説明

電動工具

【課題】 モータの冷却風の有効利用を講じることで、電動工具の構成における合理化を促進するのに資する。
【解決手段】 ブレードケース113内に収容されて被加工材に所定の加工作業を行う作業工具129と、当該作業工具129を駆動する駆動モータ121と、駆動モータ121の冷却風をブレードケース113内に似排出する際に、当該冷却風を、作業工具129による被加工材への作業領域に誘導する冷却風誘導手段137とを有することを特徴とする電動工具。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電動工具における駆動モータの冷却風を有効利用するための技術に関する。
【背景技術】
【0002】
電動工具において作業工具駆動用の駆動モータを冷却するための技術として、例えば特開平8−336803号公報(特許文献1)記載のものが知られている。この従来技術では、ファンブレードの回転によってモータハウジングに導入された冷却風を介して駆動モータを冷却し、当該冷却風を丸鋸ブレードケースに導く際に、モータハウジングとブレードケースの間の冷却風通路を形成する仕切壁に工夫を講じることでモータ冷却効率を向上するための技術が開示されている。
【0003】
上記従来技術は、ファンブレードを用いたモータ冷却効率ないしファン性能の向上を図るための工夫に関するものであるが、さらにモータの冷却風の有効利用を講じることで、電動工具の全体構成における合理化を促進する要請がある。
【特許文献1】特開平8−336803号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、かかる点に鑑みてなされたものであり、モータの冷却風の有効利用を講じることで、電動工具の構成における合理化を促進するのに資することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記課題を達成するため、各請求項記載の発明が構成される。
請求項1に記載の発明によれば、ブレードケースに収容された作業工具、駆動モータおよび冷却風誘導手段を有する電動工具が構成される。作業工具は収容されて被加工材に所定の加工作業を行う。「被加工材への所定の加工作業を行う作業工具」としては、回転式作業工具や往復動式作業工具等といった種々の作業工具を包含するが、後述する本発明の特質により、典型的には、被加工材への加工作業に際して切粉等の作業障害物が発生し易い丸鋸等がこれに該当する。一方、駆動モータは当該作業工具を駆動する。この駆動モータは作業工具の駆動に際して相応の熱を発するため、冷却風を供給することで駆動モータの冷却が行われる。
【0006】
本発明における冷却風誘導手段は、駆動モータの冷却風をブレードケース内に排出する際に、当該冷却風を作業工具による被加工材への作業領域に誘導する。従って駆動モータを冷却するべく電動工具に導入された冷却風が、さらにブレードケース内に排出されつつ作業工具による作業領域に導かれることで、作業の際に生じる切粉等の障害物を当該作業領域から吹き飛ばして除去し、作業工具による作業箇所や被加工材に配された墨線等の視認性を良好に確保することが可能となる。すなわち冷却風誘導手段を介して電動工具に取り込まれた駆動モータ冷却風を、更に作業領域のクリーニングに併用することで電動工具に合理的な構造を付与することが可能となる。さらに本発明によれば、冷却風をブレードケース内に排出しながら作業領域へと誘導する構成により、電動工具の静音性を向上することが可能である。
【0007】
なお、かかる発明の趣旨に従い、「作業工具による被加工材への作業領域」は、厳密に作業工具による被加工材への作業箇所自体のみを意味するのではなく、作業箇所で発生した切粉等の障害物を作業領域外へ除去することが可能なエリア(例えば作業領域ないしその近傍箇所)を広く包含するものとする。冷却風の「誘導」は、典型的には、冷却風の風向を変化させて作業領域に送る態様がこれに該当するが、例えば冷却風が作業工具側へ排出される際の吹き出し口の風向を自然に変化させる態様、作業工具側に排出された冷却風の一部を当該冷却風と交差状に配された風向変化板等で強制的に作業工具側へ向かわせる態様等を広く包含するものとする。
【0008】
本発明は、とりわけ作業領域に切粉等の障害物が滞留し易いことを考慮して、回転駆動するブレードによって被加工材を切断作業する丸鋸に適用するのが好ましい。この場合、上記冷却風誘導手段は、当該回転ブレードによる被加工材の切断方向と交差する方向に前記冷却風を誘導するのが好ましい。
【0009】
(請求項2に記載の発明)
請求項2に記載の発明によれば、上記請求項1に記載の電動工具における冷却風誘導手段は、駆動用モータを収容するモータハウジングから作業工具に臨む冷却風排出口に設けられたプレート部材を有するよう構成される。そして当該プレート部材には、冷却風を作業領域に誘導するべく、作業領域方向に向かって傾斜状に形成された窓部が形成される。これにより、プレート部材に形成された窓部を介して、冷却風の作業領域への誘導を簡便に行うことが可能となる。プレート部材は、冷却風排出口と一体で成形してもよく、あるいは別体で形成して当該冷却風排出口に後付けしてもよい。またプレート部材は冷却風排出口に対して着脱自在としてもよい。さらに冷却風の誘導効率を考慮した場合、作業領域方向に向かって傾斜状に形成された窓部がプレート部材に多数配置されるように構成してもよい。
【0010】
(請求項3に記載の発明)
請求項3に記載の発明によれば、上記請求項1または2に記載の電動工具に関し、被加工材の作業領域を照光する照光手段を更に有するよう構成する。そして冷却風誘導手段は、当該照光手段を電動工具本体部側に保持する保持手段を兼務するように構成する。冷却風誘導のための要素と、照光手段の保持のための要素という異なる機能部材を併合することで、さらに電動工具における構造の合理化を図ることができる。なお保持手段は、照光手段を構成する照光部自体、照光部へのリード線、照光スイッチ部、電気基板などの一部または全部を本体部側に保持することが可能である。また「作業領域を照光」とは、作業工具による被加工材への作業箇所自体はもちろん、墨線等の作業箇所近傍の領域をも広く包含し得る。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、モータの冷却風の有効利用を講じることで、電動工具の構成における合理化を促進するのに資することが可能となった。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、本発明の実施の形態につき、図面を参照しつつ詳細に説明する。
本発明の実施の形態では、電動工具の一例として丸鋸を用いて説明する。図1および図2に示すように、本実施の形態に係る丸鋸101は、概括的に、本体部103と、当該本体部103に連接されるとともに被加工材W上に載置されるベース105とを有する。
【0013】
本体部103は、モータハウジング111とブレードケース113とが相互に連接されて形成される。モータハウジング111はハンドグリップ117を一体状に有するとともに、その内部に駆動モータ121および冷却ファン131を収容してなる。冷却ファン131は、駆動モータ121の駆動軸123に配置され、駆動モータ121が通電される際、当該駆動軸123と一体状に回転駆動される。
【0014】
ブレードケース113は、その下方領域にセーフティカバー115が収納自在に取付けられるとともに、内部にブレード129が配置される。またブレードケース113は、モータハウジング111側へ延在するギアハウジング114を一体状に有する。このギアハウジング114は、当該ギアハウジング114内に延びる駆動軸123の軸端位置に対応して配置されたギア125およびスピンドル127を収容する。
【0015】
ブレード129は、スピンドル127の軸端に当該スピンドル127と一体に回転可能に取付けられている。スピンドル127の他端側にはギア125が設けられ、このギア125は上記駆動モータ121の駆動軸123の軸端に噛み合い係合される。これにより駆動モータ121の回転運動は、ギア125において適宜減速されつつスピンドル127に伝達され、これによってブレード129がスピンドル127を中心に回転駆動され、被加工材Wの切断作業に供される。
【0016】
モータハウジング111とブレードケース113(ギアハウジング114)との境界領域には、モータハウジング111内から延在状に形成される冷却風通風路133が設定される。冷却風通風路133の一端側はブレードケース113内のブレード129に臨む冷却風排出口135を構成する。冷却風排出口135にはプレート部材137が配設されている。プレート部材137は、後述する冷却風誘導スリット139と相俟って、本発明における「冷却風誘導手段」を構成する要素である。
【0017】
また図2に詳しく示されるように、ブレードケース113のギアハウジング114境界領域には照光手段141が設けられる。照光手段141は、LED143および当該LED143通電用のリード線145を有する。LED143は、ブレード129による被加工材Wの切断作業領域Gに向かって照光するLED143aと、後述するように丸鋸101にてプランジカットを行なう際の切断作業領域H(図5参照)を照光するLED143bとからなる。なおプランジカットの詳細については後で詳しく説明する。各LED143は、ハンドグリップ117に設けられた照光手段スイッチ119の投入操作により適宜点灯される。また各LED143へのリード線は、図2に示すようにプレート部材137によって目隠し状にギアハウジング114に保持されている。
【0018】
プレート部材137の詳細な構造が図3および図4に示される。図3はプレート部材137をブレードケース側から見た場合の正面図、図4は図3におけるA−A線断面を示す。図3および図4に示すように、プレート部材137には多数の冷却風誘導スリット139が穿設されている。各冷却風誘導スリット139は、本発明における「窓部」に対応するとともに、図4に示すように水平面に対して所定の傾斜角Dをなすようにプレート部材137上に配列される。これによりプレート部材139面と直交するように移送される冷却風は、当該プレート部材137に傾斜状に形成された冷却風誘導スリット139を介して、誘導方向Fへとその風向が変化するように構成される(図1および図2を併せて参照)。
【0019】
上記のように構成される丸鋸101の作用について説明する。特に図示しないトリガスイッチを投入することで駆動モータ121が通電駆動され、駆動軸123、ギア125、スピンドル127を介してブレード129が回転駆動される。これにより、図2に示すようにブレード129は回転駆動されつつ被加工材Wの切断作業を行なう。図2ではブレード129による切断箇所は、被加工材W上に配された墨線配置箇所等を含みつつ、切断作業領域として符号Gで示される。
【0020】
駆動モータ121の駆動により、その駆動軸123に設けられた冷却ファン131が当該駆動軸123と一体に回転される(図1参照)。冷却ファン131の回転に伴い、丸鋸101外部の空気が冷却風としてモータハウジング111内に取り込まれて駆動モータ121を冷却する。モータハウジング111内に取り込まれた冷却風は、さらに冷却ファン131の回転により、冷却風通風路133および冷却風排出口135を通じてブレードケース113内に収容されたブレード129側へと排出されることとなる。
【0021】
モータハウジング111内から冷却風排出口135を通じてブレード129側へと排出される駆動モータ121の冷却風は、プレート部材137に傾斜状に形成された冷却風誘導スリット139(図3および図4参照)によって誘導方向Fへと送られる。これにより冷却風が切断作業領域Gに向かって円滑に案内され、切断作業領域Gにおける切粉等の作業障害物を除去する。なお図1に示すように、冷却風は、ブレード129の回転軸方向、換言すればブレード129による被加工材Wの切断方向と交差する方向(図1におけるブレード129の左方向)に誘導されるので、切粉が丸鋸101の進行方向に吹き飛ばされることで、例えば被加工材上の墨線が切粉で視認できなくなるといったような作業視認性を阻害する事態が効果的に回避される。かくして、本実施の形態に係る丸鋸101では、駆動モータ121を冷却するのに用いられた冷却風を、切断作業領域Gにおける切粉等の障害物の除去に有効活用することが可能となり、丸鋸101の一層合理的な構造を得ることが可能となった。
【0022】
また本実施の形態では、図2に示すように、照光手段141を構成するLED143が冷却風の誘導方向Fに位置するように配置されるため、プレート部材137によって冷却風をブレード129の切断作業領域Gへ誘導する際に、LED143(LED143aおよびLED143b)近傍に滞留する切粉等を吹き飛ばすことが可能であり、切断作業領域Gにおける切粉等の除去と、照光手段141による視認性の確保とを同時に遂行可能である。
【0023】
さらにプレート部材137が、照光手段141におけるリード線145をギアハウジング114に保持するための支持プレートとしての機能を併有するように構成されるため、冷却風の有効利用のみならず、各機能部材の合理的な設定が可能となった。
【0024】
なお丸鋸101による作業形態としては、図2に示すように、丸鋸101を被加工材Wの端部領域にセットし、ブレード129が被加工材Wの端部から切断していく形態が一般に多用されるが、被加工材の形状や切断作業条件等により、図5に示すように被加工材Wの端部領域ではなく、央部領域からブレード129による切断を行なう場合がある。このような切断形態は一般に「プランジカット」とも称呼される。
【0025】
本実施の形態では、図5に示すように、ブレード129を切断作業領域Hに当ててプランジカットを行なおうとする際、照光手段141のうちの一のLED143bが、当該プランジカット切断作業領域Hを照光するように構成される。しかも当該LED143bは、上記したプレート部材137の各冷却風誘導スリット139による冷却風の誘導方向F内に配置されるため、切粉等がLED143b近傍に滞留して照光能力を阻害するといった事態を合理的に回避可能である。このようにLED143bによってクリアに照光された状態で、作業者はハンドグリップ117を用いて丸鋸101を被加工材W方向へ押圧していく。これにより、ブレード129が切断作業領域Hを切断しつつ、丸鋸101はベース105の先端部105aを回転中心として回動し、やがてベース105が被加工材Wに面接触するに至り、その後はブレード129による通常の切断作業が行なわれることとなる。
【0026】
なお上記した本発明および実施の形態の趣旨に鑑み、下記の態様を構成することが可能である。
(態様1)
「請求項1から3までのいずれかに記載の電動工具であって、
回転駆動されて被加工材を切断作業するブレードが設けられた丸鋸として構成され、前記冷却風誘導手段は、前記ブレードによる被加工材の切断方向と交差する方向に前記冷却風を誘導することを特徴とする電動工具。」
【0027】
この態様によれば、請求項1から3までのいずれかに記載の電動工具につき、回転駆動されて被加工材を切断作業するブレードが設けられた丸鋸として構成される。そして冷却風誘導手段は、当該丸鋸の回転ブレードによる被加工材の切断方向と交差する方向へと冷却風を誘導するよう構成される。これにより被加工材を切断作業する際に生じる切粉がブレード切断方向と交差する方向へと吹き飛ばされるので、被加工材の切断箇所あるいは切断箇所前方に位置する墨線等の上に切粉等の障害物を滞留させることなく、作業時の良好な視認性を確保することが可能となる。
【0028】
なお。本発明における「切断方向」とは回転するブレードの進行方向、すなわち切断作業時の電動工具の進行方向を意味する。また本発明の趣旨により、「交差する方向」とは、ブレードによる被加工材の切断方向に切粉が飛んで作業者の視認性を阻害しない方向を広く包含することが可能である。
【0029】
(態様2)
「請求項3に記載の電動工具であって、さらに前記冷却風誘導手段は、前記照光手段による照射部に前記冷却風を導くよう構成されることを特徴とする電動工具。」
【0030】
このように構成すれば、作業領域のみならず、さらに照光手段による照射部領域に切粉が滞留して、照光の妨げとなるのを効果的に抑制することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【図1】本実施の形態に係る丸鋸の全体構成を示す正面断面図である。
【図2】本実施の形態に係る丸鋸の全体構成を示す側面図である。なお図2では、ブレードは一点鎖線で示される。
【図3】本実施の形態に係る丸鋸に用いられたプレート部材の詳細な構造を示す。
【図4】図3におけるプレート部材のA−A線断面構造を示す。
【図5】本実施の形態に係る丸鋸によるプランジカットの状態を示す図である。
【符号の説明】
【0032】
101 丸鋸
103 本体部
105 ベース
111 モータハウジング
113 ブレードケース
114 ギアハウジング
115 セーフティカバー
117 ハンドグリップ
119 照光手段スイッチ
121 駆動モータ
123 駆動軸
125 ギア
127 スピンドル
129 ブレード
131 冷却ファン
133 冷却風通風路
135 冷却風排出口
137 プレート部材(冷却風誘導部材)
139 冷却風誘導スリット(窓部)
141 照光手段
143 LED
145 リード線
F 冷却風の誘導方向
G 切断作業領域
H プランジカット時の切断作業領域
W 被加工材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ブレードケースに収容されて被加工材に所定の加工作業を行う作業工具と、
当該作業工具を駆動する駆動モータと、
前記駆動モータの冷却風を前記ブレードケース内に排出する際に、当該冷却風を、前記作業工具による被加工材への作業領域に誘導する冷却風誘導手段とを有することを特徴とする電動工具。
【請求項2】
請求項1に記載の電動工具であって、
前記冷却風誘導手段は、前記駆動用モータを収容するモータハウジングから前記作業工具に臨む冷却風排出口に設けられたプレート部材を有し、
前記プレート部材には、前記冷却風を前記作業領域に誘導するべく、当該作業領域方向に向かって傾斜状に形成された窓部が形成されていることを特徴とする電動工具。
【請求項3】
請求項1または2に記載の電動工具であって、
前記被加工材の作業領域を照光する照光手段を更に有し、
前記冷却風誘導手段は、当該照光手段を電動工具本体部側に保持する保持手段を兼務することを特徴とする電動工具。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2009−72911(P2009−72911A)
【公開日】平成21年4月9日(2009.4.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−335521(P2008−335521)
【出願日】平成20年12月27日(2008.12.27)
【分割の表示】特願2002−320246(P2002−320246)の分割
【原出願日】平成14年11月1日(2002.11.1)
【出願人】(000137292)株式会社マキタ (1,210)
【Fターム(参考)】