説明

電動ミキサ

【課題】軸受け部を簡単にし、オイルレスメタルの冷却性を向上し、振動発生や騒音の発生を抑制し、耐久性を向上させる。
【解決手段】容器蓋12の底部となる耐熱性樹脂で形成したメタル受け台26と、このメタル受け台26にインサートされた金属製の軸受けケース30と、軸受けケース30に下方から圧入されカッタ回転軸20を回転自在に保持すると共にその下部がこの軸受けケース30から下方に突出しているオイルレスメタル34と、容器蓋12の下面に密着固定されオイルレスメタル34の下部突出部外周を囲んで接触する放熱板36と、を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、食材などの被加工材を粉砕する電動ミキサに関するものである。
【背景技術】
【0002】
この種の電動ミキサには種々の構造のものが有るが、一般には電動モータを本体ケースに収容し、この本体ケースに上方から着脱するカッタ容器蓋にカッタ回転軸を保持し、このカッタ回転軸の上端をカッタ容器蓋に被冠されるガラス容器(被加工材収容容器)内に突出させ、この突出端にカッタ刃(破砕刃)を固定し、カッタ回転軸の下端を本体ケース内に突出させてモータの回転を回転コネクタを介して伝達するものである。この場合にカッタ回転軸の軸受けとしては焼結合金を使った焼結軸受けや潤滑性を高めたオイルレスメタルを使ったオイルレス軸受けなどの滑り軸受けが構造が簡単であるなどの理由で広く用いられている。
【0003】
焼結軸受けは、焼結合金にオイル(潤滑油)を含浸させたものであるから、回転軸の高速回転時や高負荷時に温度上昇するとメタルに含浸させたオイルが流出しやすくなる。オイルレス軸受けは自己潤滑性を高めた材料を用いた軸受けであり、給油量と給油回数を減らしメンテナンス性を向上させたものであるが、オイルの供給は必要であるから高回転・高負荷時に温度が上昇して、オイルが流出しやすいという問題は残る。このため軸受けの耐久性が低下したり、オイルが流出して周囲に飛散するという問題もある。
【0004】
特許文献1には、オイルレスベアリング(オイルレスメタル)10の下方から摩擦熱によって流出するオイルが周囲に飛散するのを防ぐために、オイルレスベアリング10の外周にガイド兼用の放熱部材15を圧入するものが開示されている。ここにはオイルレスベアリング10の外周を囲む軸受8の上部を合成樹脂製の容器6に圧入し固定している。
【0005】
特許文献2には、容器(受容部28)に放熱板48を設け、この放熱板48にオイルレスメタル製の軸受44を固定するものが開示されている。
【0006】
特許文献3には、シールドボールベアリング軸受体231を用いることによって放熱板を不要にすることが開示されている。すなわちボールベアリングの上下にメカニカルシール部233を設けた回転軸部23を、容器部分21の内底に設けたものである。ここに回転軸部23は、この内底とこれに下方から装着される(段落0027、0029)下部軸受収納体部22との間に設けた軸受けの収納部221に固定される。この特許文献3に記載されたものは、ボールベアリングを用いると共に、上下端にメカニカルシールを設けて内部グリスの漏出を防止するから、特許文献1、2のもののような放熱板が不要になり、組み立て工程を簡素化できるというものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】実開昭57−121237
【特許文献2】実開平4−28845
【特許文献3】特開2005−177127
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
特許文献1、2に記載されたものは、いずれもオイルレスベアリング(オイルレスメタル)を用いるものであり、前記したように高回転・高負荷時における温度上昇によってオイルが飛散したり、オイルの減少によって軸受けの耐久性が下がるという問題がある。またこれらに記載のものは、いずれもオイルレスメタルの下端部分が金属製の軸受け8(特許文献1)や放熱板48(特許文献2)から下方に突出しているので、オイルレスメタルの保持強度が不十分であり、オイルレスメタルの振動を確実に防止できず騒音発生の原因となる、などの問題もあった。
【0009】
特許文献3に記載されたものは、ボールベアリングを用いるから特許文献1、2のような滑り軸受けを用いた場合に比べて温度上昇が少なくなるが、構造が複雑で有り、部品点数も増えるという問題がある。
【0010】
この発明はこのような事情に鑑みなされたものであり、オイルレスメタルを用いることによって軸受け部の構造を簡単にし、オイルレスメタルの熱を放熱板に伝え易くしてオイルレスメタルの冷却性を向上し、さらにオイルレスメタルの保持強度を増大し振動発生や騒音の発生を抑制すると共に耐久性を向上することができる電動ミキサを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
この発明によればこの目的は、電動モータを収容する本体ケースと、この本体ケースに上方から着脱可能に保持された容器蓋と、この容器蓋に液密に着脱可能な被加工材収容容器と、前記容器蓋を上下方向に貫通するカッタ回転軸とを備え、前記カッタ回転軸の前記被加工材収容容器内に突出する上端にカッタ刃が保持されその前記本体ケース内に突出する下端が回転コネクタを介して前記電動モータの出力軸に着脱可能に係合する電動ミキサにおいて、前記容器蓋の底部となる耐熱性樹脂で形成したメタル受け台と、このメタル受け台にインサートされた金属製の軸受けケースと、前記軸受けケースに下方から圧入され前記カッタ回転軸を回転自在に保持すると共にその下部がこの軸受けケースから下方に突出しているオイルレスメタルと、前記容器蓋の下面に密着固定され前記オイルレスメタルの下部突出部外周を囲んで接触する放熱板と、を備えることを特徴とする電動ミキサ、により達成される。
【発明の効果】
【0012】
この発明によれば、オイルレスメタルを用いるから、ボールベアリングなどの転がり軸受けを用いる場合に比べて構造を大幅に単純化できる。このため部品点数が減り組み立て性が良く生産性が向上する。また安価にもなる。
さらにオイルレスメタルの熱はその下部突出部に接触する放熱板に直接伝わると共に、メタル受け台にインサートした金属製の軸受けケースから耐熱性樹脂のメタル受け台を介して(迂回して)この下面に密着固定された放熱板に伝わる。すなわち熱は、オイルレスメタルに放熱板が接触することによる直接経路と、メタル受け台を介して放熱板に伝わる迂回経路との2つの経路を介して放熱されることになる。このためオイルレスメタルの冷却性が向上する。
【0013】
さらにまた、オイルレスメタルの上部は金属製の軸受けケースにしっかりと保持され、下部の外周は放熱板に接触して放熱板に保持されているので、オイルレスメタルの保持強度が増大し、振動や騒音の発生を防止できると共に耐久性を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明の一実施例を示す全体の分解斜視図
【図2】同じく容器蓋の平面図
【図3】同じく容器蓋の正面図
【図4】同じく容器蓋の底面図
【図5】図2におけるV−V線断面図
【図6】図2におけるVI−VI線断面図
【図7】図Vにおける一部拡大断面図
【発明を実施するための形態】
【0015】
オイルレスメタルの上端は、メタル受け台の上面の高さにほぼ一致させ、オイルレスメタルの下部突出部には放熱板を密着させておくのが良い(請求項2)。オイルレスメタル上部は軸受けケースを介してこのメタル受け台に保持され、下部には放熱板が密着しているのでオイルレスメタルの保持強度が増大し、振動と騒音の発生を防止でき、耐久性を増大することができるからである。
【0016】
軸受けケースの上部は、メタル受け台の上面より上方に突出させてここにオイルシールを装填すれば、カッタ回転軸の潤滑オイルの流出を防止でき、軸受けの耐久性をさらに増大できる(請求項3)。
【0017】
容器蓋は、メタル受け台をインサートして一体成型することができる(請求項4)。この場合は比較的高価な耐熱性の樹脂の使用量を少なくすることができる。容器蓋の底面となるメタル受け台は、耐熱性に優れた樹脂で形成するが、この樹脂としては例えばSPS(シンジオタクチックポリスチレン樹脂)が適する。この樹脂としては、例えばSPSにさらにガラス繊維・エラストマーなどによる強化を施した複合材料である「ザレック」(XAREC、出光興産の登録商標)を用いることができる。この樹脂は耐熱性(高荷重たわみ温度は約250℃、低荷重では268℃)に優れている。
【0018】
また容器蓋枠体は通常広く用いられているPOM(ポリキシメチレンアセタール樹脂)が適する。この樹脂は耐熱性が約95度である熱可塑性の樹脂である。このように溶融温度や軟化温度が異なる樹脂を組み合わせることにより、前記SPS樹脂製のメタル受け台をこの容器蓋の成型型内に保持して、容器蓋を一体成型(インサート成型)することができる(請求項5)。
【0019】
放熱板は、例えばアルミニウムなどの伝熱性が良い金属板をプレス加工することにより形成することができる(請求項6)。この場合には、放熱板をダイキャスト成型や切削加工する場合に比べて生産性を大幅に向上でき加工コストの低減に適する。
【実施例1】
【0020】
図1おいて、符号10はほぼ円柱状の本体ケース、12はこの本体ケース10の上面に形成した装填室10Aに装填される回転刃保持体となる容器蓋、14はこの容器蓋12に上方から液密に螺着される被加工材収容容器となるガラス容器、16はこのガラス容器14に被冠されるスイッチカバーである。ガラス容器14の開口付近の外周にはねじ山14Aが形成されている。
【0021】
加工材料を入れる場合は、容器蓋12をこのねじ山14Aから外して(螺脱して)、ここに被加工材である食品材料を入れ、これに上下逆向きにした容器蓋12で蓋をする。すなわち容器蓋12を回して、液密に締め付ける。図2、5、6、に示す符号18は、ガラス容器14の開口縁が押圧される防水リングである。この状態で、ガラス容器14と容器蓋12の全体を上下反転させ、容器蓋12を本体ケース10の装填室10Aに挿入する。
【0022】
本体ケース10内には電動モータ(図示せず)が収容され、このモータの出力軸は装填室10A内の中心から上方に垂直に突出している。前記容器蓋12には、この出力軸と同軸上に位置するカッター回転軸20が後記する軸受けによって回転自在に保持されている。なお容器蓋12の外周には装填室10Aに設けた3つの縦溝10Bに係合する3つの縦長の突起12Aが形成され、これら縦溝10Bと突起12Aとが係合することにより、容器蓋12の回転が規制されている。
【0023】
カッター回転軸20は容器蓋12を上下方向に貫通し、その下端とモータ出力軸とは、回転コネクタ22(22A、22B)を介して着脱可能かつ回転伝達可能に連結される。カッター回転軸20の上端には、カッター刃24が固定されている。このカッター刃24は電動モータにより回転駆動され、ガラス容器14内の被加工材をカットする。
【0024】
前記スイッチカバー16は、その下縁の一部に略嘴状の嘴状部16Aが形成され、ガラス容器14に被された状態でこの嘴状部16Aの内側に収容された爪(図示せず)が、本体ケース10の上縁に設けたスイッチ孔10C(図1)に進入する。スイッチカバー16はスイッチの復帰バネによって上方への復帰習性が付され、スイッチカバー16を復帰バネに抗して手で押し下げれば、スイッチがオンになり、電動モータが始動する。スイッチカバー16を押し下げるのを止めれば、スイッチカバー16が上方に復帰して、スイッチがオフになる。従ってモータ20は停止する。
【0025】
次にカッタ回転軸20の軸受け構造を説明する。容器蓋12は、その底部中央にインサートされた略円盤状の耐熱樹脂からなるメタル受け台26と、このメタル受け台26の外周を囲むように一体成型された容器蓋枠体28とを有する。メタル受け台26にはステンレスなどの金属製の軸受けケース30がインサートされている。この軸受けケース30は、図7などに示すように略円筒状であり、その一端(上端)が内径側に絞られ、その他端(下端)が外径側にフランジ状に加工されている。
【0026】
この軸受けケース30は、メタル受け台26と同軸上に保持され、その上端がメタル受け台26の上面から突出し、下端のフランジがメタル受け台26の内壁下部に進入している。このためメタル受け台26の内壁は、軸受けケース30の下方で、内径側へ突出し、後記オイルレスメタル34の外周との間に環状空隙26Aを形成する。この環状空隙26Aはオイルレスメタル34のオイル溜めともなる。
【0027】
ここにメタル受け台26は前記SPSなどの耐熱樹脂で作られ、容器蓋枠体28はPOMなどの広く用いられている樹脂で作られている。耐熱樹脂の軟化温度は容器蓋枠体28の軟化温度よりも十分に高いので、メタル受け台26を容器蓋枠体28の成型型内に保持した状態で容器蓋枠体28を射出成型することにより、容器蓋12を形成できる。
【0028】
軸受けケース30には、下方からオイルシール32を圧入して固定し、その下にオイルレスメタル34が圧入される。ここにオイルシール32の位置は、メタル受け台26の上面(図7に示す軸受けケース30を囲むボス部26Bの上面)より高く、オイルレスメタル34の上端はこのメタル受け台26の上面(ボス部26Bの上面)と同一、あるいはほぼ同一(同一位置とほぼ同一位置を含めて、付近ともいう。)の高さにある。
【0029】
なおこの実施例では、オイルレスメタル34の外周には、メタル受け台26の環状空隙26Aが対向しているが,この空隙26Aを埋めるようにメタル受け台26の下部を内径側へ突出させれば、オイルレスメタル34の横向きの加重は、軸受けケース30と、この下方で接触するメタル受け台26の下部内面で支持されることになり、回転軸20の支持強度が増大する。
【0030】
オイルシール32は、軸受けケース30の内周面に圧入される金属環の内側に、回転軸20の外周に接触するフェルト(不織布)や弾性ゴム製のシールリップを保持したものであり、軸受けケース30の下端から圧入して上端の内側に固定される。
【0031】
36は放熱板である。この放熱板36はアルミニュームなどの熱伝導性が良い金属板をプレス加工することにより形成することができる。放熱板36は上面の内径側がメタル受け台26の下面に密着し、周縁部分が容器蓋枠体28の下面に延出している。メタル受け台26の下面にこの延出部分が適宜数(例えば3本)のビス38(図6)で固定されている。
【0032】
ここに放熱板36の中心部分は、オイルレスメタル34の下部外周に向かって伸び、オイルレスメタル34の外周を囲む状態で密着する。このためオイルレスメタル34の熱はこの放熱板36の密着部分を通して直接放熱板36に伝わり、大気に放熱される。またオイルレスメタル34の熱は、前記軸受けケース32と耐熱性樹脂で作られたメタル受け台26とを通して、このメタル受け台26の下面に密着した放熱板36にも流れる。
【0033】
このように、オイルレスメタル36の熱は、放熱板36に直接流れる直接経路と、メタル受け台26を迂回して流れる迂回経路とを通って放熱板36に流れるので、オイルレスメタル36の冷却性が良い。放熱板36をオイルレスメタル36の下部外周に圧入して固定すれば、放熱板36はオイルレスメタル36を位置決めして固定することができ、オイルレスメタル36の保持強度が一層増大する。図7において、38はオイルレスメタル34の下端面と回転コネクタ22Bとの間に介在させたワッシャー(座金)である。
【符号の説明】
【0034】
10 本体ケース
12 容器蓋(回転刃保持体)
14 ガラス容器(被加工材収容容器)
20 カッタ回転軸
22 回転コネクタ
24 カッタ刃
26 メタル受け台
28 容器蓋枠体
30 軸受けケース
32 オイルシール
34 オイルレスメタル
36 放熱板


【特許請求の範囲】
【請求項1】
電動モータを収容する本体ケースと、この本体ケースに上方から着脱可能に保持された容器蓋と、この容器蓋に液密に着脱可能な被加工材収容容器と、前記容器蓋を上下方向に貫通するカッタ回転軸とを備え、前記カッタ回転軸の前記被加工材収容容器内に突出する上端にカッタ刃が保持されその前記本体ケース内に突出する下端が回転コネクタを介して前記電動モータの出力軸に着脱可能に係合する電動ミキサにおいて、
前記容器蓋の底部となる耐熱性樹脂で形成したメタル受け台と、このメタル受け台にインサートされた金属製の軸受けケースと、前記軸受けケースに下方から圧入され前記カッタ回転軸を回転自在に保持すると共にその下部がこの軸受けケースから下方に突出しているオイルレスメタルと、前記容器蓋の下面に密着固定され前記オイルレスメタルの下部突出部外周を囲んで接触する放熱板と、を備えることを特徴とする電動ミキサ。
【請求項2】
オイルレスメタルの上端は、軸受けケースを囲むメタル受け台の上面の高さにほぼ一致し、オイルレスメタルの下部突出部には放熱板が密着している請求項1の電動ミキサ。
【請求項3】
軸受けケースの上部は、メタル受け台の上面より上方に突出し、この突出部内にカッタ回転軸に摺接するオイルシールが装填されている請求項1の電動ミキサ。
【請求項4】
容器蓋は、メタル受け台をインサートして一体成型されている請求項1の電動ミキサ。
【請求項5】
メタル受け台となる耐熱性の樹脂はシンジオタクチックポリスチレン樹脂であり、容器蓋はポリオキシメチレンアセタール樹脂である請求項4の電動ミキサ。
【請求項6】
放熱板はアルミニューム板をプレス加工することにより形成したものである請求項1の電動ミキサ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2012−254126(P2012−254126A)
【公開日】平成24年12月27日(2012.12.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−127628(P2011−127628)
【出願日】平成23年6月7日(2011.6.7)
【出願人】(310018412)株式会社泉精器製作所 (16)
【出願人】(000158312)岩谷産業株式会社 (137)
【Fターム(参考)】