説明

電動ブレーキ装置

【課題】ピストンの軸方向駆動時における当該ピストンの倒れを防止できる電動ブレーキ装置を提供する。
【解決手段】モータの駆動力によって第2スレーブピストン88aを軸方向に駆動することによりブレーキ液圧を発生する電動ブレーキ装置において、第2スレーブピストン88aの外周面と駆動力伝達機構74との間を液密にシールすると共に、第2スレーブピストン88aを当該第2スレーブピストン88aの軸方向に対して移動可能にガイドする環状のガイドピストン230が、第2スレーブピストン88aの外周面に対向するように配置されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電動ブレーキ装置に関し、特に、モータの駆動力によってピストンを軸方向に駆動することによりブレーキ液圧を発生する電動ブレーキ装置に関する。
【背景技術】
【0002】
操作者のブレーキ操作が入力されるマスタシリンダと、前記ブレーキ操作に応じた電気信号に基づいてブレーキ液圧を発生する電動ブレーキ装置としてのスレーブシリンダとを備えた車両用ブレーキ装置が知られている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
この車両用ブレーキ装置のスレーブシリンダでは、モータを駆動すると、ギア機構とナット及びこれに係合するスクリューを備えたボールねじ機構とを介して、ピストンが前進する。すなわち、モータの回転駆動力をナットが受け、ナットに係合されたスクリューが軸方向に移動してピストンを押圧することによって、ピストンが前進させられる。これにより、ピストンの前方に形成された液圧室にブレーキ液圧が発生し、このブレーキ液圧がポートを介して液路に出力される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2008−143419号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、前記スレーブシリンダにおいては、ピストンの前進時にナットの回転によりスクリューが軸方向に移動してナットからの突出量が増大するにつれて、スクリュー先端の芯ずれ(振れ;軸心の基準中心位置からのずれ)が大きくなり、このスクリューにより押圧されるピストンに倒れ(傾き)が生じる虞がある。かかるピストンの倒れは、ピストンや当該ピストンに付設されるシール部材等の摩耗や損傷に繋がる。
【0006】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであり、ピストンの軸方向駆動時における当該ピストンの倒れを防止できる電動ブレーキ装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
請求項1に記載の発明は、軸方向に移動可能なピストンを内蔵するシリンダ部と、前記ピストンを駆動するためのモータと、前記モータの駆動力を前記ピストンに伝達するための駆動力伝達機構とを備え、前記モータの駆動力によって前記ピストンを軸方向に駆動することによりブレーキ液圧を発生する電動ブレーキ装置であって、前記ピストンの外周面と前記駆動力伝達機構との間を液密にシールすると共に、前記ピストンを当該ピストンの軸方向に対して移動可能にガイドする環状のガイド部を、前記ピストンの前記外周面に対向するように配置したものである。
【0008】
この発明によれば、環状のガイド部に外周面がガイドされた状態でピストンが軸方向に移動するため、ピストン外周面上のガイド部によるガイド位置は、ピストンが駆動力伝達機構と反対側に軸方向に移動するにつれて、相対的にピストン上では駆動力伝達機構側に移動し、その結果、ピストン外周面上の駆動力伝達機構と反対側の他のガイド位置との距離である支持長さ(ガイド長)が大きくなる。
したがって、ピストンの軸方向駆動時における当該ピストンの倒れをより効果的に防止することができる。これにより、ピストン、シリンダ部のピストンとの摺動面、当該ピストンに付設されるシール部材等の摩耗や損傷を抑制できる。
【0009】
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の電動ブレーキ装置において、前記ピストンに、前記ガイド部と当接することにより前記ピストンの前記駆動力伝達機構側への移動を規制する規制部を形成し、前記ガイド部に配置されたシール部材を前記規制部の前記駆動力伝達機構側に位置させたものである。
【0010】
この発明によれば、請求項1に記載の発明の作用効果に加えて、ガイド部でピストンの変位を規制しつつ当該ピストンをシリンダ部内に組み付けることができるため、ピストンの組付け性が向上する。また、規制部をシール部材の前記駆動力伝達機構側に配置した場合には規制部の存在によってピストンの全長が延びてしまうが、規制部をシール部材の前記駆動力伝達機構側に配置する必要がない構成としたため、ピストンの全長を短縮することができる。
【0011】
請求項3に記載の発明は、請求項1又は請求項2に記載の電動ブレーキ装置において、前記ピストンは、当該ピストンの前記駆動力伝達機構側への移動限度位置において、一端が前記ピストンの前記駆動力伝達機構と反対側に形成される液圧室側に向けて配置される一方、他端が前記駆動力伝達機構を収容するハウジング側に突出するように形成されているものである。
【0012】
この発明によれば、請求項1又は請求項2に記載の発明の作用効果に加えて、電動ブレーキ装置のピストン軸方向の寸法を増大させることなく、ピストンの支持長さを大きく確保することによって、ピストンの倒れをより確実に防止できる。また、シリンダ部内のブレーキ液がハウジング側へ侵入することも抑制できる。
【0013】
請求項4に記載の発明は、請求項1乃至請求項3のいずれか一項に記載の電動ブレーキ装置において、前記シリンダ部は、前記ピストンが内部に摺動可能に配設されるシリンダ本体を備え、前記駆動力伝達機構を収容するハウジングと前記シリンダ本体とを別体で形成すると共に、前記ガイド部を前記シリンダ本体内に収容したものである。
【0014】
この発明によれば、請求項1乃至請求項3のいずれか一項に記載の発明の作用効果に加えて、シリンダ本体内に配置される部品は全てガイド部で液密かつ脱落しないように規制されるため、シリンダ部全体として、組立作業を含めた取り扱いが容易となる。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、ピストンの軸方向駆動時における当該ピストンの倒れを防止できる電動ブレーキ装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明の一実施形態に係る電動ブレーキ装置が適用された車両用ブレーキシステムの車両における配置構成を示す図である。
【図2】車両用ブレーキシステムの概略構成図である。
【図3】モータシリンダ装置の側面図である。
【図4】モータシリンダ装置の分解斜視図である。
【図5】駆動力伝達部の分解斜視図である。
【図6】モータシリンダ装置の斜め下方から見た斜視図である。
【図7】ガイドピストン周辺の拡大断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の実施形態について、適宜図面を参照しながら詳細に説明する。
図1は、本発明の一実施形態に係る電動ブレーキ装置が適用された車両用ブレーキシステムの車両における配置構成を示す図である。なお、車両Vの前後左右の方向を図1に矢印で示す。
【0018】
本実施形態の車両用ブレーキシステム10は、通常時用として、電気信号を伝達してブレーキを作動させるバイ・ワイヤ(By Wire)式のブレーキシステムと、フェイルセイフ時用として、油圧を伝達してブレーキを作動させる旧来の油圧式のブレーキシステムの双方を備えて構成される。
【0019】
図1に示すように、車両用ブレーキシステム10は、操作者(運転者)のブレーキ操作が入力される入力装置14と、少なくともブレーキ操作に応じた電気信号に基づいてブレーキ液圧を発生する電動ブレーキ装置としてのモータシリンダ装置16と、モータシリンダ装置16で発生したブレーキ液圧に基づいて車両の挙動の安定化を支援する車両挙動安定化装置としてのビークルスタビリティアシスト装置18(以下、VSA装置18という、VSA;登録商標)とを備えて構成されている。
【0020】
なお、モータシリンダ装置16は、運転者のブレーキ操作に応じた電気信号だけではなく、他の物理量に応じた電気信号に基づいてブレーキ液圧を発生するように構成されていてもよい。他の物理量に応じた電気信号とは、例えば、自動ブレーキシステムのような、運転者のブレーキ操作によらずに、ECU(Electronic Control Unit)が車両Vの周囲の状況をセンサ等で判断して、車両Vの衝突等を回避するための信号などである。
【0021】
入力装置14は、ここでは右ハンドル車に適用するものであり、ダッシュボード2の車幅方向の右側にボルト等を介して固定されている。なお、入力装置14は、左ハンドル車に適用されるものであってもよい。モータシリンダ装置16は、例えば、入力装置とは逆側の車幅方向の左側に配置され、左側のサイドフレーム等の車体1に取付用ブラケット(図示せず)を介して取り付けられている。VSA装置18は、例えば、ブレーキ時の車輪ロックを防ぐABS(アンチロック・ブレーキ・システム)機能、加速時などの車輪空転を防ぐTCS(トラクション・コントロール・システム)機能、旋回時の横すべりを抑制する機能などを備えて構成されており、例えば、車幅方向の右側の前端に、ブラケットを介して車体に取り付けられている。なお、VSA装置18に代えて、ブレーキ時の車輪ロックを防ぐABS機能のみを有するABS装置を接続してもよい。入力装置14、モータシリンダ装置16、及びVSA装置18の内部の詳細な構成については後記する。
【0022】
これらの入力装置14、モータシリンダ装置16、及びVSA装置18は、車両Vのダッシュボード2の前方に設けられたエンジンや走行用モータ等の構造物3が搭載される構造物搭載室Rに、配管チューブ22a〜22fを介して互いに分離して配置されている。なお、車両用ブレーキシステム10は、前輪駆動車、後輪駆動車、四輪駆動車のいずれにも適用可能である。また、バイ・ワイヤ式のブレーキシステムとして、入力装置14とモータシリンダ装置16とは、図示しないハーネスによってECU等の制御手段と電気的に接続されている。
【0023】
図2は、車両用ブレーキシステムの概略構成図である。
液圧路について説明すると、図2中の連結点A1を基準として、入力装置14の接続ポート20aと連結点A1とが第1配管チューブ22aによって接続され、また、モータシリンダ装置16の出力ポート24aと連結点A1とが第2配管チューブ22bによって接続され、さらに、VSA装置18の導入ポート26aと連結点A1とが第3配管チューブ22cによって接続されている。
【0024】
図2中の他の連結点A2を基準として、入力装置14の他の接続ポート20bと連結点A2とが第4配管チューブ22dによって接続され、また、モータシリンダ装置16の他の出力ポート24bと連結点A2とが第5配管チューブ22eによって接続され、さらに、VSA装置18の他の導入ポート26bと連結点A2とが第6配管チューブ22fによって接続されている。
【0025】
VSA装置18には、複数の導出ポート28a〜28dが設けられる。第1導出ポート28aは、第7配管チューブ22gによって右側前輪に設けられたディスクブレーキ機構30aのホイールシリンダ32FRと接続される。第2導出ポート28bは、第8配管チューブ22hによって左側後輪に設けられたディスクブレーキ機構30bのホイールシリンダ32RLと接続される。第3導出ポート28cは、第9配管チューブ22iによって右側後輪に設けられたディスクブレーキ機構30cのホイールシリンダ32RRと接続される。第4導出ポート28dは、第10配管チューブ22jによって左側前輪に設けられたディスクブレーキ機構30dのホイールシリンダ32FLと接続される。
【0026】
この場合、各導出ポート28a〜28dに接続される配管チューブ22g〜22jによってブレーキ液(ブレーキフルード)がディスクブレーキ機構30a〜30dの各ホイールシリンダ32FR、32RL、32RR、32FLに対して供給され、各ホイールシリンダ32FR、32RL、32RR、32FL内の液圧が上昇することにより、各ホイールシリンダ32FR、32RL、32RR、32FLが作動し、対応する車輪(右側前輪、左側後輪、右側後輪、左側前輪)に対して制動力が付与される。
【0027】
なお、車両用ブレーキシステム10は、例えば、エンジン(内燃機関)のみによって駆動される自動車、ハイブリッド自動車、電気自動車、燃料電池自動車等を含む各種車両に対して搭載可能に設けられる。
【0028】
入力装置14は、運転者によるブレーキペダル12の操作によって液圧を発生可能なタンデム式のマスタシリンダ34と、前記マスタシリンダ34に付設された第1リザーバ36とを有する。このマスタシリンダ34のシリンダチューブ38内には、前記シリンダチューブ38の軸方向に沿って所定間隔離間する第2ピストン40a及び第1ピストン40bが摺動自在に配設される。第2ピストン40aは、ブレーキペダル12に近接して配置され、プッシュロッド42を介してブレーキペダル12と連結される。また、第1ピストン40bは、第2ピストン40aよりもブレーキペダル12から離間して配置される。
【0029】
この第2ピストン40a及び第1ピストン40bの外周面には、環状段部を介して一対のカップシール44a、44bがそれぞれ装着される。一対のカップシール44a、44bの間には、それぞれ、後記するサプライポート46a、46bと連通する背室48a、48bが形成される。また、第2ピストン40aと第1ピストン40bとの間には、ばね部材50aが配設され、第1ピストン40bとシリンダチューブ38の前端部との間には、他のばね部材50bが配設される。
【0030】
なお、第2ピストン40a及び第1ピストン40bの外周面にカップシール44a、44bをそれぞれ設ける代わりに、シリンダチューブ38の内周面にシール部材をそれぞれ配設してもよい。
【0031】
マスタシリンダ34のシリンダチューブ38には、2つのサプライポート46a、46bと、2つのリリーフポート52a、52bと、2つの出力ポート54a、54bとが設けられる。この場合、各サプライポート46a(46b)及び各リリーフポート52a(52b)は、それぞれ合流して第1リザーバ36内の図示しないリザーバ室と連通するように設けられる。
【0032】
また、マスタシリンダ34のシリンダチューブ38内には、運転者がブレーキペダル12を踏み込む踏力に対応したブレーキ液圧を発生させる第2圧力室56a及び第1圧力室56bが設けられる。第2圧力室56aは、第2液圧路58aを介して接続ポート20aと連通するように設けられ、第1圧力室56bは、第1液圧路58bを介して他の接続ポート20bと連通するように設けられる。
【0033】
マスタシリンダ34と接続ポート20aとの間であって、第2液圧路58aの上流側には圧力センサPmが配設されると共に、第2液圧路58aの下流側には、ノーマルオープンタイプ(常開型)のソレノイドバルブからなる第2遮断弁60aが設けられる。この圧力センサPmは、第2液圧路58a上において、第2遮断弁60aよりもマスタシリンダ34側の上流の液圧を検知するものである。
【0034】
マスタシリンダ34と他の接続ポート20bとの間であって、第1液圧路58bの上流側には、ノーマルオープンタイプ(常開型)のソレノイドバルブからなる第1遮断弁60bが設けられると共に、第1液圧路58bの下流側には、圧力センサPpが設けられる。この圧力センサPpは、第1液圧路58b上において、第1遮断弁60bよりもホイールシリンダ32FR、32RL、32RR、32FL側の下流側の液圧を検知するものである。
【0035】
この第2遮断弁60a及び第1遮断弁60bにおけるノーマルオープンとは、ノーマル位置(消磁(非通電)時の弁体の位置)が開位置の状態(常時開)となるように構成されたバルブをいう。なお、図2において、第2遮断弁60a及び第1遮断弁60bは励磁時の状態を示す(後記する第3遮断弁62も同様)。
【0036】
マスタシリンダ34と第1遮断弁60bとの間の第1液圧路58bには、前記第1液圧路58bから分岐する分岐液圧路58cが設けられ、前記分岐液圧路58cには、ノーマルクローズタイプ(常閉型)のソレノイドバルブからなる第3遮断弁62と、ストロークシミュレータ64とが直列に接続される。この第3遮断弁62におけるノーマルクローズとは、ノーマル位置(消磁(非通電)時の弁体の位置)が閉位置の状態(常時閉)となるように構成されたバルブをいう。
【0037】
このストロークシミュレータ64は、第1液圧路58b上であって、第1遮断弁60bよりもマスタシリンダ34側に配置されている。前記ストロークシミュレータ64には、分岐液圧路58cに連通する液圧室65が設けられ、前記液圧室65を介して、マスタシリンダ34の第1圧力室56bから導出されるブレーキ液が吸収可能に設けられる。
【0038】
また、ストロークシミュレータ64は、互いに直列に配置されたばね定数の高い第1リターンスプリング66aとばね定数の低い第2リターンスプリング66bと、前記第1及び第2リターンスプリング66a、66bによって付勢されるシミュレータピストン68とを備え、ブレーキペダル12の踏み込み前期時にペダル反力の増加勾配を低く設定し、踏み込み後期時にペダル反力を高く設定してブレーキペダル12のペダルフィーリングを既存のマスタシリンダと同等となるように設けられている。
【0039】
液圧路は、大別すると、マスタシリンダ34の第2圧力室56aと複数のホイールシリンダ32FR、32RLとを接続する第2液圧系統70aと、マスタシリンダ34の第1圧力室56bと複数のホイールシリンダ32RR、32FLとを接続する第1液圧系統70bとから構成される。
【0040】
第2液圧系統70aは、入力装置14におけるマスタシリンダ34(シリンダチューブ38)の出力ポート54aと接続ポート20aとを接続する第2液圧路58aと、入力装置14の接続ポート20aとモータシリンダ装置16の出力ポート24aとを接続する配管チューブ22a、22bと、モータシリンダ装置16の出力ポート24aとVSA装置18の導入ポート26aとを接続する配管チューブ22b、22cと、VSA装置18の導出ポート28a、28bと各ホイールシリンダ32FR、32RLとをそれぞれ接続する配管チューブ22g、22hとによって構成される。
【0041】
第1液圧系統70bは、入力装置14におけるマスタシリンダ34(シリンダチューブ38)の出力ポート54bと他の接続ポート20bとを接続する第1液圧路58bと、入力装置14の他の接続ポート20bとモータシリンダ装置16の出力ポート24bとを接続する配管チューブ22d、22eと、モータシリンダ装置16の出力ポート24bとVSA装置18の導入ポート26bとを接続する配管チューブ22e、22fと、VSA装置18の導出ポート28c、28dと各ホイールシリンダ32RR、32FLとをそれぞれ接続する配管チューブ22i、22jとを有する。
【0042】
モータシリンダ装置16は、電動式のモータ72の駆動力によって第2スレーブピストン88a及び第1スレーブピストン88bを軸方向に駆動することによりブレーキ液圧を発生する電動ブレーキ装置である。なお、モータシリンダ装置16において、ブレーキ液圧を発生させる(上昇させる)ときの第2スレーブピストン88a及び第1スレーブピストン88bの移動方向(図2中矢印X1方向)を「前」とし、その反対方向(図2中矢印X2方向)を「後」とする。
【0043】
モータシリンダ装置16は、軸方向に移動可能な第2スレーブピストン88a及び第1スレーブピストン88bを内蔵するシリンダ部76と、第2スレーブピストン88a及び第1スレーブピストン88bを駆動するためのモータ72と、モータ72の駆動力を第2スレーブピストン88a及び第1スレーブピストン88bに伝達するための駆動力伝達部73とを備えている。
【0044】
駆動力伝達部73は、モータ72の回転駆動力を伝達するギア機構(減速機構)78と、この回転駆動力をナット80cが受けてボール80bを介してナット80cと係合するボールねじ軸(スクリュー)80aの軸方向に沿った直線方向駆動力に変換するボールねじ構造体80と、を含む駆動力伝達機構74を有している。
【0045】
シリンダ部76は、略円筒状のシリンダ本体82と、前記シリンダ本体82に付設された第2リザーバ84とを有する。第2リザーバ84は、入力装置14のマスタシリンダ34に付設された第1リザーバ36と配管チューブ86で接続され、第1リザーバ36内に貯留されたブレーキ液が配管チューブ86を介して第2リザーバ84内に供給されるように設けられる。
【0046】
シリンダ本体82内には、前記シリンダ本体82の軸方向に沿って所定間隔離間する第2スレーブピストン88a及び第1スレーブピストン88bが摺動自在に配設される。第2スレーブピストン88aは、ボールねじ構造体80側に近接して配置され、ボールねじ軸80aの先端240(図7参照)に当接して前記ボールねじ軸80aと一体的に矢印X1又はX2方向に変位する。また、第1スレーブピストン88bは、第2スレーブピストン88aよりもボールねじ構造体80側から離間して配置される。
【0047】
第2スレーブピストン88aの外周面と駆動力伝達機構74との間を液密にシールすると共に、第2スレーブピストン88aをその軸方向に対して移動可能にガイドする環状のガイドピストン(ガイド部)230が、第2スレーブピストン88aの外周面に対向するように配置されている。ガイドピストン230の内周面にはカップシール90cが装着される。また、第2スレーブピストン88aの前端側の外周面には、環状段部を介してスレーブカップシール90bが装着される。カップシール90cとスレーブカップシール90bとの間には、後記するリザーバポート92aと連通する第2背室94aが形成される。そして、第2スレーブピストン88aと第1スレーブピストン88bとの間には、第2リターンスプリング96aが配設される。
【0048】
一方、第1スレーブピストン88bの外周面には、環状段部を介して一対のスレーブカップシール90a、90bがそれぞれ装着される。一対のスレーブカップシール90a、90bの間には、後記するリザーバポート92bと連通する第1背室94bが形成される。そして、第1スレーブピストン88bとシリンダ本体82の前端部と間には、第1リターンスプリング96bが配設される。
【0049】
シリンダ部76のシリンダ本体82には、2つのリザーバポート92a、92bと、2つの出力ポート24a、24bとが設けられる。この場合、リザーバポート92a(92b)は、第2リザーバ84内のリザーバ室と連通するように設けられる。
【0050】
また、シリンダ本体82内には、出力ポート24aからホイールシリンダ32FR、32RL側へ出力されるブレーキ液圧を発生させる第2液圧室98aと、他の出力ポート24bからホイールシリンダ32RR、32FL側へ出力されるブレーキ液圧を発生させる第1液圧室98bとが設けられる。
【0051】
なお、第2スレーブピストン88aと第1スレーブピストン88bとの間には、第2スレーブピストン88aと第1スレーブピストン88bの最大離間距離と最小離間距離とを規制する規制手段100が設けられ、さらに、第1スレーブピストン88bには、前記第1スレーブピストン88bの摺動範囲を規制して、第2スレーブピストン88a側へのオーバーリターンを阻止するストッパピン102が設けられ、これによって、特にマスタシリンダ34で発生したブレーキ液圧で制動するときのバックアップ時において、一系統の失陥時に他の系統の失陥が防止される。
【0052】
VSA装置18は、周知のものからなり、右側前輪及び左側後輪のディスクブレーキ機構30a、30b(ホイールシリンダ32FR、ホイールシリンダ32RL)に接続された第2液圧系統70aを制御する第2ブレーキ系110aと、右側後輪及び左側前輪のディスクブレーキ機構30c、30d(ホイールシリンダ32RR、ホイールシリンダ32FL)に接続された第1液圧系統70bを制御する第1ブレーキ系110bとを有する。
【0053】
なお、第2ブレーキ系110a及び第1ブレーキ系110bと、各ディスクブレーキ機構30a,30b,30c,30dとの接続の組み合わせは、前記した組み合わせに限定されず、互いに独立した2系統が担保されれば、次のような組み合わせとすることができる。つまり、図示はしないが、第2ブレーキ系110aは、左側前輪及び右側前輪に設けられたディスクブレーキ機構に接続された液圧系統からなり、第1ブレーキ系110bは、左側後輪及び右側後輪に設けられたディスクブレーキ機構に接続された液圧系統であってもよい。さらに、第2ブレーキ系110aは、車体片側の右側前輪及び右側後輪に設けられたディスクブレーキ機構に接続された液圧系統からなり、第1ブレーキ系110bは、車体片側の左側前輪及び左側後輪に設けられたディスクブレーキ機構に接続された液圧系統であってもよい。また、第2ブレーキ系110aは、右側前輪及び左側前輪に設けられたディスクブレーキ機構に接続された液圧系統からなり、第1ブレーキ系110bは、右側後輪及び左側後輪に設けられたディスクブレーキ機構に接続された液圧系統であってもよい。
【0054】
この第2ブレーキ系110a及び第1ブレーキ系110bは、それぞれ同一構造からなるため、第2ブレーキ系110aと第1ブレーキ系110bとで対応するものには同一の参照符号を付すと共に、第2ブレーキ系110aの説明を中心にして、第1ブレーキ系110bの説明を括弧書きで適宜付記する。
【0055】
第2ブレーキ系110a(第1ブレーキ系110b)は、ホイールシリンダ32FR、32RL(32RR、32FL)に対して、共通する第1共通液圧路112及び第2共通液圧路114を有する。VSA装置18は、導入ポート26aと第1共通液圧路112との間に配置されたノーマルオープンタイプのソレノイドバルブからなるレギュレータバルブ116と、前記レギュレータバルブ116と並列に配置され導入ポート26a側から第1共通液圧路112側へのブレーキ液の流通を許容する(第1共通液圧路112側から導入ポート26a側へのブレーキ液の流通を阻止する)第1チェックバルブ118と、第1共通液圧路112と第1導出ポート28aとの間に配置されたノーマルオープンタイプのソレノイドバルブからなる第1インバルブ120と、前記第1インバルブ120と並列に配置され第1導出ポート28a側から第1共通液圧路112側へのブレーキ液の流通を許容する(第1共通液圧路112側から第1導出ポート28a側へのブレーキ液の流通を阻止する)第2チェックバルブ122と、第1共通液圧路112と第2導出ポート28bとの間に配置されたノーマルオープンタイプのソレノイドバルブからなる第2インバルブ124と、前記第2インバルブ124と並列に配置され第2導出ポート28b側から第1共通液圧路112側へのブレーキ液の流通を許容する(第1共通液圧路112側から第2導出ポート28b側へのブレーキ液の流通を阻止する)第3チェックバルブ126とを備える。
【0056】
さらに、VSA装置18は、第1導出ポート28aと第2共通液圧路114との間に配置されたノーマルクローズタイプのソレノイドバルブからなる第1アウトバルブ128と、第2導出ポート28bと第2共通液圧路114との間に配置されたノーマルクローズタイプのソレノイドバルブからなる第2アウトバルブ130と、第2共通液圧路114に接続されたリザーバ132と、第1共通液圧路112と第2共通液圧路114との間に配置されて第2共通液圧路114側から第1共通液圧路112側へのブレーキ液の流通を許容する(第1共通液圧路112側から第2共通液圧路114側へのブレーキ液の流通を阻止する)第4チェックバルブ134と、前記第4チェックバルブ134と第1共通液圧路112との間に配置されて第2共通液圧路114側から第1共通液圧路112側へブレーキ液を供給するポンプ136と、前記ポンプ136の前後に設けられる吸入弁138及び吐出弁140と、前記ポンプ136を駆動するモータMと、第2共通液圧路114と導入ポート26aとの間に配置されたノーマルクローズタイプのソレノイドバルブからなるサクションバルブ142とを備える。
【0057】
なお、第2ブレーキ系110aにおいて、導入ポート26aに近接する液圧路上には、モータシリンダ装置16の出力ポート24aから出力され、前記モータシリンダ装置16の第2液圧室98aで発生したブレーキ液圧を検知する圧力センサPhが設けられる。各圧力センサPm、Pp、Phで検出された検出信号は、図示しない制御手段に導入される。
【0058】
本実施形態に係る車両用ブレーキシステム10は、基本的に以上のように構成されるものであり、次にその作用効果について説明する。
【0059】
車両用ブレーキシステム10が正常に機能する正常時には、ノーマルオープンタイプのソレノイドバルブからなる第2遮断弁60a及び第1遮断弁60bが励磁で弁閉状態となり、ノーマルクローズタイプのソレノイドバルブからなる第3遮断弁62が励磁で弁開状態となる(図2参照)。従って、第2遮断弁60a及び第1遮断弁60bによって第2液圧系統70a及び第1液圧系統70bが遮断されているため、入力装置14のマスタシリンダ34で発生したブレーキ液圧がディスクブレーキ機構30a〜30dのホイールシリンダ32FR、32RL、32RR、32FLに伝達されることはない。
【0060】
このとき、マスタシリンダ34の第1圧力室56bで発生したブレーキ液圧は、分岐液圧路58c及び弁開状態にある第3遮断弁62を経由してストロークシミュレータ64の液圧室65に伝達される。この液圧室65に供給されたブレーキ液圧によってシミュレータピストン68がリターンスプリング66a、66bのばね力に抗して変位することにより、ブレーキペダル12のストロークが許容されると共に、擬似的なペダル反力が発生してブレーキペダル12に付与される。この結果、運転者にとって違和感のないブレーキフィーリングが得られる。
【0061】
このようなシステム状態において、図示しない制御手段は、運転者によるブレーキペダル12の踏み込みを検出すると、モータシリンダ装置16のモータ72を駆動させ、モータ72の駆動力を駆動力伝達機構74を介して伝達し、第2リターンスプリング96a及び第1リターンスプリング96bのばね力に抗して第2スレーブピストン88a及び第1スレーブピストン88bを図2中の矢印X1方向に向かって変位させる。この第2スレーブピストン88a及び第1スレーブピストン88bの変位によって第2液圧室98a及び第1液圧室98b内のブレーキ液がバランスするように加圧されて所望のブレーキ液圧が発生する。
【0062】
このモータシリンダ装置16における第2液圧室98a及び第1液圧室98bのブレーキ液圧は、VSA装置18の弁開状態にある第1、第2インバルブ120、124を介してディスクブレーキ機構30a〜30dのホイールシリンダ32FR、32RL、32RR、32FLに伝達され、前記ホイールシリンダ32FR、32RL、32RR、32FLが作動することにより各車輪に所望の制動力が付与される。
【0063】
換言すると、本実施形態に係る車両用ブレーキシステム10では、電動ブレーキ装置(動力液圧源)として機能するモータシリンダ装置16やバイ・ワイヤ制御する図示しないECU等の制御手段が作動可能な正常時において、運転者がブレーキペダル12を踏むことでブレーキ液圧を発生するマスタシリンダ34と各車輪を制動するディスクブレーキ機構30a〜30d(ホイールシリンダ32FR、32RL、32RR、32FL)との連通を第2遮断弁60a及び第1遮断弁60bで遮断した状態で、モータシリンダ装置16が発生するブレーキ液圧でディスクブレーキ機構30a〜30dを作動させるという、いわゆるブレーキ・バイ・ワイヤ方式のブレーキシステムがアクティブになる。このため、本実施形態では、例えば、電気自動車等のように、旧来から用いられていた内燃機関による負圧が存在しない車両に好適に適用することができる。
【0064】
一方、モータシリンダ装置16等が作動不能となる異常時では、第2遮断弁60a及び第1遮断弁60bをそれぞれ弁開状態とし、且つ、第3遮断弁62を弁閉状態としてマスタシリンダ34で発生するブレーキ液圧をディスクブレーキ機構30a〜30d(ホイールシリンダ32FR、32RL、32RR、32FL)に伝達して、前記ディスクブレーキ機構30a〜30d(ホイールシリンダ32FR、32RL、32RR、32FL)を作動させるという、いわゆる旧来の油圧式のブレーキシステムがアクティブになる。
【0065】
次に、モータシリンダ装置16についてさらに詳細に説明する。図3は、モータシリンダ装置の側面図である。図4は、モータシリンダ装置の分解斜視図である。図5は、駆動力伝達部の分解斜視図である。
【0066】
図3に示すように、モータシリンダ装置16は、前記した通り、シリンダ部76と、モータ72と、駆動力伝達部73とを備えている。モータ72は、図示しない制御手段からの電気信号に基づいて駆動する。
【0067】
ここで、モータ72は、シリンダ部76の上方に位置されている。このように構成すれば、駆動力伝達部73内のグリス等の油成分が重力の作用でモータ72内に入り込んで図示しない電気部品等に侵入することを防止できる。
【0068】
図4に示すように、モータ72、駆動力伝達部73、及びシリンダ部76は、互いに分離可能に構成されている。モータ72は、図示しないハーネスが接続される基部161を有しており、基部161にはボルト201が挿通される貫通孔162が複数形成されている。また、シリンダ部76のシリンダ本体82の駆動力伝達部73側の端部には、フランジ部82aが設けられており、フランジ部82aにはボルト202が挿通される貫通孔82bが複数形成されている。
【0069】
駆動力伝達部73は、ギア機構78及びボールねじ構造体80を含む駆動力伝達機構74(図5参照)を内部に収容するハウジング171を有しており、ハウジング171は、シリンダ部76側に配置されるケース172と、ケース172のシリンダ部76と反対側の開口端を覆うカバー173とを備えている。駆動力伝達部73のケース172及びカバー173は、アルミニウム合金等の軽金属から形成されている(シリンダ部76のシリンダ本体82も同様)。
【0070】
駆動力伝達部73のケース172には、モータ72を駆動力伝達部73に取り付けるためのモータ取付用ねじ孔174が複数形成されている。また、ケース172のシリンダ部76側の端部には、フランジ部175が設けられており、フランジ部175には、シリンダ部76を駆動力伝達部73に取り付けるためのシリンダ部取付用ねじ孔176が複数形成されている。
【0071】
そして、モータ72は、ボルト201を貫通孔162に挿通させてモータ取付用ねじ孔174にねじ込むことによって、駆動力伝達部73に取り付けられて固定される。また、シリンダ部76は、ボルト202を貫通孔82bに挿通させてシリンダ部取付用ねじ孔176にねじ込むことによって、駆動力伝達部73に取り付けられて固定される。
【0072】
図5に示すように、ハウジング171(図4参照)の内部に、ギア機構78とボールねじ構造体80とが収容されている。ギア機構78は、モータ72の出力軸に固定されたピニオンギア78a(図2参照)と、ピニオンギア78aに噛合されるアイドルギア78bと、アイドルギア78bに噛合されるリングギア78cとを備えている。
【0073】
ボールねじ構造体80は、モータ72の回転駆動力を受けることにより回転するナット80cと、ナット80cと係合(螺合)して軸方向に移動可能に設けられると共に先端240(図7参照)が第2スレーブピストン88aに当接して第2スレーブピストン88a(ピストン)を押圧するボールねじ軸80a(スクリュー)と、ボールねじ軸80a上のねじ溝に転動可能に配置されるボール80b(図2参照)とを備えている。
【0074】
そして、ナット80cは、リングギア78cの内周面と例えばキーを介して係合されている。但し、ナット80cとリングギア78cの係合は、キーを媒介とした係合に限定されるものではなく、例えばナット80cの外周面をリングギア78cの内周面に圧入してもよい。これにより、ギア機構78から伝達される回転駆動力は、ナット80cに入力された後、ボールねじ構造体80によって直線方向駆動力に変換され、ボールねじ軸80aが軸方向に沿って移動可能とされている。
【0075】
ハウジング171(図4参照)のケース172とカバー173とは、互いに分離可能に構成されている。第2スレーブピストン88a及び第1スレーブピストン88b(図2参照)の中心軸CL(図4参照)周りに位置するように、ケース172にはボルト203が挿通される貫通孔177が複数形成されており、カバー173の貫通孔177と対応する位置には、ケース取付用ねじ孔178が複数形成されている。そして、ボルト203を貫通孔177に挿通させてケース取付用ねじ孔178にねじ込むことによって、ケース172とカバー173とが互いに結合されている。
【0076】
なお、図5中の符号179は、モータ72の出力軸の先端を回転可能に支持する軸受を示しており、この軸受179は、カバー173に形成された穴部180に嵌着される。また、ボールねじ軸80aの回り止めのための規制部としての円柱形状のピン220が、ボールねじ軸80aの軸方向に垂直な方向に沿って形成された貫通孔に例えば圧入されることによって、ボールねじ軸80aに設けられている。一方、ハウジング171のカバー173には、ピン220をボールねじ軸80aの軸方向に対して移動可能に支持するガイド部としての摺動溝211が形成されている。
【0077】
図6は、モータシリンダ装置の斜め下方から見た斜視図である。
図6に示すように、モータシリンダ装置16には、当該モータシリンダ装置16をサイドフレーム等の車体1(図1参照)に取り付けるためのマウント部181が設けられている。マウント部181は、中心軸CL(図4参照)方向のカバー173側から見て、左方に位置する左マウント穴182、右方に位置する右マウント穴183、及び下方に位置する下マウント穴184を有する。左右下の各マウント穴182〜184は、それぞれフローティング支持のためのゴムブッシュ(図示せず)を装着可能な円柱状の凹部を呈している。また、マウント部181は、左マウント穴182と右マウント穴183との共通軸心に沿って形成され中心軸CL(図4参照)に直交する軸心を有する貫通孔185を有している。
【0078】
マウント部181は、モータシリンダ装置16の重心近傍に設けられている。ここでは、駆動力伝達部73のケース172に、マウント部181が設けられている。このような構成によれば、モータシリンダ装置16の重心近傍を支持することができ、振動等の力を受けた場合でも振れを少なくすることができる。
【0079】
そして、モータシリンダ装置16は、マウント部181により、取付用ブラケット(図示せず)を介して、サイドフレーム等の車体1(図1参照)に取り付けられる。ここで、左マウント穴182及び右マウント穴183は、貫通孔185に挿通される1本のボルト204により車体側に締結可能に構成されており、モータシリンダ装置16の取付作業が容易となっている。このようなマウント部181を使用することにより、モータシリンダ装置16の左右下の三点を支持してモータシリンダ装置16を車体側に取り付けることが可能である。
【0080】
次に、図7を参照して、ガイドピストン230による第2スレーブピストン88aのガイド構造について説明する。図7は、ガイドピストン周辺の拡大断面図である。
【0081】
図7に示すように、第2スレーブピストン88aは、略円柱状の本体部251と、本体部251の後方に連接された略円筒状の突出部252とを備えている。第2スレーブピストン88aの本体部251の前端側の外周面に環状段部253が形成されており、この環状段部253の前側隅部にスレーブカップシール90bが装着されている。
【0082】
一方、第2スレーブピストン88aの本体部251の後端側には、ガイドピストン230と当接することにより第2スレーブピストン88aの後退を規制する環状の軸方向規制部(規制部)254が形成されている。このように構成すれば、ガイドピストン230で第2スレーブピストン88aの変位を規制しつつ当該第2スレーブピストン88aをシリンダ部76内に組み付けることができるため、第2スレーブピストン88aの組付け性が向上する。なお、ガイドピストン230は、シリンダ本体82の後端側の内面に装着されたサークリップ235に当接することによって後退が規制される。
【0083】
また、第2スレーブピストン88aの突出部252に形成され後方に向けて開口する有底穴255の底面(ここでは、本体部251の後端面に相当)は、ボールねじ軸80aとの当接面256として形成されている。
【0084】
環状のガイドピストン230は、第2スレーブピストン88aの突出部252の外周面に対向するように配置されている。ガイドピストン230は、前記したように、第2スレーブピストン88aの外周面と駆動力伝達機構74との間を液密にシールすると共に、第2スレーブピストン88aをその軸方向に対して移動可能にガイドするものである。
【0085】
ガイドピストン230の外周面に環状溝231が形成されており、この環状溝231にシール部材としてのOリング232が装着されている。また、ガイドピストン230の内周面に環状溝233が形成されており、この環状溝233に断面カップ状のシール部材としてのカップシール90cが装着されている。
【0086】
カップシール90c及びOリング232は、軸方向規制部254の後方に位置されている。ここで、軸方向規制部254をカップシール90c及びOリング232の後方に配置した場合には軸方向規制部254の存在によって第2スレーブピストン88aの全長が延びてしまうが、軸方向規制部254をカップシール90c及びOリング232の後方に配置する必要がない構成としたため、第2スレーブピストン88aの全長を短縮することができる。
【0087】
ガイドピストン230の後端側には、第2スレーブピストン88aの径方向の変位を規制する径方向規制部234が形成されている。この径方向規制部234は、第2スレーブピストン88aの外周面側に配置されており、軸方向において当接面256の後方に位置されている。
【0088】
このように第2スレーブピストン88aのボールねじ軸80aとの当接面256よりも後方で第2スレーブピストン88aの径方向の変位を規制することにより、ボールねじ軸80aによる第2スレーブピストン88aの押圧時における第2スレーブピストン88aの倒れを抑制することができる。したがって、ボールねじ軸80aと第2スレーブピストン88aとの接触部分の偏摩耗をも抑制できる。
【0089】
第2スレーブピストン88aは、軸方向規制部254がガイドピストン230に当接すると共にガイドピストン230がサークリップ235に当接する後退限度位置(ストロークエンド;図7参照)において、本体部251の前端が第2スレーブピストン88aの前方に形成される第2液圧室98a側に向けて配置される一方、突出部252の後端が駆動力伝達機構74を収容するハウジング171側に突出するように形成されている。
【0090】
また、ハウジング171とシリンダ本体82とは別体で形成されており、ガイドピストン230は、シリンダ本体82内に収容されている。このように構成すれば、シリンダ本体82内に配置される部品は全てガイドピストン230で液密かつ脱落しないように規制されるため、シリンダ部76全体として、組立作業を含めた取り扱いが容易となる。
【0091】
前記したように、本実施形態では、モータ72の駆動力によって第2スレーブピストン88a及び第1スレーブピストン88bを軸方向に駆動することによりブレーキ液圧を発生する電動ブレーキ装置において、第2スレーブピストン88aの外周面と駆動力伝達機構74との間を液密にシールすると共に、第2スレーブピストン88aを当該第2スレーブピストン88aの軸方向に対して移動可能にガイドする環状のガイドピストン230が、第2スレーブピストン88aの外周面に対向するように配置されている。
【0092】
このように構成されたガイドピストン230による第2スレーブピストン88aのガイド構造は、以下のように作用する。
すなわち、モータ72の回転駆動力をナット80cが受けると、ナット80cに係合されたボールねじ軸80aは、その先端240が第2スレーブピストン88aの当接面256に当接した状態で軸方向に前進することにより第2スレーブピストン88aを押圧し、これにより第2スレーブピストン88aが前進駆動される。
【0093】
このとき、環状のガイドピストン230に外周面がガイドされた状態で第2スレーブピストン88aが前進するため、第2スレーブピストン88aの外周面上におけるガイドピストン230の径方向規制部234によるガイド位置は、第2スレーブピストン88aが前進するにつれて、相対的に第2スレーブピストン88a上では後方に移動し、その結果、第2スレーブピストン88aの外周面上の環状段部253による前方ガイド位置との距離である支持長さ(ガイド長)L(図7参照)が大きくなる。
【0094】
したがって本実施形態によれば、第2スレーブピストン88aの軸方向駆動時における当該第2スレーブピストン88aの倒れをより効果的に防止することができる。これにより、第2スレーブピストン88a、シリンダ本体82の第2スレーブピストン88aとの摺動面、第2スレーブピストン88aに付設されるシール部材としてのスレーブカップシール90bやカップシール90c等の摩耗や損傷を抑制できる。
【0095】
また本実施形態では、第2スレーブピストン88aは、当該第2スレーブピストン88aの後退限度位置において、前端が第2液圧室98a側に向けて配置される一方、後端がハウジング171側に突出するように形成されている。したがって、モータシリンダ装置16の第2スレーブピストン88a軸方向の寸法を増大させることなく、第2スレーブピストン88aの支持長さを大きく確保することによって、第2スレーブピストン88aの倒れをより確実に防止できる。また、シリンダ部76内のブレーキ液がハウジング171側へ侵入することも抑制できる。
【0096】
以上、本発明について、実施形態に基づいて説明したが、本発明は、前記実施形態に記載した構成に限定されるものではなく、実施形態に記載した構成を適宜組み合わせ乃至選択することを含め、その趣旨を逸脱しない範囲において適宜その構成を変更することができるものである。
【0097】
例えば、前記実施形態では、ハウジング171とシリンダ本体82とは別体で形成されており、ガイドピストン230は、シリンダ本体82内に収容されているが、本発明はこれに限定されるものではない。すなわち、シリンダ本体82とハウジング171の少なくとも一部(例えばケース172)とが一体で形成されていてもよい。また、ガイドピストン230は、ハウジング171内に収容されるように構成されてもよい。
【0098】
また、前記実施形態では、中心軸CL方向(図4参照)に並んで配置される第2スレーブピストン88a及び第1スレーブピストン88bを備える、いわゆるタンデム式のシリンダ部76について説明したが、本発明はこれに限定されるものではなく、ピストンとその前方に形成される液圧室を一つずつ備えたシリンダ部を有する電動ブレーキ装置にも勿論適用可能である。
【符号の説明】
【0099】
10 車両用ブレーキシステム
14 入力装置
16 モータシリンダ装置(電動ブレーキ装置)
18 VSA装置(車両挙動安定化装置)
72 モータ
73 駆動力伝達部
74 駆動力伝達機構
76 シリンダ部
80 ボールねじ構造体
80a ボールねじ軸
80c ナット
82 シリンダ本体
88a 第2スレーブピストン(ピストン)
88b 第1スレーブピストン
90c カップシール(シール部材)
98a 第2液圧室(液圧室)
171 ハウジング
230 ガイドピストン(ガイド部)
232 Oリング(シール部材)
254 軸方向規制部(規制部)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
軸方向に移動可能なピストンを内蔵するシリンダ部と、
前記ピストンを駆動するためのモータと、
前記モータの駆動力を前記ピストンに伝達するための駆動力伝達機構とを備え、前記モータの駆動力によって前記ピストンを軸方向に駆動することによりブレーキ液圧を発生する電動ブレーキ装置であって、
前記ピストンの外周面と前記駆動力伝達機構との間を液密にシールすると共に、前記ピストンを当該ピストンの軸方向に対して移動可能にガイドする環状のガイド部を、前記ピストンの前記外周面に対向するように配置したことを特徴とする電動ブレーキ装置。
【請求項2】
前記ピストンに、前記ガイド部と当接することにより前記ピストンの前記駆動力伝達機構側への移動を規制する規制部を形成し、前記ガイド部に配置されたシール部材を前記規制部の前記駆動力伝達機構側に位置させたことを特徴とする請求項1に記載の電動ブレーキ装置。
【請求項3】
前記ピストンは、当該ピストンの前記駆動力伝達機構側への移動限度位置において、一端が前記ピストンの前記駆動力伝達機構と反対側に形成される液圧室側に向けて配置される一方、他端が前記駆動力伝達機構を収容するハウジング側に突出するように形成されていることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の電動ブレーキ装置。
【請求項4】
前記シリンダ部は、前記ピストンが内部に摺動可能に配設されるシリンダ本体を備え、
前記駆動力伝達機構を収容するハウジングと前記シリンダ本体とを別体で形成すると共に、前記ガイド部を前記シリンダ本体内に収容したことを特徴とする請求項1乃至請求項3のいずれか一項に記載の電動ブレーキ装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2012−214069(P2012−214069A)
【公開日】平成24年11月8日(2012.11.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−79165(P2011−79165)
【出願日】平成23年3月31日(2011.3.31)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)
【出願人】(000226677)日信工業株式会社 (840)
【Fターム(参考)】