説明

電動弁試験用電源箱および電動弁の点検方法

【目的】 電動弁に関する調整試験において、人的負担を軽減し、効率的に作業するための電動弁試験用電源箱を提供する。
【構成】 外部電源から電源を供給されるとともに試験対象となる電動弁に電気を供給する電動弁試験用電源箱である。 電動弁に電気を供給するための動力用電源と、 その動力用電源と前記電動弁とを接続する動力用コネクタと、 電動弁を制御するための電気信号を供給する制御用電源と、 その制御用電源と電動弁とを接続する制御用コネクタと、 電動弁の出力をモニタリングするための開度発信器と、 その開度発信器と電動弁とを接続するための計算機用コネクタと、を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電動弁の試験および調整の際に関連する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
火力発電所等のタービンは4年に1回、ボイラは2年に1回の法定点検が必要である。これに合わせて実施する電動弁の作業工程を図5に示す。
この点検作業は、治具工具類の準備、足場の組み立て、電源「断」といった準備工程、結線部の脱線、保温取り外し、駆動部取り外し、弁分解といった分解工程、弁手入れ、弁シート部の摺り合わせおよび機械加工といった点検手入れ工程、保温取り付け、駆動部の取り付け、弁の組み立て、脱線した部分の結線といった組み立て工程、条件調査および条件作成の後に電源投入をすることによる条件作成調査工程、駆動部試験、ストローク調整、リミットスイッチ(LS)調整といった調整試験工程、による。
【0003】
前記の調整試験工程には、図6に示すようなハードウェアによる動作確認が含まれている。その動作確認には、電動弁だけの動作確認、駆動部だけの動作確認、電動弁および駆動部による動作確認(ストローク調整、リミットスイッチ調整、開度調整などを含む)の二回が必要である。これらの動作確認は、現場と中央操作室とで連絡を取り合いながら行われる。
また、前記のリミットスイッチ調整および開度調整は、電動弁本体付きの開度調整と、中央操作室(コントロールセンタ)の計算機用モニタの開度調整とがある。電動弁によっては、試験調整終了後に電源「断」した後に、試運転等に再度「投入」する。
【0004】
電動弁の動作確認は、電源のオン/オフを単純に行えばよいのではなく、様々な条件設定の下での動作確認が必要である。ところが、タービンまたはボイラ全体が点検中であるため、擬似的にその条件を設定しなければならない。
前記の条件設定は、各制御盤におけるジャンパー(リレーなどをジャンプさせる配線をすること)およびリフト(設定されていた条件を外す配線に組み直すこと)による条件作成を行うのが一般的である。しかし、この条件作成は短時間でできるものばかりではなく、事前打ち合わせから始めなければならない複雑なものであり、当社社員(保修員・運転員)の負担は小さくない。30分程度〜1時間程度かかるものもあり、シーケンスの複雑さや分解中機器の関係を点検するなどの作成作業の場合、1日掛かってしまうようなものもある。
【0005】
また、前述した動作確認における電源のオン/オフには、誤認防止のため、運転者、保修者および請負者の三者(または運転者および保修者の二者)が立ち会わなければならないと決められている。このため、いずれかの者に待ち時間が多く発生してしまう。
開度調整においては、電動弁が備わっている現場と中央操作室とで連絡を取りながら実施する必要があるので、人員が割かれ、時間も掛かる作業である。調整作業などにおいて不具合が発生して再調整が必要となると、担当者の負担は更に増加する。
【0006】
なお、こうした点検に必要な技術については、さまざまな技術が提供されている。例えば、特許文献1〜3に記載される技術である。
【0007】
【特許文献1】特開平8−145223号公報
【特許文献2】特開平9−292310号公報
【特許文献3】特開平11−248030号公報
【0008】
これらの技術は、電動弁調整のための電動弁単体試験を効率化するための技術である。
特許文献1に記載の技術は、モータ駆動による開閉する電動弁と、そのリミットスイッチと、電源盤と、中央制御盤の制御回路の一部を模擬し、前記電動弁を試験する電動弁試験盤とからなる電動弁試験装置を提供している。
また、特許文献2に記載の技術は、電動弁の単体試験をコントロールセンタ(中央操作室)のケーブル布設前の段階で容易に行うことのできる電動弁単体試験装置を提供している。
更に、特許文献3に記載の技術は、電動弁を実際に駆動させる必要がなく、模擬試験をすることができる電動弁制御回路試験装置等を提供している。
【0009】
特許文献1および特許文献2に記載の技術は、概略的には図4に示すような技術であり、図5には以下の技術が図示される。
電動弁はモータによって開閉され、モータの動力電源はパワー電源から、モータの制御電源は制御ボックスから、それぞれ供給されている。そして、前記パワー電源および制御ボックスに対する電源供給は、パワーセンターから提供されている。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
さて、特許文献1や特許文献2に記載された技術では、条件作成や条件設定の手間を軽減できる可能性があるが、中央操作室における人員を削減することはできない。電動弁を駆動させる電源は、中央操作室によってオン/オフされ、その操作は中央操作室の作業員が操作しなければならないからである。
【0011】
また、特許文献3に記載された技術では、模擬試験を行うための装置であり、プラントの試作や設計確認などにおいて使用できるものの、実際に稼働しているプラントなどにおける法定定期点検に用いる技術ではない。
【0012】
本発明が解決しようとする課題は、電動弁に関する調整試験において、人的負担を軽減し、効率的に作業するための技術を提供することにある。
請求項1から請求項2記載の発明の目的は、電動弁に関する調整試験において、人的負担を軽減し、効率的に作業するための電動弁試験用電源箱を提供することにある。
また、請求項3から請求項4に記載の発明の目的は、電動弁に関する調整試験において、人的負担を軽減し、効率的に作業するための電動弁の点検方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記した課題を解決するため、これまで別々に供給されていた駆動用の電源と制御用の電源とを、ダイレクトに供給するとともに、調整や再調整も簡易に行えることができる技術を提供することによって、達成する。
【0014】
(請求項1)
請求項1記載の発明は、 外部電源から電源を供給されるとともに試験対象となる電動弁に電気を供給する電動弁試験用電源箱に係る。
すなわち、前記電動弁に電気を供給するための動力用電源と、 その動力用電源と前記電動弁とを接続する動力用コネクタと、 前記電動弁を制御するための電気信号を供給する制御用電源と、 その制御用電源と前記電動弁とを接続する制御用コネクタと、 前記電動弁の出力をモニタリングするための開度発信器と、 その開度発信器と前記電動弁とを接続するための計算機用コネクタと、を備えたことを特徴とする。
【0015】
(用語説明)
「制御用電源」には、試験対象となる電動弁の条件設定を電気信号として発信可能な制御回路を含む。
「開度発信器」とは、電動弁の出力を表示可能なモニタを含む。
【0016】
(作用)
動力用コネクタ、制御用コネクタおよび計算機用コネクタを、試験対象となる電動弁に接続する。そして、動力用電源から電気を供給するとともに、制御用電源から制御用の電気信号を発する。それに基づいて、電動弁が作動する。電動弁が作動した結果としての出力は、開度発信器にて出力され、正常に作動しているか否かを確認できる。
以上のような作業は、中央操作室とは無関係に、この電動弁試験用電源箱の操作者によって全て行うことができる。このため、電動弁に関する調整試験において、人的負担を軽減し、効率的に作業することができる。
【0017】
(請求項2)
請求項2記載の発明は、請求項1に記載の電動弁試験用電源箱を限定したものである。
すなわち、前記電源箱を移動可能とするための移動手段を備えたことを特徴とする。
【0018】
(用語説明)
「移動手段」とは、例えば、ホイールおよびそのホイールの軸受けからなるローラ部材である。トランスを搭載した電源箱は重量が大きいので、動力源を備えていてもよい。
【0019】
(作用)
請求項2に記載の電動弁試験用電源箱によれば、移動手段を備えているので、プラント内での移動が簡易に行える。したがって、電動弁に関する調整試験において、人的負担を軽減し、効率的に作業することに寄与する。
【0020】
(請求項3)
請求項3記載の発明は、発電プラントにおける点検対象である電動弁に対して、電気を供給する電動弁試験用電源箱を用いて点検する電動弁の点検方法に係る。
まず、電動弁試験用電源箱は、 前記電動弁に電気を供給するための動力用電源と、 その動力用電源と前記電動弁とを接続する動力用コネクタと、 前記電動弁を制御するための電気信号を供給する制御用電源と、 その制御用電源と前記電動弁とを接続する制御用コネクタと、 前記電動弁の出力をモニタリングするための開度発信器と、 その開度発信器と前記電動弁とを接続するための計算機用コネクタと、を備える。
そして、この電動弁試験用電源箱を用いて、前記動力用コネクタ、前記制御用コネクタおよび前記計算機用コネクタを点検対象である電動弁に接続するコネクタ接続工程と、 前記動力用電源から電源を供給する動力供給工程と、 前記制御用電源から制御用の電気信号を供給する制御信号供給工程と、 前記開度発信器にて前記電動弁の出力をモニタリングさせるモニタリング工程とを含むこととした電動弁の点検方法である。
【0021】
(請求項4)
請求項4記載の発明は、請求項1に記載の電動弁の点検方法を限定したものである。
すなわち、前記電動弁試験用電源箱には、当該電源箱を移動可能とするための移動手段を備える。
そして、前記コネクタ接続工程の前には、前記移動手段を用いて当該電源箱を移動させる準備移動工程と、 前記モニタリング工程の後には、前記移動手段を用いて当該電源箱を移動させる終了後移動工程とを備えたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0022】
請求項1から請求項2記載の発明によれば、電動弁に関する調整試験において、人的負担を軽減し、効率的に作業するための電動弁試験用電源箱を提供することができた。
また、請求項3から請求項4に記載の発明によれば、電動弁に関する調整試験において、人的負担を軽減し、効率的に作業するための電動弁の点検方法を提供することができた。
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
本願発明を、図面および実施形態に基づいて更に詳しく説明する。ここで使用する図面は、図1ないし図4である。
図1および図2は本発明の実施形態を示すブロック図であり、図3は本発明の実施形態を示す概念図であり、図4は本実施形態に基づく工程表である。
【0024】
図1には、あるプラント内の電動弁の点検に用いる電動弁試験用電源箱(移動式の電動弁試験装置)を示している。
点検の対象となる電動弁駆動装置は、普段はコントロールセンターの制御電源とパワー電源とに、制御ケーブルおよびパワーケーブルを介して接続されている。
コントロールセンターの制御電源およびパワー電源の電力は、高圧閉鎖配電盤(図中では、M/C(メタクラ)と表示)およびパワーセンターを介して供給される。また、制御電源に対しては、中央操作室から計算機を介して指令が出される。また制御電源からは、計算機を介して状態表示が中央操作室に送られる。
なお、計算機には、電動弁を動かす条件が予め作成されて記憶されている。
【0025】
点検対象である電動弁駆動装置のモータに対しては、電動弁試験用電源箱(移動式の電動弁試験装置)が、コントロールセンターから供給すべき制御電源およびパワー電源に代わって、電源を供給する。外部からの供給電源(210V)に接続するためのコンセントを備えるとともに、点検対象となる電動弁駆動装置のモータに、パワーケーブルを介して接続される。
すなわち、この移動式の電動弁試験装置は、当該モータ動力用の電気を供給する動力用電源と、当該モータを制御するための電気信号を供給する制御用電源と、電動弁の出力をモニタリングするための開度発信器(図示を省略)と、を備える。そして、動力用電源と当該モータを接続する電源用コネクタと、制御用電源と電動弁とを接続する制御用コネクタと、開度発信器と電動弁とを接続するための計算機用コネクタと、を備える。
【0026】
図2を用いて更に詳しく説明する。
動力用電源は、交流440ボルトで最大200アンペア、直流だと100ボルトで最大29.6アンペアが出力可能である。漏電遮断機を含んでおり、ランプ表示によって各種の運転状態を表示する。
制御用電源は、交流、直流とも110ボルトであり、漏電遮断機を含んでおり、ランプ表示によって各種の運転状態を表示する。
【0027】
開度発信器は、交流110ボルトのみであり、漏電遮断機を含んでおり、ランプ表示によって各種の運転状態を表示する。また、0から1000オームの可変抵抗器を備える。その可変抵抗器によって、動力用電源および制御用電源による入力を得た電動弁がどのような出力となるか(正常か否か)、モニタリングすることができる。
【0028】
制御回路は、起動から停止までの作動時間を154秒としている。たとえば、起動は150.00アンペア、定格が28.00アンペア、設定は151.00アンペアである。
また、その制御回路には、本電源箱を操作する操作者のためのスイッチ(通称「ペンダントスイッチ」)が接続されている。
【0029】
図3に示すように、本実施形態に係る電動弁試験用電源箱には可動用ローラが備えられており、プラント内を移動させることができる。そして、前述したような構成を備えるので、プラント内の現場のみで、試験対象となる電動弁の調整試験までを終えることができる。
【0030】
図4を用いて、点検作業の日数および工程について説明する。
この点検作業は、治具工具類の準備、足場の組み立て、電源切断といった準備工程が1日目である。その後、二日目にかけて、結線部の脱線、保温取り外し、駆動部取り外し、弁分解といった分解工程を行う。
続いて三日目に、弁手入れ、弁シート部の摺り合わせおよび機械加工といった点検手入れ工程、保温取り付け、駆動部の取り付け、弁の組み立て、脱線した部分の結線といった組み立て工程を行う。更に、条件調査および条件作成の後に電源投入をすることによる条件作成調査工程は、前述した本実施形態に係る電動弁試験用電源箱にて、程なく終えることができる。
すなわち、当該電源箱によって電動弁の動力および制御電源等が得られるため、条件作成及び条件の解除作業が無くなる。
【0031】
三日目から四日目にかけては、駆動部試験、ストローク調整、リミットスイッチ(LS)調整といった調整試験工程を行う。試験調整作業のための電源「投入・断」は電源箱によって行えるので、点検対象となっている電動弁が含まれるユニットの起動時のみの電源の「投入」だけでよい。すなわち、中央操作室での作業が簡略化される。
こうしたことにより、条件作成調査工程が極めて短縮されるので、四日目は約半日で終了する。すなわち、約半日分の時間節約が可能となる。
【0032】
ユニット定検工程および電動弁の種類に関わらず一連の作業(電動弁の分解から試験調整作業まで)ができるため、1台当たりの電動弁分解点検調整作業時間が短時間で一定となる。したがって、点検の予定も立て易くなる。
たとえば、ある発電プラントにおいて、電動弁の点検台数は初回定検ではボイラが約100台(揚運炭、環境、ボイラ本体設備)、タービンで約70台の電動弁を点検することとなると、延べ21日間が節約できることなった。
【産業上の利用可能性】
【0033】
本願発明は、電源箱の製造業、電源箱の販売業やメンテナンス業、プラントの保守・メンテナンス業、プラントの制御に関わるコンピュータプログラムの製作・メンテナンス業などにおいて、利用可能性がある。
【図面の簡単な説明】
【0034】
【図1】本発明の実施形態を示すブロック図である。
【図2】本発明の実施形態を示すブロック図である。
【図3】本発明の実施形態を示す概念図である。
【図4】本実施形態に基づく工程表である。
【図5】従来の技術に基づく工程表である。
【図6】従来の電動弁の調整試験におけるブロック図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
外部電源から電源を供給されるとともに試験対象となる電動弁に電気を供給する電動弁試験用電源箱であって、
前記電動弁に電気を供給するための動力用電源と、
その動力用電源と前記電動弁とを接続する動力用コネクタと、
前記電動弁を制御するための電気信号を供給する制御用電源と、
その制御用電源と前記電動弁とを接続する制御用コネクタと、
前記電動弁の出力をモニタリングするための開度発信器と、
その開度発信器と前記電動弁とを接続するための計算機用コネクタと、
を備えたことを特徴とする電動弁試験用電源箱。
【請求項2】
前記電源箱を移動可能とするための移動手段を備えたことを特徴とする請求項1に記載の電動弁試験用電源箱。
【請求項3】
発電プラントにおける点検対象である電動弁に対して、電気を供給する電動弁試験用電源箱を用いて点検する電動弁の点検方法であって、
その電動弁試験用電源箱は、 前記電動弁に電気を供給するための動力用電源と、 その動力用電源と前記電動弁とを接続する動力用コネクタと、 前記電動弁を制御するための電気信号を供給する制御用電源と、 その制御用電源と前記電動弁とを接続する制御用コネクタと、 前記電動弁の出力をモニタリングするための開度発信器と、 その開度発信器と前記電動弁とを接続するための計算機用コネクタと、を備え、
前記動力用コネクタ、前記制御用コネクタおよび前記計算機用コネクタを点検対象である電動弁に接続するコネクタ接続工程と、
前記動力用電源から電源を供給する動力供給工程と、
前記制御用電源から制御用の電気信号を供給する制御信号供給工程と、
前記開度発信器にて前記電動弁の出力をモニタリングさせるモニタリング工程とを含むこととした電動弁の点検方法。
【請求項4】
前記電動弁試験用電源箱には、当該電源箱を移動可能とするための移動手段を備え、
前記コネクタ接続工程の前には、前記移動手段を用いて当該電源箱を移動させる準備移動工程と、
前記モニタリング工程の後には、前記移動手段を用いて当該電源箱を移動させる終了後移動工程とを備えたことを特徴とする請求項3に記載の電動弁の点検方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2008−203136(P2008−203136A)
【公開日】平成20年9月4日(2008.9.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−40859(P2007−40859)
【出願日】平成19年2月21日(2007.2.21)
【出願人】(000003687)東京電力株式会社 (2,580)
【Fターム(参考)】