説明

電動コンプレッサ

【課題】インバータ収納室の壁部にインバータ回路基板を登載した後に、インバータ回路基板を破損することなく且つ壁部を厚くすることなくベアリングを圧入することのできる構造を有する電動コンプレッサを提供する。
【解決手段】圧縮機構20が収納される圧縮機構収納部2と、電動モータ30が収納される電動モータ収納部3と、インバータ回路が収納されるインバータ回路収納部4とを画成するハウジングを有し、前記電動モータ収納部と前記インバータ回路収納部との間には、電動モータ収納部側には電動モータの回転軸を回転自在に軸支するベアリングが圧入され、インバータ回路収納部側にはインバータ回路が配線されたインバータ回路基板が設けられる壁部が設けられると共に、前記インバータ回路収納部は蓋部材によって閉塞される電動コンプレッサにおいて、少なくとも1つのピラー50が前記壁部と前記蓋部材の間に設けられることにある。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願発明は、圧縮部と駆動部としての電動モータが一体化に形成された電動コンプレッサに関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1は、圧縮部とモータとが一体化された冷媒圧縮用の電動式圧縮機であって、モータ駆動回路が冷媒ガス吸入経路の囲壁外面に取り付けられ、冷媒ガス吸入経路囲壁のモータ駆動回路取付け部内面に、放熱フィンが取り付けられるものを開示する。そして、モータ駆動回路は冷媒ガス吸入経路囲壁、放熱フィンを介して、冷媒ガスによって冷却されるようになっている。
【0003】
特許文献2に開示される電動コンプレッサは、吸入圧領域に設けられたモータ室を備え、モータ室とインバータ収納室とが第1のハウジングを挟んで隣接し、第1のハウジングには、モータ室からインバータ収納室へと向かう冷却孔が形成され、冷却孔が第1のハウジングを貫通する貫通孔であり、モータ室の冷媒が、冷却孔に流入して伝熱板に接触し、伝熱板を直接的に冷却することで、電子部分の冷却効果を向上させるようになっているものである。
【0004】
特許文献3に開示される電動コンプレッサは、モータハウジングを備えており、このモータハウジングの後方側の端部である底部には、インバータハウジングが接合され、インバータハウジングの内部にはインバータ収納室が形成され、インバータが底部に固定された状態で収納されているものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2002−174178号公報
【特許文献2】特開2008−184947号公報
【特許文献3】特開2010−59809号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上述した特許文献1乃至3から明らかなように、従来の電動コンプレッサにおいて、インバータ回路が配線された基板(インバータ回路基板)は、電動モータが収容された空間とは壁部によって隔てられて形成されたインバータ収納室に配置され固定される。また、インバータ回路に装着されるスイッチング素子等の電子部品は発熱量が多いため、熱伝導性を良くし冷却効果を向上させる目的で、スイッチング素子等を壁部に密着させた状態で配置することが一般的に行なわれる。さらに、特許文献1及び3の電動コンプレッサでは、インバータ収納室のモータ側の壁部には、前記電動モータの回転軸を回転自在に支持するベアリングが圧入される。
【0007】
従来の電動コンプレッサでは、インバータ収納室の壁部にインバータ回路基板を固定した後、ベアリングを圧入する場合、圧入時の圧入荷重をベアリング圧入部の背後位置近傍(インバータ収容室の壁部の中央部)で支持することができないため、インバータ収容室の壁部が大きく変形するおそれがある。そして壁部が変形することで、放熱が必要な素子と壁部との密着状態が悪くなって素子の冷却効果が低下したり、あるいは素子を破壊してしまうという問題が生じる可能性がある。これを防止するためには、インバータ回路基板(放熱が必要な素子)を登載する前にベアリングを圧入するか、あるいは、インバータ収納室の壁部を厚くする必要がある。
【0008】
また、ベアリングを圧入した後に、インバータ回路基板を登載した場合、移送などの工程の移行時に、ベアリングが、ゴミ、水分、オイルに晒される危険が生じる。
【0009】
このため、本願発明は、インバータ回路に装着されたスイッチング素子等の冷却効果を低下させる、あるいはスイッチング素子等を破損させることなく、且つ壁部を厚くすることなく、インバータ収納室の壁部にインバータ回路基板を登載した後に、壁部にベアリングを圧入することのできる構造を有する電動コンプレッサを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
したがって、本願発明は、圧縮機構と、該圧縮機構を駆動させる電動モータと、該電動モータを駆動するためのインバータ回路とを具備し、圧縮機構が収納される圧縮機構収納部と、前記電動モータが収納される電動モータ収納部と、前記インバータ回路が収納されるインバータ回路収納部とを画成するハウジングを有し、前記電動モータ収納部と前記インバータ回路収納部との間には、電動モータ収納部側には電動モータの回転軸を回転自在に軸支するベアリングが圧入され、インバータ回路収納部側にはインバータ回路が配線されたインバータ回路基板が設けられる壁部が設けられると共に、前記インバータ回路収納部は蓋部材によって閉塞される電動コンプレッサにおいて、少なくとも1つのピラーが前記壁部と前記蓋部材の間に設けられることにある。
【0011】
これによって、ベアリングの圧入時に壁部に係る荷重をピラーによって受けることができるので、インバータ回路基板を前記壁部に装着した後にベアリングを壁部に圧入してもインバータ回路基板に係る荷重(圧入力)を、ピラーを介して蓋部材で受けることができるため、インバータ回路の冷却効果の低下や、インバータ回路基板に装着されたスイッチング素子等の破損を防止できるものである。
【0012】
また、前記インバータ回路基板は、ピラーを介して前記壁部に装着されることが望ましい。このため、前記ピラーには、前記インバータ回路基板を保持するために座が設けられ、前記インバータ回路基板は前記座に固定されるものである。
【0013】
さらに、前記ピラーは、前記壁部と一体に前記壁部から延出して形成され、その先端が前記蓋部材に当接するものである。
【発明の効果】
【0014】
本願発明によれば、インバータ回路基板を、ピラーを介してインバータ回路収納部と電動モータ収納部との間の壁部に固定するため、ベアリング圧入時の荷重を壁部と蓋部材とによって支えることができるために、インバータ回路基板装着後にベアリングの圧入作業を実施することができるので、ベアリング装着後にゴミ、水分、オイルに晒される危険が少ないという効果を奏する。また、ベアリング圧入時に、圧入力が、放熱が必要なスイッチング素子等の電気素子に伝わらないため、壁部と該電気素子との密着状態の悪化によるインバータ回路の冷却効果の低下や、該電気素子の破損の危険が少ないという効果を奏する。さらに、ピラーによってベアリング圧入時の圧入力を支持するため、前記壁部の厚みを厚くする必要がなくなるため、壁部での放熱効果を高くすることができるという効果を奏するものである。また、ピラーに設けた座にインバータ回路基板を保持固定するため、インバータ回路基板の固定構造を簡略化することができるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本願発明の実施例に係る電動コンプレッサの概略構成図である。
【図2】本願発明の実施例に係る電動コンプレッサのインバータ回路収納部を示した説明図である。
【図3】本願発明の構造を説明した概略構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、この発明の実施例について、図面により説明する。
【実施例】
【0017】
図1で示すように、本願発明の実施例に係る電動コンプレッサ1は、例えば図示しない冷凍サイクルの一部を構成し、冷媒を圧縮して冷凍サイクル内に流すものであり、圧縮機構20が収納される圧縮機構収納部2と、前記圧縮機構20を駆動するための電動モータ30が収納される電動モータ収納部3と、電動モータ30を駆動するためのインバータ回路が配線されたインバータ回路基板40が収納されるインバータ回路収納部4とによって構成される。
【0018】
前記圧縮機構収納部2は、圧縮機構20を収納すると共に吐出空間21を画成する圧縮機構ハウジングブロック22を有する。この実施例では、前記圧縮機構20は、前記圧縮機構ハウジングブロック22に嵌合固定された固定スクロール部材23と、この固定スクロール部材23に噛合して圧縮空間25を画成する揺動スクロール部材24とによって構成されるスクロール型の圧縮機構であるが、特にスクロール型に限定されるものではない。
【0019】
前記電動モータ収納部3は、前記圧縮機構ハウジングブロック22とボルト等によって結合固定され内部に電動モータ30が収納される電動モータハウジングブロック31を具備する。この実施例では、前記電動モータ30は、前記電動モータハウジングブロック31に固定され、インバータ回路基板40に配線されたインバータ回路に接続されるコイルが巻回された複数のステータ32と、回転軸34に固定され、前記ステータ32と対峙して配される磁石から成る複数のロータ33とによって構成される。これによって、前記インバータ回路から出力される電力に伴ってステータ32に発生する回転磁界によって前記ロータ33が回転し、前記回転軸34が回転するものである。
【0020】
前記回転軸34は、ベアリング36,37によって回転自在に軸支されており、その一端には、偏心して偏心軸35が設けられ、前記回転軸34の回転による偏心軸35の回転及びオルダム機構26の協働によって前記揺動スクロール部材24を揺動させ、前記圧縮空間25を外周方向から中心方向に漸次容量を縮小させて吸引された冷媒を圧縮するものである。また、前記偏心軸35には、偏心軸35の回転バランスをとるためのバランスウェート38が設けられる。
【0021】
前記インバータ回路収納部4は、図1及び図2で示すように、前記電動モータ収納部3に連結固定されるインバータ回路ハウジングブロック41によって構成される。このインバータ回路ハウジングブロック41は、前記インバータ回路収納部4と前記電動モータ収納部3の間に位置する壁部42と、前記インバータ回路基板40を収納する収納空間43を画成する周壁部44とによって構成され、前記収納空間43の軸方向端面は、蓋部材45によって閉塞される。さらに、前記壁部42には、前記ベアリング37が圧入されるベアリング支持部46が延出している。
【0022】
インバータ回路基板40の壁部42側には、インバータ回路のスイッチング素子をモジュール化した駆動回路モジュール60が配置されている。この駆動回路モジュール60は、発熱量の多い素子が集積されているため、壁部42に形成された平坦な設置面61にシリコングリス等の熱伝導材を介して密着され、その状態が保持されるようにネジ62により壁部42の設置面61に固定され、電動モータハウジングブロック31の内部を流れる吸入冷媒によって壁部42を介して冷却するようになっている。
【0023】
以上の構成の電動コンプレッサ1において、本願発明では、前記インバータ回路ハウジングブロック41の壁部42から前記蓋部材45側へ延出する少なくとも1本(この実施例では3本)のピラー50が、前記壁部42と一体に形成される。図3で示すように、前記ピラー50は、前記壁部42から延出すると共に、所定の位置に前記インバータ回路基板40を保持するための座51が形成されている。この座51に、前記インバータ回路基板40が載置され、座金53によって固定される。前記ピラー50はインバータ回路基板40を貫通して前記蓋部材45まで延出し、前記蓋部材45と端部52が接触する。
【0024】
これによって、ベアリング支持部46にベアリング37を圧入する際に、壁部42にかかる荷重がピラー50を介して蓋部材45で支持されるため、インバータ回路基板40上に配置された電子部品、特に放熱が必要なスイッチング素子等の電気素子の冷却効果の低下や破損のおそれがなくなる。このため、ベアリングを圧入する前に、インバータ回路収納部4にインバータ回路基板40を配置した後に、ベアリング37の圧入作業を実施することが可能となるものである。
【0025】
また、ピラー50に座を形成し、座金によってインバータ回路基板40を保持固定する構造とすることによって、インバータ回路基板の固定構造を簡略化することができる。
【符号の説明】
【0026】
1 電動コンプレッサ
2 圧縮機構収納部
3 電動モータ収納部
4 インバータ回路収納部
20 圧縮機構
21 吐出空間
22 圧縮機構ハウジングブロック
23 固定スクロール部材
24 揺動スクロール部材
25 圧縮空間
26 オルダム機構
30 電動モータ
31 電動モータハウジングブロック
32 ステータ
33 ロータ
34 回転軸
35 偏心軸
36,37 ベアリング
38 バランスウェート
40 インバータ回路基板
41 インバータ回路ハウジングブロック
42 壁部
43 収納空間
44 周壁部
45 蓋部材
46 ベアリング支持部
50 ピラー
51 座
52 端部
53 座金

【特許請求の範囲】
【請求項1】
圧縮機構と、該圧縮機構を駆動させる電動モータと、該電動モータを駆動するためのインバータ回路とを具備し、圧縮機構が収納される圧縮機構収納部と、前記電動モータが収納される電動モータ収納部と、前記インバータ回路が収納されるインバータ回路収納部とを画成するハウジングを有し、前記電動モータ収納部と前記インバータ回路収納部との間には、電動モータ収納部側には電動モータの回転軸を回転自在に軸支するベアリングが圧入され、インバータ回路収納部側にはインバータ回路が配線されたインバータ回路基板が設けられる壁部が設けられると共に、前記インバータ回路収納部は蓋部材によって閉塞される電動コンプレッサにおいて、
少なくとも1つのピラーが前記壁部と前記蓋部材の間に設けられることを特徴とする電動コンプレッサ。
【請求項2】
前記ピラーは、前記インバータ回路基板を保持する座を有し、前記インバータ回路基板を前記座に固定保持することを特徴とする請求項1記載の電動コンプレッサ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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