説明

電動ブレーキ装置

【課題】 パッドの引きずりを防止することにより、パッドおよびディスクの長寿命化と燃費向上とを図ることができる電動ブレーキ装置を提供する。
【解決手段】 モータ25で回転させられるとともに互いに逆向きのネジ部31,32を有する回転伝達手段26を設け、この回転伝達手段26の一方のネジ部31に第1の移動手段34を螺合させるとともに他方のネジ部32に第2の移動手段38を螺合させているため、制動力を解除させるようモータ25で回転伝達手段26を所定の方向に回転させると、この回転伝達手段26の逆向きのネジ部31,32にそれぞれ螺合された第1の移動手段34および第2の移動手段38が、それぞれの当接部36,42をパッド14,15から離間する方向に同時に移動させる。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、車両に用いて好適な電動ブレーキ装置に関する。
【0002】
【従来の技術】電動ブレーキ装置として、例えば、特開平3−45462号公報に開示されたもの等がある。この種の電動ブレーキ装置は、ディスクの両側に配置される一対のパッドと、これら一対のパッドをディスクに押し付けて制動力を発生させるキャリパとを有するもので、このキャリパとしては、ディスクの軸線方向に移動可能とされたいわゆるフローティング式のものが一般に採用されている。このフローティング式のキャリパは、モータと、該モータで直接移動させられるとともに一方のパッドのディスクに対し反対側に配置された第1の移動部材と、モータを支持するとともに他方のパッドのディスクに対し反対側に設けられる爪部を有する第2の移動部材とを具備しており、モータの駆動で第1の移動部材を介して前記一方のパッドをディスクに押し付けると、その反力で第2の移動部材がディスクに対し移動しながらその爪部で前記他方のパッドをディスクに押し付け、このようにして両パッドでディスクを両側から押圧して制動力を発生させるものである。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】ところで、上述したフローティング式のキャリパを採用した場合、制動力を解除させる際にモータを逆転させて第1の移動部材を前記一方のパッドのディスクへの押圧を解除する方向に移動させることになるが、このように、モータで直接移動させられる第1の移動部材側の前記一方のパッドはディスクからの離間が容易となるものの、モータで直接移動させられることがない第2の移動部材側の前記他方のパッドはディスクからの離間ができず、引きずりを生じてしまう。そして、このような引きずりを生じると、パッドおよびディスクの寿命が短くなるとともに燃費の悪化を生じてしまうことになる。したがって、本発明の目的は、パッドの引きずりを防止することにより、パッドおよびディスクの長寿命化と燃費向上とを図ることができる電動ブレーキ装置を提供することである。
【0004】
【課題を解決するための手段】上記目的を達成するために、本発明の請求項1記載の電動ブレーキ装置は、ディスクの両側に配置される一対のパッドと、これら一対のパッドをディスクに押圧して制動力を発生させるキャリパとを有し、前記キャリパは、回転力を発生させる一のモータと、該モータで回転させられるとともに互いに逆向きのネジ部を有する回転伝達手段と、該回転伝達手段の一方のネジ部に螺合されるとともに一方のパッドのディスクに対し反対側に該パッドに当接可能な当接部が配置される第1の移動手段と、前記回転伝達手段の他方のネジ部に螺合されるとともに他方のパッドのディスクに対し反対側に該パッドに当接可能な当接部が配置される第2の移動手段と、を具備することを特徴としている。
【0005】このように、モータで回転させられるとともに互いに逆向きのネジ部を有する回転伝達手段を設け、この回転伝達手段の一方のネジ部に第1の移動手段を螺合させるとともに他方のネジ部に第2の移動手段を螺合させているため、制動力を解除させるようモータで回転伝達手段を所定の方向に回転させると、この回転伝達手段の逆向きのネジ部にそれぞれ螺合された第1の移動手段および第2の移動手段が、それぞれの当接部を一方のパッドおよび他方のパッドから離間する方向に同時に移動させる。よって、両パッドがともにディスクからの離間が容易となリ、引きずりが防止される。
【0006】本発明の請求項2記載の電動ブレーキ装置は、請求項1記載のものに関し、前記キャリパは、ディスクの軸線方向に沿って移動可能に設けられていることを特徴としている。
【0007】このようにキャリパがディスクの軸線方向に沿って移動可能に設けられているため、ディスクに振れがあったとしても、キャリパがディスクの軸線方向に移動することで、第1の移動手段および第2の移動手段が移動し、これらにより押圧される両パッドをディスクの振れに追従させることができる。
【0008】本発明の請求項3記載の電動ブレーキ装置は、請求項1記載のものに関し、前記回転伝達手段は、ディスクの軸線方向に移動可能とされていることを特徴としている。
【0009】このように回転伝達手段がディスクの軸線方向に移動可能に設けられているため、ディスクに振れがあったとしても、回転伝達手段がディスクの軸線方向に移動することで、これに螺合している第1の移動手段および第2の移動手段が移動し、これらにより押圧される両パッドをディスクの振れに追従させることができる。しかも、回転伝達手段をディスクの軸線方向に移動可能に設けることで、キャリパ全体をディスクの軸線方向に移動可能に設ける必要がなくなり、移動させる部材の重量を小さくでき摺動抵抗を小さくできる。
【0010】本発明の請求項4記載の電動ブレーキ装置は、請求項1乃至3のいずれか一項に記載のものに関し、前記回転伝達手段は、一方のネジ部を内周側に有し他方のネジ部を外周側に有することを特徴としている。
【0011】このように、回転伝達手段は、一方のネジ部を内周側に有し他方のネジ部を外周側に有しているため、両ネジ部が外周側に並列して設けられる場合に比して長さを短くできる。
【0012】
【発明の実施の形態】本発明の電動ブレーキ装置の第1の実施の形態を図1および図2を参照して以下に説明する。第1の実施の形態の電動ブレーキ装置は、車両の非回転部に固定されるキャリア12と、このキャリア12にディスク13の両側に配設された状態で摺動自在に支持される一対のインナパッド14およびアウタパッド15と、キャリア12とで構成される二カ所の摺動案内部16,16において該キャリア12にディスク13の軸線方向に摺動自在となるよう支持された、パッド14,15を両側から挾持可能なキャリパ17とで主に構成されている。
【0013】キャリア12は、ガイド穴20がそれぞれ穿設される二カ所の支持部21,21と、これら支持部21,21のガイド穴20,20の開口側同士を連結させる第1連結部22aと、これら支持部21,21のガイド穴20,20の底部側同士を連結させる第2連結部22bとを有している。
【0014】そして、キャリア12は、支持部21,21がディスク13の周方向における両端位置となり、かつ支持部21,21に穿設されたガイド穴20,20がディスク軸線方向(図1,図2における左右方向)に沿うようにディスク13に対し配置された状態で車体側に固定される。
【0015】支持部21,21の内側位置には相互に対向するように一対のパッドガイド23,23が設けられており、これらパッドガイド23,23により、インナパッド14およびアウタパッド15はディスク13の軸線方向に沿って摺動自在となるようにそれぞれの両端位置において支持されることになる。なお、この支持状態でインナパッド14およびアウタパッド15は、ディスク13の軸線に平行な軸線回りの回転が規制されている。
【0016】キャリパ17は、第1部材24aおよび第2部材24bからなるハウジング24を有しており、このハウジング24には、回転力を発生させる一つのモータ25と該モータ25の回転を適宜減速させて出力軸(回転伝達手段)26から出力させる減速機27とが内蔵されている。ここで、モータ25は、図示せぬコントローラからの指令でトルクを発生させる。
【0017】また、このハウジング24のモータ25の軸線方向(図2における左右方向)における一側には、該モータ25の軸線を中心として相反する方向に突出する突出部28,28が形成されている。キャリパ17の両突出部28,28には、それぞれ、モータ25の軸線方向と平行してピン29がモータ25に対し反対方向に延出するように固定されている。
【0018】そして、これらのピン29,29がキャリア12のガイド穴20,20に摺動自在に嵌合されることで、キャリパ17はそのモータ25を含めてキャリア12に摺動自在に支持されることになる。
【0019】キャリパ17の減速機27の出力軸26には、その外周部の先端側に第1オネジ部(ネジ部)31が、その外周部の基端側に第1オネジ部31より大径の第2オネジ部(ネジ部)32が、それぞれ形成されている。これら第1オネジ部31および第2オネジ部32は、互いに逆向きでリードが等しくされている。ここで、ネジの逆向きとは同一方向の回転に対しネジの進む方向が逆向きであることを言う。モータ25に対し反対側の第1オネジ部31には、第1移動部材(第1の移動手段)34がその一側に形成されたメネジ部35で螺合されている。この第1移動部材34は、メネジ部35に対し反対側が円筒部(当接部)36とされている。
【0020】また、モータ25側の第2オネジ部32には、第2移動部材(第2の移動手段)38がその一側に形成されたメネジ部39で螺合されている。この第2移動部材38は、メネジ部39が形成されるメネジ形成部40と、該メネジ形成部40から略垂直に延出するディスクパス部41と、該ディスクパス部41のメネジ形成部40に対し反対側からメネジ形成部40に平行に延出する爪部(当接部)42とを有している。
【0021】そして、キャリパ17をキャリア12に支持させた状態で、モータ25および減速機27はその軸線をディスク13の軸線に平行させることになり、第1移動部材34は、その円筒部36がインナパッド14のディスク13に対し反対側に当接可能に対向配置され、第2移動部材38は、そのディスクパス部41がディスク13の外周部を跨ぐように延出し爪部42がアウタパッド15のディスク13に対し反対側に当接可能に対向配置されることになる。
【0022】ここで、第1移動部材34およびインナパッド14には、これらをディスク13の軸線方向に沿って所定量離間可能としつつこれらの相対回転を規制する第1回止部44が設けられており、これにより、第1移動部材34は、ディスク13の軸線に平行な軸線回りにおける回転が規制されている。なお、この第1回止部44は、例えば、第1移動部材34にディスク13の軸線方向に沿って形成された穴部と、この穴部に摺動自在に嵌合するようインナパッド14にディスク13の軸線方向に沿って形成された軸部とで構成される。
【0023】同様に、第2移動部材38の爪部42とアウタパッド15とにも、これらをディスク13の軸線方向に沿って所定量離間可能としつつこれらの相対回転を規制する第2回止部45が設けられており、これにより、第2移動部材38は、ディスク13の軸線に平行な軸線回りにおける回転が規制されている。なお、この第2回止部45も、例えば、第1回止部44と同様、爪部42にディスク13の軸線方向に沿って形成された穴部と、この穴部に摺動自在に嵌合するようアウタパッド15にディスク13の軸線方向に沿って形成された軸部とで構成される。
【0024】以上の構成により、モータ25が正回転すると、減速機27の出力軸26が正回転することになり、第1オネジ部31が、第1回止部44で回転が規制された第1移動部材34を、その円筒部36を含んでディスク13方向に移動させると同時に、第1オネジ部31と逆ネジ関係の第2オネジ部32が、第2回止部45で回転が規制された第2移動部材38を、その爪部42がディスク13方向に移動するように移動させる。すると、円筒部36および爪部42でインナパッド14およびアウタパッド15がディスク13方向に押圧され、これらパッド14,15がディスク13に接触して制動力を発生させる。
【0025】このとき、摺動案内部16,16によりキャリパ17がキャリア12に対しディスク13の軸線方向に移動可能に支持されているため、ディスク13に振れがあったとしても、キャリパ17がディスク13の軸線方向に移動することで、第1移動部材34および第2移動部材38が移動し、これらにより押圧される両パッド14,15がディスク13の振れに追従することになる。また、両パッド14,15に厚さの違いがあったとしても、同様に第1移動部材34および第2移動部材38が移動して、良好に対応することができる。
【0026】他方、この状態からモータ25が逆回転すると、減速機27の出力軸26が逆回転することになり、第1オネジ部31が、回転が規制された第1移動部材34を、その円筒部36を含んでディスク13から離間する方向に移動させると同時に、第1オネジ部31と逆ネジ関係の第2オネジ部32が、回転が規制された第2移動部材38を、その爪部42がディスク13から離間する方向に移動するように移動させる。すると、インナパッド14およびアウタパッド15がディスク13から同時に離間して制動力を解除させる。
【0027】以上のように、第1の実施の形態によれば、モータ25で回転させられるとともに互いに逆向きの第1オネジ部31および第2オネジ部32を有する出力軸26を設け、この出力軸26の第1オネジ部31に第1移動部材34を螺合させるとともに第2オネジ部32に第2移動部材38を螺合させているため、制動力を解除させるようモータ25で出力軸26を逆回転させると、第1オネジ部31に螺合された第1移動部材34がその円筒部36をインナパッド14から離間する方向に移動させると同時に、第1オネジ部31と逆ネジ関係の第2オネジ部32に螺合された第2移動部材38がその爪部42をアウタパッド15から離間する方向に移動させる。
【0028】よって、インナパッド14およびアウタパッド15がともにディスク13からの離間が容易となリ、引きずりが防止される。したがって、アウタパッド15およびディスク13の長寿命化と燃費向上とを図ることができる。
【0029】しかも、キャリパ17の全体がディスク13の軸線方向に沿って移動可能に設けられているため、ディスク13に振れがあったとしても、キャリパ17の全体がディスク13の軸線方向に移動することで、第1移動部材34および第2移動部材38が移動し、これらにより押圧される両パッド14,15をディスク13の振れに追従させることができる。したがって、制動力の変化を防止できる。また、両パッド14,15に厚さの違いがあったとしても、同様に第1移動部材34および第2移動部材38が移動して、良好に対応することができる。
【0030】加えて、第1移動部材34および第2移動部材38を同時に動かせるため、制動初期に爪部42および円筒部36をすばやくパッド隙間分移動させることができ、応答性を向上させることができる。
【0031】なお、第1オネジ部31およびメネジ部35と、第2オネジ部32およびメネジ部39とをそれぞれボールネジで構成することも可能である。このようにボールネジを用いると、第1移動部材34および第2移動部材38からの反力を回転運動に戻すことが可能となり、ディスク13の肉厚変動にも対応できることになる。この場合、第1オネジ部31およびメネジ部35と、第2オネジ部32およびメネジ部39とのそれぞれのリードを第1移動部材34および第2移動部材38の慣性に比例させるように意図的に不等にして、第1移動部材34および第2移動部材38をディスク13の軸線方向に均等に動作させるようにしてもよい。
【0032】次に、本発明の電動ブレーキ装置の第2の実施の形態を図3〜図5を参照して以下に、第1の実施の形態との相違部分を中心に説明する。なお、第1の実施の形態と同様の部分は同一の符号を付しその説明は略す。第2の実施の形態の電動ブレーキ装置には、回転伝達部材(回転伝達手段)50が設けられている。
【0033】この回転伝達部材50は、その外周部の一側に第1オネジ部(ネジ部)51が、その外周部の他側に第1オネジ部51より大径の第2オネジ部(ネジ部)52が、それぞれ形成されている。これら第1オネジ部51および第2オネジ部52は、互いに逆向きでリードが等しくされている。第1オネジ部51には第1の実施の形態と同様の第1移動部材34が、第2オネジ部52にも第1の実施の形態と同様の第2移動部材38が、それぞれ螺合されている。
【0034】また、第2の実施の形態では、減速機27の出力軸53が相違しており、この出力軸53と回転伝達部材50とが、相対回転が規制された状態で軸線方向移動が可能なスライド機構部55で連結されている。すなわち、このスライド機構部55は、減速機27の出力軸53に形成されたスプライン軸56と、回転伝達部材50の第2オネジ部52側にこのスプライン軸56を摺動自在に嵌合させるよう形成されたスプライン穴57とで構成されている。
【0035】そして、車両の非回転部に固定されるキャリア12には、連結部12aが形成されており、この連結部12aを介してキャリパ17のハウジング24が一体的に固定されている。これにより、ハウジング24、モータ25および減速機27は、キャリア12に対し位置固定とされている。なお、キャリパ17をキャリア12に対し固定するのではなく、直接車両の非回転部に取り付けてもよい。これに対し、回転伝達部材50が上記のようにディスク13の軸線方向に移動可能に設けられている。
【0036】以上の構成により、モータ25が正回転すると、減速機27の出力軸53が正回転することになり、スライド機構部55を介して回転伝達部材50が正回転する。すると、第1オネジ部51が、第1回止部44で回転が規制された第1移動部材34を、その円筒部36を含んでディスク13方向に移動させると同時に、第1オネジ部51と逆ネジ関係の第2オネジ部52が、第2回止部45で回転が規制された第2移動部材38を、その爪部42がディスク13方向に移動するように移動させる。すると、円筒部36および爪部42でインナパッド14およびアウタパッド15がディスク13方向に押圧され、これらパッド14,15がディスク13に接触して制動力を発生させる。
【0037】このとき、回転伝達部材50が、スライド機構部55により減速機27の出力軸53に対しディスク13の軸線方向に移動可能に支持されているため、ディスク13に振れがあったとしても、回転伝達部材50がディスク13の軸線方向に移動することで、これに螺合している第1移動部材34および第2移動部材38が移動し、これらにより押圧される両パッド14,15がディスク13の振れに追従することになる。また、両パッド14,15に厚さの違いがあったとしても、同様に回転伝達部材50、第1移動部材34および第2移動部材38が移動して、良好に対応することができる。
【0038】他方、この状態からモータ25が逆回転すると、減速機27の出力軸53が逆回転することになり、スライド機構部55を介して回転伝達部材50が逆回転する。すると、第1オネジ部51が、回転が規制された第1移動部材34を、その円筒部36を含んでディスク13から離間する方向に移動させると同時に、第1オネジ部51と逆ネジ関係の第2オネジ部52が、回転が規制された第2移動部材38を、その爪部42がディスク13から離間する方向に移動するように移動させる。すると、インナパッド14およびアウタパッド15がディスク13から同時に離間して制動力を解除させる。
【0039】以上のように、第2の実施の形態によれば、第1の実施の形態と同様の効果を奏することは勿論、回転伝達部材50をスライド機構部55によりディスク13の軸線方向に移動可能としているため、モータ25および減速機27を含むハウジング24をキャリア12に固定できるとともに、回転伝達部材50、第1移動部材34および第2移動部材38のみをディスク13の軸線方向に移動させればよいことになる。よって、移動させる部材の重量を小さくでき摺動抵抗を小さくできるため、初期応答性を向上させるとともに、ディスク13の振れにパッド14,15を良好に追従させることができる。また、移動させる部材を支持する部分の負担を軽減できる。
【0040】なお、この場合、キャリパ17をキャリア12に対し摺動自在に案内させる摺動案内部16,16は不要となるが、図5に示すように、第2移動部材38に両側に突出する突出部59,59を形成し、両突出部59,59に、それぞれ、ディスク13の軸線方向と平行してピン60,60を爪部42の方向に延出するように固定して、これらピン60,60を、キャリア12のガイド穴20,20に摺動自在に嵌合させることにより、第2移動部材38の回り止めをさらに強化したり、第2回止部45を廃止したりすることが可能となる。
【0041】次に、本発明の電動ブレーキ装置の第3の実施の形態を図6および図7を参照して以下に、第1の実施の形態との相違部分を中心に説明する。なお、第1の実施の形態と同様の部分は同一の符号を付しその説明は略す。
【0042】第3の実施の形態のキャリパ61は、略円筒状の第1部材62aと該第1部材62aの一側を閉塞させる第2部材62bとを有するハウジング62を具備しており、このハウジング62は円筒状の出力部材63を回転させるモータ64の一部を構成している。
【0043】すなわち、このモータ64は、ハウジング62と、ハウジング62の内周部に取り付けられたコイル65と、コイル65の両側に配置されたベアリング66,67と、これらベアリング66,67を介して回転自在に支持された円筒状の出力部材63と、コイル65の内側に位置するように出力部材63の外周部に固定されたマグネット68とを有している。ここで、ベアリング67と第2部材62bとの間には、出力部材63の回転位置を検出する位置検出器69が設けられている。なお、モータ64は、図示せぬコントローラからの指令でトルクを発生させる。
【0044】ハウジング62の第2部材62bには、第1部材62aと同軸をなして突出する突出軸部70が出力部材63の内周に対し間隔をあけるよう形成されている。車両の非回転部に固定されるキャリア12には、連結部12aが形成されており、この連結部12aを介してハウジング62が一体化されている。これにより、ハウジング62およびこれを含むモータ64は、キャリア12に対し位置固定とされている。なお、キャリパ61をキャリア12に対し固定するのではなく、直接車両の非回転部に取り付けてもよい。
【0045】ハウジング62の突出軸部70には、その外側に第1移動部材(第1の移動手段)71がその一側に形成された円筒部72で連結されている。ここで、これら突出軸部70および円筒部72は、相対回転が規制された状態で軸線方向移動が可能な第1スライド機構部73を介して連結されている。すなわち、この第1スライド機構部73は、円筒部72に形成されたスプライン穴74と、突出軸部70にこのスプライン穴74に嵌合するよう形成されたスプライン軸75とで構成されている。
【0046】この第1移動部材71の円筒部72のスプライン穴74に対し反対側には、該円筒部72より大径の円板部77が円筒部72と同軸に形成されており、この円板部77の円筒部72に対し反対側には、円板部77より小径の円筒部(当接部)78が円板部77と同軸に形成されている。
【0047】ハウジング62の第1部材62aのベアリング66よりキャリア12側に突出する円筒突出部80には、その内側に第2移動部材(第2の移動手段)81がその一側に形成された円筒部82で連結されている。ここで、これら円筒突出部80および円筒部82は、相対回転が規制された状態で軸線方向移動が可能な第2スライド機構部83を介して連結されている。すなわち、この第2スライド機構部83は、円筒突出部80に形成されたスプライン穴84と、円筒部82にこのスプライン穴84に嵌合するよう形成されたスプライン軸85とで構成されている。
【0048】第2移動部材81は、この円筒部82と、この円筒部82の一側に形成された底部87と、この底部87から円筒部82に対し反対方向への該円筒部82の軸線に平行に延出するディスクパス部88と、該ディスクパス部88の底部87に対し反対側から底部87に平行に延出する爪部(当接部)89とを有している。そして、底部87の円筒部82に対し反対側には、穴部90が円筒部82と同軸に形成されており、該穴部90より円筒部82側に穴部90と同軸をなして貫通孔91が形成されている。
【0049】このような第2移動部材81に、貫通孔91に円筒部72が穴部90に円板部77がそれぞれ摺動自在に嵌合された状態で第1移動部材71が支持されている。そして、第2移動部材81には、第1移動部材71と第2移動部材81の底部87とで囲まれた室93に連通するポート92が形成されている。
【0050】なお、貫通孔91の内周部には円筒部72の内周面との隙間をシールするシール部材94が、円板部77の外周部には穴部90の内周面との隙間をシールするシール部材95が、それぞれ設けられている。また、円筒部78の外周部と穴部90の内周面との間には、第1移動部材71と第2移動部材81との摺動部分にほこり等が入るのを防止するダストブーツ96が設けられている。
【0051】モータ64の出力部材63の内側には、段付き円筒状の回転伝達部材98が設けられている。これら出力部材63と回転伝達部材98とは、相対回転が規制された状態で軸線方向移動が可能なスライド機構部99で連結されている。すなわち、このスライド機構部99は、出力部材63に形成されたスプライン穴100と、回転伝達部材98の軸線方向における一側にこのスプライン穴100に嵌合するよう形成されたスプライン軸101とで構成されている。
【0052】回転伝達部材98の内側には第1ボールネジ103を介して第1移動部材71が設けられている。すなわち、回転伝達部材98の内周部にメネジ部(ネジ部)104が形成されるとともに、第1移動部材71の円筒部72の外周部にオネジ部105が形成され、これらメネジ部104とオネジ部105との間にボール106が介在されている。
【0053】さらに、回転伝達部材98の軸線方向における他側は、スプライン軸101より大径の大径部108とされており、この大径部108の外側には第2ボールネジ109を介して第2移動部材81が設けられている。すなわち、大径部108の外周部にオネジ部(ネジ部)110が形成されるとともに、第2移動部材81の円筒部82の内周部にメネジ部111が形成され、これらオネジ部110とメネジ部111との間にボール112が介在されている。
【0054】ここで、第1ボールネジ103と、第2ボールネジ109とは、同じリードで逆向きとされている。なお、回転伝達部材98は、メネジ部104およびスプライン軸75を有する第1部材98aと、オネジ部110を有する第2部材98bとが嵌合固定されて構成されている。
【0055】そして、第1移動部材71は、その円筒部78がインナパッド14のディスク13に対し反対側に当接可能に対向配置され、第2移動部材81は、そのディスクパス部88がディスク13の外周部を跨ぐように延出し爪部89がアウタパッド15のディスク13に対し反対側に当接可能に対向配置されている。
【0056】以上の構成により、モータ64がその出力軸63を正回転させると、スライド機構部99を介して連結された回転伝達部材98が正回転する。すると、第1ボールネジ103が、第1スライド機構部73で回転が規制された第1移動部材71を、その円筒部78を含んでディスク13方向に移動させると同時に、第1ボールネジ103と逆ネジ関係の第2ボールネジ109が、第2スライド機構部83で回転が規制された第2移動部材81を、その爪部89がディスク13方向に移動するように移動させる。すると、第1移動部材71の円筒部78と第2移動部材81の爪部89とでインナパッド14およびアウタパッド15がディスク13の方向に押圧され、これらパッド14,15がディスク13に接触して制動力を発生させる。
【0057】このとき、回転伝達部材98がモータ64の出力部材63に対しディスク13の軸線方向に移動可能に支持されているため、ディスク13に振れがあったとしても、回転伝達部材98がディスク13の軸線方向に移動することで、これに螺合された第1移動部材71および第2移動部材81が移動し、これらにより押圧される両パッド14,15がディスク13の振れに追従することになる。
【0058】他方、この状態からモータ64がその出力部材63を逆回転させると、スライド機構部99を介して回転伝達部材98が逆回転する。すると、第1ボールネジ103が、回転が規制された第1移動部材71を、その円筒部78を含んでディスク13から離間する方向に移動させると同時に、第1ボールネジ103と逆ネジ関係の第2ボールネジ109が、回転が規制された第2移動部材81を、その爪部89がディスク13から離間する方向に移動するように移動させる。すると、インナパッド14およびアウタパッド15がディスク13から同時に離間して制動力を解除させる。
【0059】以上のように、第3の実施の形態によれば、第1,第2の実施の形態と同様の効果を奏することは勿論、回転伝達部材98が第1ボールネジ103を内周側に有し第2ボールネジ109を外周側に有しているため、第1ボールネジ103および第2ボールネジ109が外周側に並列して設けられる場合に比して軸線方向長さを短くできる。また、ボールネジ103,109を用いているため、第1移動部材71および第2移動部材81からの反力を回転運動に戻すことが可能となり、ディスク13の肉厚変動にも対応できる。
【0060】さらに、ボールネジ103,109が可逆性を有しているため、第1移動部材71と第2移動部材81との間の室93にポート92を介してマスタシリンダからの液圧を加えることで液圧による制動が可能となり、液圧とモータ64とを併用した制動が可能となる。つまり、通常制動時にモータ64を液圧のアシストとして用い、フェイル等でモータ64が駆動できなくなっても液圧のみで制動力を確保するようにできる。加えて、回転伝達部材98とモータ64の出力軸63とがスライド機構部99で連結されているため、制動時にパッド14,15側から発生した熱が直接モータ64の側に伝わってしまうのを防止できる。
【0061】なお、第3の実施の形態も、キャリパ61をキャリア12に対し摺動自在に案内させる摺動案内部16,16は不要となるが、図7に示すように、第2移動部材81に両側に突出する突出部114,114を形成し、両突出部114,114に、それぞれ、ディスク13の軸線方向と平行してピン115,115を爪部89の方向に延出するように固定して、これらのピン115,115を、キャリア12のガイド穴20,20に摺動自在に嵌合させることにより、第2移動部材81の回り止めをさらに強化したり、第2スライド機構部83を廃止したりすることができる。
【0062】また、第1ボールネジ103および第2ボールネジ109のそれぞれのリードを第1移動部材71および第2移動部材81の慣性に比例させるように意図的に不等にして、第1移動部材71および第2移動部材81をディスク13の軸線方向に均等に動作させるようにしてもよい。
【0063】
【発明の効果】以上詳述したように、本発明の請求項1記載の電動ブレーキ装置によれば、モータで回転させられるとともに互いに逆向きのネジ部を有する回転伝達手段を設け、この回転伝達手段の一方のネジ部に第1の移動手段を螺合させるとともに他方のネジ部に第2の移動手段を螺合させているため、制動力を解除させるようモータで回転伝達手段を所定の方向に回転させると、この回転伝達手段の逆向きのネジ部にそれぞれ螺合された第1の移動手段および第2の移動手段が、それぞれの当接部を一方のパッドおよび他方のパッドから離間する方向に同時に移動させる。よって、両パッドがともにディスクからの離間が容易となリ、引きずりが防止される。したがって、パッドおよびディスクの長寿命化と燃費向上とを図ることができる。
【0064】本発明の請求項2記載の電動ブレーキ装置によれば、キャリパがディスクの軸線方向に沿って移動可能に設けられているため、ディスクに振れがあったとしても、キャリパがディスクの軸線方向に移動することで、第1の移動手段および第2の移動手段が移動し、これらにより押圧される両パッドをディスクの振れに追従させることができる。したがって、制動力の変化を防止できる。また、両パッドに厚さの違いがあったとしても、同様に第1の移動手段および第2の移動手段が移動して、良好に対応することができる。
【0065】本発明の請求項3記載の電動ブレーキ装置によれば、回転伝達手段がディスクの軸線方向に移動可能に設けられているため、ディスクに振れがあったとしても、回転伝達手段がディスクの軸線方向に移動することで、これに螺合されている第1の移動手段および第2の移動手段が移動し、これらにより押圧される両パッドをディスクの振れに追従させることができる。したがって、制動力の変化を防止できる。また、両パッドに厚さの違いがあったとしても、同様に第1の移動手段および第2の移動手段が移動して、良好に対応することができる。しかも、回転伝達手段をディスクの軸線方向に移動可能に設けることで、キャリパ全体をディスクの軸線方向に移動可能に設ける必要がなくなり、移動させる部材の重量を小さくでき摺動抵抗を小さくできる。このため、初期応答性を向上させるとともに、ディスクの振れにパッドを良好に追従させることができる。また、移動させる部材を支持する部分の負担を軽減できる。
【0066】本発明の請求項4記載の電動ブレーキ装置によれば、回転伝達手段は、一方のネジ部を内周側に有し他方のネジ部を外周側に有しているため、両ネジ部が外周側に並列して設けられる場合に比して長さを短くできる。
【図面の簡単な説明】
【図1】 本発明の電動ブレーキ装置の第1の実施の形態を示す側断面図である。
【図2】 本発明の電動ブレーキ装置の第1の実施の形態を示す平面図である。
【図3】 本発明の電動ブレーキ装置の第2の実施の形態を示す側断面図である。
【図4】 本発明の電動ブレーキ装置の第2の実施の形態を示す平面図である。
【図5】 本発明の電動ブレーキ装置の第2の実施の形態の変形例を示す平面図である。
【図6】 本発明の電動ブレーキ装置の第3の実施の形態を示す側断面図である。
【図7】 本発明の電動ブレーキ装置の第3の実施の形態の変形例を示す平面図である。
【符号の説明】
12 キャリア
13 ディスク
14 インナパッド
15 アウタパッド
17 キャリパ
25 モータ
26 出力軸(回転伝達部材)
31 第1オネジ部(ネジ部)
32 第2オネジ部(ネジ部)
34 第1移動部材(第1の移動手段)
36 円筒部(当接部)
38 第2移動部材(第2の移動手段)
42 爪部(当接部)
50 回転伝達部材(回転伝達手段)
51 第1オネジ部(ネジ部)
52 第2オネジ部(ネジ部)
61 キャリパ
64 モータ
71 第1移動部材(第1の移動手段)
78 円筒部(当接部)
81 第2移動部材(第2の移動手段)
89 爪部(当接部)
98 回転伝達部材(回転伝達手段)
104 メネジ部(ネジ部)
110 オネジ部(ネジ部)

【特許請求の範囲】
【請求項1】 ディスクの両側に配置される一対のパッドと、これら一対のパッドをディスクに押圧して制動力を発生させるキャリパとを有し、前記キャリパは、回転力を発生させる一のモータと、該モータで回転させられるとともに互いに逆向きのネジ部を有する回転伝達手段と、該回転伝達手段の一方のネジ部に螺合されるとともに一方のパッドのディスクに対し反対側に該パッドに当接可能な当接部が配置される第1の移動手段と、前記回転伝達手段の他方のネジ部に螺合されるとともに他方のパッドのディスクに対し反対側に該パッドに当接可能な当接部が配置される第2の移動手段と、を具備することを特徴とする電動ブレーキ装置。
【請求項2】 前記キャリパは、ディスクの軸線方向に沿って移動可能に設けられていることを特徴とする請求項1記載の電動ブレーキ装置。
【請求項3】 前記回転伝達手段は、ディスクの軸線方向に移動可能に設けられていることを特徴とする請求項1記載の電動ブレーキ装置。
【請求項4】 前記回転伝達手段は、一方のネジ部を内周側に有し他方のネジ部を外周側に有することを特徴とする請求項1乃至3のいずれか一項記載の電動ブレーキ装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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