセットがなくなるため回路構成を簡単にすることができる。
【0081】
また本発明の電力計測装置における磁界測定方法は、磁性薄膜のパターンに対し、素子電流の方向に対して磁気抵抗が対称となるように、素子電流を供給し、前記素子電流の供給方向に直交する方向で、前記磁性薄膜(端部間)の電圧を検出することで磁界強度を測定する。
この構成によれば、磁性薄膜の出力取り出し方向を素子電流の供給方向に対し直交する方向とするとともに、素子電流の方向に対して磁気抵抗が対称となるように形成することで、方向の正負を判定することができ、かつ磁界を印加しないときのオフセットがなくなるため回路構成を簡単にすることができる。なおここでは磁性薄膜として強磁性薄膜を使用するのが望ましい。
【0082】
(実施の形態9)
なお、前記実施の形態では、ミアンダ形状パターンを用いた磁性薄膜で構成した磁界センサについて説明したが、ミアンダ形状パターンに限定されるものではない。以下、ミアンダ形状パターン以外の例について説明する。
本実施の形態では、図22乃至図24に示すように、前記実施の形態1の説明に先立ち説明した本発明の磁界センサの環状パターンを構成する磁性薄膜3の環の内周に沿って相似形である円状の内部磁性薄膜として強磁性薄膜の補助パターン4を形成したことを特徴とするものである。
構成としてはこの補助パターン4が付加されただけで、他の構成については前記実施の形態1と同様であり、ここでは説明を省略する。同一部位には同一符号を付した。ここで図22はこの磁界センサの原理説明図、図23に上面図、図24に断面図を示す。この磁界センサは基本的には図1に示した例と同様であるが、この補助パターン4の存在により、電気抵抗は高めたままで磁気的な感度を高めるようにしたものである。外側の環状パターン(3)と内部の補助パターン4とは電気的に接触していないため、電気抵抗は前記実施の形態1の磁界センサと同様であるが、磁気的には空間部が磁性薄膜で埋められるため、より多くの磁束を導くことができ、高感度化を図ることができる。
このように、本実施の形態によれば、磁性体の間に空間が形成されるため、外部磁界に対する感度が低下する。そこで電気抵抗を高めたままで、磁気的な感度のみを向上すべく、電気的に独立して内部磁性薄膜を設けたことで、より高感度化を図ることができる。
【0083】
なお、素子構造としては、図25に変形例を示すように、磁性体薄膜パターンを形成した後、基板表面全体をポリイミド樹脂からなる保護絶縁膜16で被覆し、スルーホールを介して給電部5A、5Bおよび検出部5C、5Dを形成してもよい。この構成によれば、磁性体薄膜の劣化を防止し、信頼性の高い磁界センサを提供することが可能となる。
【0084】
さらにまた、環状パターンの内部に形成される補助パターンとしては、同一材料で構成してもよいし、図26に示すように別の材料からなる磁性体薄膜で補助パターン24を形成してもよい。
【0085】
内部磁性薄膜すなわち補助パターンを、磁性薄膜と同一材料からなる磁性薄膜で構成することで、製造が容易でパターンの変更のみで高感度で信頼性の高い磁界センサを提供することができる。
【0086】
また内部磁性薄膜すなわち補助パターンを、磁性薄膜と異なる磁性薄膜で構成することで、感度を調整することができる。また、多数の磁界センサを並べて配列する場合、感度をそろえるために、内部磁性薄膜の材料を調整することによっても感度の調整を図ることが可能となる。
【0087】
なお、保護膜としては、酸化シリコン膜や酸化アルミニウムなどの無機膜の他、ポリイミド樹脂、ノボラック樹脂等の有機膜を用いることも可能である。なおここでは磁性薄膜として強磁性薄膜を使用するのが望ましい。
【0088】
(実施の形態10)
次に、本発明の実施の形態10について説明する。本実施の形態では、図27および28に示すように、強磁性薄膜は、正方形の環状パターン33で構成され、前記正方形の対角線方向に電流が流れるように給電部5A、5Bが設けられ、これらに直交する方向に検出部5C、5Dが形成されたことを特徴とする。
本実施の形態でも、前記実施の形態1の磁界センサの環状パターン3に代えて正方形の環状パターン33を形成しただけで、他の構成については前記実施の形態1と同様であり、ここでは説明を省略する。同一部位には同一符号を付した。ここで図27はこの磁界センサの原理説明図、図28は、上面図である。
【0089】
ここで磁束密度ベクトルは素子が持つ自発磁化ベクトルMと計測磁界ベクトルHの合成であり、外部からの計測磁界がない場合には磁束密度ベクトルは自発磁化ベクトル方向となる。計測磁界が交流磁界の場合は、自発磁化ベクトルを中心に図の上下方向に振動する。
【0090】
この構成によれば、センサの出力Vmrは次式で表すことができる。
ただし、前述したのと同様に、電流密度ベクトルと磁束密度ベクトルのなす角をθ1、θ2、ABとACおよびABとADのなす角をφ、計測磁界がない時のAC間の電圧をVAC0、AD間の電圧をVAD0、磁気抵抗効果による電圧変化の最大値をΔVrとする。
【0091】
【数6】

【0092】
丸形環状すなわち円環状においても略同式にて表現できるが、円環状の場合、電流密度ベクトルの方向がAからC、AからDの間で変化し、出力最大となるφ=45度以外の成分も存在するため正方形に比べて出力が小さくなる。
【0093】
なお、前記実施の形態では、磁性体薄膜をスパッタリング法で形成したが、スパッタリング法に限定されることなく、真空蒸着法あるいは、塗布法、浸漬法などによっても形成可能である。
【0094】
また基板についても、シリコンなどの半導体基板のほか、サファイア、ガラス、セラミック等の無機系基板あるいは、樹脂等の有機系基板などいずれを用いてもよい。これらのなかでは特に、いわゆる可撓性に優れ、薄くて軽いものを用いることが好ましく、例えば、印刷配線板等として広く使用されているプラスチックフィルムと同様の基板を使用することができる。より具体的には、プラスチックフィルム材質として公知の各種の材料、例えば、ポリイミド、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリポロピレン(PP)、テフロン(登録商標)等が利用可能である。可撓性の基板を用いることにより、測定すべき電線を囲むように配置するなど、より高感度となるように配置することが可能となる。また、ハンダによる接合を考慮して、耐熱性の高いポリイミドフィルムを用いるようにしてもよい。なお基板の厚さは、特に限定されるものではないが、1〜300μm程度の厚さのものが好ましい。
【0095】
さらにまた、ガラス基板などの基板上に直接磁性体薄膜パターンを形成して磁界センサを形成してもよいが、一旦チップを形成し、これをガラス基板やプリント配線基板などにワイヤボンディング法や、フリップチップ法で実装するようにしてもよい。またチップ内に、処理回路も含めて集積化することでより高精度で信頼性の高い磁界センサを提供することが可能となる。
【0096】
なお前記実施の形態に限定されるものではなく、磁性薄膜の出力取り出し方向を素子電流の供給方向に対し直交する方向とするとともに、素子電流の方向に対して磁気抵抗が対称となるように形成するものであれば適用可能であり、方向の正負を判定することができ、かつ磁界を印加しないときのオフセットがなくなるため回路構成を簡単にすることができる。
また前記実施の形態では強磁性薄膜を用いた磁界センサを用いたが、これに限定されることなく他の磁界センサを用いてもよい。
【0097】
また、強磁性薄膜は、高感度化の点からは磁化方向が前記素子電流の方向と一致するように形成されるのが望ましい。
【0098】
以上説明してきたように、本発明の磁界センサによれば、高精度の磁界強度を検出できることから、電流センサや電力センサなどに適用可能である。
また、本発明の電力計測装置によれば、力率が1でない場合あるいは高調波電流が含まれた負荷であっても正しい電力計測を行うことができ、変流器などの電流センサを用いた従来の電力計測装置に比較して小型化、低いコスト化が可能となることから、種々の省エネツールに適用可能である。
【符号の説明】
【0099】
1 基板
2 絶縁膜
3、33 磁性薄膜((環状)パターン)
4、24 補助パターン
5A、5B 給電部
5C、5D 検出部
100 磁界センサチップ
200 導体
300 磁石

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電流が流れる一次導体に対し、平行となるように配置された磁性薄膜と、
前記一次導体に接続され、前記磁性薄膜に素子電流を供給する電流入出力端子を備えた給電部と、
前記磁性薄膜両端の出力を検出する検出部とを具備した磁界センサを具備した電力計測装置であって、
前記磁性薄膜は、ブリッジ構造をとる第1乃至第4の磁性体成分で構成され、
前記電流入出力端子の中間位置に接続され、前記検出部を構成する電圧入出力端子を具備した電力計測装置。
【請求項2】
請求項1に記載の電力計測装置であって、
前記磁性薄膜に対して一方向に直流磁界を印加する磁界印加手段を有する前記電力計測装置。
【請求項3】
請求項1または2に記載の電力計測装置であって、
前記磁界印加手段は、前記磁性薄膜に対して一次導体による磁界に略直交する方向に磁界を印加する電力計測装置。
【請求項4】
請求項1乃至3のいずれか1項に記載の電力計測装置であって、
前記磁性薄膜のブリッジ構成を成す4区間はそれぞれミアンダ形状パターンで構成される電力計測装置。
【請求項5】
請求項4に記載の電力計測装置であって、
前記ブリッジ構成を成す4区間が、それぞれの区間において長手方向が隣り合う区間の長手方向とのなす角が90°である電力計測装置。
【請求項6】
請求項1乃至5のいずれか1項に記載の電力計測装置であって、
前記磁界印加手段が磁石である電力計測装置。
【請求項7】
請求項6に記載の電力計測装置であって、
前記磁石は前記磁性薄膜の両側に、前記磁界センサに対してほぼ平行な磁界を形成するように、前記磁性薄膜の両側に配置された一対の磁石要素で構成された電力計測装置。
【請求項8】
請求項6に記載の電力計測装置であって、
前記磁石は前記磁性薄膜面に平行に配置されたひとつの磁石要素で構成された電力計測装置。
【請求項9】
請求項8に記載の電力計測装置であって、
前記磁石は前記磁性薄膜面に平行に配置された本体部と、前記本体部の両端に位置する磁極と、前記磁極付近に配置された集磁部とを具備した電力計測装置。
【請求項10】
請求項8に記載の電力計測装置であって、
前記磁石は前記磁性薄膜形成面に平行に、前記磁性薄膜を挟むように配置された一対の磁石要素を備えた電力計測装置。
【請求項11】
請求項10に記載の電力計測装置であって、
前記一対の磁石要素の同種磁極間に集磁部を有する電力計測装置。
【請求項12】
請求項6乃至11のいずれか1項に記載の電力計測装置であって、
前記磁界センサの電圧入出力端子からの電圧引き出し部が、前記磁石の磁極面と垂直な面に形成された電力計測装置。
【請求項13】
請求項1乃至12のいずれか1項に記載の電力計測装置であって、
前記一次導体は前記磁性薄膜に平行となるように設置され、
前記一次導体と前記磁性薄膜の中心をとおる面が前記磁性薄膜面に対して垂直である電力計測装置。
【請求項14】
請求項6乃至13のいずれか1項に記載の電力計測装置であって、
前記磁界センサは、前記磁界印加手段と同一の基板上に形成された電力計測装置。
【請求項15】
請求項14に記載の電力計測装置であって、
前記磁界センサを構成する磁性薄膜は前記基板上に形成されており、
前記磁界印加手段は、前記磁性薄膜と平行になるように、前記基板上に形成された第2の磁性薄膜を具備し、
前記第2の磁性薄膜は前記磁性薄膜の外縁よりも外側に位置する電力計測装置。
【請求項16】
請求項15に記載の電力計測装置であって、
前記磁界印加手段は、前記基板上に形成された第3の磁性薄膜を備え、
前記第3の磁性薄膜と前記第2の磁性薄膜とが絶縁膜を介して前記磁性薄膜を挟むように構成された電力計測装置。
【請求項17】
請求項1に記載の電力計測装置であって、
前記磁界センサは、
前記基板上に成膜された磁性薄膜と、
前記磁性薄膜に素子電流を供給する入出力端子を備えた給電部と、
前記磁性薄膜両端の出力を検出する検出電極部とを具備した電力計測装置。
【請求項18】
請求項1乃至17のいずれか1項に記載の電力計測装置を用い、
磁性薄膜のパターンに対し、
前記電流入出力端子により、素子電流の方向に対して磁気抵抗が対称となるように、素子電流を供給する工程と、
前記電圧入出力端子により、前記素子電流の供給によって生起された出力の直流成分を取り出し、電力情報とする電力測定方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate

【図11】
image rotate

【図12】
image rotate

【図13】
image rotate

【図14】
image rotate

【図15】
image rotate

【図16】
image rotate

【図17】
image rotate

【図18】
image rotate

【図19】
image rotate

【図20】
image rotate

【図21】
image rotate

【図22】
image rotate

【図23】
image rotate

【図24】
image rotate

【図25】
image rotate

【図26】
image rotate

【図27】
image rotate

【図28】
image rotate


【公開番号】特開2012−73034(P2012−73034A)
【公開日】平成24年4月12日(2012.4.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−215892(P2010−215892)
【出願日】平成22年9月27日(2010.9.27)
【出願人】(000005832)パナソニック電工株式会社 (17,916)