説明

電動機用絶縁シートおよびその製造方法

【課題】安価で熱的な特性と耐久性とを両立し、電動機のさらなる小型化および性能の向上に寄与する電動機用絶縁シートおよびその製造方法を提供する。
【解決手段】スロット絶縁シート12を形成する電動機用絶縁シートは、アラミド紙とPPSフィルムとが接着剤を用いることなく直接的に加圧積層されている。すなわち、アラミド紙とPPSフィルムとの間には、接着剤層が介在しない。PPSフィルムは、ポリイミドフィルムに比較して安価であるとともに、例えば放熱性などの熱的な特性も高く、熱に対する耐久性も高い。その結果、長期間高温に晒されても、高い強度を維持する。また、接着剤層が介在することなくアラミド紙とPPSフィルムとが直接的に積層されているため、接着剤層に相当する厚さが低減され、薄膜化が図られる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えばモータや発電機などの電動機用絶縁シートに関し、特に機械特性、耐熱性、電気絶縁性、耐薬品性に優れる電動機用絶縁シートおよびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、ハイブリッド自動車や電気自動車などの普及にともない、小型かつ高出力の電動機の開発が進んでいる。このようなハイブリッド自動車や電気自動車に用いられる電動機は、コイルとこのコイルを巻くコアとの間を絶縁シートによって絶縁している。電動機に用いられる絶縁シーとして、例えばアラミド紙と称される耐熱性合成絶縁紙が用いられている。具体的には、例えば米国デュポン(Du Pont)社の耐熱性、機械的特性、電気絶縁特性に優れた厚さ2〜20ミル(mil)の芳香族系ポリアミド紙(商品名:ノーメックス(Nomex:登録商標)#410、ノーメックス#411)などが知られている。このアラミド紙は、I.E.C.規格85(1984)の耐熱区分においてH種(180℃)の高耐熱性が要求される変圧器、モータ、発電機の絶縁材料として使用されている。
【0003】
一方、安価なポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレートなどのポリエステル系フィルム(以下PET系フィルム)は、アラミド紙よりも耐熱性が劣りI.E.C.規格85(1984)の耐熱区分はE種(120℃)である。そのため、これらPET系フィルムは、ハイブリッド自動車や電気自動車の電動機用に不適当である。
また、H種ほどの耐熱性を必要としないF種(155℃)用の絶縁材料として、従来から次に示す(A)〜(C)のものが提案されている。
(A)アラミド紙の耐熱性および耐酸化性の特長とPET系フィルムの電気絶縁性を活かし、それら両者を接着剤で貼合せた多層構造のもの。
(B)アラミド紙とPET系フィルムとを高い温度、圧力で熱接着積層一体化したもの(例えば特許文献1参照)。このものは、m−アラミド紙と二軸延伸PETフィルムを重ね合わせ、温度220〜250℃、線圧50kg/cm以上の条件で加圧・加熱し、熱接着により積層一体化したアラミド積層体である。
(C)アラミド繊維とアラミドパルプからなるアラミド紙層(A層)の表面にPETを溶着または融点以上で含浸させた層とPETフィルムを重ね合わせたあと、ロール温度220〜250℃で、圧力50kg/cm以上でPET間を溶着させ、さらに100℃/分以上の降温速度で急冷して得られる積層体(例えば特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平7−32549号公報
【特許文献2】特開平7−299891号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記(A)のアラミド紙とPET系フィルムとを接着剤により貼合せたものでは、接着剤が比較的硬いため、元のアラミド紙およびPET系フィルムの優れた可撓性が損なわれてしまい、折曲げ加工等の加工性に劣る欠点がある。また、油入機器に適用した際に、油の中に接着剤成分が溶け出すおそれがあり、用途が制限されてしまう不具合もある。さらに、接着剤の層は、数μから数十μm程度の厚さを有するため、シートの厚みが増加し、電動機の小型化が妨げられる。
【0006】
これに対し、上記(B)、(C)のものは、接着剤を用いずに、アラミド紙とPET系フィルムとを熱溶着によって接合するものであり、接着剤を用いる欠点を解消するものである。ところが、上記(B)のものでは、熱溶着の温度がPETの融点(約260℃)に近いため、PETフィルムの寸法変化が大きくなる。その結果、貼合せ品には、反り、収縮、しわが生じたり、さらには、PETが一部結晶化したりするなどの問題が生じやすく、安定した品質の製品を得るのが困難であるのが実情である。上記(C)のものにおいても、熱溶着の温度が同様に高温である。そのため、アラミド紙に含浸されたPETの一部が結晶化し、優れた可撓性が損なわれる。
【0007】
また、I.E.C.規格の耐熱区分がH種(180℃)を満たす材料としてアラミド紙とポリイミドフィルムを特殊な接着剤で積層したものが提案されている。しかしながら、ポリイミドフィルムは非常に高価であるとともに、結果物として得られるアラミド紙とポリイミドフィルムとの積層体も高価なものとなる。そのため、このアラミド紙とポリイミドフィルムとの積層体は、普及用のハイブリッド自動車および電気自動車への適用が進んでいない。
これらの結果、価格の上昇を招くことなく、例えば耐熱性および放熱性などの熱的な特性と、耐久性との両立は困難となる。また、厚みの増加や可撓性の低下、ならびに熱的な特性を低下は、電動機における巻線の巻数の増大を妨げ、電動機のさらなる性能向上を妨げるという問題がある。
【0008】
そこで、本発明は、安価で熱的な特性と耐久性とを両立し、電動機のさらなる小型化および性能の向上に寄与する電動機用絶縁シートおよびその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の電動機用絶縁シートは、電動機のコアと巻線との間を絶縁する電動機用絶縁シートであって、アラミドフィブリッドおよび短繊維を主体として紙状に形成されているアラミド紙と、シート状に形成され、前記アラミド紙と直接的に加圧積層されている芳香族ポリマーフィルムと、を備えることを特徴とする。
【0010】
上記の構成により、本発明の電動機用絶縁シートは、アラミド紙と芳香族ポリマーフィルムとが、接着剤を用いることなく直接的に加圧積層されている。すなわち、アラミド紙と芳香族ポリマーフィルムとの間には、接着剤層が介在しない。芳香族ポリマーフィルムは、ポリイミドフィルムに比較して安価であるとともに、例えば放熱性などの熱的な特性も高く、熱に対する耐久性も高い。その結果、長期間高温に晒されても、高い強度を維持する。また、接着剤層が介在することなくアラミド紙と芳香族ポリマーフィルムとが直接的に積層されているため、接着剤層に相当する厚さが低減される。そのため、さらなる薄膜化が図られる。その結果、電動機の大型化を招くことなく巻線の巻数の増加が達成される。さらに、薄膜化が図られるため、熱伝導度が高くなり、巻線の放熱に寄与する。したがって、安価で熱的な特性と耐久性とを両立しつつ、電動機のさらなる小型化および性能の向上に寄与することができる。
【0011】
また、本発明の電動機用絶縁シートは、芳香族ポリマーフィルムの両面にアラミド紙が積層されている。アラミド紙と芳香族ポリマーフィルムとは、直接的に積層されている。そのため、芳香族ポリマーフィルムの両面にアラミド紙を積層しても、全体的な厚さの増加が抑えられる。したがって、電動機のさらなる小型化および性能の向上に寄与することができる。
【0012】
さらに、本発明の電動機用絶縁シートは、芳香族ポリマーフィルムとしてポリフェニレンサルファイド(PPS:Poly Phenylene Sulfide)フィルムを用いている。PPSは、耐熱性が高く、かつ機械的強度も高い。そのため、厚さを低減しても高い強度が維持される。したがって、耐久性を高めることができるとともに、電動機のさらなる小型化および性能の向上に寄与することができる。
【0013】
本発明の電動機用絶縁シートの製造方法は、アラミドフィブリッドおよび短繊維を主体として紙状に形成されているアラミド紙、ならびにシート状に形成されている芳香族ポリマーフィルムとを準備する工程と、前記アラミド紙または前記芳香族ポリマーフィルムの少なくともいずれか一方の表面にプラズマ処理を施す工程と、プラズマ処理が施された面を接合面として、前記アラミド紙と前記芳香族ポリマーフィルムと加圧して接合する工程と、を含むことを特徴とする。
【0014】
本発明の電動機用絶縁シートの製造方法では、アラミド紙または芳香族ポリマーフィルムの少なくともいずれか一方の表面にプラズマ処理を施している。そして、プラズマ処理を施した面を接合面としてアラミド紙と芳香族ポリマーフィルムとを加圧して接合している。このように、アラミド紙または芳香族ポリマーフィルムの表面にプラズマ処理を施すことにより、接着剤を用いることなく両者を接合することができる。その結果、接着剤層が不要となり、厚さの低減が図られる。したがって、安価で熱的な特性と耐久性とを両立しつつ、電動機のさらなる小型化および性能の向上に寄与することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明の一実施例による電動機用絶縁シートが適用される電動機のコアを示す概略斜視図
【図2】本発明の一実施例による電動機用絶縁シートからなるスロット絶縁シートを示す概略斜視図
【図3】本発明の一実施例による電動機用絶縁シートからなるクサビを示す概略斜視図
【図4】本発明の一実施例による電動機用絶縁シートからなる相間シートを示す概略斜視図
【図5】低温プラズマ処理機の構成を概略的に示す縦断面図
【図6】本発明の一実施例による電動機用絶縁シートの接合温度および接合圧力と接合強度との関係を示す図
【図7】本発明の一実施例による電動機用絶縁シートと市販の比較例との耐熱性を比較した実験結果を示す図
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の実施の形態について、図面に基づいて説明する。
本実施例の電動機用絶縁シートは、アラミド−芳香族ポリマーフィルム積層体である。本実施例のアラミド−芳香族ポリマーフィルム積層体は、アラミド紙と芳香族ポリマーフィルムとを接着剤を介さずに直接熱接合している。
【0017】
本実施例の電動機用絶縁シートは、図1に示すように例えばハイブリッド自動車や電気自動車に用いられる電動機のコア10と巻線とを絶縁するために用いられる。電動機のコア10は、内周側に径方向の凹凸を有する形状であり、この内周側に突出した複数の突出部11にそれぞれ巻線が巻かれる。この巻線とコア10の突出部11との間を絶縁するために、図2に示すような電動機用絶縁シートで形成したスロット絶縁シート12がコア10の突出部11と巻線との間に挿入される。
【0018】
具体的には、図1に示すコア10の突出部11の間にスロット絶縁シート12が挿入される。そして、コア10にスロット絶縁シート12を挿入した後、突出部11との間にスロット絶縁シート12を挟み込んだ状態で巻線が巻かれる。また、電動機のコア10には、図3に示すクサビ13や、図4に示す相間シート14なども挿入または設置される。このようなスロット絶縁シート12、クサビ13および相間シート14は、いずれも本実施例の電動機用絶縁シートで形成される。そのため、スロット絶縁シート12、クサビ13および相間シート14を形成する電動機用絶縁シートには、当然高い絶縁性が要求されるだけでなく、高い熱的な耐久性、および巻線で発生する熱をコア10へ逃がす伝熱性が要求される。また、スロット絶縁シート12は、コア10と巻線との間に挟み込まれるため、できるだけ薄いことが好ましい。スロット絶縁シート12が薄くなることにより、コア10の周方向において隣り合う突出部11間の間隔、すなわち巻線を巻くことができる空間は増大する。その結果、コア10の突出部11間の距離すなわち突出部11間の空間が同一の容積であれば巻線の巻数を増すことができ、巻線の巻数が同一であればコア10の突出部11間の容積を減少させることができる。クサビ13および相間シート14についても同様である。その結果、薄膜化が図られた電動機用絶縁シートは、電動機の小型化と高出力との両立に寄与する。
【0019】
以下、電動機用絶縁シートについて詳細に説明する。
アラミド紙は、ポリ−m−フェニレンイソフタルアミド(m−アラミド)からなるフィブリッドおよび短繊維を主体として紙状に形成されている。このアラミド紙は、紙表面が低温プラズマ処理されていることにより、芳香族ポリマーフィルムとの間で直接的に熱接合可能な性質が付与されている。
【0020】
詳細には、本実施例に用いるアラミド紙として、市販の厚さ5mil(「1mil」は1/1000インチ)のアラミド紙を用いている。このアラミド紙は、例えばデュポン・帝人アドバンスドペーパー株式会社より、「ノーメックス」という商品名で市販されている。また、本実施例に用いる芳香族ポリマーフィルムとして、市販の厚さ50μmのPPSフィルムを用いている。このPPSフィルムは、例えば東レ株式会社より、「トレリナ」という商品名で市販されている。
アラミド紙は、PPSフィルムとの接合面に対し、図5に示す内部電極方式の低温プラズマ処理機1により、処理強度などの条件を変えて低温プラズマ処理を施したものである。この場合、低温プラズマ処理機1による処理強度は、30W・min/m〜1500W・min/mの範囲である。本実施例の場合、アラミド紙は接合面側の原子数の比X(O/C)が0.31である。
【0021】
図5に示す低温プラズマ処理機1は、密閉可能な処理室2を備えている。この処理室2は、内部に処理用ローラ3を収容するとともに、この処理用ローラ3の周囲に僅かな隙間を空けて囲む電極4を有している。電極4は高周波電源5に接続し、処理用ローラ3は接地されている。処理室2は、内部が真空ポンプに接続されたバルブ6の開放によって減圧されるとともに、ガス供給源に接続されたバルブ7の開放によって処理部分すなわち放電部分に処理用のガスが供給される。ここで、処理用のガスとしては、例えばアルゴンや窒素が用いられる。処理室2は、内部の圧力を計測する圧力計8も設けられている。
【0022】
ロール状に巻かれた処理前のアラミド紙Fは、供給部9から引き出され、処理室2内の複数個の案内ローラ10により案内されながら処理用ローラ3に一周程度巻き付けられる。これにより、アラミド紙Fは、処理用ローラ3と電極4との間の処理部分を通過する。アラミド紙Fは、この処理部分でプラズマ処理が行われた後、案内ローラ10により案内されながら巻取部11において再び巻取られる。低温プラズマ処理は、アラミド紙Fの接合面に対して行なわれる。すなわち、アラミド紙Fの両面にPPSフィルムを接合する場合、アラミド紙Fは両面にプラズマ処理が施される。また、アラミド紙Fの片面にPPSフィルムを接合する場合、アラミド紙FはPPSが接合される面側にのみプラズマ処理が施される。
【0023】
アラミド紙に接合されるPPSフィルムも、表面に接合性改良の処理が施されている。PPSフィルムも、上記と同様に内部電極方式の低温プラズマ処理機1を用いて低温プラズマ処理が施される。これらプラズマ処理したアラミド紙とPPSフィルムとは、直接熱接合され、電動機用絶縁シートして形成される。熱接合するにあたっては、熱プレスを用い、アラミド紙とPPS樹脂フィルムとを重ね合せたものを、例えば加熱した熱板間に挟み、10分間加圧(圧力20kg/cm)する。その後、放圧して接合した電動機用絶縁シートを取り出して室温まで自然冷却する。
【0024】
以下、本実施例による電動機用絶縁シートの接合温度および接合圧力と接合強度との関係を図6に基づいて説明する。
図6の場合、記号「◎」は接合強度が極めて高い「最適」を示し、記号「○」は接合強度が高い「適」を示し、記号「△」は接合強度が「○:適」より低い「可」を示し、記号「×」は接合強度が不十分な「不適」を示している。製品としては、「○:適」以上が好ましい。この図6では、上記のプラズマ処理を施したアラミド紙およびPPSフィルムを熱接合する際の温度と圧力との関係を検証している。図6からは、接合強度は、接合温度が高くなるほど、接合圧力が高くなるほど向上することが分かる。このように、接合温度および接合圧力を適切に選択することにより、電動機用絶縁シートは十分な接合強度を得ることができる。
【0025】
次に、本実施例による電動機用絶縁シートと市販の比較例とを耐熱性において比較した実験結果を図7に示す。
実施例および比較例は、いずれもPPSフィルムの両面にアラミド紙を接合している。ここで、比較例は、実施例と異なり、アラミド紙とPPSフィルムとを接着剤を用いて接合した市販の積層体である。すなわち、比較例の場合、アラミド紙とPPSフィルムとの間には接着剤層が介在している。アラミド紙とPPSフィルムとを高い接着力で接合し、かつ耐熱性の高い接着剤は、未だ開発されていない。そのため、市販のアラミド紙とPPSフィルムとの積層体は、本実施例と比較して熱的な特性および耐久性が低く、厚さも大きくなる。
【0026】
図7は、本実施例による電動機用絶縁シートおよび比較例の積層体を180℃に設定された加熱オーブンに入れ、一定時間経過した後の引っ張り強度の保持率を測定した結果を示している。ここで、引っ張り強度の保持率とは、オーブンに入れる前の初期状態の引っ張り強度を「100%」として、一定時間経過後の引っ張り強度を意味する。図7において、記号「◎」は引っ張り強度の保持率が「100%」であることを示し、記号「○」は引っ張り強度の保持率が「80%以上」であることを示し、記号「△」は引っ張り強度の保持率が「50%以上」であることを示し、記号「×」は引っ張り強度の保持率が「50%未満」であることを示している。また、図7において示している数字は、引っ張り強度の保持率(%)を示している。
【0027】
図7から分かるように、本実施例の電動機用絶縁シートは、180℃に曝露された時間が2000時間を経過しても引っ張り強度の保持率100%を維持している。すなわち、本実施例の電動機用絶縁シートは、180℃の雰囲気で2000時間を経過しても十分な引っ張り強度を維持していることになる。一方、比較例の積層体の場合、180℃の雰囲気への曝露時間が長くなるほど、引っ張り強度の保持率が低下している。具体的には、比較例の場合、250時間を経過すると引っ張り強度の保持率は85%まで低下し、2000時間を経過すると引っ張り強度の保持率は30%まで低下する。
【0028】
ハイブリッド自動車および電気自動車の場合、180℃雰囲気への曝露状態で2000時間以上、引っ張り強度の保持率を維持することが要求されている。この要求が満たされない場合、電動機の長期間の使用によって絶縁破壊を招いたり、電動機の性能の低下を招くおそれがある。
【0029】
図7に示すように、本実施例の電動機用絶縁シートは、2000時間を経過しても十分な引っ張り強度を維持している。このように、本実施例の電動機用絶縁シートは、ハイブリッド自動車および電気自動車の電動機における要求性能を満たしている。これに対し、比較例の積層体は、劣化の進行が明らかであり、2000時間が経過すると引っ張り強度の保持率が50%以下となる。したがって、比較例の積層体は、ハイブリッド自動車および電気自動車への電動機に対して実用的でない。
【0030】
以上説明したように、本実施例の電動機用絶縁シートは、ハイブリッド自動車および電気自動車の電動機へ適用する絶縁シートとして十分な性能を有している。本実施例の電動機用絶縁シートは、アラミド紙とPPSフィルムとが、接着剤を用いることなく直接的に加圧積層されている。すなわち、アラミド紙とPPSフィルムとの間には、接着剤層が介在しない。PPSフィルムは、ポリイミドフィルムに比較して安価であるとともに、例えば放熱性などの熱的な特性も高く、熱に対する耐久性も高い。その結果、長期間高温に晒されても、高い強度を維持する。また、接着剤層が介在することなくアラミド紙とPPSフィルムとが直接的に積層されているため、接着剤層に相当する厚さが低減される。そのため、さらなる薄膜化が図られる。その結果、電動機の大型化を招くことなく巻線の巻数の増加が達成される。さらに、薄膜化が図られるため、熱伝導度が高くなり、巻線の放熱に寄与する。したがって、安価で熱的な特性と耐久性とを両立しつつ、電動機のさらなる小型化および性能の向上に寄与することができる。
【0031】
また、電動機用絶縁シートは、PPSの両面にアラミド紙が積層されている。アラミド紙とPPSフィルムとは、直接的に積層されている。そのため、芳香族ポリマーフィルムの両面にアラミド紙を積層しても、全体的な厚さの増加が抑えられる。したがって、絶縁性を維持しつつ、電動機のさらなる小型化および性能の向上に寄与することができる。
さらに、電動機用絶縁シートは、芳香族ポリマーフィルムとしてPPSフィルムを用いている。PPSは、耐熱性が高く、かつ機械的強度も高い。そのため、厚さを低減しても高い強度が維持される。したがって、耐久性を高めることができるとともに、電動機のさらなる小型化および性能の向上に寄与することができる。
【0032】
電動機用絶縁シートは、アラミド紙またはPPSフィルムの少なくともいずれか一方の表面にプラズマ処理を施している。そして、プラズマ処理を施した面を接合面としてアラミド紙とPPSフィルムとを加圧して接合している。このように、アラミド紙またはPPSフィルムの表面にプラズマ処理を施すことにより、接着剤を用いることなく両者を接合することができる。その結果、接着剤層が不要となり、厚さの低減が図られる。したがって、安価で熱的な特性と耐久性とを両立しつつ、電動機のさらなる小型化および性能の向上に寄与することができる。
【0033】
以上説明した本発明の実施例では、芳香族ポリマーフィルムとしてPPSフィルムを用いる例を説明した。しかし、芳香族ポリマーは、PPSだけでなく例えばポリエーテルエーテルケトン、ポリアリレート、ポリエーテルイミド、ポリアミドイミド、あるいは芳香族ポリイミドなど組成中に芳香族基を含むポリマーであり、かつ機械的特性および熱的な特性を満たす化合物であればPPSと同様に電動機用絶縁シートに適用することができる。
【符号の説明】
【0034】
図面中、1は低温プラズマ処理機、2は処理室、3は処理用ローラ、4は電極、Fはアラミド紙を示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電動機のコアと巻線との間を絶縁する電動機用絶縁シートであって、
アラミドフィブリッドおよび短繊維を主体として紙状に形成されているアラミド紙と、
シート状に形成され、前記アラミド紙と直接的に加圧積層されている芳香族ポリマーフィルムと、
を備えることを特徴とする電動機用絶縁シート。
【請求項2】
前記芳香族ポリマーフィルムの両面に前記アラミド紙が積層されていることを特徴とする請求項1記載の電動機用絶縁シート。
【請求項3】
前記芳香族ポリマーフィルムは、ポリフェニレンサルファイドフィルムからなることを特徴とする請求項1または2記載の電動機用絶縁シート。
【請求項4】
アラミドフィブリッドおよび短繊維を主体として紙状に形成されているアラミド紙、ならびにシート状に形成されている芳香族ポリマーフィルムとを準備する工程と、
前記アラミド紙または前記芳香族ポリマーフィルムの少なくともいずれか一方の表面にプラズマ処理を施す工程と、
プラズマ処理が施された面を接合面として、前記アラミド紙と前記芳香族ポリマーフィルムと加圧して接合する工程と、
を含むことを特徴とする電動機用絶縁シートの製造方法。
【請求項5】
前記芳香族ポリマーフィルムは、ポリフェニレンサルファイドからなることを特徴とする請求項4記載の電動機用絶縁シートの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2011−4565(P2011−4565A)
【公開日】平成23年1月6日(2011.1.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−147582(P2009−147582)
【出願日】平成21年6月22日(2009.6.22)
【出願人】(592166137)河村産業株式会社 (31)
【Fターム(参考)】