説明

電動弁および電磁弁

【課題】ケース肉厚の増大による励磁力効率の低下を招来することなく、溶接熱影響による許容応力の低下を補償して所要の耐圧破壊強度を得ることを達成したうえで、ロータケースの材料費の削減、高い生産性によって低廉化を図ること。
【解決手段】ロータケース33の弁ハウジング11に対する突合せ溶接部の肉厚ts’をコイル装着部の肉厚tsに比して厚くし、ロータケース33は溶接端縁部の肉厚に相当する肉厚の素材を深絞り加工した深絞り加工品とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、電動弁および電磁弁に関し、特に、ロータケース、プランジャチューブが弁ハウジングに溶接によって接合され、CO2 冷媒を使用した冷凍サイクル装置等で使用される高耐圧型の電動弁および電磁弁に関するものである。
【背景技術】
【0002】
冷凍サイクル装置等において可変絞り弁や流量制御弁として使用される電動弁として、弁ハウジングの内部に弁ポートを開閉する弁体を有し、前記弁ハウジングに、ステンレス鋼等の非磁性体製のキャン状のロータケースが固定され、ロータケース内にステッピングモータのロータが回転可能に配置され、ロータケースの外周部(外側)にステッピングモータのステータコイルユニットが取り付けられ、ロータの回転により弁体が開閉駆動されるキャンド型の電動弁が知られている(例えば、特許文献1〜4)。
【0003】
キャンド型の電動弁では、キャン状のロータケースの端縁部が弁ハウジングにTIG溶接等の溶接によって接合されたものがある(例えば、特許文献5〜8)。
【0004】
また、冷凍サイクル装置等において使用される弁装置として、電磁ソレノイド装置のプランジャを内蔵するプランジャチューブの端縁部が弁ハウジングに溶接あるいはろう付けによって接合され、プランジャチューブの外周部に電磁ソレノイド装置の電磁コイルユニットが取り付けられた構造の電磁弁がある。
【0005】
上述のような電動弁、電磁弁では、ロータケース、プランジャチューブは、弁ハウジングに気密に接合され、内部に弁ハウジング内圧力と同等の流体圧を及ぼされる密閉容器(気密容器)構造をなす。それ故、ロータケース、プランジャチューブは、耐圧強度を確保する必要がある。これら弁装置の設計圧力強度は、ロータケース、プランジャチューブを構成する材料の許容引張り応力(安全率)とケース肉厚により決まることになる。
【0006】
電動弁ではステータコイルユニットの励磁力で発生した磁束がロータケースを透過して効率よくロータに作用するよう、また、電磁弁では電磁コイルユニットの励磁力で発生した磁束がプランジャチューブを透過して効率よくプランジャに作用するよう、ロータケース、プランジャチューブは、ともに、設計圧力強度を確保した上で、極力、ケース肉厚、チューブ肉厚を薄く設計される。しかし、従来品では、ロータケースやプランジャチューブの肉厚は、全体に亘って一様(均一)である。
【0007】
ところで、ロータケース、プランジャチューブは、TIG溶接やレーザ溶接等の溶接法によって若干の差異はあるものの、溶接による熱影響により溶接部の強度(許容引張り応力σa’)が素材の許容引張り強度(σa)より劣化しているのが一般的である。この溶接部の劣化傾向は、硬度を計測することで、n乗硬化則から、概略状態の許容引張り強度(σa’)を求めることができる。
【0008】
図11は、部材(弁ハウジング)Aと部材(ロータケース)Bの溶接による部材Bにおける強度劣化(硬度低下)の状況を例示している。一般的に、溶接部分(溶融部分)の硬度Ha’は、素材硬度Haに対して0.5〜0.7程度まで低下し、図11でも、溶接部分の硬度Ha’は、素材硬度Haに対して0.5程度まで低下していることが分かる。
【0009】
このことを、n乗硬化則を単純化し、σa’=σa・√(Ha’/Ha)として求めると、最劣化部(Ha’=0.5Ha)の溶接部の許容応力は、素材の許容応力の70%程度になっていることが分かる。なお、図11において、ωは部材Bにおける溶接幅方向の溶込み量を、ω’は同じくそれの硬度回復量を各々示している。
【0010】
このことは、従来品(ケース肉厚tsが全体に亘って均一)の破壊耐圧試験において、破壊する部位が溶接部Wである事実と一致する。
【0011】
このことに対し、溶接熱影響による許容応力の低下分を見込んで、ロータケース、プランジャチューブの耐圧強度を設計すると、ロータケースのケース肉厚、プランジャチューブのチューブ肉厚が、許容応力低下分相当、厚くなり、コイルの励磁力で発生した磁束がロータケースを透過する効率が低下する。このため、ステータコイルユニット、電磁コイルユニットの励磁力を増大する必要が生じる。
【0012】
このことは、CO2 冷媒を使用した超臨界蒸気圧縮冷凍サイクル装置のように、高圧状態で使用される冷媒制御用の電動弁、電磁弁において、大きい問題になる。
【特許文献1】特開平9−217853号公報
【特許文献2】特開平11−37311号公報
【特許文献3】特開平11−6577号公報
【特許文献4】特開2000−297873号公報
【特許文献5】特開平11−22849号公報
【特許文献6】特開2000−161520号公報
【特許文献7】特開2003−254461号公報
【特許文献8】特開2004−263841号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
この発明が解決しようとする課題は、ロータケース、プランジャチューブを弁ハウジングに溶接によって接合する電動弁、電磁弁において、ケース肉厚、コイルの励磁力で発生した磁束のチューブ肉厚の増大による透過効率の低下を招来することなく、溶接熱影響による許容応力の低下を補償して所要の耐圧破壊強度を得ることであり、しかも、このことを達成したうえで、ロータケース、プランジャチューブの材料費の削減、高い生産性によって低廉化を図ることである。
【課題を解決するための手段】
【0014】
この発明による電動弁は、弁ポートを有する弁ハウジングと、前記弁ポートを開閉する弁体と、前記弁ハウジングに固定されたロータケースと、前記ロータケース内に回転可能に配置された電動モータのロータと、前記ロータケースの外周部に取り付けられた前記電動モータのステータコイルユニットとを有し、前記ロータの回転により前記弁体が開閉駆動される電動弁において、前記ロータケースは、キャン状をなし、端縁部を前記弁ハウジングに突合せ溶接されて前記弁ハウジングに固定されており、前記ステータコイルユニットを装着され、前記ロータケースの前記弁ハウジングに対する溶接端縁部より薄肉で形成される前記ロータケースのコイル装着部が、少なくとも、該コイル装着部の肉厚に比して厚い肉厚の素材を深絞り加工した深絞り加工品である。
【0015】
この発明による電動弁は、好ましくは、前記溶接端縁部と前記コイル装着部とは、肉厚が徐々に変化するテーパ部によって滑らかに接続されており、前記溶接端縁部と前記テーパ部との全長は、前記突合せ溶接による前記ロータケースの硬度回復量に、所定の安全代を加えた長さに設定されている。
【0016】
この発明による電磁弁は、弁ポートを有する弁ハウジングと、前記弁ポートを開閉する弁体と、前記弁ハウジングに固定されたプランジャチューブと、前記プランジャチューブ内に配置された電磁ソレノイド装置のプランジャと、前記プランジャチューブの外周部に取り付けられた電磁ソレノイド装置の電磁コイルユニットとを有し、前記プランジャの軸線方向移動により前記弁体が開閉駆動される電磁弁において、前記プランジャチューブは、端縁部を前記弁ハウジングに突合せ溶接されて前記弁ハウジングに固定されており、前記電磁コイルユニットを装着され、前記プランジャチューブの前記弁ハウジングに対する溶接端縁部より薄肉で形成される前記プランジャチューブのコイル装着部が、少なくとも、該コイル装着部の肉厚に比して厚い肉厚の素材を深絞り加工した深絞り加工品である。
【0017】
この発明による電磁弁は、好ましくは、前記溶接端縁部と前記コイル装着部とは、肉厚が徐々に変化するテーパ部によって滑らかに接続されており、前記溶接端縁部と前記テーパ部との全長は、前記突合せ溶接による前記プランジャチューブの硬度回復量に、所定の安全代を加えた長さに設定されている。
【0018】
この発明による電動弁、電磁弁における前記ロータケースあるいは前記プランジャチューブの前記弁ハウジングに対する溶接は、TIG溶接、レーザ溶接等の非消耗電極式の溶接法によって行うことができる。
【発明の効果】
【0019】
この発明による電動弁、電磁弁では、ロータケース、プランジャチューブの弁ハウジングに対する溶接端縁部、換言すると、溶接熱影響部の肉厚がコイル装着部の肉厚に比して厚いから、溶接熱影響部の肉厚だけを溶接熱影響による許容応力の低下分を見込んだ肉厚に設定でき、コイル装着部の肉厚は溶接による許容応力低下分を含まない肉厚にできるから、コイルの励磁力で発生した磁束のケース肉厚の増大による透過効率の低下を招来することなく、溶接による許容応力の低下を補償して所要の耐圧破壊強度を得ることできる。
【0020】
ロータケース、プランジャチューブは、少なくともそのコイル装着部が、コイル装着部の肉厚に比して厚い肉厚の素材を深絞り加工した深絞り加工品であるから、切削による材料損失がなく、省資源で、切削加工品に比して材料費を削減できる。また、深絞り加工の金型を製作する必要はあるが、量産品では、切削加工に比して加工費の削減、高い生産性により、低廉化を図ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
この発明による電動弁の一つの実施形態を、図1を参照して説明する。
【0022】
電動弁は弁ハウジング11を有する。弁ハウジング11は、ステンレス鋼等によりプレス成形品としてカップ状をなしている。弁ハウジング11の上部開口縁部11Aには樹脂製の弁支持ガイド部材12にインサート成形された取付金具13が溶接によって固定装着されている。
【0023】
弁ハウジング11は弁支持ガイド部材12と共働して円筒空間状の弁室14を画定している。弁ハウジング11には、入口ポートをなす横継手15と、出口ポートをなす下継手16が溶接、ろう付け等によって固定装着されている。
【0024】
弁ハウジング11の底部中央には、下継手16に直接連通する弁ポート17を形成された弁座部材18が溶接、ろう付け等によって固定装着されている。
【0025】
弁支持ガイド部材12には弁室14へ向けて開口したガイド孔19が形成されている。ガイド孔19には、弁体20と連結組立体を構成する円筒状の弁ホルダ21が軸線方向(図1にて上下方向)に摺動可能に嵌合している。
【0026】
これにより、弁体20は、弁室14内にあって弁支持ガイド部材12より弁リフト方向に移動可能に支持され、弁ポート17の開閉、開度調節を行う。
【0027】
弁支持ガイド部材12は上部に雌ねじ孔22をガイド孔19と同心に有する。雌ねじ孔22には後述するステッピングモータ30のロータ軸31に形成された雄ねじ部32がねじ係合している。
【0028】
ロータ軸31は、下端にて、弁ホルダ21内に設けられたばねリテーナ23、圧縮コイルばね24等によって弁ホルダ21に対して相対回転可能な状態で、軸力伝達関係で連結されている。ロータ軸31は、雄ねじ部32と雌ねじ孔22とのねじ係合により、回転することにより、軸線方向移動し、この軸線方向移動が、弁ホルダ21および弁体20に伝達される。
【0029】
弁ハウジング11の上部にはステッピングモータ30が取り付けられている。ステッピングモータ30は、弁ハウジング11に固定装着されたロータケース33と、ロータケース33内に自身の中心軸線周りに回転可能に配置されたロータ34と、取付金具45によってロータケース33の外周部に固定装着されたステータコイルユニット35とを有する。
【0030】
ロータ34は、外周部を多極着磁され、ボス部34Aにてロータ軸31と固定連結されている。ステータコイルユニット35は、樹脂封止型のものであり、上下2段の電磁コイル部36、磁極歯37、リード線38等を有する。
【0031】
また、ロータケース33内には、ロータ34の回転を制限するストッパ機構39が構成されている。
【0032】
つぎに、ロータケース33の形状、ロータケース33の弁ハウジング11に対する取付構造について、図2、図3を参照して説明する。
【0033】
図2に示されているように、ロータケース33は、ステンレス鋼等により構成されてキャン状をなしており、外周部にステータコイルユニット35を装着されるコイル装着円筒部33A(コイル装着部)と、コイル装着円筒部33Aの一方の側(上側)にあってコイル装着円筒部33Aの一方の側を閉じる天井部33Bと、コイル装着円筒部33Aの他方の側(下側)にあって溶接によって弁ハウジング11に固着される端縁部、つまり溶接端縁部33Cとを有する。
【0034】
ロータケース33は、図3に示されているように、溶接端縁部33Cの先端を、TIG溶接、レーザ溶接等の非消耗電極式の溶接法によって弁ハウジング11の上部開口縁部11Aに突合せ溶接されている。この突合せ溶接の溶接凝固部は、図3に符号40によって示されている。溶接凝固部40は、非消耗電極式の溶接法による溶接凝固部であることにより、肉盛りされた溶接ビードを生じず、肉厚変化を生じない。この突合せ溶接によるロータケース33側の溶接幅方向の溶込み量は、図3に符号ωによって示されている。
【0035】
本発明による電動弁において重要なことは、ロータケース33の溶接端縁部33Cの肉厚ts’がコイル装着円筒部33Aの肉厚tsに比して厚いこと、つまり、ts’>tsであることである。溶接端縁部33Cとコイル装着円筒部33Aとは、応力集中を避けるべく、肉厚がts’よりtsに徐々に変化するテーパ部33Dによって滑らかに接続されている。テーパ部33Dにおいて、肉厚がts’よりtsに徐々に変化する度合い(テーパ度)は、ロータケース33の硬度回復の度合い(硬度変化の傾き)に適合するものであってよい。
【0036】
溶接端縁部33Cの肉厚ts’は、溶接熱影響部の肉厚として、溶接熱影響による許容応力の低下分を見込んだ肉厚に設定されている。たとえば、溶接端縁部33Cの許容応力が溶接熱影響によって素材の許容応力の70%程度に低下していれば、その低下(劣化)分を補償すべく、溶接端縁部33Cの肉厚ts’はコイル装着円筒部33Aの肉厚tsの1.4倍程度に設定されればよい。
【0037】
なお、溶接熱影響部の許容応力の低下の程度によるが、TIG溶接の場合、実例として、コイル装着円筒部33Aの肉厚tsが0.6〜0.8mm程度であれば、溶接端縁部33Cの肉厚ts’は0.84〜1.12mm程度であればよい。
【0038】
肉厚ts’による溶接端縁部33Cの長さhは、ロータケース33側の溶接幅方向の溶込み量ωより大きく、溶接端縁部33Cとテーパ部33Dとの全長h’は、ロータケース33の硬度回復量ω’に、安全代Δhを加えた長さh’に設定されればよい。安全代Δhは溶接のばらつきを考慮した値に設定されればよい。
【0039】
このように、溶接端縁部33Cとテーパ部33Dだけが、溶接熱影響による許容応力の低下分を見込んだ厚い肉厚になり、コイル装着円筒部33Aの肉厚tsは溶接による許容応力低下分を含まない薄い肉厚にできるから、コイルの励磁力で発生した磁束のケース肉厚の増大による透過効率の低下を招来することなく、溶接による許容応力の低下を補償した所要の耐圧破壊強度が得られる。
【0040】
ロータケース33の天井部33B(図2参照)は、電動弁の小型化と耐圧性を確保した形状、肉厚に設定される。天井部33Bが、図2に示されている本実施形態のような半球状の場合、天井部33Bの肉厚tuは、耐圧強度を確保するために、コイル装着円筒部33Aの肉厚tsより厚く設定されている。天井部33Bの肉厚tuは溶接端縁部33Cの肉厚ts’にほぼ等しくてよい。
【0041】
コイル装着円筒部33Aの肉厚tsより天井部33Bの肉厚tuへの移行は、適当なアール寸法Rと、アール部の中心変更(R+tr)によって滑らかに行われている。
【0042】
ts<ts’、ts<tu、tu≒ts’のロータケース33は、溶接端縁部33Cの肉厚ts’と同等の肉厚を有する素材を、図4(a)、(b)に示されているようなダイス100、ポンチ101、しわ押さえ型102によるプレス型を用いて深絞り加工することによって製造することができる。
【0043】
ダイス100は、溶接端縁部33Cの肉厚ts’(素材の肉厚とほぼ等しい肉厚)を得るために、図4(a)に示されているように、溶接端縁部33Cの絞り成形部100Cが、コイル装着円筒部33Aの絞り成形部100Aに比して拡径され、絞り成形部100Cでは、深絞り加工において、素材の肉厚減少が実質的に生じない型形状になっている。
【0044】
天井部33Bの肉厚tuは、概ねポンチ101の最大進入量により決まるから、天井部33Bの肉厚tuが素材の肉厚とほぼ等しい肉厚になるように、ポンチ101の最大進入量が、図4(b)に示されているように、最適量に設定されている。
【0045】
これにより、図5(a)に示されているようなフランジ部(非製品部)33Eを含む、コイル装着円筒部33Aの肉厚ts、天井部33Bの肉厚tu、溶接端縁部33Cの肉厚ts’の深絞り加工品ができ、図5(b)に示されているように、所要寸法Laでフランジ部33Eを切り落とすことにより。ts<ts’、ts<tu、tu≒ts’を満たしたロータケース33が完成する。
【0046】
上述の如く、ロータケース33は、溶接端縁部33Cの肉厚ts’に相当する肉厚の素材を深絞り加工した深絞り加工品であるから、切削による材料損失がなく、省資源で、切削加工品に比して材料費を削減できる。また、深絞り加工の金型を製作する必要はあるが、量産品では、切削加工に比して加工費の削減、高い生産性により、低廉化を図ることができる。
【0047】
つぎに、この発明による電磁弁の一つの実施形態を、図6を参照して説明する。
【0048】
電磁弁は弁ハウジング51を有する。弁ハウジング51は、ステンレス鋼等によるプレス成形品により構成されて弁座部材をなし、弁ポート52を形成されている。弁ハウジング51には、弁ポート52と直接連通して出口ポートをなす下継手54が、溶接、ろう付け等によって固定装着されている。
【0049】
弁ハウジング51のフランジ部51Aには電磁ソレノイド装置60のプランジャチューブ61の下端が溶接によって固定装着されている。プランジャチューブ61の上端には吸引子62が溶接によって固定装着されている。これにより、プランジャチューブ61は、弁ハウジング51および吸引子62と共働して弁ハウジング51と吸引子62との間に円筒空間状の弁室を兼ねたプランジャ室63を画定している。プランジャチューブ61には、入口ポートをなす横継手53が、溶接、ろう付け等によって固定装着されている。
【0050】
プランジャチューブ61内、つまり、プランジャ室63にはプランジャ64が軸線方向(図6にて上下方向)に移動可能に設けられている。プランジャ64には弁ポート52を開閉するボール弁体55が取り付けられている。
【0051】
プランジャ64と吸引子62との間には圧縮コイルばね65が取り付けられている。圧縮コイルばね65はプランジャ64を吸引子62より離れる方向に付勢している。これにより、ボール弁体55が弁閉方向に付勢される。
【0052】
プランジャチューブ61の外周部にはボルト66によって電磁ソレノイド装置60の電磁コイルユニット67が取り付けられている。電磁コイルユニット67は、電磁コイル部68、外凾69、リード線70等を有する。
【0053】
電磁ソレノイド装置60は、電磁コイル部68に対する通電によって電磁コイル部68が励磁することにより、プランジャ64を圧縮コイルばね65のばね力に抗して吸引子62に吸引する。これにより、電磁コイル部68に対する通電、非通電によってボール弁体55が開閉駆動される。
【0054】
プランジャチューブ61と弁ハウジング51との溶接構造およびプランジャチューブ61と吸引子62との溶接構造を、図7、図8を参照して説明する。
【0055】
プランジャチューブ61は、ステンレス鋼等により構成されて円筒状をなしており、外周部に電磁コイルユニット67を装着されるコイル装着円筒部61A(コイル装着部)と、コイル装着円筒部61Aの一方の側(下側)にあって溶接によって弁ハウジング51に固着される端縁部、つまり下側溶接端縁部61B(溶接端縁部)と、コイル装着円筒部61Aの他方の側(上側)にあって溶接によって吸引子62に固着される端縁部、つまり上側溶接端縁部61Cとを有する。
【0056】
プランジャチューブ61は、図7に示されているように、下側溶接端縁部61Bの先端を、TIG溶接、レーザ溶接等の非消耗電極式の溶接法によって弁ハウジング51のフランジ部51Aに突合せ溶接されている。この突合せ溶接の溶接凝固部は、図7に符号71によって示されている。溶接凝固部71は、非消耗電極式の溶接法による溶接凝固部であることにより、肉盛りされた溶接ビードを生じず、肉厚変化を生じない。この突合せ溶接によるプランジャチューブ61側の溶接幅方向の溶込み量は、図7に符号ωによって示されている。
【0057】
プランジャチューブ61は、図8に示されているように、上側溶接端縁部61Cの先端を、TIG溶接、レーザ溶接等の非消耗電極式の溶接法によって吸引子62に突合せ溶接されている。この突合せ溶接の溶接凝固部は、図8に符号72によって示されている。溶接凝固部72も、非消耗電極式の溶接法による溶接凝固部であることにより、肉盛りされた溶接ビードを生じず、肉厚変化を生じない。この突合せ溶接によるプランジャチューブ61側の溶接幅方向の溶込み量も、図8に符号ωによって示されている。
【0058】
本発明による電磁弁において重要なことは、プランジャチューブ61の下側溶接端縁部61B、上側溶接端縁部61Cの肉厚tp’が、各々、コイル装着円筒部61Aの肉厚tpに比して厚いこと、つまり、tp’>tpであることである。下側溶接端縁部61Bとコイル装着円筒部61A、上側溶接端縁部61Cとコイル装着円筒部61Aとは、各々応力集中を避けるべく、肉厚がtp’よりtpに徐々に変化するテーパ部61D、61Eによって滑らかに接続されている。テーパ部61D、61Eにおいて、肉厚がtp’よりtpに徐々に変化する度合い(テーパ度)は、プランジャチューブ61の硬度回復の度合い(硬度変化の傾き)に適合するものであってよい。
【0059】
下側溶接端縁部61B、上側溶接端縁部61Cの肉厚tp’は、溶接熱影響部の肉厚として、溶接熱影響による許容応力の低下分を見込んだ肉厚に設定されている。つまり、溶接熱影響による許容応力の低下を補償する肉厚に設定されている。
【0060】
肉厚tp’による下側溶接端縁部61B、上側溶接端縁部61Cの長さhは、プランジャチューブ61側の溶込み量ωより大きく、下側溶接端縁部61Bとテーパ部61Dとの全長h’は、プランジャチューブ61の硬度回復量ω’(図11参照)に、安全代を加えた長さh’に設定されればよい。安全代は溶接のばらつきを考慮した値に設定されればよい。また上側溶接端縁部61Cとテーパ部61Eとの全長h’も、プランジャチューブ61の硬度回復量ω’(図11参照)に、安全代を加えた長さh’に設定されればよい。安全代は溶接のばらつきを考慮した値に設定されればよい。
【0061】
このように、下側溶接端縁部61B、上側溶接端縁部61C、つまり溶接熱影響部の肉厚tp’だけが溶接熱影響による許容応力の低下分を見込んだ厚い肉厚になり、コイル装着円筒部61Aの肉厚tpは溶接による許容応力低下分を含まない薄い肉厚にできるから、コイルの励磁力で発生した磁束のケース肉厚の増大による透過効率の低下を招来することなく、溶接による許容応力の低下を補償した所要の耐圧破壊強度が得られる。
【0062】
なお、この実施形態では、弁ハウジング51も板金加工品であることにより、溶接熱影響による許容応力の低下を考慮して、プランジャチューブ61との溶接部であるフランジ部51Aの肉厚th’が弁ハウジング51の他の部分(非溶接部)の肉厚thより厚くなっている。
【0063】
tp<tp’のプランジャチューブ61は、下側溶接端縁部61B、上側溶接端縁部61Cの肉厚tp’と同等の肉厚を有する素材を、ダイス、ポンチ、しわ押さえ型による深絞り用のプレス型を用いて深絞り加工することによって製造することができる。
【0064】
ダイスは、下側溶接端縁部61Bの肉厚tp’(素材の肉厚とほぼ等しい肉厚)を得るために、その部分の絞り成形部が、コイル装着円筒部61Aの絞り成形部に比して拡径され、また、ポンチは、上側溶接端縁部61Cの肉厚tp’(素材の肉厚とほぼ等しい肉厚)を得るために、その部分の絞り成形部が、コイル装着円筒部61Aの絞り成形部に比して縮径され、下側溶接端縁部61B、上側溶接端縁部61Cの絞り成形部では、深絞り加工において、素材の肉厚減少が実質的に生じない型形状になっている。
【0065】
これにより、図9(a)に示されているようなフランジ部(非製品部)61Fと底部(非製品部)61Jを含む、コイル装着円筒部61Aの肉厚tp、下側溶接端縁部61B、上側溶接端縁部61Cの肉厚tp’の深絞り加工品ができ、図9(b)に示されているように、所要寸法Lbで、フランジ部61Fと底部61Jを切り落とすことにより。tp<tp’を満たしたプランジャチューブ61が完成する。
【0066】
上述の如く、プランジャチューブ61は、下側溶接端縁部61B、上側溶接端縁部61Cのの肉厚tp’に相当する肉厚の素材を深絞り加工した深絞り加工品であるから、切削による材料損失がなく、省資源で、切削加工品に比して材料費を削減できる。また、深絞り加工の金型を製作する必要はあるが、量産品では、切削加工に比して加工費の削減、高い生産性により、低廉化を図ることができる。
【0067】
上述の実施形態による電動弁、電磁弁は、何れも、弁ハウジング11、51をプレス成形品により構成されているが、弁ハウジングは、鋳造品、切削加工品による弁ハウジング本体と、弁ハウジング本体に溶接等によって固定装着されたプレス成形品による皿状の下蓋部材との組立品であってもよく、この場合には、ロータケース、プランジャチューブは、上述の実施形態と同様の構成で、下蓋部材に突合せ溶接される。
【0068】
弁ハウジングが弁ハウジング本体と下蓋部材との組立品により構成されている型式の電動弁に本発明を適用した実施形態を、図10を参照して説明する。なお、図9において、図1〜図3に対応する部分は、図1〜図3に付した符号と同一の符号を付けて、その説明を省略する。
【0069】
この実施形態では、弁ハウジング81が、鋳造品、切削加工品による弁ハウジング本体82と、弁ハウジング本体82の上部に溶接等によって固定装着されたプレス成形品による皿状の下蓋部材83との組立品により構成されている。
【0070】
ロータケース33は、溶接端縁部33Cを、下蓋部材83の起立した上縁部83Aに、TIG溶接、レーザ溶接等の非消耗電極式の溶接法によって突合せ溶接されている。この突合せ溶接の溶接凝固部は、符号40によって示されている。
【0071】
この実施形態でも、ロータケース33の溶接端縁部33Cの肉厚はロータケース33のコイル装着円筒部33Aの肉厚に比して厚く、溶接端縁部33Cとコイル装着円筒部33Aとは、応力集中を避けるべく、肉厚が徐々に変化するテーパ部33Dによって滑らかに接続されている。
【0072】
これにより、溶接端縁部33Cの肉厚だけが溶接熱影響による許容応力の低下分を見込んだ厚い肉厚で、コイル装着円筒部33Aの肉厚は溶接による許容応力低下分を含まない薄い肉厚にでき、この実施形態でも、コイルの励磁力で発生した磁束のケース肉厚の増大による透過効率の低下を招来することなく、溶接による許容応力の低下を補償した所要の耐圧破壊強度が得られる。
【0073】
この実施形態では、弁ハウジング本体82の上部に円筒状の雄ねじ部材84が固定装着され、ロータ34と一体の雌ねじ部材85が雄ねじ部材84にねじ係合している。弁体20は、軸線方向に長い弁軸86によって雌ねじ部材85と連結され、雌ねじ部材85がロータ34によって回転駆動されることにより、軸線方向に移動する。
【0074】
なお、上述した各実施形態では、溶接端縁部33Cの肉厚ts’と同等の肉厚を有する素材や、下側溶接端縁部61B、上側溶接端縁部61Cの肉厚tp’と同等の肉厚を有する素材を絞って、肉厚tsのコイル装着円筒部33Aや肉厚tpのコイル装着円筒部61Aを深絞り加工により形成したロータケース33やプランジャチューブ61を用いる場合について説明した。
【0075】
しかし、本発明は、溶接端縁部33Cの肉厚ts’よりも厚い肉厚を有する素材や、下側溶接端縁部61B、上側溶接端縁部61Cの肉厚tp’よりも厚い肉厚を有する素材を絞って、肉厚tsのコイル装着円筒部33Aや肉厚tpのコイル装着円筒部61Aだけでなく、肉厚ts’の溶接端縁部33Cや肉厚tp’の下側溶接端縁部61B、上側溶接端縁部61Cも、深絞り加工により形成したロータケース33やプランジャチューブ61を用いる場合についても、適用可能である。
【0076】
また、本発明は、TIG溶接、レーザ溶接等の非消耗電極式の溶接法による熱影響による許容応力の低下を補償するに限られることはなく、その他の溶接法によるもの、ろう付けによるものにも、同様に適用できる。
【図面の簡単な説明】
【0077】
【図1】本発明による一つの実施形態を示す縦断面図である。
【図2】一つの実施形態による電動弁のロータケースを示す縦断面図である。
【図3】一つの実施形態による電動弁の弁ハウジングとロータケースとの溶接部の拡大断面図である。
【図4】(a)、(b)は一つの実施形態による電動弁のロータケースの製造に用いられるプレス型およびロータケースの深絞り加工を示す断面図である。
【図5】(a)、(b)は深絞り加工によるロータケースを示す断面図である。
【図6】本発明による一つの実施形態を示す縦断面図である。
【図7】一つの実施形態による電磁弁の弁ハウジングとプランジャチューブとの溶接部の拡大断面図である。
【図8】一つの実施形態による電磁弁の吸引子とプランジャチューブとの溶接部の拡大断面図である。
【図9】(a)、(b)は深絞り加工によるプランジャチューブを示す断面図である。
【図10】本発明による電動弁の他の実施形態を示す縦断面図である。
【図11】溶接部分の硬度特性を示す説明図である。
【符号の説明】
【0078】
11 弁ハウジング
11A 上部開口縁部
12 弁支持ガイド部材
13 取付金具
14 弁室
15 横継手
16 下継手
17 弁ポート
18 弁座部材
19 ガイド孔
20 弁体
21 弁ホルダ
22 雌ねじ孔
23 ばねリテーナ
24 圧縮コイルばね
30 ステッピングモータ
31 ロータ軸
32 雄ねじ部
33 ロータケース
33A コイル装着円筒部
33B 天井部
33C 溶接端縁部
33D テーパ部
33E フランジ部
34 ロータ
34A ボス部
35 ステータコイルユニット
36 電磁コイル部
37 磁極歯
38 リード線
39 ストッパ機構
40 溶接凝固部
45 取付金具
51 弁ハウジング
51A フランジ部
52 弁ポート
53 横継手
54 下継手
55 ボール弁体
60 電磁ソレノイド装置
61 プランジャチューブ
61A コイル装着円筒部
61B 下側溶接端縁部
61C 上側溶接端縁部
61D、61E テーパ部
61F フランジ部
61J 底部
62 吸引子
63 プランジャ室
64 プランジャ
65 圧縮コイルばね
66 ボルト
67 電磁コイルユニット
68 電磁コイル部
69 外凾
70 リード線
71、72 溶接凝固部
81 弁ハウジング
82 弁ハウジング本体
83 下蓋部材
83A 上縁部
84 雄ねじ部材
85 雌ねじ部材
86 弁軸
100 ダイス
100A、100C 絞り成形部
101 ポンチ
102 しわ押さえ型

【特許請求の範囲】
【請求項1】
弁ポートを有する弁ハウジングと、前記弁ポートを開閉する弁体と、前記弁ハウジングに固定されたロータケースと、前記ロータケース内に回転可能に配置された電動モータのロータと、前記ロータケースの外周部に取り付けられた前記電動モータのステータコイルユニットとを有し、前記ロータの回転により前記弁体が開閉駆動される電動弁において、
前記ロータケースは、キャン状を成し、端縁部を前記弁ハウジングに突合せ溶接されて前記弁ハウジングに固定されており、前記ステータコイルユニットを装着され、前記ロータケースの前記弁ハウジングに対する溶接端縁部より薄肉で形成される前記ロータケースのコイル装着部が、少なくとも、該コイル装着部の肉厚に比して厚い肉厚の素材を深絞り加工した深絞り加工品である電動弁。
【請求項2】
前記溶接端縁部と前記コイル装着部とは、肉厚が徐々に変化するテーパ部によって滑らかに接続されており、前記溶接端縁部と前記テーパ部との全長は、前記突合せ溶接による前記ロータケースの硬度回復量に、所定の安全代を加えた長さに設定されている請求項1記載の電動弁。
【請求項3】
前記ロータケースの前記弁ハウジングに対する溶接は、TIG溶接、レーザ溶接等の非消耗電極式の溶接法によるものである請求項1または2記載の電動弁。
【請求項4】
弁ポートを有する弁ハウジングと、前記弁ポートを開閉する弁体と、前記弁ハウジングに固定されたプランジャチューブと、前記プランジャチューブ内に配置された電磁ソレノイド装置のプランジャと、前記プランジャチューブの外周部に取り付けられた電磁ソレノイド装置の電磁コイルユニットとを有し、前記プランジャの軸線方向移動により前記弁体が開閉駆動される電磁弁において、
前記プランジャチューブは、端縁部を前記弁ハウジングに突合せ溶接されて前記弁ハウジングに固定されており、前記電磁コイルユニットを装着され、前記プランジャチューブの前記弁ハウジングに対する溶接端縁部より薄肉で形成される前記プランジャチューブのコイル装着部が、少なくとも、該コイル装着部の肉厚に比して厚い肉厚の素材を深絞り加工した深絞り加工品である電磁弁。
【請求項5】
前記溶接端縁部と前記コイル装着部とは、肉厚が徐々に変化するテーパ部によって滑らかに接続されており、前記溶接端縁部と前記テーパ部との全長は、前記突合せ溶接による前記プランジャチューブの硬度回復量に、所定の安全代を加えた長さに設定されている請求項4記載の電磁弁。
【請求項6】
前記プランジャチューブの前記弁ハウジングに対する溶接は、TIG溶接、レーザ溶接等の非消耗電極式の溶接法によるものである請求項4記載の電磁弁。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2007−211814(P2007−211814A)
【公開日】平成19年8月23日(2007.8.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−29670(P2006−29670)
【出願日】平成18年2月7日(2006.2.7)
【出願人】(000143949)株式会社鷺宮製作所 (253)
【Fターム(参考)】