説明

電動補助自転車用リアハブ内装変速装置

【課題】内装変速機を備えたセンタモータ方式の電動補助自転車において、装置を複雑化することなく回生充電を可能とする。
【解決手段】駆動輪のハブ1に遊星歯車機構からなる変速機構3と逆入力用ワンウェイクラッチ2とクラッチ切替装置9とを備える。変速機構3は少なくとも一つの太陽歯車を有し、駆動力をスプロケット4を通じて駆動輪に伝達する。また、駆動力に対して、太陽歯車を車軸5回りに回転可能又は回転不能とに切り替えて変速を行う変速制御機構10を備え、逆入力用ワンウェイクラッチ2は少なくとも一つの太陽歯車と車軸5との間に設けられ、クラッチ切替装置9によって逆入力に対して太陽歯車が車軸5回りに回転可能又は回転不能とに切り替えられる。クラッチ切替装置9は車軸5内を通る切替軸9aの一端が、車軸5から外部に引き出されて外部から軸方向移動の操作が可能となっている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、電動モータにより人力駆動系に補助力を付加させる電動補助自転車に用いる、電動補助自転車用リアハブ内装変速装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
電動モータにより人力駆動系に補助力を付加させる電動補助自転車には、電動補助力を与えるためのモータ用電源としてバッテリが搭載される。このバッテリは、1回の充電で長時間走行できることが望ましいことから、自走中のエネルギーを有効に利用し、その自走中の回生発電により、バッテリを充電する機能を備えた電動補助自転車が開発されている。
【0003】
その回生発電によるバッテリの充電装置として、例えば、特許文献1に、ブレーキレバーの操作を検出して回生装置に回生作動を指令する回生制御装置の技術が開示されている(例えば、特許文献1参照)。
【0004】
この種の電力回生機能を搭載する場合、例えば、特許文献2に示すように、車軸周辺にモータ及び変速機を設けた電動補助自転車(ハブモータ方式)の場合は、車軸とモータのロータを直結とすることで、電力回生は比較的容易に実現できる(例えば、特許文献2参照)。
しかし、このハブモータ方式の場合、モータから二次電池までの距離が遠くなりがちであり、その二次電池までの配線の取り回しが煩雑になる傾向がある。また、モータをフロントの車軸に配置すると操作性が悪化し、リア側に配置すると変速機との両立が困難になるという問題もある。
【0005】
このため、電力回生機能を搭載する場合、操作性と構造の簡素化を求めるならば、例えば、特許文献3のように、クランク軸及びその軸受等を含む人力駆動系と、モータによる補助動力をクランク軸に合力させる駆動系とを単一のハウジングに収容した駆動装置、いわゆるセンタモータユニットを備えた構造(センタモータ方式)とするのが有利である(例えば、特許文献3参照)。
【0006】
センタモータ方式で、電力回生機能を搭載した電動補助自転車として、例えば、特許文献4に示すものがある。
この電動補助自転車では、モータ出力軸と駆動スプロケットとの間に第一ワンウェイクラッチを設け、踏力が入力されるペダルクランク軸と駆動スプロケットとの間に第二のワンウェイクラッチを設け、さらにブレーキ操作に応じて第一ワンウェイクラッチをロックする直結手段を設けることで、制動時の電力回生を実現している。なお、リアハブとリアスプロケットとは、回生時にタイヤからの逆入力トルクをモータに伝えることができるように直結されている。
【0007】
また、同じく、電力回生機能を搭載した電動補助自転車として、例えば、特許文献5に示すものがある。
この電動補助自転車では、センタモータユニット内で、モータの出力軸にブレーキ操作に連動してロック方向を切り替えることが出来るツーウェイクラッチを設け、制動時の電力回生を実現している。
【0008】
すなわち、モータアシスト時には、ツーウェイクラッチを正回転方向でロックさせることにより、モータの出力を車軸に伝達することができ、モータアシストが可能となる。また、乗員のブレーキ操作に連動してツーウェイクラッチのロック方向を切替え、ツーウェイクラッチを逆回転方向でロックさせれば、車軸側からの逆入力トルク(正回転方向)をモータに伝達することができ、これによって回生発電およびブレーキアシストが可能となる。この構成では、回生時に車軸側からの逆入力トルクをモータ側に伝達させる必要があるため、リアハブとリアスプロケットとは直結としている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開平8−140212号公報
【特許文献2】特開2003−166563号公報
【特許文献3】特開平10−250673号公報
【特許文献4】特開2001−213383号公報
【特許文献5】特開2004−268843号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
前述のように、電動補助自転車は、モータを、クランク軸周辺に設けたセンタモータ方式と、モータを、フロントハブ若しくはリアハブに内装したハブモータ方式とに大別できる。
【0011】
ハブモータ方式では、モータの他、減速機も併せてリアハブ内に組み込む必要があるが、スペース的に高減速比とすることが困難で、大きなトルクを得ることが出来ないという問題がある。また、重量物が、自転車の重心から離れた位置に配置されることで、操縦性が悪く、モータと電池が離れることで配線の取り回しも複雑になるという問題がある。さらには、タイヤからの衝撃が直接減速機及びモータに伝わるため、故障が起きやすいという欠点がある。そのため、現在ではセンタモータ方式が主流となっている。
【0012】
センタモータ方式の駆動系において、電力回生機能を搭載する場合、車輪からの逆入力トルクをモータ軸に伝えるため、上記特許文献4や特許文献5では、リアハブとリアスプロケットは直結されている。
【0013】
この点、一般的な自転車の変速機構は、クランク軸又はリア車軸の何れか一方、もしくは両方の同軸上に多段のスプロケットを設け、ディレイラーによってチェーンをスプロッケット間で移動させることによって変速する方式(外装変速機)とリアハブの内部に設けた歯車を掛けかえることによって変速する方式(内装変速機)がある。内装変速機内には通常ワンウェイクラッチが設けられており、タイヤからの逆入力はリアハブからリアスプロケットに伝わらない。
外装変速機は構造が簡単で軽量であるが、スプロケットやチェーンが摩耗する原因になり、チェーン外れの原因にもなる。一方、内装変速機は防塵、防水性があり、メンテナンスフリーであるためシティサイクルに使われることが多い。現在のところ、電動アシスト自転車はシティサイクル自転車を中心に展開しており、その殆どが内装変速機を採用している。
【0014】
しかし、このように、内装変速機を採用すると、そのままでは、車輪からの逆入力はリアハブからリアスプロケットに伝わらない。このため、車輪からの逆入力によりセンタモータを回転、回生することができない。
逆入力に対応するため、例えば、車軸からクランク軸、及び車軸からモータ軸をそれぞれ別々の動力伝達要素で結合することも可能であるが、2本の伝達要素を用いることはレイアウト的にもコスト的にも商品価値の大幅な低下を招く。
【0015】
そこで、この発明は、内装変速機を備えたセンタモータ方式の電動補助自転車において、できる限り装置を複雑化することなく、回生充電を可能とすることを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0016】
上記の課題を解決するために、この発明は、前輪と後輪とを結ぶフレームに二次電池及び補助駆動用のモータを取り付け、クランク軸から伝達された踏力又は前記モータの出力による駆動力を駆動輪に伝達可能とし、前進非駆動時には、前記駆動輪から前記モータの出力軸への逆入力により生じた回生電力を前記二次電池に還元する回生機構を備えた電動補助自転車に用いる電動補助自転車用リアハブ内装変速装置において、前記駆動輪に設けたハブに変速機構と逆入力用ワンウェイクラッチとクラッチ切替装置とを備え、前記変速機構は遊星歯車機構によって構成されて、少なくとも一つの太陽歯車を有し、前記踏力又は前記モータの出力による駆動力をスプロケットを通じて前記駆動輪に伝達する機能を有して、そのスプロケットからの駆動力に対して、前記太陽歯車を車軸回りに回転可能又は回転不能とに切り替えて変速を行う変速制御機構を備えており、前記逆入力用ワンウェイクラッチは少なくとも一つの太陽歯車と車軸との間に設けられて、前記逆入力用ワンウェイクラッチはラチェットクラッチによって構成され、前記クラッチ切替装置によって前記逆入力用ワンウェイクラッチは前記駆動輪からの逆入力に対して、前記太陽歯車が車軸回りに回転可能又は回転不能とに切り替えられる機能を有しており、前記クラッチ切替装置は前記車軸内を通る切替軸を有して、その切替軸は前記車軸内を通ってその一端が前記車軸から外部に引き出されて外部から軸方向移動の操作が可能となっており、駆動時には、前記スプロケットからの駆動力は前記変速機構を通じて駆動輪に伝達され、前進非駆動時には、前記クラッチ切替装置の切替軸の操作により前記逆入力用ワンウェイクラッチにおける前記太陽歯車と車軸とを逆入力に対して回転不能とすることによって、前記駆動輪からの逆入力トルクを前記スプロケットに伝達できる機能を有することを特徴とする電動補助自転車用リアハブ内装変速装置を採用した。
【0017】
上記構成により、駆動前進時には、変速機構を介して駆動輪のスプロケットからハブに駆動力が伝達され、自転車は前進する。前進非駆動時には、逆入力用ワンウェイクラッチを介して、駆動輪のハブからの逆入力がスプロケットに伝達され、さらに、スプロケットから動力伝達要素を通してモータ駆動スプロケットにトルクが伝わることで、回生発電が可能となる。なお、駆動力に対しては、逆入力用ワンウェイクラッチは常に空転するため、駆動時において、クラッチ切替装置の状態は限定されない。
このように、ラチェットクラッチからなる逆入力用ワンウェイクラッチ、及びそのラチェットクラッチを切り替える機能を有するクラッチ切替装置を、太陽歯車と車軸との間に配置することで、内装変速機を備えたセンタモータ方式の電動補助自転車に用いられる電動補助自転車用リアハブ内装変速装置において、装置を複雑化することなく、駆動力の伝達と逆入力の伝達とを実現できる。
【0018】
また、前記クラッチ切替装置は、切替軸が車軸内を通って外部に引き出されて、その切替軸を車軸の外部から軸方向へ移動させる操作が可能な構成となっているから、簡素な構成で、前記逆入力用ワンウェイクラッチにおける前記太陽歯車の車軸に対する回転可能又は回転不能を切り替えできる機能を実現できる。
【0019】
この構成において、前記変速機構の遊星歯車機構は、前記車軸の外周に太陽歯車を備え、前記逆入力用ワンウェイクラッチは、前記車軸に取り付けられた逆入力用ワンウェイクラッチ爪を備え、前記太陽歯車の内周にその逆入力用ワンウェイクラッチ爪が係合する逆入力用クラッチカム面が形成されている構成を採用することができる。
【0020】
また、その構成において、前記切替軸の外面に溝部を設け、その溝部の軸方向端部に前記溝部の底から徐々に立ち上がるテーパ部を形成し、前記切替軸の外面上にピンを配置し、前記逆入力用ワンウェイクラッチ爪はラチェット用弾性部材によって前記逆入力用クラッチカム面に係合する方向に付勢されており、前記切替軸を軸方向に移動操作することにより、前記ピンは前記テーパ部を通って前記溝部内に侵入又は前記溝部内から退去することによって前記切替軸の軸方向に垂直な方向に移動し、その移動によって、前記逆入力用ワンウェイクラッチ爪の一端が前記付勢力に抗して押圧されることにより、前記逆入力用ワンウェイクラッチにおける前記太陽歯車の車軸に対する回転可能又は回転不能が切り替えできる構成を採用することができる。
【0021】
この構成によれば、切替軸を軸方向に移動させると、溝部の存在によりピンは軸に垂直な方向に上下移動する。このとき、逆入力用ワンウェイクラッチ爪は弾性部材により係合方向にモーメントが作用しているので、切替軸を操作しピンが溝部に移動すると、クラッチ爪の一端に接しているピンが下がることによって、クラッチ爪の拘束が解除され、クラッチ爪は弾性部材の力により揺動し、逆入力用カム面と噛み合いロックする。また、ピンが溝部からテーパ部を通って切替軸の外面上に戻るとピンが上昇し、逆入力用ワンウェイクラッチ爪を押すことにより、その逆入力用ワンウェイクラッチ爪が揺動し、逆入力用クラッチカム面からはずれてロックが解除されるものである。
【0022】
この構成において、前記切替軸は、切替軸用弾性部材によって、前記車軸の端部から外側に飛び出る方向に付勢されている構成を採用することができる。
【0023】
このように、切替軸を、切替軸用弾性部材によって車軸から飛び出る方向に荷重を負荷しておくことにより、外部操作により切替軸を押し込むことでラチェットクラッチをロックし、外部からの負荷を解除すると、切替軸は弾性部材によって元の位置に戻り、ラチェットクラッチのロックが解除されるようにできる。このとき、弾性部材の弾性力と溝部のテーパ部の角度を適切に設定することで、切替軸を容易に元の位置に戻すことができる。
【0024】
また、これらの各構成において、前記逆入力用ワンウェイクラッチ爪は、前記逆入力用クラッチカム面に係合する状態とその係合が解除された状態との間で揺動できるように、前記車軸の軸方向に向けて配置されたクラッチ爪軸によって前記車軸に支持されている構成を採用することができる。
【0025】
さらに、その逆入力用ワンウェイクラッチ爪は、前記ピンと接触する当接部を有し、その当接部は、前記車軸の軸直交断面において円弧形状となっている構成を採用することができる。逆入力用ワンウェイクラッチ爪のピンへの当接部が円弧状であれば、両者が点接触あるいは線接触することで、押圧力の伝達が確実である。
【0026】
また、その逆入力用ワンウェイクラッチ爪は、前記ピンと接触する当接部と、前記逆入力用クラッチカム面に係合する係合部とを有し、前記クラッチ爪軸から前記当接部までの距離よりも、前記クラッチ爪軸から前記係合部までの距離を長く設定した構成を採用することができる。
【0027】
このように設定すれば、ピンの短いストロークで大きなクラッチ爪の揺動運動を得ることができ、移動もスムーズとなる。なお、このとき、前述のように、ピンと接しているラチェットクラッチの一端を円弧形状とすることで、さらにその効果が高まる。
【0028】
また、前記逆入力用ワンウェイクラッチ爪の外面に拘束部を設け、前記車軸の外面に周方向に伸びる係合溝部を設け、その係合溝部に止め輪を嵌め、その止め輪の内面が前記拘束部に当接することによって、前記逆入力用ワンウェイクラッチ爪の半径方向への移動を拘束した構成を採用することができる。この構成であれば、前記クラッチ爪軸の設置を省略することも可能である。
【0029】
なお、前記ラチェット用弾性部材としては、周知の弾性部材を採用してよいが、例えば、圧縮コイルばね構造、ねじりばね構造を有しているものを採用することができる。
【0030】
また、前述のクラッチ爪軸を備えた構成において、すなわち、前記逆入力用ワンウェイクラッチ爪は、前記逆入力用クラッチカム面に係合する状態とその係合が解除された状態との間で揺動できるように、前記車軸の軸方向に向けて配置されその両端が支持されたクラッチ爪軸によって前記車軸に支持され、前記ラチェット用弾性部材は前記逆入力用ワンウェイクラッチ爪における前記クラッチ爪軸の軸方向中央部に設けられた切欠きに配置されて前記クラッチ爪軸に嵌められている構成を採用することができる。
【0031】
通常、クラッチ(逆入力用ワンウェイクラッチ)がロックした状態の時、太陽歯車にはタイヤからの逆入力トルクが負荷されており、クラッチ爪には垂直荷重が負荷され、クラッチ爪軸にも同様の荷重が負荷される。このとき、特に、クラッチ爪軸の両端が移動支持となっていると、軸に大きな垂直荷重が負荷されると大きな曲げモーメントが作用する。そこで、クラッチ爪の中央部に溝部を設けたことにより、軸の両端の移動支持点と軸に負荷される垂直荷重点が近くなり、曲げモーメントを緩和できるものである。
【0032】
さらに、これらの各構成において、前記変速装置は、前記太陽歯車の内面上に変速用クラッチカム面を備え、前記逆入力用ワンウェイクラッチの逆入力用クラッチカム面の径と、前記変速装置の変速用クラッチカム面の径とが異なる構成を採用することができる。
【0033】
このように、太陽歯車の内面上に設けられた逆入力用クラッチカム面の径と、同じ太陽歯車の内面上に設けられた変速用クラッチカム面の径を変えることによって、鍛造や焼結等で太陽歯車を製造することが容易となる。
【0034】
なお、これらの各構成において、前記クラッチ切替装置による、前記駆動輪からの逆入力に対する前記太陽歯車と車軸の回転可能又は回転不能との切り替えは、ブレーキ操作に連動して行われる構成を採用することができる。
【0035】
また、センタモータユニット内においては、モータ出力軸とモータ駆動スプロケットとを直結することにより、駆動力及び逆入力の両方向のトルクを伝達することができ、また、クランク軸とクランクスプロケット(人力駆動スプロケット)との間には、駆動力のみ伝達し、逆入力時は空回りするセンタワンウェイクラッチを組み込むことにより、逆入力によりペダルが強制的に回転するのを防止することができる。すなわち、駆動輪に対して駆動力を伝達する方向にロックし、駆動輪からの逆入力に対して空転するセンタワンウェイクラッチである。
このセンタワンウェイクラッチとしては、ローラクラッチ、スプラグクラッチ、ラチェットクラッチ等を採用することができる。
【発明の効果】
【0036】
この発明は、回生エネルギーを二次電池に蓄えることができ、回生充電しない場合と比較して充電1回当たりの航続距離を大幅に延ばすことができる。また、現行の回生機能付き電動補助自転車は、フロント若しくはリアハブ内に重量の大きなモータを配置しているが、この発明によれば、モータを重心に近いクランク軸付近に配置することができるため、自転車全体の操縦性がよい。また、変速機構を備えているためにスタート時の踏力が少なくて済み、バランスを崩し難い上にアシストパワーも節約でき、更に航続距離が延びる。変速機構はハブに内装されるため、耐久性が高くメンテナンスフリーとすることができる。さらに、逆入力用ワンウェイクラッチを太陽歯車と車軸との間に設けたことで、フレームに固定されている車軸上に逆入力用ワンウェイクラッチを配置することができる。
すなわち、逆入力用ワンウェイクラッチを太陽歯車と車軸との間に配置することで、内装変速機を備えたセンタモータ方式の電動補助自転車において、装置を複雑化することなく、駆動力の伝達と逆入力の伝達とを実現できる。
【0037】
また、前記クラッチ切替装置は、切替軸が車軸内を通って外部に引き出されて、その切替軸を車軸の外部から軸方向へ移動させる操作が可能な構成となっているから、簡素な構成で、前記逆入力用ワンウェイクラッチにおける前記太陽歯車の車軸に対する回転可能又は回転不能を切り替えできる機能を実現できる。
【図面の簡単な説明】
【0038】
【図1】第一の実施形態の駆動時を示し、(a)は正面図、(b)は(a)のA−A断面図
【図2】第一の実施形態において逆入力トルクが伝達可能な状態を示し、(a)は正面図、(b)は(a)のA−A断面図
【図3】(a)(b)は、第一の実施形態の逆入力ワンウェイクラッチの要部拡大図
【図4】第二の実施形態の駆動時を示し、(a)は正面図、(b)は(a)のA−A断面図
【図5】第二の実施形態の逆入力ワンウェイクラッチの要部拡大図
【図6】第二の実施形態において逆入力トルクが伝達可能な状態を示し、(a)は正面図、(b)は(a)のA−A断面図
【発明を実施するための形態】
【0039】
(第一の実施形態)
この発明の第一の実施形態を、図1乃至図3に基づいて説明する。この実施形態の電動補助自転車は、前輪と後輪間の中央部付近において、その前輪と後輪とを結ぶフレームに二次電池及び補助駆動用のモータ(センタモータユニット)を取り付けたセンタモータ方式である。
【0040】
駆動時、すなわち、ペダルを通じてクランク軸から伝達された踏力、又は前記モータの出力による駆動力が入力された場合は、図示しないセンタモータユニットのクランクスプロケットと、駆動輪である後輪のリアスプロケット(スプロケット)4とを結ぶチェーン等の動力伝達要素を介して、その後輪に駆動力が伝達可能となっている。また、前進非駆動時には、後輪のリアハブ1から前記モータの出力軸への逆入力により生じた回生電力を、前記センタモータユニットの二次電池に還元する回生機構を備えている。
【0041】
リアハブ1は、図1(a)に示すように、後輪の車軸5と同軸に設けたハブケース7内に、変速機構3と、逆入力伝達用の逆入力用ワンウェイクラッチ2を備えている。逆入力用ワンウェイクラッチ2は、図1(b)に示すように、ラチェットクラッチで構成されている。
【0042】
変速機構3は、直結と2段増速の合計3段変速が可能な遊星歯車機構で構成されている。その構成は、前記車軸5の外周に設けられた二つの太陽歯車3a(第一太陽歯車3a−1、第二太陽歯車3a−2と称する)が、それぞれ第二ワンウェイクラッチ3e−1、第三ワンウェイクラッチ3e−2を介してその車軸5に接続可能とされている。
第二ワンウェイクラッチ3e−1、第三ワンウェイクラッチ3e−2は、それぞれ第一太陽歯車3a−1、第二太陽歯車3a−2の内周に設けられた変速用クラッチカム面3fに、変速用クラッチ爪が係合、又は係合解除するよう動作するようになっている。
【0043】
なお、第一太陽歯車3a−1は、車軸5に設けられた係止溝部3gに嵌る止め輪3hによって軸方向移動が規制されている。また、第二太陽歯車3a−2は、車軸5に設けられた係止溝部2eに嵌る止め輪2fによって軸方向移動が規制されている。
【0044】
また、この実施形態では、第二ワンウェイクラッチ3e−1、第三ワンウェイクラッチ3e−2は、ラチェットクラッチを採用しているが、ローラクラッチ、スプラグクラッチ等、他の構成からなるワンウェイクラッチを採用することは差し支えない。
【0045】
また、変速機構3は、前記第一太陽歯車3a−1、第二太陽歯車3a−2に対して噛み合う2段の歯車を有する遊星歯車3b、その遊星歯車3bを保持する前記遊星キャリア3c、及び前記遊星歯車3bに噛み合う外輪歯車と一体であるハブケース7、遊星キャリア3cとハブケース7との間に設けられた第一ワンウェイクラッチ8を備えている。なお、この実施形態では、外輪歯車はハブケース7と一体に形成されているが、外輪歯車とハブケース7とを別体で形成して、それらを共に回転するように噛み合わせる構成も考えられる。
【0046】
この実施形態では、図1(a)に示すように、第一ワンウェイクラッチ8はラチェットクラッチを採用しており、そのラチェットクラッチが備えるクラッチ爪が、遊星キャリア3cとハブケース7とが一方向へ相対回転する際に、その遊星キャリア3cの外周とハブケース7の内周との間に係合し、他方向へ相対回転する際には、その係合が解除されるようになっている。なお、第一ワンウェイクラッチ8として、ローラクラッチ、スプラグクラッチ等、他の構成からなるワンウェイクラッチを採用することは差し支えない。
【0047】
また、遊星キャリア3cと車軸5との間、及びハブケース7と車軸5との間には、それぞれ軸受部11,12が設けられている。この軸受部11,12によって、遊星キャリア3cと車軸5、及びハブケース7と車軸5とは、それぞれ相対回転可能に支持されている。
また、遊星キャリア3cとハブケース7との間にも、軸受部13が設けられている。この軸受部13によって、遊星キャリア3cとハブケース7と車軸5とは相対回転可能に支持されている。
【0048】
前記第一太陽歯車3a−1、第二太陽歯車3a−2は、それぞれに対応する第二ワンウェイクラッチ3e−1,第三ワンウェイクラッチ3e−2により、変速制御機構10を操作することで、いずれかひとつを選択的に車軸5に固定するか、あるいは全てをフリーの状態にすることができる。
【0049】
例えば、前記第一太陽歯車3a−1、第二太陽歯車3a−2を、いずれも車軸5に対してフリーの状態とした場合に、リアスプロケット4から駆動力が伝達されると、遊星歯車機構は駆動力の増速には直接関与せず、遊星キャリア3cから第一ワンウェイクラッチ8を介してハブケース7に直接駆動力が伝達される(直結状態)。この場合、リアスプロケット4からの回転速度は変速されずにハブケース7に伝達される。
【0050】
また、第一太陽歯車3a−1を車軸5に固定した場合、その第一太陽歯車3a−1の歯数をa、外輪歯車の歯数をdとすると、遊星キャリア3cから外輪歯車への増速比は
(a+d)/d
となる。このとき、第二太陽歯車3a−2は空転状態であり、トルク伝達に関与しない。
【0051】
さらに、第二太陽歯車3a−2を車軸5に固定した場合、その第二太陽歯車3a−2の歯数をa、第一太陽歯車3a−1と噛み合う遊星歯車3bの歯数をb、第二太陽歯車3a−2と噛み合う遊星歯車3bの歯数をc、外輪歯車の歯数をdとすると、遊星キャリア3cから外輪歯車への増速比は、
[(a×b)/(c×d)]+1
となる。
このとき、第一太陽歯車3aは空転状態であり、トルク伝達に関与しない。
【0052】
すなわち、前記各太陽歯車3a−1,3a−2は異なる歯数であり、全てフリーとするか、または、いずれか一つを車軸5に対し固定することで、増速比を変化させることができる。
【0053】
また、逆入力用ワンウェイクラッチ2は、前述のように、ラチェットクラッチで構成されており、前記第二太陽歯車3a−2と車軸5との間に設けられている。
【0054】
その逆入力用ワンウェイクラッチ2は、クラッチ爪軸2b周りに揺動自在に支持された逆入力用クラッチ爪2aを有し、その逆入力用クラッチ爪2aは、弾性部材2dによって、前記車軸5の軸方向に向けて配置されたクラッチ爪軸2b周りに、図1(a)に示す状態から図2(a)に示す状態へと、その一端の係止部2hが起き上がる方向に付勢されている。
また、前記第二太陽歯車3a−2の内面には、逆入力用クラッチカム面2cが形成されており、その逆入力用ワンウェイクラッチ爪2aは、前記逆入力用クラッチカム面2cに係合する状態とその係合が解除された状態との間で揺動する。
【0055】
また、その逆入力用クラッチ爪2aは、通常は図1(b)に示すように、クラッチ切替装置9のピン9fが、その逆入力用クラッチ爪2aの他端の当接部2gに当たることで揺動が拘束され、すなわち、逆入力用クラッチ爪2aを強制的に倒した状態となっている。
【0056】
そのクラッチ切替装置9は、前記逆入力用ワンウェイクラッチ2を、前記駆動輪からの逆入力に対して、前記太陽歯車3aが車軸5回りに回転可能又は回転不能とに切り替えられる機能を有している。
その構成は、前記車軸5内の軸孔5aを通る切替軸9aを有して、その切替軸9aは前記車軸5内を通ってその一端が前記車軸5の端部から外部に引き出されて外部から軸方向移動の操作が可能となっている。
【0057】
前記切替軸9aの外面には溝部9bが設けられており、その溝部9bの軸方向両端部にその溝部9bの底から徐々に立ち上がるテーパ部9dが形成されている。
また、前記逆入力用クラッチ爪2aの揺動を拘束するピン9fは、その切替軸9aの外面上に配置されている。
【0058】
さらに、前記切替軸9aは、前記車軸5内の収納部5bに収納された切替軸用弾性部材9cによって、前記車軸5の端部から外側に飛び出る方向に付勢されている。
【0059】
前記逆入力用ワンウェイクラッチ爪2aは、前記クラッチカム面2cに係合する方向に付勢されているので、前記切替軸9aを、切替軸用弾性部材9cの付勢力に抗して軸方向へ押し込み操作することにより、前記ピン9fは前記テーパ部9dを通って前記溝部9b内に侵入する。この侵入により、ピン9fは内径方向に移動する。その移動によって、前記逆入力用ワンウェイクラッチ爪2aの当接部2gに対する押圧が解除され、前記逆入力用ワンウェイクラッチ爪2aは、前記クラッチカム面2cに係合する。これにより、前記第二太陽歯車3a−2の車軸5に対する回転が不能な状態になる。
【0060】
前記切替軸9aに対する押し込み力を解除すると、切替軸用弾性部材9cの付勢力で切替軸9aは元の位置に復帰し、前記ピン9fは、前記テーパ部9dを通って前記溝部9b内から退去する。この退去によって、ピン9fは外径方向に移動する。その移動によって、前記逆入力用ワンウェイクラッチ爪2aの当接部2gに対する押圧が行われ、前記逆入力用ワンウェイクラッチ爪2aは、前記クラッチカム面2cへの係合が解除される。これにより、前記第二太陽歯車3a−2の車軸5に対する回転が可能な状態になる。
【0061】
このとき、前記逆入力用ワンウェイクラッチ爪2aの当接部2gは、前記車軸5の軸直交断面において円弧形状となっているので、両者が点接触あるいは線接触することで、押圧力の伝達が確実である。
【0062】
また、前記クラッチ爪軸2bの軸心から前記当接部2gまでの距離よりも、前記クラッチ爪軸2bの軸心から前記係合部2hまでの距離が長く設定されているので、ピンの短いストロークで、逆入力用ワンウェイクラッチ爪2aの大きな揺動角度を得ることができ、移動もスムーズとなる。
【0063】
なお、この実施形態では、前記ラチェット用弾性部材2dは、コイルばねを用いているが、例えば、図3に示すように、ねじりばね(ねじりコイルばね)を用いる等、他の構成からなる弾性部材を用いてもよい。
【0064】
前記ラチェット用弾性部材2dとしてねじりばねを用いた場合、そのねじりばねを、図3に示すように、逆入力用ワンウェイクラッチ爪2aの中央部に設けた溝部2jに配置することができる。このようにすれば、クラッチ爪軸2bに作用する曲げモーメントを緩和することができる。
さらに、クラッチ爪軸2b周りにコイル部2d”が嵌るように配置し、対の張り出し部2d’を逆入力用ワンウェイクラッチ爪2aの前記溝部2jの内壁と車軸5のいずれかの部分に宛がって配置することができる。
【0065】
これらの構成により、駆動時には、前記スプロケット4からの駆動力は前記変速機構3を通じて駆動輪に伝達され、前進非駆動時には、前記クラッチ切替装置9の切替軸9aの操作により前記逆入力用ワンウェイクラッチ2における前記太陽歯車と車軸5とを逆入力に対して回転不能とすることによって、前記駆動輪からの逆入力トルクを前記スプロケット4に伝達できる機能を発揮することができる。
【0066】
さらに詳しく説明すると、図1(a)に示す状態から、図2(a)に示す状態へと、切替軸9aが軸方向(図の左側)に押されると、前記ピン9fがテーパ部9dに沿って溝部9b内へ移動し、逆入力用ワンウェイクラッチ爪2aの拘束が解除され、逆入力用ワンウェイクラッチ爪2aが、ラチェット用弾性部材2dの力によってクラッチ爪軸2b周りに回転し起き上がる。
【0067】
このとき、ハブケース7側から逆入力トルクが伝達されると、第二太陽歯車3a−2は、その逆入力に対して車軸5に固定される。つまり、逆入力用ワンウェイクラッチ2は、クラッチ切替装置9によって、駆動輪からの逆入力に対して、前記第二太陽歯車3a−2が車軸5回りに回転可能又は回転不能とに切り替えられる機能を有しているのである。
【0068】
前進非駆動時において、このように逆入力用ワンウェイクラッチ2をロックした場合、タイヤからの逆入力トルクは、ハブケース7、遊星歯車3b、遊星キャリア3c、リアスプロケット4へと伝達される。
【0069】
ここで、変速機構3において、3段変速のいずれのギアを選択していても、逆入力に対しては第二太陽歯車3a−2が固定されることから、逆入力時の変速比は選択しているギアによらず常に一定となり、減速比は
[(a×b)/(c×d)]+1
となる。
【0070】
なお、切替軸9aの軸方向への移動はブレーキ操作と連動させることもできる。この場合、ブレーキが操作されると、切替軸9aが軸方向(図の左側)に移動し、逆入力に対して第二太陽歯車3a−2は、逆入力用ワンウェイクラッチ2を介して車軸5に固定され、タイヤからの逆入力トルクはリアスプロケット4へと伝達される。
【0071】
また、ブレーキを解除した場合、切替軸9aは切替軸用弾性部材9cの付勢力によって、元の位置に移動しようとする。
しかしながら、逆入力トルクがかかっている状態では、切替軸9aのテーパ部9dがピン9fを押し上げる力に対して、逆入力用ワンウェイクラッチ爪2aの回転抵抗(揺動抵抗)が大きいため、逆入力用ワンウェイクラッチ2のロックがはずれることはない。逆入力トルクが無くなると、逆入力用弾性部材9cによる付勢力によって、切替軸9aのテーパ部9dがピン9fを上に押し上げる(逆入力用ワンウェイクラッチ爪2aを倒そうとする)力が起き上がろうとする力に勝り、切替軸9aは元の位置に移動しロックが解除される。
【0072】
この構成により、リアスプロケット4からの駆動力は、直結もしくは増速されてタイヤに伝達される。一方、タイヤからの逆入力トルクは減速され、リアスプロケット4からチェーン等の動力伝達要素を通してモータ軸に伝わり、回生充電が可能な状態となるのである。
【0073】
なお、遊星歯車3bが噛み合う前記第一太陽歯車3a−1、第二太陽歯車3a−2の選択は、公知の自転車の変速機構を用いることができるが、例えば、図1、図2に示すように、前述のクラッチ切替装置9と同様の機構を備えた変速制御機構10によって行うことができる。
【0074】
すなわち、その変速制御機構10は、クラッチ切替装置9と同様に、ラチェットクラッチで構成された前記第二ワンウェイクラッチ3e−1,第三ワンウェイクラッチ3e−2を、それぞれ、前記太陽歯車3aが車軸5回りに回転可能又は回転不能とに切り替えられる機能を有している。
その構成は、前記車軸5内の軸孔5aを通る切替軸10aを有して、その切替軸10aは前記車軸5内の軸孔5aを通ってその他端が前記車軸5の端部から外部に引き出されて外部から軸方向移動の操作が可能となっている。
【0075】
前記切替軸10aの外面には、前記第二ワンウェイクラッチ3e−1、第三ワンウェイクラッチ3e−2に対応する部分にそれぞれ溝部10bが設けられており、その溝部10bの軸方向両端部にその溝部10bの底から徐々に立ち上がるテーパ部10dが形成されている。このとき、両溝部10bの幅方向中心間の軸方向距離は、前記第二ワンウェイクラッチ3e−1、第三ワンウェイクラッチ3e−2の軸方向中心間の軸方向距離と違えて設定されている。
【0076】
また、クラッチ爪の揺動を拘束するピン10fが、その切替軸10aの外面上において、前記第二ワンウェイクラッチ3e−1,第三ワンウェイクラッチ3e−2に対応する部分にそれぞれ配置されている。
【0077】
さらに、前記切替軸10aは、前記車軸5内の収納部5cに収納された切替軸用弾性部材10cによって、前記車軸5の端部から外側に飛び出る方向に付勢されている。
【0078】
前記第二ワンウェイクラッチ3e−1、第三ワンウェイクラッチ3e−2のクラッチ爪は、それぞれクラッチカム面に係合する方向に付勢されているので、前記切替軸10aを、切替軸用弾性部材10cの付勢力に抗して軸方向へ押し込み操作することにより、その押し込み量(移動距離)に応じて、前記第二ワンウェイクラッチ3e−1、第三ワンウェイクラッチ3e−2のいずれか一方に対応するピン10fが、前記テーパ部10dを通って前記溝部10b内に侵入する。この侵入により、ピン10fは内径方向に移動する。その移動によって、そのピン10fに対応するワンウェイクラッチのクラッチ爪は、そのワンウェイクラッチが備える弾性部材の付勢力によって揺動しクラッチカム面に係合する。これにより、前記第一太陽歯車3a−1、前記第二太陽歯車3a−2のいずれか一方の車軸5に対する回転が不能な状態になり、他方は、回転可能な状態が維持される。さらに、押し込むと、逆に、いずれか一方の車軸5に対する回転が可能な状態になり、他方は、回転不能な状態となる。
【0079】
前記切替軸9aに対する押し込み力を解除すると、その逆の作用で、切替軸用弾性部材10cの付勢力で切替軸10aは元の位置に復帰し、その軸方向の移動量(復帰距離)に応じて、前記第一太陽歯車3a−1、前記第二太陽歯車3a−2のいずれか一方の車軸5に対する回転を不能に、他方を回転可能にするか、あるいは、初期の状態(両方の車軸5に対する回転が可能な状態)に復帰する。
【0080】
この実施形態は、逆入力用ワンウェイクラッチ2を第二太陽歯車3a−2と車軸5との間に設けているが、第一太陽歯車3a−1と車軸5との間に設けてもよい。また、この実施形態では、遊星歯車3bを2段としているが、1段もしくは3段以上の遊星歯車を用いても差し支えない。
【0081】
なお、図示していないが、クランク軸とクランクスプロケットの間には、駆動力を伝達する方向にロックし、逆入力に対して空転するセンタワンウェイクラッチが設けられている。このため、逆入力によって、クランク軸やペダル等に対して駆動力が伝達されないようになっている。このセンタワンウェイクラッチとしては、ローラクラッチ、スプラグクラッチ、ラチェットクラッチ等、周知のワンウェイクラッチを採用できる。
【0082】
また、後進非駆動時(自転車を降りて、後方に引くような状況)では、絶対的な回転方向は逆となるが、リアスプロケット4とハブケース7との相対回転の関係は、前進駆動時と同じである。
【0083】
(第二の実施形態)
この発明の第二の実施形態を、図4乃至図6に示す。前述の実施形態における逆入力用ワンウェイクラッチ2において、図5に示すように、クラッチ爪軸2bを無くし、逆入力用ワンウェイクラッチ爪2aの外面に円筒面からなる摺動部2iを形成し、車軸5の外面の一部に円筒面からなる溝5eを形成している。
【0084】
逆入力用ワンウェイクラッチ爪2aの摺動部2iと、車軸5の外面の溝5eを共に円筒形に形成したことから、その円筒面同士の周方向の摺動により、逆入力用ワンウェイクラッチ爪2aは、前記円筒面の中心軸周りに揺動運動することを可能としている。
【0085】
また、この実施形態では、逆入力用ワンウェイクラッチ爪2aは、車軸5の係止溝部2mに嵌めたリング状(C字状)の弾性部材2dによって、一端の係止部2hが、ラチェットカム面2cに向かって起き上がる方向へ付勢している。また、車軸5の係止溝部2eに嵌めたリング状(C字状)の止め輪2fの内面が、逆入力用ワンウェイクラッチ爪2aの外面に設けた拘束部2kに触れて、その拘束部2kを止め輪2f内径方向に押さえ付ける構成である。
【0086】
このとき、ピン9fは、その逆入力用ワンウェイクラッチ爪2aの揺動を、その逆入力用ワンウェイクラッチ爪2aの他端の当接部2gで拘束しており、ピン9fが溝9bから退去して立ち上がった状態であれば、弾性部材2dの付勢力に抗して、逆入力用ワンウェイクラッチ爪2aを強制的に倒した状態としている。
そして、逆入力用ワンウェイクラッチ爪2aを、ピン9fが押し上げようとする力に対して、逆入力用ワンウェイクラッチ爪2aの移動を一定に制限し、逆入力用ワンウェイクラッチ2が径方向外側に拡がることを、前記止め輪2fによって拘束(回転動作は可能)している。
【0087】
逆入力用ワンウェイクラッチ爪2aの外面に設けた止め輪2fとの拘束部2kは、車軸5の軸方向に直交する断面において、円筒面であることが望ましい。
【0088】
なお、逆入力用ワンウェイクラッチ2の切替動作については第一の実施形態と同様であるので説明を省略する。
【0089】
また、これらの実施形態では、太陽歯車(この実施形態では、前記第一太陽歯車3a−1、前記第二太陽歯車3a−2)と、変速用クラッチカム面3fの径と逆入力用クラッチカム面2cの径を異ならせている。これによって、各太陽歯車3aの鍛造や焼結により製作することが容易となる。なお、図では変速用クラッチカム面3fの径より逆入力用クラッチカム面2cの径を大きくしているが、逆にしてもよい。
【符号の説明】
【0090】
1 リアハブ
2 逆入力用ワンウェイクラッチ
2a 逆入力用ワンウェイクラッチ爪
2b クラッチ爪軸
2c 逆入力用クラッチカム面
2d 弾性部材
2e 係止溝部
2f 止め輪
2g 当接部
2h 係合部
2i 摺動部
2j 切欠き
2k 拘束部
2m 係止溝部
3 変速機構
3a 太陽歯車
3a−1 第一太陽歯車
3a−2 第二太陽歯車
3b 遊星歯車
3c 遊星キャリア
3d 外輪歯車
3e−1 第二ワンウェイクラッチ
3e−2 第三ワンウェイクラッチ
3f 変速用クラッチカム面
3g 係止溝部
3h 止め輪
4 リアスプロケット
5 車軸
5a 軸孔
5b,5c 収納部
6 ハブフランジ
7 ハブケース
8 第一ワンウェイクラッチ
9 クラッチ切替装置
9a 切替軸
9b 溝部
9c 弾性部材
9d テーパ部
9f ピン
10 変速制御機構
10a 切替軸
10b 溝部
10c 弾性部材
10d テーパ部
11,12,13 軸受部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
前輪と後輪とを結ぶフレームに二次電池及び補助駆動用のモータを取り付け、クランク軸から伝達された踏力又は前記モータの出力による駆動力を駆動輪に伝達可能とし、前進非駆動時には、前記駆動輪から前記モータの出力軸への逆入力により生じた回生電力を前記二次電池に還元する回生機構を備えた電動補助自転車に用いる電動補助自転車用リアハブ内装変速装置において、
前記駆動輪に設けたハブ(1)に変速機構(3)と逆入力用ワンウェイクラッチ(2)とクラッチ切替装置(9)とを備え、
前記変速機構(3)は遊星歯車機構によって構成されて、少なくとも一つの太陽歯車を有し、前記踏力又は前記モータの出力による駆動力をスプロケット(4)を通じて前記駆動輪に伝達する機能を有して、そのスプロケット(4)からの駆動力に対して、前記太陽歯車を車軸(5)回りに回転可能又は回転不能とに切り替えて変速を行う変速制御機構(10)を備えており、
前記逆入力用ワンウェイクラッチ(2)は少なくとも一つの太陽歯車と車軸(5)との間に設けられて、前記逆入力用ワンウェイクラッチ(2)はラチェットクラッチによって構成され、前記クラッチ切替装置(9)によって前記逆入力用ワンウェイクラッチ(2)は前記駆動輪からの逆入力に対して、前記太陽歯車が車軸(5)回りに回転可能又は回転不能とに切り替えられる機能を有しており、前記クラッチ切替装置(9)は前記車軸(5)内を通る切替軸(9a)を有して、その切替軸(9a)は前記車軸(5)内を通ってその一端が前記車軸(5)から外部に引き出されて外部から軸方向移動の操作が可能となっており、
駆動時には、前記スプロケット(4)からの駆動力は前記変速機構(3)を通じて駆動輪に伝達され、前進非駆動時には、前記クラッチ切替装置(9)の切替軸(9a)の操作により前記逆入力用ワンウェイクラッチ(2)における前記太陽歯車と車軸(5)とを逆入力に対して回転不能とすることによって、前記駆動輪からの逆入力トルクを前記スプロケット(4)に伝達できる機能を有することを特徴とする電動補助自転車用リアハブ内装変速装置。
【請求項2】
前記変速機構(3)の遊星歯車機構は、前記車軸(5)の外周に太陽歯車(3a)を備え、前記逆入力用ワンウェイクラッチ(2)は、前記車軸(5)に取り付けられた逆入力用ワンウェイクラッチ爪(2a)を備え、前記太陽歯車(3a)の内周にその逆入力用ワンウェイクラッチ爪(2a)が係合する逆入力用クラッチカム面(2c)が形成されていることを特徴とする請求項1に記載の電動補助自転車用リアハブ内装変速装置。
【請求項3】
前記切替軸(9a)の外面に溝部(9b)を設け、その溝部(9b)の軸方向端部に前記溝部(9b)の底から徐々に立ち上がるテーパ部(9d)を形成し、前記切替軸(9a)の外面上にピン(9f)を配置し、前記逆入力用ワンウェイクラッチ爪(2a)はラチェット用弾性部材(2d)によって前記クラッチカム面(2c)に係合する方向に付勢されており、前記切替軸(9a)を軸方向に移動操作することにより、前記ピン(9f)は前記テーパ部(9d)を通って前記溝部(9b)内に侵入又は前記溝部(9b)内から退去することによって前記切替軸(9a)の軸方向に垂直な方向に移動し、その移動によって、前記逆入力用ワンウェイクラッチ爪(2a)の一端が前記付勢力に抗して押圧されることにより、前記逆入力用ワンウェイクラッチ(2)における前記太陽歯車の車軸(5)に対する回転可能又は回転不能が切り替えできることを特徴とする請求項2に記載の電動補助自転車用リアハブ内装変速装置。
【請求項4】
前記切替軸(9a)は、切替軸用弾性部材(9c)によって、前記車軸(5)の端部から外側に飛び出る方向に付勢されていることを特徴とする請求項2又は3に記載の電動補助自転車用リアハブ内装変速装置。
【請求項5】
前記逆入力用ワンウェイクラッチ爪(2a)は、前記逆入力用クラッチカム面(2c)に係合する状態とその係合が解除された状態との間で揺動できるように、前記車軸(5)の軸方向に向けて配置されたクラッチ爪軸(2b)によって前記車軸(5)に支持されていることを特徴とする請求項2乃至4のいずれか一つに記載の電動補助自転車用リアハブ内装変速装置。
【請求項6】
前記逆入力用ワンウェイクラッチ爪(2a)は、前記ピン(9f)と接触する当接部(2g)を有し、その当接部(2g)は、前記車軸(5)の軸直交断面において円弧形状となっていることを特徴とする請求項2乃至5のいずれか一つに記載の電動補助自転車用リアハブ内装変速装置。
【請求項7】
前記逆入力用ワンウェイクラッチ爪(2a)は、前記ピン(9f)と接触する当接部(2g)と、前記逆入力用クラッチカム面(2c)に係合する係合部(2h)とを有し、前記クラッチ爪軸(2b)から前記当接部(2g)までの距離よりも、前記クラッチ爪軸(2b)から前記係合部(2h)までの距離を長く設定したことを特徴とする請求項2乃至5のいずれか一つに記載の電動補助自転車用リアハブ内装変速装置。
【請求項8】
前記逆入力用ワンウェイクラッチ爪(2a)の外面に拘束部(2k)を設け、前記車軸(5)の外面に周方向に伸びる係合溝部(2e)を設け、その係合溝部(2e)に止め輪(2f)を嵌め、その止め輪(2f)の内面が前記拘束部(2k)に当接することによって、前記逆入力用ワンウェイクラッチ爪(2a)の半径方向への移動を拘束したことを特徴とする請求項2乃至7のいずれか一つに記載の電動補助自転車用リアハブ内装変速装置。
【請求項9】
前記ラチェット用弾性部材(2d)は、圧縮コイルばね構造を有していることを特徴とする請求項3に記載の電動補助自転車用リアハブ内装変速装置。
【請求項10】
前記ラチェット用弾性部材(2d)は、ねじりばね構造を有していることを特徴とする請求項3に記載の電動補助自転車用リアハブ内装変速装置。
【請求項11】
前記逆入力用ワンウェイクラッチ爪(2a)は、前記逆入力用クラッチカム面(2c)に係合する状態とその係合が解除された状態との間で揺動できるように、前記車軸(5)の軸方向に向けて配置されその両端が支持されたクラッチ爪軸(2b)によって前記車軸(5)に支持され、前記ラチェット用弾性部材(2d)は前記逆入力用ワンウェイクラッチ爪(2a)における前記クラッチ爪軸(2b)の軸方向中央部に設けられた切欠き(2j)に配置されて前記クラッチ爪軸(2b)に嵌められていることを特徴とする請求項10に記載の電動補助自転車用リアハブ内装変速装置。
【請求項12】
前記変速装置(3)は、前記太陽歯車(3a)の内面上に変速用クラッチカム面(3f)を備え、前記逆入力用ワンウェイクラッチ(2)の逆入力用クラッチカム面(2c)の径と、前記変速装置(3)の変速用クラッチカム面(3f)の径とが異なることを特徴とする請求項2乃至11のいずれか一つに記載の電動補助自転車用リアハブ内装変速装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2011−126415(P2011−126415A)
【公開日】平成23年6月30日(2011.6.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−286513(P2009−286513)
【出願日】平成21年12月17日(2009.12.17)
【出願人】(000102692)NTN株式会社 (9,006)