説明

電動倍力装置

【課題】制御精度の向上を図ることができる電動倍力装置を提供する。
【解決手段】ブレーキペダルの踏込みに応じて変化するストロークセンサの検出値(センサ出力信号)を求めると共に、このセンサ出力信号からオフセット学習により得られるオフセット学習値を減算して、オフセット除去センサ出力信号を得(ステップS11)、当該出力信号に応じた、電動モータに対する制御信号を生成し、この制御信号に基づいて電動モータを制御する。制御信号の生成の元になるオフセット除去センサ出力信号が、入力部材のストロークを適切に反映し、センサ出力信号に含まれるオフセットの影響を受けることがなくなる。このため、ドライバのブレーキペダルへの踏込みを正確に検出でき、さらに前記制御信号を用いて電動モータを制御することにより、その制御精度を向上できると共に、ドライバの意思に合ったペダルフィーリングを確保できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両のブレーキ機構などに用いられる電動倍力装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来の電動倍力装置の一例として、特許文献1に示される電動倍力装置がある。
特許文献1に示される電動倍力装置は、ドライバがブレーキペダルを踏込むことによる入力ストローク(入力絶対変位量)と、電動モータと、力伝達機構とによって生じるブースタピストンの前進・後退に対応するアシストストローク量を検出し、ブースタピストンと該ブースタピストンを摺動案内するシリンダ部との相対変位を制御することによって種々のブレーキ特性を得るようにしている。
前記特許文献1に示される電動倍力装置では、入力ストローク(入力絶対変位量)を検出する手段として、ポテンショメータを用いるようにしている。
【特許文献1】特開2007−112426号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
ところで、ドライバによる入力ストローク(入力絶対変位量)と電動モータと力伝達機構とによるアシストストローク量を検出し、前記相対変位を制御する電動倍力装置において、入力ストローク量を正確に検出し、電動倍力装置の目標変位量を設定することが、ドライバの意思に沿うブレーキフィーリングを実現するために重要である。また、上記従来技術では、入力ストローク量の検出手段としてポテンショメータによって入力ピストンの位置を検出することとしている。
【0004】
しかし、ポテンショメータの検出信号は、熱の変化などによって温度ドリフト、ひいては温度ドリフトに伴うオフセットが発生する。
ここで、温度ドリフトに伴うオフセットとは、ポテンショメータの計測対象の変化がない状態における温度ドリフト時のポテンショメータのゼロ点と、同状態における温度ドリフトがない状態でのポテンショメータのゼロ点との差をいう。また、温度ドリフト時のポテンショメータのゼロ点とは、温度ドリフト時にポテンショメータが出力する電流値をいい、温度ドリフトがない状態でのポテンショメータのゼロ点とは、温度ドリフトがない状態でポテンショメータが出力する電流値をいう。
そして、このように温度ドリフトによってポテンショメータの検出信号にオフセットが加わると、実際の入力ストローク量とポテンショメータの出力信号による制御上の認識された入力ストローク量に誤差が生じるため、ドライバの意思に合わない減速度を発生したり、ペダルフィーリングが変化することになる。
【0005】
また、ポテンショメータの検出信号のオフセットが大きくなると、ドライバがブレーキペダルを踏んでいなくても、制御上は、入力ストロークありと判断して、制動力を発生することも起こり得る。
【0006】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、制御精度の向上を図ることができる電動倍力装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、ブレーキペダルの操作により進退移動する入力部材と、該入力部材の進退に応じて移動可能に配置されたアシスト部材と、該アシスト部材を進退移動させる電動モータと、をケーシング内に備え、前記ブレーキペダルによる前記入力部材の移動量を検出する入力ストローク検出手段を設け、制御手段が前記入力ストローク検出手段の検出値に基づいて前記電動モータを制御する電動倍力装置において、前記ケーシングと前記入力部材との間に設けられて前記入力部材が待機状態にあるか否かを検出する待機状態検出手段を有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、待機状態検出手段を用いて制御精度の向上を図ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
以下、本発明の一実施形態に係る電動倍力装置を図1及び図2に基づいて説明する。図1は、本発明の一実施形態に係る電動倍力装置について、マスタシリンダ、ブレーキペダル及びECU(モータ駆動装置)を含めて模式的に一部ブロックで示す断面図である。図2は、図1のECUの機能を説明するためのフローチャートである。
【0010】
図1において、本電動倍力装置1は、タンデム型のマスタシリンダ10のプライマリピストンとして共用される後述のピストン組立体30を内装したハウジング(ケーシング)2を備えている。ハウジング2は、有底筒状のハウジング本体3と、このハウジング本体3の底板部3aに形成した開口部3bに環状ボス部4aを嵌合させて径方向に位置決めされると共に、図示を略すボルトにより底板部3aに重ねて固定されたフロントカバー4と、ハウジング2の後端開口部に嵌合されると共に、ボルト5によりハウジング本体3の端面に固定されたカップ形状のリヤカバー6とからなっている。ハウジング2は、そのリヤカバー6に植立したスタッドボルトSを利用して、エンジンルームと車室とを仕切る隔壁Wに固定され、一方、このハウジング2には、そのフロントカバー4に植立したスタッドボルトS´を利用してマスタシリンダ10が連結される。
【0011】
上記ハウジング2を構成するフロントカバー4は、その中心部にハウジング本体3内に延びる段付きの筒状ガイド部7を備えており、この筒状ガイド部7内には、前記ピストン組立体30が嵌挿されている。一方、ハウジング2を構成するリヤカバー6は、その中心部に隔壁Wを挿通して車室内へ延ばされる筒状ガイド部8を備えており、この筒状ガイド部8には、ブレーキペダル71と連動する入力ロッド9(入力部材)が挿入されている。なお、前記2つの筒状ガイド部7、8は同軸に配置されている。
【0012】
タンデム型マスタシリンダ10は、有底のシリンダ本体11とリザーバ12とを備えており、そのシリンダ本体11内の奥側には、前記プライマリピストンとしてのピストン組立体30(以下、便宜上、ピストン30ともいう。)と対をなすカップ形状のセカンダリピストン13が配設されている。本実施形態において、ピストン組立体30およびセカンダリピストン13は、シリンダ本体11内に嵌合したスリーブ14の両端側に配置した2つのリングガイド15、16により摺動案内されるようになっている。シリンダ本体11内には、前記ピストン組立体30とセカンダリピストン13とにより2つの圧力室17、18が画成されており、また、シリンダ本体11の壁には、各圧力室17、18を外部に開通させる吐出ポート19、20が各独立に設けられている。
【0013】
また、シリンダ本体11、スリーブ14およびリングガイド15、16には、各圧力室17、18内とリザーバ12とを連通するリリーフポート21、22が形成され、さらに、各リングガイド15、16の前後には、前記リリーフポート21、22を挟む態様で、ピストン組立体30、セカンダリピストン13との間をシールする各一対のシール部材23、24が配設されている。各圧力室17、18は、前記両ピストン30、13の前進に応じて、前記各一対のシール部材23、24が対応するピストン30、13の外周面に摺接することで、リリーフポート21、22に対して閉じられるようになる。また、各圧力室17、18内には、前記プライマリピストンとしてのピストン組立体30、セカンダリピストン13を後退方向へ付勢する戻しばね25、26がそれぞれ配設されている。
【0014】
上記したマスタシリンダ1の構成は、プライマリピストンとしてのピストン組立体30を除けば、従来汎用のタンデム型マスタシリンダと同じであり、両ピストン30、13の前進に応じて各圧力室17、18内に封じ込められているブレーキ液が、吐出ポート19、20から外部へ吐出される。本実施形態において各吐出ポート19、20には、液圧回路(図示省略)から延ばされたブレーキ配管28、28´がそれぞれ接続されており、各圧力室17、18内のブレーキ液は、前記液圧回路で圧力調整されて対応するホイールシリンダ(ディスクブレーキのキャリパ)(図示省略)へ供給されるようになっている。
【0015】
ピストン組立体30は、筒状をなすブースタピストン31(アシスト部材)とこのブースタピストン31内にこれと相対移動可能に配設された入力ピストン32とからなっている。入力ピストン32は、入力ロッド9と共に入力部材を構成する。ブースタピストン31は、前記フロントカバー4の筒状ガイド部7およびマスタシリンダ10内のリングガイド15に摺動可能に嵌挿されており、その前端部がマスタシリンダ10の圧力室(プライマリ室)17内に延出されている。一方、入力ピストン32は、ブースタピストン31の内周に形成した環状壁31aに摺動可能に嵌挿されており、その前端部が同じく圧力室17内に延出されている。なお、ブースタピストン31の前端部およびセカンダリピストン13の前端部には、前記マスタシリンダ6内のリリーフポート21、22に連通可能な貫通孔(図示省略)がそれぞれ穿設されており、ブレーキ非作動時には、これら貫通孔を通じて各圧力室17、18とリザーバタンク12とが連通状態となる。
【0016】
ここで、上記ピストン組立体30を構成するブースタピストン31と入力ピストン32との間は、ブースタピストン31の環状壁31aの前側に配置したシール部材(符号省略)によりシールされており、このシール部材と前記したリングガイド15の両端側のシール部材23とにより、圧力室17からマスタシリンダ10外へのブレーキ液の漏出が防止されている。ブースタピストン31の環状壁31aの前側に配置したシール部材は、ブースタピストン31に内装され、圧力室17内の戻しばね25の一端を受ける筒状部材36によって位置固定されている。また、ハウジング2のフロントカバー4の筒状ガイド部7の内周面とブースタピストン31との間には、両者の間への異物の侵入を防止するシール部材37が介装されている。
【0017】
一方、入力ピストン32の後端部には、前記ブレーキペダル71と連動する入力ロッド9の先端部が揺動可能に連結されており、入力ピストン32は、前記ブレーキペダル71の操作によりブースタピストン31内を進退移動するようになっている。また、入力ロッド9の途中には、フランジ部38が一体に形成されており、入力ロッド9は、そのフランジ部38をリヤカバー6の筒状ガイド部8の後端に一体に形成した内方突起39に当接させることにより後方(車室側)への移動が規制されている。なお、入力ロッド9は、その先端の球形部9aを入力ピストン32の後端に形成された球面状凹部32aに嵌合させた状態で連結されており、これにより入力ロッド9の揺動が許容されている。
【0018】
本電動倍力装置1のハウジング2内には、3相交流電流の供給を受けて作動する電動モータ(3相モータ)40と、この電動モータ40の回転を直線運動に変換して上記ピストン組立体30を構成するブースタピストン31(アシスト部材)に伝達するボールねじ機構(回転−直動変換機構)50とが配設されている。電動モータ40は、ブレーキペダル71からの踏力をアシストする動力を発生するようになっており、当該電動モータ40としては3相の集中巻きのブラシレスモータが用いられている。電動モータ40は、ハウジング2内に収められたステータ41、中空のロータ42、回転センサ66(回転位置検出器)からなっており、ステータ41がハウジング本体3およびリヤカバー6の相互間に位置固定的に配設されると共に、ロータ42がハウジング本体3およびリヤカバー6に軸受43、44を介して回動自在に支持されている。
【0019】
ボールねじ機構50は、電動モータ40のロータ43にキー(図示省略)を介して回転不能に嵌合されたナット部材52と、このナット部材52にボール53を介して噛合わされた中空のねじ軸(直動部材)54とからなっている。ねじ軸54の後端部には軸方向に延びるスリット55が形成されており、このスリット55には前記リヤカバー6の後端の内方突起39が挿入されている。すなわち、ねじ軸54は、ハウジング2内に回動不能にかつ軸方向移動可能に配設されており、これによりロータ42と一体にナット部材52が回転すると、ねじ軸54が直動する。一方、ねじ軸54は、そのスリット55の始端部分に内方フランジ56を備えており、この内方フランジ部56にブースタピストン31の延長筒部57の後端に形成した外方フランジ部57aが当接するようになっている。
【0020】
本実施形態において、ブースタピストン31の延長筒部57の後端の外方フランジ部57aとフロントカバー3の筒状ガイド部3aとの間には戻しばね58が介装されている。ねじ軸54は、ブレーキ非作動時には戻しばね58により、その内方フランジ部56の端面(スリット55の始端)をリヤカバー6の内方突起39(ストッパ)に当接させる後退端に位置決めされ、これに応じてブースタピストン31も、図1に示す原位置に位置決めされる。したがって、この状態からねじ軸54が前進すると、ねじ軸54に押されてブースタピストン31も前進する。
【0021】
また、ピストン組立体30を構成するブースタピストン31と入力ピストン32との相互間には、一対のばね60(60A、60B)が配設されている。この一対のばね60のうち、一方のばね60Aは、入力ピストン32の後端部に突設したフランジ部61とブースタピストン31内の縦壁62Aとの間に、他方のばね60Bは、フランジ部61とブースタピストン31と一体の延長筒部57に形成した環状突起62Bとの間にそれぞれ介装されている。この一対のばね60は、ブレーキ非作動時(ドライバがブレーキペダル71を踏んでいないとき)にブースタピストン31と入力ピストン32とを相対移動の中立位置(この中立位置では、入力ロッド9のフランジ部38が内方突起39に当接する。)に保持する役割をなす。
【0022】
ブレーキペダル71には、ペダルストローク量、ひいてはブレーキペダル71による入力ピストン32(入力ロッド9)〔入力部材〕の移動量を検出する回転式ストロークセンサ(以下、適宜、単にストロークセンサという。)72が設けられている。本実施形態では、ストロークセンサ72が入力ストローク検出手段を構成している。
ドライバがブレーキペダル71を踏んでいないときは、入力ロッド9は、上述したようにフランジ部38がリヤカバー6の筒状ガイド部8の内方突起39(ひいてはハウジング2)に当接する位置まで戻されるようになっている。そして、筒状ガイド部8(ひいてはハウジング2)とフランジ部38(ひいては入力ロッド9)との間に接触センサ73(待機状態検出手段)が介装されている。接触センサ73は、リヤカバー6の内方突起39ひいてはハウジング2に固定されるスイッチ本体73aと、入力ロッド9のフランジ部38に接触(当接)可能に配置された作動子73bとを、備え、作動子73bとフランジ部38との接触、非接触に応じた信号を出力するようにしている。接触センサ73は、上記構成により、作動子73bが入力ロッド9のフランジ部38に接触することを示す信号(接触信号)を出力する。このことにより、ドライバがブレーキペダル71を踏んでいない、と判断することができるようになっている。
【0023】
ハウジング2内には、電動モータ40の回転変位から車体に対するブースタピストン31の絶対変位を検出する回転センサ66(レゾルバ)が配設されている。また、マスタシリンダ10と前記液圧回路とを接続するブレーキ配管の一方28には、マスタシリンダ10の圧力室17内のブレーキ液圧を検出する圧力センサ69が接続されている。これら前記ストロークセンサ72、接触センサ73、回転センサ66および圧力センサ69の検出信号は、ハウジング2に接合されたECU74〔制御手段〕に送出されるようになっており、ECU74は、これらの信号に基づいて電動モータ40(ロータ43)の回転を制御する。
【0024】
本実施形態の電動倍力装置1では、ブレーキペダル71の踏込みに応じて変化するストロークセンサ72の検出値(センサ出力信号)を求めると共に、このセンサ出力信号から後述する記憶領域75(記憶手段)に更新記録されるオフセット学習値を減算して、オフセットを除去したオフセット除去センサ出力信号を得、このオフセット除去センサ出力信号に応じた制御信号を生成し、この制御信号に基づいて電動モータ40を回転させ、その回転がボールねじ機構50によって直線運動に変換されて、ブースタピストン31が前進する。これによりブレーキペダル71から入力ピストン32に付与される入力推力と電動モータ40からブースタピストン31に付与されるブースタ推力とに応じたブレーキ液圧がマスタシリンダ10内の圧力室17、18に発生する。
【0025】
本実施形態では、ECU74は、温度ドリフトによるストロークセンサ72の検出信号のオフセットを学習し(この学習を、以下、オフセット学習という。)、前記オフセット学習により得られたオフセットを示す値(前記オフセット学習値。以下、オフセット値という。)を、オフセットが含まれているストロークセンサ72の検出信号(センサ出力信号)から除去して、実際の入力ストロークに対応したオフセット除去センサ出力信号を得、オフセット除去センサ出力信号を電動モータに対する制御信号の生成に用いるようにしている。
ここで、ストロークセンサ72の検出信号のオフセット値とは、入力ロッドが非制動状態(待機状態)にあるときのストロークセンサ72が出力する電流値をいい、ストロークセンサ72のゼロ点に相当する。
【0026】
次に、当該電動倍力装置1の作用を、ECU74が実行するオフセット学習と共に、図2に基づいて説明する。
ECU74は、図示しないイグニッションスイッチがオンされて起動し(ステップS1)、当該電動倍力装置1の制御を開始するための初期診断を実行する(ステップS2)。
続いて、ストロークセンサ72を当該電動倍力装置1に組み付けた際のストロークセンサ72のゼロ点(初期値。起動時ゼロ点。)をオフセット値(ゼロ点データ)とするようにリセット処理を行う(ステップS3)。ここで、ストロークセンサ72を当該電動倍力装置1に組み付けた際のストロークセンサ72のゼロ点は、ストロークセンサ72を電動倍力装置1に組み付けた際(入力ロッドは非制動状態にある)のストロークセンサ72が出力する電流値に相当することになる。
ステップS3で用いるストロークセンサ72のゼロ点(初期値)は、ECU74の記憶領域75に予め記憶され、本実施形態では、ステップS11においてオフセット学習値として用いられるようになっている。
そして、ECU74の初期診断(ステップS2)後から1回目のオフセット学習が終了するまで、前記ストロークセンサ72のゼロ点(初期値)〔記憶領域75に予め記憶されるオフセット学習値〕は、前記オフセット除去センサ出力信号の算出のために用いられる。
【0027】
なお、システム終了時(イグニッションスイッチのオフ作動時)から短時間のうち(例えば5分以内)にECU74が再起動された場合は、ECU74に記憶されている、前回のシステム終了時のオフセット値(オフセット学習値)が前記オフセット除去センサ出力信号の算出、ひいては電動モータ40の制御のための制御信号の生成に用いられる。
【0028】
前記ステップS3に続いて、接触センサ73の検出信号により、ドライバのブレーキペダル71の踏込みの有無を判断する(ステップS4)。
ステップS4でNO(ブレーキペダル71が踏込まれてない)と判断すると、オフセット学習を実行し、新しいオフセット値を検出し、当該新しいオフセット値を新オフセット学習値とする(ステップS5)。
【0029】
ステップS5に続いてブレーキペダル71の踏込みが行われているか否かを判定する(ステップS6)。ステップS6でNO(ブレーキペダル71が踏込まれていない)と判定すると、ステップS7に進み、ステップS5のオフセット学習及びステップS6の処理が完了したか否かを判定し、オフセット学習が完了するまでオフセット学習を続ける(ステップS7)。
ステップS7でオフセット学習が完了した(YES)と判定すると、ECU74内の記憶領域75(記憶手段)にステップS5のオフセット学習で得た新オフセット学習値を更新記憶する(ステップS8)。
【0030】
前記ステップS4でYES(ブレーキペダル71が踏込まれている)と判断すると、オフセット学習をせず(ステップS9)、さらに、ECU74内の記憶領域75に記憶されたオフセット学習値も更新しない(ステップS10)。
また、ステップS6でYES(ブレーキペダル71が踏込まれている)と判定した場合も、ステップS9、S10を順次実行する。
【0031】
ステップS8の処理が終了した場合、又はステップS10の処理が終了した場合、ステップS11に進む。ステップS11では、ストロークセンサ72に検出されたペダルストロークを示すセンサ出力信号から、ECU74内に記憶されているオフセット学習値を減算し、センサ出力信号からオフセットを除去し、オフセットが除外されたオフセット除去センサ出力信号〔=(センサ出力信号)−(オフセット学習値)〕を求める。
ステップS11に続いて、電動倍力装置1の制御を継続するか否(停止)かを判定する(ステップS12)。ステップS12で継続(YES)と判定すると、ステップS4に戻り、ステップS4〜S11の処理を繰返し実施する。また、ステップS12でNO(停止)と判定すると、ECU74による電動倍力装置1の制御を終了する。
【0032】
ECU74は、上記図2の処理に加えて、次の(i)〜(iv)項の処理を実行するようになっている。
(i) ドライバがブレーキペダル71を踏まない状態で、ECU74を起動した場合は、初期診断後に、オフセット学習を実行するが、ドライバがブレーキペダル71を踏みながらECU74を起動した場合は、一度ブレーキペダル71が戻される(ブレーキペダル71の踏込み解除される)までオフセット学習を実行しない。
(ii) オフセット学習中にドライバのブレーキペダル71の踏込みを検知した場合(ステップS5の処理、ステップS6でYES判定)はその時点でオフセット学習を中断する(ステップS9)。これに伴い、オフセット学習値は更新せずに(ステップS10)、既にECU74に記憶されている前回のオフセット学習値を使用してオフセット除去処理を行う。
(iii) ドライバがブレーキペダル71を踏みながらECU74を起動した場合〔すなわち、ECU74の起動時に、接触センサ73(待機状態検出手段)により制動作動中(非待機状態)であることが検出されたとき〕に、ストロークセンサ72(入力ストローク検出手段)の検出値に代えて、当該ストロークセンサ72の検出値からECU74の前回起動後の停止時におけるゼロ点データを減算して得られる値に相当するゼロ点補正検出値(すなわちオフセット学習で得られる値)を電動モータ40の制御に用いるようにする。
(iv) ECU74(制御手段)の起動時に、ストロークセンサ72(入力ストローク検出手段)のゼロ点に相当する起動時ゼロ点を記憶領域75(記憶手段)に記憶し、前記起動時ゼロ点は、接触センサ73(待機状態検出手段)により非制動中(待機状態)にあることが検出されるまで、前記ゼロ点補正検出値の算出のための前記ゼロ点データとして用いられる。
【0033】
本実施形態によれば、電動倍力装置1に接触センサ73(待機状態検出手段)を設けることにより、ECU74によって、ストロークセンサ72(入力ストローク検出手段)の温度ドリフトによるオフセット値を検出して当該オフセット値に応じて電動モータを制御すれば、その制御精度を向上させることができる。
また、ECU74は、ブレーキペダル71の踏込みに応じて変化するストロークセンサ72の検出値(センサ出力信号)を求めると共に、このセンサ出力信号から上記オフセット学習により得られるオフセット学習値を減算して、オフセット除去センサ出力信号を得、オフセット除去センサ出力信号に応じた、電動モータ40に対する制御信号を生成し、この制御信号に基づいて電動モータ40を制御する。上述したように、電動モータ40に対する制御信号は、オフセット除去センサ出力信号〔すなわち、ストロークセンサ72の検出値(センサ出力信号)からオフセットが除去され、入力部材のストロークを適切に反映した信号〕から生成されるので、センサ出力信号に含まれるオフセットの影響を受けることがなくなる。
このため、ドライバのブレーキペダル71への踏込み量を正確に検出でき、さらに前記制御信号を用いて電動モータ40を制御することにより、その制御精度を向上させることができると共に、ドライバの意思に合ったペダルフィーリングを確保できる。
【0034】
さらに、センサ出力信号に含まれるオフセットについて学習し、その学習値(オフセット学習値)をストロークセンサ72の検出値(センサ出力信号)から除去するので、制御の精度低下を防止できる。
すなわち、入力ストロークを検出するものの、オフセットが含まれたストローク出力信号を電動モータに対する制御信号の生成に用いる従来技術では、当該制御信号の生成の元になるストローク出力信号にオフセットが含まれていることから、制御精度が劣ったものになっているが、本実施形態によれば、上述したように、制御精度を向上できる。
【0035】
また、上述したように、オフセット学習中にドライバのブレーキペダル71の踏込みを検知した場合(換言すれば、ストロークセンサ72のゼロ点の記憶処理中に、接触センサ73により入力部材である入力ピストン32が制動作動中すなわち非待機状態にあることが検出されたとき)、オフセット学習値は更新せずに既にECU74に記憶されている前回のオフセット学習値を使用してオフセット除去処理を行う〔(ii)項参照〕。このため、オフセット学習中にドライバのブレーキペダル71の踏込みが検知されると、センサ出力信号から当該信号に含まれるオフセットが除去されるので、制御の精度低下を防止できる。
【0036】
また、上述したように、ECU74(制御手段)の起動時に、ストロークセンサ72(入力ストローク検出手段)のゼロ点に相当する起動時ゼロ点を記憶領域75(記憶手段)に記憶し、前記起動時ゼロ点は、接触センサ73(待機状態検出手段)により非制動中(待機状態)にあることが検出されるまで、前記ゼロ点補正検出値の算出のための前記ゼロ点データとして用いられる〔(iv)項参照〕。このため、ECU74(制御手段)の起動時においても、センサ出力信号から当該信号に含まれるオフセットが除去され、制御の精度低下を防止できる。
【0037】
また、上述したように、ドライバがブレーキペダル71を踏みながらECU74を起動した場合(すなわち、ECU74の起動時に、接触センサ73により制動作動中、すなわち非待機状態であることが検出されたとき)に、ストロークセンサ72(入力ストローク検出手段)の検出値に代えて、当該ストロークセンサ72の検出値からECU74の前回起動後の停止時におけるゼロ点データを減算して得られる値に相当するゼロ点補正検出値(すなわちオフセット学習で得られる値)を電動モータ40の制御に用いる〔(iii)項参照〕。このため、ドライバがブレーキペダル71を踏みながらECU74を起動した場合においても、センサ出力信号から当該信号に含まれるオフセットが除去され、制御の精度低下を防止できる。
【0038】
上記実施形態では、回転式のストロークセンサ72を用いた場合を例にしたが、これに限らず、直線式のストロークセンサ72を用いるようにしてもよい。
また、上記実施形態では、入力ストローク検出手段が回転式ストロークセンサ72である場合を例にしたが、これに代えて、ポテンショメータ、ブレーキペダル71からの踏力を検出する踏力センサ、電動モータ40への電流量を検出する電流センサを用いてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0039】
【図1】本発明の一実施形態に係る電動倍力装置について、マスタシリンダ、ブレーキペダル及びECUを含めて模式的に一部ブロックで示す断面図である。
【図2】図1のECUの機能を説明するためのフローチャートである。
【符号の説明】
【0040】
1…電動倍力装置、2…ハウジング(ケーシング)、9…入力ロッド(入力部材)、31…ブースタピストン (アシスト部材)、32…入力ピストン(入力部材)、40…電動モータ、71…ブレーキペダル、72…ストロークセンサ(入力ストローク検出手段)、73…接触センサ(待機状態検出手段)、74…ECU(制御手段)、75…記憶領域(記憶手段)。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ブレーキペダルの操作により進退移動する入力部材と、該入力部材の進退に応じて移動可能に配置されたアシスト部材と、該アシスト部材を進退移動させる電動モータと、をケーシング内に備え、前記ブレーキペダルによる前記入力部材の移動量を検出する入力ストローク検出手段を設け、制御手段が前記入力ストローク検出手段の検出値に基づいて前記電動モータを制御する電動倍力装置において、
前記ケーシングと前記入力部材との間に設けられて前記入力部材が待機状態にあるか否かを検出する待機状態検出手段を有することを特徴とする電動倍力装置。
【請求項2】
請求項1記載の電動倍力装置において、前記待機状態検出手段により前記入力部材が待機状態にあることが検出されたときに、前記入力ストローク検出手段の出力値を記憶し、当該出力値に基づいて前記電動モータを制御することを特徴とする電動倍力装置。
【請求項3】
請求項1記載の電動倍力装置において、前記待機状態検出手段により前記入力部材が待機状態にあることが検出されたときに、前記入力ストローク検出手段のゼロ点をゼロ点データとして記憶し、前記制御手段の作動期間において、前記待機状態検出手段により前記入力部材が待機状態にあることが検出される毎に、前記ゼロ点データを更新記憶する記憶手段と、を有し、
前記制御手段は、前記待機状態検出手段により前記入力部材が非待機状態にあることが検出されたとき、前記入力ストローク検出手段の検出値に代えて、当該入力ストローク検出手段の検出値から前記ゼロ点データを減算して得られる値に相当するゼロ点補正検出値を前記電動モータの制御に用いることを特徴とする電動倍力装置。
【請求項4】
請求項3記載の電動倍力装置において、前記制御手段の起動時に、前記入力ストローク検出手段のゼロ点に相当する起動時ゼロ点を前記記憶手段に記憶し、前記起動時ゼロ点は、前記待機状態検出手段により前記入力部材が待機状態にあることが検出されるまで、前記ゼロ点補正検出値算出のための前記ゼロ点データとして用いられることを特徴とする電動倍力装置。
【請求項5】
請求項4記載の電動倍力装置において、前記制御手段の起動時に、前記待機状態検出手段により前記入力部材が非待機状態にあることが検出されたときに、前記入力ストローク検出手段の検出値に代えて、当該入力ストローク検出手段の検出値から前記制御手段の前回起動後の停止時における前記ゼロ点データを減算して得られる値に相当するゼロ点補正検出値を前記電動モータの制御に用いることを特徴とする電動倍力装置。
【請求項6】
請求項3記載の電動倍力装置において、前記入力ストローク検出手段のゼロ点の記憶処理中に、前記待機状態検出手段により前記入力部材が非待機状態にあることが検出されたときに、前記入力ストローク検出手段の検出値に代えて、当該入力ストローク検出手段の検出値から前記制御手段の前回起動後の停止時における前記ゼロ点データを減算して得られる値に相当するゼロ点補正検出値を前記電動モータの制御に用いることを特徴とする電動倍力装置。

【図1】
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【図2】
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